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2018年06月 | ARCHIVE-SELECT | 2018年08月

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内田樹    「街場の憂国論」(文春文庫)

最近は企業論理が、あらゆる組織体に適用されるべきという論調、風潮が強くなってきている。曰く「スピード」「生産性向上」「効率」「コストパフォーマンス」が最も重要と喧伝されている。

 企業というのは100年の間に90%以上が消失するらしい。だから、短期間で成長させ利益が増大させることが求められる。しかし、例えば国家となると、日本でも2000年近く継続している。だから。国家は、1000年規模で存続させるよう創り上げていかねばならない。

 国会や官庁、ダラダラとした議論ばかりが毎日続いているのをみてると、普通の会社だったら完全に倒産している。まさにスピード、効率を国民は求めてみつめている。

 この風潮に対し、内田はチャーチルを持ち出しながら主張する。

議会制民主主義は、さまざまな意見を長い間をかけ議論しあい、その落としどころを結論つける、調整システムである。だから、非効率であることは議会制民主主義を採用している限りしかたないことだという。

 チャーチルは「民主制というのは国を滅ぼすには最も効率が悪い」と皮肉まじりに言う。
だから、今の政治システムは良いことをてきぱき行うシステムではなく、悪いことが手際よく行われないように設計されるべきものである。内田はこのあり方を支持している。

 スピードを持っててきぱき行うというのは北朝鮮、中国、ロシアのように独裁体制を選択することに他ならないから。

 教育の場、特に大学にも企業的運営が急激に求められ、最近は株式会社化された大学もでてきた。現在日本には短大を含め1200の大学がある。

 大学の質の劣化はひどくなり、最近は小学校で習う四則計算やアルファベットも書けない学生がたくさん存在する。こんな学生や大学に国の税金を投入するのは、大きな損失である。

 だから、大学をもっと少なくして、ある程度の知識を確保されている人だけが大学に行けるように改革せねばならない。

 これに対し内田は言う。
勉強が急に伸びたりするのは、年齢とは関係ない。大学でそれにぶつかる人間もたくさんいる。

 それを中卒、高卒でそのまま社会にだすということは、開発途上国の労働レベルに日本自らが戻してしまうことになる。だから大学縮小については反対と唱える。

 いくら、勉強年齢が人によって異なるといっても、四則計算ができなかったり、アルファベットが書けない学生が、優秀な頭脳を発揮するなどということは、皆無に近いと私など思ってしまうのだが。

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| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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本谷有希子     「生きているだけで、愛」(新潮文庫)

芥川賞候補となった作品。

寧子と津奈木は、あまり気の進まない合コンに参加して、案の定みんなからはじき出される。寧子がそこで酔っ払い自分を失う。しかたなく、彼女を連れ津奈木が自分のアパートに連れてきたことから同棲が始まる。だから、そこには強い恋愛感情は無い。

 寧子は、過眠症と当人は言うが、単に生活力が弱いだけ、一旦眠ると17-8時間寝て起きられない。その一方で、躁うつ病の症状があり、自分のことは顧みず、何かにつけ、津奈木を口汚くののしる。

 寒い夜中、津奈木がコンビニから弁当を買いにいって帰ってくる。その帰ってきた姿を見て寧子が詰問する。

 どうして手袋をしないのだ。手袋は私がプレゼントしたんじゃないか、忘れてたと津奈木がぼそっと答える。
 してよと詰め寄る。わかったと答える。わかったなら今してよ。さらに今と強く言う。
それで津奈木はしかたなさそうに手袋をする。
 すると寧子が言う。
「ふざけんな。」
「や、別にふざけてなんか。」
「ふざけてるでしょ。どうして家の中で手袋なんかするのよ。」
「だって、しろといったから。」
「言ったからなに」「・・・・・・」
「え、どういう意味があるのか考えないのあんたは。」
「ごめん」
「そのごめんはどういう意味。何に対して謝ってんの。」
もう、こんな毎日。特に愛しているわけではないのだから、別れればと思うのだが、別れない。

 こんな津奈木について寧子が語る。

 「津奈木は自分の意見を主張しないことで、自分の中で作り上げている世界の中に他人を介入させない。自分と他人の間に絶対的距離を置いていて、年に漫画や小説を百も二百も読んではその価値観にじっくり浸り、強固な津奈木ワールドを築いている。口数が少なくて人あたりが柔らかいからいい人だとかん違いされるだけで、あたしに言わせればあれほど他人に無関心な男はいない。」

 何を吠えようが、甘えようが、全く関心が無い。部屋にいたければいればいいし、いたくなければでてゆけばいい。好きにしたら・・・。現代のある断面を鋭くきりとっている。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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イシコ  「人生がおもしろくなる!ぶらりバスの旅」(幻冬舎文庫)

海外や日本、それから北海道から沖縄までの日本縦断など、バスの旅満喫のエッセイ。

私の勤めていた会社がマレーシアの内陸鉱山の町イポーに工場を作り、立ち上げも含めてしばしばイポーに出張した。このイポーを少し南下したところに、キャメロン ハイランドという高原がある。ここは、マレーシアを植民地にしたイギリス人が拓いたリゾート地。標高1500メートルくらい。

タイシルクで巨万の富を稼いだシルク王といわれたジムトンプソンが謎の失踪をした場所で有名。松本清張や中村敦夫がこの失踪を物語にしている。
出張したときは、しばしば行った。結構、坂道を上るため、くねくねつづらおりの道が続く。

 イシコはここから首都クアラルンプールまでバスの旅をしている。ほぼ満席の状態。

カーブを何回かまわった直後、隣のインド人がたまらなくなって嘔吐する。それが車内に流れ出す。そして、そのインド人の嘔吐がきっかけとなり、火事が大火事になるように、バスがカーブを曲がるたびに、あっちでも、こっちでも嘔吐が始まる。車内に吐瀉物の匂いが充満する。

 靴を汚してはいけないからイシコは両足を少しあげて椅子に腰かけている。

隣のインド人が嘔吐をしてスッキリ。笑顔をイシコにむける。
 するとイシコは、力が抜け、インドでは牛の糞をふんづけた、パリでも犬の糞を踏んだ、靴なんか洗えばいいじゃないかと、嘔吐物のなかに靴をいれた。

 なかなか経験できない大変なバス旅。世界は広い。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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笹生陽子   「空色バトン」(文春文庫)

 子供には信じられないことなのだが、自分の両親にも、中学生や高校生の時があり、悩んだり、喜んだり、喧嘩したり、思春期を思いっきり走り抜けた時代があった。

 高校3年生のセイヤの母が突然死する。その葬式に、優等生のような、笑える個性の、女王様のような3人のおばさんが、母親の小学生の時からの友達としてやってくる。

 そこで、母をいれて4人が小学生のときにマンガ同好会を作っていて、そのとき作ったという同人誌が男の子に渡される。
 そこから、男の子の知らない、しかし、男の子に確かにつながる、4人それぞれの視点からの出会いから同人誌を作るまでの物語が連作で紡がれる。 

 高校3年生はイタズラざかり。女性に強い関心があり、童貞を捨てたいとき。

興味本位で作ったプログで女性をつろうとする。簡単にそんなことで女性と仲良くできるわけはないのだが、これに応じる女性がいた。何か裏があるかと思ったらやはり2か月後に裏にいるヤクザが、正体をあらわす。その時のセイヤの友達への報告。

 「なんかバックにヤクザがついてて、いきなり大金せびられた。彼女に子供ができちゃったから、おろすのに5万よこせって。ラブホに行ったの一回きりだし、先っちょ入れただけなのに。妊娠なんてするわけない、って言っても許してくんなくて。今日の呼び出しにおうじなかったら、ミンチにするってメールきた。どーしよー、おれ、金ないし。人肉ミンチ。まじヤベー。」

 こんなしゃべり方ふつうは絶対ない。ラップかなにか踊っているようだ。笹生さんの文章はいつもリズムに乗っている。

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| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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本谷有希子   「グ、ア、ム」(新潮文庫)

タイトルが「グアム」でなく「グ、ア、ム」になっているところに本谷さんの思いがある。

最近は白か黒、富裕層か貧困層、上流か下流、夢か絶望と、はっきり区分けする社会になり、はっきりできない人は社会から疎外され、組織、集団からはじきだされる。
 しかし、世の中を動かしているのは、中間色、うすぼんやりとしている層であることが多い。

 世の中でバランスがとれるのが三という数字。両極端の間にはいり、おろおろ、貧乏くじを引いて、非難ばかりあびているようで、実はうまく世の中が動くのはこんなはっきりしない層だ。

 25歳の姉は、北陸の陰鬱な雰囲気を嫌い、東京の大学に進学する。就職が不況と重なり、ことごとく失敗。アナウンサースクールに通いながら、大規模スパでマッサージのバイトをしている典型的ワーキングプア。

 妹は、そんなだらしない姉を嫌い、高校を卒業するとさっさと信用金庫に就職。大阪で働いている。堅実派で、親がいらないというのだが、19歳の時から家に送金をしている。

 だから2人は徹底して仲が悪い。そんな2人の間をとりもとうと揺れ動くのが母親。

そんな3人に、父親がグアム旅行をプレゼントする。この費用もかた物の妹は、自分で旅費をだしている。
 物語は3人の旅行がテーマ。他に、マッサージのバイトから帰る長女の乗る電車に沿って走る3つの路線電車。先住民のチェロモ族の3つの階層。過去、現在、未来を表すトリロジーのダイヤのネックレスなど3がキーワードで登場する。そして「グ、ア、ム」も3文字。

 グアム旅行。台風が上陸して最悪な状況になる。それに加えて、次女は歯痛、母親は生理。だから、姉妹はまったく口を聞かず、間にたつ母は何とか2人を仲良くさせようとおろおろ。

 最後のチェロモヴィレッジで母親がトイレに行っている間に、さすがに母が気の毒と思ったのか、姉妹が母を励まそうと思いが一致。やはり、最後は間にたつ母親が旅行の中心となり、旅行が明るくなる。母、姉妹の3人。三はバランスがいいのである。

 この物語ではあまり登場しないが、独特の個性があり、とんでる父親が実に楽しく、笑える。

 妹が大阪に就職で旅立つとき、厳しく命令する。
「絶対AV女優になってはいけない」

グアムから電話で妹と話をする。
 お土産を妹がどんぐりにするという。父親がそんなもの土産にしてどうするんだと聞く。
死んだとき使う。死体の鼻の穴につめる綿の代わりにどんぐりをつめてあげると。

 本谷さんの物語は、こんな傑作なギャグが散りばめられていてたまらない。

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小谷野敦   「夏目漱石を江戸から読む」(中公文庫)

 小谷野が出版した本の2作目がこの作品。だから、まだ小谷野が若い30代前半のときの作品である。

 私の青春時代、今は男女共学が当たり前になったが、高校は男子校。大学も経済学部で殆ど学生は男だけ。寮は、男のむさくるしい匂いが充満していた。完全に男のみの世界。

 こういう状況で毎日を過ごすと、バンカラを基盤にして、友情、愛情以上の強い絆で結ばれた男の世界ができる。もちろん年ごろだから、女性と恋愛したい。だけど、女性がどこにいるのか、どのようにすれば会えるのかが見当がつかない。悶々として過ごす。

 ここで作り上げられた仲間、絆は本当に強く、もし女性と恋愛しても、男たちの仲間を常に優先して、女性と別離するなど当然のこと。

 日本文学も源氏物語のように女性を中心としてその恋の揺らぎを描いた作品もあるが、江戸から明治にかけては、男性中心の物語となる。男の多くは、恋愛の疑似行為だけを廓にもとめる。結婚は、すべて家長が決め恋愛などは無い。女性は人間ではなく物扱い。

 こうなると、恋愛というのは、男から告白して成立するものではなく、女から告白してはじめてできあがる。江戸時代の心中物などすべてがそんな作品。

 男は、好きと女性に思いを言うなどということは頭の片隅にもない。

 そして、漱石の作品もこの枠のなかで、未完最後の作品「明暗」を除いて作られている。

 シェイクスピアの「ソネット集」を引き合いにだして小谷野が土居健郎の見方を紹介する。

 「行人」で、一郎が妻お直とうまくいっていない。そこで、弟二郎に頼んで妻と和歌山まで一緒に行き、妻が誰を好きになっているのでは確認してきてほしいと依頼する。
 二郎はお直と和歌山にゆくが、その日大雨となり和歌山に泊まりとなる。そこから一郎は孤独に追いやられてゆく。

 また「こころ」で先生がKの静への恋をうちわけられ、絶望に沈んでゆく。

 この2つは、普通一郎、先生の嫉妬から生まれたものと言われているが、そうではなくて、二郎やKが女性に取られてゆくこと絆の強い男が離れてゆくことに絶望しているからだと土居はいう。
これは斬新な見方だが、私たちの時代からみると、なるほどと納得してしまうところがある。
 「こころ」は巷間、ホモセクシャルな作品と言われているが、小谷野はそうではなく「ホモソサイアティ」の作品と言っている。

 その通りだと思う。現在は女性の地位は男を近々凌駕するのではというところまできている。こうなると、女性はますます損得で結婚するか決定するようになる。もう結婚しない女性、結婚できない男性ばかりの社会が目の前にきている。

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笹生陽子    「サンネンイチゴ」(角川文庫)

主人公は中学2年生の森下ナオミ。クラスでは殆ど目立たず、クラブも文芸部という地味な生徒。

 南先生という体育会系で元気がいいのだが、性格のひねくれた先生が担任となり、この先生のターゲットに清水君がなってしまい、南先生のいじめに耐え切れず、学校に登校してこなくなる。

 ナオミの席は清水君のとなり、清水君が不登校になると、その席に勝手に、頭は金髪、ヤンキーで学校随一の問題児である柴咲アサミが居座りだす。

 そこから、ナオミはアサミとアサミの恋人と思われていたが実は手下の手塚君とつるみだす。

 ここから奇妙な3人の友情がはじまる。
 街は、全体が斜陽になりつつあり、次々商店が閉じ、灰色の雰囲気が色濃くなってゆく。

それに呼応するように、街のいたるところにスプレーで落書きがされ、かばんやバッグにつけてある動物マスコットが次々盗まれる。この事件に3人が挑んで、それにより、事なかれ主義で目立たないナオミが個性豊かに生まれ変わってゆく物語。

 内容は平凡だが、文体がユニーク。スプレーで落書きをしている現場にナオミが遭遇。そこでの文章。

 「あたしは即座に身をかたくして、街路樹のかげにたたずんだ。笑い声が聞こえてくるのは約十メートル前方だ。街灯のない一本道に黒い人影がみっつかよっつ、もつれるようにじゃれあいながら、中腰になって群れている。なにしてるのかと思ったら、ガードレールに落書きしてる。スプレー缶をしゃかしゃかふって、慣れた手つきで共同作業。」

 何回か声にだして読んでみる。やけに調子がいいリズムののる文体。
七五調。作者笹生さんは詩人でもあるのか。面白く、読むのが楽しく、節もつけたくなる。

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| 古本読書日記 | 05:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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本谷有希子   「江利子と絶対」(講談社文庫)

最近ギャグというのが上手く受け入れられない。テレビを見ていても、画面の向こう側はむやみに面白いと笑い声が華々しいが、これでどこが?とこちら側では白ける。確かに、私も年を取ったのかとつくづく思う。

 この作品中編短編集もギャグに偏愛していないとしっくりこない。

本のタイトルにもなっている「江利子と絶対」はギャグの世界だ。

 主人公江利子は、ひきこもり。必要だからしかたなく近くのコンビニまでに行くのが唯一の外出。
ところが、他人や社会への恐怖のためひきこもりになるのが一般理解なのだが、ギャグは、前向き、積極的生き方の引きこもりを引き出すと作品は提示する。

 面白いけど、そんな明るく強い積極的なひきこもりがイメージできない。
電車のなかでひきこもりの女の子が、大立ち回りをする。それに、違和感がある。そんなのだったらどんどん外へ出ればいいのに。

 でも本谷は、私のギャグがわからない人たちには自分の作品は読んでもらわなくて結構と言いたいと言っているようだ。

 3番目の作品「暗狩る」。いじめっこの波多野が主人公の小田原と吉見の3人で野球をする。波多野の打ったボールが広場の向こうにある大きな屋敷に飛び込む。ボールを3人で屋敷に忍び込んで探す。

 主人公が住んでいる街も含め、近郊の街で最近連続女性失踪事件が起きていた。3人が屋敷に忍び込むと、そこの主人の香山が女性の死体を庭に埋めていた。何とその屋敷は女性殺人犯の家だった。

 犯人香山は忍び込んだ3人は自分が殺人犯だとわかっているし、目の前にその3人はいるわけだから、すぐ殺すことができる。だけど、そこで突然「かくれんぼをしよう」と唖然とする提案をする。ここがギャグだ。

 そしてここから、3人を追い詰める香山と逃げる3人の物語がホラーの雰囲気満載。ここを書きたくてかくれんぼになったんだと納得。

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| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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朝倉かすみ    「少しだけ、おともだち」(ちくま文庫)

会社や学校で、団地で、いろんなあたりさわりのない話をしている。しかし、本当に言いたいことはしゃべらない。本当のことをしゃべるのは「おともだち」だけ。そんな「おともだち」の風景を描いた短編集。

 作品では「お友達」から離れた短編「C女魂」が面白い。

C女というのはその町にある女子高校の略称。レベルは最も低い。かっては一学年5クラスあったが、今は2クラス。松組と竹組。松組はあくまでC女の中だけなのだが、成績優秀で、生活態度にも問題のない生徒をいれ、竹組には勉強よりエンジョイしようという生徒をいれる。まじめ組とヤンキー組。地味組と派手組。モテない組とモテ組といわれた。

 そんなふうに、クラスを区別したのは、学校側では何としても公務員合格や、少数で構わないから大学進学、あるいは名のある企業へ就職する生徒を出したかったから。しかし、そもそも教師に意欲が無い。教師の願うことは、とにかく問題を引き起こさず、生徒が無事に卒業してほしいことだけ。

 そんな暗い、意欲もない学校で、二年生松組の7名の生徒が、学校にいる間に、積極的に何かを成し遂げたいという思いが高まりボランティア同好会を立ち上げベルマーク収集活動を始める。
 それなりに2年松組は活動に前向きだったが、他の組はベルマーク収集箱を設置してもゴミ箱に使用されるというさんさんたる状態。

そんな中、学校が今のままでは経営が成り立たないとして、同じ低級クラスのT男子校と合併することを表明する。

 実は、C女もT男子校も、通っている生徒の親は殆どC女、T男子校出身。結束せねばということになりベルマーク収集に力を発揮することになる。これで、無関心、斜めでみていた生徒たちも収集活動に参加するようになる。

 今や、松組全員27名がボランティア会員。さらに学校全体では47名が会員となっていて、ベルマーク収集活動は大成功となる。

 多くの学校が、自分たちの頑張りの源として校名をつけて「○○魂」とよく言うが、この魂とうのが実態は何なのかよくわからない。

 でも、この学校でも何かよくわからないが、この先C女魂を発揮しろとか、それで困難を克服しろとか言われるようになるんだろうな。

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岸本佐和子編    「変愛小説集2」(講談社文庫)

 しっかりタイトルを見ないで、てっきり「恋愛小説集」だと思って購入した。
最初の川上弘美の作品を読んで、これのどこが恋愛?とよくよくもう一度本のタイトルを見直したら「恋愛」ではなく「変愛小説集」だった。

 翻訳家岸本佐和子が作家を選び、書きおろしてもらった作品集なのだそうだ。とにかく流行作家の変愛の形の想像力には感心した。

 川上弘美は未来のある工場を物語にしている。その工場は食料とともに子供を製造している。未来では子供は男女で作るのではなく、工場で作られるのである。

 その子供も、人間の基幹細胞が弱いため多くは作られず、別の動物由来により子供はつくられ人間由来によって作られている子供は5000人のうち10人ほど。

 だから馬由来、兎由来という子供がたくさんいる。

 それで、生まれた子供は、3週間もすれば幼稚園に行けるくらいに成長する。それから、人間由来で生まれた人間は、妻、あるいは夫を一生のうち何回も変える。動物の生存期間が短いため、みんな死別するのである。
 何か面白くわくわくして読んだが、それでどうなるのと思ったら何も起こらず物語は閉じる。拍子抜けである。

 村田紗耶香の「トリプル」も面白い。
恋愛カップルといえば男女一人一人ということになるが、ある未来、父母世代は男女カップルというのが普通だったが、その子供の代では、男、男、女とか女、男、男と3人で恋愛するのが一般的となっている。

 この物語の白眉は、ここでは書けないが、愛の交歓を3人でどのようにするかという部分。
村田は実にこまやかにリアルにその場面を描く。作家はすごい。

 本谷有希子の「藁の夫」もユニーク。
主人公の夫がなんと藁でできている。ちょっとした主人公の指示ミスで夫が運転するBMWに傷をつける。これに夫が猛烈に怒る。どんなに主人公が謝っても怒りは収まらない。ずっと言い合いを続けていると、とうとう夫ははかなみ、体の藁の中から、中身を放り出しはじめる。藁の中にはいろんな楽器が収まっていた。楽器が全部放り出されて楽器の山が築かれると、夫の体は枯れた藁くずになった。

 この時妻は一瞬思う。火をつけて、パット燃やしてしまおうかと。
瞬間ぞっとした。でも、次の瞬間放り出された楽器を妻は藁のなかに戻していた。

 あー良かった。安心した。

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| 古本読書日記 | 05:48 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山崎ナオコーラ   「お父さん大好き」(文春文庫)

最近の会社では、会社規則として、社内不倫は絶対御法度。上司が部下の女性と2人で食事に行ったりする場合は、上司の上司に申請書をだして、承認印をもらわないと食事などできない。もし、発覚した場合は、懲罰規定に従い罰せられるなんて会社まで現れた。

 おじさんは若い子をどんな娘でも可愛いという。若い娘もおしなべておじさんは可愛いという。
 しかし両方の可愛いにはおおきな相違がある。おじさんは若い娘にこびへつらい、何とか特別に仲良くなりたいと願望の可愛いである。しかし若い娘の言う可愛いは侮蔑、嫌悪感の発露である。

 おじさんの口説きは、この作品集でも、主人公寅井が上司大河内言うが、全く同じパターン。家族に対する愚痴。いかに、嫁さんと冷たい関係になっているかを綿々と言い続け、潤い暖かさが欲しいと訴える。もう娘や息子は、寅井より年上で、結婚までしているというのに。

 寅井さんはプライベートで「ハッピーおじさんコレクション」というおじさんの写真を集めたホームページをもっている。

 電車や会社でありとあらゆるおじさんの写真をとりコメントをつけて公開しているのである。そして、大河内さんをはじめ、ありとあらゆるおじさんのハゲを撮って公開したところ、今まで日に7-8人しかアクセス者がいなかったのだが、そこから7-800人にアクセス者が増える。たくさんの悪辣な非難を浴びる。

 寅井さんは、同僚の森とすきかどうか確信はないが、セックスフレンドとして付き合っている。寅井さんは、森の頭をみて、ハゲになった姿を想像し、見てみたいものだと思う。

 森は結局別の女性と結婚することを寅井さんに告げる。寅井さんは、ホームページを削除する。

 寅井さんは目の前の山並みをみている。男はすべてひとつだと思う。森から大河内まで山を連なっていて繋がっているとしみじみ思っている。

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| 古本読書日記 | 05:46 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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