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2019年08月 | ARCHIVE-SELECT | 2019年10月

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矢崎存美  「ぶたぶたの食卓」(光文社文庫)

 おなじみぶたぶたさんシリーズの2作目。ぬいぐるみだけど、生きて生活しているぶたぶたさん。

 美澄は家で技術翻訳をしている。それで、だんだん話しができる人が少なくなり、最近は唯一の話相手である夫とも会話がなくなってきている。孤独感ばかりが人生を覆い、もう誰とも会話ができなくなってしまったと思い込む。そして、夜眠れなくなり、たまに眠っても起きると心臓がうなり、たくさんの汗をかいている状態に陥る。

 それで、近くの心療内科に這うようにしてでかける。診断はうつ病。抗うつ剤と睡眠薬を処方される。

 病院からの帰り道、佐々木さんという同じ患者に誘われ喫茶店ヴァンにゆく。そこでおいしいクレープを食べる。その美味しいクレープを造っているのがぬいぐるみのぶたぶたさん。

 ヴァンに癒され、早く元にもどろうとゆっくり静養したのが良かったのか、気分も回復、元に戻ったと思い、また仕事を始める。しかし、その直後また、以前のうつ状態に陥る。

 そして、病院に行く前にまたヴァンに寄る。もう元の自分には戻れないと泣きながらぶたぶたさんに言う。
「元へ戻ることはできないんです。元に戻ったと思っていても、わずかかもしれないが、人間は変わっているのです。自分は変わっているんだと認識することが大切です。」と。

 なるほど、そうなのかと思った。

このぶたぶたシリーズで、全く何年たっても変わらないのがぬいぐるみのぶたぶたさん。

 多くの人たちが、ぬいぐるみを集めている。そして、どのぬいぐるみもチャーミングで可愛らしいと感じる。
 人々は変わってゆく。だから、いつまでたっても変わらないものに愛しさを感じ、心安らぐ「癒し」を感じるのだ。

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| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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朝倉かすみ 『肝、焼ける』

爺やの感想はこちら
絲山秋子さんと較べています。(デビューはほぼ同時期で、朝倉さんの方が6コ上)
あと、OLの話を書く人と言われて浮かぶのは、津村記久子さんですかね。
どっちも芥川賞作家です。
著者は、山本周五郎賞を取ったそうで、純文学よりエンタメなのかと思ったら、
受賞作について「今回はエンタメに寄せてみた」とインタビューで語っていた。

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日曜日、10年応募し続けてやっと「のど自慢」に出たという人が不合格になる瞬間を観ました。
「良い小説を書く作家は、デビュー作からして断固として良い。
新人の大半は『何も無理して小説なんて書かなくても』という気分にさせるが、
朝倉かすみは私に『すわっ』と言わせた」
とあとがきで絶賛されている。
「処女作でデビューして映画化」「初応募でいきなり最終選考」より、
苦節十何年みたいな話の方が喜ばれる気はする。
が、才能ってのは残酷。

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それだけじゃあんまりなので、
「デビュー前の人生経験が活きてこそ、いいものが書けるのだ」
と言っておきましょう。
(殺人しなきゃミステリーが書けないのか? がベタな反論)
実際、描写が細かいです。
下着で姿見の前に立つ40代女性、タイルが割れた温泉の洗い場、頭皮をぼりぼり掻くお局。
畳や、錆びや、皮脂のにおいが漂ってきて、時計の秒針や洗面器の反響が聞こえそうなほど。
見合いを断られる理由が、
「茶の間でパンツ一丁で放屁したら『なにするんですかっ』とくってかかられそう」
というのも、いいさじ加減。
若い作家だったら、笑いを取るため、主人公をイタくするため、もっと盛りそう。

とまぁ、この1冊については悪いところなしだったんですが。
「玩具の言い分」は微妙な感想書いたことを、検索して知りましたw
そんなものです。

| 日記 | 22:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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矢崎存美    「ぶたぶたさん」(光文社文庫)

 ぶたぶたシリーズ、文庫用書下ろし作品。
ぶたぶたさんはぶたのぬいぐるみ。大きさはバレーボールのボールくらいの大きさ。ぶたぶたさんはぬいぐるみなのだが、喋ることも動くこともできる。

 この作品集の最後から2番目「途中下車」は読んでいると、胸の奥がチクリと痛い。

主人公の聡史が隣の席の女の子惣谷に言われる。
 「自分のことは二の次にできないの!」と。
聡史はこの言葉の意味がわからず、返答ができない。あとで辞書でしらべると、二番目、後回しにするということがわかり、また惣谷に怒りを覚える。

 この言葉を言われた場面を回想する。
皆で、今度産休にはいる国語の先生について話をしている。人気のある先生だったので、出産祝いを贈ろうということになる。そこで惣谷が聡史に「なにがいい?」と聞く。
 聡史は祝い品をあげたい気持ちは正直にあるのだが、何がいいかもわからないし、素直になれなくて
 「何をあげたって自己満足にならない?先生の気持ちなんてわからないし」
 「じゃあ、お金だけでもだして、100円でもいいし」
 「やだよ、金ないし。」
 「じゃあ、買い物だけにはつきあってくれない?」
 「何言ってるの。俺にも都合があるし。」

 この後に物語の最初にでてくる惣谷の言葉がでてくる。
「せっかくのお祝いなのに・・自分の都合を二の次にするっという発想はないの?」

後で聡史が噂を耳にすると、みんなで選んだ贈り物を先生に渡すと先生は大変喜んでくれたと。

 卑屈になるよなあ聡史。こういうこと小さいことなのだが、結構人生長い間チクリと残るんだよね。

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| 古本読書日記 | 05:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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矢崎存美    「ぶたぶた」(徳間文庫)

 シリーズものが殆どの作家矢崎の、その原点ともいえる「ぶたぶた」シリーズの一作目。「ぶたぶた」シリーズは31巻にもなり、漫画化もされている。

 街の中をピンク色をしたぶたのぬいぐるみが歩き、お喋りをして、食事をしている。大きさはバレーボールのボールくらい。名前は山崎ぶたぶた。そのぶたぶたが活躍する連作集。

 主人公の三倉は、毎晩、大酒を飲まずにはいられない。今朝目を覚ます。強烈に頭が痛く、吐き気もするし、体が重くだるい。

 それでも会社には行かねばならない。重い体を引きずって、会社に向かう。こんな状態の時には、ムシャクシャして誰彼構わず人を殺したくなる。

 プラットフォームで電車を待つ。前に並んでいる女性の髪の毛が風になびく。それが、三倉の顔をなでる。強烈な香水の匂い。吐き気が襲う。彼女は気味悪そうに三倉をにらむ。

 そんなことが数回続く。すると三倉は自然と彼女を殺してやろう思い、彼女を後ろから押し線路に突き落とそうとする。しかし、たまたま電車がきて、前のめりになった彼女は電車に乗る。

 三倉はぞっとする。確かに三倉は人殺しをしようとしたのだ。
その日の夜も三倉は酒をしこたま飲み、ふらふらになって家に帰る。その途中で電信柱に奇妙な張り紙をみつける。
 「殺したいほど憎んでいる人がいる方、お電話ください。 殺られや 山崎」

 三倉はこの張り紙の山崎に電話をして、次の日の昼喫茶店であう。
そこにいたのが、ぶたのぬいぐるみ、山崎ぶたぶた。

 「殺られ屋」ぶたぶたは、三倉が人を殺そうとしてときに、相手に変わって自分が殺されるという。殺されても、自分はぬいぐるみだから生き返れると。

 それから、三倉をぶたぶたが尾行する。渋谷の交差点で、向こうから来る男と肩がふれあう。男が三倉をどやしつける。その時かっとなって三倉は相手をナイフで刺そうとする。ぶたぶたが間に入ろうと飛び込んでくる。つっこんできたトラックにぶたぶたは惹かれ死んだようになってしまう。三倉は泣きながらぶたぶたを抱き上げる。喫茶店に連れてゆくと、ぶたぶたはよみがえり、バックから裁縫箱を取り出し、裂けた部分を縫い合わせたり、綿を注入して、元のぬいぐるみを再生させる。

 それから20年、三倉は酒を断ち、会社でも地位があがり順調な暮らしを続けていた。しかし息子が引きこもりとなり、会話をしようとすると、家族に暴力をふるい弱り切っていた。

 そこで三倉はぶたぶたに連絡をとり、息子が、三倉を殺そうとした時に、三倉の身代わりになって殺されて欲しいと依頼する。

 ぶたぶたが言う。
「息子さんはあなたを殺したいと思っているかわからない。自分が殺そうと思っていることを、相手におしつけてはいけない。20年前、あなたが最悪な時に、最高の幸を味わうことができた。そんなことは人生に許されるのは1回だけ。殺られ屋は、依頼を受けるのは1回だけ」と。
 なかなか味わいふかいラストだ。

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矢崎存美  「食堂つばめ3 駄菓子屋の味」(ハルキ文庫)

 食堂つばめシリーズ3作目。
食堂つばめは一旦死んでしまった人間が、本当に死んでしまうのか、生き返るのかが決まる生と死の境目にある街にある。

 生き返るための条件は、まず死んだ人が生き返りたいという気持ちになること、そしてつばめ食堂でノエが作るおいしい料理や、死んだ人が生きている間に味わったおいしい思い出の料理を食し感動して生きていた世界に帰りたいと思いを強くすること。

 私のような平凡な一般の人は、死ぬことはいやだし、死んでも生き返られるのなら、生き返りたいと思うことしか考えられないのだが、死にはいろんな原因があり、生き返りたい人ばかりでは無いことがこの作品でわかる。

 この作品の主人公津久井英吾は殺害され死んだ。食堂つばめでは大量の食事を摂る。だから生き返りたい欲求は極めて強い。

 だけど生き返ったら、また殺害者に殺されるかもしれない。しかも殺害者は幼いころからの友人。何の恨みを抱いているのかよくわからない。まかりまちがえば、今度は自分が彼を殺すかもしれない。だから、なかなか生き返る決断ができない。
 なかなかユニークな発想だと思った。

しかし、おかしな点や納得できない点が別の作品で残った。

 友人の幼馴染の京一は、歩道橋のてっぺんから英吾を突き落とし殺す。そこから逃げたが、不安になりもう一度戻る。血だらけだった英吾の死体が消えている。これはおかしい。普通血だらけになっているが、臨死状態で死体はそのまま放置されているはず。死体が消失して、臨死世界に行くことは考えられない。

 それから、殺害の原因は、京一の英吾への嫉妬。英吾は、何でも京一より優れ、美しい妻と子供がいる幸な家庭を築いている。京一はそれに対抗してブランドの高級腕時計や、高級服を身に着けるが全く英吾は褒めてもくれないし、関心もしめさない。これに怒りを感じ殺害をする。

 安直すぎる動機。これで殺害をすることは殆どありえず納得感がでない。
生き返りたくないという発想がユニークなだけに、この雑駁な背景があまりにも残念。

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| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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はなとゆめ+1

しばらく前から、階段の上り下りもしなくなっていた茶々丸ですが、
8月25日~26日に亡くなりました。
何故幅があるかと言うと、人間たちが朝起きたら死んでいた。

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5年くらい前の写真

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温厚でした

このブログが「http://hanayume5」なのは、開設したとき猫が5匹だったから。
最盛期(?)には6匹いました。
それがあなた、残るはももちゃん(17歳)だけになりましたよ。
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「寂しがっているかねぇ」「態度はでかくなった気がするね」
というのが、人間の勝手な推測。

ちなみに、ちこりの死に際しにおいを気にした私と、金額を気にした爺や。
今回は、
私「(棺桶にする)段ボールが無い。スーパーでもらってこようか」
ママ「この前より火葬代が値上げしていた。犬は重量で金額が変わるし、痩せなきゃ」
てな感じ。

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ぱんぱん(腹のハゲは治療中)

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むちむち

| 日記 | 21:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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認知症がやってきた!

こいつのことじゃないですよ。
今年の記念日を過ぎたあたりから夜鳴きがひどく、夜は隔離していますが。

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おひとり様女性が認知症の母親の介護について綴ったエッセイです。
(弟がいると前半でちらっと触れていますが、全然出てこないw)
帯に書いてある通り、コメディタッチです。
ママリンの言動に、極道の妻モード、天使ちゃんモード、等名前を付ける。
「自分だって産まれてから10年くらいは、親に全部面倒見てもらった。
対価として、介護も10年頑張ろう。その後は全財産つぎ込んででも施設へ」
という感じで期限を定めたら、気持ちが楽になったとのこと。

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そこはいやらしい性格なので、
「フリーで、自宅と職場が同じ建物だからできることだよな。
一晩徘徊に付き合った後、勤め人なら仮眠とる時間もないよなぁ」
なんて読みながら考える。
人柄がいいんでしょうね。迷惑かけられても、許してもらえるわけだから。

同僚「『申し訳ない』と謝ってばかりのおばあちゃんだったら、介護しづらいよね」
私「『私をこんなところに閉じ込めて!』『お前は泥棒だ』も嫌じゃないですか?」
同僚「ん~。私だったら、喧嘩しちゃうね。『あんたのためにやってんの』って」
実際、どうでしょうね。
喧嘩しても不毛だし、著者のようにメンタルやられそう。
謝られ泣かれてばかりだったら、それはそれでやりづらそう。
認知症は性格を変えるので、親がどっちのタイプになるかはわからないですが。

| 日記 | 21:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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近藤史恵  「天使はモップを持って」(実業乃日本社文庫)

 NHKでもテレビドラマ化された、おしゃれでキュート、お掃除大好きな女の子キリコが活躍する人気のお掃除ギャルシリーズの第一作目。

 梶本大介は大学出の一年目の新人社員でオペレータールームに配属される。今はパソコン時代にはいり、そんな課はないが、その昔は、会社の伝票はオペレータールームに持ち込まれ、そこでコンピューターに打ち込んで処理されていた。

 オペレータールームは大介の他に5人。課長、ベテランの女性社員、大介と同じくらいの年齢の女性社員と派遣社員2人。

 この会社ビルに掃除人夫として派遣会社からキリコが来ていた。キリコは派手な服装。ミニスカートで、耳にたくさんのピアス、更に服からでている臍にもピアスをつけている。とてもお掃除ガールとは思えないみてくれ。しかも年齢は17,8歳。

 しかし、お掃除のプロで塵、しみ一つも残すことなく毎日オフィスをピカピカに磨き上げる。

 ゴミの中には、時に事件の真相を表しているものが含まれる。或いは、いつも捨てられていたゴミがある日から捨てられなくなる。ゴミ箱はいろんな真実を知ることができる宝庫である。

 作品は、新人で少し浮き気味である大介を掃除人キリコが使いまわし、会社で起こる事件を主にゴミからキリコが推理し真相を解き明かす軽いミステリー。

 しかし最後に収録されている作品「史上最悪のヒーロー」が異色。

 大介は入社3年たっていて、営業に異動している。誰かは明かされないが、身近な女性と結婚している。しかし、毎晩家に帰っても妻は、夕飯は作ってあるが、でかけていていない。ある日には「実家に帰ります」と書置きが机の上に置かれている。

 妻と結婚してから、母が病気で亡くなる。実は祖母が健在なのだが、体が不自由で介護をしてもらわないと生活できなくなっていて、この介護を母がやっていた。

 申し訳ない気持ちがいっぱいではあるが、祖母の介護のすべてが新婚の妻にのしかかってしまっている。祖母は古いタイプの人間で、家のものが介護をすることは当たり前と考えている。
 この状態が続けば離婚を言い渡されるのではと恐怖を抱いている。

 ある日課長に同行してお客を訪ねる。そのビルで、おへそにピアスをしているお掃除ガールキリコにであう。その時は話ができなかったが、翌日大介は同じお客を訪ね、キリコに謝り、家に帰ってきてほしいとお願いする。ここで、大介の新妻がキリコだったことがわかる。

 キリコはお祖母さんに言う。「お祖母さんの介護は責任もってする。しかしたとえ数時間でも構わないからお掃除の仕事をさせてくれ」と。お祖母さんも同意してキリコに感謝する。

 重い問題なのに、最後は安直。そんなに現実は甘くないよと思わず一人で突っ込む。

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北方謙三   「されど時は過ぎゆくブラディ・ドール18」(ハルキ文庫)

 ハードボイルド小説の大御所北方の作品。ハードボイルド小説、もちろん息を飲むような男同士の対決が売り物ではあるが、やはり、気障で、斜に構えた会話、バーで飲む高級ウィスキー、カクテル、それと、最高の食事、その食事のために準備される素材と素材を生かすための考えられない調理方法。ハードボイルドの主人公は、一般庶民と異なり超一流の生活行動スタイルをするのだという雰囲気が全編を通じて描かれる。

 この物語では、一流会社の研究者の道を捨てて、田舎でオーベルジュを始めた山名。魚の燻製にこだわる。

 最初に樫のチップで2時間燻す。その後椎で1時間、そして桜で1時間、そしてなんと最後に黒檀で1時間。材木を分けて燻すことのこだわりもびっくりするが、黒檀は希少で高価、ありえない。こんなところをさらっとだすのが北方流ハードボイルドなのだろう。

 主人公の久納のところに、戦友だった野本太一の息子野本精一から大きな借金を抱え苦しんでいると電話がある。久納は精一の抱えている借金をすべて肩代わりしてあげる。更に川中という男が精一を殺そうとしていると言われ、どうしてそうなっているかは問わず、戦友の息子というだけで、精一を守ってあげようと決意して、部下の若月を精一のガードにつける。

 物語の最後に川中の姪っ子である安見が言う。
「川中のおじさまを突き動かしているのは、自分でもどうしようもない怒りだと思います。
野本を殺そうと思うほど、川中のおじさまは怒りに忠実なんです。」

 しかし、物語では、野本精一が川中になぜ殺してやりたいほどの怒りを抱かせてしまったのか、まったく明らかにされていない。

 川中と久納、互いに闘う敵同士なのかと思うと、食事をしたりバーで飲み明かしたり、最後は逃げる野本精一を一緒に追いかける。2人の対立の背景が不明なので、どうにも読んでいて拍子抜けになる。

 とにかく、過去や背景などなく、今進行している、登場人物のきざなストイックな会話、行動を描写するのがハードボイルド小説?

 登場人物の優雅な生活だけが鼻につくばかりの小説だ。

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矢崎存美   「食堂つばめ2 明日へのピクニック」(ハルキ文庫)

 花穂は目覚めた。病院のベッドの上だ。だけどいつも周りにある、色んな機械も器具もないし、病院の匂いもしない。ただ、真っ白なベッドがあるだけだ。花穂は起きて、病院の玄関に向かう。誰もいない。ドアを開け外にでる。

 目の前には草原と森が広がっている。少し歩いただけで息が切れてうずくまってしまうのに、今日はいくら飛び跳ねても走ってもまったく疲れないし、足も痛くならない。

 そこに可愛らしいお姉さんが突然現れた。お姉さんは名前をキクと言った。年を聞くと100歳という。とてもそんなお祖母さんとは思えない。お姉さんは、100歳だけど18歳になっているのとわけのわからないことを言う。

 お姉さんと思い切り遊ぶ。シロツメクサやアカツメクサで首飾りや腕輪を作る。キクが自転車のりを教えてくれる。すぐに自転車にものれるようになる。もうどこへでも行ける気分だ。

 疲れてベンチで横になり眠ってしまう。目が覚める。するともう一人の可愛らしいお姉さんが袋を持っていた。ノエさんと言った。彼女は、袋からたくさんの弁当のおかずを取り出した。更にたくさんのおにぎり。

 お腹は減っていなかったが、花穂は不思議なことだがおいしくていくでも食べられた。しかし、全然お腹いっぱいにならない。
 デザートは何が欲しいときかれたので「おせんべい」というと、マンホールの蓋のような大きなおせんべいをノエさんが袋から取り出してくれた。

 花穂は木登りがしたかった。でも、そんな木は無い。だめなら、空を飛びたいなあと思ったら、突然花穂は空へ舞い上がった。そして、大喜びで空を自由に舞った。

 花穂は思い出した。自転車のり、いつか父さんが教えてくれると言ったことを・・・。
パパにあいたいなあ。「パパ」と叫んだ。

 突然目が開いた。目の前にお母さんがいた。「意識がもどった」と看護師さんや先生がかけつけてきた。

 花穂の手術は成功したのだ。
花穂は意識の無い間、生でも死でもない街に行っていたのだ。ノエやキクはその街にやってきた人を、死に行かせないで、また生きていた世界に返すことを使命としていた。それには条件があった。ノエの作った料理を食べさせ、その美味しさに感動してもらい、また生きている世界に街に帰りたいと人が望めば、生きている世界に帰れるのだ。

 これに失敗すれば、そのまま死の世界に行ってしまう。

 生と死の分かれ目、それが「食堂つばめ」。

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米倉万里   「オリガ・モリソヴナの反語法」(集英社文庫)

 主人公志摩(作者米原万里)は1959年から64年まで、父の仕事の都合で家族でチェコのプラハで暮らし、プラハのソビエト学校で学ぶ。

 ソビエト学校には異色で型破りの先生が2人いた。
一人は舞踊教師である、オリガ・モリソヴナ。踊りがものすごく上手い。デフォルメされた生徒への誉め言葉のときは、実は痛烈に貶めている独特な言葉使い。これが作品のタイトルである反語法という表現になっている。

 もう一人がエレオノーラ・ミハイロヴナ。フランス語教師。1920年代の長いドレスを身に着けている。少し痴ほう症が進行しつつある。志摩をみるといつも「中国の人?」と聞いてくる。

 2年目のクラス替えで、後ろに座って志摩の大の友達になったカーチャ。
それから、美少女で踊り子の天才ジーナ。ソ連にゆきそのまま行方不明になる。
そして志摩の一年先輩で、志摩が恋こがれる美少年レオニード。

 志摩もダンサーを目指したくらいだから、オリガもエレオノーラも好きだったが、それでも教師の範疇から完全に逸脱していた2人の先生が、ソビエトのコントロール下にあったソビエト学校でよくも教師を続けられたことがずっと志摩は不思議に思っていた。

 あれから32年後、ゴルバチョフのペレストロイカが進み、過去の文書がかなり公開されるようになった。

 その時、志摩はロシア外務省資料館である文書に遭遇する。ソ連外務省から、2人の先生の契約をきるように通達がきていたのだが、学校からそれに抵抗する返書がソ連に対し、志摩の両親の署名を含め、多くの父兄の署名とともに提出されていたことを知る。

 ここからあの2人の教師はどんな経歴を持った人たちなのか、それと、32年間音信不通になっていたカーチャ、天才ダンサー ジーナ、それから初恋の人レオニードはどんな人生を歩んできたのか、志摩の真相追求の旅がはじまる。

 経歴の他に不思議なことがエレオノーラの志摩にたいして「中国人?」と聞く以外にいくつかあった。

 ジーナがオリガに対しても、エレオノーラに対しても「ママ」と呼ぶこと。

それから、2人の教師がアルジェリア」と聞くと顔色を変えること。しかし、2人はアルジェリアで暮らした形跡は無い。
 これらの謎を32年ぶりに会ったカーチャと一緒に追求する。

そして、オリガもエレオノーラがスターリンの粛清時代に捕縛され、シベリアの収容所ラーゲリで悲痛な地獄生活を経験していたことを知る。この収容所のことが、略称、ロシア語でアルジェリアと言われていた。

 オリガもエレオノーラも実在の人。「あなた中国人?」と聞くエレオノーラの夫が毛沢東に粛清された劉少奇だとにおわせている部分は興味深い。

 ラーゲリはーマイナス30度を超す世界。そこで暖房もなく、黒パンひとつとスープだけが一日に与えられる食べ物。そして強制労働。病気、餓死、狂って死ぬ人が続出する。

 そんな過酷な収容所生活を生き抜けたのは、夜労働が終わると、収容されていた歌手の美しい歌声。それと、「罪と罰」「戦争と平和」などのロシア文学の朗読。朗読と言っても、収容所に本があるわけではない。作品を一言一句暗記している文学者、小説家がいたのだ。
 彼らが毎晩一人芝居のように物語を朗詠する。それに励まされ、収容所の多くの人々は生き延びた。

 文学と音楽の力は偉大だ。

こう書くと、暗く重たい作品のように思われるが、32年ぶりの志摩とカーチャが、ソビエト学校時代の思い出を多くはさみながら物語が進行するので楽しく、面白かった。

 とにかくスケールの大きな作品。これが米原の唯一の小説。こんな見事な小説を書ける作家が早逝したことが残念でたまらない。

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小林雄次  「キセキーあの日のソビトー」(朝日文庫)

 全くお恥ずかしい話なのだが、老年の域にはいってきた私、現在巷ではやっている曲やアーチストを殆ど知らない。

 この作品は2007年1月、シングル「道」でデビューし、現在でも人気バンドとして活躍しているGreeeeNを、その誕生から「キセキ」の大ヒットまでの軌跡を描いた物語である。

 「キセキ」は、オリコン一位獲得は当然なのだが、ダウンロード回数が日本で最高となり、ギネス認定までされている。また、タイトルにあるソビトは空人、素人のことで、自由で新しいことに挑戦してゆく人のことをいう。キセキが片仮名になっているのは「奇跡」と「軌跡」の2つのテーマを曲がうたいあげているから。

 父親が医師の家庭に生まれ育ったジンとヒデの兄弟。当然父親から医師を継ぐように命令されるのだが、兄ジンは高校の時、ドロップアウトして仲間でバンドを結成。ライブで演奏しちょっとした人気者になる。父親は怒り、勘当してしまう。ある音楽プロデューサーの目に留まり、メジャーデビューをするが、全く売れず、人気も落ち、2曲目を発売する前に、解散。ジンはバンド仲間のトシの父がしている自動車修理工場で働キ、底辺のような暮らしをするようになる。

 弟ヒデは、ジン以上に音楽や演奏が好きだったが、親には逆らえず、医学の道をすすもうとする。しかし2度の受験に失敗。諦めて歯学部に進む。そして、入学した大学で、予備校友達で同じ大学に入ったナビそれに、同じ大学のクニ、ソウを加えてバンドを結成。

 最初ヒデがメンバーと一緒に「道」という曲を作るがアレンジができないため兄ジンのところに持ち込みアレンジをお願いする。そのデモテープをヒデをデビューさせてくれた音楽プロデューサーに持ち込み、レコーディングとなり4人はデビューを果たす。

 しかし、それが父親にばれると、勘当されるおそれがある。それで、4人は学業は続け歯医者に全員なる。そのために、自分たちは存在を一切表にださないということで一致。それは今でも継続され、4人とも歯医者を続けながら音楽活動をしている。

 バンド名GreeeeN。eはメンバー4人を表している。そして、並んだ真っ白い健康の歯を表している。

 バンドファンの人たちはみんな知っていることなんだろうが、名前も明かさず、ライブもしない売れっ子バンドが存在しているのは新鮮だった。
 過去2回テレビ番組に出演したそうだが、着ぐるみを着ての出演だったとのこと。

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原田マハ    「リーチ先生」(集英社文庫)

 日本で陶芸を芸術作品の世界に押し上げたことで、有名な、自身も陶芸家、画家として名をなしたバーナード・リーチを描いた作品。

 リーチは明治20年に香港に生まれるが、出産直後に母が死亡。それで、日本にいる祖母に預けられ、幼少時代は日本で暮らしている。その後、父の再婚に伴いロンドンに住む。

 ロンドン美術学校でエッチングを学んでいるとき、留学中の高村光太郎と出会い、光太郎が父親光雲を紹介し、日本にゆくことを決意。光雲のもとを訪ねる。そこで、岸田劉生や富本健吉。柳宗悦、武者小路実篤、志賀直哉など「白樺派」の人々と出会い彼らとともに交流を深めることで、陶芸家としての道を歩み始める。

 最初はエッチングを受講生を募り教えていたが、「白樺派」の仲間が千葉の我孫子に移るのに合わせてリーチも我孫子に移り、そこで窯を造り、本格的に陶磁器制作にのりだす。

 その後、イギリスの西の端の小さなセントア・アイヴスに移り、日本独特の登り窯を開き20人の職人を使い陶磁器制作を行う。

 途中我孫子窯が火事で焼け落ちるという、リーチの生涯の中ではドラマチックな場面はあるが、全体的には心を震わさせる場面もなく、平板な人生が淡々と描かれる。

 しかし、その平板な人生にリーチの弟子になり、リーチを懸命に支える沖亀之介という架空の人物を原田さんが創り上げ、この亀之介を縦横無尽に活躍させ、物語を盛り上げている。

 作品の最初にリーチが戦争直後に日本の陶芸現場を訪問するのだが、そこで大分県の小鹿田を訪問したときに案内したのが沖高市。そこでリーチが「君のお父さんは沖亀之介だね。」と言って、その直後にいきなり明治になり、沖亀之介が登場。この原田さんの手際がすばらしい。そして、もちろん最後はまた沖高市の世界にもどる。

 亀之介の揺れる心、人生が、平凡にみえるリーチの人生を搖動させる。その共鳴がうまくできていて、原田さんの作家力には脱帽する。

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アンソロジー   「泣ける名作短編集」(彩図社)

 10人の文豪たちよりすぐりの名短編を収録した作品集。教科書にも載っている作品ばかりで、殆どすべての作品は既読。改めて気を引き締めて再読。

 弟殺しの下手人喜助、島流しのため、高瀬舟に乗せられ大阪まで下る。護送人の役人は庄兵衛。弟を殺したのに、喜助が澄み切ったすがすがしい態度をくずさない。役人と下手人。役人は当然威厳を持ち、厳しく接せねばならない。しかし、毅然とした喜助の態度。どうしてこのような堂々としているのか知りたい。そのとき思わず庄兵衛が「喜助さん」と声をかける。下手人を「さん」と呼ぶ。いつ読んでもこの反転がその後の物語に効果抜群でドキっとする。

 久生十蘭の「葡萄蔓の束」にでてくるおしゃべりのベルナアル。神様へのお祈りのときもしゃべる。もう喋る相手は、人間だけでなく、動物や草花や、星や虹に向かってもいつもしゃべっている。このため、教会に何年いても修道士になれず、労働士のまま罰ばかり受けている。

 そして、最後。丘の葡萄畑でやけくそになって出鱈目な歌を大声をあげて歌う。その歌がぐっとくる。

 そら豆が芽をだした
 ひりたての馬糞のなかで、
 春が来た、春がきた、馬糞の中へも 
 神は讃えむべきかな!

芥川龍之介の「蜜柑」。機関車に乗り合わせた、貧弱な女の子が、汽車の窓から見送りに来て、手をふる3人の男の子たちに、風呂敷から蜜柑を取り出し、投げてあげる。その瞬間に女の子への主人公への思いが、冷たさから暖かさに変転。この変転も見事。

 そして、私が太宰の作品の中で最も好きな「眉山」。

主人公とその作家仲間がよく集う食堂「若松屋」。作家の話が大好きで、いつもお給仕を担当するトシちゃん。主人公たちは、今日きているのは林芙美子などと嘘を教える。しかしトシちゃんは感激して、ますます作家仲間の客に熱をあげる。

 トシちゃん。作家たちの宴が行われている二階に、いつも階段をドタン、ドタンと昇り、ダダダダダと大きな音をたてて下り、一階の客からクレームがつく。それから、作家たちから貴婦人は便器にすわらないで小便をすると言われ、それを実行。トイレを小便だらけにする。

 いくらなんでも、座らないで小便をするなんて信じるわけがない。
その真相が最後に明かされる。ここでトシちゃんのみんなの思いが変転する。しかし、その時にはすでにトシちゃんは亡くなっている。この種明かしも絶妙でぐっとくる。

 タイトルの「眉山」は、」明治に尾崎紅葉や山田美妙とともに活躍した作家川上眉山のことを言っている。

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| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有栖川有栖    「狩人の悪夢」(角川文庫)

 母恋信也という変わった苗字を持つ男がいた。暴力をしょっちゅう振るう父親、その父親、信也が中学生の時に刃物をかざして母親に襲い掛かる。咄嗟に信也が間にはいり、夢中で刃物を奪い返し、父親を殺害してしまう。

 信也は家裁で正当防衛の判決をもらい、罪をかぶることがなかったし、少年法により実名報道は回避された。しかし、ネットで画像付きで実名が暴露され、そこから社会から疎外され辛い生活が強いられる。ただ、父親の籍を離れ、母親の籍にもどり、苗字が渡瀬となったことだけが暮らしを幾分楽にした。

 純文学のエリアで細々と小説を発表、無名で売れなかった作家白布施正都が突然ホラー小説「ナイトメア・ライジング」を出版。これが大ベストセラーになり、海外で翻訳されたり、映画化も進行、京都北洛に豪邸を持つまでに至る。

 この白布施の書生、手伝いとして、渡瀬が勤めている。

 渡瀬の暮らす、白布施の邸宅の部屋は、「悪夢の部屋」といわれ、渡瀬は夜。必ず恐怖の夢をみる。その夢を渡瀬が白布施にしゃべり、白布施はそれに触発され作品を書いていることを、この作品の主人公有栖川有栖に白布施はしゃべる。

 そして有栖川と白布施の編集担当者江沢を邸宅に招待する。

 この邸宅で、白布施は「もうホラーは書かない。純文学にもどる」と宣言する。

 それもそのはず、実は渡瀬は二年前急性心不全で亡くなっている。
そこに、渡瀬の恋人で、別れたが今でも思慕している女性が、渡瀬の書いた「ナイトメア・ライジング」のデータを持って白布施の前に現れる。
 白布施は渡瀬の悪夢にインスパイアされて作品を作り上げたのではなく、渡瀬の作品をそのまま書いて出版していたのである。

 ここから、白布施の殺害が始まる。それを心理犯罪学者である名探偵火村と作家有栖川が解明するいつものパターンでストーリーが展開する。

 物語のモチーフはありきたりだが、トリックは複雑でミステリーファンにはたまらない。
特に被害者二人の血染めトリックの発想には感動した。

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| 古本読書日記 | 06:35 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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朝井リョウ   「ままならないから私とあなた」(文春文庫)

 雪子は中学生のとき、学校を休んだ薫のところへ連絡ノートを持ってゆくことがきっかけで薫と一番の友達となる。その時、一緒についていってくれた憧れの渡辺君とも恋人となる。

 雪子は音楽が好きで、高校も大学も音楽関係に進み、できれば一流の音楽家になりたいと考えている。

 一方薫は、理数科が得意。役に立つとか合理的なこと以外は受け付けない。だから体育の授業は殆ど見学で終わる。例えば、雪子が学校の図書館で受験勉強をすれば、受験の過去問題も全部そろっているから約にたつとすすめると、そんなのは無駄。IPADを使えば全部ダウンロードできるじゃんと拒否する。

 人気グループのライブにでかけ2人とも感動する。雪子はボーカルのルックス、歌声、パフォーマンスに感動。しかし薫は3D大画面や音響を含めた演出とそのシステムに感動する。

 薫は雪子が大好き。だから雪子が素晴らしい曲を造ったり演奏が実現できるよう応援したいと考えている。

 薫は「全国学生発明家コンテスト」で「おうちでピアニスト」でグランプリを受賞する。

 自動演奏ピアノというのがあるが、これは鍵盤を押す強弱を電子化し演奏を再生するもの。しかし「おうちでピアニスト」はそれぞれのピアニストのくせや手法をピアニストの指や手に電極を張り付けそこに伝送して再現する。これを使うと、どんなピアニストでも超一流ピアニストの演奏が可能になる。

 例えば、笑っている人の筋肉の動きをデータとして、別の人の埋め込んだ電極に伝送すると全く同じ笑いを再現できる。こんなことが可能になると、大俳優の演技も再現できる。だんだん人間の持つ個性というものが無くなる。

 一流シェフが作る料理も、そのパフォーマンスを記憶させ電極で再現すれば、素晴らしい料理が再現できる。

 雪子が「全国作曲コンクール」に挑戦。応募ギリギリまで苦しみやっと出来上がった作品で応募しようとする。そこに薫が表われて、過去の雪子の作品をデータ化して、そこから生まれる最高の作品を作りもってくる。

 雪子は言う。
「美しいとか単に楽しいと一見意味のないようなことが意味あるすべてのことを飛び越える一瞬があるんだよ。ピアノも曲作りも上手くいかないから、ここまで頑張れたし、上手くできないから出会えたたくさんの人がいる。才能はないかもしれないが、それがないからと何でもプログラミングに頼り、無駄や努力をはぶいちゃおうというのは嫌いだ。」

 確かに、雪子の言うことには共感を覚える。

 しかし、薫の姿勢も本当に大切だ。薫の挑戦が、全く現在とは想像ができない世界を作り出す。それは一般人には抵抗される世界かもしれないが、徐々に人々に受け入れられ、普通のこととなる。そして、全く新しい個性のありかた、生活の変革された基盤が作られる。

 どこまでいっても形は変わろうが、人間の個性が発揮される世界は人間がいる限り消えることは無い。

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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