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2021年10月 | ARCHIVE-SELECT | 2021年12月

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さくらももこ  「ももこの世界あっちこっちめぐり」(集英社文庫)

 雑誌「NON-NO」の企画でさくらももこさん夫婦が、好きなところに行き、そこでの旅行記を雑誌に掲載。その旅行記を収録。

 バルセロナは、建築家の巨匠ガウディの街。いたるところにガウディの建築物がある。それを片端から見学してまわる。

 どの作品も奇抜で度肝を抜く作品ばかり。さくらももこさん、懸命にそれを表現しようとするのだが、どうしてもピタッとあてはまる言葉がない。知らない私も悪いのだが、読んでいても、奇抜はわかるのだが、それがどのように奇抜なのか、少しもわからない。

 さくらさんが小学生の時、お父さんに「外国に行くとしたらどこに行きたい?」と聞くとおとうさんは「俺はグランドキャニオンに行ってみたいな。」と答える。

そのことをさくらさんは覚えていて、それから20数年後、お父さんとさくらさん夫妻3人でアメリカ、ラスベガス、ヨセミテ公園、グランドキャニオンに行く。

 おとうさんはヨセミテ公園とグランドキャニオンの区別がわからない。さくらさんが何回もここはグランドキャニオンではないと念押しする。

 公園と言えば、どうしても日本の街中の公園を想像する。しかしアメリカの公園はどでかい。千メートルも落差のある滝がある。ここには世界一大きい木がある。その木のあるところまで公園の中を何時間も車で走らねばならない。その木のある場所に到着するが、いたるところものすごい巨木ばかりで、どれが世界一かわからない。

 ラスベガスは、ギャンブルで有名な町だが、今は変貌して、一つ一つのホテルが巨大なテーマパークになっている。そして、次々と巨大なアトラクションにホテルオーナーは莫大な金を使う。夜10時になると、街全体できらびやかな電飾ショーが行われる。
 グランドキャニオンも巨大。その場所にはセスナ機で行く。空の上からみたグランドキャニオンのけたはずれの壮観さに口あんぐり。

 そのすごさを、お父さんのヒロシがお母さんに説明するがワーとか、キャアーとか擬音ばかり。
 おかあさんが一言。「わかんねえな。」と。

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| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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小池真理子    「怪談」(集英社文庫)

  ホラー、幻想怪奇小説集。
「ぬばたまの」というタイトルの小説が面白かった。

 主人公は大学教師。学生だった女子学生と恋に陥り、彼女が卒業すると同時に結婚する。彼女は13歳年下だった。

 その妻が病気になり、亡くなってしまう。
妻が亡くなって一年後、退官したばかりの元教授が亡くなり通夜に行く。その通夜にやってきた同僚に誘われ通夜の後、近くの蕎麦屋に一杯やりにゆく。

 蕎麦屋は老夫婦がやっていた。
 蕎麦屋に入ると、衝立の向こうに一組客がいて、時々女性の声が混じっている。

しばらくすると、雷が鳴り、猛烈な雷雨が襲ってきた。停電になる。すると、再度稲妻が走る。その激しさに、衝立が倒れる。衝立の向こうの客が、稲妻の光に浮かび上がる。その客の中にいた女性は死んだ妻だった。

 その時から死んだ妻が、家の中に現れるようになる。妻がいるなと思い、見ようとすると、ふっと消えていなくなる。そんなことが続き、主人公はノイローゼになる。

 妻が消えないで欲しい、妻を抱きたいと、妻のことばかりが頭に浮かび、他のことは何も考えられなくなる。全く眠れなくなるし、食事ものどを通らなくなる。

 そんな妻がある夜、ベッドの中に現れる。幽霊でもいいから、妻と抱きあいたいと思っていると、妻が右腕を握りしめ、引っ張る。その腕力が恐ろしく強力。気が付くと、天井に引っ張られ浮かんでいる。そして、その直後には屋根の上に引っ張られる。

 その後猛スピードで、妻にどんどん引っ張られ宇宙へ連れていかれる。
 月の横を通りすぎる。主人公は確信する。これからずーっと愛する妻と暮らすことができると。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐藤愛子   「老残のたしなみ 日々是上機嫌」(集英社文庫)

 言いたいことは思い残すことなく言う、佐藤愛子変わらぬ痛快エッセイ集。

佐藤さんは何十年も病院に行ったことがない。
病院に一歩足を踏み入れた瞬間から、人間ではなく単なる物になるからだ。医師が検査をしなさいというと、その必要がないとわかっていても、何故かそこにはいやと言えない力が働いて、ベルトコンベアに乗せられた物になって検査室に運ばれる。それがまず怖い。

 医師は検査データのあれこれを照合して病気について判断を下す。佐藤さんが尊敬、信頼していたかってのお医者さんは、耳につけた聴診器を病人の体にあてて、目には見えない体の中をじっと耳をすませ、病人の皮膚の色つやを見、身体に触れ、その触覚を通して肉体の異常、訴えを聞き取ろうとした。その時の、医師の医師なればこその深い沈思の表情にいうにいわれぬ尊敬と信頼感を感じた。

 病気を治すのは医師と薬だけではない。半分は病人が治そうという気力である。その気力は、尊敬する医師への信頼感によって呼び起こされる。

 「よろしい。はい、大丈夫。」という医師の一言がどれだけ患者を励まし慰めてくれるだろうか。データとにらめっこして、ろくに患者を見ない医師はそれを知らない。

 病院に行ったら最後、どんなひどいめにあうかもわかったもんじゃない。医師が関心の持つのは病巣だ。
当たり前のこと、それこそが病院だ。だが佐藤さんはその当たり前がいやだと言う。

 病巣相手ではなく、人間と相手をして欲しい。

物として佐藤さんは死にたくない。たとえ病巣の発見が遅れようとも。

 佐野さんの信念、想いは強い。
しかし、何の検査をしなくて、病気を診断されるのも、それはそれで怖い。

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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池上彰 「そうだったのか現代史 パート2」(集英社文庫)

 私の家の2軒隣の家の息子さんが、青年海外協力隊でアフガニスタンに駐在していることを教えてくれた。

 私は驚き「とんでもないところに行ってるんですね。大丈夫ですか。」と聞くと、「大丈夫かって?大丈夫でしょう。ところでアフガニスタンてどこにあるのですか。」
 自分の息子のことなのに、どこにあるのか知らないのもすごい。
でも何となくわかる。

 アフガニスタンは降雨が殆どないので、耕作地は国土の10%。主たる産業はやぎとアフガン羊の放牧。世界最貧国の一つ。平均寿命は45歳。文盲が人口の2/3。

 ジョークにあるそうだが、
「アラーの神が世界を創造したとき、土地やこまごました物、いらないゴミが残ってしまった。それらを神がぶんなげてできたのがアフガニスタン。」

 アメリカを撤退させたタリバンは、神学校から生まれている。旧ロシア支配から解放して、タリバン政権を樹立。このタリバン政権の戒律締め付けが恐ろしい。

 政権を樹立したのち、
カブールのすべての店から酒を撤去。偶像支配禁止で、すべての銅像、石像を破壊。写真撮影の禁止。映画フィルムはすべて焼き捨てテレビも禁止。あごひげをはやしていない男性はすべて逮捕。留置場ではえるまで拘束。長髪も禁止。音楽も禁止。
 娯楽は亡くなって天国へ行ってから楽しめと。

 女性はブルカという頭から足元まで覆い隠す服を着用。窓から女性が見えないように窓はすべて黒く塗る。そして女性は働くことは禁止。

タリバン政権前は多くの女性が小学校の先生をしていた。先生がいなくなり、たくさんの小学校が閉校となってしまった。

 アメリカ撤退後はまた、タリバンの弾圧政治が復活するのだろうか。恐ろしいことだ。

青年海外協力隊の息子さんは、一昨年暮れ任務を終えて日本に帰国しているとのこと。
さすがに、最近のテレビでアフガニスタンのことを知り、
「息子はとんでもないところに行ってたんだ。何もなくてよかった。」胸をなでおろしていた。

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| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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逢坂剛    「百舌の叫ぶ夜」(集英社文庫)

 室井公安部長は3つの非常に重い過去を背負っている。

一つは、娘婿が南米の国サルドニアに出張中にテロ組織に襲われ殺害される。
サルドニアは貧しい国家だったが、近年石油が発掘され、各国がその石油獲得のため凌ぎを削っている。日本も、このサルドニアのエチュバリア大統領を日本に招待することになっていた。
 来日間近いある日、この室井に国際小包みが届き、そこにビデオテープがあり、そのテープには大統領エチュバリアが娘婿を射殺する場面が映っていた。

二つ目は、娘がその結果、精神がおかしくなり、精神病院に3年も入院している。
娘は病院で、毎朝食事を作り、夫を会社に送り出し、夕食を作り、「おかえりなさい」と玄関で出迎え一緒に食事をする仕種をする。
夜は素っ裸で仰向けになり夫セックスをする仕種をする。
これを3年間一日も欠かさず続ける。

それから、室井は物語の主人公倉本刑事の妻と、結婚前から不倫関係にあり、倉本の第一子は室井の子供。そして、結婚後も2人は不倫を続ける。
 こんな重すぎる過去を持って、しかも権力を有している男が、難局を乗り切るため、どんな企みを作り上げ、実行するかが物語を貫く。
 これに、双子の兄妹、実際は兄弟が絡む。弟は人殺しを何の抵抗もなく実行する。

スケールも大きく、ハードボイルドミステリーとして一流の作品に仕上がっている。
テレビドラマ化もされ、「百舌シリーズ」として何冊か本になり話題となった物語である。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:1 | trackbacks(-) | TOP↑

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伊集院静    「日傘を差す女」(文春文庫)

 一流の小説家が描く、ミステリー。本格推理小説とは異なり、いわゆる社会派推理小説。
しかし世の中に溢れかえっている社会派推理小説と異なり、名作家が描いていることに価値がある。社会的問題、ひずみが物語の主題になっていて、それを印象深くするため、ミステリーがある。

 伊集院の推理小説の一作目は「星月夜」。本作が二作目のミステリー。

和歌山県串本の隣町、太地町はクジラ漁で栄えた町。しかし最近は反捕鯨のグループ シ・シェパードの活動により、世界的捕鯨禁止条約が成立して、研究のためわずかしか捕鯨ができなくなった。他に産業が無く、さびれてゆく。

 それに本州最北の三厩村。この村も産業は無く、さびれゆく村。
この、捕鯨の太地町と青森の三厩村が東京赤坂で交わる。ここに悪徳政治家が重なる。
そして、たくさんの殺人事件が起きる。

 この事件を追うのが主人公の草刈刑事と立石刑事の名コンビ。2人は事件の起きた赤坂はもちろん、和歌山、青森まで旅して事件を追う。この和歌山、青森の情景や地元住民とのふれあいが豊かに描かれ味わい深い物語になっている。

 ただ、犯人は誰か伏線が最初に描かれるが、その動機が不明確で、これだけの物語でこいつが犯人かと拍子抜けの感が強い。直球勝負のミステリーにしてほしかった。

 太地町の住民フジコの語りが印象に残った。

「この町はね、日本が戦争に負けてまだ食べ物が無い時に、南氷洋まで行ってお腹を空かした子供たちの食べ物を命かけて獲ってきた男たちの町なのよ。零下40度の荒れ狂う海で必死に鯨を獲ってきた人たちが住んでいる町なのよ。私たちは何百年も前から鯨を獲る度に供養して、盆も正月も皆して祈りに行ってきたんだよ。皆が鯨に感謝してきたんだ。」

 そうなのだ。私の小さい時代は、肉は牛、豚、鳥では無かった。きっと安価だったのだろう。肉は鯨だった。弁当も夕飯もおかずは鯨だった。
 本当に戦争直後の飢えを救ったのは鯨肉だった。

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| 日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中田永一    「ダンデライオン」(小学館文庫)

 タイトルのダンデライオンというのは、タンポポの綿毛のこと。
この物語はSFでおなじみの、時間が過去に飛ぶ物語。未来へは飛ばない。

主人公の下野蓮司は現在31歳。ある日突然9歳の体の中へ31歳の体が飛び入る。
その9歳から31歳までに、殺人を目撃したり、公園のベンチに座っていて鈍器で殴られ意識不明になり、病院にかつぎこまれたりする。

 この物語が面白いのは、蓮司には殆ど記憶にないことが、事件となって起きていること。予告のように起こる事件を書いてある手帳はあるが。

 そして、いずれの事件も迷宮入りとなり解決していない。
もちろん過去に起こったことは変えることはできない。しかしその事件が起こる現場にゆけば、目撃したことや感じたことが別の角度から違ったように見えることができる。

 それで主人公の蓮司は、事件の真相を追求するための目を持って、再度過去の事件の中にはいる。
 そして犯人をつきとめる。
物語は時間SFであるとともに、ミステリー小説にもなっている。

 最初の事件は、鎌倉の今の恋人の小春の家で起きる。小春の家に窃盗犯が侵入、小春の父親と母親を殺害する。小春は駆け付けた蓮司によって逃げることができ、被害は免れる。

 嗤ってしまうのは、過去は変えられない。この時、蓮司は11歳で家は仙台にある。
それで、理由もないのに、突然切符を買って、仙台から鎌倉まで行き、事件に遭遇する。
両親はなぜ蓮司が鎌倉に行ったのかわからない。読者の私もわからない。

 そして31歳で、蓮司は小春と再会する。この時小春から、「私は蓮司と結婚することになっている。そして、蓮司の子がお腹の中にいる。」と宣言される。

 蓮司は目を白黒するばかり。小春が恋人であることを初めて知る。
結構、楽しい物語である。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー   「猫はわかっている」 (文春文庫)

 可愛らしい猫に思いをこめたアンソロジー。

阿部智里さんの作品が面白い。阿部さんの家に痩せた茶トラが迷いこんでくる。とてもかわいいので「ニャア」と名付けて飼い猫にする。

 そのニャアが、家の前の畑で三匹の野犬に襲われ、瀕死の状態で発見される。下腹部は大きく破れている。皮は食いちぎられ、後ろ足の付け根にかけてぽっかりと大きな穴があいていた。綺麗なピンク色の内臓と腱らしきものも露出している。救急病院に運び、応急処置をして、翌日行きつけの病院につれてゆく。

 そこの獣医が言う。「安楽死させるって手もありますよ。」ととんでもないことを言う。何とかして助けてほしいと頼む。
ICUにずっといることになる。治療しても助かるかわからない。助かったとしても、尿道付近の再建手術をせねばならない。それをしても、今後自力で排尿ができるかわからない。そうなると介護は一生続く。

 ICUにはいって1日目、2日目ニャアは全く反応がない。しかし、3日目弱弱しいが「ニャア」と声を発する。家族が大喜びをする。それから何回か手術や懸命の治療の結果ニャアは元気を取り戻す。そして晴れて退院の日がくる。

 お母さんが、医療費の精算にゆく。
治療費は何と「50万円」。お母さんはクラクラと倒れそうになる。

 阿部さんと両親で折半することに決める。
この作品も治療費捻出のために書いたのだろうか。
でも阿部さんは大丈夫。ベストセラーを続けている「八咫烏シリーズ」の続編を書けば、25万円どころか、莫大な印税がはいってくる。

 収録されている「50万の猫と7センチ」より。

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| 古本読書日記 | 20:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山内マリコ    「選んだ孤独はよい孤独」(河出文庫)

 山内さんの作品が好きだ。くすんだ人達を、派手な振幅のある表現でなく、薄曇りのような淡々とした文章で描く。その雰囲気が好きである。
 この本は、掌編、短編を収録している。

  都会でたくさんの会社の就職試験を受けて全部失敗した、主人公は地元にかえり、10人にも満たない会社にはいる。十数年ぶりの新入社員。そして主人公の指導係となったのが館林さん。館林さんは三十歳を優に超えている。主人公の前に新入社員として会社にはいった人だ。

 出社初日、館林さんとお客さんへの挨拶回りをする。仕事終了後、主人公の歓迎会が開かれる。
馴染の人がいるわけでもないし、楽しくもないので、席をはずし、煙草を吸いに外にでる。
するとしばらくして館林さんもたばこを吸いにでてくる。その館林さんが言う。

  「社会人になると、毎日は忙しくなるけど、人生って意味では、暇なんだ。仕事は人生の、便利な暇つぶし。マッチポンプみたいなもんだ。仕事しないと金は稼げない。金がないと生活できない。だから仕事さえしてれば生活できるし、間が持つ。でも、仕事してるだけだから、すぐに飽きてくる。そこそこいい年になると、かなり飽きてくる。
 ちょうどそういうタイミングで、上司は家庭を持つ重要性を説いてくる。で、結婚すると、子どもがいることの重要性を説いてくる。子供はかわいいぞ、かすがいだぞって、子どもが生まれると、今度は、早く家を建てた方がいいって話をしてくる。ローンを組むなら早いほうがいいぞって、それが、普通の男の人生なんだ。」

 飲み会になるとみんなこんな話をする。これしか共通の話題が無いからだ。
そして館林さんが、家のローンを組んできたと先輩たちに報告すると、先輩社員は手を叩いて喜んでくれる。館林さんの幸せを喜んでいるのではなく、自分たちのクラブにはいってくれたのがうれしいのだ、

 仕事はひまつぶしなのか。私も、ごくたまに自分らしい人生を歩みたいなあと思ったこともあるが、結局振り返れば館林流人生を歩んできてしまった。

 良かったか悪かったかわからないが、実に平凡な人生だったことはわかる。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山内マリコ    「選んだ孤独はよい孤独」(河出文庫)

 山内さんの作品が好きだ。くすんだ人達を、派手な振幅のある表現でなく、薄曇りのような淡々とした文章で描く。その雰囲気が好きである。


 この本は、掌編、短編を収録している。

都会でたくさんの会社の就職試験を受けて全部失敗した、主人公は地元にかえり、10人にも満たない会社にはいる。十数年ぶりの新入社員。そして主人公の指導係となったのが館林さん。館林さんは三十歳を優に超えている。主人公の前に新入社員として会社にはいった人だ。

 出社初日、館林さんとお客さんへの挨拶回りをする。仕事終了後、主人公の歓迎会が開かれる。

 馴染の人がいるわけでもないし、楽しくもないので、席をはずし、煙草を吸いに外にでる。
するとしばらくして館林さんもたばこを吸いにでてくる。その館林さんが言う。

  「社会人になると、毎日は忙しくなるけど、人生って意味では、暇なんだ。仕事は人生の、便利な暇つぶし。マッチポンプみたいなもんだ。仕事しないと金は稼げない。金がないと生活できない。だから仕事さえしてれば生活できるし、間が持つ。でも、仕事してるだけだから、すぐに飽きてくる。そこそこいい年になると、かなり飽きてくる。
 ちょうどそういうタイミングで、上司は家庭を持つ重要性を説いてくる。で、結婚すると、子どもがいることの重要性を説いてくる。子供はかわいいぞ、かすがいだぞって、子どもが生まれると、今度は、早く家を建てた方がいいって話をしてくる。ローンを組むなら早いほうがいいぞって、それが、普通の男の人生なんだ。」

 飲み会になるとみんなこんな話をする。これしか共通の話題が無いからだ。

 そして館林さんが、家のローンを組んできたと先輩たちに報告すると、先輩社員は手を叩いて喜んでくれる。館林さんの幸せを喜んでいるのではなく、自分たちのクラブにはいってくれたのがうれしいのだ、

 仕事はひまつぶしなのか。私も、ごくたまに自分らしい人生を歩みたいなあと思ったこともあるが、結局振り返れば館林流人生を歩んできてしまった。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中島たい子    「万次郎茶屋」(光文社文庫)

 短編集。

23世紀か24世紀の物語。もうその時代になると、人類は当たり前のように宇宙旅行を楽しんでいる時代になっている。そうして就職したいナンバー1の職業は宇宙飛行士。高給がとれるし、引退しても優雅な暮らしが保証されているから。

 ヒロトは宇宙飛行士。保険会社に勤務しているミワと4年間の交際を経て結婚したばかり。ミワは、一緒にヒロトといたいからと、保険会社を退職し、宇宙船発着基地のある地方都市に引っ越してくる。

 そして暖かい家庭をつくるべく、家の家具やカーテン、食器、家電製品などを選びに街にでかけ新居の準備をする。
 それから結婚式、披露宴の準備に多忙。
そして、結婚式、披露宴を行い、新婚旅行を楽しむ。

 その新婚旅行が終わる次の日、ヒロトは宇宙へパイロットとして旅立つ。
船の船員の実際はよく知らないが、一旦海にでると5-6か月海上ぐらし、そして1-2か月陸上生活してまた海上生活にもどる。

 しかし宇宙は海に比べると、比較にならないくらい大きい。
だから、一旦宇宙に旅立つと、5年、6年と宇宙を旅して、地球に戻る。そしてどのくらい地球上の生活を送れるか想像はつかないけど、一年程度か。

 もちろん通信回線を使って、いつでも、夫ヒロトとコンタクトはできる。しかし、今地球から200億キロ離れたところにいるなんてところからでは、どんな気持ちになるか想像もつかない。

 夫婦は1+1=2のはずなのに、宇宙パイロットの場合は1+1=1になってしまう。
だから離婚率が最も高い宇宙パイロットは。

 既視感、デジャブという。どこかで、見たことがあるという感覚。しかし、宇宙飛行士の場合はジャメヴュとなってしまう。通信回線で夫を見ても、この人誰だったけっとなってしまう。長年使っていないコーヒーカップ、何でこんなカップがあるのという状態になってしまう。

 何か宇宙時代の夫婦生活は寂しいなあ。
収録されている「ファーストコンタクト」より。

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| 古本読書日記 | 06:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田詠美    「つみびと」(中公文庫)

 2010年7月30日大阪で幼い姉弟が遺体で発見される。当時大きな衝撃を社会に与えた大阪二児餓死事件である。その事件を山田が調べ、想像もいれ物語にしている。物語では姉弟でなく、兄妹になっている。

 物語でも書かれているが、最後、犯人の母親は、外から鍵をかけ、窓はすべて目張りをして兄妹は外出もできず、食料もなく10日間部屋に閉じ込められ餓死している。

 最後に餓死する場面の山田の描写は衝撃的で、涙なしでは読めない。

「隣に横たわる萌音(妹)目をやると、唇は干からびてしまい、いくつものひび割れができているのでした。息をしている気配もありません。桃太(兄)、まだ人間の死というものを見たことが無かったので、動かなくなった妹とそれを結び付けることはありませんでした。
 自分もこんなに苦しいのだから、小さな萌音には、さぞかしつらいだろうとおもい、桃太は励まそうとしました。
『モネ、モネっち、大丈夫?モモにいちゃんが側にいるからね。ママももうじきかえってくるよ。』
 何度呼びかけても、返事はありません。桃太は、そっと萌音にふれてました。すると、少し前まで、行儀よくかちんかちんに硬くなっていたその体が湿っているのです。
 慌てて目を凝らすと、液体が染み出て床を濡らしています。そして、そこに何やら小さな白い芋虫のようなものが蠢いています。
 大変だ!桃太は力を振り絞って起き上がろうとしました。このままでは萌音が腐ってしまう。
 その瞬間萌音を冷蔵庫にいれてしまおうと思いつきました。けれど電源はすでに切れているのです。必死に手を伸ばして、床に放置されていたプラグを握り、コンセントまで這っていこうとしました。でも、それがはるか頭上にあるのに気付くと同時に、桃太は力尽きてしまったのでした。」

 物語の途中は、少し現実ばなれした山田の想像が散見されたが、この幼い兄妹のついえる場面は本当にすごい。
 しかも、絵本のような優しい「です、ます」の文体は見事。これは山田にしか書けない。

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芦沢央    「火のないところに煙は」(新潮文庫)" /><

 2019年本屋大賞候補作。

芦沢さんは、読むのは好きだったけど、怪談小説、ホラー小説を書くことには関心が無かった。たまたま雑誌「小説新潮」から怪談をテーマにした小説の執筆依頼があり、「染み」という作品を書いて発表したところ、少し反響があり、あちこちから、都市伝説や怪談体験が持ち込まれるようになり、自分の体験も含めて6話を作る。その作品が収録されている。

 怪談小説というのは、怪異が登場して、事件を起こす。しかし、そんな怪異現象は科学的にはあり得ないことだから、それを科学的に検証してひも解く小説と、心霊現象のまま、その現象は存在するものとして描く2つのタイプがある。この作品集はその2つのタイプが混在している。

 鍵和田君子はフリーライター。そんな君子のところに、平田という女性から電話がある。

今年になって、父親が亡くなり、直後に祖母が亡くなる。そして平田さんも、夜金縛りにあい、苦しんでいる。それは、神社の狛犬のしっぽを踏みつけたため、祟りで起きている。それで、神官の有能なお払い師を紹介してほしいと。
 その祟りは夫と息子トシフミにも移ってきている。夫は慎重運転をいつもしているのだが、会社帰り何かを轢いたような感触があり、急ブレーキをかけ、車をとめて外へでた。

しかし前後には車はいないし、どこかに衝突したわけでもない。ただ脇の草むらに子犬の首輪だけが落ちていた。普通事故の場合、加害者は逃げることがあるが被害者が消えるということはあり得ない。これは狛犬のたたりだと言う。

 この狛犬の祟りがトシフミを支配する。トシフミは全く記憶に無いのだが、真夜中家をでてふらふらと出歩くようになる。しかも知らないうちに、足に大きな痣までできている。

 フリーライターの君子さんが言う。
被害者は息子のトシフミだったのだ。日頃から父に交通事故に気を付けるよう口やかましく言われている。自分の不注意で事故にあうと父親にきつく𠮟られる。それが怖くて現場から逃げる。その時大切にしているお守りを落とす。それで、真夜中に家をでて、お守りを探しにでかける。もちろん、痣は事故によってできたのだと。

 明快に祟りの謎をとく。
それでも、平田さんは、そんなことが起きることがまだ狛犬の祟りなのだと言うだろうな。
そして、何かトラブルが起きるとすべて狛犬のしっぽに結び付ける。ひとたび出来上がった思い込みは消すことは困難だ。
収録されている「お祓いをたのむ女」より。

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| <のカテゴリー">古本読書日記 | 06:23 | <へのコメント">comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村山由佳  「晴れときどき猫背そして、もみじへ」(集英社文庫)

 村山さんが一時期住んだ南房総のログハウス。このログハウスに迷いこんだ一匹のチビ猫から生まれた愛すべき猫もみじ。このもみじと一緒にもみじ17歳まで暮らした日々のエッセイ。たくさんの愛ネコの写真つき。

 いつも不思議に思っていたのだが、親ネコと全く毛色の異なるネコが複数生まれるのはどうしてなのだろう。

 この作品でその理由の一端を知った。猫のメスの体は、殿方とコトをいたしたいときだけいくつかの卵子が下りてくる。この時、一匹目の殿方との行為があった後、卵子が下りてくるまでの数時間のうちに別の殿方とも交わったら、生まれてくる複数の子猫たちの父親は、極端のことを言えば一匹ずつ全部違う可能性があるのだ。

 それにしてもネコ用の生活品はどうしてあんなに高額だろうか。それも殆ど別の品物で代用できるのに。

 ネコ用ホットカーペットは本当にとんでもない値段がする。ネコ用トイレなどは4千円もする。トイレ用の砂をすくうスコップが580円。食器類は、ネコのイラストが描かれているだけで、人間用の食器より高額となる。

 極めつけは私もテレビで見たのだがネコの自動トイレ。

大きさや中にトイレ用のネコ砂をいれておくところは、普通のネコトイレと変わらないのだが、この自動トイレには何と赤外線センサーがついていて、ネコがことを済ませた後、10分もたつとやおら向こうの端からウィンウィンウィンと櫛状のものが動いてきて、砂のなかのブツだけをすくい上げ、こっちの端の容器にポトンと落としてゆく。

 これが3万円。このトイレをテレビで見たとき、便利だなあと思ったが値段をみてびっくり。私は購入をあきらめたが、さすがベストセラー作家、村山さんは購入したとのこと。

 とにかくネコはお金がかかる。

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中山可穂    「白い薔薇の淵まで」(河出文庫)

 作者中山はレスビアンであることをカミングアウトしている。彼女が描く官能シーンは濃密で熱い。

 主人公の川島とく子は、雨ふる深夜の書店で見知らぬ女性に声をかけられる。その女性の名前は山野辺塁。新進作家、一冊小さな書店から本を出版したのだが、二作目が書きあがらず苦戦している。

 とく子は、大学一年生の時、処女を失い、三十歳になるまで四人の男性とつきあい、今は喜八郎と結婚をしている。
 しかし、とく子は書店であった塁と恋に陥る。
その塁との身体を合わせた時の、とく子の受けた衝撃の描写が見事。

 「日照りのあとの雨降りのようにやさしく、塁の肌がわたしの肌にしみこんできた。
当たり前だけれど、男の肌と全然違う。しっとりとなじみあう。裸でくっついているだけで、何もしなくても、十分に気持ちいい。何もしなくてもいいのに、塁の手と舌は動きをやめない。撫でるように舐めたり、舐めるように撫でたり、噛んだり、吸ったり、爪をたてたり、あらゆることをして、十本の指とひとつの舌は私の体じゅうの性感帯を目覚めさせてゆく。」

 こんな女性同士のラブシーンは一旦始まると延々と夜明けまでとどまることなく続く、

 これに対し男とのラブシーンはあわれだ。

「それは純粋に生殖のためのセックスだった。この三年間で塁の体にあまりにも馴染んでしまっていたために、わたしは男性のペニスにうまく感じることができなくなっていた。正直言えば、邪魔だとさえ思った。たしかに瞬間的には快楽はあるが、射精してしまえばそれでおしまいとは、まことに不便な装置ではないか。そんなものはいれなくていいから、永遠に前戯だけを続けていてくれればいいのに、大きくなると、夫はわたしの乳房をぎゅうぎゅう揉みながら腰をふり、そしてたちまち果ててしまう。わたしは何かを感じる暇もない。こういうのはセックスとは言わない。」

 何だか身も蓋もない。中山さんにかかると男は切なすぎる。

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| 古本読書日記 | 06:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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唯川恵    「ベター・ハーフ」(集英社文庫)

 主人公は広告代理店勤務の文彦と永遠子。騒動の発端は、結婚披露宴の直前に女性が現れ、「文彦は私の夫になる人」声をあげ、結婚ができないならばと、手首をナイフで切ろうとする。

本来だったら、永遠子は怒り狂って、離縁を文彦に迫らねばならない状況。しかし、友人や会社関係者、親戚、家族が宴会を待っている。新居も両方の親に購入してもらっていて、今更大騒動もできないということで、そのまま披露宴を続ける。

 そして冷たい関係のまま、ハワイに新婚旅行にでかける。
ひどいやつだ文彦はと思って読んでゆくと、ハワイのホテルから、文彦が部屋にいないとき永遠子は不倫をしている会社の上司に、甘えるような電話をする。
こりゃあ、どっちもどっちだ。即離婚するのだろうな。

ところが、新婚旅行から、新居に帰ると、冷え切った夫婦の生活を始める。寝室は別、ごくたまに、文彦が永遠子の部屋に入り、関係を持つことになる。

 それから、これならさすが離婚になるだろうというトラブルが頻発する。しかし離婚になってしまったら、物語にならないだろうから、際どいところで、回避される。

 ありとあらゆるトラブルが起こり、まるで仮面夫婦のトラブルのデパートのような物語になっている。

 切れたはずの互いの不倫相手との密に続く。面白いのは文彦がキャバクラの16歳の女の子と関係を持ち、警察に夜中に呼び出され事情聴取をされる。それでも、ののしりあうが、離婚にはならない。

 文彦も、永遠子も会社をリストラされ、永遠子は生活のためアルバイトにでるが、文彦はグダグダしていて、就職活動をしないでゴロゴロしている。

 子供は娘をさずかるが、次の子は死産になり、永遠子は子宮を摘出してしまう。親も認知症になったり、ガンが転移になったりする。

 ハラハラドキドキして、最後に文彦、永遠子はこのまま二人で頑張ってゆくことを決意して物語は終わる。コメディ、ドタバタ調だけど、なつかしいテレビドラマを見ているようで面白かった。

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| 日記 | 06:42 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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平野啓一郎   「ある男」(文春文庫)

 久しぶりの本格的文学。濃厚で深い小説を堪能した。

マネーロンダリングという方法が時々マスコミを賑わす、お金の内容をお金をころがすことで全く変えてしまうこと。それに似てこの物語のテーマは身許ロンダリング。人生を途中から別人に変えてしまう。世の中には、人生を変えてしまうことを商売にしている仲介人がいて、その商売人を透視て人生を変えてしまった人もいる。

 新しい人の戸籍を作ってやるのだ。

例えば、殺人など極悪犯罪を犯して服役している人が、刑期を終えて社会にでた時、前の戸籍では事件を引きずるので、きっぱりとひきずらないために、別の人の戸籍にしてしまう。暴力団員が足を洗った時なども同様な方法をとる。

 この物語では、仲介人が戸籍を変えたい人を何人か抱えていて、変えたい人同士を見合いさせ、成立すれば、互いの戸籍を交換する。こんなこと、物語のように本当に成立するのかなあと少し疑問になる。

 というのは、戸籍を交換をする人は、いずれも、暗い人に言えない過去を抱えているから。そんな過去を背負っている別人になろうという人はいないように思えるから。

 この物語では、家を勘当された男が、違う人生を送りたいと戸籍を変えることを望む。
この人には、後ろめたい、悲惨な過去が殆どない。クリーンな戸籍ということになる。
だから、こういう戸籍はひっぱりだこになる。

 文学界では、賞賛だけがあり、決して批判してはいけない作家がいる。
村上春樹、中村文則、伊坂幸太郎、そしてこの作品を書いた、平野啓一郎などである。
この作品、最も肝心で、そのことがクライマックスにつながっている、身許ロンダリングの方法が非現実的なところが弱い。それが、どうしても引っ掛かり、もうひとつ感動を呼び起こさせない。

私にとっては残念な作品だった。平野啓一郎ファンの人ごめんなさい。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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群ようこ    「咳をしても一人と一匹」(角川文庫)

 群さん、年齢も年齢なので、ペットの数も犬、猫一匹ずつになったが、かっては犬、猫それぞれ三匹ずつ飼っていた。

 犬というのは、よく知られているように、一緒に住んでいる人間や自分に序列を作り、序列が決まれば、それに従って行動するから、わりと飼いやすい。しかし猫は、人間に無関心のように見えるが、きまぐれで、飼い主が、自分の思い通りに行動しないと、思い通りになるまで、大声で叫び続けて、しまいには必ず思い通りにさせる。飼い主に対し女王様のようにふるまう。

 猫を家で自由にさせておくと、本当に大変。夜一緒に寝ると、なにがあるのかよくわからないのだが、2時間おきくらいに、大声をあげ、人間を起こす。それでだっこしてあげてあやしたり、食べ物や水をあげたりする。まず飼い主は、全く眠れなくなる。

 まさに、群さんの飼い猫しいちゃんと群さんの関係は、女王様と部下、乳母との関係。

しいちゃんのわがままをすべて実現してあげようと、細心の神経で接するため、驚くことにしいちゃんとお付き合いをした19年間」、群さんは一回も泊まり旅行をしたことが無かったそうだ。

 しいちゃんはわがままだ。医者に年をとったらドライフードだけの食事になるから、今からドライフードの食事にだんだん変えていってくださいと言われ、デパートで色んなドライフードを買い込んでたべさせようとするが顔をプイっと横に向け食べない。でもそのうち腹が減って食べるだろうと思ってそのまま放っておくが決して食べない。

 ネコ缶にしても、気にいらないと食べない。しかも、普段食べるネコ缶を開けても、五分の一食べるだけ。そうなると、ネコ缶の中身を別々に皿にもりだす。何と八皿にもりつける。

 ネコ用懐石料理となる。

ある日、友達がイタリアからおみやげにネコ缶を買ってくる。そのネコ缶は五分の二まで食べる。そうなると、ネットでそのネコ缶を
探し、取り寄せる。そして、ネットでさらに別のネコ缶を探ししいちゃんに食べてもらう。それでまた懐石料理となる。

 気が付くとネコの一食の食事代が1000円以上となっている。

それでも、相手は女王様。お気持ちが満足いただくように伏して従う。
群さんのしいちゃんにくびったけの雰囲気が作品に溢れかえっている。

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| 古本読書日記 | 06:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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津島佑子     「狩りの時代」(文春文庫)

 津島佑子の遺作。私の印象では、この作品は、未完ではないだろうか。完成前に津島は亡くなったのではと思えた。
私たちは、古い仲間の集まりと言えば、学生時代の集まりとなる。同級会、同窓会とか。

 しかし私の父は、学生時代の集まりではなく、戦争時代の兵隊仲間で「戦友会」と、称して集まっていた。

 そして、いつもふっと無意識に口ずさむ歌は、「同期の桜」「ラバウル小唄」「敵は幾万ありとても」など軍歌だった。戦争によって刷り込まれた経験、感情は決して時が流れても、消えることは無く、むしろ心に深く刻み込まれていた。

 この作品で絵美子の父が思い出したように無意識にくちずさむ歌。

 「燦たり輝く、ハーゲンクロイツ、ようこそはるばる西なる盟友。・・・・バンザイ、ヒトラー・ユーゲント、バンザイ ナチス!」

 ヒットラー・ユーゲントとはヒットラーが率いるナチス党の青少年組織で「ヒットラー青少年団」と言われた。このヒットラー・ユーゲントが1936年日本を訪問した。国をあげて大歓迎をしようと政府、軍部が大歓迎をあおった。

 絵美子の父が口ずさんだ歌は、その時のために作られた。歌は2つ作られ、作詞は「荒城の月」の土井晩翠、北原白秋が担当した。
日本滞在は短かったが、その印象は強烈で、絵美子の父親の心深く刻まれた。

 ヒットラーの虐殺はユダヤ人にたいしてから始まったのでは無かった。当初は、社会的弱者、障碍者が対象だった。社会に役立たない、無用な者を殺せから始まった。それにあるときからユダヤ人が加わった。

 絵美子の兄、耕太郎はダウン症で、15歳のときに亡くなった。耕太郎がダウン症とわかってから、絵美子も耕太郎も社会から疎外された。
絵美子のおじさんが、会話で「フテ・・・・」と絵美子のことを言っていたことがずっと心に残っていた。そして、20年以上たってその言葉が「フテキカクシャ」だったことを知る。

ヒットラーは、社会的弱者を「不適格者」と決めて、彼らはすべて「慈悲死」「安楽死」を望んでいると決め、殺害しても構わないとした。
「不適格者」「慈悲死」「安楽死」ヒットラーの時代に生まれ流行した言葉である。

その後「アンネの日記」などでヒットラーの虐殺が暴かれ、ヒットラーの酷さが日本でも知れ渡った。それでも、ヒットラー・ユーゲット日本訪問で刻まれた歌や言葉はその当時の日本人に深く刻まれ、何かのきっかけで心の底から湧き上がってくる。

 この作品を読むと、人間の奥底には、憎悪、差別が沈殿していて、差別、憎悪を取り除くことは困難か。不可能に思えてきて溜息がとまらなくなる。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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梶よう子     「柿のへた」(集英社文庫)

 主人公の水上草介は、薬草栽培や生薬精製に携わる、小石川御薬園の同心。草花について、人並みはずれた知識を持つが、のんびり屋がたたり、「水草」とあだ名をされているが、皆に親しまれている。御薬園を預かっているのが芥川家。この芥川家のお転婆娘、千歳にたじたじとなりながら、人や植物をめぐる揉め事を解決してゆく。

連作短編集。
揉め事を解決する短編物語も読んでいて楽しいが、揉め事が始まる前に描かれる、植物が溢れかえる季節ごとの描写が素晴らしい。

 作者梶さんの、植物に対する深い愛情が沸きあがり感動する。

例えば「二輪草」という作品の出だし。

「小石川御薬園同心の水上草介は、千歳とともに南側の樹林を巡っていた。
 葉がこんもりと茂るマンサクの木。滑らかで美しい雲紋を幹に描くかりん。暖かな陽射しの恵みを受け、皆、青々と、艶やかな葉を気持ちよさげに伸ばしている。
 まだ若い葉の香りを楽しみながら、草介は一本一本、木々を仰ぎ、幹にふれながらゆっく
 りと歩く。樹木はあせらず、急がず穏やかに生長し、年齢を重ねる。御薬園同心として四度目の春を迎えた草介だが、自分はいかほどに成長できたのかと思う。」

 この作品で知ったのだが、日本語の「お転婆」はオランダ語の「オテンバアル」からきているそうだ。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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高嶋哲夫    「首都崩壊」(幻冬舎文庫)

 東京に直下型地震が発生。交通網は寸断され、列車も地下鉄も新幹線も止まる。電気、水道などのインフラも破壊される。しかもこの地震は、本格的地震の予兆。今後5年の間にマグニチュード9の地震が92%の確率で東京で発生するという予測まで発表される。

 最後には、地震頻発の東京の問題と結びつくのだが、頻発地震とは関係なく、首都機能移転が発表される。それと同時に道州制の導入も計画される。

 日本では過去、奈良70年、京都千年、鎌倉140年、江戸東京400年と時代の大きな節目で首都が変わっている。今がその節目の時。

 更に道州制を導入。
北海道経済規模19兆円、東北州32兆円、関東州174兆円、中部州84兆円、近畿州86兆円、中国州28兆円、四国州13兆円、九州46兆円。関東、中部、近畿は独立してやっていけるが、初期ではその3州が他の州を支援する。そのうちに、どの州にも独立心ができあがり、地方分権が構築されていく。

 そして政府は、外交、防衛、為替と経済、その他の国家がらみの政策、日本が進むべき方向の決定に全力を尽くす。
 道州制と首都移転は、国会議員の定数削減。衆議院は200人、参議院は50人に減らせる。
アメリカの政治体制に似ているが面白い。

 日本の今の与野党対立。
コロナ対応政策は良かったか。安部一強政治の弊害。モリカケ問題の追及。学術会員任命拒否も重要だと思うけど、この物語にあるような大改革を実施する時がきているように思う。

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| 古本読書日記 | 06:01 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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三谷幸喜 清水ミチコ   「むかつく二人」(幻冬舎文庫)

 ラジオ JWAVEの「DoCoMo MAKING SENCE」という番組での2人のやりとりを収録した作品。

 現在の紙の製法は中国で開発され、7世紀に日本に伝播した。

室町時代には紙は一般にも普及して使われていた。しかしヨーロッパでは高額で貴重品となっていた。江戸時代に慶長遣欧使節の支倉常長一行がパリを訪れた際、日本人がみな鼻紙を持っていて、それで鼻をかみ、しかも、一度使うとみんな捨ててしまう。見物に集まった人々は我さきに捨てられた鼻紙を拾い集めていたらしい。

 びっくりする話だ。

三谷さんと清水さんが小学生のとき、蟻の観察キットが発売され少しはやった。
坊ちゃんだった三谷さんは早速購入。しかし蟻をどうやって捕獲するかが問題。

キットには付録として「蟻捕獲マシーン」というのがついていた。ストローの先にちょっと膨らんだ部分があって、その先に漏斗を逆さにしたようなものがついている。

 三谷さんが、その逆さになっている漏斗を、蟻塚に上からあててストローを目いっぱい吸い込む。

 そしたら、口の中がたくさんの蟻でいっぱいになる。それで困って、たくさんの蟻を食べてしまった。

 三谷さんの証言によると蟻はものすごく酸っぱかったそうだ。
面白い体験をしている三谷さんは。

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| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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梁 石日   「闇の子供たち」 (幻冬舎文庫)

 作品は、最初タイの貧困層の子供たちの人身売買の実態をノンフィクション作品のように描く。小説だと思って購入した本で、これが小説?何か全然違うなと違和感を持って読み進む。

 後半になると、バンコクの人身売買の子供の救援支援センターである「社会福祉センター」に勤める音羽恵子と新聞記者の南部寛行の活動を通じての恋愛物語になり、小説だったのだと認識した。
 この作品、梁 石日のルポがベースになっているのは間違いない。

タイの北部の貧困地帯に生まれたセンラーは、実父にわずか8歳で、バンコクの売春宿に売り渡され、欧米、日本人、韓国、中国人の性的玩具となる。

 8歳で徹底的に玩具としての行為を仕込まれ、拒むと殴り倒されたり、食事を与えられなくなり、とんでもない環境の中に入れられる。

 このセンラーが過酷な玩具の状態でエイズになり、使い物にならなくなると、簡単に殺され、最後はゴミ袋にいれられ、ゴミ集積場に捨てられる。

 またセンラーの姉も同じように売られ、同じような過酷な状況から、逃げ出し、何日もかけて故郷の村に帰ってくる。しかし、両親から何で帰ってくるのだと責められ、村人からも蔑まされ、結局檻に入れられ食事も与えられず餓死してしまい、最後は浦山に埋められる。

 また、少年のタノムは異常勃起をさせるため、プロスタグランジンというホルモン剤を注入される。このホルモン剤は、そのまま使用すると、心疾患や脳梗塞になり、しばしば死に至る。タノムもホルモン剤のため亡くなってしまう。
 この3つの事例は本当に凄惨で、読むに堪えられない。

また、最近は欧米の女性特におばさんたちが、タイにやってきて、少年を買春するケースが多くなっている。
中には、性玩具として、養子にして持ち帰ることも結構ある。

 作品はこの実態を伝えるのが目的で、後半の音羽恵子と新聞記者の南部寛行との恋愛はつけたしのような雰囲気。
最初の凄惨なルポと恋愛小説部分がうまく融合していない。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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梨木香歩   「鳥と雲と薬草袋/風と双眼鏡、膝掛け毛布」(新潮文庫)

 短編より短い作品を掌編という。その掌編より短い作品を葉編という。
日本全国を歩く。そしてそこの土地を歩きながら、その土地の由来や人々の暮らす様を描いた葉編集。2冊の葉編集を1冊にまとめている。

 正直、自分に馴染の土地とか、過去訪ねたことのある土地は興味が沸くが、全く知らない土地については、興味がわかず、読んでいて辛い部分がたくさんあった。

 私の故郷は信州諏訪。小学校のころ、笑い話で流行った話があった。諏訪は山国、海を見たことのある人は少なかった。
 あるお祖母さんと孫が諏訪湖を見る。孫が言う。
「諏訪湖は大きいなあ。ばあちゃん、海は諏訪湖と同じくらい大きいの?」
祖母さんも孫も海なんて見たことない。祖母さんが答える。
「馬鹿言うんじゃないよ。海は諏訪湖より3倍大きいんだ。」

  諏訪は諏訪神社の総本山諏訪大社があり古来神々を奉る古い街。当然、諏訪の名前の由来も神々に関係していると想像していた。

 それが梨木さんの説明によると、
大変なことが起きたとき、それは大変だを「すわ、一大事」のすわから来ているという。

 本当ですか梨木さん。諏訪には、武田信玄にほろぼされた藩主諏訪氏がいて、お城もあった。
せめて、その諏訪氏からきていると言ってほしかった。ちょっと「すわ!」では軽すぎない?

 隣の山梨県には、見慣れた街の名前が平成の大合併で無くなり、びっくりする名前になった地名が多い。甲府から韮崎にむけてはしると、南アルプス市という看板が登場する。最初はびっくりした。すごい名前だ。合併時、市民から名前を公募したが、一番の名前を採用せず、役所が勝手に決めて、市民から苦情が寄せられたとのこと。

 高原で有名な清里や大泉も北斗市になった。
甲府の隣の小さな町が合併して、甲府よりずっと大きい名前の甲州市が誕生した。

 古い名前が消えていったり、呼称が小さくなってゆくのは何となくさみしい。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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木根尚登   「天使の涙」(幻冬舎文庫)

 ロックバンドTMネットワークのメンバーだった木根尚登の短編集。
「竜眼堂 天国電話」が面白い。
 高校時代からの親友、正岡と石坂がお酒をたくさん飲んで、帰り道を歩いて帰る。
2人はずっとバンド活動をしてきたが、途中で挫折、今は歌手のマネージャーをしている。歌手は演歌で地方回り、少し腐っている。

 帰り道に今にも崩れおちそうなボロ家がある。「竜眼堂」という看板がある。
石坂が寄っていこうと家に入ってゆく。慌てて正岡が追う。

 中に入ると、白髪のボロ服を着た、老人がいる。石坂が色んな品を見てまわる。正岡は気味が悪く帰ろうという。
 老人がいいものがあるよと携帯電話の中古品をだす。そして
「この電話は天国にいる人と話ができる。」と言う。
「値段は5万円」というところを2万5千円に値切って石坂が買う。正岡はもったいないと石坂を攻める。

 家に帰って早速マニュアルを読んで、天国にいるじいさんに電話する。
じいさんが電話にでる。葬式に出れなかったことを石坂はじいさんに詫びる。

 そして次は中学生の時交通事故で死んだ、友達に電話。
次は、寅さんに電話をする。そして、「男はつらいよ」ではマドンナがたくさん登場するが、誰が一番好きだったかと聞く。ゴクミと聞いて驚く。

 正岡は本当に天国に電話できるんだと知り、石坂から電話を奪い、憧れのジョンレノンに電話する。
 ジョンレノンは英語。しかし正岡は英語がわからない。それで、
「ジョンレノンサンデスカ?」と言うが、ジョンレノンは怒って電話を切る。

 正岡は
 「NOVAに通ってから、また電話してみるか。」とマニュアルをみる。
「電話はあなたから切るようにしてください。相手が先に切ると、この電話は使用不能になります。」と。この落ちは面白い。笑ってしまった。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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椰月美智子   「その青の、その先の、」(幻冬舎文庫)

 個人的趣向だけど、小説は高校時代を描いた小説が一番読んでいて楽しい。

高校は特殊な私立学校を除けば、同じ地域で小学校から学んできた生徒が集まる。高校を卒業すると進路がバラバラになり、地域から遠く離れて大学進学する。本当にチリジリバラバラになる。だから、高校時代は同じ地域の生徒たちと勉強する最後の濃密な時間を送る。

 それから高校は人生の中で、思春期から青春時代に入る人生の大きな転換期。
光も暗さも、高校時代はくっきりと表れる。

 この小説は17歳高校2年の主人公まひると友達3人の高校2年時代を描く。

やはり高校時代のメインイベントは運動部を除けば、文化祭。作品も、多くのページを文化祭の描写に割いている。この中で、まひると亮司の恋が始まる。

 亮司が学校で始めて落語研究会を作り、一年生2人とともに活動する。私も、落語が大好きで高校時代落語研究会を作った。2人の初めてのデートが寄席というのもいい。この時聴いた名人の「笠碁」にまひるは感動する。

 へえ「笠碁」か。しぶいなあ。「笠碁」は碁仲間が、待ったをあまり相手がするので、喧嘩になり、もう互いに相手をしないと喧嘩別れをする。ところが、2人は碁をしたくて仕方が無い。だから、相手は、喧嘩別れした家の前をいったりきたりするが、家には入らない。

それをもう一方の相手が家から覗いて、早くはいりやがれといらいらして見つめる。

 そこが圧倒的に面白い。亡くなった小さん師匠のこの部分の演技は天下一品だった。

物語は淡々と進むが、その中で当たり前のようにまひると亮司が結ばれる。情感が盛り上がるでもなく、さあーっと自然に通過してゆく。私の青春時代からは本当に変わった。

 淡々としていた小説が、終わりにちかくなって大きく動く。亮司が交通事故にあい、足を骨折、ひざ下が壊死をして切断することになる。何かで読んだが幻肢痛というのがある。不思議なのだが、ひざ下を削除したひざ下がなぜか強烈に痛むのである。この痛みによる苦ししいところは読むのが辛い。

 それから、義足をはめてのリハビリも苦しい。そして知らなかったが、壊死した膝は、焼き場で焼いて骨壺にいれられ、土に埋められる。ここも悲しかった。

 最後に亮司が、義足で踏ん張り、ベットの布団に正座して、落語をする。感動した。
演目も「藪入り」。いい演目だ。大変だったけどまだ17歳。ずっと光輝く未来が待っている。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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岡崎琢磨    「新米ベルガールの事件録」(幻冬舎文庫)

 経営難で倒産寸前のグランド パシフィック(GP)ホテルに就職した新入社員の落合千代子と千代子の指導社員に指名されたイケメン ホテルマンの二宮、二宮を指導員と指示した50歳の主任の大原が、ホテルで起こるミステリーに挑む、4編の中編が収録されているミステリー集。

 どのミステリーも面白いのだが、レベルは標準で、平板な内容。2編目の「家族未満旅行」ユニークで唸った。

 ある日、一泊の予定で家族4人がGPホテルにやってくる。両親に娘唯中学二年生と弟小学五年生の健太。4人は一日本当に楽しそうに過ごす。そして翌日夕方5時に帰宅のためにホテルを出発することになっている。

  ここで唯が楽しいからまだ帰りたくない。あと30分だけ海に行って持ってきた録音機に波の音を録音したいと両親にお願いして、健太を誘って海岸に行く。

 5時15分に突然カーアラームが鳴り響く。驚いて両親がホテルから飛び出て車に行くと父親のキャリーバッグが無くなっている。車    上荒らしにあったのだ。そのキャリーバッグには家の鍵が入っていた。

 落合や二宮が探したがどこからも、出てこなかった。捜索中、落合たちは、唯が誰かと言い争っている現場をみつける。もう私たち一緒にいれない。しょうがないよ。なんて会話を唯はしている。

 ここからがユニーク。実は、唯の父は母と離婚。母は唯と2人暮らし。ある日母が突然再婚したい相手がいると告白。相手の人は、妻と離婚して、一人息子健太を育てている。

 唯の母が、結婚する前に試しに4人で住んでみようと提案し4人の生活が始まる。
そして、唯と健太は大の仲良しになり毎日楽しく生活する。ところが、唯の母と健太の父の仲がどんどん悪化し、喧嘩ばかりになる。大人の2人はこれ以上の4人の生活は無理と判断して同居を解消する。

 唯と健太はいつまでも一緒にいたい。悲しくて仕方がない。それで2人で相談して、健太の家の鍵が入っているキャリーバッグを捨てることを実行する。

  唯と健太の会話は、健太のアリバイを作るために、健太の声を予め録音しておいて、それに合わせて唯が話し、会話をしているようにみせかける。

 ミステリーの背景の設定が上手。いかにも今に時代ありそうな設定。

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| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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小川糸    「グリーンピースの秘密」(幻冬舎文庫)

 小川さんが住いをドイツノベルリンに移し、そこで書いたエッセイ集。

ドイツにはペットショップが殆どない。直接ブリーダーから購入するか、各地にあるティアハイムに行き、見つけてひきとってくるかの2つ方法が殆ど。

 ティアハイムというのは、おおよそ東京ドーム3個分は広さがあるプライベートな施設。

運営は寄付によって行われている。すべての犬は室内と屋外を自由に行き来でき、床暖房も備えている。老犬も病気持ちの犬も、手厚く保護され、殺処分は行われない。引き取り手が現れなくても、犬は生涯を環境の整ったティアハイムで送ることができる。
うらやましい環境だ。犬を大切にする文化が蓄積された結果なのだと思う。

 私は知らないが、ドイツ語というのは、世界の中で最も厳格な言語で、曖昧さを排除する言語。日本語と真逆な言語。雰囲気や、行間を読むなどということは許されないそうだ。

 そういえば、このエッセイでも書かれていたが、フィンランド語にはHE,SHEにあたる言葉が無い。すべて人間は、ということになり、女性的、男性的は無いそうだ。

 本当にいつか日本でも、女性、男性の区別は無くなるのだろうか。
そんなことになったら、小説家は大変だろうし、文学も味わいのある作品は生まれないだろうと、思わず嘆いてしまう。

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五木寛之    「気の発見」(幻冬舎文庫)

 冬舎」(幻文庫) 気が使われる言葉は、膨大に存在する。空気、気力、気体、勇気、気持ち、気味、運気、大気など上げたらきりがない。気は眼にはみえず、科学的にはその存在は何なのか証明されてはいない。しかし、地球、宇宙には科学的に証明されているもの以上の莫大な数のわからないものが存在している。

 これからは、科学では未解明なことを否定するのではなく、受け入れて取り入れていかねばならない。
 この本は、そんな「気」について、五木寛之がロンドンで気功医療を実施している望月勇医師と語りつくした作品である。

 西洋医学は死体を解剖するところから生まれてきた医学。これに対し気功医学は、生きている体に気をおくりつけることにより発展してきた医学と対談では言う。

 肉体は各部位がシステムでつながっている。このシステムが壊れた部分に、気を送り込むことにより破壊された部分を取り除いたり、消滅させたりして健康な体を復活させる。

 望月先生のところにやってきた膀胱がん患者、膀胱には多くの癌細胞とりついており、膀胱を切り取る手術しか治療方法が無かったが、望月医師の気功治療で4日間かかったがすべて消え、その後再発する兆しは無い。

 気功治療のすごいのは、東京にいる患者にロンドンから気をとばして、がんを治す。距離、空間を超えるところ。

 気とは何か。宇宙にある生命エネルギーなのだそうだ。これを、気功医師が受け取り、医師を媒体にして患者に送り付け病を治癒する。

 面白いと思ったのは、患者が治療方法に疑問を持っていたりするとうまく気が患者に行かないことがあり、治療ができないことがある。その点猫や犬はそんな疑問は持たないから、病気は完全に治癒できるとのこと。

 それにしても不思議だ、気功治療の本場は中国やインドだ。これらの国にもたくさんの病院があり、西洋医学に基づいて、手術も普通に行われている。

 そんなに気功治療が優れているのなら、科学に基づいた治療などやめて、すべて気功治療にきりかえればいいのにと思う。変だなあと思う。気功師が不足しているから?

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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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群 ようこ    「ついに、来た?」(幻冬舎文庫)

 親たちの、老いがついにやってきた。この深刻な問題を、ユーモアたっぷりに描いた短編集。

 父が亡くなったとき、母ミツコは53歳、サチは28歳、父の遺産を頭金にしてマンションに一人住まい。妹ルイは18歳で大学生。母と一緒に暮らしている。

 母が55歳のとき、突然母がいなくなる。すぐに帰ってくると思って、サチは実家にもどって、ルイと母を待つが戻って来ない。

 ある日突然実家に母から電話がある。
シンジさんと一緒にいる。と。

 シンジというのは隣町の洋服店の主人で母より5歳下で未だに独身。何も家をでなくても、シンジさんとここで一緒に暮らせばいいのに、とルイは言うが、世間体が悪いと言って
シンジの家で暮らすらしい。

 それから16年後。突然シンジから電話がある。
「ミツコが家に帰りたいと言ってるから、今から連れていくよ。」

 電話が切られて、しばらくすると、ドアホンが鳴らされる。ドアを開けると、母が荷物を持って入口に立っている。シンジは家まで送ってきてそのまま帰ったみたいだ。

 母は、「シンジはどこにいるの」と繰り返しながら、家にはいる。そして「ああ、あんたたちシンジの家まで遊びにきてくれたのね。」完全におかしい。「母さんは、シンジさんにすてられたのよ。」と言ってもわからない。

 夕飯を作ってサチ、ルイ、母親と3人で食べる。
母が「おいしい。シンジにも食べさせたい。」という。

 71歳の母。サチとルイ。お先真っ暗なこれからを思いうんざりする。

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| 古本読書日記 | 05:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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