朝井リョウ 「死にがいを求めて生きているの」(中公文庫)
この作品を読みながら、ずっと頭に浮かび続けたのが、憲法解釈を従来より大幅に広く拡大して、自衛隊が海外の戦場に派遣できることを認めた、新たな安保法制が成立したとき、官邸前には大規模なデモが起きたこと。そして、その中心はSEALDSという学生だったこと。
SEALDSは、従来のデモのように、大声でシュプレヒコールを叫ぶのではなくラップダンスを踊りながら、安保法制反対の声をあげた。
翻って現在、敵基地攻撃能力を持つ、防衛費を現在の倍に増やし、その財源の一部は増税により対応すると、安保法制改定時より、もっと反対運動が行われるべき内容にも拘わらず、官邸前に、大きなデモ隊は現れていない。
あのSEALDSは何で、立ち上がらないのだろうか。学生時代が終わって就職したから? それにしても、今こそ、学生はSEALDSの意思を組んでたちあがるべきではないのか。
この作品に安藤良志樹という北海道大学の学生がでてくる。イギリスで生まれた音楽にレイブという音楽がある。良志樹は、この音楽に政治的メッセージを乗せ踊りながら歌うスタイルを創った。そして、これがテレビで取り上げられ、政権に対抗スタイルとして学生に受けた。
そして、札幌で反政府活動をしている、他のグループのメンバーと議論を交わす飲み会に定期的に参加するようになる。ここではいくつもの社会問題がテーマで取り上げられ、議論が行われる。しかし、良志樹は音楽が重要なのであって、そこで声を上げる中身についての知識は殆どなく、議論ができない。中身の無さが、デモ参加者にもばれ、全く誰も参加しなくなった。
そんな時、与志樹の上を行く奴が登場。それがこの物語の主人公の雄介。彼はジンバという踊りに合わせ、北海道大学の寮の寮生による自治権の継続を訴える。そして北海道大学学生に圧倒的支持を受ける。大学祭のとき、寮の屋根に上りジンバにあわせ、羽織袴姿で北大の寮歌を歌い、万来の喝采を浴び大合唱となる。
この雄介。小学校の頃から、常に敵を作り、けちらすことに全精力を傾けてきた人間、常に自分が脚光を浴びていなければならない人間。それで、仲間はできるのだが、その仲間はしばらくすると雄介の元を去り孤独になってしまう。
その雄介にある日、良志樹が大学の近くのラーメン屋であう。その時雄介が大学をやめて自衛隊にはいると言う。良志樹はびっくり仰天する。
雄介には、智也という幼馴染がいた。こういう人はよくいるのだが、雄介にバカにされても、何があっても、米つきバッタのようにくっつき離れない。
その智也が、良志樹にいう。
「雄介が自衛隊にはいると言う。どうしたら良いのだろう。」
良志樹が答える。
「あいつはそう言って、同情してほしいだけ。絶対自衛隊にははいらないから大丈夫だよ。」
人は誰かと繋がっていたい。繋がりが切れたらもう死ぬしかない。
今全国で起きている、詐欺による強盗殺傷事件。もちろん参加メンバーは、一旦グループにはいったら、抜け出せないようにされているのかもしれない。でも、ひょっとするとそのグループを抜けたら、ひとりぼっちになってしまう。この恐怖からぬけだせないメンバーもるかもしれない。
ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:40 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑