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2017年12月 | ARCHIVE-SELECT | 2018年02月

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原田マハ     「奇跡の人」(双葉文庫)

この物語、主人公の少女の名前、介良れん(ケラれん)、その家庭教師の名前は去場安(さりばあん)。しかも、れんは生まれながらに盲目で耳も聞こえないし口もきけない。こうくればあの名作「奇跡の人」をベースにして作られていることは想像がつく。そして、物語は殆ど本家「奇跡の人」のストーリーをなぞったように展開してゆく。

 ではこの本を読まずに「奇跡の人」を読めばことたりる、何をいまさらと思ってよいのかといえば、そこは名作家原田マハ、ちゃんと本家「奇跡の人」には無い軸をつくっている。

 私の小さいころ、障碍者への視線、扱いはまだひどいものだった。障碍者が生まれると、それは遺伝だと考えられ、その家と係ったり、婚姻を結ぶということはタブー視された。だから障碍者は蔵に隠したり、家の柱に縛られ育てられることがあった。

 また、女性は、大学までの教育は受けられたが、大学はいい婿をもらうための箔つけで、社会へでて職をもち、自立してゆくなどということはあまり考えられない環境だった。

 まして、この作品は明治22年の青森が舞台。古い因習が当然の世界だった。

れんも土蔵に隠匿された生活を強いられていた。また、安も明治政府より最初の留学生としてアメリカに行き帰ってきたが、自立してその勉強を生かし働く場所は皆無だった。

 原田はこの作品で、因習、固陋を打ち破ってゆく2人の姿を描きだす。これは本家「奇跡の人」には無い。

 また、作品にはキワというれんより年下で目の見えないボサマの一団に加わっている女の子を登場させている。ボサマというのは門付け人としてよばれ、家の前にたち津軽三味線などを弾き語り、食べ物や金銭を得る芸人のことを言う。

 厳しい先生安とれんだけの世界にせず、キワという口をきけない子供がれんと熱い友達となり、指文字で懸命に「レン トモダチ スキ」「キワ トモダチ スキ」と会話し、最後は手話にまで発展する姿は胸をうつ。

同じ年恰好の体の不自由な子供同士のつながりあいが、何よりも2人の成長には大切なことということを原田さんは見事に描く。

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森美樹    「ソラ色らせん」(講談社F文庫)

14歳だった。たった14年しか生きていなかった。出会ってから一か月しかたっていなかった。でも、100年も1000年も一緒にいた気分になった。

 出会ってから一か月間、主人公のマリとソラは学校の屋上を中心にぎこちないデートを重ねていた。海へも行った。

 今日も屋上にやって来た2人。マリが手放した赤いリボンが宙に舞う。それを獲ろうとソラが外柵に登る。そこで、足が離れソラは転落する。

 一命はとりとめたもののソラは、植物人間となって病室に横たわる。
それから、毎日マリはソラに会いに病院へ通う。眠ったままのソラに声をかける。

 マリはそれから高校に入り卒業。短大に通い、そして卒業。高校時代に街を歩いていたとき、年配の男に声をかけられ、ホテルに行き、肉体関係を持つ。その男が芸能プロダクションをしていて、マリは彼に頼んで、モデルとしての仕事を得る、少しは売れたが、今は、ヌードすれすれのモデルとなって働くところまで落ちてしまっている。

 そんな中、ソラに奇跡がおき、意識、感情が復活する。

 マリは今でも、ソラを深く愛している。しかし、ソラは14歳のまま時が止まっている。マリはもう23歳になろうとしている。

 14歳からみれば23歳は、もうおばさんの年恰好。甘い言葉や行動をついやしても、ソラには通じない。ソラが人間らしくなるのは、ベランダに座って学校へ通う中学生を眺めているときだけ。

 ふたりの心の差はいつ埋められるのだろうか。それとも埋まらないまま物語は終わるのか。ハラハラが最後の数ページまで続く。

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中山七里    「さよならドビュッシー」(宝島社文庫)

第8回「このミス」大賞受賞作品。この作品が出版されたとき、テレビで「のだめカンタービレ」が人気ドラマとして大ヒットしていた。

 それで、作者である中山は「音楽小説」であり、熱血指導講師による「根性小説」それに「推理小説」。これら3つを合わせた作品を創れば、絶対売れると確信の上に創った作品と思われる。そして、その試みは成功している。

 ピアニストを目指す主人公16歳の遥。彼女には同じようにピアノ演奏が抜群の従妹の16歳のルシアがいる。ルシアは父親の仕事の関係で家族でインドネシアに暮らしている。

 ルシア家族がスマトラ大地震に襲われ、ルシアを残して、両親は亡くなってしまう。
それで、遥の家でルシアを養女として引き取る。

 遥とルシアそれに祖父が生活している離れが火事に見舞われる。遥は全身やけどを負うが命だけは助かる。しかし、祖父とルシアは逃げ遅れ亡くなってしまう。

 全身火傷を負った遥は、形成外科手術をうける。

 やや、これはミステリーの定番とひらめいた。だいたい、大きな整形手術をするという物語は人間が入れ替わることになる。亡くなったのは遥で、ルシアが生き残っていたのでは。そしてルシアは以降遥となって生きていくのではと思って読み進む。

 クライマックス。ここで真相が明かされるぞと思ったときに、やはりジャーンとドビュッシーの音楽とともに入れ替わりが明かされる。

 仕掛けがが早い段階でわかったが、ピアノコンクールや熱血講師である岬の演奏を描写する筆力が卓越していて、まったく飽きることなく一気に読めた。中山の表現力には感動した。

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堀川アサコ  「おちゃっぴい 大江戸八百八」(講談社文庫)

江戸で起こる不可思議な出来事の真相解明に挑戦する3人の仲間が活躍する連作中編集。

日本橋のど真ん中の大通りに大きな店を構える薬種問屋、結城屋にはお屋敷と3つの蔵がある。その庭の先に太郎塚といわれている謎の塚がある。

 巴が師範代になっている剣道場六道館は、道場とともに身寄りのない子供を引き取って育てている。その道場で育てられていたシゲが結城屋にゆくゆくの後継者として養子として引き取られる。不思議なことだが、シゲは引き取られると同時にシゲから次郎と改名させられる。何故太郎でないのか。

 実は結城屋の当主は由十郎というが、その前は由十郎の兄長兵衛が当主だった。長兵衛は天才的発想で店を発展させた。加えて遊びも熱心で女もたくさん抱えていた。才気あふれる長兵衛は、秩父の山奥の洞穴に生きミイラがいて、このミイラの体を煎じれば不老長寿の薬ができると信じ、洞穴にでかける。この洞穴で怪物の猪に襲われ大けがをして、店に逃げ帰る。大けがをそのまま放っておくと長兵衛は死んでしまう。

 その時、奉公人の与茂治が薬を長兵衛にさしあげ、長兵衛はその薬により健康な体を取り戻す。ところが、この薬、児干という薬。長兵衛には妻シゲから生まれたばかりの赤子があった。その赤子を殺して、子供の体を煎じて作った薬だったと与茂治が告白する。

 これに大ショックを受けた長兵衛は気が狂い、死んでしまったような人間に変わる。太郎塚は、殺された長男のための塚だ。

 こんな展開から、生きミイラが秩父だけでなく高尾をはじめあちらこちらに現れ、長兵衛の霊にとりつかれた不気味な行動が重なりホラーの雰囲気満載で、最後にはとんでもない事実に向かって物語は進む。

 この物語連作集、発想は面白いのだが、巴が愛している靑治、巴を想っている桃助の関係の実際が殆ど描かれず、肝心な3人が物語でうまく立ち上がってこない。人間の作り方に失敗してしまっている。

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西村賢太   「夢魔去りぬ」(講談社文庫)

今回もおなじみの貫多と秋恵シリーズ5編が中心の短編集。

いつも必ずある、常識を超えた突出した出来事はこの作品集では登場せず、いつもの難癖に近い自己中心の秋恵へのバイオレンスを中心とした虐待と、その後のこのままだと秋恵を失うという恐怖感からくる、秋恵への大げさな謝り、へりくだりという定まったパターンが語られる。

 ひどいのは、大正期の作家の作品集を出版するということで、秋恵の実家から300万円借りる。秋恵の実家が心配になり借用書を作ってくれるように秋恵を通じて貫多に頼むのだが、貫多のプライドが許さず絶対借用書など作らない。

 秋恵はパートで働いているのだが、貫多は日がな一日ブラブラ。全く無収入。それで生活費は借りた300万円から出費する。この作品では、土なべを買う場面がでるが、それがホットプレートに変わる。お金のでどころは秋恵の実家にもかかわらず、貫多がお金を出してあげている状態になっている。この倒錯した威張りの部分にはあきれてしまう。

 西村は父親が強盗強姦事件を起こし、刑務所生活を送る。当然、母親は離婚して母子家庭で育つ。そんな家庭環境のため、高校へは進学せず、中卒で社会に放り出される。普通こんな環境の人は、どうやっても社会から疎外され、一般生活環境は享受できず、生涯底辺で生活するしかない状態になる。

 だから西村は稀有な人だと言っていいし、底辺の本音が迸っている。西村の作品は、成功している流行作家には、気分が悪く唾棄するように思えるだろう。

 しかし、そんな作家の作品より、西村の作品は真実を語っていて、他の作家の作品が嘘っぽく見え色あせてしまう。

 大げさで懐古調の独特の文体が、のめりこむように私と取り込む。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山本甲士    「運命の人」(小学館文庫)

高倉健、鶴田浩二、池部良3人が銀幕で活躍した「昭和残侠伝唐獅子牡丹」や「網走番外地」、東映任侠映画シリーズは私の大学時代人気の頂点に達していた。私の大学の近くに伝統的な温泉場があり、当時は藤純子が高倉健に代わり主役を張る「緋牡丹博徒」シリーズが全盛で、そのロケが行われ、寮生の多くがエキストラで温泉旅館まで大挙して行ったことを思い出す。

 この作品で描かれているが、みんなが高倉健に憧れていた。「網走番外地」は高倉の魅力いっぱいの男の美学が映画全体に迸っていた。これに期待して「続網走番外地」を楽しみに観に行ったが、前作とは全く関係がなく、すこしコメディタッチで驚いた。

 何とあの高倉健が女性用下着の露天商をやるのである。

まずは通例の仁義である口上を通した上で、販売をはじめる。
「ご通行中のみなさま、私はこの度、USAはニューヨーク、○○パンティ社の大日本代理店に指定されましたXX商会の出張販売員でございます。どうぞ、お手にとってよく御覧なさい。見たから触ったから買ってくださいなんてケチなことは言わないよ。」
 と言いながら、いかに強いパンティであるか示すために、パンティを横に引っ張るとビリっと破けてしまう。健さんにはそぐわない演出に笑ってしまったことを思い出す。

 学生時代はまだ学生運動が華やかにおこなわれていた。東映の任侠シリーズは権力側の映画にも拘わらず、活動家にも大人気だった。

 映画が始まると、大きな拍手がたたかれ「待ってました」と声がかかる。健さんがクライマックスで登場すると観衆が総立ちになり、健さんに「行け」「やっつけろ」とシュプレヒコールが起きる。

 驚くのは、映画が終わった後、皆が居残って、映画について議論が始まる。結論がまとまらず平行線になると、最後にまとめ役が登場して「それは、健さんにどうするかまかせよう。」といってお開きになる。そして、夜明け近い町を肩を組んでみんなで「網走番外地」を歌う。

 この作品はそんな青春の一コマを思い出させてくれる。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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違う違うそうじゃない

帰宅して階段を上がると、こんな感じ

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スタンバイ

猫トイレと本が同居しているから、古本が高く売れない……おっと、話がそれた。

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飯の催促

ドライフードは常設で大きい器。ウェットフードは気まぐれに小さな皿。

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本が汚れるのは言うまでもない

ドライを入れると一度は顔を付けますが……

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これじゃない

でしょうな。
食欲旺盛なジジイです。
ちなみに、8年以上前からじいさんと呼ばれていました。

| 日記 | 00:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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犬もソファーで丸くなる

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グラデーション

もちろん、喜んで駆け回ることもある。
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最初に外へ連れ出したときは、こんな感じ。
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なかなか面白い犬。
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入れ歯ではなくラグビーボール

| 日記 | 00:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有川浩    「キャロリング」(幻冬舎文庫)

私が前勤めていた会社で私の部下同士が、結婚をした。
女性は頑張り屋で、どんどん前に進みエネルギッシュ。相手の男性は、仕事が決してできないわけではないが、気立てが優しく、少し積極性に欠けていた。

 女性社員は、その頑張りで海外の仕事をこなし、出張も多く、管理職にも登用され、期待される存在になった。

 しかし、相手の男性は、あまり陽の当らない部門を転々とし、くすぶったままの会社人生を送っている。会社ばかりが人生ではないのだから、家庭はうまくいっているとは思うが、この作品を読むと少し心配が頭をもたげる。

 この作品に登場する小学生航平の両親の状況が私の元部下夫婦に似ている。同じ職場結婚。

 母親は、有能で仕事もでき、海外転勤まで決まっている。比較して父親は全く仕事ができず無能よばわりされている。それに嫌気がさして、父親は会社をやめ、家をでる。そして、横浜の整体院に弟子入りして、整体で再出発を図ろうと安い給料で働く。

 両親の離婚を食い止めたいと願う息子の航平の物語風日記が挟まれる。なかなか、子供視点での物語はありそうでない。結構新鮮に感じた。

 また、生まれながらに希望や夢とは無縁な人たちがいることも深く認識させられた。風俗などで働かされている人たち、暴力団の下っ端でうごめく人たち。もちろん、自業自得でそこに入り込んでしまった人もいるとは思うが、生まれ育った条件、環境が、そんな底辺でしか生きることができない人たちが多い。

 主人公の俊介もそんな環境で生まれ育ったが、他に登場する同様な環境下の人たちと違って英代というおばさんに恵まれて、夢、希望を持てる人生が送れた稀な存在。

 しかし、底辺に這いつくばって生きている人々が、何とかそこを脱出するために、犠牲になって後押ししてくれるのも、同じ底辺にいる仲間。一見悲しく思えるが、後押しする人たちの気持ちは熱い。そんな後押し役の風俗嬢のレイ、登場はあまりしないが、とても印象に残った。

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| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堀川アサコ    「ゆかし妖し」(新潮文庫)

平安時代に創設された検非違使。鎌倉時代になり武士が権力をとってかわったので、この組織は無くなったと思っていたのだが、この作品の舞台になる室町時代にも検非違使が存在機能していたのだと知り本当かねと少し驚いた。

 検非違使というのは、京都市中の巡邏業務にあたり、警察としての役割をするだけでなく、犯人追補や裁判,科刑を執り行ったり民事訴訟にも対応していた。

 この物語、奇怪な歌に予言されるように洛中随一の遊女が殺害される。剣術や柔術には秀でているが、肝っ玉が小さく、特に幽霊が大嫌いな検非違使龍雪がこの難事件に臨む。

 ホラーファンタジー作家の堀川さんの作品だけに、怪奇、妖気現象がしばしば起こる。そのたびに龍雪は震えあがる。
 のっぺらぼうの女が登場したり、死んだ女がよみがえったり。そんな怪奇現象に堀川さんは丁寧に謎解きをして、霊感現象としてあいまいにしていない。
 のっぺらぼうは、木彫りの人形、よみがえった死んだ女は別の女がなりすましていたなど。

 それにしても、公家の名門町尻家の娘詮子が、瘋癲の猪四郎に惚れ、彼と結婚するためにとったからくりがすごい。

 猪四郎を、町尻家の遠縁にあたる兼平家の養子にさせる。それから、丹後の田舎で荘園の司という新しい身分を与え官位をもつにふさわしいしつけをさせる。そうしておいて詮子は兼平家に嫁として興しいれをする。
 これほどまでに惚れさせた猪四郎は果報者?

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上龍    「オールド・テロリスト」(文春文庫)

  東日本大震災から7年後にあたるちょうど今年2018年の物語。NHKのロビーで、池上の商店街の路上で、そして新宿の映画館でテロが起き、たくさんの死傷者がでる。これらのテロの現場に、失職中で妻子にも逃げられ、ホームレスのような生活をしていたフリージャーナリストのセキグチが居合わせる。

 現在の反権力は、大きな塊となって示威行動をしたり、闘争をすることはない。小さなアメーバ状の組織がたくさん生まれ緩やかに競合しながら、権力に立ち向かう。

 起きたテロの犯行者は、それぞれ20代の若者で、組織的関係はない。
そして、このアメーバ状の若者組織を操りコントロールしているのが、70歳から90歳の老人集団。彼らは、みんな旧満州国と関連がある。

 彼らは、現在の社会構造の在り方に大きな怒りを持っている。わずかな富める者と大多数の低所得者。こんな社会が続いてはならない。

 日本は、戦争ですべてが破壊尽されたが、そこから社会変革が起き、見事に立ち直り成長した。
 だから、現状の社会構造を変革するのには、もういちど日本を破壊尽して、そこから国を再建するしかない。そして、その破壊の武器として原発をおく。

 マスコミは、自分の考えに合うように事実を創り上げ、あるがままの姿を伝えない。それで、あるがままを伝えてもらうためにセキグチが選ばれた。

 色んな不気味でわけありな老人が登場するが、特に想像を超えるような仕掛けがあるわけでもなく、筋立ては単純。

 村上はいつも思うのだが、喋りすぎ。思ったことは、全部表現しないとならないと考えている。644ページもある大長編。しかし、起きる事件はそれほど多くない。テロに遭遇し、恐怖に襲われるセキグチの心象を、こうだろう、ああだろうとあらゆる角度から描く。テロに襲われて恐怖に慄いているのに、あれやこれやと考える人がいるわけない。こんな調子だから、1日半の出来事が100ページ以上にも及ぶ。

 多くのエンターテイメント作家はこれと同じ内容を書かせたら300ページと少しで収まると思う。

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 芥川賞作家となると、心の動きを重点に描くことが求められているということなのか。

| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堀川アサコ    「幻想探偵社」(講談社文庫)

堀川のヒット作品「幻想シリーズ」4作目。

15年前、主人公の中学校野球部エースだった海彦が野球部をやめたある日、帰宅途中で拾った同級生ユカリのハンカチを、ユカリにもどしてあげようと、ユカリを追いかける。
ユカリが入っていった古ぼけた雑居ビルの一室が「たそがれ探偵社」という探偵事務所。

 ここで出会った同級生だった当時ヤンキーで不良だった大島。何と彼は幽霊だった。この探偵社、幽霊専門の探偵社で、幽霊の悩みや依頼事を解決する探偵社だった。

 大島は幽霊なのだが、15年前の記憶が全く無く、何故自分が今幽霊になってしまったのか真相を知りたい。それで、ユカリと海彦がその真相をつきとめるために活躍するというのがこの物語。

 印象に残ったのが5歳という湖々菜ちゃん。5歳にも拘わらず赤ちゃんの世話を懸命にしている。ユカリや海彦が聞く。
「今日は何年何月何日かな」
「1999年10月14日」
「じゃあ明日は」
「1999年10月14日」
「あさっては」
「1999年10月14日」
1999年10月14日で時間が止まってしまっている。つまり10月15日にとんでもないことが起き、それを湖々菜ちゃんは見ている。そのとき幽体離脱が起き、魂だけが湖々菜ちゃんにとどまり、体は湖々菜ちゃんの分身の須藤さんが受け継いでいる。

 湖々菜ちゃんの心が体だけ20歳になっている分身の須藤さんと合体したときは少しうれしくなった。

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| 古本読書日記 | 05:50 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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彩瀬まる   「神様のケーキを頬ばるまで」(光文社文庫)

都会の片隅によくある煤けた雑居ビル。そんなビルにもテナントがはいり、活動している。

シングルマザーが営むマッサージ店。喘息持ちの雇われ店長が営むカフェバー。アプリを開発する小さなIT会社。

 雑居ビルは永遠に存在はできない。いつか、壊されまた別なものに生まれ変わる。そんな壊される直前の雑居ビルに依拠しているテナントの住人であったり、そのテナントにバイトで働く人々の日々をスケッチして描く短編集。

 やはり、そんなところで生計をたてている人々は、苦しく底をはっている。まして経営者でなくアルバイトとなると一層苦しい。

 カフェバーで、閉店ちかくまで飲んでいた客たちで、喧嘩が始まる。店長が、仲裁にはいると酔っ払っていた男から顔面にビールをかけられる。その男が声を張り上げ叫ぶ。
「ろくに金も動かしたこともない安酒場の雇われ店長に、なにがわかる。気やすく説教するな、離れろ。」
 それを見ていた仲間の一人が店長に言う。

「本当に申し訳ない。普段はああじゃないんだが、大口で投資してきた案件が潰れて荒れているんだ。迷惑をかけた。」

 それを聞いた店長のつぶやきが切ない。

お客様、私はそんな大層なお金を動かしたことはありません。それを扱う苦労も、喜びも、失敗したときの辛さもわかりません。ただ、私の店ではレジの金が百円あわないだけでも、床にはいつくばっても探すんです。その時の床の固さ、埃のぎらつき、指先で硬貨を引っ張り出す感覚を、きっとお客さまにはお分かりにならないでしょう。それはそれで背中へ縛りつけられた、誰とも分けあえない、冷たい石の山にも似た不動の財産なのだ。

 雑居ビルは破壊される。それぞれの雑居ビルで働いていた人たちの辛さ、苦しさを脱却した結末は物語では語られない。多少の辛い人生へ立ち向かう姿はあるが。

 そうだよね。これで、未来は明るいぞという物語になっては嘘くさいもん。

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小松左京    「アメリカの壁」(文春文庫)

SF短編集。

本のタイトルになっている「アメリカの壁」。
物語が創られたときは、アメリカがベトナム戦争に負け自信喪失の時代。もはや、アメリカが世界の問題を解決にリードしてゆく時代は終わった。それでアメリカは極端にモンロー主義におちいる。

 そんな時、アメリカの周囲が雲の膜に覆われ、完全にブラックアウトが起きる。交通も通信もすべて遮断される。軍が雲の正体を調査にでかけるが、雲に入った途端、引き返してきた軍機は一機もない。

 それでも、アメリカには資源もあれば、耕作地もあり、何でも生活用品は生産できる。他国に頼らなくても、アメリカは生きていけるし、繁栄も享受できる。

 何か最近のトランプの言う「アメリカン ファースト」を地でゆくような小説。果たしてそれは可能なのか?

この作品もそれなりに興味が沸いたが、2作目の「眠りと旅と夢」が面白かった。
南米でミイラが発見されることはそれほどめずらしくない。

 コロンビアとペルーの国境地帯で鉱物探査をしていたアメリカ 「バーディ開発」のリーダーマイケルがピラミッドを発見。そこを発掘すると、3体のミイラがでてきた。しかもその3体が1000年以上の時を経ているにも関わらず、生きている。2体はぞんざいに扱ったため死なせてしまったが、一体は生きて棺にはいったままフロリダの研究所まで移送される。起きてはならないことが起きると、どう対応してよいのか、わからない。その部分も面白いのだが、マイケルが棺と一緒に寝たところ、夢のなかに生きているミイラがでてくる。

 ミイラが怒る。「私の旅を邪魔しないでくれ。」と。
マイケルもミイラと旅をする。そして、宇宙のはてまでやってきている。

 ミイラが言う。
「ここにもうひとつ太陽系もどきをつくっちゃおう。」と。

なるほどと思う。この太陽系もミイラが作ったのだ。万物の創造主は神ではなく、ミイラだった。いや、ミイラこそ神であったのだ。

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アンソロジー    「文芸あねもね」(新潮文庫)

3.11のあと「今、自分たちができること」をテーマに10人の女性作家が紡ぎ出した短編集。

 3年前、友達と秋田に旅行に行った。2008年突然休筆宣言をして、故郷湯沢に帰ってしまった大好きな作家豊島ミホの故郷を見てみたくなったから。で、この作品集、3.11以降に作家たちが執筆した作品集。それに豊島ミホの作品が収録されている。ということは豊島さんは復活したのだとわかり、うれしくなる。

 今の作家は、やはり東京を中心とした大都会に生まれ育った人が多い。もちろん地方出身の人もいるけれど、やはり地方の田舎でなく都市で生まれ育っている。

 過疎でじいさん、ばあさんしかいない部落でも、わずかだが生まれ育つ子供たちがいる。豊島さんもそんなところで生まれ育った。その村では優秀な子だったかもしれないが、横手市の高校に入学すると、優秀が平凡に変わり最後はスクールカーストの最下層にされ、保健室登校になり、大阪まで失踪する。

 横手の高校をでて上京し、早稲田大学にはいる。早稲田大学といっても、二部夜間学生である。

 そんな中、「青空チェリー」を執筆。第一回女による女のためのR-18文学読者賞を受賞する。それなりの偉業で、当時豊島さんも胸を張ったのではと思う。

 しかし翌年同じ早稲田のちゃんと昼間通う大学生綿矢りさが芥川賞を獲る。美貌もあいまって綿矢は時代の寵児となる。

 豊島さんは多分、この綿矢をみて心が折れてしまったのではと思う。そして、休筆宣言。

年寄しかいない田舎で育ち、そこから街や都会を知り、蔑まれ、救いようのない孤独感に襲われる日々。そんな豊島さんの心の叫びを真摯に綴った作品は深い感動を私に呼び起こした。

 収録されている豊島さんの作品「真智の火のゆくえ」の主人公真智と才能が光輝いている高間恭子が酔って2人でタクシーの中での会話するシーンが心に痛い。

 主人公真智が美大へ入学したとき、家族だけでなく、それまで久しく音信が無かった人たち同級生から、祝福の声があがった。
 しかし、大学には高間のような才能あふれた学生がいる。真智の存在など虫けらのようなもの。それでも、強く生きて行こうと頑張ってはみたものの、折れて、タクシーで高間によりかかりながら「大学をやめる」と真智は高間に言う。涙があふれでる。

 真智が豊島さんで、高間は綿矢りさなのだろうということわかる。

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堀川アサコ    「たましくる」(新潮文庫)

一見超現象に見える事件を論理的に推理して解決する盲目のイタコ千歳と、幽霊がみえてしまう幸代とのコンビが、猟奇的事件に臨むオカルティック・ミステリー集。

 というわけで、雰囲気は、猟奇小説むんむんなのだが、読んでいくと、どの短編も、筋は整然としていて、オカルト的ではない。

 巻頭の作品で、本のタイトルにもなっている「魂くる」。幸代の姉、雪子が酒田という男と心中したという事件も、雪子がカタカナしか書けれないのに、遺書がひらがなになっていたというトリックが解明され、心中ではなく殺人事件とわかり、酒田の子分で、雪子を愛していた田浦の犯行が浮かび上がる。

 事件はいかにも単純で、初歩レベル推理小説。
それを、舞台を昭和9年の雪深い北国弘前として、暗く、貧しい地帯、病気や死を科学で克服するのではなく、霊気、妖気に頼る。そんな東北の暗い雰囲気に物語を包ませ、膨らましている。しかし、物語と雰囲気が上手く共鳴できていない感じがしないでもない。

 雪子が産んだ安子。この子は、弘前の素封家で千歳の兄が雪子と作った子。それで素封家である大柳家が安子を養女として、幸代を千歳の世話人として引き取る。

 この千歳の兄新志は、3回心中事件を起こしそれでも生き延びていて、謹慎の身。
新志は太宰を彷彿させようとして堀川が創り上げた人物。それなりに、物語では融和している。

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森美樹    「主婦病」(新潮文庫)

一見普通に見えるが、内実は欲望や、嫉妬、猜疑、そして諦めが渦巻く、主婦病という病を患っている女性たちの連作短編集。

父である暁は家の一室を使って「羽根田整体院」を営んでいる。主人公の絵子は小学六年生。
母親の美緒が、電信柱に車をぶつけ、その事故(自殺かもしれない)で亡くなってしまう。

庭で遊んでいると、春枝おばさんと父の会話が聞こえてくる。
「あなたも再婚したらどうなの。絵子も難しい年ごろなんだから。」
絵子は自分が難しい年ごろというのがわからない。だからおばさんに聞く。おばさんが答える。
「人に難しい年ごろも易しい年ごろもないね。ただね、子供の世界には、良い世界と悪い世界しかないけど、大人の世界にはもうひとつあるの。」
そのもうひとつは「そのうちにわかるよ」と言っておしえてくれない。

 母親が言っていた。
通ってくる患者さんのなかに、全部脱ぎ捨て全裸になって整体施術を受ける人がいると。全部脱いだほうが、施術効果が全身にいきわたるだからそうだ。

 絵子の家の庭には、母が植えた大きな無花果の木が、施術室に面してある。
ある日、絵子が無花果の木で遊んでいると、春枝おばさんが施術室に入ってきて、いきなり全部を脱ぎ捨て、タオルをまというつぶせになる。施術に力が入り、父の手がおばさんの胸をもみしだく。その後は見て入れなかった。お母さんもこの無花果の木の横で同じことを見ていたのだと思った。

 母親が亡くなり49日が過ぎる。父親が言う。
「一緒になりたい人がいる。」絵子は答える「いいよ。」と。

絵子はしみじみと思う。
 良いとか悪いとかでない。難しいとか易しいのではない。
「仕方なかったんだよね。」 

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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鏑木蓮     「喪失」(角川文庫)

京都で有力な不動産会社社長をしている真鍋の妻文香が、自宅兼事務所の5階建てビルの非常階段の踊り場で遺体となって発見される。そして、状況から、犯人として真鍋が逮捕される。

 ここで奇妙なことが起きる。真鍋には愛人がいて、文香に暴力も振るう。それで、真鍋は文香に離婚を求めるのだが、文香は頑として断る。この文香の代理人になっていて文香を支えてきた和光弁護士、真鍋は和光弁護士と争っていたのだが、突然真鍋の側に移り、真鍋は冤罪であるとして、真鍋の弁護人となる。

 そして最後には冤罪として、検察が真鍋を不起訴としたため、真鍋は勝利を得る。これにより、真鍋は、従来の弁護士契約を打ち切り、会社の顧問弁護士を和光弁護士に切り替える。
 和光弁護士は契約料、相談料、訴訟費用を法外な金額で、真鍋の会社と結び、莫大な利益を上げられる基盤ができる。

 実は、和光には一人娘がいて、彼の事務所に弁護士として働いている。この娘が買い物依存症でとんでもないお金を濫費する。とても、和光の稼ぎではおいつかない。

 それで、和光と娘が諮って、娘を文香の成年御見人として文香に契約させる。文香は夫真鍋のヴァイオレンスなどで、精神異常をきたしていた。成年御見人となると、生活から財産、お金の管理のすべてが任される。

 それで、娘は浪費のつけを文香のお金から補填していた。しかし、文香が亡くなると横領が発覚して、逮捕される。
 だから、そのために大きな金蔓が和光父娘は緊急に必要だった。

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| 古本読書日記 | 06:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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坂木司    「切れない糸」(創元推理文庫)

大学卒業を目前に控えた主人公 新井和也は、何かをやりたいわけでもなく、そのまま就職戦線に突入、89社も受けたのに就職はできず、そのまま実家がやっていた「アライクリーニング店」で働きだす。その直後に父親が脳溢血で亡くなりクリーニング屋を引き継ぐことになる。

 衣類の集荷、お届け作業をしていく。その中で預かった衣類から思わぬ謎が潜んでいることに気付く。その謎の真相をおいかけ解明する中編集。

 こんな物語を読んでいると、これだけ世の中個人情報保護が叫ばれ、個人についての問い合わせなど、何をやっても阻止される現在、なるほどクリーニング屋というのは、預けた衣類により、個人情報が赤裸々になっている、思わぬ事実に驚く。

 色んな謎を見事に解いてゆく、和也の友人沢田が言う。
「だって、何百着っていう服を預かって洗ううちに、クリーニング屋は恐ろしいほどの個人情報を手にいれることができるんだぜ。ここの家は何人家族で、太ってるか痩せてるか、子供がいるかいないか、ポケットの取り忘れたレシートを見れば、昨日どこで飲んだのかもわかる。」

 和也の父親が、会う人ごとにおべっか愛想を振りまく。それを和也は嫌な態度だと思っていた。それについても沢田が言う。
「客のプライベートを全て掴むような立場の人間が愛想良く振舞わなかったら、客は不安になるんだよ。こんな人、自分の家に上げていいのかしらって。」

 我が家がクリーニングをお願いしているクリーニング屋のおばさん。結構、世間話が好きで、よく客と長話をしている。
 この本を読んでいると、我が家の情報も世間話の材料にしているのではと、少し心が暗くなる。 

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| 古本読書日記 | 06:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中山七里     「嗤う淑女」(実業之日本社文庫)

今、銀行は低金利政策で利益が取れず、冬の時代に突入している。だから、窓口業務などの事務を大がかりにAI化させ、3割以上人員を削減するということを雑誌、新聞で知る。

 銀行での不正、それは、行員はすべて善人、或いは、そんなことをしても、必ず暴かれ、、その後の人生を完全に失うという想いを基盤にして、発生しない状態になっている。

 しかしAIというのは、不正が行われた時、チェック機能が働き、防止ができるだろうかと思う。
 この作品の、女性銀行員が不正をして定期預金口座を作り、5000万円を詐取する部分は緊張感が走り手に汗がしみてくる。

 名義人伊藤優子。解約金は5000万円。昨日のうちに造っておいた預金証書だった。用紙はもちろん帝都銀行備えつけのものだが、記載された内容はすべて偽造だ。後はこれに支店長の職印さえ捺しておけば、マニュアル通り解約されたことになる。
紗代の左手の下には支店長決裁済みの別書類がある。それを確認してから制服のポケットにしのばせておいた五センチ四方の紙片を取り出した。半透明の薄紙。その正体はトレーシングペーパーだった。
紗代は首を動かさず周囲の気配を探る。
大丈夫だ。自分に注目している者は誰もいない。
職印の上にトレーシングペーパーを置き、指の腹で何度も擦りつける。頃合いを見計らって、トレーシングペーパーを剥がし、今度は偽造した預金証書の上に載せる。
そしてまた指の腹で擦りつける。隅から隅まで着実に、ゆっくりと。
こうしている間も紗代は周囲への警戒を怠らない。自分の机の上をのぞき込む者を察知したら、すぐに作業を中断しなければならない。集中力と警戒心で紗代の神経は針のように尖る。
周囲の音が遮断する。

息が詰まる。
AIはこんな不正を察知することができるのだろうか。
 紗代はこんな手で、伊藤優子名義の架空口座に2億円まで金を積み上げる。

 そしてある日ATMで20万円を引き出そうとするが、残高不足で引きおろしができない。残高は3,451円。2億円は、紗代を唆していた詐欺集団からすでに引き出されていた。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堀川アサコ   「不思議プロダクション」(幻冬舎文庫)

青森にある弱小芸能プロダクションの社長伏木貴子は、元々は女優で、最初の出演映画は当たったがその後は鳴かず飛ばず、東京で芸能プロダクションを起こそうとしたが叶わず、故郷青森でプロダクションを起こし、いつかアイドルを育て、東京に進出しようと考えている。

 芸人は100人を抱えているが、90人以上は本業を持ち、趣味の範囲で素人芸をする人ばかり、職業にして生きていこうとしている人は10人も満たない。

 そこに所属しているものまね芸人シロクマ大福と女装芸人ソフィアが陸奥湾に面した村、十文字村に行き、村祭りの演芸でショーをする。イリュージョンで、大福が呪文を唱えると幕が上がり、島を描いた書割から、ソフィアが現れるという趣向だ。

 当日、幕が上がる。ソフィアが島の書割から飛び出たのだが、何とその後ろに同じ形の本当の島が突然現れる。村民が一瞬唖然とする。そしてヒカリ島が現れたと大騒動になる。

 ヒカリ島は女性犯罪者の流刑の島。男がその島に行くと、女性支配のもと、奴隷の生活を強いられる。そして、毎晩、女性にいれかわりたちかわり性行為を強要される。そしてひとたびその島に囚われてしまった男は二度と戻っては来られないことになっている。

 ヒカリ島は、普段は海面下に沈んでいるのだが、島の女性みんなが発情すると、そのエネルギーで隆起して海面上に現れる。

 この島に吸い取られたが、島を脱出して戻ってきた漁師須崎がいた。たくさんの子供を島で作ったが、脱出したとき一人の娘を連れてきた。須崎千英梨である。

 この千英梨がヒカリ島に帰っていく場面が、切なく悲しい。

それにしても女人島。発情すると海面に浮かび上がる。常人ではとても思いつかない。堀川さんの想像力に完全脱帽。

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| 古本読書日記 | 05:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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坂木司      「動物園の鳥」(創元推理文庫)

ひきこもり探偵シリーズ完結編。

中学生のとき、鳥井信一はいじめっ子谷越に徹底的に標的にされ、孤立し、そのため成績は優秀だったのだが、登校拒否に陥ってしまった。同級生だった坂木は、谷越とは対決は避けたが、鳥井を支えてあげようと、鳥井の家にしばしば通い、ひきこもりになった鳥井を何とか外出できるようにまでしてあげようと支援し、それで鳥井と親友になる。

 近くの動物園で野良猫を虐待する犯人を鳥井と坂木が突き止めようとしているとき、いじめっ子だった谷越と十数年ぶりに出くわす。谷越はいじめっ子のイメージとかけ離れたビジネスマンスーツ姿。猫虐待の犯人が谷越であることを突き止めた鳥井の谷越を追及する言葉が胸を刺す。

 聞こえの良い大学、誰に言ってもわかってもらえる会社。谷越はこの基準が生きる道として選択してきた。それはまあそれでいい。お前の困ったところは、それ以外は否定するところだ。有名じゃない大学は価値がない。そしてその道からはずれた道を歩んでいる者はすべて大馬鹿者と見下すところ。

 事実、久しぶりに鳥井と坂木に会ったたき、谷越は彼らに今何をしているか聞く。そして、鳥井がひきこもり、坂木が外資系保険会社員であることを知り、自分のほうが勝っていると思い、卑下した言葉を投げつける。

 そんな谷越も最初に入った会社をリストラされ、プライドがズタズタのなか、屈辱一杯で動物薬の会社の営業マンをしている。その屈辱が猫虐待につながる。

 もう一人、動物園でボランティアをしている松谷という女性が登場する。

松谷はいつも、私は将来「ペットと一緒にくつろげるカフェ」をするのが夢と眼を輝かして微笑みながら言う。しかし、仕事は雑貨屋でアルバイト。夢を叶えたいのなら、調理師免許を取るとか、飲食店経営の許可証を取得するとかボランティアなどしてないでやるべきことがあるはずなのに、甘い顔だけして何もしようとしない。誰でもが羨ましいねと思うことしか言わない。

 学生時代、ケーキばかりを食べていた松谷。となりで喋っていた人たちの「アイスクリームがいいね」という言葉を耳に挟んで、翌日からアイスクリームばかりを食べ始める。

 松谷、谷越2人の行動。そうだ、そうだと思わず大きく頷く。

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| 古本読書日記 | 05:46 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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坂木司     「短劇」(光文社文庫)

坂木が紡ぐ「世にも不思議な物語」掌編集。

昔からつまらない男だと言われてきた。酒も煙草も嗜まず、賭け事など、手をだしたこともない。見合いで出会った妻以外女性を知らない。高級な物や食事には興味は無いし金のかかるような趣味もない。

 周囲から、真面目、四角四面、堅物と言われた。それでもちっとも苦にならない。間違った人生を歩んでいるわけではないから。

 ただ地図をながめて、最短ルートで目的地までいける道筋を考えることが唯一の趣味と言えるかもしれない。迷い道を通らない人生なんてつまらないと人は言う。

 あるとき同僚に言われる。
「人に道をたずねることができる奴というのは、根本的に人を信じてるんだよ。」と。
「嘘をつかれたり、騙されたりする可能性を思わないのだろうか。」
「そこまで考えないから受け入れられるのだろう。心から信頼されている相手に対し、人はそうそう冷たくはなれないものだ。」

 子供からも言われる。
(だからお父さんは誰からも好かれないんだ)と。

それで、決心する。道に迷って、人に訪ねなければ自分は変わらないと。

ある人と会う約束をしたある日、迷うために、わざと2駅乗り過ごして降り、そこから歩いて約束の場所まで行くことにする。
駅に降りると、全く見知らぬ風景。あれやこれやと考えながら歩くが、全く方向がわからず、迷ってしまう。それでも、ふらふらと彷徨を続ける。最後にはどこにゆくべきかも朧気になる。

そして何時間の後、街の同報無線が流れる。
「本日朝10時より外出した○○さん65歳が、外出したまま帰宅していません。お心あたりのかたは、最寄りの警察、または交番までお知らせください。」と。

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| 古本読書日記 | 05:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堀川アサコ    「三人の大叔母と幽霊屋敷」(文春文庫)

不思議な現象がしばしばおこる、主人公の14歳の奈央が住んでいるこよみ村。奈央の大叔母様の3姉妹。繁子、竹子、花子が、繁子の遺産相続で繁子と長男一郎と衝突して、それにいやけがさして、こよみ村滑坂にある古屋敷に逃げてきたのをきっかけにして、嫁いだ家から逃げ出して住むようになる。3人が育った屋敷だ。

 しかし、3人は嫁いだ以降、この屋敷にやってきても、絶対泊まることは無く、必ず夕方には自分の家に帰った。今回は3人一緒だから大丈夫ということで住むことを決意したのだ。

 こよみ村に、明治時代に楠美という博士がやってきた。博士はこよみ村の隣町竜胆市の竜胆大学で教鞭をとっていたが、専門が催眠術の研究、そんな教師は不要として追い出されたところを、こよみ村の名士である、奈央の曾祖父湯本進が手をさしのべて、住む場所、生活の面倒をみた。

 湯本進は当時こよみ村の村長をしていて、その息子勘助つまり奈央の祖父、そして奈央の父である育雄も村長になっている。
 3大叔母が逃げ込んだ古屋敷はずっと借り手が無かった。

実は、この古屋敷竜胆市の名士だった水上家の別荘になっていた。水上家は多くの土地を持っていた大地主だったのだが、農地解放により殆どの土地を失い、生活費さえ稼ぎ出すことができなくなり、家族でこの屋敷まで逃れてきていた。しかし、この別荘を手放しても借財は返すことはできないことになり、昭和27年に一家心中をする。

 そして死まで追い詰められた家族が、幽霊となって屋敷に現れる。これが怖くて3大叔母は、決して泊まることはなく帰宅していたのだ。

 この心中事件、奈央と恋人麒麟が幽霊と遭遇しながら(殆ど気配のみ)心中事件でなく、凄惨な殺人が行われていたことをつきとめる。

 しかしおかしいのは、これだけの凄惨事件だから、村人は殺人事件として知っていたはずなのに、誰もが心中事件として記憶している。

 びっくりするのだが、当時村長だった勘助が、楠美博士とはかって、村民全員を殺人事件でなく一家心中だったのだと催眠術をかけ記憶を変えてしまっていた。

 しかし当時村人は数百人はいただろう。どうやって漏れなく全員に催眠術をかけたのだろう。一人一人並べて?どえらい時間がかかってしまうじゃないか。

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| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堀川アサコ  「これはこの世のことならず たましくる」(新潮文庫)

優しかった亡くなった夫に会いたいがため、盲目の千歳がイタコになる。その千歳の周囲で巻き起こる不思議な事象を扱う、イタコ千歳シリーズの第2弾。4編の物語が収録されている。堀川さんが生まれ育ち、今も住んでいる青森に土着した物語。なかなか物語は北の地である青森を熟知していないと理解するのは難しい。

 舞台は昭和6年の青森。昭和6年というのは、昭和大恐慌の時代、まだ関東大震災の記憶も生々しいし、こつこつと戦争の足音が近付いてくる時代。こんな時代は、過去の忘れ去られた怨念や恐慌の記憶がふつふつと呼びさまされる暗さが増してくる時代。そんな過去を呼び覚ます役割を演じるのがイタコ。

地元の大屋敷大柳家に女中として働いているシエの物語は、読んでいると、陽炎のように右に左に揺れ動き、しかも中身は暗い。何が起こったのか揺さぶられながら、物語とおなじように私も影も形もなく消失してしまったんじゃないかという気持ちさせられる。

シエの屋敷に小学校の同級生だった栄子が訪ねてくる。その栄子は、同じ同級生で美少女で誰からも好かれていた花枝そっくりに変わっている。

 当時、シエは花枝に憧れていたが、それに対抗していたいじわる栄子に引き入れられていた。その栄子に、栄子が持っている白い虫を飲めば願いが叶い、好きな人と添い遂げられると言われ、栄子に虫を飲むように強制される。断り切れず、飲もうとしたが、袖口に落として飲むことは逃れた。

 その日の翌日花枝が、白い虫を吐き出したと思ったら倒れ、そのまま亡くなる。
栄子によれば、お腹に宿った虫は、願いが成就すると、お腹の中を食い尽くし、宿主を殺すと言う。

 そして、シエが虫を飲むとき、大柳家に出入りしている寛七が大好きと栄子に告白していたその記憶、また花枝が死んでいた記憶は全く失念していた。

 栄子は、花枝を思い出させる容貌になっていたことを見せつけ、過去の記憶をシエに思い出させた翌日亡くなってしまう。
 栄子は本当は花枝だったのでは?じゃあ死んだはずの花枝は栄子?読んでいるだけでどことなく不気味でくらくらしてくる。

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| 古本読書日記 | 06:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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坂木司    「仔羊の巣」(創元推理文庫)

昨日の新聞では、47歳のひきこもりの息子に、85歳の父親(母親はいない)が、今後の息子の人生を悲観しているが、どうにも打つ手が無いという嘆きを特集していた。更に今日の新聞では政府が今までひきこもりの状況は35歳以下について調査はしていたが、来年から45歳から59歳の引きこもり実態も調査するという記事がでていた。

 引きこもりが社会問題として、一般化したのだという感慨を持った。

この作品集は不思議だ。名探偵の役割をするのが鳥井信一という20代の青年。それにワトソン君の役割を演じるのが主人公の坂木。坂木は、何としても友人の鳥井君がひきこもりを脱するように、ちょっとした不思議な出来事があれば、彼の部屋に話に行く。更に、彼をひきこもりにさせないよう、自分の仕事や付き合いを犠牲にしてまで、彼に尽くそうとする。

 ひきこもりというのは、世間からみると、甘え、堕落人生とマイナスなイメージで捉えられる。

 古今東西ミステリーでの名探偵に欠陥人間というのは多い。しかし、それは治癒したり矯正不能のレベルの人間ばかりで、読者はその名探偵のあり様を仕方ないもの、むしろだから身体のハンディキャップや性格の悪さと天才推理力のギャップに驚き称賛をおくる。

 しかし甘えているように思えるひきこもりと、人生を無駄にしても何とかひきこもりから脱出させることを糧としている主人公とのコンビはなかなか一般読者からは受け入れられることは少ない。

 なぜこんな不可思議なコンビを作者は創り上げたのだろうか。

 しかし、そもそも事件というのは、動機、行為とも極端な歪みから生じている。この作品の利明が土屋君に抱いた恨み、それに伴う行為は異常だ。

 作者、坂木は異常は異常を持って制する。毒は毒を持って制することがリアリティがあると信じ、この作品を創っているのかもしれない。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堀川アサコ    「幻想日記店」(講談社文庫)

「土佐日記」は紀貫之が自分は男にも拘わらず、女もすなるとして書いた日記。他に日記といえば、この作品では「竹取物語」も日記で、しかも作者は紀貫之ではないかとしている。

そして「土佐日記」では、百の真実のなかに一つ嘘がある。それは貫之が高齢になって授かった愛娘が亡くなったということ。「竹取物語」では百の嘘のなかに一つだけ真実がある。竹から生まれた娘は亡くなることはなくずっと生き続けていること。かぐや姫は貫之の愛娘なのである。

 この娘は、不老不死の薬で生き延びているのではなく、ある言霊を言われそれにより不老不死となる。これを解くためには、死ぬことが宿命とされるまた特殊の言霊を浴びなければならない。

 この言霊を探し当てるために、その言霊が書かれていそうな日記を集める。そのために紀猩子は父親登天と一緒に日記店を創る。つまり、猩子がかぐや姫で貫之が登天ではないかと物語は思わせる。

 それにしても、誰もが不老不死になることを望むが、もしそれが実現して生まれて1000年たっても生きているとはどんな思いで毎日を過ごすのだろうか。

 自分はいつまでたっても20歳の風貌のまま。どんどん、後から生まれてきた人が、自分の20歳を追い越し、年寄になり亡くなってゆく。それが永遠に繰り返す。

 20歳で、生活はしているが、ほとんどが死んだような暮らし。こんなのであるなら、自分も死にたい、生きているのが苦悩と同じになる。何とか死ぬことはできないかと思うようになる。

 この物語では、こんな風に猩子はなってしまうが、本当かなあ。やっぱし不老不死になれるのなら、そうなりたいと思ってしまう。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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背中合わせ

寒くなればくっつくという予言は当たり、茶々丸と並んでおります。

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こちらはリラックス

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あちらはそうでもない

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ため息つきそう

混ざらない女

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今日も平和です。

| 日記 | 00:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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歌野晶午   「安達ケ原の鬼密室」(祥伝社文庫)

変わった構成の小説だ。全部で4つの小説が書かれている。

冒頭は小学一年生が主人公で、全部ひらがなで書かれている童話風の物語が登場する。この物語が中途半端に終わり、突然、フセ・ナオミという女子高生がアメリカ テキサスの小さな町に留学していて、その高校で殺人事件が起きる。これも中途半端で終わる。

 そして、真打である「安達ケ原の鬼密室」が始まる。この「安達ケ原の鬼密室」の中に本編とは関わりの無い推理小説が独立して差し挟まる。この「安達ケ原の鬼密室」が完結すると、突然フセ・ナオミ主人公の小説の後半が始まり、その小説が終わると、冒頭の童話風の小説の後半が始まる。

 「安達ケ原の鬼密室」本編がサンドウィッチになった構成になっている。しかも、4つの小説はそれぞれに独立していて、繋がっているものはない。

 もちろん中心になる小説は、「安達ケ原の鬼密室」。

太平洋戦争末期、疎開先から脱走した主人公の梶原兵吾少年は、小さな岬にある口型に建っている屋敷にたどりつく。ここで撃墜されパラシュートで脱出し、同じ屋敷にたどり着いた米兵や、その米兵を探求しにきた日本兵4人、更に、この屋敷に住んでいた手伝いの婆さん、それに兵吾少年が遭遇した鬼を含め、兵吾少年以外の7人が死亡する事件がおきる。

 それから60年後、兵吾少年の妹となのる女性から、八神探偵事務所に真相を明らかにして欲しいとの依頼がある。

 この物語の中に突然全く異なる独立した物語が挟まれる。東京の消費者金融の社長とその愛人が、マンションの庭で死体となって発見される。しかも社長は真っ裸。

 このトリックがすごい。酒に酔って風呂に入っていた社長を、風呂場をテープやゴムを使い完全密閉する。そこに湯を張り続け、それに社長が溺死する。溺死後、排水溝に仕掛けをして徐々に水を引かせ、確かに死んだか、水が引いた時間に確認に行く。

 これがうまくいくはずだったが、排水管の曲がっている部分に排水時間を調整するために使った石鹸と錘がとりつき水が引かなくなる。

 これが計算外となり犯人が確認に行ったときには全く水がひいていない。風呂場に正面からはいれないで、ベランダからはいる。そのとき溢れかえった水が、社長の遺体とともに強烈な勢いで外へほとばしる。この勢いに犯人、社長ともベランダからふきとばされ、庭に放り出される。

 この事件が、4つの事件の真相の鍵になる。

「安達ケ原の鬼密室」では、海の満干が鍵。フセ・ナオミではハリケーンの洪水、小学一年生の童話では井戸に満たした水がトリックとなる。

 4つの話は、水が共通のトリックになっているのである。

現実にはありえないトリックなのだが、そこが、乱歩の作品を読んでいるような雰囲気となる。

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| 古本読書日記 | 05:53 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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笹本稜平   「ボス・イズ・バック」(光文社文庫)

しがない私立探偵をしている主人公のオレ。殆ど探偵調査依頼などない。それでいて何とかやっているのは、オレが、何の産業もない市を取り仕切っている暴力団、悪徳刑事、生臭坊主と結びついて、お金のとれる事案を摑んだり、或いは彼らの依頼で調査費用を稼ぐから。

 地元名士の下ネタ探し、経営が怪しい会社の裏情報、夜逃げした債務者の追跡調査など。
それが、何に使われるかは知ったことではない。

 この作品では、市の産廃施設新設と市霊園の運営業者を、暴力団山藤組を解散させ、組長が設立する新たな会社に委託する。そのために、市長と警察署長にお金がわたる。市の霊園運営では、そこから入る運営費用の一部が市長に還流するようになっていることが暴かれるが、そのお金がどういう名目運営会社から警察署長や市長にわたるのかがわからない。

 ユーモアサスペンス短編集だから、仕方ない面もあるが、もやもや感が残る。

山藤組の解散式に、組員や他の組の関係者とともに、警察署長が参加し、しかも挨拶をするところなど、思わずニヤリとしてしまうのだが、やはり色がつかない金の生まれるカラクリを描いて欲しい。

 マネーロンダリングという言葉で、全部をごまかさない小説が読んでみたい。

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| 古本読書日記 | 05:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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