藤沢周平 「本所しぐれ町物語」(新潮文庫)
長い間、女房との生活。互いに、こんな人とどうして一緒になったのだろうと幻滅ばかりになった夫婦。そんな時、いつも浮かぶのが、本当に好きだった人との甘酸っぱい恋愛。あの人と一緒になっていたら、素晴らしい人生を歩めたはずなのに・・・。女房と毎日のように他愛もないことで喧嘩ばかりしていると、美化されたあの人に会ってみたくなる。そしてあわよくば、今の女房と別れて一緒になろうなどと考えてばかりになる。
種油商で成功した主人の政右衛門。最近長く連れ添った女房おたかと口喧嘩ばかりしている。今朝も、おまえのいびきはうるさいから始まりずっと喧嘩をしている。もう、うんざりしている。そして、こんなに考え方の違うおたかと無理にいっしょになったのは間違いだったのだと思うようになる。
ずっと幼いころから、一緒に遊んだおふさを最近は思い出してばかり。おふさと一緒になれることを信じていた。しかしおふさはは紙の大問屋に嫁ぐ。玉の輿に乗ったのだ。しかし嫁いで15年たったところ、おふさは夫と死に別れる。
それで政右衛門は2人の共通な知り合いである、おりきに2人が再会できるよう計らってくれとお願いする。
そして料理屋で会う。
しかし話は弾まず、料理を食べれば食べるほど、どんどん距離が広がってゆく。気詰まりばかりが強くなっていくなか、おふさが言う。
「もうそろそろおいとましなければ。」
政右衛門はその一言に救われ、肩の力が抜ける。そして生涯おたかと連れ添ってゆくんだとしみじみ思う。
おたかこそが一番良い女房なんだよと読者の私は政右衛門に声かけたくなる。
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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑