原田マハ 「奇跡の人」(双葉文庫)
ではこの本を読まずに「奇跡の人」を読めばことたりる、何をいまさらと思ってよいのかといえば、そこは名作家原田マハ、ちゃんと本家「奇跡の人」には無い軸をつくっている。
私の小さいころ、障碍者への視線、扱いはまだひどいものだった。障碍者が生まれると、それは遺伝だと考えられ、その家と係ったり、婚姻を結ぶということはタブー視された。だから障碍者は蔵に隠したり、家の柱に縛られ育てられることがあった。
また、女性は、大学までの教育は受けられたが、大学はいい婿をもらうための箔つけで、社会へでて職をもち、自立してゆくなどということはあまり考えられない環境だった。
まして、この作品は明治22年の青森が舞台。古い因習が当然の世界だった。
れんも土蔵に隠匿された生活を強いられていた。また、安も明治政府より最初の留学生としてアメリカに行き帰ってきたが、自立してその勉強を生かし働く場所は皆無だった。
原田はこの作品で、因習、固陋を打ち破ってゆく2人の姿を描きだす。これは本家「奇跡の人」には無い。
また、作品にはキワというれんより年下で目の見えないボサマの一団に加わっている女の子を登場させている。ボサマというのは門付け人としてよばれ、家の前にたち津軽三味線などを弾き語り、食べ物や金銭を得る芸人のことを言う。
厳しい先生安とれんだけの世界にせず、キワという口をきけない子供がれんと熱い友達となり、指文字で懸命に「レン トモダチ スキ」「キワ トモダチ スキ」と会話し、最後は手話にまで発展する姿は胸をうつ。
同じ年恰好の体の不自由な子供同士のつながりあいが、何よりも2人の成長には大切なことということを原田さんは見事に描く。
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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑