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2021年06月 | ARCHIVE-SELECT | 2021年08月

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七尾与史  「死亡フラグが立ちました!カレーDE人類滅亡!?殺人事件」(宝島社文庫)

 中世ドイツの小さな村のアベーユ家。アベーユ家では7代ごとに魔女が出現する。そして魔女が出現すると村は災厄に襲われ、消滅してしまう。そこでアベーユ家族はまた新しい村に移住し、そしてその村も滅ぼす。点々としていたアベーユ家は、やがて海を渡り、日本、カバラ町という、大都市郊外の町に辿り着き住みつく。このカバラ町には昔からアーケード商店街がある。コンビニやスーパーが進出しようとするが、建物建設途中で作業者が心臓麻痺で亡くなったり、不慮の事故が多発してスーパーやコンビニが町への進出ができなくなる。この商店街には「カバラ会」なる結社がある。

 当時日本では、男の子を妊娠した妊婦が、突然心臓発作で死んでしまう事象が起きていた。その事象は、事件性はないし、目立つ現象でもなかったので話題になることは無かった。

 また、視聴率が50%を超えるおばけ番組「美妊婦のミタ」が放送されていた。この番組を乗っ取り、魔女が妖術を発信し、これを見た、11月に男の子誕生予定の妊婦を死なせてしまおうとする。これに対し、天才投資家本宮、主人公のフリーラーター陣内、警察庁の敷島がたちむかう。

 しかし、この事件、いくら取り調べをしても殺人事件にはならない。呪い殺すという殺害は人間社会ではあり得ないから。

 しかし、とてもあり得ないようなトリックを登場させ白けてしまうミステリーより、呪い殺すという殺害方法を縦横無尽に展開させた、この作品の方が読んでいて面白い。

 でも、作品タイトルにある「カレーDE人類滅亡!?」の部分は本筋とは殆ど関係なく、不要な部分に思えた。

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| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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芦沢央   「悪いものが、来ませんように」(角川文庫)

 助産院に勤める紗英は、不妊と夫大志の浮気に苦しめられていた。彼女の最大の拠り所は、幼いころから最も仲のよい奈津子だった。この奈津子も育児中、母や夫、社会になじめず、紗英を拠り所にしていた。2人は、完全に共依存の関係だった。

 紗英は大志のことを奈津子に相談する。奈津子は別れたほうがよい、と忠告するが紗英は別れられずにいる。

 そんなとき、大志が失踪し、何日か後に、山の中に埋められていたことが発覚する。
このミステリーの鍵は、最近よく耳にする「アナフィラキシー」。

それと、奈津子と紗英の関係。ぼけーっと読んでいると、2人は幼馴染で、その頃から共依存の関係にあったように思えてくる。

 これが、芦沢さんが練りに練って書いた叙述トリックの技に読者をはまりこませる。
それが最後に明らかにされるが、その中身にビックリ仰天する。

 大志はそばアレルギー。犯人は麦茶にそば粉を溶かして大志に飲ませる。そして大志は「アナフィラキシー」を発症して死んでしまう。

「アナフィラキシー」がどんな症状かよくわからないが、そばアレルギーの人がそば粉いりの麦茶を飲んで本当に死に至るものだろうか。何しろ犯人は確実の大志を殺さねばならなかった。犯人にも大志が死に至る確信がなければできない。犯人にそんな知識があったようには、作品からはわからない。

 芦沢さんは作品でそばアレルギーで死んだのではなく、麦茶には絶対殺せる薬物が入っていたように書いている。

 しかし、最後まで何が真実かは明らかにせず物語は終了する。
久しぶりに「叙述トリック」を堪能した作品だった。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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後藤武士  「読むだけですっきりわかる日本史」(宝島社文庫)

 石器時代からバブル経済までの日本の歴史をわかりやすく解説している。エピソードも満載しているし、口語体で話しかけるような文体になっているので、非常にわかりやすくためになる。

 司馬遼太郎の作品を愛読してきた。年をとってからの読書は、はずかしい話だが、その本からなにかを学ぼうという意欲はなく、なるほどなあ、面白いなあとの瞬間の感想があるだけで、殆ど右から左に流れるだけで、どんどん忘れてゆく。司馬の作品は、独特の司馬史観もあり、博覧強記ですーっと入って来ない内容もたくさんあった。

 特にわからなかったのが室町幕府とその時代の応仁の乱。確か司馬の説明だと、室町幕府は権力が弱く、各地には守護大名がいるが、その大名の多くが、相続で争いが起こしてる。しかし、室町幕府はそれを抑える力がなく、日本は戦いが常態化する。それが勘違いとは思うが応仁の乱という説明だったような気がしていた。しかしこれはとんでもない勘違いのようにもこの本で思うようになった。

 第7代将軍足利義勝は若干9歳の将軍。この将軍が11歳で亡くなる。それで、6代将軍足利義教の弟の義政が8代将軍になった。この義政はとんでもない年上のおばさんばかりを好きになり、年頃の女性は見向きもしない。結果、おばさんの代表のような日野富子を正妻にしてしまう。こんなおばさんのため、義政の跡継ぎができない。だから義政の弟、義視を養子にして、義政の後の将軍にしようとした。義視は断ったが、細川勝元の説得で養子となる。

 ところが驚き、おばさん富子が子供を授かる。義尚である。

そして、義視を押す細川勝元の東軍と、義尚を押す日野富子西軍との戦いが始まる。これが終結するまで11年も続く。これが応仁の乱。この本でスッキリした。

 歴史物を読むときはこの本を横にいつもおいておこう。

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| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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ピエール・ルメートル  「悲しみのイレーヌ」(文春文庫)

 数々の世界ミステリー賞受賞、日本でもミステリー海外翻訳作品賞を受賞したピエール・ルメートル カミーユ警部シリーズ3作品の1作目。

 日本では2作目の「その女アレックス」が最初に発売され、その後この1作目が発売された。そのため、1作目の犯人が誰かがわかってしまっている。

 主人公カミーユ警部は、病気の母親から生まれたことが原因か、身長が145センチと超小柄。最愛の妻イレーヌと暮らす。イレーヌは妊娠している。警部は3人の部下を持つ。大富豪の息子ルイ、どケチのアルマン、浪費家で賭け事に溺れているマレヴァル。

 さてクルブヴォアで2003年4月7日に2人の娼婦が殺害される。その殺害状況は痛ましく、体は切り刻まれ、内臓はすべて抉りとられている。

 この凄まじい殺害現場状況と殺害方法がカミーユの捜査により小説「アメリカン サイコ」そのままということがわかる。

 それで、同じような殺害で未解決な事件がないか調べると、グラスゴーで小説「夜を深く葬れ」。トランブレで小説「ブラック ダリア」と全く瓜二つの事件が起きていたことがわかる。

 そして、殺人犯からカミーユあてに手紙がくる。手紙は今自分は、最高傑作の小説を殺人をしながら書いている。そして、今までは著名なミステリーに従い殺人を行いそれを小説にしてきたが、最後の仕上げでは残酷な妊婦殺人を起こす。

 そして、そこには殺人の具体的描写が書かれている。
殺人対象者はカミーユの妻イレーヌである。

 カミーユとその部下たちはその殺害場所を突き止め、出動する。しかし、イレーヌはその時すでに殺害されていた。

 この最後が衝撃。普通は殺される直前ギリギリ間に合って、殺害者と対決。被害者は救助される。この衝撃的結末が驚愕なのか、後味が悪いのか評価がわかれるところ。

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| 古本読書日記 | 15:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中山七里    「逃亡刑事」(PHP文芸文庫)

 この間ニュースで報じていたが、東北復興事業で事業を受けた鹿島建設幹部が、事業を発注した下請け企業から個人的に現金を受け取っていて、それを税務申告していなかったため、所得税申告違反で逮捕された。同様なことは、他のゼネコンでも行われているとニュースは報じていた。政府がゼネコンに発注するとき、ゼネコンは政治家に現金、ゼネコンが下請けに発注するときゼネコン関係者に下請けから現金という構造になっているようだ。おかしな話だ。このお金は、国民の税金から支払われているというのに。オリンピックが中止延期できないのは、まだ大金が政治家やIOC幹部に入るからと思われる。だからやめられない。

 この物語、麻薬犯罪ルートを追っていた、薬物銃器対策課の生田巡査部長が、真夜中の駐車場で頭部を銃で撃たれ殺害する。この殺害現場を児童保護施設から脱走していた8歳の少年猛が目撃する。

 この殺人に身長1M80CMを超え武闘派アマゾネスと言われる大女捜査一課高須班のリーダー高須冴子が追う。

 ところが、知らない間にこの殺人事件は高須が行ったと濡れ衣を着せられ、高須は猛と2人で追われる身となり、逃走する。

 千葉県の暴力団宏龍会は麻薬取引がシノギ、大きな金を得ていたが、最近は取引がどんどん細くなる。
 ネットの取引が増加したことと、違法ハーブが増加したこと、それに市場に最近とんでもない安価の麻薬が流通してきていたから。

 実は、猛が目撃した殺害者は警察の銃器対策課の玄葉課長だった。
玄葉は捜査で押収した麻薬を、市場に流し、莫大なお金を手にいれ、豪邸を新築したり、上司に上納していた。
それを知っている猛と高須班長を殺害してもOKと千葉県警は指示する。警察は事件を作り、でっちあげた犯人を組織的に殺害することが自由にできるのである。

 この高須、猛と、玄葉と部下の追走がはらはらして実に面白い。
作品は、悪の追求を中途半端にせず、玄葉、腐った千葉県警まで追求そして滅ぼす。実にすっきり、最高に痛快。

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| 日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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米澤穂信   「遠まわりする雛」(角川文庫)

 「氷菓」で始まった、神山高校古典部の、折木奉太郎、千反田エル、福部里志、伊原摩耶花が活躍する古典部シリーズ。この本は7編の作品が収録された中編集になっている。

 推理作家というのは、ちょっとした言葉や会話から、あれやこれやと考えをめぐらすものだと感心したのが「心あたりのある者は」という作品。日本推理作家協会賞候補作になった作品。

 放課後教頭の柴崎より校内放送がある。
「10月31日駅前の文具店【巧文堂】で買い物した心当たりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」と。

 この放送から、折木奉太郎が事件を推理する。
まず駅前文具店巧文堂と具体的に指定している。これは駅前に光文堂という仏具屋があるから。

 放送の時間が放課後。この時間ではすでに帰宅した生徒もいるから、完全に全体には伝わらない。それでも放送するというのは、事態が急を要しているから。

 それは、通常は生活指導担当が放送するところを、わざわざ教頭がしていることでわかる。
多分、この時、警察刑事がやってきて教頭に至急の協力に圧力をかけている。
普通文具屋、書店では万引きが想像されるが、この場合万引きではない。

 万引きであれば、関係する生徒が神山高校生徒とは特定できない。店員、店主にわからないよう万引きをするから。しかし、この場合では神山高校生だと制服などでわかっている。

 しかも、放送では買い物をした者と言っている。ということは関係者は文房具か本を購入している。

 この場合、緊急を要する犯罪とは、購入者が偽札を使い、後から、店員が偽札に気付き、警察に通報したのしかありえない。

 すごい推理である。

そして、翌日の朝刊。
「偽造通貨所持で逮捕。23歳の暴力団構成員。一連の事件で初の逮捕者。神山警察署」

推理作家は、新聞のベタ記事を読んで、事件の背景、真相を常にこんな風に解き明かす訓練を毎日しているのだろうか。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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服部まゆみ   「この闇と光」(角川文庫)

 直木賞候補になった作品で、ゴッシクミステリーで最高傑作と称されている作品。

主人公のレイアは、住んでいる国の国王の娘。国で大きな内乱が起き、国王は負け追放される。母親は逃亡中に亡くなり、レイアは、森の中の別荘に拉致幽閉される。

 ここが物語の最も大事なところになるが、レイアは助かったが盲目になってしまった。レイア4歳の時。

 レイアは父親に愛され、クラシック音楽鑑賞やグリム童話や、少し大きくなると、「嵐が丘」「デミアン」「罪と罰」を元国王だった父親が読み聞かせ、文字も書けるようになり、文学を愛する少女として育つ。別荘には、そのほかにダフネという魔女のような女性がいて、レイアの面倒をみる。父親は、しばしば敵との戦いがあり、別荘を空ける。

 服部さんは、美術工芸作家でもあり、この別荘での生活、情景を中世の絵画を見ているように描いている。

 通常、拉致や幽閉の事件を扱った作品は、警察がその犯人を追い詰めるスタイルで進行する。ところが、この作品は倒錯していて、拉致幽閉された人の状況、思いが最初に描かれ、それも丁寧にほぼ半分をそれに費やしている。

 そして半分が過ぎたところで、突然ダフネにレイアが引っ張りだされ変転、東京の病院に連れていかれる。その病院で、目の手術を受け視力を回復する。レイアが幽閉されてから9年後のこと。そこは、中世ではなく現在、父親、母親に生まれて初めて会う。父親は国王でもないし、母親は死んではいなかった。

 この物語の突然の中世から現代への反転が鮮やか。そして次々明かされる真実に驚愕し、何よりもレイアの現実世界への理解の進行してゆく姿の変化が、現実感豊かにしっかりと描かれている。

 美術工芸作家でなければ創造できない作品だった。

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| 古本読書日記 | 05:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大泉洋  「大泉エッセイ 僕が綴った16年」(角川文庫)

 元々北海道のローカルタレントだったが、今や俳優、作家、歌手、コメディアンとして活躍している大泉。
 北海道の地方役者として活動していた時、雑誌の掲載していたエッセイを中心に、収録したエッセイ集。

 さすがに40歳を迎えて円熟期がやってきたときに書いたエッセイは内容も深く、重みがあるが、それ以前に書いた若かりし頃のエッセイの出来は酷かった。

 どんなに酷くても、113作品も収録されているのだから、幾つかはこれは面白いというものがあるだろうと読み進んだが、残念ながら紹介できるような作品は全くというほど無かった。大泉の名前にあやかって出版したのだろうが、よくもこんな作品を出版したものだと、怒りを覚えた。

 大泉は、締め切りぎりぎりまで、あるいは締め切りをやぶっていつもエッセイを作成している。

 遅筆で有名な作家は井上ひさし。どんなに追い詰められても、井上の作品は最後に強烈な落ちがあったり、味わい深いウィットに富んでいる。

 しかし大泉のエッセイはいかにも追いまくられてどうしようもないから書きなぐったという作品ばかり。

 大泉は食べ物に凝る。ある日、美食を求めてお店に行くと「貸し切り」の札がかかっている。それで仕方なくおいしいカレー屋にゆく。すると「スパイス調達のため休みます」と看板がでている。

 これは参ったと、一流の蕎麦屋に行く。すると「修行のため休みます」と看板がかかっている。

 大泉は声をあげる。
「もう大将には修行なんかいらないよ。」と。

 紹介できそうなエッセイはこれくらい。

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| 古本読書日記 | 06:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山本文緒     「きっと君は泣く」」(角川文庫)

 主人公の椿は、美貌、幼い頃から可愛らしく、タレントオーディションで入賞したこともある。父は貿易会社の社長で家庭は裕福。現在コンパニオンとして派遣会社に登録され、展示会などで活躍している。そして、群贄という中学校の時から、くっついたり離れたりしながら、付き合ってきた恋人がいる。群贄は妻子がある。

 そんな椿の運命が、祖母が入院してから、ガラガラと音をたてて、崩れてゆく。

 祖母の入院している病院に魚住という看護師がいる。この看護師、椿と小学校時代同級生だ。美人で取り巻きに囲まれていた、椿は全く魚住の印象は残っていない。

 しかし魚住は、遠くからいつも美貌の椿を嫉妬を持ってみつめていた。
著者山本さんは、病院で椿が魚住と出会った印象を驚くほどケチョンケチョンに描く。

「椅子に座っていた私は、その大魔神みたいな顔をした看護師を見上げた。びっくりするほどのブスだった。鰓をはったおおきな顔には、横に開いた大きな鼻と口が付いていた。ボブというより、手入れをしていない伸びっぱなしのおかっぱ頭をして、一度も鋏を入れたことのなさそうなぼさぼさの眉毛の下に、左右に大きく間隔のあいた丸っこい両目があった。」

 普通は驚くほどブスだったという描写は十分だと思うのに、どうしてここまで酷い表現を山本さんは畳みかけるのか、読んでいて少し顔をしかめた。

 椿が休憩室でたばこを吸っていると、魚住がとがめる。それにたいしての椿の言いよう。
「魚住さんの言うことは、ごもっともかもしれませんけどね、私はあなたが嫌いだわ。あんたの言うことが気にくわないわ。煙草くらいでカリカリしちゃって馬鹿みたい。人のことをとやかく言う前に、その足の毛をなんとかしたら?大魔神じゃなくて人間なんだから。」

 椿、小学生の時は栄光の日々。それが、どんどん崩れてゆく。その鬱屈が、魚住への八つ当たりになる。崩れるということは、ここまで激しい言葉を発することになるのか。

 それでも、看護師という仕事からくる使命感なのか、魚住は必死に椿を支える。
椿も魚住もそこはかとなく切ない。

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| 古本読書日記 | 06:25 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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桜庭一樹   「砂糖菓子の弾丸は打ちぬけない」((角川文庫)

 小学校や中学校の同級会に出席すると、出席者から色んなエピソードを聞くが、全く記憶にないことばかりだ。それにしても、こんなに記憶にないとは、自分はバカではないかと自己嫌悪にしばらく陥る。

 それも辛いから、どうしてかと突き詰めて考える。すると、きっと人間は少年少女期から、思春期、そして青春期に変わるとき大きく変わるからではないかと思う。

 例えば、幼少のころはサンタクロースが存在することは当然と思っている。周りは「そんな者いるわけないじゃん」とバカにするが、とっくみあいをしてまで、相手こそバカではないかと大喧嘩する。そして気が付くと自分もサンタクロースは存在しないと思っている人間になっている。どこかでコロっと変わっている。

 この作品のなぎさ、家が母子家庭なこともあるが、自分は中学を卒業したら、住んでいる町にある自衛隊にはいろうと考えている。生活費までもってくれて、給料までくれるのだからこんな素晴らしい仕事はない。

 これがどうみても一番と信じているから、母親や先生がそれはやめなさいということが全く理解不能となり、体をはってでも喧嘩しようとする。母親や先生の言っていることこそわけわからないから。

 それからなぎさの親友となる、転校生の藻屑は、父親のDVにより、体中傷、痣だらけ。
それが原因になっているかもしれないが、自分は人魚であると思い込んでいる。それで、すべての言動が人魚そのものになっている。

 それがコロっと変わり、普通の人間になる。もちろんそのままの人もいないわけではないが。そんな人は精神的に問題がある人として扱われる。

 その変化の時は男は変声期、女は初潮を経た時なのだろうか。
桜庭さんの、この作品も見事だが、こういう変化を上手に描ける作家に、辻村深月がいる。

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米澤穂信    「クドリャフカの順番」(角川文庫)

 神山高校古典部員、折木奉太郎が活躍する古典部シリーズ作品。
この作品は謎解きにこだわるミステリーファンにはたまらない作品なのだろうが、一般読者にはトリックが複雑すぎて、ついてゆくのが大変で、楽しい読書とはかけ離れた作品になる。

 第42回神山高校文化祭「カンヤ祭り」がスタートする。

すると、いくつかの部で、大したものでは無い、付属品のようなものが盗まれる。そして、「~が失われた 十文字」という犯行声明が残される。その盗難が最初アカペラ部から50音順に部の何かが盗まれる。このとき「十文字」はジュウモンジではなくジュウモジと呼ばねばならないことが提示される。

 この順番で十文字となれば古典部にもアイウエオ順でちょうど十文字にあたるから何かが盗難されることになる。ところが、クがつくグローバルアクト部では何の盗難も行われず、「ケ」の部に飛ぶ。

 名探偵奉太郎はこの謎、「カンヤ祭りの歩き方」という冊子にグローバルアクト部は記載されてないことを掴み、被害にあうのはこの冊子に紹介されている部だけだとわかる。

 とんでもない天才だ。

そして十文字は犯人は誰かを突き止めるのだが、そのヒントになるのが、昨年の文化祭で冊子になった漫画「夕べには躯に」を共同制作した作者名につながる。

 この原作者の名前が「安心院鐸葉」この名前が「アジムタクハ」と読む。それから画作成が「陸山宗芳」これが「クガヤマムネヨシ」と読む。

 そのまま読んでいると、「アンシンイン」「リクヤマ」と読み進み。本当の名前何だったか忘れてしまう。

 2人の名前が登場するたびに、最初に2人の名前が登場するページに戻らなければならない。うっとうしい。

 名前の付け方が飛びすぎている。これが十文字の正体を暴く鍵になっているとは、とてもついてゆけない。私は年寄り、だんだん記憶力が衰えるから。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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角野栄子    「魔女の宅急便」(角川文庫)

 全くアニメとは疎遠で、この有名な「魔女の宅急便」を観たことがない。本を手に取って驚いた。「魔女の宅急便」はアンデルセン賞を受賞した、日本が世界に誇る童話作家の角野栄子が描いた作品だった。何と6巻まであり、20年以上の歳月を経て完成している。

 お母さんは魔女。お父さんは普通の人。その間に生まれた一人娘のキキ。魔女の世界では13歳になると一人立ちをするという決まりがあり、キキと愛ネコジジは魔法のホウキにのり旅にでる。

 そして海のみえるコリコ村でパン屋の「グーチョキパン屋」さんに遭遇して、そのパン屋さんの一角を借りて、なんでも運びますという運送屋「魔女の宅急便」を始める。

 ここまでは映画と同じ。しかし、ここからキキたちが遭遇する出来事は角野作品とは異なるようだ。

 この作品、さすが角野さん、優しさ純真さ、何よりも角野さんの発想力の豊かさが溢れていて、このアニメは大ヒットしたのもうなずける。

 映画にはないエピソードだが、角野さんの想像力が見事に発揮されている「キキ、春の音を運ぶ」が素敵だ。

 コリコ村では、春が始まる直前の日に、毎年公園で春を呼ぶ音楽祭が開かれ、人々が楽しみにしている。

 ところが、その日、楽器を積んでいる汽車が、楽器を下ろさずにコリコ駅を出発してしまった。そこで祭りの実行委員会から「魔女の宅急便」に楽器を汽車から取り出して、公園まで運んでほしいという依頼がある。

 汽車は特急で、コリコ村を出ると終着駅まで止まらない。終着駅から運ぶと、コンサート開始に間に合わない。ホウキで飛び立ったキキとジジ。楽器が積まれている客車の屋根に飛び降り、空いている窓から車内にはいり、ドアをあけ、楽器を運び出す。しかし楽器はたくさんあり、キキとジジだけでは運べない。そこで、バイオリンとチェロはキキとジジが持つが他の金管楽器は首飾りのようにひもに巻き付けホウキにひもを結び付け運ぶ。

 公園では楽団員が楽器を待っているし、たくさんの聴衆が、いったいコンサートはいつ始まるのかと文句を言い合っている。

 しばらくすると、空から音楽が聞こえてくる。ひもに結びつけられた楽器が強い北風により音をだしあっているのだ。
 聴衆は、今年のコンサートの演出は素晴らしい。感動した。何しろ音楽が空から降ってくるのだから。

 楽器が楽団員に届けられ、楽団員が演奏を始めようとした時には、聴衆はみんな帰ってしまった。空から降ってきた音楽で音楽祭は終了したのだと思ったから。

 「魔女の宅急便」の新しい画面が目の前で展開する、楽しい物語だ。

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知念実希人    「神酒クリニックで乾杯を」(角川文庫)

 医療事故で働き場所を失った外科医の九十九勝己。知人の紹介で神西クリニックで働くことになる。このクリニック、医院長の神西をはじめ腕はたつが個性的な医師ばかりが集まっている。病気を知られたくない権力者、暴力団幹部らが、密かに手術を受けるクリニックになっていて、繁盛している。

 昔、総合病院の同い年の副部長と酒を飲んだことがある。肛門科という目立たない科なのかもしれないが、同い年の医者が、私より給料が低くて驚いたことがあった。医者とは仕事はきついが高給とりでぜいたくな暮らしができる人たちだと信じていたから。

 ところが医者は、出入りの薬品会社や医療機器メーカーから個人にお金がはいったり、快気した患者よりの謝礼金などで、給料以上のお金が個人的に入り、懐は裕福だった。

 この物語でも大学病院の教授が、懐を懸命に暖かくする姿が描かれている。

ハードボイルドが馴染めないのは、いくら敵と対決して、敵の人数や手持ちの武器が潤沢にあっても、主人公たちは、絶対難関をすりぬけるところ。この作品でも、主人公の九十九が敵から至近距離で銃で撃たれる。その瞬間死亡したと書かれ、物語の中心が襲った敵の2人になって描かれる。びっくり、主人公が殺されるなんて。

 しかし、しばらく読み進むと、全然元気で登場する。まあ仕方ないか・・・。

すごいなあと思ったのが、青年の麻薬の運び屋が登場するところ。

 麻薬を袋に入れ、運び屋の腹を開けて、腹腔にとりつける。そして、輸入できると、またお腹を開けてとりだす。口から袋さら飲ませればと思うのだが、排泄される可能性があるからだめなのだそうだ。
 すごい運送方法があるものだ。

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星新一   「気まぐれロボット」(角川文庫)

 ショート ショートストーリー集。
この作品集。かきだしは快調なのだが、段々冴えが無くなり、どことなく尻すぼみな印象が強い。

発明家エフ博士のもとへ隣家の主人がやってきて、「最近は何か発明品ができたか。」と聞く。
エフ博士は「画期的なマクラを完成させた。」と言う。

 このマクラを使うと、寝ている間に色んな知識を吸収して、知らないうちに博識家になる。
例えば、英語が寝ている間に聞き取り喋りがマスターできる。

 これは素晴らしいと隣家の主人は借りてゆく。「一か月も使い続ければ英語がマスターできる。」と聞いて。
 しかし一か月して、主人はいっこうに英語が上達しないとマクラを返しにくる。

一緒に主人についてきた奥さんが
「何だか寝言は英語でするようになりました。」と答える。

発明家のエム博士のところに金満家のアール氏がやってくる。

エム博士。「忘れた過去を思い出せる薬を開発した。」と言う。アール氏「それはすばらしい。資金をだしてもいい。」と言う。
薬は小玉、中玉、大玉とある。小玉は昨日の記憶、中玉は一か月前の記憶。大玉は一年前の記憶がよみがえるとのこと。
アール氏は大量の大玉を購入。それを一度に全部飲む。

 すると小学生の頃の思い出がよみがえる。

アール氏は小学生の頃、いじめられていた。いじめた奴は大嫌い。絶対そいつとは、友達にはならないと誓う。
 そのいじめっ子は、実は目の前にいるエム博士だった。

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松本清張 『聞かなかった場所』

生前の妻の口から「聞かなかった場所」で、妻は亡くなった。
そこがスタートです。
「開かなかった場所? 開かずの間とか金庫とか?」
と勝手に思っていた。

IMG_0203.jpg

後半は、「職場で築き上げた地位が誇り」という主人公が、
犯行を隠すために工作を重ね、ボロが出て追いつめられる展開。
犯行動機も、死んだ妻の不倫相手から、
「俺を脅すなら、あんたの職場(農水省)に全部ぶちまけてやる」
と挑発され、カッとなっての結果。
タイトルは、微妙ですね。疑惑・危険な斜面・弱き蟻・反転・・・・・うーむ。

爺やの感想はこちら
「たづたづし」、「すずらん」、この作品、富士見周辺は殺人向きですね。
あずさ2号(はこの頃なさそうですが)で旅立ち、殺害し、何食わぬ顔で帰京。
都心から日帰りできる&適度に山が深い、殺人スポット。

| 日記 | 00:25 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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路生よる 『地獄くらやみ花もなき』

爺やの感想はこちら
漫画になったのを無料立ち読みで何話か読んで、
続きは気になるけれどお金かけるほどでもないという感じでした。
まさか、原作を爺やが買っているとは。

IMG_0196.jpg

ちなみに、爺やの感想と実際の中身は少し違っています。
ネタバレを避けて変えているのか、記憶違いなのかは、触れないでおきましょう。

表紙の美青年がホームズで、語り手がワトソン。
助手というよりペット。食べ物で機嫌をよくする、単純おバカな子という扱い。
でも語り手だから、この和風ファンタジーを描写するため、
牡丹は百花の王、紅殻、薄墨、濡れ縁、樒の木 等々は知っている設定。
そこがアンバランスな気はしないでもない。

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『雑種犬ゴンさんがダサかわいい』

漫画は読書じゃないですが、一応。

IMG_0206.jpg

鼻黒の雑種犬を飼っている人間としては、親近感がわく漫画です。
「こういう表情するよね」
「何が混ざっているかわからない、ザ・雑種だよね」
という具合に。

ゴンさんは人間好きですが、さくらは家族以外にはワンワン吠えます。
フレンドリーな、ご近所さんに愛される犬ではない。
それもまぁ、個性ですが。

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藤崎翔   「神様の裏の顔」(角川文庫)

 横溝正史ミステリー大賞受賞作品。物語の構成がユニーク。

68歳で坪井誠造が急逝する。誠造は、最後は校長先生をつとめ、退職後も子供支援のNPO活動をして、清廉潔白、高潔な人間性で、多くの生徒、学校関係者、OBまた地域住民から「神様」と慕われていた。それで、通夜にも200人以上が参列し、しかも殆どの人が涙で悲しみを表していた。

 通夜の後、普通親族だけで簡単な宴、通夜ぶるまいを催すが、明日の告別式には来られない人もいるだろうということで、喪主の長女晴美が配慮して、通夜ぶるまいを参列者に解放した。

 そこに、誠造が経営していたアパートの住人や、教師、実の娘、隣人などが一つのテーブルに集まり誠造を偲ぶ話がはじまる。そのうちに、ある参加者が覚悟を決めて、あるとき

起こった殺人事件は誠造が実行したのではと状況証拠をそえて告白する。すると堰を切ったように他の参加者も状況証拠を添え、色んな事件は誠造が実行したのではと言い出す。

 殺人は、自殺や事故として処理されていた。神様の裏の恐ろしい顔が暴かれてゆく。

ところが、ある参加者が千葉の海岸での小学生水死事件は誠造が実行することはできないと明確な理由をあげ反証すると、参加者この事件も、あの事件も誠造は実行できない反証を競って発言しだす。結局誠造が実行した事件はなかったことになる。

 これを読むと、人間の記憶や思い込みは、会話の流れにより、ころころ変わる、結構いい加減なものだと感じる。この話の筋だては斬新で面白い。

 それで、事件の真相はどうなるのか。最近はやりの「解離性同一性障害」が起こした事件となる。「解離性同一性障害」というのは、色んな犯罪に適用しやすく、使いやすい病だ。

 真相はちょっと安直だが、事件の犯人が決めつけられてゆく部分とそれがひっくりかえされてゆく過程が対称的に語られてゆく手法は見事で面白い。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中野京子    「怖い絵」(角川文庫)

 大ヒットした「怖い絵」シリーズの一作目の作品。22作品が中野さんの解説とともに紹介されている。

 次の2作品は本当に怖いと感じた作品だった。

  まずゴヤの作品。「我が子を喰らうサトゥルヌス」。

  サトゥルヌスはローマ・ギリシャ神話で「農耕神」と言われている。それが我が子を食べる絵である。すでに顔は食べられていて血だらけ、絵は子供の左腕を食べに取り掛かっている。
この父親の顔も怖く、不気味だ。

  次は アルテミジア・ジェンティレスキーの「ホロフェネスの首を斬るユーディト」。
アッシリアの将軍ホロフェネスを寡婦ユーディットが侍女を連れ、オロフェネスを篭絡。オロフェネスがベッドで寝ている時、侍女に彼の身体を押さえつけているのを手伝ってもらい、ナイフで首を切り刻みながら殺害する絵である。

 しかもナイフが十字架になっていて、恐怖を増幅させる。

  これが怖い絵?と思わせる作品もあった。有名な劇場を訪ね、踊り子をたくさん描いたドガ、その中でも有名な作品「エトワール、または舞台の踊り子」。

 この絵を若い頃みたとき、不思議に感じた。このころの高貴な女性というのはスカートを何重にも履き、ペチコートで膨らませ、見えるのは足首と靴だけ。ところが、この踊り子はひざ下も見せているし、スカートも薄く、足の付け根くらいまだ見える。こんなことがあったのだろうかという疑問。

 バレエはイタリアでオペラと合体になって誕生。その後、バレエはオペラと分離して演じられるようになったがオペラほど人気はでなかった。オペラは大スターを誕生させたが、バレエは貧乏な女性ばかりにより作られた。そして殆どすべてのバレリーナは娼婦を兼ねるか、男のパトロンを持った。

 この絵の舞台の袖に黒服の男が描かれている。当時黒服がパトロンとしての服であった。そして踊り子は首にリボンを巻いていて、それが黒である。そのリボンは私は金でしばられていますと言っているようだ。怖い絵でなく切ない絵だ。

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| 古本読書日記 | 06:00 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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シュミット村木真寿美  「ミツコと七人の子供たち」(河出文庫)

 光子こと青山みつは明治維新の頃、骨董商の青山喜八・津祢夫妻の3女として生まれる。

明治25年にオーストリー・ハンガリー帝国の日本駐在代理大使クーデンホーフ伯爵に見初められ翌26年に周囲の反対を押し切り結婚。そして明治29年にオーストリー・ハンガリー帝国に渡る。その後一回も日本には帰らず、オーストリーで生涯を終える。

 著者のシュミット村木さんはミツコについて『クーデンホーフ光子の手記』を書いている。

光子は生前折に触れ手記を書いていて、それをもとに執筆したのが『クーデンホーフ光子の手記』である。

 この手記にはミツコの苦悩や他人への悪口は一切無く、淡々と日常を書いているため、ミツコの波乱万丈の生涯を描くまでには至らない。それで、シュミット村木さんは東京でミツコの生い立ちやヨーロッパでミツコの現存する孫たちを探し出し、取材しながらミツコの生涯の実像を調べあげる。

 東京ではミツコの生い立ちについて調べるが生まれた年さえわからないし、最も大切なクーデンホーフはミツコとどこで知り合い見初めたのかも不明。一部にはミツコは茶屋に奉公にでていて、そこにクーデンホーフが馬に乗り通りがかり、茶屋の前で落馬。それをミツコが介抱した時、2人は知り合い恋に落ちたという噂もあるようだ。

 またヨーロッパでもミツコの消息は、ミツコの手記以外では殆ど無い。ミツコには子供が七人いたが、すでに他界。ミツコに付き添ったのはオルガのみ。オルガは未婚で生涯を終えている。その他の子供は早々にミツコと離れ、殆ど交流が無かった。そのため、孫を取材しても孫はミツコのことは知らない。

 シュミット村木さん頑張って調査をしたが、この作品は殆ど空回りだった。

唯一、ミツコは夫の死後、ハンガリーの貴族シャンドリー・バルフィー伯爵と恋をしたとの孫の本を手にしたが、これも真実かわからなかった。

 シュミット村木さんは誠実な作家だ。噂を本当のこととして、シュミットさんの想像を膨らましてもいいのではと思った。
今はどうかしらないが、会社時代ヨーロッパにゆくと、免税店でグランの化粧品「MITSUKO」が置かれ、結構売れていた。

 以前読んだ本にこの化粧品はミツコがプロデュースした製品だと書いてあった。しかしシュミットさんはこの本で言下に否定している。なんだかショック。夢がないなあ。誰が「ミツコ」ブランドの化粧品を創りだしたのだろう。

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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宮部みゆき    「昨日がなければ明日もない」(文春文庫)

 名作「名もなき毒」で始まる私立探偵杉村が活躍する杉村シリーズの最新作。

表題作を含めて3作の中編が収録されている。表題作も面白かったが2編目の「華燭」が素晴らしい。

 東京ベイエリアに建つ、33階建て東京ベイ・グローリアスタワーではその日2組の結婚式披露宴が行われることになっていた。

 一組は、式前に、新郎の元カノがやってきて、新郎が新婦を無視して、元カノとともに式場から消えてしまう。それで、式披露宴が中止となる。

 もう一組は、式直前に新婦が行方不明になる。この式、披露宴に出席するため、主人公杉村、竹中夫人とその娘が休憩していた部屋に新婦が逃げてきて、「結婚はしたくない」と訴える。

 新婦は21歳なのだが新郎は61歳。新婦の父親は事業に失敗して膨大な借金を抱え倒産寸前。そのとき61歳の大富豪のじいさんが現れ、新婦が結婚してくれたら、負債は全部自分が負担する。これを聞いた父親が、少し我慢してくれたら、相手は死ぬ。それからでも娘は十分大金をもって自分の好きな人生を送れるのだから家族を助けると思って結婚してくれと言う。

 この説得に折れ、新婦は結婚を承諾するが、いざ式を迎えるととても結婚はできないと涙ながらに訴える。
 これで、その日行われる結婚式、披露宴はキャンセルされる。

これは、小説だから創造できる物語。結婚式、披露宴が2件とも直前で中止になることなんてことはあり得ないと読者は思う。

 その疑問に、宮部みゆきが見事に答える。少し新しい出来事も加わるが、このつぶれた2つの式、披露宴が実はつながっていて、予め謀られて潰されたことを見事に暴き出す。

 この宮部の手際が見事。これぞ超一流のミステリー作家だなあと感心しきり。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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長野まゆみ    「新世界5th」(河出文庫)

 この作品は、私のような年寄りにはついてゆけない。セックスはどうしても、まず恋愛感情が前提だと思うから。

 この物語では、男性しか生まれてこない種族や、女性しか存在しない地域があり、その問題を、女性、男性の機能をそれぞれ反対の性の人達に移植することにより、SEXが当たり前のように行われる世界にしようとする試みが描かれる。

 本来女性なのに、機能だけ、男性として取り付けられる。機能だけは、快楽を醸成する。しかしSEXは機械的になされ、そこには感情のたかぶりはない。快楽だけは、発生するため、快楽があれば、人前であろうが、羞恥という感情は無く、どんな場所でも、自らが衣服をとっぱらい、セックスを行う。

 シュイという主人公が、少年と砂浜で性行為を行う。シュイは、男性なのだが、機能だけ女性に変えられている。

 「なかば沙にうずもれた下肢の消息は、すでに境界を見失うほど少年との間で曖昧になった。はじめは少年がシュイの身体を侵食した。その回路は、少年が穿つまでにシュイの身体には何の気配もあらわれていなかったものだ。少年の器官に触発されて生じたとしかおもえない。しかも、ひとたび少年がシュイの身体から離れると、回路の在り処には痕跡すら残らなかった。ただ、体のなかにある空隙が生まれた。それが変化らしい変化だった。」

 読んでいて、どこか非常にむなしい。

 人間の世界にだって、売春という恋愛感情のない機能だけのシステムが存在してきた。しかしこれにはお金が必要だった。機能だけで行為が行われてはいない。動物だって、気に入らなければ行為はない。

 将来は長野さんの描くような世界になるのだろうか。未来は暗いなあと思う。

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| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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路生よる   「地獄くらやみ花もなき」(角川文庫)

 角川文庫キャラクター小説大賞受賞作品。

主人公、遠野青児には何かしら罪をおかした人が化け物に見える。そんな青児がある日通りを歩いていると、道に迷い不思議な洋館にたどりつく。そこには西條皓という男がいた。その館は現生で罪を犯して悩む人を誘い込む館。そして皓は、そんな罪びとを地獄に落としてやる、地獄代行業をしている。

 迷い込んだ青児を地獄代行の補佐役として皓が雇う。

「首を吊らないか」とメールで言われ続けている罪びとの女性、それから一家に災いをもたらしている鵺を退治してほしいと依頼してきた旧家の罪びとの令嬢を、地獄に落とす皓の手伝いをする。

 その仕事の悲惨さ、恐ろしさに青児は耐えかね、手伝いをやめ、元の生活に戻りたいと、皓に申し出る。

 青児は、大学を卒業して就職に失敗、アルバイトで食つなぐが次々首をきられ完全にニート状態。ネットカフェを渡り歩き、すでにそのカフェ代も払えない状態に陥って、皓の館に迷いこむ。

 青児には大学時代猪子石大志という友達がいた。この大志は大学を卒業して、ブラック企業に就職。その大志が、突然青児を訪ねてくる。そして、札束をみせ、酒を飲みに行こうと誘う。青児は金を貸してくれと頼む。しこたま酔って目覚めると、すでに大志は消えていて、お金を貸してあげるとテーブルの上に千円札一枚残して。清児は札束のお金が欲しくなり、大志のアパートに行き、大志を殺害し金を奪う。

 こんな罪びとだから青児は皓の館に誘いこまれたのだ。

大志は青児が酒に酔って、正体不明になっている間に実印を盗み、債権者に青児の返済保証書を作成して債権者に渡していた。

 地獄代行の仕事を逃れようとしていた青児に皓が言う。
青児の借金は3000万円。それはすべて返済してあげた。だから、青児は生涯、地獄代行をせねばならないと。青児はがっくり。

 この小説、まだまだ続編があるそうだ。その後青児がどうなるのか。続編全部読みたくなる。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中山七里     「TAS」(集英社文庫)

「ねえ、慎也くん、放課後ヒマだったりする?」と主人公高校生の慎也は楓から声をかけられる。楓は演劇部のマドンナ。地区の演劇大会で常に優勝できたのは、楓の見事な演技のおかげ。しかも楓は勉強の成績もトップクラスで美貌の持ち主。全校生徒の憧れの女子高生。

一方主人公の慎也はクラブ活動をしていない帰宅部。

 そして、2人が放課後会う前に、何と楓が校舎から転落して死んでしまう。事故か、自殺か、殺人か。警察が入るが、学校の非協力姿勢のため、捜査が思うようにできない。

 この捜査に加わっている慎也の従兄の刑事の公彦。慎也に学校内で聞き込みをして捜査に協力してくれるよう要請。慎也はそのため、強引に演劇部に入部する。

 今年の演劇はヘレンケラーを主人公にした「奇跡の人」をすることになっていたが、ヘレン演じる楓が亡くなり、筋は殆ど同じだが主人公はひきこもりに慎也が台本を書き換え舞台にかけることになる。

 ところが、慎也の友人である照明係の大輝が練習中に舞台から転落して亡くなってしまう。これでは、新たな事件が起こるかもしれないと焦った警察は何と驚くことに刑事の公彦を応援教師として学園に送り込む。

 警察の遺体検証で、典型的な優等生の楓の身体から麻薬が検出される。楓は麻薬常習者であり麻薬売人は学園の中、多分演劇部の中にいる。公彦の捜査にドライブがかかる。

 この物語のカギは、練習中にトイレにゆくと言って消えた人が必ずしもトイレに行くとは限らないということ。

 正直、他の中山作品に比べ、面白さは無かった。主人公の慎也が事件解決のために、活躍したところが殆どなく、公彦の推理ばかりが際立つ作品だったから。

 それから公彦の楓についての認識。
「両親からよい子。学校からは優等生の折り紙をつけられ、生徒からもアイドル扱い。彼女の行動は、理想という鋳型から抜け出そうとした反動が演劇へののめりこみだ。麻薬に手をだしたのも反動からきていたのかもしれな。」

 凡人である私のやっかみとは思うが、こんな生徒は現実からかけ離れすぎ。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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米澤穂信    「ふたりの距離の概算」(角川文庫)

 主人公折木奉太郎が所属する神山高校古典部を舞台にした、角川学園小説大賞において奨励賞を受賞した「氷菓」で始まった古典部シリーズの5作目。

 この作品、物語の仕立てがユニーク。かなり変わっている。

幽霊部とまではいかないが、神山高校古典部は殆ど活動はせず、遊び部のひとつ。新入生勧誘祭でも、勧誘用の机は用意しているが、全く勧誘はしない。こんな不熱心な部に大日向友子が入部したいと申し出る。

 ところが友子が、入部届けを提出期限直前に、入部はやめると突然言ってくる。

神山高校では5月に全校生徒によるマラソン大会がある。全員一斉に走ると、道路が一杯になり、交通の邪魔になるため、男女別、更に高学年からクラス単位に時間差をとって、出発して走る。

 主人公の奉太郎は3年生。出発時刻は早い。奉太郎は友子が一旦入部を申請したのに、最終的に入部を辞退したのか、その真相を走りながら新入生勧誘会から今までの起きた出来事を思い出し、推理しながら走る。そして、時に、同じ古典部でマラソンの警備を担当している部員や、真相追及に必要だと思われる部員や友子を途中で待って、彼らを、脇の森やベンチに誘い、尋問をする。そして真相を突き止める。

 マラソンをしながら真相を追求するという全く突飛な物語だ。

 この物語で面白いと思ったのは2点。

人が大きな嘘をついたり、自信がないことを喋ったりするとき、「友達から聞いたのだが」とか「知り合いが言っていたのだが」とばれたときに自分に累が及ばないようにしゃべることがしばしばあること。まるで菅首相がコロナ対策を専門家に図ってからというのに似ている。

 それから過去に大きなまずいことをしてしまった時、まわりが何かしゃべると、この人は自分の秘密を知っているのではないかと、神経過敏で解釈、行動しようとすること。

 この物語、起こっていることは、事件というようなものはでてこないが、人間の心理の深層をついた興味深い内容になっている。

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| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐々木健一   「雪ぐ人」(新潮文庫)

 欧米の裁判所は被告が有罪か無罪かを判決するところ。日本の裁判所は被告の有罪を確認するところと言われている。日本の裁判での有罪率は99.9%。裁判になれば有罪判決となる。しかし、ここに過去無罪判決を勝ち取った件数が14件と、無罪の人々によりそうことに人生のすべてを捧げている、今村核という弁護士がいる。

 冤罪弁護士というのは世の中に存在する。しかしその弁護士は、世間の注目を浴びた殺人事件を担当して、名をあげようという弁護士がすべて。

 冤罪というのは必ずしも殺人事件には限らない。窃盗、放火、痴漢などの事件もある。この場合は冤罪となりにくい。まず、弁護を受ける弁護士がいない。こんな裁判で弁護を引き受けても、全く金にならないから。また被告人が罪をおかしていなくても、社会的地位の喪失や世間体を考え罪を認めるケースが多いから。だから、99.9%の有罪率といっても、この有罪判決の中に無罪が含まれていることは間違いない。

 今村は弁護を依頼され、被告人と面談。この人は罪をおかしていない、真実を言っていると認識すると、どんな事件でも弁護を引き受ける。そして、検察の矛盾を掴むと、徹底的に証拠の検証を行う。これには費用もかかる。だから、そんな事件は引き受ける弁護士は大いなる変人になる。

 今村と父親は本当にあわなかった。父親は元軍人で、思い通りにならないと、厳しくしかる。しかし父親を嫌いながらも、今村は東大法学部に進む。父親は今村に官僚を期待したが、その反発もあり、勉学を一時放棄。だから卒業までに7年かけ、司法研修性を経て現在の事務所に就職する。

 父親は東レの副社長まで上り詰め、退職している。サラリーマンとして大成功した人である。

 ところがこの父親が、大学の時、弁護士資格は取得していて、会社を退職してから司法修習生の合宿にはいり一から法律の勉強を始め、弁護士の仕事を始める。

 普通は親の背中をみて子は育つというが、今村家の場合全く逆で子どもの背中をみて、親が生き直す。まったくすごい一家である。父親の子供への尊敬心がひしひしと伝わってくる。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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磯部涼    「ルポ川崎」(新潮文庫)

 会社時代の最後の頃、取引先が川崎駅東口をでてすぐの近代的ビルに事務所があり、よく訪問した。
久しぶりの川崎。駅も素晴らしい駅になり、駅の周りも開発され、さすが県庁所在地以外の都市では最大、風格がある近代都市に生まれ変わっていた。

 川崎に初めて行ったのは40年前。田舎で知り合った女性を誘って、ファンだった西武ライオンズの試合を川崎球場に見に行った。

 駅は小さく田舎駅風情。駅前はゴミゴミして汚く、球場に向かう道は、昼間からネオンがつけられ、呼び込みのお兄さんが、かけ声をあげる。けばけばしいお姉さんがいっぱい歩いている。飲み屋は昼間も商売している。ホームレスが立ちしょんをしている。目つきの悪いお兄さん喧嘩腰で闊歩している。

 とんでもないところに来てしまった。女性は怖がってしがみついてくる。球場に行く道には、黙々と歩くおじさんがいっぱいいる。川崎球場の試合なんてお客がはいるはずないのに変だと思ったら、球場には行かずまだ先へ行く。そのさきに競輪場があるからだ。

 新宿も実家に帰る列車の乗換駅だったので、たまに行った。本などで怖い街と紹介されていたが、怖い雰囲気は川崎の比では無かった。

 川崎は日雇い、流れ者の街。底辺で暮らす人が多い。川崎では、生まれてから生涯を川崎で過ごす人が多いそうだ。中卒で社会にでる人が多く、進学してもせいぜい高校まで。実家を離れて大学まで行く人の割合が少ない。

 中学をでると、貧乏な家をでて、不良になる。そして家には帰らない。やくざの最底辺とつながり、後輩や、別の仲間をカツアゲして金を奪い上納金としてヤクザに収める。

 ラップの大スター、LIL MANこと鈴木大将。彼が人生を語る。

鈴木が生まれたとき、父親は19歳、母親は18歳。鈴木が4歳の時父親が逮捕され8年の刑をくらう。シングルマザーとなった母親は鈴木を連れて実家に行く。

 ばあちゃんはアル中。小学4年のとき、ばあちゃんが言う「お前を殺して、わしも死ぬ」包丁をつきつけられ、鍋を盾にして必死に防ぐ。なんとかじいちゃんが帰ってきて殺されはしなかったが、じいちゃんはばあちゃんを何回もぶったたく。

 小学6年のとき、家に怖いおじさんたちが入ってきて家の物を投げたり、ひっくりかえす。それは警察のガサいれ。母親は逮捕され帰ってこなくなった。
これは、極端かもしれないが、似たような環境の子供は多い。

子どもが答えられない質問は、「将来の夢は?」で答えられるのは「明日の予定は?」

しかし、こんな中から、鈴木のような世界的ラッパーやスケートボードのスケーターが生まれている。川崎には底知れぬエネルギーがある。

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| 古本読書日記 | 06:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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赤坂真理    「東京プリズン」(河出文庫)

16歳の高校生のマリが、高校になじめずアメリカ東海岸の田舎町の学校に転校する。しかし文化や考え方の違いで落ちこぼれる。そして大変なことに第2次大戦を引き起こしたとされる戦争に天皇は戦争犯罪の責任はあるかというディベートに参加することになった。

 現実の東京裁判では天皇の戦争犯罪責任は問われないことになっている。

 これは、巷間言われているのは、もし天皇に戦争犯罪責任がありとなり、処罰されると、日本は収拾がつかない大混乱になるため、GHQの司令官マッカーサーが天皇には責任が無いと判断したため、犯罪責任は問われないことになったと言われている。

 アメリカの学生のディベートは不思議で自分の考えには関係なく、審判をする教師が責任が無いと主張させる学生と、責任があると主張させる学生を指名してディベートを行わせる。そしてマリは「戦争犯罪責任がある。」というグループに入らされる。

 そこで天皇に戦争犯罪責任は無いという立場のクリストファーの主張が興味深い。

天皇はその生い立ちは神話になるが、それが真実の歴史になって以来、戦争に巻き込まれたことは無い。常に争ったのは、古くは貴族、そしてその後は武士。天皇はそこから離れて、贅沢な生活が保証され、天皇の目的は、ひたすら恋をすることになる。恋をするということはSEXにいそしみ後継者を作ることである。このことは、武士社会が終了して明治になっても引き継がれた。

 第二次大戦においても、天皇みずから戦地にゆくこともなかったし、戦争を国民に強制したり鼓舞することも無かった。天皇は戦争において完全に埒外にいて、戦争の実行者は軍部であり、天皇はどの時代でも、戦争に与したことはない(南北朝時代はどうだったのと疑問は残るが)。だから戦争犯罪の責任は負わない。

 これは読んでいてびっくりし納得もした。そしてマリはこのアンソニーのグループにディベートに敗北する。

 この物語、40代半ばを迎えた主人公マリが悩む18歳の留学中のマリ(マリは同一人物で年齢が違う)に電話をかけ、一緒に悩みを解決しようとするなど、突拍子もない大きな仕掛けを随所にいれて、大きな波乱万丈の物語になっている。そのスケールの大きさは一般的日本文学の域をはるかに超えている。

 特に天皇の戦争責任についてはお腹にズシンときた。。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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いとうせいこう   「ノーライフキング」(河出文庫)

 1980年代後半、ソニーのゲーム機ファミコンが登場、瞬く間に市場を席捲した。その時代にいとうせいこうが執筆した作品。

 当時はそろそろ企業がパソコンを導入しはじめたころ。もちろん携帯電話は無い。それにパソコン通信によるメールは画像や動画は送受信はできない。だから、オンラインゲームは存在しなかった。

 そんな時代でもファミコンとそのためのゲームソフトは爆発的に売れた。ソフトも素晴らしかったが、ゲームの攻略を他人と競ったり、情報交換することが面白かったことがあったからだ。

 ゲームの途中で行き詰まると、友達に電話する。そして、その場面を克服できたか、聞くのである。だいたいゲーマーは、ずっとゲームをしているため、電話をかける時間は関係ない。朝3時でも4時でも電話する。すると相手も起きてゲームをしている。

 これに都市伝説のようなことが被さる。

この物語では、校長先生が、朝礼であいさつしようとしていて、急に倒れそのまま死んでしまう。その様子が、ゲームソフト「ライフキングⅣ」の最初の場面とそっくりだったため、校長先生は「ライフキングⅣ」に呪われ死んだという話がまことしやかに流布され「ライフキングⅣ」はノーライフキングに支配されていて、ゲームを最後まで行き着いて攻略できない人は死んでしまうという話が流布され拡散する。主人公のまことに攻略を願うポスターがいたるところに張り出される。その攻略方法をゲームソフトを持っている人がまことから知るのだ。

 このゲームソフトを持っている子供や高校生に社会が、ソフトを捨てるように圧力がかかる。当時幼女連続殺人や秋葉原無差別殺人事件が起き、その原因はファミコン中毒が事件を引き起こしていると風説が真のように言われたから。

 物語では、これにガチャから取得した、人気アニメ「プリズマン」が印刷されている消しゴム「プリケシ」を持っているとそのひとは大きな災厄に遭遇するという噂が広がる。

 それで、ゲーム機や消しゴムが捨てられる。その時は、子供たちによって葬式が行われる場面が登場する。
 当時を思い出して懐かしい。
そして、携帯電話やipadが登場してネットでの通信に色んな種類も増加し、生活上当たり前の状況になった。

 都市伝説や、呪いは少なくなったが、その代わりに、人への中傷、恨み、デマが生まれ、拡散する時代になった。

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大石圭   「履き忘れたもう片方の靴」(河出文庫)

 大石さんのデビュー作。

私の若い頃は、女性のヌードや、ラブシーンは遠い世界のことだった。写真はビニールに覆われていたり、ラブシーンも雰囲気だけで疑似シーンばかり。だから、それを埋めるのがポルノ小説だった。川上宗薫、宇能 鴻一郎、SMでは団鬼六、青春物では富島健夫がその距離を埋めてくれた。これでもかこれでもかと次々セックスシーンを描き、読者を興奮させるためだけの作品だった。

大石さんは、セックスシーンをのべつまくなしに描く作家。しかし、現在は、グラビアでも、動画でもすぐ鑑賞できる時代。わざわざ本で楽しもうという人は少ないのではと、だから苦戦しているだろうなと思っていた。

 この作品文芸賞の応募作品。受賞は逃したが、一部で、高い評価を得た。驚いた。大石さんの作品が文学賞の選考作品になっていたとは。

 作品の主人公は、金持ちの男女に体を売るヒカル。更にヒカルを調教するヒムロ。
驚愕するのは相手は男でも女でも、それにヒムロに対しても、何を強要されても、拒否したり、嫌いと絶対言わないこと。胸にシリコンを入れることも蝶の入れ墨を入れることも全部受け入れる。

 それでいて、将来どうしようとか悩むことも無いし、今の状態に全くヒカルに不満が無い。とんでもないくらい大きいヒカルの虚無。

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| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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