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2021年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2022年01月

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多和田葉子   「地球にちりばめられて」(講談社文庫)

 最初に登場するデンマークに留学中のHIRUKOがすごい。HIRUKOは日本人のようだ。
そしてどうしてかわからないが、祖国日本は消滅してこの世界には無い。
そこでHIRUKOはパンスカという新しい言葉を開発する。パンスカはスカンジナビア諸国のどこでも通じる言葉だ。

 言葉は、表現することから始まる。その後に文字ができる。
「ハマチ」は「ハウマッチ」、「マッチャ」は「マッチョ」、「タコ」の複数形は「タコス」と言葉をつないで覚えていったり、新しく作る。こうした言語を物にするとネイティブかどうかなんて意味をなさなくなる。

 物語は、言語とは何かを探して、HIRUKO、クヌート、アカッシュ、ノラ、ナヌーク、SUSANOU6人が旅にでる。

 現在は地球上は多くの国によって区分けされている。そして、国により主に居住している民族が異なる場合が多い。さらに使用する文字も異なることもしばしばある。 

 しかも、ネイティブな人種の国に多くの移民がはいり、差別や問題を引き起こしている。移民の流入を止めたり、排斥をしようとしている国もある。しかし、多くの国が移民を受け入れないと労働力が不足して国家が持たなくなりつつある。

 遠く離れた人々とも、ネットによって国境を楽に超えて、会話ができる世界になった。地球温暖化対策のように、地球という観点から解決しなければならない課題が増えた。もはや、国単位で課題に対処する時代はおわりつつある。むしろ国の存在が、地球の課題解決に邪魔になる存在になりつつある。

 言葉は、地球にとって壁にもなるし、繋がりにもなる。
この物語を読むと、HIRUKOがしたように、新しい方法で、世界がつながる言語が今最も必要なことだと思えてくる。

 そう、最後失語症になってしまっているSUSANOUに対して通用する表現、言葉が。
私たちは日本人である前に、地球人だ。移民もネイティブもあるものか。

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加谷珪一   「お金は歴史で儲けなさい」(朝日文庫)

 へえ、文化人、知識人のための朝日でも、こんな本を出すんだ。

 株価は長期レンジ、10年以上単位でみれば、必ず上昇する。それを歴史視点からデータを示し証明し、その視点からどんな兆候があれば、株式投資を行なったらよいかを指南する。
 とはいっても、すべてデータは将来を示しているのではなく、過去の説明。投資は未来。
ここからは、どのタイミングというのは結局わからない。当たり前か。

 バブルというのは何も新しい事象ではなく、昔から起きていた。最初は1800年代に起きた鉄道株バブル、次が1920年代に起きた自動車株バブル、この時はそれぞれの株が異常に高騰した。しかし、バブルが起きるためには、その後鉄道、自動車がインフラとして定着せねばならない。

 現在でも、鉄道、自動車は輸送というインフラにおいて中心インフラとなっている。

 それがいくら革新的でも、単なるコモディティ化してしまうものはだめである。
例えばシャープが初めて世に送り出した電卓は、革命的商品だった。そのため直後は株価は上昇した。しかしカシオがすぐ追随。こうなると価格勝負となり、単なるコモディティになってしまった。

 加谷さんは、コモディティにならない商品として、ロボットAI製品をあげる。
しばしば、将棋なので、プロがAIと対戦し、プロが負ける場合がある。

 AIは過去のプロの対戦の棋譜をすべて記憶し、その際最適の手を考えて駒を打つ。いくらプロでも過去のプロの棋譜をすべて記憶することは、不可能だし、更にそこから最適の手を抽出することも不可能。

 AI技術というのは、私たちの想像を超え、考え、行動する技術だそうだ。使い手の表情や言葉を瞬時に解析して、今何をすべきか判断して行動する。このAIが考えるというのがとんでもなく革命だ。

 この作品では、AIにとってかわる職業として、弁護士、医師、パイロットがあげられている。飛行機のパイロットは将来ロボットがするのか。SF漫画を見ているような気になる。

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| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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乃南アサ  「美麗島紀行 つながる台湾」(新潮文庫)

 台湾に魅了され、台湾の人々との交流、美食の味わい、台湾の歴史を乃南が紀行し書きつくした紀行記。

 乃南さんに、伏して謝らなけないといけない。台湾、かっては日本が統治して、近い国、親近感があるはずなのに、全く興味がそそられなかった。

 原田マハさんの、直前に読んだグルメ紀行記では、よだれがでずっぱりだったのに、この本では全くそういうことがない。歴史的遺産も、馴染がないので、その価値が頭に入ってこない。さらにその遺産の名前に、難しい中国漢字が混ざるため、本当は辞書片手に読めばいいのだが、そこまでしようとも思わない。

 いけないと思うのだが、ただ字を追うだけの状態になってしまった。

今でこそ、台湾でもステーキ、牛肉麺、焼き肉、更に日本から牛丼チェーンも進出し、牛肉を食するのは当たり前になった。しかし台湾ではかっては牛肉を食べる習慣は無かった。

 私も小さい頃、牛肉を食べるなどということは考えられなかった。牛といえば農耕牛だった。畑や荒れ地を耕作するのは牛だった。収穫した野菜、果物を運ぶのも牛だった。

牛は一家の生活を支え、家族の大切な一員だった。そして牛の懸命に働く姿は美しかった。
 だから牛肉を食べることは、あり得なかった。
同じ農村の風景は台湾にあった。

 牛は一家の宝。そんな牛を殺して食べることなどありえない。
乃南さん、情熱を込めた旅行記なのに、こんなことしか書けなくて申し訳ない。


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| 古本読書日記 | 06:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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原田マハ   「やっぱり食べに行こう」(毎日文庫)

 京都をはじめ日本各地、パリを中心に原田さんが味わった最高のグルメ旅味わい記。

この本はいかんよ。原田さんの卓越した筆致で、多くのグルメ体験記が描かれ、その都度読者はそんな店に行ってみたいと思うのだが、殆ど店名が書かれていない。読者は困って右往左往。

 京都での、原田さんの水先案内人、瀬戸川雅義さんが素晴らしい天ぷら屋に行きましょうと連れて行ってくれる。松尾神社の近くにあるらしい。

 からすみと蒸しアワビの前菜、のどぐろの炭火焼き、美山の鮎の炭火焼きこれが魯山人の器やチェコの人間国宝的職人のグラスに盛られて提供される。鮎の出汁を一年寝かせ、だされる「鮎そうめん」筆舌しがたいおいしさ。そして最後に真打の天ぷらが登場。熱々、さくさくの衣に包まれた旬の野菜と魚の天ぷらを、少しだけ。これがなんとも素晴らしい。

 ここまで煽って、よだれたらたらの読者の私に対して、「でも店名は教えない」とくる。
とんでもない残酷エッセイである。

 バルセロナに行ったとき、ゼネストで開いている店、レストランは一つもない。
そこで、日本から持参したカップめんをとりだす。湯沸かしポットのお湯を注ぎ3分待つ。
出来上がってさあ食べようとしたのだが、箸が無い。

 それで何と原田さんは、ハブラシで食べる。アツアツ、ハフハフ。人生で最高においしかったカップ麺と原田さんは書く。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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辻村深月  「嚙みあわない会話と、ある過去について」(講談社文庫)

 2つの同じ特徴ある話がこの短編集に収められている。小学校時代、浮き上がっていて、友人や仲間が誰もいなくて、パっとしない、皆から無視されていた子が、突然大人になって、人気アイドルグループで活躍していたり、進学塾のカリスマ経営者、ひっぱりだことなりかっての小学校の同級生の前にあらわれる。

 そんな時、くすんでいた人は、どんな態度で同級生の前に現れるのだろうか。そんなことをテーマにしている作品。それも、辻村さんらしい展開で面白かったが、テーマは似ているが少し毛色が変わっている「ナベちゃんのヨメ」が面白かった。大学時代コーラス部の部員だったナベちゃんから、コーラス部員にメールが来る。

 「今度のコーラス部の発表会で、みんなが集まる時に、自分の結婚相手を紹介したい」と。
ナベちゃんは、同じコーラス部員の中で、色白で痩せてなよっとしていて、全くもてそうになく、女性の中にはいっても違和感がなかった。華奢なので、いじめられっ子タイプだった。

 ナベちゃんは、女の子がどんな無理難題をおしつけても、いやな顔ひとつせず、何でも引き受け助けてくれた。卒業制作も一緒に手伝ってくれた。異性とは思えず、恋の悩みもナベちゃんに相談もした。

 発表会の終了後、ナベちゃんと結婚相手と昔のコーラス部の女性部員が顔をあわせる。
その時、ナベちゃんと結婚相手が、とんでもないことを言う。
「みんなはナベちゃんの友人として、出席するのではなく、結婚相手の友人として式に出席してほしい。そして、結婚相手を賛美する歌を作って、みんなで歌って欲しい」と。

 とんでもない話だ。そんなことはできないと断ると、ナベちゃんはメールで、では式への参加は不要と断ってきた。ナベちゃんが友達を失った瞬間だ。

 実はナベちゃんの結婚相手は、同じ大学でナベちゃんと物理学教室で学んでいた。結婚相手は、教授からセクハラを受けていると学生課に訴えていた。ところが学生課では、結婚相手がとんでもないストーカーで教授は対応を苦慮していたということで、結婚相手を退学処分にする。

 結婚相手は窮地に追い込まれ、ナベちゃんを頼り相談していた。ナベちゃんは真剣に対応した。
 ナベちゃんはコーラス部の女性からは、ナベちゃんは恋すらできず、結婚なんかとんでもないと思われていた。

 でもナベちゃんは、みんなの知らないところで、最高の結婚相手をみつけていた。
彼女さえいれば、コーラス部員に嫌われたって平気さ。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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井上荒野     「あちらにいる鬼」(朝日文庫)

 この前に読んだ山田詠美の「吉祥寺デイズ」に愛欲に溺れた女性作家について何人か例をあげている中に、こんな下りがある。
「既婚者の作家を愛して出奔し、その大胆な筆使いのため男社会の文壇で干されながらも書き続け、出家してなお旺盛な執筆活動に陰りを見せない人」

 この女流作家こそ、先般99歳で亡くなった瀬戸内寂聴のことである。

この瀬戸内寂聴が、子ども2人を捨て、夫のもとから出奔して、走った相手が作家井上光春。そしTこの光春と決別するために、出家。名前を晴美から寂聴に変える。

 この作品は、寂聴が光春のもとへ出奔してから、光春が亡くなるまでを描く。
描いている著者が、光春の娘、井上荒野である。

物語は、瀬戸内寂聴をモデルとしている長内みはると光春の妻の2人の視点で交互に描き、みはると光春、物語では白木篤郎との愛と性を浮かび上がらせる。

 井上荒野の作品と言えば、どの物語も故意に最後まで描かず、ふっと終わり、後は読者が想像して物語を完成させてと問いかけるのが特徴。

 このような作品は、愛欲に溺れて、これでもかと愁嘆場を誇張して描くのが、このような作品の特徴なのだが、井上荒野は、いつもそんな場面を霞ませて、柔らかい表現で淡々と描く。

 しかし、この作品は、流石に父親の乱れた交情を真近でみてきたのか、途中で終わることもなく最後まで描き切っている。文章も感情が迸りそうなところもあるが、何とか思いとどまって、物語の品格は保たれている。

 それは、少し理解不能なのだが、寂聴と光春の妻が、どろどろの憎みあう関係になることを、ぎりぎりでふみとどまり、最後は互いに尊敬しあう関係になったからである。

 それにしても、光春の行為は、愛欲におぼれ、それを正当化するために、だれでもわかる嘘をついてばかり。

 男社会が色濃い時代だから、成り立った物語。とても、現代では成立しえないほどむちゃくちゃな物語だ。

 それから、井上光春は、それほどメジャーな作家ではなかったのに、3階建ての豪邸を建てている。それが読んでいて一番謎だった。

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| 古本読書日記 | 07:23 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田詠美    「吉祥寺デイズ」(小学館文庫)

 週刊女性セブンに掲載されたエッセイを中心に収録した本。

小池知事は、とにかく横文字をやたらに多用する。知事に立候補した時の、キャッチフレーズが
 「メイク トウキョウ グレイト アゲイン!」だった。

その具体的都市のイメージ。
1.ダイバーシティー
2.セイフシティー
3.スマートシティー
これどれもシティーと最後についている。2,3は都市のCITYなのだが、1はDIVERSITYで多様性と言う意味で、都市ではないしアクセント場所も違う。

 これを見て、山田さんの夫が言う。
「こんなにいい加減なら、容量たっぷりの都市ということでCAPACITYを加えればよかったのに。」

 とにかく横文字をたくさんいれるのが流行。
山田さんが、亡くなった、国際的女優山口美江さんのしば漬けのCMをみて、山口さんの思いを書く。
「インターナショナルなシチュエイションに身をおいてグローバリズムをテーマにビジネスを展開していると、ベリータイアードになって、ゴーホームした途端に、ごはんとしば漬けを食べたくなるという内容、あすみません、コンテンツ。すみません。なんか下手なプレゼンになっちゃいました。」

 私くらいの年代では、何とかついていけるが、もう少し高齢になると、新聞なんか読むのがいやになるのではと思う。岩盤層の新聞読者が減る。更に、もともと若年層は新聞は読まなくなっているのに。横文字反乱から少し脱却しなくては、と思う最近。

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| 古本読書日記 | 07:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎  「新史 太閤記」(下)(新潮文庫)

 秀吉は、戦で実績を残して、のしあがってゆくという印象は、この作品を読んでも持てない。かの有名な清州会議でも、調略をはかり、信長の嫡孫、三法師を信長の跡目につけ、自身はその後見人となり、織田家の家政を牛耳り、織田家からその地位を簒奪することを目論む。

 また秀吉は戦をしないで、兵糧攻めや、交渉術を駆使して、相手を屈服させることをその旨としていた。天才的狂言者、調略家であった。

 その調略を駆使し、それがかなわない時は、仕方なく戦って、勝利し、次々各武将を配下にし、秀吉の天下は間違いない情勢になった。

 ところが、秀吉の天下統一を阻む可能性がある武将がいた。それが、三河を治めている徳川家康である。

 家康が存在する限り、西国を征服することは覚束ない。秀吉は家康を調略しようと、色んな懐柔策を弄するが、家康は全くなびかない。

 それでとうとう秀吉は家康と一戦を構える。小牧、長久手の戦いである。それまで、秀吉は戦に負けたことはなかったが、この戦いでは宿敵家康に負ける。

 秀吉は手痛い負けを喫したが、その後もじりじりと勢力を拡大してゆく。そして、家康は秀吉の天下は避けられないと観念し、それまで、秀吉の大阪城での拝謁要請を拒否してきたが、秀吉拝謁を受け入れる。

 秀吉拝謁の前日、突然秀吉が部下数人を引き連れ、家康のもとにやってくる。家康は突然の秀吉の訪問に驚愕する。

 その時秀吉は土下座をして、家康にお願いする。
「拝謁の席では、諸侯の見ている中で、尊大に振る舞う自分に慇懃な拝礼をして欲しい」と。
その秀吉の態度に、家康はぷっとふきだし、「ご心配無用」と秀吉に対し臣従を誓う。

 恥も外聞ない秀吉の狂言まわし、これが秀吉の真髄。これに叶う人間はいない。

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| 古本読書日記 | 06:35 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎   「新史 太閤記」(上)(新潮文庫)

 豊臣秀吉の幼年時代、信長の家臣、明智を討つ山崎の戦いから、天下を取るまでの、主に壮年期までを描いた作品。

 私は、秀吉は、最初から信長に拾われ、そこから破竹の歴史が始まったと思っていた。ところが、この作品を読んで、信長に拾われるまでの前史があったことを知った。その前史が面白かった。

 秀吉は、尾張の国、中村という村で百姓の次男として生まれている。次男のため、家を引き継ぐことはできない。それで寺へ小僧としてだされる。そこを飛び出して、針を売りながらあちこち放浪する。

 そして、尾張の蜂須賀村で村を治めていた、蜂須賀小六の屋敷に飛び込み、小六の家臣にしてくれるよう懇願する。この時、小柄で醜い顔をしていて、その顔が猿そのものだったので名前ではなく猿と呼ばれるようになる。

 秀吉は小六の統治する村が小さく、ここで頑張っても、出世は望めないと思い、小六に「家臣をやめ、別の所に行きたい。されば、どこに行くのが良いか。」と聞く。

 信長は当時、まだ美濃の武将斎藤を駆逐できてないし、信長は狂信的でうつけ者だから、駿河遠州を治めている今川のところに行くのがよいと示唆する。

 それで、秀吉は遠州浜松にやってくる。当時の浜松は飯尾政実が治めていた。飯尾の居城は引間にあった引間城。この引間城に向かう途中で、飯尾の家臣、松下嘉兵衛に出合い、嘉兵衛の屋敷に連れていかれる。そしてとりあえず秀吉は嘉兵衛配下の武士となる。

 私の勤めた会社は浜松にあった。そして、しばらく貸家住いだった。その貸家の大家は浜松の曳馬というところにあった。大家は大きな土地持ちで貸家、アパートを多く所有して、専門学校を幾つか持ち、経営していた。昔から名士で名前は飯尾と言った。

 司馬さんの、この作品では浜松を治めていた飯尾の城は引間にあり、その名は引間城といったと書かれている。大家飯尾さんがすんでいるのは曳馬。引間と同じ発音である。
 それで私の貸家の大家さんは、浜松領主飯尾政実の末裔ではないかと思った。

 さて、松下嘉兵衛の武士になった秀吉は、飯尾、嘉兵衛に連れられ、駿府城主今川義元のところへ行く。そこで、義元が、猿顔をみて、秀吉を避けようとする。そして、義元が美少年を側室において溺愛していることを知り、義元のもとにはいたくないと思うようになる。

 そんな時、何と、秀吉に縁談話がもちあがる。NHKの大河ドラマで有名になった、女城主井伊家井伊直虎の家臣河村治左ヱ門の娘お菊との縁談である。秀吉のような最下位の武士には、あり得ない縁談である。どうしてこんな娘が秀吉のところへなんて。

 実は娘のほうにも問題があった。井伊村には夜這いの風習があり、娘お菊は何回も夜這いにあった、傷物であった。
 お菊は祝言の席で初めて秀吉をみてその体躯、醜い顔に驚愕する。夜になっても、秀吉の床にはいることができない。

 それに衝撃を受けた秀吉は、浜松を離れ、蜂須賀小六の元へ帰る。そこから小六とともに、信長に仕え、出世街道を這い上がることになる。

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黒川博行   「八号古墳に消えて」(角川文庫)

この作品2004年に創元推理文庫より出版されている、黒川初期の作品で、物語に携帯電話も登場していない。

黒川作品と言えば、へんてこコンビが登場して、上方漫才のようなこてこての会話が随所にでて、それを読むのが楽しみなのだが、まだ初期なのか、その特徴が押さえられており、本格派ミステリーとなっている。

 執筆したのは、1990年代。そのころは、日本は考古学ブームに沸いていた。特に関西地方では、宅地や工場用造成工事をすると、その度に遺跡が発掘されるような状態になった。物語でも、その頃の大阪府下の文化財発掘届け出件数が年間8000件にものぼったと書かれている。

 物語では、関西考古学学会の実力者浅川教授が発掘現場で遺体で発見される。それに続いて、同じく発掘現場に組まれた櫓から、研究者が転落して死ぬ。更に、浅川教授の研究室から追放された余沢が、同じく発掘現場から、今時めずらしく、餓死で遺体が発見される。

 この考古学会の闇に、大阪府警の黒田と亀田、通称「黒マメ」コンビが挑む。

作品を読むと、考古学が大ブームにも拘わらず、学界の規模は小さく、閉鎖的。権力者にダメ烙印を押されると、学界からはじかれ、研究場所を失ってしまう。また、土地造成開発業者は、考古学会権威者を、会社の顧問にして、彼らの力を借りて、開発をスムーズにできるよう、役所と交渉してもらったり、開発金額を水増しして、学者にキックバックをしている。

 物語では、学会の閉鎖体質により、事件が発生するようになっている。
そして、事件には共犯者が存在する仕立てになっている。複数の犯人がいることが、物語に膨らみをもたせ、面白くしている。

 黒マメコンビ。楽しい会話があまりないが、そうは言っても黒川作品。いくつかこれだと思う会話がある。

 「マメちゃんよ。何ぞ天王寺に用があるのかい。」
 「ターミナルビルの名画座で『アンタッチャブル』をやってますねん。あれ今日までやし、見逃したら一生悔いが残る。」
「ビデオでみたらええやないか。」
「映画いうのはね、黒さん。勤務中にみるからおもしろいんよ。」

そうなんだよ。会社時代がありありとよみがえってくる。

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堂場瞬一    「誤断」(中公文庫)

 私の勤めていた会社の社長はことあるごとに「悪いことは早めに私のところへ報告してください。」と言っていた。対応を間違えると、とんでもないことになるからだ。

 最近は、コンプライアンスという観点から、リスクマネイジメントは当然のように言われ、社長のかけ声はどこの企業、組織でも当たり前のことのように思われるが、実態はそうなっていない。

 何か失敗、不祥事が発覚すれば、それを何とか表にでないよう、懸命の手立てをする。
表にでても、被害を最小限に抑えるため、肝心なことは曖昧にしたりして、明白にしない。

 この物語の製薬大手、長原製薬、40年前工場の廃液タンクが台風で破壊され、廃液が海に流れだし、それで汚染された魚を食べた人の5人が死亡。その時は金で解決したが、40年たって、同じ症状が出る人が何人もでる。また、新製品の薬の危険な含有物の表示を間違えて、記載もれを起こしてしまう。その結果3人が、精神がおかしくなり心臓が止まったり、電車に飛び込んだりして死ぬ。

 長原製薬の社長は力が無く、副社長の安城が実験を握っている。安城は広報部の若手主人公槇田を使い、この問題の発覚を抑えようとする。

 槇田は安城の命に従って、懸命に問題発覚の抑え込みを図るが、その途中でこのやり方は間違っていると思いを変え、安城に歯向かうようになる。

 そして、お決まりのように、安城は歯向かった槇田に負け、追放されよかったということで物語は終わる。
 しかし、現実は物語のようには中々ならない。だいたい、不祥事は表にでないで、隠し通されてしまう。悲しいことだが。

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アンソロジー 「1日10分のぜいたく」(双葉文庫)

NHK WORLD JAPANのラジオ番組で、世界17言語に翻訳、朗読された短編から10編を収録。佳品ばかりなのだが、沢木耕太郎の「ピアノのある場所」が印象に残った。

 主人公のユミコは次の土曜日、福島に引っ越す。お父さんが突然仕事をしなくなり、お母さんはスーパーのレジ打ちの時間を今より延長したが、生活費が賄えず、福島のおじさんの家にお母さんと妹と3人で引っ越すことになったのだ。お父さんは一緒に行かない。どうしてか、わからないが。

 そして今日は仲良しのマリちゃんとお別れ会の約束をしてマリちゃんの家にきている。

ところがマリちゃんはミドリちゃんの家へ行っていて、家にはいない。ちゃんと約束していたのに。マリちゃんの家には、大きなテレビもあるし、きれいな白いテーブルもあり、お母さんがおいしいお菓子をだしてくれる。もうすぐ帰ってくるからとお母さんが言う。しかたないので、音楽の先生が教えてくれたピアノを弾く。そして、こんな家にいれたらなあと思う。

 マリちゃんは帰ってこない。ミドリちゃんの家に電話しても来てないよとの返事。まちがえて、自分の家に来ているのではと思って電話してもいない。

 おとうさんもおかあさんも心配になる。ユミコは仕方ないのでまたピアノを弾く。そこにマリちゃんから家に電話がくる。「ずっと本屋で漫画を立ち読みしてた。」と。

 少し悲しくなって、ユミコはマリちゃん家から外にでて、自分家に向かう。
ユミコはそのまま帰らず、お母さんのスーパーに立ち寄る。お母さんが髪を振り乱して働いている。お父さんが仕事に行かなくなって、お母さんは急に老けて、小さくなった。声もかけられない。 

 家に帰ると、お父さんがごろんと寝てテレビを見ている。
ユミコはまっすぐトイレに飛び込む。そして、思わず泣いてしまう。

 ユミコのひとりぼっちの切なさが際立っている。

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中公文庫編集部   「チーズ読本」(中公文庫ビジュアル版)

 チーズの種類からその製法、歴史、チーズを使用したレシピなど、チーズについて解説した作品。

 小学校の頃、初めてチーズを知った。当時は雪印のプロセスチーズだった。その後、親父がどこからかチーズをもらってきた。その時、それがチーズとわからず、石鹸かと思って風呂場においておいたら、どえらく叱られた。正直チーズは匂いも強く、おいしいものでは無かった。

 しかし、今やチーズ全盛時代である。ワインのあてとなると殆どがチーズ。
以前はデザートと言えば、甘いケーキかフルーツ。最近はチーズがデザートとして振る舞われることも多くなった。

テレビで料理紹介をみると、洋食やファーストフードはどの料理にもたくさんのチーズを挿入したり、ぶっかける。何か、調理のいたらなさをチーズでごまかしているのではと思うほど。

 チーズは、大量のカルシウムが含まれ、しかも体への吸収力も大きい。200ミリグラムのカルシウムを摂取するためには、牛乳なら200ml、チーズなら35gでたった2切れ。

 これを欧米人は朝食から接種。最近は昼食に時間をかけてとることは無くなり、パンとチーズで過ごす。だからとんでもない量のカルシウムを毎日摂取する。

 なるほど、欧米人の骨格がしっかりしていて、ガタイが大きいのは、カルシウムを毎日大量に摂取しているからか。日本女性が老齢になると、腰が曲がって、車を押すようになっている姿は、カルシウム摂取量が少ないことにより起こっているのだそうだ。

 フランスの若い男の子、女の子は殆どニキビがでない。これはチーズの青かびに含まれるペニシリンがニキビの発生を防ぐから。

子どもの頃のトラウマがあるのか、未だにチーズになじめない。だからワインもたしなむ機会も少ない。少し損をしているのかもしれない。

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アンソロジー   「中央公論文芸欄の明治」(中公文庫)

 今でも刊行されている、雑誌「中央公論」は、明治32年に創刊されている。明治時代にその「中央公論」文芸欄に掲載された短編10編が収録されている。 

 漱石、鴎外、藤村、谷崎の作品ももちろん収録されている。

 その中から、国木田独歩の「竹の木戸」を紹介する。

 会社員をしている、大場真蔵の家は祖母と病気がちな細君、細君の妹お清、七つになる娘の礼ちゃん、それから女中のお徳の5人に真蔵を加えて6人が住んでいる。

 真蔵の敷地内には小屋があり、新蔵の家とは生垣で区分けされている。小屋には植木屋夫婦が住んでいる。植木屋は仕事については不真面目で時には10日も仕事にでないことがある。そのため、植木屋夫婦は飯にも事欠くほど貧乏な生活をしている。

 植木屋の要望で、生垣に通路を作って、真蔵の家と植木屋が通りやすいようにする。

 ある日、真蔵が家で留守番をしていると、隣の植木屋の女房お源が真蔵の家の敷地にはいり、
真蔵の家の炭を盗んでいるような動作をするのを真蔵が見てしまう。

 真蔵は、家族や女中は犯人はお源に間違いないと主張するのだが、根が優しいので何も言わず見過ごす。
しかし、同じことが続いて、炭をお徳の部屋の土間に移す。

 お源はこれで、自分が炭を盗んでいたことが知れたと認識する。しかも、もう炭を入手する手立てを失う。

 するとある日主人の植木屋が炭を抱えて帰ってくる。どうしたのと聞くと、少し遠いところの炭屋で買ってきたと主人が答える。

 翌日、真蔵の家が大騒ぎになっている。炭をごっそり盗まれたと近くの炭屋の主人が騒いでいる。

 その炭は佐倉産の高級炭で、炭に佐倉と銘が掘ってある。と。
それを聞いた植木屋のお源。炭を確認すると、炭には佐倉と書かれている。そして、お源は首を吊って死ぬ。

 まだ、完全に口語体文章が確立されておらず、江戸時代からの浄瑠璃、落語調の文体が混ざる。それが、哀切な物語を一層悲しくさせる。

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山内マリコ   「買い物とわたし」(文春文庫)

 週刊文春に掲載された、山内さんの買い物エッセイ。

 女性というものはなんて書きだすと、今はセクハラと言われかねないので、女性の多くは、と書き出す。

 多くの女性は例えば、通勤途中の駅前ビルを通ると、寄り道をしたくなり、ちょっとした店に用もないのに入ってしまって、ヘアーゴムとか、メモ帖、ポーチ、フォトフレーム、リスやハリネズミがついたキーホルダーなど小物を買ってしまう。買い物が大好きなのである。

 これが嵩じると、ちょっと高級、高額な商品を購入するようになる。もちろんその商品に出合った時は購入するか少し迷うが、結局林修ばりの「今でしょ」という心の叫びにおされて、何か納得するリクツを付けて買ってしまう。

 山内さんが買ってしまったもの。トートバッグ12万8000円、水着2万円。パンプス7万8000円。4Kテレビ25万円、財布9万2000円。そんなお金がいつも財布に入っている時があるだろうか。
 そしてびっくりしたのは傘1万円。

 そんな傘を持って、どこかの店に入ったとき、入口の傘立てにさして、店に入るのは、不安にならないだろうか。誰かに持っていかれるのでないかと。

 バターは450グラム入り1500円のカルピス製のバターを食するそうだ。バターは都度金紙を使う分だけ破いて使うのは面倒。

 それで、老舗琺瑯メーカーの野田琺瑯の保存容器を使う。450グラム用で3300円である。我が家はプラスチック容器である。バターは殆どパンに塗って食する。

 我が家はヤマザキ5枚いりの食パンだが、山内家では、ヤマザキパンではなく高級パンなんだろうな。

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上田秀人    「維新始末」(中公文庫)

 幕末、江戸においても、薩摩藩士を中心に勤王の志士を騙る浪人たちが跋扈し、街の至るところ殺傷事件が頻発し、暗く不安が覆う状況にあった。街の秩序維持、幕府を守るために主人公榊扇太郎と江戸の顔役が立ち上がる「闕所物奉行 裏帳合」シリーズ完結編。

 闕所というのは、幕府の配下の武家、旗本や御家人あるいは大名などが、謀反や事件を引き起こし、御家取り潰しや改易にあった際、屋敷に残された品々を指す。

 この闕所入札価格を決める査定人を闕所物といい 奉行より指定される。入札価格で販売された品代は幕府の収入となる。この査定人に指定されると、禁止されているのだが、査定人は一部の品々を低く査定し、自らが購入、これらを販売して、莫大な利益をあげる。この物語に登場する天満屋は、指定査定商人である。

 主人公榊扇太郎は天満屋の用心棒をしている。
当然、天満屋、榊扇太郎は、勤王志士である薩摩浪人とは敵対。物語は薩摩浪人と幕府体制を維持しようとする、天満屋や顔役との抗争が作品では描かれる。

 この物語で面白いと思ったこと。
最初の長州征討では、幕府は長州に勝利するが、その後、薩長同盟が成立して、次の長州征討では幕府が敗戦する。

 この時、幕府軍は旗本、御家人を総動員して、数万の武士を長州に派遣する。しかし、この時の武士は、戦国時代の武士と持つ武器は同じだった。刀、薙刀、鉄砲など、相手を定めて、相手の体を殺傷させねばならない。古来の一対一の戦いが基本。
 これに対し長州は大砲を創ったり、輸入して使用する。

 この武器は、相手を狙い、砲弾が当たらなくても、相手がいる近辺に落とし爆発させると、その近辺にいる人は、まとめて殺傷することができる。

 しかも大砲を打つことは、剣術や鉄砲術を訓練し、取得する必要ない。
ということは、武士と関係ない、百姓など一般人を戦闘員として活用できる。

 戦闘は武士がおこなうものという制限をとっぱらい、戦闘を一般に開放、徴兵という制度により戦った長州に軍配があがった。
なるほどと思った。

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堂場瞬一    「ルーキー」(中公文庫)

 新人刑事一ノ瀬拓真シリーズ第一弾。
一ノ瀬拓真25歳、交番勤務から千代田署刑事課強行犯係に新米刑事として転籍。何とその初日に殺人事件が発生する。一ノ瀬は教育係の藤島刑事のもとで、事件の真相を追求する。

 殺人死体を見て血の気が失せたり、捜査も当然、初めての経験だから、頓珍漢の場面があったり、一ノ瀬が刑事として成長過程を描くため、少しまだらっこしい。いらいらしたり、成長過程が面白かったりして、ちょっと読んでて右往左往。

 物語で殺されたのは、今をときめく、ITのコングロマリット大企業のザップ・ジャパンの若干31歳で総務課長の古谷。ザップ・ジャパンは、IT企業を買収につぐ買収を繰り返しグループで8000人をかかえる大企業に成長。その総務課長は買収した傘下の企業に対し過大な利益実績を要求して、その尻を叩くのが重要な業務。

 古谷は、株式上場を予定している子会社のビジネスリサーチ社が粉飾決算をしていることを掴む。そしてビジネス・リサーチ社を脅迫。そのため、ビジネスリサーチ社の総務部長の計画により殺害される。

 総務部長の金沢が殺人実行者に対し、指示をする。

「わかってるんだろうな」
「はっきりおっしゃっていただかないと。」
「会社を守るために何をすべきか君ならわかるはずだ。」
「はい・・・」
「だったらすぐやるべきことをやりなさい。そして君一人の胸にとどめておくんだ。」
「つまり、古谷を・・・」
「私は何も言わない。君が判断しなさい。上手くいけば、当然君の将来についても考慮する。」

権力者は、決して責任はとらないという内容。ちょっと陳腐。
粉飾が言葉だけでなく、具体的方法が描かれていたら、もう少しリアリティがでて良かったのではと思う。

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今野敏    「膠着 スナマチ株式会社奮闘記」(中公文庫)

 この作品、最初と結末がはじめに決まっていて、その間の物語は、想像だが、今野を含めて何人かスタッフがいて、みんなでアイデアを出し合って中身を決めていったのでは思った。

 最初の設定。スナマチ株式会社は接着剤を開発販売する会社。新製品を開発しようとしたのだが、失敗する。そこで、社内からメンバーを集めて、画期的な商品アイデアを募る。

 更に、スナマチに対し、アメリカの接着座剤会社世界最大手からTOBをしかけられそうになっている。

 そしてその対応に、経営陣が対立する。
結末は、若い主人公の新入社員松橋のパソコンの冷却装置に使用する新製品「合成グリス」の開発に成功して、TOBを回避する。

 物語を支える、結論に至るまでの中身が異常に長い。そして、内容も全く無い。

 物語では、理想に近い商品開発に失敗したというだけが延々と語られる。しかし肝心の理想の具体的中身が全く語られない。
 それで、それに代わるものを開発するために、様々の部門から社員が集められ延々と会議が続く。いきなり、新製品をどんな商品にするか問われてもアイデアなどでるものではない。

 こんな場面がだらだら続くと、飽きが来てしまう。
今野の作品はこういうタイプの作品が多い。多作がうりの今野だから仕方ないのかもしれない。

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堂場瞬一    「見えざる貌」 (中公文庫)

 新人刑事一ノ瀬拓真シリーズ第二弾。

 近年は~ハラという言葉が悪の表現として流布している。まずはセクハラから始まりパワハラ、マタハラ、カスハラそれに最近ではモラハラ。

 モラハラはパワハラに似ている。パワハラは権力者」や上位に位置する人が、下位の人に対し、非人間的な言葉や暴力をふるい、下位の人を貶める行為。これに対しモラハラは力関係は対等だが、相手に対し暴言をはいたり、相手を追い詰める行動をしたりすること。例えばいじめの一つで相手を無視したり、口をきかないといった行動はモラハラ。

 この物語はモラハラを扱っている。その典型的例として、前記、口を利かないことが物語に例示されているが、他に、家庭内で、気に食わないことがあると、ふすまを強烈な音をさせて怒って閉めるなんて行為もさしはさまっている。

 セクハラやパワハラは法律により取り締まれるが、モラハラは法律で取り締まる概念は無いし、そのことが殺人など事件になるようなことは考えにくいからである。

 しかし、この作品を読むと、モラハラも事件を引き起こすのではないかと思ってしまう。

 タレントの春木杏奈と大西礼一郎は高校時代から付き合っていた。その後、大西は大学へ、杏奈はコンテストで入賞し、タレントとなる。杏奈はタレントになっても鳴かず飛ばずで、全く仕事が無い。そんな苦しいとき、懸命に大西は杏奈を支える。

 例えば、マンションで夕食を作って、杏奈を待っているが、杏奈は自分はタコ焼きを食べたいと言ってまた外へ出てタコ焼きを買ってくるとか。大西は、杏奈と生活することがたまらなくなり、大学卒業と同時にマンションから飛び出て2人は別れる結果となる。

 その杏奈が、ランナータレントとして活躍するようになる。もう大西も社会人となり、杏奈のことは忘れかけているときに、ラジオで杏奈がゲストとしてでている番組をたまたま聴く。
 そこで杏奈が告白する。自分は男運が悪いと。昔付き合っていた男は、自分が料理を創って家で帰りを待っていると、料理には手を付けず、外のラーメン屋に連れていかれる。とか、杏奈の持っているCDを、自分以外の男のCDは持っていてはいけないと全部捨てさせられると。実際は杏奈が行った行動なのに、全く真逆なことを言う。

 これに、大西があの野郎め、と怒り事件を引き起こす。

  モラハラを行う人は自己愛が強く、起こったこと、起こしてしまったことは、すべて他人のせいにして、自分は全く悪くないと思う人なのだそうだ。
 ネットによる他人の中傷もモラハラの典型のように思えた。

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堂場瞬一   「神の領域 検事城戸南」(中公文庫)

 ボストンマラソン、オリンピックマラソンで優勝経験のある久松、今は湘南大学の陸上部の監督で、無名の湘南大学を、箱根駅伝で2位にまで押し上げた、名監督との誉が高い。

 その久松が言う。陸上競技では2つ怖いことがある。
一つは怪我。もう一つは壁。

 壁は選手によっていつやってくるかはわからない。二十歳で来る人もいれば30歳を超えてくる人もいる。
 そして壁を迎えると、何をやっても、どうしても超えられない。

久松がオリンピックマラソンで優勝したとき、最後はケニアのパトリック選手との一騎打ちとなった。2人は並んで競技場に入ってきた。ところが残り100Mというところで、久松の足が吊って、走れなくなった。パトリックはそのまま走り、久松を引き離す。足が動かなくなった久松が、その時お尻をパンパンと叩く。すると不思議なことに、急に久松は元気になり、猛スピードで走りだし、パトリックを追い抜き20Mの差をつけ、テープを切り感動的な優勝を飾る。久松が壁を越えた瞬間である。

 物語、湘南大学や、陸上の名門企業前田運輸の陸上部選手が突然心肺停止で死ぬ。これらの死の、黒幕は物語の早い段階で久松だろうと想像できる。

 壁は決して、努力や地をはうような練習では超えられない。
 壁を超える瞬間が経験できるのは、薬の力、ドーピングで実現するしかない。

この作品の主題はミステリーでもあるが、それ以上にエンターテイメントの要素が強い。
特に主役である、城戸横浜地検検事とその部下である大沢と女性検事事務官の美希の人物造型がよくできていて、3人の言動、行動が本当に面白い。

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山内マリコ   「東京23話」(ポプラ文庫)

 東京23区それぞれ区が主人公となって、区の特徴や、歴史にまつわることを物語にしている。

 最近のことは知らないが、私が就職活動をしていた頃は、大学が地方大学だったので、就職試験の時や、入社前研修で集められたときは、会社が交通費と宿泊費をくれた。

 それで、いつも上野駅近くに宿をとって、当時の後楽園球場に野球を見に行った。
もちろん、銀座や新宿、渋谷は当時から大繁華街、歓楽街だったのだろうが、少しくすんでいたが、上野、浅草も大きな歓楽街だった。

 浅草六区は、浅草寺の広大な境内を、明治政府が日本にも西洋式の公園を創ろうと、田圃の土を掘り上げ、創った公園。この六区が一代歓楽街になった。

 一時期、浅草オペラで風靡した劇場常盤座。なにしろ最盛期には劇場が30以上軒を連ねた。日本初の映画館である電気館があり、ストリップ劇場の殿堂ロック座もあった。

 エノケンを筆頭に、浅草で活躍していた芸人はたくさんいた。
渥美清、三波伸介、伊東四郎、東八郎、萩本欽一、伴順三郎。

 そんな浅草がなぜくすみ、おちぶれてしまったのか。
それはテレビの登場だった。ごっそり芸人をテレビが連れ去ったから。今のテレビ局は浅草芸人とともに発展してきた。

 タケシも浅草芸人だったが、遅れてきた芸人。
それでも、タケシ一人で、テレビ界を席巻した。

 東京に勤めたことが無いから、就職依頼50年近く浅草に行ったことがない。
あの、くすんで、ただれた雰囲気の浅草はどうなっているだろうか。いつか再訪してみたい。

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山内マリコ  「メガネと放蕩娘」(文春文庫)

 私の住んでいる地方都市は、地方都市にしてはめずらしく、転入者が転出者を上回り、すこしずつ人口が増加している。それでも、街は活気は無く、老人ばかりで、駅前は地方中小都市の特徴でシャッター街になっている。

 少し前まで、指名されて、市の街造り推進協議会メンバーになっていたことがあった。
その時、駅前の活性化をどのようにして実現するか自由にアイデアを述べてほしいと言われて、「いろんなパン屋を誘致して、パン通りにしたらどうですか。」と言ったら、委員や市職員に冷たい目線で見つめられ、いやな思いをした。ちょっと面白いアイデアだと思ったのだけど・・・・。

 この物語は、シャッター街で書店を営んでいる家の、市役所に勤めている長女と都会に出て行って、子どもを孕んで帰ってきた次女を中心にシャッター街を活性化させようとチャレンジする物語。
 安直に考えるのが、さびれた商店街で何かイベントをやろうということ。この物語でも、
市に大学があり、そこの女子大生に協力してもらい、ファッションショーをやる。
 イベントだから、派手な音楽をならしたりして盛り上げる。すると警察がやってくる。
警察にあちこちの住民から、「音がうるさい」とクレームがよせられている。もう少し静かにやってくれと。

 面白いと思ったのは、女子大生がいるから、空き家をシェアハウスにして安く貸し出そうというアイデア。
 街が活性化したり、文化の香りを醸成するためには、学生がいて、いつも街でみかけるようになる。学生を中心に街が出来上がれば、街らしい街ができあがる。

 それから、フリーポケットという街作り。
これは、名もない芸術家が自分たちの作品を持ち寄り、展示販売をする場所を提供する。作品や展示品は毎月変わるようにする。なかなか面白いアイデアである。

 物語は、主人公の娘2人が中心になって奮闘するが、最後は地権者たちが市に陳情して、シャッター街を潰して再開発することになる。ちょっとせつない結末。

 山内さんは、いつも地方都市のさびれゆく様を、すこしくすんだ文章で描くが、この作品は作風を一転させ、活性化顛末記を、ユーモアたっぷりに楽しく描いている。

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松村美香   「老後マネー戦略家族」(中公文庫)

 実家が、ド田舎で、農業とか林業に従事していると、子どもはすべて実家には残らないで、都会に行き、そこで就職して、生活基盤を築く。

 人間は必ず死ぬし、その前に体が衰える。困るのはそれがいつやってくるかわからないこと。
この物語の主人公の実家は和歌山の山林地帯で、家は林業で生計をたててきた。

 父親の老後資金は、林業には定年はなく、死ぬまで続けるつもりだったので国民年金に加入しておらず、林業のかたわら、時々勤めていた紡績工場の厚生年金があるだけ。それで今の年金支給額は月6万円。これで老夫婦が暮らしている。

 父親はまだら認知症に罹っている。母親が面倒をみているが、いつ母親が体が動けなくなるかはわからない。

 それで、今、この親をどうするか息子娘たち夫婦が実家に集まって話し合っている。実家は、長男夫婦が大阪にいて、頻繁に2時間かけお嫁さんが面倒をみに通っている。

 両親の前で、誰かが引き取るべきと相談しているが、これがまとまらない。しかも母親は「誰の世話にもならない。この村から出たくない。」と強情に言い張る。

 わあわあ言っている途中で、父親の国造がどこかへ行ってしまい、いないことに気付く。
みんなで手分けして探すが見つからない。そこで長男の嫁の千恵美が、警察や自治会、消防団、民生委員に届けようと言う。
 しかし姑が、「それだけはやめてくれ。世間体が悪いから」と言う。

その後の、千恵美の言ったことが強烈。
「世間体が気になるなら、放っておけばいいのですよ。介護も必要ないし、ちょうどいいじゃないですか。」

 私も老人に足を突っ込んだ。ひどいなあとは、思うが、言いたい気持ちはよくわかる。

この作品で、少し驚いた。

 最近は、地域で講師を呼んで市民講座、地域講座がしょっちゅう開催されている。ここでの講師、タレントのような有名な講師は料金が高くて呼べない。それで、講師料が高くない講師を呼ぶ。

 こういう講師は、コンサルタントという名目で講師をあちこち掛け持ちする。
こんな講師は、お金をかけて自費出版で何冊か本をだすそうだ。

 市や地区の人が、呼ぶ講師を決める判断が、本を何冊出版しているかで決めるからなのだそうだ。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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吉田修一    「国宝」(下)(朝日文庫)

 喜久雄、3代目花井半二郎は、上方を諦め、東京に進出する。そこで、失踪から帰ってきた千代花井半二郎の息子俊介、芸名花井半弥となり2人で美しく妖艶な女形を演じ、歌舞伎界を席巻する。

 下巻では、半弥の物語が胸を打つ。
半弥は花井の名跡、襲名披露をすることになる。

 そして、歌舞伎座の舞台で半弥は花道から落ち骨折。病院に担ぎ込まれ、そこで、糖尿病からくる足が壊疽になっていると診断され、片足を切断することになる。

 もう舞台にはたてないと思え荒れたが、懸命にリハビリをして、一年後喜久雄(半二郎)とともに「与話情浮名横櫛」で復活する。

 この「与話情浮名横櫛」から私が幼い頃誰でも歌った経験がある春日八郎の「お富さん」が生まれている。これで、俊介(半弥)、喜久雄(半二郎)コンビは完全に復活する。

 ところが、ある日、俊介(半弥)が定期検査で病院に行くと、残った足も壊疽にかかっていると診断され、残った足も切断しないといけなくなる。

 2本足が無くなっても俊介は舞台に立とうとする。それを喜久雄が懸命に助けて舞台を創りあげる。

 最後演目「隅田川」で俊介が舞台で倒れ血を吐く場面は、この物語を通じて、最も迫力があり、鳥肌がたつほどだった。

 この義足の場面を読んで、以前皆川博子の「花闇」で知った上方歌舞伎で義足で舞台にたった3代目澤村田之介を思い出した。小説「国宝」は澤村をモデルにしているのかと一瞬思ったが、澤村は明治維新のころ活躍していた俳優だったことを思い出し、それは違うなと思った。

 ということは、作者吉田の創作か。そんなことを思いつくとは吉田は本当に恐ろしい。それも、こんなにリアルに描けるとは。溜息が止まらない。

 この作品は、これでもかという限り、次々逆境が襲ってくる。しかし、「歌舞伎芸術」を極める情熱が逆境を克服する。
 その殺気立つほどの姿勢が、読者を圧倒する。

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| 古本読書日記 | 06:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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吉田修一    「国宝」(上) (朝日文庫)

 主人公の立花喜久雄は長崎の侠客立花組の跡継ぎとして生まれたが、組が抗争で敗れ、大阪の歌舞伎大御所、2代目花井半二郎に引き取られ、歌舞伎俳優として育てられる。その喜久雄が、3代目半二郎を継ぎ、最後人間国宝になるまでの生涯を描く。

 作者吉田は歌舞伎にもともと造詣も深かったのであろうが、それにしても歌舞伎を徹底的に調べ作品を創る。

 読者は、歌舞伎ファンもたくさんいるとは思うが、一般読者にとっつきにくくなることを防ぐために、難しい表現は避けです・ます調の文体を使う。更に、たくさんの歌舞伎の演目をやさしく、その見どころ、演じどころを多くさしはさむ。その解説が非常にわかりやすく、
歌舞伎の芸術としての深さを読者は知り、まるで目の前で名人が演じているように読者に感じさせる。見事である。

 上巻では、喜久雄が2代目花井半二郎に引き取られ、歌舞伎俳優になるため、半二郎に徹底的芸が仕込まれる。しかし、半二郎には跡目を継ぐべき息子俊介がいて、幼いころから半二郎にも芸が仕込まれる。

 この半二郎が交通事故にあい、舞台に上がれなくなる。半二郎の代役に驚くことに息子俊介ではなく、喜久雄を指名し、半二郎の名前も喜久雄に譲る。

 愕然とした俊介は、北新地のクラブのママ春江とともに失踪する。
当時の上方歌舞伎は青息吐息の状態。半二郎3代目を襲名した喜久雄が長期公演を張っても、客が入るのは最初の3日間くらい。後は閑古鳥が続く。

 テレビや映画に興業会社三友が無理やり半二郎を押し込むが、テレビは出演拒否、映画はでるが、半二郎の演技が映画に向かず、出演俳優から総スカン。歌舞伎の舞台にもたてず、だんだん追い込まれてゆく。

 そんな大変なころ、三友の竹野専務が、鳥取県の三朝温泉のストリップも行っている場末の芝居小屋に出演している、失踪中の俊介を発見する。

 そんな田舎芝居のあいまに登場した俊介の踊りにすべての観客は飲み込まれ感動する。
失踪10年後である。

 この踊りの場面が本作上巻の最高の読みどころ。
この後、俊介、喜久雄はどうなるだろう、興奮しながら下巻に進む。

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桐野夏生    「バラカ」(下)(文春文庫)

 上巻が幼子売買市場で売られたバラカの運命はどうなるというところで終了し、下巻が楽しみだったが、下巻はバラカが東日本大震災で被災、バラカの運命探求の物語ではなく、大震災、原発事故に焦点が移り、期待した物語とは違う物語になっていて、拍子抜けする。

 それでも、桐野さんの描く東日本大震災は、現実の震災と異なり、原発4基すべてが爆発炎上し、放射能は関東を含んで東日本全部に拡散し、東京も高濃度の放射能に汚染され、結果東京も含め東日本の人々が関西以西に移動。天皇の住いは京都御所に移され、首都は大阪に移転されてしまうという大胆な物語になっている。

 下巻ではバラカという名に変わっているミカが生き残り、原発推進派と反対派の象徴として、ぐるぐる運命が変わる物語になっている。

 この作品を読むと、原発を新設したり、維持するためには大きな金がかかり、この金が政治家の手元に渡っていることが想像されるようになっている。

 そして政治家は国民に寄りそうなどという目的で動くことは無く、お金ほしさに活動していると思われる。

 しかも、国家は、捜査当局とつるみ、反対派を自殺、交通事故にみせかけ、殺害する。とにかく警察や検事は、政治家とつるんでいるため、まともな捜査をしようとしない。

 中国や北朝鮮ではありうることのように思うが、この日本でもあるのだろうか。
まったく恐ろしい。

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| 古本読書日記 | 06:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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桐野夏生      「バラカ」(上)(文春文庫)

 上巻の半分は2つの話が平行して走る。

 一つは、広告代理店に勤める川島を巡って、川島と結婚している、テレビ局のプロデューサーの田嶋優子と学生時代から親友の出版社編集部員である木下沙羅との関係の物語。

 川島は、女たらしで生活もだらしなく、優子との夫婦関係も行き詰まり、離婚をしたばかり。実は、沙羅は川島が優子と付き合っていることを知りながら川島と関係を持ち、妊娠し、中絶をした経験を持っている。

 その経験から、結婚はしないが、子どもは欲しいという強い要求を持っている。そして、母親や周りの強硬な反対を押し切り、中東ドバイにある女子売買の市場スナークに行き、幼子を買いに行く。女子売買の実態が番組にできるか確認するため、優子もついてゆく。

 もう一つは日系ブラジル人のロザとパウロの物語。ロザは幼い時、両親に連れられ日本にやってくる。浜松の自動車工場に父親は勤める。父親は勤勉家で、一軒家を持てるくらいになるまで頭金だけど金をためた。家をそれで持ったのだが、眼を悪くし仕事ができなくなり、工場をやめる。これでローンが払えなくなり、家を手放す。

 パウロはその時、同じ工場に働いていてロザと知り合い結婚をする。すぐ子供ミカが生まれる。このミカがパウロになつかない。ロザはキリスト教の一宗派である「聖霊の声」に入会し、子育てを放ったらかしにし、熱心に活動する。2人の関係は最悪となる。しかもリーマンショック不況で、パウロは馘首される。
この苦境を打開するためには、一家で景気のよいドバイにいくしかないと決意してドバイにわたる。

 ある日、パウロが家に帰宅すると、妻のロザも娘のミカもいない。懸命に捜索すると、妻はナポリで水死体となってみつかり、ミカは男に攫われ、スナークに捕らわれていることを知る。「聖霊の声」から金を借り、ミカを引き取りに行くが、ミカはタッチの差で、沙羅と優子に引き取られていた。

 この沙羅とミカに東日本大震災が被さる。津波により、沙羅は犠牲になる。
これはダイナミックな構図。桐野でなければ思いつかない物語。
 すごいと感心し、下巻に向かう。

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谷崎潤一郎   「お艶殺し」(中公文庫)

 谷崎は、幾つかミステリ作品を書いている。この本はその中の「お艶殺し」と、有名な作品「金色の死」を収録している。「金色の死」は別の文庫で既読だったので、ここでは「お艶殺し」について感想を書く。 

 駿河屋の番頭新助は、駿河屋の一人娘お艶を恋していた。そして、お艶も新助を恋していた。しかし、番頭と娘が添い遂げることは不可能。2人は決意し駆け落ちして。船頭の清次のところにかくまってもらう。

 清次は、子分の三太に新助を外に連れ出し、新助を殺すように密かに指示していた。
新助は三太に連れ出され殺されそうになるが、返り討ちにして三太を逆に殺害する。そして清次の所へ引き返すが、お艶はどこかに消えていなくなっていた。

 新助は何とかお艶を見つけて愛を確認し、その後に、自首しようと考えていた。
お艶は、ヤクザの徳兵衛に、売られ芸者をしていることがわかる。
吉原に売られると娼婦にされてしまうが、芸者なら、売春は断れるので間に入った徳兵衛から芸者の置屋に売ったと言われる。

 更に、お艶からも、言い寄る客はいるがすべて断り愛しているのは新助だけと言われる。
その後、お艶を拉致したり、お艶に言い寄る金持ち男など、新助は人殺しを重ねる。

 そして、色々な危機を乗り越えて、新助とお艶、2人で生活を始める。

しばらくすると、お艶の帰りが遅くなったり、翌日になったりする。お艶が、わざとらしい言い訳をする。しかし、新助いかにうぶでもこれは怪しいと思いお艶を問い詰める。

 しかも、すでに新助は人殺しをしている。谷崎は人殺しをしてしまった人間の変化を強烈な表現で描く。

「あまたの血だらけの罪業から出来上がった夫婦の間には、やはり血だらけな刺激がなければ互いの楽しみが薄いように感ぜられた。彼は人間の顔さえ見れば、すぐにその肉体の惨たらしい死骸になった光景を想像した。どうしてもまだ一人や二人は、彼の手にかかって非業の最後を遂げる者がありそうに考えられた。」

初心な新助の変化の過程が面白いし、描写が卓越している。

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| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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清水由美    「日本語びいき」(中公文庫)

 著者清水さんは、外国人に対し日本語教師をしている。その道の権威者である。

のっけからびっくりする。

 ア行の次にカ行がくる。その発音方法が書かれる。
「ア行の次はカ行がきます。カ行に使う子音は、舌の奥の方を持ち上げて上あごの奥の方にくっつけて作りあげます。しかるのちに母音のアを発音すればカになります。再び舌を持ち上げて上あごにくっつけてからイと言うとキになる。同様にウエオと言うと、クケコになります。」

 へえ、こんな教え方をするのか。自分で試してみる。確かにこの通りに発音している。でも教えるのは大変だ。

 今でもよく言われるが、日本語はあいまいだから、論理的な文章には向かない。自分はどう思い、どう行動するかをあいまいにして、はっきり言わない。

 しかし、日本語はそんなことを言わなくても、何を言っているか、明白にできるシステムが出来上がっている。省略してもわかるのなら、合理的な言語ということになる。

 日本語は基本的に述語中心の言語である。

それに対して英語は常に主語を要求する言語である。
It is fine day.There is a cat on the table.
それは天気が良い日である。そこには、机に乗った猫がいる。とは訳さない。こんな文にまで主語をつけるのである。

 日本語は述語に変化を持たせて、それは誰が言っているのかわかるようにしている。
「お酒を召し上がりますか。」「ええ、飲みます。」「ええ、いただきます。」「ええ、召し上がりますよ。」「うん、飲む飲む」というように。

 広島の原爆死没者慰霊碑に碑文が刻まれている。
「安らかに眠ってください。」「過ちは繰り返しませぬから。」

これが英訳となると
「Let all the souls here rest in peace.」「For we shall not repeat the evil.」
となる。なるほどとは思うが、なんとなく日本語のあいまいさは残るなあとも思う。

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葉室麟    「冬姫」(集英社文庫)

織田信長の次女として生まれ、日野城城主、蒲生忠三郎、後の蒲生氏郷の正室となり波乱の戦国時代を送った冬姫の生涯を描く。

 戦国時代の本を読むと、豪華絢爛の城として信長の居城、安土城が頻繁に登場する。これだけの城なのに、現在では、大阪城、姫路城、名古屋城などは有名なのだが、安土城は殆ど登場しない。

 こんな歴史上重要な城が、復元されていないのかと思ったら、2009年に安土町に復元されていることを今頃恥ずかしいことに知った。

 この安土城何故消滅してしまったのか。これには幾つかの説があるが真実は不明。
敗走する明智光秀の軍が放火した。信長に嫌われていた息子信雄が放火したとか、領民が放火したとか、落雷により燃えたなど。

 この物語で作者葉室が想像したストーリーが面白い。

安土城の築城責任者は大工の岡部又右衛門。城の築城中に石垣が崩れた。その後何回も築城中に石垣が崩れ、又右衛門は途方に暮れた。

 そして石垣の崩れを抑えるために、石垣の中に人柱を埋めることにした。その人柱は戦場で親を亡くし独り者になってしまった娘に土下座をしてお願い、それを了承した娘を人柱にした。

 しかし、この娘には又右衛門の弟子で、清四郎という結婚を言い交わした男があった。娘が人柱になり石垣の中に埋められた時には、木曽にでかけていて留守だった。

 戻った清四郎は大きな衝撃を受ける。そして、ある晩、清四郎は天守閣に籠り、城に火をつける。逃げれば逃げれたのだが、恋人の所に行く決意で、そのまま焼け死ぬ。

 この話に大きな彗星が日本に近付いていたことをかぶせ、葉室は悲劇を際立たせて描く。

 歴史小説、史実としてわかっていることは、史実に沿って書く以外にないが、わからないことは、作家の妄想を目いっぱいひろげて、葉室のように描いてほしいものだ。

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