乃南アサ 「自白」(文春文庫)
変わった特徴のある作品集である。
特色は2つあって、作品の舞台が現在ではなく1970-80年代になっている。よど号ハイジャック事件や、尾崎紀世彦が「また逢う日まで」でデビューしたりしている。どことなくなつかしさを感じる。
それから全部ではないけど、物語の中心に主人公土門刑事の取り調べが置かれているところ。トリックの解明や、捜査過程の描写がないところ。
東京の田舎、檜原村のアメリカ淵で女性の全裸死体が発見される。この女性がつけていた高級ブランドネックレスにより身元が判明。バス会社車掌の永田冨佐子。冨佐子の周辺を洗ってゆくと、冨佐子と不倫をしている運転手の荒木が浮かびあがる。
それで捜査本部は荒木に任意同行を求め、警察署に連行。荒木の取り調べをするのが、主人公の土門刑事。
荒木は不倫も認めないし、もちろん犯行を認めない。しかし時々刻々、捜査陣から情報がはいってきてそれを丹念に土門は荒木に示し、段々追い込んでゆく。そして、犯行当時荒木が使ったレンタカーから冨佐子の血痕が発見され荒木もギブアップ。そこから荒木の殺人の過程と背景の自白がなされる。
土門は取り調べの最後に荒木に言う。
「世間は冷たいからなあ。何てったって、人殺しの家族って言われちまうんだから。自分たちは何もしていないのに。まあ、これからもさ、何か困ったことがあったら、俺に連絡を寄こすんだな。できることがあったら、何でもやってあげるから。」
当時の取り調べは机をぶったたいたり、大声をあげ脅迫して自白させるのが普通の光景。
裁判になったとき、荒木の弁護士が、無理やり自白に追い込んだと主張する。
土門はそれに対し、荒木からの手紙を裁判に提出する。
土門刑事にはお世話になったこと。「困ったことがあったら何でも相談しろ」と言ってくれたことが本当にうれしく、心強くなったと書いてある。
無理やり自白させられたら、こんな手紙を犯人が書くわけない。
面白い。ミステリーでの取り調べ場面が脇役から主役になった場面だ。
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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑