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2017年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2018年01月

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坂東眞砂子    「蛇鏡」(文春文庫)

主人公の玲は婚約者の広樹とともに、奈良の実家に姉綾の七回忌のために帰る。広樹は実家の古道具屋を継いでいる。そこで玲の実家の蔵に価値のある品物があるか玲とともに探す。

 そこに蛇の浮彫のある鏡を見つける。実は、この蛇鏡、婚約中だった姉綾が首吊り自殺をしたとき足元にあったもの。しかも、父親の最初の結婚相手だった多黄子が父親がよそに女を作ったときに嫉妬して首吊り自殺をしたときも、この蛇鏡は多黄子の足元にあった。

 そして、この蛇鏡は、現在玲の実家の近くで発掘調査をしている遺跡で、作られ伝わっているものだということが明かされる。
その蛇鏡、経過はわからないが、その後大和朝廷に渡り、垂仁天皇、崇神天皇時代に同じような事件で姫にあたる女性が首吊り自殺をした時にも足元にあったことがわかる。

 実は婚約者広樹から玲は、今まで好きだと言われたことは無いし、結婚も玲が迫ることで承諾させた。古道具の買い出しで地方を広樹は旅することがあるが、その間一度も電話をくれたことも無かった。それが、結婚して良かったのかいつも玲の心にわだかまりとして残っていた。

 そして、玲は遺跡発掘にやってきていた田辺に抱かれ、広樹を裏切る。蛇鏡の祟りがそうしたのか、鏡を横に置いて自殺を図る。しかし、異界に到着して、姉綾がここではみんな蛇神の妻になり幸せに暮らすところと、玲の手をとり蛇神のところに連れて行こうとするが、その手を振り切ったので玲は地上で息を吹き返す。

 この小説で印象に残ったのは、玲の実家の向かいの家の連士窓からいつも玲の家をみつめている霧菜という女性。綾の自殺も最初に知る。

 この霧菜は交通事故で、足が動かなくなり、車いすの生活をしている。朝目覚めても、布団から誰かに抱き上げてもらい、車いすにのせてくれないと布団からでることができない。車いすにのせてもらっても、移動できるのは家の中だけ。生きていても仕方ないと霧菜はずっと思っている。

 霧菜が、玲から何とか蛇鏡を借りようとする姿が切なく哀しい。

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桜木紫乃     「ブルース」(文春文庫)

静かなハードボイルドの小説に登場するような主人公影山博人。この影山をめぐる8人の女性たちとの連作短編集。影山そのものがまさに「ブルース」を体現している。

 影山は6本の指を手足に持つ。この指がもうひとつの主役。

三上敏江は高校を卒業して「八神染物店」に事務員として採用され10年が経っている。

 ある日回収したお金を持って会社に帰る。すると、親方が「すぐ救急車を呼んでくれ」と大声でいう。何が起こったのか。勤めていた影山がプレス機に手を挟み、指を切断してしまったのだ。病院では、修復はできないと言われ、けがの治療をされただけで、寮に戻される。

 敏江は寮で、熱がすごい影山の看護をする。

 やがて影山は親方の家に引き取られる。親方と奥さんが不在なとき、看護を敏江にお願いする。
 敏江が、影山を看護しながら、コミック本を読んでいると睡魔が襲う。すると、影山の手が敏江の下着のなかにはいってくる。そして、敏江はたまらなくなり影山と結ばれる。敏江は完全に恋に落ちる。

 影山はそれから2日後には現場に復帰する。その直後、精神病院にはいっていた母親が自殺する。涙を一滴も流さず、小さな通夜と葬式が執り行われる。
 影山の気持ちはどうだったんだろう。

 それから、数日たち親方が帰宅。事務所と仕事場に敏江と影山が取り残される。

影山が指の付け根を紐でまき、欝血状態にしてマナ板を持ってくる。そして、マナ板の上に指をおき、そこに包丁をあてがう。
 そして敏江に影山がお願いする。この包丁を上から金槌で叩いて全うな体にして欲しいと。

 敏江は「私のこと好きだった?」と繰り返し叫びながら、金槌を振り下ろす。指が飛ぶ。それでも敏江は「私のこと好きだった?」と叫び続ける。影山は沈黙。哀切がこれ以上ないほど強くなる場面だ。

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よしもとばなな    「鳥たち」(集英社文庫)

マコと嵯峨の関係は非常に特別である。2人以外他人とは交流を持てないと信じ2人は関係を続けている。

 どうして、他に心を開くことができないか。それは2人の異常で特別な過去が背景にある。マコの母親、嵯峨の母親が、高松というスピュリチュアルな神秘主義者に導かれ、アメリカのアリゾナ、セドナでマコ、嵯峨も含めて共同生活を始める。高松ががんにかかり亡くなる。すると、嵯峨の母は後を追うように自殺をする。マコの母親も、生活に疲れ自殺をする。この時、マコと嵯峨はまだ10歳になったばかり。しかもマコの父親も交通事故で亡くなっている。

 マコと嵯峨は天涯孤独であると同時に普通ではありえないような衝撃を経験している。だから過去を引きずり2人はいつも一緒でなければならないと信じ込んでいる。

 マコと嵯峨の哲学的スプリチュアルの会話がよしもと流だ。誰も、20歳そこそこでこんな魂から発するような難しい会話はしない。

 この作品では、過去の重さにのしかかられ、そのたがのなかで毎日のように魂の会話をしている2人にたいし、それを解きほぐしてゆく役割を担う、末長教授とマコの学友である美保子が重要な登場人物になっている。

 マコは、「夜に骨が鳴る」という鳥が、あの世とこの世をつないでいると信じている。あの世にいる両親とマコはこの鳥を通して繋がっていると考える。だから父親は鳥から、マコについて知り、それで懸命にマコを守ってくれていると思っている。

 末長はそんなマコを、自分の脚本を書いた、朗読劇の主役にすえる。そこでマコは魂から発する見事な舞台を演じ、喝采をあびる。

 末長教授の物語の最後の言葉が胸に響く。
「はじめは過去の残像だけでできていた気持ちでも、生きているものはなんだって、自分たちを未来に連れていってくれると思ってた。いや、厳密には未来ですらない。今、今現在にだ。」

 過去も未来も不確か。根本的にあるのは今。今をしっかり生きよう。

家族の悲劇を克服しただろう、マコと嵯峨のこれからの小説を読みたい。

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坂東眞砂子     「蟲」(角川ホラー文庫)

主人公のめぐみは毎日平凡な日を送っていた。ある日、夫が富士川のほとりから青光りする奇妙な器を拾ってきた。その器は「常世蟲」と彫られていた。ここから、不思議なことが起こる。この器を置いていたテレビが壊れる。その後、その器を置いたステレオが壊れる。その器を置いた時計が遅れるようになる。

 そして、残業、仕事で徹夜続きの夫がある日から突然19時に帰ってくるようになる。しかも、人が変わったようになる。ごはんは肉類を殆ど手をつけず。野菜類ばかり食べる。しかもむしゃむしゃ変な音をたてて食べる。めぐみは気味悪くなる。

 会社の元同僚に聞くと、夫は17時になると、仕事を他の人に押し付け帰社するという。

17時に退社しているのなら18時には帰宅せねばおかしい。浮気でもしているのではとめぐみは疑い、ある日夫の退社を待って、夫の後をつける。夫は、新宿で電車をおり、「スペーシア」と書かれたビルにはいってゆく。その中に「サンクチュアリ」と書かれた植物園があり、その中にはいってゆく。

 そして、植物園の中にある、橘の木によりかかる。橘の木は優しい芳香をはなっている。
すると、突然、夫の身体が青く光り、首から光った蟲が飛び出してきて、橘の木をはいあがってゆく。その日から夫は以前の夫になり、野菜類も音をたてて食べることは無くなった。

 しかし、今度はめぐみの体調がおかしくなる。お腹の子が流産する。自分も蟲が体内にいるのではと思うようになる。

 ありとあらゆる虫下しを買い蟲をおいだそうとするところはユーモアがある。

 そしてある夜、夫と同じように新宿の「サンクチュアリ」に忍び込み、橘の木に寄りかかる。すると、流産した子だと思っていたのは蟲で、それがお腹からはいでてくる。這い出た蟲は木の幹でさなぎとなり、やがて蛾になって、木のまわりを舞う。
 
 とりついた蟲にホラー定番の気味の悪い悪霊ではないので、全く恐怖感なしに読むことができる。ホラーというよりちょっとしたファンタジー小説の装い。

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藤野恵美    「初恋料理教室」(ポプラ文庫)

料理人というのは、料理店や料亭で修行をして、やがて自らの店をもつというのが辿る道だと思っていた。

 ところが、修行は何年もするのだが、この作品の最後の章にあるように、修行後店をでて全国を回り、色んな店でその腕をふるいながら料理人の一生を過ごす人もいることを社会人になって知った。4つの種類の包丁だけを持って、全国を回る。薄刃包丁、出刃包丁、刺身包丁、骨切り包丁である。いつも、懸命に研いで最高の状態にしてある。

 だいたいが街の料理人組合に登録していて、声のかかるのを待つのであるが、有名な料理人はあちこちから引く手あまたに声がかかり、超多忙な毎日を過ごす。

 私が、たまにゆく料理屋にこういう股旅料理人がいた。当時30代でまだ若い料理人だった。彼の手による、特に汁ものはすばらしかった。あら汁、味噌汁、かす汁は香り、風味が群を抜いていて感動した。

 その彼も、数か月でその店を去り、行方知らずとなっていた。

 何年かたって突然電話があった。私の通っていた会社のある街の超高級料亭にいるのだけど、お客が誰も来ない。腕を振るうから、来てくれないかと言う。そんな店、数万円はとられるからとても行けないと言うと、3000円にしとくからと言う。

 それで恐る、恐るでかける。びっくりするようなおいしく見たことない料理ばかりだった。はもの塩焼き、じゅんさいの汁もの、驚愕の味だった。

 数日後、ここにいてもしょうがないからとまた旅にでた。

そして、何年か後、私が住んでいる小都市の食堂を紹介してほしいと突然言ってきた。一般の何でも屋食堂を紹介した。そこで、うなぎの蒲焼を作ってくれた。たまらない味だった。

 その翌日、彼はまた旅にでた。
「ずっと一人ぼっちの旅ばかりで寂しくないかい?」と聞いてみたら、まさにこの物語のように彼は答えた。
 「おいしい料理は、人を引き付けるから寂しくないよ。」と。

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坂東眞砂子    「月待ちの恋」(新潮文庫)

江戸時代の春画をモチーフとしてできあがったエロチックな作品の短編集。26編が収められている。前作「岐かれ路」の続編にあたる。

 主人公のいさは八王子の家を離れて、女性ばかり6人で旅にでている。甲斐の国や八ヶ岳を仰ぎながらの4日目、いよいよ善光寺にさしかかる。

 八王子に暮らしている分には今日も昨日と同じ、朝は暗いうちに起き出し、炊事、洗濯、掃除、舅姑、夫や子供たちの世話や家業の手伝いで明け暮れる。訪ねてくるのは近所の者だけ。いつか明日への期待もなくなっていた。

 旅にでれば、期待が膨らむ。誰に合うのか、何が起こるかわからない。昨日と違う今日がある。

 善光寺の山門の横で、墨染の衣を着た30歳位の若い僧が説教をしていた。旅の自由さがあったかもしれない。いさはその凛とした姿、心にしみてくる説教に心を奪われた。いさは一行と別れて、親戚筋の家に宿泊し、毎日その説教聞きに行った。そしてある日説教を終わった僧をおいかけ僧が寄宿している川原にある小屋に行った。

 そこで感動したことを告げ、尊敬のまなざしで僧を見上げる。そして、自然と2人は抱き合う。いさは天にも昇る幸せと快感を味わう。それから毎日2人はその小屋で抱き合う。

 親戚のおかみのちづがこれはまずいと思い、いさに八王子に帰るようきつくいう。そしていさは八王子に帰る。

 旅の前のような、ありきたりな生活に戻る。
それでも、いさは毎日が弾んでいる。四六時中僧との愛の交歓を思い出しうれしくなるのである。それを思いながら八王子でずっと生きていけると思う。

 こういう気持ちで普段の生活をしている人は、たくさんいるのだろうと思う。

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坂東眞砂子    「善魂宿」(新潮文庫)

主人公のみつは親戚を頼って土佐から大阪堺にでて時八茶屋で働きだす。まだ維新があけたばかりで、街道沿いにある堺は、放火、強盗、人殺しが横行。維新政府は堺の安全を守るため土佐より守衛隊を派遣させる。

 その中に、武士では下っ端の足軽荘一がいた。その荘一が時八茶屋にくる。同じ土佐出身ということで、みつと荘一は仲良くなり、荘一が土佐に帰ったら、2人で茶屋をやろうと約束を交わす。

 そんな時、泉州堺事件が起きる。この事件は、開港していない堺港にフランス船が入港。そして20人のフランス人が上陸する。当時、堺は異国人が自由に行動することが許されていたが、それを知らなかった守備隊の隊長が発砲命令をだし、その結果発砲が行われ、12人のフランス人が射殺された事件である。

 捜査をすると、29人が発砲事件にかかわったことが判明する。フランスは命令した隊長もふくめ20人を処刑するように求めた。日本政府、土佐藩は武士のならいに従い、処刑ではなく切腹で要求に応えることにした。そして隊長2人を除く18人は、くじ引きできめることになった。

 そしてその年の2月23日、フランス代表の2人を立ち会いにして切腹が挙行された。
最初に隊長が腹を切る。介錯人が刀を振り下ろし、首をはねようとしたが、骨で跳ね返され3回繰り返してやっと首をはねる。

 そして7番目にみつと婚姻の約束した荘一が登場する。みつはいたたまれないが、頑張って荘一をみつめる。
 荘一が、腹をかっさばく。夥しい血がとびだし、内臓もとびだす。介錯人がまた首はねを失敗し、3回目で首が胴体と離される。それでも手足は痙攣している。

 フランスの代表は12人が終了したところで、見ていることができなくなり、もう切腹はしなくてもよいと言って立ち去る。

 荘一は足軽で鉄砲など撃ったことはない。くじ引きで負ける。もっと前にフランス人が切腹中止を命じていたなら・・・。

 切なく、悲しい物語だ。それにしても坂東はホラー作家の大家だ。切腹場面の迫真描写は恐怖で震えがきた。

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坂東眞砂子     「欲情」(講談社文庫)

主人公の信夫は、男女関係の在り方について、抽象的な理靴、信念を持っていて、それをアジテーターのように女性に対し自己陶酔して喋る。

「おれたちは、旧弊な価値観を突き崩す役目を担っているんだ。性的にも、人間的にも、すべての意味で自由になり、新しい男、新しい女となってこの混乱した時代に新たな価値観をうちたてるべきなんだ。・・・自由、性の自由、すべての自由。なんと素晴らしいものだろう。人類は男も女も自由であらねばならない。その至福の宇宙のなかで、俺の性欲は燃え盛るのだ。性の自由はひとつとなり、すべての者によって、分ち合われるのだ。」

 だから、妻真奈美と不倫の恋人早紀とは同じ地平で、性愛をわかちあうことができるのだ。
「真奈美は、男も女も性的にも自由であるべきだということをまだわかってくれない。俺は真奈美が他の男と寝ても、それを喜んでわかちあうつもりだ。」

 一夫一妻制があるべき姿ではあるが、それは男も女も性的自由を謳歌してその先に信頼がありできあがるものだ。

 物語の前提にあるものが、現実離れをしている。

 信夫と真奈美夫婦はポルトガルの小さな町へ旅行する。信夫は真奈美を自由にさせる。真奈美は、漁師の青年に恋をし、ポルトガルから離れないと帰国する信夫に告げる。

 信夫は彼の信念にしたがいより自由に解放されたはずなのに、彼の信念に従って自由の世界に飛翔していった真奈美を忘れることができない。

 で、20年後、2人は東京で再会する。真奈美は今の夫が何人目かわからない。理想、信念に向かって自由になったはずなのに、2人は結ばれることはなく別々の道へ進む。

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坂東眞砂子      「恍惚」(角川文庫)

江戸時代は鎖国の時代。出島があった長崎あたりでは、外人をみることはあったが、江戸をはじめその他のところでは、外人にであうことは全くというくらい無かった。

 しかし毎年一回、長崎から異人の一行が江戸の将軍様に拝謁にやってくる。そして、一か月間江戸に滞在する。

 その異人の行列がやってくると、一目異人さんをみようとする見物人が通りを埋める。茶色や金色の髪や眉。深く落ちくぼんだ目。天狗のような鼻。おまけに、眼窩で光っている目の玉ときたら、茶色や青色だったりする。あんな目玉で、本当にものがみえるだろうかと不思議な思いがする。とても、人には見えない。獣のようなめずらしい動物のように見えてしまう。

 その見物人の中にたまがいた。たまは信州の山奥からでてきて日本橋の木綿問屋に奉公していた。そこで店に出入りしていた灸八と知り合い結婚する。

 たまは、オランダ人専門の宿、長崎屋で下働きをしている友達のやえに頼み込んで、自分も長崎屋で下働きをするようになる。

 女中頭が言う。
「異人さんとは絶対顔をあわしてはいけない。非常に怖い目にあうから。見ざる、聞かざる、言わざるを守るように」と。

 たまは、異人は自分たちを捉え食べるのか、あの鼻だから天狗となって空を飛ぶのかと恐怖心がいっぱいになる。その一方で、異人さんを近くでみてみたいという好奇心も疼く。

 異人は2階の部屋を借り切っている。ある日、異人が幕府拝謁にゆく。たまはその隙に2階にゆく。部屋には誰もいないと思っていたが、仮病を使って拝謁に行かなかったヤスペルがいた。

 そしてたまはヤスペルに誘われ、抱かれる。異人は、人食い鬼でもなければ、天狗でもなく、夫より抱擁が上手な優しい人間だった。

 異人も私たちと同じだと知った瞬間だった。

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坂東眞砂子    「貌孕み」(文春文庫)

意欲や希望は人生のなかでいつ消えてしまっただろうか。主人公の俊男は風呂につかりながら考える。

 妻の静佳とは同じ大学で学部も同じ。しかし付き合いは卒業後。俊男は性欲があまりない。新婚時は、義務感で性行為をしいていた。そして娘の陽出美が生まれた。そこで、希望が生まれた。

 仕事は浄水器の販売会社。そこでお客様相談室で毎日、客からのクレーム対応している。意欲が湧き上がるのと全く反対の意欲が減退する職場。それでも、陽出美が生まれたころ、郊外にマイホームを建てる。あのころが希望が膨らんだときだった。

 しかし、性欲が衰え、全く夫婦の交歓がなくなりひさしい。希望の印だった陽出美は短大に進み家を離れると、夜遊びを覚え、髪を染め、爪を塗り派手になった。そして3流大学で留年を続けている、音楽にうつつをぬかしている男のために酒場で働き、男に貢いでいる。

 俊男と静佳は懸命に男と別れるよう説得したが、全く陽出美は聞き入れず、とうとう怒り狂った俊男は勘当を言い渡した。

 ここで、希望はすべてなくなり完全に挫折した。

風呂で思い出したが、今日の妻静佳は機嫌がよかった。少し、顔が変化したように俊男は思った。そして、何回か静佳の顔が変わっていく。その度に静佳は元気になる。
 最後に仕上がった顔は、学生時代同じ学部にいたあゆみにそっくりになっていた。

俊男は、一回だけ飲みにゆきホテルに誘いあゆみと抱き合った。しかしあゆみは美人なのだが、感情の浮き沈みが激しく、俊男はその一回だけで会うことはその後やめた。

 しかし諦めないあゆみにしつこくつきまとわれ弱っていた。そして、あゆみは「死んでやる」と宣言して、その2日後、崖から身を投げて死んでしまう。

 あの思い出したくないあゆみに静佳がそっくりになってゆく。このままでは絶望だけが残る。これはたまらないと思っていたら、静佳が「離婚してほしい」と宣言する。俊男は「わかった」と応じる。

 あゆみになった妻が家を出て行った。ひとり残された俊男は、うまそうに煙草を吸う。そして思う。ここから希望の生活が始まるのだと。

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坂東眞砂子     「神祭」(角川文庫)

坂東出身の四国の土俗世界、風習を描く5編の短編集。

幼いころから仲間外れにされ、テレビをみるわけでもなく、本を読むのではない。いつもひとりぼっちで「通りゃんせ」を大声で歌いながら、町のすみずみまで歩いて一日を過ごす。

 もちろん学校では勉強することは教えてくれるが、世の中を生きてゆくことや、町で過ごすための常識は、人との交流により身につけてゆく。

 その交流が全く無いとどうなるのだろうか。

ヒサはそんな人生を歩んできた。誰からも嫌われ。無視され小学校と中学校時代を過ごす。その後、母の友人の紹介で森下という人がやっている紙漉き工場に就職した。ヒサ以外はすべて家族だけで、工場は運営されていた。

 そこで、初めて友達ができた。工場の家の娘朋子である。

そして朋子に誘われて、映画をみるようになった。何回かが過ぎると、ある日、隣の朋子が苦しそうな顔をしている。大丈夫と心配してヒサがよくみると、コブのようなものが朋子のスカートの中をまさぐっている。そのコブの先をみると、隣の男の腕が続いている。その男が誰なのかは暗くてわからない。それから朋子と映画に行くたびに、コブが必ず現れる。
 そして朋子は、いずれヒサもわかるようになるから、絶対秘密にしてと頼まれる。

しかし、ある日、映画館をでると。朋子の父親が出入り口で待っていて、朋子は何回もぶんなぐられる。そして、ある日朋子は見合いをして高知市の男のもとに嫁ぐ。

 再び独りぼっちになったヒサは、出入り業者の浜田に誘われ映画をみに行く。そうすると浜田の手がスカートの下をまさぐる。気持ちが高ぶり、そのままホテルに行き、浜田とSEXをする。

 ヒサは、工場からの帰りに、焼き鳥屋に寄り、お酒を飲むことを楽しむことが習慣になっていた。いつもの席に座り酒を楽しむ。すると言い寄ってくる男がいる。時には、店主が紹介することもある。そんな男についてゆき、気持ちがいいSEXを楽しむ。当然、子どもを孕む、堕ろしたこともしばしば、産んだこともしばしば。生まれた子供はヒサの知らないうちにどこかに消えていった。

 男たちに昼間町で出会う。ヒサが微笑んでも全員無視する。

町でちょっとした事件が起きると、誰もが犯人はヒサだろうと言い、それですべてが解決した雰囲気になる。ヒサには身に覚えのないことばかりなのだが、皆がヒサがしたことと思い、ヒサがやったなら仕方ないということになり大事になることはなかった。

 ヒサは、今日も青いビニール傘を持って、町を歩き回る。そして、自分の人生が、そんなに悪くないと思っている。

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坂東眞砂子    「逢はなくもあやし」(集英社文庫)

「すぐ戻るから、待ってろよ。」という言葉を残して、同棲している恋人篤史は主人公香乃の部屋を出て行き、その後、帰ってくることは無かった。

香乃は篤史の実家がある、奈良の飛鳥の橿原市にゆく。その実家で、篤史の母親から、篤史が突然帰ってきて、その翌日高熱を発し、数日後に亡くなったと言われる。

 篤史の49日の法要に参列させて欲しいと香乃は頼み了解をもらう。その間、香乃は街を散策する。そこで織田という老人の遺跡発掘研究者に出会う。織田から持統天皇が夫であった天武天皇が亡くなった後でも、天武天皇が生き返ってくるのを待ち続けた話を聞く。

 そのとき持統天皇が詠んだ詩。
「燃ゆる火も取りて包みて袋には入るといはずや あはなくもあやし」

色んな解釈があるようだが、燃える火も包んで袋にいれることができるように、人の魂も包んで袋にいれることができる。だから、魂を袋にいれ大事にしてあなたを待つ。それでいいのではないかと織田老人は言う。

 この待つということに、戦争中恋人と別れ、失意のなか戦争に行って戦死する青年の話がはさまれる。この青年は、今でも、恋人と逢引した場所に現れ、ずっと恋人を待っている。

 篤史は実は香乃の部屋をでて、バリ島に行っていた。レイコという女性から、バリ島でレストランを開かないかと言われていて、開く場所とどんなレストランにするか下見と相談に行っていた。

 香乃は篤史が内緒で恋人がいたのかとショックを受ける。しかし、日にちがたって篤史の遺品を持って実家を訪れると実家へあてたレイコからの手紙があった。

 その手紙には、篤史がレイコにバリ島にやってくるときには、結婚して女性を連れてくると篤史が言っていたことが書かれている。実家にはバリ島の結婚式用の民族衣装が一緒に送られてきていた。

 香乃は、その衣装を袋にいれ火をつけ燃やす。もちろんすべて灰になり、後片もなくなる。そして香乃は、待つことはせずに、次の人生のスタートに踏み出す。

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