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2020年05月 | ARCHIVE-SELECT | 2020年07月

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平松洋子    「すき焼きを浅草で」(文春文庫)

 平松さん最新の美味しいエッセイ集。

平松さん10歳の時。グループサウンズが花盛り。ショーケンこと萩原健一はゴールデンカップスのボーカルをつとめ、超大人気ボ-カルになっていた。「エメラルドの伝説」「神様お願い!」平松さんだけでなく、全国の少女たちが熱狂した。

 その時、日本テレビから半年間ショーケン主役のドラマが放映された。大ヒットとなった「傷だらけの天使」である。

主役の私立探偵オサムを萩原が演じる。探偵事務所の女性社長は岸田今日子。オサムを兄貴と慕う手下が水谷豊。

 起き抜けのショーケン演じる朝食シーンが印象的でいつまでも残る。

オサムが革ジャンを羽織って冷蔵庫を開ける。トマトに塩をぶっかけて丸かじり、リッツを一枚口に放り込み、缶にはいったままのコンビーフにかぶりつき、読みかけた新聞紙をシャツの胸元に突っ込んでナプキン扱い、すかさずソーセージの一本食い、口に入ったソーセージを包んでいたビニールをペロンと口から出して吐き捨てる。

 テレビを観ていた人たちは度肝をぬかれる。
まだちゃぶ台が主流の時代、朝飯はごはんと味噌汁とおかずの時代なのに。

 極めつけは、牛乳瓶のふたの開け方。瓶の口ごとカバっと口に入れて、前歯で紙ぶたを押し開ける。そして紙ぶたをおざなりに捨てる。それが恰好よかった。

 たくさんの子供たちがショーケンのまねをした。

そしてなんと最後に口に含んだ牛乳をカメラにむかって吹き付ける。
さすがにこのシーンは、親たちから批判を浴び、ある時からカットされた。

このドラマからハードボイルドという言葉がはやり出した。
平松さんショーケンに取り込まれていた時代のお話。

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柚月裕子    「合理的にあり得ない」(講談社文庫)

 弁護士だった上水流涼子は、謀略にはまり、殴打事件の犯人にされ、執行猶予付きの判決を受け、弁護士資格をはく奪される。仕方なく、頭脳明晰な貴山を弟子にして探偵エイジェンシーを立ち上げる。
 涼子、貴山コンビの探偵シリーズ5編を収録。

  山梨に本拠をおく暴力団組織関東幸甚一家の5代目現総長の日野より依頼がくる。長野に本拠を置く横山一家の現在の総長の財前と賭け将棋をやる。掛け金は今までは3千万円だったが今回はいっきにはねあがって一億円。この勝負に勝てるようにしてほしい。勝てば1千万円を報酬で払う。しかし負ければ報酬は支払わない。

 貴山は過去の2人の対戦のすべての棋譜を要求。それを徹底的に調べる。
最近はコンピューターの力量があがり、しばしば将棋名人がコンピューターと対戦して負けることが起きる。
 貴山は調査の結果、財前の将棋はコンピュターソフト「セイレンⅡ」を使っていることをつきとめる。

 対局は天童の神の湯ホテル竜昇の間。

 貴山は対局前日の隠しカメラを設置。それに壁掛け時計に細工と日野に見た目ではわからない特殊メガネを与える。カメラを通して入手する相手の指し手に対して打つ手を壁掛け時計に知らせる。その時の数字と時計が発する特殊メガネしか感知しえない色の組み合わせにより日野は指し手を知る。

 一方財前も隠しイヤホーンを使い別の隣の間にいる彼の部下に日野の指し手を伝え、部下が「セイレンⅡ」がはいっているパソコンに日野の手を入力。それにより「セイレンⅡ」が示す指し手を財前に伝える。

 形勢は財前有利に進行しているが、ある時点で貴山は特殊手を打つ。それに対し財前がある手を必ず打つ。それは完全に悪手で、その手により、財前は負けてしまうことを貴山は確信している。

 そしてとうとう日野が特殊手を打つ。5三角ならず。将棋では相手陣内に駒が入るとたいがいそれが裏返され成り上がり縦横無尽に駒が動けるようになる。ならずということは、成り上がりをしないということである。そして相手がしてくるだろう悪手が角の正面に歩を打つこと。角は成り上がらないと、まっすぐ進めず歩によって角は取られてしまう。

 そう。貴山は「セイレンⅡ」の調査により、自陣内に進んだ駒が成り上がらないケースを想定していないことを掴む。

 当然財前は打つべき手が伝えられてくるはずなのに伝えられてこない。そして長い時間を待つが待ちきれずに5二歩、角の正面に打つ。必負の悪手である。AI将棋の落とし穴をついた貴山見事!

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真山仁    「ハゲタカ4.5 スパイラル」(講談社文庫)

 この作品を読む前に「グリード」を読んでいた。「グリード」はリーマンショック直前のアメリカの投資銀行の経営ひっ迫状況に、日本ハゲタカファンドのリーダー鷲津がアメリカ投資銀行の買収の活躍を描いている。

 この物語は、その同時期日本の町工場が、リーマンショックの影響を被り、それと苦闘する姿を描いている。そのお陰で、物語内容が理解でき面白かった。この作品は「グリード」と合わせて読むとよいと思う。

 物語は東大阪の町工場マジテック社を率いていた社長の藤村が亡くなるところから始まる。藤村はけいしゃ経営者というより工学博士のほうが有名で、多くの発明をして特許をとり、それにより会社に利益をもたらしていた。

 藤村の死により、会社は行き詰まり、藤村博士死後会社を引き継いだ藤村の妻が、昔博士が世話をした企業再生請負人の芝野に助けを求め、芝野は大企業の曙電機の再生を成功させており、フジテックの再生請負を引き受けることになる。その時、フジテックはわずか8人の企業で、金型製造を主力にしていたが、今や、金型職人は桶本一人になっていた。

 こんな田舎の中小企業をアメリカの巨大ハゲタカファンド、ホライゾン キャピタルとADキャピタルが買収に動く。
 このADキャピタルこそ、「グリード」に登場する鷲津が手中におさめた投資ファンドだ。
ハゲタカに追い詰められた芝野が最後に鷲津に電話して、6億2千万円のお金の投資をお願いする。

 しかし鷲津は、マジテックには6億2千万円の価値は無い。そのまま無くなってもしかたない。それが資本主義だとつれなく断わりマジテックは万事休す。

 え、これで終わり?鷲津は冷たいなあと思っていたら、最後にすばらしい逆転方法を用意していた。それが実に鮮やか。

 今はあたりまえの技術として使われているのかも知れないが、3次元プリンターが作品に登場する。プリンターと言えば、紙に印刷するものだと思っていた。このプリンターは例えばある犬を映しプリントすると犬そのものが形となってプリンターから吐き出される。
中身はよくわからないが、この犬の形状をつくりあげる材料が特殊で、特許になっている。

 これにより金型製作は何回も試作することなく、30分ほどで制作できる。

このプリント物の政策技術がアメリカの戦闘機開発に使うことができ、アメリカはどうしてもこの技術が欲しかった。アメリカ ハゲタカ ファンドのマジテック買収の背景にはこの特許技術獲得があった。

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白石一文    「もしも、私があなただったら」(文春文庫)

 白石の作品は、ドキっとする場面からいつもスタートする。

この作品の主人公藤川啓吾は、大手繊維メーカーを退職して、地元福岡で小さなバーを営んでいる。そこに突然、会社時代の同期で友人だった神代の妻美奈がやってきて一か月藤川と一緒にいさせてくれとせっぱつまった表情でお願いする。

 実は、大手繊維メーカーのモデルはかって倒産した鐘紡。会社は債務超過の状態だが粉飾決算を繰り返し実態を隠していた。

おりからのバブル崩壊で、主力銀行から借金の返済を求められていたが、そんなお金はとても無い。そこで唯一利益を計上している化粧品事業を大手化学品メーカーに売却してお金をねん出しようとしていた。その時主人公の藤川は主力繊維事業をアメリカの会社に売ろうと交渉していた。そして交渉成立寸前で会社から交渉中止を命じられる。アメリカの会社と売却交渉が成立しても、債務金額が大きすぎ焼石に水だった。この交渉が化学品メーカーにばれ、化粧品事業の売却が暗唱にのりあげそうになったからだ。

 藤川は日本大手化粧品メーカーとの交渉が行われていることは知らない。だからアメリカの会社との交渉をやりとげようとする。藤川は本社に戻され、子会社に左遷される。

 どうして左遷されたのかわからない。更に子会社に行くと、本社の在庫が山のようにある。本社の在庫を子会社に売却。子会社は連結非対象にして、本社からの売り上げ代金は本社から融資という形で仕入れ代金にあてる。

 こんな粉飾をずっとしている。藤川は同期の神代と酒を飲んで怒る。神代はすでに経理財務の取締役になっている。

 神代は藤川に言う。
「会社が粉飾しろと言っているのだからしょうがない。お前が子会社に左遷されたのは、アメリカの会社との交渉が日本大手化学品メーカーにばれ、その責任を会社がすべてお前に負わせたからだ」

 これで会社にも同期の神代にも怒り、会社をやめ福岡に戻った。

この作品、女性との狂おしい恋愛を白石らしい圧巻の表現で描いているが、唯一失敗だと思ったのが、神代が粉飾決算主導容疑で逮捕。刑務所に拘留中心臓発作を起こして病院にかつぎこまれるが、あれほど小馬鹿にされたのに、藤川が見舞いにわざわざ福岡から飛行機でかけつけるところ。

 退職の経過からみて、藤川がかけつけるなんてことは実際はあり得ない。
この違和感がなければいい作品だ。だからとても惜しい。

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真山仁    「グリード」(下)(講談社文庫)

 この物語で唸って言葉がでなくなったところ。鷲津のパートナーのリンが言う。

「そもそもアメリカを潰せば、世界が救われるという考えも勘弁して欲しい。アメリカが弱体化して喜ぶのは、中国やロシアよ。連中が世界の中心に居座るようになれば、もっと仕事がやりにくくなる。そうならないためにしているアメリカの悪行は必要悪なのよ。」

 この作品を読んでいると、とても必要悪には思えない。国家は絶対悪のように思える。人間の集団が絶対悪ならば、人間そのものの本質も性悪だ。

 その悪によって世界は動き、無数の人間が恐怖に揺さぶられる。

トランプは選挙という自己利益のために、習近平は自分の権力増加のためだけで、言動、行動をする。そこには人々のためという思いは微塵も無い。性悪を克服する主張は今は本当に儚い。

 この物語では、強欲の権化であり、強欲のためにはアメリカ政府も意のままに動かせる、サミュエル ストラスバーグという大金持ちが登場する。このストラスバーグが連邦法違反容疑で逮捕されそうになる。しかし彼は逮捕直前にプラベートジェットでキューバに逃げる。キューバでは入局拒否にあうが、お金を使って結局は入国が認められる。大金とアメリカ政府の圧力があったから。ということは、アメリカ政府が、サミュエル ストラスバーグの国外逃亡を支援していたことになる。

 カルロス ゴーンが国外逃亡に成功した。この作品を読むと、日本政府が逃亡を支援したように思えてくる。

 ゴーンの存在が国際的にやっかいな存在になってきた。更にゴーン釈放や、ゴーンを支える政府権力者に大きな金が流れていた。ゴーンがその作為を口外しないとの誓約との交換でゴーン海外逃亡は日本政府主導で行われたのではないかとこの作品を読むと思えてきてしまう。

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真山仁   「グリード」(上)(講談社文庫)

 真山の代名詞にもなっている「ハゲタカ」シリーズの第4作目。

舞台はリーマンショック目前のアメリカ。発明王エジソンの電球からはじまり、そのエジソンが興した超大企業がGE。しかしエジソンはGEから追放され、新たに起こした会社がアメリカン ドリーム社(AD)。ここからたくさんの新しい商品が生み出されるまさにアメリカの魂のような会社。しかし、AD社も、商品開発物つくりから、金融商品を扱う会社に軸足を移していた。そのAD社に多大な投資を行っていたのが、投資銀行の最王手の一角ゴールドバーグ コールズ銀行。

 ゴールドバーグ コールズ銀行は住宅ローンを証券化したサブプライムローン債を大量に抱え、リーマンブラザース同様経営危機に陥っていた。

 もしゴールドバーグ コールズが破綻すると、即AD社も破綻してしまう。

アメリカの魂を象徴するAD社の破綻だけは阻止しなければならない。そこに、ハゲタカを自認する鷲津政彦率いる投資ファンドサムライキャピタル社が登場。圧倒的財力を誇るサミュエル ストラスバーグと鷲津に投資方法を仕込み教え込まれた軍産投資者KKRを率いるクラリスとの熾烈な戦いを描く物語。

 バブル経済崩壊直後、社内でグローバルスタンダードにならねばならないという言葉が企業社会を席巻した。アメリカの代理人のような大前研一がマッキンゼーの代表となってこの言葉を浸透させ、わが社もそうだったが、完全に大前に飲み込まれ、大きな費用を払って幹部をマッキンゼーの研修に派遣させたり、マッキンゼーから重役を招聘した。

 この物語で鷲津が言う。アメリカが唱えるグローバルスタンダードは資本主義を徹底的に追及するスタイル。強欲にひたすらお金儲けを追求する。その結果社会は大金持ちと群がる貧者だけになると。

 アメリカン ドリームという言葉も当時流行った。アメリカは真に平等、自由な社会。だれにもチャンスがあり、大金持ちになるチャンスは開かれていると。とても開かれている状態ではないが、大金持ちが一瞬にして貧民に落ちる機会は開かれている。

 日本もアメリカのように格差社会となった。貧民層に落ちてしまう人々が群れをなすようになった。

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前野ひろみち   「満月と近鉄」(角川文庫)

 前野さんの実家は奈良で手広く畳屋を経営して成功している。前野さんは長男で両親は畳屋を継いでくれることを、切望している。しかし、前野さんはどうしても小説家になりたかった。父親はまさか小説家になる才能は無いだろうと思い、受験浪人している時に6か月の期限を区切って、生駒山の麓、宝山寺参道を5分ほど登ったところにあった「蓬莱荘」というアパートを借りてやって、そこで小説を執筆する環境を整えてあげる。但し、6か月がんばっても目がでなかったら諦めて、大学は行かせてあげるが、その後は、畳屋を継ぐという条件で。

 そして、お父さんの思惑通り、今は2人の子持ちとなって畳屋を継いでいる。
その6か月間に紡いだ4作品がこの本には収められている。
どの作品も、同じ奈良出身の森見登美彦や万城目学に作風は近いが、両大作家より中身は突き抜けていて、前野作品のほうが圧倒的に面白い。

 特に2作目の「ランボー怒りの改新」が素晴らしい。
大化の改新とベトナム戦争を重ね合わせ、そこに接着剤として英雄ランボーが活躍する。破天荒なのだが、史実を破綻させずに見事に融合させている。

 3作目の「ナラビアンナイト 奈良漬け商人と鬼との物語は「アラビアンナイト千夜一夜物語」の手法を奈良に持ち込んで妖しさに見事に覆われているし、冒頭の「佐伯さんと男子たち1993」も恋にあこがれる中学生を奈良の鹿の生まれ変わりのような女子中学生佐伯さんが幻惑させる初々しい作品に仕上がっていて微笑ましい。

  そして最後の作品「満月と近鉄」では、冒頭の作品に登場した佐伯さんが、妖しい美女となって登場し、次々書かれる前野さんの作品をだめだしして前野さんの作家になる夢を潰す。

  どうもお父さんの策略だったらしい落ちがつく。前野さんは、佐伯さんに取り込まれ、初めて女性に抱かれる。しかし最後は何もなかったがごとく、佐伯さんは泡のように消え去る。

 抱かれた後、佐伯さんが前野さんに聞く。
「どうして、この小説は『満月と近鉄』と言うの」
前野さんが答える。
「満月は佐伯さん、近鉄は僕や」
この青春の純朴さがたまらない。

 実は、佐伯さんは奈良でスナックを今でもしているそうだ。このスナックに旅をしていた作家の仁木英之がふらりと訪れ、その店にあった前野さんの作品を読んで、驚愕して、そのことが本出版につながった。

 仁木の偶然が無かったら、名作が埋もれて世にでることは無かった。この偶然がうれしい。
前野さんの作品をもっと読みたくなる。しかし畳屋に集中してもう小説は書かないと宣言している。とても残念。

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見城徹     「異端者の快楽」(幻冬舎文庫)

 出版界の破壊者であり異端児、カドカワ社員時代強烈な個性で次々作家や才能者を引き付け、角川書店の業績伸長を実現、41歳で角川書店の重役までのぼりつめたと思ったら、その角川を翌年には退社、退潮著しい出版業界に新しい出版社幻冬舎を立ち上げ、幻冬舎を出版界の風雲児にまで育て上げた見城徹のエッセイ及び対談集。

 見城は、よく講演を頼まれるそうだが、殆ど断っている。出版ブジネスで成功した体験を語ってくれという依頼。しかし、成功しているかどうかの価値観は人それぞれ。元来孤独で人に自慢できるような人生を歩んできていない。だから自慢などとてもじゃないができないと思っている。

 え?と思う。だってこの本はすべて見城の自慢話で埋め尽くされているのに。

見城が本をプロデュースするのに最も重要視することについて書かれている内容、
 「羊が100匹でもいいや、100匹の共同体の中に1匹の過剰な、異常な羊、その共同体から滑り落ちる羊の内面を照らし出すのが表現だと思っているんですね。ですから、共同体を維持してゆくためには、倫理や道徳や法律やそういうものが必要だろうけども、1匹の切ない共同体にそぐわない羊のために表現はあると思っているわけです。表現がある限りはすべてを奪われても、表現というのが残っている限りは、その人はすべてを失ったことにはならないというふうに思っているわけです。」

 この表現にあたるものを引き出す。見城は文学という言葉が嫌いで、小説ともあまり言わず商品という。売れ、多くの人が読めば、素晴らしい商品作品になり、売れない商品作品はまったく価値のないもの。

 だから、あの郷ひろみの「ダディ」も松任谷由実の「ルージュの伝言」も尾崎豊の作品も一切ゴストライター使わず、当人に書いてもらっている。

 オリジナルのものがあれば、文章がへたでも、まとまりがなくても、自身が書けばそれは素晴らしい作品だと言う。

 幻冬舎は売上131億円。従業員数81名の会社。しかし、新刊本、文庫の宣伝文句は今でも見城がすべて書くそうだ。なんでも思い通りにやりたい。会社がおおきくなるとそれではこれからは。難しい。

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垣谷美雨    「ニュータウンは黄昏れて」(新潮文庫)

 私の住んでいるところは、200世帯ほどが一自治会をなし、4自治会まとまり地区連合会を構成している。

 家のある場所は、私が家を建てた20年ほど前、業者により分譲住宅地として売りにだされた。だからその当時一斉に新築された住宅地だ。多分新築されたころは、綺麗な整然とした住宅が並んだと思うが、それからほぼ50年。その面影は殆ど消えた。そして、そのころは同じ世代の人たちが新築したので、住人はそのまま年をとり完全に老人の街になった。

 自治会の会長や役員は今や殆どが80歳代。75歳くらいの人は若手と言われる。
私も輪番で自治会長をしたときは、地区の連合会長は90歳に届こうかと言う人。仕方ないので、地区の世話役を会長のかわりに務めた。

 今はマンションと呼ぶが、昔は団地。団地と言っても、3LDKが標準で4LDKもあり、賃貸でなく、新築団地として購入する人が多かった。

 物語はそんな団地が舞台。

 団地は10棟ある。建築業者は古くなった団地は取り壊し新しいマンション建設を勧める。修理では1戸あたり負担が1600万円になるが、建て替えすると負担は無いという。しかも新築マンションになると団地の価格はあがり、現在なら1600万円/戸のものが4000万円/戸にはねあがるという。

 どうしてこんなからくりが可能かと言うと、新しく建て替えたマンション10棟は高層マンションにして、新しく購入した人によってマンション建設費を賄うからだ。

 しかし、この計算が成り立つためにはマンション全戸が販売されることが前提。住人はバラ色のマンション生活を描いたり、新しい自分のマンションの住居を転売して儲けようと考え幸せ気分になる。

 さらに、高層マンションは2棟だけにして、残りの土地は販売して、その資金をマンション建設費にあてる。

 ところが最近は駅そばの立地でないと新築マンションでも売れず、空き部屋がたくさんになる。

この団地、駅までバスと立地が悪く、建て替えの建設費の見積もりを5つの業者に依頼するが、すべての業者が見積もりを断ってきて、住人の目論見は完全に外れる。
 そして住人の中心年齢も80歳以上。団地は5階建てでエレベーターも無い。ここから、現代が抱える団地問題の物語が始まる。

 面白いのは、同じ団地に住んで大人になった、小中と同級生だった友人女性たちが登場する。この仲良し3人組が、大金持ちの見た目イケメンを恋人に持つ。しかし、その恋人の性格の悪さ、ストーカーぶりにいやけがさし、恋人を振り、次々友達におしつける。そして、終わった恋の苦しさ、切なさに悩む。

 その切なさを互いに告白した後、友達の一人が別の友達に言う。
「何があってもずっと友達でいようね。」と。すると友達が言う。
「それは無理だ。人生生き方も違うし、それで新しい友達もできるのだから。」と。

殆どの小説は、「そうだね。私たちはずっと友達だね。」とセンチメンタルに答え、変わらぬ友情を確認する。
こんな答えに出会った小説は初めて。いかにも、現実は冷ややか。垣谷さんらしいと感心し驚いた。

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真山仁    「海は見えるか」(幻冬舎文庫)

 東日本大震災後、応援教師として震災現場遠間市に乗り込んだ小野寺徹平の前作「そして、星の輝く夜がくる」に続くシリーズ2作目。

 遠間市の浜辺にはたくさんの松の木があり、松原海岸として有名な景勝地だった。大震災ですべての松がなぎたおされ無くなってしまった。

 佐々川は今、その海岸に松を一本一本飢え育てようとしている。遠間市民はみんな、松原海岸を見て、浜辺で泳ぎ、遊んで育った。

 佐々川は震災が発生したとき浜辺近くにいた、そして大津波がやってきた。軽トラで高台に避難しようとしたが津波がバックミラーに映る。もうこれはだめだと観念したら、急に津波の勢いが弱まる。浜辺の松が津波の勢いを弱くしたのだ。そのおかげで高台に逃げ切ることができた。

 政府や市は、津波から市民を守るために高さ12Mの長い防潮壁建設を決める。
その宣伝のためにサンプルが海辺に作られている。

 それを派遣教師小野寺が見に行く。そんなものができると、高台にできた家からは遠くに海は見えるが、市内の多くのところから見えていた海や浜辺は全く見えなくなる。

 市民の人たちが慣れ親しんでいた原風景が全くなくなる。
佐々川の姿をみて、小野寺やたくさんの児童が松の植林を手伝い、市民に防潮壁建設の反対運動が広がる。

 人工物ではなく、自然が人々を守ってくれる。そうやって昔から住民は生きてきた。役所はそんな住民の思いが理解できない。
 政府が計画した膨大の長さの防潮壁はかなり多くのところが途切れている。

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真山仁    「そして、星の輝く夜がくる」(講談社文庫)

 東日本大震災の爪痕が生々しく残る東北地方の遠間市に、神戸より応援教師として派遣された小野寺徹平が被災地の抱える問題と向き合ってゆく姿を描く震災文学連作短編集。

 マスコミの取材記者というのは、予め記事はこう書こうとストーリーを決めている、そして」それに沿って取材し、取材相手はこう聞けばこう答えるはずと思い込み、その通りの満足する答えが無いと、思った通りの証言がえられるまで、質問方法を変えしつこく問い続ける。

 三木先生が勤務していた遠間南小学校は全校児童が百人余りの小規模小学校。地震が起きた時、校内にいたのは67人の児童。津波がやってきたとき、三木先生は全員児童を高台に避難させるべき引率する。しかしその時、沙也加ちゃんがトイレに行ってしまう。みんな高台に行くよう指示して、三木先生は沙也加ちゃんを連れにトイレまでゆく。しかし、その時には大きな津波がすぐそこまでやってきている。

 校内には最後に逃げる校長先生がいた。三木先生は、沙也加ちゃんの手を握り引っ張って校長先生と逃げようとする。ところが、校長先生は心臓を患っていて、逃げる怪談途中で発作が起こり倒れてしまう。慌てて三木先生は発作止めの薬を探すが見つからない。

 その時沙也加ちゃんは、階段をおりて校庭へ走って行ってしまった。沙也加ちゃんはパニック障害があり、反射的に走って行ってしまうことがある。そして、津波にさらわれ溺死する。

 三木先生と校長先生は取り残され津波に巻き込まれ、校長も死んでしまったが、三木先生は奇跡的に救助され助かる。

 取材記者は沙也加ちゃんだけが亡くなったのは、三木先生が児童の避難行動に過失があったからと決めつけ取材する。

 三木先生も沙也加ちゃんが亡くなった衝撃の悲しみを抱えているし、避難時はパニックっていて、きちんとうまく当時のことを記者に説明できない。それでも、懸命に思い出しながら説明すると、何を言っても記者は三木先生は自分だけ助かろうとして沙也加ちゃんの手を放し、沙也加ちゃんを置き去りにしてしまったと決めつけどうにもならない。

 三木先生の的確な指示で、沙也加ちゃんは犠牲になったが、他の66人の児童は助かっているのに。

 決めつけ報道の恐ろしさ、読んでいて三木先生が可哀想で仕方がなかった。

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真山仁    「標的」(文春文庫)

 加計学園獣医学部新設の疑惑が以前取沙汰された。申請は公募で行われたが、公募条件が加計学園しか応募できないような条件にしてあった。

  高齢者増加社会を迎えて、サービス付き高齢者向け住宅建設のための法律、社会福祉健全化法の国会に提案された。この法案は日本で初めての女性首相を目指す厚生労働大臣越村みやびが推進して法案としてまとめたものだった。

  この法案既存の老人ホームを経営している業者以外の新規参入は実質ハードルが高くできない法案。つまり既得権のある業者では高齢化進行の中、大儲けができるおいしい法律だった。

  越村はこの法案を通すため、反対派の議員をくつがえらせるお金が必要だった。そのお金は法案が通ると最大の受益者となる福祉産業に投資するファンドJWFよりもたらされた。このJWFのお金は税金のかからないタックスヘブンであるケイマンやバミューダにある。

 いつもこのような小説を読んで、もやもやするのはタックスヘブンにあるお金をどのようにして日本に持ち込むのかが描かれないこと。口座に振り込ませたり、振り込んだりすれば、入出金記録から足がつく。ということは、必ず現金で持ち運びして、税関をうまくすりぬけねばならない。

  この作品によると、高額な切手に変えて持ち込み、それを日本で転売して現金に換えるという方法が過去にあったことが書かれている。

  物語では、お金のはいったスーツケースを、イミグレーションに行く通路のトイレで掃除夫に渡し、掃除夫が飛行場の外にでて、運び人に渡すという方法をとっている。

  これもまだすっきりしない。空港で働いている人は空港の出入りで持ち物検査はなされないのだろうか。それはありえないのでは。
まだ作品を読んでももやもや感は残る。

  それでも、真山の作品は最後に悪を逃すことなく追い詰める達成感と高揚感がり満足する。

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薬丸岳   「ガーディアン」(講談社文庫)

 石原中学校に転任してきた教師の秋葉は、今までに担当してきた中学校と異なり、石原中学校は静かで平穏、いじめや、不祥事をかかえていないめずらしい学校だと思う。

 しかし、他の先生と話し、調べてみると不登校の生徒が異様に多いことを知る。
その不登校も、ほとんどの生徒が、一週間から二週間程度で学校に復帰する。但し一年以上不登校になっている八巻だけが例外になるが。

  秋葉は何故こんなに不登校が多く発生しているのか調査を開始する。
そして中学校には、スマホを持っている生徒がガーディアンという自警団を組織していて、トラブルが起きた時トラブルを報告すると、ガーディアンがトラブルを引き起こした人を學校生徒全体で無視するといういじめを行っていることを秋葉は苦労してつきとめる。

 制裁を受けた生徒は、病を患ったりして不登校になる。そしてガーディアンが、トラブルを起こした生徒がトラブルを起こさなくなると判断すると、いじめは解除され無視された生徒は登校を開始する。

 驚くのは、秋葉は苦労してガーディアンに行きついたのだが、実はこの存在は校長を含め先生たちがすでに知っていたが学校側が何ら手を打ってこなかったこと。

 この作品で思うことは、学校は、例えばスカートの丈や髪の形など目に見えることは規制を作り、厳しく対応するが、目に見えない、信頼とか絆、憎悪とか嫉妬など感情については、見ようとせず、避けて通ろうとするところ。また、そんな見えないところに足を突っ込むとトラブルは更に深刻になると思うからである。

 思えば、いじめやトラブルは中学時代に現れるのではなく、およそ組織に属している限りずっと続くものである。いつでも、どにでも、誰にも起こる。これを解決するためには、信頼できる友人を持つ以外に対応はないと作品を読んで思った。

 しかしガーディアンの行動には驚く。ある女生徒が継父から、暴行を受けていることをつかむ。すると彼女のバックにICレコーダーをしのばせ、継父とのやりとりを録音させ、それを証拠として警察に告発、継父は逮捕される。そこまでして、子供たちは自らを守らなければならないのか。暗澹たる気持ちになる。

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垣谷美雨    「結婚相手は抽選で」(双葉文庫)

 少子化に悩む日本政府が「抽選見合い結婚法」を成立させる。

25歳から35歳までの、独身男女は政府が決めた相手とお見合いをしなければならない。見合い相手は政府が無作為で抽選で決める。2人までは断ることができるが、3人断った場合は強制的にテロ撲滅隊という軍隊のようなところへ2年間強制入隊しなければならない。

 もてない男たちには朗報だ。この物語にも、生まれて27年間女性と話さえしたことがないという3人の男性が登場する。
テレビでも、本でも恋愛が無い作品は殆ど無い。3人は作品を見ても、読んでも、全く内容がどういうことかわからない。世の中から完全に疎外されている。

 ハウトゥー本を読むと、「コミュニケーション力」をつけなさい」と書かれている。異性はおろか話のできる友達だっていない。どうやってコミュニケーションをするのだ。偏見かもしれないが、こんな男たちは結構いるのではと思う。

 その一人宮坂龍彦が見合い会場に行くと、男も女も恋に関係していそうな人はいない。冴えない人たちの集まり。しかしそこに美人でスタイル抜群の女性が一人参加している。何と驚くことにその女性が龍彦の見合い相手となる。他の男たちが羨ましそうに龍彦をみる。

 龍彦はこんな美人と何を話そう。どういう風に対応しようかと完全にのぼせあげ、興奮する。どぎまぎしながら話をしようとすると、その女性「お腹の調子が悪い」からとトイレに行ってそのまま戻ってこなくなる。

 面白いと思ったのは、そんな女性は2回断ると後は断れない。断ればテロ撲滅隊に行かねばならない。だから3回目の見合いは、女性は断れないので、ずっとデートもせずに結論をだせないまま長い期間がすぎる。しびれを切らした女性は、男性に断ってくれるよう懇願する。

 男性3人は、いつも断られるので、27回とか28回とか見合いをして断られた自慢しあう。

 この小説では、女性は買い物、ファッション、ヨガ、海外旅行、デトックス、こんなことばかり考えて優雅な女性ばかりが登場し男のみじめさだけが強調されるが、優雅な女性ばかりは錯覚で、女性の多くは、みんな健気で、必死に生き頑張っている。

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| 古本読書日記 | 06:23 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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長田弘   「なつかしい時間」(岩波新書)

 NHKの番組「視点・論点」で著者が語った原稿を厳選収録した本。

本は習慣であり、生きてゆく力だと著者は書く。

ある青年、類まれな読書家だったが、太平洋戦争の三年前、中国戦線を回っている間に戦死してしまう。戦地をまわっている間しょっちゅう国の若い妻のもとに手紙を書く。その手紙や手記を集めて出版された本が「太田伍長の陣中手記」(岩波文庫)。
 その手紙

「岩波文庫の内、ジンメル『断想』。ラヴェッソン『習慣論』、ハイネ『冬物語』それから
『思想』という雑誌の新しいのを今度のついでの節に御送りください。みな、私の本棚にはありませんから本屋で新たに買ってください。」

戦場にあっても読書家の習慣は放さない。

 この作品を読んで作家の吉屋信子が雑誌に書いている。
「欧州戦争の際、ドイツ文学が最も読まれたと、言われている。
 また、今敵として戦っている、中華民国の若い学生青年兵も、その塹壕や、トーチカのなかに、彼らの愛読の書籍を、たずさえていると伝え聞く。思えば敵ながら、あわれふかく、ひと掬いの涙を感じずにはいられない。」

その戦場で死んだ太田が果たせなかった夢とはこういうものだったと吉屋は書く。
「雨の日のオフィス。雨の日の書斎。雨の日の家庭。軍隊から帰った日、本を何百円か買う時のことを想像するとわくわくする。」

 戦争は起こってほしくはないが、自分も戦争に行くときは愛読書をたずさえてゆくと思う。

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| 古本読書日記 | 06:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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垣谷美雨   「女たちの避難所」(新潮文庫)

 東日本大震災で被災した、3人の女性の避難所暮らしと仮設住宅暮らしを描く。垣谷さんはすごい。震災体験はしていないのに、女性の一人福子の被災体験は目の前に今展開しているのが見えるように描写される。こんな描写はたくさん震災小説を読んだが出会ったことは無い。

 それにしても垣谷さんは、東北の田舎の男尊女卑をいつもの怒りをこめてえがく

 避難者たちのリーダー役に男性がなる。遠乃は乳幼児を抱えている。授乳時、男たちの視線が集まる。それで段ボールの仕切りをお願いする。仕切りは大量に外に積まれている。
それなのにリーダーの男はいう。
「何よりもみんなの絆が大事。この避難所に避難している人は全員家族だ。仕切りはいらない」と。

またリーダーが言う。
「製薬会社から薬の差し入れがありました。待ちに待ったピルです。ピルは一回の服用で三日間は妊娠しません。」と。
 避難所では、女性をトイレで犯したり、車に引っ張りこむ事件が頻発していたそうだ。にわかには信じられないが・・・

 夫が震災で亡くなる。すると、義父は、何の疑問もなく当たり前のように、夫を亡くした妻は独身である夫の弟と再婚するものだと考え、指示する。

 被災義捐金が一家族に「500万円」でる。しかしそのお金はすべて世帯主の口座に振り込まれ、妻にはまわってこない。福子のバカ夫は仕事もしていないのに、義捐金でBMWを購入。毎日その車でパチンコ屋にゆく。

 垣谷さん地方とそこに住む男のひどさをデフォルメはしているが辛辣に描く。
読んでいて、男である自分が情けなくなってくる。

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| 古本読書日記 | 05:48 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山内マリコ   「ここは退屈迎えに来て」(幻冬舎)

 山内マリコの初めて出版された本。
R18文学賞を受賞した「十六歳はセックスの齢」など9作品が収められている。地方に住む人たちの閉塞感を表現豊かに描写している。

 主人公は都落ちして故郷の田舎町で、これも都落ちした須賀さんと、タウン誌の発行会社で取材者として町をまわり記事にしている。

 2人が街のラーメン屋に取材に行く。行くと店からあんちゃんがでてきて、今は客がいるから外で待てと迷惑そうに言う。えらそう。そういえば最近はラーメン屋の調理人を大将とか店員と呼んではいけない。「職人」と言わねばならない。

 待っている間にトイレを借りる。都会の店のトイレでは、今は落書きは見ないが、地方の街の店ではトイレの落書きが流行っている。

 ラーメン屋のトイレにも落書きがしてある。

「公衆便所の和式便器の前に貼ってあるプレートを知ってるかい?
“もう一歩前にお進み下さい”ってやつさ
俺はあれが大好きなんだ
トイレほど人生を見つめ直すのに最適の場所はない」

そしてこのアンサーが書かれている

「本当は和式便器にして、あの名言を貼りたかったんだが・・・・
 洋式トイレに座るあなたに、俺からこの言葉を贈る
“もう一歩前にお進み下さい”
なぁ、何か響かないかい?」

ツィッターのような落書きの連鎖。
さっきの「外で待ってろ」の店員と目があう。思わず主人公が言う。

「店中素敵なポエムが溢れていますね。」

いい、ポエムと落書き、取り残された地方の香りがいっぱいする。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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原田マハ    「サロメ」(文春文庫)

 「サロメ」は1891年、新約聖書を元に、イギリスの作家オスカー・ワイルドが創った戯曲。

ユダヤの王ヘロデは兄嫁の妃であったヘロディアを娶る。その後、ヘロディアの娘サロメにも手をつけようとする。これに対し予言者のヨハネがヘロデに対し意見をする。それに怒った王ヘロデは、預言者ヨハネを獄につなぐ。

 サロメはヨハネに恋心を抱く。しかしヨハネはサロメの忌まわしいおいたちを嫌い、サロメを拒絶する。
サロメはヘロデの誕生日に「七つのヴェールの踊り」をヘロデの前で披露。これに感動したヘロデは何でもつかわすとサロメに言う。サロメはヨハネの首をとらしてほしいと所望する。ヘロデはヨハネが神の使いである預言者のため恐れたが、サロメにしつこくせがまれ、サロメにヨハネの首を取ることを了解。サロメはとった首を銀の皿にのせ、そこに口づけをする。恐れおののいたヘロデはサロメを殺害する。

 この作品は、預言者であるヨハネを殺すということで戒律の厳しいイギリスでは上演が禁止された。

 そこでオスカーワイルドは作品をフランス語で書き、初演はパリで上演された。

その後、「サロメ」は英訳され出版されることになる。実はその本に挿絵が挟まれている。
挿絵はオーブリー・ピアズリーによって描かれる。

 このオーブリーを大天才画家として原田は描き、ワイルドとオーブリーとの爛れた関係を創造し、その天才画家の破滅人生を創り上げ作品にしている。

 オーブリーには一歳年上のメイベル・ピアズリーという姉がいる。オーブリーは結核を患っていて姉メイベルが献身的に世話をする。メイベルは女優としてオスカーの戯曲のサロメ役を狙っている。

 オスカーは男色者でオーブリーを手籠めにする。しかし、別の男が現れパリ公演の前に捨てられる、メイベルもサロメ役にはなれなかった。
原田は「サロメ」が大喝采を浴びたのは、オスカーの戯曲によるものではなくオーブリーの天才的挿絵にあったと描く。

 そして、オーブリーの描いた皿にもられた首はヨハネではないとして、それはいったい誰なのかミステリータッチでその真相を追う。

 オスカーの「サロメ」を挿絵作者サイドから描く、原田の想像がほとばしる作品。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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朝井リョウ  「風と共にゆとりぬ」(文春文庫)

 朝井リョウ2作目のエッセイ集。

このエッセイ集に収録されている朝井の長い間苦しめていた痔瘻の手術の体験を綴った「肛門記」は名作内田百閒の「ノラや」を超えるほどの、まれにみる名作だ。素晴らしすぎて、うまく紹介できないので本をとって読んでください。

 手術台にのせられ、下半身を晒し、女性の看護師さん2人に剃毛をしてもらう。痔瘻の手術だから、お尻の剃毛である。終わると看護師さんが言う。

「毛を剃ったら、お顔がでてきましたよ!」朝井のうつ伏せになった顔が真っ赤になる。
こんな笑ったり、おセンチになったりする場面が朝井の見事で多彩な表現により活写される。

 朝井が某シンガーソングライターのライブに招待される。初めて坐る関係者席。ここに座る人は、コンサートが終わった後、楽屋に挨拶に行って、贈り物をすることが慣習になっている。

 それで朝井はネットで歌手の好物を調べる。
 「外国の品物ではチョコが好き。日本の物だったらわさび」と書かれている。
朝井はあちこち回って頑張って7種類のワサビを集めて、楽屋に挨拶に行って、贈り物の「わさび」を渡す。

歌手は、一応有難うございますとは言うが、怪訝な顔をして全くうれしそうではない。

変だなと思って、朝井はスマホで記事を確認する。記事に対するコメント数が驚くことにゼロ。タイトル確認すると
「ヨガインストラクターの〇〇〇〇」

なんと歌手と同姓同名のヨガインストラクターの記事だったのである。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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太田和彦    「居酒屋道楽」(河出文庫)

 太田の居酒屋探訪記シリーズに入る作品。
居酒屋紹介のための放浪記だからしかたないと思うが、作品最初の墨田川界隈の居酒屋放浪記では紹介されて行きたいなあと思う店は殆どなかった。

 一晩で6軒の居酒屋を回る。そんな居酒屋での楽しみ方はありえない。普通せいぜい居酒屋は2軒。そこからは、バーやスナックに行く。しかも、店と店への交通はすべてタクシー。そんな移動はありえない。多分15分ほど居酒屋にいて、次々タクシーで移動したのだろう。それでは魅力ある居酒屋など紹介できるわけがない。

 しかし、居酒屋とはどういうものかに対する太田の考えは、その通りと感服した。

 「どこにも客がいる。その多くは迷わずカウンターにすわる。中に主人はいるけれども、客たちが見ているのは主人ではない。見ているのはそこにある客同士の気持ちの一体感だ。話はしないが、この店のよさ、ここで酒を飲み心を解放する心地よさを共有する連帯感だ。
二、三人連れでカウンターに座り、互いに話すよりも黙って中を見ているのは、共にこの空気を共有しようとしてきているのだろう。」

 そう居酒屋は騒ぎにゆくところではない。酒を静かに味わうところなのだ。

 いつも居酒屋めぐりに同行する出版社の人が「男はつらいよ」に早稲田の学生時代に出演したことがあると自慢する。目立つようにピンクのセーターで行き、ばっちり映ったと自慢する。
太田もおれだって出演したことがあると返す。
 椎名誠が監督をした「うみ・そら・さんごのいいつたえ」。
主人公の少年は海で漁師の父を失う。仏壇に飾ってある父の遺影写真で出演したと。
まいったなあ。太田の返しには。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎   「菜の花の沖」(六)(文春文庫)

 軍艦ディアナ号の船長ゴローニンは日本に拉致されているレザノフのかっての部下。リカルドを日本から奪還するためには、日本人を拉致することを決める。この捕虜に高田屋喜兵衛以下の日本人が志願し拉致される。

 捕虜になった日本人のうち2人が釈放され、日本側の対応を聞きにゆく。日本人捕虜は3人が捕虜中に亡くなり、残る人質は喜兵衛だけになる。嘉兵衛はゴローニンに自分を幕府との交渉に行かせてくれと懇願する。そんなことをしては全く人質がいなくなり、交渉にならないとゴローニンは拒否する。すると高田屋喜兵衛はマストの先端に上り、自分を信じてほしい。必ず帰ってくる。自分を交渉人にしないと自殺するとゴローニンを脅す。その頃にはゴローニンは喜兵衛を大切な友人と信じるようになっていたので、喜兵衛を信頼して幕府との交渉にあたらせる。おかしな話だが、日本人の喜兵衛がロシアの代表になり幕府と交渉するのである。

  この交渉は長い日にちがかかるが、最後に喜兵衛はリカルド以下ロシア人捕虜全員を連れてディアナ号にもどってくる。

  六巻に司馬のこの作品にこめた思いが書かれている。

  「愛国心を売り物にしたり、宣伝や扇動材料につかったりする国はろくな国ではない。愛郷心や愛国心は、村民であり国民である者のだれもがもっている自然の感情である。その感情は揮発油のように可燃性の高いもので、平素は眠っている。それにたいして、ことさらに火をつけようと扇動する人々は国を危うくする。自惚れが至上の愛国主義の国は上国ではない。」

 自国優先を叫ぶ権力者、国は下国なのである。更に、そのため国民をあおって戦争を行う指導者はもってのほか。紛争や課題は高田嘉兵衛のように言葉をもって粘り強く交渉することにより解決してゆくものである。司馬の言葉は、現状の世界状況をみるにつけ、心にずしんと響く。

 国後、択捉がロシアに奪われず、日本の領土に実質なっていたら、高田屋嘉兵衛は歴史上に残る人物になっていただろう。司馬が思い入れるほど人物として一般には知られていない。

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| 古本読書日記 | 06:46 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎   「菜の花の沖」(五)(文春文庫)

 この5巻にはまいった。まったくと言っていいほど主人公の高田屋喜兵衛は登場しない。殆どすべてが当時のロシア事情、ロシアからみた物語になっている。多くの読者が読むのに苦痛が伴ったように思う。

 ロシアは、食料確保という名目でレザノフを代表にして日本の長崎に軍艦を派遣し、兵力を背景に国交、通商を迫った。6か月も軍艦を滞留させたが、徳川幕府はその申し出を拒否する。

 これに怒ったレザノフは部下に択捉、国後を襲えと指示する。(本当は指示していないという見方もあるようだが。)
 レザノフの部下は、たびたび択捉を襲撃。島の人を殺害したり、捕虜として拉致する。

  そして、襲撃船ディアナ号船長リカルドが油断していたとき、日本はリカルドと部下を捕獲し、北海道の松前に連行する。

   この巻で印象に残ったのは、レザノフが長崎で長崎奉行との面談の描写。当然、面談は日本の形式で行えねばならない。ということは、レザノフは長崎奉行の面談に際しては、土下座をせねばならない。これは何とかレザノフは受入れ対応したが、実際の面談は用意された椅子に座る。一方奉行は脇息に肘をかけ、座布団に座る。すると奉行は常に顔をあげてレザノフと対話することになり、奉行のほうが地位が低くみえるようになる。

 この状態で、ロシアの申し入れを拒否を通告するのは滑稽にみえる。

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司馬遼太郎   「菜の花の沖」(四)(文春文庫)

箱館を北前船の荷積み下ろしの拠点にした喜兵衛は、幕臣の三橋藤右衛門の要請に応じて様似から厚岸、納沙布岬を越えて根室にはいる。その後、更に国後島から択捉島に到達する。

 この国後から択捉までの航海の描写は迫力があった。

当時択捉には700人のアイヌの人たちがいたが、古代の漁法で漁獲が少なく、喜兵衛は網を使った漁法を教え、彼らの生活が豊かになった。幕臣三橋の要請の理由は、700人の島民を豊かにすることと、最近ロシアの南下してきていて、国後、択捉が襲われることが頻発。この実態調査をすることだった。

 ロシアは当時ツァーリズム体制、皇帝と貴族以外はすべて人間とは認めない農奴主義。この体制から落ちこぼれた人間は流浪人になり、軍事共同体コサックを形成した。

 コサックはシベリアに向かう。シベリアには黒貂がたくさん棲息していた。この黒貂を捕獲して、皮を主にフランスに売る。黒貂の皮はコートやマフラーになり、高額で売買される。その黒貂が乱獲により数が少なくなる。そこでコサックは択捉、国後に棲息するラッコを捕獲ターゲットに絞り、毛皮の材料として販売する。これがロシアが択捉、国後に出没する背景である。

 一方アイヌを含めた日本人は、鰊など魚を大量に獲る。捕獲した魚は食料ではなく、綿花栽培の肥料として使われる。元来日本人の衣服は麻が中心だったが、この時代から綿織物の衣服が主流になってゆく。

 ロシア人と日本人が択捉、国後の活用目的が違いが面白い。

この巻から、高田屋喜兵衛の物語から離れて司馬のロシア史観の主張に多くのページが割かれる。もちろんこれが最後には高田屋嘉兵衛の物語と共鳴することになるのだが、かなり司馬の説明が詳細にわたり、高田屋喜兵衛の人生物語を期待してきた人には肩透かし感が沸き上がる。司馬のロシア感を読みこなすのが苦痛になってくる。

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司馬遼太郎   「菜の花の沖」(三)(文春文庫)

 嘉兵衛が身を寄せていた兵庫の廻船問屋堺屋喜兵衛とその妻が体を壊し、故郷の伯耆に帰り引退することになり、嘉兵衛が店を継ぐことになる。屋号は、義兵衛の祖先が名乗っていた「高田」から「高田屋」とする。秋田で建造した辰悦丸1500石の大型船を北前船にして、いよいよ北海道を目指す、北前航路にのりだす。

 この辰悦丸を操船し、初めて北海道松前に向け、日本海航路を走る。徳川幕府は農本主義。米の取れ高に対し税金をかける。しかし当時北海道ではコメがとれない。そこで松前藩は商人に場所を買い上げてもらい、その場所で行った商売の利益に税金をかけた。場所を買った商人は、アイヌを非人間として酷使して商品を生産販売する。松前藩もアイヌから徹底的に搾取。この状況を幕府には隠すことに情熱を注ぐ。搾取商人の殆どが近江商人だったそうだ。

 こういうわけだから、松前藩は他国の人間を原則北海道にいれない。だから、松前湊には沖に口役所があり、税関、イミグレーションを行いここを通過しないと北海道にははいれないようにした。北海道では、たくさんの税金がとられた 上陸税、交易税、北海道で年を越すと年越税
入港税、積み荷の販売価格の2%の交易税。

 イミグレーションでは真っ裸にされて、危険物を隠してないか調べられる。それから声をだして、喋れと強制する。その喋りによりどこの人間かを識別。幕府のスパイでないことを確認する。

 しかし、幕府のスパイの疑惑があり、上陸を拒否したら幕府から強烈な反撃がるわけだから本当に上陸拒否ができたのか疑問が残る。

 嘉兵衛は、松前では商売が困難と思い、函館を調査。当時函館は数十戸があるだけの小さな村だったが、ここに嘉兵衛は支店をおき北前商売の拠点とする。

 この函館は、街、道路など基盤が喜兵衛によって創り上げられた、
更に、幕府は松前藩のひどさを知り、北海道の東半分を取り上げ、幕府直轄とし、北海道東航路構築を嘉兵衛に依頼する。

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎   「菜の花の沖」(二)(文春文庫)

  第2巻は、兵庫最大の廻船問屋北風荘右衛門に嘉兵衛が見込まれ、破船した薬師丸をわずか50両で譲り受け、この船を修理し兵庫から日本海を北上して秋田土崎までの航海を中心に描かれる。

 嘉兵衛は、蝦夷地まで航海する北前船を持ち、蝦夷地まで航海し日本を周回する希望を果たしたかった。この土崎で船大工与茂平に出会い、彼の船大工の技に魅せられ、北前船を発注する。

 昔東京オリンピックがあったとき、家の前の国道が舗装ととみ幅が広げられた。その際道路わきに建てられていた電柱が掘り出され、移設された。この作業が大変で、作業者が声をあげ歌いながら作業をしていた。調べは元気付けるような勢いのあるものではなく、哀切を帯びた調べだった。

 船の場合、荷積み、荷下ろしは重労働で、歌を声をあげて歌い作業を昔はしていた。
その歌詞がこの物語で登場する。

 日和、東風気(こちげ)じゃ
 沖ァ白波じゃ
 殿御やらりょか
 あのなかへ

港港の女郎衆が、船乗りの客ときぬぎぬの別れをすることを悲しむ歌である。

その強い哀切によって重労働に集中することができる。

日本伝統の演歌は、こんな労働歌が源のように思う。

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| 古本読書日記 | 06:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎  「菜の花の沖」(一)(文春文庫)

 江戸時代後期、淡路島の貧農の家に生まれながら、海の男として身を起こし、北辺の蝦夷、千島の海で活躍し、偉大な商人に成長していった高田屋嘉兵衛の生涯を描いた六巻にわたる大長編小説。

 第一巻は嘉兵衛が淡路島の都志の村に生まれ、隣村の新在家で働くが強烈な差別に合い、そこを抜け駆けして、親戚でもあった兵庫の廻船問屋堺屋喜兵衛に身を寄せ、そこで頑張り、江戸まで灘の酒を運ぶ樽廻船でみごとな働きを見せて一番乗りを果たすまでを扱う。更に、故郷の新在家の庄屋の娘、おふさも嘉兵衛を追って抜け駆けし、2人で兵庫で暮らすまでも並行して描く。
 司馬作品の特徴だが、しばしば物語の本筋から離れて、どうしても自らの博覧強記ぶりを発揮したくなる。それを楽しみにしている読者もいるし、それが邪魔と思う読者もいる。

 嘉兵衛新在家で住み働くが、ここでいじめに会う。駒吉という男にはかられ、濡れ衣をきせられる。

 その場合、村には若衆という組織があり、そこの若衆頭により罰則が決められる。

罰則は3段階ある。最も軽いのが殴る、叩く刑。次がロープでつるし、地面にむかって落とし続ける。一番重いのが、村八分。村八分というのは、葬式と火事の2分については、村は支援するが」あとの八分は何もしてあげないという刑。究極のいじめなのだが、このいじめという概念は司馬は日本独特のものだという。村社会で、特定の人をつまはじきにする。権力者が部下を徹底的にこきおろし人間扱いしないことは日本だけに根付いていて現代にまで日本社会に続けられていると。

 確かに、日本で強くみられる特徴だとは思うが、いじめは日本だけのものとは思えないが。

それから、昔から夜這いという習慣があった。夜這いによって妊娠すると、誰が父親かわからない。その場合妊娠した女性が父親を指名する。それにより2人が夫婦となるが、夜這いによって生まれた子供は村全体で育てるという風習がある。だから、違う村の男の夜這いは禁じられる。夜這いで生まれた子は、村の貴重な財産なのである。

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海堂尊     「医学のたまご」(角川文庫)

 この物語は、京大の山中教授がIPS細胞作製でノーベル賞を受賞したとき、もっと簡単にできIPSの機能を上回るSTAP細胞の作製に成功したと理化学研究所の小保方研究員が発表した事件を彷彿とさせる。

 主人公は中学生の曽根崎薫。父親はゲーム理論の世界的権威。薫は全国潜在能力試験で全国1位になる。実は薫はそれほど優秀な生徒ではない。ここからまずかったのだが、この試験の問題は父親が作成していて、父親が回答を教え、それで全国一位となったのだ。そこで薫は天才少年となり、東城大学医学部藤田教授の研究室に大学生として中学生で迎えられる

 薫は藤田研究室の桃倉研究員と研究を取り組む。
この研究と成果の内容がまったくチンプンカンプンで、作品の興味をそがれるのだが、わからないまま作品に書いてあることを記す。

 レティノ:ナンバー24の検体に対しガンガル遺伝子転座の有無を確認できるプローペを使用したPCRにより、ガンガル遺伝子が、リピート配列の挿入というタイプ解くことに世界で初めて成功したとんでもないことを成し遂げたということらしい。

 この話がマスコミに知れ渡り、当時の小保方さん同様、薫はマスコミの寵児となりたたえられる。

 藤田教授はこの成果を「ネイチャー」に英語で提出するが「ネイチャー」は掲載を拒否する。小保方さんの時もそうだが、通常このような成功は再試が求められ、再試でも成果が再現されないと「ネイチャー」は掲載を拒否する。

 そこで藤田教授は「ネイチャー」を諦め、相当に程度が低い「マグニフィスント・メディカル・アイ」という雑誌に、成功者として教授と薫および医学界の権威者連名で投稿する。

 その時、同時に桃倉に対し教授は、再現試験を指示する。しかし、何回桃倉が挑戦しても再現はできない。

 そのうち、世界的医学者のマサチューセッツ医科大学のオアフ教授が、この研究実験方法に従い実験しても雑誌と逆の結論にしかならないと雑誌に発表。しかも教授は東城大学にやってきて記者会見をするとまで言う。

 こうなると藤田教授はどうするか。そして平凡な中学生の薫はどうなるのか。第一薫はそんな論文を英語で書く能力など全くない。

 藤田教授は、一般的権力者にみられるように、嘘だった成果を他人桃倉、薫の責任に被せようとする。
そこからの始末が読みどころ。

 藤田教授は、コロナでPCR検査数が増加しないことを、保健所の責任とおしつけた加藤厚生労働相大臣を思い出させる。

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万城目学    「パーマネント神喜劇」(新潮文庫)

 万城目の作品にはよく妖怪や神様が登場する。で、不思議なのは、その神や妖怪が現実から遊離した存在にならず、見事に現実の物語に自然に溶け込むところ。

 この作品集にも神様が登場する。人生苦しんだり、悩んだりして、夢をあきらめようとしているとき、もう一歩を踏み出す勇気や決断が「できないで、夢をあきらめようとしているところに、神様が登場して、そっと背中をおしてあげる。それで、勇気がでて、夢に向かって走る。そんな短編4作品が収められている。

 俊と瞬は恋人同士。どちらも「シュン」という。結婚すると2人とも斎藤シュンになる。それでは面倒なので、女性の瞬は恋人を「トシ」と呼ぶ。

 トシは小説家を目指している。何回も文学賞に応募するが入選すらしない。もうだめだと諦めていた時、夢をみる。近くの神社にいる。カラスがやってきて咥えていたゴミ袋を落とす。それを片付けようとすると、杖をついた老人がやってきて袋を持ってどこかへ行ってしまう。神社の笠木の影のところに立っていると、瞬がやってくる。トシはもう作家になることをあきらめると瞬に言う。瞬はもう一回最後に書いてみたら。それは、カラスとゴミ袋と老人を登場させるの。そこで、トシは、懸命に「その3つを使ったアイデアを考えミステリーを創る、賞に応募する。それが大賞受賞となる。しかしその作品は売れなかった。それでもあきらめず書き続け、10年後に大きな文学賞を獲得

 一方瞬は女優を目指していたが、何回もオーディションに挑戦していたが、受賞したことは無い。ある晩夢をみる。同じように、カラスとゴミ袋と杖をついた老人が登場する。そして笠木の影の下に行くと、トシが現れ、もう女優をあきらめるというと、」トシがオーディションで夢にでた3つを使い寸劇をつくってオーディションでやれと言う。そして、オーディションで3つを使った寸劇をして合格し、女優への道を切り開く。

 トシは最初文学賞を獲ったとき、瞬に君のおかげと感謝する。同じように瞬もオーディション合格はトシのおかげと感謝する。しかし、2人は感謝されるようなことをした覚えは全く無い。

 笠木の下の影には神様がいた。しかし、この神様は縁結びの神様。瞬とトシは2人で神社にゆく。そして笠木の影にはいり、トシが瞬にプロポーズ。2人は結婚となる。

収録されている芥川の「杜子春」をもじった「トシとシュン」という暖かい作品。
万城目の洒落が効いている。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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司馬遼太郎  「司馬遼太郎の日本史探訪」(角川文庫)

 日本史を彩る事件や人物について司馬遼太郎が語りつくす。
「朱印船」について語った章が興味深い。

朱印船というのは、豊臣時代から家康の時代までの約50年間、幕府が「海外渡航許可証」(朱印状)を与えて、当時外交関係のあったポルトガルやオランダ、東南アジアの国々と交流を行った船のことを言う。朱印状を持っている船は、渡航先の政府が安全を保証する義務が生ずる。

 当時は倭寇と言われる日本の海賊が東シナ海に跋扈して、中国、朝鮮とは国交がなかったため朱印船は中国、朝鮮には行っていない。

 武家制度社会では、長男は嫡子として家を引き継ぐが、次男以下は何も引き継げずみじめ。それで、多くの人たちが仕事を求めてアジアに渡った。

 シャムのアユタヤには1500人の日本人が住んでいたし、シャムとビルマの興亡を賭けた戦い「スバンブリの戦い」には日本人が五百人出兵した。

 この朱印船貿易で莫大な利益を得たのが、西国大名である熊本の加藤家と薩摩の島津家。

徳川幕府は朱印船貿易で強大になっていく西国大名に恐怖を覚える。それで鎖国令を発布する。鎖国はキリシタン排除が目的のように言われているが、強大化する西国大名を封じ込めるためにだされたとも言われる。

 事実徳川幕府は船の大型化を禁じ、500石以上の船は作れなくなる。500石以上の船だと、九州からどこにも寄港せず、江戸に直接来る能力を持てる。500石までだと、遠州灘を一気にすすむことが不可能で、一旦浜松に寄港せざるを得なくなる。

 鎖国はキリシタン禁止もあったが、西国大名強大化への幕府の対策でもあったのだ。

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| 古本読書日記 | 05:46 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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真山仁    「ハゲタカⅡ」(下)(講談社文庫)

 上巻の冒頭、アメリカ フォートワースの空軍基地のデモでアメリカの誇る最新戦闘機が地対空ミサイル攻撃を振り切れず、あっけなく撃ち落されるという事故がおきる。国防総省の将校たちが見守るなかで起きた失敗に、実験を主催したプラザグループ会長兼CEOのカッツェンバック会長は怒り心頭。その原因は日本の曙電機が開発したシステムを購入搭載することができず自ら開発したシステムに欠陥があり、デモガ失敗したことだと知る。

 ホッツェンバック会長はアメリカ政府とともに曙電機を買収して技術の取得を決意する。

下巻は曙電機買収をめぐって強大なプラザグループと鷲津政彦率いるホライゾン・キャピタルの壮絶な戦いを描く。
 曙電機はどこがモデルかと想像してみた。最初は富士通かと思ったがテレビ事業が無いので違うと思い東芝かとも思ったが少し違う。結局曙電機は、真山が創造した架空の会社。日本家電グループが統合された会社なのだと思った。

 この物語に、旧態依然としている曙電機を買いたいと登場するシャインという会社が登場する

 少し前に、キャノンの会長御手洗氏が、84歳で社長復帰するというニュースがあった。社長を退任してから2度目の復帰。それも84歳。過去すばらしい業績をあげたことは否定しないが、それほどまでして社長に復帰が必要なのか。正直キャノンは俺がいなければと思い込んだ老害、弊害だと思った。シャインはこのキャノンがモデル。御手洗氏は物語では滝本社長という名で登場する。滝本社長はシャインを総合家電メーカーに創り上げたいと考え、そのため曙電機のAV技術が欲しかった。

 ブラザグループと米政府は曙電機の技術に加えてシャインも購入して彼らの持つ技術を獲得することを狙う。

 鷲津率いるホライゾン・キャピタルは、上巻と異なり、首相まで取り込み、日本の技術のアメリカ購入を阻止しようとし、最終的にはプラザグループとアメリカ政府の癒着腐敗事実をつかみ、プラザグループ排斥に成功する。

 その過程は手に汗握る緊迫感にあふれている。見事なストーリーだ。

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