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2017年10月 | ARCHIVE-SELECT | 2017年12月

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貫井徳郎    「新月譚」(文春文庫)

人は顔じゃない、心だよ。でも、やはり人間は見た目の印象が最も大切。見た目がよくないと、友達もできないし、恋人も無理。会社での入社試験の面接だって、見た目だけで落とされる確率は非常に高い。

 この小説は、作家咲良玲花と、彼女を翻弄し、時に陶酔させ、そして地獄を経験させた木之内徹の壮絶な恋愛を描く。

 おそらく、咲良は、木之内と出会う30歳近くまで恋愛経験は無かっただろう。それを咲良はひとえに自らの醜い容姿にあったと考えている。そして、木之内に嫌われたくない一心で、顔を変えていく。

 最初は鼻の横にあったほくろをとる。次に、一重瞼を眼がぱっちりとする二重瞼に変える。
それでも、自分の境遇を変えられない咲良は、現在の顔の一切を変えて、全く違った顔にしてしまう決意をする。

 費用が莫大にかかり、前の2回の整形手術費用で貯金も使い果たしもう金が無い。それで両親に全額負担をさせようとする。その時の両親との会話が胸に響く。

 「顔を整形手術しようと思うの。今度はほくろをとるとか、瞼を二重にするとか、そんな部分的なものじゃなくて、この顔全部を丸ごと変える。・・・・わたしは子供のころからこの容姿に悩まされてきたの。そこそこ綺麗に生まれてきたお母さんにはわからないの。」
「馬鹿のことを言うんじゃない。」

「何が馬鹿なの。私は馬鹿な事なんか言ってないわ。私のこの顔はハンディなの。世間にでていくにあたってハンディなの。…世の中の男の人は、わたしと美人が並んでいたら必ず美人を選ぶの。・・・・私の再就職がなかなか決まらないのは、どうしてだかわかる?わたしはちゃんとした学歴もあるし、仕事の経験もある。わたしが採用されないのはこの顔のせいなのよ。面接するのはだいたいお父さんと同世代くらいの男の人。どんな女がくるかわくわくしているところに、私がでるとがっかりするのよ。」

 これで両親を説得し、最後に手術費用を両親に持たせる決めぜりふがあっぱれ。
「手術はもう一度私を生みなおしてもらうようなものだから、そのための代金は、わたしではなくおとうさんが払うのは当然でしょ。」

 両親は完膚なきまでに打倒される。圧巻である。

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| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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岸本佐和子     「なんらかの事情」(ちくま文庫)

ウィットが効き、幼いころや、青春の日々を思い出させる佳品が詰まったエッセイ集。

どの作品も素晴らしいが、特に印象的だったのが「ザ・ベスト・ブック・オブ・マイライフ」。

 小学校3年生のとき岡山から転校してきた正子ちゃん。
岸本さんは、この世の中には誰も書いていない思いつくこともできないような本がまだたくさんあると思っている。しかし正子ちゃんは、そんなことはない、どんな本だってこの世にない本はないと思っている。

 ある時遊んでいると足元に棒切れが落ちている。岸本さんが言う。この世に棒切れを主人公にした本は無いよねと。正子ちゃんは無言になり、棒切れの葉っぱをもぎりとる。

 そして、急に言う。駅前の書店でわたし見たもんと。題は「双子の棒切れ」って言うのと。

え?どんな本?と懸命に聞く。正子ちゃんが物語を喋る。

「昔々、あるところに棒切れがいました。女の子で棒子という名前でした。棒子には双子のお兄さんがいました。棒夫という名前でした。二人の体は真ん中<H>の形でつながっていました。2人はとっても仲が良く、どこに行くのもいつも一緒でした。」
 そこで正子ちゃんは沈黙。頭の中が忙しく回転する音が、聞こえてくるようだった。

そして急に
 「ところがある日、お兄ちゃんが死んでしまいました。」
 「え?死んじゃったの。」
 「そう次のページを捲ると、大きな字で死んだとかいてあって、次のページには死んだって文字がページ一杯にたくさん書いてあったの。」
 「それで、棒子はHからIになって、お友達を探しに世界を旅するの。おしまい。」

 「私その本買いに行こう。」
 「だめよ、もう誰かが買ってしまってお店にはないの。」

この後の岸本さんのエッセイが素晴らしくじんと胸に響く。

 かれこれ40年ちかくも前のことだ。思い出すたびに、あるわけないよ、そんな本、と思う。でもあるわけないその本を、私は何度繰り返し読んだことだろう。クリームがかった厚ぼったい紙だった。くっきりした濃紺の活字だった。しおりの紐が、きれいな赤い色をしていた。

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| 古本読書日記 | 06:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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アンソロジー    「午前0時」(新潮文庫)

現代を代表するサスペンス作家、ホラー作家が午前0時をテーマにして描いた作品集。

その中から、男なんてほんとうにどうしようもないなという作品。

主人公の吉井は、業界では名が通っているが、一般には無名な中規模会社に勤めている。年齢は35歳。年収は800万円。もちろん、それ以下の人もたくさんいるが、それ以上の人もたくさんいる。身長172cm,体重71kg。世の中どこにでもいる平凡な男。

 無理して、都会のマンションを購入。その7階が住居。しかしマンションは20階だて。7階はやはり中途半端。

 こんな吉井でも妻はとても美人。妻の実家は、古くからの都心の豪邸。父親は大企業の重役をおりて現在は子会社の相談役。それでも年収は2000万円ある。

 だから、結婚生活はどことなく肩身が狭く窮屈。しかし、外で遊ぶなどということは毛頭考えられないし、午前0時までの帰宅を厳命されている。

 そんな時、久しぶりに同期の田村に誘われ居酒屋に行く。田村も吉井と同じ3人家族。その田村が、酒の途中で、もう一人来るんだと言う。そのもう一人は、何と女性だ。田村は不倫を楽しんでいるのだ。

 そうなると、吉井も自分も恋をしていいのだと思うようになり、同じオフィスで働く派遣の一ノ瀬に照準を決める。

 課内で飲み会があった日、雰囲気がよくなり、一ノ瀬を誘う。しかし一ノ瀬は断る。さらにそれでは家まで送るとしつこく迫るが、「そんな人は嫌い」と冷たくされ、それからは事務所でも顔を合わせてくれなくなる。

 一ノ瀬が会社をやめたとき、周りからご執心だったのに残念だったねと言われ、皆知っていたんだと大ショックをうけ、仕事でも大きな失敗をやらかす。

 その落ち込みを癒そうと、帰りに呼び込みに誘われ、女性がつく店にはいる。そこで横についたのがミミ。このミミが可愛い。それでつい会社の失敗や家のことや愚痴を言う。ミミはそれを聞いて一言「ふうん」のみ。

 がっかりしていると、音楽が急に変わる。ゴールデンタイムで10分間千円で女性の胸が触れるとのこと。吉井はそれで元気を回復してミミを触りまくる。

 もうミミの虜になってしまう。毎週、店に通う。そして、いつかミミとデートをしたいという思いになる。

 何回も足しげく通ってミミのメールアドレスを教えてもらう。そこで、携帯番号も教えてとお願いするが、それはダメと断られる。どうして?ここで吉井は、これまでのミミの態度はすべて営業だったことを認識する。完全にミミの手練手管にはまってしまっていたのだ。

ガックリとくる。
そのとき音楽が変わる。ゴールデンタイムだ。
 ミミが「どうする?」と聞く。吉井は思いっきりミミの胸にむしゃぶりつく。

貫井徳郎の「分相応」という作品。

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貫井徳郎      「夜想」(文春文庫)

主人公の雪藤。家族旅行で箱根に行った帰り、トラックと衝突、雪藤は助かるが、妻と娘が死んでしまう。生きる気力も無くなり、死んだような暮らしを続ける。幻覚なのだろうが夜死んだ妻が現れ彼女と話をするのが唯一の救い。

 そんなある日、街で見知らぬ女性に「あまりかわいそうなのでつい・・・」声を掛けられる。この大学生である女性は、物にさわると、その物を所有している人の悲しみや苦しみがわかるという特殊な能力を持っていた。たまたま、雪藤が落とした定期入れを拾ったために雪藤の切ない状況がわかったため、声をつい女性がかけてしまったのだ。

 この学生の名は遥。雪藤のように、遥の特殊な能力により救われた人が何人かいて、そんな人たちの支援もあったり、更に遥のことが小さいが雑誌記事となる。それで人生の相談者が次々現れるようになり、雪藤のマンションの部屋で人生相談をすることになる。

 こうなると、ボランティアではなく、組織化して相談を受けようという人間が現れたり、相談で立ち直った不動産会社社長がスポンサーになってくれたりして、段々遥は新興宗教の教祖のようになり、雪藤は広報、事務局長のような立場になる。

 この物語、新興宗教団体が遥や雪藤の想いとは別にできあがってゆく過程もそれなりに面白いが、肝は幻覚にあると思った。
 雪藤が死んだ妻と会話するのも幻覚だ。

更に物語には子安鏡子という女性が登場し、失踪した娘を探す。この鏡子が、遥のところに娘はどこにいるか教えて欲しいと相談にくる。遥が娘の持ち物であるヘアブラシを触ると遥の表情が一瞬恐怖で驚愕する。そして遥は何もわからないと言い続け、鏡子は「インチキ」と言い残し去ってゆく。

 その鏡子が、遥の講演にやってきて遥を切りつける。遥は大きな傷を負う。
 実は遥は、鏡子が娘を殺害して地中に埋めたことを相談時にみた。鏡子は娘の幻覚をみてまだ娘は生きていると思い探していた。

 遥は迫る鏡子から逃げ最後は、雪藤のマンションに匿われる。サポートメンバーがそのことを知り雪藤に遥に合わせるよう迫る。雪藤は拒否するが、彼らの執拗な要請に抗しきれず、遥にあわせる。メンバーが雪藤のマンションのドアをあける。そこには遥に似た人形だけが横たわっていた。匿われた遥も実は幻覚だったのか。

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| 古本読書日記 | 06:48 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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伊岡瞬     「乙霧村の七人」(双葉文庫)

木曽の山中に乙霧村という過疎の集落があった。ここで22年前、日本を恐怖に落としこんだ殺人事件「乙霧村の五人殺し」が豪雨のなか起きた。犯人は当時32歳だった戸川稔。

 夏季休暇一泊旅行で木曽馬籠宿に行くことになった、立明大学公認の文学サークル「ヴぇルデ」のメンバーを中心に7人が、馬籠の旅行途中、この殺人事件があった乙霧村の殺人現場に立ち寄る計画をした。というのはサークル「ヴェルデ」の顧問が立明大学フランス文学科泉教授で、その泉教授の著作に「乙霧村の惨劇」があったからだ。

 そして7人が乙霧村の殺人現場である、被害者の廃屋松浦家に着くと、22年前と同様に空が急に曇り、雨が降り出す。そして7人の前に大男が斧を持って現れる。参加者の一人浩樹が斧にやられ倒れる。しかし、大男には結局誰も殺害された人はいなかったことが明かされる。

 事件の真相を解く鍵は2つ。
参加者の一人、浩樹は実は正式な立明大学の学生ではなく、もぐりで大学に通っていたこと。22年前の殺人事件の犯人戸川稔には隠し子がいたこと。
それから、5人殺しの中、一人の幼い子は逃げて殺されなかったこと。

 物語の設定もよくある話だし、解決も想像できるほどよくある内容。安心して読めるが、興奮、ドキドキ感は皆無。

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| 古本読書日記 | 05:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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町田康     「スピンクの壺」(講談社文庫)

愛犬に、高額な金をだして、ブランド物の服を着せる人がいる。それを見ていた人が「カワイソー」と声をあげる。どうして、服を着ている犬が可哀想に思えるのか。

 凡そ動物というのは自然の状態で生きるものであり、それが一番幸せの状態なのである。犬は自然に生きる動物なのであるから人間のように服を着ることは不自然という考えを持っているからである。

 しかし犬が自然な動物なのだろうか。人工の生き物であって、永年にわたり人間により品種改良がなされてきている。ですから、犬は登録された飼い犬で、自然の状態で生きることはできません。

 できるだけ自然な状態がよければ、もちろん着物などは着ることはないし、首輪も引綱も可哀想ということになるし、シャンプーもカットも可哀想、予防接種などの医療行為も可哀想となってしまう。

 自然動物ということで、これらをすべてやめればどうなるだろうか。
毛がのびて何犬かわからなくなったプードルが、悪臭とノミをまきちらし、病気が蔓延し、自然な交配によって次々犬が生まれ、その多くは生まれて間もなく死に、生き延びた犬は野犬となり人畜を襲う。放し飼いの土佐犬が、町内をうろついて老人子供をかみ殺す。

 犬を自然にまかせるということは、このようなことが起きることを意味する。
だから、犬は自然動物では無い。着物を着飾るのはおかしくないし自然の姿なのである。

 町田の意見は、変に納得してしまう。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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沼田まほかる   「九月が永遠に続けば」(新潮文庫)

今は無くなったホラーサスペンス大賞受賞作品で、沼田まほかる処女作品。とにかく人間関係がぐしゃぐしゃ。グロテスクで読むのが辛いと思う一方、小説だからできる妄想であり、現実にはありえないと思えてしまう作品。

 筋書きはもちろんできていたとは思うが、途中で浮かぶ妄想の数々。こいつとこいつも結び付けてしまうかと思い、描いてしまったため、愛と憎しみの大博覧会(解説で千葉昌之が言っている)になってしまったのではと思える。

 物語は、主人公佐知子が、教習所の犀田とのラブホテルでの密会シーンから始まる。佐知子は精神科医をしている安西の妻だったが、離婚している。その安西から、今の妻亜沙美の連れ子で高校生の冬子と犀田とつきあっていると連絡がある。

 ある日、佐知子の息子文彦が、夜中に家を出て失踪する。

 亜沙美は、小学生の時から通算3回拉致をされて、強姦されている。そして完全に精神がおかしくなり、その主治医が安西で、絶対亜沙美を治すということで、全身全霊亜沙美にぶつかり、治療を行う。そのために、佐知子と別れて、亜沙美と結婚する。
 物語では、段々、安西と亜沙美の恋愛の無い、歪んだ関係が明らかにされる。

それにつれ、冬子が文彦とつきあっていることが明らかにされ、更に文彦が安西の後妻の亜沙美とも互いに惹かれあっている関係にあること描かれる。

 登場人物は少ないのに、これ以上はないというほどのもつれた関係が、文彦の失踪や冬子の自殺を引き起こす。

 それで、肝心の犀田をプラットホームから線路に落とした、物語の最も鍵を握る事件の犯人が、縺れ合った関係者ではなく違った人間だったというのも肩透かしを食らい、びっくりした。

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| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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