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2020年06月 | ARCHIVE-SELECT | 2020年08月

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原研哉   「デザインのめざめ」(河出文庫)

 日本を代表するグラフィック デザイナー原研哉のデザインについての考え方をテーマにしたエッセイ集。
 
プロ野球のソフトバンク。一時の巨人の長嶋監督のように他球団の主力選手を欲しい欲しい病がすさまじい。

西武のセーブ王サファテ、打者ではグラシアルとデスパイネを獲得、更に今年はヤクルトの主砲バレンティン。
 まったく、ただでさえ12球団随一の選手層の厚さ。全試合勝利しても不思議なことではない。

このソフトバンクが不思議なのだが、無名選手の集団のロッテに弱いのである。

 野球もこの際、無名の地味だが実力のある選手だけを集める。ヒットを量産するバッター。球速120KM/hにも拘わらず、たくみな投球術でバッターを抑える40歳過ぎのピッチャー、効率のいい働きをする熟練した内野手。こんな選手を集めてプロの観客をうならせる。監督も工藤のような派手な人ではなく、地味な監督がいい。こんなイメージにあうロッテには金満球団をやっつける試合を今年も望みたい。

 ヨーロッパに行くと、公衆トイレで、ハエが止まっているのではと錯覚する便器に遭遇する。しかしよくよく見てみると、これが便器に印刷されていて、ハエではない。これは何かとデザイナーの原さんの説によると、エレガントな芸術というのは、完璧なものにちょっぴり破綻を加えてやることによって生まれるも。だからこの便器はエレガント芸術なのである。

 私は、単に便器メーカーの企業マークだと思うのだけど。いやそうじゃない、小便はここに向かってしろ。という標的のようにも思える。

 アマゾンの都市、マナウスにはオペラ劇場がある。豪華な建物で劇場入口までのアプローチはアマゾンで取れた高級ゴムが敷き詰められている。

 アマゾンはゴムの大生産地なのだが、これを獲り輸送するのが大変。それで考えたのが、ゴムの木をマレーシアに移植すること。マレーシアはゴムの生産世界一なのだが、それはアマゾンからやってきたのだ。このエッセイで初めて知った。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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梶山三郎   「トヨトミの野望」(小学館文庫)

 著者名から面白い。多分企業小説の草分け梶山季之と、大御所の城山三郎の姓名からとったのだろう。こんな小説を実名や身分がわかるような名前で書いたら、世の中から抹殺されるかもしれない。それくらいリアルさを持って作品は書かれている。

 トヨトミというのは言うまでもなく現在30兆円の売り上げ、3兆円の利益をあげる、世界最大の自動車メーカー、トヨタのことである。

 トヨタというのは、尾張の田舎企業。豊田家は社長を輩出しても、その個性は消され、殆ど目立たず、ひたすら生産工程のムダを毎日のように省くことに集中して一銭、一銭を積み上げ、ひとりひとりの個性よりも集団としての秩序と効率を最優先し、ただただ会社を存続・拡大させ利益を追求する会社だと私は現役時代に思ってきた。また当時巷にはトヨタの改善システムを称賛する本が溢れていた。

 物語では武田となっているが、豊田家以外の人間で社長についた奥田のことがとりあげられている。奥田は、尾張モンロー主義に固まっているトヨタを、大きく成長させるために、今までの社長のカラーを破り、中国に工場を建設したり、アメリカケンタッキー、テキサスに工場を建設、更に英国とフランスに工場を建設し、グローバル市場にうってでた。アメリカでは、工場進出をスムーズにさせるために、膨大な金をつかいロビイストをたくさん使った。

 こんな派手な社長はかっていなかった。
更に、ハイブリッド車の開発に踏み切った。ダイハツや日野も子会社化した。

 もし奥田の采配が無かったら、とても30兆円を売り上げる企業にはなりえなかった。
その後、奥田の息のかかった社長が2人続き、奥田はその間に豊田家脱却を目指した。
しかし豊田家の猛烈な攻撃に敗れ、現在社長は豊田家にもどされた。その経過をまるで目の前で行われているようにこの本は展開させてみせている。

 この作品は単行本で講談社が出版したものだが、よく講談社はこの作品をだしたものだ。この本が出版されたとたん、名古屋の書店からこの本は一斉に消えたらしい。

 面白いと思ったのは、名古屋駐在のトヨタ担当の記者安本がスクープを他社にとられ、東京本社に左遷される。安本の妻沙紀は、豊田市に生まれ育ちしかも父はトヨタの現場で働き定年を迎えていた豊田にすべて寄りかかっていた家庭、だから東京行きに難色を示した。しかし仕方なく東京についてゆく。その安本が8年ぶりに名古屋に帰ってきた。しかし、沙紀は喜ぶと思ったのに故郷に帰るのはいやだと拒否して、結局安本は単身名古屋にくる。

 沙紀は生まれたのもトヨタ病院、トヨタのスポーツクラブで水泳、体操を習う。トヨタ系列の式場で結婚し、同じ系列のスーパーで買い物し、大半の人がトヨタに勤め、車がトヨタしか走っていない。死ぬときも葬式、墓地もトヨタの世話になる。初めて短大進学で名古屋にでて驚く。トヨタ以外の車が当たり前のように走っていた。

 彼女は言う。「あんな息詰まる土地には生涯もどりたくない」と。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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阿曽山大噴火   「裁判狂時代」(河出文庫)

 裁判傍聴マニアの著者が描く、25編の裁判傍聴記録。

出会い系で知り合った男女。男がホテルでことが終了した後でお金を払う。翌朝支払ったお金を女性を暴行して取返しとんずら。罪状は「強盗致傷」

 事件の本質は男性が女性に暴行して金を奪った行為なのに。尋問がおかしい。
検察官「出会い系サイトで知り合った女性は、今まで何人になるんですか。」

被告人「過去は4人だけ」
検察官「え?そんなに!」
検察官「会った女生徒とは性交渉してるんだよね~」
被告人「はい」
検察官「あのぉ・・・セックスの交渉はどうやるの」
被告人「メールのやりとりで」
検察官「具体的にはどうやるの」
被告人「フェラしてほしいとか。騎乗位をしてほしいとか」
検察官「で、女性はどんな反応をしめすの」
被告人「いいよとか」
検察官「それで断る女性はいなかったの」
被告人「断る女性はいませんでした。」
検察官「へえぇ!」

 検察官の興味だけの質問。全く事件とは関係ない。普通裁判官が止めるのに、裁判官も興味津々で聞いている。
地方での裁判は牧歌的だ。長野地方裁判所で。

 車検がきれたので他人の車のナンバープレートを盗む。判決は罰金8000円。こんなことでわざわざ裁判をするのかね。

 被告は車を改造しているのだが、そのために母親から700万円もだしてもらっている。

弁護人「あなたは被告が18のときに離婚してますよね。」
母親 「え?してませんけど・・」
弁護士「え?一度離婚してますよね。被告人が17、18くらいの時に」
母親 「あのぉ、それは息子がまだ小さい時に一度・・・」
弁護士「ああすみません。他の事件と勘違いしてました。」

これはめちゃくちゃだ。

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| 古本読書日記 | 06:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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林民夫    「糸」(幻冬舎文庫)

 私のような古い世代にはあまり実感はないのだが、今は子供の7人に1人は貧困に苦しんでいるのだそうだ。

 この物語の主人公は、チーズ作りで栄光を勝ち取った高橋蓮とシンガポールでのネイルサロン経営で成功後、投資詐欺にあい経営に失敗した園田葵の2人だが、本当の主人公は、2人の故郷北海道の美瑛で、まだ「こども食堂」という言い方が無かった30年前から自分の年金をやりくりして、こどもたちに手料理を提供している80歳を超えた村田節子だ。

 物語の作者林は「空飛ぶタイヤ」「永遠の0」「ゴールデンスランパー」の映画の脚本を手掛けた有名な脚本家だ。
 物語は、深堀が不十分で、内容は薄い。しかし名脚本家、最後に思いを込めた場面を用意していた。
 主人公の蓮も葵も小さい頃、節子の家によく行き、節子のだす食事を食べていた。

節子の家に食事をしにくる子供は、親が子供の育児を放棄したり、生活苦で子供を養えない家庭の子、(この物語では葵が該当)、もいるが、普通の家庭で両親が共働きで不在のためやってきて食事をする子供もいる。

 節子が雑誌記者の取材に答えて吐き出した言葉は。著者林民夫の叫びだ。

「子どもの面倒がみられない親というのは昔からいたからね。近所の人間が食事を与えるなんてことは当たり前のことだったんだよ。親がいなくても共同体が子どもを育てることができたんだ。でも十年ぐらい前からね、・・・いや、震災のもっと前からだね。目にみえる形で子供が変わったんだよ。あんたは飯を食ったら、とりあえずは笑顔になっただろう。でも、違うんだ。表情が無いんだよ、今の子は。飯を食っても。食う前と何も変わらないのさ。まだ、子供なのに、人生はこんなものだと達観したような感じなんだよ。親も変わったよ。昔の親は、嘘でも、いつもありがとうございます、すみませんと言ったものさ。今は違うんだ、もっと栄養のあるものはないんですかなんて、文句を言うんだよ・・・あ、この煙草かい?言いたいことはわかるよ。言いたいことはわかる。言いたいことはわかるって言ってるんだろうが。今は子供の前じゃすわないようにしているよ。でもこっちは無償でやってるんだよ。当たり前に権利だけを主張してさ。感謝の言葉をかけてほしいわけじゃないんだよ。でも文句を言われる筋合いもない。そうだろう?それが、昔のように、あきらかに暴力をふるう人間とか、社会から逸脱した人間とかじゃ無いんだよ。ちゃんと会社勤めをしている普通の人間なんだ。毎月、給料もらって、平凡な暮らしをしている連中なんだよ。金がないわけじゃない。それなのに子供を放置するんだ。なのに文句だけは一人前だ。社会に繋がっているように見えるけど、どこにも繋がっていないように私には見えるけどね。」

 さすが脚本家。こんな喋りは作家にはできない。特に煙草についての喋りは。

この作品は中島みゆきの「糸」をモチーフにしている。映画と本を抱き合わせにしてヒットさせようとする幻冬舎社長の得意の戦略。さて、その思惑通りにゆくだろうか。

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澁澤龍彦    「妖人奇人館」(河出文庫)

 怪人ラスプーチンや切り裂きジャックノストラダムスなど歴史上の怪人奇人をとりあげ
軽妙な語り口で紹介するエッセイ集。

 あの超ベストセラーになった五島勉の「ノストラダムスの大予言」より以前に澁澤はノストラダムスを紹介している。ノストラダムスは」16世紀はじめフランスに登場した文学者で、奇怪な「予言集」を残している。ナポレオンの登場、ヒットラーのユダヤ人虐殺や第二次世界大戦を予言している。しかし、実際は後の研究者がかなりこじつけて予言を解釈した結果が多い。1997年7月に大戦争が起こると予言されているが、何もなく過ぎ去った。

 2020年のコロナ汚染も当てているらしい。

面白かったのは18世紀に登場した「不死の人」サンジェルマン伯爵。何しろ2000年も生きている。カサノバが食事に誘ったが、2000年も生きていると、生きるための基本的行為食事は必要なくなるので、サンジェルマンは食事を断っている。

 2000年生きていると言うことは、シバの嬢王にも会っているし、キリストの奇跡にも遭遇している。バビロンの都にも旅をしている。

 ある時、男がサンジェルマンの召使に「彼はうそをついているのだろう」と問い詰めると
召使が言う。
 「私は召使になってまだ300年しかたっていませんので、それ以前のことは知らないのです。」と答える。

 すごいサンジェルマンも召使も。

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| 古本読書日記 | 05:48 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中村文則    「R帝国」(中公文庫)

 2016年読売新聞夕刊に連載された小説。今である2020年とその先を描いているのではと思ってしまうような近未来小説である。

 R国の富裕層で最高権力者の加賀総理の発言に驚く。
加賀総理は製薬会社を率いた後に政治家に転じ、権力の階段をかけあがり総理となる。
製薬会社は時々ウイルスが発生しないと、国家の補助金が削減され、業績に悪影響を与える。
巨額の補助金により、ワクチンや治療薬を開発する。だから、期間をおいて、国際的製薬会社が結託して新種のウィルスを創り上げ、世界にわからないようにばらまく。と加賀総理は言う。

 別に、現在の新型コロナウィルス、中国人造説を信じるわけではないが、中国は16億人の人口があって、数万程度の死者はかすり傷ほどの影響を与えない。もし中国が意図的にウィルスを造り、これを利用して、国際的権力を強め、相対的にアメリカの力を減じることを目的にしていたら、かなり恐怖である。

 それから加賀は言う。
大手メディアは時々食事でもしてあげたら、喜んでお追徴をしてくると言う。
東京高検検察庁長官と大手メディアとの賭けマージャン。それでも該当新聞社は、高官、政治家の本音を聞き出すためには、懐にとびこまねばならないと言い訳する。しかし。懐にとびこんでできた記事をまったくみたことがない。スクープした週刊文春の記者はふところにとびこんでいるのか知りたい。

 人間の本来の本能は、差別、怒り、憎悪。博愛、平等、共生、絆は後付けで造られたもの。
R国は84%の人たちが貧民層に属する。貧民層は4階層に別れる。最下層は移民の人たちが占める。貧民層は更に低い層の人たちを差別することでアイデンティティーを確立する。

 加賀は言う。
人間は半径5M以内しか関心を持たないと。社会が、国際的になんてことには関心が無い。
そして極めつけ。

 自分は人々を好きで愛していると。蟻のようにあくせく働く姿が愛おしい。さらにそこに水を落として、右往左往する人々を見ると更に愛おしいと。

 中村は近未来のディストピアを詳細に描き切った。

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| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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成田龍一    「戦後史入門」(河出文庫)

1960年に当時の池田首相が「所得倍増計画」を打ち出す。その少し前から空前の経済の高度成長が起こった。人々は豊かになり、日本が希望に溢れ、最も輝いた時代だった。

 そんな説明の後この本は突然、無差別殺人を起こした永山則夫が登場する。そして、彼の生い立ち破綻してゆく過程を説明する。高度成長を担ったのは、地方から集団就職で都会にやってきた若者だった。しかし50%以上の若者は、仕事を次々変えてゆき困窮した。

 高度成長は希望の時代でなく、永山の視点から評価しなくてはならないと成田は言う。
歴史はみる視点により全く違ってみえてくる。いろんな視点から歴史をみるようにしなくてはならないと。
 在日コリアンの視点、女性の視点、沖縄の視点からみた戦後史を提供する。

 どこか違和感を感じる。そもそも歴史は、権力者の観点から造られるものである。

もし日本共産党が政権をとったら、歴史の事実は変えられないから、起きたことは共産党が市民とともに大きな反対運動を起こした。そいう共産党の歴史が今の政権奪取につながっていると歴史解釈を180度変えるだろう。

 成田は大学教授。自分の視点で歴史を語り、その視点を実現したいのなら、教室にとどまるのではなく、市中で活動したらどうなのか。

 日本は民主主義の国なのだから、同じ視点を持つ人々を集めて、選挙で多数を取ればよい。
 本の出版だけでふんぞりかえってだけでは何も変わらない。

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瀧羽麻子   「はれのち、ブーケ」(実業之日本社文庫)

 20歳。未来はどこまでも広がっているように思えるし、燃え上がるような恋もし、打ちひしがれるような失恋もする。仲間も差は無く、みんな平等。こんなはちきれんばかりの青春真っ只中だから、生涯の友達も生まれる。

 この物語は、大学の同じゼミ仲間の理佳子と裕人の結婚式に当時の仲間6人が集まる。

全員が30歳。この10年間にそれぞれ違った人生を歩んできた。30歳というのは、今までの人生を振り返り、新たな人生を選択するターニングポイントだ。来し方を振り返り今をどうするのか6人のそれぞれの物語を描く。

 結婚した理佳子と裕人も30歳の人生の決断をする。裕人は大学卒業後ある会社へ就職。理佳子はフードコーディネイターとして、地歩を固め名も知れるようになる。2人はゼミの時代から付き合い、特に理佳子は裕人と結婚するつもりでいた。なんでも結論を先送りする裕人は函館の実家の父が重病になり入院、そこで、優柔不断の裕人が実家の旅館を継ぐことを決心する。当然理佳子は揺れる。しかし、理佳子は裕人についてゆくことを決断する。30歳の重い決断である。

 鈴子は、一人で生きてきたこと、これからも生きてゆくことにわだかまりを感じなくなった。今、恋人を持つことは、即結婚につながる。結婚をしたいとは思わない。しばらく一人生活を続けることを決意する。

 亮は、大学卒業すると、念願だった映画会社に就職。早く、監督になって映画製作をしたいのだが、30歳になっても下っ端の助監督のまま。ひたすら下っ端で生き続ける。

 章太郎は、大学卒業後、院へ進学し、教授への道を歩もうとした。しかし恋人ゆかりが妊娠。子どもを抱えていては、生活ができない。教授の道を諦め、同じ大学の事務員となる。
 生まれてきた子供ミカの育児が第一の生活に変わる。

学生時代と10年後のそれぞれが抱えてきた暮らしの結果の今を鮮やかに対比してみせる。
10年は人生を変える。

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| 古本読書日記 | 06:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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瀧羽麻子   「いろは匂へど」(幻冬舎文庫)

 デビュー作の「うさぎパン」は高校生の恋、それから京都の大学生の恋や、都会と田舎を対比した恋を経て、この作品では大人の恋を瀧羽は描く。

 京都で小さな和食器店を営んでいる30代半ばの主人公の紫が、普段は出向かない個展のパーティーにゆく。そこでなれなれしい光山に出会う。その光山の印象も悪かったこともあり、紫は途中で帰る。

 この光山は京都では有名な草木染の染匠。
この光山から突然「自分の工房はいつ見に来てくれるのか。」と電話がある。ここからがわからないのだが、パーティでの印象も悪く、20歳も年上、どちらかといえば好みでない光山の工房へ、気乗りはしないのに出かけてゆく。

 しかもその工房には藤代という美人の女性がいる、更に藤代と光山は夫婦ではない。
そして藤代によると、光山の周りには、まだ何人か女性がいるという。

 それなのに、光山に言われ、紫は藤代、店の客であるブライアンと草木染め用の草木狩りに大原まで行く。
 私みたいな一般人には何故、紫が光山の指示に従いいやいやながらでかけるのかがさっぱりわからずもやもや気分で読むのが辛い。

 高校の頃の恋は、かっこいいだけで夢中となったり、大学生の恋は、一緒にいるだけで幸に包まれるというような雰囲気で恋が始まる。

 30代も半ばになれば、学生時代のような雰囲気で恋は始まらない。知識も暮らしも経験も豊富になり、自分にはない相手の知識専門性特殊技術など自分より秀でているものを持つ人にしか惚れない。

 30代の恋として秀でた技術多くの知識が大切、そこを瀧羽さんは全面にだしているのだろう。しかし、それがきちんと描かれないので、鈍感な私にはわからないのが辛かった。

 30代と50代が恋に陥るには、高度な技術深い見識が必要なのだ。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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ぽっちゃりコンビの散歩

コロナも自粛も関係なく、飼い主も犬もふくよかです🐖

ねえやとの散歩は、車移動です。
①はなゆめママの車には犬を乗せたくない(抜け毛と匂い)
②ねえやが長時間歩きたくない
③オフリードで走ることのできる公園は、少し離れたところにある
等々

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そんでもって、この時期は草ぼうぼうだから、
虫嫌いのねえやはますます奥の方まで歩きたがらない。
背丈くらいの草が生えていて、蜘蛛の巣が顔にかかってブヘッとなるんですよ。

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ショートコースであっても、オフリードで好き勝手動けるので、
それなりに疲れて帰ってきます。
普段から口開けていることが多いので、どこまでお疲れかはわからんけど。

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おまけ:背後にあるのは、アイリスオーヤマの空気清浄機

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堀江敏幸    「燃焼のための習作」(講談社文庫)

 築40年になる雑居ビルに探偵家業か便利屋のような事務所を備える枕木。そこに熊埜御堂という男性が訪れる。妻が息子を連れて失踪したので探してほしいと。こんな場面から物語は始まるから、探偵物かと思ったが、全く異なっていて、ひたすら、ネスカフェを飲みながら、事務員の郷子も加わって会話が続くという作品。

 会話は、過去の記憶、自分が遭遇したことだけでなく、誰かから聞いて記憶にあるものが、語られる。ある記憶が別の人の印象深い記憶を呼び起こし、まるでしり取りのように繋がってひたすらおしゃべりが行われる。

外は強い風雨。とぎすまされた繊細な作家の神経から生まれる表現は感動を呼ぶ。

「この街では、風は断続的に吹くのではなく、ひとつずつ大きな袋詰めになって建物にぶつかってくる。古いサッシ窓の鉄枠が揺れ、今にも雨が吹き込んできそうな音をたてて、球体の風と線状の風が複雑に交じり合う。都心の高層ビル群の下ともまた別種の巻き方をするのだ。小さめの底の、まだぬくみの残る小さな空き缶がいくつも、転がるのではなく筒の底の円周の一点を支えにして床運動のように勢いよくはねあがりながら移動してゆく。」

 それと面白いと思ったのが、呼び起こされる記憶が、いつも接している家族や周囲のひとではなく、全く忘れてしまったような偶然であった人や、」偶然の出来事の記憶ばかり。

 人に強く残ったり、生き方に影響しているのは、偶然の人々との交わりかもしれない。

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| 古本読書日記 | 05:55 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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瀧羽麻子   「左京区恋月橋渡ル」(小学館文庫)

 私は大学時代を寮で生活した。築60年以上過ぎていた大変な寮だった。この物語と同じように寮は大学の敷地内にあった。不思議なことは、寮生の授業出席率寮が敷地内にあるにも関わらず、非常に悪かった。寮はバンカラ風。自治寮だった。

 この作品で、大学の寮だなあと感じた部分があった。大学院で数学を研究している龍彦は、どこにいても、数学の問題を解くことだけに集中している。だから何かヒントが浮かぶと、すぐにメモをとる。トイレで浮かべば、トイレットペイパーにメモする。そんな感じのため
寮の部屋、すべてのふすま、壁、天井数学の式が書かれている。押し入れの壁にも。

 主人公は大学院で平和な燃焼エネルギー開発研究に挑戦している山根。雨の下賀茂神社で、偶然出会った美しい女性に一目ぼれする。
 理科系で不器用な山根は生まれてから22年間、女生と付き合ったり、恋をしたことは皆無。

神社で出会った女性といつかまた会うことを約束。早速その時交換したアドレスにメールして逢う日を決める。

 しかしデートはどこで何をしたらよいか全くわからない。そこで山根は龍彦の恋人の花にデートの場所を含め恋の指南をしてもらう。それを懸命にメモして、計画表を作り、実地の下見して準備万端いよいよデートをする。

 ほほえましいと思ったのが、イタリアンレストランに入った時の山根。
「十一時三十八分に予約した山根です。」三十八分。理系一筋の様子がでている。

 しかし、この美人女性はすごい女性だった。葵祭で登場する斎王代に選ばれていた。
斎王代に選ばれる女性の審査基準は厳しい。純粋の京都人で三代以上前から続く由緒ある名家の女性でなくてはならない。しかも斎王代になると数千万円が使われる。全部が選ばれた家が負担するわけではないとは思うが一千万円以上は負担せねばならない。

 山根君。そんな女性は無理だよ。でも、偶然でもそんな女性とデートできたことはうらやましい。
 現代版「ローマの休日」というところだ。

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池波正太郎 「乳房」

鬼平の番外編です。
盛り上がってくると、場面転換が激しくなります。
「同じころ……」「そのころ……」と。
数奇な運命みたいなものを、ドラマチックに描いています。

シンデレラほど派手ではないけれど、なんだか幸せになっちゃうという話。
娘の頬を包丁で切りつける、酒乱の父親との暮らしからスタート。
傷のある顔ゆえに卑屈で、かっとなって同棲していた男を殺す。
そこから、アウトローだけど親切なおっさんたちに保護されかわいがられ、
彼らの手を離れて若旦那の後妻に収まり、ちゃっかり跡取りも産む。
どんな環境にもなじむ、柔軟性のある女性なんでしょうね。
あと、働き者でもある。これ大事。

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同時に手を付けていた「鬼平犯科帳2」には、
育ての親に掏摸の技を仕込まれた女性が、
優しい男の女房に収まったものの、指がうずいてしまい、
「見逃してやろうと思ったが。お前には、臭い飯を食ってもらう」
と平蔵につかまる話が入っています。

かっとなっての殺人なら、更生の可能性もある。
鬼平も(読者も)、許す気になる。常習犯は難しいですね。

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アンソロジー   「恋の聖地 そこは最後の恋に出会う場所」(角川文庫)

 七人の女性作家が、日本各地の「恋の聖地」を舞台に描き出す、恋愛のアンソロジー。

窪美澄の「たゆたうひかり」が印象に残る。

 主人公の真奈美は、雑誌編集者。締め切りに追われ深夜すぎまで時には徹夜もする過重労働職場で働いている。
 母から、父が病気になり入院していると電話があり、仕方なく生まれ故郷の信州下諏訪にやってくる。
 そこで町役場に勤め婚活担当をしているおじさんに女の子がドタキャンし、代わりに出席してほしいと懇願されしぶしぶ婚活プロジェクトに参加する。場所は霧ケ峰の八島湿原。

 八島湿原に行く。集まった婚活男女には観光ガイドがつく。そのガイドが中学同級生だった滝本。滝本は大学卒業後就職するが会社をやめアルバイトをしながら、貯めたお金で世界を放浪した。しかし砂漠のような土地ばかりで、自分の住む場所は山がり湖もある故郷の高原だと思い帰国。八島湿原の御射山ヒュッテで暮らし観光ガイドをしている。

真奈美は東京に帰り、会社で深夜仕事をしていると滝本からメールがくる。今日の八島湿原報告とヒュッテから撮影した写真が添付されている。真奈美は自分は心身をすり減らし、深夜まで仕事をしているのに、滝本は八島湿原でのんびり仕事をしている。

 八島湿原で話したとき、この人だったら何でも話せると思いつい愚痴をいう。
「あんなにきれいな場所で仕事をしている滝本君にはわからないでしょう。広い空、美しい花、山や虫、毎日きれいなものを見て、心が洗われてちっともストレスなんてないでしょう。
毎日人の顔を見て、空気を読んで、嫌われないように、衝突しないように、神経をすりへらして。そんな経験滝本君にはないでしょう。」

 この後の滝本君の言葉が最高にすばらしい。
「山には山の愁いあり、海には海の悲しみや。」
私も故郷にいたころしょっちゅう口ずさんでいた「あざみの歌」である。

真奈美さん。苦労はあなただけではないよ。殆どの人はどこで暮らしていたってみんな哀切を背負って生きているのだよ。「あざみの歌」のように。 

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瀧羽麻子    「ぱりぱり」(実業之日本社文庫)

 瀧羽さんの小説は、会社中心のお仕事小説や都会と田舎を面白く対比して描く、コミカルな小説が中心と思って読んできたが、この作品はその作風は消え、上質な文学の香りが強い。こんな文体の作品も書けるのだと感心した。

 この作品は高校生の時にデビューした詩人中埜すみれを取り巻く人たちを書いた6話からなる連作集。

 すみれは幼い頃から個性的な子だった。自分がこれと思ったことには集中する。例えば道路の「止まれ」のれの字をみると、ずっとれの字の上に座り込み眺めて動かない。自分が他人からどう思われているか、他人をどう思うかについて全く無関心。小学校の時から授業中に席を離れ、徘徊する。他人との係りに関心がないから、独りぼっちだが、全く平気。

 関わる人や、妹や母親はげんなりするほど苦労する。そんな苦労が多く描かれるのだが、面白いことに、げんなりしても、すみれから自分の人生に励まされたり、影響されたりしている。

 すみれの通った高校は女子高で、いつも定員割れの誰でも入れる最低レベルの高校。その中でもすみれの成績は最低で、出席日数も足りず、留年必至。しかしシスターで経営者の校長の留年はさせてはいけないという指示で、追試をすることで進級させようとする。

 追試を受けるのはすみれを含めて3人。テストの試験官はあと半年で定年を迎える先生。

先生は小学生の時から内容はよくわからなかったが、漱石やドストエフスキー、百閒を読むほどの本大好きな人で、将来は小説家になりたかった。大学の時、小説を書いて、通りやすそうなあまり有名でない文学賞に応募したが一次選考にも残らなかった。

 小説家になりたかったが、それでは飯は食えないし家族を養えないと才能の無いことを言い換えて自分を無理に納得させ、女子高教員になり30年以上平凡な暮らしをしてきた。

 誰でも進級させるために、試験2日目は「春」という作文。何か書いてあれば進級できる。生徒は口紅を引き、金色の髪の毛の子。丈の極端に短いミニスカートの子、ふつうの制服をした子。
二枚は「春は好きです。暖かいし明るいからです」だけで終わりの作文。3人目も大したことは無いだろうと思い手に取ったすみれの作文を読み驚く

「お母さんの黄色いスカート。水玉もようの毛虫。たけのこの煮つけ。なのはなのおひたし。木の枝にくっついた黄緑のつぶつぶ。甘くてくすぐったくてぬるい風。へたくそなうぐいす。」

 色とりどりの言葉の羅列。これぞ才能。この作文を読んで、先生は小説家になりたかった自分を甘切なく思い出す。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐藤多佳子   「夏から夏へ」(集英社文庫)

 今から一世代前の陸上400mリレー。日本の短距離リレーが世界の注目を浴びだしたころの取材記。2007年、世界陸上大阪大会で日本新、アジア新を樹立。ここから次の北京オリンピックまでの、選手の練習を追う。

 当時の選手。
第一走者:塚原直貴 第二走者:末續慎吾 第三走者:高平慎士 第四走者:朝原宣治
2007年大阪世界陸上の予選で38秒21で日本新、アジア新を樹立。

当時4人は、大阪のビジネスホテルの宿泊していた。ドーピング検査などがあり、ホテルへ戻ったのが深夜。
 日本新をたたきだし、今夜は少し贅沢をしよう。と互いに言い合って入った店がうどんの「なか卯」。今夜は贅沢に牛丼だ。
驚いた、日本代表のスプリンターが「なか卯」の牛丼かよ。次の日の朝食もしめしあわせて「なか卯」でざるうどん。

次の日の決勝は、大阪長居競技場が満席になった。陸上競技ではめずらしいことだった。
結果は5位。それでも世界大会で5位とはすごいことだった。

 私は、駅伝やマラソンにあまり興味が無い。テレビでの解説が技術論でなく、厳しい走り込みをして鍛えたとか感動を呼び起こすような中継ばかりなのが受け付けない。

 最近はアメフトや体操、レスリングで指導者の従来型指導で問題を引き起こすことが多くなった。

 この取材記でも、名門東海大学陸上部が寒風吹きすさび、砂嵐が舞い上がる湘南海岸を真冬に練習する様子が描かれている。

 この練習は、根性を鍛えてやるというようなもので、何を目的にしているのか全くわからない。また塚原を育てた高校の北澤監督。ひたすら猛練習。たるんでいるとビンタをとばすこともしょっちゅう。技術指導など殆ど無い。

 まだまだ日本では、こんな指導が行われているのかとため息がでる。
高平は、日本の練習指導を嫌って、ドイツやテキサスに指導者を求めて行く。これからは、外国の指導者が育てた選手がスポーツでは活躍するように思う。


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| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー 「ひとなつの。真夏に読みたい五つの物語」(角川文庫)

 5人の作家が紡ぐ夏をテーマにした物語集。

主人公の僕は二浪の浪人生。1年目は早稲田だけを受け失敗。2年目は予備校にも通い、早稲田はもちろん、明治、中央もうけたが全部失敗。落ち込んで、あてのない空虚な生活を送っている。そんな生活を打破しようと夏の旅行を決意する。そんなことやっているくらいなら勉強に集中しろと怒ると思っていた父も、若いうちの無銭旅行も価値があると賛成してくれた。

 それで5枚セットの青春切符を1万円で購入。一枚で2日分普通電車乗り放題の切符だ。

旅行当日は朝5時起きで家をでて、熱海行きの電車に乗る。もちろん熱海で下車するわけもなく次の浜松行きに乗り換える。どこへ行こうとか何かをしようとか思って旅に出たわけでもないので、ひたすら西に向かって無気力に進む。

 一日目は夜、広島に着く。することもないので、駅前のビジネスホテルに泊まる。
夜10時半にビジネスホテルにチェックインして泊まる。

 翌日は平和記念公園と厳島神社に行く。特に行きたいところではない。広島定番コースだ。

部屋に帰り思う。とても自分に今より先があるとは思えない。帰るところもない。このまま彷徨いながら死んでしまうんだと。

 夜、広島料理店の看板がある店に夕飯のため入る」。そこは居酒屋だった。

お腹が空いていたので、あれこれと注文する。沢山取りすぎたので、別テーブルのニッカーボッカーお客さんたちに、食べきれないほど取っちゃったんで食べてくださいと料理を持ってゆく。大歓迎をしてくれた。しらない人たちと一緒に飲む。色々話をして、お開きになったとき、グループの男の人が、「一緒にいるお姉さんを一晩貸してあげるから、男にしてもらいな」と言われる。
けばけばしいお姉さんとタクシーに乗る。

お姉さんが、あれが泊ってるホテルよと指さす。「ありがとう」と言って降りようとすると「何言ってるの。わたしも一緒よ。私安いんけ。」
僕は少し震えながら
「そんなことすると明日後悔する。絶対嫌な思いをするよ。」
お姉さんは「あんたはいい人だね」と言ってタクシーでどこかへ去ってゆく。
後悔だけが残った。

 次の日は小倉まで行った。ビジネスホテルの部屋で夕日の落ちるのを見る。そして叫ぶ
「まだ死ねないなあ。」無性に家に帰りたくなった。
そして翌朝青春切符で家に帰る。

藤谷治の「ささくれ紀行」。無性に甘哀しい、青春の一幕。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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滝羽麻子 「白雪堂化粧品マーケティング部峰村幸子の仕事と恋」(角川文庫)

 会社を定年に「なって、別の会社にアドバイザーとして勤めた。定年退職した会社は安定した大企業だったが、その後勤めた会社は従業員200名少しの中堅企業だった。

 雰囲気が全く違った。中堅企業は社長が起業して20年余の会社。とにかく会社で一番働くのは社長だった。必死さは尋常では無かった。商品、運営すべてを社長が決めた。
会社=社長だった。

 この物語の会社は創立30年。化粧品製造販売の中堅企業。オーナーのマダムと言われる女性が30年前「シラツユ」というブランド化粧品を開発。この「シラツユ」が大当たりして伸びた会社。

 しかし「シラツユ」が発売されてから30年。その時の顧客がそのまま年を重ね、今は60代が最大顧客。その次の世代から下の世代には売れず、じり貧になって、経営も厳しい。

 入社二か月目の主人公と上司の女性が、来年の「シラツユ」は中身を少し変え若者もターゲットになる商品企画と販売促進案を提案するのだが、提案書をろくに見ず、マダムは却下。
何回も提案のやりなおしを命ずる。

 私ガアドバイザーの会社も入社したての若い新人が企画提案するのは普通にみられた。前の会社では、考えられなかったことだ。
 マダムは自分こそ会社。自分がやってきたことは正しかった。新しい提案など、受け入れられないと強く思う。
 しかし練り直された数回あとの提案にしぶしぶこれで行きましょうと受け入れる。
主人公たちは販売方法の改革取り組みに邁進する。

 年明けマダムが社内会議で宣言する。会社は大手化粧品会社の傘下にはいる。今のままでは会社が持たないからと。

 若い社員の企画提案書を受け入れたとき、会社は自分のものではなくなったと思い、会社の身売りを決断したのだろう。

 私のアドバイザーしていた会社もいずれ社長がすべてを決めることから脱却をしないといけないのだろう。そのタイミングを間違えないでほしいと思う。その時この物語の会社のように身売りといこともないようにして欲しいと望む。

 滝羽さんは、会社をリアルに描く。解説を読むと、この小説を出版したときは、小説家と会社と2足のわらじをはいていたそうだ。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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梅雨の晴れ間に

お散歩を。

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車移動

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人が少ないので、オフリード

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ゴロゴロ

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ムチムチ

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バテバテ

| 日記 | 17:48 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中脇初枝   「祈祷師の娘」(ポプラ文庫)

 主人公の女子中学生春永は祈祷師の家に暮らす。父親とも母親とも血の繋がりはない。
それでも、自分は祈祷師にならねばならないと思い、毎朝父と一緒に水浴びの修行をしている。

 家には祈祷所があって、母が祈祷に使っている。母は今は亡き祖母を継いで祈祷師になっているのである。

 祈祷は、悪いものに取りつかれると、サワリという症状が出現、サワリは高熱で苦しんだり、耐えられないほどの気分に襲われ、祈祷師に祈祷によって、取りつかれた物を追い出さねば元の状態に戻らない。病院で原因がわからない患者が多く連れられてくる。

 祈祷師は、神がやってきておしらきという儀式を通ることで決められる。このおしらきの対象者は、儀式の間、ものすごい苦痛を味わされ、対象者は逃げ出したくなる。しかしどこへ逃げても神様はついてくる。

 物語には、ひとみという小学2年生の少女が登場する。ひとみは街にあふれている物に簡単に取りつかれ、その度に体調が崩れ、苦痛にさいなまれ、祈祷所で母の祈祷で取りつかれたものを排除してもらい元気になることを繰り返している。

 ひとみには、これから起きる不幸なことが見える。不幸はどんなに気を付けても必ず起きる。それが気持ちを圧迫して深く落ち込む。それで、学校も不登校になり、たまに登校するとばけものといわれみんなから嫌われる。
 春永には血の繋がらない和花という姉がいる。和花に神様が現れおしらきが始まる。
祈祷師になるのである。しかし、死ぬほど苦しい。やめたいと逃げるのだが神様は逃さない。
「死にたい」と繰り返し声をあげる。

主人公の春永はひとみと和花に寄り添い懸命に助けようとする。祈祷師を目指して修行をしている人や、悪霊に取りつかれている人を祈祷をせずに助けているのである。

 ある日祈祷所に行くと死んだはずの祖母が一人でいる。祈祷所にはたくさんの座布団が敷かれている。祖母はどの座布団にも苦しんでいる人が据わっているのだよと言う。その姿がおばあちゃんには見えるのと聞くと、祖母は「見えるわけないよ。人は消えるとみんな忘れるものだよ。でも、消えてもずっと忘れないでいることが大切」と座布団を丁寧に見回す。

春永は自分はどんなに修行をしても、祈祷師にはなれないことを悟る。しかし、お祖母ちゃんは祈祷師になれなくても、もっと大切なこと人が消えたり亡くなっても忘れてはいけないということを教えてくれる。

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| 古本読書日記 | 06:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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滝羽麻子    「ふたり姉妹」(祥伝社文庫)

 痛いなあ。

主人公聡美は大手食品会社に就職、商品企画部に配属される。配属された課には、聡美の他は女性は50歳くらいの人がひとり。企画は会社の要の仕事、新商品の開発をする部門だ。
聡美は寝食を忘れて、他の課員ともに仕事に打ち込んだ。

 そこにサナエが異動でやってきた。聡美は、5年前の自分を思い出して、サナエに一生懸命仕事を教える。サナエは頭もよく仕事の能力も優れていて、有用な人材となる。

 サナエは聡美より若く可愛らしいので、男性の注目になる。用もないのに、部長から課長まで男性がやってきては、バカ話をしてゆく。何しろ若い女性社員がめずらしくて、他の部門からも男性がやってくる。
 それにサナエは愛想よく、いちいち微笑みながらつきあう。
聡美が叱責する。「声をかけてくる男は、仕事の話は無いの。いちいち反応することはない。
仕事が忙しいからと断りなさい。」
サナエハ「そんなに気になりません。」
聡美は「あんな男性たちに関わってはいけません。仕事に集中、集中。」
サナエは少し不満顔になったが「わかりました。」と答える。

それから、叱責が効いたのか、サナエは男性の声かけに「仕事が忙しいので」と無表情に断るようになる。

 聡美が中心になって開発した商品のテレビCMもいよいよ放映。さあ、商品を売りにだすというときに聡美は部長に呼び出される。
「プロジェクトのメンバーを見直そうと思っている。サナエさんがこれ以上続けられないと言っている。」
聡美は「サナエさんが抜けるということですか。」
部長は「サナエさんは君とは仕事ができないと言っている。抜けてほしいのは君なんだ。」
聡美は理解ができない。これから新商品の販売を開始する。私が抜けるなんて。
「仕事はチームでやるものなんだよ。」

そして聡美は、販売促進部に異動して、デパートの店頭で在庫過多品の処分販売を担当することになる。そこで聡美は過労で倒れる。

 会社は退職しろとは言わない。必ず、あんなに重労働の毎日だったのだから、一か月くらいゆっくり休んだらどうと休暇を勧める。
すっかり落ち込み疲れ切った聡美は、故郷の田舎街の実家に向かう。

滝羽さんは会社のことをよく知っている。人事異動を決める背景なんてつまらないことが多い。

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| 古本読書日記 | 06:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐藤多佳子   「スローモーション」(ピュアフル文庫)

 主人公の柿本千佐は女子高の一年生。兄のニイちゃんは、22歳になるのに今だに不良をしている。

 千佐は水泳部にはいっている。同じ水泳部に同級生の及川周子がいる。周子はしゃべりを殆どせず、暗く、行動のテンポも遅く、いつも一人弁当でみんなから嫌われている。

 千佐はちょっとしたことで、いつも一緒のグループからはじき出され、周子と同じ最下層においやられる。嫌われ者の二人だけで、仕方なく仲間になる。

  2人の下校する場面の描写が印象深い。
「彼女のスローモーションに合わせて、ゆっくり動くと、はじめのうちはイライラして脳天からケムを吹きそうになった。三日で少し慣れる。慣れとは怖いもので、廊下をダバダバ走る男の子が暴走車のように見えてくる。スピード違反!エネルギーのロス!・・・
店の看板の文字がひとつひとつくっきりと目につく。街路樹のしけた雑草、キリマンジャロの匂い、道行く人々の会話のかけら、あたしは、黙ったまま、街の一コマ、一コマを体内に吸収する。」

 ゆっくりと動くことによってみえてくるものに対する感動にたいする鮮やかな描写。見事!佐藤多佳子。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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滝羽麻子    「株式会社ネバーラ北関東支社」(幻冬舎文庫)

 主人公の弥生は、外資系証券会社に勤め、最終電車でも帰宅できないほど、過重労働を強いられた日々を送っていた。
 限界を感じた弥生は、会社を退職して、北関東の田舎の納豆製造会社の北関東支社に就職し、ほっこりした環境で働くことを選択する。

「ネバーラ」という会社名がいい。北関東は納豆日本最大の生産地。納豆は、ごはんにすぐかけて食べるものではなく、十分にまぜあわせて、食べる前に歌を歌って、食べるのが一番おいしい食べ方。地域全体がその習慣に従って納豆を味わっている。

 最初の通勤風景がいい。一時間に一本しかないバスに合わせて懸命にバスに乗り込む弥生。同じバスには上司の課長も乗る。そのバスが駅前に止まり、そして丘の上にある支社に向かう。課長は、駅前で「have a nice day」と弥生に言って、降りて丘の上の支社に歩いて向かう。弥生が会社に着くと、課長が疲れ切った様子で。支社に到着してくる。この通勤風景が田舎だなあと思わせる。

 仕事もゆったり、駅前にはやすらぎの場居酒屋「なにわ」がある。いいなあ、田舎はと思う。
 しかし、ゆっくりふりかえると、これは滝羽さんの想像の田舎だと気が付く。

仕事は田舎だから楽ということはあり得ない。どんな会社であれきつい競争のなかにあり、田舎でも激しい労働が求められることが多い。

 東京でも、過労を強いる会社もあるし、ゆるやかな労働環境である会社もある。田舎、東京で労働状況が異なるということは無い。

 それから、本当の田舎には、居酒屋などは殆どないし、バスが一時間単位で運行されているところは無い。バスは殆ど朝晩、加えて昼に一便が田舎の現状の運行状況である。

田舎が特別に素晴らしいところという架空のような場所という描写が受入れられない。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐藤多佳子   「ごきげんな裏階段」(新潮文庫)

 私たちの子供の頃にはゲーム機もスマホも無い。子どもが最初に触れるのは絵本。そして少しおおきくなると 漫画か童話。小学生ともなると、中には強者がいて、漱石や鴎外などの文学作品を読む子供もいたが、大多数は童話や少年少女文学。そして、魔女やお姫様が活躍するような憧れのファンタジー作品は多くはヨーロッパとりわけイギリスからやってきた。

 佐藤さんはどっぷり当時の童話にはまり、それが強く刷り込まれた作家のように思う。
 この本には、アパートの不思議な裏階段を舞台にして3篇の作品が収められている。
いずれも楽しい作品。

 裏階段にはえているたまねぎが大好きな猫。たまねぎならば幾つでも丸ごと食べてしまう。その猫がある日顔が玉ねぎのような顔になる。玉ねぎは剥くとどんどん小さくなる。この猫は洗うと小さくなってしまう。そしてバターボールやビー玉くらいになる。こんなに小さくなると、探すのも大変。踏みつぶすことが無いように、抱いて寝る時も注意せねばならない。

 こんな玉ねぎ猫が、間違って大好きなオニオンスープに落ちてしまう。それから、どんなに探しても小さなたまねぎ猫はみつからない。主人公が嘆き哀しんでいると、裏階段にはにんじんがはえてきて、ニンジン大好きな猫が登場する。

 2つめの話。裏階段にはクモがいる。クモの背中には二本の線の模様がある。暗い緑の線と明るい緑の線。この2本の線は笛になっている。暗い線の笛は、それを吹くと、一日不幸な出来事に遭遇し、明るい線の笛は幸なことばかり起こる。でも、クモは明るい線の笛はなかなか吹いてくれない。ここぞというとき吹いてくれた。おかげで、いつも主人公をダメ生徒とこきおろしていた先生がはじめて褒めてくれた。もちろんそれでクモと仲良くなったわけではないが、気持ちは幸一杯になった。

 最後の話。裏階段には煙男がいた。煙男は煙を吸うことによって成長する。しかし最近は禁煙運動で煙が吸える場所が少なくなった。このことを気の毒に思った父が、煙草が好きな人ばかりがいるバーに連れてゆく。どんどん煙男は煙を吸うからバーの空気はいつもきれい。しかし、煙男はバーを追い出された。客は煙草の煙がもうもうとしている雰囲気が好きだったから。

 どの話も、佐藤さんの童話が大好きという思いが伝わってくる作品ばかりだった。

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| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有川浩     「海の底」(角川文庫)

 春爛漫の横須賀米軍基地、桜まつりが行われ大勢の人でにぎわっていた。そんな時、大きいものは3mにも及ぶ大型ザリガニの大群が襲ってきた。この時、米軍の港に自衛隊の潜水艦「きりしお」が停泊していた。ザリガニの襲来を逃れてきた13人の子供たちが、艦長の誘導に従い、「きりしお」に避難。艦長はその際、ザリガニに襲われ、体を食べられる。艦に残っていた夏木三尉と冬原三尉は子供たちを避難させるとともに、艦長の体で残った腕を回収し冷蔵庫に保管する。

 普通こういう物語になると、大型ザリガニと自衛隊や警察との激しい戦闘をひたすら描き、闘いのヒーローとともに救出成功をクライマックスにする感動作品になる。
 有川さんの作品は、この路線を踏襲しない。

女性作家だと思ったのは、高校女子3年生の望が、生理になり着替えやその処理に女性のための道具が無いため苦戦したり、小学生の光がおねしょをして代わりの下着やシーツが無く往生することなどを描くところ。普通の暮らしを思い浮かべてザリガニとの闘いの物語に挿入することは、有川さん以外の作家では思いつかない。全く非凡な才能であり、持っているポケットの中身が豊富だ。
 
 ザリガニなんか自衛隊が登場して、一気に襲撃して蹴散らせば問題ないと思うのだが、ザリガニが人間を攻めるなどという想定は法律にはない。

 自衛隊が国内で活躍するのは、災害派遣が殆ど。災害派遣には銃やミサイルなどの装備はできない。そこで、政府内や国会で銃装備の自衛隊を投入すべきか長い議論がなされる。

 そこでザリガニ襲来に対応していた警察隊が、ぎりぎりまで対応して、この先解決は自衛隊投入しかないという状況を演出して、やっと自衛隊投入が決断される、自衛隊が投入されると、あっけらかんと問題は解決される。強烈な皮肉だ。

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真梨幸子    「カウントダウン」(宝島社文庫)

 主人公の海老名亜希子はお掃除コンシェルジェとして大活躍している人気エッセイスト。
100万部を突破する大ベストセラー作品をいくつも送り出している。高級マンションに2つの住まいを持ち、年収7000万円を稼ぎだす。

 そんな亜希子50歳独身なのだが、末期がんにかかり余命半年を宣言される。ということは、来年の今は無いのである。それで半年の計画を作りそれに従って精一杯生きようとする。

 功成り名を遂げた人が余生が少くなった時、何を思い出すのだろう、多分自分の成功の場面をなつかしく思い出し幸気分」に浸るのだろうと思っていた。
 しかし、この物語では、思い出すのはいやなことばかり。

 小さい時、友達の柳町美樹ちゃんの一家が父親のやっていた会社が倒産して、夜逃げをすることになる。亜希子の父が銀行に勤めていたから、「夜逃げ」「倒産」意味はわからなかったが、それを回りの子に話す。それが原因で美樹ちゃん一家が更に苦しくなったことを後で知る。

 大学を卒業して印刷会社に就職。配属された日の朝、皆に挨拶をする。一緒に入社した平河さんが、他の人は名前とがんばりますだけの挨拶だったが、自分の家は印刷屋をやっていました。輪転機の音を聞きながら臨終をむかえるのが理想です。と見事な挨拶をする。その後の挨拶が亜希子。あせって、意味不明なことを5分もしゃべり、課長の静止の指示でやめ、赤っ恥をかく。

 極めつけは夫が妹と通じていて、妹が夫の子を妊娠する。それを告白され妹をひっぱたく。
こんなことばかりしか思い出さない。

 それから、エッセイストというのは、面白いことを書く。そして、自分が誰よりも才能があると思っている。どしても、出版社の担当者、デパートの外商の女性にたいし、態度が横柄になり、使い走りをやらせる。それで嫌われているということを気付かない。

 更にエッセイは基本自分の体験や、他人から仕入れたことを書く。それが仮名であっても読めば知っている人は誰のことかわかる。天狗になっているから、それがエッセイにでてくる人を傷付けていることがわからない。

 死ぬときになって、初めて自分の傲慢さに氣付き、悶え苦しむ。人間は切なく悲しい。
 こんなことが重ねあわされて、真梨特異なイヤミスが展開される。

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渡辺淳一 「鈍感力」

3年以上前に読んだときは、「感想を書くほどでもない」と言っていました。
「鈍感のすすめ」「鈍感になりなさい」ではなく、「鈍感力」。
思いつくまま書いた感じで、メッセージ性はそんなにない。

鈍感力があれば、心穏やかに長生きできる。そんな本です。
例えば、
「初めて恋人の部屋に行ったら、ちょっと汚かった」
「同僚がクチャラーで化粧臭い」
「嫁が歯磨き粉を使った後、チューブに押し跡がある」
こんな場面で、鈍感であるとうまくいく。
……確かに。神経質な人は、自他ともにストレスが溜まる。

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「女性は口説かれるのが好きな生き物。もう一度誘われ、迫られるのを待っている」
「母親の愛は、鈍感力の最たるもの」
「夜泣きも、(鈍感力を身に着けた)母親にとっては、愛のメッセージに感じる」
といった表現に、ゲーッとなる女性も多かろうと、面白かったです。

著者経歴を見る限り、べつにキリスト教系の学校は出てなさそうですが、
「創造主は、出産という難事に耐えるよう、女性を強く鈍感に作られた」
なんですね。

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真山仁   「ベイジン」(下)(幻冬舎文庫)

 私の会社時代に部下の一人がタイの工場に転勤になった。非常にまじめで仕事に厳しい人だった。

 彼がある日部下が仕事中にイヤホンで音楽を聴いていることに気付いた。それでみんなの前で、強く叱責した。部下はうらみがましい目で彼を見つめたが音楽を聴くことはやめた。

 次の日、彼の部下全員が、イヤホンで音楽を彼の前で聞き出した。

この物語でも、建設現場の労働者が、建設会社の属する企業集団の会社から支給されたラジオで音楽を聴きながら、仕事をしだす。当然ラジオの持ち込みは禁止。技術顧問の田島は工場のゲートの警備員に何故検査をしないのか怒る。
 警備員は検査などしない。何しろずっとトランプをしているのだから。

 このラジオが発火して、発電所の火災がおきる。そしてメルトダウン級の大惨事となる。

田嶋が何とか被害をすこしでも食い止めようと必死の対策をとっている最中。
 中国の建設責任者が言う。
「田嶋さんご苦労様。でも、これはチャンスだ。この惨事の責任はすべて趙大連市長にあることにしよう。田嶋さんもそう主張してくれ。」
原発事故大火災がおきている時にまで、出世の道を切り開こうとする。タメ息がでる場面だ。

この作品は、中国と日本を細部にわたるまでその違いを見事に描いている。大作である。
読めば読むほど、中国と日本は友好的に信頼しあって交わることは決してないだろうとの思いが強くなる。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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真山仁    「ベイジン」(上)(幻冬舎文庫)

 中国が威信をかけた北京オリンピック。その開会式にあわせ、中国が造った世界最大の原子力発電所の運転開始が行われそれが中継される。

 その発電所の技術顧問として派遣された田嶋。中国の国民性、共産主義国家の一党体制に揺れ動きながら、開会式の原子力発電が稼働できるかを描く物語。

 発電所建設中に嵐で、労働者宿泊施設が倒壊し、多くの労働者が倒壊した建屋の下敷きとなる。そこで田嶋は先頭にたち、労働者の救出にあたる。田嶋が中国の建設責任者に言う。
「大至急医療団と負傷者帆走のためのヘリの手配をお願いします。」
「それよりあなたは、被害状況をまとめてください。」
「承知しました。ですが、まずは人命救助にご協力ください。」
「それはあなたの仕事ではない。優先順位を間違わないでほしい。」
「人命救助に勝る優先事項はありませんよ。」
「原子力発電所建設は国家をあげた大事業なんです。労働者のかわりはいくらでもいます。」
「何を言ってるんです。彼らがいなければ、明日から誰が工事をするんですか。」
「別の労働者がするだけだ。」
もし原発が爆発事故を起こすと、100万人以上の人々が死ぬ。
「14億人のうちのたった100万人ですよ。大した問題ではない。」
中国は汚職天国と指摘すると、汚職は中国の文化だと言う。

中国習近平指導部は「虎もハエもたたく」と称してこの5年間汚職摘発を実施してきた。
しかし摘発は、権力志向の強い人間を追い落とすために、汚職という汚名をくっつけただけ。だからいくら摘発しても、その代わりの人間がでてくる。

 まさに汚職は文化なのである。

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有川浩   「別冊 図書館戦争Ⅱ」(角川文庫)

 「図書館戦争シリーズ」6冊目で最後の作品。

今回の作品では、柴崎に対する、ストーカー事件が物語の多くがさかれる。

まず、登場するストーカーは奥村玲司。図書館では、客の要望を聞いて、その要望に従い、本を紹介したり、それぞれの本の特徴を説明したりするリファレンスという仕事がある。奥村は、柴崎がカウンターにいる時を狙って、このリファレンスを強要する。そして、リファレンス中、食事や映画などにしつこく誘う。

 それでも、柴崎がすべて拒否するために、最後の手段として、借りた本を返却しなくなる。
返却の督促をすると、足を骨折したため歩けない。自宅まで取りにきてほしい。家でもリファレンスしてほしいので来るのは柴崎にしてくれと言う。

 何かアクシデントが起きたらすぐ警察に連絡するため、柴崎に一人が付きそう。
そして、柴崎が訪問すると、柴崎は奥山の結婚相手にされている。両親は嫁がきてくれたと、喜び最大級のもてなしで柴崎を迎える。

 ストーカーは、自分の妄想が、現実になることを確信し、そこに至るまであらゆる策略を行うのだ。

 もうひとつ、柴崎の寮の部屋に、水島というおとなしい同期の女性が入居してくる。
実は、水島は図書館業務部に配属されてから、柴崎の同僚の手塚に恋こがれていた。
ところが、手塚と柴崎がいつも仲がいい。何とか柴崎と手塚の仲を引き裂こうととんでもない画策をする。

 恋こがれるということは、相手がどんな仕草をしても、自分に都合よいように解釈して恋心をさらに募らせる。

 水島が手造りのチョコレートをバレンタインに手塚にあげようとする。手塚は
「そういうのは全部ことわっているからごめん」と受け取りを拒否する。
それに対する水島の気持ち。
「でも、」ごめんと言ってくれたし、言い方も冷たく無かったから。誠実でかっこよくて、私みたいに知らない地味な女の子がチョコを渡して断られたが、言葉は丁寧だった。
 だから少しは希望があるんだ。

それに手塚さんは誰のチョコも受けとらなかったし、誰が告白しても付き合わなかったから、それだったら私にもチャンスはあるんだ。だって私は一人でチョコを渡して、直接話しかけてくれた。そんなのは私だけなんだから。」

どうしてこんなに都合よく思ってしまうのか。でも、ストーカーの心境、行動がよく描けている。

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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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