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2021年04月 | ARCHIVE-SELECT | 2021年06月

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藤沢周平    「本所しぐれ町物語」(新潮文庫)

 普通に暮らしている市井の人々の、心に起こっては消える小さな波紋。その波紋によっておこる気持ちの揺れを描く連作長編。

 長い間、女房との生活。互いに、こんな人とどうして一緒になったのだろうと幻滅ばかりになった夫婦。そんな時、いつも浮かぶのが、本当に好きだった人との甘酸っぱい恋愛。あの人と一緒になっていたら、素晴らしい人生を歩めたはずなのに・・・。女房と毎日のように他愛もないことで喧嘩ばかりしていると、美化されたあの人に会ってみたくなる。そしてあわよくば、今の女房と別れて一緒になろうなどと考えてばかりになる。

 種油商で成功した主人の政右衛門。最近長く連れ添った女房おたかと口喧嘩ばかりしている。今朝も、おまえのいびきはうるさいから始まりずっと喧嘩をしている。もう、うんざりしている。そして、こんなに考え方の違うおたかと無理にいっしょになったのは間違いだったのだと思うようになる。

 ずっと幼いころから、一緒に遊んだおふさを最近は思い出してばかり。おふさと一緒になれることを信じていた。しかしおふさはは紙の大問屋に嫁ぐ。玉の輿に乗ったのだ。しかし嫁いで15年たったところ、おふさは夫と死に別れる。

 それで政右衛門は2人の共通な知り合いである、おりきに2人が再会できるよう計らってくれとお願いする。

 そして料理屋で会う。
しかし話は弾まず、料理を食べれば食べるほど、どんどん距離が広がってゆく。気詰まりばかりが強くなっていくなか、おふさが言う。
「もうそろそろおいとましなければ。」
政右衛門はその一言に救われ、肩の力が抜ける。そして生涯おたかと連れ添ってゆくんだとしみじみ思う。

 おたかこそが一番良い女房なんだよと読者の私は政右衛門に声かけたくなる。

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藤沢周平    「よろずや平四郎活人剣」(下)(文春文庫)

 主人公神谷平四郎は旗本俸禄1000石、神谷家の4男。妾腹の子で典型的な厄介者。
家をでて、裏長屋に一人で住み、世にいっぱいある揉め事の仲裁で手数料をとり生計をたてている。

 揉め事の殆どは、男がまずい女に手をだし、それを脅迫に使われ、大きな金をとられるという美人局。この本に収録されている「密通」がひねりがあり面白い。

 染種を扱っている美濃屋の主人美濃屋八兵衛、去年春先15年連れ添った女房を病気で亡くす。店には奉公人、番頭もいるが女房のやっていた雑事が誰もできない。外出時の着物を選び着せてくれたり、草履を用意してくれたり、身の回りのことがとんとできない。これはたまらないと、13歳の時から女中にきてくれ、鍛冶屋職人に嫁ぐまで12年間女中をしてくれたおくまに来てもらうことにした。

 組合の寄り合いのあった晩、たくさん酒を飲み、酔っぱらって帰る。前後不覚のまま朝目が覚めると、布団の中の隣におくまがいる。とんでもないことをしてしまったと八兵衛は驚く。しばらくするとおくまの夫が八兵衛のところに来る。そして脅迫する。

 八兵衛は多少のお金は用意するから、何とか解決してほしいと平四郎に仲裁を頼む。

平四郎はおくまと会い、脅迫について言う。おくまは驚き、八兵衛と何もないし、夫がそんなことをしていることは全く知らなかったと言う。

 ある日、おくまの家の前を平四郎が通りすぎる。なかで夫徳五郎とおくまが喧嘩しているのが聞こえる。その時のおくまの啖呵が素晴らしい。

「旦那と寝たといえばいいんでしょ。はいそのとおりですよ。悪うございましたね。わたしゃ悪い女房ですからね、ひまをもらいます。誰がこんな暮らしに未練があるものか。仕事は休む。年中酒がきれない。いくらあたしが働いたって、追っつきゃしないじゃないか。先の楽しみなんか、何もありゃしない。
 浮気がどうしたって?へん、お前さん、そんなこと言えた義理かね。あっちの方がダメになったって、あたしにさわりもしなくなっていくらになると思うんだい。一年だよ。・・・・
あたしゃ暇をもらいます。一人で暮らす方がよっぽどせいせいする。」

この啖呵に徳五郎。
「待てよ。おくま。気を静めてくれよ。俺が悪かった。おめえに行かれちゃあ、明日からどう暮らしていいのかわからねえ。」
 と徳五郎はすすり泣きだす。

江戸時代に限らず、本当に男というのは、だらしなく、情けない。

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藤沢周平  「よろずや平四郎活人剣」(上)(文春文庫)

 主人公平四郎の人物設定が素晴らしい。

主人公の神谷平四郎は俸禄千石の旗本神谷家の四男。しかも妾腹の子で神谷家にとっては厄介者。平四郎は実家をでて裏長屋に一人住い。食べていかねばならないので、よろず揉め事仲裁屋の看板をだし、揉め事の仲裁をしておさめ、その手数料で暮らしをたてようとする。

 時代は老中水野忠邦が権勢をふるった時代。水野は庶民には徹底した倹約を強制し、また自分に抵抗する人間と思えば徹底的弾圧をくわえ、その結果、渡辺崋山や高野長英自害、殺害する蛮社の獄が起きている。非常に世の中は息苦しい暗い時代。

 平四郎の兄監物は、水野に敵対する老中堀田正篤支持派。
物語は、市井に起こる仲裁における平四郎の手際を描く、連作短編集になっている。

 しかし、市井のトラブルの仲裁に奮闘するだけでなく、その合間に、平四郎が幕府の権力闘争に巻き込まれたりする。権力から普通の社会までかかわっている状態にある人物を設定した藤沢の目論見には感動する。

 更に、実は平四郎には、許嫁がいた。旗本塚原家の娘早苗。この塚原家がある行動が幕府に反逆行動とみなされ、御家が取り潰しにあう。塚原家は大金を借りていた旗本菱沼惣兵衛に対し借金を返金できず、中年男惣兵衛に早苗が嫁げば借金は棒引きするとの申し出に応じ、早苗は菱沼家にゆく。

 この悲劇の早苗と平四郎の関係の行方がどうなるか読者はずっと気になりながら、作品を読む。

 上手い物語の造り。この悲劇の恋愛に、トラブル仲と幕府権力の争いが被る。ため息がでるほど物語の構成うまい。

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藤沢周平    「隠し剣秋風抄」(文春文庫)

  剣客シリーズ 短編集。
収録されている作品の中では、評価が低いほうだと思われるが、「女難剣雷切り」が面白かった。

 主人公佐治惣六は36歳。御旗組に所属し、登城して10年。無口で容貌は醜くい男。背丈でも高ければ少しは映えるが、小男。城内では、誰も話しかけてくれる人はいない。

36歳なのに妻子はいない。全く女っ気がなかったかというとそうでもない。
最初の妻は死にわかれ、2番目、3番目の妻は一年もたたないうちに逃げ出す。

 この惣六に、案外好きものらしいという評判がある。女中に手をだす。だから女中はいつかない。
 この惣六江戸詰め時代、剣道の技を磨き、長足の進歩をみた。

盗賊2人が、空き家に立てこもった時、藩で有能な剣士を配置し、切り殺しても構わないとの許可がでたのだが、すべてが盗賊に切り殺された。しかし惣六が一人で盗賊を殺す。

 これで一瞬惣六の評判があがったが、それもすぐ消え元の状態に戻る。

 そんな時、惣六に決定的にダメージを与える出来事が起こる。女中が次々やめていくのだが、おさとだけは一年たっても勤めていた。そのおさとを夜よびつけて、身の上話をしながら、抱き寄せる。そのときおさとが大悲鳴をあげ家を飛び出て、声をあげながら街を駆ける。

 これで変態、好きものであるという評価が定まる。

こんな惣六に、服部黒兵衛から結婚話がもちあがる。26歳で初婚になる喜乃という女性。
気立てもよく、美人なのだが、どうも抱いているとき違和感がある。女性ではなく、木石を抱いている感じしかおこらない。それに時々、家を留守にする。

 服部は入り婿で、妾がいることがばれて大変な状態になっていた。離婚をしないまま、喜乃との関係を続けるために形だけ嫁として喜乃を惣六に押し付けたのだ。

 そして、そのことを知らないのは惣六だけ。周りの者は全員知っていた。
ついに怒った惣六は服部を切り殺す。

寂寥感が突き上げる。でも、幸せにはなれないだろう。かわいそうに惣六。

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藤沢周平   「ささやく河」(新潮文庫)


 彫師伊之助捕り物長シリーズ第3作。

追いはぎの罪で、島流しにあった長六が恩赦により18年ぶりに江戸に帰ってくる。
この長六が殺害される。同心石塚に頼まれ、彫師の仕事があるのに、勤め先の彫藤の藤蔵親方の目をかすめながら 主人公伊之助は捜査を始める。

 その過程で、長六が小間物問屋伊豆屋の主人伊豆屋彦三郎を脅して30両の金を手に入れたことがわかる。しかも、長六は、脅迫を継続する構え。
長六を殺害したのは彦三郎ではないかと思っていたところ、この彦三郎も殺害されてしまう。

 そこで、彦三郎と長六はどういう結びつきがあるか捜査を進めていくと、25年前山城屋という大問屋に3人組の強盗が入り900両の大金が奪われる事件があり犯人は見つからず迷宮入りとなっている事件に行き着く。そして、この強盗が長六、彦三郎、もう一人鳥蔵という男たちだったことがわかる。

 この物語のテーマは動機。

 最初長六殺害の犯人は彦三郎と思われたが、彦三郎が殺害され、読者は犯人が鳥蔵なのではと思うのだが、25年も前の事件のために、鳥蔵が他の強盗を殺害する動機がどんなに調べてもわからない。このままでは鳥蔵も殺害されるかもしれない。

 動機をめぐって26年前の事件をこつこつ調べ上げてゆく彫師伊之助の姿に緊張感があり、どんどん引き込まれる。
そして、最後とんでもない切ない事実に突き当たる。

 伊之助が、職場の藤藏親分と摩擦を起こしながら、同心の石塚にふりまわされ、真実を明らかにしてゆく姿にいつも感動する。

 シリーズが、この作品で終了したことが残念でたまらない。

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原宏一   「星をつける女 疑惑のウニ」(角川文庫)

 かなり前になるが、我が県の県庁所在地に近い地方の街に幻の銘酒を醸造する酒蔵があった。

 日本酒業界のことはよく知らなかったので、あっちこっちの酒屋に行き,銘酒を求めたのだが売っているところは一軒もなく、予約しようとすると、その酒は一般の酒屋では予約しても入ってこない。小さい酒蔵で、造った酒は従来から取引のある店に一方的に配給するだけで、市場には出回らないと言われた。
 ある酒屋で、その銘酒を味わえる居酒屋を教えてもらい、飲みに行ったが銘酒が無かったため、銘酒がはいったら連絡してもらうことにして、連絡を待った。

 入ったよという連絡をもらって、さっそく味わいにでかけた。その銘酒は正直感動的なおいしさだった。さすが幻の銘酒だった。

 ところが数年たつと、殆どの飲み屋で味わえるようになった。珍しいお酒ではなくなり、これがあの銘酒かと思えるくらい味が落ちた。

 実は日本酒は杜氏という職人が作っている。最近は一時期の日本酒ブームが去り、日本酒の製造会社は苦境に陥っている会社が多い。さらに杜氏になる人がいない。それで酒造りの蔵が閉めるところが続出。そのため、何と酒造りをしない日本酒醸造会社が出現する。

 この作品にも信州の小さな酒蔵が登場、リサーチ会社の主人公が酒の製造工程を見学するため酒蔵にでかける。しかし酒蔵では、酒蔵に入れるのはごく限られた人。見学人を入れると、雑菌がはいり、酒の品質が落ちる可能性があり見学は断っているという。

 この酒蔵の酒はまさに幻の銘酒。東京でも味わえるのは十数店のみ。

主人公は、仕方なく蔵のまわりを回って、蔵の写真を撮る。その時不思議に思ったのが蔵が稼働している様子が全く無い。しかし直売店ではその銘酒を発売しているし、出荷場では梱包ラベル貼り作業が忙しそうに行われている。 この酒蔵、他の酒蔵から日本酒を樽買いして、幾つかの樽買いの酒をブレンドしたり、醸造用アルコールを加え、ラベルだけ元の銘酒のラベルを貼って販売していたのだ。

 私が住んでいる県のあの銘酒の小さな酒蔵も、同じことをしているのではと少しこの作品を読んで思った。ごめんなさい。

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藤沢周平   「闇の歯車」(講談社文庫)

 藤沢作品は、情景描写、心情描写が卓越していて、そんな描写に会いたくて読者は藤沢作品を手にとる。

 しかし、この作品は、そんな藤沢の特徴を排して、わかりやすく、テンポよく物語が進行する。非常に読みやすい作品になっている。

 今は、オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺がはびこっている。毎日のように被害については発表されるが、あまり詐欺実行犯が捕まったことを聞かない。

 これは、悪の実行者は犯罪の現場に現れてこないで、あくまで指示者に徹していて、実行者が何ら犯罪に関係ない一般の人を募って実行するからだ。

 たまたま、詐欺の現場を押さえても、実行者はアルバイト。ここから、運営指示者には到達することができない。だからいつまでたっても特殊詐欺は減らない。

 この作品は特殊詐欺の江戸時代版だ。中身は押し込み強盗をするのだが、集めた実行者はすべて素人の一般人。

 作品を読んでいると面白いと思ったのは、だいたいこういった犯罪に集まってくる人は金がすぐにでも欲しい人。

 650両の現金を押し込み強盗で奪うことに成功する。しかし、その金を即分配すると、犯人が露見しやすくなる。だから物語では犯罪運営者が、いったん現金は預かるが、分配は2か月後とする。

 しかし、実行者には、2か月も分配を待てない人がでる。ここから犯罪が崩れてゆく。
しかも、犯罪運営者が別犯罪で捕まる。現金がどこに隠されているか運営者しかしらない。これでは2か月たっても分配されない。

 いったいこのお金はどうなったのだろうか。物語では明らかにされない。

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藤沢周平     「時雨みち」(新潮文庫)

 短編集。

かってな思い込みなのだが、人はたとえどんなに成功を人生で収めていても、いつも思い出すのは、成功の素晴らしい体験ではなく、あれはまずかったなあという後悔のだと思う。

 大物卸で成功した機屋新右衛門。いつも胸を刺す記憶に悩まされていた。

新右衛門は、もともと同じ大物卸商安濃屋に奉公人として入り勤めていた。そんなとき、通い女中のおひさと恋に陥る。二人は細心の注意をはらって、店の人達に2人の関係がバレない様密会を続けた。

 そんな新右衛門にライバルの卸商機屋から、娘婿に新右衛門を迎え、ゆくゆくは機屋を継いでほしいとの申し入れがあった。
 こんな素晴らしい話はないと新右衛門は思い、そして女中おひさを捨てた。おひさはこの時、妊娠していた。

 それから30年後、安濃屋で奉公人仲間だった市助が現れ、おひさが場末の女郎屋で女郎をしていることを教えてくれた。

 その話を聞いたとき、あの時よく誰にも知られず、おひさを捨てることができた。崖っぷちをつま先で渡ったと思う。しかし、その記憶がずっと新右衛門を悩ます。

 そんな時男が必ずする行為。今おひさがどうなっているのか見てみたい。そして捨てたことを謝ろうと考える。

 そして場末の女郎屋にゆく。そのとき会った、おひさは青白くむくみ、胴も腰も樽のように太っていた。
 新右衛門はおひさに謝るが、おひさはそんな昔のことは忘れたと言う。新右衛門は昔の傷を忘れるためにおわびとして30両をおひさに差し出す。

 おひさは
「あなた今の私を抱ける?抱いてくれれば商売だからいくらでもお金はもらうけど、抱けないならそんなお金はもらえない。」と。冷たく新右衛門を突き放す。

 新右衛門それに懲りずに、翌日50両を持って、おひさに会いに行く。しかしおひさは女郎屋をやめて、そこにはいなかった。
 新右衛門の心の傷は死ぬまで続く。

 本のタイトルにもなっている「時雨みち」より。

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藤沢周平    「日暮れ竹河岸」(文春文庫)

 藤沢生前最後の短編作品集。

偏見かもしれないが、会社勤めをしていた時、女性社員に何人か、朝から晩までのべつまくなし喋り続ける社員がいた。とにかく、喋るとき、脳を経由していないのではないかと思えるほど。これは喋ってはまずいのではというようなことも、本能的にしゃべって、しゃべりまくる。

 大工職人勝蔵の妻おすぎは何でも喋りまくらねばいられない女性だった。
井戸端で、通りで、誰かを見つけるたびに、速射砲でしゃべる。しかし、そんなおすぎを嫌っている人はいない。おすぎのおしゃべりは面白いのである。夫の勝蔵も「おまえのおしゃべりは面白くて飽きねえや。」と言う。

 そんなある日、通りでおすぎがおしゃべりに夢中になっているとき、おすぎの家に火の手があがる。それで家に飛び込むのが遅れて、2歳の息子庄吉が大やけどをする。

 家に帰った勝蔵は「このおしゃべり女め!」と言ってから、おすぎと会話をしなくなる。おすぎは毎日針のむしろ。家の外でも中でも、しゃべることを封印した。

 2年後、勝蔵が家に帰ってくると、「親方から鑑札をもらった」という。鑑札をもらうと自力で大きな仕事をすることができる。やり直しだ。」

 そして茶の間にきて何かを言った。
おすぎは聞き取れなかったが、「子供もつくらなきゃ」と聞こえた。もう勝蔵とはやり直せじゃないかと思ってきた。

 2日後、いつも遠くから女たちのおしゃべりを見つめていたが、思い切ってその井戸端会議の輪に加わる。加わるとおすぎのおしゃべりは止まらなくなった。

 すると、あの昔の生き生きしたおすぎが戻ってきた。やっぱしおきゃんのおすぎじゃなくちゃ。うれしくなった。収録されている「うぐいす」という作品。

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アンソロジー    「たそがれ長屋」(新潮文庫)

 池波正太郎、藤沢周平、時代小説の名作家の短編5編を収録した人情小説集。

山本一力の「いっぽん桜」が印象に残る。

 今年54歳の口入屋(就職斡旋屋)井筒屋の筆頭番頭の長兵衛は、主人井筒屋重右衛門に呼び出され、家業を長男の仙太郎に譲る。ついては経営を若返らせるので、長兵衛も一緒に身を引いてくれと申し渡される。

 12歳の春奉公に入った長兵衛は、34歳で手代総代、39歳で三番番頭、45歳で二番番頭、47歳で念願の一番番頭となる。
 一番番頭というのは豪華な机、座椅子が与えられ、すべての書類が集まってきて、井筒屋のすべてを切り回す権限を持つ、社長のような存在。

 手代になってから、長兵衛は井筒屋の業績拡大に勤め、一年で2000人の口入斡旋を実現、あと少しで最大手千束屋に手が届くところまでやってきた。
 54歳、筆頭番頭7年、身を引くには早い。

新しい主人と筆頭番頭になった清四郎が話をしているところに長兵衛が口を挟む。すると元の主人重右衛門がやってきて、「仕事はすべて若い者にまかせろ。今後一切口出し無用」と長兵衛を諫める。

 番頭以下奉公人が、長兵衛家族を招いて慰労会を開催する。その途中、近くで火災が発生。
江戸時代はよく火災が起きる。こんな時、筆頭番頭が対応を指示する。清四郎が采配をふるい、長兵衛家族は宴会場に残される。

 退職2日後、ライバル千束屋より接待の申し出があり、長兵衛はそれきたかと思い接待を受ける。接待では井筒屋の職場事情、方針を聞かれるだけで、全く引き抜きの話はでない。

 そんな時、魚卸をしている木村屋から帳面をみてくれという声がかかる。

長兵衛はそれを引き受け、木村屋にゆき、あれもこれもなっていないと厳しく叱責。
常に「うちではこうしない。」「うちはこうした」とうちはすべて井筒屋をさす。それで木村屋の奉公人に総スカンを食らう。

 今までは大看板をバックにして仕事をしてきたのに、看板が取れると途端に通用しない、いつまでも看板を傘にきて文句ばかり言う。寂しく、悲しい大企業退職後の人生。

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藤沢周平   「海鳴り」(下)

 藤沢は小説家一本になったのは確か40代半ば。それまで色んな職業を経験しているし、肺結核で大手術も経験している。

 だから生きるということはどういうことか、仕事にはどう臨むべきか、徹底的に掘り下げその想いを強く表現する。

 価値ある紙を作るにはどうすべきか。真剣な仕事にはどう取り組むべきか、この作品で主人公の新兵衛が紙の漉家の現場に入り込んで新しい紙作りに挑戦する。

 その紙漉きの仕事の描写がすごい。長くなるが、藤沢のすごさを味わってほしい。

「伐りとってきた楮は、すぐに一定の長さにきりそろえてふかしにかける。その楮ふかしは一釜四十貫、一刻あまり蒸し続け、男三人で日に4から5釜の楮を蒸し上げるのである。しかも蒸し終わった楮は、次の釜を焚いている間に黒皮をはぎ取るので息つく暇もなかった。

 楮ふかしは熱く、またアク煮した楮白皮を川の浅瀬で晒す仕事は、天気の悪い日は骨も凍るほどに寒かった。しかし釜から取り出した白皮は、まだ熱いうちに清水に晒すのがコツである。そして最後の仕上げともいうべき楮叩きは、文字通り骨の折れる仕事だった。

樫の打盤の上に置いた白皮を、最初は大棒で荒打ちし、そのあと2本の小棒で小打ちをする。その打ち方が平均していないと、紙の地合いが悪くなり、ばらつきがでる、神経を使うその作業は、一打におよそ半刻(一時間)はかかるのである。」

 この後に、新兵衛の新しい高品質の紙作りの方法が描写される。
しかし、それは、職人たちの紙作りの実際を把握していないと、できない。

40代半ば小説家になるまで、味わってきた苦労に裏打ちされた、藤沢の執念ともいえる紙作りの描写だ。これはとても、今の作家では描くことはできない。

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藤沢周平   「海鳴り」(上)(文春文庫)

 この物語は、3つのテーマが折り重なって描かれる。

一つは、主人公紙問屋小野屋の主人小野屋新兵衛が色んな経過のはて、同じ紙問屋の人妻おこうと道ならぬ恋に陥る。江戸時代、夫、妻がある者が、不倫関係を結ぶと,死罪になる。またそんな不純な関係が漏れると、それが脅迫の材料となる。こんな関係に陥った新兵衛とおこうの恋路はどうなるのか。

 2つめは、物語で新兵衛の年齢はわからないが、察すると50代半ばか。江戸時代では十分老人の年齢。そこの年にいたるまで歩んできた人生とその結果、この先の展望をどう考えるか人生の分岐点に立っている人間の物語。

 3つめは、従来の紙の流通チャンネルから大きく変えて、新しい流通チャンネルに問屋組合が変えようとする。その新しい方法に古い時代にはいる、主人公がどう対応するか。

 ここでは、書くことはできないが、新兵衛とおこうの結ばれる場面描写がすばらしい。
今は、情交シーンは何の陰もなくあけすけなく描かれる私の青春時代は違った。映画も肝心なところは机の足などが邪魔して映らないようにしていた。

 この作品で、そんな描写に制限がある情交を、藤沢は持てる文章力を駆使して直截的ではなく、感動的描いてみせる。

  正直今までの読書経験でこんなに素晴らしいラブシーン描写に遭遇したことは無い。
本作品を手にとってぜひ堪能してほしいものだ。

 死罪と隣り合わせの恋の、覚悟のラブシーンとは、こうなるんだと藤沢の想いが迸っている。

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辻村深月   「かがみの孤城」(下)’ポプラ文庫)

 鏡の中のお城に入ることができる7人は一人リオンを除いて同じ雪花第5中学の生徒だということがわかる。リオン以外の6人は現在登校拒否児になっている。リオンは雪花題5中学校に入学する予定だったが父親の仕事のためハワイに在住している。

 学校に登校できないから、当然友達はいない。そんな孤独な子供たちが鏡の中の城ではなんでも言い合える友達となる。それが 3月30日を過ぎると、鏡の城は消え、記憶もなくなる。それはあまりにもせつない。同じ中学校に行ってるのだから、日を決めて6人で会えば、鏡の城がなくなっても、学校での友達になれる。それでみんなで3学期の始業式の日に学校で会うことを約束する。

 主人公 こころ   一年四組
     ウレシノ  一年一組
     フウカ   二年三組
    マサムネ   二年六組
    スバル    三年三組
    アキ     三年五組

こころは始業式の日に学校へ行く。しかしいつまで待っても他の5人はやってこない。裏切られた気持ちで、家に帰り、鏡を通って城に行く。ところが、他の5人も約束通り学校に行ったが、誰にも会えなかったと言う。

 これはどういうこと?

マサムネはこれはパラレルワールドの世界なのだという。今までの人生の分岐点である選択をした結果、今のリアルの世界があり、城の世界は、そのとき別の選択をしていたら実現した世界だと言う。

 しかしこれは無理がある。別に歩む世界が城の中というのは、飛躍がありすぎる。

 どうして会えなかったか。小説の中にたくさんのヒントが散りばめられていて、普通に読んでいても真相がわかる。

 真相は正直平凡だが、辻村さんは楽しい想像力と変化にとんだ文章を駆使して、読者をドキドキさせて最後まで一気に読ませる。

 そして本当に感心するが、最後の章で辻村式感動を用意している。ずっとドキドキさせ、見事な作品だった。

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辻村深月   「かがみの孤城」(上)(ポプラ文庫)

 2018年本屋大賞受賞作。

中学生になったばかりの主人公こころは、同級生の真田美織とそのグループにばかにされ、無視され学校に行けなくなり、一日中家で過ごす生活をしていた

 ある日、自分の部屋でテレビを観ていると、テレビや電気が消え、暗くなる。その時光が突然発生し、そこだけがまぶしくなる。それは、こころの部屋にある、姿見のための鏡。

 鏡の前に立ち手を添えると、手が鏡の中に入り、そのままこころも鏡の中に入ってしまう。
鏡の中は、大きな城の中。そこにはオオカミの仮面をつけた少女がいた。

 そして、その城には、こころの他に、同じ中学生で女生徒のアキ、フウカ、男子生徒、マサムネ、スバル、リオン、ウレシノ 計7人がいた。

 オオカミの面を被った女の子が言う。
この鏡の城に入って過ごせる時間は朝から夕方5時まで、その時間以外は鏡の城にはいることも、出ることもできない。

 鏡の城に来られるのは来年の3月30日まで。その間に今は開かずの部屋になっている「願いの部屋」を開ける鍵を探し、見つけられれば、その人は一つだけ願いがかなえられる。

それに失敗した人は、大きなオオカミがやってきて食べられてしまう「七匹のこぶた」のようなことを言う。
 また、鏡の部屋の記憶は、3月30日をもって一切消滅する。

 辻村さんの小説だから、「不思議な国のアリス」のように、鏡の中では不思議なファンタジーの世界が繰り広げられるのではと期待したが、オオカミの仮面をかぶった少女はあまり登場しないで、中学生が集まって、鏡の内外で中学生生活が描かれる。えー、このまま上下2巻この調子の物語が続くのかと少しげんなりして読み進む。

 ところが上巻の終了前に、リオン以外の中学生が同じ雪花第5中学生だとわかる。それだったら、学校に行って合えば、鏡の中の出来事もリアルの世界で共有できるんじゃないか。それで3学期の始業式の日みんなで学校で会う約束をする。

 これは面白い。鏡の中の生徒たちは、同じ学校内でも出会うことができるだろうかワクワクして下巻に進む。

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藤沢周平   「漆黒の霧の中で」(新潮文庫)

 彫師伊之助シリーズの第2弾。ハードボイルドミステリー小説。

一般的なハードボイルド小説というのは、例えば半無法地帯新宿のような場所で無頼、アウトローの人間たちが、熾烈な戦いをする。現実にそのような世界はあるかもしれないが、一般大衆とは無縁で現実感の乏しい人間ばなれした物語が展開する。

 しかし、藤沢のこの作品の主人公伊之助は、元岡っ引きだったが、十手をかえし、今は藤蔵親方の下で、峰吉、圭太とともに木彫りを行い生計をたてている市井の職人。普通人の世界を扱っている。

 堅川の河原で水死体があがる。岡っ引き親分の石塚に頼まれ、伊之助は事件を追うが、木彫りの仕事から逃れることができない。しょっちゅう職場を離れ捜査にあたるが、そのたびに藤蔵親方との摩擦がある。この2人のやりとりが生き生きしていて面白い。

 この物語の鍵となるのが、中世時代から行われ、江戸時代に制度が確立した名目金という貸金制度。幕府が管轄する寺社を通して、金貸しを行う。一見貸出金利は低いが、高い手数料、内金制度があり実態は高利貸し。

 当初は、幕府のお金が使われていたが、幕府の金が無くなり、貸金商が名義を寺社にして金貸しをするようになる。この際金貸し商は寺社、幕府に名義使用料を収める。

 事件の真相は最後寺社で行われる金貸しに至る。

正直、この寺社幕府を金貸しの名義人とする名目金制度が金を借りる人にどんなメリットがあるのか、理解できなかったため、真相がもう一つしっくりこなかった。

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藤沢周平     「夜消える」(文春文庫)

 私の大学生時代に発刊して、その後けっこう長い間出版されていた実業之日本社の「週刊小説」という週刊誌があった。この週刊誌をよく書店で立ち読みした。今の時代たわいもないことなのだが、この雑誌、毎週グラビアに女子大生のヌードを載せていたからだ。実は藤沢周平がこの雑誌に毎週のように短編を載せていた。その藤沢作品を毎週立ち読みするのが楽しみだった。

 今この「週刊小説」古書として、発行週によってかなり高額で売買されているそうだ。
この本は、そんな「週刊小説」に掲載された藤沢の短編を収録している。なつかしく、少しこそばゆい。収録作品では、「にがい再会」が面白い。

主人公の新之助は30歳。父親の傘屋を継いでいる。ある日幼馴染の畳屋の源次がやってきて、おこまが新之助たちが住んでいる長屋の近くに帰ってきたという。

 おこまは新之助や源次が幼いころ、おばさんに引き取られ新之助たちが暮らす長屋にやってきた。新之助たちと毎日と遊んだ幼馴染だ。新之助も源次も年頃になるとおこまを好きになった。

 新之助はおこまと結婚したかった。しかし傘屋の跡取りが素性もわからない女性との結婚は父親が許すはずもなかった。

  その後、おこまが岡場所に連れられていく場面に新之助は遭遇した。新之助は何とかしようと思ったのだが、おこまを連れていく、怖そうな男たちにすごまれて、おこまを放っておいて逃げだした。その時おこまが「新之助さん」と言って悲しい顔をした。

 源次の情報によると、今のおこまには男がいるとのこと。
新之助はおこまに会いにゆく。新之助はおこまが今でも好きだ。しかし、おこまは言う。
今でも岡場所からぬけられない。30両あれば抜けられると。

 しかし30両は新之助では用立てられない。ある日、5両だけを包んでおこまにもってゆく。するとおこまは言う。
 「男の人を試してはいけませんね。私の今の男は持っている道具を売って、お金を持ってきてくれた。だから岡場所から抜けることができた。」

 「新之助さんとは縁がなかったということね。もう会うこともないでしょう」と。
新之助ががんばって30両のお金を作ってきたら、おこまはどうしただろう。新之助とはやっぱり一緒にはならないだろう。最初に、父親と喧嘩してまでも、結婚していないと。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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藤沢周平   「秘太刀馬の骨」(文春文庫)

 北国のある小藩。代々筆頭家老の職を継いできた望月家が権力を握ってきた。しかし腐敗もありその力も衰えてきて、対抗権力として杉原家が台頭してきていた。

 そして6年前、家老望月四郎右衛門隆安が暗殺されるという事件が起きる。杉原派の陰謀とも思われたが、真相はわからなかった。

 この隆安の死体を検分した大目付の笠松がこれは「馬の骨」と謎の言葉を残す。

馬の骨は現在道場主になっている矢野藤蔵の祖父があみだした秘伝の剣術。それが藤蔵の父に伝えられたが、父がその後誰に伝えたかがわからない。

 現家老の小出帯刀は、望月派の重鎮。馬の骨は矢野藤蔵の父が誰に伝えたかがわかればそいつが隆安暗殺の犯人。矢野は杉原派に与する。だから、暗殺者が杉原派とわかると、一気に杉原派を壊滅できる。

 それで、部下の主人公浅沼半十郎を呼びつけ、剣術に心得のある甥の石橋銀次郎とともに馬の骨を使える男をあぶりだせと命じる。

 矢野の父親が秘伝馬の骨を伝授しただろうと思われる高弟は5人。息子の藤蔵は剣の腕はもうひとつで父親が秘術を伝授したとは考えられない。

 藤蔵の父親は馬の骨は門外不出としていて、弟子には対外試合を禁止している。
それで銀次郎は高弟の弱点を探り出し、それを使って脅迫し、無理やり立ち合いをさせる。
 それぞれの立ち合いが藤蔵の名分により緊迫感が半端ではなく興奮する。

 しかしいずれの高弟も秘術を伝授されていないことがわかる。

通常こういう物語は、主人公の半十郎の上司帯刀が正義派で、杉原派の悪行が暴かれながら、半十郎の活躍で杉原派が壊滅されるという物語になるのだが、後半になってから物語の色合いががらりと変わる。

 帯刀は賄賂を集め、しかも杉原派だった藩主を江戸詰めの時に毒殺。驚愕する。何と帯刀こそ悪の権化。しかも帯刀は暗殺者あぶりを命じたときにはすでに誰が秘伝を伝授されたかを知っていたことが明らかにされる。もう、今までの話は何だったのか。少しがっくりくる。

 そして、意外な伝授者が明らかにされる。さらに藤沢は最後2ページを使い、半十郎との夫婦仲が最悪の妻杉江にも馬の骨が伝授されていたことをにおわせ物語は終了する。

 この2ページは何を藤沢は言っているのかわからない。しかし、それが快い余韻を残す。
全く藤沢魔術である。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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朱野帰子   「わたし定時で帰ります2」(新潮文庫)

 主人公の東山結衣はウェブ運用構築会社ベイシックに勤めている。入社試験面接で「定時で帰れる会社ということで応募した」と言い、「会社に入っても定時で帰る」と宣言してそれをずっと守り続けている。

 現在スポーツウェアメーカーの「フォース」のウェブ開発コンペに参加している。

このフォースの社内を見学させてもらう。
 すると全員、胸に兜のロゴがついている、フォースの看板ウェア サムライサイクルを身につけている。案内の社員がいう。

「うちの社員はみんなこれを着ています。長時間肉体をサポートするので、朝も昼も夜もモチベーションの火がつきっぱなし。競りあい仕事ができます。うちは裁量労働制ですので、定められた就業時間はありません。個人の裁量によって決められます。」

 昼食も夕食も時間は10分程度。残りの50分は、社内にあるスポーツジムにゆき、懸命にランニングマシーンで走る。筋力が衰えると、仕事の能率も落ちる。仕事とプライベートの区切りは無い。朝昼晩食事は社内でできるし、眠くなったら地下にある酸素マシーンで仮眠がとれる。
 いったん会社に入ったら全く会社からでることなく何日も過ごすことができる。
結衣が最もあいいれない会社。

 私が古いタイプの人間だからとは思うが、会社を興した数年は、組織体制や仕事の手順も整っていなくて、それこそ24時間仕事に集中しないと会社が持たないのが実態。そんな会社に応援で勤めたことがあるが、フォースの状態とほぼ同じだった。

 結衣の勤める会社もまだ創業から短い会社で、読んでいても、とても定時には帰れる会社ではない。だから結衣の定時で帰ることができるのが現実と遊離していてピンとこない。

 最後のコンペ、野球対戦でどの会社にするかを決めるというのは、全くありえない話。

もう少し地に足がついた物語にしてほしい。飛んでるところがおもしろい?古いタイプの年寄りは読んではいけない本なのか・・・。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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藤沢周平   「夜の橋」(文春文庫)

 短編集。本のタイトルにもなっている「夜の橋」。長編になる話を凝縮して短編に仕上げている。

 主人公の民次が夕方仕事を終えて、裏長屋に帰ると、隣の女房のおたきが「今しがたまでおきくが来ていて、あんたを待っていたよ。」と言う。

 おきくは半年前、夫民次のばくち打ち狂いに愛想をつかして、別れた女房。別れた後、全く合っていない。何か大事な話でもあったのか、民次はおきくが今働いている、扇屋という料理屋に行く。

 おきくは今結婚の話がでているが、自分は結婚したくないという。
しかし相手は大きな薬問屋の二番番頭の兼吉という男だという。風来坊の民次より雲泥の差があるりっぱな身分の男だ。是非結婚しろと民次はおきくに勧める。

 民次はたまたま出入りしている、賭場で、薬問屋の番頭兼吉がしょっちゅう出入りをしていることを知る。しかも兼吉は賭博に負けて借金がたくさんあり、その借金を返すために問屋のお金を使っていることを掴む。

 民次はおきくに合い、前と異なって、結婚はやめるように説得する。しかしおきくの回答が不明瞭のため、兼吉に会い、おきくから手を引くように説得をする。

 兼吉は、「捨てられた男がぐだぐだ言うな」と逆に民次を脅し、持っていた匕首を突き付けてくる。民次は刺されながら後じさりをし、ある家の塀に追い込まれる。その時塀が崩れる。崩れた石のかけらを手にして、それを兼吉の頭にうちつける。兼吉は大きく崩れ落ちたが、民次も何か所も血を流して気を失う。

 民次は意識が戻ると、そこにおきくがいて、懸命に介抱してくれている。そして民次とおきくは、民次の長屋に向かって歩きだす。

 いつも思うが、藤沢作品は最後の文章が鮮やかでぐっと心に迫ってくる。
「提灯の光に浮かび上がった二人の影は、二の橋を渡ると、人気もない相生町の街並みを、ゆっくりと遠ざかって行った。どこかで夜回りの拍子木の音が微かにひびき、雪は音もなく降り続けていた。」

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| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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藤沢周平    「長門守の陰謀」(文春文庫)

 藤沢周平、初期作品を中心にした短編集。
初期は少し暗い雰囲気の作品が多かったが、この本の最初に収録されている「夢ぞ見し」は藤沢には珍しくコミカルな楽しい作品になっている。

 主人公の昌江は、夫の甚兵衛にほとほと参っている。城の御槍組に勤めている。手当はたった25石。殆ど忙しいとは無縁の職場である。それがいつも忙しいと言って、帰ってくるのが夜8時。どうしてそんなに忙しいかと聞いてもいつも「さあ」の一言。隣家も城勤め、俸禄も85石で甚兵衛の3倍なのに、夕方には家に帰って夫婦仲良く庭の草木に水をやっている。家に帰っても全く会話は無いし、夜のお勤めも無くなった。

 甚兵衛は兄新之助の紹介だった。花火のとき初めて甚兵衛を昌江は見たが、風采はあがらずいつも口をだらーっと開けている。とてもいやだと兄に言ったのだが、兄に説得され、一緒になった。人生の大失敗だった。

 ある晩、突然家に江戸詰めの溝江啓四郎という侍が「やっかいになる」とやってくる。甚兵衛には聞いていたが忘れていた。男ぶりがよくイケメンの颯爽とした武士だ。しかし態度がよくない。横柄で命令口調。「飯はまだか」と聞く。あわてて甚兵衛の食べた残りをだしてあげる。おかしなことに「これはおいしい」などと言う。

 昼間甚兵衛は、城に勤め不在なのだが、啓四郎はずっと家にいる。イケメンと2人でいると、少し心が弾む。啓四郎に肩や腰のマッサージをしてもらったりする。

 ある晩、見知らぬ男4人が突然家にやってきて啓四郎と斬りあいになる。何とそこに甚兵衛が表れて、3人を目にもとまらぬ速さで切り捨てる。こんなすごい甚兵衛を見たことは無い。

 啓四郎は迷惑をかけたと礼を言い、この家を去ると言って、闇に消えてゆく。

 3年後、昌江は友達に自分の赤ちゃんを見せるため通りを歩いていると、後ろの駕籠から昌江に声がかかる。振り返るとそれは啓四郎だった。その駕籠は殿様用の駕籠だった。

 昌江は殿様にマッサージをさせたことを思い出し、驚きひざまづく。

 「ローマの休日」を思い出すような話だ。 

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| 古本読書日記 | 06:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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桐野夏生   「路上のX」(朝日文庫)

 この物語は多少桐野の想像の部分もあるかもしれないが、実際に起きた事柄のように思えた。渋谷の少女たちの実態を、情感を排して、直截的、簡便なドキュメンタリーのような表現で描く。これも類まれな文章力だと感心した。

 主人公の女子高生真由は、ある日突然、両親が消え、おじさんの家へ、弟は名古屋の叔母さんの家にゆき養ってもらうようnになり住んだ家を追い出された。

 真由は義父からの虐待、義母からの叱責、食事も満足に与えられない状態に耐えかね、おじさんの家を飛び出し渋谷に行く。
 そこでラーメン屋に拾われバイトとして働く。とりあえず街で知ったレオナの部屋におちつく。レオナは身を売りながら渋谷で生活している。

 その部屋にある日ミトがやってきて、3人で行動する。

 そこからネグレクト、DV、JKリフレ、妊娠、堕胎、最悪の暴力と格闘している女子高生が活写される。そして、真由はラーメン屋のチーフにレイプされ処女を奪われる。

 両親が失踪したのは、父親の経営していた幾つかのレストランの経営が失敗し、借金取りから逃げるためと思っていた。しかし、物語の後半、名古屋のおばさんから真相が話され、真由はびっくりする。

 実は母が、レストランのソムリエと仲よくなり2人で失踪。父親はそれを追いかけ、2人が逃げた大阪で発見。そこで、ソムリエを殺害し、今は母親は服役中ということを知る。

 おばさんは、真由におばさんの家は狭いから一緒には住めないが、近くのアパートを借り、高校にも行かせてあげるから、名古屋に来なさいと言う。

 瞬間、真由は名古屋に行こうと思ったが、みじめな暮らしでもずっとレオナとミトと一緒にいたいとおばさんに言う。

 その時レオナが決然と言う。
 「昨日は3Pをやらされた、その後、30代の社員と新宿で会った。2人でホテルに行くと、縛り上げられオシッコを顔にかけられた。何回も、何回もレイプされた。
 渋谷で家無き女子高生が生きてゆくということは、こんなことにも耐えていくということなんだよ。」

 渋谷は救いが無い街に思えてくる。

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| 古本読書日記 | 06:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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天童荒太   「ペインレス あなたの愛を殺して」(下)(新潮文庫)

 痛みには体が傷つけられることで、発生する痛みと心が傷ついて発生する痛みがあることが上巻で語られる。

 そして、その痛みを取り除いてほしいと願う人がすべてかと思ったら、痛みが欲しがる人がいた。曾根という末期がん患者。

 曾根は青春時代に、最高の快感を覚える痛みを経験した。死ぬ前にもう一度その痛みを味わって死にたいという希望をもっている。

 そこで万浬にその痛みを作ってもらうよう依頼した。

 それから、昔何かの本で読んだ記憶があるのだが、戦争で腕や足など体の一部を失った人がその失った部分が痛む幻肢痛という病気がある。そんな患者は、精神的病と診断され、精神科にて治療を受けるが、全く何をしても痛みは消えない。それで最後は万浬のところにやってくる。

 面白いと思ったのは、箱を真ん中で仕切って、手首のない左手をいれ、仕切った隣に完全に手首が存在する右手を入れる。その状態で鏡に映す。鏡は右と左が逆になって映る。

 まず万浬が見えない左手を手首の手前まで優しくマッサージする。その直後に見えている右手の痛みをとる処方をする。すると存在しない左手の手首の痛みがとれる。

 痛みについての内容とその治療法が表現される。それは面白いし興味があるのだが、物理的痛みと心の痛みが同列に語られるところがどうしてもすっきりと胸に落ちてこない。なかなか物語に集中できない。

 物理的痛みと全く異なる、心の痛みを同列に無理やり扱ったために、わかりにくい物語になってしまった。
 失敗作品だと感じた

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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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天童荒太   「ペインレス 私の痛みを抱いて」(上)

 私の家の近くに、2年前に痛みのクリニック ペインレスクリニックが開業した。年を取ると、腰や肩などに慢性的な痛みがとりつく。どんな治療をしても、年齢からくるどうしようもないもので、こんな痛みなど治るわけがないと思っていた。

 しかし、この作品を読んで錯覚していたことがわかったのだが、痛みはぶつけたり、傷つけたりする場所で痛みを感ずるわけでなく、傷ついたことが、脳に伝わり、脳が発信している。この痛みを感ずる脳の部位が扁桃体という部位だそうだ。

 だから、この脳に傷ついたことを伝える部分、トリガーポイントというらしいが、そこに麻酔を打ったり、場合によれば切断すれば、全く痛みは感じないということになる。

 家の近くのペインレス クリニックもこんな治療をしているのかと驚いた。

 主人公の野宮万浬は麻酔科の医師をしていたが、尊敬する医師の紹介でペインクリニックに勤務し、患者の痛みを除去する治療を行うことになる。
 実は、万浬は特殊な体質を持っていて、物理的に体に付けた傷などの痛みは感じるが心で受けた痛みは全く感じない。物語では、人間の痛みは裏返せば愛そのものであり、この痛みが平和や憎しみの根源になっていると表現している。

 このクリニックに貴井森悟が患者としてやってくる。彼は途上国のインフラ整備の国際プロジェクトを幾つか手がけ成功をおさめていたが、あるプロジェクトで反政府ゲリラの標的にされ、爆弾テロにあう。一命はとりとめたものの、体が全く無痛状態になってしまった。無痛から痛さを感じる体にしたいと万浬のクリニックを訪ねたのである。

 ここからがよく理解できないのだが、万浬は診察と称して、森悟とセックスをする。
セックスが無痛者に痛みや快感がとどうかかわるか調べるためだ。このセックスの描写が異常に長い。ほぼ50ページにもわたっている。

 まずもって、体の痛みと心の痛みは同じ線上で扱うものなのか。痛みとはいうが、全然異なるものじゃないのか。
 理解不能のまま下巻にむかう。

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| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東一眞    「クロウ・ブレイン」(宝島社文庫)

 書店の文庫新刊コーナーで購入した。別の本を購入したつもりだったが、間違ってしまったと家に帰って文庫をみてわかった。がっくりした。しかし読んでみたら面白く一気読みをした。

 主人公は入社2年目の新聞記者、名前が権執印伶一(ごんしゅういんりょういち)こんな名前は今風の若い作家しかつけないと読むが、生物分子論、ゲノム編集、遺伝子、人口論など多岐の分野にわたり知識が豊富。しかもいずれもわかりやすく物語にとけこませていて、思わず著者東について調べる。

 1961年生まれ、筑波大学大学院を卒業。読売新聞社にはいり、ハーバード大学院で研究員などを経て現在は読売新聞編集員をしていることを知る。なるほど、それでこんな作品を書けるのだと認識した。

 冒頭の美人でテレビにも時々出演する武田緑教授の話が面白い。

人間はアフリカの一部の地域に誕生した。しかし5万年をかけて地球全体にひろがった。そもそもアフリカにとどまっているときは、その狭い範囲のことだけ考えていればよかった。その脳力があまり変わらず、今に至っているので、地球全体のことを考えたり、将来も数十年後までは考えられるが、100年先まで考えられる脳力は持っていない。

 そうか、それで人間は自らが認識できる範囲を規定して国を作ったのか。自国利益最優先で、国際的協調というのがどんなに年月を経てもうまくゆかない。

 この物語は、今問題になっているウィルスを扱っている。人間は国単位で固まるが、ウィルスや多くの生物には国境など関係ない。こういう生態系の生物を扱い管理することが人間にはなかなか難しい。この他生物をつかいながら起こすバイオテロは対応がたやすくできない。

 この作品を読んでいて、いつも思うのだが、ある国が意図をもってバイオテロをひきおこしたらとんでもないことになると再確認をした。

 今回のコロナウィルスを中国が意図的に作り出す。中国で多少の感染がおきても、その対応策も予め決めていて実施する。中国がウィルス感染からいちはやく脱却し、経済も復活。世界が」混乱するなか、中国だけが繁栄を享受し、海洋進出も力ずくで進め、世界中心の国家として一段と存在感を高める。

 バカな妄想だったらよいのだが。

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吉田修一   「最後に手にしたいもの」(集英社文庫)

 ANA機内誌に連載しているエッセイを収録している。それゆえ、殆どが旅のエッセイとなっている。

 吉田の作品映画になった「悪人」に続き、同じ李相日監督で「怒り」が映画化された。

映画を撮り上げた後、李相日監督が言う。
 「この映画は難しかった。【悪人】では文字通り【悪人】、人間を撮ればよかった。【怒り】では、人間ではなく怒り、感情を撮らねばならなかった。」

 普通はあまりないのだが、クランクアップした直後に、出演俳優に集まってもらって、映画の宣伝ポスター撮影をする、「怒り」という言葉のまわりを出演俳優が怒り顔で囲むというポスターだ。撮影は篠山紀信。
 俳優は、渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、広瀬すず、宮崎あおい、綾野剛、妻夫木聡。

この7人の表情に吉田は驚かされる。
 森山未來、宮崎あおい、妻夫木聡は一見笑っているように見える。ところがじっと見つめていると、泣いているようにも怒っているようにも見えてくる。

 渡辺謙、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず
一見、憤怒の表情を浮かべているように見える。だが、やはりこちらも同じで、しばらく見つめていると、その目の奥に安堵や安らぎ、希望のようなものが見えてくる。

 たった一つの表情で、かれらはいくつもの表情をみせる。人間はこれほどたくさんの感情をもっているのだと、たった一つの写真がはっきりと伝えてくれる。
 と、吉田は書く。

その感情を引き出した篠山紀信もたいしたものだ。
再度ネットでその写真をみてみた。私の感受性が無いのかよくわからなかった。

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乃南アサ    「いっちみち」(新潮文庫)

 乃南初期の短編作品集。殆どの作品がすでに別の短編文庫本に収録されていて、既読作品もけっこうあった。

 乃南は長編作品では、大きくうねりがあり、そのうねりを情感たっぷりに描く、彼女の特徴が発出され感動作品になるが、初期ということもあるが、短編ではその特徴が発揮できず、テーマも平凡で凡作ばかりになってしまっている。

 その中で少し面白いと思ったのが「4℃の恋」。
主人公の昌世は具体的な仕事はわからないが、大学病院に勤務している。その病院に死直前の祖父が入院している。

 昌世の父親は九州に単身赴任中。父親は次男。長男がアメリカ勤務になったため、父親が祖父を引き取ってくらしている。これを母親が嫌っている。だから祖父が入院しても、見舞いには行かず、昌世だけが仕方なく様子を毎日みにいっている。
よく勘があたる西山看護師に聞くと、祖父は2日後に亡くなるという。担当医師ももってあと5日間という。

 ところが、ここ10日間、息子は合宿に、母親は不倫旅行に、昌世は恋人の松井とハワイ旅行を予定している。祖父が死んでも家に誰もいないのである。

 そこで昌世は、法医学教室の栗田医師に遺体を4℃の冷蔵庫で保管し、死亡診断書も日付けをずらすようにお願いする。

 母親は不倫旅行から帰ってきて、まだ書類上は死んでいないことになっている間に、祖父の遺産の名義を自分に変える。

 家族からみはなされている、夫と祖父の哀れさが身にしみてくる。

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桜木紫乃   「ふたりぐらし」(新潮文庫)

 元映写技師で映画脚本家の道をあきらめきれず定職のない男と、看護師で家計を支える妻との夫婦を描く連作短編集。

 桜木さんの作品だから、トーンはどうしても若干暗くなっているがいつものどこまでも落ちてゆく悲劇性はなく、静かに夫婦の暮らしを丁寧に描いている。解説の友近が「夫婦の教科書のような小説」と見事な表現で評価している。

以前、フィルムはニトロセルロースを使用していて、この素材が燃えやすいため、8ミリより大きいサイズの映写には国家資格認定取得が必要だった。

 ところが今は、液晶プロジェクターやDVDに変わり、映写技師はなくなり、アルバイトが映写を行う時代に変なり、映写技師は失職した。

 中学から高校にかけて、テレビ全盛となり映画界はどんどん衰微した。そのころの映画はピンク映画全盛となった。よく放課後、バカが連れ立ってピンク映画を見に行った。ぼくらが入館するまで、客はだれもいなかった。途中から入ったのだが、映画はすでに途中まで上映していた。誰も観客がいなくても、映画は時間通りはじまっていた。映写室にいれてもらった。映写技師がたった一人でピンク映画を映していた。

 映写機は2台あり、その2台を使って映写していた。なんでも、一作品では1台の映写機ではまかなえない、途中中断させないため2台使っているとの説明だったがよくわからなかった。

 この物語で、ピンク女優の甲田桃子が東北の旅をしている途中、小さな東北の田舎町で自らの主演映画「蜜・蜜・蜜」を上映しているさびれた映画館をみつけた。

 寂しい映画だった。出演者は甲田のほかに老人の男だけ。

甲田はこんなさびれた映画館で私の映画を上映していると感激し、挨拶に映画館にはいる。
客は誰もいなかった。映写室にしわだらけの小男がいた。

 小男に挨拶すると、ピンク映画の主演女優に恐縮。映写機に頭をぶつけないように、少し下がって、小男が挨拶をした。
 この時甲田桃子は映画界を引退する決断をした。

この作品の中で、最も郷愁をそそる印象深い場面だった。

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| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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志村けん    「変なおじさん (完全版)」(新潮文庫)

 高校時代ドリフターズの「8時だよ!全員集合」かじりつくように見ていた。その時代を過ぎて、大学卒業頃になって、荒井注がドリフをやめ、代わりに志村けんがメンバーに加わった。荒井注は個性的で、怒鳴る姿が面白く、私も大学生で過渡期だったんだろうが、志村けんにあまり面白さを感じず、そこでドリフの番組は見なくなった。

 それからほぼ半世紀、我が家が犬猫を飼うようになり、食事時、「志村どうぶつえん」を見るようになった。この番組志村と名前がついているが、志村がメインで活躍する番組では無く、むしろ脇役ででている番組だった。

 ところが志村がコロナで亡くなり、それまでも、番組の中心で活躍していた相葉さんがメインで担当する番組に変わった。

 そこでびっくりした。志村は脇役だったはずなのに、その志村がいなくなって、途端に番組の熱量がガクンと下がった。志村は驚くべきタレントだったのだと痛感した。

 この作品で気づいたのだが、そういえば志村がMCをつとめた番組はないなあということ。普通お笑いで売れると、バラエティなどの司会に進出。そこで、アドリブで笑いをとるタレントが多い。たけし、タモリ、ダウンタウン、さんま、ネプチューンなどがそうだ。

 志村は台本を持ち、徹底的にコントを何回も練習しながら作りこむ。台本は、会話だけが書かれているが、現場は違う。「まず、ここにぶつかろう。それが終わったら、振り向いて何歩あるいてあそこにぶつかろう。」この何歩をいくつにして歩き方はどうするか徹底的に現場で作り上げる。

 屁をする場面がある。普通は管楽器を使って音をだす。これがリアルでなく志村は納得いかない。そして調査すると、ある大学教授がいろんな屁を録音したCDを発売していることをしる。それで、このCDを使う。

 大学教授は、学生を自分の家に連れ込み、屁をしてもらい録音していた。

嫁さんがその趣味に辟易して「離婚する」と宣言する。教授が言う。「離婚はしてあげる。でも、家を出る前に屁をしていけ」と。

 こんなエピソードはともかく、志村は偉大なタレントだったと改めて認識した。

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磯田道史   「無私の日本人」(文春文庫)

 江戸時代、3人の偉人の評伝。

3人は、全く知らない人物だった。江戸時代は、2百数十年前、たくさん書物も発行された。だから、地道に全国を回って、調査すれば民家の中から、今は無名だが、当時に活躍した人たちの書物や資料が発掘される可能性がたくさんある。

 磯田さんは、熱心に民家を回り、江戸時代に活躍した人を発掘する。努力家の歴史家だ。

 この本では、伊達藩の小さくさびれゆく宿場町を救済するために、財政改革を行った穀田屋十三郎。それから、日本一の儒者、日本一の詩人と評され、引く手あまただったが仕官しようとせず、極貧の生活に甘んじた中根東里。3人目は絶世の美人、歌人陶芸家で有名なのだが、作った陶器で手にいれたお金は飢饉の際に発生した貧者救済にあてた太田垣蓮月を取り上げている。

 最近判子文化から脱却が叫ばれている。特に役所は一つの決裁案件で20も30も判子が押されてないと決裁がなされない。この判子が役所独特のものでなく、私の会社も同じだった。

 ひとつの決裁案件を稟申すると、まず関連部門長の判子がいる。これが5つ以上押印してもらうのが普通。これを、すべてアポイントをとりつけ説明して判子をもらう。中にはこれは私ではなく、別のBさんに判子をもらってください。なんてたらいまわしにされ、社内をぐるぐる回らねばならない。

 そこまで行くと月1回経営会議があり、そこで社長を初め役員に説明して、承認ということになる。これでやっと終わりかと思うと、では出席した社長、役員に個別にまわって判子をもらってくださいなんて言われる。一体経営会議は何のための会議なんだと憤怒と疲れがいっぺんにやってくる。

 江戸時代、小さな宿場町の財政立て直し案を穀田屋十三郎を含めた何人かが発起人になって管轄している伊達藩の担当窓口にだす。しかし窓口は私ではなく、山を2つ超えた別の役所にだしなさいと言われ、たらいまわし。やっと受理されると、回答がくるまで3か月。その結果一言却下。なにがいけなくて却下なのか理由がない。だから再提案ができない。

 だから、伝手を使って、どこの誰が何の理由で却下したのか調べる。一つの提案が承認されるまでに半年、一年がかりとなる。

 今は、電子決裁システムが進化しているが、「俺のところにちゃんと出向いて説明しろ」と威張る権力者がまだまだはびこっていて、疑似判子文化から脱却できる道は険しい。

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阿部智里   「空棺の烏」(文春文庫)

 ファンタジー小説のベストセラー八咫烏シリーズの第4弾。

15歳から17歳までの少年たちが学ぶ全寮制の男子校勁草院が物語の舞台。勁草院は宗家一族を警護する精鋭集団である山内衆の養成所。この勁草院を舞台に絶対権力者金烏代の後継者に決まっている若宮とそのグループと、未だに若宮の兄・長束を後継者に推す、南家公近グループとの激しい戦いが描かれる。

 当然、最高権力者金烏代の後継者は長男の長束であるべきなのだが、今の権力者は金烏代となっていて真の金烏ではなく代行。今の権力者の一族にはごくまれに本当の金烏が誕生する。そして若宮が真の金烏だということで、兄に代わって、世継ぎ者となった。

 物語の途中でびっくりすることが起きる。
金烏代の後継者は若宮と決定していて、八咫烏の国山内では後継者の正式発表を今か、今かと国をあげて待っていた。

 ところが白烏の神祇官が若宮が真の金烏では無いと判断し、後継者になることに待ったがかかる。

 実は、山内の金烏代が住む宮殿に禁門がある。常時鍵がかかっているが、開錠した門を若宮が開けようとしたが開かなかった。真の金烏なら開けられるはず。だから若宮は本当の金烏では無い。また本当の金烏は、過去すべての世代にわたる記憶を引き継いでいるはずだが若宮はそんなことは無い。それで、若宮は後継者にはなれないと判断されたのである。

 その後、若宮の側用人である主人公雪哉の部下の治真が、先回の物語で登場した猿に拉致される。その猿と対決するために、若宮と雪哉が猿がいる隧道を進む。

 拉致した猿は老猿だった。その老猿が指さす。その先にミイラ化した八咫烏の死体があった。突然若宮が叫ぶ。
「これは100年前の私だ。」と。そして、治真をとりもどして懸命に隧道を逃げる。そこに門の扉が立ちはだかる。若宮が手をかけると扉がひらく。それは禁門の扉だった。

 八咫烏シリーズ。くせになるくらい面白い。日本版ハリー・ポッターである。

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