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2022年12月 | ARCHIVE-SELECT | 2023年02月

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朝井リョウ  「死にがいを求めて生きているの」(中公文庫)

 500ページを超える長編でかつ力作だ。

この作品を読みながら、ずっと頭に浮かび続けたのが、憲法解釈を従来より大幅に広く拡大して、自衛隊が海外の戦場に派遣できることを認めた、新たな安保法制が成立したとき、官邸前には大規模なデモが起きたこと。そして、その中心はSEALDSという学生だったこと。

SEALDSは、従来のデモのように、大声でシュプレヒコールを叫ぶのではなくラップダンスを踊りながら、安保法制反対の声をあげた。

 翻って現在、敵基地攻撃能力を持つ、防衛費を現在の倍に増やし、その財源の一部は増税により対応すると、安保法制改定時より、もっと反対運動が行われるべき内容にも拘わらず、官邸前に、大きなデモ隊は現れていない。

あのSEALDSは何で、立ち上がらないのだろうか。学生時代が終わって就職したから? それにしても、今こそ、学生はSEALDSの意思を組んでたちあがるべきではないのか。

 この作品に安藤良志樹という北海道大学の学生がでてくる。イギリスで生まれた音楽にレイブという音楽がある。良志樹は、この音楽に政治的メッセージを乗せ踊りながら歌うスタイルを創った。そして、これがテレビで取り上げられ、政権に対抗スタイルとして学生に受けた。

 そして、札幌で反政府活動をしている、他のグループのメンバーと議論を交わす飲み会に定期的に参加するようになる。ここではいくつもの社会問題がテーマで取り上げられ、議論が行われる。しかし、良志樹は音楽が重要なのであって、そこで声を上げる中身についての知識は殆どなく、議論ができない。中身の無さが、デモ参加者にもばれ、全く誰も参加しなくなった。

 そんな時、与志樹の上を行く奴が登場。それがこの物語の主人公の雄介。彼はジンバという踊りに合わせ、北海道大学の寮の寮生による自治権の継続を訴える。そして北海道大学学生に圧倒的支持を受ける。大学祭のとき、寮の屋根に上りジンバにあわせ、羽織袴姿で北大の寮歌を歌い、万来の喝采を浴び大合唱となる。

 この雄介。小学校の頃から、常に敵を作り、けちらすことに全精力を傾けてきた人間、常に自分が脚光を浴びていなければならない人間。それで、仲間はできるのだが、その仲間はしばらくすると雄介の元を去り孤独になってしまう。

 その雄介にある日、良志樹が大学の近くのラーメン屋であう。その時雄介が大学をやめて自衛隊にはいると言う。良志樹はびっくり仰天する。

 雄介には、智也という幼馴染がいた。こういう人はよくいるのだが、雄介にバカにされても、何があっても、米つきバッタのようにくっつき離れない。

 その智也が、良志樹にいう。
「雄介が自衛隊にはいると言う。どうしたら良いのだろう。」
 良志樹が答える。
「あいつはそう言って、同情してほしいだけ。絶対自衛隊にははいらないから大丈夫だよ。」

 人は誰かと繋がっていたい。繋がりが切れたらもう死ぬしかない。
 今全国で起きている、詐欺による強盗殺傷事件。もちろん参加メンバーは、一旦グループにはいったら、抜け出せないようにされているのかもしれない。でも、ひょっとするとそのグループを抜けたら、ひとりぼっちになってしまう。この恐怖からぬけだせないメンバーもるかもしれない。

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| 古本読書日記 | 06:40 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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冲方丁   「カオス レギオン」(富士見ファンタジア文庫)

 この作品は最初PS2用のゲームとして作られている。その後、ゲームをベースにして、冲方によりノベライズ化された。

 冲方作品の多くは、ゲーム化、アニメ、コミック雑誌での劇画化、更に映像アニメ化、そしてノベライズ化され、これらがすべてセットで売り出される。

 そうか、こういうふうに総合メディア戦略に乗って社会に送り出されているのか。これだと、あまり知られていないが、紙の本が売れなくなった時代、結構紙の本もこの領域では売れているのではと思えてくる。この作品は更に、パチスロにも使われているらしい。

 主人公ジークは黒印騎士として、かっては盟友だったドラクロウと、今では関係が決裂して、互いに敵味方として争っている。物語はジークがドラクロウを追い続け、最後に雌雄を決する物語となっている。
 ジークとドラクロウが決裂した背景も描かれている。

 最初の両者の決闘の描写。ゲームを文章にするとこうなる。

 「ジークは魔獣どもにたかられながら、厳獣の一体が、巨大な手で増殖器をつかみ、握りつぶした。どうっ、とその厳魔が倒れるのも構わず、ジークと残りの魔兵は次の増殖器に向かう。魔獣の群を突っ切り、増殖器を厳魔が叩きつぶし、尖魔が撃ち、迅魔が切り裂き、ジークが斬り倒し、一つ一つ破壊してゆく。」

 ゲームをした経験がある人は、この文章で、何が行われているか、映像がリアルに浮かんで興奮するだろうが、こんな戦いが、基本説明がなくていきなり描かれると、全く恥ずかしいがついていけない。

 それで不思議なのだが、少し我慢して付き合うと、さくさく作品が読めるようになった。
まったく、どうしてなのか未だにわからない。

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| 古本読書日記 | 06:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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冲方丁    「蒼穹のファフナー」(電撃文庫)

 太平洋に浮かぶ竜宮島。その島で、6人の少年、少女が聞いていたラジオから「あなたはそこにいますか」という意味不明な言葉。それは、未知の宇宙生命体フェストゥムからの侵攻開始の合図だった。

 島では、この攻撃に対抗するための組織「アルヴィス」が結成される。
そして、この決死隊に、スポーツ万能の少年、主人公の真鍋一樹が選ばれる。この真鍋一樹が操縦する万能飛行兵器がファフナーと呼ばれる。ファフナーは12機編成で敵と戦う。真鍋が機上するのはNO11。

 のっけから、真鍋の激しい戦いぶりが、詳細に描かれる。この迫力ある戦いがこの後も何回も描かれるかと思ったら、戦いの描写はこの1回だけ。後は対戦後の、真鍋の感慨や幼馴染との人間関係の変化が描かれる。

 この戦争で、真鍋は幼馴染、羽佐間祥子と蔵前果林を失う。そして6番機の誤射により、味方のチーム2人を失う。
 しかし、真鍋は、敵14機を撃墜する。編隊12機の中では最も多く撃墜した戦闘機数を誇り、英雄だった。

 ロシアのウクライナ侵攻では、富裕層がロシアから出国したり、徴兵を逃れるために出国した人達が大量に発生した。
 この作品の英雄真鍋の想いが、最後の数ページに書かれる。

「傷つくのも傷つけられるのも、もう、うんざりだ。
 誰も傷つけたくない。たとえ敵でも、もう傷つけないでくれと、懇願したい。
 それが本当なのだ。
 戦いから逃げて島を出たい。
 どこでもいい。自分が知らない場所へ、誰も自分のことを知らない場所へ、行きたいー
 島をでよう。
 いつかーそう、島が、本当に平和な場所にたどりついたときに、平和を守るという約束を果たしたときにこそ、そうして島を出れば、もしかすると、また帰りたいと思うかもしれない。
 嘘ではない自分が、そこにいるかも知れない。
 平和になったらそうしようー。」

戦争をやりはじめたプーチンは決して戦場へは行かない。傷つき、死んでゆくのは、無辜 の人々。勝っても負けても、ロシアを棄てる人々がたくさん発生するだろうとこの作品は教えてくれる。

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| 古本読書日記 | 06:34 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー  「3分で仰天!大どんでん返しの物語」(宝島社文庫)

 推理作家による、ショートミステリー25編が収録されている。
こういう作品は最後の落ちの優劣で作品の良し悪しが決まる。その意味では、収録作品の出来は今一つの印象。

 早朝不倫相手から電話がくる。熱が下がらず、せきもとまらないので、PCR検査を受けたらオロナウィルス(物語ではコロナウィルスとはなっていない)陽性になったと不倫相手が言う。

 そういえば主人公も熱があがり、調子が悪い。政府は外出、他県への移動は行わないように言っている。

 しかし、昨日は、学生時代の仲間と、規制を破って、隣の宮城県まで、ドライブをした。感染が心配になって、一緒にドライブした友達に体調が悪くならなかったか電話で聞くと、誰もなっていないと言う。

 そのうちに、中学受験控えている息子まで体調を崩す。妻が心配になって、オロナウィルスではないかと疑いだす。しかし、感染するような行動はしていないと妻は言うが、買い物とかに行っているからそこで感染したのではと主人公が言う。それで妻はPCR検査を受けてみようと言い出す。

 しばらくして、体調が回復した不倫相手とホテルであう。

すると相手が体を絡み合いながらねっとりと言う。
 「あなたは完全に濃厚接触者ね。」と。

そうか、コロナ流行が始まったころは、濃厚接触者はホテル隔離だった。
でも、当時不倫相手がコロナに感染した場合、濃厚接触者はどうしていたのだろう。
いいのか、農耕接触はホテルで行われるのだから。

新川帆立の「誰にも言えないお熱な物語」より。

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| 古本読書日記 | 06:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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冲方丁   「マルドゥック・スクランブル排気」(ハヤカワ文庫)

 物語最終巻。三冊にわたる大長編。

社会の最低辺まで堕ちてしまった、娼婦15歳の少女パロットが、シェルという犯罪者に他の娼婦とともに襲われ、パレット以外は亡くなる。パロットはマルドゥック市にある楽園という施設に拾われ、そこのドクターの手術により一命をとりとめる。

 その後、娼婦を襲い殺害をしたシェルは、楽園の外でマルドゥック市を牛耳っている悪人オクトーバーに拾われ、裏の暴力のリーダーとなる。そして、その下で働くのが、ボイルドという兵隊あがりの殺し屋。

 一方、このボイルドとタッグを組んでいた、ネズミ型をしている楽園で造られた万能兵器ウフコック。ウフコックは殺し屋ボイルドと決別して、少女パロットと行動をするようになる。
 だから、物語の興味は、パロットとウフコックがシェルとボイルドにどう立ち向かうかにある。

 しかも、ボイルドは楽園での肉体改造で、自らの体のまわりは無重力にすることができる。これは、壁でも天井でも歩くことができるし、銃弾で狙っても、無重力により銃弾は当たらずそれてゆくという特徴を持っている。

 一方、ウフコックは戦いに最適な武器にいつでも変身でき、相手を倒す力を持っている。
 だからクライマックスはこのボイルドとウフコックの戦いがどうなるかが見どころになる。

 ところが、この物語は、第2巻の書評でも書いたが、1巻分の分量をパロットのカジノでの戦いに割く。このカジノの場面がどうしてこんなに大量のページを使って描いているのかどうも私にはよくわからない。

 しかもカジノの場面。冲方得意の特殊異能を有する人物は登場せず、全く普通の人間だけが登場。駆け引きやゲームの流れを読み、最終的に勝利を収めるストーリーになっている。だから一つ一つのゲームの描写がやたら詳細に描かれる。行われるゲームもポーカー、ルーレット、ブラックジャック。3つのゲームが行われるから長くなるのも当たり前。

 そのゲームがやっと終了し、残り100ページになりやっと肝心の戦いが始まる。
この戦いは迫力があり、大興奮もの。しかも最後が悲しい物語で終わり、少し涙もの。

 それにしても、しつこいが、カジノの場面は本当に長かった。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー  「決戦!本能寺」(講談社文庫)

 歴史作家が明智光秀について描く。どの作品も本能寺の変について触れているが必ずしもそのことがメインテーマになってはいない作品もある。

 歴史小説は、当たり前だが、すべて起こったことが描かれた史料があるわけではない。だから、その史料の無い部分を、想像を膨らませ描く。その想像力のすばらしさを競うのが作家の力量の優劣を決める。

 明智光秀は比叡山の焼き討ちで功績を信長に認められ家臣となり、近江を与えられる。
その後、大活躍により丹波の国も信長より与えられ大国藩主となる。

 そんな明智が何故謀反を信長に対し働き本能寺の変が起きたのか。
このアンソロジーで、各作家が書いた物語からつまみ食いをすると、なるほどそうなのかと思える物語ができる。

 まず、信長が最も信頼していた光秀をどうして嫌うようになったのか。
光秀は、甲斐の武田との戦いに、当然参加した。そして武田を全滅させ、諏訪の法華寺で祝勝の宴が開かれる。この時告げ口か、実際に小耳にはさんだのか、光秀が自分の活躍により武田を滅ぼしたと言っていることに信長は怒り、宴会の席で、光秀を足蹴り、殴り倒す。

 更に家康上洛のおり、接待役としてすべての段取りを光秀に任したが、この時提供したさしみが腐っていたことに信長は怒り、この時も家康の面前で光秀を足蹴にする。

 そして、光秀の領地、近江、丹波を取り上げ、代わりに、出雲、石見を与えると言う。
しかし、出雲、石見はその時、長州毛利が治めていた。つまり、毛利と戦って、奪い取ったら領地にしてやるというとんでもない話。これで、光秀は、信長を討伐することを決めた。

 では、信長は何故、殺された時、わずかな家来だけで本能寺に宿泊していたのか。
実は、信長は、中国で毛利と戦っている秀吉から支援を強く要請されていた。すぐ、中国に出陣する準備をして、出陣するばかりだったが、信長が欲しくてしかたがなかった名物茶器「楢柴肩衝」が手に入れることができるという情報がはいり(これは明智が茶器所有者と仕組んだという話もある)、それで兵だけは先に秀吉のもとに行かせて、自分は京で茶器を手に入れるため一泊することを決める。

 茶道、茶器狂いが信長の死を決めた。

 作家も面白い想像をするもの。その想像は真に迫っていた。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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冲方丁  「ばいばいアース1琥珀の少女」(角川文庫 )

 冲方が贈る、独特のSFファンタジー小説。

 冲方のファンタジー小説を理解するためには、2つの条件が必須。
スマホなどで、ゲームを熱中してすること。コミック、アニメが紙でも、映像でも熱心によく観ること。

 そして私は、ゲームにもアニメにも全く縁のない生活をしている。私のような化石人間が冲方作品を読むなどということ、更にその感想を書くなどということは、はなはだ僭越な行為であることをこの作品を読み身に沁みて認識した。

とんでもない大きさの剣を持ち、自らと同じ種族、自らのルーツを探しに旅にでる、少女ブラック・ベルの物語。異形の敵を次々なぎ倒してゆく姿に興奮する。

 この作品角川文庫版で読んだのだが、角川文庫の中でも、特に文字の大きさが小さい。この小さい文字に、老人である私には、虫眼鏡で見なければならないような、極小のカタカナルビがいたるところにふってある。それも、英語だったり、ドイツ語だったり。更に文字の方が冲方独特の造語だったり、ルビも造語だったりして混同することはなはだしい。

 このルビが読み理解して文章が映像になって浮かばないと、この作品の面白さはわからない。

 作品ではたくさんの戦いが行われるが、それぞれ、その戦いの場面描写は面白いのだが、どうも物語として成り立っているような思いがしてこない。はいプレイ終了、次はこのプレイという感じで進み、ストーリーが筋道だって展開しているように感じない。

 唯一これは面白いと思ったところ。剣士についてこんな表現がある。
「剣士たちにとって、体を斬られることよりも、剣を折られることの方がよほど衝撃的だ。
 たとえ腕を斬り落とされても、治療者がいる限り、少なくとも元に戻る。だが剣はそうはいかない。剣士たちは、鋼鉄の果を剣と成し、幼剣の段階から自らを育て上げる。剣という形で第二の生命を与えられた鋼はその形に沿って成長する。」
 つまり、剣の使い手として、鍛錬により、剣術や剣の道を究めるのではなく、剣の使い手が、剣の攻撃性や形を変えてゆく。使い手の戦いにあうように、剣が成長変化する。

 すごい発想。読んでいて突然目がさめた。

この作品、大長編で4巻まであるそうだ。申し訳ないが、一巻だけで挫折させて頂く。
化石人間として、ひっそりと暮らしてゆきます。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー    「光秀」(PHP文芸文庫)

 明智光秀を描いた歴史短編小説傑作選。
どの作品も面白いのだが、群を抜いて面白かったのが怪奇小説大家、山田風太郎の作品「忍者明智十兵衛」。

 40歳にもならないのに、頭の毛は薄く、うらなりのような風采のあがらない明智十兵衛(光秀)が越前国藩主朝倉義景のところにやってきて、奉公したいと申し出る。義景はその容貌をみて、断ろうとすると、明智が、「私の腕を切り落としてほしい。」と言う。そして大きな甕にいれて蓋をして、一か月後に蓋をあけてほしい。その時、切り落とした腕が元通りになっていたら、家臣にしてくれと。

 そこで義景が右腕を刀で切断する。夥しい血が噴き出る。そして腕がない体を甕にいれて蓋をする。
 一か月後、蓋をとる。すると腕がきちんと付いている明智が甕からでてくる。

朝倉家の大老の娘沙羅は、朝倉大老の家臣、土岐弥平次を恋していて、結婚してくれるようしつこく言い寄る。しかし弥平次は、沙羅は直径の主筋、私は家来。とても結婚なんかできないと断る。

 その沙羅を明智が好きになる。
明智は、弥平次に、自分の首を斬り落として、甕にいれ一か月後に甕の蓋をとってくれとお願いする。

 弥平次は逡巡したが、しつこく頼まれたので、明智の首を斬り落とし、甕にいれ蓋をする。
そして一か月後に蓋をとると、首から上が弥平次になって甕から飛び出てくる。弥平次が驚いて、なんで顔が俺になるのだと責めると、首を斬られる時、弥平次にしてくれと強く念じたので、弥平次になるのだと、明智が答える。

 明智の弥平次は、身分からして沙羅を恋することに何の障害もない。沙羅ももちろん大好きだから、2人は強く抱きしめ合う。
 それから10年。少し前から弥平次の顔が変わりだし、50歳になると、頭は禿げ上がり、うらなりひょうたんの冴えない顔に変わってしまう。

 いいねえ、この最後の落ち。

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真山仁   「それでも、陽は昇る」(祥伝社文庫)

 主人公の小野寺は、阪神淡路大震災を経験、更に東北の遠間市で応援教師をしていた時、東日本大震災も経験する。その小野寺の神戸、遠間の両方で震災後、復興を目指して活躍、一方で問題を抱え苦闘する物語。

 この物語で印象に残ったのが、遠間の復興プロジェクト。このプロジェクト、漁業組合長で人望も厚い、鬼頭大介がリーダーになり進められた。ところが、その大介が途中で急逝する。そこで、大介の息子で、小さい頃神童と言われ、東大を卒業して、アメリカハーバード大学に留学し、経営コンサルト会社で活躍していた太郎が、遠間に帰国し父親への漁業者の信頼もあり、そのままリーダーとなる。

 この太郎がアメリカ仕込みのやりかたで復興事業をぶちあげ実行する。なにしろ、委員会の席上、60歳以上の人は意見を言わないでくださいとやり、地元民を唖然とさせる。殆どの復興案は太郎が決め、委員に実行させる。

 赤魚養殖プロジェクトが経費が嵩み、うまくゆかず、漁業組合の資金が逼迫。それを太郎に訴えると、この程度の費用でお金が逼迫するような財務運営をしている組合が悪いと組合を批判。自分のたてた計画、それを実行することはすべて正しく、それができないのはすべてだらしないメンバーの責任。

 こんな風だから、総すかんとなり、リーダーを解任される。
主人公の小野寺が言う。

「なあ、太郎君。遠間は短期間で復興を成し遂げた。それは凄いし、それを牽引した君は英雄や。でもな、それは形としての復興に過ぎない。本当の復興って、もっとメンタルなもんやないかと、俺は思ってるんや。」

 このメンタルという言葉が大切で万能な言葉として、被さってくる。しかし、こんな抽象的な言葉が復興を迷い道に連れ込む。そして、活動の停滞、彷徨いが始まる。

 この前、近所の弁当屋に行った。そこでお結びの大安売りをしていた。1月17日はお結びの日であると初めて知った。これは1995年1月17日の阪神淡路大震災を忘れないのスローガン結びの日からきていることを知った。

 大震災から25年、10年以上たっても、未だに苦しい生活を強いられれている人がいる。

 安売りのおむすびをほお張った時、ちょっぴり悲しい味がした。

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| 古本読書日記 | 05:50 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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冲方丁    「OUT OF CONTROL」(ハヤカワ文庫)

 8編の短編が収められている作品集。どの作品も個性的で冲方の類まれな才能を彷彿とさせる。
 内容が、感想を書きやすい作品となっているのが「箱」。

登場人物は、大手家電メーカーに勤める3人。涌井に容子に主人公の相田。3人は蔵前という社員と関係があった。涌井は蔵前の上司。容子は恋人。そして相田は同期入社で友人。

 蔵前は才能溢れた社員。相田は蔵前に負けまいとしてプロジェクトの企画書をだすが、いつも蔵前に敗れ、劣等感と嫉妬の塊となる。蔵前の企画は悉く当たり、社長賞など、多くの表彰を獲得する。その蔵前は仕事の鬼で、会社に寝泊まりして、超人的な働きぶりをする。

 そんな蔵前があるときからおかしくなる。煙草の吸殻を食べだす。その奇行が嵩じて、とうとう自宅で服毒自殺をする。

 3人が遺品整理のため、蔵前の家に行くと、所狭しと大量の空箱がある。これを3人でわける。涌井の考えで空箱をネットオークションにだす。すると驚くことに、空箱が5万円とか7万円とかどんどん値がつり上げられとんでもない価格になる。

 ある日、「箱に何が入っている?」質問がくる。指された空箱、中味は空のはずが、涌井がとりあげ揺すると、チャリンと音がする。その次に揺すると、ジャリンと音がする。変だと思い、涌井が箱の中に手を入れると、手が何かに刺され血だらけになる。

 次に、容子の箱が指される。その空箱からは、大量の腐った髪の毛がでてくる。

そして最後は、相田の箱が指される。空箱のはずが、箱がかってに動く。相田が明けると、中は真っ暗な闇。そこからにゅーっと手がでてきて、相田は暗闇にひきずりこまれる。そこで相田は気を失う。

 箱は売れたが、全部で5万円にしかならなかった。相田は意識がもどったとき病院のベッドの上にいた。

 相田はその後会社を移り、そこで仕事の天才と社員に崇められるようになる。だが、精神的におかしくなり、クリニックに行く。そこで箱をひたすら収集する箱療法を受ける。
結果相田は死ぬ準備にはいる。

 私は、平凡な人間。箱集めするような人間じゃなくてよかったと心底思った。

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村崎羯諦    「あなたの死体を買い取らせてください」(小学館文庫)

 村崎が得意とする、ショートショート作品集。星新一、眉村卓を彷彿とさせる。

小学5年生の桐島歌子。授業で、両親に感謝の手紙という題で、作文を書くことになる。

 この桐島には、大好きなお父さんが3人と、大好きなお母さんが5人いる。いわゆる子供シェアリングだ。全員で8人のお父さん、お母さんが桐島の世話をしている。だから、両親への手紙も量が多くなり大変。

 たくさんの両親がいることを、友達は大変ねというが、両親が一組より、ずっと幸せな暮らしができる。
 それぞれ、違う両親のところへ行くと、遊園地に連れていってくれたり、美味しいもの食べさせてくれる。洋服なんかは、それぞれの両親が買ってくれるから、クローゼットにはいりきれないくらいあるし、小遣いもそれぞれの両親がくれるから、たくさんになる。

 たくさん両親がいるからリスクも分散される。一組しか両親がいないと、関係が悪くなると逃げ場がなくなる。だから、たくさんの親がいる桐島は幸せ者だ。

 そんな桐島から両親への手紙は次のようになる。

 高嶋のお父さん。いつも遊園地に連れて行ってくれて、ありがとう。お土産もたくさん買ってくれてありがとう。大沢のお母さん、いつも洋服を買ってくれありがとう。島崎のお母さん、たくさんのアクセサリーを買ってくれてありがとう。桐島のお父さん、お母さん、色んな手続きをしてくれてありがとう。あたしを産んでくれてありがとう。山口お母さん、青木お母さん、大橋お父さん、いつも遊んでくれてありがとう。

 全部のお父さん、お母さんにありがとうを言ったが、順番はあたしにお金をたくさん使ってくれた順番で書いています。
 だから、来年はこの順番が変わるようみなさん頑張ってください。

収録された作品集より「子どもシェアリング」という作品。なかなかシュールだ。

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冲方丁   「マルドゥック・スクランブル燃焼」(ハヤカワ文庫)

 紹介の作品は、3つの本に分冊されている。それぞれが「圧縮」「燃焼」「排気」と名前がつけられ、本の紹介では3部作と書かれているので、それぞれが名前に従いテーマを持ちどの本から読んでも、小説として確立しているから、問題ないと思い、最初「燃焼」を手にとり読み始めた。しかしどうもちんぷんかんぷん。それで、最初の「圧縮」から読んでみた。

 そして、この本は超大作で、物語は、本単位で途切れることなく続いていることがわかった。例えば紹介した2刊目の本は、主人公少女バロットと悪に寝返ったボイルドとの戦いが途中で終わり2刊目の冒頭は戦いの続から始まり、このバレットがカジノで賭けを行うのだが、この賭けの途中で2刊目は終了している。変な付属タイトルは付けずに単純に上、中、下にしてほしかった。それにしても、SFファンタジーとしては、最近はみられない大作だ。

 紹介の2刊目、何故バレットがカジノで賭けゲームを行い、そこを延々とこの本では描くにだが、この意味がうまく咀嚼できていない。

 そこで、作品の中で本当に考えさせられたところを、紹介する。

ボイルドが戦争で味方を誤射により殺害してしまい、国が行っている人間改造研究所に収容される。そこの博士フェイスマンに対し、ボイルドが戦争の体験から、言う。

 「博士は、命に価値があると言うのか。」
 「それは、真理を逆転させた、愚かな問いだ。価値は、あるのではない。観念であり、創りだすものだ。命の価値を創り出す努力を怠れば、人間は動物に戻る。社会とは、価値を創り出し、価値を巡って機能する。人間独自のシステムだ。」

これは重い言葉だ。命の価値は人間だけが作りだしたものだ。それは、決して後退破壊してはならない。
例えば、今、ロシアに住む人々は、命の価値について考えを持ってはいけない。権力者にひたすら従う動物でなくてはならない。

 冲方は価値は人間が長い歴史をかけて創るものと作品で書く。創られた価値を破壊する社会にしてはならない。そんな言葉は深く、重い。

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冲方丁   「マルドゥック・スクランブル圧縮」(ハヤカワ文庫)

 日本SF大賞受賞作品。大長編で、文庫本作成時3つに分冊して出版された。

この作品を読む少し前に同じ「マルドゥック」シリーズ別作品「マルドゥック・ヴェロシティ」一巻目を読んでいた。
この作品は戦場で麻薬の影響で、味方にたいし誤射をして多数兵を死なせたボイルドが軍の研究所で肉体改造が行われ、そこで手に入れた万能兵器のネズミ、ウフコックと共に胡散臭い支配者との死闘を行う作品で、ボイルドとウフコックの名コンビが活躍する作品だった。

 未読の冲方作品がたくさんあるので、このコンビに何があったのかわからないが、今回取り上げた作品では、コンビは解消していて、互いに敵対する関係になっていて驚いてしまった。

 主人公で社会の底辺を彷徨っている少女パレットが賭博師のシェルにより殺害される。このパレットを偶然救ったのが万能兵器のウフコックとシェルの捜査をしていた捜査官。その後パレットは特別の再生手術を受け、一命をとりとめる。

 そして、パレットは万能兵器であるウフコックと共に犯罪者シェルを追う。
その追及の前に立ちはだかったのが、何とウフコックとコンビを組んでいたボイルド。

パレットの歩んできた苦しすぎる人生と、レイプをされた被害者としての裁判、作者冲方の驚く視点での描写にも、驚愕したが、何と言っても、ボイルドとその部下対パレット、ウフコックの死闘における描写が圧巻で圧倒される。

 ボイルドは軍研究所の肉体改造で、自分の回りの重力を0にしてしまう能力を持つようになっている。ということは、壁でも天井でも、落下することなく、歩き回れる。更に重力0ということは、ボイルドに向け銃撃しても、銃弾がすべてそれてしまう。

 一方ウフコックはあらゆる兵器に変身ができる。最もすごいのは、銃の中にはいり、どんな素人が銃撃しても、銃弾が必ず相手を打ち抜ぬいてしまう。また、敵から銃撃されても、銃弾が届く前に、空中で撃ち落としてしまう。

 このウフコックとボイルドとの対決。どうなるのだろうと興奮しっぱなしで読むことになる。

 この作品の最後の仕上げを、冲方はホテルで缶詰になり行ったそうだ。
その間、ずっと冲方は胃から血を吐き続けていた。壮絶な作品。冲方の空恐ろしい執念が伝わってくる作品になっている。

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冲方丁   「ストーム・ブリング・ワールド2」(MF文庫ダ・ヴィンチ)

 この物語、もう一度おさらいしておくと、滅ぼされた国を取り戻すために、カルドの使い手であるリェロンが、使い手になることを目指している少女アーティとともに、同じくカルドの使い手である、騎士団との戦いを描く物語である。

 カルドというのは、カードにあたる石板のことで、石板は女神カルドラが与えられる。その石板に描かれている武器が、石板から飛び出して、戦いが行われる。
 この石板が与えられ、戦いをするのがセプター。

 中学校から高校にかけて、仲間の塊ができるのは、成績優秀な生徒とダメ生徒同士。優秀とダメは、スポーツ部員とか、クラブ活動を除けば、まず交わらない。

 優秀な生徒同士は、難しい問題を解き合ったり、一流大学、高校の情報を集め意見交換をし、いつもくだらないバカをしている生徒を卑下している。

 この物語はセプターとして優秀なリェロンと、セプターを目指し、養成学校まで行くが、まったくセプターになりそうもない少女アーティが協力して尽くし合い、騎士団セプターと戦う。優秀人間とダメ人間コンビが戦う物語である。

 だから、だいたいアーティの危機的場面に、リェロンが登場してアーティを助けながら、同時に相手騎士団を打ち負かすという場面が多くなる。だけど、アーティも懸命に騎士団に立ち向かう。そしていつか自分もセプターになれると信じている。しかしやはり卑屈になる。

 それでも、アーティは必死にリェロンを助け戦う。
そして、騎士団との最後の戦いでアーティが取り出したカルド石板に剣闘士描かれ、そこから剣闘士が飛び出て、騎士団セプターを滅ぼす。
 ここは作者冲方も力がはいり、読み応え十分。

この物語まで、冲方作品はとっつきにくかったが、このファンタジー作品2巻目は面白かった。完全に引き込まれた。そして、どんどん冲方作品を読みたくなった。

 それにしても、私は高校時代、アーティのような必死さとけなげさが足りなかったなあとつくづく思ってしまった。

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冲方丁   「ストーム・ブリング・ワールド1」(MF文庫ダ・ヴィンチ)

 この物語は、ボードゲーム「カルドセプト」を原作として作られている。
この作品の読者として、私は全くふさわしくない。ボードゲームなる遊びを全く知らないからである。恥ずかしい話なのだが、それらしき遊びは数十年前に流行った「人生ゲーム」をやったくらい。その「人生ゲーム」そのものがボードゲームなのかどうかも知らない。

 物語で、カルドということは、カードの意味で、話の舞台が古代であるので、それは石板。このカード、石板を駆使する魔法使いのことをセプターと呼び、この物語は、色んな陣営に別れたセプターたちの戦いを描いたものになっている。

 偉大なセプターを父親に持つ、主人公の少女アーティが、父親を愛するがゆえに、自らセプターになることを志願して、セプター養成学校に入る。

 その学校に、少年魔法使いリェロンが、アーティの護衛を命ぜられ入学してくる。物語はリェロンがアーティを守るファンタジーである。

 物語の後半、多くの戦闘が行われるのだが、ここでカルドセプトのゲームと同じ、領地獲得とそこを他のプレイヤーが通過するとき通行料が取られる場面が登場して、カルドセプトゲームと同じ雰囲気が味わえる物語となる。

 一応、カルドセプトゲームを経験していなくても読める作品となっているが、やはりゲームを知らないと、物語への興味はぐっと薄れる。

 正直読んでいても、物語に入りこめず、結構苦痛。
この作品はシリーズのNO1。ということは、NO2が続編としてある。買い込んだ本のなかに、未読のNO2がある。それが、視界に入りチラチラする。この次その本を読まねばならないと思うと苦痛がぐっとましてくる。

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冲方丁   「マルドゥック・ヴェロシティ1」(ハヤカワ文庫)

麻薬中毒に陥り、戦場で友軍を誤爆し大量の死者をだしてしまったティムズデイル・ボイルドは肉体改造のため送り込まれた軍の研究所、そこで知識を持つ万能兵器として開発されたネズミ、ウフコックとともに、戦争で唯一力を発揮できる暴力という武器を使うために、研究所という楽園から、荒廃した街、マルドゥック市に送り込まれる。

 ダークタウンと化している荒廃の街で、胡散臭い支配者と果てしない戦いを繰り広げる。どんなに戦っても、終わることのない街。虚無感だけが残る。まさに虚無が最後まで支配している物語。

 この小説でまいったのが、作者冲方が開発したというクランチ文体。

例えば、街中でボイルドたちと暴力集団との戦闘場面。
「右―一人が目の下/左―二人が眉間と心臓―それぞれ一発=転倒。残りの3人―ガンファイターの斜め後ろにいた男たち」

 漫画のコマ送りを読んでいるような文体が全編を貫く。
この文体を激賞する人が多い。疾走感がありサクサク読めると。
これが信じられない。読みながら、私は、コマの図を想像せねばならない。これが、物語と一致しなければ、修正を常にして、次に進まねばならない。

 漫画のコマでは、描かれる人物の顔つきや動きで、何が起きているか理解がすぐ視覚的にできるが、その漫画の図がないと、いちいち読者である私が図を想像して作りあげねばならない。
サクサク読めるはずの作品が、どえらい手間と時間がかかる。

 更に、ものすごい多くの登場人物。見開きのページに名前が書かれているが、これが何と41人。しかもすべてが外国人。よんでいるうちに、誰が誰だか混乱してくる。

 全く読書力の衰えが進行している私には、何とも辛い作品だった。

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| 古本読書日記 | 06:44 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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冲方丁  「微睡みのセフィロト」(ハヤカワ文庫)

 いよいよ大量に買い込んだ冲方丁の作品に挑戦。複雑で苦手な現代版SF小説。大丈夫だろうか。まず最も薄い小説「微睡みのセフィロト」を選ぶ。

 小説の舞台である未来世界は、従来の人間感覚型人間と超能力を持った感応型人間との争いが17年間続いていた。その戦いは終了したのだが、二派は未だに確執が存在していた。

 そんな時、世界政府準備委員会の要人である著名な経済数学者のペシエール博士が殺害される。

 その捜査に、感覚型の保安特機捜査官のパットと謎の17歳の美少女ラファエルが挑戦する。犯人は4人ということがわかっている。

 殺害されたペシエール博士。体が細かく切断されていた。切断は事件当時昆断と言われていた。昆断は1000から10000に切り刻むのが普通。ところが、博士の遺体は何と驚くことに300億に切断されていた。

 この作品、この作品の前に読んだ「HUMAN LOST」と同じで、感応型の人間は、体の再生能力が備わっている。
 ラファエルは感応型。ということは、いくら銃弾に撃たれても、切り刻まれても、元の体に戻る。

 犯人との戦いで、心臓に銃弾を受け、血しぶきをあげて、倒れる。その死体がその直後ふっと消える。
 そして次の瞬間、一緒に戦っていたパットの頭部や首を後ろから抱きかかえる。
そして、その時、パットも銃弾に撃たれて倒れるがしばらくすると蘇る。
パットは感覚型と思われていたのだが、感応型だったのだ。

作品はSF小説に加えハードボイルド小説になっている。ハードボイルドでは、主人公は銃弾を旨く避けたり、銃弾が心臓などを外れて、生き続けるのが一般的。しかし、この作品では心臓を銃弾が貫いても死ぬことは無い。

 そして、何と300億も切断されたペシエール博士さえ蘇る。

冲方ファンにはたまらないSF小説だろうが、読者の私は、主人公が銃弾を撃ち込まれても、生き返るというのは不公平だと、どうしても心狭いことを思ってしまう。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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葵遼大    「HUMAN LOST 人間失格」(新潮文庫)

 2019年に公開された、太宰治作品をモチーフにしたアニメ映画のノベライズ作品。
アニメの脚本は、ライトノベルの大家冲方丁が作成している。

 のっけからびっくり。作品の時代は昭和111年の東京。昭和なんてすでにずっと前に終わっているのに。何この作品と思ってしまった。読んでいくうちにわかった。実は、昭和111年では、昭和天皇がご健在。それで昭和が続いていたのだ。

 昭和111年には,病気の再生技術GRMPが体に埋め込まれていて、これをSHELLという健康管理目的とした、ネットワークで健康であることを確認して、日本は、一切病人がなくなり、医師も一人残っているだけの世界になっている。

 つまり、病気で死ぬということはなくなり、死ぬのは老化、老衰だけになっている。その結果、健康平均寿命が120歳になっている。

 主人公の要蔵は生きる気力もなく、毎日絵を描く、だらだらと生活している。

実は、ごくまれに、GRMPとSHELLをつなぐナノマシーンが切断することがある。すると、人間は人間で無くなり、HUMAN LOSTの状態になる。こうなると人間は大きな化け物になり、元の人間に戻ることができない。ところが要蔵だけは元の人間に戻ることができる。

 実はこの時代、人間の文明は大きな過渡期を迎えていた。
このまま、半永久的に生存できるユートピアのような世界を実現できるか、破滅の道に進むのかどちらになるのか。

 要蔵はよくHUMAN LOST状態の化け物になり、文明を破壊しようとする、ばけ物になった正雄と対決する。そして、その度に胸を刺されるなどして、一見亡くなったようになるのだが、結果心臓を取り出されても人間に変化して、心臓無しで生存する。

 その心臓を移植するか、再生能力を獲得して、GRMPに入れ込んであげると、人間は殆ど永久に生きることができ、ユートピアを得ることができる。

 そのことを知った柊美子は、ユートピア実現のために要蔵の心臓を利用したいと考える。その時、美子は要蔵を愛していた。もし要蔵の心臓をユートピア実現のために使うと、要蔵は死んでしまう。それで、要蔵に自分が亡くなって、自分の心臓を上げようと考える。ここが、作品の読みどころ。

 ライトノベルということで、気楽に手をとってみたが、横文字、略語が多く、読み進むのに難儀した。

 また、異形の怪物が登場して戦闘をする。激しい場面を文章で表現している。しかし私は普段アニメを全くみないから、からっきしどんなことが起こっているのか、想像できない。

 これがライトノベルなのか。冲方作品をたくさん買い込んだ。それを思い、急に頭が痛くなった。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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乙川優三郎  「地先」(徳間文庫)

 乙川優三郎と言えば、直木賞をとった「生きる」をはじめ、時代小説の大家として有名な作家。その乙川が60歳を機に、現代小説に転換した。かなり悩んだ末と聞いている。
 この本は、そんな乙川の現代小説短編を収録している。

乙川は私より2歳年下。私より数年前に生まれた人は団塊の世代。何をしても、自分のしていることは絶対正しいと思い込んでいる人が多い。激しい学生運動を行い、権力に潰されたのだが、今でも自分たちは正しいと信じている。

 琴未の両親は、新宿の雑居ビルで洋服店を営んでいた。多くの洋服店が単に出来上がった洋服を仕入れ販売するだけだったが、父親は腕のいい職人で、生地から仕立てていた。

 父親の洋服作りは評判をよんで、寝食を忘れるほどに、忙しさを極めた。
しかし、やがて大手の洋服チェーン店ができ、父親の店の注文がどんどん減った。

テーラーは誰でも自分の腕前とセンスを自慢するものだが、父親は他者から学ぶことにも熱心だった。よいものと見たら、わざわざ購入して分解することもした。自分の知らない技術や工夫が隠れていると思うと、我慢できない。客の望みは自分の義務として、ボタンひとつのために奔走した。

 これだけの技術と熱心さがあれば、どんな困難にも立ち向かって、克服してゆくというのが、団塊世代の小説家が書く小説だ。

 しかし物語の父親は言う。
「時代のせいにしてもはじまらない。私という人間の中身がお粗末なのだから。」
そして、長年続いた店を閉じる。何とか踏ん張ればと思うのだが・・・。

この乙川の少し卑屈で弱そうな物語が私はたまらなく好きだ。こんな父親に郷愁を感じてしまう。団塊の世代から遅れて登場した作家乙川の現代を見る目は、やさしく切ない。収録されている作品「そうね」より。

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青山七恵   「私の家」(集英社文庫)

 恋人と別れ、実家に帰った主人公の梓、年下のシングルマザーに親身となる母親の祥子、我が家と瓜二つの家に足しげく通う、父親滋彦。

 この3人を核にして広がる人間関係。その中核になる家について、様々にそこから起こる、いろんな出来事を通じて、家とは何かを解きほぐしてゆく物語。

 その重要なテーマを扱うストーリーも面白いが、少しそこから離れて、最も印象に残ったことを書いておきたい。

 私は、田舎の村の出身。そこには人が集まる喫茶店や、居酒屋などは全く無かった。そんなとき気楽に集まる場所が小間物屋だった。それは、今で言えばコンビニのようなものだが、大資本がやっているような店ではなく、村の人が自分の家を店にして、ちょっとした日用品や雑貨を売る店。何かと便利な店だから、村の人達が集い、交流するような場所になった。

 主人公梓の大叔母の道世が30年前から小間物屋をやっている。この道世が、銀行で発作がおき倒れる。その時、道世を救ったのが村田という男。

 道世の店には毎朝開店と同時に世間話をしにくる、峰岸、長沼という老人がいる。
ある日、峰岸が老人を連れてやってくる。なんとその老人は、道世を助けてくれた村田。

峰岸が村田に道世を詳しく紹介する。

 「ねえ村田さん、聞いてくださいよ。この人はこう見えて実は大変な苦労人なんですよ。東京でどうしようもない男にひっかかって、それで女盛りをずるずる無駄にして、気付けばすでに30半ば、そのころおやじさんとおかあさんが相次いで他界。そこで一念発起して、実家に帰ってきてこの店を始めたんですよ。それから尼さんのような生活が続くと思いきや、50を過ぎたときにやっとめぐってきた春。今度こそ本当の幸せが訪れるかというところで、薄情な男が別の女を孕ませるときた。これがまたつくづく難儀な人生であります。」

 なるほど道世は大変な人生を歩んできたんだ。これからその人生が描かれるのかと思っていたら、作者青山さん、これは全くホラ話と書く。

 えっホラ?!まいるなあ。でも、昔の小間物屋の雰囲気がよくでている。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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朝倉宏景   「空洞に響け歌」(双葉文庫)

 どうも、いい例えが浮かんで来ないのだが、オフコースという超ビッグバンドがある。
このバンド実際はどうかわからないが、バンドの中心は曲作りも行いボーカル、キーボード担当の小田和正である。他のメンバーは、小田和正の持てる才能を精一杯発揮させるために、コーラス、他楽器の演奏をしている。
 もしオフコースが突然小田和正を失ったらどうなるだろうか。

紹介した作品は、念願かなってメジャーデビューしたロックバンド「サイナス」の中心天才ボーカリストのミサトがベランダから落下して死んでしまう。

サイナスは、ミナトの音楽的才能に魅了され、その才能を最大限引き出そうとして集まったミュージシャンが集まって結成されたバンド。

 物語は、それぞれのバンドメンバーが、音楽に携わるきっかけとミナトと遭遇して、バンド参加する過程、そしてミナトを失ってバンドをどうするかをそれぞれのメンバーの立場から描いた物語になっている。

 そのメンバーの中に、演奏者ではないマネージャーの匠がはいっている。

マネージャーは単に演奏スケジュール、バンド移動のチケットなどの手配をするだけではない。バンドの演奏、特にミナトが力を発揮できるよう神経を配っていつも対応しなければならない。

 例えば、この物語では、演奏中にミナトのギター弦が切れる。こんな場合は、演奏者は最後まで演奏。そうして、予備のギターに変えるか、他のメンバーがMCをして、その間に弦を張り替えねばならない。このような場合を予め想定して、マネージャーは段取りを決め、メンバーに指示をしておく。このことが、きちんと徹底しておかなくて、物語では、ミナトが癇癪玉を爆発させる。

 ミナトを初め演奏者は格好よくファンもたくさんつく。しかしマネージャーである匠は100KG以上の体重。学生時代は、目の前で拝まれお賽銭までだされるくらいにバカにされていた。ひなたにでることのない、みじめな人生。

 童貞を失ったのも、セックスの相手は風俗嬢。その風俗嬢との関係が、悲しく語られる。

 風俗嬢が男たちの鬱憤を吐きださせる。男のほうはすっきりして、何事もなかったように日常に戻る。そこでろ過され、残った澱や滓は、女性が全て引き受ける。

 一番、サイナスを愛し、尽くしている。そのことをメンバーはわかってくれているだろうか、マネージャーはふけば飛ぶような存在。いつも首をきられるじゃないかと恐怖の中にいる。その不安を風俗嬢でまぎらわす。

 時折物語は、ステレオタイプのお涙頂戴、青春物語にひきずられそうになるが、作者朝倉は、それを必死にこらえて、読み応えのある物語に仕上げている。

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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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新津きよみ   「なまえは語る」(実業之日本社文庫)

 新津さんが創作するサスペンスが好きだ。
この本は、なまえを巡るサスペンスを中心とした短編集。収録作品の中の「再燃」が印象に残る。

 還暦を迎えた主人公の小野田(女性)のところに「還暦同窓会」なる小学校時代の同窓会の案内がくる。小学校時代、小野田には心密かに想っていた同級生の向井君がいた。
向井君は運動神経抜群で、ルックスも、学校の成績もよかった。

しかし、小野田は告白することもできず、高校、大学と女子専門学校に進み、恋をするチャンスも無かった。そのまま就職したが、恋人には恵まれず、結婚もできないんじゃないかと思い始めた30歳のとき、取引先の男と恋に落ちる。相手は17歳年上。それでも好きだから当然結婚した。

 ところが、夫は4年前心筋梗塞であっけなく他界してしまう。
それで、今は28歳で社会人となった娘優衣と2人暮らしをしている。

一方向井君は、大学を卒業して、栃木にある会社に就職、その令嬢と結婚していた。
同窓会の時は何もなかったが、突然向井君か食事をしないかとメールで誘われる。しかも、大手町のホテルの最上階高級レストラン。最高に着飾って至福の時を過ごす。
この時、ホテルまで車で娘優衣に送ってもらい、帰りも家まで送ってもらった。

 その後、友人の朋美の情報で、向井君は令嬢と離婚し、独り身になっていたことを知り、小野田は舞い上がる。

 すると向井からまた会いたいとメールがきて、そこには「大事なことを相談したい」と添えられている。もう、これはプロポーズに間違いないと確信する。

 でも、食事中に、向井君は大事なことを言わない。いらいらと気をもみ我慢できずに、別れ際に小野田は向井君に向かって「相談事は何?」と詰め寄る。

 向井君が意を決して言う。「娘さんの優衣さんを私にください。」と。
最初の向井君とのホテルでの、食事の際、送り迎えをした娘優衣と向井君が知り合い、ずっと交際を続けていたのだ。

とんでもない思い違いをしてしまった。小野田がっくり。恋に年の差なんてないのだ。

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青木祐子   「これは経費で落ちません!10」(集英社オレンジ文庫)

 青木祐子さんの「これは経費では落ちません」シリーズも10冊目になったのか。この本を手にとって少し感慨深くなった。

 今回の作品は、主人公沙名子が勤める天天コーポレーションに国税調査が入り、その対応での出来事がテーマになっている。調査は長くても一週間程度で終了すると思われたが、一か月の長きにわたって行われる。

 調査対象期間内に、天天コーポレイションは、倒産寸前だったトナカイ化粧品の買収だったり、新しい温泉ブルースパ事業の立ち上げがあり、この2つの業務処理での脱税と思われる事案が中心に調べられる。

 色々、厳しく取り調べが行われている様子が描かれるのだが、結局、トナカイ化粧品の社長の会社経費の私的流用や、白紙領収書の偽造の摘発くらいで、大きな脱税案件摘発はなく調査が終了。少し拍子抜けした。

 事案としては、わかりやすく、仰々しく描写はできるけど、これにより、国税庁が手に入れる追徴税金の金額は知れている。

 国税調査。私も会社時代に何回か遭遇したが、もっと事業の根幹にかかわる事案を国税庁は摘発。ごっそりと追徴税金を徴収してゆくのが通例。

 私は、海外取引業務に携わっていた。国税庁の狙いは、商品の値付け、為替変動による価格転嫁、海外送金の妥当性、商品物品の廃却や、在庫品の原価償却費用が適切かが主に調査の対象になった。この方が、ごっそり税金が取れるからである。

 社長の会社経費私的流用などは、事業事案の解釈により発生する追徴金に比べ獲れる税金額が知れていて、あまり現実の税務調査では、中心問題になることは無かった。

 この作品にもあったが、国税庁に長く居座られると、業務に支障をきたす。どうも国税庁の査察官には、追徴課税金額のノルマがあったようで、税務署と解釈で対立するのは避け、
ノルマと思しき金額を、早いとこ、差し出し、査察を切り上げて頂くよう、対応したようなことを思い出す。

 事業の根幹をなす取引における解釈による課税が、国税庁の査察現場では、大きな問題となるが、その実態には踏み込んでいないのが迫力不足になってしまった作品になった。

 まあ、作品はライトノベル。本来を描けば、内容が重くなりすぎ、対象読者層との乖離が大きくなるため、仕方ないのかなというのが作品の印象だった。

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| 古本読書日記 | 07:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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歌野晶午   「密室殺人ゲーム 2.0」(講談社文庫)

 歌野晶午は2001年に創設された本格ミステリー大賞で、第4回「葉桜の季節に君を想うということ」そして第10回、紹介したこの作品と、2回大賞受賞をしている。これは、過去笠井潔しかいない快挙である。

 この作品は、シリーズ2作目である。シリーズ1作目では、5人の殺人者が登場。彼らは自分が行った殺人について、その殺人は実行不可能な壁が立ちはだかっているのだが、その壁をどのようにして打ち破って実行したのかを、実行者以外の4人が推理してあてるゲーム。5人は現実に会って、ゲームをするのではなく、パソコン、オンラインによって、推理ゲームを実施している。
 そして、紹介作品。当然5人が参加して、殺人の壁崩しを行うゲームが繰り広げるかと、思ったが、全く違った。

 11月17日にマンションの一室で女子大生が殺される。犯人は逮捕されるが、この犯人がいつものメンバーと同じように殺人ゲームを仲間と行っていることがわかってくる。

 いつもの5人が集まり、犯人たちが行っている殺人ゲームがどんなゲームなのか、前作の5人が推理するのが今回の作品。

 まず、3桁か4桁の謎の数字が登場する。この数字が何の意味なのかの推理から始まる。色んな推理がなされるが、最終的に殺人が行われた日にちを示しているのではということに至る。それで、新聞を使って、示された日に起きた殺人事件を調べる。しかし日本全国毎日4-5件の殺人事件がまったく他の事件と関わりなく発生している。

 それで、該当の日に起きている殺人事件共通している条件の事件を絞り込む。そして、その事件現場に行く。すると殺害が実行された部屋にカレンダーがあり、そこに次の殺害を行う日とじゃんけんのグーチョキパーのいずれかの指示がなされている。殺す方法である、グーが撲殺、チョキは刺殺、パーは絞殺である。

 指示を受けた人間は、殺人を行うマンションをネットを使い見つける。そしてそこの住人を殺害するのである。面白いのは、マンションの形状が殺人実行する月のカレンダーの形状と同じであること。

 第1週と第5週は2月を除けば、部屋数が少なく、その他の週は7部屋あること。

まさに、殺人オンラインゲームである。ネット時代にはこんな楽しい推理小説が誕生する可能性があることを歌野は提供してくれている。

 推理小説の新しい可能性が広がる。こんな可能性を発見した歌野は推理小説創作の天才である。まさにミステリー大賞にふさわしい作品である。

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池澤夏樹   「パレオマニア」(集英社文庫)

パレオマニアというのは作者池澤の造語で「古代妄想狂」という意味だそうだ。大英博物館に展示されている収蔵品の中で、池澤が感動した作品の発掘されたもともとの地を巡り、記録をした紀行記。訪れた国は13か国に及ぶ。

 カナダやオーストラリアなどの先住民族の地を訪れた紀行記も面白いが、間違っていれば申し訳ないが、この地の先住民族は言葉は持っていても、文字を持っていない。

 だから歴史的に何が起こっていたか記録がない。それに比べ、エジプトやギリシャ、イラン、インドなどは遺物を初め、ヘブライ語などの言葉と文字を持ち、歴史が記録され残っている。

 やはり遺跡や出土品が紀元前2000年ころの物、それに纏わる記録が残っている方が、遥か古代に思いを馳せることができ、興味が沸いてくる。いわゆる文明を持った国々の歴史物に触れたほうが、味わいが深くなり面白い。

 イランで最近ビジャブという頭や体を覆う布を身につけない女性がイスラム法を犯しているとして当局に拘束され、テヘランでこの拘束に反対する大きなデモが起こり、問題となっている。

 イスラム法では女性は男に性的興味を抱かせる服装を禁止している。だから男性にとってイスラムの国は味気ない想いを抱かせる。

 ところがインドは全く逆。まるで、パーティにそのまま出るかのような派手な色のサリーを纏って、優雅に肉体労働をこなす。しかも、女性の多くが可愛らしく、美しい。インド文化圏では、女性を閉じ込めず、美しさと官能性を賛美してきたのだ。

 だから、古代女性を描いた浮彫には、豊満な魅力的女性ばかり。中には性器まで彫っているものもある。

 後に悟りを開いて、釈迦となるシッダルタ王子が、出家にでて修行の道にはいるため夜中家をでる。この時神々が、現世を放棄するという決意を揺るぎないものにするために、眠っているやせ細り、全く魅力のない女性たちの裸体をみせつけようと、名だたる彫刻家たちに、彫像を彫らせる。

 しかし、彫刻家たちは、醜い女性など見たことがないので、全部豊満で、美しい女性ばかりを彫って、シッダルタの側に置く。それが美女の魔物となってシッダルタを誘惑する。しかし、シッダルタはそれを振り切って、修行の道にはいる。

 後の釈迦になる人。さすがこの誘惑を退けたのだ。やはり、人間の器が違う。

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歌野晶午   「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」(講談社文庫)

 この推理小説、「頭の狂人」「044APD」「axe」「ザンギャ君」「伴道全教授」というハンドルネームを持つ、替わった5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をだしあう。
ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者によって実行ずみの現実に起きた殺人。

 だから、予め犯人はわかっているが、その殺人はすべて実行が不可能と思われる条件のもと行われ、その条件をどのようにクリアーして、殺人は実行されたのかを言い当てるゲームとなっている。

 例えば、出題者はベトナム旅行を楽しんでいるのだが、その時から少し遅れて、浜名湖パーキングエリアの修学旅行生が殺される事件が起きる。しかし殺人実行者の出題者はどうやっても、殺人事件が行われた場所時間には、いることは不可能。これがどうして可能になったか。定期便では不可能なのだが、チャーター便では可能だったというような物語が語られる。

 それから、大阪豊中一戸建て住宅で、サラリーマンの男性が殺害される。この住宅は売りにに出された住宅が、塀に囲まれていて、その住宅団地には、囲まれた塀、4か所の出入り口からしか入ることができない。その入口には管理人がいて、管理人の許可なしには団地に入れない。しかも、管理人は24時間体制で、団地をパトロールしている。更に団地内の各家には、ホームセキュリティシステムが完備していて、これを破って侵入するのは不可能。つまり、高級なタワーマンションセキュリティが完備されている新しい住宅団地なのである。

 こんな二重密室で、殺人がどのようにして可能になったか。
実は、出題者である殺人犯は、団地が売り出される直前、まだセキュリティシステムが完備される前に、被害者の住宅の屋根裏部屋に忍び込み、殺人を実行した。

 一般常識人の盲点をついた作品集。私はどの作品も盲点をつかれ、普通人だと認識をした。

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歌野晶午    「ROMMY、越境者の夢」(講談社文庫)

 歌野晶午は1988年「長い家の殺人」でデビュー。その後「白い家の殺人」など家シリーズを次々発表。いずれも、面白い作品なのだが、謎解きが主題でパズルのような小説ばかりで、人間が描かれていないという評価を受ける。

 それで、トリック色を薄め、徹底的に人間を描いてやるということで1995年に発表したのがこの作品。その意欲が反映しているのか、350ページにも及ぶ長編となっている。

 叙述トリックを縦横無尽に駆使する。そのため、主人公のロック歌手ROMMYがカタカナ表記のロミーとなったり、杉下裕美、広海真紀、川口朋子になり、しかもROMMYが殺害される。それはROMMYの身代わりの別のロック歌手真鍋幸子だったりして読者を混乱させる。加えて、ROMMYの恋人の中村が、真鍋の殺人現場ではデザイナーの茜澤になって登場。じっくり読み込まないとわけがわからなくなって、歌野はやりすぎと思ってしまう。

人間を描くという点では、物語の最後で、人気の頂点にあったROMMYが、体は男性なのだが精神は女性。そのためにシンガポールで性転換手術を受けていることが明らかにされる

 この性転換手術について、術後、ROMMYの体を診ている和田という医師が説明している。

 性転換手術をすると一種の免疫疾患が起きる。人間の体を維持するために、障害となりうる成分を識別し、排除する防衛機能が備わっている。性転換手術というのは、医学的に必要のために行われるのではない。医学的には健全である部分を切除したり形を変えたりするものである。健全である体に不要な部分はない。つけ加える部分も無いし、削る部分も無い。そのままの状態を維持することが、健康、生命の維持につながる。

 ロックは、常に激しいパフォーマンスが要求される。だから一たびコンサートツアーが行われると、体が壊れ、次へのコンサートのためにどうしても長い休養が必要となる。しかしトップスターの位置を維持するためには、それは許されない。このことがROMMYの音楽活動に致命的な障害になる。

 ROMMYが登場する前、売れていたロックグループのCUBIC BALLがいた。このグループがROMMYの登場で、全く売れなくなり、人気が地に墜ちる。そして解散せざるを得なくなる。そしてこのグループのリーダー粕屋堅太郎がにっくきROMMYのバックでギターを弾くことになる。

 この2つの点が絡まって、事件を引き起こすことになる。解れば、そういうことかと納得行くが、歌野が読者を振り回し続け、本当に疲れ切った。

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有吉佐和子    「青い壺」(文春文庫)

有吉佐和子    「青い壺」(文春文庫)
 この作品、本の帯に原田ひ香が、こんな小説をいつか書いてみたいと書いている。タイトルからして、陶芸家が見事な壺を制作、その壺をめぐってどろどろした美術界の様相が描かれている作品を想像していた。原田と言えば、現代に起きる、種々のトラブルをコミカルに、シニカルにそして鋭くえぐる作家。ちょっと、美術界のどす黒い実態を描く作品とは似ても似つかない作風にこれが目指す作品とはへんなことをいうなあと首をかしげながら、手に取って読み始めた。

 確かに、物語は、陶芸家の大家である父の後をついで、中堅陶芸家の省造が、ある日非常に素晴らしい青磁の壺の作成に成功。それを有名デパートの美術品担当が一目みて気に入り購入。さて、いよいよこの作品を巡って美術界のどろどろした物語が始まるかと思ったら、全く内容が想像と違った。

 確かに、壺は登場するのだが、壺は映像カメラの体で、その壺の前で繰り広げられる、人生の出来事をずっとカメラになっている壺が撮影しているというような作品。これなら、原田が書いている作風と同じ、原田が目指したいという言葉はよくわかった。

 この物語に、女学校時代の同級会を京都で50年ぶりに開く場面がでてくる。この作品は昭和51年に出版されている。私が大学時代の頃である。当時私にも祖母がいた。祖母はこの物語に登場する昔女学生だった生徒たちと同じ年ごろ、70歳を過ぎたばかり。

 昭和50年ころの70歳は、今とちがって本当に年寄りだった。私の祖母同様、作品に登場する同級生たちも、腰が曲がって歩くことがしんどい。歯は総入れ歯。肌はしわくちゃ。体のどこかに悪いところを抱え、それをだましだまし日々を送っている。つれあいの亡くなった人も多いし、後は墓場に行くだけが人生という女性たちばかり。

 そして、私こそが現在70歳を過ぎて、この物語の女性たちと同じ境遇。ただ違うのは、未だに両親が90歳半ばを過ぎて健在ということ。

 これは誇れることかも知れないが、しんどいことでもある。この物語で書かれているように、当時は嫁姑の対立が際立っていた時代だった。

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有吉佐和子    「青い壺」(文春文庫)

 この作品、本の帯に原田ひ香が、こんな小説をいつか書いてみたいと書いている。タイトルからして、陶芸家が見事な壺を制作、その壺をめぐってどろどろした美術界の様相が描かれている作品を想像していた。原田と言えば、現代に起きる、種々のトラブルをコミカルに、シニカルにそして鋭くえぐる作家。ちょっと、美術界のどす黒い実態を描く作品とは似ても似つかない作風にこれが目指す作品とはへんなことをいうなあと首をかしげながら、手に取って読み始めた。

 確かに、物語は、陶芸家の大家である父の後をついで、中堅陶芸家の省造が、ある日非常に素晴らしい青磁の壺の作成に成功。それを有名デパートの美術品担当が一目みて気に入り購入。さて、いよいよこの作品を巡って美術界のどろどろした物語が始まるかと思ったら、全く内容が想像と違った。

 確かに、壺は登場するのだが、壺は映像カメラの体で、その壺の前で繰り広げられる、人生の出来事をずっとカメラになっている壺が撮影しているというような作品。これなら、原田が書いている作風と同じ、原田が目指したいという言葉はよくわかった。

 この物語に、女学校時代の同級会を京都で50年ぶりに開く場面がでてくる。この作品は昭和51年に出版されている。私が大学時代の頃である。当時私にも祖母がいた。祖母はこの物語に登場する昔女学生だった生徒たちと同じ年ごろ、70歳を過ぎたばかり。

 昭和50年ころの70歳は、今とちがって本当に年寄りだった。私の祖母同様、作品に登場する同級生たちも、腰が曲がって歩くことがしんどい。歯は総入れ歯。肌はしわくちゃ。体のどこかに悪いところを抱え、それをだましだまし日々を送っている。つれあいの亡くなった人も多いし、後は墓場に行くだけが人生という女性たちばかり。

 そして、私こそが現在70歳を過ぎて、この物語の女性たちと同じ境遇。ただ違うのは、未だに両親が90歳半ばを過ぎて健在ということ。

 これは誇れることかも知れないが、しんどいことでもある。この物語で書かれているように、当時は嫁姑の対立が際立っていた時代だった。

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原田ひ香    「DRY」(光文社文庫)

 現在ネットでは、貧困ビジネスを行っている団体COLABOの国からの補助金の不正受給、不正使用が炎上、大きな話題となっている。不思議だと思うのはネットでこれだけ話題となっているのに、新聞など一般マスコミに全く記事になっていない。こんな解離がしばしばある。どうして一般マスコミはCOLABOの問題を取り上げないのだろうか。

 さて、紹介した作品は、その貧困ビジネスの問題を扱っている。

 街で、彷徨っていて我が家の場所もわからなくなっている徘徊老人を拉致してくる。そして、名前も変えて、全く頼るべき家族も資産もない孤独老人を作り上げ、それで生活保護申請をして、生活保護手当を不正受給する。老人は自宅に住まわせる。

  時に、この老人が死ぬ。すると、当然生活保護手当はもらえなくなる。だから死んでいないことにして生活保護手当を受給し続ける。
 だから、110歳や120歳で生活保護を受ける老人がでてくる。

 この物語が、えげつないのは、死体をミイラにして、家の2階に保存するところである。
死体は血が入ってる状態だと、内臓などの器官が腐乱し、猛烈な腐臭を発する。それで内臓や器官を抉り出し、処分する。この描写が読者を身震いさせる。

 「体全部を見ちゃ駄目よ。」
「局部だけを見ているの。今なら、顔だけ。顔とか手足とか見ると、人間だってことを思いだすからね。」

 そして、ダメ押しで、この取り出した肉を筋肉入りカレーとしてふるまう。
このカレーをおいしいと言って、おかわりをする場面には本当にゾッとする。
 原田ひ香はそんなつもりはないかもしれないが、これはれっきとしたホラー小説だ。

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