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2021年07月 | ARCHIVE-SELECT | 2021年09月

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冲方丁    「光圀伝」(上)(角川文庫)

 江戸幕府御三家、尾張徳川、紀伊徳川、そして物語の主人公水戸光圀が藩主となる水戸徳川を描いた伝記作品。

 この伝記の、一貫して流れるテーマ。実は、光圀は水戸第一代藩主水戸頼房の三男、次男は早死しているが、長男の兄頼重は健在だったにも拘わらず、第2代藩主が光圀になり、長男がなれなかったこと。光圀はこのことで苦悩し、それがどうしてかを追求する。

 その理由は、この伝記でもはっきりとわからない。長男頼重が病弱だったからとにおわすところもあるが、あまり説得力はない。
 その引き金になった驚くことが上巻に書かれている。

 実は徳川幕府3代将軍徳川家光は、女には全く興味がなかった。将軍になった当初は、このことは極一部しか知られていなかったが、段々広まり幕府で知らない人間はいなくなった。

 家光は狂ったように男を求め、しかも恋人になった男を、幕府の高い役職につけるようになった。

 これには幕府は困る。しかも、女性を愛して子を作らないと、幕府の血筋は途絶えてしまう。そこで、何とか家光が愛せる女性はいないものか、物色をする。

 その結果美貌で愛らしい、佐野藩主の家臣谷重則の娘で幕府に奉公に来ている久子が良いだろうということで選ばれた。
 この時代、花嫁修業として、女中奉公に幕府にあがることがよくあった。谷久子は単なる奉公にきていた女性だった。

 ところが困ったことに、この久子を水戸初代藩主頼房が愛してしまった。しかも、久子は3男光圀を始め3人の男の子を生む。

 ここからは、わからないが、家光はこのことを当然知っていて、生まれた子は水子(殺してしまう)にしろと命令した。しかし、母久子は懸命に抵抗して、子どもを育てる。そこで、少なくても長男の2代目藩主は認めないと幕府は頼房に厳命したのでは。 

 それで、光圀に藩主がまわってきた。光圀と長男頼重は非常に仲がよく、光圀は頼重を尊敬していた。それで、兄頼重が藩主になれなかったことに光圀は深く心を痛める。

 父親頼房はこのことに衝撃を受けたのか、生涯妻を持つことは無かった。
家光が男色だとは、びっくりした。

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| 古本読書日記 | 06:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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七尾与史 「死亡フラグが立ちました!凶器は・・バナナの皮殺人事件」(宝島社文庫)

 物語の主人公は貧乏フリーライターの陣内。ほとんどすべての収入を怪しげな都市伝説を紹介する雑誌「アーバン・レジェンド」への投稿記事から得ている。この陣内、記事に行き詰まると常に先輩の投資家本宮に頼る。
 物語は、死神からトランプのジョーカーが送られてくる。このトランプが送られた人は必ず24時間以内に死亡する。それで、起こった死亡は、必ず事故死しか自然死、自殺と処理され事件性が無いとされる。
 近年特殊詐欺が蔓延している。この詐欺の特徴は首謀者が詐欺プロデューサーとして詐欺の脚本を書き、それに従い、出し子とか受け子など、その役目になる人を、詐欺の度に、ネットなどで募集して、脚本に従い、演じさせる。
 そして詐欺が終わると、跡形もなく即解散する。これだから、受け子など現場の人間は時々捕まるが、なかなか首謀者にまで行き着かない。
しばしば死神とか幽霊など、現実にはあり得ない怪人が登場して事件を引き起こす物語がある。しかしこの物語は、死神という事件の首謀者が登場するが、怪人ではなく、現実の人間であるところが優れている。
 物語で、ある政治家秘書が道路横断中に車にひかれ死んでしまう。そこは夜になると殆ど人通りが無い。事故を起こした運転手と被害者は全く関係が無い。更に事故と判断した決め手になったのは、横断歩道の手前に5人の目撃者がいて、事件ではなく偶然の事故であるとの目撃証言が得られている。目撃証言は事件か事故か判断の決め手となる。目撃者5人は互いに全く関係はないし、被害者、運転手も関係ない。だからこの件は単なる事故ということになる。
 しかし、よく考えてみると、おかしいことが結構ある。まず人通りが殆どないところなのに、全く関係の無い人間が5人もいたこと。更に信号が青なのに、横断歩道を渡ったのが被害者1人だけというのも不自然。
 この点がおかしいと主張する刑事もいるが、過失事故でいいのではと警察は面倒を避け処理する。それをおかしいと主張するのは異端児として組織からはじかれる。
 事故、自殺は毎日のように起きているが、中には影で事件を引き起こす死神による殺害事件もあるような気がしてくる作品である。

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| 古本読書日記 | 07:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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友井羊   「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん今日を迎えるためのポタージュ」 (宝島社文庫)

 このミス大賞優秀賞受賞作品。受賞後「しずく屋」シリーズとなり現在まで6作品が出版され47万部を販売している大人気シリーズ。

 都会の片すみで朝6時30分から開店しているスープ屋しずく。スープも料理もおいしい。そんな、しずくにやってくる客が遭遇したちょっとした事件をシェフ麻野が謎解きをする。

 それにしても、心の病に対する診断と治療の進歩はめざましい。多くの病気は細かく分類され、それに関わる本を読んでいると、心の病を患っていない人は存在してないのでは思うほどだ。

 私の子供の頃は、心の病というと、ノイローゼ、精神分裂くらいしか病名は無く、家族に変わった人がでると、村八分にされたり縁談ができないなど差別されることがしばしばあった。だから心の病になった人は、家の蔵の中で隠して暮らし、まわりからわからないようにしたなんて家もあった。

 今は、何の気兼ねなく神経科病院に治療にゆける。昔は神経科と言わずに、一般にそういう類の病院は脳病院と言われていた。

 この物語の西山秀太君。耳は聞こえるのだが、何を相手は言ってるのかがよくわからない。健康診断で聴力は問題なんと診断される。聴力は音が聴こえるかどうかで診断される。
ところが、この本によると、耳に入ってくる音を言葉に変換するのは脳の機能。この機能に異常があると、相手の喋った言葉は全部単なる音になり言葉にならない。こういう障害をAPDという。

 このため、反応がとんちんかんだったり、にぶかったりして完全にみんなから無視され
学校に登校しなくなる。体は健康でどこも悪くないし、肝心な聴力も正常。だから彼の変な態度の原因は誰にも全くわからない。

 心の病の原因がわかってきたのは、ここ数十年のこと。西山秀太君は可哀想な、切ない学生、青春時代を送ることを余儀なくされた。こんな人たちが、最近まで存在していた。

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くろきすがや  「感染領域」(宝島社文庫)

 このミス大賞優秀賞受賞作品。

これは難しい作品。バイオサスペンスだ。感染症、遺伝子工学など、専門用語が飛び交い、できるだけ作者は専門用語を解説してくれるのだが、その解説にも専門用語があり、本当に読むのが辛い作品だった。

 ミステリーの構造は複雑でなく、よくあるパターンでわかりやすい。

物語では、2種類のウィリスに感染したトマトが登場する。

一つは、トマトの実だけではなく、茎も葉も実のように赤くなってしまう。もうひとつは実は熟すことなく、ずっと緑のまま成長しないトマト。

 このウィルスはスレッドウィルスという。ここからがちんぷんかんぷんなのだが、遺伝子は原則DNAからRNAに転写されるのだが、逆にRNAからDNAに逆転写される場合がある。エイズウィルスがこの逆転写によって引き起こされるそうだ。スレッドウィルスはこの逆転写によりできる。

 植物は人間のようにワクチンにより免疫抗体を作ることができないため、ウィルスに感染されると焼却し、他の植物に感染することを防ぐしかない。

 この感染の広がりとスピードが速いと、感染はあらゆる植物に拡大し、植物全体が死滅するという大変なことが起こる。

 実はスレッドウィルスに感染されてしまったトマトは日本の大企業の種苗会社の種を使ったトマトだけだった。その種苗会社はアメリカの遺伝子産業の会社がら買収されかけていた。こういうことは、種苗会社にスパイがいないとできない。

 物語は、このスパイが誰かを追及することと、日本の野菜を守るために、新たな感染を防ぐ2つの柱で展開する。

ここも何のことか専門過ぎてよくわからないのだがリコピン産生のスターターとなるGGPSを作る遺伝子がオフにならずオンになる遺伝子を作らねばならない。ここが話のキーポイントとなる。

 2つの話。そこがどちらも手に汗握る展開になっていて、中身はわからない割には面白い。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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七月隆文   「君にさよならを言わない」(宝島社文庫)

 最近年をとったのか、高尚な文学、小説を読むと疲れがどっとくる。ラノベというのか、高校や中学を舞台にした純真な小説を肩肘はらずに読みたくなる。読むとかなり面白く、これなら文学、高等小説より市場ではたくさん売れているのではと思ってしまう。

 七月のこの作品は、主人公の高校生の明が幽霊が見えるという設定。この幽霊が見えるという設定はたくさんの本で書かれていて設定は平凡だが、この見える幽霊が生き生きしている。

 作品は連作集だが、その中でも純真に一番楽しめるのが「風の階段のぼって」

マリアンヌ女子高が出場する、陸上の春季競技会。この競技会では、他の運動部から精鋭が選ばれ出場する。400Mリレーで選ばれたのが君花、直美、沙織そしてアンカーは部長の皆から信頼されている実栗。ところが、沙織が自分が最も速いからアンカーをすると譲らない。実栗は実力で判断し、沙織のアンカーを認め、他のメンバーを説得するが、メンバーには不満が残る。そして大会では、直美から沙織へのバトンがうまく渡らず、失格になってしまう。沙織は直美が悪いと言い張りリレー走者は分裂崩壊してしまう。そして直後に実栗は白血病で死んでしまう。このあたりがラノベらしい。

 物語の主人公の明は毎日競技場で実栗が幽霊になって走る練習をしているのを見ている。そして、実栗はまたみんなが400Mリレーを走ってほしいと思っている。

バラバラになったメンバーを実栗が説得すると言い出す。しかし実栗は亡くなっていて、相手から姿も見えないし声も聞こえない。そこで、明が実栗の言いたいことを代わって言うことにする。ここが物語の一番の読みどころ。何しろみんなには死んだ実栗は存在していない。

 そして選手権大会兼国体の代表一次選考会。

 400メートルリレー。マリアンヌ女子高は第一走者君花。大学代表を抑える素晴らしい走りっぷり。そして第二走者は直美、第三走者は沙織、ここまで大学代表を抑えている。

 大きな記録が生まれそう。しかし第4走者がフィールドに登場しない。

 明には実栗が走っているのがみえる。もちろん今まで走ってきたリレーの選手たち、実栗の走っている姿は見えないが、懸命に実栗がアンカーを走っていることがわかる。

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| 古本読書日記 | 06:25 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー   「泣ける!ミステリー 父と子の物語」(宝島社文庫)

 5人の作家が、父と子を主題にして描くミステリー。

小説でよく描かれる父親は、家族、家庭には関心が無く、それゆえ家では殆ど孤立していて、子どもからはきもいだ加齢臭がすると嫌われ、時に妻からも同じ扱いを受けている哀れな姿で扱われる。

 主人公の和衣は、近所の同級生野亜と幼いころから遊ぶ大の仲良し。何と小学校から大学まで同じ学校に通ってきた。そして今は一緒の大学生。

 あまり家で存在の無い和衣の父親は、和衣の通っている大学で哲学を教える教授をしている。
ある日、野亜に誘われ居酒屋に行く。そこで野亜からとんでもないことを聞く。

まだ誰も知らないが、和衣の父が、女子大生にセクハラをしたということで、学部長のところで問題になっていると。
 和衣は驚く。あんな地味で風采の上がらない父がセクハラをするなんてありえない。相手は一つ先輩の橋本美智さんだと言う。
 橋本さんは美人だが、人を寄せ付けず、いつも孤高としている。精神的に不安定で、リストカットをたびたびして、スカーフで腕を巻いている。

 その橋本さんに呼び止められ喫茶店に行く。
橋本さんは、自分には父親がいない。生まれたときには母と別れていた。だから父親がだれかもわからない。それで、父親とはどういう人間か、和衣のお父さんを使って試したと言う。
そして「お父さんはりっぱな人だったよ」と言って喫茶店から去ってゆく。

 たまらず、和衣は大学の父親の部屋にゆく。
お父さんは
「橋本さんが、突然学部長に父親に研究室に引っ張り込まれキスをされた。」と全く身に覚えのないことを告げられ、3人で話をしている。

 その橋本さんが、突然父親の研究室にやってくる。
そして、「嘘を言ってすみません。」と謝る。
父親は、どうしてそんな嘘をつくのか、と橋本美智に聞く。しかし、美智は答えない。

父親は言う。
「私は、人生も先が見えてきたから、どうなっても構わない。でも橋本さんはまだ人生これから。こんな噂がひろまると、大学にもいられなくなるし、辛い人生になるよ。」と。

 これを聞いて、和衣は自分の父はすばらしい父だと思う。
まず、普通は自分の娘和衣だって、噂で手痛い傷を追う。だけど、まず嘘をついた橋本さんへ心遣いをする。

 この作品集に収録されている小路幸也の「美女とお父さんと私」から。
本当に素晴らしいお父さんである。とても私ではできない。

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中山七里   「ドクター・デスの遺産」(角川文庫)

 この作品、難病を抱える娘を持つ主人公捜査一課の犬養刑事が、部下の高千穂明日香とともに、末期患者らの安楽死を20万円で請け負う「ドクター・デス」を追う物語だ。

 日本では安楽死は認められておらず、それを実行すると殺人罪になる。
植物人間状態になって、色んなチューブを体中に張り巡らされても、生き続けることが最も大切と信じられ、治療もどきが続けられる。

 難治病を患っている娘に犬養が情熱をこめて言う。
「安楽死を望む患者の気持ちを理解はできても納得まではできん。どんなに今が苦しくても、生きていればきっといいことがあるだろうと考えているからだ。・・・お前が仮に死を望むような状況に置かれたとしても、俺は最後の最後までお前の安楽死を認めはしないだろう。自分勝手なことは百も承知で言わせてもらえば、やっぱり生きてほしいからだ。生きていく努力を放棄してほしくないからだ。・・・お前には生きていて欲しい。辛くても、苦しくても、お前が生きているということだけで、俺は救われる。」

 絆、平等、平和、愛、生きがいという言葉と同じように耳にはさわやかに聞こえるが、現実の社会に対しては言葉だけが踊り、この作品を読むと、犬養の情熱がどこか冷たく、空しく思えてくる。

 以前久坂部羊の作品で知ったのだが、日本の治療費の半分は、死の直前2か月間で使われているとのこと。

 つまり、希望的価値が殆どない終末、延命治療費用は非常に高額で、金額も膨大となっているのである。そして、ここでの医療費が病院、医者の稼ぎどころなのである。

 安楽死など認めてしまったら、日本では医療崩壊となる。だから、何があっても、病院は安楽死は認めない。

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山口恵以子   「婚活食堂1」(PHP文芸文庫)

 東京四谷にある「めぐみ食堂」は、女将の恵が一人で切り盛りするおでん屋だ。そこには、婚活にはげんでいたり、結婚にやぶれたり、偶然独り身の人達が集まる場所になっていた。

 デパートの売り子として派遣されているバツ一の茅子の一人娘で27歳になる咲子。他人との会話がうまくできなくて、引っ込み思案。今までに男性と付き合ったことが無い。これでは結婚は無理。それを何とか変えねばならないと、店の家主の真行寺のアイデアで、真行寺が経営している銀座のクラブ「カメリア」に短期勤めにはいる。そして、しばらくすると母の茅子に、咲子が結婚すると言い出す。相手は店の客、一流商社員の鈴木。

 そのことを茅子が「めぐみ食堂」にやってきて怒りを爆発しながら恵に報告する。
「相手の鈴木はしょぼくれた中年男で50歳になるのにまだ課長。中学生と高校生の子供がいて、姑と同居しているのよ。3年前に奥さんに先立たれて・・・。だから、子どもは作れないって。そんなバカな話がありますか。先妻の子供の面倒見て、姑と夫の介護して、それだけで人生終わっちゃうなんて。ただ働きの家政婦よりひどいじゃない!」

 本当にその通りだと思う。ところが、カメリアの経営者真行寺はまったく違うことを言う。
「俺は男の立場で言わせてもらうが咲子はまことに見上げた女だと思う。いくらでも条件の良い結婚ができるのに、二人の子持ちで姑までくっついた中年男との結婚を選んだ。普通のサラリーマンで定年も近い。贅沢はできないし、自分の子供も持てない。それでもその男と結婚しようとするのは、生なかの覚悟じゃない。よほど強い愛情があるのだろう。正直俺は尊敬するよ。・・・・女の平均寿命は九十歳近いんだ。まだ先は長い。」

 なかなか説得力があり、一瞬正しいのではと思ったが、やっぱり条件がひどすぎる。結婚はやめるべきだと読んでいて思った。

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藤沢周平   「密謀」(下)(新潮文庫)

 死が目前に迫った秀吉は、自分の死後、息子秀頼が自分の後継者と任じ、まだ幼い秀頼を5大老、5奉行で支え、秀頼が独り立ちするまで、大老、奉行合議制で政事を行なうよう、起請文を大老奉行に与え、彼らの誓い後、亡くなる。

 しかし秀吉が亡くなると、家康が誓いを破るようになる。露骨に各地の大名に対し、家康につくようお金を使ったりして、説得にかかる。

 そして、大老の雄、加賀の前田利家が亡くなり、秀頼、秀吉の威厳が縮小する。
その経過を大老の一角としてみていた、越後から会津に移った上杉景勝は、家康の姑息なやりかたに怒り、罵詈雑言の手紙を家康に送り、京都に滞在していたが、地元会津に帰る。

 家康は今までに、こんな酷い手紙を見たことが無かった。それで怒り心頭、上杉征伐に京都から会津に向かう。

 一方、景勝は、家康と激しく対立する同じ大老の石田三成に、三成が、徳川との戦いに立ちあがったら、景勝が会津より南下して、家康を挟み撃ちにして蹴散らすと約束する。
 そして家康が会津を目指して移動、江戸城に到着した時、三成が兵をあげたことを知る。

ここで、家康は悩む。そのまま会津に向かうか、京都にとってかえすか。そして、最後とってかえすことを決断。そして関ヶ原で秀頼をかついだ石田三成と天下分け目の決戦に臨む。戦力は家康7万、三成8万で三成が有利に見えた。

 しかし実際の戦いになると、秀頼、三成の軍につくべき、薩摩島津、安国寺恵瓊、長曾我部、毛利は全く動かなかった。更に、三成の側に配置されていた小早川秀秋の軍が、寝返って、秀頼三成に向かって戦闘を始めた。

 そして、驚くことには、上杉景勝は約束を破り会津から南下してくることも無かった。これで秀頼、三成は万事休す。関ヶ原で家康に負ける。

 何で、景勝は南下しなかったのか。この作品を読んでもよくわからない。しかし関ヶ原の戦いの最中、上杉は大変な状況に追い込まれていた。

 山形城主最上義光や仙台伊達との戦闘に巻き込まれていた。どうしてこの時に最上、伊達との戦いになったのかがよくわからない。何となく、家康に根回しされて戦争になったのかと想像される。そして、景勝はこの戦いで勝ち抜けなかった。しかし、部下は上杉の名誉をかけ最後まで伊達と戦おうとの声が盛り上がる。

 家臣直江兼続は上杉景勝に迫る。このまま南下すれば、江戸城がとれ、上杉は天下国家をとれると。

 その答えが藤沢の想像だろうが、素晴らしい。
「わしの面を見ろ。このつらが天下人のつらか。わしは武士よ。戦場のことなら、家康はおろか鬼神といえども恐れはせぬ。しかし天下のまつりごとはまた格別。わしは亡き秀吉や家康のような、腹黒の政治好きではない。その器量もないが、土台、天下人などというものにはさほど興味をもたぬ。」

 藤沢の信念の言葉である。それにしても今の時代でも腹黒天下人は跳梁跋扈している。

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藤沢周平     「密謀」(上) (新潮文庫)

 越後の雄、上杉謙信の死後、その後を継いだ景勝と家臣、直江兼統の織豊時代、義を最も重要な信念として生きた、生き様を描いた歴史小説。

 それにしても、名前だけは有名な上杉謙信。しかし、歴史上どんな影響を国に与え、どんな功績があったのかよくわからない。甲斐の信玄と幾たびかの戦をしたこと、川中島の戦いがその中でも有名なのだが、それが歴史に何の意味があったのかはわからない。

 それから、誰でも知っていることだろうが、あまり学生時代真面目に勉学に励んでいなかったので、暗記だけにとどまったが、秀吉が行った、太閤検地、刀狩りが何のために行われたのか、全く知らなかった。この作品を読んで、恥ずかしながらその背景と、歴史上の意味を知った。

 太閤検地は、年貢米の基礎になる、国内の耕作地を全土漏れのないように、計測し石高を割り出した。それまでは、庄屋や地頭の申告で、収穫石高が決められていた。だから年貢もいい加減な数字をもとに算出されていた。この徹底した検地により、年貢米の石高は、その前より倍に増加した。

 刀狩りは諸国の百姓が、刀、脇差、弓、槍、鉄砲そのほか、武具のたぐいを持つことを禁止させた。
検地、刀狩りも百姓を国家から切り離し、単なる年貢負担者として身分と働きをおしつけようとするものだった。

 それまでは、百姓は武士が、家来、家人として取り扱っていた。だから、戦いとなると多くの百姓が戦地に赴き、家来として戦った。だから、農繁期には戦はしないという領主間には暗黙の了解があった。

 しかし検地により、百姓からの年貢米を搾り取り、その年貢により、武士を養う社会を秀吉は作り上げた。この時、百姓と武士の身分の固定化が実現した。

 みじめな百姓が出来上がった。

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