表題作を含む7編が収録されている短編集。
今村さんの作品には、どこか一般にはなじめない変わった人物が主人公になる作品が多い。
普通そんな作品は、主人公は個性的だが魅力的で最後はその個性が輝き終わる作品が多いのだが、今村さんの作品は、その個性が変わりすぎていて、最後まで一般と交わることができなくて終わってしまう。
主人公の私は、桜尾通り商店街の一角でお父さんと住み、パン屋をしている。店は商店街にあるのだが、商店街振興組合の会員としては認められていない。お母さんが、私が3歳のとき、振興会の組合長と不倫に陥り、失踪。そこから、組合員をお父さんは除名される。
そんな中、商店街では完全にはぶせにされ、更にあのパン屋のパンにはねずみの糞が混じっているなどと風評がまきちらされ、パンの売れ行きもどんどん落ちている。
たしかに鼠はいた。主人公の私が幼い頃、お父さんと夜寝ていると、天井を走り回る鼠の音がした。その走る音に合わせて、お父さんは鼠の競争の実況中継をしてくれた。
私のお祖母さんは90歳半ばで健在。しかし今は殆ど寝たきり。そのお祖母さんの面倒をみなければならないため、お父さんは店を閉め、実家に帰ることにした。そして、今残っている材料を使い切ったら、店をたたむ。
そんなある日、店を閉めようとしていたとき、女性の客に声をかけられる。女性はコッペパンを買ってくれたのだが、財布を忘れたという。私は残り物だから代金はいいですというが、女性は引き下がらない。
そして翌日代金80円を持ってまた店にやってくる。そしてまたコッペパンを買う。コッペパンだけでは味が無いと思い、ジャムとバターを塗りこんで、女性にわたす。女性は「まあおいしい」と言って、店をでる。
女性はそれから毎日同じ時間にやってくる。私はその都度色んなサンドイッチを作り女性に渡す。それから何日かたったある日、女性がやってきて、
「実は今度花屋の隣にパン屋をだします。それでご挨拶と思い毎日やってきました」と。
挨拶に来たと告白した日を最後に女性はやって来なくなった。
そして私はしばらくして、その女性をみかける。その女性のあとをつけてゆくと、新装開店したパン屋に女性は入ってゆく。
店のまわりには、小学生の集団がパンを買おうとしている。
私は「こっちの店にもおいしいパンがあるよ。」と集団に声をかける。すると小学生が、「もう店やめるだろう。」とか「鼠の糞がまじっているだろう。」と言い出す。
しかしすぐ後、一人の子が「あの店のサンドイッチはおいしい」と叫んだのを皮切りに、皆が「お菓子もおいしい。」などと口々の叫ぶようになる。
それで私は、「夕方5時においで。」という。5時に店で待ち合わせ。
あわてて私は店に帰り、お父さんにパンを作ってくれるようお願いする。しかしもうパンを作る材料が無い。私は、材料は今から私が買ってくる。しかしお父さんは「もう疲れて無理だ」と言う。
そして5時。楽しみにしていた子供たちがやってくる。
ここで物語は終わる。この後どうなったかわからないが、それでもパン屋は愛されていたんだということがわかり、読んでいる私は少し微笑んだ。
ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです
<