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2023年04月 | ARCHIVE-SELECT | 2023年06月

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東野圭吾   「虚像の道化師」(文春文庫)

 ガリレオシリーズ7編の作品が収録されている。
難事件が起きる。そんな時、解決のため草薙刑事が頼るのが、帝都大学物理学科の湯川教授。そして、湯川教授が物理学の知識を活用して事件の真相を解き明かす。

 よくある手品、トランプカードを手品師が見えないようにして引き抜く。それを黒い袋にいれて、手品師に渡す。すると手品師が見事に引き抜いたカードをあてる。

 この作品集の中「透視す」という作品。銀座のホステスのアイちゃん。初めての客がやってくると、必ず後ろを振り向いて、黒い袋に名刺をいれてもらう。そして、入れ終わると振り向いて袋を手にとる。真っ黒な袋だから名刺は見ることができない。それなのに、すべて名前をあてる。

 このカラクリを湯川教授が解明する。

黒い封筒はビニールでできているように見えるが、実は赤外線フィルターでできている。それで、この袋に赤外線をあてると、中味がわかる。ただし、あてただけでは、わからない。赤外線カメラを使い画像をとると、名刺の名前が読めるのである。

 幻聴というのがあり、これに悩む人が結構存在する。大概は精神的不調によりおこり、神経科に診てもらい治療をする。

 通常、音や声は発した後、空気中で拡散され、集まっていた人には聞こえる。ところがハイパーソニック・サウンド・システムを使うと、発せられた音声は拡散することなく、直進する。

 このシステムを使い、心をまどわすようなことを、しつこく、くりかえし対象者だけに言う。受けた人は、まわりは誰もそんな声は聞こえていないから、自分は狂ったのではないかと思い、耳鼻科や神経科を受診するがどこも悪くないと診断されて、完全にノイローゼ状態になる。

 現代は、革命的な機材がどんどん開発される。これが使いこなせず、理解できない私のような老人は、まわりの人たちがみんな手品師に見えてしまう。

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東野圭吾    「ラプラスの魔女」(講談社文庫)

「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は物理学を用いることでこれらの原子の事件的変化を計算できるだろうから、未来の状態がどうなるかを完全に予知できる」

18世紀の数学者で天才物理学者ピエール シモン ラプラスが唱えた理論。もしこの能力を持った人間が誕生したら、未来は完全予測できることになる。

 理論では証明できるが、現実には不可能。しかし不可能が実現したら。そんな、東野の想像が全開のミステリー。

甘粕謙人は姉の硫化水素ガス自殺の巻き添えになって、植物人間になっていた。この謙人に対して、主人公円華の父親羽原全太朗で世界的外科医により、回復できるかわからないが、脳解体手術を受ける。その結果、完全に未来を予測できる力を持つことができるようになる。

 この手術を、健常な人間に試みようとする。それを受け入れたのが、羽原外科医の娘円華。その手術により、円華はラプラスの魔女となる。

 一酸化炭素中毒とは屋外では発生しない。密閉された、家の中、車内で起きるのが一般的。屋外では、一酸化炭素が薄められ中毒にはならない。しかし、この物語では硫化水素ガス中毒が、屋外で発生。しかも、2か所の離れた温泉で。

それから円華が晴れわたった屋外で、5分後に竜巻がやってくると想像がつかない予告をする。そして予告通り、竜巻がやってきて、一軒家が破壊される。

 こんなありえない事象によって事件が多く引き起こされる。それの解明に中岡刑事が挑戦する。
 壮大なSFミステリー作品になっている。

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| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾    「眠りの森」(講談社文庫)

 名刑事加賀シリーズの作品。

名門高柳バレエ団の稽古場に風間という男が侵入する。当日事務所にいた団員斎藤葉瑠子が花瓶で殴り、風間は死んでしまう。斎藤葉瑠子は、事情聴取のため、警察に出頭を求められ、留置される。当初は正当防衛とされて、無罪放免される状況だったが、状況証拠しかないため認定ができなくて、長い間警察に留置される。

 その後、バレエ練習中に演出家で団のかなめである梶田が毒殺される。梶田殺害の犯人は、団員の中にいるということになる。

 この犯人を探そうと、団員の柳生が捜査を開始するが、その柳生が毒薬を飲まされる。柳生は病院にかつぎこまれ一命はとりとめる。
 この一連の事件に加賀刑事が挑戦する。

物語に浅岡未緒というけなげでかわいらしいダンサーが主人公として登場する。しかも、未緒は、時々、一人称として作品に登場。加賀刑事と互いに恋心も芽生えなかなかういういしい。

 この一人称にごまかされる。東野はこの作品で叙述トリックを駆使し、読者を惑わす。

事件の背景には、元来バレエダンサーが持つ宿命が存在する。

 未緒が加賀刑事にダンサーの宿命を説明する。

「女の子は特にね。ローザンヌに出場した時の年齢は16とか17とかで、大人の女性の体になっていないでしょう。体操競技がそうだけれど、小さければ身が軽いのは当たり前で、少々難度の高いものでもできちゃうのよ。ところが身体が大人になってくると、そうはいかない。あっちこっち出っ張ってきちゃうし、皮下脂肪はつくしで、自分のイメージ通りできなくなってくるの。」

 体形の変化は恋することによっても生じる。
そういえば、最近は、体操の女子選手も、アクロバットが似合う、ロボットのような選手ばかりになった。

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東野圭吾   「麒麟の翼」(講談社文庫)

 本作品では、日本橋警察署の刑事になっている、名探偵加賀刑事シリーズ作品。

加賀刑事は、しつこい、浮かんだ疑問は徹底的に調べ、納得解明できるまで追求する。こういう名探偵は、ミステリーには当然の人物として登場する。

 しかし、名探偵の推理や行動に、それは無理があるだろうということが多い。しかし、東野作品のすごいのは、その無理が無い。そういう疑問は確かにあるなという疑問を読者に提示して、そこから一歩一歩真実解明に至る。

 八島冬樹は、派遣社員で、建築部品メーカーの部品製造現場で働いている。そこで本来守らねばならないとマニュアルに書かれていることをしないで、大きな事故が発生する。しかし、現場ではそんなマニュアル通り、仕事をしていたら、手間がかかり、納期が守れない。それで、危険があることはわかっていても、マニュアルを無視した作業が行われる。

 そのことは、工場長も、製造本部長も了解していた。
ところが、八島がその規則をいつものように守らないで作業をしたために、人身事故が発生する。

 八島は簡単に派遣切りで馘になる。労災事故にもならない。会社は、事故について記者会見。工場長がでてきて、すべて本部長の指示により対応したことと弁明する。

 その名指しされた本部長がある夜日本橋で殺される。
 そして、犯人は当然八島だとなる。

派遣切り、弱者いじめとしてテレビ、新聞は沸騰する。

事実、テレビのワイドショーで連日報道される。

八島の同棲相手の香織が取材に応じる。番組は悪の会社の犠牲者八島という筋書きで撮影される。ほとんどシナリオが出来上がっていて、香織の回答がシナリオから外れると、シナリオ通りになるまで、何回も取り直しが行われる。

 しかし、読んでいて、変だなと思う。工場は東京のはずれ国立市にあり、八島の住まいは足立区。なんでその事件当事者2人が、まったく関係ない日本橋でそれも夜出会うことに納得感が無い。新宿くらいだったら納得はできるが・・・。しかもその時、八島は刃渡り180cmもある折り畳み式のナイフを持って?

 偶然はありえない。加賀刑事もそこに疑問を持って、真相解明に動きだす。

これぞ、東野の真骨頂。ここから一枚一枚薄皮をはがすように、加賀の捜査と真相解明行程が展開する。
 東野作品は、多くのミステリー作品にあるような、非現実的カラクリを徹底的に排除する。

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東野圭吾    「新参者」(講談社文庫)

 加賀刑事シリーズ作品。この作品で、加賀はそれ以前に勤務していた練馬署から日本橋署に異動している。日本橋署では新参者、作品のタイトルはここからきている。

 このミステリーは、面白い構成によって出来上がっている。それぞれの章が、まったく事件とは関わりないような、しかも章単位に独立した短編になっている。

 しかし、その短編は階段のようになっていて、一階段、一短編を昇ってゆくごとに事件の真相に近付くように出来上がっている。
 全く東野は面白い表現方法を見つけるものだ。感心しきりだ。

物語は、江戸情緒が残る、日本橋人形町の片隅で、一人の女性が絞殺される。この殺人をめぐり、加賀の捜査と名推理が、短編階段を昇りながら、展開する。それがどのようになされるかは、書評を読んだみなさんで確認、味わって頂きたい。

 この物語、事件解決後に書かれた最後の物語が私の胸を打った。親子、家族とは何だろうと考えさせられたからだ。

 物語で加賀は、上杉という定年直前の上杉という刑事とコンビを組もうとする。上杉はいやがったが、加賀は捜査の報告を無理やり上杉に行ったり、上杉を引っ張り出し捜査現場に連れてゆく。それは、上杉の刑事経歴を加賀が調べてあったからである。上杉はあきらめかけていた子供に年がいってから恵まれる。それゆえ、出来た息子を溺愛する。しかし、息子は父親の気持ちしらずで、野放図に育つ。

 そして、上杉が55歳のとき、息子が交通違反で、ある交番で捕まる。息子はノーヘルメットでしかも無免許だった。

 交番の警官が、どう処理すべきか、父親の上杉に電話をしてきた。上杉はこのことは無かったこととしてくれと警官に指示した。しかし、上杉は気持ちが収まらなくて上司に相談する。上司はその処理でよいと答えた。

 上杉はもちろん子供をしかりつけたが、子供は周りの友達に自分の父親は刑事で、交通違反をしても、親父がもみ消してくれると自慢して、その結果2年後にやはり無免許で交通事故を起こし死んでしまう。

 また別の話。

 岸田は友人と一緒に、直弘に誘われ、清掃会社を立ち上げた。岸田は税理士の資格を持っていた。業績は順調、2人は税務対策のため、別会社を作り、その会社の経営を岸田がすることになった。一方岸田は本業として税理士事務所を持っていた。

 ある日、会社勤めをしていた息子が、不正経理をして会社に3000万円の穴をあけたと岸田に泣きついてきた。岸田は3000万円を税務管理会社から引き出し息子に与え、不正経理の穴埋めをしてあげた。

 岸田の嫁は、贅沢三昧の暮らしにどっぷりつかっていた。息子も嫁も税理士というのは儲かる職業だと思いやりたい放題していた。

 清掃会社の業績が落ちてきて、経営が厳しくなったが、嫁も息子も、生活を変えようとしない。

 上杉も岸田も家族とは、子供とのつながりの虚しさを心底感じていた。そのことが、事件の動機につながった。
 こんな家族はいかにもありそうだと、読んでいて怖さを感じた。

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東野圭吾   「魔力の胎動」(角川文庫)

 大ベストセラー作品「ラプラスの魔女」。この作品で活躍する開明大学医学部教授の羽原の娘、高校生にしか見えない円華の誕生の前日譚作品。5作品が収録されている。

 「この手で魔球を」という作品が面白かった。
詳しくわからないけど、野球の投手が投げるボールは表面に縫い目が少し盛り上がっていることで、投げた球が回転してそれが空気にあたり、変化球が生まれるそうだ。

その中の特殊な変化球にナックルボールというのがある。これは、まったく回転させないボール。このボールに対し空気の粘性や湿度、気圧の影響なども関わってくるものだから、投げた当人もどんな変化が起きるのかわからないという大変な変化球だそうだ。

 投げた投手がどんな変化をするかわからないのだから、受ける捕手も捕球するのが難しい。

 プロ野球の投手石黒は七年前ドラフトで指名されプロ選手になった。変化球とコントロールの良さが特徴だったが、プロの世界では鳴かず飛ばず。もう限界と思ったとき、ナックルボールを会得。これで活路を開こうとする。しかし、大きな壁が立ちはだかった。このナックルを捕球できるキャッチャーがいない。

 捕手は、投手の投げたボールが軸を中心に回転するのを見て、ボールガ自分のどの辺にくるかを瞬時に予測して投げられたボールをキャッチする。

 ところがナックルは回転がないので、どこにボールがくるかわからなくなり予測ができず、パスボールが頻繁に起こる。

 このボールを捕球するには、ボールを途中で目切れしないで、最後までボールをみつめ、そのボールにあわせてグローブの位置をあわせる技術を習得することが肝要。

 この捕球方法を取得したのが三浦という捕手。この三浦が右ひざを痛めて、引退を決意する。その結果、三浦の次の捕手に山東が指名される。しかし山東がどうやっても、ナックルボールを捕球できない。もう無理というときに突如現れたのが、美少女円華。

 円華は、石黒のナックルを難なくキャッチする。円華は、空気の流れの強さ、湿度との関わりを瞬時につかみ、ボールがどんな変化をするかわかる能力を持っている。

 山東は円華の捕球をみて完全にふてくされる。自分には不可能だと・・・。
その時、円華が手袋をとり、痣だらけの膨れ上がった手を山東にみせる。こんな少女が傷だらけになっても、ナックルを捕球できるまで、猛烈な練習を積み上げたのだ。そこに感動して山東はナックルに挑戦を再開する。

 円華は特殊メイクした痣だらけのようにみせた手をみて、にやっと笑う。

今フォークとかチェンジアップを投げる投手はいるが、ナックルを武器に活躍している投手はいるのだろうか。

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東野圭吾   「マスカレード・イブ」(集英社文庫)

 大ベストセラーで映画化もされた「マスカレードホテル」。この作品で活躍したのが、ホテル・コルシアのフロントクラークの山岸尚美と若き刑事新田浩介。この2人が出会う前のそれぞれの物語を描いたのが本作品。

 恥ずかしい話だが、ミステリーが面白いと思ったのは40代のころ。

きっかけはパトリシア・ハイスミスの作品に出会ったとき。映画では「太陽がいっぱい」だが小説では「リプリー」。それからヒッチコックが映画化したハイスミスの傑作「見知らぬ乗客」。

 殺人を完全犯罪に仕立て上げる方法は、交換殺人を実行すること。それを知ったのが「見知らぬ乗客」。

 そして紹介した作品で、その交換殺人にチャレンジしたのが東野圭吾。

大学の准教授。自ら企業と組んで、革新的技術を完成。特許まで取得しているのだが、彼の上司である教授がその研究を一切認めず、学会では教授の研究だけを発表しようとしている。このままでは、自分の研究成果は埋もれ、企業からの報酬も、その後の利益も自分に還元されない。そこで、教授をこの世から消したくなる。

 一方、親の遺産を継ぎ、その資金を使って、革新的な美容院を経営しようと目論んでいた
娘。親が死ぬ間際になり、突然隠し子が現れる。当然その子にも遺産相続の権利がある。その娘にある割合で遺産相続がされると、美容院進出の資金が大きく不足する。それで隠し子を抹殺したくなる。

 ホテル・コルテシア大阪で偶然であった准教授と遺産相続の娘が、交換殺人の約束をして誓約書までかわす。

 遺産相続の娘が、准教授を殺害して、准教授が隠し子を殺害するということを。
互いに殺人を行う殺害者は被害者とは全く人間関係もないし、当然動機も不明のため、警察が捜査しても、事件は全く解明されない。

 これを解決するためには、関係のない2人は、どこかで交換殺人の件を話し合わなければならない。この場所を特定することが必要。

 2人がまずかったのは、その場所がホテルだったことと、肉体関係を持ったこと。そして、その怪しげな行動を、鋭い感覚と記憶力、観察力を持っていたホテルのフロント クラーク山岸尚美に見られていたこと。

 作品の舞台にホテルを選んだことが東野の勝利につながっている。東野はホテルを深く取材して、ホテルではフロント クラークはどんなことを求められているのかよく調査している。「マスカレード ホテル」を描くためにロイヤル パークホテルを取材している。

 しつこく、突っ込んだ取材をしたのだろうと作品を読んで感じた。

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東野圭吾  「パラレルワールド・ラブストーリー」(講談社文庫)

 もともと存在していた記憶を都合よく変えて、他人に話す。そして、その嘘を何回も繰り返すうちに、いつしかそれが本当にあったことに記憶がすり替わることがしばしば起きる。この現象を記憶改編という。

 この物語の主人公崇史は、毎週2回朝の通勤電車で彼が載っている山手線と並走して走る京浜東北線にいつも同じ乗降口に立っている女性に気が付く。崇史が微笑みかけると、その女性も微笑みを返してくれているように思える。

 崇史の少年時代からずっと親友である智彦が彼女を紹介するということで、崇史も女友達を誘って会うことになる。しかし崇史は不思議に思う。智彦は足がうまく機能せず、ずっと義足。そのためか、引っ込み思案で、彼女がいるなどということは全くなかった。

 驚くことに、智彦が連れてきたのは、あの通勤電車で微笑みあった女性。名前は麻由子という。
 ありえない!崇史は智彦に強烈な嫉妬を感じる。

それで、物語は突然、崇史と麻由子が同棲している場面に切り替わる。
ところが、よくわからないのは、どうして智彦と麻由子の関係が、崇史と麻由子同棲の関係に変わったのかということ。そして、崇史も、どうして、自分が麻由子と同棲しているのか、その記憶がいくら考えても、おぼろげでよくわからない。

 実は、智彦も崇史も麻由子もアメリカの会社の日本研究所にいる。ここで、人工的に記憶改編を行う研究を行う。そして、チンパンジーを使って実験を繰り返し、その技術ができあがる。

 長い物語になるのだが、ここで智彦の人体実験による、記憶改編が行われ。それに引き続き、自己申告で崇史と麻由子も「記憶改編」の人体実験に挑戦する。

 これによりみじめな智彦の人生が作られ、麻由子、崇史の同棲時代が作り上げられる。
そこに至るまでの、智彦、崇史、麻由子の壮大な作品では描かれる。

智彦がせつない人生に陥ってしまう過程が読んでいて悲しくなる。

記憶改編が人工的にできる。そんな将来はやってきてほしくないと感じた。

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東野圭吾   「11文字の殺人」(光文社文庫)

 1987年出版、東野初期のミステリー作品。

クルージングツアーの船が転覆して、参加者が海に放り出される。参加者は、自らの力で無人島に泳ぎつき、通りがかりの船に救出してもらう。

 しかし、投げ出された客の一人が、何かに頭部を打ち付けたのか、意識を失う。ライフジャケットを装着していたので、沈むことはないが、その客は、海上を漂流する。

 ツアーには、彼の恋人が参加していた。彼女は声をあげて、「誰か、助けにいってあげて!」と参加者に懇願する。

 しかし、参加者はほうほうの体で、やっと無人島にたどりついた。大きな危険をおかして、漂流者を救いにゆこうという人はいない。

 そんな時、一人の男の参加者がいう。
「私が助けに行ってやろう。しかし条件がある。救出できたら、あなたを抱かしてくれ。」
恋人は、大いに逡巡するが、恋人救出してあげたいと思い、抱かれることを承知する。

 そして、その男は、恋人を救出して無人島に戻る。

男は島影に女性を連れてゆく。そしていやがる女性を抱きしめ、いつどこで抱き合うか決めようという。女性は、お金はあげるから、抱き合うのはいや。と断る。

 男は一回だけでいいんだ。その後はすべて忘れる。とさらにきつく抱きしめる。女性は石を拾って、思いっきり男の後頭部にうちつけ、倒れた男を海に突き飛ばす。

 すごい、場面設定。
無人島で起こる事件は、関係者が全員、口裏をあわせれば、かなりの確率で真相は隠すことができる。

 この作品、事件の真相は暴かれるが、事件は更に多くの殺人事件を引き起こす。もつれが重なりあう。東野の贅沢なストーリーを読者は堪能できる。

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東野圭吾   「嘘をもうひとつだけ」(講談社文庫)

 練馬警察署の名物加賀刑事が活躍するシリーズ短編集。
収録されている「狂った計算」の夫婦関係の描写が印象に残った。

この物語、浮気していた妻の相手と共謀して、夫を殺害する計画をたて実行するのだが、夫に見破られていて、結果夫は浮気相手を殺害、しかし夫も浮気相手の計画により、交通事故にみせかけて殺害されてしまうという複雑な事件を加賀刑事が名推理で解明するという物語。

 私は信州の田舎町の旧家に末っ子として生まれた。旧家では、家を継ぐ長男が大事に育てられた。しかもこの長男は東大をでて鼻高々、自慢の息子だった。当然、結婚相手は恋愛ではなく、地方の大企業の娘さんと見合いで結婚し、夫婦となった。

 この物語の主人公奈央子は27歳の時、見合いで35歳の隆昌と結婚する。この隆昌は結婚すると奈央子を完全に支配下におき、外出などすべての行動を制限した。

 この横暴ぶりの描写が見事。
隆昌の実家は福井県の田舎で、旧家。そこに親戚との宴会のために、夫婦で行く。


長男の嫁である奈央子は、奴隷のごとく働かされた。家に着くなり彼女に命じられたことは、総勢十数人の食事の支度をすることだった。献立はすべて決められており、その材料だけが薄暗い台所に積まれていた。
 一同が宴会している間も、奈央子は座ることさえできなかった。料理を運び、酒を運び、使い終わったら食器を下げる。
 気の毒に思った弟が言った。
「ねえさん、大変そうだな。あとはお袋にまかせて、少し休んでもらったら?」
ところが、次に発せられた隆昌の言葉に奈央子は耳を疑い、洗っている箸の鋭い先端で奈央子は脂肪のついた隆昌の首筋を突き刺したくなった。
「いいんだよ。こういうことをやらせるために連れてきたんだ。お袋はじっとしていろ。長男が嫁を連れて帰ってきたのに、母親が働いてるなんて、世間に知れたらみっともねえ。」

こういう古い時代のしきたりは、今でもいろんな作家が描くが、東野のような実感のこもった表現はあまりお目にかからなくなった。

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東野圭吾   「時生トキオ」(講談社文庫)

主人公の宮本拓実が愛する麗子に結婚を申し込み当然受諾してもらえると思ったが、麗子が結婚を逡巡する。麗子は受諾を逡巡する理由を拓実に打ち明ける。
実は、麗子の家系で男の子が生まれるとグレゴリウス症候群という病気になる確率が高いという。この病気は脳神経が次々破壊され、大抵は10代なかばまでに死んでしまう遺伝病で、検査をしたら麗子の細胞にその因子があることがわかり麗子は結婚を躊躇していたのだ。

 しかし、拓実は子供を作らなければいいと麗子を説得して結婚にこぎつける。
結婚当初は避妊に注意していたのだが、だんだん避妊が面倒になっていったとき、麗子が妊娠そして、男の子時生(トキオ)が生まれる。時生は高校生の時、死んでしまう。

 そこから物語は、20年前に突然遡る。
拓実は20年前23歳の時、千鶴という子と同棲していた。千鶴はスナックに勤めていた。
拓実は、どうしようもないぐうたらで、千鶴が稼いできたお金を巻き上げ、パチンコで使い果たすダメ男だった。

 ある日、千鶴は置手紙をおいて、失踪する。
拓実は、姓は宮本だが、元は東条で、その生みの母親は名古屋にいて、瀕死の状態になっていた。

 それで最高に落ち込んでいた時、拓実は上野の遊園地花屋敷でトキオという青年に出会う。
千鶴の行き先をスナックでしつこく聞くと、大阪に行ったらしいことがわかり、拓実は大阪にトキオと行くことになる。トキオの強いお願いで途中生母に名古屋で会う。

それから、生母の前では悪態のつき放題、大阪でも、気分にまかせ、ヤクザと喧嘩したり、勝手気ままな行動をする。そんな時、いつもトキオが拓実を抑えたり、なだめたりして懸命に拓実の暴走を止める。
 そう、トキオは未来からきた、グレゴリオ症候群で短い一生を終えた、拓実の息子時生。

どうしたって、拓実を立ち直らせて、母になる麗子と結婚させないと、自分はこの世に生まれてこない。

この大阪、名古屋のトキオと拓実の旅が、東野パワー全開の圧巻の物語になっている。感動に次ぐ感動で読者は魂が揺さぶられる。
そして知る。生まれながらで難病で短い生涯で終えた時生は、本当に生まれてきてよかったと。

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東野圭吾   「仮面山荘殺人事件」(講談社文庫)

この作品は、1990年に出版されている。東野初期の作品である。東野の作品を今集中し読んでいるので、最近の作品も読むのだが、本当に東野は成長したなあと思う。最近の作品すばらしさには感動する。

 この作品の主人公は樫間高之は、大企業の社長伸彦の娘朋美との結婚を控えていた。朋美は以前、交通事故にあい、片足を失い義足になっていたが、高之の朋美を愛する気持ちは変わらず、結婚を2人は決意していた。

 ところがその朋美が高原の結婚式場に打ち合わせに車で行く途中で転落事故を起こし死んでしまう。

朋美の死から3か月後、伸彦が所有する山荘でパーティが行われ、高之も招待される。
 このパーティの最中に、銀行強盗を起こした3人のうち2人が、山荘に逃げ込んでくる。そこでパーティに集まった人たちを人質にして閉じこもる。

 その山荘で、パーティに参加していた、朋美の友人雪絵が殺される。その犯人は銀行強盗犯でなく、パーティ参加者の中にいる。

 また、銀行強盗犯に人質になっていることを知らせるため庭に描いたSOSが、水を上からかけられ消えてしまっている。など奇妙なことが起きる。

 そして、伸彦の秘書でパーティ参加者の一人、玲子の推理により、伸彦が犯人として追い詰められ、伸彦は追及にこらえきれず、2階の窓から湖に飛び込み死んでしまう。

 これで事件は解決と思ったら、驚くことに、殺された雪絵と湖に飛び込んだ伸彦が生きかえって登場する。

 そして、ちょっと考えられないどんでん返しが最後にある。主人公の高之と伸彦夫妻以外、銀行強盗犯も含め全員が役者で伸彦の描いたシナリオに従って演技をしていた。犯人が主人公の高之であることを伸彦は知っていたのだ。

物語は主人公高之の推理により進行するのだが、その推理をしている当人が犯人だったとは!
 これはいくらなんでもやりすぎ。とんでも、どんでん返しだ。

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東野圭吾  「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(角川文庫)

 素晴らしいファンタジー小説。

翔太、敦也、幸平の悪の3人組が翔太の提案で、人が住んでいないあばら家に真夜中侵入する。そのあばら家にはかろうじて読める「ナミヤ雑貨店」という煤けた看板がかかっている。

 そこで、郵便受けにコトンと音がして封筒が投函される。その手紙を取り出してみると「月のうさぎ」という人からの人生相談の手紙だった。

 「月のうさぎ」さんは、オリンピックを目指しているが、恋人が余命幾許もない病気にかかり、オリンピックを断念して、恋人の看病に集中すべきか、それともオリンピックをあきらめずめざすべきかという相談が書かれていた。

 3人組はいい加減に相談して、恋人の看病に専念しろと返事を書き、裏口の牛乳箱にいれる。すると、すっとそれが抜き取られ、しばらくするとまた郵便受けに封書が投げ入れられる。何回かやりとりした最後の「月のしずく」からの手紙。

「月のしずく」の最初の手紙から、最後の手紙まで、「月のしずく」の世界では6か月が過ぎていた。つまり、3人組の世界と相談者の世界の時間の速度が異なっている。しかも「月のしずく」の世界は30年も前の世界。「月のしずく」の最後の手紙は「月のしずく」はオリンピック選手に向けて頑張ったが選ばれず、恋人も亡くなってしまったことが書かれていた。そして末尾には自分はオリンピックにでようと、3人組の回答に励まされ決断して頑張れたと感謝の手紙になっていた。

 松岡克郎は大学生の時からミュージシャンになるのが最大の夢で頑張ってきて、オーディションやレコード会社に作品のデモテープを送ってみたが、ことごとく失敗して、一人で演奏しながら放浪している。今から8年前の話。

 そして、自分は演奏を続け、夢を追うべきかあきらめるべきかナミヤ雑貨店に相談の手紙を投函。3人組はやめろ、あきらめろと回答する。それでも松岡は諦められない。

 ある日毎年慰問にきていた児童養護施設「丸光園」で演奏をする。その「丸光園」でその夜火事が発生。施設に入っているリリちゃんの弟が逃げ遅れて、取り残される。この時松岡が火の中に飛び込み、リリちゃんの弟を助け出すが、松岡は焼死してしまう。

 その後リリちゃんは大の人気歌手になる。リリちゃんが最後に歌い大ヒットした曲は、松岡が作った「再生」という曲。

 こんな話が、いくつもナミヤ雑貨店をめぐって、重層的に描かれる。それらが、どれも感動を呼び起こす見事な話になっている。

 ナミヤ雑貨店の亡くなった店主は、人生の相談を郵便受けで受け、懸命に回答していた。
中には白紙の手紙もあったが、白紙にはどんな思いが込められているのか、想像して必ず回答を書いていた。

 そして自分が亡くなって、33回忌当日、ナミヤ相談室は一日だけ再開するという告知が行われる。そして、物語のクライマックスを迎える。
 そこに大きな感動がわきあがる。

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東野圭吾   「名探偵の掟」(講談社文庫)

 ボケ役の大河原警部と名探偵天下一大五郎コンビが活躍するミステリー短編集。
この作品集。それぞれの作品が、ミステリーの定番、密室、時刻表トリック、バラバラ死体、フーダニット、ハウダニットまで12のパロディ作品となっている。

 おもしろいと思ったのは、テレビのミステリーのパロディ。最後に大五郎が犯人はお前だと指さす。すると、どこにもいなかった警察官や刑事がワラワラと犯人のところに突然集まってきて「逮捕!」と声を上げるところ。全く東野はお決まりの場面をよく見ている。

 すごいと思ったのが「館」シリーズのパロディ「屋敷を孤立させる理由」という作品。
「館」ミステリーは綾辻行人が得意として多くの作品を書いている。

「館」シリーズは館全体が密室になっている。登場人物も限られ、犯人を暴くには読者にもわかりやすくなっているのが特徴。「館」を孤立させるために、館に通じる道で大きな災害があり、館に出入り不能となり、登場人物が固定化するのがお定まりの約束コース。

 大金持ちの矢加田氏の田舎の別荘で別荘完成祝いのパーティが開かれる。パーティが終わり、客の多くは自分の家に帰る。
 別荘に泊まったのが、天下一大五郎、大河原警部、矢加田夫妻、足本、大腰、鼻岡。
そしてお決まりの雪が降りだし積り、別荘へ通じる道で災害が起き、別荘への出入りができなくなる。

 そんな中、大腰がトイレに行く。トイレの場所がわからないので、矢加田がトイレまで案内する。矢加田はすぐに戻ってきたのだが、大腰がいくらたっても戻らない。全員で大腰を探すが、部屋にもいない。ということは別荘の中にはいないということになる。

 驚くことに、大腰は、別荘の場所から登って行った先の山頂で遺体となって発見される。どうやって大腰は山頂まで行ったのか。

 なんと、別荘そのものがケーブルカーになっていた。山頂で、矢加田が非常口から雪の中に放り出したのである。館が動く。とんでもない発想力。本当に驚いた。

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東野圭吾   「私が彼を殺した」(講談社文庫)

 登場人物は作家、脚本家、映画監督もする気鋭の穂高誠。そして、穂高と結婚する女流詩人神林美和子。それから、動物病院で働く浪岡準子、穂高の事務所で穂高の下働きをしている駿河直之、それに詩人の兄神林貴弘。そして、神林美和子を担当している出版社の編集者雪笹香織。

 この人たちの人間関係がどろどろしている。とにかく穂高の女たらしが異常。美和子の結婚当日まで、浪岡準子、雪笹香織と肉体関係を持っている。美和子と貴弘兄妹は、幼少時交通事故で両親を失い、叔父、叔母の家に預けられ、別々に育てられる。長い年月を経て実家に戻り2人住まいになると、兄妹は肉体関係を持つ。兄はまだそんな妹女流詩人に恋愛感情を持っている。駿河は、高校時代から穂高に家来としてあつかわれる、高卒後会社に就職するが、ギャンブルにのめりこみ、数百万円の借金を抱え、結果勤めていた会社の金に手を出す。これで会社をやめさせられるのだが、その借金を穂高が立て替え、それにより、穂高の事務所に入り、穂高の下僕として尽くすように厳命される。また、動物病院に勤める浪岡準子と駿河は恋愛関係にあったが、この準子を穂高にとられる。

 2つ事件が結婚式前日当日に起きる。穂高が薬物で殺される。それと、浪岡準子がその薬物を飲んで、遺書を残して穂高の家の庭で自殺する。穂高の家での自殺は、穂高にとっては困るので、穂高は駿河とともに、遺体を準子の家に移す。

 穂高を薬物殺害したのはだれか。これに練馬署の加賀刑事が臨む。毒薬は、自殺した準子が動物病院より持ち出す。この毒薬を穂高に飲ませたのは誰で、その方法は?
 最後に、そのことができる可能性がある、神林美和子、駿河貴弘、神林貴弘、神林美和子、雪笹香織が集められ、加賀が名推理を披露する。

 そして、これで犯人が解明されるという最後に、物語は「だから犯人はおまえだ」と指さし終了。この終わりに私はビックリ。

 調べてみると、加賀刑事シリーズはすべて同じ終わり方をしていて、犯人は読者があてる形式になっているようだ。
 しかし、シリーズには数ページの推理手引書が付録としてついていて、それを読むと犯人がわかるようになっている。

 他のシリーズは知らないが、本作品は付録を読まなくても、犯人はだれか読者はほとんどわかるようになっている。

 他のシリーズを読むのが楽しみになってきた。

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東野圭吾  「天使の耳」(講談社文庫)

 交通事故をめぐるミステリー集。警察の交通課というのは、ひき逃げ事件でも起きれば、その捜査に多くの捜査人を投入し大きな体制をくみ、犯人発見に全力捜査を行うが、通常事故となるとその原因調査は対応する警察官も数人で、たとえ死人が発生しても、通り一辺の捜査で終了することが多い。それは、他の種類の事件と交通事故では、発生頻度が全然異なり、とても交通事故で深く捜査をしている時間がないからである。

 その少ない体制、捜査時間の制限の中、交通事故における、事故の真相とその背景を抉り出すという矛盾をテーマにしている作品集。そのため、作品は通常ミステリーより緊張感があり密度の濃い作品集になっている、

 トラックがかなりのスピードで走っている。そのトラックが突然右にハンドルを切り、中央分離帯を越え、反対車線で横転する。横転したトラックの運転席に向かって乗用車が突っ込んでくる。

 辺りは夜間で、明りはコンビニがあるばかり。
トラック運転手は20年間無事故無違反。突然右にハンドルをきり、反対車線で横転するような事故を起こすことは信じられないと交通課の世良と福沢が捜査をしだす。

 軽傷だった乗用車の運転をしていた望月によると、コンビニの前に3台の車が路上駐車をしていた。その3台の真ん中に駐車していたアウディが突然方向指示器もださずに発進したと望月は証言する。そのアウディを避けようとトラックは中央分離帯を越えて横転してしまった。

 アウディを探さねばならない。 

世良が聞き取りのために、コンビニに行くと、トラック運転手の妻が、コンビニを見張っている。世良と妻は、事故が起きた時の売り上げ記録をコンビニからみせてもらう。
 すると氷と「クロック・サロン」という隔週発行の料理ブックを購入している記録がでてきた。

 それで運転手の妻は、またコンビニにアウディがやってくるのではと思い張り込みを始める。そして世良も妻につきあう。
 そして、それから2週間後の「クロック・サロン」発売日にアウディがやってくる。
単純だけど、面白い。

 表題の「天使の耳」も、面白い。ラジオから流れるユーミンの「リフレインが叫んでる」から、事故の起きた時の信号のサインの色を明らかにする。ユニークなトリック。

 20年の東野作品未読期間を破って、これから集中的に東野作品を読む。楽しみだ。

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林真理子  「白蓮れんれん」(集英社文庫)

大正時代、「筑紫の女王」といわれた、歌人柳原白蓮と年下の宮崎龍介の駆け落ち事件、いわゆる「白蓮事件」を描いた作品。
林真理子は1982年「ルンルンを買っておうちに帰ろう」でデビュー。この年、「ルンルン」は大流行語になった。

 その後「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞を獲得したが、デビュー作を除けば、評判のわりに、作品はめだたず、地味な存在になってしまっていた。私も多くの作品を読んだが、想像力に乏しく、平凡な作家だという印象しか残っていなかった。

 この作品は、林が宮崎家から提供された700通にも上る、宮崎・白蓮の往復書簡をベースに描かれ、さすがに林はこの書簡を深く読み込み、しかも、作家としての才能も十分発揮し、出来の良い作品に仕上げている。

 白蓮は本名柳原燁子(あきこ)。父は、伯爵柳原前光、大正天皇の生母である柳原愛子の姪で、天皇家の親族。しかし、養女にだされた北小路家が没落して、貧窮の生活を強いられる。15歳で結婚し、子供をもうけるが、家庭はうまくいかず、離婚して、26歳の時、貴族とは関係ない、九州の炭鉱王伊藤伝右衛門と見合いの末、結婚する。このとき伝右衛門の年齢は50歳。多くの妾を持ち、子供も作っていた。

 白蓮は、佐々木信綱に師事し、歌人となる。この歌人のペンネームが白蓮である。
その後、社会主義活動家の東大生宮崎龍介と知り合い恋に落ち大陸に渡る。

 大正時代。もちろん電話はあったが、相手に交換手経由で電話するため、うまくつながらないことが多く、電話はあまり普及しなかった。もちろんスマホもなければネットもなく、恋人とのやりとりは手紙か電報だった。

 そんな時代、手紙とはどんなものだったのだろうか。書いては消し、書いては消しを繰り返し、毎日のように互いに交換する。龍介の白蓮への手紙。

「私には一つの憂いが加わったような気がします。そして最大の憂いが。しかし私は憂いは常に救いだと考えています。私が消極より積極へと申し上げたのは、憂いより救いという意味に他なりません。では、救いとは何でしょうか。それは詩でしょう。それでは、詩とは何でしょうか。それは、心と心、心と自然とこの二つの交流をいうのではありますまいか。人間に一つの尊いものがあります。それは涙です。ああ心ゆくばかり泣いてみたい。心臓が破れてしまうまで。」

 私の学生時代も恋人とのやりとりは手紙だった。一生懸命思いをこめて書いていた時代をこの作品は思い出させる。

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高梨ゆき子   「大学病院の奈落」(講談社文庫)

 国立群馬大学第2外科で起きた外科手術医療事故を追いかけたノンフィクション。作品は、新聞協会賞を受賞している。

 去年1月、私は激しい腹痛にみまわれ、行きつけの医者にかけつけたが、この病院では対応不能ということで、近くの大きな都市の総合病院に救急車で連れて行かれた。そこで、いろんな検査をされ、緊急手術をすることになった。

 そして、わけもわからないまま、全身麻酔をかけられ、手術が行われた。手術は成功し、
2日後には退院。自宅に戻された。

 この時、開腹してなされた手術と思っていたのだが、後の説明で、開腹ではなく、腹腔鏡手術で行われていたことを知った。

 腹腔鏡手術というのは、開腹するのではなく、腹に穴をあけ、そこにカメラや手術器具を入れ、映る画面をみながら、手術を行うという方法のことを言う。

 この手術方法は新しい方法で、日本では2000年に最初に行われている。今では、この方法は保険適用手術とされているが、少し前までは適用外で手術代は全額患者負担か、研究のためということで、病院負担だった。

 腹腔鏡手術は開腹手術に比べ、体に傷を殆どつけないため、術後の回復も早く、傷跡もめだたず、優れた手術方法と、術後、医師から説明を受けた。

 この作品によると、群馬大学医学部第2外科で、2010年12月から2014年6月までに行われた腹腔鏡下肝切除が93例なされ、8件が術後短い期間で感染症、敗血症、肝不全を発症し、退院することなく患者が死亡するという案件が発生した。

 そしてこの8件はすべて、中堅の同一医師の手術によって起きていた。しかもこの手術は保険適用外で厚労省から認可されている手術方法ではなかった。

 こういう手術を行う場合は、病院の倫理審査委員会の承認を得て、手術を実施せねばならなかったのだが、93例のうち審査委員会の承認を受けて行われた手術は全く無かった。

 この本を読んで、私は顔が青ざめた。私への医者の説明では、こんな素晴らしい手術法はないとの説明だったが、実態はかなり違うようだ。

 開腹手術では、実際に患部を見て確認しながら、患部を切除し、その後必要な管をつないだり、切除後の残りの臓器を縫い合わせたりして手術を行う。

 しかし腹腔鏡手術では、画面に映った映像をみながら、切除、縫い合わせを行い、まったく患部を見ないで手術が行われる。

 特に管の接合、縫い合わせは高度な技術が必要で、ここで失敗すると、大量の血が排出されたままになったりして、それに対応するため、大量の輸血や止血が必要となり、腹腔鏡出は異様に時間がかかるのが一般的のようだ。

 腹腔鏡手術を行った群馬大医師の技術について、2例の映像をみた、検討委託協力医の評価が驚く。
「手技はかなり稚拙である。鉗子のハンドリングもよくなく、剥離操作、止血操作にしても全部悪い。相当下手。術野も出血で汚染されており、血の海で手術しているような状態。腹腔鏡の技量についてはかなり悪いといえる。無用に肝臓に火傷させるなど、愛護的操作がない。助手のカメラ操作も下手。」

 よかった。何もなくて体が元に戻ってと私は心底思った。

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小杉健治   「連鎖」(集英社文庫)

 河合しずかは、不倫相手の作家、諸岡を諸岡の部屋で包丁を使って刺殺し警察に逮捕される。そのしずか、殺害は認めるが、不倫は否定する。そこに疑問を持った、弁護士の鶴見が独自に調査を始める。

 調査の過程で、しずかと被害者の間には、画家、枝川紀世彦という共通の接点があることがわかる。しかし、枝川は5年前に自殺をしていた。

 また、枝川の絵を見せられた、テレビ番組のコメンテーターをしていて大人気だった殺害された諸岡恭平は、絵はすばらしいが暗い陰りがあると評価する。この諸岡の父親も交通事故で亡くなっている。
 こんな状況の中、鶴見の地道な調査がなされ。しずかの諸岡殺害の背景、動機は京都宮津にあることに行き着く。

 小杉さんの小説の素晴らしさ。調査過程はじぐざくするが、その一つ、一つの過程の描写に無駄なものはなく、確実に真相に近付いてゆくこと。

 多くのミステリーには、読者を混乱させるために、事件とは全く関係ない事柄を紛れ込ませている。

 しかも、小杉作品は、余計で惑わすような、情景や心理描写を徹底的に排除する。会話体が中心で、ドラマのシナリオを読んでいるような心地にさせてくれる。

 それでいて、真相は込み入っていて、さらに人間味溢れる物語になっている。
そして、すべての真相のもと、18年前岩だらけの古墳群で起きた事件に最後たどりつく。

 そこまで読者をひきつけ真相まで連れてゆく。小杉の物語の構成力、技量にまたこの作品でも、堪能することができた。幸せである。

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篠田節子   「恋愛未満」(光文社文庫)

 連作短編集。
同じ時代の空気を、青春時代に吸っていた人達というのは大切。

会社に新入社員で同期で入社する。
 当然時が過ぎると、仕事も変化し、それぞれの地位、立場も変わる。
出世街道を驀進する人もでれば、早々に脱落し、日の当たらない職場を転々とする人もでてくる。

 しかし不思議なのは、同じ青春時代を過ごしたという一点で、いつまでも、一緒に遊んだり、交際が続く。もちろん、集まれば、それぞれが置かれている立場や会社についての話題が中心となる。それでも、不思議に繋がりや絆が切れない。あいつは社長になったこいつは役員になった。あいつは部長で偉そうにしているが、あと数年すれば定年。社長も役員もしばらくすれば引退。

 そうなれば、俺たちは、俺たちの時代だった青春をさえぎるものはなく、思いっきり語れる。それまであと少し。よくわかる。青春の仲間は切れない。その時代に帰り、その時代を復活させたくて、40年ちかく、同期はひたすら待ち続ける。収録されている「マドンナのテーブル」。そうだよなと、思わせる作品だった。

 小さな町に結成されたオーケストラ。演奏者は大人だけでは間に合わず小学生も混じる。
その団員の中に、津田というトランペッターがいた。大学の工学部の助手をしていたが、その後アメリカの大学にも留学。背は高く、美男子、人当たりもよく楽団に集まる女性の憧れのまとだった。

 しかし、この津田にいっこうに恋の噂がたたない。だれかが、言い寄ったり、女性を紹介しても、やんわりと断る。そして、今年津田は独身のまま50歳になった。

その津田が、楽団員である谷口愛菜にこっそり付け文を渡す。愛菜は20歳の大学生で理学療法士を目指して勉強している。
 津田の渡した付け文には、
「私と結婚を前提にお付き合いしてください。」と書かれている。
実は、愛菜が小学校3年生の時、津田を大好きになり、将来お嫁さんにしてくださいと津田にお願い。津田もそれを受け入れたことがあった。

津田はひたすら愛菜が、結婚できる年頃になるまで、待った。当たり前だけど、愛菜には大好きな恋人がいる。今津田は50歳で、愛菜は20歳。

 有り得ないような話だが、ひょっとすると男にはひたすら青春時代の復活を信じて会社時代が終わる40年後を待つように、小学生のプロポーズを信じて待つ人もいるかもしれないと思ってしまう読者の私がいる。

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中山七里   「隣りはシリアル キラー」(集英社文庫)

 連続殺人事件。このミステリーの成否は、殺人動機が読者にとって納得できるものかどうかで決まる。

 しかし、これが難しい。無差別殺人における殺人動機。精神的に犯人は問題をかかえているとか、人の血をみることに異常に興奮する嗜好を持ち、殺人をしたいという欲求が抑えられないとか、現実的ではない動機にはいりこむことが多く、あまり納得感のあるシリアル キラーのミステリーになかなか出会えてこなかった。

 このミステリー、勤めている中小工場の労働者である主人公神足友哉、住んでいる会社提供のアパートの隣部屋から、ぎりっ、ぎりっ、ぐし、ぐし、ざあぁぁぁっーと深夜、何回も人体を切り刻むような音が聞こえてくる。そして、その音が聞こえた翌朝、近くの別の工場のゴミ収集場より、切断された体の部位が発見されることが続く。隣部屋は、中国からやってきた技能実習生の徐浩然。

 殺害されたのは、片倉詠美、国部潤子、東良優乃、篠崎真澄美。そして殺人未遂でぎりぎりのところで救出されたのが友哉の恋人でもある別宮沙穂里。
 物語は、徐浩然が殺人犯だろうということで最終段階まで進行する。
これは平凡。これでは、何故徐が連続殺人を起こしたのか動機がわからず、もやもや感を残して終わる。つまらない作品と思ってしまう。

 それでも、何これ変という印象的場面が途中にある。

初めて、友哉と沙穂里が結ばれるシーンがある。その時沙穂里が友哉に言う。
「私は胸が小さくて恥ずかしい。友哉さん、ずっと向こうを向いていて。」
これは変だ。沙穂里は胸に見せたくないような大きな傷でもあるのではと勘繰ってしまう。

殺された女性たちの失踪時の着ていたものは、片倉詠美はオフショルダーのブラウス、国部潤子はキャミソール、東良優乃は柄物シャツ、篠崎真由美はタンクトップ。
一方別宮沙穂里はボタンダウンのシャツでトップのボタンはいつもきちんと止めている。

女性で最も大切な胸。それに強烈なコンプレックスを持つ別宮。堂々と胸を見せつける女性。
そこでの嫉妬が殺人に向かう。

中山の描く、連続殺人犯の動機にたいする挑戦。どうだろう、納得感は果たしてあったか?

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日高敏隆   「世界をこんなふうに見てごらん」(集英社文庫)

 日本動物行動学の第一人者、日高敏隆による動物に関するエッセイ集。

日高によると、動物行動学会ではかって、何故という疑問は持ってはいけない時代があったそうだ。こういう生態系、行動体系をするということを証明し、それが何故ということの疑問は持ってはいけないということだ。
 日高が動物学と生物の多様性について言う。

 節足動物という種類がいる。
何故節足動物になってしまったか、ということから考える。たまたま祖先がそうだったから、彼らは体節を連ねる外骨格の動物になっていった。
すると体の構造上、頭の中を食道が通り抜けることになり、脳を発達させると食道にしわ寄せが行ってしまう。ではどうしたらいいか。
 樹液や体液、血液といった液状のエサを摂ることにした。それが、その形で何とか生き延びる方法だった。

 動物学では、現在の動物の形が必ずしも最善とは考えない。
なぜそういう格好をして生きているのか、その結果、どういう生き方をしているのか。そういった根本の問題を追求するのが動物学という学問である。
 こういうことがわかってみると、感激する。

 その感激は。原始的といわれるクラゲのような腔腸動物でも、高等といわれる哺乳類でもまったく同じだ。
 その理由がわかっても何の役にもたちませんよというほかない。こんな格好してないほうがいいというものがたくさんある。

 人間も、今こういう格好をしているが、それが優れた形かどうかはわからない。
これでも生きていけるという説明はつくけれども。
 だから、動物学では、海の底の生き物も人間も、どちらが進化していてどちらが上、という発想をしない。

 いきものは全部、いろいろあるんだな、あっていいんだなということになる。つまりそれが生物多様性ということだ。

 進化ということは考えず、何故それぞれの動物はそんな格好して、どうやって生きているのかを研究し、知ることが動物学なのである。

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伊藤ちひろ   「サイド バイ サイド」(角川文庫)

 作者伊藤ちひろさんは、多彩な才能を持っている方で、同じ題名で、映画を作り、脚本、監督までしている。この本はその続編として、小説になって出版されている。

 今の若い方は、初恋はいつと聞くと、幼稚園、小学生の時と、年寄りの私には理解しがたい答えをする人がたくさんいる。

 小学校や幼稚園では、異性を意識するなんてことは全く無かった。何しろ私は高校半ばまで坊主頭だったから。
 当時は、たまたま遊んだ仲間が男の子でもあったし、女の子でもあった。仲間や友達が異性かどうかは関係なかった。

 確かに高校くらいになると、異性を意識しはじめる。しかし、遊びに行く。海やプール、キャンプ。遊びは、男女高校生がまざりあっていた。

 この小説。中学生の主人公美々。同級生の冬馬君に恋心を抱いている。しかし、この冬馬君を友達亜子に取られてしまう。それで、美々は新堂君に恋することを決める。

 亜子も美々も恋するという形が大切で、本当に相手を恋しているのか不確か。
何より互いに大切なのは、亜子と美々が親友であること。この2人の関係がひびわれるなら、恋人なんていらない。遊びも恋人をいれて4人でする。

 亜子が美々に言う。

「恋の苦しみは、避けられる苦しみに思える。だいじょうぶ。だいたいさ、好きな気持ちってなんだろう?謎じゃない?コントロール可能な気がするもん。わたしはきっと冬馬君のことちゃんと好きなわけじゃないと思うの。だからこんな気持ちは潰せる。」

 亜子と美々、思春期まっさかり。もうすこしすると恋する気持ちは簡単に潰せなくなるよ。

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東野圭吾   「マスカレード・ホテル」(集英社文庫)

 東野ミリオンセラー作品。木村拓哉、長澤まさみ主役共演で映画化もされている作品。

都内で不可解な連続殺人事件が発生する。その殺人現場に数字の暗号が書かれた紙片が落ちている。
 その数字の暗号が、次の殺人事件の発生場所の経度緯度が書かれていることが読み解かれる。それで次の殺害事件が起こるのが、一流ホテル・コルテシア東京となる。

 そこで警察官が、ホテル職員になりすまし、警備にあたる。その中で、フロントクラークを担当したのが主人公の刑事新田浩介。そして、その浩介を指導するのがフロントクラークの山岸尚美。

 暗号により予告された連続殺人事件は、千住新橋で起きた野口史子殺害事件。次に品川で起きた岡部鉄晴殺害事件、そして、葛西ジャンクションで起きた高校教師畑中和之殺害事件。

 このうち前2件は、犯人が検挙され、容疑者不明なのが高校教師殺害事件。
物語の興味は、ホテルでどんな殺害事件が起きるのか、また警察が事件を未然に防げるか。そして、ホテルで起こる事件と過去の連続殺人事件との関連は何なのか読者はそれを想像しながら読み進む。

 500ページ余の作品なのだが、一向にホテルで事件らしきものが起きないし、3つの過去事件との関連する点も明らかにされない。

 そして、終盤実は3つの事件の関連は何もないことが明らかにされる。実はこの3つの事件はホテルで引き起こそうとしている事件の実行者が、闇サイトで殺人をしたい人を募集し、実行者が殺害方法、殺害場所を指示して、事件を起こしていたことが明らかにされる。

 読み込みが悪かったのか、どうしてホテルでの殺害実行者が、3つの過去事件の殺害場所殺害方法を指示せねばならなかったのがよくわからなかった。

 更に、ホテルにはいろいろ怪しげな客がやってくるのだが、その中に事件とは全く関係ないクレーマーの栗原という塾講師くずれの男がいた。この栗原の不埒な行為について、70ページもさいて書かれる。しかしこの男は事件とは全く関係が無い。正直描写が長すぎ、関係ないと知りぐったりとした。そのほかにも、何人もの事件無関係の人物が客になって登場する。登場するのはやむを得ないが、もう少し簡潔にしてほしかった。

 それから、ホテルで最後事件がおこりそうなところを未然に防ぐのだが、ここまでが長い。ひょっとしたらホテルで事件は起こらないまま物語は終わるのではないかと、かなり不安になって読んだ。

 物語の構成にもう一段の工夫が欲しいと感じた。

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東野圭吾   「毒笑小説」(集英社文庫)

 ユーモア小説短編集。このシリーズは4冊出版されているが、本作品は2作目。東野の鋭いユーモアがさく裂するのは3冊目の「黒笑小説」から。

 こういう作品で、鋭いユーモアを表現するのは筒井康隆、それに星新一。東野のこの作品集はどの作品も少し中だるみしていて、緩慢な作品が多い。

 その中でも、「つぐない」という作品は、東野の特徴が十二分に発揮されている。人間の脳には、感情を司る右脳と考え、論理を司る左脳がある。そして右脳と左脳は脳梁という神経の束でつながり、右脳と左脳で影響しあって、行動したり言葉を発する。この作品の主人公は、小学生の時、重い病気にかかって、脳の機能を繋いでいる脳梁を切断する手術を受けている。この状態の脳を分離脳と言う。

 この分離脳の主人公が、中年になって突然、全く関心の無かった、ピアノを習う。それも異常に熱心に・・・。この行動と分離症との関連を東野得意の筆致でミステリーとして突き詰める。

 面白い作品というのは、人間が常識的に持っている概念を突き破ったり、ひっくり返したりすることで成り立つことが多い。特に東野はこの点において優れている。

 大金持ちの福留財閥、後継者である福留富子の5歳の一人息子が誘拐される。

 誘拐が起きると、お決まりのパターンで、被害者の家族の家に息子の両親を含めた家族と警察が集まり、身代金要求の犯人の電話に逆探知機をセットして待つ。

 そこに誘拐犯から電話が来る。
お金を一億用意しろと。
電話にでた富子が聞く。
「一億というのは単位はドルかユーロか」と。
「円だよ一億円。」
「なに!たった一億円。うちの息子健太の命が一億円とは馬鹿にしていないか。」
そんなポケットマネーのようなお金は、金庫かそこいらに散らかってるお金を集めればすぐ用意できる。

 それから犯人は逆探知できないように、海外の回線を経由して福留家に電話を繋いでいる。
 捜査の指揮をしている警部が聞く。
「逆探知はできたか」
「できました!」
「犯人はどこから電話をかけている?」
「はい!カメルーンです。」

  この常識をひっくりかえした東野の発想に抱腹絶倒。

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東野圭吾    「怪笑小説」(集英社文庫)

 ユーモア短編集。
この本の解説を真保裕一が書いている。

真保は作家デビューした時、何人もの編集者から、東野を目指せと言われたそうだ。

ここを読んで驚いた。寄る年波のせいか、記憶が曖昧になってきた私は、真保のほうが東野より先輩作家だと思っていた。改めて調べると、東野は私より7歳年下で、真保は東野より5歳年下だった。東野の旺盛な文筆活動、若作りな風貌をみて、東野はもっと若い作家と思っていたが、全く錯覚だった。真保のデビュー作「連鎖」は衝撃的作品だった。その後もしばらく重いテーマの作品をものにし、私も楽しみにして読んだが、最近も本は出版しているが、少し影が薄くなった。

 東野の作品もデビュー作品から必ず読んでいた。東野はしばらくして直木賞に作品がノミネートされた。そこから数年、候補にはなるのだが、受賞はならなかった。今から20年ほど前やっと「容疑者Xの献身」で直木賞を受賞した。しかし、私には中途半端なミステリーで、その出来栄えはあまり感心しなかった。正直、賞落選が長く続いたので、お情けで審査員が受賞させたのだと思ってしまった。更に、作品は映画化され大当たり、何とこの本が300万部も売れ大ベストセラー、こんな作品がこれほど評価されるのはおかしいと勝手に思い込み、それから一切東野作品を読まなくなった。

そして、20年の時を経て、「~笑」シリーズを手にとってみた。そしてこれがあの東野?と作風の印象が異なり驚いた。

 東野は確か大阪の理科系大学をでている。だから作品の構成、文章の運びも理知的。それなのに「~笑」シリーズは、落語の小話風、上方のテンポのいいしゃべくり漫才、そしてそのユーモアも秀逸。こんな小説も書けるのだ。

 事実この短編集でも、老女がおっかけにはまったり、UFOが文福茶釜であるという理解不能なタヌキ理論。死が目前の老人が薬によりどんどん若返り、二十歳過ぎの女の子と恋愛するというユーモア満載の作品が収録されている。

 東野は関西人である。ギャグやユーモアがすでに体に染みついている。この作品を読むと東野はいくらでも、面白い話が泉のように沸いてでてくるように思う。

 20年間、東野作品とご無沙汰。そのご無沙汰を埋めることに、ワクワク感が半端でない。

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東野圭吾   「歪笑小説」(集英社文庫)

 変わらぬ東野のブラックユーモア小説集。
書店で文芸雑誌を見かける。一般本が売れないのに、よく出版社、こんな売れそうもない雑誌を根気よく出版するものだといつも思う。

 それで調べてみた。中には数千部しか販売していない雑誌もあったが、4万部、6万部と結構販売されている雑誌もあった。最近の本は、出版しても、最初の刷で終了。重刷、3刷、4刷と版を重ねる本は少ない。それなのに、4万部、6万部も売れる文学雑誌がある。もし、単行本で4万,5万販売したのなら、9刷、10刷に匹敵。ベストセラー本になる。

 中学生が、夏休みの職場見学で、出版社の文学雑誌編集販売部門にやってくる。
中学生は、事前に文学雑誌を研究していて、鋭い質問をする。

「こんな売れない雑誌を何故作り続けるのか。」「読み切りは少なく、連載が多い。読者は途中から連載を読まされても、全くわからない。」「赤字なのに、作家には原稿料を払う。何でそこまでして発行するのか。」「連載作品でも、しばしば途中打ち切り作品も多い。」

 出版社は回答する。
「確かに文芸雑誌はどれも赤字。」「だけど、雑誌に掲載した作品は、単行本にする。そこで稼ぐから全体では黒字になる。」

 中学生もよく調べていて、「雑誌に掲載されても、本にならない作品もたくさんある。」
「連載時と本になった時の中身が違うことがある。」などピーチク パーチクうるさい。

出版社の人間がブチ切れて大声をあげる。

「わかってんだよ。俺たちだって、変なことやってると。だけどしょうがないんだよ。こうでもしないと、作家の奴らは書かないんだ。先生お願いします締切までに必ず書いてくださいと土下座しながら催促して、それでやっと原稿が上がってくるんだ。納期?そんな言葉が連中に通用すると思うか。ふつうの仕事ができないから作家になったような人間たちだぞ。あいつらは子供といっしょなんだ。夏休みの宿題を8月31日にならないとやらない小学生と一緒だ。平気で締切を無視する。連載小説なんて誰も読まない?その通りだ。そんなことは作家のやつらだってわかってる。小説誌が大赤字だということも知ってる。それでも知らんぷりして、堂々と原稿料をふんだくっていきやがるんだ。それで、その原稿は下書きレベル。誤字脱字だらけなのはもちろんのこと。矛盾、疑問だらけ。先生この登場人物は、前々回に死んでいます。必死でこんな馬鹿作家の尻ぬぐいをしてるんだ。文句あるならいっぺんやってみろ。小説誌の編集者をやってみろ。馬鹿垂れ作家たちの相手をできるならやってみろってんだああ。」

 これを書いている東野の得意満面の顔が浮かんでくる。こんなことを書いても非難されない作家は東野しかいない。

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| 古本読書日記 | 05:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾    「黒笑小説」(集英社文庫)

 短編集。東野圭吾はやはりすごかった。それほど力を込めて書いたとは思えない短編集なのだが、2008年4月末に出版されたこの文庫本、9月初め、たった5か月間で6刷を数えている。

 こんな凄い作家のため、文学賞をおちょくった作品を冒頭から描いている。こんな小説はまさに東野しか書けない。こんな小説を書いたら、出版社や他の小説家を完全に敵にまわしてしまうから。よく集英社は、このおちょくり小説収録の本を出版したものだ。

 この短編集で最高に面白かったのが「ストーカー入門」。

主人公の僕はもうすぐ結婚しようと約束していた華子に、面と向かって突然別れると宣言される。

 どうしてこんなことになってしまったのか、悶々しているうち、1週間後突然華子より電話がある。突然別れを宣言されたら、悶々鬱々しているのではなく、行動にでなさい。そのときなるのはストーカーよ。と言われる。

 それで次の日、華子が勤めている居酒屋に行きビールを注文する。
すると華子が言う。

「バカね、店にはいってくるストーカーがどこにいるの。ストーカーってのは、電信柱の陰に隠れて、相手の動きをずっと見張っているの」

 しかたないから、近くの漫画喫茶にはいり、華子の勤めが終わるのを「ドカベン」を読みながら待つ。そして、仕事が終わって帰る華子の後ろを追いかける。華子は「近づきすぎ」と言って怒る。

 「ストーカーだったら、一日私がどんな行動をして、私がどうだったかみんな知っていなくちゃならない。」

 それで翌日華子の行動を見張ってその結果を真夜中華子に電話で報告する。
すると華子はまた怒る。

 「私が帰ってピザを食べたこと。生理だったこと知らないじゃない。」
そんなことわかるわけない。すると、華子が、「私がだしたゴミを調べればわかるじゃん。」と言われ、華子の捨てたゴミを調べることにする。

 そこでふと気が付く。捨てたゴミ袋をみても、華子が捨てたゴミかどうかわからない。
それで、夜中から朝までゴミ集積場を見張る。

 すると、僕と同じことをしている男を発見する。
少し年齢がいっている男は
「新人さんですか。」と言ってマスクと手術用手袋を貸してくれた。

こんな突拍子もないブラックユーモア満載の東野物語にたくさんの読者が魅了されるのだ。

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| 古本読書日記 | 05:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宇山佳佑   「桜のような僕の恋人」(集英社文庫)

 私の小学校高学年の時、「愛と死をみつめて」という実話が本になり大ベストセラーになった。大学生だった河野實、大島みち子の悲しい実話、河野と大島は恋人同士だったが、みち子(ミコ)が軟骨肉腫という難病にかかり、阪大病院で手術、片頬を失う。しかしその病気が再発してミコは21歳の若さで亡くなってしまう。

 確か、テレビでは大空真弓がミコを演じ、映画では吉永小百合が演じ、青山和子が歌謡曲で歌い、日本がマコ、ミコ一色に塗りつぶされた。

 その後、同じような小説が生まれたが、「愛と死をみつめて」を超える純愛小説は生まれなかった。

 紹介した作品も、愛する恋人が、死に至る病気に陥る、「愛と死をみつめて」と似通った物語になっている。
 しかし、この物語は、2つの大きな仕掛けがなされ、その仕掛けがものの見事にはまった小説になっている。

 主人公晴人の恋人美咲の病気は早老症。早老症は遺伝によって発病する病気だろうと思われているがその原因は未だ不明。この病気にかかると、その瞬間から、老化が異常のスピードで始まり、患者によるが、数年で老年になり亡くなってしまう病気である。

 美貌や、肌がどんどん老化し、皺だらけや骸骨のようになり、体も衰え、背中も曲がり、体を動かすことも難しくなる。
 この時、晴人の愛する恋人美咲への思い、態度はどうなってゆくのか。また、周りの家族、友達はどうなるのか。

 それから、晴人がカメラマンを目指していること。このような小説の場合、恋人である男性が、まだ社会人としては、目標や人生の在り方が曖昧で、恋人が発病、亡くなった後、どうなるのかがあまり描かれない。

 しかし、この小説は、発病後に多くのページを費やし、丹念に、その後どういうことが起こるのか、リアリティをもって描かれる。そのことで、読者に感動を呼び覚ます。

 作品は映画化もされているようだ。ライトノベルに分類される作品で、本格小説を望む読者には、物足りない作品のように思えるだろうが、こんな作品こそ、多くの読者は求めていると思う。この小説は25万部、売れているとのことだ。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー  「人物日本史 昭和」(新潮文庫)

 昭和をいろどった傑出した人物について、著名作家が描いた人物伝を収録した作品集。
山本五十六、東条英機、吉田茂、田中角栄や美空ひばり、長嶋茂雄など大人物が描かれるが、個人的に印象に残ったのが松本清張の描いた「泥炭層」。

 大学時代、前半を寮で過ごしたのだが、その寮で先輩から、「村上国治再審請求要求」署名集めをするように言われ、いやいやながら街頭にたって署名活動をした記憶がある。

 昭和27年、札幌市警警備課長の白鳥警部が、同市内を自転車で通行中、ピストルで射殺されるという事件が起きた。

 当時は日本共産党の勢力が強く、上層部ソ連共産党の指示で武装闘争を遂行して、革命を起こすことを共産党は求められ、日本全国で暴力テロを引き起こしていた。

 そのため、各地での暗殺事件や不穏な謎に包まれた多くの事件が発生した。
その度に、事件の首謀者は日本転覆を狙う共産党が引き起こした事件として、多くの共産党活動家が逮捕拘束された。
 松川事件、下山事件、三鷹事件が有名な事件。

白鳥警部射殺事件も実行犯人は逃亡して行方不明になったが、首謀者として日本共産党札幌地区委員長の村上国治が逮捕される。村上は無罪を主張したが、最高裁で20年の懲役刑が確定、まだ、私の学生時代、刑務所に拘束されていた。

 確かこの事件について松本清張は「日本の黒い霧」で取り上げていた。
事件当時は、日本の警察機構は、国が統括管理する警察機構と、アメリカ占領下の名残でアメリカが造り上げた機構CIC二つの機構が存在した。
 そして清張は「日本の黒い霧」では、この事件はCICが仕組みでっちあげた事件としていたとの記憶がある。

 しかし同じ清張がこの作品「泥炭層」では、新しい真相を物語にして提示している。
安倍という白鳥の上司が、札幌の売春宿で安倍の情婦と白鳥が戯れているところを見て、これに怒った安倍が白鳥を路上射殺したという物語になっている。

 案外、謀略、暗殺などこねくりまわして語られる事件の真相も、こんな痴話事件かもしれない。なつかしく大学時代を思い出した。

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| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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