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2019年08月 | ARCHIVE-SELECT | 2019年10月

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大島真寿美    「かなしみの場所」(角川文庫)

 主人公の果奈は眠ると決まって同じ夢をみる。幼いころ誘拐される夢。しかし誘拐したおじさんは優しく暖かく、素敵なおじさん。だから果奈は「天使のおじさん」と夢のなかで言っている。そして、果奈は夢を見ているとき必ず幸せそうな寝言を言う。

 その寝言を夫の亮輔に聞かれ、それを誤解され亮輔と気まずくなり離婚する。

 しかし、誘拐されたという記憶は全くない。

おばさんが半年間おじさんとマレーシアで暮らすことになり、その間おばさんの家に住むことになる。

 そこで、古いアルバムを見つける。それをみると、母は自分は2人姉妹だと言っていたのだが、見知らぬひょろっとした男の人がアルバムに登場する。おばさんの息子の康平にその男の人のことを聞くと、おじさんだよと教えてくれる。なかなか優しいおじさんだったと付け加える。

 おばさんの家におじさんからの年賀状があったので、書かれている住所を探して、おじさんに会いにゆくことにした。

 おじさんは、くずれおちそうなアパートに住んでいた。

おじさんに果奈は幼少時なついていた。おじさんが、面白い話をしてくれるからだ。

おじさんは仕事がうまくいかず、お金に窮していた。それで、お金の無心に母のところにきていた。しかし、断られ帰ろうとしていたところ、公園でみんなと遊んでいる果奈を見つけた。そして果奈に声かけると、果奈が飛びついてきて嬉しさをいっぱいに表す。それで、果奈を連れて帰る。その間、2人はこの上なく楽しかった。

 帰ったおじさんは、果奈の母親に果奈を返してほしければお金をくれと電話する。警察が入り、おじさんは逮捕。そして果奈の家とは絶縁になる。

おじさんは果奈に謝る。しかし、それでもおじさんは「天使のおじさん」だった。

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黒川博行    「蒼煌」(文春文庫)

 絵画の世界というのは、どんなに独創的で芸術的に高い絵を描いても、公募展を行う団体に所属していない画家は全くその世界からは無視される。それぞれの公募展での金賞は、その団体の理事長の縁者だったり、理事長にへつらっているコバンザメのような画家が描いた絵画に与えられることがしょっちゅうある。

 この団体の上に君臨するのが芸術院会員、その上が文化功労者、そして最高の地位が文化勲章受章者。芸術院会員は生涯会員で全員で27名。誰かが亡くなると、欠員補充ということで、芸術諸団体の理事により投票によって決められる。

 この物語は芸術院会員を手にいれようと争う、京都画家の重鎮室生と稲山が参謀である京都老舗画商、東京の政治画商、政治家とその秘書、選考会に影響力を持つ芸術家たちの魑魅魍魎な闘争を描いた作品。

 黒川は。絵画界の内幕を徹底的に調査、これにかっての佐川急便事件を絡めて、欲望と権力獲得に溺れた人々を見事に物語にして描いている。

 この作品を読んでいると、元来絵画の価値などまったくわからない私でも、巨匠といわれる人やその絵画が権力と地位によって作られたもので、全く絵画の評価とは無関係であるように思われ、巨匠の名がうさんくさく思えてくる。

 この物語でも、票獲得のために投票者に贈り物をとどける。だいたいカステラなどの箱の下部分に数百万円の札束をしのばせておく。

 あまり見込みのない投票者に、あいさつでカステラだけを贈る。帰りに投票者がズタズタに切り刻んだカステラを送り主に突っ返す。下部に忍ばせてある札束が無いので、カステラの中に忍ばせてあると思い、カステラを切り刻んだのである。

 それにしても、絵画収集はそんなに一般的ではないのに、絵画市場はどうして成り立つのか不思議。

 この作品では、そのからくりを明らかにしている。

絵画は贈収賄に使うのである。ゼネコンなど建設業者は、画商から絵画を買う。これをキックバックの物品として政治家に贈呈する。この時に政治家にこの絵画はどこの画商から仕入れたかをさりげなく教える。政治家は6か月くらい絵画を飾り、その後画商に返品する。
 すると画商から数千万円のお金が政治家に贈られる。

絵画界、画商というのも、このサークルがあるから商売が成立しているのかもしれない。

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アンソロジー  「君と過ごす季節」(ポプラ文庫)

 春から夏にかけ、季節の香りを漂わせて、移り行く風景を背景に今をときめく12人の作家がつむぐ短編集。

 中島たい子さんの「大暑」がよかった。

主人公は、昨日、恋人に今日会おうと電話したが、うまくタイミングが合わず、会えないことになった。今日こそ大切なことを思い切って言うつもりだったのに、肩透かしを食らったと思ったが、今日は酷暑。こんな日に会わなくてよかったと思う。

 洗濯をして、部屋を片付け、酷暑の中、散歩にでかける。

道々彼女のことを考える。

 3年前、温泉旅行に行った。それが最後の旅行と主人公と彼女はわかっていての旅行だった。そして別れた。
 20代の2人の恋は激しく揺れた。主人公の部屋に泊まれば翌日の夕方まで2人は抱き合い過ごした。

 そして2人は5か月前に再会した。今度こそ20代の頃の失敗はしてはいけないと慎重に付き合いはじめた。

 彼女が部屋にやってきても、その日のうちに彼女は帰っていった。

誕生日にプレゼントをあげる。20代のころは、自分で選んでプレゼントをあげたが、彼女は「ありがとう」とは言うものの、うれしそうではない時がしばしばあった。今は「何が欲しい?」と聞いてからプレゼントを選ぶ。

 30代になった2人は、ダンスのような恋をしている。彼女が一歩下がると主人公が一歩前へでる。主人公が横に一歩逃げれば、彼女が一歩主人公に寄る。互いの気持ちが手にとるようにわかるから、負担にならず、むしろ相手の気持ちを楽しんでいる。

 そして今日は、大切なことを言わねばならない。主人公は彼女が勤めている画廊に行こうと決意した。

 そんな時、彼女から電話がある。彼女が言う。
「今日は残念だったね。でも、何とかして明日になってもいいから会えないかと思っていた。」」
 主人公は思わず自分もと思った。
「でも、いいわ。あなたがいなくても、ずっとあなたのことを考えていた。あなたと一緒だったから。会っていなかった時も、ずっとあなたと会っていた。」

 主人公は幸一杯になり、言う。
「愛している」
小さな声だが」受話器を通して聞こえてくる。
「愛している」と。

それにしても、今日は2人にとっても、人々にとってもアツイ日だった。

大人になったぶん、今度の恋はうまくいきそうな、いややっぱしそうでもないかもと読んでる私の心も少し揺れた。

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中山七里   「秋山善吉工務店」(光文社文庫)

 秋山史親一家の家が全焼する。二階に寝ていた史親は逃げ遅れて焼死する。住むところを失った、母景子と息子の2人兄弟雅彦と太一は、史親の父秋山善吉の家に同居することになる。

 この善吉。昔気質の大工の棟梁。若いころはヤクザと立ち回りをして、ヤクザを打ち負かしたことがあるという猛者。

 次々起こるトラブルに先頭になり立ちはだかり、派手な活躍をするのだろうと読み始めたが、どうも勝手が違った。

 前半は、太一が転校した学校で、いじめっ子グループにはいることを拒否したため、いじめっ子グループにいじめられる。

 雅彦は半グレ仲間に引き入れられ、違法ハーブの販売に手をそめ、それをやめようとするとヤクザがでてきて脅し、販売集団から抜けられなくなる。

 景子はファストファッション店にバイトで採用されるが、そこで悪質なクレーマーに遭遇して、そのクレーマーの要求に応えられなくなり、追い詰められる。

 この、3つのトラブルの描写が中心で、殆ど善吉が登場する場面が無い。もちろん最後には登場してトラブルを収めるが、派手な立ち回りは殆どなく、片言隻句ばかり。

 善吉をはじめ、登場人物がありきたりで平板。これは中山らしくないと読み進む。

  後半、宮藤刑事が登場して、火災の原因を突き止めようとするところから、急に物語に緊張感がでてくる。

 亡くなった忠親は、ゲームソフト会社をクビになり、自らがソフト会社を興そうとする。しかし資金不足のために、退職金や預金を株に投資するが失敗して全く金が無くなる。妻恵子はほとほとこんな忠親に愛想をつかす。一方善吉は、忠親のダメ息子ぶりにこれまた愛想をつかし、忠親を嫌う様になる。

 宮藤刑事は最初放火犯人として景子を疑いおいつめる。そして次に善吉を疑う。どれも決め手を欠く。それで、2人の合作ではと疑う。この経過での、宮藤と景子、善吉のやりとりは緊張感が漂う。

 しかし放火の証拠があがらず、失火として最終処理される。
それから8年後、ある人の証言により、火事の原因がわかる。そして、そのことは景子も善吉もそして宮藤も知っていたことが明らかにされる。

  善吉一家、景子家族にとっても、そんなことを暴かず、失火として処理すべきだということを宮藤も知っていた。

 秋山善吉の江戸っ子頑固おやじの活躍を期待していたのだが、タイトルと中身が異なり戸惑ってしまった。

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大島真寿美    「ビターシュガー」(小学館文庫)

 市子、奈津、まりの親友3人シリーズ、「虹色天気雨」に続く第2弾。
「虹色天気雨」から3年、40歳を超えても、プライベートでは3人ともいろんなことで大変。

  奈津は失踪した夫憲吾が信州に居座り、そのまま別居生活をしていたが、結局離婚する。面白いのだが、憲吾と別居している間、奈津は全く信州に行かなかったが、離婚すると、娘美月といっしょにちょくちょく憲吾のいる信州にゆく。

 まりは旭という恋人と長い間付き合っていたが、結局別れた。そのショックが癒えていないと思われたのだが、内藤という15歳も年上のバツイチの男性と付き合いだし同棲まで始める。

 旭は会社を経営している三宅の家に居候をしていたのだが、実は三宅はゲイで、ある日三宅が旭に関係をせまり、旭は三宅の家をでざるを得なくなる。三宅の土下座をしてまでのお願いで、何と主人公の市子が短期間ということで旭を居候として引き取る。しかし、周囲からみれば、どうみたって居候には見えない。

 それにしても、中学時代に友達になって、それが40歳を過ぎても親友であること、それがどうして可能になっているかが不思議だ。

 一つには、住んでいるところが東京で、大学に行っても就職しても、3人が東京からでることがなく、いつでも集まれる環境にあったことがあると思う。

 だいたい、長い間友達関係が維持されるには、そこにまとめ役を果たす人が含まれていることが多い。しかし、この3人にはそんな役割を果たす女性は見当たらない。

 で、どうして継続できるか。それは主人公である市子の存在にある。

 市子は、おかしいなと思っても、頼まれたことを結局は全て受け入れる。旭を居候にしたこともそう。夏休みに奈津の娘美月が市子のマンションで過ごすことも受け入れる。美月が父親である憲吾に会いに行くときも、美月にせがまれ奈津が不快になることを悩んでも結局一緒に行く。

 市子はみんなの相談窓口になっている。そして市子の部屋はみんなのためのたまり場となっている。
 友達が遭遇する困難をすべて受け入れるような市子、市子無しでは3人の絆は続いていない。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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黒川博行    「破門」(角川文庫)

 建設コンサルタントをしている二宮。現実の仕事はやくざの妨害を別のやくざをつかってさばくこと。この仕事の中で知り合った暴力団二蝶会に所属する桑原。この桑原が、金の匂いをかぎつけると、そこに食らいつきいろんなトラブルを起こすのだが、その処理や対応に二宮をパシリのように使う。二宮にとってはまさに桑原は「疫病神」の存在。

 作品はその「疫病神」シリーズ5作目。この作品で黒川は直木賞を受賞している。

本作品は、映画プロデュサーの小清水が映画作りを企画、そのために資金集め映画をする。そこに二蝶会と、親筋の滝沢組が出資をする。

 ところがこの資金を小清水が持ったまま失踪。小清水を追跡、金の奪取と、更に小清水とお金をめぐって二蝶会と滝沢組が反目。この2つのトラブルに桑原とひきずりこまれた二宮が対峙し、迷走、時に快走する。

 この作品は560ページを超えるが、読者に一気に読ませる。もちろん、物語の面白さもあるのだが、読んでいて不思議なことに気付く。

 基本的には二宮視点で描かれる。普通の物語では、一つの事象が語られると、「そのころ」別のところではとの表現を用いたりして、空間を飛ばして、同時に起きている事象を書いたり、別の人間の視点で物語を描き、起きる事象をパラレルに走らしたり、複合的視点で語らせ、物語を膨らませることが多い。

 また、過去に物語が飛び、現在起きている背景を説明する手法も多く行われる。

 しかし、この物語は、二宮視点で、一直線に刻々と現在だけが動き物語が進行する。だから、読みやすく、わかりやすく、スピード感もでる。

 それから、二宮、桑原の人物造形がすばらしい。リアリティを持った現実に存在する人間として登場する。
 時にエンターテイメントと言っても、主人公が撃たれても奇跡がおき、傷つかないようなことがしばしば起こり、それはありえないと読者を失望させる。

 ところが、この作品は、そういった作為が全くといっていいほど無い。登場人物がその個性のありようのままにしゃべり、行動し、違和感を全く感じさせない。

 それから何といっても、会話が秀逸。黒川は会話はすべて一旦書いた後、実際に声をだしてしゃべってみるそうだ。そして納得いくまで修正するほど会話にこだわる。

 桑原が居ない木下についてセツオにどうしたのか聞く。
セツオが答える。
 「弁当でも買いにいってるんじゃないですか。」
 「お前の頭は食うことだけやのう」
 「食う、寝る、勃つ。本能やないですか。」

 こんな面白い会話が満載。見事なエンターテイメント小説である。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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黒川博行   「迅雷」(文春文庫)

 ブックオフで黒川作品を何冊か購入。しばらく黒川の関西エンターテイメントに浸る。
 黒川は推理小説、業界物、猟奇物、ハードボイルドと幅広いジャンルで作品を発表しているが、この作品は誘拐物に分類されるらしい。

 誘拐といっても、子供や女性が誘拐され、それに警察や探偵がたちむかうというありきたりな小説を黒川は書かない。

 紹介した小説でも、社会の底辺で彷徨う、最も弱者に分類される3人が、何と暴力団の組長を誘拐。暴力団に対し挑むという物語になっている。事実、3人のうちの一人友永は、いつも、こんなことをしていていいのだろうかと煩悶し、気弱な面をさらす。

 関西以外、特に東京を地盤にしている作家には、あまり人間性が晒しだされる作品は無い。

しかし、黒川の作品は、登場人物の気性、弱さ、それによる揺れが物語の根底を流れる。そこで交わされる会話が秀逸で味わい深い。

 人質にした暴力団組長緋野を、誘拐した稲垣、友永が脅迫し痛めつける。さすが組長といえども耐えられない。稲垣が友永に言う。
 「緋野の手、ひどいしもやけになっとるな。指がバナナみたいに膨れとる。」
 「無理もない。まる2日間、後ろ手にしばられとるんや。」
 「ほんまに気の毒やな。」
 稲垣はさもおかしそうに笑う。
 「片方の眉毛はない。指はバナナ。腰から下はおのれの小便でびしょぬれ。わしが緋野なら胃に穴があいとるで。」

 人質に対して、心を通わせるような物言いは、黒川作品以外では見当たらない。誘拐した側の弱さ、人のよさ、さらに暴力団組長なんていうとんでもない男を誘拐してしまったというおののきが表現されている。

 3人組のひとりケンが暴力団に誘拐されている。おそらくボロボロに痛めつけられているだろう。そのケンを救ったら病院に連れて行かねばならないが、普通の病院には行かれない。

 友永が稲垣に言う。
 「どこで治療するんや。あてはあるんかい。」
 「ないこともない。わしの昔の連れに医者がおる。」
 「それは心強いな。」
 「腕は悪うない。医者のくせにしょっちゅう西成の常盆にでいりしとる。」
 「何の医者や」
 「獣医だ」
 「・・・・・・」
 「さ、倉庫へ戻ろう。夜が明けるがな。」
 稲垣は短い欠伸をした。

この「・・・・」と「短い欠伸」は見事だ。登場人物の息使いが、ページの中から立ち上がる。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大島真寿美    「虹色天気雨」(小学館文庫)

 芥川賞受賞作家今村夏子さんの文庫作品を読み、型破りの発想に感動。それで、直木賞受賞作家大島真寿美さんの作品をブックオフから購入して、しばらく大島作品を堪能しようとしている。

 紹介している作品はNHK連続ドラマにも登場して大島作品の中ではベストセラーとなった作品。

 男にはあまりないが、女性には少女時代からの友達がずっと切れずに続くことがしばしばある。この作品に登場する、市子、まり、奈津、アラフォーなのに中学で友達になり今でも強い友達関係が続いている。

 なんでもあけすけなく言い合い、支えあい、しなやかに明るくそして強くアラフォー時代を生き抜いている。

 市子には耕太郎という恋人がいたがしばらく前に別れている。奈津には憲吾という夫と美月という娘がいる。まりには旭という恋人がいる。

 奈津の夫憲吾が書置きをして母子を残して失踪する。アラフォーの女性はすごい。懸命に奈津は憲吾を探し回る。それと並行して、美月を養わねばならないと、仕事を探す。泣いたり、悩んでいる暇などない。多分帰ってはくるだろうが、そんなことはあてにせず、次の手を打たねばならない。こういうきっぱりとした行動は奈津でなければとれない。

 奈津が電話で夫の失踪を市子に伝える。電話の向こう側の奈津の表情を市子が想像する。そこの描写が秀逸。

 「電話の向こうで奈津がどんな顔をしているのか、うっすら見える気がした。奈津がこういう決心をしたときに見せる、少し顎を突き出して、頬を少し膨らませ、口元をすぼめた、強気の表情。それからいつも一度ぎゅっと眼を閉じ、そのあとパチリと眼を開く。大きな瞳が強く輝きだす。何もかもが満たされたかのように華やかに笑う。」

 まぶたに生き生きとアラフォー女性の表情が浮かぶ。

 憲吾が見つかる。そして唐突に憲吾は長野県で林業をするととんでもないことを言い出す。それを聞いてのまりの反応も実に素晴らしい。

 「だいたい何で失踪中にのんきに魚なんて釣っていられるのよ。奈津や美月のことこれっぽちも考えなかったのかね?考えてたら、魚なんて釣ってられないよね?まったくどういう神経してんだか?それで何?さんざん魚釣って帰ってきて、今度は樵になるってか?本当に大きな神経が2,3本いかれちゃったんじゃないの。」

 表現が半端じゃなく楽しい。笑いと感動が抑えられない。とんでもない作家だ、大島さんは。

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| 古本読書日記 | 06:47 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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遠藤周作  『イエス巡礼』

高校時代、遠藤周作に似ている先生(地理担当)がいました。
だからなんなんだって、何でもないですが。

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西洋の絵画を紹介しつつ、イエスの生涯をたどる本です。
連載を本にしたものだそうです。
挿絵があり、前回までのおさらい風の記述もあり、文字数少なめ。
「フラ・アンジェリコの受胎告知はグレコのそれと違い~」
というなら、両方挿絵に欲しいですねぇ。(グレコはググった)

私はわりと、聖書の記述は「そういうものなんだな」と受け取ります。
「『悪霊にとりつかれた人』は、マラリア患者と思われる」
「キリストを三度否認したペトロは、自分たちの助命の交渉もしたかもしれない」
「最後の晩餐は、ダビンチが描いたような静かな状況ではなく、
 信奉者や給仕の人で騒がしかったのではないか」
なるほど。そういう深読み(?)もあるんですね。

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今村夏子    「あひる」(角川文庫)

 今村夏子2作目の本。短編3編が収録されている。本のタイトルにもなっている「あひる」も面白いが、印象に残ったのは2作目の「おばあちゃんの家」。

 みのりのおばあちゃんは離れに一人で住んでいる。みのりはいつも洗濯物やお弁当を届ける。そしておばあちゃんの家でお昼を食べ、漫画を読んで過ごす。

 おばあちゃんはいつも坐って繕いものや雑巾を縫っている。耳も遠いし、体も思う様に動かない。

 中学生になったときの村祭り。みのりは村祭りに行きたくて仕方がないのだが留守番を言い渡され家にいる。しかし、両親は9時まで帰らないと言っていた。それで我慢ができなくなり、神社に行こうとする。途中近道を通ろうとして草原にはいるがいつまでたっても草原をでることができない。泣きながら、歩くと通りにでる。公衆電話があり、家に電話する。

 するとおばあちゃんがでて、迎えにゆくからそこにいろと言う。そしておばあちゃんがやってきて家まで連れて帰ってもらう。

 母が作ったおはぎ6個をおばあちゃんと一緒に食べようと、離れに持ってゆく。何とおばあちゃんはその6個を全部食べる。

 そういえば、認知症になると、食事をとったかどうか忘れてやたら食べるようになると言われている。

 おばあちゃんはそれから、村を徘徊しだす。しかし必ず戻ってくる。父親は家からでられないよう、ありとあらゆる出口を封じるが、それでもおばあちゃんは家をでる。

 老人というのは、歳をとるほどに体が弱っていくものと普通は思う。しかし、痴呆が始まり、それが進行すればするほど、体がシャキっとなり剛健になってゆく。

 面白い物語だ。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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帚木蓬生 「閉鎖病棟」 

昨日本屋に行ったら、映像化コーナーにありました。
買わずとも、爺やの本棚にありました。

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原作は20年以上前に出版されたもので、出てくる患者のおじさん・おじいさんは
戦争を知っている世代です。
映画は、舞台をもっと現代にシフトさせているみたいですね。

鶴瓶と小松菜奈の役どころと、話の展開は途中で何となくわかりました。
頭のねじが外れたおじさんたちが、傷ついた乙女のために復讐して、
「その優しさをあなたは咎めますか」
というキャッチフレーズなわけだ。

どうしても綾野剛は若すぎると思うんですけどね。
性暴力の被害に遭ったヒロイン(原作では中学生。映画では高校生)を温かく見守る
30年以上入院している60歳近いおじさんの設定。
成人した甥たちや妹夫婦に「正常な判断ができない人。退院してこないでほしい」と
拒まれて、病院が終の棲家だとあきらめている患者。
それが、幻聴の聞こえる元サラリーマンに。・・・ふむ('ω')

いい話だとは思います。

病棟の暮らしをどこまで描写するのか、気になりますね。
更生不能の凶悪な患者や、ゲゲゲばかりでしゃべれない患者も出てくる。
障碍者入所施設での殺人事件も、映画の観客の記憶に新しい。

| 日記 | 00:38 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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今村夏子   「こちらあみ子」(ちくま文庫)

 芥川賞を受賞した今村夏子のデビュー作。
面白い。型破りだ。あまたの作家では思いつかない発想。

 いじめはいけない。友達もできず、みんなから無視され、カバンや靴が捨てられたり、隠されたりする。耐えられなくなり、自らの命を絶ってしまう。そんな悲しいことが、世の中では繰り返されている。

 こんな悲劇を生じさせるのは、いじめられている生徒が、学校で、社会で何とか他人とかかわりたいと望むのだが、それができるどころか、かかわるべき他人から徹底的に排除されることに人生のむなしさ、生きている価値を失うと思うからである。

 それでも、今の社会で何とか生きようとする。

しかし、そんな社会の外側にいたら、そんな社会の内側にいることに価値をおかない人がいたらどうなるのだろうか。こういう発想はなかなか生まれてこない。

 この作品の主人公あみ子はそんな存在だ。

 両親は子供に関心が無い。世の中を生きていくための規範など教えることはない。何しろ両親が離婚して、父親に引っ越すぞと言われ当然父親があみ子を引き取るのかと思ったら、
祖母のところに行かせて、自分は別の女性と再婚してしまう。

 こんな両親だから、あみ子は学校へ行くのも行かないのも自由。学校へ行っても全員があみ子から遠ざかる。風呂に何日も入らないことがあると、臭いとみんなが逃げる。そのことが、みんなから嫌われていることだとあみ子は全く感じない。

 学校で履く上靴がどこかに隠されたか捨てられたかして無い。それに全く頓着しない。ずっと裸足で通す。

 ノリ君という子に興味を抱く。いやがるノリ君と一緒に家に帰ろうとする。ノリ君は、あみ子を避けようとするが、しつこくあみ子がついてくる。極まったノリ君が、「あみ子は変わり者で悪い子だから、お話をしてはいけないと両親から言われてる。」と言う。

 保健室で2人きりになったときあみ子が言う。
 「好きじゃ」ノリ君が言う。「殺す」
 「好きじゃ」「殺す」が何回も繰り返される。
 あみ子は何とそれだけしつこく追いかけるのに、ノリ君の名前も苗字もしらない。

知ったのは中学の卒業式前日。張り出された習字に名前がある。しかし、あみ子は漢字がよめないからそっと教えてもらう。

 その日、坊主頭の子があみ子に声をかける。
 「みんなお前のことをしつこいし、大嫌いだった。」
 「どこが気持ち悪いねん?」 
 「そんなこと100億個もあっていえない。」
 「100億個でいいから、教えて」
 「それは秘密」

これだけが、あみ子が中学生を終えるまで、まともに他人とした会話。それでいて、あみ子は何の不自由も感じていないし、哀しくも、切なくもない。

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二人(匹)の夏物語

襟無しのシャツに10月が来ても 夏は終わらない。

というわけで、9月のうちに再び海です。

全体

ほどよく風があって、曇っていて、今日行かずしていつ行く……
と、出発前は思っていたんですがね。

nihiki.jpg
さくらの目が怖い

どんどん日が差してきて、暑かった。
海だから日影が無いし。

むかうさくら
臆せず向かう犬①

ごろん
帰りの車も、家の中も、砂だらけ

ねじれさくら
暑いのかもな。うん。

むかうゆめこ
臆せず向かう犬②

ぬれゆめこ
濡れても平気

ぬれぬれゆめこ
濡れても全然平気

にひき2
ブルテリアみたいな顔になってきた。

ゆめこの病気からすると、あんまり日に当たらない方がいいんですがね。
獣医さんも細かく言わないし、運動させないとぱっつんぱっつんだし。

当然、帰ってきたらお疲れモードです。
IMG_9235.jpg

こちらも同じく。
IMG_9234.jpg

態度がでかいなぁ( ̄▽ ̄;)

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桐野夏生    「猿の見る夢」(講談社文庫)

 主人公の薄井は59歳。大手の銀行に勤めていたが、財務のわかる人が欲しいという取引先の要請で中小の衣料品販売製造会社に出向する。この会社の創業者で現在の会長がやり手で、この会社をファストファッションの会社に変え大きく成長させ、現在は年商1000億円以上の会社までになっている。

 そして薄井は、中小企業の経理担当で終わるところだったが、現在は財務担当取締役にまでなった。

 この一年で何とか常務になろうと社内営業に全精力を傾けている。というのは取締役は60歳定年なのだが常務は65歳が定年となっているから。

 この薄井が小心者でケチ。その思考行動が普通の会社員を映してしている。ユーモア小説なのだが、読んでいてチクリと心が痛む。

 まず65歳まで会社にいたいという欲求。別にお金が欲しいのではなく、10年来の愛人との関係を続けたいというのが理由。定年で会社を辞め、家にいるようになると、愛人と逢うことができなくなる。会社にいれば、仕事で遅くなるとか、休日には会社の店舗回りと嘘をついて、愛人と逢える。会社勤めが終わると口実が作れない。

 59歳だから、老後のことも考える。まず実家の遺産。実家は裕福な家で200坪の土地に2軒の家を荻窪に持っている。実家の一軒は妹家族が住み、もう一軒は母親が住んでいたが、痴ほう症になり、今は療養型病院に入っている。

 ここの土地が妹と折半しても1億円は固い。
更に自宅マンション、まだローンは残っているが所有している。それに預金が3000万円。
贅沢をしなければ、これに年金があれば死ぬまで暮らせるだろうと考えている。

 事態が変わり、坂を転げ落ちるようになったのは、母親が亡くなりその葬儀に愛人がやってきたことから。

 当然妻からは三行半を突き付けられ離婚を宣言される。すべての責任は薄井にあるから、マンションは取られ、大きな金額の慰謝料が取られ、年金の半分は妻に渡すことが約束させられる。

 さらに200坪の土地は、母親が土地を担保にして銀行から借り入れをして老後の資金にしていた。残り100坪は、母親の世話をしていた妹に感謝した母親が遺書を残し、土地や遺産はすべて妹に渡すことになっていた。これを、実家を家探しした薄井が発見しその場で破棄したが、結果遺産相続がどうなったかは物語では書かれていない。

 一方会社は、会長が大腸ガンにかかり余命幾ばくもない状態になり、社長の娘婿は、混浴遊びをしていて、その遊びを写真にとられ脅迫される事態に陥り、会長は会社を流通大手チェーンに身売りを決意。薄井は仕事が無くなり、高齢にして冷たい風の吹く世間に無情にも放り出されることになった。

  面白いと思ったのは、社員は、会社の恥部を口止めをさせられるが、会社と関係ない友人には、面白話として気楽に喋ってしまうところ。それが、ネットで流され脅迫のネタとなる。

 この作品週刊誌の連載小説。スピード感があり、軽く楽しく読むことができるように工夫されている。
 セクハラもパワハラもする人のことをセパ両リーグということをこの作品で知った。

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| 古本読書日記 | 06:38 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐々木譲    「真昼の雷管」(ハルキ文庫)

 まだ、私が若いころ、所属していた部に年配の人が副部長として異動してきた。仕事を何もしない人だった。以前ドイツの現法にいたことがあり、それを背景にして、偉ぶり社員から無視され嫌われていた。

 プライドがあるがために、職場に馴染めず、会社を退職した。

 ある時、他の会社から、副部長についての問い合わせがあった。その電話をとった管理部長が、「あれはだめだね。仕事は全然しないし、偉ぶるし、使いものにはならないよ。」と副部長をけちょんけちょんにけなした。

 電話が終わった後に、私のところにやってきて、「あいつの紹介があって、ひどいやつだったと話してやった」と得意気に話した。
 「別にもう関係ないんだから、そんなにひどいこと言わなくてもいいじゃない。」と答えたが、「本当のこと言ってあげねばいけないよ。あんな男を採用したら、その会社も被害を被るんだから」と叱られた。

 JR北海道で何年か前に貨物列車脱線事故があった。その後の調査で、JR北海道では、車両や軌道の保守点検がでたらめだったことが明らかになった。更にそれを糊塗するために点検保守の記録を改竄していたことが明らかになり、社会的大問題になった。

 最初は、点検現場の数人を処分しただけで済まそうとしたが、それでは抗せなくなり、幹部数人を処分せざるを得なくなった。

 その対象になったのが、この物語に登場する梶本裕一。

その昔、JRが国鉄だったとき、国鉄には3つの労組があり、JRになってもJR北海道はその労組を引き継いでいた。国労、動労、鉄労だ。

 国労は一般左翼労組、鉄労は会社よりの労組、動労は過激派革マルが主体の危険労組だった。

 梶本は、JRを辞めさせられ、それだけでも次の仕事を探すのに、苦労していたが、それに加え動労に所属していたということで、再就職は絶望的になってしまった。応募先からJRに問い合わせがあり、JRは梶本動労所属を明らかにするからだ。

 絶望は強烈な恨みに変わり、犯行に至るところが痛々しく思えた作品だった。

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| 古本読書日記 | 06:35 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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矢崎存美   「繕い屋 月のチーズとお菓子の家」(講談社タイガ)

心の深い傷を美味しい食事に変えてくれる不思議な料理人平峰花。その傷を食いつくすことにより癒され再生してゆく人たちを描く連作短編集。

 主人公の宮崎真梨子は夫の転勤に伴い、都会を離れて新しい街で暮らしている。友達もいなくて孤独で寂しい日々を送っている。

 そして、最近は眠るといつも同じ夢を繰り返しみるようになる。

真梨子は小さい家に住んでいる。一人寂しくしていると、家のドアがトントンとたたかれる。のぞき見るとコートや帽子だけで顔が無い男が立っている。繰り返しドアをたたく。恐ろしくて部屋で身を縮めているが、ずっと終わらず続く。恐怖が最高に高まる。そこで目覚めるが、直後にまた眠りにおちると同じ夢をみる。

 そんな夢をみていると、夢の中に平峰花という女性が自分は繕い屋と言って登場する。そして、悪夢の原因は住んでいる家が悪魔となっている、その悪夢から逃れるためには家を食べて消化するしかないという。

 何を言っているのかわからない。家など食べれるわけがない。そんなことを言わずに試しに柱をかじってみたらと言われ食べてみる。すると表面はカリカリ、中身はフワフワ、フィナンシュの高級な味。びっくりする。それで次々食べてみる。

 食器棚はチョコレート、窓ガラスは板状の飴、冷蔵庫はクリームのかかったスポンジケーキ、畳を食べると下からキャラメルノスポンジケーキがでてくる。

 真梨子の夢でみる家はお菓子の家である。夢では、腹いっぱいになることは無い。真梨子は時間をかけて、お菓子の家を食べつくす。

 平峰花は、これで悪夢は消火されましたという。
そこから、真梨は恐怖の夢をみなくなった。

物語には書かれていないが、こんな夢だったらしょっちゅう見ていたいと真梨子は思ったのではと想像してしまった。

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近藤史恵    「ガーデン」(創元推理文庫)

 今井探偵と助手山本シリーズの2作目。私は別の彼らのシリーズを読んでいないから、今井探偵がどんな見事な活躍をするのかとその推理のすばらしさに期待していたのだが、この作品実に奇妙な色合いの作品で、かなり戸惑った。

 まず、今井探偵事務所なのだが、電話帳にも電話番号がのっておらず、しかも事務所の看板もなく、単に「今井」とプレートがあるだけ。

 さらに、藤波という金持ちの住む大きな屋敷で殺人事件が起きるのだが、今井探偵が死体遺棄に協力していること。

 そして、何といっても、こんな物語には遭遇したことがないのだが、客観的に捜査、推理をして真相を暴くのではなく今井探偵自身が事件の当事者としてどっぷり物語に入りこんでいる。 

真波と火夜という殺人事件の核心を担う2人の親友同士が登場し、真波が最終的に犯人となるのだが、その動機の根本に、火夜が今井探偵に強い恋心を抱いていたこと、更に同じように真波も恋心を今井探偵に抱いていたことがあった。

 物語は、火夜と同居していた真波が、火夜が部屋をでて帰らないから探してほしいと今井探偵事務所にやってくるところからスタートする。その時、どこからか送りつけられた小箱を真波が抱えていた。その中身は切り取られた小指だった。

 この小指、実は火夜が切断したものだった。火夜の祖母は芸者をしていて、一番愛する人への証拠として、当時小指を切りおとし届ける風習があり、それに沿った行為だったと物語では説明される。

 また助手の山本は、精神病院を脱走している患者。山本は名探偵の助手になっていれば精神が安定する。山本が今井に会ったとき、今井は探偵だと宣言。それで、山本は助手となり今井は意にそわないが探偵をしていることが明かされる。

 事件が起き、それを誰かが追及して真相を暴くというストーリーでなく、登場人物のすべてが事件関係者になっているという物語。新しいタイプにチャレンジする姿勢は評価できるが、ドロドロしすぎてわけがわからなくなる締まりのない物語になってしまった。
 
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遠藤周作   「人生の踏絵」(新潮文庫)

 遠藤周作が、何故小説を書くのか、人生の機微、奥深さを縦横無尽に語った、講演録。
遠藤の作品はマイナーなものからメジャーな作品まで、殆どすべてを読んだ。また、彼が尊敬したり、影響を受けた海外の作家の作品も読んだ。

 遠藤は肺結核をはじめ多くの大病をしていて入院生活を長い期間した。遠藤は子どもの頃キリスト教の洗礼をうけキリスト教信者として生涯を貫いた。

 しかし、遠藤が入院しているとき、多くの患者が亡くなっていった。中には5歳くらいの幼児までいた。神は人々を救ってくれるはずなのに、いくら祈っても何でこの子の命を救ってくれないのだと大いに怒り、苦しむ。

 私も同じように思い、こんな理解できない宗教なのに、遠藤は何故キリスト教信者をやめないのか不思議に思っていた。

 遠藤作品の大ベストセラー「沈黙」を読んだとき、その疑問が解けた。

 何といっても、この作品のハイライトは宣教師であった主人公ロドリコがキリストの踏絵を踏むかどうかの場面。当時、踏絵を踏むくらいなら、死ぬほうがましという純粋な信者が多かった。そのまま首をはねても、あっけないし、信者のいさぎよさばかりが強調されるとまずいということで、穴ずりという拷問にかけるところから踏絵は始まる。糞尿の上に逆さ吊りをして、踏むと宣言しないと、顔を糞尿の中に入れたり、上げたりを繰り返す。

 踏絵を踏めば、転ぶということになり、キリスト教を裏切ることになる。しかし、拷問には耐えられない。弱り切っているロドリゴにキリストがささやく。ロドリゴ初めてキリストの声。「踏絵を踏みなさい」とキリストは言う。

 遠藤は言う。聖書には、イエスが魅力あるもの美しいものを追いかけているところが一ページもない。イエスは汚いもの、色あせたものにしか足をむけなかった。社会の底辺にいる娼婦や病気に苦しんでいる人たちの傍にいて励まし、慰めた。みんなの日常の苦しさや悲しさ煩わしさを背負い、自分が十字架につりさげられても、それらを最後まで捨てなかったことに感動すると。

 神は実像は見えない。しかし清廉潔白で清く正しい人には神は現れない。神はむしろ罪人の中に入り込む。嫉妬、怒り、絶望に陥った人間にこそ神は立ち現われ人々に寄り添いささやきかける。

 この思いを基底にして、遠藤は神と人間とのかかわりを小説に描いてきた。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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安東能明   「死紋調査」(角川文庫)

 児童画診断の創始者であり権威者でもある、岩手県の中学校の美術教員だった浅利篤という人がいる。
 児童画は「形」「色」「構図」の三つの組み合わせで、すべてがわかるという。

 子どもの絵に登場する山や太陽は父親を表す。電車や馬といったものは母親を具現する。色も重要だ。白は警戒心、黒は恐怖心、紫は病気を表現している。そして、それらが絵のどの位置に描かれているかで児童の状態をみるのが構図である。

 これにより、児童画の診断方法を発見、構築したのが浅利篤である。
昭和30年代彼が著した「児童画の秘密」はベストセラーとなり、児童画を題材にした「黄色いカラス」という映画も作られ大ヒットした。
 全国的に浅利式診断法が広まり、教育の場では常識となった。

 しかし、権威の塊である精神医学学会としては、在野の一先生が発見したという診断法を認めることは面白くなく、徹底非難無視を決め込み、現在は隅に追いやられた状態にある。

 この物語は、浅利式診断法により、子供によって描かれた絵のうち、描いた当人や、家族の誰かが、近々事故や事件で殺害されるか、突発死することが予知される作品が抽出され、その診断通りに、死人が次々発生する。

 そして主人公の息子雄大が描いた絵も、不幸の予知絵となっている。果たして、主人公家族の身に大きな被害は及ぶのか、それとも予知絵により、発生した事故事件は誰かが故意に起こしたものかが追及されてゆくサスペンスとなっている。

 犯人は浅利式診断法の知識は殆ど無く、その絵を利用して事件を起こしたのかはっきりしない。逆に言えば、個々の子供が描いた予知絵が危険が発生することを示唆しているのだから事件は起こって当然という。殺害意志と予知が重なりあって、すっきりしない印象だけが残る。

 構想や着眼点は興味をそそるが、その構想が十分に生かし切れていない。

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矢崎存美   「食堂つばめ5 食べ放題の街」(ハルキ文庫)

 臨死体験をする場所にある食堂つばめシリーズ5作目。今までは単純なストーリーばかりで、あっさりしていて読み応えがあまりなかったが、この5作目は少し物語が複雑で凝っている。

 主人公の沙耶は、小さいころから虐げられ、妹の面倒を含め、家族の世話を使用人のようにせねばならなかった。更に、中学生になると祖母が動けなくなりその介護までさせられた。

 成績は優秀なのだが、家から通える三流高校にしか行かせてもらえなかった。学校ではいつも孤独でぽっち生活。友達は唯一幼稚園で同じ組だった美苗だけ。

 祖母はそんな沙耶を不憫に思い、何かにつけお金を与えてあげていた。沙耶はそれを全く使わず、台所の秘密の場所に貯めていた。

 10年ぶりに友達の美苗に会う。沙耶は今の辛さを美苗に言う。すると美苗は家をでなさいと言い、実家から遠く離れた町のアパートを紹介し、沙耶はそこで一人暮らしを始めた。そのアパートの場所を美苗の手帳を盗み見たことで妹の舞が知り、アパートにやってきて家に戻るよう説得に来る。

 原因はわからないが、そこで沙耶は死に、食堂つばめの街を彷徨うようになった。
沙耶は生き返ってもずっと一人だし、生きる希望もない。それで、生きていても、死んでも同じという気持ちで臨死体験の街に居続けている。

 ここにもうひとり隆一という男性がやってくる。彼は、大学をでて一流企業に就職していたが、母が倒れ、介護を決意して会社をやめ田舎に帰る。母は息子を犠牲にすることを嫌がったが、さりとて対応策もなく、隆一の介護を受ける生活をする。

 転職をした会社をリストラされ隆一は追い詰められる。そんな時2階から降りようとして足を踏み外し亡くなり、臨死体験場所にやってくる。

 隆一も生きていてもなんの意味もない状態。だけど母が心配。死にたいけど、生き返らねばならない状態。

 死の影に持っていかれれば、もう生き返ることができず、完全に死んでしまう。その危ない体験をする隆一を沙耶が救い、完全に死なずに踏みとどまっている。

 隆一は身の上話を沙耶にする。生き返っても何の生きがいもない。母親の世話だけをしてまた死ぬだけ。ずっと独りぼっち。
 沙耶が言う。自分は祖母の介護の経験があるから、隆一の母の介護は自分がしてあげる。だから隆一はひとりぼっちじゃなくなるよ、と。

 沙耶のだしたお茶を飲むと隆一がスーっと消える。生き返ったのだ。
沙耶も少しおいて生き返る。隆一の家を訪ねると、隆一の母は自ら進んで施設にはいっていた。沙耶が隆一の母をみる必要は無くなっていた。

 でも2人は大切な友達同士になろうねと固い約束をする。

 この作品は、ようやくこのシリーズでまともに読めた。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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矢崎存美   「食堂つばめ4 冷めない味噌汁」(ハルキ文庫)

 矢崎の有名な「ぶたぶた」シリーズにつぐ、「食堂つばめシリーズ」。

人が死ぬと全員ではないが、生と死の間にある場所へやってくる。そこにあるのが「食堂つばめ」。ノエという美女がやっている。メニューはなく、客が食べたいものを言うと調理し提供してくれる。客は死んでやってきている。ノエは客を生き返るよう説得する。もちろん客は死ぬことも選択できるが、ここで何かを食べる客は生き返りたいと思っているので、ノエは説得して死んだ場所で、客を生き返らせる。

 一見ノエのしていることは正しいことのように思うが、現実は死んだ当人の状況により、生き返ることが幸なことかどうかはわからない。まして2度死ぬということは、死ぬとき味わった苦しさを、再度味わうということで、誰もがそれを望むかは、疑問である。

 このシリーズ。生き返らせるまでは描写するが、生き返った人がどうなったかは書いてある作品は殆どない。そこからが本当の物語になるのだが・・・。そこがかなり不満をたまらせる。

 めずらしくこの短編集のタイトルにもなっている「冷めない味噌汁」は生き返った後を描いている。

 俊太郎はブラック企業に勤めている。今は苦労しているが、明日には楽になるはずと思い、重労働を強いられながら頑張って働いている。そして4日間会社に詰め徹夜で仕事をして、眠ったまま死んで、ノエの食堂にゆく。

 そこで、食べたいものを食べ、泊り、翌日朝食を食べる。そこで提供されたノエの味噌汁の味に感動。生き返ることを決意した途端、気が付くとベッドで意識が回復していた。

 すぐに携帯で起こされ、上司に「何をさぼっているのだ。早く会社にでてこい」と怒鳴られる。

 しかし会社には行かず、病院にゆき、体全部の機能が異常であることが告げられ入院をすることになる。上司から「それでも会社に来い。」と責められるが、見舞いに来た弟にも会社には行くなと言われ断る。すると即解雇通知がくる。弟が懸命に頑張り、退職金は手にすることができる。

 そして父親の関係する造園会社に就職。祖母と父親と3人で暮らすようになる。
母親は小さい時に亡くなり殆ど記憶にない。そこから叔父の家で育てられ、大学を出、ブラック企業に就職。

 父親も妻を早くに亡くし、一人であちこち転勤して暮らす。
そんな父親が今は、母親代わりで食事を作ってくれる。

 父親の作る味噌汁。臨死体験したとき食堂つばめのノエが作ってくれた味噌汁と同じ味がする。

 すこし都合がよすぎる物語である。

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| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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矢崎存美    「訪問者ぶたぶた」(光文社文庫)

 大きさはバレーボールのボール程。ぶたのぬいぐるみのぶたぶた君が大活躍する人気シリーズ。

 光之は東京で働いていたが会社をやめ、実家のある田舎町に家族と一緒に引っ越してきた。父親の紹介もあり、町役場で今は働いている。父親は県会議員をしているが、そろそろ引退を考えていた。

 長男の孝を後継者に考えていたが、孝はアメリカに行ってしまう。光之も議員には全くなるつもりは無い。しかし、父親の秘書道橋が光之に議員になることを必死に説得していた。

 町で夏祭りがある。道橋は、光之の名を売るために、図って、光之の家を神様がやってくる家にした。

 神様の家では、食べきれないほどの料理を作って、神棚に供える。神様は家族が寝ている間にやってきて、お供え物を食べて、そのまま裏口からでてゆくということになっている。

 だから、表の窓と裏口の窓を少し開けておく。もちろん神様などくるわけがないので、作った料理は、翌日神社に奉納して、町の人たちに食べてもらう。

 お供えも終わり、窓を少しあけて寝ようとしていたところ、玄関のドアを叩く音がする。ドアを開けると誰もいないと思ったら足元にぶたのぬいぐるみがいて電話を貸してほしいとお願いをしている。仕事が終わったと会社に電話をしようとしたのだが、携帯のバッテリーが切れて電話ができないからという。

 ぬいぐるみがしゃべるので腰を抜かすほど驚く。しかし、ふと浮かぶ。神様がやってきたのだと。それで家にぬいぐるみをあげ、お供えも神棚からさげ、ぶたのぬいぐるみと一緒に、双子の娘たちも入れて、飲めや食えやの大騒ぎとなる。神様がやってきたというので娘たちも大喜びで興奮する。

 裏口からそっと帰るはずなのに、神様は、その晩泊るし、風呂にまで入る。翌朝朝食まで食べて、バスで帰ってゆく。

 そのあと、道橋がやってきて昨夜は神様の送り迎えごくろうさんだったと言う。光之は言う。「神様はちゃんとやってきた。ぶたのぬいぐるみの恰好をしていた。ドンチャン騒ぎをして一晩泊り今朝帰った」と。

 道橋は何を言っているんだと思い肩をがっくり落とし、光之の父親に電話する。
「光之を議員にすることを説得することは諦めた」と。

 ユーモアもあり面白くて楽しい。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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角田光代   『愛してるなんていうわけないだろ』

爺やが屈指のストーリーテラーと褒めた角田さん。
・・・の、初期のエッセイです。

エッセイと言えば、笑えるエピソードを期待するもの。
保湿にこだわりすぎてテカテカになったとか、
大声でオーダーしたら漢字を読み間違えていたとか、
不潔だからと腰を浮かせて小用を足したら、便器の蓋が閉まっていたとか。
このタイトルだから、痛い失恋や「あの頃は若かったぜ」を期待しました。

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あの頃も何も、22~24歳に書いたエッセイだそうです。
恋人ができた途端友達をないがしろにし、『二人の世界』にこもってしまう人がイヤ
ディスコが入っていた廃ビルを真夜中に散歩
「愛している」だの「あの人のために生まれてきた」だの、簡単に言っちゃダメ
うーむ。青春ですね。みんな堕天使で、汗が羽根のかわりに飛んでいた時代。
あとがきでご本人(10年後)が、「この年齢でしか持てない傲慢さや真剣さがある」と書いています。

その流れで、デビュー作も読みました。
「幸福な遊戯」 海燕新人文学賞 ほう。
今でもこういう学生はいそうですね。シェアハウスって言うんでしたっけ?
いつまでもモラトリアムや疑似家族のぬるい関係にひたっていたいという。
上記のように『二人の世界』に文句を言い、ヤリモクじゃない正しいデートをしたいと
エッセイに書く人が、男をつなぎとめるために寝る主人公を描く。
とんがっているのか、ナイーブなのか、そうでもないのか。

IMG_9209.jpg

角田さんの作品で一番いいと思ったのは、「最後の恋」収録の「おかえりなさい」。
語り手が誰に対して話しているか明かされた時、軽く鳥肌が立ちました。
やられた感がある。
例によって、爺やのカオスな本棚のどこにあるのか、そもそも残っているのか、わかりませんが(-ω-)

| 日記 | 00:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー   「あなたの不幸は蜜の味」(PHP文芸文庫)

 ミステリー人気女性作家6人による結末が衝撃的なイヤミス短編集。殆どの作品がすでに文庫短編集として出版されていて、既読作品ばかりだった。

 その中で上手いなあと思ったのが一作目の辻村深月の「石蕗南地区の放火」。

主人公の笙子は36歳で独身。現在は財団法人町村公共相互共済地方支部に勤めている。支部は主に公有物件の保険事業。資格は地方公務員である。

 今年の初め、職場の男性から合コンの誘いを受ける。気が進まなかったがその後の円滑な仕事のために参加を了解。その合コンにいやがる友人朋絵を強引に誘う。

 その合コンに来ていたのが消防士の大林。粘着質で強引に笙子に近付く。携帯番号の交換を迫られたが何とか振り切り赤外線通信のメールアドレスを教える。

 本当にひどい合コンだったと、帰り一緒になった朋絵も嘆息していた。

 それから、毎日のように受信するしつこい大林のメール。おざなりのメールを3回に1回の割合で返信していたが、ついにそのしつこさに負け横浜へのデートを約束する。

 横浜へのデートでは、大林の暑苦しい態度と傲慢さに辟易として、途中で祖母が倒れたと嘘をついて帰ってきた。

 そのしつこさと横浜デートのひどさを友達の朋絵に愚痴る。と、驚いたことにひどい合コンだったはずなのに、何とそこで朋絵は彼氏をみつけ恋人同士の付き合いをしていると告白。それが、笙子の心をチクリと刺す。

 朋絵がどんな言い方をしたか知らないが、大林と笙子が横浜までデートしたことを母親までが知っていた。小さな街。かなりの人たちまで噂は広がっているだろう。朋絵にしゃべってしまったことを笙子は後悔する。

 そんなある夜、笙子の実家の向かいにある消防署が火事で焼ける。放火だった。その犯人が見つからないうちに今度は公民館が放火で焼ける。

 そして大林が犯人としてつかまる。しかし動機がわからなかった。

笙子は、自分とのことが思い通りにならなくてむしゃくしゃしてやったと大林が自白するのではと追い詰められ、いずれ警察や記者が自分のところにやってくるのではと戦々恐々としていた。しかし警察が来ないうちに動機が新聞に載った。

 「火事を起こしヒーローになりたかった」と。
笙子は、むかっ腹がたってその新聞を壁に向かって投げつけた。何で私のことが放火の原因にならないんだと・・・。

 この突然の豹変が見事。笙子の意地が切ないが怖い。

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| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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近藤史恵   「モップの精は深夜に現れる」(文春文庫)

 若くて可愛い清掃ガールキリコが活躍するミステリーシリーズ連作集。

解説で辻村深月さんが書いているけど、キリコが活躍する多くは深夜の清掃時。そして物語は必ず、明るく気持ちよく終わる。だから、気持ちが落ち込んだときにキリコシリーズを夜中に読むと、必ず元気が回復して次の日気持ちよく活動ができると。大学の時このシリーズに出会って、何回も元気が回復したと辻村さんお気に入りの作品集。

 会社というのは、いろんな違った思いの人たちが集まって活動するところ。

栗山が課長として勤める会社はゲームソフトを開発する会社。そこに3人の新入社員が配属されやってくる。

 そのうちの女性新入社員が入社1週間で有給休暇をくださいと申し出てくる。しかも綿貫主任に聞くと週末を利用してハワイに旅行するからだという。権利は否定できないから許可する。

 その新入社員2人を昼食に誘い、栗山がどうしてこの会社を選んだか聞いてみる。
すると、2人はゲームオタクで、栗山の会社で開発したあるソフトが面白かったからと答える。会社のことなど関係ない。

 危険だと感じた栗山は、開発資料やソフトを手に入れ、社外に持ち出すことは処罰されると言うと、2人はがっかりする。
 しかし、ソフトを販促するためのノベルティは手に入るよというと、2人の目が輝く。

栗山の上司である芝部長が、親会社から出向してくる。
この芝部長は本社で、何回も不正行為者を摘発して、有能な部長として名を馳せているのに何故子会社へ出向になったのか解せない。

 実は、新入社員の2人は、芝部長の紹介で入社していた。掃除人ガールキリコの名推理もあり、実は芝部長の不正者の摘発は、不正をしそうな人を、経理部門にいれ、不正をさせ、そして捕まえることで芝部長の評価が上がっていたことをつきとめる。

 栗山が芝に言う。
「上司というものは、部下をきちんと管理し、教育する義務があります。」

 芝が言う。
「駄目な者はいくら管理教育しても無駄だよ。まあ、君とは考え方の相違だよね。」
いかにも会社ではありそうなこと。少し背中が冷たくなる。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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矢崎存美   「ぶたぶたの休日」(徳間文庫)

 豚のぬいぐるみ、ぶたぶたさんが活躍する人気シリーズ連作集。

小夜子の夫伸也は、東京に単身赴任している。土日には帰ってきて、日曜に早めの夕食をとり、東京へと帰ってゆく。

 そんな伸也が、昼食後東京に帰るとある日言って、帰ってゆく。少しおかしな所作もあり、浮気をしているのではと疑い、伸也が買い物に行っているすきに、いけないとは思ったが、携帯やシステム手帳を調べる。しかし、浮気の証拠は何もなかった。

 それである平日、小夜子は伸也が東京で住んでいる部屋を調べてみようと、東京にでかける。しかし、後ろめたさがまさり、合鍵で部屋をあけることができず、我が家に帰るために最寄りの駅にゆく。そこで、かってに動いている手押し車に遭遇する。びっくりしてよくみると、バレーボールくらいの大きさの豚のぬいぐるみが押しているのが見えた。

 ぶたのぬいぐるみは、駅員用のお弁当を配達に来ていたのだ。

小夜子はその豚のぬいぐるみを尾行。そして、ぬいぐるみのやっている食堂に到着する。

 その食堂では、調理をするぶたのぬいぐるみの他に美人の女将がいた。

でてきた料理があまりにもおいしかったため、次の日も東京にゆき、その食堂へ行った。しかしぶたのぬいぐるみはいない。女将が河原に行ってると言うので、河原にゆくとそこでは野球が行われていた。そして、ぬいぐるみがバッターで、2ストライク後、ボールがバットにあたる。野手がエラーしてセーフと思ったが、なんともぬいぐるみは足が遅く、一塁が遠くにあり、とてもセーフにはならない。

 そして、次の日もパートの仕事を休んで、その食堂にゆく。そして、その食堂で毎日のように伸也が夕食を食べていることを知る。小夜子はこの美人の女将と浮気をしているのではと勘繰る。

 そのことを、帰りの喫茶店でぶたのぬいぐるみ、ぶたぶたさんに愚痴る。ぶたぶたさんはそんなことはないと否定し、来週日曜日、河原で野球大会と豚汁の食事会があるから来ないかと誘う。

 久しぶりに伸也と息子2人、家族全員で日曜日東京に行こうと提案する。子どもたちは喜んだが、伸也はゴルフ接待があるからだめだと言う。これは怪しい女将と会うのだと思う。

 日曜日東京に子供2人とでかけ、伸也の部屋に入るが、女性の匂いなどまったくなく、ぶたの貯金箱がいくつもあるところだけがおかしいと感じるだけだった。

 それで、子供たちと河原に野球見物に行く。ぶたぶたさんはライトを守っていて、そこにボールがとぶ。突然ぬいぐるみが宙に舞い、一回転してボールをお腹で受ける。一瞬びっくりみんながするが、ボールを落とさず、ぶたぶたくんは立ち上がる。

 みんな大拍手を送る。そして小夜子は気つく。拍手をしている観衆のなかに伸也がいることを。
 伸也は、ときどきどうしてもぶたぶたさんの料理を食べたくなり東京に早く帰ることを小夜子は知った。

 矢崎得意のアットホーミングな物語。

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矢崎存美   「キッチンぶたぶた」(光文社文庫)

 ぬいぐるみの豚である、ぶたぶたさんが、キッチン「山崎」という店をだし、コックとして活躍する連作集。

 雪屋映一は最近食事に匂いが無いことに気付く。どうしてだろうかと考える。

 朝は出ているものを食べる。昼は買ってきたものか外食ですませ、夜は家で用意されているし、会社の人間といっしょだったら連れだって食べる。
 よくよく考えてみれば時間がきたから機械的に食べている状態が続いている。
だから、何を食べたのか記憶が全くない。最近はでてきたものを食べているだけ。

 妻に「まるで餌だな」と思わず言ってしまい、怒られる。

サウナ友達に豚のぬいぐるみであるぶたぶたさんがいる。ぶたぶたさんに食べ物の愚痴を言う。するとぶたぶたさんから自分がやっている食堂にきてみないかと誘われる。そこでガンボスープを飲む。これがおいしい。そして、ぶたぶたさんから、自分で料理を作ってみたらと言われ、簡単そうな味噌汁の作り方を教わる。その作り方は全くシンプル。だけど、おいしい。

 ぶたぶたさんは、味噌汁はオールシーズンタイプといい、いつでも同じ味である。
そんなことを聞きながら味噌汁を飲むと、おもわずいつも飲んでる妻の味噌汁を思い出し、妻の味噌汁もおいしいと思った。

 家に帰って、妻は驚いたが、自ら味噌汁を作る。そこで、いつも機械的に食べている妻の料理もおいしいと感じる。

 そして、自分の人生が幸であることは、この妻と結婚したことだとしみじみ感じる。

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アンソロジー 「近藤史恵リクエスト!ペットのアンソロジー」(光文社文庫)

 ミステリー作家の近藤が10人の作家に依頼し、ペットにまつわるミステリー作品を書いてもらう。その作品を収録している。

 汀こるものという知らない作家の爬虫類オタクの描写は中身はわからないが圧巻だった。作家名から類推しても、汀こるもの自身完全に異常な爬虫類オタクのように思えた。

 何しろ主人公が飼っている爬虫類。ヒョウモンドトカゲモドキというヤモリが六匹。ニシアフリカトカゲモドキ3匹、それにフトアゴヒゲトカゲにカメレオン。

 この爬虫類は3LDKの一室で育てられる。そこは365日いつも26度に室温設定でエアコンフル稼働。コンセントはタコ足配線。ヒヨコ電球といわれるミニヒーターが数十本。加湿器も稼働。超音波霧発生装置がある。そこにヤモリの抽斗が2つ。虫の衣装ケースが3つ。フトアゴヒゲトカゲのゲージ、カメレオンのゲージと止まり木、完全に熱帯地方のジャングルになっている。

 この爬虫類にあげる食べ物がすごい。すべて食べる直前まで生きているものでなくてはいけない。しかも、毎回同じ生き物だと爬虫類が食べなくなるので、餌のローテンションを作り、毎回餌をわける。

 その餌。つるつるの芋虫とコオロギ。それにデュピアーアルゼンチンにすむゴキブリ。更にヤモリがとくに好きなのがピンクマウス。これはまだ毛の生えていないネズミである。

 これら生きている動物や昆虫、幼虫を切り刻んで餌にする。
久しぶりに読んでいるだけで気持ち悪くなる小説だった。

 この作品集では、もっともよくできていたのが、作品編輯者の近藤史恵の「シャルロットの憂鬱」。
 シャルロットは元警察犬。犬は厳しい訓練を受け警察犬になる。しかし、訓練を犬は楽しそうに受けていると人間は想像しているが、犬だって訓練など受けたくないという気持ちがある。それがうまくでている作品だった。

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角田光代    「平凡」(新潮文庫)

 あの時、ああしなくて、こうしていたら自分の人生はどうなっていただろう。忘れたはずだと思っていたことが、年齢を重ねたある時ふと思い出し、ずっとどうなったか想像ばかりするようになる。

 人生の岐路といえば大げさになるが、ずっとチクリと残っていることから紡ぎ出された短編6編を収録。

 泰春は冬美と結婚して5年が経過している。多少の摩擦はあるが、平穏な生活を送っていると思っている。ところがある日突然冬美が離婚してほしいと離婚届をさしだす。

 晴天の霹靂。そんな兆候素振りは全くなかったが、もしやと思い探偵事務所で調査したら、浮気の相手がいた。しかも相手の男は家庭持ちだったが先月離婚が成立、それで離婚届が差し出されたのだ。

 荒れた泰春は、バーで酔いつぶれ、マスターの「閉店です」の言葉で未明にバーをでて、タクシーを拾う。中年の女性運転手だった。渋滞にまきこまれたこともあり、運転手が昔の話をする。

 若い免許とりたてのころ、飛び出してきた少年を轢いたことがある。救急車が呼ばれ少年は病院に搬送される。打撲はたくさんあったが、大きなケガは無かった。

 運転手は自分の人生はこれまでと思い観念したが、何と被害者が被害届をださないと警察から言われ、罪にならずに済んだ。救われたと思った。贅沢な人生ではなかったが、平凡な人生をここまでやってこれたと感謝の気持ちがあふれた話だった。

 泰春は仰天する。自分が6歳のとき車にはねられ、病院に運ばれた。意識をとりもどしてしばらくすると女性警官がやってきて、別室で轢いた人を許すか、許さないか聞かれた。

 許さないと答えると何か恐ろしいことがおきるような気がして「許す」と答えた。
その時の事故を起こした運転手に20数年をたって再会したのだ。

 冬美と相手の男が憎かった。絶対離婚なんかするものかと思った。

ある日、自分の部屋に帰ると、冬美の持ち物がなくなっていた。冷蔵庫の上に体温計のようなものが置かれていた。妊娠検査薬だった。

 泰春と冬美の間には子供ができなかった。冬美の体を調べさせたが問題は無かった。
その検査薬は青色になっていた。青は陽性、妊娠したことを示していた。

その時、怒りがすーっと引いた。そして泰春はつぶやく。
 「許す」と。
離婚届に判をおし、冬美のところに送った。そして思う。
 「元気な子を産んで、幸せになれよ」と。

この物語に、母親の結婚にまつわる味わいあるエピソードが挟まれる。角田さんは現在屈指のストーリーテラーである。

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近藤史恵  「モップの魔女は呪文を知ってる」(実業乃日本社文庫)

 お掃除ガールキリコが活躍するミステリー&お仕事小説シリーズ。
主人公の只野は看護学校を卒業して、総合病院の小児科病棟で働く新人看護師。

この小児科に井上雪美という腎臓トラブルで入院している子がいる。通常は4人部屋にはいるところだが、母親の強い要請で個室にいる。母親がつきっきりで付き添う。

 雪美は、腎臓トラブルで、タンパクがでたり、血尿もでていたということだが、まだ検査中で正式な病名は確定していない。
 その結果がでるが、血尿どころかタンパクもでておらず、全く正常という結果がでる。

それを母親に伝えると、母親が怒り狂う。
「誰かの結果と間違えているのではないか。確かに血尿がでていたんですよ。もう一回精密検査をしてくれ。」と。

 何とか担当医師が説得して、雪美は退院する。

しかし、しばらくすると雪美が血尿をだし、倒れたということでまた病院にやってくる。
母親は怒り心頭だ。「あれほど、腎臓病だと言ったのに、ちゃんと検査をしないからこんなことになる」と。

 病院も、本当に腎臓に病気があると、取り返しがつかないことになるということで、腎臓の細胞を採取して検査することにする。そのために雪美は再入院する。

 看護師が検温すると38度の熱があるという報告がある。只野が氷枕をもっていって、おでこに手をあてる。とても38度の熱があるようには思えない。

 あるときは母親が血尿がでたと大騒ぎする。

 ミュンヒハウゼン症候群という神経科の病気がある。病気でもないのに、病気にかかっているふりをして、治療を受けたり入院したりする病気である。医師との関係に依存して、病気を偽って人から保護されなければ、自分の生きる価値は認識できないという人である。

 病院は雪美の母親がミュンヒハウゼン症候群を患っているのではと疑う。
しかし、雪美が38度の熱をだしたり、血尿がでたということは腎臓に欠陥がるかもしれない。そんなことは、雪美の母親がやることができないのだから。

 しかし、病院に協力者がいたら不可能ということもない。ここにお掃除ガールのキリコが挑み見事に真相を暴く。結構面白い。

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