FC2ブログ

2018年03月 | ARCHIVE-SELECT | 2018年05月

PREV | PAGE-SELECT |

≫ EDIT

石原慎太郎    「天才」(幻冬舎文庫)

随分前だが石原はテレビを始めとしたマスコミに頻繁に登場し、ロッキード事件は当時の宰相田中角栄を追い落とすためにアメリカが仕組んだ謀略であると主張していた。この作品は田中首相が天才であるかのように喧伝しているが、石原の想いであるアメリカ謀略説をひたすら書きたくて書いている作品となっている。

 石原が現役国会議員のときは、田中の金権政治を批判し、田中との関係は希薄だった。田中の懐に飛び込んでできた作品ではないため、いくら田中一人称で描いても、わざとらしさばかりが目立ち、中味の薄い作品になっている。

 田中が日本の未来を見据えて、天才的発想で政治を行ったという石原の考えにはかなり違和感を感じる。

 すべての県に空港をつくるとか新幹線包囲網を構築するという考えは、未来を見据えるというのはとってつけた説明で、とにかく田中は、国民の税金を土木、建築につぎ込み、ここから自らの懐と自民党に大金を吸い上げることだけに関心を示し政治を行ったと今でも私は思っている。ひたすら、自ら金満となること、札束で政治をコントロールすることだけ。

 田中首相時代にはこのシステムが絶頂期をむかえ、参議院選挙のために300億円を集め、自民公認候補には一人3000万円を配った。ロッキードからの賄賂5億円は、田中が要求したり、田中自身が受け取ったわけではなく、秘書が受け取っていた。5億円は田中にとっては普通のはした金。関心もなかった。

 つまり300億円は田中の構築したお金収奪シシテムに乗り、自動的に集まってきたお金なのである。

他の作品のように構想を練って、創り上げた濃密な作品と違い、アルバイト感覚で、さらさらと書いたこの作品。こんな作品が大ベストセラーになり大金がはいるのだから、石原にとってはたまらない。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 05:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

石田ゆり子  「旅と小鳥と金木犀 天然日和2」(幻冬舎文庫)

石田さんは現在48歳。この日記風エッセイを書いていた時は33歳。48歳になっても魅力的な女優で、世の男性諸兄の心を揺らしている。まして33歳なのだから、恋に真っ最中。それにともなって、感情が盛り上がったり、悩んだりしていることが描かれているのではと思って、手にとってみたが、流石防御姿勢は堅固で、具体的な部分は少なく、苦しんでも、悩んでも前向きに生きようという空疎な言葉が並んだエッセイになっている。

 会社時代、取引先だった船会社の担当者に石田さんという、がっしりした方がおられて、この石田さんが、石田ゆり子さんひかりさんのお父さんだったと聞いたことがあった。

 この船会社、伝統と格式がある会社で、徳永家康の末裔のかたがおられたり、石原慎太郎の無二の親友がいた。多分石田さんのお父さんも資産家で格式のある家の出のだろう。

 伝統のある家の方は格式を重んじ、それに見合った人でないと結婚を認めない。石黒賢、岡本健一など男優と恋愛をしてきたが、頑固おやじのお父さんが結婚は認めなかったようだ。

 だから、このエッセイを書いたころは、ぐっと落ち込んでいたのではと想像してしまう。

唯一このエッセイで石田さんの想いがでたのは女性のために書かれた「C’est jojiここちいい毎日」の販促のために開催された福家書店の握手会の風景。

 女性のために書いた本なのに、握手会にきたのは90%が男性。
60歳くらいの中年男性が、「この本で伝えたかったことは何ですか。」と聞く。
「やっぱし、美容のことでしょうか・・・・。」男性はうれしそうに笑って
「・・・読まさせて頂きます。」
この会話中、男性は握手した手を強く握って離さない。

 その後も答えるのにちょっと考えてしまう問いかけをする男の人たちばかり。そしていずれの男性もその間ずっと手を握っている。

 石田ゆり子さんにはちょっといやな感じがしたとは思うが、男性の気持ちをわかるなあと思ってしまう。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

松本清張  「遠くからの声」

爺やの感想はこちら
表題作をプッシュしています。
あとがきの人も、「愛するがゆえにかえって憎しみ、遠ざけるという矛盾した愛憎の共存」云々語っています。
が、「妹が旦那に対して馴れ馴れしい。旦那も、無関心を装いつつ妹の境遇を気にしている。面白くないけど、嫉妬を表に出して笑われたくない」という奥さんのイライラのほうが理解できる。
「あの子は僕を愛しているから、あんな自棄みたいな行動をとるんだナ」
という男の気づきに、独りよがりじゃなかろうかとあきれた気分になってしまう。

IMG_9064.jpg

★殺意
青酸カリ=殺人事件の定番。購入者=怪しい奴。そんなふうに思われそうな、メジャーな化合物。
某「楽器の町」で働くねえやは、ラッパの部品をメッキするときに使うらしいという認識があります。
で、「いつか使おう」と長期間保管していると、毒性が失われるらしいです。(島田荘司「最後のディナー」)
表題の殺意ですが、あとがきで「心理学者の社会的動機の二十の類型でいうと屈辱回避」と解説されています。
二十の類型に上がるくらいなので、そこまで突飛な印象は受けません。

☆なぜ「星図」が開いていたか
昨日の記事で「不在宴会」というタイトルに、ビミョーだと突っ込みました。
このタイトルはいいと思います。さぞかし重要な理由が、「なぜ」の説明があると思いきや……ですね。

IMG_9065.jpg

★尊厳
「或る『小倉日記』伝」や「権妻」あたりに面白味を感じるので、こういう皮肉な結末はいかにも松本清張だと思います。
米国軍人の遺体を洗う仕事は、ほかの作品でも出てくるようです。

☆氷雨
オチのセリフがピンと来なかったクチです。うーん。
話としては分かったし、主人公がおでん屋で「昔、若い子と張り合ったことがありましてね」と笑い話にする設定は、ほかの作品に比べて穏やかです。
さらっと、「子供を二度ばかり産んだ経験のある」と書かれていることが、なんかひっかかる。
料亭の女中として働き、場合によっては客の誘いに応じ、一人暮らししているらしい彼女。
子供は、手放したってことだろうか。あんまり、こういう時代の水商売の女性を題材にした小説を読みなれていないので。

| 日記 | 20:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

原田マハ    「異邦人」(PHP文芸文庫)

銀座のタカムラ画廊で父の社長の下、専務をしている篁一輝。妻の菜穂は妊娠中に起きた東日本大震災の放射能汚染を恐れて、京都に一時的に避難して住んでいる。菜穂の祖父は、有村不動産という会社を興し大きな財をなし、現在は長男が経営している。有村不動産は有村美術館を所有、母克子が館長、娘菜穂が副館長。母娘は有村の祖父の遺産を利用して、美術品を殆どタカムラ画廊を通じて買い付けている。

 菜穂が京都の美のやま画廊を訪れたとき、奥の部屋に飾ってある「青葉」という作品に胸が刺される。菜穂には美術品にたいして独特の鑑識眼があり、この胸を刺されるという美術品はその後価値が上がってゆく。この「青葉」の作者は白根樹という若い無名の女性画家で幼いころに受けた衝撃が原因で、喋ることができない。

 タカムラ画廊は、ニューヨークのコレクターが所蔵している一流画家の作品を買い付けようと、多額の金を銀行から借りて沖田というディーラーに渡すが、沖田が金を持ち逃げして行方をくらまし、銀行への返済期限も迫り、窮地に立たされる。

 そこで、有村美術館が所有するモネの「睡蓮」をタカムラ画廊が安価で買い受け、香港のコレクターに販売して、費用を捻出する。この謀略を、菜穂には内緒で、館長の克子と一輝で行う。

 一方、大震災で有村不動産も商売が厳しくなり、有村美術館を手放すことを決め、所有する美術品を売ることになる。
 ここまででも、物語は搖動しているように思えるが、描写は京都の風情や京都の人々の独特の文化が丁寧に書き込まれ、印象としては淡々と進む。

 原田さんだから、この淡々さでは終わるわけが無いと思っていたら、最後数十ページでぎっしり驚きを詰め込み、読者を原田ワールドに引き連れてしまう。

 白根樹が匿っている京都画家の巨匠志村照山と樹との関係。有吉美術館で所蔵する高い価値のあるモネなどの作品の所有者が菜穂であること。その菜穂が、克子、一輝の子供ではなく、祖父喜三郎と京都の芸妓との間でできた子供。そして、最もびっくりしたのは白根樹が実は喋ることができたということ。

 これは凄いとは感じたが、あまりにも詰め込み過ぎじゃないかと少し食傷気味になってしまった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:36 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

三遊亭円丈   「師匠、御乱心」(小学館文庫)

会社にはいって4年後、地方都市の古ぼけた映画館に、三遊亭円丈と小遊三がやってきて落語をした。それを見に行った。小遊三の形態模写、円丈の新作落語、どちらも面白く大笑いをしたことを思い出す。それにしても、こんな古い映画館によくもやってきたものだと当時不思議に思った。

 それは、三遊亭一門が落語協会を脱退、定席だった席亭をしめだされ落語を演じる場所がなくなったため、地方にまでやってきて落語を演じていたからだ。

 昭和53年、落語協会会長だった柳家小さんが、一度に10人の真打昇進を決めた。これに小さんの前任の会長だった、三遊亭一門の大将三遊亭圓生が反対。きっちり芸があり、精進をつんでいる落語家だけ真打に昇進させるべきと協会に反旗を翻した。

 圓生の主張はもっともな正論。しかし、落語界では、かって真打に昇進できなかった落語家はひとりも存在しなかった。昔は落語家になろうという人が少なかったのだが、昭和32年ころから、どっと落語家を志望する人間が増えた。今までは考えられなかった大卒の人間までが落語家になろうとする時代になった。

 こうなると、ある期間務めた落語家は真打にさせてきた伝統を維持するには、一度に大量の真打落語家を誕生させざるを得ない状態になり、小さんが10人まとめて真打を誕生させると決めたこともあながちおかしなことではなかった。

 圓生は、自分の息のかかった、立川談志、古今亭志ん朝などを常務理事に押し込み、小さんにたいする不信任案を理事会に提案したが否決された。それで圓生は落語協会から脱会する決意をして、そのことを弟子に通達する。

 その際、弟子が路頭に迷うことは避けたいとして、弟子たちに兄弟子の円楽一門に入るように指示する。

 ところが、弟子たちは円楽(先代 今の円楽ではない)が大嫌いで、円楽についてゆく落語家は圓窓一人のみ。この辺りから、作品はいかに円楽が金にきたなく、裏表があり、人間性がひどいものかが中心となって描かれる。

 更に、師匠である圓生は天皇の前で落語を演じ、有名になり、ひきもきらずあちこちから舞台の依頼がくる。しかし、弟子たちのことは全く関心がない。円丈からみると、自分だけよければよいという弟子を見放す冷たい師匠ということで、師匠にたいする評価はがた落ちとなる。

 赤裸々な円楽、圓生に対する罵詈雑言満載の本となっている。
それにしても、この本は昭和61年出版なのだが、30年を経て何で今さらこんな本が文庫になって出版されたのか不思議である。

 圓生をはじめ、先代円楽、志ん朝、談志と渦中の人だった人は他界しているだけに猶更の感じがする。

 円丈以下の弟子たちは、落語を演じる場所のないことに耐えきれず、昭和55年、圓生の他界を期に、落語協会に復帰する。しかし、円楽一門は所期の圓生の意志を守り、今でも「大日本すみれ会」という組織で活動している。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ




| 古本読書日記 | 06:34 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

松本清張 「三面記事の男と女」

爺やの感想はこちら
前回読んだ角田光代「三面記事小説」へ、爺やが感想を書いているかサイト内検索をかけ、松本清張でもこんな短編集があると知った次第です。

★たづたづし
爺やが記事で取り上げている短編。記憶喪失が絡んでドラマチックです。
ただ、タイトルの元となっている万葉集の歌に関しては、こじつけっぽい感じがぬぐえない。うーん。
記憶喪失になるほど首を絞めたのに。痕は残っていないものなのか?
東京に住んでそれぞれ仕事のある不倫カップルが、日曜日の16時に富士見(私の感覚では結構な田舎)で待ち合わせして、男の方が「人目につかないあの山までハイキングしようか」……どう考えても無事に都会へ帰れなさそう。
死亡フラグってやつかな( ̄▽ ̄;)

IMG_9055.jpg

☆危険な斜面
飛行機で電車を追い抜くトリック、好きなんですねぇ。
「4月下旬の犯行でも、9月に発見された死体がオーバーを着ていたら、田舎の医師の検案は死亡時期を真冬にするだろう」という探偵役の強引さよ。
今時の探偵小説だったら、腐敗を早めるためのトリック云々を読者から求められそうですが、現実は案外そんなものかもしれない。

★記念に
ここまで書かれりゃいっそすがすがしいという、男の勝手な言い分満載。
結婚するなら処女がいいとか、姉さん女房は旦那を立ててうれし泪を流すとか、三十路の愛人の腿に弾力がなくなり目じりもたるんできたとか、若い新婦の体は生硬だろうから独身最後の夜に元恋人の熟した体を味わいたいとか。
「のこのことよく行けたものだ、とはあとで起った他人の批評である」
この一文がすべてです。

IMG_9062.jpg

★不在宴会
びみょーなタイトルです。無理に四字熟語っぽくせんでも、主賓不在の宴みたいなニュアンスで……まぁいいか。
潜在光景という別の短編集を読んだ記憶があるため、タイトルにひっかかってしまった。
主人公がボロを出す理由がもっともらしく説明されています。
「危険な斜面」もこの話も、言い逃れする余地はありそうですが、噂が立って地位を追われれば身の破滅という価値観の男性なので、判決はどうでもいいですな。
で、犯人は誰だったんでしょうね。

IMG_9063.jpg

☆密宗律仙教
「ぼくの輪廻」という少女漫画があります。(連載中
<この巻を読み終わったのち、キミは必ず、ウィキペディアを検索してしまうだろう。
そして本当に実在すると知った時、キミは友達に言うのだ。
「なぁ、理趣経って知ってる?」と...。>
という煽り文句がついています。
私は、無料立ち読み分でしかこの漫画を知りませんが、坊さん=禁欲・潔癖というイメージ(理想)があると、意外に思うような教えがあるということですな。
コメディ漫画のネタにも、新興宗教を題材にした小説のネタにも使える。
難しい言葉が多かったので、主人公が教祖になるため用いた手法はピンときませんでした。
理解できちゃって、「自分もこの論法や出典を使えるかも」となったら、それはそれで危険ですが。

| 日記 | 23:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

鴻上尚史    「鴻上夕日堂の逆上」(新潮文庫)

劇団「第三舞台」を主宰し、脚本も書き、演出もする著者鴻上。

驚いたのは、舞台にかける前の2か月間猛練習をする。その間、鴻上は一日も休むことなく、ケイコ指導をする。

 その間は朝八時に起きてケイコ場に向かう。朝十時にケイコ場につきケイコがはじまり、夜九時までぶっつづけで行われる。それから2時間、スタッフとの打ち合わせ。何と毎日13時間ケイコが続けられるのである。

 せいぜい2時間程度の劇のために何でこんなにケイコをせねばならないのか。

身体が変わることと、頭が変わることには、かかる時間に雲泥の差がある。教養とは普通知識の程度を表すときに使用するのだが、身体本体にも教養がある。
 知識の教養はわりとその気になって頑張れば身につくのだが、身体の教養は、かなり時間をかけて努力しても身につかないこともある。

 知識の教養をイデオロギーと呼ぶのなら、身体の教養はクセと呼ぶもの。
自由に動いていると思っている人は、自分のクセをなぞっているにすぎず、個性的と言われる人の殆どは、無意識にクセを発しているにすぎない。

 映像ではクセがあっても構わないが、舞台ではこのクセが邪魔になる。

クセは無意識に起きるものだから、それを直すには、繰り返し繰り返し時間をかけて反復し、身につくまで粘り強くケイコをせねばならないのだ。

 舞台演劇というのは本当に大変なことなのだ。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

加藤千恵   「その桃は桃の味しかしない」(幻冬舎文庫)

こんな物語の設定はありえない。

雑貨屋でアルバイトをしていた秦絵は、客でやってきた平井に誘われ食事に行く。その2週間後に平井の愛人まひるが住んでいるマンションに、自分の荷物を持ち込んで一緒に住むことになる。
 愛人のところに一緒に住むなんてあり得ない。それで怒りを感じながら読み進む。

 それから変な雰囲気に襲われる。物語で、感情の起伏が揺らぐことがあったり、泣いたり、悩んだり、怒ったりするのはまひるだけ。後の登場人物は、秦絵のバイト仲間の亀田君を除けば、まったく生きているのか死んでいるのかわからないような存在感が無い。

 そういえば、秦絵は平井さんに拾われただけで、何の愛も感じていない。たとえsexはしても。

 平井も、妻の父が税金のがれでやっている不動産会社に勤めているが、仕事は全くない。秦絵とまひるが住むマンションも平井の妻が所有している。つまり、平井も妻と妻の父親に拾われただけの存在。実体が無い。

 まひるがはっきりさせようと決意し、平井の妻に電話をする。
「平井さんと4年前から愛人関係にあります。お願いですから平井さんと別れてください。」
逆上するかと思いきや、妻は淡々と答える。
「そうですか。いつもお世話になっております。ご迷惑かもしれませんがこれからもよろしくお願いします。」
妻も存在しない。

最初に、愛人の部屋にころがりこむなどあり得ないと思ったが、泰絵は感情を持たないただの物体。それなら、転がり込むことも理解できる。

まひるだけがぎりぎりする。その姿が痛々しい。それにしても不思議な印象が残る小説である。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

海堂尊    「スカラムーシュ・ムーン」(新潮文庫)

この物語に橋下元大阪府知事を思わせる村雨大阪府知事が登場する。橋下知事は大阪都構想が住民投票で僅差で敗れ、知事を引退したのだが、もし実現して、その先にこの物語のように、西日本が一つの国として独立するという構想があったら面白かったのにと本を読んで思った。

 北陸の加賀市にある養鶏場ナナミ ファームのアンテナショップ「たまごのお城」に中年の男が立ち寄る。差し出した名刺には「浪速大学医学部社会防衛特設高座特任教授 彦根新吾」とある。店番をしていたナナミファーム名波社長の一人娘まどかに、一日10万個の有精卵を作り、彦根がワクチンを作り出すために創った、浪速大ワクチンセンターに納入してほしい。」との依頼がされる。

 実は、彦根は村雨知事を陰で支え、いずれ医療を霞が関から独立、そしてカジノ王国をバックにして西日本を日本から独立させることを目論んでいる。そのために日本医師会を浪速に移転させることとワクチンを霞が関から分離して自由に作ることを計画し実行しようとしている。

 ワクチンは現在どこで作られても物流上、必ず東京を経由して全国に配布される制度になっている。
 だから、加賀を訪れ、まどかに有精卵10万個を高値で買い取るから、ワクチンセンターに直接納品を要請したのである。

 まどかはゼミ仲間の誠一、拓真と協力して、有精卵10万個の生産を頑張りながら実現させる。

 この企みを霞が関がだまって見逃すわけはない。それで、この計画を粉砕するために、東京地検特捜部の雨竜を起用する。物語はこの雨竜対彦根の対決になる。

 この物語で理解ができなかったのが、構想実現のための資金確保の方法。
1つめが、大企業ウエスギ モータースの上杉社長が天城医師によって行われた心臓手術の代金を回収して充当する

2つめが、その天城医師がモナコに置いてある天城資金を使う

3つめが、浪速の企業をモナコに移転。無税となるかわりに、その税金相当分の半額を手数料としてセンターに納付。しかし、モナコでは一旦お金がモナコに入るとそれをモナコ以外で使うことは禁止されている。どうも、この矛盾がよくわからない。

 まどかたちが作り出した有精卵。浪花ワクチンセンターまでの輸送を雨竜は妨害しようとするが、これも失敗。

 これで、いよいよ浪速ワクチンセンター運営がうまくゆき、浪速国独立となるかと思ったら、「日本独立新党」お披露目パーティで雨竜が資金源に確実なものはなく虚像だといいはなち構想はおじゃん。

 そうかやっぱし、私が抱いた疑問で、哀れな結末になったのか。
まどか、誠一、拓真の情熱と頑張りが無惨に散ったのが本当に残念だった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ



| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

中島京子    「長いお別れ」 (文春文庫)

厚労省の推計によると、65歳以上の認知症患者は2025年には700万人となり5人に1人が認知症患者となるのだそうだ。
 この物語は作者の中島さんが認知症を患ったお父さんを10年間介護をした経験をベースに書かれている。

 世の中には多くの認知症患者や老老介護を扱った作品は書かれていて、その特徴は悲惨、悲劇を強調して書かれるのが普通。もちろんこの作品、多くの場面は悲惨なのだが、描写はユーモアを満載、色調は明るいものになっているのが異色。

 主人公の昇平はある日同窓会に出席、その帰りに家に帰る方法がわからなくなる。それで神経科で診察を受けると軽度の認知症とある日診断される。

 東家では3人の娘がいるが、すでに家はでている。それで、昇平の介護は妻曜子が全面的にすることになる。
 昇平の特徴は、自分の家にいても、静岡の実家にいても、必ず「もう帰ろう」と言って家をでようとすること。

 徘徊する昇平。GPS機能付きの携帯を持っていて、あっちこっち、居場所を示す信号は移るのだが、娘たちや妻曜子はワーワー騒ぐだけで、何の役にもたたないところはユーモア皮肉いっぱいなのだが読む私の気は重い。

 子供っぽくなりわがままな昇平が、曜子が忙しく下の世話ができなかったとき、排泄した大便を三つの山にして、寝布団に並べておく場面は驚いた。

 曜子が網膜剥離で手術入院をする。主治医を振り切って退院しようとする。娘たちが、昇平の面倒はみると言うが、下の世話をはじめ娘たちに昇平の世話ができるわけはないと曜子が言う。昇平の世話ができるのは妻である曜子だけだと。

 大便を並べる場面を読むと、曜子の懸命な叫びがぐっと迫ってくる。
 しかし、我が家で同じ状況になったら妻は曜子のようになってくれるか、大きな不安が渦巻く。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ




| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

川村元気    「億男」(文春文庫)

主人公の一男は、弟の借金3000万円を肩代わりして返済するため、昼は図書館書士、夜はパン工場で働く。この借金のため、妻と子供とは別居している。

 ある日、福引で4等の宝くじ券を入手。この宝くじが大当たりとなり3億円を獲得する。
これで借金は返済し、家族ともまた一緒に暮らせるとは思ったが、金額があまりにも大きすぎ、もてあまし、どうしたらよいのか、唯一の学生時代からの友人九十九に相談する。

 この九十九、大学卒業後、他の3人、十和子、百瀬、千住の4人でIT会社を興し大成功をおさめる。その後、この会社を100億円以上で大手IT会社に売り、そのお金を4人でわける。ということは、九十九を含めた4人は大金持ちとなった。

 九十九はまったく不思議なことだが、相談に来た一男がちょっと席をはずしたすきに、一男の3億円を持って行方をくらます。

 一男は3億円をとりもどすため、九十九の係った3人を訪問しながら九十九の行方をさがす。その中で、3人が大金を入手して、どんな生活を営んでいるか問いながら、その現実をみる。

 一生かけても使いきれないお金を手にする。どんな暮らしに変化が起こるか。この作品では3つのタイプに分かれる。

 第一は百瀬。賭け事、遊びに湯水のように金を使う。毎日でかける競馬では、1レースに億の金をかける。こういうタイプは、そう時間がかからずに、大金を使い果たすだろう。

 第二のタイプは十和子。お金は押入れに隠して、まったく無いものとしてつつましく暮らす。しかし、お金があることが安心感につながっている。

 第三のタイプは千住。お金の上に君臨しようとする。

 人間がコントロールできないものが3つある。死、恋、そしてお金。死、恋は人間本来に備わっているものだが、お金は後から人間が創ったもの。

 そのお金にコントロールされるのではなく、コントロールすることにより大金をつかむという宗教を起こし、信者を集め、君臨する。

 この千住のセミナーの冒頭が面白い。セミナーで集めた人たちに持っている一万円札を半分に破ることを強制する。集まった人は逡巡するのだが、千住が声を荒げて命令するため、目をつぶって1万円札を破る。すると千住が言う。とうとう皆さんはお金をコントロールしましたと。

 そして最後に九十九に会い、九十九からこの物語のテーマになっている問いが一男になされる。

 「お金と幸せについてわかりましたか。」と。

 答えはよくわからなかったけど、映画「ライムライト」でのチャップリンの言葉。
 「人生に必要なもの、それは勇気と想像力とほんの少しのお金」がその回答なのだろう。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ



| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

さくらと桜

TOT

sakura.jpeg

もう桜も終わりですね。

| 日記 | 07:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

朝井リョウ     「武道館」(文春文庫)

 少し前、「365日の紙飛行機」という歌をどこかで聞いて、結構気に入りYOU TUBEで見ていた。そして、これが、今人気絶頂のアイドル グループAKB48の歌だと知った。
 情けないのだが、メンバーも殆ど知らないし、メインで歌っている子も初めてみた。

この小説のアイドル グループ「NEXT YOU」はいつか武道館でライブをするまでになることを目標に結成された。
 猛烈な毎日の特訓、練習。イベント、ライブと殆どメンバーは四六時中一緒に過ごす。それなのに、メンバーの一人愛子がつぶやく。

 話すべきことはいっぱいあったんだ。でも話すことは、振付の確認、早着替えのタイミング、MCの内容だけ。これまで話してきたこと以外にもいっぱいいっぱい、言葉にしてつたえあうべきことがあった。

 え?本当のことなの。もっと濃密な関係が個人的にできたり、グループ内に友達だってできているはずだと思うのだが。

 「いつでもかわいく、きれいでなきゃいけないのに、恋をしちゃだめ。歌とダンスが仕事なのに、あまり上手すぎるとそれはそれでファンがつかなかったり、求められることはいつだって両立してないのに、皆、そのどっちにも応えてあげる。売れてほしいからCDをいっぱい買うけど、ブランドものの衣装は着てほしくない。いっぱいいっぱい忙しくても、毎日ブログは更新してほしい。」

 「NEXT YOU」が飛び出した時代は、アイドルは恋愛はご法度。恋愛をおもわせる写真がネットや週刊誌を通じて拡散。
 「ファン裏切りの親密なデートの日々」そして第3者のインタビュー「いつもラブラブしている感じ」ネットにはもっといやらしい言葉が連ねられる。

 ところが時が流れると、恋愛の唄を、あのアイドルは経験も無いのに歌わされていると騒がれる。
 普通アイドル グループをやめる時は「卒業」と言われるが、スキャンダルが表面にでて辞めさせられる場合は「脱退」と表現される。

 CDが発売されると、CDに握手会特典付きで発売。自分の気に入ったアイドルとの握手ができるCDに当たるまで、CDを何枚も買う。この商法により一瞬CD販売がオリコンチャートで10位以内にはいる。オリコントップ10入りという箔がつくのだという。しかし次の瞬間には圏外にさる。

 アイドルとは何なのだろう。
物語では今や、考えて創り上げるものではなく、システムだと言う。なるほどと納得してしまう。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 05:55 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

大竹昭子    「須賀敦子の旅路」(文春文庫)

須賀敦子が亡くなって20年がたつ。今でも須賀敦子は新しい読者を獲得して、感動を与え続けている。かくいう私も須賀敦子に完全に取り込まれた一人である。

須賀敦子、聖心女子大を卒業し慶応の大学院に学び、そこを中退してパリに留学したのが昭和28年。そのパリが水に合わず、2年で帰国。そして昭和28年、今度はイタリアへ旅立つ。

 最初の居住地ローマで、そこで、当時高まっていた反戦争、社会主義の仲間と交流し、その中で恋人ペッピーノと知り合い結婚、ペッピーノに導かれて、仲間が運営しているミラノのコルシア書店に移り、そこでも多くの仲間たちと交わる。しかし愛するペッピーノは結婚5年半で病死。その後ベネチアに移り、昭和46年に帰国。

 その間、日本文学全集をイタリア語に翻訳出版したり、イタリア文学を翻訳し日本での出版を試みる。しかし、日本でもイタリア文学は知られておらず、まして日本文学などイタリアでは誰も興味がなく、話題にも上らなかった。

 この作品は、須賀を愛した大竹が、須賀の辿った道を丹念に渡り歩き、須賀の人生と魅力を掘り起こした、須賀ファンには堪えられない作品になっている。

 もちろん、須賀の魅力が全開する、ローマ、ミラノ、ベネチアの足跡が多くをしめ、魅力的なのだが、やはり不思議だと思ってきたのは、昭和46年に帰国して、最初の作品である「ミラノ 霧の風景」が出版されるまでの20年間の空白。その間どうして須賀は作品を執筆しなかったのか。最初の出版から死ぬまでが9年間しかなかったから残念な気持ちとともに疑問がずっと残っていた。

 それは、須賀がキリスト教信者だったことによる。キリスト教は信者とて、神をみたりであったことは無い。神も窮地に陥った人々を救済するわけではない。それでも、信者は信じて行動する。その行動は、弱者を救済することで現れる。須賀は日本に帰国してユマウスの家を東京に創設。その責任者となる。ユマウス運動とは、廃品回収をしてその廃品を販売して得たお金を弱者に寄付する活動である。活動を伴わない思想や妄想は拒否。活動があり考えが創られる。だから、なかなか大好きな書くということが実践できない。

 それにしても、どうして澄み切った静謐な文章を須賀は書くことができたのだろう。
須賀と親しかった古書店店主の丸山猛が言う。
 「須賀には自分の自由を抑えるものは何者も許さないという美意識が強く、しかもパワフルだったから多くの人に被害を与えた。しかし須賀自身がそういうわがままなところを彼女自身がよくしっていた。それが彼女の悲しさになり、孤独を深めた」

 強烈な自負と孤独が共鳴しあう。それが須賀文学の本質であること。なるほどとこの作品でしみじみと認識できた。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ




| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

堀川アサコ    「お天気屋のお鈴さん」(角川文庫)

堀川さんの物語は楽しくきっぷがよい。

主人公のお鈴は、300年以上成仏できず、亡霊となって今でも、現在の世界をさまよっている。何が原因で、成仏できずさまよっているかについては、物語とは関係ないから語らないと書く。

 更に現在を生きているカエデが亡霊お鈴の忠僕として行動せざるを得なくなっているのか説明が無い。
 そんなことは些末なこと、説明する必要などないという堀川さんの態度はすがすがしい。
何で?などと読者は思ってはいけない。

 1.ずんだ餅を食べる。
 2.舞妓さんに会う(この舞妓さんは亡霊であるお鈴のこと)
 3.熟年カップルに会う
 4.地下鉄のホームで五百円玉を拾ってネコババする
以上のことが行われると、必ず助平の幽霊が出て、痴漢が行われる。
どうして?「それが呪いだから」とお鈴がきっぱりと答える。

 でもこんな状況はとても起こらないんじゃないと思うのだが、助平の幽霊が引き起こすらしい。

 この助平じじいは、老舗遊郭の初代表だった狸穴屋彦衛門。

お鈴は在仙亡者会の会長をしている。この団体は、成仏できない亡者の犯罪を裁く団体。狸穴屋が地下鉄で井上君というサラリーマンに取りついて、五百円玉を拾った女性の下半身に触る。その罪を本法寺にあるお白洲の場で、お鈴が狸穴屋を裁く。そのときの狸穴の罪状がすごい。

 「狸穴屋彦衛門。そのほう。秋保温泉で女湯を覗き見し、仙台市内の学校、会社、役所の女子更衣室を覗き見し、女子トイレに出没し、アダルトビデオ撮影現場に潜伏し、あまつさえこれに映り込み、雑誌のグラビアアイドルの胸を触りしこと数百回、電車でサラリーマンに取り憑きおなごの尻に触りしこと数千回。」

 幽霊はその存在は見えない。だからこんなことが自由にできる。狸穴屋は成仏できないことが楽しくてたまらないのではと読んでいて思わず想ってしまう。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ



| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

谷崎 泉    「逆境ハイライト」(中公文庫)

主人公の源朋文はドイツに本社がある、外資系医療機器メーカー日本支社の営業部門に勤めている。同じ社内で知り合った恋人美鈴とつきあい、普通の結婚でもしようかと最近思い始め、順調な生活を営んでいた。上司だった江添がフランクフルトへ転勤となり、その後釜に座ることも囁かれている。

 そんな、朋文がある日朝、出勤しようとすると、突然警察がやってきて、任意同行で警察に連れていかれてしまう。朋文が担当している病院に不正過剰請求が行われていて、その過剰分のお金がある口座に振り込まれている。それを会社が警察に告発。担当である朋文が不正行為をしている容疑者なのではと連行されたのである。全く身に覚えがない。しかし、そのまま容疑者として拘置される。

 嫌疑不十分で釈放されるが、拘留前と状況は一変していた。会社に出社すると、誰もが近寄らないし、朋文のおかげで仕事が滞り迷惑だらけという雰囲気。そのまま自宅待機が命じられる。

 一方朋文の実家は、銀座で古くから和菓子屋を営んでいる。店は兄の益二が受け継いでいるが、生菓子をやめたり、最中の形をへちまにしたりして、客が遠のく。しかも、益二はギャンブルにはまり、店は大赤字。所有する古いビルを担保に3000万円借り入れるが、焼け石に水で、残金も数百万円となっていた。そのうち200万円を益二は引き出し「家業は朋文に譲る」と書置きして失踪する。

 完全に朋文は窮地におちいる。

そんなとき、フランクフルトで会社に出社していなくて行方不明であった江添から電話がある。江添は不正は自分がやったことを認めると同時に、迷惑をかけたということで、お詫びに朋文に預けていた、釣りのルアーをあげると意味不明なことを言って電話を切る。

 その翌日に江添の遺体がフランクフルトで発見される。

それまで、物語の進行がまだらこしかったが、ここからスピードが速まる。

 おいつめられた逆境を、小学校からの親友、古南が励まし、的確なアドバイスをして、朋文ははねかえす。その部分は読みごたえがある。

 内容はありきたりで、中味は少し薄いかなという印象。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

角田光代 「三面記事小説」(文春文庫)

短編集。最近集中力がないので、二日に分けて読みました。
あとがきの表現だと、「主人公たちはそれぞれの理由と決意によって『家族(と家族のような/家族になりたかった関係)』を切断し、社会的には『事件』と呼ばれるものを引き起こす」ということです。

IMG_9054.jpg

千絵は、既婚者の田口と付き合っている。
妻とはとっくに冷めているといっていた田口は、しかし、別れる様子がなく、千絵を避けるようになる。
「何があったのか話してよ」
「それ、頼んでんの? 人にものを頼むなら、『お願いします』だろ?」
二人で入った居酒屋でも、千絵がしゃべるばかりで田口は何も言わず、途中で携帯電話をいじり始める。
居酒屋の会計はもちろん千絵が払った。
「二時間だから、二千円。話を聞いてやったんだから、報酬くらい払うのが当然だろ?」
その後も、胸を触ってもらうのに一万円、下着を外してもらうのに五千円、挿入してもらうのに二万円。
彼がシャワーを浴びる間に、今回の合計金額を計算する。「自分は彼を買える立場なのだから、優位だ」と慰める。
最終的に、闇サイトに彼の妻の殺害を依頼したと、警察へ自首することを決める。
それも、彼の人生に影響を与え、自分の存在を思い知らせるためであって、消費者金融の督促に苦しんでいるからではない。

一番痛いのはこれですね。実際には誰も死んでいないけれど。
多くの登場人物は痛々しく、思い込みが激しく、幸せだったころの落差が印象的に描かれます。

| 日記 | 00:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT |