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2020年04月 | ARCHIVE-SELECT | 2020年06月

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真山仁    「売国」(文春文庫)

 この作品に登場する文部省官僚の近藤が主人公の検事富永に言う。
「例えば、日本の製薬会社が胃がんの特効薬を開発したと想像してください。効果は抜群、これで胃がんで亡くなる人は一気の減るという画期的な薬だとしましょう。但し、その使用が認可されるためには、薬事・食品衛生審議会の厳しい審査をクリアする必要があります。
 認可される前にこの製薬情報を、薬事・食品衛生審議会の委員がアメリカに売り渡したならば、こいつは紛れもなく売国奴です。
 そしてアメリカで開発した薬品として使用されるまで、審議会が申請があげられても、書類不備を指摘して、何度でもつきかえす」

 作品では国会でもめた特定秘密情報保護法もアメリカに強制されて国会に上程された法律と書く。

 保護する中身は、アメリカにはすべて公開し、どれを秘密にするのかもアメリカが決める。
作品では、日本の高度成長を支えた技術は、殆どアメリカのスパイによりアメリカに提供され、わずかに原発技術と宇宙開発技術だけがアメリカを凌駕する技術として残っていると描く。

このうち原発は大震災により、輸出が困難になる。残る宇宙技術をアメリカのスパイに提供するために奔走する技術者、政治家、官僚の売国の様を描く。スパイや間に入った政治家、官僚には膨大なお金が手にはいる。

 面白いのは、お金は弱小金融機関信用金庫にはいり、融資という形式を経て売国奴の手にわたると描かれるところ。

 アメリカは優秀な高校生、大学生に目をつけていて、アメリカに無償で留学させ、研究者として取り込むこともすでにしているそうだ。

 真山の作品は、どれも衝撃的内容で、実際も物語の通りじゃないかと思わせてしまう。

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真梨幸子  「おひとり様作家、いよいよ猫を飼う」(幻冬舎文庫)

 真梨さんのデビューから最近までつづったエッセイ集。

真梨さん多摩美大の姉妹校を卒業して大手メーカーに勤めるが、限界を感じ退職フリーライターになり小説家を目指す。

 2005年に出版された「孤虫症」がメフィスト賞を受賞して作家デビュー。その後「女ともだち」「えんじ色心中」私は面白かったが、を出版したが全く売れず、底辺をさすらう苦しい時代を過ごす。

 2008年に「殺人鬼フジコの衝動」を発売大ベストセラーとなり、生活苦から脱却。タワーマンションに活動場所を確保、優雅な作家活動をしている。

 面白いのは「殺人鬼フジコの衝動」が発売される前と後のエッセイの中身がくっきりと分かれているところ。

 発売される前は、生活保護を受けるしかないというぎりぎりの生活が描かれ、発売後はもっぱら飼い猫マリモと、血糖値の分析とその解説のエッセイに変わる。

 女性の性欲は、男性ホルモンが支配している。

男性ホルモンが多い女性は、活動的で好戦的。仕事もバリバリするし、性格も強い。浮気性が強くセフレが多い女性は男性ホルモンに支配されていると書く。

 更年期が過ぎた女性が、急に活発になり、旅行だ、歌手の追っかけだ、社交ダンスだと始めるのは理にかなっている。

 真梨さんは下ネタの会話が苦手。下ネタが好きな女性は、男性ホルモンが多い女性だ。
これからは、女性の下ネタがはじまったら、「この人はエロいおっさん」だと思うことにすると真梨さんは言っている。

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真山仁     「雨に泣いてる」(幻冬舎文庫)

 主人公の大嶽は毎朝新聞の記者。2011年3月11日に東日本大震災が発生。その取材に山形を経由して、最大被災地宮城県の三陸市にはいる。

 実は、大嶽は阪神淡路大震災も経験して取材もした。そのときキャップだった先輩真鍋にきつく言われた。

 人助けのために記事を書くんじゃない。俺たちは、目の前に起きていることを読者に伝えるためにいるんだ。それに徹しろ。感情移入なんてするな。

 この考えが染みついている。
作品は、大きな惨状を、この信念に基づいての描写がずっと続く。状況を客観視しているため、淡々と描写され、リアル感が殆どない。

 真山と言えば、ドキドキハラハラさせる物語が信条の作家。こんなドキュメンタリー調の描写が続くのかとがっかりしていた。

 この物語、たまたま松本という新入記者が、別件で三陸市取材中に大地震に遭遇。しかも松本は新聞社社主の孫娘。

 この松本が大津波にあい、逃げ道を失う。そのとき心赦という少林寺の和尚が手を引き助けてくれる。松本は助かるが、心赦は津波に巻き込まれ死んでしまう。

 心赦和尚は、「七転び八起き」という塾を主催して、多くの自殺志願者を救ってきて、地元だけでなく全国でも名僧として有名だった。

 ところがこの和尚、10年前裁判官夫婦を殺害して逃亡している元警察刑事ではないかと主人公の大嶽は疑う。そして前部下を使いながら極秘捜査をして、ほぼ殺人者であると確信する。

 この捜査の過程と逃亡者だと確信するまでが面白い。大スクープだ。でこれを記事にしようとする。
 そこからが真山の真骨頂。いくら殺害者といっても、多くの自殺志願者を救ってきた名僧。
しかも社主の孫娘を死をかけて救っている。

 新聞は感情をはさまず事実を伝えるもの。編集局長も名僧が殺人者であることを一面トップにしようとする。しかし社内にはひたすら上におべっかを使う人間がいる。社主に密告して、スクープを記事にさせないようさせる。そうこうしているうちに、ライバル紙が毎朝新聞をだしぬいて記事にする。これに救出してもらった社主の助けてもらった名僧の真実は記事にしてはならないと孫娘の松本も加わる。そして極めつけは真犯人は俺だというものまで現れる。

 社内、社主、孫娘、ライバル紙の思惑が激しく交錯する。ここの描写はさすが真山とうならせる。最後の盛り上がりは見事だ。

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辺見庸    「ハノイ挽歌」(文春文庫)

 ベトナム戦争が終わって約10年後、ハノイを中心に1年余のベトナム滞在記。

ベトナムは確かにアメリカに勝利したが、民間人を含めたベトナム人の犠牲者は800万人(南ベトナム側含む)一方アメリカ側は5万8000人で、けた違いにベトナム人犠牲者が多い。とてもベトナムが勝利したと思える状態ではなかった。戦争終了後10年間ベトナムは貧乏だった。そのころはボートピープル、ベトナム脱出難民が大きな問題になっていた。
 辺見はホテルの部屋で、魔法瓶を倒し、二週間遅れの日本新聞にお湯をぶちまけてしまう。

「ドラゴンクエストⅣ発売に1万人の長蛇の列」という記事が掲載されていた。その濡れた32ページの新聞を屑籠にいれた。

 翌朝、ホテルの庭に捨てた新聞が4隅に小石がおかれて並べられていた。何をしているのかと聞くと、アルバイトのメイドが新聞紙を乾かして、包装紙として売るのだと言う。

 そういえば、辺見の書き損じた原稿用紙もメイドが小さく四角に切り、厚紙に挟んでメモ帳として裏紙を使っていた。
 市場で、モヤシを300グラム買ったら、バナナの葉で包んで、稲わらの紐で縛ってくれた。

ハノイの大学で聞かれた。
「燃えないゴミとは何だ」と。説明してあげる。聞いたベトナム人が「それはゴミではない」と怒る。まあ、一応リサイクルされる資源ゴミではあるが。

 思い出す。童謡に「良い子が住んでる良い街は」。この歌を歌っていた頃、街は良い街では無かった。そんな街になったらいいなという願いの歌だった。

 今のベトナムの街は、童謡で歌った街そのものだと辺見は思う。

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垣谷美雨   「あなたのゼイ肉落とします」(双葉文庫)

 痩せることに悩んだり、苦労している人のために送るユーモアダイエット短編小説集。ベストセラー「あなたの人生片付けます。」で活躍した大場十萬里の妹大場小萬里がこの作品では活躍する。

 園田乃梨子は体重計にのり深いタメ息をつく。59.8KG。二十顎に三段原、二の腕はプロレスラーのように盛り上がっている。高校時代から40代半ばまでずっと48KGをキープしてきたのに。49歳の今、炭水化物を抜けばと思い食材を変え挑戦してみるものの、全く体重体型に変化がおきない。

 ありとあらゆる方法をチャレンジしたがすべて失敗した。
そんな時、母親から大場小萬里が書いた本「あなたのゼイ肉落とします」を紹介される。この本は売れているのだが、小萬里は一切マスコミに登場しない、不思議な著者。

 当然期待せず本を読む。いきなりチェックシートが登場する。その感想をこめた乃梨子の反応が面白い。

1今までダイエットにチャレンジしたがうまくいかなかった。
 もちろんイエス。だからこの本を買ったんだ

2太っている人間はみっともないと思う。
 なんていう質問なんだ。そんなこと、この世の全員が思っている。

3道を歩いていると、無意識のうちに前方から歩いてくる人の体形を観察してしまう。
 下半身デブの女性なら、女性の脚に眼がゆくし、頭髪の薄い男性なら、すれ違う時、男性の頭をみる。

4何故か私だけは空気を吸っても太る
 本当にその通り。食事を抜いても、更年期のせいか、どんどん太っていくんだもの。

5太っていない人はみんな胃下垂だ。
 中年になって太っていない人はみんな胃下垂だ

6太っている人とは真の友情は結べない。
 これはいかになんでも言い過ぎ・・・だけど否定できない。

7太っていることが原因で、ものすごく落ち込むときがある。
 あるある。それもしょっちゅうだ。

全部イエスだ。イエスが4個以上の人は電話をください。個別指導をいたします。

 この質問に答えて乃梨子を含め4人が指導を受け、問題を克服してゆく。
なかなか大場小萬里の指導がユニーク。それは読んでのお楽しみ。

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真梨幸子   「お引っ越し」(角川文庫)

 引っ越しにまつわるサイコミステリー6編の短編集。

主人公は、明日の朝、引っ越しをする。これで8回目の引っ越し。業者から提供されたダンボール箱に荷物をつめる。深夜0時、やっとダンボール箱詰めが終わったと思いふと、棚に眼がゆく。

 そういえば前の引っ越しのとき、もう不必要だと思ったものをとりあえずつっこんでいた物がある。

 不必要だったものだから、そのまま捨てればいいと思ったのだが、やはり気になるから点検しようと思いひとつひとつ手に取る。優柔不断な性格のため、必要、不必要、保留にわけ分別するが、保留のエリアばかり山積みされる。明日の朝には業者が来るというのに。

 突然1枚の紙が現れる。小学校の算数のテストで15点だった解答用紙だ。思い出す、75点のテスト用紙を家に持って帰ったとき、母に平手で思いっきり殴られた。80点以上でないと必ず殴られた。

 75点でも引っぱたかれたのに、15点のテスト用紙など何をされるかわからない。隠してしまおうと机の引き出し奥にしまいこんだ。

 一番にいらないものなのに、8回の引っ越しで持ち運んできた。
結局保留したものの殆どは、引っ越し先に持ってゆくことに決めた。しかしダンボール箱がたりない。

 仕方ないので、深夜コンビニにゆき空箱をわけてもらおうとする。空箱だけというわけにもいかないので、お腹も少し減っている、それでデラックス肉まん250円を2個購入。

 空箱2個では足りないように思ったので、思わず
「3箱」と言う。店員がかん違いしてデラックス肉まんを三つ袋にいれる。

 あーあとため息がでる。業者に頼めば空箱は一個50円なのに、750円もかけてしまった。

 主人公は今後引っ越しの都度、生涯15点のテスト用紙を持ち運ぶのだろうと思った。

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窪美澄     「じっと手を見る」(幻冬舎文庫)

 小説の在り方評価を論ずるのではない。しかし自分が好きな小説はやはり現実によこたわっている社会の現実を描き、その上に作られている物語になっている小説だ。部屋に閉じこもり、想像、妄想だけに頼って書かれる小説を芸術的に高いと評価するひとたちがいて、社会を扱っている小説を低くみる、どうも妄想小説はついていけない。

 窪さんの小説は、社会がいつも描かれている。この小説も、介護士、デイサービスの現状が細かく丁寧に描かれる。東京に憧れるが、介護士として将来の希望がふさがれ、田舎にとりのこされた若い男女の悲しい恋愛、憧れの東京にしがみついた展望のない恋愛が、丹念に描かれる。

 恋愛の形を無理やり変えてみても、現実の辛さ厳しさが常に足を引っ張り、気が付くと希望のない元の世界に戻っている。

 物語は窪さんの心情が表れ、最後は希望に灯された状態で終了する。

しかしとても、希望があるようには思われない。
 ぜひ、窪さんに日奈と海斗のせつない恋のその後を描いてほしい。

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垣谷美雨   「リセット」(双葉文庫)

 「竜巻ガール」でデビューした垣谷さん2作目の作品。垣谷さんは1959年生まれ。40歳まで会社勤めをして作家に転進している。垣谷さんが社会人だった時代、社会は男尊女卑が色濃い時代。そんな時代は、女性社員は23歳くらいまでに結婚して家庭にはいるのが常識時代。24歳以上になって会社に残っていると、会社からは疎外され、完全にその女性は何か欠陥があるのではと思われて完全につまはじきにされる。何しろ会社募集要項は男女別。
女性の募集要項には「年齢は23歳まで」と条件が付いていた。

 垣谷さんは、そんな男尊女卑社会に完全に怒っている。

この物語は、3人の高校同級生が40歳の時に、もう一度高校生からやりなおしたいと思って集まったレストランにタイムトンネルのしかけがあり、それに乗って高校生にもどったところから人生をやりなおす物語になっている。

 3人の女性。知子は高校生時代イケメンだった香山浩之と結婚し、3人の子供を育てる。香山家は朋子が何かをすることを徹底的に封じる。とにかく機械のようになって、浩之、香山家に忍従して生きてきた。知子は高校のころ女優になりたかったが、当然家が許さず、浩之との結婚を選択した。

 薫は成績が学年で1番を争う、秀才。大学に進み、一流会社に就職。さげすまれ、排斥されつつもその悔しさをバネにして男社会のなか、副部長まで昇進。しかし、その反動で独身のまま40歳になる。平凡な結婚生活に憧れている。

 晴美は劣等性でつっぱっていた。高校生の時、出稼ぎにきていた建設現場労働者の子供を身ごもり捨てられ、今はスーパーと居酒屋掛け持ちのパート従事者として底辺の暮らしをしている。金持ちの旦那をつかまえ優雅な生活をしたいと思っている。
そして高校生に戻って、朋子は女優となり、薫は朋子の夫の浩之と結婚し過程を創る。晴美は名家で医者である家の息子と結婚する。

 この物語で面白いのは、3人が歩んできた人生の記憶と現在の状態を認識していて、それぞれ異なったやりなおし人生を歩み出した他の女性の愚痴、苦悩に自らの40歳までの経験から新しい人生に対しアドバイスするところ。

 そして、異なった人生を歩んでみても、男中心社会の圧力にふりまわされ、一人の確立した人生を歩めないことが認識される。

 それに対し作者垣谷は怒りをぶちまけるのである。
垣谷の勢いが実現してゆくと、そのうち男、女と言う言葉死語になるように思えてくる。恋愛は同一性でも当たり前のように行われるし、スポーツも女性に力がつき、男女別スポーツハなくなり、男、女はすべて人間という言葉に収斂されるように感じる。

 男。女という言葉を使うと差別、セクシャルハラスメントと非難される時代がやってくる。

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島本理生   「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」(幻冬舎文庫)

 30歳の女性3人大の友人同士。それぞれの人生で抱えている悩みを物語にして紡ぐ
オムニバス風の作品。

 この物語の中心になっているのが、仕事熱心なOL知世と、仕事で出会った離婚経験のある取引先のエンジニア椎名との恋物語。

 どうも2人の恋のありよう有様が実感が伴ってこないし、恋愛中ということが読んでも伝わってこない。それは、椎名が自分はHIVのキャリアと告白したからかもしれない。

 それでも、知世は好きだ、好きだとひたすら思い募る。どこが好きなのかまったくわからず、ひたすら、好きだ好きだと思い詰めるだけ。

 一方の椎名も年齢差があることが理由か、ひたすら、
「君が好きなんだ。俺には勿体ないと思っている。一緒にいれば楽しいし、大事で仕方ないし、きちんとしたい。」
 という言葉が長い物語で語られる。一緒にいれば楽しいという雰囲気が全然伝わってこない。
 この知世が、2歳年下の風祭の誘いにのって、バーにゆく。少し酔って雰囲気もよくなり、
風祭が
 「キスしていいですか。」と聞く。
知世が
 「ダメです。」と断る。その後の文章が素晴らしい。


椎名さんのことは好きだけど、三十歳になった途端に自分を堅く水気のない豆腐のように感じていたのも事実だった。中途半端に崩れやすいまま形が定まってしまったような。

こんな文章があるから島本作品に引き付けられてしまっている。

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高橋克彦    「紅蓮鬼」(日経文芸文庫)

 日刊ゲンダイに連載されていた作品。

延喜八年(九百八年)志摩の国賢島で8人の男が惨殺される事件が起き、その半月後榛原の山村で5人の男が惨殺される事件が起きる。いずれの事件も男根が食いちぎられていたり、ねじあげられていて、殺人現場には年端も行かない女の子が残されていた。この事件の調査をしたのが、この時代内裏から任命された主帳という役の賀茂忠道と書生の清貫。

賀茂家は内裏の陰陽寮を主導していて、このころよく出没していた鬼について研究、鬼の魔力を打ち破る術を習得する筆頭家だった。今回の事件も鬼が起こした怪奇事件として忠道が解決のために任命された。

しかし忠道は、捜査の過程で行方不明となる。その間に更に女性と男2人が殺され、忠道が犯人ではないかと疑われる。
その時、忠道は大宰府にいた。5年前に菅原道真が謀反により流罪された地だ。ここの荒れ寺で大雨の日、祈祷を忠道がすると、生きた泥人形が現れる。これが怨鬼。怨鬼は菅原道真を左遷した勢力に強烈な恨みを抱き、妖術を駆使して左遷勢力を殲滅しようとする。

忠道と泥人形が京にでて、道真を追い落とした中心人物、好色の右大臣藤原茅根の帰宅途中、牛車のなかで女と遊んでいるところに雷雨をあびせ、茅根を殺害する。

 殺害は道真流罪を恨む鬼によってなされたとの噂が広がり、恐怖に感じた左大臣藤原時平は部下の三善清行に真相をつかむよう指示する。三善は自分にすべて任せてくださいと時平に言い、怒霊、陰陽道における術を持つ日蔵に調査と鬼退治を命じる。

 更に零落する賀茂氏の復活をかけて忠行、忠道の祖父忠峰が彼らの弟子の香夜とともに摂関政治権力藤原氏に対し立ち上がる。

 忠道 泥人形と忠行、忠峰らち、藤原派遣の日蔵の妖術対決がクライマックス。

鬼は目に見えるものではなく、人の心に入り込んで人を支配するもの。今は存在しないものとして思われているが、平安時代の権力争いは鬼の対決が当たり前。新型コロナとか毎年起こる大災害に接すると今でも鬼はいて、人間は鬼との戦いを続けているのかもしれない。

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江上剛   「ラストチャンス 参謀のホテル」(講談社文庫)

 バブル絶頂期に一戸建ての家を建てた。借りたローンの金利が今からみるととんでもない高い利率だった。損したなあと嘆いていたらある日銀行から連絡があり、ローンを組みなおしましょう。安い金利にして決済期限も延ばしましょうと言ってきた。

 当たり前のことなのかと世間知らずの私は驚いた。銀行自らが利率の低いローンを提案してくる。

 今は、日銀の大金融緩和時代、公定歩合がマイナス金利の時代。この物語の肝は、老舗のホテルが新館建設などの費用として銀行から200億円を借り入れ。当初の金利は年利3%。しかし今は」マイナス金利の時代。私の経験からしても、銀行は利率引き下げを提案してくるはずなのに、3%のまま。ホテルの財務部長も銀行に利率の引き下げを要求しない。

 しかしある時銀行の貸出金台帳が1&に引き下げられているのに。ホテルの台帳は金利3%のままになっていることが発覚。

 差額の2%は手数料の名目で架空口座に振り込みがなされていた。この架空口座から、ホテルの財務部長と銀行のホテル担当者がお金を引き出して横領していた。

 こういう横領は、お互いの窓口担当が同一人物だと発覚されず、ずっと続く。

 公共工事でも業者からコンサルタント料などの名目で特定口座に裏金が振り込まれ、それを政治家たちが山分けをする。
 政治家の税金横領。これだから政治家はやめられないのだろうと思ってしまった。

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佐藤青南     「白バイガール」(実業之日本社文庫)

 主人公の本田木乃美は神奈川県警の白バイ隊員になったばかり。同僚にバイク運転テクニックが優れている川崎凛がいて、素人同然の本田との関係はギクシャクしている。

 そんな中、管轄内で連続強盗事件がおきる。手口が似ている。
強盗事件の捜査は捜査第一課が担当。白バイ隊が捜査に参加することは無い。この連続強盗事件と白バイ隊をどう結び付けるのか。もちろん犯人がわかり逃走。それを追うのに白バイ隊が活躍することはあるだろうし、事実この作品でもわだかまりが解けた木乃美と凛が最後にバイクで逃げる犯人を追い詰める。木乃美が並走する犯人のバイクに飛び移るところは迫力満点の描写がなされる。

 この作品で、変だと思った所があった。交通違反摘発ノルマいつも未達成の木乃美を助けてやろうと、同僚巡査の元口が、違反切符を発行する青切符帳を自分の分を木乃美発行名義に変えてやる。

 こんなことは警察では絶対やらないだろう。これは怪しいなとその時思う。この違反行為が、きっと連続強盗事件解決に結びつくのだろうと思って読み進む。

 青切符帳は、元口によってきられるが、名義は木乃美である。

実は犯人は、管轄内で交通違反を起こし、切符をきられる。その名義が女性。実は自分の家の近くでしばしば女性巡査が違反チェックをしている。普通、警察の捜査は刑事のみで行われているとは知っていない。それで犯人は自分に捜査の手が伸びてきているのではと女性巡査を見て思う。

 それで確認に女性巡査木乃美に面と向かって確認をする。
ここで事件と白バイ隊が結びついてゆく。

 こういうとき作家は、青切符帳の名義を変更するというありえないバメントリックをどんな気持ちで執筆しているのだろう。これで読者をひっかけるのだ。想像すると何となく面白い。

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矢作俊彦    「ロング・グッドバイ」(角川文庫)

 かのチャンドラーの名作「長いお別れ」のオマージュ作品。チャンドラーはLONGだけどこちらはWRONG。

 主人公の神奈川県警二村刑事は、殺人事件の重要参考人だったビリー・ルウの失踪に関わったとされ、閑職に左遷される。そんな時、昔同僚だった先輩刑事から、国際的ヴァイオリニストの養母である行方不明の平岡玲子の捜索を依頼される。

 物語はビリー・ルウの失踪と平岡玲子の失踪がベトナム戦争と米軍基地を接着剤にして行われたことがわかる。ハードボイルドというよりミステリーの要素が強い。ただし登場人物の語り口はスノッブでハードボイルドだ。

 ゴーン逃亡でクローズアップしたプライベートジェット機。大金持ちが所有して世界を駆けまわるためにあるものだと認識していたが、実はゴーンがジェット機を所有しているのではなく、ジェット機の所有する飛行会社は別にある。

 この作品を読むと、表にはだせない金のやりとりというのは、振り込みや小切手など銀行経由では足がつくため、すべて現金で直接行う。その現金を運ぶのにつかわれるのがプライベートジェット機だということを知った。

 アジアの新興国では、国起こしに、工業団地を造成して、海外工場を有利な条件で誘致するプロジェクトが盛んである。こういうビックプロジェクトには、新興国の権力者が群がる。

 権力者は、でかい財布の口を開けて、お金が入ってくるのを待っている。この裏金を運ぶためにプライベート・ジェット機が使われる。

 それから、米軍基地では、公害の危険などには関心が無いため、汚染水は垂れ流され、基地の土壌に堆積する。

 この土壌処理に活躍する会社がでてくる。物語では、ベトナムの工場団地造成に伴い汚染土壌を運び込み、造成地に埋めてしまうということがその会社で行われる。ついでに、ベトナム戦争で米軍が大量に散布した枯葉剤により汚染された土も埋め立てに使う。

 こういう裏家業の会社は、どんな脱法行為でも合法にさせてしまうノウハウを持っており、それにより大儲けをする。

 日本のIR誘致というのも、実現に向かって動きだすと、プライベートジェット機や、現金運び人が跋扈するのだろう。そういえばIRで暗躍していた代議士も香港へはプライベートジェットを使っていた。

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佐藤友哉  「エナメルを塗った魂の比重」(講談社文庫)

 鏡家サーガシリーズの2作目。このシリーズ処女作「フリッカー式」から3作創られていて、しかも「フリッカー式」はメフィスト賞受賞していて、出版社期待のシリーズだったのだが全く売れなかったようだ。

 この種の作品はなんて表現したらいいのか、SFホラーミステリー作品と言ったらいいのか。科学的に実証できないことがさも実現しているようにトリック解決に使う。だから事件が多発するがその解明に挑戦することはできない。

 この作品、ある研究所が物語に絡んでいてそこから事件が起きる高校のクラスに研究所で作られた予言者28人がおくりこまれる。

その中にカニバリズム人食いをする生徒がいる。この人食いをすると、食べた人の過去の記憶が移植される。更にその人の血を吸うと、吸われた人の姿に変わる。

 そして、コスプレに狂奔する生徒がいて、女の子が実は男の子だったりその逆だったりする。

 これに密室殺人事件(実際は自殺だったのだが)が絡む。

謎解きは非科学的要素が複雑に絡み合い行われるがここが本当にわかりにくい。

 非科学的な基盤にサブカル系要素を取りこみ、あるコアの読者にとっては、たまらない作品になるだろうが、一般読者には受けないだろうと思う。読んでみて売れなかったことがよくわかる。

 500ページになろうという長編。私のような田舎の年寄りがよく我慢して読み切ったものだと自分自身に驚いた。

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原田マハ   「たゆたえども沈まず」(幻冬舎文庫)

 ヴィンセント 弟テオのゴッホ兄弟に、パリで活躍した画商林忠正、その使用人の重吉を絡ませた物語。

これは原田をもってしても難しい物語だ。ゴッホの生涯は詳細にわたり明らかにされている。この事実に従いながら林、重吉を絡ませる物語にするのだから。

 重吉はまったく原田が作り上げた架空の人物。林は実在の人物で画商をしていたが、ゴッホと交わっていたらしいわずかな痕跡はあるが、殆ど関わり合いは無い。

 だから主人公の重吉、常に重要な場面でテオの友人として登場するが、何ら起きた事実に影響を与えることは無い影の薄い存在となってしまっている。

 原田はどこで林または重吉がゴッホの人生に大きな役割を果たさせるのかを興味を持って詠み進む。

 ゴッホがパリでは自分の絵は受け入れられてもらえない。浮世絵という素晴らしい版画芸術のある日本に行かせてくれないかと林に懇願する。

 林はそれは無理だ。フランスにも日本があるじゃないかと地図を広げてその地を指で示す。南仏アルルだ。

しかしゴッホはセーヌ河とそこから見たパリの風景を描きたかった。
それで画架と絵具を持って、セーヌ河にかかる新しい橋ボンヌフに向かう。しかし警官がやってきてここで絵を描いてはいけないと排除される。しかしゴッホはあきらめずまた行く。しかしまた排除される。これを5回くりかえしこれ以上行うと逮捕すると脅され、悲嘆の中、アルルに向かう。

 アルルでは友人ゴーギャンとともに、自然のなか、ゴッホは意欲的に絵画制作に取り組む。そしてテオにたくさんの絵画を送ってくる。最後に送ってきたのが名作「星月夜」。

 林はその作品をみて、ゴッホはセーヌ河を描きたかったんだと長い溜息をつく。
まばゆいばかりに輝く星や月はボンヌフからみた風景。そして左手前にある大きな一本の糸杉はゴッホなのだ。寂しそうにセーヌを眺めているゴッホがそこにいると。

 うまいもんだ原田マハは。最高の場面で林を登場させている。

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又吉直樹     「東京百景」(角川文庫)

 東京の色んな場所で、遭遇した出来事を中心に描くエッセイ集。

どこまでが実際のことなのか、想像して造られたことなのかよくわからない。

18歳のとき友達が東京にいるのをやめ大阪に帰るという。「大阪に帰るから家具いらん」と言うので、次の日又吉が全部引き取って自分のアパートに持ち帰る。すこしすると友達が「大変だ!泥棒にはいられた。」と又吉のところにやってくる。友達がお茶を飲みながら言う。「何かこの部屋落ち着くなあ」と。

 又吉はネタでもよくつかっているらしいが頻繁に職務質問を受ける。
ある時、「どうして私に職務質問をするのか」聞いてみる。警官が答える
「そうですね。顔色が悪い。眼が充血している。眼の下にくまができている。頬がやせこけているとかですね」と。

 タクシーに乗る。「学芸大学まで」と言う。しかし走るタクシーからの風景をみるとどこか違う。近道を行ってるんだと自分で納得させ黙っている。すると着いた所は都立大前。

「学芸大前と言ったじゃないか。」と怒る。「そんなことは無い都立大と言った」と運転手は譲らず料金を請求する。なおも又吉も怒る。すると運転手は「初乗り分だけでいい」と言う。そこで又吉は言われた運賃を払い、乗ったところまで戻ってもらう。乗った場所までもどったのだから運賃を返してくれと運転手に言う。

 ある夏の日休みになったので、上野の精養軒でごはんをたべるかと頭にターバンを巻いてでかける。その恰好で精養軒でハヤシライスを食べ、せっかく上野に来たから、東京都美術館でやっているマウリッツハイス美術館展にゆく。フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」がきている。ターバンを巻いた格好で、有名なターバンを巻いた少女の絵画を鑑賞する。

 コメディアンというのは年がら年中笑いを取る話を懸命に想像して毎日の瞬間を生きているのだと心底思った。

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津村節子   「果てなき便り」(文春文庫)

 津村は福井県で生まれ、育ったのが埼玉県の狭山市。旧制中学をでて、東京のドレメ学院に入学卒業その後家業を継いで狭山で洋品店をやっていたが、その最中、学習院が一般学生を募集することを知り、新制高校の勉強をしなおし、受験資格をとり学習院短大に入学。その時25歳。そこで学習院大学の学生だった作家吉村昭としりあう。

 吉村昭は当時不治の病といわれていた結核にかかり、21歳の時にあばら骨5本を取り除くという過酷な手術を受ける。

 津村は吉村と同様作家を目指し、学習院文芸部に所属。同人雑誌に作品を発表する。

しかし当然食うに困り、津村は短大を卒業したが、吉村は中退して長男の衣料会社に就職し、衣料の材料の買い付けで、東北、北海道への行商にあけくれ寅さんのような暮らしをしていた。

 吉村の弟健が献身的に病気の吉村を助け、支える。
健は肺結核であばら骨が無くて、辛いとは思うが、兄と結婚をしてほしいと津村に懇願する。津村は小説家を目指しているので結婚はしないと断るが健の熱意に根負けして承諾する。


 私は社会人になってすぐ、吉村の作品「魚影の群れ」が映画化されあの清純派女優十朱幸代がヌードになるということで、すけべごころでこの映画を見に行き、ドラマに感動。そこから吉村作品を集中して読んだ。

 「魚影の群れ」は新潮文庫の中編作品集に収録されていた、その中の「海の鼠」に私は驚き、凄い作家がいると思った。それから「仮釈放」「赤い人」「神々の沈黙」ほとんどすべての作品を読んだ。

 吉村は無名の時代に「青い骨」という作品集を自費出版している。全く売れず、殆ど全部が返品されてきて、狭い部屋に本だらけになったと嘆いていた。

 東京に出張したとき私は、三省堂でこの「青い骨」の単行本をみつけた。自費出版ではなく五月書房という聞いたことが無い出版社からだされていた。

 その中にある「さよと僕たち」を読んでこれぞ小説と感動した。
弟健と福島県からきたお手伝いのさよちゃんの献身的姿があまりにせつなかった。しかし最後にせつなさが鮮やかに希望に転換する。その転換が素晴らしかった。

津村がこの作品で、繰り返し「さよと僕たち」が一番好きな作品と書く。
私も同じと思い。本当に嬉しかった。

 この作品では吉村と津村の交換した手紙がたくさんでてくるが。吉村の手紙は封筒にはいっていなくて、そのまま便せんをホチキスでとめて直接原稿に切手を貼っておくられてきたとのこと。いいなあ、微笑ましくて。

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保坂和志   「書きあぐねている人のための小説入門」(中公文庫)

 新しく小説を書こうとしている人のための小説入門編。

最初に、理窟屋保坂らしい、小説と哲学の相違が語られ、何も小説を書くために哲学に言及する必要は無いのではと思い驚く。
 保坂は「小説とは書きながら自分自身を成長するもの」「書く前の自分より書いた後のほうが成長しているもの」と定義付けている。

 そして彼はストーリー小説を評価しない。ストーリーがあらかじめ決まっていて、結末に向かって書かれた小説はいいものは書きうることはできない。

 保坂が読んだ小説で衝撃を受けた作品は田中小実昌の「ボロボロ」。

ストーリー小説には伏線がある。だから一行ずつ面白いということは無い。次はどうなると期待感によって引っ張ってゆく。しかしどの文章でも面白いわけにはいかない。だからどうしても倦怠感を覚えることがある。
「ボロボロ」ではストーリーがあるわけではない。一つ一つの文章に情熱があり面白い。

保坂はこんな小説もあるのかと驚き、これこそが本当の小説だと思い込む。

 保坂の小説は、ストーリーを決めたり、テーマを持たせない。登場人物だけを決め、そこに情熱をこめて彼らを動かす。その時小説で成長するためには、自らを小説に投入せねばならない。魂をこめて必死にひたすら書く。これが小説だと言う。

 保坂のデビュー作「プレーンソング」編集者から文学新人賞に応募しようと言われる。しかし制限原稿枚数が90枚。この小説は139枚ある。削りましょうと編集者が言う。
 この時保坂が言う。
「この小説はどこで切っても構わない。すきなところで終了してください。」

 すごいなあと思うが、これで小説を書けるとは思エない。私のレベルが低いと思うが、やはり小説にはストーリーが欲しい。

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彩瀬まる    「くちなし」(文春文庫)

 愛だとか嫉妬とか人間の感情が、見える物となって人間が見えたらどんなことになるのだろうか。こんなことを想像してできた話を中心に7編の短編集。

 主人公の私は会社社長をしているアツタさんと長い間不倫を続けている。ある日、妻のいる家庭に戻りたいので、別れると宣言される。家庭に戻ると言われればどうしようもない。

アツタさんはお詫びに何か欲しい物をあげると言う。私はいらないというのだが、どうしても何かをあげたいとしつこく言うので、じゃあ片腕をちょうだいとアツタさんに言う。
アツタさんは了解して右手で左腕をねじりとり私にくれた。

 私はもらった片腕を大事にした。夜は片腕が優しく抱いてくれ、私の体に触れてくれた。幸だった。

 そこにある日アツタさんの妻が現れ、夫のものは私のもの。だから夫の腕を返してくれと言う。その代わりに妻の片腕をもらう。

 その夜不思議な夢をみる。アツタさんの妻が枕元に現れ泣いている。どうして?それで次々体の一部をはぎとってゆく。でも泣きはおさまらない。そして最後に心臓を取り出すとその裏から小さなトカゲがでてきてやっと泣き止む。

 私は妻の片腕を返しにゆく。アツタさんはすっきりした表情で幸そうだ。妻は夫との愛が燃え上がって幸と言う。

 実は夫の体を分解して愛を阻む生物をみつけて取り出したのと言う。それを鉢植えのくちなしの枝を折ってそのなかに埋め込んだの。これでやっと家族の生活ができるわ。

 短編集の巻頭をかざる「くひなし」は川端康成の「片腕」を彷彿とさせる作品だった。

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アンソロジー   「街角で謎が待っている」(創元推理文庫)

 架空の都市蝦蟇倉市を舞台にほぼ同世代のミステリー作家が創るミステリー競作集。

主人公の私は高校一年、性格が根暗で人との会話が苦手、だから友達ができない。いつも一人で行動する。そんな私に友達ができる。名前は陽子。陽子は思ったことは言わないと気が済まない性格。それで相手をしょっちゅう傷つける。だから、皆から嫌われ友達ができない。そんな友達出来ない2人が友達になる。

 ある日、同じ1年生の引田勇と陽子が仲良く2人で帰るところに私が遭遇する。嫉妬心が募って私は2人を尾行する。2人は人気のない神社に行く。そこで驚くことに陽子がナイフを取り出し勇を刺し殺す。私は驚き、陽子を犯人にしてはならないと思い、穴を掘って勇の遺体を埋める。

 翌日新聞に引田勇が殺され、神社で遺体が発見されたことが報じられる。私は驚く。遺体は埋めたはずなに。誰かが掘り出し元の場所に放置したのだと。

 それから、陽子は1年F組の草野美希 同じ1年A組の久保川健二を殺害する。その後私が遺体が見つからないように隠す。ところが翌日には殺害した場所に遺体がもどされ発見される。殺された3人は陽子とは関係が無いし、3人の共通点は無い。

 陽子は何故3人を無差別に殺すのだろうか。陽子に思い切って聞く。

2年生になるとクラス替えが行われる。陽子が密かにクラスの決め方を調査すると成績が偏らないように成績1番はA組、2番はB組、3番はC組と振り分けられ、F組までゆくとこんどはF組から逆順に振られる。

 陽子は成績が6位だからF組となる。私は46位でD組。陽子は考えた、私と同じクラスになるためには3人を殺さねばならない。しかも、すぐに殺されたのは誰かがわからねばならない。だから、遺体はすぐ発見されねばならない。

 あの辛い友達のいない高校生活に戻りたくない。

実際にこんなことを実行する高校生は皆無だとおもうが、こんなことを考える高校生がいそうだと思った。北山猛邦の「さくら炎上」という作品。

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猪瀬直樹    「昭和16年夏の敗戦」(中公文庫)

 昭和16年、総力戦研究所と言う組織が、軍、官僚、民間の中堅若手を集めて創られた。
国家の状況や、国際情勢などを隠すことなくオープンにして、それに対し模擬内閣を作り、政策を策定する組織だ。

 その模擬内閣、昭和16年8月27日に、当時の近衛内閣に対し、日米戦争は最初奇襲攻撃で勝利するが、国力の差により日本は劣勢になり、必ず敗戦に至ると提言する。

 もちろん内閣はこの提言など歯牙にもかけず、対アメリカ戦争に突入するが、その後は研究所が提言したストーリー通りになった。

 猪瀬は何故この研究所の提言に内閣は耳を傾け、無謀な戦争を回避できなかったのか、更に、日本全体が戦争必至の状況の中、戦争回避の提言を勇気をもってした集団があったということをこのドキュメンタリー作品で描きだす。

 この作品で3つのことを考えた。

日本には当時、陸軍、海軍に参謀本部があり、この組織は天皇に直結して統帥権、軍を動かす権利は参謀本部に与えられていた。

 内閣は国民の意志を反映し組織されていたのだが、参謀本部は常に内閣と連絡会議を持ち、内閣の意志に対しその政策に意見を言い、政策決定を覆す力を持っていた。戦争が近付くにつれて、統帥権を持った参謀本部のほうが内閣より権力を持つようになった。

 戦前の問題は、この権力の2重構造にあった。

次は戦前においても天皇は、君臨すれども統治せずが原則であったと私は認識していた。

 内閣と参謀本部で重大政策が決められ、その内容を形式的に御前会議で天皇に報告。天皇はその政策に対し意見を言うことはなく、追認するのが御前会議のスタイルだった。

 しかしこの本を読むと、近衛内閣が倒れ後任は東条内閣になったのだが、この東条を総理大臣にするのは当時木内内務大臣と天皇が会話して決定。東条を天皇が呼びつけ、首相にすることを告げる。東条は知らなかったから驚く。通常は首相は選挙で選ばれた政治家によって決定され、事後報告で天皇に形式として報告する。この事実は君臨も統治も天皇が行うことができることを示している。

 戦争を行えるかどうかは、石油が潤沢に入手できるかにかかっている。アメリカをはじめ英仏は石油の日本への禁輸を決める。当然日本には石油が入らなくなる。石油は大丈夫かと、軍部、内閣から担当官僚に質問がある。この場合、偽りの数字を官僚は創り上げ大丈夫と報告する。石油はすぐ枯渇する現実を報告はできない。今はやりの忖度をするのである。

 戦争に突入する条件が作品に描かれている。

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佐藤友哉    「水没ピアノ」(講談社文庫)

 鏡家サーガ3作目。
3つの物語が平行して描かれ、最後に収斂される作品。

一つ目の物語は、携帯電話製造工場で電池のシール貼りの仕事を時給900円でするアルバイトの物語。こういう世界にはまってしまうと、抜け出せる方法は今の社会では全くない。

 ほとんど、人との交わりもなく工場以外では完全ひきこもり。孤独で暗い人生。出会い系サイトにはまって、そこで知り合った女の子とメールしあうのが唯一の楽しみ。

二つめは、憧れの女の子にいれこんで、何があっても彼女を守ってあげると決意し行動する男の子の話。こういった話の場合、殆ど男の子がひとりよがりになり、思いつめ悲劇を招く話となる。

三つ目は鏡家の家族と執事が住む、お城のような家で起こるたくさんの殺人の話。この家が完全密室になっていることが肝。

この作品で凄いと思ったところがあった。

 工場で働く主人公が高校のときハルナという子に恋する。つきあいだしてすぐに2人はハルナの家で結ばれる。2人にとっての初めての性体験である。

 それから毎週2人はハルナの家で性行為を行う。

 ある日突然ハルナが言う。
「私に好きな人ができたの。もう別れる」と。

主人公は驚く。「私に他に好きな人ができた」のでは無い。とういうことは今までハルナは主人公のことを愛していなかったのに主人公と初体験をしてその後性体験を続けていたことになる。新しい現代感覚にため息がでた。

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佐藤友哉    「フリッカー式」(講談社文庫)

 処女作にてメフィスト賞受賞。法月綸太郎が絶賛した作品。鏡家サーガの一作目。

物語の中心となる鏡家の家族は全員が異常者。主人公鏡公彦の妹佐奈がレイプされ、ショックで自殺する。ある日大槻という男が、公彦を訪ね、佐奈がレイプされるビデオを見せる。

レイプ犯は3人。大富豪だったり社会的地位も高くとても公彦では復讐ははたせない。そこで公彦はレイプ犯の孫娘を拉致し佐奈の復讐をしようと行動を開始する。
 
物語はこの復讐の過程と、同じ街で77人の女性が刃物で殺害される突刺しジャック事件と並行して進行する。

 そして、この事件が最後に佐奈自殺とつながる。その鍵になる2つのキーの存在。

1つは、近親相姦。近親相姦によって生まれる子供は障碍者になる可能性が高い。この物語で現れる普通の人間と異なるところは障碍者には他人の人生の先が見えること。

 それからAIを研究している長男が、クローン人間のような全く同じ人間を創ることができること。

 最近こんな作風の作家に出会うことが多くなったが、登場人物に人間が持つ、喜怒哀楽、苦悩、嫉妬など感情の発露が全くなく、ゲームの世界の人物を描いているような作品。

 それからとかそしてのような接続詞が使われず、パッパと画面が切り替わる。さらに体言止めが頻発する作品。
 こういう作品は、ゲームおたくのような人たちには圧倒的支持をされるんだろう。

少女がナイフで刺殺される場面。
 飛び散る鮮血。
 痙攣する少女
 びゅびゅびゅ
 かくかくかく
 どびびびゅー
 ぴくぴくかく

明日美はその光景を、感情をださずに平気で傍観していた。
人が殺される怖さや臨場感がまったく無い。

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー   「明日町こんぺいとう商店街3」(ポプラ文庫)

 どこかなつかしく、不思議な雰囲気が漂う「明日町こんぺいとう商店街」を舞台に7人の人気作家がお店の物語を紡ぐアンソロジー。

 青谷真未の「エステ・イン・アズサ」が印象に残る。

主人公の梓は、化粧品販売員をしていたが、母親の猛反対を振り切って、金平糖商店街にエステの店「エステ・イン・アズサ」を開店させる。こんなレトロの商店街を訪れるのは、主婦か老人ばかり。とてもエステをするような客などやって来ない。だから開店して一週間一人の客もやってこない。

 ところが一週間をたった日、店を日傘をさした女性が覗き込んでいる。あわてて、梓がドアをかけ呼び込む。女性はおばあさんだ。おばあさんは、私のような年寄りでも、客になれますかと聞く。梓は、「女性はいくつになっても、美しくなりたいもの。お年寄り大歓迎です。」と言って「今ならオープン記念セールでお試し価格3千円のエステが受けられます。」
と個室に導く。女性は佐和子といい現在69歳。そして、エステが終わると化粧品もあれこれ勧める。最後は梓が一緒になって、フルメイクを施す。

 見違えるようになった佐和子が今度はいつ来たらいいのかと聞く。同じコースは通常5千円で、6回エステをすると1回分サービスとなります。間隔は毎週されたらと思います。
 と勧める。佐和子は3万円を払い翌週もやってきた。

 その時は洒落た衣装で現れた。梓が「どうしておしゃれになろうと思ったんですか」と聞くと佐和子が嬉しそうに「初恋の人と会うの」と顔を赤らめて言う。

 次の衆佐和子を追って、中年の女性が怒り狂って梓の店にやってくる。そして、3万円の領収書を見つけてお母さんはだまされている。と叫ぶ。

 梓は「佐和子さんは初恋の人に会う。それでエステに来てるの」と言うと、娘は「初恋の人は、お母さんの夫なの。その夫は1か月前に亡くなってしまったの。それからお母さんはおかしくなったの。認知症になってしまったの。」と言う。

 すると梓が近所の八百屋にかけて行ってきゅうりを一本買ってくる。そして楊子やゴムを使い馬の人形を作る。

 もうすぐお盆。「佐和子さんお盆にはこの人形で初恋の人を呼びましょうね。」と言う。
佐和子は認知症なんかになっていない。お盆に旦那さんと再会するためにエステに通っているのだ。

 心をほっこりさせる暖かい話だ。

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越谷オサム    「いとみち二の糸」(新潮文庫)

 雑誌に「セブンティーン」がある。古くて恐縮だが西郷輝彦のヒット曲「17歳のこの胸に」南沙織のデビュー曲「17歳」。17歳を扱った曲雑誌はあるが、16歳、18歳を扱ったものはみかけない。

 17歳は高校2年生。16歳は高校1年生、初めての高校で慣れるのに背一杯。18歳は高校3年生。大学受験や就職準備に明け暮れる。17歳の高校2年生は、高校生活が満喫できる時。クラブ活動も中心になる。学園祭も中心だ。友達を築き、絆や信頼を深める。修学旅行もある。そして恋も生まれて残念だけどそれも壊れて。悩んで、泣いて、笑って叫んで。

 こんな生活ができるのが17歳だ。

人見知りを克服するために飛び込んだアルバイト、メイドカフェの店員の主人公相馬いと。

早苗、絵里、美咲3人の大親友に恵まれ、これに中学の時相撲で全国大会に出場した鯉太郎が加わって結成した写真部。何とその顧問がメイドカフェ常連の山本先生。

 いろんな17歳のときらしい事件が起き、その度に悩むいと。ちょっぴり鯉太郎に抱く恋心。ありのまま等身大の17歳を見事に越谷は活写している。

この物語で、人見知りで少し気が弱く、しかし津軽三味線の名手の主人公いとも魅力十分なのだが、それ以上に、23歳メイドカフェ店員の、破天荒で堂々として明るく頼もしい漫画家を目指している智美の魅力は圧巻だ。

 津軽三味線の演奏で舞台にでてゆくときの智美のいとの紹介
「ご紹介しましょう。身長146センチ、見事前年比プラス1センチの成長を遂げました。小学6年生の平均身長とデットヒートを繰り広げる女子高生。メイド界の小さな巨人、いとっちです」

 それから経営者でもある店長とメイド長で28歳の子連れ店では22歳歳と偽っている幸子が結婚したときの智美の司会。
「お店の経営が傾いた時も、買掛金を踏み倒す時も、一家で夜逃げする時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか。」

 たまらない。智美最高!

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佐藤青南 「ブラック・コール 行動心理捜査官 楯岡絵麻」(宝島社文庫)

 行動心理学を用いて相手の仕種から、言っていることが嘘か真実かを知る。これを駆使して犯人を必ず自供させる警視庁捜査一課の美人刑事・楯岡絵麻。容疑者を自白に追い込む過程の緊迫した雰囲気がはんぱでない。

 高校の時、厳しい英語教師がいた。かれの威厳をなんとか潰そうと、当時流行っていたラジカセに授業の始まり終了のベルを録音しておき、一番前の席の腕時計を40分進めておき、20分たったところで、ラジカセのベルを鳴らした。
 先生は
「今日は無駄話が多かったか、授業が進まなかったな。ちょっと時計をみせてくれ。そうかもうこんな時間か。授業はこれで終わり。」
と宣言。みんなで一斉に教室をとびだした。

 この作品集の「アブナイ十代」。明月学園、体育祭3日前に体育祭を実行すると爆弾をしかけ爆発させるという脅迫文がネットにあげられる。当日は、警備も警察を動員して完璧を期すが、結局爆破が実行され多くの負傷者がでる。

 ネットをトレースした捜査を通じて、犯人は東村という生徒であることを突き止める。しかし爆破に使われた圧力鍋がームセンターで東村が購入した鍋と異なっていた。ということは、もうひとつ爆弾がどこかに仕掛けられていることになる。

 東村を楯岡が取り調べる。それで、爆破時刻が18時であることの供述をとる。しかしどこに仕掛けたが頑として口を割らない。

 東村が今何時かと楯岡に聞く。時計をみせて2時よ。と答える。後4時間。楯岡は上司の筒井に一時間単位に取り調べ状況を報告することをわざと東村に聞こえるように言う。

 そして1時間後であせったように筒井と楯岡が打ち合わせをする。その一時間後にまた打ち合わせをする。その度に東村は今何時かがわかる。

 4時間たち、爆破時刻の6時を過ぎる。
楯岡はあなたの勝ちよ。爆発は実行されたわ。と言う。東村は、勝ち誇ったようにどこに仕掛けたか、とその理由をとくとくとしゃべる。

 そこで楯岡は言う。今はまだ4時よ。筒井への報告は30分単位で行ったのと。
東村は、待つ身。時間のたつのが遅く感じる。だから30分でも1時間に感じてしまう。

なかなか面白いトリックを使っている。

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越谷オサム    「いとみち」(新潮文庫)

 携帯サイトで配信され、それで火がつき、文庫になって出版された小説。

 私が高校の時、田舎からでてきた私を英語教師がからかって、これを読めと黒板に書く
「SHE SEES SEA」と。
椅子から立って大きな声で読み上げる
「シー シーズ シー」と。
すると大きな笑い声が一斉におこる。教師が言う。

「おまえの英語はおしっこか。」と。これが恥ずかしくて、英語が本当にいやになった。
SHEの発音がどうしてもできなかった。シーと聞こえてしまう。

 物語の主人公は青森県の田舎の町の高校一年生のいと。人見知りをなおすために、青森市にあるメイドカフェでアルバイトを始める。

 青森は同じ日本かとおもうほど、言葉が標準語と異なる。それでも、標準語をしゃべることは、そんなに難しくなくできると今まで思っていた。

 メイドカフェでは、メイド用のコスチュームを着て、入店する客には
「おかえりなさいませ、ご主人様」
帰る客には
「行ってらっしゃいませ ご主人様」
という。

ところが、いとはこのご主人様が発音できない。いくら練習、訓練をつんでも
「ごスずんさま」になってしまう。
先輩のくちまねをすればいいだけなのに「ごしゅじんさま」が言えない。

 日本語なのに発音できないということがあり得るんだ。
外国人も日本人の「ごスずんさま」式英語を聞いて苦笑しているんだろうなあと」思った。

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今野敏   「任侠学園」(中公文庫)

 この作品は2007年出版されている。今野はこの作品までの30年間で驚くことに160冊の本を出版している。年間5冊以上出版していることになる。普通ではありえない多作だ。

 違っているかもしれないが、この作品を読むと、今野には専用のサポートスタッフガいるのではと思った。
 アイデアは今野がだすが、プロットやトピックはスタッフと会議を行い、そこで出されたものを今野が採用して物語にする。それも今野が口述。スタッフがワープロに打ち込んでゆくスタイルで執筆しているのではと感じた。

 この作品、ちっぽけな独立独歩の正統派ヤクザが荒れた私立高校の再建を依頼され、建て直す作品。

 小説よりドラマか映画にしたほうが良い作品で、事実西田敏行主演で映画化されている。

任侠、仁義第一の世界からみて、今の学校がダメなところ、今野の思いを代貸しの日村に言わせている。

 「いつ頃か、日本人は恥を知らなくなりました。昔は人間として恥ずかしくない行いというものがあった。だが、今の日本人からはそれが欠落している。子供がかわいくない親はいません。しかし、自分の子供のことしか考えないのは、昔は恥ずかしいことでした。親が子供の顔色を窺って何も言えないなどと言うことも恥ずかしいことでした。給食費を払わないということも恥ずかしいことでした。今の保護者さんというのは、そういうことを恥ずかしいとは思わないのです。恥を知らない人に何を言っても無駄です。目を吊り上げて、弁護士をたてて権利だけを主張する。それは、かっての日本の風土にあっては、ものすごく恥ずかしい姿でした。そんな親に育てられた子供もまた恥知らずです。」

 これが作品を貫いているテーマ。

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佐藤優    「『知的野蛮人』になるための本棚」(PHP文庫)

 この世界について57の重要テーマを理解するために、テーマごとに読むべき2冊の本を紹介している。このテーマ別の2冊の本についての内容紹介や解説も役にたつが、巻頭巻末に掲載されている、本に対する態度について対談形式の講座が興味深い。

 対談者が
「自分の考えを持つための読書方法はどのようなものか。」と問うと佐藤は言下に断言する。
「それはない」と。そして
「重要なことはちゃんと受け売りができるようになることです。受け売りができるようになると別の受け売りが付加されたり、どこかを割り引く解釈となるからです。自分の考えというとき100%自分のオリジナルな思想などというものがあると考えるのは、妄想です。
 世の中のほとんどのすべてのことは、受け売りであり、今までの積み重ねの上にある。
その中で、ごく一部、何か新しいことができる人がいるかいないか、と言う程度の話。それができる人は1000人に一人くらいでしょう。」

 そうか!あいつの考えは独創的だと感心しているようなことも殆どすべてが受け売りなのだ。

 本の素晴らしい特質は3次元の物体であること。紙の書籍の記憶は「位置記憶」になるということ。電子書籍は2次元だから、検索キーを使って、適当な言葉を入力し、何回も検索しなければならない。

 しかし本の記憶は、このことはあの本の後半に書いてあった。そしてその本は本棚の一番上の棚の左端に置いてある。と位置記憶でひっぱりだせる。

 それから、新幹線で読書をしていて印象に残ったことに遭遇したら、本から離れて車窓を眺める。

 あるとき何かを知りたいと思う。そうだこのことはあの本を読んでいた時名古屋の手前で車窓から風景を見た本に書いてあったんじゃないかと思い出す。

 もうひとつよくわからないところがあるが、本のすばらしさが染み渡り伝わってくる。

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アンソロジー   「この部屋で君と」(新潮文庫)

 いろんな形で部屋を一緒に住むことになった人たちに起こる出来事を描いた、今最も乗っている作家たちが描いたアンソロジー。

 主人公の高畑は製薬会社の営業マン。新規取引の打ち合わせのために、体を壊した先輩に代わって、開発担当の野中と韓国に出張する。

 実は高畑にはプロポーズをしようとしている香奈という恋人がいる。しかし最近気まずい雰囲気になっている。それは香奈がある日「自分は在日韓国人3世で、名前はユジン」と告白してから、香奈の態度がかたくなになったからだ。

 だから今回の勧告出張に自ら手をあげた。

 ところが、一緒に行く先輩の野中は無口で不愛想。話しかけてもまったく会話にならない。しかも韓国についてホテルに入ると予約してあった部屋は驚くことにツインではなくダブルベッドの部屋。部屋の変更を依頼すると、満杯で空き部屋は無いと言われる。

 仕方ないので、ベッドは年上の野中にゆずり、高畑はソファで寝る。

  仕事が終わると、相手先のイムさんが食事に誘ってくれるが野中は断り、高畑だけが接待を受ける。

 韓国滞在最後の日、イムさんと簡単な夕食を済ませ、高畑は一人で街を散策する。韓国風オデンを売っている屋台のいい匂いにさそわれ屋台に入る。すると店のオヤジが大声「イルボン」と叫び追い払う仕草をする。高畑は大きな衝撃を受ける。

 ホテルの部屋に戻り、夕食をカップラーメンで済ませた野中にショックを受けた出来事をしゃべる。

 野中が言う。「自分もそうだったが、同じ考えや同じ民族だけで固まってそれ以外の人たちに敵対したり排除するんだが、そこから解放されないとだめなんだなあ。解放すれば、もっといろんなことが見えてきて、希望がでてくるんだよ。その希望を捕まえることが大事なんだよ。

 高畑君の評判は良かったよ。こちらの人の多くがまた高畑君と仕事をしたいと言ってたよ。」

 そうなんだよね。韓国を反日にすべて染まってしまっているという先入観で接すると、そんなことは無いと思っている圧倒的多くの人たちがみえなくなるんだよね。

 高畑、きっと香奈と結婚して、幸な人生を送ることになるだろう。
飛鳥井千砂の「隣の空も青い」という作品。

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