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2021年08月 | ARCHIVE-SELECT | 2021年10月

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和田竜    「忍びの国」(新潮文庫)

 天下無敵の織田信長、どんな戦でも、すべて勝利していたのかと思っていたが、実は信長自身は戦っていないが、信長の命を受けて次男信雄が戦った、伊賀の衆との戦い、天正伊賀の乱で圧倒的戦力を持ちながら負けている。その信長が負けた第一次天正伊賀の乱をこの作品は扱っている。

 伊賀は伊勢の南に接していたが、伊賀は変わった国だった。国主、藩主、国を治める殿様がいないのである。10万石ほどの小国なのだが、現在確認できているだけで小さな城が634もあり、未確認の城も含めれば868もある。これは地侍が小さな領地と農民を持を、そこから年貢米を取って、君臨している。だからいつも、地侍同士の争いが絶えない。年貢米だけでは食べて行けないので、農民は、幼少の時から、伝統の忍術訓練をして、忍者に育て上げられ、この忍者を傭兵として、他の領主に貸出、その際の傭兵料によって小さな領地を維持させている。この傭兵料は地侍と忍者に配分される。

 伊賀の国として、何か決断しなければならない時は有力地主12人が集まり話し合いにより決める。

 面白いのは、12評定衆会で信雄との戦いを決定したが、それを織田信雄に宣言するために、信雄の所へ行ったとき、大金を信雄から出され、織田の配下になるように要請されると、大金に目がくらみ、一瞬戦いをやめようとしたこと。

それに、織田信雄の伊賀との戦いの前線基地田丸城の構築に、伊賀の人達が携わる。織田から給金がでるから。その城が織田の伊賀攻めの拠点になる、にもかかわらずお金をもらえることが何よりも大事だから。

 それから、決定的にユニークなのは、12評定衆が織田と戦うと決めても、農民忍者の多くがそれに従わない。忍者として傭兵になれば、給金がでるが、自らの国を守るために戦っても、何の給金もない。そんな無意味な戦いをするなら、伊賀の国を出ようとする。

 しかし、最後は、彼らも国を守ろうと織田と戦う。

和田さんの、この戦いの忍術の溢れかえる描写が秀逸。
こんな心躍り、興奮する描写は和田さんしかできない。本当に面白い。

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| 古本読書日記 | 06:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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清水潔   「桶川ストーカー事件 遺言」(新潮文庫)

 1999年10月26日、埼玉県JR桶川駅前で女子大生猪野詩織さんが刺殺される。世間を震撼させた、女子大生ストーカー殺人事件である。ストーカーという言葉が流行になり、埼玉県警、上尾署の対応のひどさが喧伝され、私も当時警察は酷いなという印象を持った。その後警察は民事不介入ということで、事件にならなければ、捜査はしないということを知り、そんなもんかと思い、ではこの事件は何だったのと改めてこの本を手にとってみた。

 著者清水さんは、当時新潮社の写真雑誌「FOCUS」の専属記者だった。

 この事件、刺殺事件の首謀者はストーカーをした小松和夫。しかし、実際の殺人指示者は和夫の兄、小松明夫、実行者は久保田祥史。

 実は、この3人に辿り着いたのは、著者清水さんのチーム。上尾署は不思議だった。事件は通り魔犯罪として、本来なら小松の行方を捜索するはずなのに、全く小松を追わなかった。
 清水さんチームは、色んな情報をとり、首謀は小松和夫、殺人実行者は久保田、指示者は和夫の兄明夫と特定していた。それで、久保田と明夫の出入りするアパートの部屋を見つけ、上尾署にも連絡した。上尾署も捜査員を張り込ませる。ところが、上尾署は明夫、久保田の出入りがあるのになかなか逮捕しないのである。全く奇妙。

 実は、被害者詩織さんは、何度も上尾署にストーカー被害の訴えをするのだが、上尾署は全く受理しない。そのうち、小松のストーカーぶりはとんでもないエスカレートして、家の近所に詩織さんを誹謗中傷するビラを大量にまき、近所の家々に貼る。父親の会社には、父親が不正をしているとのビラを大量に送り付ける。それでも、上尾署はこんなの持ってきても受理しないと拒否する。

 そこで詩織さんと父親は弁護士に相談して、小松和夫に対する告訴状を上尾署に提出する。その際、「詩織さんを殺す」と言っているテープを証拠品として提出する。

 それでやっと上尾署は告訴状を受理する。その後不思議なことが起きる。上尾署の刑事が告訴状を取り下げるよう詩織さんの家に訪れ要請する。

 こんなことは、司法制度上ありえないこと。告訴状を受理した警察は、捜査を行う義務がある。

 上尾署は、「FOCUS」が久保田と明夫の写真を載せることを掴んだのだろう。[FOCUS]販売のギリギリのタイミングで久保田と明夫を逮捕する。

 何で警察は犯人逮捕を躊躇したのか。その裏にはとんでもないことが隠されていた。告訴状を改ざんしていたのである。もし犯人を逮捕すると、改ざんが表ざたになるし、告訴状取り下げの要請を詩織さん一家にしていたことが公になる。それで犯人逮捕を躊躇していたのである。しかも、その直後主犯の小松和夫は北海道の湖に身投げして自殺していた。

 そうか。そんなことがあったのか。この本で、真相を知ってショックを受けた。
モリカケの改ざんもひどいと思うが、市民の味方を標ぼうする警察が、告訴状を改ざんするとは絶望的である。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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筒井康隆     「七瀬ふたたび」(新潮文庫)

 1975年、400万部以上売り上げした大ベストセラー「七瀬シリーズ」3部作の2作目。
何回もテレビドラマ化され、映画化もされている。

 人の心を透視できる主人公七瀬と同じく透視できる5歳のノリオ、念動力を使う黒人ヘンリー、予知能力をもつ岩淵、時間をあやつるタイムトラベラーの藤子など、超能力保有者が、それぞれの超能力を駆使して迫る危機を突破してゆく連作短編集。

 面白いのは、現代社会では超能力者の存在は無いとされている。だから闇雲に超能力を使用はできないところ。

 例えば七瀬はクラブ「ゼウス」でホステスをしている。同僚のホステスしげみがペンダントのダイヤを落としたが気がつかない。そのダイヤをホステス弥栄が拾ってバッグに隠す。

 これを七瀬はみてしまう。

客に西尾という男がいる。この西尾も超能力者で透視ができる。そして西尾は弥栄のバッグの中にダイヤが隠されていることを掴む。西尾はこれを武器にして、弥栄をものにしようとする。弥栄は震えあがり、嘆き悲しむ。七瀬は西尾の心も弥栄の心もわかる。何とか西尾の策略をやめさせようと思うのだが、それが超能力によって知りえたことだから、西尾や弥栄の前でしゃべるわけにいかない。どうして知っているのかと問われたら答えられない。

 超能力で事件が起こると、それは存在しないことになっているから、社会秩序が収拾つかないことになる。だから、国家は超能力者たちを排斥にかかる。

 物語では、最後に七瀬を初め、超能力者たちが殺戮される。え?っと驚く。だってこのシリーズは3部まであるのだから。

 しかし、この世界は、無数に物事が、平行して起こる多元宇宙のどれかひとつの世界。
藤子の時間旅行能力により、無数の中の、殺戮されない世界に超能力者たちは導かれる。

SFとしては、今からみれば目新しくないが70年近く前では斬新だった。

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河野裕    「いなくなれ、群青」(新潮文庫)


 主人公の七草は、4日間の記憶を失って、意識を回復すると、見たこともない、地図にものってない階段島にいた。それから、しばらくすると同じように2か月意識を失っていた幼馴染で同じ高校に通っている真辺由宇が島に現れる。

 ライトノベル。突然見知らぬ島に放り出された2人が、島の高校生や、島の人々と戸惑いながら衝突、交流を繰り返し、成長する物語か。よくあるパターンありきたりの物語だろうと少しげんなりして読み始めた。

 この作品は映画化されている。こんなパターン化した物語を映画化しても良い作品は生まれないだろうと読みながら思った。
想像ははずれてはいなかったが、とんでもないからくりが隠れていた。作者河野の素晴らしい想像力に脱帽した。

 実は、階段島は現実の社会から捨てられた人たちが住む島だった。捨てられたというところが想像できない内容。現実の人々が、自分のいやなところをゴミ箱にすてる。そのいやなところだけを持った、もう一人の自分が存在するのが階段島なのだ。ゴミ箱に捨てられた人が生まれ変わる場所。

 七草は何でも悲観的に考える人間。由宇は逆に、理想主義で、他人も自分と同じようにならないと、容赦なく他人を切り捨てる。そんな2人の欠点がゴミになって捨てられ、階段島で蘇った。

 七草は、理想主義を突き進もうとする由宇のことを尊敬していたし、自分と正反対の由宇に恋もしていた。
だから、七草は理想に燃える由宇を現実社会にもどそうと、そのからくりを懸命に探し、由宇を現実社会に返すが、欠点だらけの自分は階段島に残ることを決めた。

 しかし、人間なんて、自分がゴミ箱に捨ててしまいたいほどいやな性格が、他人からみれば必ずしもいやには見えないことも多い。色んな部分が合わせもって今の自分がある。その総体が愛されていることが多い。

 その証拠に現実社会に戻った由宇は、また階段島の七草のところへ戻ってくる。
面白く読ませてもらった。

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首藤瓜於    「指し手の指 脳男Ⅱ」(下)  (講談社文庫)

 下巻、途中からお待ちかねの怪物男鈴木一郎が登場。大活躍して事件の真相が明らかにされる。

 そこも作者の仕掛けもよくできていて、それが暴かれていく過程は、ダイナミックで物語を面白くさせている。

 作品を読むと、物語の展開の素晴らしさにも感動するが、物語に重いテーマが存在し、それが読み終わっても心に大きな沈殿となって残る。

 物語で大きな事件を起こしているのは、精神科医である真梨子の治療を受けていることにその原因があるとみなされる。真梨子は勤めている愛宕医療センターに、過去に医療センターの治療を受けた人間が退院後、カウンセリングを行う「第2外科外来」を新設することを申請していた。

 カウンセリングは治療ではないから、病院の利益には貢献しないと、却下されていたのだが、この新設にたいして、かって真梨子が勤めていたアメリカの医療機関の上司、潘マーシーが資金を医療センターに提供。それにより第2外科外来の新設が認められた。

 この潘マーシーは資金を提供した時は日本で活動していた。
潘の活動も真梨子の「第2外科外来」も目的は同じ。過去に犯罪を起こしそれにより神経科の治療を受けた人間は殆ど例外なくまた犯罪を起こす。

 だから、その人間の犯罪歴、それは、未成年の時代や少年時代を含め、その人間の今までの行動歴神経科での受診治療歴も含めデータベース化して、必要な人に公開するシステムを作り、監視し犯罪や危険を防ぐのが潘や真梨子の活動目的。

 これは、事件が精神疾患により引き起こされた場合、その疾患の完治は殆ど不可能だから、精神疾患のある者が社会にでてきた場合、社会を犯罪から守るために必要だからという理由による。

 これは、悩ましい問題だし、現状の社会では否定的な意見が大半だと思う。
しかし、本音で言えば、そんなシステムはあったほうがありがたい。

 でも、作者首藤は、この物語で、そのシステムを利用して、過去の犯罪者を操って、とんでもない大犯罪を行わせている奴が登場することを読者に提示している。首藤は人間の過去の記録を公開することは、それが犯罪者であってもしてはならないと言っている。

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| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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首藤瓜於    「指し手の顔 脳男Ⅱ」(上)(講談社文庫)

 審査員満場一致で江戸川乱歩賞を受賞した脳男シリーズ第2弾。このシリーズ脳男と異名をとる鈴木一郎が暴れる物語らしいのだが、この上巻では鈴木は全く登場しない。

 ただ、精神科医鷲谷真梨子のオフィスから鈴木一郎のカルテが盗まれるというところで名前だけが登場する。

 上巻では寒河江治という大男がレストランとホビーショーの会場で大暴れして多くのケガ人や、ホビーショーでは死人がでる。この寒河江は真梨子が診ていたことがある患者ということで寒河江の行方を真梨子と茶屋刑事が追う。

 その中で、この寒河江事件は寒河江が単独で起こしているのではなく誰かが操って引き起こしているのではないか、そしてその首謀者は鈴木一郎ではないかというところで上巻は終わる。

 作者首藤さんは、精神医学や医学界の現状について非常に詳しい。物語に松浦という男が登場するがこの役割についてカウンセラーの櫻子が説明する。

 松浦は医療ブローカーをしている。

ある病院かカルテのコピーを購入して、このコピーを別の病院に売る。買った病院ではコピーをもとにカルテを作り、それを元に水増し診察代を国に請求する。

 また、病院からこんな患者が欲しいというニーズに応じて、別の病院から患者を紹介斡旋する。一旦精神的病気とされてしまうと病院をたらいまわしされ、生涯、薬漬け、検査漬け、カウンセリング、同じような治療を繰り返させる。
 松浦のようなブローカーは全国規模でネットワークをもっており、いくらでもカルテや患者を斡旋できるようになっている。

 医療の世界も闇をかかえている。

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本多孝好    「チェーン・ポイズン」(講談社文庫)

 ミステリー。かなり、しっかり読み込まないと、叙述トリックが張り巡らされていて、混乱する。また、叙述トリックか。気が重い。

 最初から変わっていた。私が若い頃爆発的に読まれ、社会的現象を引き起こした、わずか20歳で自殺した高野悦子が書いた「二十歳の原点」が取り上げられている。その後登場する事件の鍵を握る女性の名前が高野章子。更に事件の鍵を握る女性が後半に登場する、この女性の名前が槇村悦子。二人の名前は高野悦子を連想させる。これは何かあると思って読み進む。

 人生に絶望していた高野章子はいつも死にたいと考えていた。ある日公園のベンチにたたずんでいたところ、見知らぬ人が近付いてきて、1年後に同じ場所で会いましょう。その時全く苦しむことなく死ねるお薬を渡しましょうと言われる。
それから自分は楽に死ねると思いながら、ボランティアで民間の児童養護施設に勤めたり、ホスピスに勤めたりする。

 そして高野は服毒自殺をする。高野の死の直後、著名なバイオリニストで、妻と娘を事故と強姦で失った男性が、同じ服毒自殺をする。

 普通、自殺者が毒を飲んで自殺することは殆ど無い。まして複数の人間が同じタイミングで自殺することなどあり得ないと思った雑誌記者が真相を追う。自殺と認定処理された死体は、解剖がなされず、どんな毒で死んだのかはわからない。

 物語では、ホスピスのガン末期患者である大学教授が別の末期患者槇村から、毒薬を手に入れる。だから公園で高野がであった人間は槇村だったように思える。そして他の2人の自殺は槇村が送った毒薬で行われたのではと描かれる。

 しかしこのあたりから、混乱してわからなくなる。

 何となく、槇村と高野は高野悦子から連想して、同一人物ではないかと思う。しかし高野は自殺したとも書かれている。

 だけど、児童養護施設では高野は決して、名前では呼ばれない。「あなた」とか「おばちゃん」と呼ばれている。だから登場人物が高野か槇村か判別できないようになっている。

 申し訳ない。熱心なミステリーファンだったら、何回も読み返し真相を追求するのだろうが、私のようなおじいさんにはそんな気力は沸いてこない。頭が混乱するばかり。

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奈須きのこ     「空の境界」(上)(講談社文庫)

 大きな失敗をした。この作品、ブックオフ オンラインで購入したのだが、上下巻だけ購入。読んでみたら、中巻があることがわかった。本格伝奇ミステリー小説だそうだ。

 作品の解説を、上巻の末尾で叙述トリックの名手、綾辻行人がしている。それを読むと多くの叙述の仕掛けがこの作品には張り巡らされているらしい。

 そうなると、作者にひっかからないよう、結構緊張して読み始める。妖術、魔術が多くの殺人、自殺にかかわり、更に、時系列が順序だてていないで、文体はライトノベルなのだが、正直本当に読みずらいし、叙述のプレッシャーが緊張を醸成し、読むのが苦しい。

 主人公は両儀式、喋り振る舞いは男性なのだが、実際は女性。この両儀式には、今は現れてこないが、両儀織という別名を持っており、その時は男性となる。この両儀式を高校時代から恋している黒桐幹也、2人を雇う魔術師が、蒼崎橙子。
色んな異能を持つ者が次々事件を引き起こす。

 第一章では、異能者両儀式は、バブル崩壊で建設途中で廃墟と化した、巫条ビルから女性の飛び降り自殺者が多く発生、その自殺者の幽霊を見てしまうところが描写される。

 ここでは、時系列が乱れた物語になっていたり、自殺の定義が提示されたりで、複雑。

 第2章は物語の舞台となっている時から2年前の情景が描かれる。両儀式を恋する黒桐幹也が両儀式にひかれ、関係が深まってゆく過程が描かれたり、両儀織、男としての発出がなされたりする。両儀式が最後に交通事故に遭遇して昏睡状態になるところで終了する。

 第3章は浅上建設コンチェルンの令嬢、浅上藤乃が4人の暴漢に襲われるが、この藤乃が襲う男に「凶れ!」と言うと、襲う男の手足がねじれ、切り離されてしまい、死んでしまう。

 この藤乃は無痛症なのだが、それが消えたり、現れたりして読者を混乱させる。
とにかく、読んでいる間、作者奈須さんにひっかきまわされっぱなしで、物語の核がまったくわからない。中巻を購入するか悩んでしまう。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有本香    「『小池劇場』の真実」(幻冬舎文庫)

 何も考えずにブックオフボ紹介本を順番に購入してゆくので、少し古い本を購入してしまった。

  この作品は平成28年8月、都知事になったばかりの小池知事が就任一か月で突然来月開業に迫っていた築地市場の豊洲市場への移転を延期すると宣言したところから、移転実施までの経過をルポしている。

 この築地から豊洲への移転延期あるいは移転の中止は当時も思ったが、何とも奇妙な経過を辿った。

 築地市場は1935年に開業した。平成28年からみれば81年前である。構造は弱く、老朽化がひどくもはや修繕ができないところまできていた。しかも、建物には大量のアスベストが使われ、少しでも建物に傷がつくとアスベストが舞い、人体の肺を傷つける危険性があった。

 また、築地市場は鉄道輸送を前提で作られており、場内の通路が狭く、車も通れないし、ターレの運転が大変で、通路での事故が年間400件も発生していた。

 ということで、どこかに移転せねばならないことは必然で、豊洲移転は青島都知事時代から考えられ、既定路線だった。

 そして、建設された豊洲市場は、平成28年12月28日には、東京都の安全確保基準及び建築基準法に適合する「検査済証」を発行されている。ところが小池知事と都は、この事実をひたかくしして、豊洲市場の危険性を煽りにあおり、更にマスコミも徹底的に小池応援にまわり、豊洲は、よく調査もしないで小池知事の尻馬にのった。

 豊洲が危険と報じたのは共産党機関紙「赤旗」だった。共産党は豊洲市場の地下にはいり土壌汚染対策としてなされるべき盛り土がない。そこは2.5Mの空間で、水が流れ、ベンゼンが混ざった汚染水で危険だと報じた。
これに、小池知事は勝ち誇ったように急遽記者会見を開き、発表する。

 しかし建築基準法では、盛り土は必要なく、コンクリートが敷かれていれば安全だった。
さらに地下の空間は、多くの配管や配線がなされていて、もし何か起こった場所に直ちに現場に到着するため自転車で移動する必要があり空間は必要だった。地下水は、ろ過され、下水道に流され、全く飲み水や業務用に使用されることは無く、安全。これを危険と言えば東京の全建物が危険ということになる。

 小池都知事は、単に彼女以前の知事や都議会を敵勢力としてたたきつぶし、自分がヒーローになるための目的で豊洲市場をとりあげ大混乱を引き起こし、あげく一年後に結局勝ち目は無いとして豊洲移転を決める。

 小池劇場のように、劇場型政治を行い、マスコミ、人々に喝采をあびた、政治家は過去に2人いた。小泉純一郎と橋下徹だ。しかし小泉には「郵政改革」橋下には「大阪都構想」という明確な方針があった。

 しかし小池都知事には都知事として何をやるか構想もなく、ただ敵をつくり、それで何百億という無駄に金を使う虚しさだけがあった。

 この本で知ったのだが、今自民党の総裁選に立候補している高市さんは、勉強熱心で総務大臣時代、自ら法案を書いて、国会に上程していたそうだ。

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ハリエット・アン・ジェイコブス  「ある奴隷少女に起こった出来事」(新潮文庫)

 この本を読んでまず感じたことは、これはとても普通の翻訳小説とは思えないということだった。翻訳小説というのは、どうしても原文に引きずられ、通常日本では存在しない言い回しが散見されたり、辞書の訳語にも引きずられ、あまり使わないような言葉を使うことが多い。

 ところがこの作品には全くそんなところが無く、普通に社会で使われている文章、言葉で表現されている。こんな翻訳小説に遭遇したことは無く、すごいと感動した。

 そして更に驚いたのはこの作品の訳者が、M/Aのコンサルタント会社に勤務する現役会社員であること。これにも度肝を抜かれた。

 会社時代に仕事でメキシコに行った。そのとき現地人の幹部の家庭に招待された。その家にはお手伝いさんがいたのだけど、幹部もその奥さんも些細なことで、お手伝いさんを殴りびっくりした。そして聞くと、

 「彼女は人間ではない。動物。だから裸や夫婦のセックスを見られても、全然気にならない。だって彼女は動物、石ころ。別に見られたって何も感じない。奴隷なんてそんなもの(もちろんその時奴隷制度は廃止されていたが)。日本人は変だ。奴隷は動物、石ころそんなものに対し同情したり、心を痛めるなんて。」

 この作品は著者ハリエットが奴隷として生まれ、フリント家に買われ、人間性を完全に否定され、動物並みに扱われそこから奴隷廃止になったアメリカ北部州に脱走するために、驚くことに90CMしかない屋根裏に7年も隠れ、その後ニューヨークに脱出するまでを扱った自伝的小説である。

 しかし、奴隷は石ころのはずなのに、おかしいと思ったのは、フリント家の主人がハリエットにセックスをしつこく強要すること。全く男というものは、どうしようもない。

 昨年アメリカでBLACK LIVES MATTERの運動が盛り上がったが、その原点を知るためには役に立つ作品である。

 訳者堀越ゆきさんは、少女時代に読んだ「ジェーン エア」を読もうとして新幹線のなかでネットをググっていた時、世界の古典名著の中で「ジェーン・エア」が10位にランクインしていることを知る。そしてその隣の11位にこの作品があった。少女時代大の読書家だった堀越さん。自分が読んだことのない古典名本があったのかと驚き、手に取り感動し、翻訳につながった。この作品はその「ジェーン・エア」とほぼ同じ時代に出版された。しかし何の反響もなくその後126年も眠っていて1987年に再出版され大ベストセラーになった。

 なにもかも、興味が尽きない作品だった。

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辻村深月    「青空と逃げる」(中公文庫)

 辻村さんはいつも思うのだが、青春に入る前の思春期の人や、思春期に入る前の少年少女を描いたら抜群の生き生きした姿を描くことができる作者だ。この作品でも小学5年生の主人公力の姿を鮮やかに描く。

 力の父親は劇団で俳優をしている。母親早苗も同じ劇団で俳優をしていたが、出産を機に俳優をやめる。

 そんな父親が深夜交通事故にあう。舞台で相手をつとめる大女優が運転する車で事故を起こしたのだ。女優は顔に治癒不能な大きなケガを受け、絶望して自殺してしまう。その直後父親は失踪する。母早苗と力もマスコミや女優の所属する芸能事務所から逃れるために逃亡をする。

 行き先は、まずは高知の四万十川河畔にある小さな町、それから瀬戸内海の小島の家島、それから別府、そして最後は仙台。

 辻村さんが素晴らしいと思ったこと2点。

こういう地方を描く場合よくあるのが、架空の町や村を設定して、作家が想像する風景や街の姿を描くことがよくある。しかし辻村さんは小説の舞台になる街、土地を必ず訪問し、
街を把握して書いている。
 更にすごいと思ったのは家島。通常、田舎の街を描くときは、祭りなど行事や田舎の素朴な人たちを描いて、田舎を美化する場合が殆ど。ところが家島で、読者がどんな街だろうと期待しているのに、島の様子は殆ど描かない。中学1年の藤井優芽を登場させ、優芽と力の交流を中心に描く。

 実は優芽も4月に家島に来たばかり。両親が離婚して、部活で部員とトラブルを起こし、疎外された生活を強いられている。

 優芽は特殊なところがあるが、辻村さんは、今は田舎であれ、都会であれ、小中学校生はどこでも同じと描いてみせる。ここに、うーんと感動してうなる。

 最後は仙台に行き、そして父親がいる北海道に行き、感動的な結末が待っている。

すこし話は平凡かなと思っていたら、どうして父親が北海道にいることがわかり、その真相を知って、読者はビックリ。さすが辻村さんの作品だと読者は認識する。

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坂木司    「女子的生活」(新潮文庫)

 すぐに思い出せないのだが、少し前、トランスジェンダー作家の自伝的小説で身体機能は男性だが、性は女性を読んで驚いた。その作家は出版社に勤めていたのだが、段々男性として生きるのができなくなり、最後は女性の衣服で会社に出社し馘首されてしまった経過を物語にしていた。

 この物語、ブラックアパレル企業に勤めている主人公みきもトランスジェンダー、高校生のとき、男として生きるのができなくなり、女装化粧をして生活するようになる。

 一般の会社には就職できず、トランスジェンダーでも受け入れてくれるブラック企業に勤めている。
 この作品はそんなみきが遭遇する出来事を作品にした連作短編集。作者栃木が脚本に手をいれ何とNHKでドラマ化されている。
 いろんな経緯があり、みきは、高校時代の同級生伊藤君とシェアハウスをして、マンションで共同生活をしている。

 その部屋に伊藤が同じ同級生だった高山田を連れてくる。高山田は、みきのかわいらしい女子高生の姿をみて密にみきを恋していた。それが、みきが性は女性で、機能は男性であることに驚く。

 そして、みきに対してハラスメントのような質問や叱責をする。それを軽妙にみきが受け答えをする。そのところが面白い。

 実は、高山田、あだ名はミニーで小柄。みきと並んで立つと、みきの首あたりまでしか身長が無い。

 そこで、みきが高山田に化粧を施し、女装をさせて、伊藤もいれ3人で通りを散歩する。
いやがっていた高山田もだんだん女装を気持ちよくなる。伊藤は2人の女性にはさまれているように見え、モテモテ男のようになる。

 そんな高山田が故郷に帰り、スマホに女装をして汚い膝やすね毛がばればれの写真をあげて「私は誰でしょう」とアップしている。
男性のようで女性。女性のようで男性。読んでいて頭がクラクラする。

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トーベ ヤンソン   「ムーミン谷の彗星」(講談社文庫)

 じゃこうねずみが、地球のムーミン谷に危険がせまっている。と恐怖をあおることを盛んに言うが、その正体が何なのかはわからない。

 それで、本当に地球は滅びるのか確かめに、ムーミンパパとママがムーミントロールとスニフを天文台へと旅立たせる。その天文台での予測、4日後8時42に大彗星がムーミン谷にぶつかる。予測誤差は+4秒。

 この物語、彗星の接近で、高熱のため海が干上がったり、強風が逆巻き、想像を絶する場面が連続するのだが、それにより魚や深海だこ、多くの昆虫など虫たちが死ぬ場面は全くない。みんな、個性的で協力し合っているわけではないのに、頑張って生き抜く。

 唯一、死が登場する場面はアンゴスツーラ(ちょっとどんな動物かわからないが)が、スノークのおじょうさんを襲って、それをムーミントロールがナイフで戦って殺すところだけ。

 そして一番驚いたのは、彗星がムーミン谷に最接近し、皆が洞穴に隠れて、災難は逃れる。
しかし、彗星は衝突はせず、しっぽがムーミン谷をかすめて宇宙に帰ってゆく。

 ムーミントロールがつぶやく。

「彗星を知ったのは、僕が最初なんだ。しかも、彗星がどんどん大きくなるのを見てきたんだ。彗星って、ほんとにひとりぼっちで、さびしいだろうなあ・・・。」スナフキンがつないで言う。「みんなにこわがられるようになると、あんなに、ひとりぼっちになってしまうのさ。」

 そうか、それで彗星は衝突を懸命に避けたのか。
作者ベンソンの暖かさ、優しさが溢れている。

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司馬遼太郎    「播磨灘物語」(四)(講談社文庫)

 とんでもない勘違いなのだが、本能寺で信長が殺され、これを知った秀吉が、宿敵毛利と和議を結び、即とってかえし、京都に向かう。

 色んな歴史物で、秀吉はすっとんで帰り、明智光秀を殺害。この間、今の世を基準にして想像し、数時間で本能寺に到着、即仇討ちを行ったと思っていた。

 しかし今の世、広島から、車も新幹線も無い時代、そんな速い移動は不可能。当然京都に戻るのに何日もかかる。だから、豊臣軍と明智軍の合戦があり、これで秀吉は光秀を破る。山崎の合戦である。

 調略の官兵衛が、この巻、山崎の合戦では、彼の戦場での八面六臂の活躍が描写される。ようやく4巻にきて、官兵衛の戦場での戦う姿が登場する。

 この巻で印象に残ったところ。
秀吉が三成など側近に、もし自分が死んだら、誰が自分に代わり天下を取るだろうと訪ねる場面がある。

 側近は、大大名である、家康、毛利、前田などの名前を次々あげる。
秀吉はそれは違う。俺の後を狙っているのは黒田官兵衛だ、と言う。
秀吉も信長も、嫌った人間は、殺害しようと思い実行する人間である。

  官兵衛はこの秀吉の言葉を知り、さっさと九州筑前に領地をもらい、秀吉の軍師から身を引く。そして、藩主も即退き、子どもに譲り出家して如水と名乗る。

 この引き際こそ、見事鮮やか。

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司馬遼太郎   「播磨灘物語」(三)(講談社文庫)

 結局官兵衛は主人小寺藤兵衛に騙され、信長を裏切った荒木村重に捕らえられ、彼の城有岡城(伊丹城)に幽閉される。
 この時、主人小寺藤部兵衛は荒木に「官兵衛を殺してくれ」と依頼している。

 幽閉された官兵衛は牢獄にいれられ、みずからの糞尿と同居し、救出された時は、半死半生の状態になっていた。

 信長は荒木の謀反には、官兵衛が関わっていると信じ、秀吉に官兵衛の嫡子松寿丸を殺害するように命じる。それが実行される危機一髪のところで松寿丸を竹中半兵衛が救出。
官兵衛は牢獄暮らし一年半後救出されたが、半兵衛はすでに亡くなっていて、官兵衛は号泣する。

 信長は、少しでも気に食わないことがあると、部下に自害を、他の人間は殺害を命じ実行させる。そして、それができるのは、自分は人間ではなく、全能の神の域に達していると思っているから。恐ろしいことだが、今の世にも、信長のような人間は専制君主国で存在している。

 人間の心の動きは、歴史史料には描かれていないから、すべて作者の想像になるが、官兵衛は主人小寺藤兵衛の策略で、とんでもない苦境を味わったが、官兵衛は少しも主人藤兵衛を恨むことはなかったと司馬は描くが、小市民の私は本当かなと眉に唾を塗りたくなってしまう。

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| 古本読書日記 | 07:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎  「播磨灘物語」(二) (講談社文庫)

 黒田官兵衛が姫路城主で小寺家に仕えていたこの頃を描く。この巻こそ官兵衛の官兵衛たる特徴が発揮されている。

 播州、備前の小国は、当時西には大藩主国の毛利家があり、一方東には信長が勢力を伸長。
小国は、どちらの側につくかを迫られていた。
 小国は大局観は持つことはできなくて、多くは毛利家につくことが体勢だった。

まず、自分の藩主小寺家を説得せねばならない。これが大変。藩主はしぶしぶ官兵衛の主張を受け入れたように思えたが、そのしぶしぶぶりは本心ではないのではと思わせる書きぶり。

 しかしこの藩主の信長配下になるということを背景に、官兵衛は上洛し信長に会い、播磨、備前、そして毛利征伐に信長軍を派遣するよう要請する。
 信長はそれは秀吉にまかせてあると応じる。

もちろん、秀吉、官兵衛は幾つかの城は、戦いにより制覇したが、司馬遼太郎は「調略」という言葉を多用しているが、知力、交渉によって信長につくことに官兵衛は小国の説得にあたる。

 官兵衛は調略を最後まで貫こうとする。調略に失敗すると合戦が始まるから、戦いは避けたい。

しかし、調略は難航する。それどころか、織田信長に忠誠を誓っていた荒木村重が裏切りをする混乱まで発生する。

 黒田官兵衛は、司馬が強い思い入れのある軍師でNHKの大河ドラマにもなるくらいだから、目覚めるような活躍をしているように思われるのだが、苦悩ばかりが描かれるし、その活躍の場も備前、播磨と小さい土地で、日本の歴史に大きな影響があるわけではなく、正直読んでいてもかなりだるい。司馬の思い入れがあまり私には伝わってこない。

 正直なぜ官兵衛がどうして高い評価を受けるのか2巻までではまったくわからない。

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| 古本読書日記 | 06:35 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎   「播磨灘物語」(一)(講談社文庫)

名軍師として、豊臣秀吉に仕えた黒田官兵衛、そして九州筑前国藩祖に至るまでを描いた
全4巻にわたる大河小説。

 恥ずかしい話だが、黒田官兵衛名前だけは知っていたが、その活躍功績については何も知らなかった。軍師というからには、戦国の世、信長や秀吉の軍師として、多くの合戦に出陣し、輝く戦果をあげた武将だと思っていたが、どうもそんなイメージとは違うようだということを読みながら思った。

 第一巻は、黒田官兵衛のルーツ黒田家の成り立ちから始まり、官兵衛の祖父黒田重隆が黒田家の家老竹森新右衛門の援助で目薬の製造販売で財をなし、その財力を背景に播州平野に勢力をもっていた戦国大名小寺則職に取り入り仕え、小寺家の城の一つ御着城(姫路城)の城主となるまでを延々と描き、その後城主となった息子官兵衛登場までが長かった。
 

 当時の備前及び播磨には多くの小さな藩主がいて、争っていた。
 官兵衛は京都より入ってくる情報から、勢力があり、新しい考えを持つ信長がやがて国を統一すると思い、宇喜多直家や荒木村重などを説得し、上洛し信長に忠誠を誓わせようと奔走する。

 ここまで読むと、黒田官兵衛は、戦いにより、天下に対応するのでなく、戦略、情報収集能力、知力により領主としての生き方を決めてゆくこと、その知力、戦略がいかに優れていたかを司馬は描こうとしていることがわかる。

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| 古本読書日記 | 06:31 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中島らも   「白いメリーさん」(講談社文庫)

 なんて言ったらいいのかわからないが、中島らも、得意のナンセンス物語短編集。
最後の作品「ラブ イン エレベーター」が面白い。

 主人公は高層ビルのエレベーターにのる。そのエレベーターにはすでに女性1人が乗っている。ドアが閉まりエレベーターが上昇する。降車ボタンはあるのだが、全部通過して上昇を続ける。3時間たっても、4時間たっても止まらない。もうとっくに成層圏は抜けて宇宙へとびだしているだろう、エレベーターの天井を開けると、上昇するエレベーターのずっと先は黒い点になっている。

 エレベーターに乗って4日目。主人公と女性はセックスをする。それから、何回も、何回もセックスをするがエレベーターは止まらない。10日たったのか、1か月たったのか、何日エレベーターに乗っているのかだんだんわからなくなる。

 そして、長い日数を経て、やっと止まり、今度は下降を始める。
そして、多くの日数をかけて、エレベーターは元の地上1階に戻る。
ドアが開く。そのドアを出ると、そこはまた別のエレベーター。

 女性が言う。
「今度は下りみたいよ。」
短い作品なのだが、最後にぐったり疲れた。

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| 古本読書日記 | 06:02 | comments:1 | trackbacks(-) | TOP↑

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百田尚樹    「夏の騎士」(新潮文庫)

 小学5,6年生。それまで、燻っていて目立たなかった子供が、突然成績がぐんと伸びたり、スポーツが上手くなることがある。

 この物語は主人公ヒロと健太、陽介の3人が小学6年生の夏、秘密基地を作り、騎士団を結成するところから始まる。3人とも、家で宿題をしたこともなく、教科書も開いたこともない。クラスでは3馬鹿トリオと言われるダメ3人組。

 こういう物語は、夏休みに大きな障害に3人で挑戦して、壁を乗り越え飛躍成長する物語になることが定番。

 百田は、この3馬鹿騎士団に3つの物語を絡ませる。

一つはクラスの憧れの美女、帰国子女の有村由布子が、話もしたこともないのに、突然騎士団トリオに8月に県の最大塾の模擬試験がある。それに騎士団3人が受け、100番以内に入ってと言われる。マドンナのお言葉。のぼせあがった3人は受けることを宣言する。それにしても受験者数は3千人を超える。全く勉強をしない3人に対し、クラスの成績優秀の大橋から、
「零点をとらないなんて、お前たちにとって目標が高すぎる」とからかわれる。

この模擬試験に至るまでの、3人の勉強の姿とその結果が一つの物語。

 それから、クラスでもっとも口が汚く、ブスでおとこおんなの異名を持つ嫌われ者の壬生紀子がクラスの女生徒たちの策略で学園祭で行われる劇「眠れる美女」の主役オーロラ姫に選ばれる。そしてどうしてかわからないが、その相手役の王子に主人公のヒロが自薦で手をあげ選ばれる。この劇がどうなるのかがもう一つの物語。

 そして3番目は、小学女子生徒暴行殺人事件が2件発生。この犯人捜しに騎士団がたちあがる。

 3つも話があるとはてんこ盛り過ぎ。大丈夫かと心配になるが、3つを見事に融合させ百田はノスタルジックな文章で物語を描く。そして、遠く過ぎ去った遥か昔の小学校時代を読者になつかしく思いださせる。

 まさしく本の帯の宣伝文句。騎士団少年たちの「スタンド バイ ミー」だ。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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長岡弘樹   「夏の終わりの時間割」(講談社文庫)

 短編ミステリー集。必ずしも事件が起き、それを捜査、推理して解決するという常道のミステリーばかりではなく、仕掛けを散りばめたら、こんなことになったという形式のミステリ―もたくさん含まれている。

 収録作品では「空目虫」が面白い。

主人公の高橋脩平は介護ホームで介護士として働いている。ある日施設長の坂東に呼ばれる。認知症で施設にいるトミ子さんが、全く笑わない。高橋にトミ子さんを笑わせてほしいと依頼する。そして、更に空瓶にはいっているカメムシを捨ててほしいとカメムシの入っている瓶を渡す。その時、坂東はよくカメムシを見なさいと言われる。すると瓶で回っているカメムシが人間の笑顔になっていることがわかる。

 脩平はトミ子さんに昔を思い出してもらおうとあやとりをしてみる。しかし、全く楽しい様子にならない。その時、トミ子さんのまなざしの先を見るとそこにはカメラがある。そこで脩平はひらめく。トミ子さんにカメラを与える。するとトミ子さんは生き返って写真をとりまくり、笑顔がもどってきた。

 高橋寿郎という入居者がいて、彼も笑わない。そこでまた坂東より高橋に笑ってもらうようにと指示がくる。

 輪投げをしているときつまずいて寿郎が前のめりに倒れる。その時、肘で身体を支え、指を匿う。これを見て、脩平は寿郎に電子オルガンの蓋をあげる。すると寿郎は生き生きと演奏を始める。

 カメムシがまた空瓶にはいってしまう。寿郎についてカメムシを持って施設長の坂東に報告しにゆく。その時寿郎の身上書をのぞき見する。

 入居者高橋寿郎、保護責任者高橋脩平。

そして坂東が言う。そのカメムシは脩平君を好きみたいね。と笑っているカメムシに向かって言う。

 施設長の坂東は、入居者より脩平の笑顔が欲しかったような気がする。
脩平君。お父さんの大好きな電子オルガン演奏を発見して、本当に良かったね。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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吉田篤弘   「流星シネマ」(ハルキ文庫)

 吉田の作品は、現実からちょっぴり遊離して、美しい表現に読者はどんどんとりこまれてゆく。吉田の世界で浮遊する心地よさは今でも変わらないのだが、年をとったせいか、その浮遊に眠りが誘われ、こちらも浮遊の中夢の世界を彷徨う。面白いのだが、見る夢はいつも、読んだところまでの続きになっている。そしてはっと目覚めると、夢と物語が異なることを知り、戸惑ってしまう。

 東京は運河、たくさんの川がある街である。先回のオリンピック時に川や運河は暗渠として地下に埋め込まれた。ということは東京の川、運河は今でも地下で流れている。

 だから、この物語のように、くじらが間違って、川に入り込み大騒動になったことがかってあった。

 物語では、主人公の太郎、ゴー、アキヤマの小学校の友達3人が、舟で川を下り、クジラを見に行こうと冒険を実行する。

 しかし、舟は縦に横に大揺れ、太郎は舟から投げ出されてしまい、気を失う。そして気が付くと、アキヤマが行方不明になっていることがわかり衝撃を受ける。

 そして、太郎は現在でもこの事故は人生の基点になっていて、事故が今の起きているという認識になっている。

 ということは、過去は事故以前のこと。そして事故以降は未来のことという認識。今太郎は34歳。随分遠い未来にきてしまったと思う。

 それから、予測と予約は異なる。予測は今の生き方を変えないと将来はこうなるというのが予測。
 こうしたら、こうなるだろうと思うことが予想。
そして殆どの人々は予測のなかで人生を生きていると物語では書かれる。

 この物語、もちろん人生の有り様についていろいろ描かれているが、未来、過去について考え方、予想予測についての考え方、斬新で印象が強く残った。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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五十嵐貴久     「あの子が結婚するなんて」(実業之日本社文庫)

 五十嵐は女性の生き様、心理を描くのが本当にうまい。女性作家以上に女性を描く。その才能には驚嘆する。

 この作品は、七々未の中学生の親友だった5人のうち、最も結婚に縁がないと思われた美宇が結婚するまでのドタバタを描くコメディ。何しろ美宇は少し小太りでスタイルも容貌も他の子より落ちる、七々未や他の子は必ず合コンに美宇を連れてゆく。そうすれば、美宇のおかげで誘った子が引き立つから。

 しかしこの美宇の夫になる男性は一流大学医学部出身のイケメンで将来は実家の医院を継ぐことになっている。正直他の親友たちは衝撃を受けている。

 今の若い人たちは当たり前に知っていて、実行しているかもしれないが、結婚式披露宴は西洋スタイルで大変のようだ。

 七々未は美宇に依頼されプライズメイドのメイド・オブ・オナーを引き受ける。プライズメイドというのは結婚式の立会人兼世話人。実際はどうかしらないが、この作品によると式披露宴の準備、打ち合わせは新婦に代わり、メイド・オブ・オナーが行う。式のときドレスは何にするかまで、この作品では美宇に代わって、七々未が行っている。新郎側とも打ち合わせをせねばならない。この新郎側の段取り人をアッシャーと言うらしい。この段取り美宇のわがままで七々未はへとへとになるまで振り回される。

 それから、これも驚いたのだが、ブライダル シャワーとバチェラー・パーティーというのがある。これは、結婚すると、今までのように新婚夫婦とは気楽に遊べなくなる。だから式前日に男性と女性はそれぞれ集まって、パーティーや結婚すると遊べなくなるような遊びをする。ブライダル シャワーは女性版でバチェラー パーティーは男性版でオネエチャンのいる店に繰り出したりする。物語ではこのブライダル シャワーでとんでもない混乱が引き起こされる。

 物語も面白いが、私のような年寄りの知らない今の結婚式・披露宴事情について知り正直驚いた。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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椰月美智子    「しずかな日々」(講談社文庫)

 野間児童文芸賞、坪田譲司文学賞をダブル受賞した作品。

  活字中毒で無作為にたくさんの本を読んできた。正直、この作品は素晴らしいと思う作品には殆ど遭遇しない。しかし、この作品は、ここ何年か読んできた作品では最も素晴らしい作品だった。

 主人公の光輝は30歳を超えた会社員。その光輝が振り返って思うに、自分の人生のターニングポイントは小学校5年の時の夏休み。その夏休みを丁寧に物語は描く。

 光輝は、それまでクラスに友達もいなく、気が小さい暗い雰囲気の少年だった。ところが、夏休み直前に、お母さんが今の仕事をやめ、新しい仕事をすると宣言。そのため、今のところから引っ越し、転校をせざるを得なくなった。しかし、その時には、広場の野球に誘ってくれた初めての友達押野がいて、せっかく友達ができたのに、引っ越し転校はいやだと拒否する。

 それで、一回しか行ったことのない、おじいさんの家に預けられることになる。おじいさんの家は農業で古い大きな家、周りに畑や庭があり、縁側もある。

 そこに押野が遊びにくる。二人で縁側の拭き掃除をする。そして疲れて、その後の描写が素晴らしい。

 「押野が、おおげさに後ろに倒れた。『うひゃー』と気持ちよさそうな声を上げながら。
 僕も真似してひっくり返ってみた。イグサの清らかな香りが鼻をくすぐる。視線の先には高い天井がある。こげ茶色の大きなます目。ぼくたちは寝転んだまま、向きを変えて、頭どうしをくっつけて大の字になった。
『気持ちいい!』
『うん。気持ちいい。』
身体が少し伸びた気がした。きちんと隅々まで伸びきった感じだ。外からの風が心地いい。
押野の頭の熱気が感じられる。友達とこんなに近くにいるなんてはじめてだ。ちょっと照れくさくて、くすぐったい。押野の髪の毛が、僕の髪に触っているのがわかる。セミの声がひっきりなしに聞こえる。青い空に真っ白な雲がきれいに映る。」

 おじいさんは言葉が少ない。それで、光輝が気詰まりになって自分が家にやってきたこと迷惑?と聞く。その時のおじいさんの言葉。

 「お前さんが来てくれて家が活気づいてきた。柱も、梁も、畳も、廊下も。庭や植木も。みんな喜んでいる。」

 大の字に畳に寝転ぶ。そして言葉少ないおじいさんの、胸をさす一言。私が生きてきた昭和がある。そんな夏の経験が20数年ぶりに思い出す。あのときの友達も、その後は平凡な暮らしを続けている。物語の最後の文章が印象的だ。
「人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きてゆく。」

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百田尚樹    「輝く夜」(講談社文庫)

 大ベストセラー作家、デビュー作「永遠の0」の次作。クリスマス イブに起こる恋愛模様、人生模様など5編の短編集。

 面白かったのは2編目の「猫」。

 主人公の雅子は、派遣社員で今は急成長した石丸イベント プロデュースに勤め34歳になっている。

 今日はクリスマス イブ。会社には雅子と社長の石丸しか残っていない。石丸は派遣社員をクリスマス イブに残業させて申し訳ないのか、残業が終わると食事をしないかと雅子を誘う。雅子は何の予定もないが「10時半までに家に帰れねばならないから。」と断る。1時間くらいは帰るまでに時間があるじゃないかと繰り返し石丸が誘う。そして2人は近くの食堂に行く。

 石丸は34歳で、独身。スタイル、容貌もよく、女性社員の憧れの的。しかし石丸は会社を興した時、誓う。

 身内を経営陣にいれない。社員はコネなどを考慮にいれて採用しない。それと女性社員とは恋愛をしない。
  このことを言った後、石丸が付き合っている人はいないの?と雅子に聞く。雅子は「います。」と答える。しかし相手は猫のみーちゃん。

 前の派遣先の会社で社員の宮本に振られ、傷心の中、雨に濡れながら家に帰る途中、死にそうな猫を拾う。やせ細って、目が片方つぶれていた。

 死ぬかと思って一晩看病する。それでも生きていたので、次の朝病院に連れていく。寄生虫が体中にいて、生きることは難しいと言われる。毎週のように抗生物質を打ってもらいに病院に行く。そして何とか危機を脱出して、やがて元気になる。みーちゃんを一人では残しておけない。

 その後、石丸は雅子に、社員にならないかと言う。派遣社員を社員にすることは、派遣会社に不利益になるので簡単にはいかない。でも何とかすると。

 食事が終わると、雅子に石丸が送ってゆくと言う。これは危険だと雅子は思う。断ってもしつこく言ってくる。仕方なく送ってもらうが、ドアを半開きにして絶対部屋にはいれないようにする。するとみーちゃんが石丸の足元に駆け寄ってきて甘える。

 みーちゃんは実は石丸が大学生の時、拾った猫。そのときから片目はつぶれていた。

 石丸はその時きっぱりと言う。
雅子の社員登用は、やめることにすると。社員とは恋愛しないと誓っているんだから。

上手い終わり方だ。

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岡嶋二人     「そして扉が閉ざされた」(講談社文庫)

 この作品は、今全盛である社会派推理小説ではなく、推理だけを追求してゆく本格推理小説である。

 富豪令嬢である咲子の豪邸で、カップルで参加が条件というパーティが開かれる。咲子のお相手は、当日参加できなくて、咲子以外雄一、鮎美、正志、千鶴が参加する。

 そのパーティーで咲子がアルファロメオで海岸の崖から転落し、行方不明となる。
そして2か月後、咲子は水死体になって発見されるが、死体は魚に食べられ、全く殺害された痕跡が無かった。それで咲子の死は事故死として処理される。

 その直後、咲子以外の4人が、咲子の母親から家に来るよう要請される。咲子の家に行った4人は母親からジュースを飲まされ、その直後昏倒し、意識を失い、目覚めると4人は、咲子の家の物置小屋の地下に作られている核シェルターにいた。

  核シェルターで目覚めた4人は、アルファロメオ転落の目撃から、咲子が転落死したのではなく、殺害されたと確信している。しかも、状況から殺害犯人は参加した4人の中にいることは間違いない。

 それで4人は当日の状況について語り合い、犯人は誰か推理をする。その推理のまとめ役が主人公の雄一。
 推理が現実に起きた内容、それぞれの4人の行為を、どんどん詳細につめ、推理を深く進めてゆく。
 すると、雄一の無意識に行った行為が、咲子を殺してしまったことに気付く。

雄一は名探偵役ぶりを発揮して、当然自分が殺害したことは全く思いもしないので何としても犯人を捜すのだと意気込み皆をリードする。

 そして推理の果て、自分が犯人だったことに突き当たる。
ユニークだなあ。推理を鋭く進めている探偵役が犯人になるなんてこんな物語に遭遇したのは初めて。

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| 古本読書日記 | 06:36 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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高橋克彦    「蒼夜叉」(講談社文庫)

  この作品では、貴族抗争、保元の乱で敗れ、後白河天皇によって讃岐に流刑された怨霊伝説の崇徳院が主題として扱われている。

 崇徳院が、流罪されると、延暦寺の強訴、安元の大火、鹿ケ谷の陰謀などが立て続けに起こり、社会不安が起こる。そして、この不安は崇徳院の怨霊が起こしているという風説が広がる。

  崇徳院の怨霊に常に天皇はおびえている。

天皇家に密接に関係している神社は神宮と呼ばれる。明治神宮、平安神宮、伊勢神宮、熱田神宮など、その数は少ない。どこでも、広大な規模を誇る大神社である。しかし神宮の中に、規模の小さい神宮が京都にある。白髪神宮である。この神宮は、大政奉還が明治維新で成り、

その際、孝明天皇の意志を継ぎ、明治天皇が造営した神宮で崇徳院を奉っている。
 大政奉還は成しえたが、天皇は京都守護職だった会津藩が怖かった。もし会津藩が朝廷に反逆すると、朝廷、維新政府は崩壊するのではないかと。

 そして明治天皇は白髪神社に奉った崇徳院に、会津にはつかないでくれ、崇徳院を天皇は大事にするから、天皇家の守護神になってくれと懸命に祈る。

 西洋では、宗教対立によって引き起こされた歴史的事象が多い。日本は多宗教の国だから神によって事変政変は引き起こされないとされているが、そうだろうか。

 今の社会観点から、歴史をながめるから、怨霊、神などは排除される。しかし、特に大和時代の事変、事件は怨霊や神が引き金になっているものがあるようにこの作品を読むと感じる。そんな観点から歴史をみることはあり得ないことはよくわかるが・・・・。

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| 日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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角田光代   「彼女のこんだて帖」(講談社文庫)

 料理にちなんだ短編集。

衿は、午前中に洗濯、掃除を終えて、昨日の残り物で簡単な昼食をとり、ぐずる娘春香を寝かしつけ、その間にクリーニング屋に行き預けた洋服を回収、そして夕食の材料を買いに、商店スーパーを回り帰宅し、夕食を作る。そして7時に夫憲一が帰ってきて春香と3人で夕食。夫憲一は今まで一回もおいしいと言ってくれたことは無い。結婚以来ずっとこんな生活が続いている。

 こんなはずじゃなかった。たまには家族で外食したり、旅行にも行きたい。それでもういやと思い憲一に「夕食はストライキ」と書いてメールする。

 するといつもより少し早く帰宅した憲一がキッチンに行き「今日はストライキだろ。」と言って春香におまんじゅうを作るぞと言っていっしょにミートボールを作り出す。そして、セロリ、ピーマンなど春香が嫌いな野菜も加えミートボールシチューを作る。

 ごはんとスープだけなのだが、これがおいしい。春香も喜んで嫌いな野菜を食べる。

玲は「おいしい」と声をあげ、毎月じゃなくて一週おきに夕食作ってねとお願いし、幸せいっぱいな気持ちになる。
 でも、私は知っている。男をおだてると、毎回玲はミートボールシチューを食べるはめになることを。

 収録されている「ストライキ中のミートボールシチュー」より。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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真保裕一     「盗聴」(講談社文庫)

 著者真保は、1991年に「連鎖」で江戸川乱歩賞を受賞している。当時は、大長編のミステリーを立て続けに発表していた。よく海外出張した時、飛行機内で真保作品を読んだ。

 この本は、初期の真保の中短編5編を収録している。
本のタイトルにもなっている、「盗聴」は結構スケールの大きな作品で、長編がにあう作品なのだが、無理に中編に押し込んでしまっているため真保の長所が発揮されてなく、中途半端な作品になってしまっている。

 わかりやすくて面白いと思ったのが「漏水」。

新築して1年の堀場の家に夜中、大川という水道局の男が訪ねてきて、漏水のチェックをしたいという。この漏水のチェックには音聴棒という道具を使う。水道管にこの道具をあてて、水流の音を聴いて水漏れの判断をする。昼間は騒音や工事の音が邪魔をして水流の音が正しくチェックできないため夜調査するのだそうだ。

 最近よく道路の突然の陥没が起きるが、手抜き工事ということはあまりなく、道路の下に走っている水道や電気、ネットのケーブルなどが、形状変化を起こしたり、交通量が想定より多くなり、埋め込み配管が壊れ陥没することが多い。

 そして大川は言う。最近この家の近くで道路陥没が発生。そこは路地であり、交通量も少なく、陥没する理由がない。そこで大川と工事業者が掘り起こし調べると直径60cm,深さ1.2mほどのいびつな楕円形の穴らしきものがあり、それが陥没の原因。そしてその穴は、人間が座ってうずくまれる姿勢にちょうどよい大きさだという。

 水道管の検査をした堀場家。妻玲子は不動産会社に勤めていたが、彼女の上司である杉谷が会社の金を5000万円横領したことで馘首される。実は横領は杉谷がしていたのではなく、妻玲子がしていた。その罪を全部杉谷におしつけた。それがばれるとまずいので、堀場と妻が杉谷を殺害して、道路の下に埋め込んだのである。
 
そのことを全部知って大川は堀場夫婦に言う。
ここからが面白いのだが、大川は警察には言わないから、1000万円くれと恐喝する。

それで、堀場夫婦は大川を殺害して、自分の家の庭に埋める。まだ新築の家だから配管の不具合は発生しないだろうと考え。そしてその家を売って、別の家に移る。

 しかし新築のその家で、漏水が起こり、業者が配管を修理するために庭を掘り起こす。
 悪事を悪人がかぎつける、そんなものを警察になんて言わない。いかにも今の世にもありそう。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上春樹 佐々木マキ   「羊男のクリスマス」(講談社文庫)

 村上が学生時代からあこがれていた画家で、村上の作品の表紙の装填を多数手がけている佐々木マキと合作で制作した絵本。佐々木マキにまず絵を描いてもらい、それに村上が物語をつけるという方法で作品は作られたとのこと。

 主人公、作曲家の羊男が夏に今年のクリスマスのための曲を作曲依頼される。しかし、今までの曲は全く売れず、貧乏の極致にあった羊男。アパートの部屋で壊れかけたピアノで曲を創ろうとすると、大家さんが「うるさい。アパートをおいだすぞ。」と脅され作曲ができない。

 公園で悩んでいると、羊博士に出合う。羊男が悩みをうちあけると、それは呪われているからと言われる。聖羊祭日の前日クリスマスイブに聖羊上人が夜通りを歩いていて穴に落ち込み亡くなった。それでクリスマスイブに穴の開いている食べ物、ドーナツやマカロニ、ちくわを食べてはならんという言い伝えがあるのに、羊男は穴のある食べ物を食べるからだと言う。

 それで、羊男は聞く。どうすれば作曲ができるようになれるかと。

直径2メートル深さ230Mの穴を創りそれに落ち込めばいい。と博士は言う。
そんな深い穴は作れないというと、何でかわからないが深さはその100分の1でもよいと

博士が言う。それで羊男は穴を掘り穴のあいてないねじりドーナツを買い込み、穴に落ちる。

 そこで、顔がねじりドーナツになっている、ねじけに会い、その後双子の女の子、そして最後に海カラスに会い、その海カラスの背中にのり、聖羊上人に会う。その上人の家に入ると、ねじけ、双子、海カラス、それに羊博士までいて、みんなでクリスマスパーティーをする。そこには素晴らしいピアノがあり、羊男はそのピアノで素晴らしいクリスマスの曲を作る。

 最初は村上春樹らしい、ユニークな物語で始まるが、後半は少し平凡だなと感じた。
もうひとひねりが欲しかった。

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ルイス・サッカー    「穴」(講談社文庫)

 ブックオフでアットランダムに25冊まとめ買いをした中に、紛れ込んでいた一冊。

 これが、とんでもない名作、大ベストセラー作品でアメリカの名だたる文学賞を総なめ、350万部も販売され、映画にもなったすごい作品だった。まったく恥ずかしいが全然知らなかった。

 主人公はスタンリーという少年。気が小さく、学校ではいじめられ、友達もまったくいない。このスタンリーの父親が変わり者で、発明で飯を食べようとしている。その発明があたったことは皆無で、暮らし向きは極貧。スタンリー一家はひいひいじいさんの時代から呪われて今になっていることが物語にさしはさまれて進行する

 今、父親は、靴の匂いが消える発明に取り組んでいる。スタンリーが学校帰りの途中に空からスニーカーが降ってくる。このスニーカーが、ものすごい悪臭のする。早速家に持ち帰って父の発明に役立ててもらおうとしたところ、警察に取り囲まれ靴泥棒として逮捕される。無実を主張したのだが、聞き入れられずグレート・レイク・キャンプという民間の更生施設に収監させられる。この施設レイクと名前がついているが、昔は湖だったが、今は干上がって、砂漠のようなところ。そして、所長の指示で、収監されている少年は一人で直径、深さ1.5Mの穴を「人格矯正、人間成長のため」毎日掘らされる。

 収容者は、過去に傷を負っている少年たち。最初はぎこちない関係だったが、そんな少年たちに対しスタンリーもだんだん心を開き、友達ができるようになる。特にその中のゼロという少年と仲良くなる。このゼロが穴掘りを手伝う代わりに、スタンリーが文字と言葉のスペルを教えてあげる。この勉強の場面が生き生きしていて素晴らしい。更にゼロは文盲なのだが計算の天才だった。

 ゼロはある濡れ衣を着せられ、収容所を脱走する。それをスタンリーが追いかける。
ここから2人の巨大の指と言われている約束の地まで大冒険旅行が一つの読みどころ。

 そこで、所長が穴掘りを強制する理由がわかり、また収容所にやってくる。そこから物語のドンデン返しが起こる。

 人間の幸せや成長することは何かということを描く。更にスタンリーの家の過去の事件やたくさんの散りばめられている仕掛けが無理なく回収され、大きな物語と同時に見事なミステリー作品、冒険小説になっている。

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