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2021年03月 | ARCHIVE-SELECT | 2021年05月

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坂木司    「ウィンター・ホリデー」(文春文庫)

 私の学生時代までのテレビドラマは、家族ドラマが中心。家族や下宿人、お手伝いさんはそれぞれ個性的な人がいて、驚くような行動をする人もいるが、ベースはすべての登場人物は善人。苦悩の中にあり、世間から排斥されているような人は登場しない。家族は一番基本。そこからはみでることは無く、最後は元気でみんなまとまるというドラマだ。

 主人公の沖田大和はクラブ ジャスミンでホストとして勤めていたが、そこを辞めて今は宅配便会社の配送員の仕事をしている。 主人公の名から連想されるが、今のヤマト運輸の「宅急便」が意識されている。この作品では「ハチさん便」というサービスになっている。
 さらに大和には由紀子という恋人がかっていて、その由紀子との間に進という子供がいる。

 この進と公園で大和と進が遊ぶ場面がある。

「ほうら!」
かけ声をかけて、俺はさらに進を持ち上げる。手を痺れさせながら、頭上の進に笑いかける。
「何これ!お父さんあはは!」
「何って、あれだ、ほら」
たかいたかい。
「それとあれだほら。」
ひこうき、ぶーん。
「ついでにおまけで」
ぐるぐるぐるー。

かってのホームドラマの映像が目に浮かんでくる。

 そして最後にこの作品の仕上げの言葉が書かれる。
届けたい。気持ちを、物を、言葉を。

作品を読んでいて少し気恥ずかしくなる。自分は長い人生随分ひねくれちゃったなあと感じる。

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藤沢周平    「玄鳥」(文春文庫)

 少し前に藤沢周平を集中して読んだ。一旦藤沢を読むのをやめて、色んな本を読んだが、どうもこれだという本が無く、また藤沢がたまらなく読みたくなった。

 5編の短編集である。

普請組に勤める御手洗孫六は酒が大好き人間だ。しかしいくら飲んでも表情に変化はなく、ピシっと姿勢も変わらず、ふらつくこともなく、自分は酒に酔うということは無いと信じていた。

 孫六は元々、勘定方に勤めていた。藩は財政状態が厳しく、参勤交代の費用は、城下の富商からかき集めた献金で賄っていた。孫六がその金集めに美濃屋善兵衛の屋敷に行く。勘定方というのはとりわけ商人と付き合うのは戒めねばならなかった。当然孫六もその点はしっかり心得ていたのだが、善兵衛の強いひきにより、ついつい部屋にあがり、浴びるほど酒を飲んでしまう。

 そして城に帰り、もらった金を勘定方の上役に差し出す。お金は30両もらったのだが、差し出した金は20両しかなかった。上司は酒の匂いがプンプンするし、飲み屋にでも置き忘れたか、盗られたか、着服したかいずれにしても、孫六の失敗として、勘定方から普請組に孫六を異動させ、俸禄も5石減じた。

 孫六は酒による失敗を身に染みて思い、その後一切酒を手にすることは無くなった。
普請組の仕事もいやがらず真面目に勤め、無くなった10両は別の勘定方に勤めている男が着服したことがその後わかったこともあり、18年後勘定方に戻り、5石も元に戻された。

 18年間酒断ちをしていたのだが、気持ちが高揚して、昔の馴染みの居酒屋に行く。そして昔のように酒をがぶ飲みする。周りの客の中に、城勤めの仲間がいる。みんな孫六を後ろ指でさし、酒で失敗したやつだと口々に言う。そして孫六が声をあげて言う。

「貴様ら、日ごろはこの孫六を見くびってくれているが、その礼に今夜はとっておきの無限流の腕を拝ませてやろう。さあ、出てこい。」
 酒がとくとくと音をたてて身体を駆け回っていた。孫六は愉快だった。こんないい気分になったのは久しぶりであR。
「出てきて勝負せんか。腰抜けめ」
普請場で鍛えた孫六の胴間声は、町の隅々まで響きわたった。

うれしいにつけ悲しいにつけ、酒だ酒だ。で、また失敗するんだよな。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村山由佳    「嘘 LOVE LIES」(新潮文庫)

 直木賞を獲得した馳星周が、軽井沢の別荘が互いに近く交流のあるということで、村山さんが馳に解説を依頼している。

 この作品は今までの村山さんにはあり得ないノアール小説。だからどうだという馳への挑戦の思いで馳に解説を依頼したのだろう。しかし解説は馳は本当に作品を読んだのだろうかと疑いたくなるような気がない解説だった。

 物語は友達同士、刀根秀俊、桐原美月、中村陽菜乃、正木亨介の中学時代から始まる。

この中学生が、全く中学生らしくなく、高校高学年か、大学生のような会話と行動。全く実感がわかないままだらだらと続く。作品は600ページを超える大長編。このままの雰囲気で続くのかと思っていたら、陽菜乃が買い物途中で、やくざ風の2人の男に車に引き入れられ強姦される。この場面の描写がやたらリアル。ここで、これは本当に村山由佳の作品だと完全に引き込まれ、そのまま最後まで一気読み。

 もちろん村山得意のラブシーン場面もあるが、殺人シーンもありそれも臨場感溢れる描写。特に、この物語で、最も重要な場面。主人公秀俊が、やくざの九十九によって育てられ、そのつながりで秀俊が九十九に犯人を探し出す依頼をし、2人組の犯人を九十九が連れてきて、秀俊が犯人を九十九にそそのかされ、殴り殺してしまうシーン。しかもそこには、レイプされた陽菜乃もいる。ここは本当にドキドキした。

 このことが、30歳を過ぎた4人の人生に影を落とし、更に事件が起きる。テーマは愛や友情に包まれているが、今にも爆発しそうな憤りだ。

 その憤りとは何で、どう対応すべきか、村山さんの言葉が印象に残る。

「憤りという感情は、全身にナイフの生えた異形の生き物だ。そのまま抱きかかえているにはあまりにも辛くて、鋭い切っ先を一本ずつ撫で付け、なだめすかし、せめて哀しみという名の比較的おとなしい生き物に変化させることでどうにか飼いならす。」

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池上彰   「世界を変えた10冊の本」(文春文庫)

 ジャーナリスト池上があげた世界を変えた10冊は以下の通り。
アンネ・フランク     「アンネの日記」
作者不詳         「聖書」
作者不詳         「コーラン」
マックス・ウエーバー   「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
カール・マルクス     「資本論」
サイイド・クトゥプ    「イスラーム原理主義の道しるべ」
レイチェル・カーソン   「沈黙の春」
ジョン・M・ケインズ   「雇用、利子および貨幣の一般理論」
ミルトン・フリードマン」 「資本主義と自由」

え?と違和感を感じるのは「アンネの日記」。それも最も変えたと考えられるトップにあげている。

アンネは1942年6月12日13歳の誕生日に、日記帳を両親からプレゼントされ、この日から、1944年8月1日隠れ家で逮捕される直前まで、日記を書き続ける。アンネは将来この日記が出版されることを意識して推敲も重ねた。

 戦後この隠れ家に戻ってきて、この日記を手渡された父オットーが、過激な部分を省いて1947年に出版されベストセラーになった。私が中学生の時に読んだ「アンネの日記」オットーの編集した日記だった。1986年に削除が検閲であると世界中からの批判により、完全オリジナル版が出版された。

 イエス・キリストはユダヤ教改革活動のため、時のローマ帝国から死刑判決を受け、十字架磔の刑を受ける。この時刑の現場に派遣されたローマ帝国のピラト将軍がなぜ死刑にしなくてはならないのかと民衆に問いかけるが、民衆は口々に死刑にしろと叫ぶ。ここからユダヤ人迫害が始まる。

 ヒットラーによるユダヤ人殺害は第2次大戦中600万人にも及ぶ。アンネは「アンネの日記」に書いている。

「私は周囲のみんなに役にたつ、あるいはみんなに喜びを与える存在でありたいのです。私の周囲にいながら、実際には私を知らない人たちにたいしても。私の望みは死んでからもなお生き続けること。」
そしてアンネはジャーナリストになる夢を持っていた。

もちろん、「アンネの日記」は世界を揺さぶり変えた。しかし、最も影響を与え人生を変えさせられたのは著者池上さんだったのだろう。池上さんのジャーナリストを支える基盤は「アンネの日記」である。だからこの本のトップに持ってきたのだ。

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深町秋生    「アウトサイダー」(幻冬舎文庫)

 組織犯罪対策課 八神瑛子シリーズの3作目。

暴力団印旛会系高杉会の資金稼ぎは、表にはできない金を集め、スイスの銀行に送り、そこでマネーロンダリングしてきれいな金にして、日本に戻す。そのための手数料や、マネーロンダリングで儲けたお金を一部暴力団の金にする。それに元警察OBを使い彼らの脅迫で投資資金を集める。 これに目をつけた元警察OBと繋がっていた現役刑事が、警察の捜査費用を流用して投資、暴力団に金を流し儲ける。

 この悪そのもののである現役刑事、暴力団の内紛で悪事がばれそうになると、自殺にみせかけ、暴力団の組長を殺す。更に、刑事の悪をかぎつけたジャーナリストも自殺にみせかけ殺す。このジャーナリストが主人公八神瑛子の夫。

 自殺とされる夫の死の真相を追求する過程、犯人を暴き出す過程は手に汗握る。

 警察官というのは、仕事は辛くストレスもたまる。それでどうしても私生活が乱れる。女と遊ぶ多くの遊興費、それから賭け事のお金が必要となる、八神はそんな警察官に金を貸し、実質自分の配下におく。何か起きれば八神が悪の刑事になりそうな雰囲気。

 この物語で恐ろしいと思ったのは、警察上層部は悪の所業をしている刑事の存在はすでに把握していて、彼らを故意に泳がす。それにより、更なる自らの出世、ライバルを蹴落とす材料に使う。

 最も大きい巨悪は警察官僚トップにはびこるものなのだ。ため息がでる。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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井上靖  『淀どの日記』

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年末に買った右の本に、江(小督 )をメインにした短編が入っていた。
とろくさく、姉たちに比べてパッとしない少女として描かれていました。
「淀どの日記」のほうでも、姉たちが不安で眠れない夜にぐーすか眠っていたり、
最初の嫁入りではおどけながら駕籠に乗ったり、図太いイメージ。
そういう子が最後に勝つ展開が、後年の人々には面白いわけですな。

この本は、「三姉妹のだれが幸せだったのかはわからない」という締め方。
将軍の妻であり母であった江が、一番の勝ち組と思えるけれども、
秀忠は三人目の旦那で、その前にはいろいろとあったわけだ。
想い人の正室になった設定の初も、wikiによると子どもには恵まれなかった模様。

私が小学生のころ、図書室にあった歴史漫画の女性版と言えば、
淀君・日野富子・北条政子・紫式部あたりだったと思う。
三姉妹のうち、ドラマとして面白いのは淀君ですね。

| 日記 | 00:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宮部みゆき   「ペテロの葬列」(下)(文春文庫)

 今多コンツェルンでグループ社内報を担当している、50歳の女性編集長と主人公で部下の杉村は、元取締役の森の取材で訪れた千葉の自宅から帰る途中、乗ったバスが一人の拳銃を持った老人のバスジャックに遭遇する。

 この老人が不思議。捕らわれた人質に対し、事件解決後、人質それぞれに慰謝料を払うと言う。そしてこの老人、最後は突入した警察から射殺されたのか、自殺したのかよくわからないが、とにかく死んでしまう。

 ところが、事件収束数日後、老人の約束通り、各人質に100万円から300マ円の慰謝料が宅配便で送られてくる。

 誰が、何のために、お金を贈ったのか。贈られた人たちはどんな素性のお金かわからないのに、もらっていいのか、それとも警察に届けるべきか気持ちが揺れる。

 そして人質たちが集まって、とりあえず警察への届け出は保留して、お金の出どころ、送り主を探すことにする。

 そこで、なるほどという事実に到達した。
実は、バスジャックを起こした老人は、かって企業管理者養成研修のトレーナーをしていた。
この研修は一世を風靡していたが、人格をコントロールする強烈、狂暴な研修だったため、自殺者がでたりして、社会的非難が強まり、ブームは去る。

 で、この時のトレーナーはその後どうなったか。実は、その後ブームになったマルチ商法の研修者に流れた。彼らは、マルチ商法の主宰者と組み、得意の舌技でマルチ商法の扇動者となったのである。

 宮部さん調査もしただろうが、この想像が卓越している。見事だと思う。
今もますます、新手の詐欺が蔓延している。訓練された、口八丁の人材がはびこっているのかもしれない。

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| 古本読書日記 | 06:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宮部みゆき    「ペテロの葬列」(上)(文春文庫)

 杉村三郎が主人公で活躍するシリーズの三作目。下巻の書評、感想で全体について記述する。

 今でも存在しているが、80年代風靡した研修に管理者養成地獄の特訓という外部業者による教育研修があった。この研修は当初は管理職から始まったが、そのうちに女子社員、新入社員まで拡大した。研修は殆ど、人里離れた山間地にある研修所で2週間程度で行われた。

 研修はセンシティビティ トレーニングと言われSTと略された。

 この研修を体験したことが無いので、書物からの知識になるが、参加者それぞれに、自分の長所、短所を具体的にレポートして、そしてその報告に従って、いかに現在の自分がだめな人間かを、トレーナーが主導して、参加者全員で攻撃して血祭にあげる。反省、改心を表明しても、それを不十分として、徹底的に参加者を追い込む。そして、参加者の誰もが大声で泣き、謝罪して許しを請うまで続けられる。自殺者や自殺未遂者がでた。

 この作品では、園田という50歳の女性社員が、女性社員研修のため、この研修に参加させられる。

 園田は、トレーナーの絶対権力、教育にことあるごとに反発。それで、監禁専用の部屋にいれられる。部屋は窓には鉄格子、ドアは外から施錠され、空調も照明も外部からコントロールされる。室内には布団一組とむき出しの便器。

 そして24時間、この潜在能力開発がどんなに効果があるかビデオ映像で流す。
耐えられなかった園田は壁に頭をぶつけ、だしてくれと叫びながら、自殺をはかる。

 震えあがるほどの人間否定の研修だ。本当に怖い。

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今邑彩  「『死霊』殺人事件」(中公文庫)

 警視庁捜査一課貴島刑事シリーズ第三作目。

このシリーズでは、密室事件が起きそのトリックを貴島が解き明かす内容になっている。

私は熱心な推理小説読者では無いから、密室事件のトリックはあまり詳しくないが、今思い浮かぶトリックはこのシリーズを含めて以下がある。
犯人が見つからない場所に隠れる。
犯行現場にある、時計を全部時間をずらし、犯行時間を錯覚させる。
殺害したと思った被害者が、犯人が逃げるときはまだ生きていて、犯人が逃げた後、被害者が密室状態を作り、その後亡くなる。
犯行場所から死体を移し、移した場所を密室状態にする。
とんでもないと思ったのは、排気口に酸素吸入器をとりつけ、被害者を酸欠状態にして殺害する。

 この作品では、犯人が階段から落下して死んでしまう。
推理作家はほんとうにあれやこれやと考えるものだと感心する。

 犯人は自ら殺害の手をくだすことなく、周囲の人間に殺害を実行させる。だから綿密な計画をたて、都度進行を確認する。
しかし、そう計画通りいつも物事は進むとは限らない。齟齬やトラブルが発生する。それを、復旧する対応策を練り実行する。

 普通推理小説では、犯人が描いた通り物事は進行し、その欠陥を警察や探偵がみつけだし、真相が暴かれる。
 この物語は、そんな物語と異なり、人間味がある。

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横山秀夫   「64」(下)(文春文庫)

 14年前、雨宮家の一人娘翔子ちゃんが誘拐され、身代金2千万円が犯人から要求される。この事件、犯人の誘導に翻弄され2千万円は獲られ、あげくに翔子ちゃんは死体になって発見され最悪の結果となる。

 大捜査陣を投入したが、7000人もの大量の聞き込みのため、犯人の絞り込みができず、事件発生時には時効があり、その期限まで残り1年を迎えていた。

 この捜査で、警察は大失態を犯していた。被害者宅にいて、犯人からの電話を受け、それを逆探知したり、電話を録音したりすることに、設置した機械が動かず失敗していたのである。こんなことが世間にばれたら、県警に対する非難は燃え上がり、県警はとんでもない状態になる。だからこの失態は歴代の部長に絶対秘密事項として漏らさないことが引き継がれてきた。そして、当時自宅班で機械をセッティングした警官は密かに馘首された。

 この犯人を暴き出した方法が驚愕。

事件当時犯人からの電話を受けた雨宮。警察の失態に愕然としたし、娘翔子ちゃんもうしない、警察は全く頼れないし信用できないと思い、自分で犯人を捜すことを決意。

 事件が起きた当時は、携帯電話は殆ど無く、各家に固定電話が設置されていた。また当時は、電話帳が各家庭に配られ、殆どの家庭が電話番号を電話帳にのせていた。

 雨宮は電話帳の名簿を最初のページから無言電話をかける。事件の日、犯人からかかってきた電話は中年の男の電話だったので、女性や子供がでると、何回も無言電話をかけなおし、該当の男がでるまで続ける。

 しかも犯人の苗字が目崎で50音でも最後のほう。だから14年間、黙々と無言電話をかけ続けたのである。
しかしその犯人にたどりついても、証拠は雨宮の耳だけ。これでは、警察は目崎を犯人として逮捕できない。そこで雨宮はとんでもない行動にでる。

 この物語、警察の中央と地方、地方警察内部の組織対立。マスコミと警察の対立。更に主人公の三上の家でも、一人娘あゆみが失踪して年月が過ぎていることなどが重なりあって、重厚な社会人間ドラマになっていて読み応え十分なのだが、やはり犯人を つきとめる方法の斬新さに感動をせざるを得ない。すごい作品だった。

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横山秀夫    「64」(上)(文春文庫)

 この作品の感想、書評は下巻を読み終わってから記す。

主人公はD県警広報官の三上義信。
各県警にはマスコミが常駐する記者クラブがある。毎日の定例記者会見や事件があったときに緊急の記者会見を開くためのクラブである

 ある主婦がわき見運転をしていて、道路を横断した老人をはねてしまう。老人はケガをおい、病院に搬送。この交通事故の警察からの記者発表。被害者の老人は実名で発表されたが、加害者の婦人は妊娠中ということを理由に実名が発表されなかった。
 これに記者クラブは警察にかみつく。どんなに記者クラブが問い詰めても、妊婦ということを一点張りにして、実名を公表しない。これにより、広報室と記者クラブの関係は最悪になり、記者クラブは県警本部長に抗議文をだすところまで行きつく。

 少し違和感がある。正直地方版に載せるかどうかの記事である。読者の殆どは目を通さないか、読んでも記憶に残らないほどの記事になるだけ。こんな交通事故について、記者クラブと警察がのっぴきならないほどの対立状態になるのだろうか。こんなことに、実名を知ってその後真剣に事故の後追いをするのだろうか。

 他の警察小説でも、大きな都府県の警察本部の幹部は警察庁から派遣されるキャリア幹部がしめているようになっている。国の組織である警察庁が、その権力と統制をコントロールしたいからとこの小説では書かれれている。

 小説の舞台であるD県警本部も本部長以下、刑事部長以外の部長はすべて警察庁からの出向キャリアで占められている。しかし刑事部だけは、D県地方採用のノンキャリアの警官が占めていて、キャリアがついていない。

 各県警では刑事部長だけは警察庁キャリアにはとられないようにする。事件捜査は地方採用の多くの警察官刑事たちによって行われる。地方のことをよく知り、人間関係も築いている地方の人間が捜査に当たらないと事件は解決しない。だから刑事部トップは地方出身の刑事がつかないとならない。そしてノンキャリアの警官は、定年退職の時刑事部長になっていることを目標にして日々の活動をする。

 この物語では、刑事部長を警察庁と県警本部どちらがつくか争いをする物語にもなっている。

 この中央からやってくる県警幹部について、この作品は次のように書く。
「地方警察は在任中の県警幹部に機嫌よくいてもらうことに汲々とする。幹部の部屋は無菌状態に保ち、地方警察の実情も悩みも知らせることなくサロン的な日々を過ごさせ、企業や団体からかき集めた高額の餞別を懐に押し込んで東京に送りかえす。」
 これが実態なんだろう。ため息がでる。

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伊坂幸太郎  「バイバイ、ブラックバード」(双葉文庫)

 伊坂はストーリー作りと、文章、言葉を豊富に持っていて、その使い方が天才的にうまい。

主人公の星野一彦は、大借金をかかえ、監視人怪女繭美に連れられ「あのバス」に乗ってどこかへ(それがどこなのか、作品では明らかにされない)行かねばならない。繭美がすごい。身長195CM,体重200KG。あの悪役プロレスラー、アブドーラー・ブッチャーになぞらえられているが、そのブッチャーでさえ186CM,150 KGである。

 星野はすぐ「あのバス」に乗ってどこかへ行かねばならないが、繭美にお願いし、繭美も「あのバス」の先にいる者に了解をもらい、2週間の猶予をもらう。

 2週間で、星野が付き合っている女性に別れるためだ。その別れの口実に使うのが、繭美と結婚することになったから。
 星野が別れねばならない女性は5人。何と二股どころではなく、五股で女性と付き合っていた。

 怪女繭美の八方破りの行動、喋りが圧巻。すべての人に対しおまえ呼ばわり。下品で無礼、傲岸不遜。いつも辞書を携帯。その辞書には「同情」「愛情」「優しい」「気配り」というような言葉は塗り潰されていて、辞書には載っていないようになっている。
 普通の女性。シングルマザー。キャッツアイ泥棒をしている女性、数学が得意の理系女性、
大物女優が星野の相手女性。

 キャッツアイの如月ユミが、10階だての高級マンションの9階の901号室の女子大生の部屋を盗みの標的にする。

 現在の高級マンションは暗証番号を知らないとマンションに入れないが、どうやって知ったのかわからないがユミが入口で電子版に数字を推して、中にはいってゆく。しかし流石にドアからは入れない。それで、非常階段を使い屋上にでて、ロープで体をぐるぐる巻いて、屋上から吊り下げベランダに降り、窓から侵入しようと試みる。

 そこでの、伊坂の描写が圧巻。
「如月ユミは、屋上からロープを使い降りてきたはいいものの、その長さが足りず、宙ぶらりんになっていた。それを、901号室の女性と僕が、物干し竿やスキー板などを駆使して、どうにかベランダ側に引き寄せ、救出した。」

 物干し竿、スキー板でベランダに引き寄せる。この発想こそ伊坂の真骨頂だ。

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みうらじゅん編   「清張地獄八景」(文春文庫)

 松本清張の講演を含め、小説家はもとより、映画監督、脚本家、俳優、さらには、清張が小倉の朝日新聞で一緒に働いた人を含め、清張を描き、語った作品を収録した、清張満載の本。

 30年前、清張が晩年のころ、集中して清張を読んだ。今我が家には清張の本が183冊ある。これで清張は読みつくしたと思っていたら、この本を読むと、清張の出版本は300冊とのこと。びっくりしたまだ6割程度しか読んでいないのか。清張がすごいのは、本は300冊、短編もあるから作品の数はもちろん300以上あるのだが、それにしてもテレビドラマになったのは315本と、出版本の数より多いこと。こんな作家は前代未聞。こんな作家はこれからもでないだろう。清張の文壇デビューは41歳のとき82歳で他界しているから、ほぼ40年で膨大な作品を残している。寝食を削って、書いて、書いて、書きまくった半生だった。

 NHKの名物プロデューサーだった和田勉が4本の作品のドラマ化を清張に了解してもらうため、清張の家を訪問、小説のタイトルを清張に言うと清張が「それは誰が書いたの?」
と聞き直したというから面白い。

 清張の生家は貧しく、清張は尋常小学校を卒業すると、現在のパナソニックの子会社の小倉出張所に給仕として就職し、社員へのお茶くみや、御用聞きの仕事をした。社員は清張を人間扱いしないし、幹部の人に挨拶しても無視される。
ここから作家になるまでの、社会の底辺の経験が、清張の物語の基盤を作っている。

 清張は講演で、好きな作家を菊池寛と言っている。
菊池寛も家が没落して苦しい少年時代を送っている。京都大学に進むが、マント盗品事件の濡れ衣をきせられ、京大を中退している。

 菊池も清張も、厳しい苦境を経験。そこから人間を描く。講演で清張は、頭だけで物語を創造した芥川龍之介の限界を語る。芥川もう想像のネタが尽き、物語を書けなくなった。生きている人間の中で生きている人間を描く菊池寛を絶賛する。

 社会、人間を描く清張の作品「日本の黒い霧」から「黒い霧」という言葉が生まれる。プロ野球の八百長が大きな話題になったときこの八百長は「黒い霧事件」と言われた。「波の塔」でヒロインが消えた富士山の樹海はそれから自殺の名所となった。

 そして「熱い空気」からは有名なテレビドラマ「家政婦がみた」が生まれた。

今日も、どこかのチャンネルで清張ドラマが放映される。何年過ぎても読み継がれるのが清張である。

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垣谷美雨  「四十歳、未婚出産」(幻冬舎文庫)

 主人公優子、旅行代理店に勤めている。旅行商品開発で、カンボジアに部下の水野28歳と行く。その時泊まったホテルの夜景に魅了されて、水野と愛し合う。

 水野はイケメンで、女性社員の人気がある。青木という26歳の美女社員と交際をしている。優子は40歳目前。
 ホテルで交わした愛の交歓により、子供ができてしまう。優子は、子供を産む最後のチャンスであり、シングルマザーになっても子供を産みたいと願う。しかし、社内の雰囲気はよくない。何よりも、水野が出産を嫌う。それに、田舎の町の古い固定因習や、家族の反対により窮地においやられる。

 物語は優子の窮地を何とか突破してゆく奮闘を描く。
内容は、シングルマザーを決意すれば、こうなるだろうと想像できる内容で、それほど、驚きがある内容にはなっていない。

 しかし、優子が妊娠を同じ東京に住む姉に打ち明ける。その時のお姉さんの物言いが面白い。こういうリアルな会話は垣谷さんの独壇場。

「お腹の父親は誰なの?」
「結婚できないんでしょう。不倫なんでしょう。」
「不倫?いや、そういう感じでもなんだけど。」
「何をのんびりしたこと言ってるのよ。今まで築き上げてきた家庭をこわすことになるのよ。優子、はっきり言うわ。あなたのために言うの。子どもは堕ろしなさい。」
「あのね、姉さん、相手は一応独身なのよ。」
「へ?そうかバツイチなのね。結婚に反対している子供がいる。そうか資産家のジジイか。」
「姉さん相手は独身、離婚歴もないし、子供もいない。」
「へ?なんだ馬鹿馬鹿しい。さっさと結婚すりゃあいいんじゃないの。」
「誰よ相手の人は。
「同じ会社に勤める26歳の部下。」
「何だ、いいじゃない最高だよ」「だってそうでしょう優子はもうすぐ40歳よ。男という動物は若い女が好きなの。だから40歳の女を好きになるのは60歳以上の男なの。それを20歳代の男が好きになってくれる。こんなチャンスは無いよ。もう結婚しなさい。結婚できないとさみしい老後が待っているわよ。」

目の前に見えるような会話。垣谷ワールド炸裂。

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今邑彩     「ルームメイト」(中公文庫)

 解離性同一性障害、多重人格を扱ったミステリー。溢れるほどホラー、ミステリーでは、多重人格を扱った作品が世の中にはあるが、この作品で、多重人格が絡む事件は大きな問題が孕んでいることが認識できた。

 ある人が、多くの人格を持っていた場合、その時々どの人格の人間になっているのかどうやって決めるのだろうか。

 通常は、多くの人格のなかに、リーダーになる人格があり、リーダー人格がどの人格にすべきか決定しているらしい。
 しかし、中にはどの人格が表れるかがコントロールできない多重人格者もいる。

この物語では大学生の主人公春海に、幼いころから尊敬する兄が棲み付いていて、晴海がピンチや危機に陥った時、お兄さん助けてと呼ぶと、晴海はお兄さんになる。

 しかし社会は多重人格者が存在するということが前提の仕組み、制度はできてないから、もし、多重人格者が事件を起こしても、対応できない。

 例えば裁判で、被告が判決を受けているとき、全然異なる人間になっていたら、被告は完全に別人間。全く事件を起こしたという認識も記憶もない。つまり、全然異なる人間に判決を言うことになる。

 もし死刑が宣告され、刑が執行されると、有罪の人間と無実な人間を同時に殺すことになる。

 裁判どころか、警察の取り調べの際、犯罪を起こした人格と別人格の人間が取り調べを受けても、取り調べは全く成立しない。調書をとることが不可能になる。

 多重人格者は精神鑑定で、そのことが認定されると、罪は問われないのではという気がする。

 晴海は、数学が大の苦手。それで大学受験のとき、成績優秀の兄に変わり、数学受験をしてもらう。それで、受かることが不可能な大学に合格する。ずるいことをするなあ。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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阿部智里   「烏は主を選ばない」(文春文庫)

 八咫烏シリーズ、全シリーズで150万部も売上した、大ヒット作のファンタジー小説第
二作目。

 八咫烏というのは、卵から生まれ烏の姿に転身できるが、普段は人間の姿で生活している烏。いつも山内という山神によって開かれた世界に住んでいる。そこの長が金烏である。
山内は東西南北の有力貴族により、4つの領地がおさめられている。

 山内全体を統治する最も高い地位にいるのが金烏代今上陛下。時の陛下には腹違いの息子が2人いる。南家出身の正妻大紫の御前との間に生まれた兄の長束。側室十六夜との間に生まれた若宮。

 実は、今の陛下は金烏代で、本当の金烏ではない。何十年に一回の割合で、本当の金烏が生まれる。本当と本当ではない金烏の違いは物語を読んでもはっきりしない。

 どうも長男長束は、真の金烏ではなく、次男の若宮が真の金烏のようだ。現在の陛下は次男若宮に陛下を継いでほしいと希望している。それで長束は廃嫡を希望している。

 しかし、この廃嫡子若宮はどうしようもないうつけ者で、自分勝手、しきたりは破るし、花街や賭博場にもいりびたっている。そのため、中央朝廷では、陛下の引継ぎ者は長男長束が良いとする者が殆ど。若宮を後継者におす者は殆どおらず、孤独な生活を強いられている。

 この若宮の側仕えとして北家の垂水郷の郷長の次男、雪哉を派遣される。この雪哉がまた若宮に勝るとも劣らないうつけ者。このうつけ者同士で、長束を支援する勢力と戦う姿が描かれる。
 長束を推す最大勢力が南家。更にこの南家に加担するのが皇后の大紫の御前。
この争いの仲での、若宮と雪哉とのうつけ者同士の行動や掛け合いが楽しく、思わず笑ってしまう。

 驚いたのは、若宮と長束は裏で手を結んでいて、協力して南家と戦うところ。
それはないようなあと少し思う。そのため少し物語に緊張感が薄れてしまった。

 第一作目から順番に読まないと、理解が難しいのかも知れない。

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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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今邑彩    「そして誰もいなくなる」(中公文庫)

 アガサクリスティの大名作「そして誰もいなくなった」のオマージュ作品。

 天川学園開校百周年記念式で、天川学園高等部の演劇部がクリスティの「そして誰もいなくなった」の劇を発表することになった。

 そして、「そして誰もいなくなった」のストーリーと全く同じ順序、同じ方法で演ずる生徒が毒殺されたり、撲殺されて死んでゆく事件が発生。

 この事件にベテラン名刑事の皆川と若き刑事加古が迫る。

 しかしいつも冴えわたる皆川の推理が頓珍漢で鋭さが欠ける捜査ぶり。加古はそれが不思議でしょうがない。
 
 ここが何回読み返しても納得いかないのだが、皆川は、仕事の鬼で全く家庭を顧みなかった。5年前アパートをでて念願のマイホームを建て、そこに家族で移った。しかしその時から妻がふさぎこみおかしくなった。妻は鬱病になり、ある朝通勤電車に飛び込み自殺する。これに衝撃を受けた一人娘で高校生の夕美は家から失踪。正直、マイホームを建てた後、妻が精神的病になるのが不思議。

 皆川が娘の行方を追うと、横浜のいかがわしいスナックで夕美が働いているのがわかる。
そのスナックでは当然夕美は男をとらされていた。

 皆川は、暴力団の組員であるスナックのマスターを、港の倉庫におびきだし、殺害。夕美を取り戻す。
 しかし、人殺しを行った倉庫からでてくる皆川を目撃した女の子がいた。
それが、劇中で5番目に殺されるウォーグレイヴ元判事を演じる演劇部部長の江島小雪。
それで皆川は、小雪からお金をだすように脅迫されていた。

 皆川は、小雪が殺害されるように懸命の工作をする。工作は成功したかに見えたが・・・・。
少し現実から遊離してしまった雰囲気。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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今邑彩   「少女Aの殺人」(中公文庫)

 人気ラジオ番組「ミッドナイトジャパン」に私立F女学院高校一年の女生徒Aより投書が届く。内容は「毎晩養父が彼女の部屋に忍び込み、Aを犯す。それに耐えられない。死んでしまいたい。助けて」。普通ラジオ番組でこんな酷く重い内容の投書は読まないものだが、DJの新谷可南はこの投書を読む。

 更に可南はF女学院というのは芙蓉女学院高等部のことではないかと思い、その高校で化学の教師として働いている高校同級生だった脇坂に養父と2人で暮らしている一年の生徒は誰かを調べさせる。その生徒と可南は会って相談にのってやりたいからと。

 脇坂が別の先生の協力を得て調べると該当の生徒は3人。
高杉いずみ、養父は芙蓉学院高等部で物理の教師。松野愛 養父は開業医。諏訪順子、養父はこの物語で起こる事件を捜査する刑事。

 この物語には太字で、少女が養父を殺害する場面がさしはさまれる。そして、それは高杉いずみが養父に対する殺害のように描写される。

 よくミステリーでは、字体を変えたり、太字にして犯人の告白のようにみせる作品がある。
そして、当たり前だが、それはひとつの叙述トリックであり、犯人は別の人間になる。

 この作品も当然犯人は本命と思われる人間と違う人間になる。
その犯人も、読むうちに薄々誰なのかが、わかってくる。
 結果は想定されるのだが、結果にもってゆく構成、文章力が見事で、作品にどんどん引き込まれる。

 今邑マジックに完全にとりこまれ、内容はわかっていても、読後感は爽やか。

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| 古本読書日記 | 06:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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今邑彩   「i(アイ)鏡に消えた殺人者」(中公文庫)

 捜査一課貴島刑事シリーズの第一作目。相棒として組む刑事はこの作品では原田刑事。
本が好きで、たくさん読むのだが、いたって記憶力が悪いため、読むはじからどんどん内容を忘れてしまう。この作品のトリックはなるほどと感心したのだが、昔何かで同じトリックを読んだような気がする。そのことが読んでいる最中、ずっと引っかかっていた。それでもトリックは面白かった。

 この作品の最大のトリックは、殺害者が、被害者と殺害場所に存在していた物品を、全く異なった場所に移動して、殺害場所を再現させるというトリック。しかも、移動後自ら警察に連絡して殺害事件第一発見者として振る舞う。

 当然鑑識が割り出す推定殺害時間には、犯人は移動前で、殺害場所にいる。警察は犯人が作り上げた場所で事件は発生しているとして捜査をする。

 殺害者は、殺害推定時刻に殺害場所に存在していたことを目撃されたり、電話にでたりしても、殺害場所が移動しているから、完全にアリバイが成立して、被疑者からは完全に除外される。

 この作品、主人公の幼少のころ、従姉が、屋敷の庭の池で溺死、母親も同じ池で溺死。それに鏡が小道具として使われ、21年後に様々な殺人事件が起き、この幼少の頃の溺死と重なりあって、見事なホラーミステリーとなっている。

 しかも起こる事件、その動機、トリックに無理がなく。これはあり得ると読み手に思わせる。最近はトリックが枯渇したのか、大がかりなマジックでもあり得ないようなトリックの作品ばかり。
 今邑作品には常に納得感がある。

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西川美和    「永い言い訳」(文春文庫) 

 作者西川が監督して映画化もされている、話題になった作品。

人も一人、一人個性や考え方も違うように、家族もその在り様は、家族により異なる。だから同じ悲劇が起こっても、家族により受ける衝撃、対応の仕方もことなる。

 この作品、作家でテレビコメンテイターもしている主人公衣笠幸夫の妻夏子が大学時代友人ゆきとバス旅行にでかけ、途中バスが道路をはずれ川に転落、ゆきも夏子も死んでしまう。

 幸夫と妻夏子の関係は完全に当時冷え切っていて、幸夫は妻の携帯から「もう愛していない。ひとかけらも。」というメッセージがあることを知り、自分も同じ思いを感じていたとつぶやく。何しろ、夏子が亡くなった日には、愛人を自分の家で抱いていた。

 一方ゆきの家族は、夫陽一はトラックの運転手で、長距離運転もあり、泊りもあるし、帰宅も夜遅いことがしばしば。しかも小学生と保育園児の息子と娘を抱えている。

 幸夫は妻が亡くなっても、全く悲しくないし、涙も一滴もでない。互いに憎しみあっていたのだから。しかし、大きなバス事故にあい、作家で、テレビでも活躍しているとあって、社会やマスコミは愛妻を失った悲劇の作家だと、ステレオタイプの見方でレポートする。

 そしてドキュメンタリーテレビ番組が作られる。そのタイトルが
「祈り:雪柳湖バス転落事故の記憶―作家津村啓(幸夫のペンネーム)・愛する人の死をこえて」。映像での場面、表情も悲しさを誇張するように撮影され、語る言葉も殆ど台本がある。

 一方ゆき、陽一家族は保育園児や小学生を抱え一気においつめられる。息子は塾へ行けなくなってしまうし、娘の送り迎えや、家事ができなくなる。典型的な世の中がステレオタイプで思われる悲劇家族。

 亡くなった夏子とゆきが友達だったことで、幸夫が子どもの世話を申し出る。そして、陽一家族は救われ、どん底への転落は免れる。一応作品では幸夫も家族のすばらしさを知って人生が変わってゆくように描かれていると思われるが、実際はそうでは無い。

 あることがきっかけで、幸夫は支援の手を引くと宣言し実行する。
その途端に陽一家族はまた一気に追い詰められる。そして陽一はトラックで仕事中に山梨で、デリヘル嬢に暴行を働くという事件を起こす。

 著者西川さんは、事の是非を問うのではなく、個人の在り様、家族の在り様の違いを読者の目の前に提供する。
 ただ、人間も家族も自分のことはいつも言い訳だけが発せられ、他人には批判だけがなされる。それで「長い言い訳」ではなく「永い言い訳」というタイトルになっている。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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長岡弘樹     「赤い刻印」(双葉文庫)

 ミステリー短編集。不思議なミステリー集だ。普通は事件が起きて、それを捜索する刑事や探偵などが登場して、真相、犯人をつきとめるというのになるのだが、この短編集は、事件が起きるが、真相は、事件とかかわりなさそうな出来事が起こり、それが最後真相に至るという独特な雰囲気の短編が収録されている。

 本のタイトルにもなっている「赤い刻印」もおもしろいが私には「サンクスレター」が印象に残った。

 手品にフォーシングという古典的な術があるそうだ。私は手品にあまり親しみがあるわけではないので、この作品を読んだだけではわからないが、客が特定のカードを選ぶ。カードを半分にして、どちら側に客が選んだカードが存在するか、手品師は間違いなく当てる。
半分にしたカードを更に半分にして、それもどちら側にあるか当て、最後は2枚になる。そしてそれもピタっとあてる手品である。

 この物語では、葛木という小児科医の小学生の息子が校舎から飛び降りて自殺する。父親である葛木は学校の対応を責めるが、学校は非はないと突っぱねる。

 怒った葛木はスタンガンを持ってクラスの生徒を人質にして教室に立てこもる。しかし、葛木も疲れてくる。クラス全員人質は維持が難しくなる。そこで一人を選び、その生徒を人質にしようとする。ここで担任が、生徒のネームカードを使い、フォージングをする。

 そして病弱な芳也が人質となる。

 物語の冒頭で、葛木の息子が亡くなり、葬式が行われる。息子の体重は35KG。火葬場で遺体を焼く前に、遺体の入った棺桶の重さをはかり、棺桶の重さを引くと、35KG。

 棺桶には遺品や花が詰められているのに35KGでは、詰められた物の重さはどこへ消えてしまったのか。

 そんな問いかけがあり、その瞬間葛木医師は、人質を解放して投降する。
実は息子の遺体から、臓器を取り出して、人質の芳也に移植がなされていて、それにより芳也は死から免れていた。芳也の体には息子がいると悟った葛木は息子は殺せないと投降したのだ。
 上手いなあ長岡の物語つくりは。

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| 古本読書日記 | 07:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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今邑彩   「『裏窓』殺人事件」(中公文庫)

 警視庁捜査一課貴島刑事シリーズ第2弾。

この物語でうーんとうならせるのは、犯人の殺人動機。
物語では、ある女性に愛する息子が殺される。その女性を息子の母が殺害する。
愛してやまない愛息子が殺される。当然殺害者が心底憎い。だから復讐しようと思う。しかし、息子のことを調べてみると、息子は本当にその女性を心から愛していたことがわかる。どんなに嫌われていても。するとだんだん女性に復讐しようと気持ちが消え失せてくる。

 しかし心から切ないのは、息子は天国にいる。女性はこの世で生きている。このままでは、2人は添い遂げることができない。それで息子の母はその女性を殺害して2人を添い遂げさせようとする。すごい殺害動機。でもありえるんじゃないかと思わせる。

 この殺害には、目撃者の足の不自由な女の子が登場する。しかし、この目撃がおかしいことがわかる。それは犯人が目撃した女の子の部屋にある時計を一時間遅らせる。そして犯行時間のつじつまが合わなくなる。よく使われる錯覚を呼び起こすトリックである。

 また、このシリーズではいつも変わった刑事が主人公貴島の相棒となる。この作品では、警官をやめたがっている西山だ。

 貴島に自分は本当に刑事が性に合わない。暴力は嫌いだし、血を見ると気分が悪くなるし、全く刑事の落ちこぼれ、つくづく情けなくなる。と訴える。

 貴島は思う。
気が付くと10年、20年がたっている。たいした手柄もたてず、ある日、背中を丸めてよたよた歩いていると、ご苦労さんと自分より若い上役に肩をたたかれている。

 これは身につまされる。本当に現実はその通り。肩ががっくりと思わず落ちる。

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今邑彩    「繭の密室」(中公文庫)

 警視庁捜査一課・貴島刑事シリーズ第4弾。このシリーズでは密室殺人事件が取り扱われている。

 マンションの七階701号室の住人大学3年生の前島が、悲鳴をあげてベランダから飛び降りる。捜査一課刑事が部屋にはいり、調べると、首に絞めた痕があい、血のついた髪の毛が付着している金属バッドがあり、明らかに前島は部屋の中で襲われたことは明らか。

 しかも部屋には鍵がかかっており、さらにドアチェーンもかけてあった。鍵は外側から解除できるが、チェーンはペンチで切断しないと中に入ることはできない。事件は完全密室でおきている。

 不思議である。犯人は前島を殺害して、どうやって、部屋の外へ逃げたのか。なぜ犯人は部屋の中にいないのだろう。

 この作品でなるほどと思った。
金属バッドで殴られて、被害者は瞬間意識を失う。だから犯人は被害者は死んだと認識する。

だけど脳挫傷では、即死というケースはまれなのだそうだ。死ぬまで数時間は生存しているのだ。そこで被害者は、再度襲われることを恐れて、ドアの鍵をしめドアチェーンをかけたのである。うまいトリックを使うものだ。

 もちろん前島が殴られた後、どうしてベランダから飛び降りたのか、謎は残るが。
それは是非この作品を手にとって確かめて。

今邑さんの作品は、すっきりしている。すっきりしているというのは、事件の真相に関係ない出来事は殆ど登場しない。更に、凝ったまぎらわしい、あるいは感情が大げさに強調された表現もない。

 最近はこてこてしたミステリーが多いので、少し淡泊な感じがしないでもないが、わかりやすく見事と評価をするい。

 このシリーズでは、貴島とコンビになるすこし頭の固い刑事がいれかわり登場する。

この作品では倉田刑事。彼がすばらしい名言をいう。
「結婚なんてものは、しょせん、飽きるか慣れるかの選択にすぎない。美男に飽きるか、醜男に慣れるかだ。」
 うーん、全くその通りだ。

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今邑彩   「つきまとわれて」(中公文庫)

 ミステリー短編集。タイトルにもなっている「つきまとわれて」が面白い。

 3姉妹のうち、美人で頭もよい長姉が、次女、末っ子の私に遅れて、結婚できずに会社で働いている。こんな魅力的な姉だから、恋愛もしてきたし、結婚直前までいったこともある。

 思い出すのは、学校教師の庄司とは結婚するのではというところまで行ったこと。しかし、歯科医との見合い話に心が動いて、庄司との結婚を断る。

 これに怒った庄司は姉に塩酸をかけてやけどを負わせる。ただ、うまく姉はよけて、首まわりにわずかに火傷の後が残っただけであった。

 最近姉に見合い話が持ち込まれる。相手は弁護士の金森。再婚なのだが、姉も36歳。悪い話ではなく、姉も乗り気だったが、姉が突然この結婚をやめたいと言い出す。

 末っ子が姉のところに行き事情を聞くと、「お前が結婚すると、結婚相手に塩酸をかけに火傷を負わせる」という脅迫状を見せられる。しかも5,6年前から無言電話や脅迫状がくるようになっている。

 怒った主人公の妹は庄司のところへ行き、文句を言う。すると庄司は「自分のところにも同じ脅迫状がきている」と実物を見せる。
 驚く。脅迫状をだしていたのは庄司ではなく姉だった。
姉は自分が純粋に愛していたのは庄司だった。姉は庄司と結婚したかったのだ。

 そうなのだよな。多くの人たちが打算や諦めで結婚する。やっぱり本当に好きな人と結婚したいよね。

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| 古本読書日記 | 06:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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今邑彩  「七人の中にいる」(中公文庫)

主人公晶子は軽井沢でペンション「春風」を経営している。明後日に常連客が集まって、晶子と中条郁夫との結婚披露パーティを開いてあげることになっている。その矢先に21年前のクリスマスイヴの日、葛西産婦人科医一家殺害をした実行犯に対して復讐するという脅迫状が舞い込む。

 実は、21年前高校生だった昌子は同級生洋一の子供を身ごもっていた。困って不良の同級生肇に相談すると、葛西産婦人科に押し入り金を盗み、出産費用にしようと言う。そして

当日葛西家に忍び込み、お金を奪う。葛西医師は押し入った3人のことは他言しないことを約束するが、信用できないとして、肇は葛西家族、お手伝いさんを皆殺しにする。その際当時5歳だった孫の一行だけは、2階の部屋にいて殺害を免れる。

 この一行が、復讐の脅迫手紙を昌子の元に送ってきたのである。

昌子は高校を卒業し洋一と結婚して、強奪したお金で軽井沢で売りに出ていた別荘を購入してペンションに改造して経営を始めた。

  殺害で主犯だった肇は、復讐者により昨年ある倉庫内で殺され、夫洋一も殺され、残りは晶子だけになっていた。晶子は洋一の死後、ペンションの客だった中条郁夫と再婚した。
 ペンションに集まった以下の七人の中に、復讐者一行が関係者の中に潜んでいて晶子殺害を企んでいる。

 会社経営者三枝夫妻、会社員影山夫妻、作家見城、プログラマー北町、元刑事佐竹。
昌子は元刑事佐竹に脅迫状の送り主は誰かを突き止めるように依頼する。

 佐竹が調査すると、三枝夫妻は旅行者台帳の住所に住んでいなかったり、影山夫妻は不倫中で、夫妻にはなっていなかったり、ペンションの飼い犬が毒殺されたり、昌子が睡眠薬で眠らされたり、奇妙なことがおこったり、わかったりする。この過程の描写はホラーがかり手際はすばらしい。

 今邑さんの作品は最後いつもとんでもない人が犯人にはならないので、この7人には犯人はいないだろう、多分この人が犯人だろうと想像して読み進む。そして殆ど想像通りの結末になった。 ただ7人の中に共犯者がいたが。

文章が読みやすく、今邑作品は極上のエンターテイメント作品ばかりである。

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| 古本読書日記 | 06:15 | comments:2 | trackbacks(-) | TOP↑

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相場英雄   「クランクイン」(双葉文庫)

 準大手広告代理店「京楽エージェンシー」の営業をしている主人公の根本が突然大ベストセラー小説「永遠の大地」の映画化のプロデューサーを担当になることを指示される。

 悪戦苦闘しながらこの作品の映画作成に奮闘する根本の姿を描く作品。
映画はかっては、映画会社が企画制作するのが普通。現在は映画会社が映画の製作をすることは殆ど無い。

 この作品のように広告代理店や出版社などが企画して、必要資金を募り、その資金により映画は作成される。だから、最近の映画は「~作成委員会」などと結成された製作団体により作られる。映画会社は出来上がった映画を映画館に配給するのが主たる仕事になる。

 映画はバクチのような性格になり、各投資した会社に、収益があがると、投資比率により分配される。

 この物語には少し違和感を感じる。映画業界にコネクションや知識もない素人がプロデューサーをするとは殆ど不可能。い。

 以前映画会社が映画を製作していた時は、監督により、脚本やカメラを初め映画を作るスタッフが黒澤組とか小津組とかで固定していたのだが、今はプロデューサーは、映画作成資金集めをして、脚本家も監督、カメラマンも交渉により決めねばならない。さらに、主たる俳優も所属事務所と交渉して決めねばならない。原作者との作品の映画化契約もする。
 とても、いきなり素人ができる仕事ではない。

 だから、この作品でも、主人公根本が全くプロデューサーの役割は果たしておらず、周りの関係者が交渉ごとをしたり、難題を克服することに奮闘する。

 何でこんなありえない設定の物語にしたのか。不思議だと思っていたら、最後にその真相が語れる。しかし、やはり納得感がない。

 それから、以前は映画は高価な35ミリフィルムを使用して撮影されていた。だからダメだし、取り直しが難しい。今はデジタルカメラでの撮影で、安価で取り直しができる。だから現場では、取り直しが多くて緊張感のない現場になる。

 フィルム撮影では現像にも一日かかる。しかしデジカメでは即時に映像ができ、しかも多くの関係者に同時映像が共有できる。

 こうなると監督だけでなく、撮影現場にいる、原作者、出演者の事務所関係者などが、すぐクレームをだし収拾が難しくなる。以前より撮影現場が混乱する場面がこの作品で描写される。なるほどなあと改めて認識した。

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| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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白石一文 『ここは私たちのいない場所』

「で?」
という感じでした。読後感。
同じ著者の、別の本を読んだ時も「ここで終わるの?」と思ったらしい。

松本清張の、欲望に忠実な女や、女のせいで転がり落ちる男の話を
立て続けに読んだ後で、
「子供がいないから、親の金があって生活に困らないから、
 思いっきりハンドル切ってアクセル踏んじゃう。
 次はどんな景色かな」
という小説。

IMG_0134.jpg

爺やの感想はこちら
何となく深そうなことが書いてあって、読みやすい文章。
各章も、「読者にお任せします」と言わんばかりの切り方。

例えば、
「女っていつも仲間割ればかりしているでしょ?
 小さなことに対する執着が強すぎるのよ。
 近くのものが見えすぎて、遠くを見る習慣がついていないのかも」
「女が仲間割れするのは、男に比べて若い時期に時間がなさすぎるのと、
 容姿という産まれながらの絶対的格差があるからじゃないかな。
 でも、女たちが団結しなきゃ、男社会は変えられないと思うね」
「その団結って発想が、女たちには馴染まない気がするんだよねぇ
 どうしてだろうねぇ」
ここでおしまい。

あとがきによると、パートナーを亡くした女性のために書いたとのこと。
それなら、分かりやすい結論や説教はアレですよね。
いろんな考え方を提示し、どれかが読み手の心に響けばいいという。

20210410.jpg

何冊か読んだことがありますが、私は単純な頭の人間なので、
分娩中に旦那が地震で死ぬとか、親に捨てられたけど帰ってきちゃったとか、
妊娠中なのにシャブをつかったプレイ(ぎりぎりでやめる)とか、
嫁の胸を寝床でよく揉むから乳がんに気付いたとか、
「マジで?」と思わされたエピソードしか頭に残っていません。

20210411.jpg
これも、けっこうドラマチックな終わり方をする。

こういう、懐に余裕のある人がおいしいもの食べてあーだこーだ考える話は、
たぶん忘れてしまうんだろうなぁ。

| 日記 | 00:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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松本清張 『強き蟻』

爺やは失敗作と表現していますが、楽しく読めました。

主人公の女が欲望に忠実で、行き当たりばったりで、
「パパ、○○をどうにかしてよ」
「私をこんな体にしたのはあんたなんだから、責任取ってよ」
と男を動かそうとします。
旦那が寝ている間に間男を忍び込ませ、目撃したショックの心筋梗塞で逝かせる、
というのも、欲望のままに突っ走った結果。

IMG_0133.jpg

病死にみせかけたはずが、旦那が一枚上手で遺言書を書き直してあった。
遺産を担保に借金もしていたから、主人公は発狂寸前。
……そこで終わらず、退場したはずの前の男が出てきて、刃物を振り回す。
共犯者は殺され、女主人公も大けがし、旦那にショックを与えたからくりも暴露。
そうですね、うん。
借金抱えてみじめに生きていくより、病院・刑務所に入った方がいい('ω')ノ

| 日記 | 00:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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小川糸   「にじいろガーデン」(集英社文庫)

 最初からうまく入れない。うーんとうなって首をかしげてしまってばっかり。

主人公の高橋泉は35歳。もうすぐ離婚が成立して、バツイチになる。その泉が自殺をしようとしている高校生の千代子を助ける。千代子は医者の娘なのだが、レスビアン。それが両親に理解してもらえず、死のうとずっと思っている。出会った二人は愛し合い、レスビアン同士で田舎の村に駆け落ちする。

 その村で借りた廃校になった小学校を改造してゲストハウスにする。
わからないのは、泉には草介という小学生の子供がいること。そしてもっとびっくりしたのは、実は駆け落ち相手の千代子のお腹の中に子供がいたこと。

 このことは2人とも、男性との性体験があることを示しており、どうももやもやするのだが、これで2人はレスビアンで恋人同士と言えるのだろうか。

 物語では、いろんな葛藤、事件が起きるのだが、それらは必ずしもレスビアンだからおこることばかりではなく、普通の家族でも起きることばかり。レスビアンの苦悩小説というより家族、家庭小説の色合いが濃い。

それにしても、この作品は登場人物がのべつまくなし泣く。泣くというのは、読者をゆさぶるのに手っ取り早い方法だ。泣かしたくても、何とか我慢させ、その我慢がどんな気持ちでしているのか、小説家が持つ多彩な表現で描写してほしい。

 正直泣くばかりの小説は、あまり好きではない。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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相場英雄   「偽金」(実業之日本社文庫)

 タックスヘヴンに違法なお金を移すというのが、簡単に小説では書かれるが、どうやって移すのかが描かれない。銀行から送金すれば、必ず足がつく。そうなると真山仁の作品にあったが、現金を漁師の舟に積み、韓国まで持ち出し、それを韓国の銀行から送金する。しかしこんなことはいつもやれない。ずっともやもやしていた。

 最近は、現金の発行額が毎年減っている。電子マネーや仮想通貨決済、現金を使わない決済が増加しているからである。
 そういえば、家の近くの小規模スーパーやコンビニでも、現金支払いをする人が少なくなった。

以前は、購入の際のポイントは店とか会社単位だったが、最近は、いろんな業種サービスで同じポイントがたまり、例えば航空会社のマイレージも航空代金だけでなく、何か物品を購入しても付与される。そして、お金を支払うことなく、マイレージで旅行が楽しめる。

 この作品で、まだ不明な点もあるが、海外に不正な金を持ち出す方法の一端が垣間見えた。

送金するお金を管理サイトで仮想通貨に変換するのである。そして、そのお金を仮想通貨会社が発行するカードに記録して、現金でなくカードで海外に持ち出す。仮想通貨を海外に持ち出すことを禁止する法律はまだ無い(今はどうかわからないが、この作品が書かれた2008年現在)。これを海外の仮想通貨管理会社で現金化して、銀行に預ける。もちろん日本の管理会社で、仮想通貨で海外の管理会社に送金して、銀行に預けることもできる。

 これだと、銀行を通さないので、お金の流れが途切れてしまう。
資金洗浄は仮想通貨を間に挟んで行うのか。

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