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2020年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2020年11月

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小林聡美    「アロハ魂」(幻冬舎文庫)

 ハワイ島をめぐる旅エッセイ。

著者小林さんは映画テレビでも活躍した女優。最近は楽しいエッセイで多くの読者を獲得してエッセイストとの肩書も持つ。

 小林さん、もちろんハワイは初めてではない。何回もでかけている。それにしても理解できないのが、この旅エッセイのために、編集者、カメラマン、それに何のためかよくわからないが年のいったおじさんまでが同行している。さらに現地ではガイドさんまでついている。本は180ページほどで薄い。これで、出版して幻冬舎は採算があうのだろうか。
 それに、こんな顎足つきのハワイ旅行で、作者小林さんは作品に力がはいったのだろうかと疑問に思う。

 ワイピオ渓谷に行く。そこでは乗馬が楽しめる。一行4人は、ワルワルおじさんと勝手に名付けた先導者に従って乗馬をする。

 小林さんは乗馬ははじめて。馬にまたがるが、馬は草ばかり食べていていっこうに前に進まない。ワルワルおじさんが馬を叱って何とか動きだす。

 道中、馬が前を行く馬の尻をかみつく。前の馬が驚き、乗っている馬と喧嘩しそうになる。またワルワルおじさんが登場して馬をしかりつける。

 そのうちに目の前に川があらわれる。ワルワルおじさんは馬にこの川を渡らせようとする。初めは浅瀬だったが、そのうちに深くなり馬の足がかくれるほどになる。

そのとき、前をゆく馬が恐ろしいことに脱糞をする。たくさんのうんちが目の前に流れてくる。その匂いがたまらない。
鼻をまげながら思い出す。
そういや、土産物屋で買った水晶をこの川で洗ったけと。

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瀬尾まいこ   「そして、バトンは渡された」(文春文庫)

 主人公の優子は、幼い時母が交通事故で死亡、そして父親は梨花さんという女性と再婚。父親がブラジルに転勤することになったが、梨花と優子はブラジルに行くことを拒否。結果梨花と父親は離婚。日本で母梨花と優子は暮らす。

 中学3年のとき、学校でクラス対抗の合唱祭がある。そのピアノ演奏を優子がすることになる。優子はピアノを3年間習ったが、ピアノは本物ではなく、電子ピアノ。電子ピアノと本物のピアノでは、鍵盤のタッチが違い、うまく演奏ができない。

 悩んで、そのことを母梨花に告げる。すると母梨花が何とかしてあげる。しかし、とてもピアノなど買えるお金などない。ある日梨花が本物のピアノを弾けるよ、と優子に言いながらこの人と再婚するからと、泉ヶ原さんを紹介する。泉ヶ原さんは大金持ちで邸宅に住み、その邸宅にりっぱなピアノがある。

 合唱祭が終わると、梨花は泉ヶ原さんと離婚をして、大企業の研究所に勤めている東大出、しかし40歳になるが恋愛経験なしの森宮さんと結婚するが、数か月すると梨花は失踪する。
それで優子は高校3年間、森宮さんを父として2人で生活することになる。

 優子は何と母親2人と3人の父親を持ったことになる。
瀬尾さんが、類まれな作家だと思うのは、上記環境だと優子が大人の都合でたらいまわしにされ、不幸で悲しい子とステレオタイプの女の子にしないところ。

 普通の子として、のびやかに成長し魅力的な子として描く。そして次々変わる父親、母梨花は、懸命に優子の成長を支援する。優子の次の言葉が印象深い。
「みんながいい親であろうとしてくれたように、私もやっぱりいい娘でいたい。」
どの父親もすばらしいが、すこしとんちんかんだが懸命に優子を支える森宮さんが素晴らしすぎる。

 学校で父親が何人も変わっていることが知れて、少し落ち込んでいるとき、森宮さんは、

美味しいものを食べて元気になろうと言い、餃子を3皿60個も作り優子に食べさせる。やっとの思いで食べ終わると、餃子は元気の源と言って明日も夕飯は餃子といい、本当に餃子を作る。

 入試前日、夜食と言って、オムライスを作って勉強部屋にもってくる。

優子は何これと驚く。オムライスには全面ケチャップで
「今日はよく寝て、本番に備えよう。合格できると信じてリラックスしながらがんばって」
と書いてある。
優子が「普通は文字を書いても3文字ていどでしょう。なにこれ!」と言う。
「そうか道理で大変だったんだな、つまようじを駆使して書いたから、30分もかかったよ」
森宮さんの必死さが伝わってくる。

クライマックスで3人の父親が結婚式に参集。そのときバージンロードを3人の父親と手をとりあって進むシーンは本当に感動する。

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| 古本読書日記 | 06:34 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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パトリシア ハイスミス   「キャロル」(河出文庫)

 処女作「見知らぬ乗客」から「太陽がいっぱい」のリプリーシリーズ、ミステリーの巨匠パトリシア ハイスミスの「キャロル」を手にとった。処女作「見知らぬ乗客」が大ベストセラーになり、出版社や読者は当然次作もミステリー作品を望んだ。

 パトリシア ハイスミスはこの物語の着想を、アルバイトをしていたデパートで発生したトラブルから思いついた。自宅に帰り、即20枚の簡単なスケッチにした。このスケッチが400ページを超える作品になるから凄い。

 しかしこの作品はなかなか出版されなかった。内容がレスビアン小説で、この作品が生まれた1950年代は、アメリカも宗教の戒律色が強く、レスビアン小説を取り扱う出版社は無かった。

 ところがこの作品、無名の小さな出版社から出版されると、たちまち100万部近く売れベストセラーになり2015年には映画化されヒットしている。

 クリスマス商戦の最中、デパートのおもちゃ売り場でアルバイトをしていた19歳の主人公テレーズは、美しい人妻キャロルと出会い、強い恋心が芽生える。

 しかしテレーズにはリチャードという結婚を約束した恋人がいたしダニーというテレーズに恋心を抱く青年がいた、キャロルにはハージという夫がいたが離婚協議中。二人は娘リンディをめぐって親権争いをしていた。キャロルにはアビーという女性の恋人もいた。

 このためテレーズとキャロルは恋人同士になることには揺れ動く。キャロルがニューヨークから西部のワシントン州までゆく自動車の旅にテレーズを誘い、2人はでかける。そして、途中のウオータールーのホテルでとうとう2人は念願かなって結ばれる。ウォータールーには挫折、失敗の意味がある。ここがハイスミスらしい、2人の未来を暗示するようになっている。

 実は、キャロルの夫ハージは探偵を雇い、2人を尾行させていた。そしてウォータールーの2人のホテルの部屋に盗聴器をしかけ、2人のセックスを録音した。

 当時性倒錯者は、社会は真っ当な人間として認めない。これにより、2人の生活は破壊される。キャロルはアビーの親権を完全にハージにとられる。

 キャロルがテレーズへの手紙に書く。
「わたしには、キスの快楽も、男女の営みから得られる快楽も、単なる色合いの違いでしかないようにおもえるの。たとえばキスを馬鹿にするべきではないし、他人にその価値を決められるものでもない。男たちは子供を作れる行為かどうかで自分たちの快楽を格付けしているのかしらね。まるで子供を作る行為だからこそ快楽が増すのだといわんばかりに。」

 今は、こんなことを言ったって問題ないが、70年前である。さすがに出版社は出版を躊躇する。さらに、ハイスミスはテレーズとキャロルのラブシーンもしっかりと書いている。
 アメリカ国民を震撼させた、問題作となった。

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小倉千加子   「結婚の才能」(朝日新聞出版)

 現代の結婚とは何を意味するのかを追求した作品。

買い物に行ったスーパーのレジで並んでいると、80代と思われるおじいさんが卵とパンを買って、財布から1万円札をだして代金を払おうとしていた。
 レジのおばさんが、
「1円玉はありませんか。」と聞く。
おじいさんは財布の中をみてコインをとりだし
「あります。」と言ってコインを差し出す。
「お客さん、これは100円玉ですよ。」
「わしにはよくわからんから、あんた財布からとってよ。」
という。

男性は結婚するとき、自分のほうが早く亡くなり、妻が死ぬまで面倒をみてくれるものだと思っている。しかし必ずしもそうはならない。おじいさんは、家事、育児などは一切妻にまかせて、外で仕事をしてきたのだろう。スーパーでの買い物など経験したことは殆ど無いだろう。

 毎日、買い物にゆき、食材を購入してきて、料理をつくる。その料理は食され消えてしまう。全部消えるかと思うと、汚れた食器が残る、それを洗って片付ける。

 家事ってなんだろうと思う。

人間が存在価値が無いと強く思う時は、単純な創造性のないことを、機械のように毎日繰り返すことである。夫も外で同じことを繰り返しているかもしれない。しかし、それは家庭に収入をもたらす。家事にはその対価がないのである。そんなことを何十年もあきることなく繰り返すのは最も非人間的な行為でありとても耐えられない。

 男は家事は女性がするものと考えるが、女性はその辛さを分け合ってほしいと思う。
結婚で最も重要な問題は掃除や、買い物、夕食、片付けなど家事である。

 家事は生活のためにやらねばならないが、そこから創造的な価値ややりがいが生まれることは殆ど無い。この非人間的な作業を一方的に妻に押し付けることはあってはならない。

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小倉千加子 斎藤由香   「うつ時代を生き抜くには」(フォーユー)

 斎藤由香さんは作家北杜夫の娘さんだ。サントリーにはいり、窓際社員のトホホシリーズをエッセイにして多くの共感を呼んだ。北杜夫の娘さん、エッセイも抱腹絶倒で楽しいし、自分を貶めて誇張して書いているのだと思っていたら、この作品を読むと本当に窓際OLだったこと、窓際に追いやられても会社をやめないでサントリーに勤めていることを知り驚いた。

 男女雇用機会均等法が施行されて、サントリーも変わった。女性が会社の幹部になることは当たり前のこととなった。それと、普通の女性社員子が今や定年まで働くことができる職場に変わってきた。

 斎藤さんのもとへ、人事部より「昇格候補試験」の案内がきた。斎藤さんは自分が完全に窓際OLで、仕事の評価も低いので課長に試験は受けないと断ると、課長がそのことを部長に報告する。しかし部長から試験を受けさせるのがお前の仕事だと叱責され、それが斎藤さんに伝わりしぶしぶ試験を受ける。

 会場には受験者が200人ほど来ていたが、何と斎藤さんが一番年上と知ってショックを受ける。試験は90分、だけど60分たったら、問題が解けた人は、退出してよいと試験官が言う。

 問題はビジネス・リーダーの基本条件、経営戦略やマネイジメント、ファイナンス、アカウンティング、財務、貸借対照表の作成まである。斎藤さんは、学生のころから勉強などしたことが無かった。問題の意味さえ、理解できない。

 周りはサントリーの社員、東大、京大卒の超秀才ばかり。60分たつと、殆どの人が退出する。残った人は数人。斎藤さんの答案用紙は真っ白。

 家に帰って、布団にもぐりこむ。会社は楽しい。でももう会社員として限界化も・・・と初めて考える。

 斎藤さんは現在もサントリーで子会社にお勤めのようだ。定年も近く、体重も60KGを超えたそうだ。がんばってほしいなと心から思う。

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橘玲   「タックスヘイヴン」(幻冬舎文庫)

 この作品、冒頭関西を中心にファッションヘルス、ピンサロを手広く経営している堀山が、税金逃れのために、5億円の現金をスーツケースにいれ、対馬から韓国釜山まで遊漁船で行く。船は揺れやっとの思いで釜山に着く。漁船に甘い通関をクリアし(漁船ではパスポートコントロールは殆ど無い)信用金庫に行き、5億円を預ける。信用金庫では外為海外送金はしていない。お金は大手銀行の信用銀行名義の一時的口座に送られ、その後堀山が持つリヒテンシュタインの口座に送られる。

 税金逃れをするためには、現金を運ぶ。送金をすれば、会社に銀行に伝票が残るから。

 この作品、ODAや原発輸出などで政治家が上前をはねたお金をシンガポールの銀行に預ける。どうやって預けるのかが説明が無い。どんな場合も現金を運ぶとは思えないから、どうも作品に入りきれない。

 北朝鮮が経済制裁にあい、それを克服しようと、せどりという方法で海上で物資を船から船に移し替える方法がしばしばテレビで見られた。

 お金はどうするのだろう。今は北朝鮮への送金は全面禁止されているし、渡航もできないので現金を運ぶことができない。

 北朝鮮は日本にいる在日朝鮮人の人たちにお金を送ることを要求する。在日の人たちは北朝鮮に家族や親族がいるため、要求に応えないと、彼らに危害が及ぶことを案じて、お金を送ろうとする。

 これはどうするのだろうか。
物語では、お金は一旦、シンガポールの銀行に送られる。このまま北朝鮮に送るのは経済制裁違反になるためカンボジアの銀行のNKトレーディングに送られる。これは北朝鮮の貿易商社の口座と思ったら、金正恩の口座だった。そして、北朝鮮に送られると思っていたら、何と全額イランに送金された。

 核開発のための材料、装置、技術者派遣費用の支払いに充てられていたのだ。
日本から送られたお金が自分たちを襲う核開発の費用に使われたというのは、怖いと思った。

 作品は国際謀略小説もあるミステリー小説、面白い。しかし、お金の流れがすっきりしないためもやもや感が残ってしまった。

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| 古本読書日記 | 06:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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久坂部羊     「嗤う名医」(集英社文庫)

 医療現場で起きるミステリー6編を収録。

主人公の守山は、68歳にも拘わらず、脊柱管狭窄症が悪化して、下半身がまったく使えず、自宅に寝たきりになっている。上半身は健在なので、鉄アレイをあげたりして鍛えている。
月2回鵜川医師が訪問治療にやってくる。その際尿道に差し込まれている管を入れ替えてくれる。あとは、息子の嫁が面倒をみてくれる。

 困るのは浣腸。
嫁に頼んでも、昨日したでしょう、本当は3日前なのに、と言ってすなおにやってくれない。床ずれで傷がつくのだが、塗り薬を塗ってくれるよう頼むのだが、素直に塗ってくれない。

 お腹が熱を持つ。耐えられないのでアイスノンを持ってくるように頼む。しかし、お腹にアイスノンは体に悪いと言って持ってきてくれない。

 あの嫁は役立たずでどうしようもない。殺してやろう。しかし体が動かない。鉄アレイで殴ってやろう。毒をもってやろうと色々考えるのだけど、確実に殺せる方法が浮かばない。

 嫁が先生に、守山が言うことを聞いてくれないし、嘘ばかり言うと玄関でしゃべっている声が聞こえる。
 今夜も大便をしたくなる。嫁を呼ぶが、嫁は来てくれない。何回も呼ぶと、見知らぬ女性がきてくれ、浣腸をしてくれた。どうも家政婦を雇ったらしい。

 ある夜、発作がおきて苦しくなる。こんな時は枕元のボタンを押すと緊急に鵜川医師がきてくれる。
 処置してくれている鵜川医師に嫁が鵜川医師に玄関で、うそや守山への非難を言っていたのが聞こえたと文句を言う。

 鵜川医師が守山に聞く。
「守山さんお歳はいくつですか。」守山は答える「68歳です。」と。
「何を言ってるのですか。守山さんは86歳ですよ。ここは施設で部屋は4階ですよ。玄関なんかありません。」
 守山は大混乱に陥った。いったいどういうことなんだ、これは。

こんな作品を読むと、年を取るのが本当にいやになってくる。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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小倉千加子    「女の人生すごろく」(ちくま文庫)

 女性の一生を思春期、おつきあい、OL,結婚、あがりまでを小倉流に明らかにしてゆく作品。

 男の場合の思春期の始まりは声変わりあたりかと思うが、女性の場合はいつだろう。小倉さんは、自分の体が、自分のものではなくて、誰かの快楽のための道具であり、誰かに鑑賞されるものであるというのを気付く時が思春期の始まりだという。それに気付いたときがたとえ小学年生であっても、そこからは思春期なのだ。その途端彼女たちは自分の体を、自分の中からでて、1.5Mくらい離れたところから見て、美しいかどうかを確認しはじめる。

 小倉さんは作品執筆当時短大の教授をしていた。少し今の感覚とは違うが、短大の女子学生たちにアンケートをとる。恋愛相手にもとめるものと結婚相手にもとめるもの。

 女子大生が恋愛相手に求めるものは「夢」「車」「かっこよさ」結婚相手にもとめるものは「優しさ」「お金」「学歴」。つまり、恋愛と結婚は全くちがうもの。恋愛中にもっとかっこよい人が現れたら女子大生の80%は恋人を乗り換えると答えている。

 C級映画だったけど、以前「ラスト・ジゴロ」という映画があった。
オーストラリアで平凡な家庭生活を送っていた中年の女性。今の現状を脱皮して、熱い恋をしたいと願っていた。

 突然画面が変わって、女性はなぜかタイのプーケット島にいる。そこで、理想の男に出会いとろけるような甘い恋を経験する。

 しかし女性はそんな幸な生活がどこか怖くてしかたがない。
一か月すると彼がパリにゆく。同時に女性はオーストラリアに帰る。とろけるような恋愛に女性は一か月間しか耐えられなかった。

 家に帰るとこどもが「おかあさんは必ずもどってくると信じていた」という。

40歳を過ぎると、日本のかなりの女性が不倫をし、男とラブホテルに行くと小倉さんは言う。しかしその女性の殆どは、せいぜいホテルに行くのは2回程度で終わる。

 恋愛と結婚は違う。夫がだらしなくても、やはり家庭へもどってゆくのである。

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小倉千加子   「セックス神話解体新書」(ちくま文庫)

 元TBS記者山口敬之のジャーナリスト伊藤詩織への強姦事件はその後裁判でどうなったのだろうか。

 この作品によると、強姦事件というのは裁判では殆ど無罪となるそうだ。だいたい、判決を下す裁判官の殆どは男。強姦された女性が、最後まで死に物狂いで抵抗したのか、抵抗をあきらめ男を受け入れた結果性交に至ったのではないか。その場合は最後は合意のある行為で強姦罪は問えないということらしい。

 これに対し、小倉は怒りまくる。
いやがる女性に性交を強要するだけで、強姦罪としなければならない。そして、それは広く適用されねばならないと。
 高年齢になった夫婦、女性はセックスへの興味関心は無くなる。しかし男はいつまでも性関心が薄れない。そんなとき、妻にセックスを男が強要する。これも犯罪である。

 親族や親に強要されて、見合い結婚をする。夫は太って不細工。とてもセックスをしようという氣にはならない。

 こんな場合たとえ夫婦であっても夫に性行為を強要されたらりっぱな強姦罪だ。
男は女性がどんなにセックスをいやがっても、その行為にはいれば、女性も快楽を楽しんでいると錯覚をする。いやいや女性が行為をしていても。これも強姦罪適用だ。

 強姦罪をパラダイムを変えて、被害者視点の法律にすべきだと小倉さんは力説する。

夫婦でなければ、そのパラダイムシフトは消極的ではあるが受け入れてもいいが、夫婦間では強引すぎると思ってしまう。小倉さんに引っ叩かれそう。

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酒井順子    「先達の御意見」(文春文庫)

 2003年、その年の流行語大賞にもなるのではと思われたエッセイ「負け犬の遠吠え」を出版し、大評判をとった。その時酒井さんと名だたる人生の達人たちとの対談を収録した作品。「負け犬」というのは、今では考えられないが「30歳以上の女性で未婚、子供がいない」女性のことを言う。酒井さんは今でも未婚ではあるが、男性パートナーと同棲生活をしている。

 作家の内田春菊が怒る。
電車に乗っても、老人や妊婦さんに日本人は席を譲らない。内田が4歳の子を連れて、電車に乗っていた時も目の前の若い男が知らんぷりを決め込み席を譲らない

 ひどいもんだなと読み進むと、内田はそのとき頭を金髪に染め上げ、サングラスをかけていたという。

 しかし男というのは情けない。仏文学者の鹿島茂によると、30歳以上の独身男は、1割はセックスフレンドがいるが2割は性を風俗で処理。残り7割はオナニーで孤独で処理しているとのこと。酒井が言う。「もったいない。たくさんの負け犬女性がいるのに、大量のスペルマを無駄に処理するなんて。」

 作家の上坂冬子。戦争直後にトヨタ自動車に就職し事務員として働いていた。
そのころ驚くことに、トヨタには女性社員の若年定年制度があり、定年年齢が27歳だったそうだ。27歳までに女性は結婚し、家庭にはいれということ。

 女性蔑視が社内規定で明文化されていたとは驚きだ。それも世界一のクルマメーカーで。

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剣客商売五 白い鬼

大治郎と三冬の距離が、近づいてきます。
権力者の娘で、お嬢様のはずなのだけれど、
「身分の差」という障害はないですね。
「彼は剣に一途で、私に興味はないだろうな」程度です。

そして、もう一人の女武芸者「杉原秀」。
彼女の使う、蹄という手裏剣は、
「ないしょないしょ」という番外編でも登場します。

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前回の感想ともつながりますが、やっぱりものさしは剣の腕。
「三冬は女武道としてなら相当なものだが、
 そこは何といっても女の体だけに、
 男の剣士が突き破る修行の壁の最後のところは、
 どうしても突き破れない」
という具合に、男の世界でもある。
小兵衛が昔立ち合って、「素晴らしい手練の持ち主」と認めた男が、
幼女にいたずらする姿を見て落胆する話もある。

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剣客商売四 天魔  

毛饅頭という下ネタが、三話にまたがって登場します。
後書きでも触れられている。
ちょっとくどい。

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小兵衛が、男同士で暮らしている浪人に興味を持ち、
「私も忘れられない念者がいたんですよ」
と、『同類』のふりして飲み屋で近づいたものの、
話に乗ってきた相手が気持ち悪くて、距離を置く。
「もう飽いた。あの男の顔を見るのがうっとうしい」
てなぐあいに。
でも、その女々しい浪人が実はけっこう剣を遣えることや、
潔く切腹したことを知ると、
「死なせるには惜しい男じゃった」と言う。

料亭の離れについた便所で盗み聞きもするし、
色々興味本位で首を突っ込むけれど、
結局は、剣の腕とか男らしさとかで評価する。そんな感じ。

| 日記 | 00:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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江國香織    「いくつもの週末」(集英社文庫)

 江國さんがサラリーマンの夫と結婚したころの夫との生活を描いたエッセイ。

正直、夫婦の生活は、私たち庶民と同じような生活なのだが、江國さんにかかると、夫婦生活が選り抜かれた、生まれたてのような言葉で描かれ、我々とは全く異次元の、憧れの世界のように感じられ、感動とともにため息ばかりがでる。

 冒頭朝の公園の描写がある。
「いちばん気持ちがいいのは朝の公園だ。空気が澄んで、まだ誰も吸っていない酸素にみちている。物の輪郭がくっきりし、世界じゅうがつめたくしめっている。」
見事だ。まさに朝の公園だ。

 家のなかの情景。
テレビの音がしてすごくうるさい。新聞や雑誌、テレビのリモコン、お菓子の袋、爪切りティッシュの箱がそこらじゅうに散らかっている。

夫はその中で眠っている。それで小さな声で耳元で言う。
「もっとボリュウム下げて」リモコンを拾ってボリュウムを下げる。
「新聞は一枚一枚散らかすのはやめて」
「袋菓子の口は輪ゴムかキッチン・クリップでとめておいて。」
まるでブツブツ、ガミガミ女房だ。

そしてひととおり片付けると私は夫の横にくっついて寝そべる。腕をまわしてうしろから抱きしめると、夫は迷惑そうに顔をしかめる。
さびしさだけがいつも新鮮だ。
私は胸のなかで言ってみる。

へえー、江國さんの家でも、普通の家庭と同じで夫とちょっとしたことで、口喧嘩は日常の風景だ。だけど江国さんにかかると、それが幸そうにみえてくる。

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小倉千加子   「風を野に追うなかれ」(女性文庫)

 過激なるフェミスト小倉の作品集。1995年の出版でその時でも時代遅れの雰囲気があったが、かなり今では作品と社会状況に大きな乖離がある。

 敵は世にはびこるオジサン。

売春はいけないという。法律違反である。しかし売春は買春があるから成立する。そして買春をするのはオジサンたち。しかし社会は売春だけが責められ、買春は責められるどころか、言葉も殆ど使われない

 オジサンたちは、何でも新しいものが好き。だから買春は女子高生や女子中学生がターゲットとなる。それで、「今の中高生はふしだらで乱れている」などと吹聴する。

 買春の相手の女性は、いやいやお金のために相手をしているのに、みんな女性は喜んでいると思っている、三流週刊誌がそんなオジサンをくすぐる記事を氾濫させる。

 考えてみると、女子、女性が面白くない生活をさせられているのに、オジサンの言動ばかり。女の子は勉強はしなくていい。しつけが行き届いていて優しい、礼儀正しければ十分。
家の門限を決めるのもオジサン。なんでも「オジサン同盟」が女性の行動をしばりつける。

 売春している女性は補導されつかまるが、買春しているオジサンはつかまらない。
売春している女性も大きな快感を味わっているなんて記事を書いているのもオジサン。

 オジサンの地位はだいぶ下がってきたが、評論家の山口敬之氏の伊藤詩織さんへのセックス強要などを見ていると、まだまだオジサンの女性の敵としての岩盤は強固と感じてしまう。

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喜多喜久     「リケコイ」(集英社文庫)

 恋愛経験なし。冴えない理系大学院生の主人公森が、ある日突然恋に落ちた。相手は、卒業研究のために、森の大学の研究室にやってきたリケジョの羽生さん。

 教授より、羽生さんの指導者として森が指名される。ぎこちない会話をしながら、だんだん羽生さんとの距離が縮まってゆく。
 悶々とする日々が続き、我慢できなくなった森が、やっとの思いで公衆電話から電話する。何回か決意がゆらぎ、かけてはそく切る行為を繰り返し、やっと羽生さんと電話がつながり思い切って「好きだ、付き合ってほしい」と告白する。

 羽生さん「ごめんなさい。彼氏がいるから付き合えません」と断る。
森が未練がましく聞く。
 「もし、今の彼がいなかったからOKしてくれました?」と。羽生さんが「はい」と答える。
 森は大泣きに泣くのだが、青春純情男性は変なことを思うものだ。

 これは、断られたわけではない。チャンスはまだある。交際の順番待ちの列に並んだのだと。こういう都合よい解釈がストーカーを生む。

 こんなばかな思考が日々強くなってゆく。

 ある日、教授の変わりに、羽生さんの研究発表のために森は羽生さんと仙台へ出張することになる。

 森は、羽生さんとの夜の行為を想像して、自動販売機でコンドームを購入し備える。
そして夜、羽生さんの部屋を訪れる。羽生さんはもう寝ますからと断る。それでもしつこくチャイムを鳴らす。こらえられなくなった羽生さんが少しドアをあける。

 すると森は土下座をして、大声をあげて「やらしてください」と繰り返し叫ぶ。
ドアがピシャっと閉じられる。

 なんだか森の恋は、羽生さんと抱き合うことだけがすべて。理系にはこんな人ばかり?
理系の人たちへの作者の思いはステレオタイプで、奥行きが無い。

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小池真理子    「妻の友達」(集英社文庫)

 日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞した表題作をはじめ6編の短編を収録した作品集。

主人公の広中は市役所の戸籍係に勤務。それも出張所。だから本当に暇な職場。5時10分前には帰宅準備をして、5時には役所を出る。
 5年前に志津子と見合い結婚。娘にも恵まれている。

志津子についての広中の評価。
「優しくて気配りのきく家庭的女で、広中の少ない給料をやりくりする能力にもたけており、満点をやってもまだたりない女房だ。」

 控え目で家を守る、理想的なパートナーと思っている。
そんな志津子が、ある日料理教室に通いたいと広中に言う。フランス料理を学んであなたに食べさせてあげたいと。広中は許せない気持ちもあったが、料理教室に通うことぐらい許可してもいいかと思い了承する。

 ある日、多田美雪という女性から妻に電話がある。美雪は妻志津子の高校時代の同級生。
今はジャネット多田という名前で有名な女流評論家になっている。ベストセラー本をたくさん出版して、テレビにもしばしば出演している。

 多田は、広中の家の近くに引っ越してきていた。それで、忙しくて家の仕事ができない。ちゃんとお金は払うから、志津子に家の世話をしてほしいと言う。広中は反対したが、志津子は美雪の依頼に応じると頑なに言う。広中は頑なな志津子の姿勢に驚くがこれも了承する。

 約束は週一回だったが、そのうちに何か起こると約束は無視して美雪を呼びつける。家を空けることも多くなる。それどころか、家の模様替えをするから、家具を運ぶ男手が欲しいと言い、広中まで手伝わさせられる。広中の家は、美雪の下僕のようになる
このままでは、家庭が壊されると広中は追い詰められる。

 それで広中はある夜美雪に呼び出されたとき、美雪の首をしめて殺害する。犯行後、家に帰ると、ジャケットの袖口のボタンがとれて無いのに気付く。家のどこかで無くしたのかもしれないと探すがみつからない。

 警察がやってきて事情聴取をするが聴取は通り一遍の内容でボタンのことは聴取されない。それで殺しの現場には落としていなかったと広中は安心する。

 ある日妻志津子が、彼女の服のポケットから袖口のボタンを広中にみせる。広中の殺害直後、美雪の部屋を訪れ、死体のそばで拾った。それから警察に電話したと。

そして、
「私と離婚してほしい。料理教室の先生を愛している。離婚してくれないなら、このボタンを警察に持ってゆく」と。女性だって、いつも恋をしていたい。広中は完全に志津子に敗北した。女性の底に秘めた執念を表現した、鋭いミステリーだ。

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村山由佳  「風は西から」(幻冬舎文庫)

 私の知り合いに、25歳から最近40歳まで大手外食チェーンの店長をやっていた人がいる。

 社員は店長と副店長の2人。後はシフト制で80人のアルバイトを抱えている。店長の仕事というのがすさまじい。毎週副店長と交代で最低1日は休暇がとれることになっているが、現状は月1回が精いっぱい。

店は午前11時開店で閉店が深夜0時。店長はアルバイトが出勤してくる9時前には店に行き、材料の納品から仕込みをする。そして深夜0時の閉店までみっちり働く。この間1時間の休憩がとれることになっているが、15分がせいぜい、休憩も昼食、夕食もとれずぶっ通しで働くことが多い。


 深夜0時閉店後、店の清掃片付けそしてアルバイトを帰宅させレジのお金をチェック。その後、明日の材料の仕入れ明細を作り、本部に発注。それとともに本部に売り上げとその日の損益を報告。そして本部へ日報を送る。毎週のスタッフのシフト表を作成。

 全部順調にいって、仕事が終わるのが午前三時。すこしトラブルと家には帰宅できず、店のバックヤードに泊まる。

 だから通常帰宅は朝4時。それから仮眠と簡単な朝食をとり朝7時判には店に向かう。
 これで、40歳になって、年収が店長でもやっと400万円をこえるくらい。

彼は店のアルバイトの女性と15年前に結婚しているが、店をやめるまで新婚旅行はおろか夫婦で旅行したことがない。店をやめて、友達に沖縄旅行プランと手配をしてもらい、やっと旅行ができた。

 紹介の物語。居酒屋チェーンの「ワタミ」の自殺事件をベースにしていると思われるが、よく調べている。内実は全く物語の通りと思う。

 そのブラック企業ぶりは、私の知り合いの外食チェーンと全く同じ。
「ワタミ」はこの作品で自殺した主人公にブラックぶりを全面謝罪し、企業体質を改めると宣言したが、最近また残業代未払いで大問題を引き起こしている。

この作品で描かれた実態は何も変わっていない。
作品、読んでいて辛く、切なく、悲しみがこみあげてきて大変だった。

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| 古本読書日記 | 06:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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道尾秀介    「背の眼」(下)(幻冬舎文庫)

 物語では、東京から移住してきて白峠村で「あきよし荘」という民宿を経営する歌川という人が登場する。

 この歌川は「あきよし荘」を始めた直後妻秋子を骨肉腫で失う。
息子秋芳と2人暮らしとなるが、この秋芳も川に落ちて死んでしまう。歌川は秋芳は彼がハモニカを教わりに遊びにゆく痴ほう症の呂坂寿々に殺されたと疑い、寿々を自殺に追い込もうとする。
 同時に歌川には死んだ秋子の人格が棲みつく。

この歌川に棲みついた秋子が、次々児童を殺害する。
ここが物語の評価をわけるポイント。

 秋子は息子秋芳の死を悲しんで、秋芳の死に対する復讐として、秋芳と同い年の児童を次々殺害する。

 秋子が歌川に憑依して、肉体は歌川だけど、実態は秋子として、児童を殺害するのは、なるほどホラーとして納得はいくが、秋芳と何の関係もない児童を秋芳の復讐として殺害するのはいかにも動機としていかにも弱い。

 憑依のアイデアはうまい発想と思えるが、もっと納得できる動機を創造して欲しかった。

 本のタイトルにもなっている背に眼が写真に写っている人が必ず自殺することについて。
これは、眼が写っている人が自殺に至るのではなく、自殺しようとしている人に、死んだ人が、霊界のほうが住みごこちが良いよと、死のうとしている人の体にとりつくために起きる現象と説明されている。

 読みやすいが、モヤモヤ感イライラ感が残る作品だった。

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| 古本読書日記 | 07:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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道尾秀介     「背の眼」(上)(幻冬舎文庫)

 道尾の処女作。第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作品。

主人公の作家道尾は福島県の山村白峠村を訪れる。そこでは、最近児童失踪事件が多発していた。そんな村で「レエ・・・オグロアラダ・・・ロゴ」という不気味な言葉を聞く。

恐ろしくなった道尾は旅を途中で打ち切り、東京に帰って学生時代の友人で「真備霊現象探求所」を運営している真備を訪ね、白峠村の怪奇現象について説明する。

 物語は主人公道尾、探求所所長真備、探求所で働く北見研究員によって2つの謎の真相を追及する過程を描く。

 一つは、3人が連続失踪事件の起きている白峠村と隣町の愛染め村を訪れ、事件の真相を追う。もう一つ、探求所に送られてきた手紙に同封されていた写真に写っている人の背中に眼があり、その眼が背中に写っている人は必ずその直後に自殺をしている。この眼が誰の眼で、なぜ眼が背中にある人は自殺するのかそれを解き明かすこと。

 失踪事件は4人の児童がいなくなるのだが、一人は首から上だけ見つかり、残り三人は行方不明になっていた。白峠村には天狗を祭る伝統行事があり、失踪した3人は天狗が攫って神隠しにあったと信じられている。それに、真備の探求している霊や憑依が加わり、物語の色調がこの世のことではなく霊界の物語になる。子どもたち失踪の真相も霊の作用が原因となるのではないか、それはないよな。だってサスペンス大賞特別賞受賞作品じゃないか。そんな心配が膨らみながら上巻を読み終える。

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| 古本読書日記 | 07:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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連城三紀彦 『夜よ鼠たちのために』

一時期、この作者の作品にはまっていました。
そして、ほとんど手放しました。この本も昔持っていたはず。

IMG_0034.jpg

年月が経ってみると、記憶に残っている話って、
映像化もされた「私のおじさん」とか、主人公がヒトラーの隠し子というトンデモ設定とか。
あと、シンプルな短編なら、いくつか筋が思い浮かぶ。
最後に買った「処刑までの十章」は、
「ここで終わり? 晩年は最後まで集中して書けなかったのか?」
とモヤモヤした。性別に関するミスリードがあったことしか覚えていない。

特徴は、超絶技巧、どんでん返し、気取った文章、ですかね。
この本の9章も、多かれ少なかれそんな感じ。
設定や推理が強引なものもありますが、
表題作は、ちょっと読み返しても、上手くぼかしてあって矛盾がない。
丁寧に「あの記述は、別視点だとこうなる」と、振り返って教えてくれる(=゚ω゚)ノ

| 日記 | 00:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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剣客商売3 陽炎の男

「お覚悟は?」
「まぁ、やってみましょう」
「大治郎どの……」
と、そこまではいかめしい男ことばであったが、つづけて、
「お気の強いこと」
と、いった三冬の声は、女そのものであった。

という具合に、三冬が女らしくなっていきます。
物語開始時は十九歳で、作中ではちゃんと時間が流れますからね。
いつまでも、さっぱりとした姿の青年剣士って感じじゃいられない。
脱ぐと、意外と肉置きが豊かで、むっちりしているらしいです。

IMG_0034-1.jpg

これはブックオフで買ったんですが、次の巻はありませんでした。
なので、続きはTSUTAYAで定価購入💸

| 日記 | 00:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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黒川博行    「暗礁」(下)(幻冬舎文庫)

 黒川の「疫病神」シリーズには、二宮、桑原以外に個性的で変わり者がたくさん登場するのだが、その中でも、桑原の手下のセツオが変わっていて面白い。

 二宮がセツオに聞く。
「ところで、最近の穴場はどこです。
「穴場ね・・・。『ベルプラザ』の占いゲームコーナーがよろしいわ。都島高校の女子高生がたくさん立ち寄るから。」
 セツオは暇さえあればデパートやスーパーの女性トイレに入り、鏡を使って隣のブースを覗くのを生きがいにしている。
 一年ほど前、デパートの警備員につかまって問い詰められる。それで鬼瓦のような婦人警官のパンツまで覗いたことを白状させられる。警察官のパンツまで除くとは、完全に病気だ。

 桑原が、東西急便の裏金三千百二十万円をかすめ取ろうとする。桑原が成功したあかつきには一割の三百万円を二宮にあげるという。
 二宮が怒る。三千百二十万円の一割は三百十二万円じゃないかと。桑原がお前はせこいなあと嘆く。二宮が言う。
 「その十二万円で宝くじを買って三億円が当たることになっているのだ。」と
裏金をかすめ取る物語に、関西風の珍事件や、漫才のようなやりとりが覆う。

 このところが、面白くてたまらない。だから黒川作品は病みつきになる。

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| 古本読書日記 | 07:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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黒川博行     「暗礁」(上)(幻冬舎文庫)

 ヤクザの主人公二宮と二宮にとって疫病神である桑原のコンビが暴れまくる「疫病神」シリーズの第3弾。裏金が使われる事案を特別な嗅覚を持って探し当て、その裏金をかすめ取ろうと企む桑原。黒い金が動く危険な場所に行かせる。使い走りをやらされる二宮。

 今回の物語は、以前あった佐川急便闇献金事件を参考に書かれているようだ。

運送会社は、運転手が交通違反したり、事故を起こしたりする場合が多い。それをもみ消したり、違反を軽減したりするため、警察と癒着する。また、その不祥事をヤクザが嗅ぎつけ桑原のように会社を揺さぶる人間がいる。更に、交通規則を変えてもらったり、有利な許認可を得る度ために、警察幹部や政治家とお金を渡したり、運送会社は幹部を含め多くの警察OBを受け入れる。

 物語では運送会社大手の東西急便株式会社が子会社の奈良東西急便にヤクザ、警察対策金40億円を与える。この金、本社では使途不明金として税金を払えば、金の使途は問われることは無い。

 子会社の奈良東西急便には警察OBの幹部がいる。お金に染まった幹部がヤクザや、警察対応だけにこの金を使うわけではない。自分の懐にいれるのである。しかし単純に懐に入れると伝票が作れないし、場合によっては背任で逮捕されることになりかねない。

 物語では、警察幹部OBの権力の傘の下にいる現役警察官に相談顧問料の名目で給料を振り込み、幾ばくかは警察官が手に入れるが、殆どはOB幹部の指定口座にお金を還流させる。

 佐川急便事件のときは、政治家への贈賄金を従業員に給料として一旦振り込み、それを寄付金として指定口座に振り込ませそれを政治家に提供していたことを思い出した。

 給料を使って、マネーロンダリング。そして、政治家や警察上層部は黒い金を手に入れる。
とんでもない連中だ。

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| 古本読書日記 | 07:31 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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吉田修一   「ウォーターゲーム」(幻冬舎文庫)

 3部作「鷹野一彦シリーズ」の完結編。相棒の田岡亮一はもちろん、前2作に登場するアヤコ、デイビッド・キム、中尊寺も登場。手に汗握るノンストップアクション小説となっている。

 クライマックスのアヤコとイギリス投資会社の女性専務マッグローとのパーティ会場での戦いは筆致も見事で読者をうならせる。
 裏切り、だましあい、駆け引きが全編途切れることなく続き、興奮が止むことが無い。

  この物語は、最近話題になっている、水道事業の民営化を扱っている。水道は戦前に敷設された水道管の多くが腐食していて、多くの市町村で時々水道管が破裂。その修復や、修理に膨大なお金がかかり、公共事業では維持困難になっている。

 そこで民営化にしようという動きがある。民営化をしている先進国はフランス。この物語でもフランスの民間会社が、政治家と組み、市町村などに売り込もうとする。

 官から民へというときは、必ず政治家が絡んできて、民間会社からお金を手に入れる。
しかし、生活のインフラである水道事業を民間に委託することに、住民は不安があり、なかなか進まない。

 世界では、ボリビアなどで、民間委託が行われたが、水道料金が4倍にはねあがり、低所得者層の人たちには水がいきわたらないという現象もあちこちで起きている。元祖民営化のフランスでも地方行政に移す動きもおきている。

 この物語、話の運びは卓抜で素晴らしいのだが、最初のとっかかりに納得感が無い。

 民営化を進めようとする、政治家中尊寺とフランスの民間会社が、5か所あるダムを爆破、ダムを決壊させ、下流の集落を水に飲み込ませ大被害を起こそうとする。ここから飛躍するのだが、爆破により水利事業の民営化の世論を作ろうとする。

 ここが物語の肝になるのだが、ダム爆破が水利事業民営化の引き金にどうしてなるのかがよくわからない。そんなことにはならないように思う。
 肝心なところが弱い。作品は面白いが、ずっとひっかかる。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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南杏子    「サイレント ブレス」(幻冬舎文庫)

 著者の南さんは、25歳で夫の転勤に伴い、イギリスに行き、33歳で大学の医学部に入学38歳で卒業、老人医学を修め、現在終末期専門医療病院に勤める、現役のお医者さんである。そして55歳で作家デビューを果たしている。

 先日難治性ALSの患者の嘱託殺人事件が発生し話題となった。ALSは一旦患うと、筋の萎縮が進行し、治癒方法がなく、いずれ寝たきりとなり最後は死に至る病である。全く動けなくなり、あとは死が待っている状態で、医師に殺してほしいと依頼し、実行された事件である。死を待つしかない状態で、殺害を委託する。法律では違法なことなのだが、そのことがいけないことだと断じることができない、考えさせられる事件だった。

 この作品、6編の中編小説からなっているが1編を除いて、5編は余命幾ばくもない患者が、自宅での医療を選択して、主人公の女医が、訪問医療をして、終末医療を行う物語になっている。

 この物語で権藤という大学の名誉教授が、すい臓末期がんになり、自宅療養を選択、主人公が訪問医療を行う。権藤は主人公が治療をしようとするを必要なしと拒否する。
弱った主人公が上司の大河内教授に相談する。

大河内が主人公に言う。
「治療を受けないで死ぬことはいけないことなのかな?水戸君(主人公)医師には二種類いる。わかるか?」
「治療できる医師とできない医師ですか。」
「違う!死ぬ患者に関心のある医師と、そうでない医師だよ。よく考えてごらん。人は必ず死ぬ。いまの僕らには、負けを負けとおもわない医師が必要なんだ。
死ぬ患者も、愛してあげてよ。治すことしか考えない医師は、治らないと知った瞬間、その患者に関心を失う。だけど患者を放りだすわけにもいかないから、ずるずると中途半端に治療を続けて、結局、病院のベッドで苦しめるばかりになる。これって患者にとっても、家族にとっても不幸なことだよね。死ぬ患者を、最後まで愛し続ける医療をしてほしい水戸君には。」

 現在南杏子さんは終末医療現場で勤務している。南さんの経験からくる重い言葉だ。

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| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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益田ミリ   「ちょっとそこまで旅してみよう」(幻冬舎文庫)

 フィンランド、スウェーデン旅行記が多くを占め、ちょっとそこまでというような旅行記とは少し異なる。

 ある日益田さんは宝塚市に行く。目的地は宝塚歌劇ではなく、近くにある「手塚治虫記念館」。

 中学時代に昆虫好きの手塚が、昆虫標本を模写した絵は圧巻。チョウチョも、カナブンみたいな虫も、足の一本、触角の一本、細部にいたるまで細かく描かれている。もはや図鑑である。

 この見事な昆虫の絵を前にして、益田さんは手塚の作品によく似ている虫の絵を思い出す。17世紀オランダで活躍したアマチュアの科学者レーウェンフックのことである。彼は自作の顕微鏡でミクロの世界を観察した人だけど、観察スケッチを上手く描けない。それで同じ時代に活躍した同郷の熟達画家フェルメールにスケッチをお願いして描いてもらったという伝説がある。このフェルメールの描いたという絵が、手塚治虫の昆虫の絵とそっくりなのである。

 手塚の絵も伝説の絵も光の加減がやわらかで、めちゃくちゃ美しい。絵は単なる虫の絵ではなく、物語を奏でている。

 伝説の絵画、手塚の絵画を見たくてたまらなくなる。

時々手塚は締め切りに作品が間に合わず、雲隠れをする。そんなときは、赤塚不二夫とか藤子不二雄が手塚の漫画を真似して作品にする。それも、この記念館に展示されている。手塚の作品にそっくりだそうだ。

 しかし真似た作品は過去使われたことは無かったそうだ。面白い話だ。

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| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有川ひろ    「アンマーとぼくら」(講談社文庫)

 主人公はかの幕末の志士と同じ名前の坂本竜馬。北海道に住んでいる。竜馬の父親はカメラマン。子どものまま大人になったようなわがままな父親。母親は竜馬が通っている小学校の先生。母親がガンになるが、父親はしょっちゅう仕事と言って、外出、旅行ばかりしていて、母親の見舞いや世話は殆どしない。母親が危篤になった時も、父親はどこにいるか不明状態。結局連絡がつかず、死に目には会えなかった。それで、母方の親類たちからは、父親は徹底的に嫌われていた。もちろん主人公の竜馬も父親を嫌っていた。

 そんな父親が突然沖縄に行こうと言う。沖縄に行くと、晴子さんという女性を新しいお母さんだと紹介される。そして、北海道から沖縄に引っ越しをさせられる。まだお母さんが亡くなったばかりなのに。

 物語で、一番ぐっときたのが、母親の三回忌に行くか行かないか父と竜馬が悩む場面。

三回忌に行きたくない父が
「もう、お母さんは亡くなったのだから忘れろよ」

まだ亡くなってからたった2年、忘れられるわけはない。頭にきて竜馬はクソ親父と父親を殴ろうとすると、そこに見知らぬ男が突然現れて、父親をぶんなぐる。そして、竜馬を指さして、こいつに謝れ!と怒る。
「まだ2年しかたっていない。お前だって忘れていないんじゃないか。自分ができないのに、子どもに強制するな。」

 その時、父親は大声をあげて泣く。
「竜馬が覚えていたら、俺も思い出しちゃうじゃないか!」
父親はずっと泣き続ける。
 見知らぬ男は、父親の胸倉をゆすりながら、
「それでもあんたはコイツのおとうさんだよ!」
「頼むよ3回忌に連れて帰ってくれ。」
泣き続ける父の肩に手を竜馬がかける。父が振り返って男に「ありがとう」と言おうとすると男はふっと消えていなくなっていた。

 ここがすばらしい。この消えた男は、大人になった竜馬なんだと想像ができじんとくる。

この物語、竜馬が久しぶりに新しいおかあさんに会いに沖縄にやって来て、小学校から今までをたった3日間の滞在中、再度体験する。
 最初の母は亡くなり、二番目の母も心臓発作で亡くし、父は海の事故で亡くす。そして今や竜馬は32歳、妻と息子がいる。

  有川さんが今までの作品の中で一番できがよい作品と自画自賛する。私もそうだと思う。

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| 古本読書日記 | 06:23 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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浦賀和宏     「彼女は存在しない」(幻冬舎文庫)

 ミステリーのトリックに叙述トリックというのがある。

叙述トリックというのは、ある出来事をそれが本当に起きたことのように叙述して、読者にそれが事実として刷り込ませ、実はそれは事実ではなかったと最後に明かす方法のミステリーである。読んでいる作品が叙述トリックを駆使している作品だと知らないで読むと、まずたいてい出来事は事実であると思い読み進み、作者の手の内にはまり込む。後で読み返すと、確かに出来事は事実のように書かれているが、断定している部分はない。

 この物語には根本亜矢子という引きこもりの20歳の女性が登場する。そんな亜矢子が、時々外出し、横浜駅前で雑踏の中にたたずむ。その時は由子という女性になる。

 亜矢子は「解離性同一性障害」という障害を抱えている。「解離性同一性障害」というのは、一人の人間が複数の独立した人格を持ち、全く別の人間になって現れる人のことを言う。

 この障害は、幼少時家族から激しい虐待を経験していた場合にしばしば発生する。その虐待の記憶がまったくない人格があらわれたり、虐待の記憶が突然よみがえり、その記憶に従った人格の人間ができたりする。

それが正しい理論のように、説明があり、更にそれに重ねるように、亜矢子が幼児から小学生の頃、父親に性暴力を受けていたことを亜矢子の兄、有希が見ていたことを挿入する。これにより、読者は亜矢子が完全に「解離性同一性障害」だと思ってしまう。

 それが原因で、亜矢子はたくさんの人殺しをしたことになってしまう。

 ところが最後に近くなって、物語の様相がおかしくなる。事実かどうかわからないが、実は父親に犯されていたのは亜矢子ではなく、兄の有希で、それを見ていたのが妹の亜矢子。

しかも亜矢子を幼い頃犯していたのはおじさんだった。更にここに本当に幼い頃父に犯されていたという由子という女性が絡んでくる。由子は亜矢子の隣の家に由子は住んでいた。

 多くの女性の登場でこんがらがり、殺人を犯した犯人がわからなくなる。

 凝りに凝った叙述トリックを活用したミステリーであるが、あまりにも使いすぎに思える。

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西澤保彦    「身代わり」(幻冬舎文庫)

 ミステリーの殺人に交換殺人という方法がある。ヒッチコックの名映画、パトリシア・ハイスミス原作の「見知らぬ乗客」が有名である。
 
 AはBを殺したい。CはD殺したいと言う場合、AはCに依頼してBを殺してもらう。そしてCはAに依頼してDを殺してもらうという方法である。
 そして互いの殺人を行う時、AとCは完璧なアリバイを造っておく。
警察は当然Bの殺人のときはAを、Dの殺人のときはCを犯人として調べるがアリバイがあるため犯人にできない。

 しかしこの方法は現実的には殆ど不可能。まず、何よりも殺意を抱いている無関係な他人を探すこと。更に殺人をしてもらうことに同意させること。そして、AとCが殺人について打ち合わせをすること。接触があれば2人があっていることを警察に発覚する恐れが発生する。

 更に、一方の殺しが実行された場合、もう一方が殺人をすることを忌避する可能性が強い。例えばAがDを殺害するが、CがBの殺害をやめる。Aは殺人犯となるが、Cは殺人教唆だけで罪は軽くなる。

 この作品は交換殺人を扱っている。殺人依頼の打ち合わせは神社にある大木のウロに手紙を入れることで実施する。

 しかし、殺人を約束した相手が、その約束を反故にする。それで約束を反故した人を、交換殺人を約束した一方の当事者が殺害することで物語は終わる。

 西澤さんは真面目な作家だ。交換殺人物語に挑戦したが、どう描いても交換殺人は不可能になってしまうことを真面目に物語にしてしまった。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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石田ゆうすけ    「行かずに死ねるか」(幻冬舎文庫)

 7年半をかけて自転車で世界一周をやりきった紀行記。

 解説の椎名誠が言っているが、タイトルが露悪的、下品でよくない。売るためにどぎついタイトルをつけたと思われる。 タイトルが下品のため、7年半自転車世界一周はしたのは事実だろうが、内容はところどころ眉唾部分がある。

  例えば、エストニアで出会った15歳の少女タイシアが、著者に恋してバス停で抱きついてきてキスをしたところ。ひねくれ読者の私は本当かなと苦笑してしまった。400ページを超える作品。潤いのために恋愛シーンが欲しいと無理やり作ったのでは?

 アラスカのユーコン川の川沿いで焚火をして、川魚を焼いて食す。皆、焚火を囲んでいる。

 後ろ向きに竿を振って背後の川にルアーを投げる。ルアーが着水すると同時に魚がかかる。そこで後ろ向きにルアーを戻すと、魚が焚火の上から落ちる。そして魚が焼けて食べる。

 すごい!ダイナミックな食事方法だ。これは著者の体験ではなく逸話。念のため。

 国境を超えると、環境、社会ががらっと変わることが多い。アメリカとメキシコでは本当にがらっと変わる。
 この作品で、アメリカ テキサスの町エルパソからリオグランデ川を越えて、メキシコの国境の町シュウダッドファレスに到着する。

 「街は人と車であふれかえり、クラクションがあちこちでヒステリックに鳴っていた。歩道には、体のあちこちが奇妙に曲がった物乞いたちが5メートルぐらいの感覚でずらりと並んで座っている。あばらの浮き出た犬が歩き回り、暗がりにたむろしている男たちがぼくをギロリとにらむ。戦火の跡かと思えるような崩れたビル、漆喰のはげ落ちた家、亀甲状にひびわれた道路、きついアンモニア臭―だんだん気持ちが悪くなった。」

 私も25年前、同じ道をたどってメキシコに入った。まったくこの作品の表現通りだった。

 メキシコシティーの支店に行った。地下に射撃場があり、従業員が射撃訓練をしていた。
とんでもないところにやってきたと驚愕した。

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