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2018年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2018年11月

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北村薫    「中野のお父さん」(文春文庫)

主人公の文芸編集者、美希が遭遇する謎の出来事や事件を、定年直前の博識高校教師である美希の父が解決する短編集。

 私の小さいころは、本が一番輝いていた時代だったのだが、肝心な本屋が無かった。本屋は、注文をとった本や、定期購読の雑誌を5キロの道のりを自転車に積んで、毎週月曜日に村に届けてくれた。

 私の家では父が週刊朝日を買い、姉が「なかよし」私が「少年画報」を買ってもらっていた。発売日がわからなかったので、月曜日が近付くと胸がどきどきした。だから、配達の無かった日は本当にがっかりした。

 関東大震災の後、日本は不況になり、本は急激に売れなくなった。そこで改造社が文学全集を1円で発売。この円本が爆発的に売れた。これに追随して、他の出版社も円本を出版した。各巻の注文が出版社に殺到。どの全集も一冊あたり50万部以上の売れ行きがあった。

 注文本は郵便によって配達された。

このころの田舎では、郵便は歩きか自転車での配達。雪が降り積もると配達が困難となる。しかし電報は配達せねばならない。それで、この作品に登場する配達人は、雪の日は裸足で配達した。江戸時代から裸足の配達は当たり前のこと。足が靴そのものだった。

 蔵書家にとって、本は傷物であってはならない。広辞苑などの辞書が発売されると、出版社に直接購入にやってくる人がいる。そして、在庫している辞典を出版社が例えば15冊くらいテーブルにだす。その15冊を半日以上かけ、一ページ、一ページまくりキズが無いことを確かめ、一冊を選んで購入する。

 改造社発行の円本を隣同士の村の住人が購入していた。ある日、一方の住人が、もう一方の住人が訪ねる。縁側に座っていると、住人が円本を持ってくる。そしてお茶を差し出す。そのお茶の受け渡しに失敗して、本にこぼれる。すると住人が、本を開いて、お茶のシミを指し示す。

 あんたの失敗だから、あんたの持っている本と交換してくれと要求する。そこで2人は大喧嘩になる。

 その話を美希がお父さんにする。
お父さんはその話はおかしいと指摘する。本が閉じてあったのに、お茶がかかったとたん、開いてシミを指摘するなんてありえない。それにお茶がかかったら、まずは布巾で拭くだろう。
 その本は縁側に持ってくる前から、茶のシミはついていたのさと。

北村らしいまとめかただ。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村山由佳   「ラヴィアンローズ」(集英社文庫)

主人公の咲希子は、両親から邸宅、別荘を引き継ぎ、自宅の庭には、たくさんの種類のバラを育て、その花を使って家でフラワーアレンジメント教室を開いている。その様子を自身のブログに載せていたが、だんだん料理や趣味のことを載せ、それが評判となり、雑誌に活躍が載るようになる。暮らしへの心配は全くなく、カリスマ主婦という位置を手にしている。

 夫の道彦は映像や本などのデザイナー。咲希子の会社の取引先の会社のデザイナーとして出入りしていて、そこで知り合い咲希子と恋におち結婚する。

 道彦は結婚すると会社をやめ、独立する。この道彦が、強烈なモラハラ夫。おまえはダメな女だから、徹底して人間を変えてやるという態度で咲希子に相対する。

 咲希子は道彦と別れても何も困ることはない。むしろ自由にセレブの暮らしを謳歌できる。何故、道彦のひどいモラハラを毎日のように浴びながら我慢して追従せねばならないのかが、どうにも理解できない。こんな状態は完全に作り事で、今の時代にはありえないと思う。

 咲希子の雑誌記事が出版社の目に留まり、本の出版の話がでる。そして本のデザインはトップデザイナーである堂本が担当することになる。そこから、お決まりのパターンで咲希子は堂本に恋をする。

 この堂本とのメールをPCでしていたが、メールが道彦にも自動転送するように設定がなされていてすべて道彦が知っていることになる。

 このことで、大喧嘩となり、道彦に足蹴にされ、殴られる。その時道彦が何かに躓き、しかも咲希子も何かを振り下ろしたような気がした。気が付いたとき道彦は血を流し倒れていて、すでに息は無かった。

 その直後、堂本と咲希子は軽井沢の咲希子の別荘に行く。咲希子は思い切り堂本との愛に溺れようとする。

 そこで咲希子が聞く。
「私が夫と別れたらどう思う?」と。
「そんなこと夫が許すわけないだろう。」
「でも、万が一私が一人になったら?」
「なんでそんなことわざわざ聞くの」咲希子はため息をつく。
「冗談です、そんなに真剣に受け取らないで。」
「受け取るよ。冗談にしてもいいことと悪いことがあるじゃん。」
その夜。道彦は咲希子の体を引き寄せることは無かった。

 申し訳ないが、安手のB級恋愛映画を見せられている感じがずっとした。

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| 古本読書日記 | 05:53 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中島たい子     「院内カフェ」(朝日文庫)

朝子は孝昭と結婚して23年。朝子は相次いで両親を亡くす。その両親に付き添ってずっと介護、病人の世話をしてきた。この世話が大変で大きな苦労をしてきたのだが、2人の兄はその苦労を朝子に押し付けるだけで、朝子の大変さを少しもわかってくれない。

 両親が亡くなり、やっと介護、世話の苦労から解放されたと思ったら、今度は夫が治すことが不可能な原因不明の病気「潰瘍性大腸炎」に罹る。

両親や兄たちもそうだが、夫孝昭も朝子の苦労を少しもわかってくれない。ある日、「離婚届」を持って孝明昭が入院している病院に行く。いきなり「離婚届」を孝昭につきだすのは少し心が痛むので、病院にあるカフェで一休みして、自らを勇気つけていくことにした。

 カフェは混んでいて、一人で座っている席に「相席してもいいですか」と白髪の老人にたずねられる。

 相席になった老人が言う。さっき兄が亡くなったと。しかし亡くなった兄に対し恨みと愚痴がでる。あれほど、付き添い看護をしてあげたのに、感謝の一言もなく、いつも愚痴ばかりと。同じ兄弟なのに、こんなに恨むなんてと朝子は驚く。

 そして、気が付く。
幾ら世話したって、看護したって、病人の苦しさや辛さはわからない。それに、病気を治すことも辛さを和らげることもできない。
自分はただ傍らに座っているだけの人。

 動物は、死にそうな病気の動物がでると、放って捨てて行ってしまう。付き添う。寄り添うなんてことはしない。互いの心情を理解することはできない壁がある。

 大切なことは、人間は病気や老いがやってきて亡くなることを知っている。その時、壁ができる。その壁の存在を当たり前のものとして認識することが大切と、朝子は相席老人の話を聞いて思う。

 病院内にある院内カフェは、病院内にあることを忘れさせるほどに普通のカフェ。病人に合わせるメニューがあるわけでなく、まったく市中にあるカフェと同じメニュー。

 病人にも医師にも看護師にもそして健康な人にもまったく同じサービスを提供する。
 病院だから変わった人も来る。どんな人も拒むことはしない。
 でも病んでいる人がいつでも入れるように病人に寄り添うようにしているが、きちんと独立してそこにある。

 朝子は、こんな院内カフェのようになりたいと思う。

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村上龍    「半島を出よ」(下)(幻冬舎文庫)

村上は、現在の日本について、幻滅と危機感を強く感じている。更に村上はその幻滅国家に政治家も含め誰も気が付いていないことに強烈な怒りを抱いている。

 それがどういうことなのか、具体的に知らしめてやるという深く熱い動機を持ってこの作品を創り上げている。

 物語は、北朝鮮のコマンドが福岡に潜入、ヤフオクドームの観客を人質にして、福岡を占領してしまうというところから始まる。たった9人のコマンドとその後やってきた500人の兵士にまったくなすすべもなく、福岡が占領されてしまう。

 その時、日本政府のとった政策は、福岡を含む九州を完全封鎖すること。九州からの人、物、金の出入りを完全に止めることである。
 ということは、九州を日本政府は捨てたということである。

物語は奇想天外に思われるが、内容は実にリアリティがあり、生の現実が目の前で展開しているように進む。
 それを可能にしているのは、村上の膨大な現実の調査研究と、その完全な把握、そして見事に現実を文章にして反映させたことによっている。

 北朝鮮の軍の組織。兵士の有り様。無慈悲な兵士公開処刑と、福岡で逮捕拘留した日本人の金持ちに対するすさまじい拷問の描写。

 国家安全保障会議に参集する、担当大臣だけでなく、すべての官僚の肩書まで細かく描かれる。こんなところまで描くから1000ページも超える作品になるとその時は思うのだが、その細かさに知らぬ間に引き入れられてしまう。

 更に、この始末ができるのは、政府でも自衛隊でもなく、イシハラグループといホームレスの一団。ゆっくり考えればまったくありえない空想話なのだが、この過程の描写がリアルで実に細かい。

 北朝鮮の司令部が入居しているシーホークホテルの構造の徹底的調査。どこに爆発物を仕掛ければ、ホテルが崩壊、それも大濠公園の北朝鮮兵士居留区に倒れ、居留区を殲滅できるかの分析。そして綿密な計画と実行。実に多くのページを割いて説明描写されている。

 この物語の成功は、村上の綿密な調査によって成されている。

リアリティが無いと思ったのは、福岡占領は金首席によってなされているにも関わらず、占領後金首席の司令、指示がなく、コマンドトップの裁量で占領政策が実施されてゆくところ。
そこだけ。

 それにしても、村上は九州は日本から独立すべきと思っているのではないかと読了して感じた。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍    「半島を出よ」(上)(幻冬舎文庫)

この作品は2006年に出版された。その時点で2011年がどうなっているかを描く近未来小説になっている。

 安倍首相を評価する人々には、安倍外交の成果を強調する人が多い。安倍首相のような積極外交をできる人はいないと。
 しかし、世界中を政府専用機をふんだんに使い、飛び回っている行動の派手さに比べ、成果は殆ど無いように思う。

 トランプ大統領が誕生したとき、へつらうように大統領の自宅まで飛んで行き、トランプと最初に話をした外国首相として宣伝、その後安倍トランプは強固な絆で結ばれていると自画自賛したが、本当にそうなっているかはかなり疑問だ。

 鉄鋼製品、韓国のほうが日本よりアメリカへの輸出額が多いのに、韓国製品は関税そのままで、日本の製品には25%の制裁関税が課せられた。今日本アメリカ二国間の貿易交渉が行われようとしているが、安倍トランプの絆により、トランプの圧力が弱まったり、その圧力を跳ね返せれるかはミゼラブルな状況だ。

 北朝鮮の拉致被害者を取り戻すことを確約し、金正恩と直接会うと言っているが、全く見通しがたっていない。口先ばかりである。

 プーチンとは首相就任以来22回も会談して、プーチンとはすばらしい良好な関係を築いているというが、北方領土問題は全く解決の兆しはない。

 この作品は、日本が崩壊に向かう過程にあることが前提にした物語。村上は今の日本をみて、このままでは日本崩壊になることを確信している。

 物語の舞台である日本の状況。日本が信じているアメリカは、日本ではなく、大事な国は、中国、韓国であり、更に北朝鮮についても良好な関係を築こうとしている。日本駐留米軍は削減され、安保条約破棄を日本に迫っている。アメリカから輸入する食料、飼料は35%も価格をアップする。

 円は弱くなる。だから、インフレは極端に進行。円を支えるために、買い支えるが、その外貨準備金も底をついている。国内は大不況。ホームレスは溢れ、失業率は9%を超える。自殺者も年間9万人。消費税は20%近くまでアップされる。

 アメリカに見放され、孤立化が進み、大不況のなかにある日本の福岡に、北朝鮮のコマンドが襲来し、福岡を占拠する。

 日本政府は、コマンドと戦うと、それにより多くの日本人の犠牲がでることを恐れ、九州を封鎖するという対応をとる。ここからストーリーはスタートする。

 現在日本は村上が描いた状況にはなっていないが、何か衝撃があれば、即村上が想像したような国の有り様になるのではと思えてしまう。恐ろしいことだ。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍     「長崎オランダ村」(講談社文庫)

村上龍の傑作青春小説「69」。深夜高校に忍び込みバリケードを築く。その途中でナカムラが、校長の机にうんちをする。村上のでっちあげだと思っていたら、あとがきでどうもナカムラは実在のモデルがいて、うんちも実話ではないかもしれないと半信半疑でいたところ、この作品を読み、うんちは実話だったのだと知り改めて驚いた。

 この作品にそのナカムラ君が主人公で登場するのだ。ナカムラ君は現在、長崎で小さなイベント企画会社をしている。長崎にあるオランダ村(実際は佐世保のハウステンボス)で40日間、世界の大道芸人やダンサーを集めてワールドフスティバルをやる。その企画運営をナカムラ君の会社が引き受ける。

 ナカムラ君の会社は、ある県の大きなセレモニーで大失敗をして、この企画を無理やり引き受けさせられた。

 何しろ、飛行機に乗ったこともないような、世界の田舎のまともではない人たち(こういう人たちのほうがギャラが圧倒的に安いから)が東京を超えて、日本の西端の長崎にくる。
 一日10件はトラブルが起きる。こんな企画を受ける会社は無い。

コートジヴォワールから10人の舞踊団が来る。羽田まで迎えに行く。「鼻にわっかをはめて、どくろのついた杖をついている」とまではいかないが首や手や足にジャラジャラとわっかをはめ、体中に短剣をつけている。よく飛行機に乗れたものだとびっくりする。

 こんな人たちがぞろぞろやってくるのだから世話はたまらない。

歓迎式典が開かれる。誰一人聞いている人などいない。
 トリニダードトバコの連中が式典そっちのけでコカインをやる。コロンビアのバックバンドがマリファナを吸う。式典には警察のお偉いさんも招かれているというのに・・・。

 長丁場の滞在、休みの日にレクレーションとしてボーリング大会をする。これが大変、ボーリングなんて誰も知らない。だからルール説明をする。英語、フランス語、スペイン語、トルコ語、韓国語と順次言葉を変え説明する。そんなのを待てない。フィージーの酋長が説明終了の前にボールをかついで投げる。ピンのそばでどでかい音をたててレーン上に落ちる。転がすのだと教える前に、一斉射撃のようにボールを投げる。ブラジルの女の子は股下から投げて7mも飛ばす。

 何とかして転がすことを教える。すると全員がボールを持って転がす。一人ずつということを教えてなかった。ボールが集中したレーンは破壊される。

 こんなてんやわんやが、オランダ村に講演にきた作家のケンとナカムラ君の対話で描かれる。

 時々、大作家ケンが、上から目線でひとつひとつの出来事に講釈をのたまう。最後は40日間の大騒動で人生は変わったかなどという高邁なテーマが語られる。

 ケンを尊敬しているが、落語の与太郎みたいなナカムラ君と、隠居のじいさんのようなケンとのしゃべりあいが実によくできている。

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村上龍    「恋はいつも未知なもの」(角川文庫)

幻の魅惑のジャズバーがある。女性シンガーが奏でるボーカルの、心やすまる麻薬のような歌声に酔いしれる。行ったことがある人は多いが、そのバーは、不思議なことにどこにあったのか場所がみんなよくわからない。マンハッタンだったという人もいるし、ウィーンだ、カサブランカだ、六本木だ、銀座だとそれぞれに言う。

 そんな幻のジャズバーを軸に、ジャズの名曲の歌詞とともに、それぞれの曲にまつわる洒落た恋愛をつづる掌編集。

 一等地にあるバー。こういう店は、店が客を選んでいる。出版社、代理店、テレビ局、ファッション、そして有名人たち・・・。彼らは接待されたり、接待したり、女に口説かれたり、口説いたりする。だが、彼らはこの国を支えているのではない。むしろ逆だ。「普通のサラリーマン」に支えられて生きているのだ。

 もうこの文章だけで、超えられないガラスの天井があり、私には別世界でため息ばかりがでる。

 「欲望という名の電車」というクラッシクな名映画がある。この映画でマーロンブランドはオスの力でビビアンリーを屈服させる。
 ここで主人公の相手が質問をする。
「知的な女性を屈服させるのは、オスとしての力か、社会的力例えば大企業の社長というような、背景で屈服させるのか。どちらが難しい?」

答えを躊躇していると、彼が説明する。
 「医者だとか、自分は大企業の副社長なのだか、そんな社会的背景を力にしても女はなびかないし、征服できない。
 頭のいい女ほどオスとしての総体を欲しがるんだ。社会的背景に目がいくような女ほど本当なバカなんだ。」

 そして名曲「DON’T EXPLAIN」(何も言わないで)の和訳が「オスをひたすら愛する知的な女の歌だよ」というしゃべりの後に続く。
 ため息しかでてこない恋愛小説集である。

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堀川アサコ   「幻想短編集」(講談社文庫)

幻想シリーズといえば、名作「幻想郵便局」それに「幻想探偵社」。この短編集は、郵便局を不思議な風景として登場させているが、主な活躍場所は探偵社で、幽霊と人間世界を行ったり来たりしている、大島探偵と主人公の中学生楠本ユカリの活躍が描かれる。

 登天郵便局に手紙が届く。

三上冬美という女性あての田浦レミという女性からの手紙。田浦は三上を心底嫌っている。宝船ミスコンテストで田浦は自分のほうが美人でスタイルもいいのに、劣っていると思っている三上がミスに選ばれたことに何で自分が準ミスなのか納得できない。三上が裏で工作したに違いない。最低な女。三上に必ず厳しい仕返しをしてやるとの脅迫状。

 その後、三上に「命が惜しかったら佃陽一と別れろ」と脅迫状がくる。そこで、三上は幻想探偵社を訪ねる。

三上が朝目を覚ますと大事なぬいぐるみがぎざぎざに引き裂かれている。誰かが忍び込んだのだ。三上が駅で電車を待っていると、突然男に突き飛ばされ線路に落ちそうになる。三上を尾行していた大島が犯人を捕まえる。顔をみると若い優男。なんと恋人佃陽一だったのだ。

 三上冬美は佃から愛の告白を受けていた。一方でミスコンテストを争った田浦は佃が好きでたまらない。それにしても、どうして大好きな三上を恋人佃が突き落とす。

 実は三上は上司の猪狩部長から言い寄られるパワハラ、セクハラを受けていた。思いを遂げるため、派遣社員だった佃の契約を、自分の命令通りに動かないと契約を更新しないと脅迫され、脅迫状を作ったり、ぬいぐるみを裂いたり、プラットホームから突き落とそうたりしていた。そして、恐怖の渦中にある三上冬美を猪狩が助けるようにして、猪狩になびくことを目論んでいた。

 とんでもない部長である。しかし、こんな部長が実在していても不思議では無い今の時代にぞっとする。

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| 古本読書日記 | 05:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍    「あの金で何が買えたか」(角川文庫)

最近は兆円という単位が当たり前のように見聞きするようになった。億までは実感があるが、兆となると現実感が乏しくなる。

 バブルがはじけた時、いくつかの銀行が倒産はしたが、金融システムを守るためという名目で60兆円のお金(税金)が銀行に投入された。この本では、各銀行に投入されたお金や当時破綻した山一証券、そごうなどの負債額が、他のものに置き換えたらどんなものに使えたかを絵本により表現している。

 金額だけをみていたら実感が薄いから、どれだけのことができるのかを絵によって明らかにしたと自慢気に書いているが、それがどんな意味を成すのか、私としては首をかしげる。

山一証券の負債総額は二千三百億円。山一証券が倒産時、BMWがロールスロイスを購入した。その金額が九百五十億円。山一証券の負債総額でロールスロイスが軽く買えたのである。

 旧富士銀行には一兆円の公的資金が注入された。同じとき、アメリカのマスメディア企業タイムワーナーがCNNを購入している。それが九千五百億円。もったいないと思うだろと村上は言いたいのだ。

 算出根拠はわからないが、ボルドーのワイナリーを買い占めると12億円。敬老の日に65歳以上の人全員をすし食い放題、酒飲み放題で招待し、元気になってもらい医療費を削減する。この招待に係る費用が2000億円。

 そして、これも算出根拠不明なのだが、この本が出版された2000年当時、アメリカの不動産王トランプを購入したら、その額は八十六億四千万円。安いか高いかよくわからないが、あまり欲しいとは感じない。

 しかし、村上ならではの、銀座高級クラブの美女を愛人に持つ。この究極の愛人にかかる費用は初期投資で10億円だそうだ。あほらしい。

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アンソロジー    「五輪小説傑作選 作家たちのオリンピック」(PHP文芸文庫)

オリンピックを題材にして書かれた短編を収録。収録作品を書いた作家も、城山三郎、浅田次郎、奥田英明、小川洋子、海堂尊など現在の代表作家ばかりで、内容のレベルも高く、素晴らしい短編集になっている。

 その中で、作家の特徴がよくでていると思ったのが奥田英朗の「名古屋オリンピック」。

思い出す。時は1981年9月30日。ドイツのバーデン バーデンで開催されたIOCの総会。ここで1988年のPリンピック開催都市が決まる。特に関心があったわけではないが、開催都市決定の瞬間を深夜テレビで見た。

 開催都市に立候補していたのが名古屋とソウル。下馬評では大差で名古屋ということになっていた。だから、名古屋決定の瞬間から番組は祝賀プログラムが周到に準備されていた。

ところが結果は52票対27票、圧倒的差でソウルに決まる。「ソウル」と発表された瞬間、聞き間違いではないかという空気が流れ、画面が一瞬凍てついた。番組もすべてがひっくり返り、その後流すプログラムが無くなってしまった。

 そんな時、名古屋出身の主人公の久雄は大学を中退して、小さな広告代理店に入り、3年目をむかえていた。社長は久雄の能力を買っていて、社長がとってきたPR誌の仕事を、部下も3人久雄が採用して、すべてを久雄に任せた。

 久雄は、同い年を一人、一つ下を二人採用する。同い年は久雄と同じ大学中退の鈴木。年下は短大出たての厚子、それに専門学校出の原田。

 厚子はそれなりに使えるが、原田と鈴木はどうしょうもなくできが悪い。仕事を久雄は、手順を踏んで教えるのだが、その通りやれたためしはなく、クライアントとトラブル。ただでさえ忙しいのに、その対応はすべて久雄が行う。久雄はかりかりしてどなりつけるのだが、全く治らない。完全に一人で仕事や会社を回していると思うような状況。

 原田は何とか指導するが、もう鈴木は完全に馘だ。

名古屋にオリンピックがやってくることが決まる日、久雄は社長に呼び出される。
厚子が会社を辞めると言っているという。深夜まで残業はさせられるは、土日も殆ど休めない。仕事は面白いが、体がもたないと厚子は言っている。

社長は「久雄は素晴らしい。おかげで取引先も増えているし、売上も増えている。これからもこの調子で頑張ってほしい。」と言った後、付け加える。

 「みんな仕事一筋というわけではないんだ。こんな小さな会社だから、定時に帰れるということは無い。若い時は仕事に夢中になって当然。趣味や他の生きがいは年寄りに必要なこと。若いうちは仕事で頑張るのは当然。しかしそれでもやはり限度というものがある。
 鈴木と原田を随分叱っているんだって。あれもできないこれもできないというふうに見るんではなく、発想を変えろ。あれはまかせられる。これはできると良い面をみてやるんだ。」

 久雄は3人の採用するときを思い出す。自分より優秀で、能力のありそうな人は不採用にした。絶対自分より出世するような人間は拒否した。お腹の底から苦い汁が込み上げてきた。

 自分だけが会社をまわしている、その慢心さが切ない。絶対間違いないと誰もが思っていた名古屋もその夜ソウルに負けた。確かに苦い。

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村上龍   「心はあなたのもとに」(文春文庫)

トーンは私が子供のころ大ベストセラーになり映画化もされた「愛と死をみつめて」と同じ。

ただ違うのは、主人公の西崎が投資組合を経営、それが常に成功して、大金を持っていること。毎晩銀座で豪遊5-60万使っても、まったく懐が痛まない生活をしていること。

 この物語。西崎に村上は言わせている。「恋愛が成立するのは経済だ。」と。

西崎には3人の愛人がいる。そのうち2人、香奈子とミサキは元風俗嬢。もう一人のアベマチコはテレビニュースキャスターをしていて、今をときめく人気才媛女性。

 この中でヒロインとなるのが香奈子。先天的な1類糖尿病患者で、しばしば他の大きな病気を併発し、病弱。西崎はこの香奈子を愛し、香奈子も西崎を愛する。しかし、理由はどうにでもつけることができるが、西崎はミサキともマチコとも定宿ホテルがあり、スィートルームでしょっちゅう肉体関係を持つ。

 結局、香奈子の病状が悪化し亡くなり、悲恋でせつない物語になって終わる。

凡人にはまったく理解しがたいのだが、この物語、西崎には妻と2人の娘がいるのだが、物語に全く登場しない。

 家に帰らず、ホテルで愛人とSEXしていようが、海外旅行に愛人を連れて行こうが、香奈子の手術費用、入院費用、それも何回も、更に香奈子の生活費用、学校の入学、授業料を西崎が全部面倒をみようが、全く家庭に摩擦、不和が生じない。

 多分作者村上も同じように、愛人に囲まれた生活をしているのだろう。
正直、僻みだとはわかっているが、あまり後味はよくない。

 「貧乏人ども、恋愛の基盤は経済だ。おまえたちには到底恋愛は無理。」と高笑いしている村上の姿しか残らない物語だった。

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嵐山光三郎  「漂流怪人・きだみのる」(小学館文庫)

  明治28年、奄美大島で生まれたきだみのる。翻訳家、漂流する旅行家、詩人、社会学者、翻訳家、小説家と多面的な顔を持ち世界、日本国内を、定住地を持たず、実娘ミミちゃんを連れ放浪したまさに怪人。

 戦前では、林達夫と共著でファーブルの「昆虫記」を翻訳。戦争に一直線に進んでいる時代にパリへ留学。そこで社会学を学ぶ。そして帰国途中、モロッコ経由で帰ってくる。当時は、出征兵士となり海外に行く時代、そんな時代に海外から帰国してきた変わり者。

 1946年疎開地での混乱のありさまを書いた「気違い部落周游紀行」が大ベストセラーになり、一躍流行作家となる。

 この作品は森繁久彌など豪華俳優が出演し、「気違い部落」というタイトルで映画化され大ヒット作品となる。きだみのるはタイトルは「愉快な村」にしようかと提案したがそれではインパクトが無いということで「気違い部落」となった。1975年にきだが亡くなった時、NHKはきだの代表的な作品をタイトルゆえに紹介できなかった。

 この本は、平凡社の編集員だった著者が、雑誌「太陽」に日本の集落をきだと一緒に尋ね、その旅行記を連載することが決まり、その同行記として書かれた作品。

 きだの破天荒ぶりが嵐山により活写される。驚いたのは、きだはダダイズムに興味を示し、ダダイズムで有名な辻潤と親交があり、辻の妻伊藤野枝が、大杉栄に走り、その伊藤や大杉をよく知っていること。さらに大杉や野枝を殺害した甘粕大尉とも交流があったことと、それをリアルに告白しているところ。

 この作品が連載されていた1970年のころ、伊那に滞在した嵐山ときだ。当時は選挙では買収は当たり前の時代。国会議員であれば一票3000円。県会議員は2000円。村会議員は1000円が相場。

 その時、県会議員選挙がある。トミさんの家では、ばあちゃん、夫婦、息子2人だから5票で10000円。ところが選挙中にばあちゃんが亡くなる。それで10000円もらうが、おつり2000円を買収員に渡したそうだ。

 なかなか面白い話だ。

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村田沙耶香    「コンビニ人間」(文春文庫)

 会社で働いていた時、自分の職場は必要悪と言われた。ビジネスプロセスの中で、どうしてもなければならない業務なのだが、会社の中では最も仕事ができない奴が就く仕事だ。

 私の職場がそうであったわけではないが、色んな企業小説を読んでいると、大きな失敗をした人が必ず左遷される職場が倉庫番だ。私の職場も、似たような職場だった。

 倉庫番に左遷されると、まず殆どの人が、こんな腐った職場にいられるものかと会社を辞めた。ただし、辞めたその後はあまり幸な道を歩めた人はいない。

 私のいた職場も必要悪でだめな奴の吹き溜まりと思われていたので、陽のあたる職場で使い者にならないという社員がでると、そこの上司が馬鹿にしたような物言いで「おまえのとこででも引き取ってくれや」と当然のことのように電話してきた。抗弁などとんでもないことで、全員引き取った。

 倉庫番は、プロセスの要で関所だ。倉庫番が承認し、動かないと、商品は受け取れないし、市場への出荷もできない。そこには、関係部署が従い守らねばならないと倉庫番が創り上げたルール、独特の風土、世界がある。そのルールに従わない者は、倉庫番が厳しくうちのめす。面白いもので、リストラがあると、陽のあたる職場の人は退職させられるが、憎まれ口をたたかれ、最もみんなが嫌う倉庫番は、対象にならない。

 それで、数十年にわたり倉庫番をした人は、居酒屋あたりで「今の社長には、昔倉庫でしょっちゅうどなりちらしてやった」などと、俺が社長にしてあげたくらいに言い放つ。

 普通社会の見る目と倉庫番から見る目のコントラストの違いがすさまじい。

コンビニも今や、社会には必要不可欠の存在になった。しかし、そこで働く人々については、社会の最も底辺にいる人たちと、一般世界は規定する。しかし、その人たちがいないと、必要な存在が消える。18年間もコンビニで働き、コンビニの視点から社会を眺めると、一般から大きくズレていることはわかる。

 しかしコンビニは社会が必要としている。だから、そこで働く人も存在しなくてはならない。

 いやいや働いている白羽。自分がそこにいるのは自分が原因ではなく、縄文時代から変わらない社会がおかしいからだと、社会の責任にする。何だか、倉庫番にまわされた人を見ているようだ。

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村上龍    「希望の国のエクソダス」(文春文庫)

 この作品によると、ネットを始めとしてIT技術を習得して、新しいアイデアを創造できる力が最も発揮できる年齢は13歳だそうだ。

 登校拒否児がクラスに一人、二人いるぶんには、あいつなら仕方ないで済むが、クラス全員や、大半が登校拒否をしたらそれは大ごと。

 この物語は中学2年生のポンちゃんこと楠田譲二がネットで呼びかけ、中学校には登校せず、ネットで仲間を募り、ベルギーの通信会社に映像を提供するという商売を皮切りに、次々ネット商売を立ち上げ成功を収め数兆円の儲けをあげる。

 このネットワーク仲間での登校拒否中学生は60万人にも達する。流行の火付け役は常に中学生。このネットワーク仲間に多くの企業が乗りたいとアプローチしてくる。
 ネットワークでは、新たに、自分たちが学びたい内容を学べる学校を創設。文科省に学校認可をさせる。

 ポンちゃんが国会に参考人として招致され語ったことが強い印象を残す。
「戦争のあとの廃墟の時代のように、希望だけがあるという時代よりは今はましだとは思います。九十年代、僕らが育ってきた時代ですが、バブルの反省だけがあって、誰もが自信をなくしていて、それでいて基本的には何も変わらなかった。今、考えてみると、と言うことですが、ぼくらはそういう大人の社会の優柔不断な考え方ややり方の犠牲になったのではないかと思います。
・・・食料や水や医薬品や車や飛行機や電気製品、また道路や橋や空港や港湾施設や上下水道施設など、生きていくためのものがとりあえず全てそろっていて、それで希望だけがない、
という国で、希望だけしかなかったころとほとんど変わらない教育をうけているという事実をどう考えればいいのだろうか。」

 この物語は、書いたのは村上だが、テーマにより、専門家が何が起きているのかという知見を提示して支援している。だからネットや電力、金融などテーマによって、がらりと表現方法が変わる。

 著者村上龍だけでなく、専門家たちとの共作でもよかったのではと思う。

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新潮文庫編集部編   「山崎豊子読本」(新潮文庫)

 山崎豊子が創り上げた数々の大作、名作を、その作品が書かれたときの山崎の執筆情景や、取材活動をよみがえらせるとともに、その作品についての山崎のエッセイを差しはさみ、山崎を読むための優れたガイドブック。

 山崎は、想像ではなく、現場を踏破し、徹底した取材を敢行、そこから壮大な物語を創り上げた。「不毛地帯」執筆でも驚愕するのだが、シベリア抑留現場を調査するために、当時はソ連が共産主義国で訪問が困難な地にも拘わらず、その壁を突破し、何とたった一人でハバロフスク、イルクーツク、バイカル湖、モスクワまでマイナス30度にもなる極寒の地を踏破している。

 確か「大地の子」でも、三峡ダム建設現場にゆき、労働者とともに何日間か寝起きを共にしたというのを山崎の秘書、野上孝子の著作で読んだような覚えがある。

 大戦中のアメリカでの日系人の苦難な暮らしを描いた「2つの祖国」。
 ロサンジェルス邦人新聞記者をしている天羽。家族で強制収容所に収容される。末弟はアメリカに忠誠を誓い、パリ戦線に送られるがそこで戦死。もう一人の弟は開戦前日本に留学.。

その後消息不明。天羽自身は情報担当官として、日本の暗号解読に携わるが、その後フィリピン戦線に派遣される。そこで、やせ衰えた一人の日本兵に遭遇する。それが、留学して不明になった弟だった。驚くことに、この天羽兄弟と同じ体験をした日本人を山崎は探し当てている。

 この「2つの祖国」について日系人強制収容所体験をしているジェームス荒木教授が、天羽のフィリピン戦線描写の場面について硝煙の匂いがしないと著作で書く。実は、綿密な取材を基盤にして作品を描く山崎がフィリピンでの取材はしていなくて、想像で描いていた。

 そこで山崎は同じ新聞記者だった倉田玲をモデルに短編を書いている。その短編のためにフィリピンで取材、調査を行う。
 私は、山崎の全作品を読破しているが、倉田記者を描いた短編「ムッシュ クラタ」が山崎の作品では最も好きだ。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍  「櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている」(幻冬舎文庫)


2011年1月から2012年6月までのエッセイを厳選して収録。

ベトナム戦争で超大国圧倒的軍事力を有するアメリカが、なぜアジアの後進国ベトナムとの戦争に負けたのか。
いろんな理由はあるだろうが、村上が指摘している理由も大きいと思う。

アメリカでは人間にとって最も大切なことはヒューマニズムであることを、子供の頃から徹底して教え込み刷り込ませるからである。

 日本でも、昔ある首相が言ったが、「人の命は地球より重い」と。しかし、つい最近まではこんなことを日本では教えていなかった。戦前は、人の命より天皇の命の方が大切と教えていて、皆がそれを信じていた。だから、天皇の前では、自分の命を捧げることは厭わなかった。

 ベトナムは社会主義で当時、自分の命より、ホーチミンの命のほうが大切と刷り込まれていた。

 アメリカ兵は、戦場で、自分の仲間が目の前で殺されたり、ベトナム兵や民間人に発砲して、血を流して彼らが倒れ死んでいく現場のむごたらしさに耐えられなかった。それで、帰還した兵員の多くが、精神的衝撃を克服できずに半病人のまま生きることになった。

 しかし、ホーチミンを魂の中心に置いているベトナム人は、アメリカ兵を殺害することに迷いはなかった。それで、精神的ショックを受けることは無かった。こんな人たちを相手にするアメリカ兵は辛い。

 なによりも人間の命が大切だと教えていない国はまだまだ地球上にはけっこうある。特に、中東やアフリカに多い。
 そして、朝鮮半島に典型的な国がある。

私の高校時代の中国もそうだった。毛沢東がどの人民より大切な人だった。それにより、何百万という人が殺害された。

 最近、中国では習近平を毛沢東同様に崇め神格化しようという動きがでている。
 よもやとは思うが、少し不気味である。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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屍活師 全18巻

祝☆完結  前回の感想 前々回の感想

女王様の味覚障害や、挫滅症候群ネタでの狩谷先生の行動もちゃんと回収し、きれいに終わっています。
思い込みが激しく捜査を邪魔しがちな主人公の成長も描写。
1~17巻まで安らかに眠っている人物の表紙を続け、最終巻だけ微笑んでいるってのが、巧いですね。

頭をぶつけた直後は何ともないけど、徐々に意識が薄れ……というパターンは何度も使いましたね。
柔道部の顧問に投げられた中学生もそうだし、トラックに引っ掛けられたおっさんもそうだし、駅伝で転んだ彼もそうだし、今回のバレー部の監督に殴られた高校生もそう。
キアリ奇形の彼女は違うか。
普通に暮らしていてたんこぶで来た時も、「じわじわ出血しているかも」と思ってしまう。
最後に主人公が「見逃されていた虐待に気づけるような医者になりたい」と言いましたが、体罰・虐待・DVネタもいくつかあった。

すごく絵が上手い作者さんではなく、「この表情・この角度・多いなぁ」と思うわけですが、いい感じにまとまっている作品だと思います。
デパートで起こる珍事件とか、学園サスペンスとかも、前に読んだな。
医療モノはいいですね。
ちなみに、映像化したとき女王様は松下奈緒だったらしいですが、もっと日本人離れした濃いイメージです。
女王様の家族については一切出てこなかったです。脱線しないのはいいことだ。

| 日記 | 23:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍   「限りなく透明に近いブルー」(講談社文庫)

言わずと知れた村上を世にだした処女作でかつ芥川賞受賞作品。芥川賞受賞作品、単行本として最も売れたのが又吉直樹の「火花」。しかし単行本、文庫本合算では圧倒的な販売数を誇るのがこの作品。

 村上春樹の作品を読んでいると、自分と同じ社会に村上春樹は住んでいないのではないか、全く違った社会に村上春樹はいるのではという思いがいつもする。

 この作品も、登場人物は我々の世界とは異なる世界に住んでいる人たちのように表面的には思える。しかし、この作品は、客観的に冷徹にこちら側から活写している表現になっているため、異なった世界を描いているようには感じない。

 物語は米軍横田基地のある福生。ここで米軍専用の元住宅であるハウスで、主人公のリュウ他、複数の男女と米軍人たちがコカインやLSD,その他のドラッグを浴びるほど乱用して、発狂状態で乱交をする世界を描く。通称パーティと呼ばれている。

 このパーティは毎日、それも延々と長い時間開催される。麻薬を大量に摂取するため、狂乱のSEXを超え、吐瀉物が散乱。そして、必ず血が流され、病院に運ばれる人間がでてくる。このパーティを描写する村上の表現はリアリティがありすさまじい。

 狂ってしまうと、警察が踏み込んでも、女の子は裸を隠そうとはしない。そのまま真っ裸で床に横たわっている。
 このパーティのメンバーはほぼ同じ。いつも、塊となって、狂乱、騒乱し、叫び、会話行動をする。その塊は社会から離れ、勝手に別世界のようになって転がっている。

 しかし大量の酒や、麻薬はただでは手に入らない。金は我々の世界で働いて手にいれなければならない。それが続くと、塊の中には、このままでは人生が終わってしまうという考えが大きくなるメンバーもでてくる。そして塊を抜け出そうとする。

 そんな時、主人公のリュウは、黒い夜そのもののような巨大な黒い鳥をみる。窓の向こう側から嘴で窓をつつくが、その姿は大きすぎ全体はわからない。足で踏みつぶされた蜘蛛は何が自分を踏み潰したのかはわからない。しかしリュウは、自分を襲って潰そうとしているのは巨大な鳥であることがわかる。

 その鳥こそが、私たちが住んでいる世界。そしてリュウたちの塊だって、我々の世界の一部。

 襲ってくる巨大な鳥にリュウは強く願う。やさしく自分を包んで欲しいと。

村上龍は我々と異なった世界にはいない。我々と同じ世界でもがき苦しんでいる。

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| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍   「69 SIXTY NINE」(集英社文庫)

 村上と私の年齢差は1歳。だから、殆ど同じ空気を高校のとき味わっている。
タイトル「69」。また龍独特の過激なエロを描いた作品かと思って読み始めたら、SEXの「69」ではなくて、1969年、村上が高校2年の時を描いた作品だった。

 一年前に東大の安田講堂の封鎖を解かれ、学生運動が終焉したが、まだ、学校の中にはその名残があった。そこで、この物語のように、学生運動のスタイルだけを真似て、ふざけた騒動を高校で起こす。

 私は高校生の頃、音楽の授業が嫌いだった。なにしろこれが音楽の先生かと思うような先生。ピアノを人差し指だけで鍵盤をたたいて弾くような先生だった。それで、音楽教師の部屋のドアの前に机や椅子を積み上げ、バリケード封鎖をしてしまった。
 先生は、中から「誰だこんなことをするのは。すぐバリケードをどかしなさい。」と声を上げた。どんなに叫ばれても、ずっと無視した。

 最後には涙声になって「ここから出してください」と叫んでいた。ばかなことをしたものだと今でも思い出すと胸が疼く。

 この物語でも、真夜中に学校に忍び込んだ主人公といつもの仲間が、玄関にペンキで「国体粉砕」とか職員室の窓に「権力の犬ども、自己批判せよ」などと書きなぐり、最後は屋上にでて、「想像力が、権力を奪う」という垂れ幕をたらし、ドア口をバリケードで封鎖する。

 このことを、朝、主人公矢崎が故意に新聞社、テレビ局に電話。学校関係者より、マスコミが異常事態を最初に知り、大騒ぎとなる。この結果矢崎たちは無期限停学という措置を受ける。

 バリケード封鎖の過程で、仲間のひとりナカムラがトイレに行きたくなる。しかも、小ではなく大のほうだ。矢崎はトイレに行くことを許さない。そして、校長の机の上にしろとナカムラに命令する。ナカムラは悲壮感の中、校長の机の上でウンコをする。

 これは、完全に作り話。こんなレベルの低い作り話を書いてはいけないと思って読んでいくと、最後に、作家になった矢崎にナカムラが言う。「とうとう書いちゃうんだね。」。え、本当にあったことなのか。

 勤労感謝の日、労働会館を借り切ってフェスティバルをする。この祭りのタイトルが「モーニング・エレクション・フェスティバル 朝起ち祭」。凄い名前だ。

 徹底的に陽気で楽しく、悩み、暗さと無縁な元気いっぱいの高校時代の物語だ。

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村上龍   「カンブリア宮殿 村上龍の質問術」(日経文芸文庫)

 テレビ番組「カンブリア宮殿」にゲストとして登場した主に、会社経営で大きな成功を収めた経営者人たちへのインタビューを収録した作品。

 経営の成功話や、秘訣、エピソードは何か文字にすると、感性が私に無いのか、決まりきった常套句ばかりで、興味がわかなかった。その中で日本電産の永守社長の話がおもしろかった。

 昭和28年。戦争の残滓が残り、日本中が貧乏だったころ、洟垂れ小僧だった永守が友達の家に遊びに行く。

 貧しい時代で、貧しい服を着て遊びに行く。ところが、招いた彼は、詰襟を着て、スイス製の時計をはめて、革靴をはいていた。座敷に通される。そこにはドイツ製の模型列車が走っている。

 3時になるとお手伝いさんが「お坊ちゃまおやつの時間ですよ」と白い三角形のものを持ってくる。「それは何?」と聞くと「きみ、チーズケーキだよ」と教えてくれる。金持ちはケチだ。白い三角のものは一つしか出してくれない。彼にお願いして、ちょっぴり食べさせてもらう。めちゃくちゃおいしい。

 下に降りたら、今度はジューっと音がする。何かあかいものを焼いている。「それ何?」と聞くと、「なんだこれも知らないのか。これはステーキというものだ。」

 それで、最後に彼に聞く。「おまえの親父は何をしているの」と。「社長だよ」と答えが返ってくる。社長はどういうものか知らなかったが、小学3年生だった永守は大人になったら社長になると作文に書いた。

 永守は、京都でバラック小屋に2人を雇い工場を始めた。取引をしようとしているお客が京都にやってきて、「工場は?」と聞く。でも、京都の名所旧跡を連れまわすだけで工場には連れていかない。帰りの時間は決まっているので、それまで引きずりまわす。とてもバラック小屋など見せられないから。中にはしつこい人もいて、工場を案内せざるを得ないときがあるが。工場を見せると絶対取引はしてくれなかった。

 村上はこのエピソードの前に、ナチス強制収容所に収容されて生き残ったフランクリンの作品「夜と霧」をひいている。
 私も心に残っていたが、収容所で生き残った人は、剛健な体の人ではなく、常にユーモアを愛し、話せる人だったと言う。
永守の話は、人を励まし、なごましてくれるユーモアがある。

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村上龍    「ラッフルズ ホテル」(集英社文庫)

同名映画のノベライズ版。この本は1989年に出版された。同じ頃、よくシンガポール、マレーシアに出張ででかけた。

 ラッフルズホテルのアーケード街に何回か行った。モームや、コンラッド、ヘッセ。キップリングが馴染みだった、ロングバーやライターズバーにも行った。彼らになったつもりで、カウンターにもたれて、カクテルを飲んだ。

 仕事仲間と中華レストランにも行った。味はあまりおいしくなかった。
 玄関を背に、早見優がグラビア撮影していた。

高度成長時代は未来が明るくみえ幸な時代だったと、懐古主義の人たちがよく口にする。しかしこの本が書かれたバブル時代の方が、高度成長時代より、圧倒的に華やかで、幸福感絶頂の時代だった。

 萌子は女優。しかし、そんなに売れているようには思えないし大した女優ではない。その萌子がカメラマンの狩谷を追いかけ、ニューヨーク、シンガポールに行く。
 とても贅沢ができるほどお金があるとは思えない女優なのだが、バブル時代は多くの人たちが考えられない贅沢ができた。

 ラッフルズホテルに宿泊。専属の旅行案内人が派手なクラッシクカーでどこへでも案内してくれる。
 宿泊は最上階の最高の部屋。ケネディーズルーム。ヘミングウェイ作品の映画「キリマンジャロの雪」「日はまた昇る」に主演した大女優がパンティーを置き忘れた部屋に宿泊し、
350万円を払って、部屋いっぱいに蘭で埋め尽くす。

 一方相手の狩谷は、カメラマンは廃業していて、ITを中心にした投資会社を起こし大成功。女中を抱え、シンガポールの豪邸に住んでいる。

 マレーシアのフレイザーヒルにも豪華な別荘を所有。
狩谷が逃げ、萌子が懸命に追いかける。そして、マレーシアの別荘で2人の人生は死ぬことで破綻する。バブルがはじけたように。

 アメリカン ジャズ エイジに盛んに書かれた三文小説にそっくりの内容だ。

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村上龍    「5分後の世界」(幻冬舎文庫)

ジョギングをしていた主人公の小田桐、意識を失って気が付いたら、5分間ズレた世界の中にはいり、ぬかるんだ道を行進していた。

 1945年3月沖縄激戦で、大量の被害者がでた。その後、8月になりソ連が参戦、千島列島に侵攻、アメリカにより新型爆弾が広島、長崎に落とされ、日本は全面降伏し、戦争は終了。そこから今我々が住んでいる日本が出来上がった。

 しかし5分ずれた世界では、大日本帝国は、連合軍と戦うことを決意。長崎に続き、新潟、舞鶴にも新型爆弾が落とされる。旧日本軍は本土決戦を決意し「義勇兵役法」を制定。日本国民の殆どが兵となり、連合軍に体当たりを敢行、たくさんの国民が亡くなっていった。

 日本本土はアメリカ、中国、ソ連、イギリスに分割。日本国民は富士山の近くに膨大な地下世界を作り、連合軍にゲリラ戦を挑み今でも戦闘を繰り返している。

 今や日本国民は26万人にまで激減している。
しかし、日本は地下で化学兵器や最新武器を開発。世界で最も戦闘的なゲリラ大国となり、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアでは信頼され賞賛されている。

 実は、沖縄戦で打撃を受けたとき、軍部ではこれからの日本のためにどうするか検討されていた。それは、8つのシミュレーションによりなされた。その8番目のシミュレーションがポツダム宣言を受諾して全面降伏することだった。そうなった場合日本はどうなるのか。

それはアメリカの価値観の奴隷になること。日本固有の文化、精神を、アメリカが望まないような形で発信はできなくなる。そして、政治はいつもアメリカの顔を伺い、アメリカが望むような政策しかできなくなる。

 具体的にはアメリカ人が着ている服を着るようになる。生活スタイル、価値観、音楽、映画、スポーツもすべてアメリカに追随するようになる。

 人々は自分で考えたり、自立することが無くなり、流行や大勢に従い生きる。世界は混迷がずっと続き、次の時代の価値観を生み出しえないでいる。この時代に最も重要なことは、生き延びてゆくということ。日本は戦争を通じてそのことを学んだ。

 生き延びてゆくために必要なものは、空気、水、食料、武器だけではない。それ以上に必要なことは、勇気とプライド。

 そして、日本は胸を張る。この50年間に一人の自殺者もだしていないと。またアインシュタインが日本を訪問して「日本はすべての平等を実現している」と称賛する。
 この物語が書かれたときは年間自殺者が3万人を超えていた。

物語は5分後のズレ世界に入ってしまった小田桐がまた時計を5分進めて今の世界に戻るまでを描いているが、この間の連合軍との戦闘がすさまじく、それをこれでもかというくらいにグロテスクに村上が描く。そのしつこさに、本を放り投げる人がたくさんいるだろうと想像する。

 そして、アンダーグラウンドの日本がどことなく、北朝鮮に似ていて、魅力ない世界に見える。

 しかし、村上の小説は、人を刺激し動かそうとする強い思いが込められている。

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村上龍    「走れ!タカハシ」(講談社文庫)

  1980年代に書かれた作品。そのころは広島カープ第一期黄金時代。衣笠、山本浩二、小早川とともに一番ショートの高橋慶彦が活躍。甘いマスクで俊足、女性ファンにいつも囲まれ広島随一の人気選手だった。

 その高橋が物語のテーマではないが、最後のところで、「走れ!タカハシ」だったり、別の声をあげ叫んで終わる物語を集めた短編集。

 トオルは17歳。ボクシングをやっていたが減量にいやけがさし、高校を中退。そしてホストとして働く。ホストになったときにはまだ童貞。初めての客は千葉のおばさん。童貞だと知りおばさんは大喜びで大ハッスル。トオルの股間を嘗め回す。その口には金歯が光っていた。

 そして今、本屋で互いに「国際金融界の黒幕」という本を持っていることを目印にして、約束のお客を待っている。「国際金融界の黒幕」を購入しているおばさんが現れる。約束のおばさんだと思って声をかけるが、どうも違うようだ。しかしおばさんは割り切ってトオルを新宿の高級ホテルのスイートルームに連れて行く。そして報酬「一万円と交通費」のもとで、セックスをする。

 おばさんは、こんな仕事をやめろと言う。おばさんが大学にもだしてやるから、ボクシングか株をしなさいと言う。しかしトオルは今のホストの仕事が気に入っているからいやと拒否する。

 するとおばさんが、広島の試合をみにゆき、そこで高橋慶彦が満塁ホームランを打ったら今の仕事を続けていいと言う。賭けにしては圧倒的に不利。それでも2人でカープの試合を観戦にゆく。

 トオルには股間を懸命にこすると願いが叶うというジンクスがあった。

 試合も終盤。衣笠と長内のヒットで一三塁。山本浩二は三振。そして長島の打席。長島が塁にでて満塁になれば次は高橋慶彦。フォアボール、フォアボールと叫ぶ。その時ピッチャーの投球が長島にゴツンとあたる。死球で満塁。

 さあお待たせの高橋慶彦。トオルは懸命に股間をさわる。それどころかおばちゃんも一緒になってトオルの股間をなでる。
 そして高橋、ライトスタンドにお待たせのホームラン!
ばからしいけど、面白い。

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村上龍     「共生虫」(講談社文庫)

 この作品はインターネットと今や社会で大問題となっている「ひきこもり」との強い結びつきについて、否定的な見方を拒絶し、新しい見方として逆に、積極的肯定的に評価する物語である。

 「ひきこもり」とは、外部との不要な接触を一切断つ状態のことを言う。「ひきこもり」をしない殆どの人たちは、不必要な人間関係に溺れて、必要な人間関係とは何かをわからなくなっている。こういう状態にならないためには「ひきこもり」になるしか方法が無い。

  そして、その「ひきこもり」を支えるのがインターネットである。インターネットは、真に関係を持つべき人間を探すことができるし、膨大な不要な情報の塊ではあるが、根を詰めて探せば必ず必要な情報にたどり着くことができる。

 この物語の主人公ウエハラは「ひきこもり」であったが、ネットでインターバイオというサイトに引きずられて、久しぶりに外出して、コンビニに行く。おにぎりを買い、据え付けられているベンチに座って食べる。そこで、風体が醜くい、みすぼらしい女性と遭遇。その女性を尾行し、女性の住むアパートの部屋のドアをたたく。女性から部屋に招き入れられ、古い映写フィルムを見せられる。

 ウエハラは戦後大分たって生まれたのに、女性は防空壕のフィルムをみせて、「あなたもよくこの防空壕に逃げてきたよね」と言う。また、集団の体操フィルムや、防毒マスクをした女性たちの行進をみている見学者のフィルムを指さし、ここにあなたがいると言う。

 ウエハラは防空壕がなんのことかわからなかったので、ネットで検索する。膨大な情報の中から、戦前岡山で作られた毒ガスが、戦争末期密かに関東の防空壕に移送されたこと、自分の住んでいる近くの膨大な空き地が、公園の中に造成されているが、その中の小山に立ち入り禁止の防空壕跡がたくさんあることを知る。そしてある夜中に、防空壕跡に苦戦しながら入り、そこに毒ガスが保管されていることを知る。

 そして、ネット仲間3人をおびきだし、毒ガスで殺害し、緑の工場という誰も近寄れない廃工場の木材のチップの中に埋める。

 こんなところに死体があることなど、普通の社会に住む人たちには想像もできない。だから死体は永遠に発見されない。「ひきこもり」とネットにより行われた殺人である。

 世の中の変化や新たな創造は,「ひきこもり」視点とネットの融合により、それが善であれ悪であれ実現されてゆく。
夢だ希望だと建前の中からは生まれるものは虚構。そんな虚構は人間を食いつぶそうと、とりついている「共生虫」により、完全に破壊されてしまう。

 村上の一見絶望的な真理について理解できるが、何か「ひきこもり」の解釈もその絶対的肯定も私は賛成できない。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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開高健 「ロマネ・コンティ・一九三五年」

ニョクマムは、ナンプラーに近い調味料らしい。一つ勉強になりました。
それ以外にも、老舎とかシクロとかググりました。

「玉、砕ける」というタイトルをみたとき、「玉」はサンゴとか真珠とか綺麗なギョクだと思っておりました。
まさか、マッサージででた垢を丸めカチコチにしたものとは。

釣りは全然わからないし、酒については読んでいるだけで肝臓が具合悪くなりそう。
それでも、なんとなく全部読みました。

「(会話は)生湿りの花火みたいなものである。
そのうち口を開こうとして閉じてしまいたくなる。
キラキラ輝く霧に包まれて、脳も腸もぼってりと火照りつつ形を失い、
新しいグラスが来るたびに全身が一本のガラスの螺旋管となったようである」
酔っ払いなんてそんなもんですよね。
熱いものが腸を流れていって、しゃべるのもかったるくて、
どんな酒を飲もうと全部下水に戻っていく。

最近、「ソムリエ」という漫画が一巻無料になっていて、
年を経たワインがただの水に戻っているとか、
乱暴な運搬・保管で劣化させてしまうとか、
そんなエピソードがはいっていました。
あと、澱を避けながら注ぐエピソードも。
古けりゃいいというものでもないし、デリケートな飲み物なんですな。

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村上春樹  「ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック」(中公文庫)

フィッツジェラルドについて綴った村上のエッセイを収録。更にフィッツジェラルドの短編2編を収録している。

 村上はアメリカ文学史の中で、もっともアメリカらしい作品を3つあげるとしたら、次の作品であると言う。
 メルヴィルの「白鯨」。フィッツジェラルドの「グレート・ギャッツビー」それとサリンジャーの「ライ麦畑のキャッチャー」。

 この3作品にはその方向において3点の共通の方向性がある。
①志においては高貴であり、②行動スタイルにおいては喜劇的であり、③結末は悲劇的であるという3点。

 高校のとき映画「華麗なるギャッツビー」をみて感動した覚えがある。すぐに「グレート・ギャッツビー」を購入して読んだが、脚本がデフォルメしたりする部分が無く、小説に実に忠実で素晴らしい脚本だと感心したことを思い出す。それで脚本をみたら、あのフランシス・コッポラ。なるほどと納得した。

 フィッツジェラルドは44歳で亡くなるまでに、160もの短編を書いている。しかし、中味は薄く評価できるのは40余りだ。

 とにかく結婚したゼルダと放蕩の限りを尽くした生活をした。銀行口座を持たず、数百万円を2日から3日で使いつくす。それで、いつも金が無く、そのうちにゼルダが神経疾患を患い、その治療費用も嵩み、借金を積み上げた。

 だから、3文雑誌に程度の低い短編を書きまくった。原稿料は4000ドル/作と決まっていた。
 フィッツジェラルドがヘミングウェイに言っている。「俺たちは4000ドルの娼婦だな」と。

 この本では、駄作の典型短編と、秀逸な短編1編ずつ収録されている。確かに秀逸として収録されている「リッチボーイ」は素晴らしい。

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村上龍    「はじめての夜 二度目の夜 最後の夜」(集英社文庫)

主人公のヤザキは小説家であるし、映画も撮るし、ミュージシャンもプロデュースする。村上龍の分身。ヤザキの元に突然同級生アオキミチコから電話がかかってくる。「逢いたい」と。

 ミチコは中学生のとき、ヤザキの初恋の相手。といって、デートをしたわけでもないし、恋をしたということはない。ミチコは憧れであって、いつも見つめているだけ。

 たまたまヤザキがプロデュースしているバンドがハウステンボスでコンサートを開催するのにかこつけて、ミチコに会うことを約束する。
 ホテル ヨーロッパに宿泊し、唯一無比の最高のフレンチレストラン「エリタージュ」で贅沢料理と最高のワインを楽しむ。
 そして、初恋同士は結ばれる。

しかし、驚く。1回目は仕事があったから、ハウステンボスでデートしても不思議はないのだが、2回目、3回目はヤザキは東京からわざわざハウステンボスに出向く。全く贅沢な逢引きである。

 ヤザキは、何十年という間ひたすらある人のことを思い続けて、そしてあるときその思いが実現して、もうこれで死んでも構わないと思う人が存在するということは嘘だ、10年以上逢わない間に人間は社会的にも肉体的にも変わってしまう。その過程で多くの人に出会う。そこで、尊敬できたり信頼できる異性にあい、SEXをする。一夜を添い遂げたいとずっと思い続けて、待ち続ける人間なんて存在するわけがないと考えている。

 ミチコにとってヤザキは本当にひたすら会いたいと思い続けてきたのだろうか。そうじゃないんじゃないか。
年齢を重ねるということは、今の自分が何かを成し遂げたいとき、それを成し遂げるため、どれだけ集中できるかを知ることである。つまり、行動の情熱、そしてその果てはどうなるのか見えることである。

 そして、総じて、女性のほうが、その限界をきっちり認識し、男はその認識がなかなかできない。

 ミチコは今の関係の限界がはっきり見えている。だから、きっぱりと3回目の夜を過ごした後「もう逢わない」と言う。

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NHK取材班   「『空海の風景』を旅する」(中公文庫)

司馬遼太郎の名著「空海の風景」の舞台を訪ね、空海の思索の後を導きにして、「人類普遍の天才」空海の歩んだ道を取材映像化したNHKスペシャル取材班によるドキュメンタリー作品。

 この作品を読んで2つのことを強く感じた。

歴史というのは常に権力を握った側にそって語られ作られる。
日本に存在した、もともとの民族は狩猟民族だった。私の生まれた町にも縄文時代の遺跡があるが、それらはすべて山の中にある。それは、彼らの食料になる動物や草や木の実が山の中に豊富だったからだ。だから、住居も部落も山の中に作ったのだ。

 しかし、外来人種が、水田耕作、農業を持ち込む。平地で農業をしながら、山地にいる従来の民族を殺戮して駆逐する。その中で、土地や食料を取り上げる権力者や豪族が登場して、領地を治める。それが全国に拡大しながら大和朝廷ができる。山の中は生活の場であったが、山は怖い所、お化けや、妖怪、天狗が暴れるところとして領民に認識させてきた。

 深い山にわけいって僧が修行することが、大変な苦痛をともなう修行のように思うが、昔はそれは生活の一部であり当たり前のことだった。

 この作品でも空海が19歳のとき室戸岬で洞窟に入り修行する様子が、いかにも難行のように描かれているが、当時でみると、それほど難行ではなかったのかもしれない。

 空海は遣唐使となり、唐にむかう。大変な航海を経て、唐に到着。そこから、唐の都である長安、今の西安にたどりつく。

 西安は、シルクロードの東の果ての街として有名である。
空海が長安にはいったのは西暦806年。長安は西と東を結ぶ結節点として、繁栄をしていた世界一の大都市だった。

 当時長安には仏教寺院が91、道教寺院が6、ゾロアスター教寺院が2、イスラム教モスク、キリスト教教会まであり人種のるつぼの都市だった。日本人と中国人しかみたことのなかった空海は驚愕し衝撃を受けたと思う。

 それから、唐の祖に異民族の血がはいっていたせいか、人種、民族差別は唐王朝の時代はまったくなかった。王は漢民族でなければならないということはなかった。どんな民族、身分でも国家官僚登用試験科挙を受験することができた。そして、そこを通ればだれでも官僚になれた。この科挙を通った、遣唐使で有名な阿倍仲麻呂は、その優秀さを見込まれ、王の補佐役となり54年間も唐にとどまり活躍した。

 この唐の空気をたっぷり吸収した空海は宇宙の真理を表す、大日如来のもとには人類はすべて平等。そして宇宙からみたときに不要なものが国境。人類はどこへ移動して住もうが自由であり平等であることを基盤として密教を日本で普及させた。空海という名前は教科書くらいにしかでてこないが、大師さまという空海の別名は、我々の暮らしに息づいている。

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垣根涼介    「ゆりかごで眠れ」(下)(中公文庫)

日系2世のリキ・コバヤシ・ガルシア、兄が殺害され、その後を継いでコロンビアでコカインを扱うマフィアのボスになる。メンバーのパパリドが敵対する組織から売られ日本の警察に捕まる。

 リキは厳しい統制をメンバーには強いるが、メンバーが拘束された場合は、必ず救出することで組織の結束と信頼を強くしている。

 この物語は、日本で逮捕されてしまったメンバー パパリドをリキが日本に乗り込み、日本の警察から奪還するまでを描いた物語。

 コロンビアは鉱物資源が豊富で、南米では比較的裕福な国であってもおかしくない。でも、そうならない。裕福な国なのだが、その金額の4割はコカインの密輸出で稼ぎ出している。そして、国は権力者と反権力の戦いが年中繰り返され、膨大な数の死者を生み出している。

 リキの両親や兄弟も殺戮、闘争などに巻き込まれ亡くなっている。

 この物語には3人の、自分は自殺や誰かに殺されることが運命づけられていると思いつめている人たちが登場する。

その一人が貧民街育ち主人公のリキ。そこから逃れることは不可能。虫けらのように扱われ、殺されるか死んでゆくしかしか道は無い。たとえ、悪の裏道をのし上がることができても、いつか殺されるしか道はない。リキは覚悟している。

 二人目は悪徳刑事の武田。麻薬密売組織や暴力団に入り込む。事件が起きても組織のために揉み消す。そのことによりお金を収奪したり、或いは警察幹部のために、暴力、麻薬撲滅運動のときには、組織、暴力団を説得して、事案を提供させる。
 警察の中では、誰もが武田の悪徳ぶりを知っている。だから、誰も声をかけてこない。で、いつかは身内の公安に摘発され、逮捕され人生が終わることを覚悟している。

 それから、その武田と不倫関係にあった刑事若槻妙子。不倫は警察では誰もが知っている。だからつまはじきにされる。しかも、武田とは添い遂げられない。それで警官を辞職する。
 しかし、警察を辞めても、すべきことは見いだせないし、相談できる人は一人もいない。生きていても仕方ないと思ってしまう。

 絶望感が、一貫して物語に漂う。そして、そのまま武田は口内で銃を発射、リキはパパリドを奪還時に警察から撃たれ死亡。その絶望感の通りに物語が進むのは、発想が垣根にしては凡庸。

 ただ、最後にリキの幼い養女カーサの運命を妙子にリキが託すところに希望の光があるのか。しかし、ゆっくり考えても妙子、カーサの未来も決して明るいとはいえない。

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垣根涼介    「ゆりかごで眠れ」(上)(中公文庫)

 小説の感想は、下巻の感想でまとめて書く予定。

主人公のリキは日系2世、コロンビア産の麻薬売買マフィアの頂点にまで昇りつめている。しかし、表向きはコーヒーや花の輸出商売の会社をつくり経営している。

切り花の国際見本市が、首都ボゴタの新市街で行われていて、リキは、各国のバイヤーを連れて街の観光案内をしていた。観光地の一つサンフランシスコ協会の前を歩いていると、幼い兄妹が「お金をください」ととりついてくる。しかし、やらない。一旦お金を渡すと、同じようなうすぎたない浮浪児たちが雲霞のごとく現れるからだ。

 次の日、また同じところを通ると、また兄妹がいる。兄が「妹の描いた絵をかってくれ」と言う。「百ペソでいい」。百ペソでは飴玉くらいしか買えない。 

 絵をみると、黒い花が描かれている。稚拙だが、花びら、花弁、茎、葉がきちんと描かれている。リキはそっと2000ペソを渡し、食事だけでなく、絵具を買いなさい。明々後日また来るから、絵をその時みせてくれ。と言ってわかれる。

 明々後日そこを通り、色んな色で描かれている絵を1000ペソで買う。
そして、花に背景をつけなさい。教会を背景にしなさい。すると、絵を買ってくれる人が現れるから。と言う。

 それで、また教会の通りを歩いたが、兄妹がいない。探すと、兄妹の妹カーサをみつける。
カーサに聞く。「兄はどうした」と。
 カーサが叢にリキを連れてゆく。そこに血まみれになって殺されている兄を発見する。

リキはカーサを引き取って育てる。
 しかし、カーサはリキ以外の人には、怖がって、決して近付こうとしない。弱りきったリキは精神科医のところにカーサを連れて診てもらう。

 精神科医がカーサにリキをはじめ4人の人の絵をかかせる。

 その絵をリキにみせてこれらの絵の特徴がわかるかと聞く。
リキはじっとみつめるが「わからない」と答える。

 精神科医は言う。
「普通4-5歳までの子が描く人物には首が無い。顔からいきなり胴体となる。しかし、この絵には4人とも首がついている。大きな精神的ショックを受けた子は観察力が異常に高くなる。普通の子はリラックスしている。こういう子は首は描かない。しかし、緊張して警戒心が強い子はしっかり観察して首を描く。」

 驚いたが、なるほどと納得した。

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