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2020年06月 | ARCHIVE-SELECT | 2020年08月

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SF

一旦そろえたけれど手放した本を、また買いそろえるという、無駄な行為。
さらに、同じ作者の短編集をブックオフで購入。

IMG_9451.jpg

6年前から今までの間に、2冊増えました。断章Ⅲと、戦旗のⅥですね。
戦旗Ⅵは、Ⅴから約10年経過したという設定です。
ヒロインは不老の種族で、ヒーローは人間。
20歳くらいにしか見えないヒロインが、アラサーになったヒーローをまじまじ見て、
「年取ったなぁ。今はぎりぎり兄妹に見えるけど、いつか祖父と孫娘くらいになる」
と思う場面がある。
ヒーローがあんまり老いないうちにそろって戦死とか、
ヒロインが子供(遺伝子提供者がヒーロー)を連れて墓参りとか、
そういう終わり方になるんですかね('ω')

短編集も面白かったですよ。
ちょっと難解で、ちゃんと意図を理解できたか心配なのもありますが( ̄▽ ̄;)
荘園とか六波羅とか出てきても、結局はSFという。

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有川浩    「別冊図書館戦争Ⅰ」(角川文庫)

 図書館戦争シリーズの番外編。別冊では、大きな戦いは起こらず、日常に起こるトラブルが描かれる。戦争というより、主人公の笠原郁と上官の堂上とのラブコメディの色合いが濃い作品となっている。この番外編はもう一冊出版されている。

 ラブコメディといっても、作者有川の思いがしっかりと盛り込まれている。

図書館に屯する中学生がゴミを散らかし、それを片付ける図書館特殊隊の隊員に「公僕」と掛け声をかける遊びが流行っていた。

 調べると「公僕遊び」は木島という作家が書いている本が発生元になっていることがわかる。「公僕」だけを捉えると差別語でもないし、辞書にも載っている。

 木島はインタビューに答えて言う。
「自分は、放送使用禁止語、新聞使用禁止、雑誌本使用禁止語を一切使うことなく、差別を表現している作品を書いている。」
 耳が聞こえない人を唖、目をみえない人を目暗、手を使えない人を片輪、足が使えない人をちんば。もともとこれらの言葉「耳が聞こえない人」というのが直截すぎ、差別表現になるため、それを和らげる表現として生まれた言葉。ここから派生して「片手間」「片手落ち」まで差別言葉として使用禁止になってしまっている。

 例えば、ここで言っていいのかわからないが、往来で指をさして「朝鮮人」と叫べば、明らかにヘイトである。差別である。しかし朝鮮人は普通に使われるし、使用禁止になっていない。使えなかったら新聞など発行できない。

 問題は、それらの言葉がどんな場合、どのような意図で使われるかによって禁止となるもので、その言葉が、全く差別の意図があって使われていないのなら、使用して問題ない。

 有川さんは、言葉をとりだして、使用制限、禁止にしている現状に大きな怒りを持っている

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| 古本読書日記 | 06:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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江刺昭子   「樺美智子、安保闘争に撃たれた東大生」(河出文庫)

 1960年6月15日安保条約改定に反対する学生デモが国会議事堂に突入、警官隊との衝突で東大生樺美智子が倒れ亡くなる。日本の戦後のデモ史上で死者がでたのはこの時の樺さんだけ。それだけに樺さんは人々の胸に刻まれ、哀しい犠牲者の象徴として今でも有名な女性となる。

 樺美智子さんは、優しい写真の印象から、今まで、当時の安保反対の盛り上がりの影響を受けて、デモに参加して事故か、警察の残虐行為に巻き込まれた普通の学生だと思っていた。
だから当時も、本当に可哀想な人、痛ましい出来事だと思っていた。

 事件後、樺さんの両親が娘さんについて、本を出版したり、発言したが総じて可愛い娘だったという発言で、それも私に樺さんが普通の学生だったとの印象を植え付けた。

 ところが、この作品を読んで、樺さんは小学校のときに驚くことに宮本百合子の「風知草」を読んで感動。その後宮本百合子の信望者となる。「風知草」は戦前治安維持法で捕まった共産党の宮本顕治が戦後釈放され、百合子とともに共産党再建にのりだしてゆく物語である。

 樺美智子さんの履歴。
「1957年東大に入学。ただちに全学連の反帝闘争に参加。灯台教養学部自治会委員長となる。反戦学生同盟に加盟。この入学の年日本共産党に入党。1959年に日本共産党を闘争方針の違いから、脱党。共産主義者同盟に加盟。全学連の安保改定反対闘争の指導的役割を担い、多くのデモに参加。過激な行動もする。」

 温和な容貌と異なり、当時の女子学生では筋金入りの闘士だったのだ。そして、そのことでメディアでは有名な女性だったのだ。
 事実運命の6月15日にも、国会突入デモの最中雑誌「マドモアゼル」の記者に取材をされている。樺さんはもちろん断っているが。

 何かこの本を読んでいると、樺美智子さんに抱いていた人物像が崩れてゆく。もちろんそれで樺さんへの歩んだ道の強さはいささかも減じないが。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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青山透子  日航123便墜落の新事実 目撃者証言から真相に迫る」(河出文庫)

 1985年8月12日日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落524人の乗員乗客のうち4名が助かり、520人が死亡した日本の航空機史上大惨事となる。

 墜落の原因は、修理ミスから生じた圧力隔壁の金属疲労により起こったと当時の調査から結論付けられた。

 この事故の経過がおかしいのは、墜落は18時28分に起こっているのだが、その墜落場所が不明のまま翌日になるまでわからなかったのこと。しかし墜落をたくさんの人が目撃していた。
その人たちから「現場は御巣鷹山だ」、と警察やNHKに報告するも、一晩行方不明のままにされたことである。

 さらに多くの目撃者が、日航ジャンボ機と並走して小型戦闘機が2機飛んでいた。それが、日航機と離れて自衛隊航空基地の方角に走り去ったことを目撃している。

 このジャンボ機の客だった小川哲さんが9枚の写真を撮っていて、その5枚目に窓から外を撮った写真に黒い物体が映っていた。
 しかも墜落後2機のヘリコプターがやってきて事故現場でホバリングをしていた。
つまり米軍や自衛隊は墜落場所を早くから知っていたことになる。

 著者青山さんは日航のキャビンアテンダントを当時していて、この便のキャビンアテンダントに友人がいたり、同期の方もいた。
 目撃証言を丹念にひろいあげ、米軍横田基地や自衛隊にも困難を極めるが取材も敢行し、

自衛隊のファントム機が何らかの事情で123便に対しミサイルを発射し、123便が墜落したことを突き止める。青山さん執念の調査である。小川さんが撮った写真の黒い物体は、その後の解析でミサイル弾とわかる。

 実は、ファントムに使われている燃料はジャンボ機と違い、酢が混じった強烈なにおいがする。夜のヘリコプターは、ファントムの燃料の匂いを消すために薬剤を撒いていたのではと考えられている。

 この作品で、もし直ちに救援が行われていたなら100人は救助されていただろうと書かれているし、あの国民的歌手坂本九も助かっていたかもしれない。

 日本では、一旦事故原因が、圧力隔壁の金属疲労と決定されると、その後何が新しくわかろうが、決定は覆されることはない。

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| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有川浩   「シアター!2」(メディアワークス文庫)

 有川はライトノベル作家として先頭を走る大人気作家。どの作家より、発想がつきぬけていて、内容も面白く才能あふれる作家である。有川は多分自分の作品こそが最もすばらしい作品であり、最も評価されるべき作品であると自負しているように思う。また素晴らしい作品を出し続けるために奮闘努力をし、ラノベ界ではかってない「空飛ぶ広報室」で直木賞候補になるところまで文学界での評価を高めてきた。

 想像するに、個性的で鼻柱が強い女性作家のように思う。

  この作品、演劇集団「シアター・ブラック」が2年間で、演劇を続けられるために司から借りた300万円を返済できないと、劇団は解散するという条件を打ち破るため奮闘する劇団の姿を描く。

 有川さんの性格が現れているのか、劇団の中はしょっちゅうトラブルが起きる。それは、誰もが、思っていることを口にだす。それがトラブルを引き起こし、時に物を投げたり、平手打ちが飛び交う。

 興行収入を大きくあげたいために次の公演は有名な大きな舞台で行いたい。そう監督の巧が思っていたところテアトルワルツにかかる劇の主演女優がトラブルで舞台をおり穴があいてしまったことを巧が知る。

 そこでテアトルシアターに電話をすると、支配人が面談してOKならば貸すといわれる。巧が面談に行く。少し年のいった支配人が現れる。彼が言う。

  「テアトルワルツは金をだせば誰にでも貸すというわけではない。成り立ちが文化育成を目的とした社会還元事業である以上、文化的意義を持った内実のある芝居をかけなくてはならん。またそんな有意義な芝居を選ぶのが支配人の私である。その場限りで面白ければいい。観た後には何も残らない。最近の若者の芝居はみんなそうだよ。」
頭にくる。そしてだめかとため息もつく。
「それはダメということですか。」
支配人も穴があくのは痛い。
「評価されたいのならもっと意識を高く持たなければならないんだ。」
ここで我慢できればいいのに。
「評価するのがあなただったら結構です。」
と本音がでてしまう。

  この後、後悔が重く続く。劇団に帰れず、神戸まで放浪する。
貸すということにすれば、歓喜で飛び上がるのに、そうはさせるかと有川さんの牙がむく。

 この作品のあとがきで有川さんが、「シアター」シリーズは3巻で完結すると書いている。
しかし、3巻目は本にはならない。有川さんの強すぎる個性が出版社の腰をひかせてしまっている氣がする。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山内マリコ    「あのこは貴族」(集英社文庫)

 この物語には3人の女性が登場する。

一人目は主人公の華子。整形外科医の家に生まれた3女。旧家で、正月には祖母をいれて一家で帝国ホテルに泊まり食事を楽しむという家族。
華子は小学校から大学までクリスチャンの女子校で過ごし典型的なお嬢様育ち。

 27歳の時には恋人がいて結婚までいくと確信にていたが、振られてしまう。
そこから、多くの見合いを試みるが、人生の視野が浅く、個性もないので悉く失敗に終わる。

二人目は美紀。

 漁港のある田舎の街に生まれる。そこの進学校に進み、勉強もがんばり、優秀な成績で慶応大学に受かる。慶応大学には幼稚舎から大学まで一貫して慶応に学んだ学生がいて、彼らのことを内部生と称し、受験で入学した学生を外部生と言って完全に区分けされ、内部生は外部生との交わりを拒否。外部生である美紀は疎外感を味わう学生生活を送る。

 父親は慶応も早稲田もしらないような田舎人。失職し、学費は送れないから故郷に戻るように命令する。しかしせっかく入った慶応。美紀はアルバイトに励む。しかし、普通のアルバイトではとても大学生など続けることは不可能。ラウンジやクラブに勤めるようになり、大学の勉強も続けられなくなり1年で慶応をやめる。

三人目は美紀の小学校からの友人。相良逸子。音楽大学でバイオリンを学び、現在はドイツに在住している。

 見合いで失敗を続けた華子は、姉の夫の紹介で弁護士の青木幸一郎と逢う。好きかどうかわからないが」、この人と結婚せねばならないという思いで彼の軽井沢の別荘に誘われ男女関係を持つ。

 幸一郎の家は大資産家で東京の街中に3軒の邸宅を持つ家庭。今は弁護士だが叔父のやっている国会議員を継ぐ路線が敷かれている。彼も結婚は承知し、華子の家族、幸一郎の家族とともに婚約をする。

 そんな時バイオリストを目指す逸子が美紀が幸一郎と男女関係を続けていることを知る。そして、華子を呼び出しその席に美紀も呼び出す。そして逸子は、美紀に幸一郎と別れるように詰め寄る。美紀もそれほど執着もないし了解する。

 驚くのは華子。その事実を知っても、当事者の美紀がいても、怒ったり、幸一郎を一切恨んだりしない。

 その時の華子の思いがぐっとくる。
「たまたま恵まれた家に生まれただけで、ベルトコンベアー式にぬくぬく生きてきて、苦労も挫折もなくて、だから人生になんにも語るべきことがない。学歴も職歴も、全部親がしてくれたことで、自分は何もしてない。だから釣書の見栄えはよくても。実際はスカスカなんです。自分の力でなにかを得たこともない。成し遂げたこともない。取柄もないし、仕事も好きじゃないし、続ける根性もない。本当になにもないんです。人としてつまらない。わかっているんです。」

 つまらなくてもスカスカでもいい。私も正月帝国ホテルに泊まり、食事を楽しみたい。

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山内マリコ   「アズミ・ハルコは行方不明」(幻冬舎文庫)

 地方では街おこしといってアート展、芸術祭を、ちょっと有名なアートディレクターに依頼して開催することが多い。アートディレクターといっても、オープニングの他に簡単な打ち合わせで街に来るだけ。

 オープニング日には、市長やアートディレクターもやってきて、動員もかかっているからいっぱい人が訪れる。でも、芸術アートなんて知らない無知な人ばかりだから、2日目以降になると人っ子一人訪れる人はいなくなる。
 地方そのおのが、地方をバカにしている。

 東京に出て行くが、大学を中退したり就職ができずに帰ってくる若者がいる。生まれてずっとこの街しか知らずに育ち生きてゆく人もいる。夢も希望もなく、ただ息だけをすって同じ日々をくりかえす。山内さんの紡ぐ物語は、そんな焦燥と諦めを丹念に描く、しかしそんな物語は多くの作家が書いている。山内さんの作品には、その中にハっと驚くような出来事を挿入し、取り残された人たち一般の物語とは一癖も二癖も異なる。

 春子は長いバイト生活を終えて、全員で4人の小さな健康食品の販売会社に正社員として就職に成功する。事務所には義兄弟の社長、専務と37歳になるベテラン女性社員の吉澤さんがいる。吉澤さんがいないときに社長と専務が会話する。

 「吉澤さんはもう37歳か。ここに入ったころは可愛かったのに。あれは、もう結婚は無理だな。」
 「無理どころか、完全に腐っているよ。」
 「老化したな。」

 吉澤さんが教えてくれる。

 今春子は27歳。やたら社長が触ってきて、早く結婚しろよ。と肩たたきのようなことを言う。吉澤さんはそれも29歳までと。29歳が社長専務の考える女性としての年齢の上限。29歳を過ぎると触りや肩たたきはピタっとなくなる。

 そんな吉澤さんが結婚することになった。なんとお相手はフランス人。昔パリに旅行したとき知り合った男性が吉澤さんをネットでみつけ、SNSで会話するうちに結婚とあいなる。

 スランス人なんだけど、故郷はアフリカのブルキナファソ。吉澤さんはそんなアフリカの小国に住むのだそうだ。
 そこが少し不安だけど、見たか社長と専務よ!吉澤さんあっぱれ!

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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小杉健治    「仮想真実」(朝日文庫)

 栗林大樹が自宅の8階のマンションから飛び降り死ぬ。その時、栗林の部屋には梶塚修一がいた。警察は梶塚を栗林をマンションのベランダから突き落とし殺した容疑で逮捕する。
この梶塚の弁護にあたったのが、鉢山弁護士事務所の若い水田弁護士。

 梶塚は、栗林が襲ってきたので体を躱した。それで栗林はベランダを破り転落したと無罪を主張。

 推理作家というのは、まず難しい事件を設定して、それから設定した事件をどう料理するかを考えるのだろうか。

 小杉さんも難しい事件を設定したものだ。検察は突き落とした。弁護する水田は、死んだ人間はベランダから転落した。事件発生時に部屋には梶塚と栗林の2人しかいない。この状況では、真相はどちらか証拠は全く無いに等しい。

 まず殺されたとされる栗林は、吉高りさ子にしつこいストーカー行為を繰り返し、吉高りさ子は対応に弱っていた。その時、りさ子が付き合っていたのが被疑者の梶塚修一。

 この梶塚、実は過去に付き合っていた女性二人を妊娠させ、どちらにも堕胎を迫り、2人とも自殺をはかり、一人は死に、もう一人は未遂になる。そして、この時りさ子も妊娠していて、やはり梶塚はりさ子に堕胎を迫っていた。
 そして、これらの事実を、ストーカーの栗林が知っていたことがわかる。

 ここからが、読み手の意見がわかれるところ。
栗林は過去の事件について、ストーカーをしながら、りさ子に説明し梶塚の人間性の酷さと危険性を説明し、りさ子に梶塚と別れるように説得する。

 しかし、りさ子は栗林の説得を無視する。
絶望した栗林は、自分は自殺をするが、梶塚が殺人したように見せかける決意をし、実行する。

 読み手は、そんなことをする人間がいるものだろうかと作者小杉の物語に納得できない人と、あくまで物語なのだから、設定は自由だという人に別れる。

 私もあまり納得感がない。それを埋め合わせるように、小杉は巧みな合わせ技を用意していた。その合わせ技は見事だった。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有川浩   「図書館革命 図書館戦争シリーズ④」(角川文庫)

  図書館戦争シリーズの最終作品(この後別冊で2作品がでている)。
自分は今までこのシリーズの何を読んできたのだろう。どうしても、2つの点が不可解だった。

 一つはメディア良化法が成立しているのに、何故図書館だけが武装が許され、良化特殊部隊と戦うことができるのだろうか。
 それと、憲法21条で表現の自由と検閲禁止と規定されているのに、メディア良化法で検閲が認められているのだろうか。
 ボケっと読んでいてもこんなことはわかるのに、ひどい読者である。

一つ目は、メディア良化法成立以前に「図書館の自由法」が制定されていて、図書館にどんな類の本が置かれても、それを排除できない。この法律を根拠に図書館の自由を守る部隊の創立が認められているのだった。

二つ目は、安倍内閣がよくやる解釈の見直しという手口に似ているが、検閲は出版される前に内容を点検すすることであって、出版後に点検することは検閲ではないと解釈を変更して憲法で規定している表現の自由の侵害や検閲には当たらない。
ということなのだ。

 この物語では、敦賀の原発がテロによって破壊され、その手口が作家当麻蔵人の「原発危機」そのものといことで、メディア良化法により発禁となり、当麻は今後の執筆活動の禁止が命じられる。

 裁判で最高裁まで争うが、結局当麻は負ける。

そんな時、主人公郁が「国外に逃亡すれば」とつぶやくと、素晴らしいアイデアと図書館部隊隊員に絶賛され、東京のあらゆる大使館は良化法賛成の特殊部隊が警備をしていて亡命が無理ということで台風のなか、当麻を警備しながら郁が大阪に向かい、大阪の英国領事館にとびこみ亡命が認められる。

 しかし、民主主義と言論の自由が標榜されている国から、言論弾圧のために、言論自由国家に作家が亡命するという前代未聞の珍事に、国際世論は日本の言論のおかしなところをこぞって非難。これに政府も屈指、メディア良化法は廃案となる。

郁のつぶやきが最高の結末を生んだ。有川さんは、何となく日本に言論統制の空気が漂っていることを感知して、この大長編を描いたのだと思う。 

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| 古本読書日記 | 06:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有川浩   「図書館危機 図書館戦争シリーズ③」(角川文庫)

 最初「図書館戦争」を読んだとき、内容が突飛すぎ理解できず面白くないと敬遠したのだが、その後このシリーズが爆発的に売れて、遅きにしっしたが、やっと全シリーズを読んでみようと思い手にとった。この作品はシリーズ3作目。シリーズは4作と別冊2作系作品となっている。

 メディア良化法が制定施行され、すべての本や番組はその執行機関である良化特務機関による検閲を受けるようになった。

 これに対抗するために立ち上がったのが図書館。図書館隊が結成される。その中の堂上班隊長の堂上と部下たち、特に堂上に恋心を抱く笠原郁の活躍を描く。

 週刊誌「新世相」の敏腕記者の折口は、今までにメディアの取材には決して応じてこなかった大スター香坂大地のインタビューに成功した。しかも香坂に何を聞いてもいいし、香坂のしゃべったことはすべて記事にしてよいという破格の条件だ。
 香坂の両親は香坂が生まれたときには両親とも浮気をしていて、幼いころに両親は離婚。

 それでお祖父さんに引き取られ育った。お祖父さんは床屋をしていて、その楽しい床屋の雰囲気を香坂は床屋という言葉を連発して語った。

 そのままの内容を折口は記事にして、香坂の事務所に確認のため原稿を送る。

ところが、発売直前に香坂から記事はボツにしてくれとの指示がある。どうして?折口が香坂に言うと床屋が理髪店、散髪屋に変わっている。お祖父さんの店は「床屋」であり「理髪店」では無いと。「床屋」は良化機関により禁止語になっているから使えない。使うとその途端発禁処分となり「新世相」の出版社は大きな赤字となる。しかし「理髪店」の表現では記事は香坂は受入れられない。

 有川さんは、最近の禁止言葉にかなり怒っている。そういえば「魚屋」使用自粛語になっている。「鮮魚店」と言わねばならない。床屋も魚屋も使えないと小説や作品にならない。

 しかも自粛用語は、今はやりに有識者によって決定され、その理由は公開されない。有識者は現実の世界から遊離している人たち。こんな人たちに言葉狩りなどされたくない。

 茨城の県立図書館が茨城近代美術館と共催で毎年2週間美術県展を開催する。今年の目玉作品は県美術最優秀賞作品の「自由」。この作品は悪名高き良化特殊機関の制服が破れ、破れた穴の先に青空が描かれている。特殊機関にまっさきに検閲により排除される作品だ。

 これを阻止するために図書館隊が関東より派遣される。何か昨年話題になった「愛知トリエンナーレ」を彷彿とさせる。

 この抗争に、「無抵抗の会」という団体が登場する。戦いはだめ、話し合いで決着させましょうという会である。しかしこの会は、すべて検閲を許し良化特殊機関の思惑通りに事が進行してしまう。何か「無抵抗の会」は何でも、話し合えばわかりあえると主張する市民団体にみえてくる。

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山内マリコ  「さみしくなったら名前を呼んで」(幻冬舎文庫)

  さよがテレビをみている。そこではあるタレントが楽しそうに笑顔いっぱいで話す。

「私は生まれた時からパパが可愛い、可愛いと言ってくれたから、変ちくりんなんだけど、自分も可愛いと思うようになったの。それでこんなに楽しい性格になっちゃたの」
これを喋っているのは、明るさいっぱいの「ケロンパ」ことうつみ宮土里だ。

 しかしさよの父は可愛い可愛いと言ってくれなかった。そしてさよは、ぶさいくで生まれ育った。

 小学校で男の子がさよを触りにきて、少し触ると、彼らは嫌悪感いっぱいの顔になって手をパッパッと払う。ばいきん扱いだ。

 中学校からは中高一貫の女子校に進む。しかしぶさいくであるという卑屈感は募るばかり。孤独な時代を過ごした。結婚どころか、恋どころか、男の人と一生口をきくこともなく生涯を終えるのだろうと覚悟する。

 そんなとき、ネットでファッターズというハンドルネームの人が「クリスマスに逢ってくれませんか。だけど僕は不細工で太っています。」というメッセージを見つける。そこで思い切ってさよはファッターズさんとクリスマスに逢うことにする。

 逢うとファッターズさんは本当にデブでぶさいくだった。これだったら、自分をさらけ出せると思い、体を触れ合うように近つける

 それからホテルにいって、甘い夜を過ごした。2年間が過ぎた。さよはファッターズさんと別れた。生涯で初めてで最後の恋。
 ひりひりするように痛いけど、何となくよかったなあと感じられる「さよちゃんはブスなんかじゃないよ」という作品。

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真保裕一   「オリンピックへ行こう!」(講談社文庫)

 大学卓球選手、実業団の競歩選手、全盲のブラインドサッカー選手、憧れの最高舞台であるオリンピック、パラリンピックを目指す選手たちの挫折、失敗にくじけず夢をおいかける姿を描く物語。

 サッカーで秀でるために最も必要な能力は、コミュニケーション能力と物語では言う。
いくらテクニックに秀でた選手でも、コミュニケーション能力が低いと、テクニックをともにたかめあってゆけない。戦術は互いの言葉によって高められてゆく。言葉にこめられた実感で自分の技術を表現できる。頭を使えない選手は、ゲームの中で役立たない。ただパスをよこせとしかいえないストライカーにボールは集まらない。

 具体的事例が描かれないのでわからないが、サッカーは知的スポーツなのだと知って驚いた。

 卓球台の長さは3mもない。トップ選手のラリーとなると、相手の打った球が自分のラケットに届くまでの時間はわずか0.2秒。人は物体の動きに体が反応するのに0.3秒が必要。ということは、相手が打ち込んでから球に反応することは不可能。だけど卓球では、打ち合いラリーが続く。

 自分の打った球のコースと回転、相手のわずかな反応、相手のコース取りの癖、あらゆる状況を瞬時に読んで、どこに球がくるかを予測して待ち受ける。だからラリーが成立する。
 大変なスポーツなのである。

今まで卓球小説を読んだことは無い。
 瞬時にたくさんのことをよみこんで、どうするか判断しどう対応するか決断し相手に打ち込む。
 物語にするためにはこの瞬時の判断を詳細に描かねばならない。
 瞬時に行われることがページ数枚費やすことになってしまう。

 どうしても間延びする。必ずしも成功しているとは言い難いが、真保はこの作品集で卓球の物語に挑戦している。その挑戦には拍手。

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九条菜月   「私の彼は腐ってる」(中公文庫)

民俗学を研究していた揚羽の祖父が大学受験直前に亡くなる。揚羽が大学を受かると、揚羽の前に伊織というイケメンがお迎えに参りましたと現れる。伊織に連れていかれた場所は広大な土地に洋風の館がたち、プールもあるという大邸宅。ここに住んで大学に通うことになると伊織は言う。

 民俗学、特に民間伝承に残る妖怪や物の怪を研究していた祖父が生前揚羽に言う。
「今でも妖怪は生きていて、人間に見つからないように息をひそめて生きている。」
更に驚くことに、「お前の許嫁は伊織だ」と言う。

 揚羽の大きな家には、伊織の他にリチャードという執事と娘のディアナと管理人松次郎と娘のスモモがいる。しかし、食事はいつも揚羽一人。家では、食事を運んでくれるか掃除をするときにリチャードやディアナに会うことはあるが、他の住人には全く会うことがない。

 彼らは会うことがないはずだった。
リチャードとディアナは吸血鬼。松次郎とスモモはスライム。そして許嫁の伊織は驚くことにゾンビだったのである。
 祖父はゾンビを許嫁にしたのである。しかし、揚羽は伊織が好きだった。伊織もゾンビにも拘わらず揚羽を妻にすることを望んでいた。

 伊織はこの屋敷の地下で妖怪たちのための医師をしていた。
この物語でも、人間になりたい人魚の下半身を切断し、人間の下半身を移植する手術を行う。
妖怪たちと人間の間で次々起こる騒動、しかし、揚羽は妖怪たちと生き生きと交流する。そこがよみどころ。

妖怪たちのキャラクターがそれぞれくっきりと描かれ実に可愛らしい。
ちゃんと、伊織と揚羽の恋も成就して物語はハッピーエンドとなる。

この作品はラノベに分類されるのだろうが、妖怪たちを作者九条さんは完全に自分のものにして、想像たくましく楽しく活写する。大きな才能の持ち主である。

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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