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2019年02月 | ARCHIVE-SELECT | 2019年04月

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久能靖    「浅間山荘事件の真実」(河出文庫)

 東大安田講堂闘争で敗れた過激派革命左派集団は、その後勢力はどんどん縮小し追い込まれ小さな集団に分裂。その過程で、キューバ革命のリーダー チェ・ゲバラを師と仰ぐ世界同時革命を唱える集団赤軍派と中国毛沢東理論を信奉する集団京浜安保共闘が合体して連合赤軍が誕生した。

 彼らは、革命の基地として群馬県榛名山中にアジトを築き、闘いの準備をしていた。そのアジトを群馬県警が察知して、山狩りを開始。発見を恐れた連合赤軍は、アジトを撤収、逃走を図る。この逃走の過程で、連合赤軍トップの永田洋子をはじめ、6人が警察に拘束される。

 追い詰められた残り5人が群馬県境から長野県軽井沢にはいり、そこで河合楽器の保養荘「浅間山荘」に管理人の妻の牟田泰子を人質にして立て籠もる。それが1972年の真冬2月19日。

 それから、警察が突入して、牟田さんを救出、立て籠もった5人を逮捕する2月28日までの10日間を、警察側、報道側の行動、視点から綴ったのが本書。

 作品は2000年に出版。事件発生直後ならば理解できるが、なぜ28年も過ぎて、こんなドキュメントが出版されたのか不思議な思いをしながら手に取る。

 10日間の攻防の過程で、民間人1名と警察官2名が殺害され、多数の重軽傷者がでた。
テレビは連日生中継を行い、なんと視聴率は89.7%と驚異的な記録を残した。

 まだ、ネットなど無い時代。電波を何か所かの中継基地を経由させテレビ局に送る。レポートは基地ができる前は、携帯電話が無いので、公衆電話から。何人もの記者が一つの電話に群がる。

 面白いと思ったのは、現場の中継は、どのテレビ局もアナウンサーが行っているところ。そしてそのアナウンサーの殆どがスポーツアナ。中には宮崎の巨人キャンプから呼び戻されたアナウンサーもいた。

 この時を契機に事件、事故の中継はアナウンサーでなく、取材記者となった。

 事件についての新聞の社説。
読売新聞は、彼ら5人の非人間性、反社会性は問答無用で厳しく罰せられねばならないとしているのに対し朝日新聞は、未来の展望が見いだせない現代の状況に絶望した若者が起こした事件。それは、自民党の一党独裁の弊害がもたらしたもの。今の状況が続けば、同じような事件はこれからも起きると、政治が問題の根源と、さすが朝日新聞と思わせる主張を展開。だから、事件を起こした若者を狂人とか狂気がなせることとするのはやめようと主張する。

 驚愕の主張だ。

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本多勝一    「はるかなる東洋医学へ」(朝日文庫)

 著者本多勝一は、右足の異常な痛みに苦しんでいた。かかりつけ医や、そこから紹介された一流病院を受診しても、全く治癒しない。それで、妻が友人から聞いた東洋医学医師のS師を訪ね受診。そこで鍼灸治療をしてもらうと、痛みはたちどころに消える。

 その直後ロシアのサンクトペテルブルグに仕事ででかけるが、S師に言われ灸を持参。痛みがでたとき、自ら灸を行うとその痛みが消滅。その経験に東洋医学の素晴らしさを感じ入りS師に東洋医学とは何かを学ぶ。

 結果、西洋医学は対処療法。病気の根本を抑え込むことで成り立っている。しかし、抑え込むことはできても、治癒していないので、やがて再発したり転移して根本治癒にはならない。

 東洋医学はこれにたいし、病気の根本を追い出す治療をするということで、東洋医学の素晴らしさを主張する。
 このまま西洋医学を中心とした治療がなされると、日本人は健康を獲得できる人は減少すると警告する。

 個人的体験もあるし、一見なるほどとは思わせるが、冷静にみるとそれ本当?と首をかしげざるを得ない。

 最近、取っている新聞の死亡欄をみると、90歳代は当たり前、100歳以上で死ぬ人も珍しくない。平均寿命は、どんどん延びて男女とも80歳を超える。

 これは、健康診断の普及とともに西洋医学が寄与していることは間違いない。
例えば、東洋医学を基本にする中国の国民平均寿命が100歳でも超えると、なるほど東洋医学は素晴らしいと納得できるのだが、現実はそうなっていない。

 本多も現実を客観的にみて、東洋医学を論じてほしい。

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渡辺文雄   「旅でもらったその一言」(岩波現代文庫)

 渡辺は本職は俳優だが、やっぱしテレビの「食いしん坊バンザイ」で、日本のあちこちを旅しレポートする。年中旅をしている姿が印象に強い。
 このエッセイは旅をしながら、その地、その地でであった有名無名の人たちが語った心に響く名言を収録したエッセイ。

 北近江の木之本町は、和の弦楽器の弦の8割を創っている町。最も細い胡弓から最も太い琴まで弦の種類は200種。繭から生糸をとりだし、これを何本かより合わせここから弦の製造が始まる。工程は14、すべてが繊細な職人による手作業。ものすごい手間をかけ作られた弦は、人間国宝なる奏者によって使われるが、驚くことに一回演奏すると、すべて弦は廃棄される。

 「こだわって、こだわって生まれた糸と、修行の果ての芸との一回の出会い。しかもそこで生まれるのは音。すぐ消え去っていく音です。これ、ほんとに一期一会というもんと違いまっしゃろか。」

 こんな奥の深い話が満載なのだが、すこし名人から離れた話題も楽しい。

 渡辺文雄は旧制静岡高校から東大に入り卒業している。
 旧制高校は外国語はドイツ語。バンカラ学生は気取ってドイツ語を使う。

 メッチェン(女性)リーベ(恋人)、エッセン(食事)アルバイト(働く)
こんなドイツ語のなかにピッテという言葉があった。これは、落第点をとった学生が先生の家にゆき何とか合格点をと懇願にゆくことを言う。

 合格点をもらった友達と先生の家にゆく。
「理乙一年、渡辺、ピッテに参りました。」

 ここで友達が登場。
「私は83点を頂きました。10点を渡辺君にあげてやってください。」
「僕は73点でしたので、5点渡辺君にあげます。」

 この時、渡辺の得点はお情けでもらった15点。たくさんの友達から点をもらい何とか合格となる。

 しかし、これには掟があって、もらった点はいずれ返さねばならないことになっていた。だから次は懸命に勉強して友達に点を挙げるのである。渡辺は優秀な学生を家庭教師につけ懸命に勉強したそうである。 

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澤地久枝   「密約 外務省機密漏洩事件」(岩波現代文庫)

 山崎豊子の作品は殆どすべて読んでいるのだけれど「運命の人」だけは読んでいない。
最初の一ページ目で、この作品は、元毎日新聞記者西山太吉を扱っているとわかったから。

 この西山記者の事件、私が大学生のとき起き、その時、西山記者の行為が本能的にいやで、西山記者のことなど知りたくないと思ったからである。

 昭和47年5月15日、アメリカ統治下にあった沖縄が日本に返還された。この返還に際し、日本側が負担した費用は3億1600万ドル。ところがこの費用がいつのまにか3億2000万ドルに増加していた。増えた400万ドルは何の費用なのか。

 この400万ドルについて当時社会党の横路議員が国会審議で佐藤首相に迫る。アメリカとの密約があったのではないかと。当然、政府は否定する。ところが横路議員は密約の証拠となる、日本側とアメリカ側との電信文書コピーを国会で持ち出し佐藤首相を攻める。

 この増加した400万ドルは、沖縄の地主に返還する土地を原状復帰をさせる費用。アメリカ統治下においても、土地を返還した場合アメリカが原状復帰費用は負担していて、沖縄返還に際しても当然アメリカが負担すべき費用だった。しかし、アメリカ側は、アメリカ負担では国会が通らない、日本負担にしてほしいと要請。日本は公にはできないがアメリカの要求圧力が強固のため、負担することを約束して400万ドルが増加したのである。

 その密約電信文書のコピーが、国会に登場したのだから佐藤首相は完全に追い込まれる。

この密約文書がどうして流出したか。外務省は調査にはいる。その結果、蓮実喜久子外務省審議官が流出させていたことが発覚する。しかも、その流出は毎日新聞西山記者と蓮実審議官が不倫関係にあり、その西山記者の要請により文書が流出、それが横路議員に渡ったことがわかる。

 ここから、事態は一転し、密約問題は、機密文書を肉体関係を武器に持ち出したその方法に問題があるということにマスコミは集中した。

 澤地のこの作品を読んで、西山記者が入手した文書が機密文書なのか疑問に感じた。そもそも機密文書というのは、それが漏洩したことで、特定の個人や企業が利益を得るとか、文書が漏洩することで外交上相手に不利益になる場合、文書は機密といえる。

 漏洩した文書は、それが漏洩した場合、国民が不利益を被るということ以外に不利益を被るのは、政権しかありえない。

 さらに、本能的にはいやな思いはするが、文書入手を男女関係を武器に入手したその手法が法律違反になるかと言えばそうでないような思いがする。

 蓮実審議官、西山記者は最高裁の判決で有罪とされた。納得できない判決である。
それでも、西山記者のやりくちは受け入れられない。「運命の人」は本能的に読む気が起きない。

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南木佳士   「医者という仕事」(朝日文芸文庫)

 南木佳士。私と同い年。「ダイヤモンドダスト」で芥川賞受賞。私の最も好きな作家の一人。

 南木は群馬県と長野県の県境、嬬恋村の出身。母親が亡くなり、祖母に育てられたが、父の転勤で東京へ移る。東京で大学受験に失敗、しかし予備校で成績が伸び、東大医学部も入れると予備校に太鼓判を押されたが、安全をとって千葉大医学部を受験するが不合格になり、泣く泣く都落ちして新設2年目の秋田大医学部に入学。ここで、かなり気分的に腐る。

 何とか大学を卒業。そのまま研修医として、故郷に近い佐久総合病院に就職。3か月ほどカンボジア難民医療に取り組むため、タイで暮らしたが、それ以外今まで、佐久で医者として働き、小説も書きながら現在に至っている。

 南木にどうしてこれほど大好きになったのだろう。同じ年代で、しかも私も信州の田舎が故郷。歩んできた道、みてきた風景が同じことがまずはその理由だと思う。

 しかし、この作品で、思わずそうだったのかと膝をたたいた。
佐久総合病院にはいり、南木は研修を終わり、呼吸器部門に配属される。ここには肺がん患者が多数いた。そしてたくさんの死者と対面した。

 そのため、パニック障害に陥り、死者とかかわりのない外来に回される。医者が歩む街道からはずされ、今も心身症と同居しながら医者として勤めている。

 その挫折が、彼の小説の描く視点を与える。患者さんや普通の人々と同じか、それ以下の視点でみた小説を書く。そうか、それがあの清澄な奥深い文章を生んでいるのか。

 南木が大学生活をおくった秋田は銘酒がたくさんある。当然南木も大酒飲みになる。部屋でみんなで朝まで酒を飲む。その中に、長崎出身の山道君がいた。

 山道君はそのとき読んでいた小説の中に入る。例えば水上勉の「越前竹人形」、今から竹人形になると突然外へでてそのまま行方不明になる。何回も雪深いなか山道君を探し歩く。

 これではたまらないと、山道君をロープでみんなで縛り、部屋の片隅放っておいてみんなそれから酒を飲んだそうだ。

バンカラ大学生の雰囲気がある。思わずぐっときてしまった。


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木皿泉   「昨夜のカレー 明日のパン」(河出文庫)

 テツコとギフを中心にした連作短編集。
この作品はともに脚本家である和泉努と妻鹿年季子夫婦合作の作品集である。

 主人公のテツコは夫一樹が25年前に亡くなり、テツコがギフさんと呼ぶ義父と2人で一つ屋根の下で暮らしている。
 なかなかどの作品も味わい深いが、私が好きなのは「山ガール」。

ギフは定年間近になって自分に趣味が無いことに気付き、何か趣味を持とうと考えていたとき、テツコに「山歩き」を進められる。そしてテツコから山ガールの小川里子32歳を紹介してもらう。ギフは里子を師匠と呼ぶ。師匠に道具や山用の衣装を教わりながら購入。

 2人で、初心者が登る山に挑戦する。
途中一回休み、頂上に到達。そこで、並んで休憩し、缶ビール片手に話をする。

 ギフが、
 「どうして山登りを始めたんです?」と聞くと、師匠が
 「結婚しようと思っていた人が山で死んだんです。」
ギフはとんでもないことを聞いてしまったと思い、気を紛らわせるため、更に缶ビールの栓をあけ飲み干す。

 しばらくすると、師匠ももう一本缶ビールをあおり、おもいつめたように言う。
「さっきの恋人の話はうそです。実は恋人は別の女性の子供ができたと言って、私のところから去ってゆきました。私は振られたんです。」と。

 この告白の違いに驚いたのと、ビールの飲みすぎで酔ったこともあり、ギフはすこしふらつき、足元が不確かになり、帰りの山道をうまく歩けなくなる。

 すると師匠が言う。
「わたしがギフさんを背負います。背中に乗ってください。」と。
「それはとても無理ですよ。」

すると師匠が毅然として言う。
「ここに残るのはギフさんではありません。私の前の彼氏です。」と。

とたんに、背中に筋が一本走り、ピシっとなって、ギフは歩くことができるようになる。
師匠の、有無を言わせない張った声が聞こえてきそうです。

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羽田圭介    「不思議の国の男子」(河出文庫)

 私のような古い世代の人間には、羽田が扱っている思春期物語は、どうにもついてゆけない。

 思春期というのは突然やってくる。そして、今までの純真無垢な時代がすべてひっくりかえる。ゲームやテレビに夢中だったのに、突然無関心になる。

 スカートめくりは遊び感覚でやっていたのだが、もう全然しなくなる。自らの体の変化とともに、女の子ばかり気になる。声がうわずって女の子と気楽にしゃべれなくなる。街を歩けば、女の子ばかりに眼がゆく。

 エロ雑誌やエロビデオばかりを見たくなり、友達同士の会話は自分の体の変化が大丈夫か、互いにさぐりあったりする。

 この物語で、思春期の共通語はエロ語と高らかに宣言されている。
だいたい、一物の話が多くなる。それはまず包茎なのではという心配。すると、包茎博士が登場して、日本人の70%は包茎だから心配ないという。

 そして、やはり大きさ長さが心配になる。それで、自己申告をする。するとさまざまな結果がでる。物指、巻き尺のあて方がおかしい。基準はどうなのだと大騒ぎになる。

 でもでかいのはでかい。やっぱしサッカー部の板垣の一物は大きくあだ名は摩羅ドーナ。
包茎ではなく砲形ということになる。

 主人公の遠藤が組んだバンド。ドラム以外はすべてエアー。裏で別人が演奏している。
このバンドが文化祭で唄った歌はとてもここでは書けない。

 しかし、今はこんなにあけすけなく、淫靡なことを、しゃべりあうのだろうか。それよりそもそもこんな物語に価値はあるのだろうか。老人は消え去るのみということか。

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海部陽介   「日本人はどこから来たのか?」(文春文庫)

 人類の歴史。人類の原型と言われる初期の猿人はアフリカで約700万年前に誕生した。そして猿人が420万年前。原人が250万年前。旧人が80万年前。新人が20万年前。そして現代に至る。時代は、前期、中期、後期旧石器時代、新石器時代、青銅器時代、鉄器時代を経て、歴史時代となる。

 アフリカで誕生した猿人はその後、ヒマラヤ山脈南ルートを通りそのまま東へ向かう者とそこから枝分かれして、更に南下してやがて海をわたり、スマトラ、インドネシアを経てオーストラリアに向かうものがいた。一方、ヒマラヤ山脈北ルートを経て東にむかう者、そこからシベリアに向かい、中には北極圏にまで至るグループとにわかれた。

 そして日本には、3万8000年前、対馬海峡を渡り、あるいは、台湾から島々を渡り、更に3万年前、シベリアから北海道に渡ってくる3方向から、新人類が入ってきた。

 3万8000年より前に日本に人類は存在したかというと全く遺跡は発見されていない。それで、わずかの日本固有の人類はいたかもしれないが、殆どすべての日本人は海外より渡ってきたと言ってよい。

 石器時代のことについて、なぜ、どうしてという疑問は発してはいけない。あるのは、遺跡が発掘された事実だけで、どうしてそうなったかは、言葉も文も残っていないから、わからないのである。

 それにしても、石を少し加工するしかできない時代、何でシベリアの極寒の地に旧人類は移住したのだろうか。大した技術も無いのに、寒さをしのぐ衣類などよく作れたと不思議に思う。何しろマイナス30度など当たり前の世界なのだから。

 そんな人類の先祖が、本当に舟を創って対馬海峡そこから九州まで、台湾から多くの島を渡って日本にやって来れたのだろうか。北海道は実は2万年前の氷期では、北海道と陸でつながっていたから渡って来れた。

 そして何よりも不思議なのは、海を渡るという危険をおかしてまで、日本に渡って来たのはどうしてなのだろうか。思ってはいけないとは思うが、どうにも納得できない。

 南からのルートでは、出発基地は台湾の中部から。現在、石器時代に舟で渡って来られるか航海実験がおこなわれようとしている。舟の材料は、台湾現地で調達できねばならない。

 まずは現地草束で挑戦したが、失敗。次に竹で造った舟で挑戦したがこれも失敗。

 それで何?!と思わず思ったが、石川県より杉を持ち込み舟を現在建造中だそうだ。何か変。それで成功したら、石器時代の航海の検証ができる?変だよ。

 今年、この実験が行われるそうだ。

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柚月裕子    「パレートの誤算」(祥伝社文庫)

 本のタイトルになっている「パレート」というのは、イタリアの経済学者パレートが発見した経済だけでなく自然現象、社会現象で現れる法則のことを指している。この法則は8:2の法則とも言われている。集団では必ず同種のものと異種のものが8:2の割合で存在するという法則である。

 物語の舞台は、瀬戸内海の人口20万余の津川市。広島の呉市が想定されているらしい。

生活保護費支給日2000万円の現金が市役所社会福祉課に運び込まれてくる。現金受取対象者163人分の生活保護費である。しかし、生活保護費の大半は振り込み。津川市では2000世帯の生活保護世帯があり、総額は月2億円を超える。生活保護費は国が四分の三、市が四分の一を負担。毎年対象者が増加。これを何とか抑えようと市は対応する。

 その最大の対策は不正受給者の発掘である。

 この作品は、暴力団が生活保護者を取り込む貧困ビジネスを扱っている。

 暴力団は路上生活者のような困窮者を探してきて、生活保護申請をさせる。そして、困窮者はタコ部屋に住まわせ、粗末な食事を与える。困窮者が手にする生活保護費のうち大半をまきあげる。

 また、ブラック医院と結託し、困窮者を受診させ、病名をたくさん記載した偽診断書と大量の薬を入手。手に入れた大量の薬を、別途販売する。

 最近は、保護費削減政策のため、保護申請の審査が厳格になってきている。だから、保護認可の裁可者をお金で篭絡したり、女性を使った美人局でひっかけ脅迫する。
 役所の役人と暴力団がつるむのである。

 物語は、その黒いベールを暴露している。
主人公のケースワーカー聡美が、暴力団に捕らわれ、殺害寸前のところで、救出されるまでは、柚月の渾身のこもった筆が冴え、迫力満点だった。

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宮部みゆき  「桜ほうさら」(下)(PHP文芸文庫)

 下巻の初めも、搗根藩の後継藩主をめぐる争いではなく、全く無関係な物語になっている。このまま、偽文書作成する人間は捜索されないまま、物語は終了するのだろうか、それはないよなと不安になりながら読み進む。

 しかし、心配不要だった。下巻の最終章になったら、物語が最初の後継争いに戻った。

 さて、それで笙之介はどうやって偽文書作成人にたどり着くかその過程はどうなるのかと集中して読んでいると、その人物、自らが笙之介の前に現れる。

 しかも、この人物が偽文書を創っていることは、偽文書を創っている人間を突き止めよと言って、笙之介を呼び寄せた江戸留守居役の坂崎重秀や、笙之介が日々頼りにしている貸本屋兼古本屋の和田屋の主人も偽造屋が誰かを知っていたということがわかり、これまでの物語は何だったのか、結構落胆した。

 宮部はこの物語の舞台である江戸深川生まれの江戸っ子。文章も実に明るく、きっぷがいい。
 しかし、物語は文章の明るさと対照的に重く、暗い。

社会の荒波に放り出され、苦境、逆境にさらされても、最後の砦よりどころに家族の絆や長屋の人情があるというのがこのような物語では一般的なのだが、宮部はそれは甘い幻想にすぎないと言っている。

 「笙之介はこの長屋で暮らし、いがみあいを見てきた。三河屋の親子。和田屋の和香と喧嘩ばかりしているおかみ。治兵衛が失った愛する妻。解けない謎の惨さ。謎が解けることによって失われるものへの怯え。
 心を捨てることができないかぎり、人は想いを抱く。個々の想いが違えば、ひとつのものに向き合っても、そこからみて取るものは大きくかけ離れてしまう。求めるものも異なってゆく。」

 その最たる象徴が、兄勝之介と笙之介との果し合いである。笙之介は兄により、切りつけられる。長屋の太一の機転で命はとりとめるが、深い痛手を負う。

 その傷が癒えて、愛する和香とともに、江戸を離れるが、そこには苦難の道しかみえてこない。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宮部みゆき   「桜ほうさら」(上)(PHP文芸文庫)

 NHKの時代劇シリーズでドラマ化された原作。

上総国の小藩搗根藩は、藩主が老齢となり次の藩主を誰にするか4家老が2つに分かれ、対立していた。正室の4男を押す派と側室長男を推す派である。

 主人公は小納戸役を務めていた古橋宗左右衛門の次男笙之介。長男勝之介は剣術に優れ、野心家。一方笙之介は武術はまったくだめだが学問が得意。父宗左右衛門も穏やかで温和な性格。

 正室派と側室派の争いで、藩主の父が跡目を決めた遺言状があるという話がでる。側室派は、父親の遺言状を偽造することをもくろむ。確かに父親が書いたと思われる書体の遺言状を創れる人間をみつける。

 この偽造屋の書体がどんな人が書いたものであっても通用するか確かめるため、宗左右衛門が賄賂を出入りの道具屋から得ていて、その賄賂の内訳を宗左右衛門が記録していたという内訳表を宗左右衛門の書体で偽造屋に書かせる。身に覚えのない宗左右衛門は冤罪だとして否定するが、最後追求に抗えなくなり自白。職を解かれた3日後に自害、その介錯は長男勝之介が行う。

 この自殺に不審を抱いた、江戸留守居役の坂崎重秀が、江戸に笙之介を呼び、自在に人の書体を書くことができる人間を捜索してつきとめるよう指示する。

 そして、江戸深川の町民長屋、富勘長屋に居を構えて捜索を開始する。

これで、どうやって偽造人を捕まえるのか、具体的に側室派の暗躍はどうだったのか興味深々となったのだが、突然第二部で物語が変わる。

 三八野藩の長堀金吾郎なる浪人が現れて、三八野藩の内紛についての物語になってしまう。
 何で物語がこんな変化をするのか、全く理解できないまま下巻にゆく。

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恩田陸    「消滅」(下)(幻冬舎文庫)

 この小説、テロリストは誰だろうと真剣に読んでゆくと、かなり面倒なことになる。対象者10名が、最初は本名ででてくるが、途中からあだ名と本名が混在し、誰が誰だかわからなくなり、常に前に戻って確認するようになる。

 それで苦戦しながら真剣になって読んで、最後にテロリストは10人のなかにはいないというとんでもない肩透かしの結論。どっと疲れがたまる。

 面白いなと思ったのはベンジャミンの開発したソフト。

耳とか眼は、状況や出来事を獲得するためのツールであり、それを情景にしたり、言葉にするのはすべて頭脳である。その頭脳に生まれた情景や思いを膨大な量の他言語の事例から適当と思える表現を拾い出し、即時にその言語の言葉にして発する。だから、しゃべるためのデンタルクロスが口の中で使われる。このソフトを埋め込めば、多くの外国語が、普通の会話のように喋れたり、文章にすることができる。こんな時代はすぐにやってくるかもしれない。

 それから、恩田さんの物語の中で吐露するこの思い。私もその通りと深く共感した。

「走り続けなければ脱落するぞ、昨日の手法は明日には通用しないぞと、やたら不安を煽られ、尻を叩かれるが、だからと言ってどこを目指して走っているのか、最終的にはどうしたいのか、誰にもさっぱりわからない。皆不安にかられてやみくもに走っているけれど、立ち止まって休む暇も、じっくりと考える時間もない。
 だが、すぐそばに恐ろしいものがいるぞ、そいつは今にもとびかかってくるぞ、そいつを見つけろ、相互に監視し、摘発しあえとそそのかされるのだ。本当にそいつがいるのかも、いったい何が敵なのかということもわからないのに。」

 こういう思い、言葉を持っている作家は、印象的な作品をいつでも創作できる。

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恩田陸   「消滅」(上)(幻冬舎文庫)

 ある年の9月30日。日本のとある国際空港。

当日、空港は大型台風にすっぽり覆われていた。だから、国際便の到着が集中して入国管理エリアはすごく混んでいた。その上に突然サイレンが鳴り響いたり、爆発音がしたり、火事が発生したらしいと不穏な事態が発生。入管係官が避難してなかなか入国手続が進まなかった。

 その混雑した人混みの中に、ロシアで入国拒否され、アメリカが指名手配しているベンジャミン・リー・スコットがいた。ベンジャミンは閲覧サイト ゴートゥーヘルリークスを立ち上げていた。このソフトは、ネット上で行きかうメールの文章の特徴をつかみだし、それによりメールを書いた人を特定するというソフト。これがアメリカの言う「国家機密漏洩」の罪にあたるとして、国際手配されていたのだ。

 さらに、もっと亡命しやすい国もあるだろうに、なぜ日本にやってきたのかも不思議。

 そして、この大量の日本人の中で、入国審査で疑義の点がでて、別室に連れていかれた10人の人たちと1匹の犬がいた。

 連れていかれた10人は、別室でキャスリンなる人間の女性を模したヒューマノイド(AI係官)から10人の中にテロリストが含まれている、そのテロリストが特定されるまで、入国できない。ここがおかしいのだが、早く入国したければ皆で協力してテロリストを特定しろと指示がでる。

 10人が選ばれた条件。本日14時から15時の間に到着する便で帰国している。国籍は日本人。海外に頻繁に渡航しているか長期の海外生活をしていた。スリーパーである(過去に前科もなく普通の生活をしている)

 これだけで、よく10人まで絞り込めたものだと、不思議に思うのだが、更に加えてキャスリンが6か月前の4月29日の行動にヒントがあると示唆する。

 10人の行動をひもとくと、全員が当日電車に乗り、品川駅の「モビデ」という喫茶店に立ち寄っていたのではないかということがわかる。しかし、これではテロリスト発見まで到底いたらない。

 さらにキャスリンは偶然テロリスト集団が存在することが発見され、集団は4人以上。
その4人のメールなどのやりとりで共通するキーワードが今日何かはわからないのだが「消滅」が起きるということ。

 ここまでが上巻。
 テロリストはどうやって判明するのか。サイレン、爆発音、火事は何か関係はあるのか。さらに、ベンジャミン・リー・スコットのかかわりは何なのか。興味津々となり下巻を手に取る。

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彩瀬まる   「やがて海へと届く」(講談社文庫)

 この物語で主人公の真奈が、高校生のカエルちゃんとキノコちゃんから聞かれる。
 「太平洋戦争について、どんな風に思います?」と。

 広島や長崎も含め、私たちは戦争の悲惨さを決して忘れてはならないと、学校でも、夏が来るたびに教えられる。

 しかし、今の高校生が戦争を体験しているわけではない。それどころか、お爺さんだってお祖母さんだって戦後生まれになっている。それなのに、悲劇、悲惨さなどと声高に語ってみても、全く身近に感じない。

 東日本大震災といっても、自らが被災していなければ、その時は大きな話題となっても、すぐに忘れてしまう。

 真奈は、高校生の2人に聞いてみる。
「もしあなたたちの一人が、災害にあって突然亡くなってしまうとしたら、亡くなった人は、残った人にそれからどうしてほしいと思う?」
「小学校の時とか、一番大切な友達が、転校してしまう。最初はショックを受けるが、すぐその友達のことは忘れてしまう。」

 彩瀬まるさんは、震災で大切な友達を失ったのではないかと物語を読んで思う。

だから、そのことを語り、物語にするために、震災から5年も要している。大切な人の死を現実として受け入れられるのに5年が必要だった。小学校の転校生とは同じとはとても思えなかった。

 震災のこと、ここまでリアルに描いた作家を知らない。次の描写を読むとその切実さがぐっと私を貫く。

 「逃げる、逃げなければ、でも道が無い。先ほどの分かれ道に戻るより先に、黒い水に追いつかれるだろう。・・・走る。足元が柔らかくてうまく走れない。全身が恐怖でびりびりと痛んだ。・・・
 曇り空を切り裂いて、甲高いサイレンが響き渡った。発令されました、ひなん、して、ください。・・・波がくる。視界の端を、黒い水が先行する。
 だめだ、死ねない、離れたくない。守られていた、すべてのものから引きはがされる。やっと少しずつ幸せになれたんだ。ここまでにくるまでとても長い時間がかかった。死ねない、死ねない、だって・・・」

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安達瑶   「悪漢刑事の遺言」(祥伝社文庫)

 森友、加計問題、ここにきての厚労省統計不正問題、不祥事が噴出、以前までだったらこれらの問題のひとつで、内閣支持率は急降下、安倍首相は退陣においこまれていただろうに、それが全く揺るがない。

 資料の改ざん、黒墨塗り。
 安倍政権が関与していただろうことは殆ど疑いはないと思われるのに、すべてを官僚、役人の責任に転嫁しきりぬけ、支持率も下げ止まりして動かない。

 この物語は、森友、加計問題を参考にして作られている。

日頃、暴力団や、腐った役人にこびりつき脅迫、それでお金や甘い汁を吸っていきている悪徳刑事が、その悪徳刑事を警察から追放するため、スパイ役として送り込まれたこれも問題児の新任刑事とコンビを組んで、悪徳企業と政治家をおいつめてゆく物語である。

 物語の出来栄えはもうひとつだが、作者安達の現在社会政治にたいする熱い怒りは十分に伝わってくる。

 しかし、最後は内閣支持率はぐっと下がるが、悪玉は殆ど全員が安泰で終わる。まあ、現実がそうなのだから仕方ないとは思うが、フィクションなのだから、現実を突き抜けて、権力者、腐敗者を破壊してほしいと思う。これだけ、熱い憤りがあるのだから。

 この物語では、事故、自殺にみせかけ、2人の関係者が殺害され、権力の意向で捜査は行われない。

 森友問題で自殺者がでたが、この物語を読むと、本当に自殺だったのか疑問がわいてくる。

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吉田修一    「橋を渡る」(文春文庫)

 この作品は2014年8月から一年間雑誌週刊文春に連載された小説である。
週刊文春は、政財界、芸能界など旬なスキャンダルを次々暴き、関係者を窮地に追い込む報道を連発。そのすさまじさから「文春砲」と言われている。

 この物語はそんな同時代の「文春砲」と一緒に平行して走る。だから「セウォル号沈没事件」「都議会セケハラヤジ事件」「IPS STAP細胞」などが物語にも登場する。

 面白いのは、篤子という文春フェチの中年の女性がクレーマーとして登場して、文春砲には達しない記事ばかりのときは、文春に電話して、どうして砲撃記事が載らないのか文句をいうところ。多分、こんな人もたくさんいただろうなと想像する。

 その同時代を走り、皮肉っぽく笑いを誘うのが第3部まで。最終の第4部で雰囲気はがらりと変わる。

 2015年から70年後に舞台が飛ぶ。通常、こういった類の物語は、未来はディストピアの絶望的世界として描かれることが多い。しかし、この物語では70年後にタイムトラベラーに乗ってみた世界を、今とあまり変わらないなあと主人公謙一郎に言わせている。

 2015年IPS細胞が登場したとき、同じ京都大学笹山教授の研究室で、血液から精子細胞、卵子細胞を抽出してこれを結合、新しい人間を創ることの研究が開始されていた。

 それが70年後には利用されていて、たくさんの血液精子卵子結合の人間ができていた。

 こうしてできた人間たちは、通常で生まれた人間と区別されサインと呼ばれている。サインは人間と異なり40歳くらいまでしか生きられない。しかも、人間に完全支配されていて、対馬などに昔の防人として防衛最前線につかされている。

 もし、自分が70年後にサインだったら、謙一郎のような今とあまり変わらないという感想は浮かばず、やはりディストピアの世界じゃないかと思ってしまう。

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グレアム・グリーン  「見えない日本の紳士たち」(ハヤカワepi文庫)

 かの名シネマ「第三の男」の原作者、そのほか「権力と栄光」「情事の終わり」「ヒューマンファクター」など傑作を次々世に送り出した二十世紀の代表作家であるグレアム・グリーンの短編、掌編を収録した作品集。

 本のタイトルになっている「見えない日本の紳士らち」は、日本人を対象にした物語でなく、作家を目指す娘とすでに作家となっている父親とのちょっとした葛藤を描いている。その舞台がロンドンで魚料理で有名なベントレー。そこに黙々と料理を食べている日本人8人が、舞台の背景に登場している。その日本人を、変わった人たちだと時々描写している。

 作品集で面白かったのが「八月は安上がり」。

 主人公のメアリー、夫チャーリーはヨーロッパに研究旅行にでかけ8月にどこにも行けないでいる。そこに、夫の大学の学長夫人に浮気をするなら「八月のジャマイカが安上がりよ」とささやかれ、安チケットでジャマイカにでかける。
 ジャマイカに滞在していると、アメリカから団体旅行者がやってくる。その団体が帰国すると、また別の団体がやってくる。

 来年40歳を迎えるメアリーに声かける男性もなく、話すきっかけさえつかめないまま時間は過ぎてゆく。

 ある暴雨の日、プールに泳ぎにゆく。誰もいないと思っていたら、水底から禿げ頭で皮膚がしわしわ、でっぷりとたるんだ肉がついている老人が浮かびあがってきた。

 40歳の女性。一般男性からみれば、年が過ぎていて魅力が無く誘う対象にはならないが、70歳以上の老人から見れば、若くて魅力的という女性になる。

 だから、何が何でもお近付きになりたいとモーションをかけてくる。メアリーはこんなしわくちゃじいさんなんか相手にしたくない。

 観光地のホテルはたくさんの客でにぎわっている。中には即席のカップルもいる。そんな華やかな中で、2人だけがはじかれ、くすみきっている。
 相手をしてくれる人は、70歳のじいさんしかいない。

 ここから、最後のベッドを共にするまでの過程が鮮やかな筆致で綴られる。

最後、一つのベッドで2人は眠るが、メアリーは体がくっつかないよう離れて眠る。ふっと真夜中目が覚める。隣の老人は起きていた。あれほど、ぎらぎらと自分を求めてきたのに、肝心な時、最後に手がでてこない。メアリーが手を伸ばし、老人の一物を握ってあげる。

 メアリーはいい旅行だったと思い、気持ちを切り替え明日からの家事、子供の世話を頑張ろうと思う。

 少し切ないが、味のある小説である。

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恩田陸    「木曜組曲」(徳間文庫)

 昔、推理小説作家の梓林太郎の嘆きをどこかで読んだことがある。

師と仰いでいた松本清張が、小説がなかなか書けなくなって、梓林太郎にアイデアを出させたり、梓の習作を、清張の著作として出版されたりしたと。本当かどうかわからないが、ベストセラー作家で文壇の重鎮ともなると、それを維持するのは大変なことだと思ったことがある。

 この作品で、ベストセラーを連発、天才作家として謳われていた重松時子が、突然全く小説を書けなくなった。あせった時子は、異母妹の静子や、従妹のルポライター絵里子、姪の純文学作家のつかさ、同じく姪の流行サスペンス作家の尚美に後継者として選んであげるからと言って、習作を持ってこさせる。

 そして、それを自分の作品として出版する。

何で、こんなことが可能になるのか。多分印税などの多くを、習作者にあげたからなのだろう。習作者は、自分の名前で出版するより、時子の名前で出版したほうが、たくさん売れ、一部の印税を時子が手に入れても、収入は多くなるから受け入れる。

 しかし、こんな状態が長く続くわけがない。そのうち、時子は彼女たちが時子の本は贋作であると言い出すかもしれないと不安になる。

 静子に至っては、現在の贋作まみれの時子の状況を小説にして時子に送る始末。しかも、追い詰められた時子は、それさえも作品にして売り出そうと清書をする。

 このままでは、自分は破滅すると思い込んだ時子は、自宅で彼女たちがパーティーをしているとき、鍋料理に青酸カリをいれて殺そうとする。しかし、その青酸カリを自分が飲んでしまい死んでしまう。

 トリックはよくある方法。しかし、文学界にはひょっとすれば、他人の作品を自分の作品として本にしている作家が、いかにもいそうと思わせる作品である。

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パトリシア ハイスミス  「リプリーをまねた少年」(河出文庫)

 自由人にて犯罪者であるリプリー。このリプリーの人物像が、私にはよく理解できない。この作品で少し詳細が明らかにされているが、彼そのものは全く仕事をしてなくて、定収入は3つのルートがある。

 まず、彼の妻エロイーズがフランスの大製紙会社の社長の令嬢で、金額は書かれてないが月数百万円の援助がある。

 さらに、有名画家ダーワッドの販売をてがけているバックマスター画廊で扱っている画材の販売によるコミッションが30万円ほどある。

 それから、「太陽がいっぱい」で殺害したフィリップ グリーンリーフの遺書を偽造して毎月入ってくる遺産が180万円。つまり年収で数千万円が入ってきている。

 パリ郊外のフォンテーヌブローの森から数キロ離れたヴィルペルス村に屋敷を持ち、お手伝いさんまで使っている。優雅な生活をしている。
 この状態で、なぜ次々危険な殺人を行うのか全く理解できないのである。

それでも本作品の前までのリプリーシリーズは殺人の見返りとしてあるお金が入ってきた。しかし、この作品は前3作と異なりまったく見返りが無い異色作品となっている。

 リプリーが夜中、家に帰る途中、一人の少年に遭遇する。少年はリプリーの家を目指していた。車に乗せ家に連れて帰り、事情を聴く。

 少年はフランク ピアーソン16歳。アメリカ食品業界の大物ジョン ピアーソンの次男。ジョンピアーソンは暗殺未遂により足を負傷車椅子生活をしていた。ある日、日課である夕日を見に、一人で自宅の海の見える崖まで行き、そこから転落して亡くなる。警察は事故として処理する。

 その直後から、フランク ピアーソンが失踪。3週間みつからないままになっていた。

フランクは、「太陽がいっぱい」でのグリーンリーフ殺害事件をアメリカの新聞で知り、そこに載っていたリプリーに憧れ、会いたくなって、兄のパスポートを使って、ロンドン、パリ経由でリプリーの家までやってきたと言う。

 リプリーがさらに尋ねる。
すると、リプリーを心酔しているフランクは、父親との関係が最悪な状態にあり、実は崖から突き落として殺したととんでもない告白をする。

 その瞬間リプリーはすべてをかけてフランクを守り抜く決意をする。

やがてリプリーの家にもアメリカ警察の要請をうけ、捜査員がやってきたり、ピアーソン家お抱えの探偵がコンタクトをとってくる。
 リプリーはフランクにアメリカに帰国してはと説得するが、フランクが拒否。
しかたなく、フランクはベルリンにフランクを連れ出す。そこで、懸命な説得を続け、アメリカ帰国を承諾させるが、その直後にフランクは拉致され身代金が要求される。

 ここでリプリーがフランクが匿われている場所をつきとめ、誘拐犯とピストルで対決して、フランクを救助する。この場面がクライマックス。

 救出されたフランクを探偵に引き渡して終わりかと思ったら、フランクが自殺するのではと思ったリプリーはニューヨーク行きのフランクが搭乗する便を予約して、一緒にアメリカに行く。

 これでめでたしと思っていたら、フランクは一人になった瞬間に家を飛び出て、父を殺した崖から身を投げ自殺する。
 ここまで信頼しあったリプリーとフランク。それでもフランクが救えなかったことが、本当にせつない。

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パトリシア ハイスミス  「孤独の街角」(扶桑社ミステリー)

 主人公のジャックが、家の前で財布を落とす。これは全部失ったと覚悟していたところ、ラルフという男から、家まで財布を拾ったと届けてくれる。中味もすべて落とした時のまま。

 ジャックは正直な人が今時いるものだと感動する。

ラルフは夜間ビルの守衛をしている、ニューヨークでも底辺の層に属する男。結婚はしたことはあるが、すぐ離婚。それからずっと守衛をしている。

 ラルフは孤独の中で、妄想をする。パラノイア気質の男である。こういう男が妄想をし、それをどんどん膨らましてゆくと、そのことが実際に起こった、あるいは起こっているという真実に変化する。

 エルジイというコーヒーショップで働く、かわいい清楚な女の子がいる。ラルフは毎日数回そのコーヒーショップに行き、彼女に間違った道に行かないよう長々と説教する。それが嵩じて、彼女を守らねばならないと思い込み、尾行を続け、何かあったらすぐに飛び出し彼女を守ろうとする。

 エルジイは気味が悪いし、怖いので、彼に店長を使ったりして近付かないよう言うのだが、彼女を悪から守るのはこの世に自分しかいないと信じているからラルフには馬耳東風。

 ジャックもこのコーヒーショップに時々でかけ、自分の財布を戻してくれた恩人のラルフがしつこくエルジイに言い寄っている姿をみて、ラルフがいないときどうしたのかエルジイに訪ねて、エルジイが困っていることを知る。

 そこで、ラルフにつきまとうのはやめるように言うのだが、信念のラルフは全く動じない。
たまたま、ジャックがパーティーにエルジイとその友達を誘って家から3人ででてきたところを見たラルフがまた妄想を始める。

 ジャックは、エルジイをたぶらかしている。すでに肉体関係もある。そして関係するたびにお金を払い売春婦にエルジイをしたてている。悪の根源はジャック。絶対許さないと。
 エルジイがアパートの前の石段で殴り殺される。

ジャックとラルフは互いに相手が、犯人と思い込む。特にラルフはその思い込みが強く、警察にしつこく告発するが、警察は全く相手にしない。

 そうして、2人は路上で激しい殴り合いをする。その原因は互いに妄想でしかない。

ジャックはナタリアという財産家出身の嫁と娘と暮らしている。外見は幸な家族に見える。ジャックは売れない挿絵作家。ナタリアは活発に社会を生きる。それがジャックを委縮させ孤独にさせる。ナタリアにはルイスという男友達がいる。しょっちゅうデートで家を空ける。そして驚くことに、エルジイとも同性で恋人となり肉体関係を持つ。ナタリアは平気でルイスのことをジャックに話す。それでもジャックは縮こまって何も言えない。

 それが妄想を湧きあがらせ、やがて2人にとって、妄想は事実に変化し、憎い相手と殴り合う。
ぞっとするとともに、孤独、哀れでせつない物語である。

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垣根涼介   「室町無頼」(下)(新潮文庫)

 垣根はこの作品は史実に忠実に従い書いていると説明している。応仁の乱前夜に、京都の相国寺大塔付近で徳政一揆がおきていたということは日本史で習ったことがなかったので、垣根の想像の産物だと思っていたら、この物語が描かれた時代に確かに一揆と幕府軍が衝突していたことが古文書に記載されているらしい。

 この物語では、幕府軍が一揆に敗れたことになっている。歴史というのは常に権力者によって描かれる。一揆で幕府が敗れたなどということは、大きな歴史的出来事としてとりあげるわけにはいかなかったから、殆どの人たちが知らないのだ。

 それにしても、蓮田兵衛が率いる一揆軍と幕府軍の戦いの描写は迫力とスピード感にあふれ面白かった。

 蓮田が主人公の才蔵に、人々を戦いにいざなうものが2つあると言う。一つは金。金の力で人々をひきつける。それともうひとつ。ずっと物語では秘密にされてきたが、才蔵が修行から帰って来たときに蓮田が教える。

 それは口コミとそれに乗せる情報。

 蓮田は、才蔵の会得した六尺棒を使用した武術は天下無敵と、配下のものに宣伝させる。さらに、賭けの格闘武術の真剣勝負を通りで行う。ここで才蔵は、すべての相手をなぎたおす。口コミはものすごいスピードで京都中に拡散する。そして、才蔵の配下になりたい人がどんどん集まってくる。リーダーや英雄というのはこうして作られるのかと納得した。

 一揆というのは、たとえ幕府に一時的に勝つことがあっても、幕府を転覆するまでには絶対至らない。

 飢餓に苦しむ農民や牢人たちは、一揆により、金貸しや商人の蔵から、幾何かのお金や食料、それから借金の証文が手に入れば、もう十分。それ以上闘うことは考えない。

 この物語でも、一旦は幕府に勝つが、次の一揆をおこそうとすると、参加する人たちがぐっと減って幕府にとても太刀打ちできなくなる。

 なるほどと、勉強することもこの作品ではたくさんあった。

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| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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垣根涼介    「室町無頼」(上)(新潮文庫)

 週刊新潮の連載小説。2016年直木賞候補作品。

舞台は応仁の乱前夜の京の都。足利幕府は、名前に幕府とはついているが、それは名ばかり、
極めて弱い幕府で、統治、支配は全くできない状況。打ち続く凶作で、餓死者が鴨川にあふれ、その数は8万人を超えていた。

 当然統治不能状態のため、京都の安全確保、犯罪の取り締まりや事件捜査は、凶作で食い詰めた浮浪者を集め組織した骨皮道賢が率いる集団に依頼。この道賢は土倉とよばれる金貸し業を襲撃し、そこから大金を奪取するという稼業も行っている。こんな集団だから、まともに事件捜査などしない。京都は完全に無法地帯となっていた。

 主人公の才蔵は没落武士の出。食うや食わずの少年時代を送り、天秤棒売りの店に丁稚奉公となり、毎日天秤棒を担いで街を練り歩く。

 ある晩、才蔵が土倉を襲う道賢の集団と鉢合わせして、闘いになり、天秤棒で集団をたたきのめす。

 これに驚いた道賢は、才蔵を浮浪の輩蓮田兵衛に託す。蓮田は、落ちこぼれ瀕死にある百姓を中心に集め組織化しいつか幕府を転覆することを狙っている。

 蓮田は才蔵を、仙人のような老人に託し10か月で、武術名人に仕上げるよう依頼する。

 上巻は、才蔵の激しい訓練を途中まで描いて終了する。

驚いたのは、人を食ったような名前の骨皮道賢や蓮田兵衛が実在の人物だったことである。この本は、史実に忠実であることを最も大切な価値としてできあがっていることを謳い文句にしている。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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長野まゆみ    「フランダースの帽子」(文春文庫)

 最後の収録作品以外世界の地名を冠した(と言っても、その場所が物語の舞台になってはいないが)6つの物語短編集。

 この作品集、どの物語も、長野さんの作品にはしばしばあるが、家族祖先縁戚関係が複雑でたくさん散りばめられ、なかなか関係がよくわからず読み進めることに苦戦した。その中では、単純で複雑な人間図もなく一番わかりやすかったのが「カイロ待ち」。

 中近東での駐在や出張が多い夫は、主人公の私と、久しぶりの日本帰国にあわせてて賃貸マンションを探していた。そして、これが良いと思ったメゾネットタイプの住宅を決める。ところが、仲介業者が、賃貸ではなく購入したらと勧められ、そうすれば内装とか自分たち好みに変えられるということで、夫婦は購入することに決める。

 そして、毎週末DIYから器具や材料を購入してきて、2人で改装を始める。

そこから私の身体の変調が始まる。住宅の中にいると強い片頭痛が起こる。不思議なのは、その住宅からでると収まる。時々、寝泊りすると、頭が重く痛くて、殆ど眠れない。

 医者に診てもらってもどこにも異常が無い。心療内科で診察を受けても、該当する病名が無い。そのうち、このマンションを35年前に購入して住んでいる最古参の住人、隣家の枝光さんに尋ねると幽霊がでるなどと脅される始末。

 実は枝光家と、私の住居を挟んだ反対の家とは、ずっとトラブルが絶えなかった。

反対の家では、私の住居が空いたとき、購入したいと大家に申し入れていたのだが、そんな隣に、喧嘩の最中にある家がやってきたら大変になるということで、枝光家は大家に販売しないようお願いしていた。全く両家とは関係ない人に販売して、その人に両家のクッションになってもらったらうれしいと。

 そこに私たち夫妻が現れ、住居を購入したのである。

 反対隣りの家は、自分たちには販売しないで、大家は別人に売る。これに怒りを感じ、購入者に早く住居を手放させようと、電子機器を使い低周波音を流し続けていたのである。

 激しい隣人対立。こんなことまですることになるとは唖然とする。

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パトリシア ハイスミス  「アメリカの友人」(河出文庫)

 ハイスミスの作品は、ホラーに近い異色ミステリーだ。リプリーシリーズ第三作目の小説である。

 通常のミステリーは、起こった事件がまず存在し、それを名探偵や名刑事が捜査をして動機、トリックを推理して犯人を暴く。
 だから、動機やトリック崩しは最後に探偵や刑事によって説明される。説明は実際の経過ではないので、論理的、幾何学的になり臨場感は乏しい。

 実際の事件をそのまま描くのはハードボイルド小説だが、これも、主人公が絶対負けないように、奇蹟がおきたり、都合よく殺害されるところを避けたりして、現実離れがするのが否めない。

 ハイスミスの作品は、すべて殺害事件の進行過程が微細に描写される。その描写が物語のすべてとなる。そして、警察や探偵が犯人をつきとめるという場面は殆ど無い。

この作品はハイスミスのそんな特徴がいかんなく発揮されている。

 まずは、ジョナサンという額縁商人が、骨髄性白血病になっていることを知ったリプリーがその弱点につけこみ、殺人実行者に仕立て上げてゆく過程がある。そうは言っても、最後の決断をする場面は殺人依頼者のリーヴスが登場して、だめを押す。この場面にぞくっとした悪寒が走る。

 そして、ハンブルグのイタリアマフィアの下っ端を殺害実行者が、地下鉄の乗降客がひしめく中、殺害相手を発見。おどおどしながら近付いて、銃を発射し殺害。そのまま銃を捨てて懸命に逃げる場面。迫真にせまる描写が続く。

 それから、2人目は別の対立関係にあるマフィアの上級幹部が殺害被害者となる。いつも週一回パリの愛人に会いに通うために乗る列車モーツァルト号での殺害。これは、雑踏のなかでの殺害ができないから、紐で絞殺すことになる。こんなことは、普通人、素人ではうまくできない。

 どうなるのかと思っていたら、殺害人にて自由人であるリプリーが助っ人として登場。殺害相手がトイレに行ったとき、リプリーがトイレ内で紐を首にかけ絞殺す。そして被害者を列車の窓から外へけり出す。
 この3つの殺人描写が、段々恐怖度興奮度を高まらせてゆく。

このハイスミスの手法にはただただ唸るばかり。

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パトリシア ハイスミス  「贋作」(河出文庫)

 「太陽がいっぱい」に続くトムリプリーシリーズの2作目。

「太陽がいっぱい」でディッキー・グリーンリーフとフレディーを殺害。しかもディッキーの遺書まで偽造して、遺産の一部を手にいれたリプリー。現在は、製紙会社社長の娘エロイーズと結婚、パリ郊外の小さなまち村、ヴィルペルスに屋敷を持ち、家政婦まで雇い、優雅な生活をしている。

 一方でロンドンで仲間と組んでバックマスター画廊を立ち上げ、そこでピカソと並び称される大画家ダーワッドの作品を一手に引き受け展示販売をしている。と言っても、リプリーの実入りは、ダーワッドの商標がついた画材の販売したときの利益だけ。

 このダーワッドの作品展覧会が画廊で開催が計画される。ところが、ダーワッドはギリシャで5年前亡くなっていた。しかし、そのことは秘密にされ、現在まで失踪中ということになっていた。

 そこで、リプリー達は、実はダーワッドはメキシコの小さな田舎にいて、そこで今でも絵を描いていると情報を流し、今度の展覧会には失踪中のダーワッドも参加し、メキシコで描いた作品も数多く出品するということにする。

 そこで、リプリーがダーワッドに変装して展覧会に現れる。当然、ダーワッドは亡くなっているのだから、展示作品の多くは贋作である。この贋作を描いているのが画家のバーナード。

 この展覧会にダーワッド作品の愛好家かつ収集家であるアメリカの富豪マーチソンが、ぜひ展覧会を観覧、できれば未収集品を手にいれたいとやってくる。

 展覧会にやってきたマーチソンは展示されている作品の殆どが贋作だと知る。リプリーはそのマーチソンに自分の家にもダーワッドの作品があると、自宅へ誘う。マーチソンはその絵も贋作だという。そして、リプリーたちが贋作を売りさばく詐欺師であると断じ、それを世間に公表すると主張する。

 弱ったリプリーは地下のワイン庫にマーチソンを誘い殺し、フォンテーヌブローの森に埋める。

 悩みが深いのは贋作を描いているバーナード。自分の名前では一切絵は描けない。ダーワッドの名前で描いた作品は高値で売られるが、自分に入る金は微々たるもの。悩みぬいた末、もうダーワッドの贋作は描かないとリプリーたちに宣言する。

 そのバーナードをリプリーの家に招く。憔悴しきり青ざめたバーナードは自殺することをほのめかす。説得している間に地下のワイン庫にバーナードは行く。そしてなかなか帰って来ない。リプリーが見に行くと、そこには首を吊ったバーナード。しかしよくみるとそれは人形。

 気分転換と説得を兼ねて、リプリーはオーストリーのザルツブルグにバーナードを連れてゆく。そこの川にかかった橋でバーナードが行ったり来たりして身を投げようとしている。あわててリプリーが近寄ると、バーナードが逃げる。8KMも山に向かって追いかける。そこに絶壁の崖が登場する。リプリーは最早説得はできないと思いバーナードを押し、絶壁から突き落とす。

 このバーナードをリプリー追いつめてゆくところが、だんだん盛り上がってゆき、ハイスミス独特の恐怖と興奮を読者に高めてゆく。

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米原万里    「ヒトのオスは飼わないの?」(文春文庫)

 ネコ4匹、イヌ2匹、人2匹。この数は時に変化するが、米原家、犬猫を含めての大家族に起こる事件をエッセイにして描く。

 テレビ番組「志村どうぶつ園」でときどき、動物の言葉がわかるというハイジという女性が登場する。この女性は、動物と語り合うことは無く、動物の心を透視できて、その動物が今何を考えているか言い当てる。人間以上に複雑な考えをハイジがしゃべる度に、犬や猫がそんな難しいこと考えるわけないと、いつもテレビをみていて胡散臭いと思う。

 米原さんが仕事上でしりあったニーナというロシア女性がいる。ニーナは「全ロシア愛猫協会」の会長をしているほどの猫大好きの女性。

 ニーナは猫語をしゃべり、会話する。ハイジのように心を透視するのではなく、猫と会話するのである。

 米原さんの猫たちと互いにミャーミャー声をだし会話する。それを訳してもらうと、すべてが当たっているため、米原さんはニーナが猫語を使えることを信じる。

 しかし、日本の猫とロシアの猫では言語が違うんじゃないのと聞くと、何と猫語は全世界共通語なのと答える。

 日本の北海道に猫大好きで猫を17匹飼っている経済学が専門の唐津教授がいることをニーナに教えると、どうしても会いたいと言われ、ニーナを北海道に連れてゆく。実は唐津教授も猫語がわかる。

 ニーナは唐津家に訪れると、10分以上かけて一匹、一匹猫とミャーミャー言葉を交わす。
3時間近く挨拶をしているので、教授も米原さんも驚くとともに少し白ける。

 米原さんは仕事があるため、東京にトンボ返りせねばならない。
ニーナはロシア語しかわからず、教授はロシア語はわからない。米原さんが、いなくなるとどうするか少し心配になるが、全然問題ないじゃないかと思い直す。

 だって2人は猫語を話せるんだから。
唐津家から一晩中ミャー、ミャーと大きな声が聞こえてくるような気になる。

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 朱川湊人    「わたしの宝石」(文春文庫)

 世の中は想像以上に変化して、私の想像は、古いかもしれないが、私の印象により書きすすめる。

 大学、男性にとっては、入学することが目的で、入学後は勉学以上に、大学生活を謳歌することに精力を傾ける。就職は、この仕事こそしたいということではなく、とにかく会社に入れればそれでよいという傾向が強い。

 一方女性は、大学卒業後、どんなことをすべきか目標を明確にして、そのための勉学を懸命に勤しみ、その土台に沿って卒業後の進路を決定する。

 だから、女性の場合、進むべき道に、進めない場合、挫折感はとても大きい。
その挫折感に救いの手を差し伸べるように装い、結婚を申し込むと、絶望の中にいる女性は仕方ないと思いプロポーズに応じる。

 結婚をしてから、女性は、挫折などなかったかのように、夫婦の通常な生活に溶け込む。

安定した生活に男も満足する。
 夫婦の両親も、孫の誕生を切望する。

 そんな時、妻が子どもだけは作らないで。もう少し後にして。と夫にお願いする。
 妻は、挫折をずっと忘れないでいる。いつか、希望していた道に進みたいと密かに思い続けている。
 子供ができたら、希望は完全に諦めねばならない。

 そして、ある日、耐えられなくなった妻は、夫に離婚を申し出る。妻は、遅れはとったが、希望の道に突き進む。当然、妻は迷いもなく希望の道を強く歩みだし、しかもそこには同じ信念を持った仲間がいる。そして、その中で新しい恋人に巡り合える。

 回り道をしても、最後は初志貫徹。この小説のような人生を歩む女性はどんどん増えてゆく。

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| 古本読書日記 | 05:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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パトリシア ハイスミス  「扉の向こう側」(扶桑社ミステリー)

 ハイスミス生まれはデトロイトだが「太陽がいっぱい」のリプリーシリーズのようにヨーロッパ中心に描く作家と思っていたが、当たり前だけどアメリカを舞台にした作品もあった。この作品がそんな作品。

 ハイスミスは、犯罪小説の書き手として、サスペンスの女王の称号が与えられている大作家である。偏執狂的な登場人物と陰鬱な雰囲気がその特徴で、なかなか日本では受け入れられないのではということでわずかな出版数にとどまっていたが、90年代に見直され、多くの作品が出版されるようになり、ちょっとしたブームとなった。

 この作品は従来のハイスミス作品と異なり、サスペンスの要素が薄められ、読みやすい青春物語、スミス異色作品となっている。

 主人公のアーサーはある地方都市の高校生。保険外交員をしている父とボランティア活動をしている母と弟の4人家族。

 弟がある日高熱をだし、これがずっとひかず、生死の境をさまよう。しかし、奇蹟的に助かる。これに感動した父親が「神が助けてくれた」と信じ熱心なクリスチャンになり、家族にも信仰にのっとった生き方を強要する。

 これに反発していたアーサーが同じ高校生のマギーを妊娠させる。本人もマギーの両親もできたことはしかたないとして中絶をしようとするが、アーサーの父や教会員が、しつこく中絶は神への冒涜として、やめるように迫る。しかし、中絶は行われる。このことにより、ほぼアーサーは勘当状態となる。

 熱心な宗教指導者となった父に、暮らしの窮状を訴えて相談をする2人の姉妹がいた。姉は元売春婦で、今はトラック運転手が溜まるバーでウェイトレスをしている。妹大太りで少し知恵も遅れていて何もしていない。

 父は何かにつけこの姉妹の相談にのるために、家を訪問したり、時には主人公の家に連れてくる。

 ここで私は、この父は偽善者で、主人公と同じことをいつかするのではないかと少しわくわくして読み進む。

 そして、やはり姉が妊娠する。父は相手の男は誰かわからないというが、姉が相手は父だと言い、それが町に広まるからたまらない。

 そして母によると、父は圧迫に耐え兼ね、おなかの子は自分の子だと告白する。

ある日、アーサーのところに母からたいへんだから至急帰ってきてと電話がある。家の前まで来ると銃声が2発聞こえる。慌てて家に入ると、弟が父を射殺していた。30分以上口論したうえでの殺害だったと母が証言した。

 これは、ハイスミスらしくない。この口論の中身を描いてくれなきゃあ。ハイスミスは、そういった場面を描かしたら天下一品の作家なのだから。ここで父親の偽善ぶりとそれを鋭くつく弟との手に汗を握る場面を読みたい。

 結局何が交わされたか、母親の間接的表現はあるが、実際の場面はないまま物語は終了する。

 しかし、道徳家を気取って、他人の生活に侵入して、うわべの説教で、人々の生活にたがをはめる。そのたががとれたときの、人々の崩落ぶりは激しい。そんなことをハイスミスは物語にしている。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐々木丸美   「忘れな草」(創元推理文庫)

 佐々木丸美が活躍していた、昭和50年代に流行していた孤児をテーマにしていた漫画や小説に影響されて創作された、孤児シリーズ4部作の2作目の作品である。

 この作品には、主人公に孤児が2人登場する。
一人は、少し野卑で感情に従い行動する葵、それに頭がよく可憐で美しい弥生。

この2人のうちどちらかが、大企業北斗興産の継承者となる。それが明確になるまで、幼児から大人になるまで2人は謎の屋敷に幽閉され育てられる。

 2人は屋敷で、蔑み、ののしりあい、いつも喧嘩がたえない。しかし、18年間喧嘩ばかり繰り返しているうちに熱い友情が芽生えてくる。

 継承者を決めるために、北斗興産では2つの派閥が暗躍、死闘をくりひろげる。結果、葵が継承者になり、敗れた弥生は最後自害する。

 物語は50年代当時よくある内容で、平凡。漫画のような小説、それが現実感から遊離されているか、その遊離こそ魅力にうつるか、読者次第。50年代小説の特徴である印象的な理屈っぽく、大げさな表現が雪のように物語を埋め尽くす。

  「愛は結局責任だ。人を好きになるのは一大事業、ひたすら正義にのっとり心の勤務に励むこと、うまくいかなくても、悩む時間なんてない、だいたい悩みの原因は自分の意志に相手がそってくれないことにある。それでグジグジ泣くのは愛でない。恋のお遊びだ。愛は建設的精神の仕事であり労働者であり、報酬を求めぬ献身である。」

 「あなたの鉄壁の社会観がそのまま私にお下がりしたのです。私にとってあなたは美術家であり音楽家であり、小説家であり哲学者であり、恋情であり友情であり、涙であり笑顔であり、心そのものです。あなたは私の血液となり骨となり霊魂となり、統合的生命の指揮者となったのです。」

 理屈ばかりを口角泡を飛ばしていた青春時代をなつかしく思い出す。

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| 古本読書日記 | 06:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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初舞台 彼岸花 里見弴作品選

日本の一文 30選」で知った作家です。紹介されていた「椿」も収録されています。
名短篇ほりだしもの」にも載っていましたが、「小坪の漁師」は、そんなに印象が強くなかった。

八篇入っていて、一番面白いのは「みごとな醜聞」でした。
「人間は自身の信じた道を歩かねばならぬという作者年来の『まごころ哲学』がつらぬかれて、『美事な醜聞』という主題が強い迫力となっている」
と、あとがきにある。(野口富士夫の評価らしい)
親も戦後生まれなので、簡潔に良さを伝えるのは難しい。
「上官の夫人を伴った戦地からの引揚げの悲惨な旅の中で育つ奇妙な愛情を描く」と、この本の裏では紹介されています。
そう。そんな話。
矛盾しているようなタイトルも含め、味わいがあります。

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本のタイトルに使われている「彼岸花」は、小津安二郎の映画の原作になったもの。
一応爺やの書いた記事も目を通しておりまして、
「ああ。この作品でも原節子が、『女性の幸は結婚することという社会通念に押され、結婚して幸になってゆく女性』をやったのかな」
と思っていたら、出ていないそうです。笠智衆は出ている。
改めて考えると、女友達やおばさまを味方につけて結婚の許しを得たり、修道院に入っちゃったり、父親を裏切る(?)娘っ子たちが出てくる作品ですね。

| 日記 | 00:01 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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