宮下奈都 「つぼみ」(光文社文庫)
主人公の晴子は、普通の高校、大学をでて、薬の卸問屋で地味な事務員として働いている。
同じように大学を卒業して、さっそうとマスコミや外資企業で活躍している人たちがまぶしく見える。しかし、近所や親せきの人たちが「いい会社に就職できてよかったね」とか離婚して女手ひとりで育ててくれた母親が安心したと言ってくれて、そのまま地味な会社で働き続けている。
しかし、弟の晴彦は、頭が悪いわけではないのだが、一本芯がなくいつもふらふら揺れ動いている。進学校である高校を中退する。そして入った会社もすぐやめ、高卒認定試験を受けるといってみたり、やっぱり働くといってみたりして、自分の道が定まらない。
その晴彦がコンビニのアルバイトを決めてきたと言う。
晴子とつきあっている祐介が、それは素晴らしい。就職祝いをしようといいしてあげる。
祐介が晴彦に言う。
「若いうちはいろいろやってみるといいよ。何事も続けてみないとわからない。千里の道も一歩より、って昔の人は言ったんだ。晴彦くんも、頑張って、今度は続けなよ。」
コンビニのアルバイトに決まったことは、お祝いするようなことでもないし、夢のある仕事でもない。とても訓示をたれるような職場ではない。
案の定、晴彦はアルバイトをやめて、また家でぶらぶらするようになる。
そんな晴彦が、変なことを言い出した。自分にはとんでもない才能がある。
それは、自分が店にゆくと、それまで客がいなかった店にその後たくさんのお客がやってくる。お客をひっぱってくる才能がある。だから自分を客として雇えば店は繁盛する。
しかし残念なのだが、いくつか売り込みに行ってもだれも採用してくれない。姉の晴子に一緒に行ってほしいと。ばからしいとほっといたら、何と世の中には変わった店がある。晴彦を昼食付で雇う雑貨屋があった。
晴子は晴彦のバイト初日、雑貨屋に行ってみる。晴彦は何もしないで、ふらふらしている。しかし客は誰もやってこない。
夕方晴彦が帰ってくる。一日でクビになったと。晴子はどっと疲れがでて、大きなため息をつく。
ちょっぴり意表をつく物語。大きな救いようのないため息が、本の中から立ち上がった。
「晴れた日に生まれたこども」という作品より。
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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑