藤岡陽子 「海とジイ」(小学館文庫)
私の時代もそうだったが、少し年配の世代では、中学校を卒業して社会にでる人が多かった。
金の卵と言われて、都会へ集団就職した。そして高校を卒業して大学に進学する人は少なかった。
私は大学に入り、学生寮にはいった。ひどい環境で6畳の部屋に3人詰め込まれて暮らした。その寮の隣部屋に、私より一回り年上、30歳の新入生が入寮してきた。
もう私たちから見れば完全におじさんだった。
少し気味が悪かった。何で30歳にもなって大学に入学してきたのだろう。だから、誰も声をかける人はいなかった。いつも一人で食事をしたり、行動していた。
そしてその人はよほどつらかったのだろう。夏休み前には退学してしまった。
この小説にでてくる城山は、親父は戦死して、母親に育てられる。貧乏だから小学校から、ずっと働いてきた。新聞配達、アイスキャンデーの売り子、ボタン工場でのラインの仕事・・・学校が休日の時も働くものだから、友達と遊ぶことが無かった。まったく働き詰めの人生だった。高校を卒業して、紙製品工業の会社に入った。懸命に働いた。
その時の社長は今のままでは会社は発展しない。発展するためには、人材を育成しないとならないと考えた。
それで城山に会社で費用を全部もつから大学に行けと言う。城山は本当に嬉しかった。城山27歳の時だった。
城山は高校の成績は良かった。それでみっちり一年間受験勉強をして28歳で岡山の大学にはいる。
しかし入学してからが辛かった。28歳の大学一年生はだれも相手にしてくれなかった。いつも独りぼっち。講義で席にすわっても、周りには誰も座ってくれなかった。
だんだん授業にでなくなり、大学をやめようと思った。
そして、試験がちかくなる。その時、真鍋という学生が、城山にこれ講義のノートと言って渡してくれる。大学に入って初めて声をかけてくれた学生だった。
「どうして僕にそんなことをしてくれるの?」
「だって27歳で大学で学ぼうなんてすごいじゃないか。城山君が大学を辞めると聞いたんで、それはせつない。」
そして城山と真鍋は無二の親友となる。そこからの物語も素晴らしい。胸がぐっとつまる場面の連続。
私も大学時代、30歳の新入生に声をかけてあげれば、良かったと少し悔いる。
藤岡さんは、宮本輝が審査員をしている文学賞を受賞。宮本は藤岡さんを激賞している。
まったく藤岡さんの作品は宮本の作品を読んでいる気持ちにさせる。失礼だが藤岡さんは、まさに女性宮本輝である。
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