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2018年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2018年11月

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カズオ・イシグロ 「遠い山なみの光」

翻訳ものらしい、芝居がかった(?)会話もあります。
が、読み終えてみれば、余計なものをそぎ落とした美しい小説なのかなと。

悦子が景子を出産して、旦那と別れ、イギリスに渡り、ニキを産み、景子が死を選ぶまでで
同じ厚さのもう1冊が書けるんじゃないかと思います。
現在と「あの夏」の間にあるあれこれを容赦なく削り、特定のシーンをじっくり描く。
九九を言ってみろと挑発するお坊ちゃんとか、
そのお坊ちゃんをたしなめつつ持ち上げる嫌味な教育ママとか、今でもいそう。
世界共通なんでしょうかね。

息子に議論を吹っ掛けて威厳を示そうとする哀れな元教育者とか、
原爆で家族を失ったマダムたちとか、英国の読者たちには興味深かったのだろうか。
何となくわかるような気がするけど、いまいち登場人物たちの背景や心情がつかめませんでした。
悦子が周囲の人間たち(佐知子にも娘にも義父にも)に対して善人ぶっていて、
語り手ながら本心を見せていない感がある。

| 日記 | 22:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大鹿靖明   「東芝の悲劇」(幻冬舎文庫)

 東芝の粉飾決算が明らかになり、決算数値がまとめられなくなったころ、その粉飾は経営トップ自ら「チャレンジ」という掛け声とともに出すべき利益金額を各事業部門に提示し、実行させていたことが粉飾の元だということが、よく報道されていた。

 しかし、同族企業でも無い東芝で、チャレンジなどという掛け声だけで、粉飾決算に手をそめるなどということがあり得るだろうかとずっと不思議に思っていた。

 生産設計開発方式にODMという方式がある。商品企画だけを会社がして、設計開発生産は丸ごと別会社に委託するという方式である。

 この方式を東芝はパソコン製品で採用した。東芝の場合、開発生産を委託した台湾の会社に、生産のための材料、部材を販売。そして出来上がった製品を東芝が買い取って市場に売るという方式である。材料を売り製品を買い上げるということでセルバイ取引と言われている。

 2008年。サブプライムローン事件が起き、世界的不況になったとき、パソコン事業の責任者の下条から、社長の西田に第一四半期は営業利益が52億円にとどまることを報告する。それに対し西田は絶対に認められない。何とかあと30億円を生み出すよう指示する。そこで弱った下条は、調達責任者だった田中に相談する。

 そこで田中が取った手は、台湾のODMの会社に材料販売価格を仕入れ価格より2-3割上乗せして販売する。それで、製品は予定数のわずかしか引き取らない。こうすればODM会社は連結対象にならないから、材料を多く売り上げた分利益が上乗せ計上できる。完成品は期をまたいで購入するため、決算月は大規模な利益が発生するが、翌月は赤字計上となる。

 この方式で見かけ上利益がでたように見える決算とする。東芝はこれ以降、この方式を、ずっと採用する。だから4半期決算月は黒字となるが、その間の2か月は赤字に転落するという状態を繰り返す。

 「チャレンジ」というのは、掲げた計画値をきちんとプラン通りに施策を実施してやりきろということではなくて、極端に言えば、決算直前になって、その数字では発表できないから、何とかこの数字を創れということなのだ。

 各部門でODMのセルバイ方式のような方式を使い、粉飾数字を創り上げることが東芝の風土となっていた。当たり前のことだが、社長はすべて粉飾していることを認識していた。

 東芝が、このような粉飾に手をそめだしたのが西室社長時代から。そして、驚くことに西室から5代後の社長に、セルバイで利益をかさ上げした方式を思いつき実行した田中が社長となっている。

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| 古本読書日記 | 05:36 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍    「おしゃれと無縁に生きる」(幻冬舎文庫)

雑誌「GOETHE」に連載したエッセイを厳選して収録した本。

 このエッセイの言葉の変遷で、かっては流行り言葉だったが、今はだれも使わなくなったとして「チョベリグ」「チョベリバ」を村上はあげ、この言葉が好きだったと回顧している。
 「チョベリグ」は「超ベリーグッド」「チョベリバ」は「超ベリーバッド」からきている。

確か、この言葉は作家田中康夫が「何となくクリスタル」で使い流行らせた言葉だと記憶している。

 風貌は異なるが、田中と村上は思考や生活環境が似ているように感じる。贅沢を満喫。交際相手もセレブな有名人だけ。世の中はすべて理解していて、なにかにつけ訳知りで物申さずにはいられない。

 定年というのは、日本では20世紀初頭、まだ平均寿命が40歳代前半の頃、日本郵船が55歳定年を始めたのが最初だそうだ。
 その後、定年は60歳になり、今は65歳に移行する途上にある。

一方年金は19世紀に「鉄血宰相」で有名なドイツのビスマルクが初めて制度化した。支給開始年齢が70歳。しかし当時のドイツの平均寿命が50歳だから問題は無かった。

 日本は平均寿命が80歳を超えた少子高齢化社会。これでは年金制度が持たないと支給額や支給開始年齢を引き上げようと行政は目論んでいる。

 したがって、最近は70歳を過ぎても、80歳になっても、元気で働きたい人たちばかりと高齢者労働者を賛美する論調を意図的に政府は流している。

 村上はそれにたいして、もう働くのは十分と思っている人もたくさんいるだろうし、働くか働かないかはそれぞれ個人の問題だからとやかく言うべきではないと主張する。

 本質はそんなことでは無い。働きたくなくても、生活のため働かざるを得ない人々がたくさんいるということである。しかも60歳過ぎれば雇用は年単位の契約。突然契約が更新されないこともある。働く意欲のある無しの問題ではなく、現在の高齢者に対する雇用環境を把握し語らねばならないのに、そこにセレブの村上は思いが至らない。

 やはり、贅沢環境に浸かっている村上は、実態から浮き上がっている。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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貫井徳郎    「女が死んでいる」(角川文庫)

推理小説短編集。「病んだ水」が印象に残った。

 産業廃棄物処分場で最も多いのが安定型といわれる処分場。この処分場は安全な5つの物質しか持ち込めないと法律で規定されている。素掘りで構わないし、浸出水漏れ対策も必要ない。安全な品目しか持ち込めないのだから。

 ところが、この処分場の近くにある川から、シアンやヒ素といった猛毒が検出されることがしばしば起きる。シアンはアメリカの幾つかの州で死刑に使われているし、ヒ素は毒ガス生成に使われている。

 ということは産業廃棄物処分場に5品目以外の物品が持ち込まれているということになる。例えば、ハム製品がある。この場合処分場に持ち込めるのは袋のプラスチックだけ。しかし、ハムと袋を分けるのが大変な作業。だから処分業者は、ハムもプラスチックとして廃棄するのである。しかも、処分業者を罰する規制もない。

 地方で造成開発中の処分場に開発業者であるサンセンの社長と秘書がやってきている。そこに、電話がかかってくる。社長の娘を誘拐した。ここがびっくりするのだが、身代金30万円用意しろと。たった30万円である。

 秘書が30万円を持ち、犯人に誘導されながら、30万円受け渡し場所まで行く。そこは山間地で登山電車に乗る。その電車には老婆や、主婦、女子学生が乗っていて、その中に犯人と思われるような人物はいない。

 犯人は降りる駅を指定し、その前に座席の下に30万円を置いておくように指示する。
その山間地でもサンセンは町と組んで、処分場を建設していた。住民は、脅迫もされ、遊休地がお金になるということで、処分場建設に賛成していた。

 その後、処分場の危険を知り、建設反対団体が組織され、住民のすべてが反対者になった。
誘拐されたとする社長の娘礼子はこの反対運動組織にはいっていた。だから父社長が建設、造成を断念するまで何回も30万円の身代金を要求する狂言誘拐を繰り返そうとしていた。

 登山電車に置かれた30万円は、その時の乗客によって分配された。乗客はすべて処分場建設反対組織加入者だったのだ。

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| 古本読書日記 | 06:47 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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桐野夏生     「抱く女」(新潮文庫)

桐野と私は同じ1951年生まれ。
私は一浪して大学に入ったため、微妙に青春の雰囲気がずれているところはあるかもしれないが、でも、殆ど同じ空気を吸っていた。

 この作品は、1972年を扱っている。私が大学2年の時である。
大学が荒れ、1970年安保反対闘争が行われたが、当然のように敗北して、落胆、厭世観が漂う時代だった。

 そんな時起きたのが、連合赤軍と過激派左派による妙義山山中を中心にした、虐殺リンチ事件。
 私の高校の一年先輩、リンチで殺害された人とリンチに加わった人がでた。

敗北した革命左派は、その後、各セクト別に対立し、活動の目的は自分のセクト以外の活動家はすべて殺害するということになった。殲滅という言葉が流行り、「徹底殲滅」とは殺害まではしないが、徹底的に攻撃して、重傷を負わせる、「完全殲滅」は必ず殺戮するということを意味していた。殺し合いが日常茶飯事になり、殺害された人がでても、小さな記事にしかならなくなった。重傷では記事にもならなくなった。

 この物語の主人公直子の弟、和樹も、対立していたセクトの攻撃により、頭蓋骨を破壊され植物人間のようになり、結果死亡する。

 桐野さんは、これに加えて、当時盛り上がったウーマンリブの運動なども取り上げて青春時代を描こうとする。

 しかし、主人公の直子は、雀荘や、バーにいりびたって、そこで知り合った人たちと肉体関係を結び、だらりとした生活を送り、その生きざまと、リンチ事件やウーマンリブの活動がどうにも交わらない。

 更に、今の視点から青春時代を描くから当時が生き生き揺れ動かない。今を消して、当時の想い行動を描くべき。しかし難しいだろうことはよくわかる。

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辻村深月     「きのうの影踏み」(角川文庫)

都市伝説、占い、奇祭など、怪異を扱った短編小説集。「ナマハゲと私」が現代の田舎状況を反映していて面白かった。

 ナマハゲ、秋田県の一部で主に大晦日に行われている奇祭だ。赤や青の鬼の面に、蓑。手には出刃包丁や鉈、桶を持ち、決め台詞は「悪い子はいねが~」「泣く子はいねが~」。夜、子供のいる各家をまわり、脅かす。悪を戒め、吉を呼ぶといわれている。

 大学生の美奈子は秋田県の出身で、実家の村ではナマハゲが行われている。民俗学のゼミの講師の宿題のため、何人かの学生を連れて大晦日故郷へナマハゲの見学に行くことになる。

 そんなに大きな村では無いので、面をつけてもナマハゲをやっている人とは面識がある。ナマハゲは家々を軽トラの荷台に乗って移動する。夜道に軽トラにすれ違うと、荷台のナマハゲから「どうもおばんです」なんていう挨拶をされる。

 家に上がっても、脅かされる子どもも知り合い。だから、子供も全く怖がらない。子どもが夢中でテレビを見ているところを、ナマハゲが脅かす。すると子供が言う。
 「ナマハゲ!うるさい。どっかへ行って!」と。

皆を連れて実家に帰ると、母親に確認する。
 「お母さんナマハゲ予約しておいてくれた?」と。

皆を1階の部屋に残して、美奈子は2階の部屋で「紅白歌合戦」をみていた。
その時、「悪い子はいねか~」との掛け声を合図にナマハゲがやってきた。声がいつものナマハゲより腹の底からだされ、地響きがしそうなくらい迫力がある。その声に驚き、知人たちが助けて~と大声をあげる。

 そのうちに、盛大に暴れているのか、テーブルがひっくり返される音とか、コップやビール瓶が投げられガラスの割れる音まで聞こえる。

 今までのナマハゲと違い、大暴れしすぎじゃないかと美奈子は思ったが、仲間がナマハゲを怖がっている様子に満足していた。

 やがて、そのナマハゲが去る。
しばらくすると村役から電話がはいる。
 「申し訳ない。ちょっと緊急な用事ができて、遅れてすまないが、今からナマハゲが行ってもよいか。」と。

え?じゃあ今までいたナマハゲは何?

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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誉田哲也    「歌舞伎町ダムド」(中公文庫)

 物語の設定されたときから7年前、新宿で起きた歌舞伎町封鎖事件。事件を起こしたのは「新世界秩序」と名乗るグループ。総理大臣まで拉致して歌舞伎町を治外法権化する。

当たり前のように、路上で人々が争い、殺されてゆく。大量の死者が発生した事件だ。
 このことが、誉田のどの作品で書かれているか知らないが、それを扱っている物語を読んでいないと、この作品は理解できないかもしれない。

 まず、この作品でもメインで活躍する「歌舞伎町セブン」という組織が、何のために必要な存在なのかが理解できない。そして、新宿でホームレスになって漂流しているダムド、その存在の意味がわからない。

 肝心なところがわからないから、天貝巡査部長や名越警察庁長官が自殺を装われて、どうしてセブンに殺害されたのかわからない。

 セブンの組織目的がわからないから、歌舞伎町封鎖事件で4人の警官を殺害して、死刑判決が下った伊崎を警察が釈放して、名前をミサキにかえセブンのメンバーとなるのも不可解。
 更に小川交通課巡査部長がセブンのメンバーになし崩し的引き入れられたのもわからない。
 最後に主人公である東警部補がダムドやミサキに命が狙われる理由もわからない。

こいつが死ななければ、歌舞伎町はこんなひどい町になるとか、こんな悪の元締めが排除されねば、歌舞伎町の明日は無いといったところが、きちんと説明され、それぞれの行動の意味や背景がはっきりしなければ、読み手は辛い。

 唯一面白いと思ったのは、歌舞伎町は暴力団により支えられている部分が大きい。だから、暴力団を悪だといって無条件に排除すると、町の活気が失われ、税収も落ち込む。
 こうなると、刃は警察にやりすぎだと向かうのだという誉田の見解。

暴力団、警察、区民がもたれあう。そのバランスが重要。すごい所だ歌舞伎町は。

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| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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源氏鶏太   「英語屋さん」(集英社文庫)

そんなに読者はいるとは思えないけど、最近、ちくま文庫や朝日文庫で獅子文六作品が新装版として再出版されている。獅子文六は家族や市井の出来事を軽いタッチでユーモア一杯に描く、大衆文学作家である。

 そこに集英社文庫として源氏鶏太の「英語屋さん」が新装版となり再販されたのを知りびっくりした。「英語屋さん」は短編で1951年に直木賞を受賞している。

 源氏鶏太は、自らの経験から、サラリーマンで一般社員の仕事や暮らしを軽いタッチでユーモアとペーソス一杯に描き1960年代、大流行作家となった。人気は獅子文六と双璧をなした。小説の殆どが映画化かテレビドラマ化された。映画化された作品は何と80作にも及んだ。テレビドラマでは森繁久彌が主人公を演じた「七人の孫」が有名だ。

 この作品の再出版を契機に獅子文六の後をついで、源氏鶏太作品が出版されることになるのだろうかと妙な感じがする。

 源氏鶏太の作品がドラマ化されたのは、人気もあっただろうが、殆どが会話体で書かれ、文章部分が少なく、そのままシナリオになりそうだからだったと思う。それだけに、内容は軽く、読んではポイっと捨てられる感じだった。

 この作品集は初期作品集で会話体文体の片鱗がみてとれるが、「流氷」という作品は、その中では異質、際立って印象に残る作品になっている。

 大阪の本社から、取引商人と不正取引をしていたことが原因で、北海道のM市、オホーツク海が望める鉱山の事務所に主人公の川原が転勤させられる。大阪本社で不倫をしていた女子社員の美奈が、相手の主人公を追ってM市にやってくる。

 そこで2人は、どん底のような生活を送り、借金も背負う。
やがて、主人公は結核で亡くなる。その後不倫女子社員が失踪、行方がわからなくなる。20年後に講演でこの地を訪ねた小説家もかってはサラリーマン。同じ大阪本社に勤務していた。

 オホーツクに流氷がやってきて、その氷に乗りそのまま行方がわからなくなる失踪者が多いということを小説家が知る。
 小説家がオホーツクの見える丘にのぼる。そこが最終場面。

「黒い海面が、急に、いちめんの流氷にみえてきた。月光を浴びて、大小無数の流氷は、白々とひしめきあっている。その流氷の上を、美奈がうなだれながら、影を落としてゆっくり歩いてゆく。一度も振り向かないで、川原の名を言いつづけながら、暗い沖の方へ、しだいに小さくなってゆく。ともすれば、その美奈の姿を見失いそうになる。が、灯台の光が、流氷の上をなめるようにまわってくると、その一瞬だけ、彼女の姿が、パっと浮かび上がるようにみえた。そして、その都度、彼女の位置は、進んでいた。私は、錯覚と知りつつ、いつまでも、流氷の上を一つの点のようになって、永遠に遠ざかってゆく美奈の後ろ姿から、眼をそらすことができないでいた。
 ハモニカの音は、まだ、びょうびょうと夜空に聞こえていた。」

 こんな叙情豊かな文章を源氏は書けるんだ。その基盤があって会話中心のサラリーマン小説の存在があるのだ。源氏が売れっ子作家になったことの根本を知った気がした。

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| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大崎善生     「ロストデイズ」(祥伝社文庫)

 主人公の西岡順一は由里子と学生時代恋人同士となる。大学を卒業して由里子は大手商社に順一は出版社に就職。23歳のときに結婚して、30歳になったとき、由里子が妊娠する。それまで、互いに手を携えて人生の上り坂を登攀してきた。

 由里子が妊娠中に出血して、切迫流産の可能性が高くなった。そのときは、順一は家庭の仕事のすべてをして、由里子を助けた。その苦労をした後、娘恵美が誕生した。

 だから恵美の誕生が、人生の頂上に感じ、ここからは下るのだと考えた。
それは由里子が恵美が生まれると、恵美にかかりきりになり、恵美と由里子のまわりに柵をはりめぐらせ、順一がはいりこむ余地が無くなったからだ。一緒に人生の坂道を登ってきたのに、由里子と順一の間に変化がおき、順一は寂寥感を深く感じるようになる。

 しかし下り坂になったのは、恵美ばかりに由里子の関心が集中することが原因でなく、恵美が誕生した直後に、順一に編集部から営業部に異動の辞令がで、それに大衝撃を受けたからだ。そこから順一は酒浸りの生活にはいる。営業の外回りにいくと、必ず居酒屋に昼間から立ち寄り、酒を飲む。夜も毎日午前様、時には朝からも酒を飲み、営業にまわされたことを嘆く。しかも、由里子以外の女性3人と一回きりではあるが、関係を持つ。

 何だか、この作品を読むと、いかにも営業が会社で低い評価の仕事に思えて、やりきれない思いを抱いてしまう。 

  20歳のころ付き合いだしたときに由里子が言う。
「あなたが元気でいてさえくれれば、私はそれ以上のことを何も望まない。」
そして、一貫して由里子はその信条に従って生きている。

順一だけが、一人ナルシストになり大げさに揺れ動き。悲劇の主人公のような振る舞いをする。そこが。わざとらしく。違和感をもったまま読み終える。

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| 古本読書日記 | 05:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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岩瀬達哉   「ドキュメント パナソニック人事抗争史」(講談社α文庫)

 この本を読んでいると、よくパナソニックは経営破綻せずに今まで生き抜いてきたものだと感心する。

 会社は松下幸之助を崇め、松下一族の幻影にずっと引きずられていた。昭和39年松下幸之助が社長を退く。そして、幸之助の娘婿松下正治が社長を引き継ぐ。それから19年間正治の時代が続く。しかし、幸之助は正治の能力を評価していなかった。だから、正治の後を継いだ、山下社長に会長になった正治を経営から身を引くように説得しろと言う。

 だけど山下がそんなことができるわけがない。そうおもうなら何故幸之助自身が正治に言わないのか。こんなことが、パナソニックの歴史には山のようにある。正治は驚くなかれ、会長、名誉会長として経営陣の一角を占め、99歳で亡くなる一か月前まで、その権力を行使。自分に忠誠をつくす人間を重用。歯向かう人間はことごとく排斥した。

 こんな人事をするから、パナソニックには何でこんな人が社長になったのかという不思議な現象が起きた。

 山下の後を継いだ谷井社長は、これからのエレクトロニクスはソフトが最も重要と考え、アメリカの大手メジャー映画製作会社の一角を占めるMCAの買収に突き進む。そして契約にこぎつけるが、谷井が正治に経営者メンバーから退任するように進言したことから逆鱗に触れ解任、そのときにMCAの買収が解任の理由にされる。だから後を継いだ平田社長は契約破棄に邁進する。

 全くもったいないことをしたものだ。MCAは大阪にユニバーサル ジャパンを創り上げることを提案していた。パナソニックの買収を破棄した後、MCAはカナダの酒造会社シーグラムが買収され、パナソニックは大魚を逃した。

 正治によって社長になった森下は、各社が液晶、プラズマの製品開発に凌ぎを削る中、驚くことにノキアのブラウン管工場を買収して、テレビはブラウン管方式がずっと主流であり続けると判断、ブラウン管テレビの増産に踏み切る。

 その結果、どん底に落ち込んだパナソニックをV字回復させたと言われる中村邦夫は、実際はパナソニックではありえなかった希望退職を実施、1万5千人を削減し回復を実現させた。

 しかし、自分を社長にしてくれた森下を持ち上げ、尼崎に膨大な資金をつぎ込み3つのプラズマ工場を建設。しかし液晶テレビに市場を占有され、プラズマは市場から追放された。

 それで、中村の後の社長、大坪は3万5千人もの社員を退職させた。

 これだけ、大失敗を繰り返した社長ばかりなのに、パナソニックは生き続けたこと。その底力には驚嘆せざるを得ない。

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| 古本読書日記 | 06:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐瀬稔   「ヒマラヤを駆け抜けた男 山田昇の青春譜」(中公文庫)

作品の最後に山田昇の登山歴が資料として書かれている。
昭和50年ラトック山群トレッキングから始まる。そしてダウラギリⅠ峰、ケダルナート ドーム、カンチェンジュンガ主峰、ランタン・リ、ダウラギリⅠ峰北壁ペア・ルート、ローツェ西壁、マモストン・カンリ

 恥ずかしいけれど、この本を読むまで山田昇という登山家を知らなかったし、登頂成功した山々も一つも知らなかった。

 この登頂に成功した山の中には、選んだルートを入れれば世界初という山も多く含まれている。しかし、それが快挙なのだろうが、一般的には知られていない。

 登山とは、徹底的に非生産的な営為である。何物も作り出さないし、変えない。8000メートル峰の頂上に立ち、周囲の景観を眺めたところで、人類の生活に新しいものを何ももたらすわけでもない。山は何度人間の足で踏まれようともあくまで山であり、永遠に知らぬ顔を続ける。登山によって得られる見返りは、ことごとく登山活動によって消費され、あとに何ひとつ残らない。

 家庭は、山から山へ渡り歩く途中、ほんのつかの間の足を休める場所でしかない。そんなわずかな間でさえ、登山家は落ち着かない。自分が本来いるべき場所ではないところにいると焦燥にかられる。そして、家中のお金をかっさらって、再びビタ一文も残らない旅にでかける。その山で死んでしまったら、その後家族はどうなるだろうかと少しは考える。でも、考えてもしかたない。

 山田昇が厳しい条件のなか、死の危険と隣あわせで、初の登頂に成功しても、山岳関連の雑誌には載るだろうが、殆ど一般のマスコミで大々的に取り上げられるわけではない。

 それで、それぞれの登山では、多くの遭難死者がでている。
 ダウラギリⅠ峰登攀でも、3人の遭難者がでている。それで、悲しみが蔓延して、退却するかと思えば、小暮隊長は「退却はしない。おめおめと日本には帰れない」と登攀を続ける。

 このところが、登攀成功して得るものと失うものの大きさの乖離がすごくて理解がなかなかできない。この時の評価は大成功として評価されたのか、遭難者3人をだしてしまったことに悲惨な評価になったのか、当時の雑誌、新聞をみてみたい。

 植村直己と同じように、山田もマッキンリーで遭難死する。冒険家、登山者は何だか懸命にひたすら死に向かって進んでいるように思えて仕方なかった。

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保坂和志     「プレーンソング」(中公文庫)

人生というのは、平凡で揺れ動くことなく、淡々と、無為な毎日が積み重なっているように思える。特に、青春時代の真っ只中にはそんな時間が存在している。仲間と集まって、無駄な会話をダラダラ続けていたり、思いついて海に行ってみたり、それは場所をアパートの部屋から、海に移しただけで同じ風景が積み重なるだけ。

 作者保坂は1956年に生まれている。それより、少し前に生まれた人たちは、塊になって学生運動にあけくれ、そして政府打倒や、こむずかしい人生論を口角泡をとばして議論をしていた。

 保坂の想いをゴンタという映像青年が語っている。
「映画を見たり、小説を読んだりしてても、違うことばかり考えてるんです。
筋って興味無いし。日本の映画とかつまんない芝居みたいに、実際殺人とかあるでしょ。
何か事件があって、そこから考えるのって変でしょう?だって殺人なんて普通起こらないし。
 映画とか小説とかでわかりやすくっていうか、だからドラマチックにしちゃってるというような話と、全然違う話の中で生きてるっていうか。生きてるというのも大げさだから、『いる』っていうのがわかってくれればいい。本当に自分がいるというところをそのまま撮るのだ。」

 そんなものを撮ってだれが見るのだろう。どうやってそれで生きていくのだろうと思って読むと、すぐこんなしゃべりがある。
 「でも、自分の撮ったあとで見直しても、それで自分がどういう世界にいるんだろう、なんて、全然わかってこないし、撮ってたときの自分の気持ちとか考えたことだって、わからなくなっちゃんてるんだから。」

 徹底的に自分の前の世代を否定したい。でもそこを否定したことから生まれてきた気概、気力の無い世代。生きざま。

 だから自分の時代を説明するとき、必ず長い彼らの前の世代の有り様を説明する。で、その後、それと違って僕たちの世代の説明をするようになる。
 そんなことが描かれる、だらだらとつながってゆく物語。

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