fc2ブログ

2020年12月 | ARCHIVE-SELECT | 2021年02月

| PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

乃南アサ     「自白」(文春文庫)

 4編の中編作品を収録している。
変わった特徴のある作品集である。

特色は2つあって、作品の舞台が現在ではなく1970-80年代になっている。よど号ハイジャック事件や、尾崎紀世彦が「また逢う日まで」でデビューしたりしている。どことなくなつかしさを感じる。

 それから全部ではないけど、物語の中心に主人公土門刑事の取り調べが置かれているところ。トリックの解明や、捜査過程の描写がないところ。

 東京の田舎、檜原村のアメリカ淵で女性の全裸死体が発見される。この女性がつけていた高級ブランドネックレスにより身元が判明。バス会社車掌の永田冨佐子。冨佐子の周辺を洗ってゆくと、冨佐子と不倫をしている運転手の荒木が浮かびあがる。

 それで捜査本部は荒木に任意同行を求め、警察署に連行。荒木の取り調べをするのが、主人公の土門刑事。

 荒木は不倫も認めないし、もちろん犯行を認めない。しかし時々刻々、捜査陣から情報がはいってきてそれを丹念に土門は荒木に示し、段々追い込んでゆく。そして、犯行当時荒木が使ったレンタカーから冨佐子の血痕が発見され荒木もギブアップ。そこから荒木の殺人の過程と背景の自白がなされる。

 土門は取り調べの最後に荒木に言う。
「世間は冷たいからなあ。何てったって、人殺しの家族って言われちまうんだから。自分たちは何もしていないのに。まあ、これからもさ、何か困ったことがあったら、俺に連絡を寄こすんだな。できることがあったら、何でもやってあげるから。」

 当時の取り調べは机をぶったたいたり、大声をあげ脅迫して自白させるのが普通の光景。
裁判になったとき、荒木の弁護士が、無理やり自白に追い込んだと主張する。

 土門はそれに対し、荒木からの手紙を裁判に提出する。
土門刑事にはお世話になったこと。「困ったことがあったら何でも相談しろ」と言ってくれたことが本当にうれしく、心強くなったと書いてある。

 無理やり自白させられたら、こんな手紙を犯人が書くわけない。
面白い。ミステリーでの取り調べ場面が脇役から主役になった場面だ。 

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

小林美佳   「性犯罪被害にあうということ」(朝日文庫)

 著者小林さんは、24歳の時のある日、午後9時帰宅途中に道を尋ねてきた車に連れ込まれ、2人の男によりレイプされる。そのことを、実名と写真いりで社会に公表する。本当に勇気ある行為だ。

 この作品を読んで、わざわざ傷物になってしまったことを世間にしゃべる必要は無いと強い叱責を浴びせる両親に切なさを感じるとともに、レイプ被害者の社会や他人が理解することの困難さを心底思ってしまう。

 レイプ共通被害者として知り合った、リョウちゃんが当時裁判中だった。明らかに犯罪なのに、加害者は一審で無罪判決を受ける。

 二審で裁判長が被害者に言う。
「どうしてそんなに平気でいられるのですか。嘘をついているからでは?普通の女の人は加害者とされている人を告訴してこんなところに立つことは耐えられないでしょう」
 絶望的な裁判長の態度だ。

こんな雰囲気が世の中にあるため、レイプは犯罪として成立することが難しくかなりの多くの被害者が泣き寝入りするし、警察も告訴されても、真剣に捜査を取り組むことを躊躇する。事実小林さんのケースも犯人は不詳のまま、検察より事件は不起訴と報告がくる。

 強姦は本当に卑劣な最悪の犯罪だと思う。加害者は厳しく断罪されねばならないし、被害者を社会が一体となって支援してあげねばならないと思う。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:01 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

町山智浩    「底抜け合衆国」(ちくま文庫)

 映画評論家の町山が2000年から」2004年まで滞在したアメリカについて描写したエッセイ。今はアメリカ、バイデンが大統領をしているが、当時はブッシュ大統領の時代。

町山はリベラル派。当時ブッシュを揶揄していた映画監督マイケル・ムーアに共鳴して、この作品でもマイケル・ムーアを多く取り上げている。

 平成21年に、日本もアメリカに習い裁判員制度を導入した。この制度は、刑事裁判にのみ適用され一般人から選ばれた人が、裁判に参加して、被告の有罪、無罪、刑罰を裁判官の意見を参考に決定する仕組みだ。つまり、裁判官の意見、判断基準は参考にするが、最終裁判の決定は裁判員なる一般の人が決定するのだ。

 アメリカでは裁判員のことを陪審員と呼ぶ。この制度の弱点をさらした「フリードマン家の裁判」という事件がある。

 感謝祭の日にフリードマン家に小包が届く。中身はゲイポルノ雑誌、裸の少年が満載の雑誌。小包は警察に押収され18歳の息子アーノルドは逮捕される。

 フリードマンは自宅の地下でパソコン教室を開いていた。そこの生徒の両親が息子がフリードマンにレイプされたと警察に訴えた。すると次々、別の少年たちの親が自分の息子もレイプされたと訴える。

 警察は捜査をしたが何も証拠はみつからない。しかし世論に押され、フリードマンと息子アーノルドを起訴し、裁判にかける。陪審員は裁判が行われる地域から選ばれる。

 フリードマンは全く身に覚えはないのだが、地域の雰囲気から、有罪は免れないと観念し、
罪を受け入れ息子とともに刑務所に18年入れられる。

 裁判の判決は陪審員、裁判員により決められるのである。どうしても、人々の感情や世論が証拠より優先されることがこの制度では起きることを著者町山は訴える。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

乃南アサ   「こなけりゃいいのに」(祥伝社文庫)

 7編のサイコ・サスペンスを収録した作品集。
平成9年に出版した本のため、少し今では時代遅れなのだが、最後の作品「春愁」が印象に残った。

 主人公の徳田多恵子は40歳の独身。営業部門補佐として20年間。少し前まではお局さまと言われていたが、それでも事務処理はベテランで営業部員には信頼され、営業部門の重要な要としての役割を果たしていた。

 しかし最近はOA機器が事務処理を担う。多恵子も頑張ってOA習得に挑戦したが、他の若い女性社員の能力にはついてゆけなかった。それでだんだん事務所の中でも、片隅においやられる存在になっていった。

 自信喪失状態のとき、部長に呼ばれ、勤続20年になると会社から記念品を贈るが、女性でその対象になるのは多恵子が初めて。何が欲しいか考えておいてくれと頼まれ。
更に今まで勤務大変お疲れ様。これからも女性社員の教育係として会社に貢献してほしいと言われる。

 これで多恵子はよみがえる。私用電話、昼休憩のルーズさ、紙の無駄使い、電気の無駄使い、細かいことを後輩女性社員たちに厳しく注意をしだす。また昔のように女性社員に煙たがられるようになる。

 そんな時、三崎という新入社員が配属される。多恵子は張り切って三崎をねちねち教育しだす。この三崎、へこたれると思うが、頭と行動が早く、常に多恵子の文句の先回りをして文句を言えないようにする。また明るく気配りに優れているので営業部の社員から頼られるようになる。

 そんな時係長に三崎が、「営業新規開拓に新しい考えがある。」と言う。係長は「それはすごい。三崎さんだけでなく、みんなに新しい企画を提案してもらおう。」とみんなに指示をする。

 多恵子は、事務の無理無駄を省くことのアイデアはでてくるが、営業変革なんて言われても、何も浮かんでこない。そんな自分を知って、ガックリする。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

白石一文    「一億円のさようなら」(徳間文庫)

 従弟が社長をしている化学品メーカー加能産業に勤務している主人公の加能鉄平の妻夏代にアメリカに住んでいた叔母が20年前に亡くなり36億円の遺産が相続された。

 鉄平が夏代と結婚しようと決めたとき、その直前まで夏代は看護師として勤めていて、夏代は嶺央大学病院の木内医師の愛人だった。また鉄平は加能産業の製品を納入する関係から木内医師との面識があった。

 木内は研究者としても一流だったが、学内での政治力が圧倒的に強く権力者だった。夏代は木内の傲慢な態度に嫌気もさしていて、木内の妻が妊娠したことを知り、木内と別離することを決意。そして、納入業者であった鉄平と結婚することになる。

 木内はその直後アメリカに留学。そのまま北米にとどまり、トロントにトロント・バイオテクニカルという会社を起業、夏代が莫大な資産を相続していることを知り、夏代に開業資金を提供するよう脅す。

 夏代は36億円は無いものとして扱い、何も手をつけないでいた。しかし、木内の脅しに負けて、2億円を投資する。木内の起業した会社は成功して、夏代の2億円は12億円に膨らむ。合計48億円が夏代の資産はなった。

 このことを鉄平が知る。そんな大金を夏代が持っていることを全く鉄平は知らなかった。
これに鉄平は夏代に大きな不信を持つ。夏代がこの金は無いものとして生活してきたと言っても鉄平は納得できない。
 長男は医大を目指していたが、加能家の経済力で医大を断念した。鉄平の母が突然倒れ入院。個室に入りたかったが、差額ベッド代が3万2千円もして、個室入院を断念。そして数日後に母は他界した。

 もし夏代に大きなお金があることを知っていたら、長男も医大にゆけたし、母も最期は個室で入院生活ができたことを思うと鉄平は夏代の秘密は我慢できなかった。

 夫婦の不信感が頂点に達したとき、夏代は自分と、鉄平にそれぞれが1億円を持ち、別々に暮らすことを提案する。

 鉄平は加能産業を退職し、1億円を持って見知らぬ都市金沢にゆき、夏代と離婚を決意、金沢でテイクアウト専門の「はちまき寿司」を開業する。

 48億円が存在することがわかり、夏代との関係がひびわれてゆく過程や、子供たちが夫婦から離れてゆく過程は、結構緊張感があり、面白かった。

 しかし後半金沢での「はちまき寿司」を設立。それが順調にゆくところは、前半の緊張感溢れる内容と段差がありすぎて、全く面白味がなくなった。
 600ページ以上もある大長編。後半に工夫が欲しかった。残念な作品だった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:34 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

朝日新聞社編   「司馬遼太郎の遺産『街道をゆく』」(朝日文庫)

 26年にもわたり「週刊朝日」に載った名作エッセイ「街道をゆく」に関わった人たちを中心に生前司馬と交友のあった人たちが綴った司馬回想記。

 司馬は大阪市内で生まれ育った。生涯関西からでることは無く、終の棲家は大阪守口だった。

 産経新聞の編集委員田中準造が司馬と食事をする。その時の司馬は「竜馬がゆく」「燃えよ剣」がベストセラーになり大作家となっていた。
 作家というのは、著名になるためには、東京に居を移し、晩年は鎌倉で過ごすというのが一般的だった。

 それで田中が聞く。「東京には移られないんですか。」すると司馬がいう。
「僕はうどんが食べたいんだ。ここのうどんが。」
私も司馬作品に魅了された一人だ。司馬の作品がなぜ素晴らしいかということを評論家鶴見俊輔が的確に言っている。

 「世界はどういうものかについての理論を彼はもとうとしない。1923年の日本に生まれ、1930年代に育った人としてはめずらしく、彼は、全体の理論にとらえられたことが一度もない。」

 同じことを産経新聞で司馬の部下として歩んだ三浦浩が言う。
「司馬さんは、終始、イデオロギーに囚われず、自身の眼と感性と、筆で、日本をアジアを、そして世界を見、記してこられた。そのバランス感覚は、みごと、という他はない。」

 司馬は産経新聞を愛していた。その司馬がイデオロギーとしては産経の対極をゆく朝日の週刊誌「週刊朝日」に文章を書く。こんなことは、今においても、あり得ない。

 司馬はイデオロギーを完全に超越した存在だった。そこが、司馬遼太郎が愛される基盤だ。

三浦がさらに書く。
「朝日の刊行物に4半世紀にもわたって、司馬の作品が載っていたことは、朝日新聞のためにも、日本のジャーナリズムのためにも、そして日本にとっても、たいへんなプラスだった。」

 司馬遼太郎は本当に偉大だった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

真梨幸子    「向こう側のヨーコ」(光文社文庫)

 この物語は、恋愛作家として成功している作家陽子と夢にでてくる本来自分がたどっただろう人生を送っている別の陽子、二人の陽子の人生を別々に描く。2つの陽子の物語がだんだん一つに収斂され、その中で殺人事件が起こるというホラー兼推理小説である。

 小説家の陽子は永福陽子。一方夢にでる陽子は大森陽子。大森陽子は主婦で夫は大森健一。広告代理店に勤めている。2人には大森翔という息子がいる。

 物語の鍵となるのは、2つのそれぞれの物語に登場するケンと称される3人の男。小説家永福陽子の愛人のケン。それに、主婦大森陽子の夫大森健一。それと大森陽子を手籠めにして詐欺事件に取り込むサロンのホスト役の美男の金城賢作。

 この物語で、鍵になるのが、金城賢作が主婦大森陽子を人気ブロガーとして作り上げてゆくところ。よく知らなかったがブロガーには年収億円を稼ぎ出す人もいるそうだ。アクセスが多いブロガーのブログにはたくさんのアフィリエイト広告が設置されていて、それがクリックされたり、広告商品が販売されれば、ブロガーに一定のお金が入る仕組みだ。

 そのためには、ブロガーは毎日何回もブログを更新しなければならない。策動者の金城は、主婦である大森陽子のブログにセレブであるような装飾品、豪華住居の写真、陽子とエリザベス女王のツーショットの合成写真を貼り付けたりする。また、故意に炎上するような内容をブログに載せたりする。

 子供が、パソコンやスマホ、ゲームにはまり社会問題となっているが、お母さんがパソコン、ブログにはまり、息子の翔が夜中に家をでても、お母さんは子供どころではない、パソコンにはりつき離れない場面にはぞっとした。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

白洲正子    「縁あって」(PHP文芸文庫)

 優れた審美眼をもつ著者が、能面や茶わんなど骨董や工芸品分野で、縁あって出会った著名な人々との交流を描いた随筆集。

 作家水上勉の「土を喰ふ日々」についてのエッセイが印象に残る。
「土を食ふ日々」にはこんな一節がある。

  「何もない台所から絞り出すことが精進だといったが、これは、つまり、いまのように、店頭にゆけば、何もかもが揃う時代と違って、畑と相談してからきめられるものだった。ぼくが、精進料理とは、土を喰うものだと思ったのは、そのせいである。旬を喰うこととはつまり土を喰うことだろう。」

 白洲はこの文章で戦時中の食事のことを思い出す。戦争中手に入れた野菜は、今の店頭にあるようにきれいに洗ってはいない。全部に土がついていたし、土の香りがいっぱいだった。

 今の人はそんなことは知らないのは当たり前だが、白洲も土の香りを忘れていたが、この水上の文章で思い出した。
 少ない材料のなかで、うまいものを生み出す工夫を、12か月にわたって行う。
 
 精進とは料理のことを言うのでなく、工夫すること自体を言うのである。

 ところでこの本の他のところで、白洲は「手造り」という言葉はもともといい言葉なのだが、安直に使いすぎて言葉が汚れて嫌いだと書いている。

 「手造りの味」「手造りの音楽」。使う状況にもよるが、そうだなと白洲に同感する。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

浅田次郎     「おもかげ」(講談社文庫)

 物語の主人公竹脇、著者の浅田次郎、それから恥ずかしいが私、3人とも1951年生まれ。
生まれ育った場所は異なるが、同じ時空を過ごしてきた、浅田の人生観は現代の人からみると古臭く時代遅れと思われるが、同じ時代に生きた私からは、共鳴でき、常に彼の紡ぎ出す作品には感動を覚える。

 主人公の竹脇は、赤子の時捨てられ、児童養護施設である孤児院に預けられる。だから父母はもちろんいないし、生年月日も孤児院で決められ、名前も孤児院で命名される。

 竹脇は施設ではトオルという不良少年に感化され、小さな犯罪を繰り返し、感化院にはいるが立ち直って奨学金で大学まで行き、一流会社に就職、長男は病死で失うが、誠実な妻とともに、2人の子供を育て上げ、最後は子会社の役員となる。そして65歳定年の日、送別会が終わり帰宅途中の地下鉄で倒れ、病院に収容される、余命は数日間。

 ここからが浅田のいつもの得意手。竹脇の心が記憶の残る人たちによって外へ連れ出され、忘れていた遠い記憶の日々を彷徨いだす。その場所や移動は常に地下鉄。

 この記憶の中へ呼び出した人たちのなかでも強烈な印象に残るのが二人。
一人目はかつぎこまれた病院に、病気でないのに20年も通いつめた変人の榊原勝男。
その勝男は今や倒れ、パーテーションを挟んで、竹脇の隣に収容されている。

 勝男は戦争直後の大混乱の時代を生き抜いている。竹脇の時代は戦後の混乱は終結し、食えない時代からは日本は脱出していた。

 榊原が言う。
「そのうち靴泥棒を覚えてよ、かくれんぼをしているふりをして、そこいらの家の玄関や勝手口から、靴だの下駄などをかっぱらうわけさ。ついでに傘もありゃあ御の字だ。靴は片っぽだけでも売れたんだぜ、左右違う靴をはいてるやつもいっぱいいたんだぜ。」
 このかっぱらい組にはリーダーがいた。それが榊原と同い年の峰子。すべての指示は峰子から出される。この峰子が印象に残る2人目。

 クライマックスの峰子と竹脇の邂逅は感動的。涙なしでは読めない。
暗い過去を克服して、一つの会社に定年まで勤め上げる。つまらない人生に思えるが、しかしりっぱなあっぱれ人生だ。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:00 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

垣谷美雨    「希望病棟」(小学館文庫)

 神田川病院に転勤してきた主人公の黒田摩周湖は二人の末期がん患者の担当となる。
一人は高校2年生の小出桜子。もう一人は36歳の代議士妻谷村貴子。

 黒田摩周湖は、口下手で嘘をつけない。それで患者にありのままに病状を言う。これで患者家族や、看護師に不評をかい厄介医師との評価になっている。

 もう医師としてはだめかと摩周湖が思いつめたとき、偶然病院の中庭のベンチに置かれている聴診器をみつける。落とし主がみつからなかったので、その聴診器を使うことにする。
この聴診器が魔法の聴診器で、患者の胸にあてると患者の本音が聞こえてくる。

 驚くことに、2人の末期患者は、新しい治療法の治験者となり、その治療法により完全に癌を克服し健康体となる。

 こいうハプニングは死を覚悟していた患者にも家族にも喜ぶより、対応をどうしたらよいか戸惑いを引き起こす。

 貴子の夫谷村清彦は、貴子の入院時の選挙で強力な対抗馬が立候補したが、末期がんの妻を抱え必死で妻や家族を支える姿を前面にだし、対抗馬に大差をつけて選挙に勝つ。そしてその人気にあやかろうと総理が大臣に据える。

 しかし末期がんで選挙に勝利したのだから、あくまで悲劇の主人公でなければならない。
貴子が生還するのはよくない。

 一方桜子は諦めていた大学進学の可能性がでてきた。しかし桜子は孤児、養護施設で生活している。とても大学に行くお金はない。奨学金制度があるが、大学卒業後返還せねばならない。全額奨学金で賄うと、とてもではないが会社員になっても返還できないことがわかる。

 このことを知った貴子が何とかしてあげようとする。

知らなかったが、国会議員の資産公開が毎年されるが、資産は家土地貴金属絵画と有価証券、 定期預金までで普通預金は公開不要となっている。

 だから議員の資産で最もたくさんあるのが普通預金だ。もちろん現金のたんす預金もたくさんある。表にだせないお金はこうした預金になってしまわれている。

 実は貴子はもとキャバクラ嬢。ソフトなキャバクラをつくり桜子をバイトさせ高額のバイト代で、大学に必要な費用の一部を稼がせようとする。

 とにかく大変。死ぬはずだったのに、生き返ったために、こんなに苦労しなければならなくなって。

 この物語で知ったが、選挙期間中の戸別訪問は選挙違反だが個人訪問は違反にならない。個人訪問は個人を特定して暮らしぶりを訪ねるだけの訪問だとか。どこが戸別訪問と異なるのかよくわからない。とにかく議員のために創る法律にはちゃんと抜け道、言い訳が用意されている。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

大島真寿美     「ツタよ、ツタ」(小学館文庫)

 戦前の沖縄で初めて女流作家になるのではと思われた久志芙紗子、本名久志ツルの生涯を描いた物語。
 物語で久志芙紗子、ツルは久路千紗子、ツタになっている。

この物語は奇妙な物語だ。物語の肝心な餡の部分が全く無く、分厚い皮だけになっている。

主人公のツタは沖縄首里の王に使える名家に生まれた。その後、祖父が砂糖の売買で財をなし裕福だったが、祖父が死後、父の代で商売が失敗して、貧乏になる。

 ツタは、臺灣銀行に勤めていた人と、一回も会うことなく結婚して台湾にわたる。その夫が銀行で不正処理をした何人かのうちの一人として追及され馘首される。仕事を失った夫は知人の紹介で名古屋で職を得る。そして男の子が誕生する。

 名古屋では2階建ての家を持ち、1階を自分たちの住処とし、2階は貸間にしていた。
夫との仲は冷え切っていて、ツタは家を追い出され、東京に向かう。この時2階の下宿人で医者を目指していた充がついてくる。2人は愛し合い、代々医者である充の家族にツタは嫌われるが東京で同棲を始める。

 ある時、ある婦人雑誌がいくつかの内容の体験談を募集していることが目にとまり、その項目に「年上の女、年下の男との恋」があり、ツタは自分と充との体験を書いて応募する。
 それが誌上に掲載される。

その同じ雑誌社で原稿30枚の短編の募集がある。ツタは沖縄についての思いを物語にする。原稿は60枚になったが、そのまま応募。この作品が編集長の眼にとまり、更に長編にして雑誌に4回に分けて久路千紗子のペンネームで連載されることになる。

 作品はもともとタイトルが「片隅の悲哀」だったが、それでは売れないと編集長が「滅びゆく琉球女の手記」にかえ宣伝に「沖縄の貧しい女性を描いた呪詛の物語。滅びゆく琉球人を描ききった稀にみる傑作!!」とする。

物語が載った雑誌が販売されると、「京浜沖縄学生会」から民族差別と糾弾され、2回目以降の連載は中止に追い込まれ、ツタは謝罪文を雑誌に掲載させられる。この謝罪文でツタは差別などしていないと本音を書き、更にかれらの怒りに火に油を注ぐ。

 餡が無いというのは、この物語がどんな内容か一切この作品では描かれていないこと。

それを巡る、話、皮の部分は必要以上に大島さんは感情をこめて描くが、肝心な部分が欠けていて、どうしてこうなったのか全くわからないので、かなり拍子抜けした。

 この事件が40年後にある若い女性の発掘により、ツタのインタビューとともに雑誌に掲載される。ツタは間違いない真実を伝えるために一晩かけて原稿にする。ここでも、その原稿内容、インタビュー内容が欠落している。なんとも奇妙な小説だった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

山田宗樹    「乱心タウン」(幻冬舎文庫)

 山田の作品はどれも長編だ。500ページ、600ページを超える作品ばかり。しかし著者が普通の人々の感覚に徹底して寄り添っているので、実に読みやすい。これだけの厚さがあっても、一日2冊、読むことができる。

 昔、後進国と言われる国に出張したことがしばしばあった。そういった国では、駐在員は、お手伝いさんを雇っていた。
 現地人に聞くと、日本人はお手伝いさんを使うのが本当に下手だと言う。

お手伝いさんというのは、同じ人間として遇してはいけない。お手伝いさんを使っている家では、お手伝いさんの目の前を素っ裸で歩いても、夫婦でだきあっても、何も感じない。お手伝いさんは人間ではなく、動物や石ころ。全然恥ずかしく無い。

 この物語、六本木ヒルズはどういうところか、よく知らないが、六本木ヒルズを平面にしたくらいの大きな土地が、大学移転にともないでき、そこに超高級住宅街を作り分譲される。分譲地の平均が200坪。都心では想像できない土地である。

 この土地は全面3Mの壁で囲まれ、出入り口は4か所。そこに警備員が配置され、いたるところに防犯カメラが取り付けられている。住人以外の人は予め警備事務所に届け出がされてなければ、出入りできない。

 優雅にセレブな生活が楽しめる理想的空間である。

ここでは、治外法権が確立されている。敷地内で交通違反で捕まっても、事故はもみけされる。事件が起きても、警備員は警察の住宅地への立ち入りは拒否する。事件は団地内で処理される。

 そして、警備員や、この物語で登場するカラス駆除の外部からの作業者は住民と同じ人間とはみなされない。更に、住人は全員善人だと思われている。

 しかし、住民同士で小競り合いは起きる。人間と認識していない人たちとの摩擦もある。
それら日々起きる事象を住人の立場から、あるいは人間でないと思われている人たちの立場から、詳細に活写する。

 最終段階で、中身が少し現実離れして、幼稚になったが、途中まではていねいな描写で非常に面白かった。最後は著者山田が息切れをした感じ。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:35 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉    「誰?」(徳間文庫)

 主人公の晴美は38歳。恋人の親友だと思っていた恵利に捨てられ人生のどん底に落とされる。

 沢田は71歳、2年前妻ががんで他界。子どもも全く家に寄り付かず、一人暮らしをしている。

 瑞枝は59歳。子どもを育てることを生きがいとして生きてきたが、子供たちに嫌われ、夫は出張ばかりで家にいない生活。やはり独りぼっちの生活をしている。

 友野は33歳。大学を卒業、しかし就職に失敗。アルバイトを転々として、今は弱小出版社にライターとして勤め、ボイズラブやエロ取材で何とか糊口をしのいでいる。

 登場人物4人に共通するのは孤独。この孤独につけこんで、主人公晴美は嘘に嘘を重ね、彼らから、お金を引き出そうと計画、実行する。

 晴美は3人に近付くとき、異なった名前を使う。住居も2つ持ち使い分ける。
別々にだましているが、被害者の3人がだんだん重なりあい、嘘がどんどん通用しなくなる。この晴美の破綻に向かって進む過程が見事で興奮が収まらない。

 晴美が物語で語っているが、孤独な男は色仕掛けで簡単に落とすことができるが、女性は簡単にはいかない。女性は、有名なスピリチュアル ライターなど有名人との親交をにおわし落としてゆく。

 晴美は40歳近く、おばさんといえる領域にはいっている。それほど魅力的には思えない。
しかし71歳、じいさんの沢田からみれば、若くて魅力的な女性となる。71歳になっても、若い恋人が持てる。まさに幸せいっぱいの老いらくの恋。

 いくらお金を吸い取られても、詐欺にあっているという認識がない。こんなに幸せなのは晴美さんのおかげ。お金資産なんてすべて晴美にあげてもいいと思っている。

 そういえば、巷では、男性の老人から結婚してあげるといってお金をだましとる女性詐欺が頻発しているが、殆どの男がだました女性を告発せず、犯罪立件ができないらしい。
 男は女性に本当に弱いと思ってしまう。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉    「浸蝕」(実業之日本社文庫)

 大手商社に勤めていた主人公長沢幹朗は美女と結婚するが、結婚後妻の態度が激変、彼女に振り回された結果仕事で失敗、閑職に左遷され、会社を退職、妻とも離婚する。

 失意の幹朗は、行きつけの小料理屋で理穂という女性と知り合う。
その後、この理穂が12年前山梨県の湯花温泉で天宇宙会という組織が引き起こした8名の連続安楽死事件に関係しているのではと疑いを抱く。その事件の中心人物である斉木樹菜がまだ失踪中だった。

 物語は理穂が幹朗を振り回し、真相に近付くたびに幹朗が危機に陥ってゆく。そのサスペンス描写が手に汗握る。

 この物語では明野さんの想像とは思えない人間、地球、宇宙の摂理が書かれる。それが真実のように思え、うなずくとともに底知れぬ恐怖感が醸し出される。

 「母なる大地の心臓を抉りだしてはならない。そのようなことをすれば、空に灰が降り注ぎ、世界は破滅にいたる。灰が降り注げば、川は煮えたぎり、生物は育たなくなり、人々は不治の病に苦しむ」

 その大地の心臓はウラン。アメリカにフォーコーナーズと言う場所がある。4つの州にまたがっている土地。そこにウランが埋蔵されていて、ホピ族、ナホパ族という先住民族が土地が掘り返されないように守っていた。しかし彼らは白人たちに駆逐され、そこを掘り返した白人たちは、ウランから原爆を作り、広島、長崎に落とした。

 ウランの埋蔵量世界一はオーストラリア。オーストラリアがウランを掘り出さないのは先住民アボリジニが守っているから。

 原爆被害、大震災の津波、原発事故は宇宙摂理により日本に起こった。日本がなぜ選ばれたか、大災害を引き起こしても暴動や殺戮が引き起こされないから。

 少し納得感があるから恐ろしい。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

伊集院静     「文字に美はありや」(文春文庫)

 雑誌「文芸春秋」に連載された、文字に関するエッセイを本にしている。

この世に文字が現れたのは、紀元前3200年前のエジプト王朝時代。中国では紀元前1400年武丁が収めていた殷の時代。当時は甲骨文字といって、亀の甲や牛の骨に文字を刻んでいた。

 どうして文字は生まれたか。それは国を治めるための法律や規範を伝達するのに文字が必要だったからである。

 書聖という言葉がある。書における神様である。書聖は王義之である。王義之は西暦300年代に活躍している。王義之は書聖とあがめられているのだが、不思議なことに彼直筆の作品は一つも現存していない。すべてが後世の書家による模写である。

 漢字が出来上がり定着したのは秦の始皇帝の時代である。始皇帝以前の中国は春秋戦国時代で中国には多くの国が存在していた。始皇帝はそれらの国を攻め占領し初めて中国を統一国家を実現した。それまで国によってバラバラの言葉、バラバラの文字だったが、それらの国々を統治するために、統一の言葉、文字を広めた。

 この本では、文字の成り立ちも書かれているが、名書家の作品も紹介してその評価も書かれている。

 その中に、江戸時代の名僧、仙涯義梵の作品がある。それは不思議な作品で「□△〇」と書かれているだけである。
 これは素晴らしいとの評価が書かれている。あくまで作者が言っているのではなく、観察者の評価である。

〇は無限、△は形の始まり、□は△が二つ重なってできるもので万物が生まれるところ宇宙を表す。
あるいは、〇が仏教、△は儒教、□は神道を表すというひともいる。

 時々こんな作品がでてくると、素晴らしいと評価せねばならない同調圧力がかかる。
私は芸術にあまり関心がないので、そんな無理をした解釈はこの作品からは感じられない。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

山田宗樹    「ジバク」(幻冬舎文庫)

バブル華やかなりし頃、嫁さんの友達が証券会社に勤めていて、ノルマもあったんだろうが、その人から100万円預けてくれ、それが1年後には倍くらいにはなると、本当かなあと思って預けた。しかしその間にバブルがはじけ、元本も回収できず損をしたことがあった。

 こんなふうに、人からお金を集め、いろんな株に投資して、約束した儲けを投資家に返し更にそれ以上に儲けを会社の利益にする。この仕事をするのがファンドマネージャーである。

 外資系では、儲けを多くだした人にはとんでもない金額を還元する。だからそんな人は異常に贅沢な暮らしを実現する。しかし、こんな人はごくわずか。外資系は冷酷で、会社に利益をもたらさない人、あるいはもたらさなくなった人は即解雇する。

 この物語の主人公麻生貴志42歳も外資系会社のファンドマネージャーで年収2000万円を得ていた。この高収入に目をつけた美人妻、高級マンションに住み、セレブな生活を夢にみて、貴志の妻になった女性。

 しかし、貴志が高校時代に憧れていたミチルに再会、彼女欲しさに、企業調査で知りえた、情報をもとに絶対儲かる株をミチルに紹介。これを会社が知り、インサイダー取引をしたということで、解雇される。

 その後、他の会社に就職しようとするが42歳がネックになり就職できない。こんな人が次に行く先は、いんちきインベスティメント会社。

 未公開株というのがある。ある会社が株式上場しようとする。その時は、売買成立させるため、実力より低い株価で市場公開する。だから、公開した途端株価ははねあがり、投資家は絶対大儲けすることになる。

 インチキ会社は、推奨会社は株式を上場する予定と投資家にあおりお金を集める。しかし、推奨会社は株を上場しない。集めた金を持ってとんずらする。典型的な詐欺である。

 ここを通ると、後はホームレスに真っ逆さま。このおちるスピードは速い。
物語の主人公。落ちてしまい日雇いで暮らしている描写がせつない。かっては年収2000万円の人である。

「375円。百円玉が3枚。十円玉が七枚。五円玉が一枚。何回数えても同じ。これが全財産。
今日は雨が上がり仕事が入った。午後8時から翌朝6時まで。現場の最寄り駅は、東急池上線の戸越銀座。吉祥寺からだと、五反田で乗り換えることになる。五反田までなら片道290円ですむが、戸越銀座まで行くとなると、さらに120円かかる。合計410円。今の貴志には払えない。となれば、五反田から歩くしかない。それでも残るお金は85円。缶コーヒーも買えない。」

 物語の終章はいらない。山田の感情が迸りすぎて、見苦しい内容になった。

 それでも切ない。ホームレスの人には貴志のように栄光から真っ逆さまに落ちてしまった人が多い気がしてならない。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

山田宗樹  「ギフテッド」(幻冬舎文庫)

物語は主人公の僕、達川颯斗とわたし佐藤あずさの2人の視点で描かれる。

水ヶ谷小学校6年の達川颯斗の家庭に「第一種特殊児童選別検査」の検査結果が届く。その結果、颯斗はギフテッドであることが判明する。ギフテッドは体内に未知の臓器を有している。このことにより、クラスで化け物呼ばわりされ、完全に孤立。そのため、ギフテッドだけを集めた光明学園に転校する。ここでは、国の補助により、学費も生活費も無償だった。

 未知の臓器は腎臓の隣にある。そして、この臓器から発生するCKTという物質が、脳の空白領域に到達すると、ギフテッドには2つの特殊能力を発揮する新しい人間として生まれ変わる。

 その特殊能力とは物質形状を変化させる能力と瞬間移動する能力。

そして日本では、従来の人間とギフテッドに深刻な対立が起きる。ときには、従来型の人間とギフテッドとの戦いが起き、従来型の人間が多数殺される。しかし、ギフテッドは瞬間移動をして、事件現場にはすでにいないし、どこへ行ったかもわからない。

 従来型人間のギフテッドへの恐怖、憎悪は深まり、国会で特措法を成立させ、ギフテッドは特殊エリアに隔離管理されることになる。

 山田宗樹の非凡なところは、ギフテッドが人類を滅ぼす恐ろしい存在であると現在の人類の視点から物語を進行するのではなく、ギフテッドは現在の人間が進化し、突然変異した、現在の人間より優れた能力を持つ人間という視点から現在の人間を見ている物語にしようとしているところ。

 だから、今の人間にギフテッドが持つ新しい臓器を作り体内に入植し、今の人間をギフテッドに変革してしまおうとする。

 しかし残念なのだが、それを十分追及できていない。
その発想が書かれているところで、これは面白くなるのではと思ったが、結果は期待からはずれた。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

山田宗樹    「黒い春」(幻冬舎文庫)

 まるで今の新型コロナウィルス感染をよんで見越していたかのような作品。

女子高生が不審死をする。遺体は飯守観察医により解剖される。直接の死因とは関連しないが、心臓から10ミクロンもある巨大な黒色胞子が発見される、こんな巨大な胞子はみたことがない。それで、胞子は衛生研究所の真岡に送られ、更に感染症対策センターの三和島が興味を持つ。

 しかし、研究調査をしても感染源の特定はできない。感染ルートもわからない。
そうこうするうちに、大学生が授業中に突然黒い液を口から吹き出し、そのまま死んでしまう。

 調査をすると全国で5月に12件の同じ事例が発生していて、その全員が発症して30分以内で死んでいたことがわかる。ここから、作者山田の突拍子もない発想がとびだす。
12人の死亡者は、全員旅行なので滋賀県を訪れていたことが判明。そのうち2人の死亡者は琵琶湖に浮かぶ小さな沖島という島を訪ねていた。

 それで、対策センターの三和島が沖島に行く。そこには小さな祠があり、そこから1400年前に死んだ人間のミイラを見つける。ミイラが入っていた石棺の蓋を工事人が明けた。

 三和島は、ミイラ自体が黒色胞子病になっていたのではと類推する。1400年前は遣隋使の時代。小野妹子が髄から戻ってきたとき、随員は13名だったが、1人足りない。イタイミイラはこの一人ではないか。と。

 面白いが、このミイラに犠牲者が近付くことは無かったし、そんな伝染病が日本で流行ったという史料もない。
 こんな奇想天外な発想、作者山田はどう落とし前をつけるのだろうと思ったが結局つけることはできなかった。

 この物語、日本全国で12人が亡くなっていることを厚生労働省が発表すべきと飯守らが主張するが、たった12人の死亡でそんなことを発表すれば社会を混乱させてしまうと厚労省は突っぱねる。

 新型コロナ、トランプが中国ウィルスと非難していたが、中国も事態を甘くみていたのだろう。官僚とはそういうものだ。とこの作品で思った。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉     「魔家族」(光文社文庫)

 主人公の西原早季はOA機器を扱う会社で営業部員として働く。彼女の上司恭平は、会社でもトップセールスマン。会社から何度も表彰されている。

 西原早季には山上という恋人がいたが、恭平に身も心も奪われ、山上とは別れる。

ネオテニーという言葉がある。生物学上幼形成熟のことを言う。容貌は幼いまま体だけが大人になってゆくことをいう。このことが物語の核になる。

 実は恭平には千秋という妻がいた。千秋はもともと心臓が弱い。結婚3年後、妊娠して娘梨子を産むが、それが体を弱くさせ25歳で亡くなってしまう。

 恭平は梨子をシングルファーザーとして仕事をしながら育てることができない。その時死んだ妻千秋の母温子が一緒に住んで、梨子の世話をすると言い、それで3人で暮らすことになる。

 この温子がネオテニーだった。すでに45歳なのだが、20代半ばにしかみえない。孫梨子の母親のようにみえるし、梨子もお母さんと温子のことを呼ぶ。

 こんな3人だから、当然のように恭平と死んだ妻の母温子を愛し体の関係を結ぶ。
しかし、民法では、死んだ妻の母親と結婚することは禁じられている。

 恭平は温子に2人は体の関係は持つが、それに縛られることなく、自由に恋愛はすべきと言う。しかし、3人は大切な家族として、少なくとも梨子が結婚するまでは関係を続けると恭平と温子は決心する。

 それで45歳の温子は、近くに住む慶応大生と愛し合うし、恭平は部下早季と関係を続ける。
早季は、恭平と結婚したい。しかし、娘梨子の母が、早季と温子と2人存在することになる。
やがて、このいびつな関係が事件を起こす。

ネオテニーに着目したサスペンス。それなりに面白かった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉    「感染夢」(実業之日本社文庫)

 物語は、大分県の今は廃村になった山奥の奥国村道路工事現場から始まる。作業員が小さな社を見つけるが、気にも留めず社を倒し、掘り返す。その時、黒い風が吹き流れる。作業員がみんなで手を合わせお祈りする。この黒い吹き流しの正体は?

 阿波渓輔は毎夜現れる黒い瘴気に悩まされていた。それがやがて妻にも移り、家庭が崩壊し、渓輔は妻と子供を殺し、自らも自殺をする。渓輔の従弟である阿波隼人は、隣に香奈子という女性が引っ越してきてから、渓輔と同じように毎夜黒い瘴気に悩まされるようになる。その夢には香奈子に似た女性がでてくる。更に、その時付き合っていた恋人理恵子も舞夜隼人と同じ夢に悩ませられるようになる。香奈子と思われる女性は渓輔一家の葬式にやってきていた。更に渓輔夫妻、隼人、恋人理恵子は曾祖父母までさかのぼれば、曾祖父母は大分県の社を掘り起こしてしまっていた奥国村に住んでいた。

 物語は、明野の文章力により、恐怖感は十分だが、この手の物語に共通する、村でいじめられ、不幸の極みの人生を送った女性が、社の破壊により、地上にでて、怨念と怒りが、今生きている誰か、この物語では香奈子に憑依し、その悪霊を最後は仏僧が説法により取り出すというありきたりな物語になっている。

 タイトルが「感染夢」。途中、ヴィールスが感染すると思わせる方向になりそうだったので、もしや今はやりのコロナウィルスとの闘いのような物語になるのではと期待したが、残念そんな今にマッチした物語にはならなかった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

吉村昭 「海も暮れきる」

ヨルシカというアーティストに、「思想犯」という曲がありましてね。

YouTubeの公式動画に、
 盗用とオマージュの境界線は曖昧に在るようで、実は何処にも存在しない。
 逆もまた然りである。オマージュは全て盗用になり得る危うさを持つ。
 この楽曲の詩は尾崎放哉の俳句と、その晩年をオマージュしている。
 それは、きっと盗用とも言える。
という説明が。
どんな晩年だったかざっくり知りたくて、この本を読んだわけです。

IMG_0075.jpg

分かりやすく歌詞に使われているのは、
 春の山のうしろから煙がでだした
 入れ物がない両手で受ける

認められたいという夢が、何もしなくてもかなってほしい
他人に優しい世界に、僕の妬みはわかってもらえない
罵倒も失望も嫌悪も、僕への興味だと思う
この孤独が今、詩(うた)に変わる

しつこいくらいに手紙や葉書を書き、自分に対する関心を繋ぎとめたい。
冷たくされれば、「あいつには俺の面倒をみる義務がある」と、荒れる。
酒に逃げ、誰かを(言葉で)殴る機会を探す。
孤独な生活で、句は雑なものがそぎ落とされ、冴えてくる。

「僕」の心情と重なるところは、探せば見つかるけれど、
私はあまりセンスがないので、「どちらもそれぞれ面白い」ですね。
ちなみに、歌詞に『海』は出てきませんが、窓から海が見えている映像はある。
ヨルシカ - 思想犯(OFFICIAL VIDEO)

| 日記 | 00:00 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉     「ひとごろし」(ハルキ文庫)

 主人公のフリーライター野本泰史は通いなれた馴染みの食堂「琥珀亭」で新しく入ったアルバイトの水内弓恵と知り合い、恋に陥る。

 ところが弓恵は9年前、夫松島保が大学時代の同級生である岡安晴美と関係を重ねていることに逆上して、2人を殺害する。その直前に4か月になったばかりの子供が病気で死んでいる。
 しかも、4か月の子供の死因は病気で処理されたが、子供も弓恵が殺していたことがわかる。

 弓恵は3人殺害しているから、刑は死刑か無期懲役相当の重罰が課されるところだが、実は裁判の過程で夫と愛人が弓恵の殺害を計画していたことがわかり、9年の懲役刑を受け6年で仮釈放、保護司の紹介で、「琥珀亭」に勤めだしたのである。

 弓恵は異常に野本に執着、常に一緒にいないと我慢できなくなる。野本はそれがだんだん重圧となり、最後にこらえきれなくなる。こんな話に、近江のイタコ伝説がかぶさり、異様な物語となる。

 物語の途中でテーマが語られる。

「恋はいっときの錯覚だからこそ酔いしれることができる。そこを互いに理解していなければならないと思う。ハッピーエンドであれ悲恋であれドラマはそこで終わるからいい。かたや現実の恋愛は、いっときの錯覚からさめた後は、たいがい相手の重たい存在と、それにまつわる煩わしい現実を、延々と背負っていかなければならなくなる。」

 そして、その延々と重圧を背負っていきつく先にあるものは・・・。破滅?!

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:44 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

香納諒一    「熱愛」(PHP文芸文庫)

 刑事の仕事を辞めさせられた主人公の鬼束は、仁科英雄 大樹というヤクザの兄弟から

謎の殺し屋「ミスター」を探す仕事を請け負う。英雄の誤発砲により亡くなる安城の正体を追跡しながら「ミスター」に徐々に迫ってゆくが、それが深くなるにつれて、自分たちの命の危険がせまってくる。サスペンス ハードボイルド小説。

 基本的にはヤクザ同士の抗争がテーマ。しかし、その中に、抗争の当事者が海岸のある佐賀県の町の出身、その出身者の中に、詩人がいた。詩人が自費出版した本が、詩の文学賞の佳作を受賞、本が稀覯本となり、鎌倉の古書店で売られ、それが物語を動かす動力となる。

 情感豊かな文章と、人物造形が見事である。

暴力団抗争物語には、しばしば事件の元締めとして政治家が登場する。しかし、この政治家が悪だという言葉だけでなく、具体的場面を描かなければ、頓珍漢な物語になる。

 この作品では、悪の元締めとして、与謝野なる政治家が登場する。ただ、それが、公共事業での贈収賄、暴力団からの献金など、項目の羅列だけで具体的事件は語られない。

 ところが、突然クライマックスで、3人に対峙するところでクルーザーに乗って悪の政治家が登場する。
黒幕ということで作者は登場させたのだろうが、他に物語では全然登場していないので、何が互いに対決しているのか全くわからない。

 どうしてもサスペンスドラマの定番、悪の権力との戦う場面を挿入したかったのだろうが、完全に無意味となっている。サスペンスの定型に引きずられ失敗作になってしまった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:42 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

渡辺淳一ほか 「本屋でぼくの本を見た」

じいやの感想はこちら

色々なタイプがいますねぇ。

「会社員としての毎日がとても充実していて、
 初めて出した本も『一生に一度の記念よ』と笑って同僚に配るくらいだった。
 いきなり直木賞候補になり、職場に迷惑をかけるからと、泣きながら退職した」
と語るのは、藤堂志津子

「トリックさえ思いつけば、拙作程度のミステリーは誰にでも書けた。
 あのトリックを幹に、クリスマスツリーのように飾り付け、長編に仕上げた」
と語るのは、島田荘司 (飾り付けがごてごてなのが特徴)

IMG_0074.jpg

「原稿に自分の書きたい小説を書きなぐっているときだけが、
 やっと息の出来る時間だった。八方ふさがりの生活からの逃げ道だった」
と語るのは連城三紀彦

IMG_0073.jpg

で、三田誠広氏。 「いちご同盟」で、読書感想文を書いた記憶はある。

 登校拒否していた17歳の時に書いた小説で賞を取る
⇒大学時代は哲学にヘンにかぶれ、1作しか採用されない
⇒就職し、PR会社のサラリーマンとしての仕事が順調
⇒編集者から「声が変わりましたね」と言われ、自分が業界に染まったと気づく。
⇒「文学を忘れていた。調子に乗っていた」と反省し、妻子がいる立場でいきなり退職
⇒幸い、1年後に発表した作品で、一発で芥川賞受賞
「生活という面ではほとんど何の苦労もなかった。運も実力のうちである」

私がこの人の家族だったら、「余計なこと言いやがって」と編集者を恨むかもしれない。
才能があるから、就職しても連絡し続けたんでしょうけどね( ̄▽ ̄;)

| 日記 | 00:40 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

宮部みゆき 黒鉄ヒロシ   「ぱんぷくりん」(PHP文芸文庫)

 宮部みゆきが物語を創り、漫画家黒鉄ヒロシが絵を描いた、夢のコラボの童話集。

おなじみの恵比寿、大黒、毘沙門天、福禄寿、弁財天女、寿老人、布袋和尚の七福神が宝船に乗って航海をする。ところが突然の横風でてんぷく。

 ばらばらに流された七人の神様は、社長さんや、スポーツ選手ら色んな人たちに助けてもらう。

 しかし元気な男の子が怒る。
「どうして神様は救命胴衣をつけないの。あぶないじゃないの。」
「救命胴衣をつけたら、ひとりひとりに助けてもらえないじゃないの。そんなことをしたら,なが欲しがっている幸せをひとりひとりにわけ与えれないじゃないか」
 だから、救命胴衣なしで七福神は宝船に乗って航海をする。

 そしてときどき転覆をする。

こんな楽しい童話が六話。読むとほんわか幸せ気分一杯になる。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

開高健    「魚の水はおいしい」(河出文庫)

 開高が二十代後半から四十代までに執筆した食と酒のエッセイ傑作選。
「カクテル ワゴン」というエッセイが面白かった。

昔はバーテンダーの箔をつけるために、バーテンダーは日本郵船の船に乗りバーテンダーをしていたというのが常だった。しかしその船は北米航路か欧州航路かときくと、バーテンダーはそんなことは忘れたと言う。完全な法螺が殆どだった。

 ある日開高のところに食い詰めたバーテンダーが身の上相談に来た。
この男、やることなすこと上手くいかず、あちこちのバーを渡り歩いていたのだが、もう年だから、独り立ちしてバーをもちたいという。

 だけど普通のバーではうまくいかないだろうと言い、思い切って世の中にはない屋台バーをして、ゆくゆくはフランチャイズで何軒かバーを持つんだという。
ハイボールやカクテルを屋台でだすのである。これで屋台おでんの客を吸収するのだと熱く語る。

 開高もいい加減で、それは面白いと無責任なアイデアをだす。
暖簾はやめて、外国の酒瓶を針金で吊るせとか、洋酒の樽の上蓋を屋台の横腹にうちつけろとか。

 おっさんは、石焼き芋の屋台に洋酒の空瓶を何本もつるし、一升瓶に水をつめ、緑青のふいた古いシェーカーや、ひからびたチーズなど有象無象なものをのせてキャバレーの裏の暗がりに瓶をカチャカチャ音を鳴らして店をだす。

 高級な店が閉店時間になりおいだされた酔客が、いいところに目をつけたと立ち寄り結構成功した。氷が必要になると、歯のない下駄をがちゃがちゃと音をさせて、かき氷屋にゆき余った氷をもらってくる。

 しかし栄華は長くは続かなかった。まず警察が道交法違反で取り締まりをする。開高も時々、おでん屋やたこ焼き屋と一緒にがらがら屋台を引いて逃げるおっさんを見た。

 おじさんが失敗したのは、たくさんの客が一杯飲むと金を払わずにげていってしまったこと。金を払ったあとで注文の品を作るべきだった。

 そのうち客の支払った金をもって「いかくん」を買いに走る自転車操業に陥った。
熱燗やおでんは屋台でもいいが、洋酒は屋根のあるバーで味わいたいものだ。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<


| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉   「輪廻」(文春文庫)

 松本清張賞受賞作品。

「累」物語というのがある。顔が醜く足も不自由に生まれたついたひとりの娘が、おまえさえいなければ後添えの生活もうまくいくのにと思いつめた実の母に殺され、その恨みをはらす物語のことをいう。

 明野はこの作品で「累」物語に輪廻を重ねあわせた物語を創造している。

輪廻というのは、恨みで殺された人が、世代を超えてまた登場して恨みをはらす物語のことを言う。

 茨城の旧家に嫁いだ主人公香苗は、徹底的に姑にこきつかわれ、いじめられ、その仕打ちに耐えられず、愛娘の幼子真穂を連れて、母親時枝が住む、新宿大久保のアパートにやってくる。ところが不思議なことに、普通は孫がくれば時枝は真穂を可愛がるものだが、時枝は真穂を嫌う。

 実は時枝は、新潟の旧家に嫁いだのだが、娘香苗同様、姑に虐められ最後思い余って、森を歩いていた姑を川に突き落として殺してしまう。実は姑は、村人全員から嫌われ、村人全員が事故で姑は死んだと主張し、事件にはならずに済んでいた。

 時枝が真穂を嫌ったのは、真穂が姑の生まれ変わりだったから。真穂は、母親香苗がいないと、表情も声も姑となり、時枝をいじめていた。

 ここまでの話はよくある話なのだが、清張賞を受賞した作品。それだけでは終わらない。
何と「累」と輪廻の物語が蜘蛛の巣のように多面状に広がってゆく。
そこが明野さんの非凡なところ。どんどん底なしで恐怖がひろがってゆく。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉   「東京ヴィレッジ」(光文社文庫)

 主人公松倉明里は玩具メーカーに勤める33歳。彼女には郁人という大手コンサルティング会社に勤める7年越しの恋人がいる。

 明里の実家は、青梅にそこそこの土地と自宅を持ち、少しの農業と雑貨店をやっていた。雑貨店は途中「エニータイム」というコンビニに変わったが、今はまたもとの雑貨屋にもどった。
そんな明里におばさんから電話がくる。最近怪しげな夫婦が、実家に住み着いていると。

住み着いた夫婦は本名かわからないが、深堀夫婦という。明里の両親は穏やかで人を疑うことを知らない。それで住みつかれても追い出すことができないのではと明里は心配になる。

 今に詐欺師深堀にだまされて、家や土地を乗っ取られ一家は放り出されるのではと心配した明里は実家に帰り調べてみる。

 深堀は「エニータイム」の施工をするアサヒ建設に働いていたという。そして家では父や姉の夫光春を使って、どこから仕入れてくるかわからないが、いろんな雑貨や食料品を軽トラに積んで移動販売をしていた。

 そこで、恋人を使って深堀について調査をする。アサヒ建設には深堀という社員はいなかった。しかし出入りの職人に深堀はいた。深堀は腕のたつ職人だったが、パチンコに狂っていて、熱心に勤めない。

 パチンコというのは朝から晩まで毎日のようにしていると、自然と仲間ができる。そんな仲間はまともな人間はいない。居酒屋あたりで酒を飲みながら賭博、整理屋、バッタ屋など怪しげな金儲け情報を交わす。どうも、深堀もそんな仲間のもうけ話にのり、借金をして金を返せず、根城だった錦糸町にいれなくなって青梅にやってきたらしいことを突き止める。

 本を読み進めながら、深堀が錦糸町でどんな悪を行い、青梅に逃れて、どうやって松倉一家を破滅させるのだろうかと少しわくわくしながら読み進む。

 しかし悪にとりこまれてゆく雰囲気はムンムンなのだが、これだという決定的なものは何もでてこない。
残りページ数がどんどん減る。変だ。

 びっくりした。サスペンス、ホラーの明野ではなく、最後は深堀のアイデアで明里や恋人まで巻き込んで新しい人生を歩みだすという希望の物語になっていた。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

川上弘美    「東京日記3+4」(集英社文庫)

 雑誌「東京人」、電子版雑誌「WEB平凡」に掲載された川上さんの日記収録。

人間ドックの日、クリニックの検査技師のみなさんはたくさん褒めてくれる。
いわく、肺活量がちゃんとありますね。骨密度がりっぱですね。採血のされかたがいさぎよいですね。などなど。

 中でも際立っていたのが、胃のバリウムの検査技師。バリウムを飲んで、台の上に横になったり、斜めになったり、さかさになったりする。
 その度に
「いいね!いいよ、その角度。」「ああいいな!そこだよ、そこ。はい撮るよ。」「それだ!今のその位置、すばらしいよ!」
 なんだか篠山紀信に激写されているような気分になる。

 最近パンツの色が気になる。気力をみなぎらせるために赤いパンツを購入する。
試しに赤いパンツをはいてみたが、気力はみなぎらず仕事はしょぼしょぼ

 占い上縁起が悪いとされる真っ黒なパンツを生来のあまのじゃくなので購入して履くと仕事がはかどる。

 それで試しと思い、紫のパンツを2枚買い込む。タイプは2種類。へそまで隠れるおばさん型と面積が小さいエッチ型。

 統計をとると、おばさん型がいちばん仕事がはかどることがわかるが、これ一番勝負というときはエッチ型が一番効力を発揮することがわかる。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

NHKスペシャル取材班   「高校生ワーキングプア」(新潮文庫)

 2015年の「国民生活基礎調査」によると日本の子供の相対的貧困率は13.9%。7人に1人が相対的貧困状態におかれている。相対的貧困家庭というのは月収が約20万円以下の家庭、3人世帯だと年収211万円以下となっている。

 この結果、家計を支えたり、授業料や必要経費をねん出するため、アルバイトをしている多くの高校生が存在している。
 こうした高校生の実態を浮かび上がらせたルポルタージュがこの作品である。

神奈川県戸塚に住む母子家庭の高校生陽子さんの実際がすごい。お母さんは当然朝から夜中までパートで働く。しかしこれだけでは家計が成り立たない。それで陽子さんが居酒屋でアルバイトをして家計を支える。この陽子さんの一日を取材班が追う。

 陽子さんは毎日朝5時前に起きる。そして洗濯をする。それが終わると朝食を作る。そして7時に小学生の妹、弟を起こす。しかし妹、弟はなかなか起きない。それを無理やり起こして朝食をとらせる。この時、妹と弟が喧嘩をする。幼い弟がごはん食べないとごねる。そこをなんとか食べさせ、いやがる歯磨きをしてあげる。妹、弟を学校へ送り出し、食事の後片付けをして陽子さんはやっと学校に向かう。

 午後4時。学校が終わると居酒屋に走る。そして10時にバイトが終わり11時に家に帰る。そこから夕食、勉強をする。陽子さんは優秀な高校生で成績はオール5である。

 陽子さんを悩ましている妹、弟。学校から家に帰ると、一緒に洗濯物をよせて、たたんだり、妹は夕食を作り、弟は部屋掃除をする。わがままではなく、大変なお姉さんのために、お姉さんが大好きだから、懸命に働いているのである。

 これに似た環境の別の母子家庭のルポが書かれている。
取材のお礼にと小学生の子供を100円ショップに連れて行き、好きなもの5品プレゼントしてあげると言う。
 そのとき子供が最初にとった品物が布団たたき。お母さんのためだと笑顔で言う。

何か切ないが、どこか心がふっと温まる。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ<

| 古本読書日記 | 06:31 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

| PAGE-SELECT | NEXT