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2019年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2019年11月

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堂場瞬一   「不信の鎖 警視庁犯罪被害者支援課6」 (講談社文庫)

 大手ハウスメーカー、不動産土地開発の(株)バンリューは大崎康政が一代で築いた会社である。しかし、世評はブラック企業として有名な会社になっている。

 「バンリュー」の子会社「バンリュー・デザイン」の社長であり、康政の娘である美江が2年前何者かに拉致され殺される。

 それから2年たって、山梨県大月の強盗事件で逮捕された畑仲が、取り調べの過程で、美江を殺害したと自供する。しかし、殺害方法や動機については一切口外しない。本当に畑仲が犯人なのかわからなくなる。

 さらに、康政が帰宅して車から降りたところを何者かに襲われ救急病院に搬送される。
これらの事件に、被害者支援という立場を絡ませながら主人公村野が真相に迫る。

 ブラック企業の社長として、社員を恐喝まがいで脅し震えあがらせていた、犯罪者のような康政であっても、警察の被害者支援課は寄り添い支援し守らねばならないのか。

 ここに、警察内の支援課の人間と新聞記者の陰謀が被る。
 これらが、重なりあって物語は動き、それなりに面白い。

ところが、真相の決め手となる場面がいかにも安直。畑仲を問い詰めているが、なかなか口をわらない。そこで、主人公村野が「女か」とつぶやく。すると畑仲が表情が変わり、犯行への経緯を話し出す。
 捜査の過程で女を割り出し、そして事件の真相が認識でき、その上にたって自白を誘い出すという手順を踏まないとまずい。

 堂場はとにかくたくさんの作品を書きすぎ。だから、こんな安直をやってしまう。

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| 古本読書日記 | 06:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大島真寿美    「戦友の恋」(角川文庫)

 主人公の漫画原作者の麻紀は、作家デビュー前から二人三脚で走ってきた編集者玖美子が急逝。二十歳のころから酒をのんでくだをまいたり、互いの恋にダメだししたり、友達という関係を超えたところで2人は存在していた。

 だから急逝は、麻紀を完全に落ち込ませた。そんな時、いつも行くライブハウス、リズで幼馴染の本山達貴にであう。本山も長年勤めていた銀行をやめ、婚約者とも別れ底に沈んでいるときだった。

 麻紀は本山に会いにゆき、雑然としたアパートの部屋で語る。
「はたと気がついてみれば、何かが少しずつ若い頃とちがってきてる。ほんと、あらゆることがことごとくちがってきてるじゃない?なんだろう?なんだろう?ってつい立ち止まっちゃう。立ち止まって思うのよ。ここはどこ?って。いろんなことがまだ間に合うような気がするし、間に合いそうでいて、もう取返しのつかないところまで、来てしまっている気もする。これでいいのか。これではダメなのか。決断するなら今だと思ったり、でも決断のしかたがわからなかったり。どっちにでも行けそうで、それでいて、どっちにしか行けない、ってこともよくわかってる。」

 人生の落とし穴に落ちるのはある日突然。そこで、苦悩の道をはいずりまわる。それで、社会に戻る穴はなく、徐々にはい回りながら再生、回復してゆく。

 20代を懸命に走り去り、三十代の終わりころ、こんなふうにがっくりきて壁にぶちあたる人はたくさんいるのだろう。

 回復再生の舞台を用意してくれたのが、30年以上続いているライブハウス リズと店を経営している律子。青春時代からずっとたまり場だったリズ。ここで、夢を語り、愚痴を言い合ったり、出会いや別れもあったり。いつでも、店が見つめていてくれた。

 私も家を建てて30年、同じ場所で暮らしているが、30年続いている近所の店は「蕎麦屋」だけ。それ以外は全部店は変わった。
 再生のためには、長い間変わらずある店が必要だ。しかし、今はそれは難しい。

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黒川博行    「繚乱」(角川文庫)黒川博行    「繚乱」(角川文庫)

 前作「悪果」で活躍したマル暴担当刑事、堀内と伊達が、その悪徳刑事ゆえに、大阪府警を追われ、一般悪人として活躍する「堀内 伊達コンビ」シリーズの第2弾。

 堀内は警察を依願退職して大阪を離れ東京で愛人杏子にクラブをやらせ、暇な一日を過ごしている。伊達は付き合っていたクラブホステスの愛人のヒモに腰を刺され、それにより懲戒免職となり、競売専門の不動産会社に調査員として雇われ働いている。

 黒川作品はいつも知らない新しいことを、丁寧に教えてくれ本当に勉強になる。

競売屋という仕事がある。よくやくざがフロント企業として競売屋をしている。

 例えば、ある土地建物を所有している会社が倒産する。すると債権者が集まり債権を少しでも回収しようとする。その時、倒産会社の土地建物債権者たちが話し合い競売にかけることが決まると、代表が裁判所に申し立てをする。裁判所は現況調査報告書と評価書を作成し売却基準価格を設定し、公示する。この基準価格は入札最低価格である。この後ある期間入札があり、結果落札者が決定される。通常落札価格は標準時価よりかなり低くなり、ここに10%程度上乗せしても販売ができ入札者は大きな利益をあげる。

 この入札者であり同時に落札者になるのが競売屋という商売である。

通常競売にするかどうかの前に債権者団体が作られる。その債権者団体が競売を決めると裁判所が最低入札価格を決めその公示がある。そして入札をしている途中で、突然任意の会社が登場して、競売をやめて、債権を任意の会社に販売するという手を打つ。

 競売をやめるというのには債権者団体の同意が必要になる。そのためまとめ役は大きな債券を持っていることが前提となる。

 物語で任意の会社として登場する勝井興産は、債務者である倒産会社に架空の約束手形をつくらせ、債券が最も多いようにみせかける。

 勝井興産は最低入札価格より少し大きい金額で、任意の別なのだが自分のグループ会社に購入させ、債権者に分配する。債権者は最低より上乗せされたと殆どの場合同意する。

 この取得した土地建物を転売したり、別の事業に活用するのである。
 これが暴力団の大きな資金源になるのだ。

 さらにこの作品で知ったのだが、同じ暴力団がこのようなケースで入り込む方法に占有屋というのがある。

 土地マンションを手放し、購入者に受け渡す。この時、マンションはすべて空き部屋になっていなければならないのだが、この情報を聞きつけた暴力団が組員を住まわせて立ち退かないようにする。

 ここで立退料を難癖をつけてむしり取るのである。

暴力団と言えば、そのしのぎとしては麻薬売買があるだろうが、そんなしのぎは今は半ヅレがしていて、暴力団ではほとんどしていない。
 主たる資金は、こういう手段やオレオレのような詐欺で得ているのである。

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アンソロジー   「明日街こんぺいとう商店街」(ピュアフル文庫)

東京の下町に、昭和風情を残す商店街を設定。その商店街を舞台にして7人の女性が書き下ろした短編集。

 明日街こんぺいとう商店街で、砂糖屋を営んでいる81歳の男やもめ綿貫徳次郎。その綿貫の家の2階で下宿しているのが大学生の浅木耕太。

 徳次郎は老人だが、おしゃれでダンディ。

 耕太には今ロマンスが生まれようとしている。大学の門の前にあるカレー屋でアルバイトしている楠本キズナとだんだん距離が近付いてきているのである。東京を知らないキズナに思い切ってスカイツリーに行かないか誘いOKをもらう。

 スカイツリーでもキズナははしゃいだが、レトロな商店街も見たいという。それでこんぺいとう明日商店街に連れていってあげる。

 街並みにもキズナは感動するが、量り売りの砂糖屋に、もっと感動する。徳次郎の説明でいろんな佐藤をなめたり、和菓子を食べたり、金平糖も食べ、おいしくておおはしゃぎ。

 店をでて、2人でラーメン屋でラーメンを食べ、東京を知らないキズナをラブホテル街に連れてゆくが入る勇気がない。「今日は楽しかった。」
 「来週も来てもいい?」この言葉に支えられ、耕太はキズナと別れる。

 それから、毎週のようにキズナがやってきておおはしゃぎする。お酒も飲んで、終電が無くなり、徳次郎の家に泊まることもしばしば。

 しかし、耕太が納得いかない。強烈な不満なのは、キズナが自分の部屋に泊まらず、徳次郎の住む1階に泊まること。

 そして、決定的にショックを受けたのが、徳次郎とキズナが楽しそうに銀座でデートしているのを見たとき。

 耕太はもんもんと悩む日々が続く。ある日久しぶりにキズナがやってくる。1階の店で徳次郎と耕太、キズナが3人でいるところに一人の男がやってくる。
 「この人は・・・」と言う前に、キズナが男の人にかけより
 「お父さん」と言う。

徳次郎は若い時、ある女性に子供を孕ませる。その女性は、産むことを決意する。そして徳次郎とは別離。女性は、その後7年後に他界。

 この女性が生んだ子がキズナ。キズナは父は知らなかった。その父に生まれて初めて会った瞬間だった。

 中島京子の短編「砂糖屋綿貫」である。

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大島真寿美    「ぼくらのバス」(ピュアフル文庫)

 大島さんが出版社から依頼されてはじめて書いた児童文学が「牛乳」。児童文学は難しくもうやめようと思っていた。子どものころあまり楽しい思い出が無かったからだ。

 編集者が「子どもの頃何をしていましたか」と聞く。「ひとりでいつも本ばかりを読んでいました。」「その本のことを書いてください」とせがまれ、書いたのがこの作品。

 小学1年生だった圭太、お母さんに図書館に行きましょうと言われ外へでる。大きな屋敷の庭の隅に緑色のバスが置かれている。そこがお母さんのいう図書館だった。そこにはたくさんの本があるだけでなく、おじいさんがいて本を大きな声で読んでくれる。

 それが楽しくて、毎日のように図書館に通った。そこにはたくさんの子供たちがいた。
そんなおじいさんが2年生のとき亡くなった。それから図書館へは行くことはなくなった。

 5年になったときの夏休み、2年生の弟広太を連れて借りていた本を返そうと図書館に行く。

 草ぼうぼうの中に、色あせ窓枠が錆びたバスがあった。本は落ちてバラバラに散らばっている。

 天井に窓がとびとびにある。そこから覗くと夏空がいっぱいに広がる。圭太と広太は毎日バスに通い、図書館の清掃と本の整理をする。それは2人だけの秘密の場所になる。本もたくさん読める。

 そんな秘密の場所に中学2年の順平が塾通いがいやになり、家出をして図書館で寝泊まりをはじめる。3人は本を整理し、本にラベルを貼り、図書カードを作る。夏休みが終わるころには、本当の図書館のようになった。

 バスも緑色のペンキを塗り、昔のようになった。

 3人で頑張った夏休みの図書館造りだ。

 物語のタイトルが素敵だ。このバスは動かないが、中にはたくさんの旅が詰まっていて、みんなを、バスは旅に連れていってくれる。

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黒川博行    「麻雀放蕩記」(ポプラ文庫)

 麻雀や博打を書かせたら、第一人者といえば、色川武大の別ペンネーム阿佐田哲也と浅田次郎。黒川は色川に心酔している。自らの経験を小説にして博打の物語を書いたら、色川が絶賛。これに感激して、幾つかの博打の物語を書いている。

 紹介の本は、麻雀を中心に、バカラなどカジノでのゲームを含めて描いた短編集。中には想像物もあるとは思うが、デフォルメはしているが黒川の経験を作品にしている。

 主人公の作家黒田ヒロユキに北新地のクラブ「高見」のママ高橋啓子から電話がある。
安居という自動車ディラーのオーナーと麻雀をして100万円をとられた。とりもどしたいから一緒に安居をいれて麻雀をしてほしいと。

 普通にやったら勝てないと2人で組むことにした。それで、2人で符牒を決め、それを徹底的に啓子に練習させ覚えさせた。

 「1~9」は符牒で「イ・タ・マ・エ・ア・ナ・ゴ・ス・シ」ア段は筒子、エ段はソウズ、オ段万子。例えば「なんや、ついてないわ」と言うと「なが6、わが筒子」で6筒を表す。
この語尾を伸ばしたら、6筒はあるか。語尾を下げたらヤミテン。強く息をはいたらうちこめ。
 親指を人差し指の第一関節に触ったら1枚持っている。第2関節に触ったら2枚持っている。

 これを何回も練習して、完璧にこなせるようになったところで、安居をいれて対戦をする。
関西では3人麻雀が流行っている。

 ところが麻雀が始まると、符牒で色々聞いたり、指示するが、全く啓子は忘れて、反応してくれない。

 そればかりか、黒田ばかりが振り込み、大負け。
啓子はとんでもない女だった。実は安居とも組んでいて、黒田をいいかもとしてコテンパンにやっつけようとしていたのだ。

 途中で黒田はそのことに気が付いたが、麻雀をやめることはできなかった。

 麻雀で組んで相手を欺く方法がわかり面白かった。

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黒川博行   「カウント・プラン」(文春文庫)

 黒川ではめずらしい短編集。
本のタイトルになっている「カウント・プラン」。中身は単純で、物語は平凡。

メッキ溶剤を製造している安井工作所。溶剤製造は福島という職工が一人で作り、それを得意先に配達しているのが社長の安井。2人だけの小さな工場。

 このメッキ溶剤、最近では韓国や台湾の安価な物に市場を奪われ、経営が瀕死の状態にあり、6000万円の借金を抱え込んでいる。

 メッキ溶剤をつくるのに使用する青酸塩を、ショッピングモールのペットショップの熱帯魚の水槽に入れ、熱帯魚を殺し、それをネタにモールを脅し安井が1億円強奪を試みるが失敗する。

 なんでもない平凡な物語なのだが、ここにとんでもない変わり者である職工の福島を登場させ、事件と並行して、彼の行動を描くのだが、その不気味さが物語の底でずっと流れ読者に不安と恐怖を抱かせる仕掛けになっている。

 冒頭から異常。テーブルにランチョンマットを2枚ならべて敷き、ここに節分用の豆を袋を開封して一個ずつ並べる。横に八列、縦に六列になったところでマットはいっぱいになる。だからマットには960個の豆が並ぶ。もう片方のマットには327個。そこで、ポリ袋一枚に1287個の豆が入っている。そのことを手帖に記載する。

 その豆をグラスビールに浮かせる。34個の豆でいっぱいになる。その34個を1個、1個数えながら飲む。時間がかかる。たくさんの豆があるので29杯のビールを飲むことになる。

 工場を終えて、帰りにいつもの居酒屋に寄る。タバコを吸おうとするが、ライターが無い。しかたなく居酒屋のマッチで火をつけようとするが、その前にマッチ箱のマッチの数を数える。

 とにかく目にはいるものは何でも数えないと気が済まない。天井や窓の桟の数。ビルの階数と窓の数。橋の欄干数。計算症という精神疾患を患っているというが、そんな人間は世の中にはけっこういるのでは。

  通勤電車の中ではひたすら本を読む。本はページ数が描かれているので、数える必要が無いからである。物語は推理小説ではなく、福島の異常さを描く、ホラーに近い。

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アンソロジー   「卒業」(ピュアフル文庫)

 卒業をテーマに女性作家7人が書き下ろした短編集。

長い間本読みを楽しんできたが、その中で、永倉万治が亡くなった時、鷺沢萌の自殺、そして豊島ミホの休筆宣言が3大ショックだった。

 豊島ミホ「青空チェリー」から始まり、「日傘のお兄さん」「夜の朝顔」「エバーグリーン」。新刊がでるたび貪るように読んだ。

 4年前、ピュアで刺さってくるような痛くて鋭い文章、物語を書く女性はどんなところで生まれ育ったのか知りたくて出身地である秋田湯沢、通っていた高校のある横手まで旅をした。

 この短編集で久しぶりに豊島作品を読んだ。「パルパルと青い実の話」である。

パルパルは可愛らしく、女生徒のアイドル。だけど本当にデートしているのは主人公野々村だけ。パルパルが昼ご飯弁当を作ってもらえないので、野々村が毎日作ってあげて、秘密の場所、誰も来ない教室棟の隅の非常口で2人だけでお弁当を食べる。5分超のデートを楽しんで、野々村は友達が弁当を食べているところへ帰る。

 野々村はパルパルが大好き。できたら、中学を卒業しても同じ高校へ通いたい。野々村は成績がよく学年で3番。しかしパルパルがどうなのかわからない。

 模試の結果が知らされた。野々村は一位。昼食時お互いの成績をパルパルと見せ合う。パルパルは驚き、県下トップの進学校松山高校もいけるし、近くの宇和島東高校でもバッチリ。
 そしてパルパルの成績は89位。同学年95人の中で。

 パルパルは毎回定員割れする地元の3流行篠山辺高校に行くのが精いっぱい。野々村は「篠山辺に私も行く」というとパルパルが怒る「そんなことをすると誰かが落ちるじゃないか」と。

 そして、弁当を作ってくれるのはおまえだけじゃない。実は2年のときも、1年のときもお弁当を作ってくれた女の子がいて、いつもここで食べていた。野々村だけが特別じゃないんだと言う。

 野々村は衝撃を受け、涙が止まらない。それから、お弁当を作っていっても、パルパルは現れず、声をかけあうこともなくなった。

 高校合格発表の翌日、生徒は登校する。午前中は合格した生徒が集まり、午後は不合格だった生徒がやってきてその後の進路を先生と相談する。

 午前中やってきた生徒の中にパルパルがいなくて、野々村は気をもむ。しばらくすると「よう」と言ってパルパルが教室にはいってくる。野々村はパルパルも受かったんだとうれしくなる。
 「野々村ごめんなあのとき言い過ぎた。それでどこに受かったんだ」
 「宇和島」
 「そりゃあよかった。あの言い過ぎで野々村が落ち込み受験勉強に集中できなかったらどうしようと少し悩んでいたんだ。」

 そして言う。
 「弁当を作ってくれた女の子がいたのは嘘。野々村だけだった。」
 野々村ははちきれんばかりに嬉しくなった。中学校生活で最高にうれしい日になった。

 中学、高校生を描いたら豊島の右にでる作家はいない。作家活動再開を心より待っている。

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黒川博行   「雨に殺せば」(角川文庫)

 1985年の作品。黒川デビュー作の次作品である。黒川の特徴であるハードボイルドやエンターテイメント小説というより推理小説の色彩が濃い。

 30年以上前となると、銀行は今は個人対象のカードローンに手を染めているが、当時は個人向け融資はサラ金といわれた消費者金融業者が担っていた。銀行は個人など相手にせず、企業、富裕層相手の商売。社会的一般の人から金を集め、その殆どを大企業、富裕層に回しているのである。このころから「銀行=悪」という構図が一般認識となった。

 サラ金業者は貸付金をどうやって調達したのか。銀行は自らのイメージを考え、悪徳業者サラ金には直接融資はしない。当時はノンバンク系の会社を作り、そこを迂回して融資をしていた。

 この作品では、まだノンバンク系業者は無く、有力画廊を経由しての融資になっている。

 この画廊。お抱えの絵かきの絵画の相場が暴落。資金1億円が緊急に必要となる。しかし融資したサラ金業者から取り立てができず、銀行に1億円緊急融資を要請する。

 銀行の貸付というのはどうなっているかというと、物語の銀行は、5億円以上の貸付は本部承認がいるが、それ以下は支店長決済となる。融資案件は申請と書類を整え、貸付課長にあがってくる。貸付課長が内容を念入りに精査し、その後次長、支店長決済となる。しかし実態は貸付課長が承認すれば、その上は、必要書類が添付されているかを確認して、めくら判で通過する。

 ここで課長はやってはならないことをする。1億円ではなく2億円融資し、1億円は拘束預金として処理することを飲ませる。拘束預金とは、貸出はするが強制的に預金させ、引き落としや解約不可能な預金。法律違反の預金である。

 銀行員の不正というのは、金を横領するというのは少なく、成績をあげて出世することが目的で行われる場合が殆ど。

 このケースでは、実際1億円の融資で、2億円分の金利が実現でき、預金獲得ノルマにも貢献する。これが銀行の力をかさにきて、行われる不正である。

 しかも課長は、この案件を部下に申請書を作成させ、いざ不正が発覚した場合は部下に全責任を負わせようと工作する。

 30年以上前の作品ゆえ、古さは感じないでもないが、銀行のからくり、画商の役割がわかりやすく書かれ、できは悪くない。面白く一気呵成に読み切った。

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大島真寿美    「三人姉妹」(新潮文庫)

 今でもナツメロ特集がテレビで放送すると、私の学生時代の歌「いちご白書をもう一度」がしばしばかかる。

 学生運動にどっぷりつかって、政権打倒、米帝打倒とゲバ棒を持って叫んでいた学生が4年生になったら、髪をばっさりと切り、衣服も背広に変え、打倒と叫んでいた企業に就職してゆく姿を歌っている。

 この物語の主人公水絵。大学を卒業したが、就職はせず、実家にいて、映画館とバーでアルバイトをして暮らしている。

 そして、まだ大学で作成しようとしていた映画製作に打ち込んでいる。何といっても大好きな恋人右京くんが監督、友達のびびちゃんも一緒に制作に参加している。

 この映画、右京くんのまとめ役の力の無さ、指導力不足によりスタッフが瓦解し、途中で制作をやめることになる。
 むなしさ、虚脱感が覆うなか、突然びびちゃんが、大企業に就職が内定したと報告があり水絵は衝撃を受ける。とても、就職活動をするとは思えなかったから。

 そして、極めつけは、映画狂の恋人右京が、卒論を書き、就職もきちんとすると宣言し、映画など見向きもせずに卒論制作に没入する。

 水絵は、みんな変わってゆき、前に進んでいるのに、この一年間何をしていたのだろう、更に自分の行く末はどうなってしまうのだろうと暗澹たる気持ちになる。

 びびちゃん、毎日のように会っては遊び、愚痴を言い合っていたのに、就職してからは、びびちゃんは多忙ということで、全然会えなくなってしまった。

 映画館のバイトも切られる。

 思い余って、映画館の壁におかしな張り紙をする。「バイト先募集 正社員に限りなく近く、時給のよい、将来性のある、快適な職場にかぎる」
 こんな張り紙にも反響がある。それは、行き遅れた息子との結婚が前提で採用という条件。

しかし、水絵は寂しくはあるが、切迫感は無い。
実家に住み、親のすねをかじっているから。
それでも、最後は決意して、家をでてアパートに住もうとする。この決意がいつまで持つだろうか心配になる。

 それにしても水絵は3姉妹なのだが、この姉妹がいつもかまびすしい。しゃべって、しゃべって、しゃべりぬく。このしゃべりがあるかぎり水絵は、生き抜けるのではないかと思えてしまう。

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