窪美澄 「たおやかに輪をえがいて」(中公文庫)
とにかく、どの事象も、小説のネタになるような人達のオンパレード。トラブルの百貨店のような様相で、物語は進む。
そのなかで、異色なトラブルが出現する。絵里子の妹、芙美子の離婚。
夫の秀一郎は、絵里子からみても、穏やかで優しい人だった。長男の秀君の子育ても家事もやってくれる、子煩悩な全く欠点の無い、夫。
絵里子が芙美子に聞く。
「芙美子はどうして離婚したの?何か大きな出来事があったの?浮気とか、借金とか、DVとか、そういうの。」
「ないない、そんなことはまったくなかったよ。」
「じゃあ、どうして」
「うん、気持ちがすっときえちゃったんだよね。」
「恋人のときは、ああ、この人と一緒にいたいなあってずっと思ってたよ。だけど、いざ結婚して、家族になったらさ、秀一郎に気持ちが向かなくなっちゃんだよ。そう思い始めたら、もう同じ家にいることが苦痛で・・・」
この物語で他の登場人物はたくさんのトラブルを抱え、小説を盛り上げ賑わすのだが、秀一郎が登場して語られるのは、大長編のなかほんの3ページ。
そう、世の中には、物語にもならない人が存在するのだ。くそ真面目に、家族のために奮闘しても、切り捨てられる人(男)。つまらない箸にも棒にもひっかからない男。
テレビで見たが、年末年始、家族や親族が集まったり、仲間と遊ぶ人達が多い仲、孤独で年を超える人達がたくさんいて、その寂しさに耐えかねて、自らの命を絶つ人が増えている。そんな人をださないように、年末から1月4日まで、命の相談室が設置され、24時間体制で相談電話を受け付ける窓口があるそうだ。
何だか、秀一郎の小説にさえも、登場できない、寂しい人生が際立った。
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| 古本読書日記 | 06:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑