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2022年01月 | ARCHIVE-SELECT | 2022年03月

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沢木耕太郎  「旅する力 深夜特急ノート 」(新潮文庫)

 沢木の名作旅行記「深夜特急」の旅にでるきっかけから、帰国して、作品を出版するまでに経験した出来事を回顧しながら旅とは何かを綴ったエッセイ。

 沢木は、このヨーロッパ ロンドンまでのバスの旅を26歳の時にしている。まだバックパッカーの時代はやってきてはいない、沢木の持ち物リストもパンツではなく猿股、トイレットペーパーではなく落し紙、カレンダーではなく日めくりと書いてある時代。

 私が26歳のときは、私が勤めた会社の製品の90%が国内で販売、輸出は10%。海外市場へはついでに販売していた時代だった。その時、私は貿易部門の管理担当だった。

 ヨーロッパで主力製品の品質問題が発生した。そこで、その対応に技術スタッフがヨーロッパへ出張することになった。しかし品質部門の担当者は、英語ができないし、東京へも数回しか行ったことがない、まして海外など宇宙に行くようなもの。それで、貿易部門に誰か引率者をと部門長を通じて依頼があった。部門長が私にお前行くかと聞いてきた。

 私も技術者と同様、海外など行ったこともないし、言葉もできないから断った。
しかし、席に戻って考えてみたら、ヨーロッパにただで行ける。生涯ヨーロッパにはゆけないだろう。こんなチャンスは逃してはいけないと思い、部門長のところへとって返し「ヨーロッパへの出張の話受けます。」と返事をした。

 海外に行くなどまれなこと。社長から「海外出張を命ず」なる辞令をもらい。部門では、送別会まで開いてくれた。女性社員からたくさんお金を渡され、当時は全く知らなかったのだが、ルイ ヴィトン、エルメス、グッチ、セリーヌの店にゆき買ってくる買い物リストを手渡された。

 夜パリではバスに乗り、クレイジーホース、ムーランルージュに出かけパリの夜を満喫した。まったく仕事をしない旅だった。

 それから、40年、海外での売り上げが70%となり、海外出張は当たり前の時代になった。

 沢木の26歳の旅は、本当に貧乏旅行だった。「深夜特急」は「紀行文学大賞」を受賞した。受賞パーティで選者の小説家阿川弘之に言われる。

「今度は飛び切り贅沢の両行をしたらいかが」
それに対して沢木が書く。
「贅沢旅行とは、金をたっぷり使う大名旅行、例えば、豪華客船の旅や、ファーストクラスでの世界一周旅行などをいう。金を使うということは、旅をスムーズにさせる快適な旅を保証する。しかし、それが旅を深めてくれるかというとそう簡単なものではない。少なくても『深夜特急』の場合には、金がないため摩擦が生じ、そのおかげで人との関わりが生じ、結果として旅が深くなるということがよくあった。」

『深夜特急』を読んで、多くの日本の若者が海外へ、貧乏旅行へ飛び出した。

『深夜特急』が出版された時、『深夜特急』をイメージした猿岩石の「貧乏旅行」がテレビで放映され、脅威の人気番組となった。でも猿岩石は短い間で消えてしまった。

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| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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キングスレイ・ウォード 「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」(新潮文庫)

 この本は1987年に出版されている。本が出版されると大ベストセラーとなり、社会人必読の書となり、読んでいないひねくれ者は会社や組織では、はぶせにされた。

 私は会社で中心を走っているわけでもなく、ひねくれ者だったので、この本を読むことは無かった。定年退職は大分前にして老人領域に突入した今、いったいあの本は何だったのか手にとってみた。

 作者キングスレイはカナダで製薬会社を創業し、大成功をおさめた経営者。そのキングスレイが後継者である息子に対し、大学生になる直前から、経営を譲るまでの30年間に折りにふれ、ビジネスマンとしての生涯のあらゆる局面にたいし、とりうる姿勢についてキングスレイが息子に送った手紙が収録されている。

 キングスレイはこの手紙は私的なもので、本にして出版するのを長い間渋っていたと訳者城山三郎が書いているが、作品を読んでみて、嘘ではないかと思えた。
 それは、息子が直面した困難が全く具体性がなく、回答する父親も、観念的言葉が多く、
正直これで困難が克服できるとは思える部分は殆どないと思った。

 この本の中で、読書は人生の成功のために大切だと強調される。そうだよなと思い読み進むとその内容にいささかがっくりくる。

「読書量は多くても、殆ど小説しか読まないという人もいる。彼らはそれでくつろげると言う。ノンフィクションを読むのは仕事だと感じる人が多い。奇妙なことに、私はノンフィクションを読みながら、くつろぎ以外のものを感じることはない。しかも、この世界には学ぶべきことが実に多くあり、小説よりはるかに興味をそそられる事実が無数にあることを思うと、誰かの白昼夢を読むのは時間の浪費にさえ感じられる。」

あーあ、私の読書は完全に時間の浪費だった。

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| 古本読書日記 | 06:44 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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誉田哲也   「ドンナ ビアンカ」(新潮文庫)

 村瀬は、いろんな職業を経て、酒類卸業の配送員となる。そして、配送に行ったキャバクラでそのキャバクラや中華料理屋を配下にもつ外食チェーン会社の専務をしている副島専務に出合い、彼の中華料理屋に引き抜かれる。

 副島はキャバクラの店員で中国人女性瑤子を愛人としていた。そして瑤子は夕食をとる食堂「たかはし」でしょっちゅう村瀬にあい、2人は恋愛感情を持つようになる。

 この副島専務と村瀬が失踪し行方がわからなくなり、外食チェーンの運営会社社長に2人を誘拐したので2千万円の身代金を用意するよう要求が来る。
 そして、副島と村瀬が縛られ、放置されている写真が社長に送られ、さらに切断された血だらけの小指も送られてくる。
 これに、魚住シリーズの女性刑事魚住久江が犯人を追う。

この作品は2つテーマが描かれる。

一つは誘拐犯人を追うミステリーと村瀬と瑤子の恋愛物語である。
そして、物語は誘拐犯捜査の警察視点と、誘拐犯人視点と2つの視点でほぼ交互に描かれる。

誘拐犯視点が先行して後追いで警察視点が描かれるために、犯人は警察捜査より先にわかる、更に、トリックが殆どなく、ミステリーの味わいは薄い。

 作品は430ページを凌ぐ長編になっているが、相当部分が村瀬と瑤子の恋愛描写に費やされているため、かなり物語はダレ気味。
 それでも最後、村瀬を警察と瑤子が探す場面はクライマックスとして盛り上がる。

しかし恋愛とミステリー両方への挑戦。作者誉田の試みは成功したとは言い難い。

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| 古本読書日記 | 06:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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松岡圭祐   「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」(講談社文庫)

 コナンドイル、パスティーシュ作品の大傑作である。

 昔ホームズシリーズを読んでいて、シリーズ最後の作品「最後の事件」でホームズとライバルである悪漢モリアーティが大絶壁で対決して、2人とも深い峡谷に墜ち死んでしまい物語が終了、これでホームズシリーズは終了したのかと思っていたら、その後の作品「空家の冒険」でホームズが復活していて、何?と思い驚いた覚えがある。

 作者ドイルは「最後の事件」でホームズシリーズは終了させるつもりだったが、ホームズを復活させてほしいとたくさんの読者の要望があり、ホームズを復活させた。

 「空家の冒険」にも書かれていたのだが、ホームズは失踪していた3年間、何をしていたか。実は、チベットに行き、ダライラマに会っていたのだと。

 そこから松岡は、チベットに行く前にホームズは日本に立ち寄っていたと想像する。

 伊藤博文は、江戸末期、長州藩の藩命で、井上薫らとともに、イギリスに密航している。この時、ある事件に遭遇、その事件をホームズに解決してもらう。そこで、伊藤博文とホームズは親友となる。その親友に会うために、ホームズは日本にやってきた。

 ホームズが日本滞在中に、来日していたロシアのニコライ皇子が警護にあたっていた津田三蔵巡査に切りつけられる、いわゆる大津事件が起きる。ロシア政府は激怒し、津田巡査に極刑を要求し、政府も司法に対し、極刑にするよう、要求したのだが、最高裁判事の児島は、司法の独立で要求をはねつけ無期懲役とする。

 この時、横浜にはロシア軍艦9隻が係留して、日本と戦争できる状態にあった。その時もしロシアとの戦争になれば、日本は完全にロシアに負ける。

 ここでホームズが、ロシアが攻めてこないよう、色々捜査、推理して活躍する。
その推理の中で、大津事件で傷を負ったのはニコライ皇子ではなく、弟ゲオルギイ皇子であることを掴む。松岡の想像力、ホームズの天才ぶりに驚く。

 作品の最後近く、さりげなく短く書いてある。

 当時、栃木足尾銅山の下流に広がる地域で農民、市民が大量に死んでしまう惨事が発生していた。公害という言葉も概念も無い時代。ロシア政府は、その惨事をつかんでいて、日本は放っておいても、いずれ死滅するから、攻撃する必要は無いと考えていたので、攻めこまなかったのだと。

 うまい。松岡の想像力に感服。

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七尾与史  「ドS刑事 朱に交われば赤くなる殺人事件」(幻冬舎文庫)

 七尾がおくるドS美人刑事黒井マヤが破天荒な活躍をする、ドS刑事シリーズ第2弾。

  2作目は人気クイズ番組でクイズ王が、のどを包丁で搔き切られ殺害されるところからスタートし、こののど搔き切られ殺人が別にいくつも発生する。殺された死体状況が凄惨に描かれ、ホラー嫌いの人には恐ろしく思えるが、マヤを中心に個性的な刑事がユーモア満載で表現されているため、殆ど恐怖を感じず、楽しく読める。

 最近はクイズ番組が流行っていて、この作品に登場するような天才的な回答者が登場する。
 どのようにしてクイズの天才ができるのか、天才阿南を使い、七尾が説明する。 

  まず、膨大な情報、知識のデータベースを作る。あらゆる、過去にとりあげられたクイズ番組のデータを収集する。
 新聞、雑誌、本などで得た情報をクイズ形式のデータベースに登録して、同時に脳髄にもバックアップする。

  しかし得た知識、情報のすべてをデータベース化するわけではない。クイズで取り上げるデータだけを記憶させる。何でもデータ化したら、脳髄のキャパシティをオーバーして脳から溢れてしまう。

 例えば映画、監督、出演者、音楽、原作者、有名な台詞、タイトルの意味までをデータ化する。本も同じような内容だけをデータ化する。
 本や映画の内容を深く知っている場合、早押しクイズの場合、内容が混乱して、回答に迅速に対応できない。

 だから、驚くことに、クイズ王者は、回答した映画は見たことないし、本も読んだことはない。クイズ番組には、内容を知ることは、回答の邪魔になるだけだ。

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筒井康隆     「富豪刑事」(新潮文庫)

 これは、ぶっとんだ作品だった。

すべて起こした事業で大成功をおさめ、とんでもないお金と資産を持つ大富豪になった神戸喜久右衛門の息子の神戸大助は、キャデラックを乗り回し250万円のロレックスの腕時計をはめ、豪遊、贅沢の限りをつくした生活を楽しみながら何と刑事をしている。そして、父の持っているお金を湯水のように使い、難事件を次々解決してゆく。通常のミステリーの真逆な内容の中編物語集。

 圧巻だったのは2編目の「密室の富豪刑事」。

宮本鋳造株式会社から出火、本社を全焼し、焼け跡から宮本社長が焼死体になって発見される。宮本社長は出火当時社長室に籠り、仕事をしていた。出火場所はその社長室、しかも全く火が発生する品や機材は社長室には無く、完全に密室状態だった。

 捜査は尽くすが、どうして社長室から出火して、社長はなぜ逃げられなかったのかわからない。密室殺人事件である。

 この事件の真相をどうやって突き止めるか。ここで大助が登場する。敷地内に、同じ本社、鋳造工場を作る。そうすれば、犯人はまた同じ犯行を行う。そこで犯人を確保すればよいと。

 本社、社長室を父喜久右衛門の財力を使い、再建するよう大助が依頼するのだが、喜久右衛門はハリボテではいかん、会社も作り、工場も作り、本物の鋳造工場を作り稼働させろと言い、喜久右衛門の人脈を通じて、会社に必要な人材を集め、工場、会社を稼働させる。

 殺された宮本社長の代わりは、大助が行う。

夜、大助が社長室に籠っていると、ライバルの江草鋳物工業の社長と部下がトラックに酸素製造装置を積んで、本社に現れる。そして装置にホースを取り付け、社長室の排気口からホースを差し込み、酸素を送り付ける。大助が葉巻を吸うために、火をつけようとすると、瞬間酸素濃度が高くなっていていたので発火して、社長室が炎に包まれる。同時に大助は逃げ、江草社長は逮捕される。

 そして、喜久右衛門は大助をはじめ、会社スタッフを呼びつけ大声をあげ叱責する。
「どうして作った会社が設けをだすのだ。わしは赤字にしろと命令したのに、とんでもない。」と。
以前同じようなミステリーで、排気口から酸素吸入器を突っ込んで、部屋を真空にして殺人をした作品を読んだが、今度は酸素を排気口から酸素を送り込み、殺人を行う。

 面白い、それにしてもとんでもないファンタジーミステリーである。

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天野節子   「氷の華」(幻冬舎文庫)

 夫隆之がシンガポールに出張中、妻恭子に関口真弓という女性から電話がある。
真弓は隆之と恋愛している。真弓にはお腹には隆之の子供がいる。母子手帳コピーまで郵便受けに入っている。恭子が不妊症であることまで知っている。

 怒った恭子は翌日、真弓のマンションまで行き、ジュースに農薬を混ぜ、真弓を毒殺する。
こんな場面から物語はスタートして、ベテラン刑事の戸田が捜索をして犯人をつきとめる。

 犯人は最初からわかっていて、案の定戸田により恭子は逮捕される。
しかし、読者である私は、大きな疑問が残る。

 こんなことで、犯人は人殺しまでするだろうか。何はともあれ、出張から帰ってきた夫隆之に事実を問い詰めるだろう。ちょっと殺しの動機が弱すぎると感じる。
 同じことを、戸田刑事も思い、悩みながらさらに事件を追う。

ここからが、実に面白い。
 過去に使われた様々なトリックが登場する。しかもそのトリックがとても現実にはないような破天荒なものではなく、リアリティがある。叙述もふくめていろんなトリックが重なりあって登場する。その重なり合いが素晴らしい。
そして最後は衝撃的な結末を迎える。

 そんなミステリーにサラリーマンの悲哀がさしはさまれる。
実は、隆之は36歳の若輩にも拘わらず、大企業の営業部長についている。そして妻の恭子は、常務の娘。常務が明らかに、隆之をひいきしている。その常務が突然亡くなる。

 そこから隆之の会社での権威が失われ、みじめな生活が始まり、隆之は会社を去る。
作者天野さんは、本当にミステリーが好きで、多くの本を読んでいる。

 そして作品を書きたくって、書きたくってしかたなくなりこの作品を書いている。

書きあがったこの作品を驚くことに自費出版している。自費出版でありながらベストセラーになるとういうありえない事態を引き起こし、テレビでドラマ化までされている。

 それだけ、よく練られた見事な作品になっている。

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宿野かほる   「ルビンの壺が割れた」(新潮文庫)

 一つ、一つ起こる衝撃的な出来事は、その出来事だけで、物語が作られている。
そのこと事態はめずらしいものではない。

 しかし、この物語は、起こる出来事がつながって、それらがだんだん内容が衝撃的なものになり最後に驚愕が待っている。構成がしっかりしている。

 フェイスブック上で、28年ぶりに偶然であった、美帆子と一馬がメールの交換をするところから物語は始まる。

 美帆子と一馬は結婚が決まっていた。式の2日前には幸せと愛を誓い合っていたのだが、結婚式当日美帆子が式に現れず、結局2人は結婚はできなかった。その後、美帆子の行方は知れず、28年ぶりにネット上での再会となったのである。

 実は、美帆子の家は、高校生のとき、父が事業に失敗し、家計はひっ迫し、大学に進学できる状態では、無かった。それを悲しんだ美帆子と学年でいつも一番を争っていた高尾が、自分の親父がソープを経営している、そこで働けば大学にゆけるよ、と言う。
 そこで高尾につれられて、ソープランドに面接にゆく。
面接で店長は処女かと尋ね、美帆子はそうですと答える。

さらに店長は、
 「君のような清純で純真な女性が働くようなところではない。」
 「どうして?」
 「失うものがあるからだ。」
 「何を失うんですか」
 「正直でありたいという気持ちだよ。未来に旦那さんになる人に嘘をつきとおすことにな    
  るかもしれない。ここは本当に人生に覚悟を持った子が働くところだ。一時的な感情で
  来るところではない。」と言って美帆子をおい帰す。
帰り際に店長が美帆子に言う。

 「君の明るい未来を祈っている。何年か経って、それでも、この仕事をやってみたいなら、    
 またここにおいで。君のために何ができるか考えてみよう。」
美帆子は翌日店長のところにやってきてソープで働くことを申し出る。
その夜、美帆子は店長に抱かれてソープのテクニックを教わる。そして毎土日ソープ嬢となる。

 美帆子は一馬と恋人同士になり、結婚を約束したときも、ソープで働いていることは言わなかった。

 ソープは、恋愛ではなく、仕事だったからだ。愛しているのは一馬だけ。ソープをしなければ大学に通えないし、好きな演劇もできない。どんな仕事でも貴賤は無い。そんなことを恋人に言う必要もない。男がそれを許すとか許さないという問題ではない。
 こんなすがすがしいきっぱりに鮮やかさを感じる。

しかし28年ぶりのメールの交換は、最後に衝撃的に終わる。

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| 古本読書日記 | 06:47 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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ももこ記念日

2003年2月22日に我が家へ来たので、19年です。
目がしょぼしょぼして、鳴き声(叫び声)が激しいですが、
元気です。
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犬とも共存しています。
みゆき、はなこ、ゆめこ、と旅立っていったけれど、
まぁ・・・・・覚えてはいないだろうな。
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おまけ:美少女だったころ
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| 日記 | 22:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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岩井圭也   「プリズン ドクター」(幻冬舎文庫)

  主人公の是永は、医大生時代に受けた奨学金返済免除のために、刑務所の医務課に属する矯正医官、ひらたく言えば、受刑者のための医者に志願してなる。

 悪にもまれた百戦錬磨の受刑者になめられ、苦労、苦悩する姿を短編連作、ミステリータッチで描く。

 受刑者は、とにかく、詐病を騙る。刑務所の作業を避けたかったり、薬を処方してもらい、これを一度に飲んだり、所内で他の受刑者に売ったりするためである。

 受刑者の病気の訴えが詐病であるのか、本当に症状がでているのか、見分けるのが難しい。
振込め詐欺の掛子で捕まった作田は片頭痛を中心に全身の痛みを訴える。外傷のない痛みは診断が難しい。当人は多発性硬化症だと主張する。国から指定されている難病。しかし発生率は低く、一般に知れ渡っている病気ではない。

 また、入所時診断で多発性硬化症ならばMRI検診をすれば、画像に異常がでるのだが、それは無かった。
 念のため再度MRIをしようとするのだが、検査代が高額のため、認められない。
しかし、何とか所長を説得して知り合いのクリニックでMRIを行う。もしこれで異常がなければ、是永のみならず所長の立場も悪くなる。
 物語に緊張が走る。
結果MRIには異常がない。だめかと思ったら平行してクリニックを開業しているDTIで異常が見つかる。DTIがどんな検査がわからない。

 更にそこで発見された病気が通称NINNJA「自己免疫性脳髄胃炎」。
ものすごく緊張を盛り上げて、でた結果がチンプンカンプン。ありうることだろうが、何となく専門家にごまかされた雰囲気になってしまう。

 他にも、所内で突然死がある。事故死か、自殺か、それとも殺害されたか。この場合刑務所は重大な責任を負う。自然死の場合は問題はない。

 この死が自然死であることを一日で証明せねばならない。これも、緊張が最高に高まる。その結果、GBSが発見され、ストレプトコッカス・アラクチアを発症させ突然死は自然死だとわかる。作者の岩井さんはわかるかもしれないが、読者の私は???

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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藤堂志津子   「うそ」(幻冬舎文庫)

 この本の表紙が女性のヌード写真だったので、てっきりどろどろした恋愛小説だと思ったが、中身は全然違った。

 時々同じようなテーマの小説に出合うが、家族レンタル会社の小説だった。
通常の家族レンタル小説は、結婚式に出席者が少なくて、その足りない人数を借りてくる
という内容が多い。

 この小説は、角田という男が始めたレンタル会社。レンタル用に登録されている人間は
主人公の21歳の女子大生の玉貴、それから新興宗教に入信している望月一家、望月三郎、里子夫妻に娘の9歳の志摩、これにたまに社長の角田が加わる。

 もちろん結婚式にもかりだされるが、他にもいろいろ依頼がある。
定期的な入院患者の見舞い。少し大丈夫かと思うが、デートの相手。

 それからすごいと思ったのは、旧家の不良息子若い時に家をとびだして、全く音信不通。居場所もわからないまま40歳になって遺体で発見される。その葬式を行うのだが、失踪したのはしょうがないが、不良のまま死んだのでは世間体が悪い。だから、失踪している間に心を入れ替え、生まれ変わり大出世して、そこで亡くなってしまったことにする。

 その失踪中に親交があった人達に紛してレンタル人間が葬式に出席。

 葬式には親戚など身内が集まる。だれも、息子がそんなに立派になっているとは信じない。
それで、嘘だろうといろいろ質問する。だからレンタル人間はしどろもどろになる。
もう、これはだめだという時に、9歳の志摩が叫ぶ。

 「やめて、勝哉おじさんの悪口、ひどいよ。」
この一言で、親戚、身内は何も口にできなくなる。
志摩が玉貴たちの危機を救った。

色んなレンタル風景がオムニバス形式で描かれ面白かった。

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牛島信    「第三の買収」(幻冬舎文庫)

 作者牛島は、検事から国際弁護士に転身し、現在も活躍中。牛島の作品は幾つか読んだが、英語を略した、経済法律専門用語を頻発させ、面白いのだが、とっつきにくく気楽に手に取ることができない。

 この小説もMBO,EBO,DD,MEBOなどの略語が飛び交い、これは最後まで読み切れるだろうかと不安だったが、読んでゆくうちに、牛島が何を言いたいか、その情熱が作品から迸ってきて、からめとられ、一気に読み切ってしまった。

 作品では、龍神商事という東証一部上場の会社社長大日向がMBO(経営者による企業買収)を目論むのだが、途中でそれに対抗するハゲタカ ファンドが登場し、両者の血みどろの戦いが描かれる。

 今は、新聞の経済紙面を開くと、年がら年中、企業買収の記事が目にはいってくる。
また、希望退職という、従業員の首切りが紙面を賑わしている。

 会社時代、耳にタコができるほど聞いた、会社のステークホルダーは3つ、株主、従業員、顧客。それはわかるのだが、株主というのがどうしてもすんなり入ってこない。しかし、会社は、常にファンドという名の組織により、買収されたり売られたりする危険にさらされている。

 この作品に登場する、関西フードの会長をしている佐藤の言葉が重い。

「誤解を恐れず、率直にもうしまして、私には従業員をないがしろにした会社というのは、考えられない。
 私の会社も上場していますから、株主を大事にする経営をしています。
 しかし、会社に毎日出勤して一生懸命働いてくれる人間がいなければ会社にはなりません。
 株主、株主というけれど、株主は機械を回してくれないし、商品も売ってはくれない。株主は、つい最近買った株が値上がりするのを待っているだけです。
 会社なんて言うから訳がわからなくなるのです。実体を見るべきなのです。従業員しか、会社という入れ物のなかでは働いていません。」

共産国では会社は労働者のものということで失敗したが、うけど、それでも佐藤会長のこの言葉は胸に響く。

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小池真理子   「ふたりの季節」(幻冬舎文庫)

小池真理子は私より一歳年下だ。だから、同じような空気を感じて育ってきた。

この作品は、家事と子育ての終わった主人公の由香が、たまたま立ちよったカフェで高校時代に最後の恋人だった拓と偶然再会。それから、お互いの恋をしていた時代をなつかしく振り返りながら、2人とも、離婚や生き別れでパートナーを失っていて、またあの恋が復活するかという大人の恋一歩手前の物語。

 よく2人が行った音楽喫茶では、由香の好きなコルトレーンやラフマニノフが流れていた。しかし拓はローリングストーンズのミックジャガーが好きだった。

 2人はデートをしながら、当時流行っていたもとまろの「サルビアの花」一緒に歌った。

フランス映画を2人でよく観た。「個人教授」「あの胸にもう一度」「みじかくも美しく燃え」。

 アイテムはショウウィンドーのように並ぶが、そこから燃えるような情熱的恋はほとばしらない。

 そんな時、小説家三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊駐屯基地で割腹自殺をする。これに衝撃を受けた2人は、三島の本を読み、何故三島は死なねばならなかったか真剣に語り合う。
 柴田翔や安部公房、大江健三郎も読んだ。

読んでいて、2人が真剣に恋をしたようには思えない。当時の流行のアイテムが散りばめられているだけ。
 三島の死について、真剣に語り合ったなんてことは信じられない。

そんな2人が、30年ぶりに再会し、また高校生の頃のように、恋愛をしたいと思うようになることにリアリティが感じられない。
 それほど高校時代の恋が情熱的で激しい恋のようには思えない。ひとりよがりの小説だった。

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銀色夏生   「南九州温泉めぐりといろいろ体験」(幻冬舎文庫)

銀色さんが、故郷の宮崎県に居を移していた時、小学校時代の同級生のくるみさん(全部ではないけど)と宮崎県、鹿児島県、熊本県の近場にある温泉を中心に旅したエッセイ。

 銀色さんは、少し変わっている。普通こういう温泉巡りのエッセイを書くときは、本の売れ行きのこともあるから、作家は訪ねた温泉について、相当デフォルメし言葉を尽くして、そこがいかに素晴らしい温泉かを大げさに書く。またそこで出される料理の上手さについても、舌がとろけるような表現で書く。

 しかし、銀色さんは、感情がたかぶることなく、淡々とあるがままに尋ねた温泉地を描く。どの温泉も、読んでみても、すぐ行ってみたいという思いが沸いてこない。しかしだんだんその抑揚のない表現に、温泉に対する愛を感じ、じわりと温泉を訪ねてみたいという思いが大きくなってゆく。不思議な感覚だ。

 どうして、こんなエッセイになるのか。そのヒントがくるみさんの問いに答える形で書かれている。
「私は毎日穴倉みたいな家にいて、毎日何にもない。でもその穴倉がすがすがしく、気持ちがいい。」

 銀色さんはたびたび住む場所を変えたが、部屋は居心地がいいようにしつらえていた。だからその部屋から出かけるときには、必ず「よいしょ」と声を発声しないとでかけられない。

 食料などを買って帰って、そこの家の中で、気持ちよくすごす。銀色さんは、家が気持ちよく過ごすカプセルになっている。引っ越した場所で閉鎖的な居心地の良い繭をつくって、そこで過ごす。そして、他人とはだれとでも同一距離をとる。その繭にいれば、気持ちがよくなる。

 人にまじわるよりも、グルメを楽しむよりも、繭に閉じこもっているのが一番しあわせ。
そんな銀色さんの本質がエッセイからにじみでている。

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益田ミリ   「僕の姉ちゃん」(幻冬舎文庫)

 主人公の僕がお姉さんと同居。そんな僕とお姉さんの物語。
お姉さんが、職場の歓送迎会から帰ってくる。そして主人公に嘆く。

 職場にイケメンがいて、姉さんも心が彼に向かっている。何とか、イケメンと話したくて、席に近付こうとするのだが、いつも別の女性が、彼の隣の席に座る。

 その女性は、お姉さんより容姿が劣る。だから、そんな女性が言い寄っても、イケメンと結ばれるわけはないとみんな安心している。

 イケメンというのは女性に対してゾーンが広い。だから、言い寄ってくる女性は殆ど受け入れる。
 しかし、当然イケメンには本命の彼女が存在する。

 ここから、姉の言っていることがわからなくなってくる。
そのイケメンは許しがたいと思う。そのイケメンは多くの女性を被害者にしている。

すると姉が言う。
可愛くない女性のほうがイケンに近付きやすいの、と。
フリーのイケメンなんて怖くて近付けない。だけど、彼女がいるなら浮気相手として近付ける。

 それでは、女性はいつも被害者になるばかりじゃない。

被害者?何言ってるの。イケメンというのは話がいつもつまらないの。浮気でちょうどいいの。
イケメンとつきあったことがあるの。青春の自慢話の小道具になればいいの。
すごいなあ。今の女性の考え方は。驚くよ。

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遠藤彩見    「給食のおにいさん」(幻冬舎文庫)

 シリーズ化され、すでに6冊出版されていて、日本テレビでもドラマ化されている、ベストセラー作品である。紹介本はその第一作目。

 主人公の佐々目は、名だたる料理人コンクールで優勝し、フランスの名店でも修行した、フランス料理店シェフだった。しかし、自ら出店したレストランが火事になり、失職してしまう。とにかく次の店をだすまで、生活費を稼がねばならないと、小学校の一年契約の給食調理人として働くことになる。

 子供たちにフランス料理を味わってもらおうと、張り切って調理人になったが、食材費は250円。料理はおいしいことより、カロリーを守ったり、アレルギー食材を使わないようにするなど守らねばならないルールがあり、それを守らせるための学校栄養職員が佐々目の前にたちはだかる。

 更に、保健室登校生がいたり、モンスターチルドレンとモンスターペアレンツに脅されたり、それを恐れる校長や先生に混乱させられ、恋を告白する10歳の生徒に悩ませられたり、太って悩む人気子役がいたり、トラブルが続出する。

 そのトラブルを、真正面からぶつかり、克服してゆく青春小説。そして、佐々目は、一年契約を再契約してさらに給食員を続けることを決意するまでが描かれる。

 学校栄養職員が、更に契約延長をするか、佐々目に確認する。佐々目は迷う。そのとき栄養職人の言った言葉が印象に残る。
「物事はね、消去法で仕方なく決めると、つらい時に気持ちが続かない。人から言われて決めると、失敗したときに相手を恨んでしまう。だからすべては自分の意志で決めないとだめだよ。」

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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益田ミリ   「心がほどける小さな旅」(幻冬舎文庫)

 14の旅がエッセイで紹介されている。

最初から、いやな旅行記だなと感じた。益田さんの作品にしばしば登場する出版社の編集者猫山さんがこの作品でも登場する。旅のきっかけは、益田さんが思いつき、これを猫山さんに「行きたいな」と紹介する。すると猫山さんがすべての道程、宿泊場所をアレンジしあご足つきででかけてゆく。もちろんベストセラー作家が旅行記を書いてくれるのだから出版社がすべておぜんだてをしてもおかしくはないが。でも、何となく益田さんがおねだりしているようで、釈然としない。

 と思いながら、読み進むと、なんとあご足つき旅行はほんの一部で、殆どは益田さん一人かお友達とゆき、当然費用は益田さんが払っている。で、行く場所も益田さんの興味が優先。
 結構マイナーな場所が多い。これは、素晴らしいと心を入れ替えて読み進む。

私はまったく知らなかったが、高知にある牧野植物園が印象に残った。
牧野植物園は、平地に作られた植物園ではなく、山にへばりつくように作られている。長い回廊があり屋根が広がっている。

 植物を雨や風から守るように、自然の形にならって作られているのである。
平地の植物園と異なり、ゆるやかな道を上ったりくだったり、それぞれの植物も自然のままのびのびと生えている。歩くたびに、外の景色が変わってゆくことが面白い。

 この植物園、高知が生んだ「日本植物分類学の父」牧野富太郎博士より命名されている。
牧野博士は、世界に新品種として発表した植物の数は、1500以上にもなる。

 その牧野博士の言葉が管内のパネルにある。
「人の一生で、自然に親しむということほど有益なことはありません。人間はもともと自然の一員なのですから、自然に溶け込んでこそ、はじめて生きている喜びを感ずることができるのだと思います。」

 かみしめればしめるほど、味わい深くなる言葉だ。

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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芹澤桂   「ほんとはかわいくないフィンランド」(幻冬舎文庫) 

 著者芹澤さんは、フィンランド人と結婚され、現在ヘルシンキで暮らしている。フィンランドでの暮らしとフィンランドの他と変わっていることについて書いたエッセイ。

 フィンランドは2020年幸福度ランキングで世界一になっている。今や世界で最も魅力ある国となっている。

 芹澤さんフィンランド生活2年目になったとき妊娠をする。そこでネウボラに電話する。
ネウボラというのは、保健所と産婦人科が合体したようなところ。原則、フィンランドで産婦人科検診を受けるためには、このネウボラを通さなければならない。

 そしてネウボラは、妊娠中から出産、子どもの検診など、小学校にあがるまでずっと面倒をみてくれる。出産も含めて費用は無償。
 ネウボラに検診の予約をいれると、それは一か月後。驚く。でも、その間に何かあれば電話で訪ねれば答えてくれる。

 検診は原則夫婦同伴となる。検診の前にネットより質問票を取り出し、これに回答しておかねばならない。それも妻だけではなく夫も。
 現在の状況について専業主婦と記載する欄は無く、無職と書かねばならない。

フィンランドでは全て学校を終了した人は職業につくことになりそのまま仕事を続け、専業主婦は例外あり、働いていなければ無職ある。ネウボラは子どもが生まれたとき、家族が子どもをむかいれられるかを判断るのである。それで、小学校に入るまで、子どもについての相談は、夫婦同伴でネウボラに行くことなる。日本では「母子手帳」が発給されるが、フィンランドでは「家族手帳」となる。

 そしてこれも驚いたが、出産近くなると国からベイビーボックスという子供用品や衛生用品、ベビー服など、育児に当面必要な品々が贈られてくる。

 まったく至れり尽くせりなのである。税金は高いかもしれないが、子どもを産み育てることが国の最も大切な基盤となっている、このことは国の思想哲学である。その徹底に感心する。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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小川糸    「洋食小川」(幻冬舎文庫)

 台所での調理を中心にしたエッセイ集。

小川さんは、エッセイを読むと、かなり芯も強く、個性的な方と思うが、その半面小説は暖かく癒しの作品が多く暖かく優しい人だ。

 小川さんの「ツバキ文具店」がフランス、イタリアで販売されることになり、その宣伝もかねてイタリア ミラノに行く。そこで、イタリアの20代の女性作家と対談する。彼女は近未来を舞台にした斬新な作品を発表している。

 その彼女から小川さんに質問がある。
「小川さんは書くことで闘っていますか。」

小川さんが答える。
「闘ってはいません。むしろ、誰かと調和するために書いています。」
イタリアの作家が言う。
「想像通りの答えですね。」と。
小川さんは思う。
闘うということは、怒りをエネルギーにする。小川さんは怒りをなるべく自分の中から排除したいと思っている。怒りで解決することは何もないから。
なるほど、その想いが作品に現れているのだ。

 このエッセイで信じられないことが書かれている。
サッカーの中継をみていると、隣の店から大きなため息が聞こえてくる。
サッカーの試合で、ドイツチームがPKを失敗する。
そのとき、やっと小川さんの店のテレビはPKのはずしたところが映し出され、客が一斉溜息をつく。

 中継に時間差がおきたのだ。
こんなことが本当にあるの。信じられない。

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| 古本読書日記 | 06:42 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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梛月美智子   「体育座りで空を見上げて」(幻冬舎文庫)

主人公和光妙子の中学1年から卒業までの中学3年間を描く。

中高生を描く小説は、いじめや村八分にされ、悩み、ぶつかる小説や、ばらばらだった生徒たちがいつかまとまって、芸術やスポーツで大きなことをやりとげるという小説が殆ど。その点から言えば、この作品は少しばかりその枠からはずれている、
 この小説は、少しは揺れ動くが、現実の中学生活をありのままに描いている。

時々主人公は何かにぶつかるとしばしば海に行く。梛月さんは小田原の生まれで近くに湘南海岸がある。この作品は梛月さんが送った中学生活をそのまま思い出して書いているのではと思う。

 小説を読むと、中学1年までは、まだ小学生時代そのままに、子どもっぽい行動、言動が主流だ。それが中学2年生になると、大きな変化が起こる。

 男の子は声変わりが起こり、女の子は生理が始まる。

今まで従順だった主人公妙子が、風呂に入って、リンスが無いことに気付く。

大きな声で、母親を呼んで、
「リンスがない。買い置きしてあるのをおいといて。」と言う。
お母さんが
「買うのを忘れていたわ。」
「何でないのよ。すぐに買ってきて。」
「リンスなんてなくても大丈夫よ。」
「うるさい!! 早く買ってきて。買ってくるまでお風呂でないから。」
しばらくしてお母さんの声で、
「ここにおいとくよ。」
このころから自部屋に鍵をかけるようになり、親に反発するようになる。

それから、やんちゃな男の子が急にやさしくなる。女の子の容姿をなじったり、髪の毛を引っぱったりすることはなくなり、俺たちは女の子たちにもてるために努力しますという姿勢に変わる。

 いつも口をきかない、父と一緒に高校入試の結果をみにゆく。父はおまえみてこい。俺は車で待ってると言う。妙子が見に行く。そして自分の番号を見つける。車にもどって「うかった 」と報告する。父親はあわてて飛び出し、合格者発表の掲示板に妙子の番号を発見してバンザイの声をあげる。

 何か、自分の中学時代を思い出させる小説だった。

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三浦しをん   「愛なき世界」(下)(中公文庫)

 自分で書いていても、何を書いているのかよくわからないが、島津製作所の研究者、田中耕一さんがソフトレザーによる質量分析技術の開発によりノーベル化学賞を受賞した。

 この開発実験の過程で田中さんはグリセロールとコバルトの混合物を熱エネルギーの緩衝材として使用したところ質量分析技術の開発に至った。

 実は田中さんはグリセロールとコバルトを混合するつもりはなく別の物質を使うつもりだった。しかし間違えてグリセロールとコバルトを混合してしまう。捨てるのもなんだしとそのまま実験を続けたら見事に成功した。

 三浦さんのこの物語では、主人公紗英は、シロイヌナズナの4重変異体の生成実験をする。その過程で、AHHOという遺伝子を使わねばならないのに、間違えてAHOという遺伝子を使っていたことに実験が終盤になって気付く。

 紗英は呆然とする。来年夏にはこの実験を論文に仕上げ、指導教授松田に評価をしてもらい博士に認定してもらわないと、大学院を卒業できない。残りあと1年あるが、今から変更はかなり厳しい。
紗英は悩む。失敗を同僚にも松田教授にも言えない。いじいじしていたが、同僚にこらえきれずに報告する。同僚は驚き、率直に松田教授に相談したほうがよいと言われ、チョンボを大叱責覚悟で教授に報告する。

 教授が言う。
「今、変異した葉がいくつかできていますね。それが4重変異体だったなら、そこにAHHOを交配させて、AHHO遺伝子の働きについても調べたらどうですか。」

そしてさらに言う。
「根気強いのがあなたのいいところです。」
「予想通りの結果を得るための実験は退屈なものです。実験で大切なのは独創性と失敗を恐れないことです。失敗の先に、思いがけない結果が待っているかもしれないのですから。
はっちゃけた発想で実験を開始し、たとえ途中で失敗しても、それを楽しむくらいの心構えで突き進めばいいのです。」
 田中耕一さんも失敗のまま実験を進めて、ノーベル化学賞に至った。独創性が理系にも求められる。そして、いつでもはよくないが「はっちゃけ」も大切。

 松田教授は素晴らしい先生だ。

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| 古本読書日記 | 06:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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三浦しをん    「愛なき世界」(上)(中公文庫)

 主人公の本村紗英は、日本最高峰のT大松田研究室の大学院生で、一般人からみれば雑草と思えるシロイヌナズナの変異種の生成過程の研究をしている。

 その、紗英に食堂「円服亭」の見習いの藤丸が恋心を抱く。
しかし筋金いりのリケジョ紗英は全く藤丸に関心を示さない。

 その筋金入りが作品に表現されている。

「あまりにも無邪気な考えかもしれないが、現にシロイヌナズナの研究に打ち込み、そこに楽しさを感じている紗英としては、趣味でも仕事でもひとでもいい、愛を傾けられる対象があることこそが、人間を支えるのではないかと思えてならないのであった。」
 そうすると不思議なのは、やはり植物だ。脳も神経もない植物は、愛を必要としない。それでも光と水を糧にして、順調に成長し生きていくことができる。食べ物があるだけでは決して満たされない人間とは、生きるという意味がまるでちがうみたいだ。
 どれだけ研究しても超えられない、植物と人間のあいだにある深い淵を感ずる。同時に、植物の不思議さを研究することは、人間の不思議さを知ることに通じのかも知れない、とも思う。同じ星に生きる植物が、人の姿と行いを鏡のように映しだし、『おまえたちはどういう生き物なんだ?』と問いかけてくるようだ。」

 こんな人間の恋愛、生殖に興味ゼロの紗英にとても藤丸が入り込む余地はない。

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| 古本読書日記 | 06:38 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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林真理子  「素晴らしき家族旅行」(下)(毎日文庫)

 正直、こんな笑いがとまらない作品をよく林が書けたなと思う。過去の林作品を読んでみたが、林は雰囲気もそうだが、誠実で真面目。とてもこんな破天荒な発想ができる作家という印象はなかった。

 林がある日、出版社の編集者とバージンアイランドに取材旅行に行った。
その晩夕食をその編集者と食べた。

 その時に編集者が、妻が実家の祖父母の世話をしている。その妻、作品では12歳年上になっているが、実際編集者の妻は16歳年上だそうだ。

 その妻の行動、言動が破天荒で、林は爆笑につぐ爆笑。
林は編集者に、その話、私に書かせてくれと編集者に懇願。
後日、編集者の妻の了解を得て、小説化に取り組んだそうだ。

こんなに面白い傑作で林は絶対売れると確信したが、1994年発売したが、全くも売れなかった。文庫も出したが全く売れなかった。

 どういう経緯があったか知らないが、昨年6月に新装版で文庫が出版された。
そして、私が買った時には、何と6刷にもなっていた。

 よかったね。林さん。傑作だったんだよ。

この作品読んでいて思ったが、作品には林の想像は殆ど無く、すべて実話と確信した。

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| 古本読書日記 | 06:35 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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林真理子   「素晴らしき家族旅行」(上)(毎日文庫)

 この作品、主人公忠紘、幸子夫婦の祖母叔子が83歳で、身体が機能しなくなり、祖父85歳の高一郎が世話をするが、とても世話など不可能で、孫忠紘の妻幸子が世話をかってでる。

 とっかかりが巷にあふれかえっている、日本で最も深刻な問題、老人介護を扱っている作品か、何も今更林が書かなくてもいいのではと少し辟易した気分で読みだした。今更と思うので、この作品の出版は1994年であることを知り、そうかその頃だったら介護問題は走りのころ、それが最近文庫になった。なるほど、それならわかると気持ちを切り替え読み進む。

 ところが、読んでいくうちに、もちろん介護問題がベースにはあるが、主人公の幸子の個性が際立ち、彼女が巻き起こす、騒動がおかしく、笑いが止まらないコメディ家族小説になっていて、楽しく読める

 だいたいこの幸子、離婚経験があり子連れ。忠紘が博多駐在をしていた時にスナックで知り合い、結婚し、何と幸子は忠紘より12歳も年上。それゆえ実家には10年帰っていない。

 そんな時、祖母の叔子が倒れ介護が必要となる。本来なら長男の高一郎の嫁房枝が中心になって面倒をみるのが筋だが、房枝と叔子の折り合いが悪く、叔子が房枝を拒否、さらに
高一郎の兄妹も世話をいやがる。

 それで、何と孫の嫁の幸子が志願して、夫の祖母の世話をすることになる。
当然、高一郎夫婦や、忠紘の叔父、叔母は、幸子が祖父母の家や財産を狙っているのではと疑うから、祖父母の家に忠紘、幸子夫婦が住むことは拒否する。それで忠紘家族はアパート借り住む。子供の育児にも金がかかるし、忠紘の給料だけでは賄えなくなる。それで幸子が外に仕事をもつ。

 その仕事が、よく三流雑誌にある、いかがわしい男機能が屹立し長持ちをする、中国古来媚薬の宣伝文句を書くライターの仕事。それも、実際の愛飲者をかってに作りあげ、彼がその秘薬を飲んだらどうなったかを幸子が書く。

「会社の帰りは毎日遅いし、疲れがたまり、夫婦生活は縁遠くなるばかり。女房は不機嫌になるし、私にあたる。家のなかもうまくいかなくなり、仕事も失敗ばかり。
 そんな辛い時、であったのがこの『凛凛丸』。怪しいと思いましたが、3日飲んだらこれは本物だと思いましたよ。次の日40過ぎの私に、あの古女房が流し目をおくってくるんですよ。あなた昨夜はどうしたのよって。
 いやあ古女房でも喜ばれるのはうれしいもんですよ。可愛いなあと思ったらつい」
(蓮池正さん、42歳デパート勤務)

すごい!幸子。いや、林真理子!

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| 古本読書日記 | 06:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宮田珠己   「東南アジア四次元日記」(幻冬舎文庫)

 宮田さんが会社をやめて、できるだけ陸路でめぐる世界旅にでる。そこで遭遇した奇々怪々なことを綴った旅のエッセイ。

 中国の天安門事件が起きたとき、私の勤めていた会社は、中国に工場を建設していた。
同じような会社が幾つかあり、中国進出は危険だということになって、進出を取りやめたり、引き上げたりした日本の会社がたくさんでた。

 そんなとき、私の会社とパナソニックは逃げなかったと中国から感謝された。

その頃、中国に行って、驚いたことがあった。収穫した稲を、道路に並べ、その上を車が通った後、ほうきで稲から千切られた稲穂を回収する。脱穀を車にやらせていたのである。

 工場では、昼食は日本人だけ固まって、日本食が調理されてだされる。
中国人のコックが調理を担当するのだが、日本なんて行ったことがない。NHKの料理テキストをとりよせ、参考にして調理する。日本語は読めないので、写真を頼りにして作る。

 そうすると、しょっぱい肉じゃがや、とんでもない甘いカレーができる。
これに、ごはんを食べると、ときどき歯が、がきっと大きな音がする。砂利が含まれているのである。道路脱穀をみていたので仕方ないかとあきらめる。

 この作品、今から30年前の作品。私が中国での異体験をした同じ時代。宮田さんハノイでおなかを壊してしまい、おなかにやさしいものを食べようとみかけた日本料理店にはいる。

 すると店の社長がやってきて、コックになって欲しいと懇願される。宮田さん、料理などしたことが無いので断るが、なんでもいいから作ってみてくれとさらに強くいわれる。

 それで困って、安宿でしりあった日本人の女の子と男の子2人を料理屋に連れてくる。
女の子も料理は不得意だったがスキヤキをつくる。調味料を間違えてしまい、変な味のスキヤキになる。それでも店主はおいしいと顔をゆがめながら言う。

 やめとけばいいのに、名誉挽回で、女の子が茶碗蒸しに挑戦。大丈夫かと案じたが、これはうまくできた。店主もコックも親指をつきだして「グッド」と声をあげた。

まだ、中国を含め、アジアが遠い時代だった。

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渡辺和子  「置かれた場所で咲きなさい」(幻冬舎文庫)

 マザーテレサが日本にやってきたとき、通訳を務め、カトリック修道女として生涯を迷い苦しむ人々のために捧げた渡辺の魂の言葉を綴った作品集。
大ベストセラーになり、230万部も売り上げている。

 私は、目に見えないもの、聞こえないものは信じず、科学的ものしか信じない。
だから神の存在や天国は一切信じない。

 しかし、この本を読むと、しばしば神は存在するのではと思いそうになる。

例えば、次のような文。
「人間は生きてゆく限り、多くの悩みから、逃れることはできません。その悩みは大小さまざま。時が解決してくれるものもあれば、どんどん大きくなっていくものもあるかもしれない。それでも人は生きていかなくてはならない。絶望の中にも一筋の光を探しながら、明日を生きていかねばなりません。だから私はノートルダム清心学園の卒業生に聖書にあるこの言葉を贈るのです。
  『神は決して、あなたの力に余る試練を与えない』
いかなる悩みにも、きっと神様は、試練に耐える力と、逃げ道を備えてくださっている。そう信じています。」

 神とはなんだろう。こんな詩も載っている。

 こまった時に思い出され
 用がすめば、すぐ忘れられる
 ぞうきん
 台所のすみに小さくなり
 むくいを知らず
 朝も夜も喜んでつかえる
 ぞうきんになりたい

マザーテレサも渡辺和子さんも、ぞうきんを目指していた。違うことは承知しているが、ぞうきんが神のように思えてくる。

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朝井リョウ   「どうしても生きてる」(幻冬舎文庫)

 6編を収録している短編集。

 少し前に、読んだのか、何かを見たのか忘れてしまったのだが、林真理子の作家の分類についての発言に出合った。

 作家には3種類いる。

 締め切りとか期限に追われない作家。それに、いつも締め切りに追われ汲汲と、追い詰められて多忙な作家。
締め切り、期限には追われない作家には2種類ある。出版社から、期限付きで作品の作成の依頼が来ない作家。つまり、出版社が能力を認めていない作家。多分こんな作家が一番多いのだろう。

 もう一つは期限が全くなく、作品ができあがると、どこの出版社から作品を出版するか作家が決め、その出版社を呼びつけ、作品を渡す作家。出版社は涙をださんばかりに喜ぶ。

 村上春樹や東野圭吾、伊坂幸太郎などがこれにあたる作家。

 主人公の豊川は大学生の時に瀬古と知り合う。豊川は物書きとしての才能があり、瀬古はイラストレーターとしての才能があった。2人はタッグを組んで、物語は豊川が書き、作画は瀬古が行い、漫画にして売り出そうと考える。

 しかし、いくら作品を出版社に持ち込んでも、作品が発表されることはない。しつこく持ち込みをしてゆくと、技術論からの指摘が作品にそのものの課題に変わる。

 「セリフにリアルさがない。作品から熱が伝わってこない。」「どこか嘘っぽい。作品を貫く本音が無い」
こんな指摘を受け、2人はリアル、熱、切実さ、本音、嘘のなさをモットーにして、作品を創ることにする。そして出来上がった作品は新人賞を受賞する。

 しかし、それから、何を描いても作品が全く売れなくなる。そして10作目で力尽き作家を諦めねばならないところに追い込まれる。そのとき担当の編集者が変わる。彼が言う。

 「リアルとか本音ってつまり、作者自身の思いってことだろう。それで突破できるのは、デビュー後一作目までかな、あとは、代表作がいくつもある大御所とか、ね。大抵の読者は、お前たち自身に興味なんてない。キャラクターの台詞からはみでる自意識は切り捨てろ。特にWEB媒体の読者は、移動中とかに電車で立ったまま読んだりするんだよ。学校とか会社とかに行きながら、そういうとき、作者自身の本音をガンガン真っすぐにぶつけてくる漫画読みたいか?」

 これは、豊川、瀬古の本質を破壊する言葉。2人これで、別れ別れになる。

 朝井さんは大御所になり、作品ができた時、もう少しで出版社を呼びつける作家になるところまできている。その極意が編集者によって語られる。しかし、編集者が求める作家になるのは難しい。だから作家群は屍累々となる。

 収録されている「流転」より。

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桐野夏生     「玉蘭」(文春文庫)

 主人公の有子は、大学を卒業して出版社で編集の仕事をしていた。その有子が、取材でしりあった、結核専門病院に勤務している松村と、恋に陥る。

 当初は有子は松村に恋していたのだが、松村が女性というのは、会社をやめたくなれば、気楽に即やめられると女性を機械のような言い方をしたり、男尊女卑の思いが強いため、だんだん、いやになったところに、松村に有子以外の女性がいることを知り、違う人生を歩もうと、会社をやめ、上海の大学に留学する。

 そこから物語は大きく回転して、有子の大叔父の質が、戦前、故郷を飛び出し、海軍の訓練生になり、そして日本―上海―広東の定期船の機関長となっている戦前の上海、広東の物語に変わる。

 質は広東でカフェに勤めている浪子と知り合い恋愛関係になる。当時の広東、上海は、日本と戦争状態にあり、更に中国共産党が台頭し、混乱の極み、特に日本人は危険の状態にあった。それで、2人は危険な厳しい恋を強いられた。

 この物語は不思議な物語で、生きている人間が、時を超えて、幽霊になって、登場する。
まずは質が、上海の大学の寮で生活している、有子の枕元に登場して、自分の書いた「トラブル」という日記をプレゼントして読みなさいという。神から有子を助けてやってくれと言われたので枕元に来たのだという。

 実は質は今は97歳になるが生きていた。

 また上海に有子をおいかけてやってきた松村が、肺結核ですでに助からない状態になっている、質の恋人浪子の枕元に現れて、治療をしながら質とともに浪子を看取る。

 そして有子も幽霊になって、浪子の元に現れる。
しかし、物語で最も嘘くさいのは、松村が有子を追いかけてきて、有子によりをもどそうと懇願するところだ。

 幽霊と、実際に生きている人達が交錯する。頭がグラグラする。変な気分になる物語だ。

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中村文則  「あなたが消えた夜に」(毎日文庫)

 連続通り魔事件が起きる。単独犯なのか、模倣犯なのか所轄の刑事主人公の中島と捜査一課の若き女性刑事小橋がコンビになって犯人を追う。

 犯人は、幼少の時父は家をでて、母によって育てられるが、母は男をひっぱりこみ、主人公の隣部屋で抱き合い母の狂った声を聞きながら育つ。

 高校時代は、勉強はできずアルバイトで凌ぎ高校を卒業して、コンビニバイトや契約社員でしのぐが契約を切られ失業中。

 そんな時しりあった女性。夜の世界で働いている。この女性も、離婚した母親がひっぱりこんだ男に犯され、苦しく、恐怖の毎日を過ごしてきた。今女性は売春をしながら糊口をしのいでいる。

 似た物同士が、結びつき暮らしだす。

犯人の男は、生活費を稼がねばとハローワークに通う。しかし何の技術もないため、50社面接で採用拒否にあう。そしてやっと、住設メーカーに採用されるが、仕事はメーカーの展示会を街場にたって知らせるチンドン屋のような仕事。
 この将来が真っ暗な状態から殺人が始まる。

殺人には納得できる動機がいる。しかし、このような犯人の動機は、多分に刹那的、情動的である。

 しかし、中村が描く動機は、とてもどん底を這っている人間とは思えないくらい、理知的である。動機は、何より論理であり哲学である。神の啓示やキリスト教がかぶる。

 世間で起こる刹那的事件の犯人のようではない。こんなに論理的につきつめて犯行は行われない。

 殺人を実行する段階でも、何故被害者を殺さねばならないか、殺す直前まで、論理が登場する。何となくロシア文学を読んでいるような感覚に陥る。

 この作品、そんな論理に多くが割かれるのだが、そこを評価するかどうかが、作品の成否が決まる。
 私は正直首を傾ける側だ。

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乃南アサ   「軀KARADA」(文春文庫)

 人体のパーツに異常に執着し、日常の殻をやぶる5つの短編を収録。

  3編めの「つむじ」という作品が面白い。
主人公の将生は菊香と付き合っている。将来結婚しようとお互い考えている。
この将生は身体について大きな悩みを持っている。つむじが4つもあり、毛が十分にあるころは、毛がつむじを覆い、まったく目立たなかったのだが、薄くなると目立つのである。

 それで、毛髪カウンセラーに相談することにする。
カウンセラーは、時々毛生え薬の宣伝はあるが、全部偽物で、毛が生えてくる薬は存在しないという。

 脱毛は、頭皮を清潔にしないことでも起こるが、殆どはテストステロンという物質の働きによっておこる。このテストステロンという物質は、男性の睾丸で生成される。だから、睾丸を除去すればハゲになることはない。このテストステロンの生成を抑制する物質が5a-DHTという物質。この5a-DHTを頭皮クリーニングをしながらすりこんでやると、脱毛が防止できる。それで、将生は頭皮クリーニングをお願いする。しかし、クリーニングをしても、毛はどんどん抜けてゆく。

 これはダメだと思っていたところ、製薬会社に勤める大学の先輩と飲む機会があり、将生の悩みを聞くと先輩は
「育毛剤とか化粧には殆ど効果はない。そもそも毛穴というのは、液体が染み込む機能はなくて、身体の中の不要物を排出するためにある。だから皮膚に塗りこむというのは皮膚の表面だけに作用して全く効果はない。

 ところで、わが社で、毛生え用の飲み薬を開発して、今効果を確かめるモニターを募集している。将生モニターになったらどうだ。」

 モニターには全く費用はかからないということで、将生はこの話にとびつく。
そして試薬品の服用を始める。

 服用を始めて、しばらくして、先輩から緊急電話がくる。
「すぐ服用をやめてくれ。詩薬品を服用するとインポテンツになってしまうことがわかった。」

 こりゃあまずいよ。でも毛生え薬は塗薬ではなく服用薬品しか可能性がないことは、この物語でわかったような気になった。

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