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2017年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2017年11月

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辻村深月    「ハケンアニメ!」(マガジンハウス文庫)

日本でテレビアニメは年間230本も制作され、世界一のアニメ大国である。この作品はアニメ業界の一線で活躍する、プロデューサー、アニメーター、声優、フィギュア制作者を取り上げた中編物語集。

 今は、昔から続くアニメのごく一部は夕方テレビで放映されているが、殆どは深夜に放映されているのだそうだ。そんな深夜放送になっても、アニメは熱狂的なファンに支えられている。

 タイトルの「ハケンアニメ!」のハケンは派遣社員のハケンではなく、一定の期間で最も視聴率が高かったり、DVD ブルーレイが最も売れた作品が覇権アニメとなることからきている。

 この作品は、アニメや小説、最後はこうなってほしいとか、こうあらねばならないと読者、視聴者は思うのだが現実は希望通りにはならないことがしばしば、それでもへこたれず生きていかねばならないということを主張している。

 斎藤瞳の創った作品「サウンドバック」。音が感知できないまま戦い続けたヒロイン トウコ。視聴者は最後はトウコは何らかの方法により音をとりもどすと思っていたが、結局取り戻せたかは不明のままで物語は終了する。

  辻村が書く。
人生には、大事な何かを失っても、それでも何かを成し遂げたい時がある。やらなければならない時がある。
 それがアニメの中のことだからといって、容易に失った何かが戻ってくるなんていう都合のいいことが起こるなんてあり得ない。

 それから、その通りだと感服したところを紹介したい。齊藤瞳が同じマンションに住む太陽君に言ったこと。
 「この世の中は繊細さの無い場所だよ。」
勉強に必要のないことを無駄だと切り捨てたり、社会や現実に役立たないと排除したり。わかりやすくお金を使った人が偉かったり、メインカルチャーに乗れない人が排除されたり。
 この世には繊細さのひとつひとつを丁寧に掬い取ってくれる場所はない。

 人見知り、繊細などということは、弱虫の象徴でだれも気にかけない。悲しい世の中になってしまった。

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貫井徳郎    「崩れる」(集英社文庫)

結婚にまつわる情景を描く、八つの短編集。

どの作品も、よくある出来事だと思う情景が描かれてはいるが、それでこれで決めたぜという貫井のフィナーレが無く、どことなく尻つぼみの作品ばかり。

 36歳の片桐。会社ではそれなりの仕事も与えられ存在感もあるのだろうが、未だ独身。
このままではまずいと思い、女性を紹介する結婚相談所に登録する。

 最近は結婚相談所に登録している人たちは増えているが、紹介して交際に至る割合が殆ど増えていない。
 たいがいは、女性が紹介された男性との交際を断る。
男性が殆ど女性とのつきあいの経験が無く、おいつめられて結婚相談所に登録する。だから、付き合い方、女性との会話の仕方が全くわからない。

 それで相談所では専任のインストラクターを置き、女性との話し方からはじまり、付き合い方まで指導する模擬実践を行う。模擬実践は35万円。高額だけど、申し込む男性が後を絶たない。

 片桐はインストラクターの千秋と向かい合う。そして聞く。
「趣味は何ですか」と。
千秋が言う。
「そんな堅苦しい雰囲気ではだめです。肩の力を抜いてください。」
そんなこと言われても、今までに女性に相手をしてもらったことなど無いからとても難しい。

 何しろ、こんなことも含めて、色々こうしたらということを千秋が助言すると、一生懸命ノートにメモをとるのだから。インストラクターもいやになる。

 それで、最後には、千秋こそ今まで求めた自分のための女性と片桐は思い込んでしまう。
交際ができない、中年男性の切なさが物語全般を覆う。

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米沢穂信     「満願」(新潮文庫)

この短編集はすごくて、2014年刊行されたが山本周五郎賞を受賞したほか、「このミステリーがすごい!」「ミステリーが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」いずれも一位を獲得、3冠王に輝いている。

 どの作品も丁寧な筆致で、山本周五郎作品を彷彿させる。すべての作品が高い水準に達しているが、会社人間だった私には「万灯」が身近に感じた。

 今でも、会社の不正が露出して、新聞をはじめマスコミを賑わしている。社会人としてより会社人を優先して行動する人たちが絶えない。私もアジアの国々で仕事をした経験を持つが、この小説のバングラディッシュのように、主人公が赴任した日に事務所が停電。しかしまわりをみると、電気がともっている。事務所だけが電気をとめられているのである。これは、早く賄賂を収めにこいという合図。現地のスタッフが言う。

 明日からはガスも水道も止まるでしょうと。
こんな場面を読むと、悪戦苦闘した昔日がよみがえる。

 会社の儲けのためなら人を殺す。今は暴力団でも、こんな考えをする人は存在しないと思うが、この作品の舞台だった昭和50年代、エネルギー資源獲得競争が熾烈な時代は、バングラディッシュの小さな村の村人を殺害して、資源を勤める会社独占のためひいてくるということは、行われてもおかしくない時代のように思える。

 殺害は主人公とフランスの会社に勤める日本人の2人で行われる。村人の殺人は、村の長老が抑えてくれるから犯人されることの可能性は少ない。

 それで大丈夫だと思っていたら、一緒に殺人を犯した日本人が、フランスの会社を退職。
これはまずいと主人公は緊急で日本に帰国し、彼をおびきだして、車で殺害。地中に埋める。
 これで、真相は闇のなかとなると思っていた。

しかし、バングラディッシュで人殺しをしたとき、村の長老の家で生ぬるいチャイ(茶)ふるまわれ、主人公と主人公が殺害した日本人が飲む。これが、すべての事件を表出させることになる。なかなか面白く読んだ。

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| 古本読書日記 | 20:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中村航    「小森谷くんが決めたこと」(小学館文庫)

この作品、編集者が中村航に普通の男の人ことを小説に書いてみないか。普通の恋や、普通の友情や、普通の成長を小説にしないかという提案から始まっている。それだけでは、作家中村はイメージが浮かんでこないし、とても書けそうもないと思っていたら、その3か月後にこの人を主人公にしたらと、編集者がアラサーの男性を連れてきた。

 それが小森谷君。仮名なのだろうけど、実在する人だとのこと。この小森谷君が最初にサラっと言う。
 「ちょっと病気をして、医者に行ったら余命2か月と言われちゃって」と。
びっくりする中村に
 「でも生き残っちゃいましたけど。」

中村はここで、これは書けるかもしれないと思っただろう。しかし、中村は編集者に普通の男の人を書いてほしいと言われている。確かに目の前にいる小森谷君は、大病をしたかもしれないが、それが無ければ実に普通人に見える。
 この作品の感心するところは、小森谷君をまったく普通の人として描き切っているところ。
 並みの作家だったら、余命2か月を宣言されそれから生還するまでをドラマチックに描いて作品にする。

 中村は丹念に小森谷君を取材する。
そして幼稚園時代の保母さんに恋したり、小学校で自転車を乗り回したり、中学校の修学旅行でパンツを風呂場に落とし忘れてしまう失敗、高校での食い逃げ、2浪してはいった大学。

アルバイトと映画に明け暮れた大学生活。就職氷河期で就職できず映画館でのバイト生活。その繋がりから映画チェーン会社への就職。京都ではじめた会社生活。
  と大病になる前の普通の生きざまを物語の多くを割いて丹念に描く。

そして、大病。それは大変なことなのだけど、大病前の普通の生きざまとトーンを変えることなく、全く大病前の行動の延長で起きてしまったことのように描く。

 この作品は、普通の生き方なんてものは無く、誰でも山あり谷ありの生活を経ているものということを教えてくれる。

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| 古本読書日記 | 20:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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噛めば噛むほど味が出る

猫にちゅーるをあげた後の皿

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歯形だらけ

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皿はまだわかるが、シャンプーヘッドの口ががじがじになっているのは、「いや、おいしくないだろ」と思う。

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今日の測定では、13.4kgでした。

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寒い時は毛布が欲しい。

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ちなみに、踏まれているのは私ではありません。
このソファーは痒くなりそうだから、私は滅多に座らんし、寝るなんてとても( ˘•ω•˘ )

| 日記 | 16:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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桜木柴乃    「それを愛とは呼ばず」(幻冬舎文庫)

  愚直さゆえ、生きることに不器用、こんな人物が、暗く廃墟で荒れたはてた地方に飲み込まれていくような人生を描いたら右に出る作家はいない桜木の味わいがたっぷりでた作品。

 主人公の亮介は妻が経営している新潟の地元企業で副社長をしていたが、妻が交通事故にあい寝たきりになると、義弟に会社から追放され、不動産会社に就職したが、バブル時代にたてた北海道の廃墟のようなリゾートマンションの営業をやらされる。

 10年間、 29歳まで女優を夢見た沙希は、目がでず、大物プロデューサーの肉体を投げ出せば、次の映画に出演させてあげるという申し出を蹴って、芸能事務所をくびになる。

 そしてもう一人小木田が心にずしんと入りこんでくる。

 小木田は、バブル絶頂期に、亮介が販売している、崩れかけた廃墟のようなマンションの最上階を購入している。その小木田が、零落し、放浪のすえ20年前に購入したこのマンションに住み付く。そこに、故郷の釧路に帰り、もう一度やりなおそうと沙希が東京へむかう途中、このマンションに立ち寄る。そこでの小木田の人生の告白が切ない。

 小木田は、ひとつ呼吸をしたあと、穏やかな表情で隣にいる春奈を抱き寄せた。
「僕は外車販売の会社をやっててね、当時は面白いほど高級車が売れたんです。毎日銀座で飲んでいたんです。部屋に戻って着替える暇がないときは、行きつけのブティックで上から下まで買えかえて、そのままクライアントのところへ行くんです。高級車が次から次へと売れてゆくし、それがおかしな現象だとは思わなかった。」
 そして膨張を続けていた経済は一夜にして崩壊し、文無しとなる。

 小木田はそれから何をやっても失敗を繰り返す。体重も半分以下になり浮浪者となり、車を盗難してこの北海道のリゾートマンションまでやってくる。何度も転ぶことはできてもとうとう一度も立ち上がることはできなかった。
そして「あとは首をつるしかないなあって、すごく静かな気持ちになって。さあどうしようかなあとぼんやり考えていたら、春奈がぼくを呼んでる気がしたんです。」

 春奈はバブルがはじけてから、20年の長い間、このマンションで小木田を待ち続けていた。そう、春奈は人間の女性ではなく、ラブドールだった。

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| 古本読書日記 | 06:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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貫井徳郎   「妖奇 切断譜」(講談社文庫)

九条、朱芳コンビが活躍する明治初期を扱うシリーズ第2弾。

明治の初め、まだ江戸の匂いが充満しているころ、鈴木春水という画家がとびっきりの美女を描いた、今様三十六歌仙という美人画が爆発的に売れていた。

 ところがそのモデルとなった女性たちが、身体を切断され殺され、手足や胴体だけが別々の稲荷神社に残されるという事件が発生する。

 しかも、36人の美人のうち、更に6人がその人気により大美人となり、その6人のうち4人が殺される。更に5人目が殺害されるのではと思い、警察がはりついて5人目殺害を阻止しようとするのだが、5人目は6大美人以外のモデルが殺害され、事件は混沌としてくる。加えて、作者鈴木春水の書生春朝も殺害される。

 殺害された5人の女性に関連があるか。

最初のお菊はそば屋の娘。次のお咲は古着屋の娘、次の珠子は公家の娘、そしてお美代は下駄職人の娘、そして最後は琴菊という芸者。
 まったく関連はないように思えるが、一人だけ違和感を覚える女性がいる。

皆川博子さんの小説「花闇」で私は知ったが、幕末から明治にかけて大きな人気を博した歌舞伎役者、3代目澤村田之助、彼の生きざまがこの作品のヒントになっている。この澤村田之助は重い糖尿病を患い、壊疽になった両足を切断したが、それでも舞台にたち続けたことで有名な役者であった。

 それから春水の書生である春朝が、絶世の美男子で女性を引き付け離さない。

この3つが事件を解く鍵となっている。
 江戸から明治にはなりきれない混沌とした人生模様が、ミステリーという形を経て描きだされる。

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土屋賢二   「年はとるな」(文春文庫)

毎度の週刊文春コラムを集めたエッセイ集。

老化現象が始まったなと思うのは、物忘れが現れだしたとき。特に、人の名前がまずはでてこなくなる。

 あいつ、何て名前だったけ。変だなあ仲良かったのに。顔を浮かぶのにとんと名前がでてこない。ああだ、こうだと半日、頭の体操をして、やっと名前が浮かぶ。よかったでたー。と安心して、コーヒーを入れる。お湯をそそいでいるとき、そういやあいつ何て名前だったっけとなる。こんなことがしょっちゅう、暗澹となる。

 老化での物忘れでなく、恐怖のあまり名前がでてこなくなるというときもある。

「ほら、あの目つきが悪くて鼻が低くて色黒で、オオカミの顔をつぶしたような威嚇的な顔をしているのに、内面は絶対に顔にでると言い張り、胴長短足で、険悪な雰囲気で俺の前にすわっている女」
 こんな風に言ったら、妻は大激怒するだろう。

名前が出てこないのもまずいが、普段行うことの言葉がでてこなくなると本当に大変だ。
「食べる」という言葉が浮かばなくなる。それを懸命に表現する。
「えーと、ほら、体内に口から入れて咀嚼して嚥下する動作があるだろう。それ、日本語で何て言うんだっけ。」

 私はここまではいってないけど、いつかこんなになっちゃうんだろうか。ブルーだな。

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原宏一    「閉店屋五郎」(文春文庫)

中古の厨房機器や道具類を買い取って、それを販売することを商売にしている主人公五郎、商売熱心なのだが、女性大好きがたまにキズとなって、それが原因であちこちで騒動を起こす。妻、真由美にはそんな傷もあって逃げられる。しかし、ウェブデザイナーをしている一人娘の小百合がピンチのときに助けに現れ騒動を治める。人情が厚く、猪突猛進の五郎の活躍する短編小説集。

 私の街にもいつからかタウン誌が新聞の折り込みにはいってきたり、コンビニに置かれるようになった。殆ど掲載されているのは、ショッピング、グルメ情報、それにプラスして、祭や地域のちょっとした取材記事がのっている。

 私の家の前の通り沿いのマンションの一階にもそんなタウン誌事務所があるが、2-3人の人たちで運営している。
 タウン誌は、店やレストランから広告をとる。その店について、記事と写真をタウン誌記者に書いてもらい、それに広告掲載料を払う。この掲載料でタウン誌発行をしている。

 この作品で、主人公五郎のところにタウン誌記者の美沙が取材にくる。五郎は取材だから当然ただどころか取材費をもらえるくらいに思うが、実は記事掲載を広告掲載として料金をもらうと美沙から言われる。名刺大で3万円からその大きさにより20万円まである。当然、一瞬五郎は憤慨するが、美沙が美人のため、いつものようにグラつき5万円払い取材をうける。しかも、取材の後、美沙から電話がはいり、広告とは別にトップ記事として五郎の店のことを載せると知らされる。

 五郎の気持ちはのぼせあがる。だから、発行日が待ち遠しい。ところが、発行日に発行されない。文句を言うと、もう一週間待ってほしいと言われる。ところが一週間たってもまだ発行されない。

 それで、社長である美沙の父親を問い詰めると、金が回らず、印刷屋からも前金で印刷代を要求され、もう廃刊せざるを得ない状況だと知らされる。どれだけお金が必要かと聞くと60万円だという。

 そこで五郎が言う。
事務所にある事務機や机、椅子を全部含め60万円で買うと。その60万円で借金をかえし、タウン誌作成し発行する。そして、できたお金でまた事務機、机、椅子をタウン誌がひきとるようにすると。

 これでめでたしとなるのだが、タウン誌一回の発行で60万円が返せれるのだろうか。それならこんなに苦境になるはずはないのに。何だか解決方法が甘すぎるなと感じた。

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木内昇    「漂砂のうたう」(集英社文庫)

直木賞受賞作品。

明治維新。武士でも大名とか老中など高い地位についていたものは、維新体制に組いれられ、また足軽など、最底辺の武士は巡査などの職業が与えられたが、その中間に属する大半の武士は地位、職業は幾許かのお金とともにはく奪され、働き口もなく、世の中に放り出された。

 元武士の主人公定九郎もその一人。根津遊郭、美仙楼で立番という客引きをして日々をしのいでいる。そして、ここまで零落すると、どうあがいても、そこからぬけだせない。毎日、毎日が客引きの繰り返し。

 印象的だったのは、父親に厳しく、勉学、武道、剣道と作法を叩きこまれ、定九郎にも厳しくあたり、時には鉄拳放った長兄が、花魁、芸姑の外出で人力車を定九郎が呼ぶと、長兄が車を曳いてやってきたところ。

 根津遊郭の裏手を流れる藍染川を北に遡ると、バンズイという金魚屋がある。その養殖池。
なみなみと張った水は陽を受けて谷底には場違いな煌きを放っている。そこには赤だの朱だの黒だのの金魚が泳いでいる。こんな狭いところに押し込まれてよくぶつからずに泳げるものだと定九郎は思う。そして、その金魚に自分の今を重ね合わせ慨嘆する。

 じゃあ、その養殖地から飛び出たら人生の可能性は広がり、未来が開けるのか。

ある日藍染川が豪雨で氾濫する。その氾濫する川沿いを定九郎が歩く。その時の木内さんの描写が辛い。
「径のいたるところに、金魚がちらばっていた。
 赤いのや黒いのが息も絶え絶えに雨に打たれている。飛び跳ねているのはほんの一握りで、ほとんどがエラと口だけを緩慢に動かし、横たわっていた。
 滝のような水音が聞こえ、見ると、池が溢れている。流れは金魚をからめとり、次々に径へと押し流していた。
 地面でもがく金魚の様は、生簀をでたところで死ぬだけだったという残酷な現実を、容赦なく定九郎に突きつけた。」

 ひとたび底辺に落ち込むと、どんなにあがいても底からぬ出すことができないことを木内は的確に表現している。

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貫井徳郎    「鬼流 殺生祭」(講談社文庫)

徳川時代はキリシタンは禁教令で厳しく取り締まりが行われていた。それで、明治維新により信仰は自由になり、キリスト教信仰は自由になったかと思われるが、明治政府もキリスト教は邪教として禁止していた。

このため明治になり長崎浦上天主堂にキリシタンだとカミングアウトした人々を、明治政府は厳しく弾圧した。弾圧、拷問は明治政府のもとで行われ、転向を強制し、多くの人々が政府により殺害された。

 岩倉具視使節団が、不平等条約の撤回のために使節団としてアメリカ、イギリスをまわったが、切支丹を弾圧するような野蛮な国とは対等な外交はできないとして、使節団の提案を拒否、何の成果もないまま使節団は帰国する。その結果明治政府は切支丹禁教令を廃止した。

 切支丹は、当初は純粋なキリスト教として拡がったが、禁教令により布教者がいなくなり、日本固有の神社信仰や、祖先崇拝とキリスト教が結合して、本来のキリスト教とは全然異なる、新たな切支丹教が生まれることとなった。

 これら新たな切支丹が、それぞれに宗教集団をつくる。これが隠れキリシタンと言われるようになる。これらの宗教集団は外部の人々を受け入れることを徹底拒否する。結果、自分たちだけで近親婚姻をすることが戒律となる。

 もうひとつこの物語のトリック。密室殺人事件と、外部から侵入した人間しか殺人を犯せないという矛盾した2つの事件が起こるが、殺人は関係者しかいない状況。貫井が得意とするトリック。関係者全員が誰が犯人かわかっている。しかも、集団でその犯人を匿うような言動をする。こうなると、犯人をみつけるのは難しい。

なんとなくトリックとしては、邪道な思いがする。

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底抜けの

箱。

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これが

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こう

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犬は破壊行動をするものですが、さくらさんも例にもれず。

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壁紙べりべりで、補修の結果、室内に唐突にタイルが登場。

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靴も、装飾のあるものはしばらく出せない。
台風の中、しまむらで何の飾りも無い900円のパンプスを買ってきましたとも。

食い意地についても底なしで、先日母が目を離したすきに、3人前のフライ(さんまの竜田揚げ)をペロッと平らげたそうです。

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萩原浩   「冷蔵庫を抱きしめて」(新潮文庫)

ありふれた日常を描くが、そこに奇跡のような一瞬が起きる。そんな、ことを描いた短編集。

「目は口ほどに物を言う」ということわざがある。確かに目は喋ることと同じくらい表情を発する。しかし、口というのも、喋らずとも、目以上にものを言う。

 馬鹿にして大口を開けて笑う。しまりがなくよだれを垂らす。一文字に結んで怒りを訴える。小馬鹿にして端をつりあげる。結構私たちは、目より口の動きをみて相手の感情を読み解いているのではと思う。

 主人公は、会社8年目で、風邪をひき会社を休む。治りかけの時、出社をするのだが、皆に風邪をうつしてはいけないと思い、マスクを買いにゆく。知らない間にマスクの変化、進化が異常に進んでいる。
 「三次元マスク」「超立体マスク」「三層構造高密度フィルター」「プリーツタイプ」「不織布採用」「ダブルフィルター方式」「0.1μmの微粒子を99.9%カット」など。
 そしてこのマスクをかけても、完全に顔面にフィットして全く違和感がない。

 主人公は、顔に全く自信がなく、小中学校のとき馬鹿にされたことがトラウマになっていた。ところがマスクをかけて出勤すると、通勤途中で誰かに会っても、全く気付いてくれない。

 商談でも「いやだなあ」「あのバカはなんてこと言う」とつぶやくのだがマスクをしているから、相手に悪感情がわかない。

 こうなると、風邪がなおっても、花粉症の季節が過ぎても、マスクをはずすことができなくなる。それどころか、顔を隠したくて、紫外線をカットするために薄いブルーがはいっているゴーグルタイプの眼鏡までするようになる。

 これをいくら注意されても、はずせない。だから、会社も解雇される。
すると顔面隠しは更に嵩じてガイ・フォースの仮面をつけて生活するようになる。

 そして、今は出身の静岡県の小都市でご当地キャラクター「ウナマッチャ」に変身して、保育園をまわっている。

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篠田節子    「長女たち」(新潮文庫)

  一人では、重い現実に我慢強く立ち向かう長女たちを描いた3中編集。
篠田らしく、どれも引き込まれ面白い作品となっているが、私は2編目の「ミッション」に魅かれた。

 主人公の頼子は、大学を卒業して素材メーカーに就職したが、就職と同時に母がガンで倒れ、発病後3年後に亡くなる。母が病気のときの主治医の園田の姿勢に心打たれ、会社をやめ26歳で医学部を受験、合格し、医師となる。その頃園田はインドの山奥の僻村に派遣され、医療と生活改善に取り組んでいた。

 その園田が高地で足をすべらし転落死する。頼子は園田の遺志を継ごうと同じ診療所の医師としてインドの僻村にやってくる。

 このインドの奥地の僻村では、近代医療の恩恵など皆無。それで、登場してくるのが薬草医。昆虫や草花それに鉱物を調合して薬をつくる。それに呪術を使い病気を治癒する民間医である。

 住民は朝起きて塩と脂肪分が大量に入ったバター茶を飲み一仕事、朝食も同様のバター茶に大麦の粉、昼もバター茶と麦粉、夜は夏場のみ、わずかの野菜の入ったこれまた塩分豊富な汁とバターのきいた麦だんごだ。・・・・彼らは一日じゅうバター茶を飲んでいて、それが屋外の厳しい作業に耐えうるエネルギー源となる。

 馴染んだ食生活だが、体には決していいとはいえない。

 その結果、この僻村での死は突然死ばかりになる。朝家畜の世話をしていた人が昼に突然倒れ、数分後あるいは二三時間後にはみんな息を引き取る。
 40代で突然死する人もあるが、50,60代では殆どの人が亡くなる。

 最新医療が受けられず、衛生環境もあまりよくない、だから、皆短命。一読、悲惨で可哀想に思うが、少し本を遠くにはなしてゆっくり読んでみるとそのことが我々に比べ可哀想なことなのか、心がぐらつく。

 突然死、ポックリは幸せな死に方だ。長寿になっても、認知症や身体を動かせず介護の世話になる。受ける人も、行う人も辛い。
 体にいっぱい管をつなげて生きながらえる。平均寿命を長くすること、長寿が幸せなことなのか、篠田さんの作品が私たちにするどい刃をつきつける。

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貫井徳郎   「天使の屍」(集英社文庫)

  大人の子供にたいする考えとこの小説に登場する中学生の子供たちの考えには大きな隔たりがあり、互いに決して交じり合えないということを貫井は言いたのかなと思う。

 中上流家庭に育つ中学2年生の優馬が突然隣のマンションから飛び降り自殺をする。死体解剖すると遺体からLSDが検出された。父親青木は、担任の光岡先生に優馬の友達を紹介してもらい、一人一人を訪ねて、優馬の日頃の行動や自殺を予兆することがあったか聞き出そうとするが、あしらわれてとても会話にならない。

 そんな時、郵便受けに封書が送られてくる。そこには一枚の写真。何と成績優秀、品行方正だった優馬が全裸の女性にまたがってあえいでいる姿が写っていた。そしてその夜100万円と引き換えにネガを渡すという脅迫電話がはいる。

 それと同時に、圭輔と友達だった中学生が次々と自殺をする。一人を除いてやはりLSDが検出される。

 自殺前、永井という子を除いて、自殺した子の成績が急激に堕ちていることがわかる。

 そして、両親が不在がちな永井の家に女の子を引っ張り込み、LSDを飲み、セックスに永井以外の中学生がふけっていたことがわかる。LSDは集中力を減退させる作用があり、勉強ができなくなるようになる。

 永井は成績の良い同級生をLSDと女の子でたぶらかし、しかもその様子をビデオにとり、中学生を恐怖に陥れ、自分の成績を相対的によくすることを目論んでいたのである。

 大人からみて、最近は動機不明の事件が多い。私のような鈍感な大人に中学生はここまでやるのだということを貫井は言いたいのだろうが、鈍感で申し訳ないが、どうも私には現実感がわいてこない。

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ジョン・アーヴィング   「ウォーターメソッドマン」(下)(新潮文庫)

いきあたりばったりで中途半端な生き方をして、騒動ばかり起こす主人公フレッド。ウィーンで知り合ったスキーのオリンピック選手ビギーと恋仲となり、子どもを作ってアメリカのアイオワに帰り、結婚するが、父親からは勘当される。

 アイオワ大学で博士論文に臨むが、あれこれ挑戦してすぐ投げ出す。そして最後は古代低地ノルド語の唯一の本「アクセルトとグンネル」の研究と翻訳に挑戦する。最初は真面目に直訳していたが、途中でいやになり、意訳から最後は訳をやめ勝手な物語を創る。

 父親として、夫としてきちんと責任を果たさねばならないという気持ちと今までのように気ままに自由に暮らしたいという気持ちが揺れ動くが、気ままのほうにいつも傾いてしまう。

 あきれ返ったビギーは、フレッドの浮気未遂事件で家をでる。2人目の同棲相手トゥルペンが子供を欲しがるため、それを嫌うフレッドが今度は家をでる。その間にアーヴィング得意のドタバタがくりかえされる。

 しかし、尿道の曲がりを直すために、水療法に頼っていたが、決意して手術を受けようとしたところから、徐々に物事を真剣に受け止め前向きに生きようとする姿勢に変わる。

 父親と和解する。職探しも始める。同棲から逃げ出したトゥルペンも、親友クースと結婚した最初の妻ビギーも受け入れる。

 そんな社会にたいし前向きになったところで物語は閉じる。ぐうたら男のフレッドも暴力溢れるアメリカの世界に立ち向かい家族を守る男に間違いなくなることを読者に確信させる。

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ジョン・アーヴィング   「ウォーターメソッドマン」(上)(新潮文庫)

何をやっても中途半端。身体は大人でも、思考は子供のままの主人公フレッド。

尿道が曲がりくねっていて、小便をするたびに激痛をともない、性交のたびに感染症に患ったりする。それで、かかりつけの医師にいわれ水療法をする。小便をしたり性交する前と後に大量の水を飲む。これがタイトルになっている「ウォーターメソッド」ということである。

 物語は、現在から近い過去に遡るかと思えば、ずっと昔に戻ったり、それがアットランダムに繰り返す。主人公フレッドが主語で物語は展開するが、それが僕だったり三人称だったりして、気持ちを込めて読まないと、かなり頭が混乱する。
 しかし、肩の力を抜くと、ユーモア満載の青春物語で、それぞれの章は結構楽しく笑いを道連れにして読むことができる。

 ウィーンに一緒に行った糖尿病の友達メリルと酒場で語り合う内容のしつこい表現は常識の枠を超え、どうしてこれほどに描くのか不思議で異彩を放つ。
 「メリルいろんなことを思う存分喋った。
国際スポーツ競技、ヒエロニムス・ボッシュのこと、ウィーンのアメリカ大使館の機能、オーストリアの永世中立。ユーゴのチトー大統領の素晴らしい成功。ブルジョアジーの驚くべき勃興、更にゴルフのテレビ中継はいかに退屈か。ハリング氏の口臭の原因は何か。ここのウェイトレスはなぜブラジャーをしているか。彼女はわき毛を剃っているか毛深いか、誰がそのことを彼女に聞くか、あるいはまたスリヴォヴィッツのチェイサーにはビールがいいかどうか、ボストンのセントベリット社のラジアル・タイヤの値段、ドアの側に座っている男の顔の傷はどうしてできたのか、チターは全くくだらない楽器だということ、チェコ人はハンガリー人より創造的かどうか、古代低地ノルド語は如何に阿保で未発達の言語か、アメリカの二党政治は如何に現代にあってないか、
新しい宗教を設立することの問題点、聖職者が権力をもったファシズムはナチズムと殆どちがいがないのではないか、ガンはなぜなおらないのか、戦争はなぜ避けられないのか、人間はどうしてこう愚かなのか、女の子をひっかけるのにはどの方法がいちばんか。」

 ここまでしつこいと、あきれかえって思わず笑ってしまう。

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| 古本読書日記 | 06:25 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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伊岡瞬    「代償」(角川文庫)

これは力作だ。ストーリーも悪魔のような主人公圭輔の同級生達也が、圭輔の家に出入りするようになってから、お金や母親の下着がなくなることが頻発して、もう達也を圭輔の家には入れないと決め、ずっと守って来たのに、達也の両親が大阪に1週間ほどでかけるため、達也を預かって欲しいと頼まれ、それを両親が受け入れたところだけが不自然だと思ったが、それ以外は非常に読ませ質の高いものになっている。
 手に取っていただき、その質の高さは味わってほしい。

ひとつだけ強く印象に残ったことを記す。

 圭輔の家庭を破壊し、圭輔をいたぶりつくした道子、達也親子。その達也が。勤務怠慢で馘首された運送会社に押し入り、そこにいた従業員を殺し、お金を奪った、逃走の目撃者もいて、達也は逮捕され一旦は犯行を認めるが、あるとき一転容疑を否認する。
 当初は国選弁護人をたてたが、突然達也が、その時新米弁護士になっていた圭輔を弁護人に選任する。

 圭輔は当然、達也が無罪という立場にたって弁護をせねばならない。達也が無罪になるためには、犯行時間に達也のアリバイがあるかが重要な鍵となる。

 そのアリバイが証明できず、苦戦していると、犯行時間に達也とホテルにしけこんでいたという女性紗弓が現れる。紗弓のところには警察も訪ねたが、別に恋人がいたため、本当のことが言えなかったと紗弓が言うが、法廷に証人としてたち、達也とホテルにいたことを証言するという。

 圭輔は、この証言が裁判員や裁判官にどうとらえられるか不安はあったが、これでかなり無実に近くなったと思う。

 ところが公判前審議で検察側が証人要請をし、それが驚くことに紗弓だという。
紗弓は法廷で証言する。
 「達也とその時間あっていないし、達也とは2-3回会ったことはあるが、男女関係は無い。」と。
 更に
  圭輔に、「達也は同級生で何とか無罪にしてあげたい。それでホテルで会っていたと証言をしてほしいと頼まれた」という。

 こんなことを創り上げる伊岡の想像力に感服する。

絶体絶命のピンチ。これをどう突破するかがこの小説のよみどころ。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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貫井徳郎    「ドミノ倒し」(創元推理文庫)

うーん、落ちがあまりに現実離れ。ここまでやるか、やりすぎと思った作品。

地方都市である月影市に、亡くなった恋人の面影をみつけにやってきて、探偵事務所を開いた主人公の十村。その恋人のとびっきり美人の妹から、殺人犯で捕まった人の無実を証明してほしいとの依頼がある。

 その依頼の直後、友人である月影市警察署長から、2年前未解決のままになっている殺人事件の真相を明らかにして欲しいとの依頼もされる。

 地方都市では、それほど殺人事件が起きない。月影市では10年の間に4件殺人事件が起きているが、これが悉く未解決になっていた。

 十村が捜索してゆくと、今回起きた殺人事件が、他の未解決事件と繋がっていることがわかっている。

 ここからがびっくりするのだが、国の法律とは別に、市としての掟が月影市には存在していて、法律より掟が優先していた。例えば、ある女性が強姦される。女性は殺されたわけではないので、強姦者は実刑を受けても、死刑になることは無い。
 しかし、掟、市民感覚では犯人は殺されてもしかたないということになる。

 月影市はこの市民感覚が優先される。だから強姦者は殺される。警察も市民感覚を優先するので犯人を逮捕はしない。しかも殺人者は、各市民団体から選ばれるが、被害者、強姦者とは無縁な団体から選ばれ、犯人は捕まらないように市民が協力する。

 こんなところに、十村とキャリアで地元には無縁の警察署長が挑む。でも、こんなトリックはやりすぎだよね。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堂場瞬一    「オトコの一理」 (集英社文庫)

作者堂場の生きざまを反映した、こだわりと思い入れのある品をテーマにした掌編集。

主人公の俺は 医者に「このまま体重を落とさないで、自堕落な暮らしをしていたら、5年後に心筋梗塞か脳溢血を起こす可能性が高い。」と死を予告される。

 それで、これはいけないと思い、トレーニングジムに通い、体重を落とす。10年間で10kg落とした。
 体重を落とすのではなく体形を変えることにそこから取り組む。そして逆三角形の体にする。ちなみに、俺に死を予告した医者も同じジムに通い逆三角形の身体になっている。

 逆三角形の体形にフィットするファッションはTシャツだ。

 医者が主人公に聞く。
 「今年のTシャツはどうしました?」
 「スリードッツの濃紺と黒。あなたは?」
 「私はディーゼルを買いましたよ。」

 そんなものがTシャツの世界に存在するのかと思う。彼らが言っているTシャツはいずれも万円以上する。しかもカットソーでないといけない。当然、すべてクリーニングにだす。洗濯機で洗うなど考えられない。

 堂場はかっては庶民。だから3枚1000円のTシャツ暮らし。だから、リッチな今と昔の間でこんなことでいいだろうかと揺らぐ。
 だけどそれはほんの一瞬。今の贅沢の心地よさに浸りきる。

 何だか庶民の私には後味の悪さだけが残る。

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| 古本読書日記 | 05:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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平岡陽明    「ライオンズ、1958。」(ハルキ文庫)

戦争直後の焼け跡で始まったプロ野球。その最大のヒーローは青バットで有名な大下弘だ。
戦争が終わった翌年1946年大下は20本のホームランを打つ。当時は試合数も少なく、プロ野球全体でのホームラン数が211本。大下は全ホームランの9.5%を一人で打った。

 ケン坊は、孤児院みその苑にいた。空襲の衝撃で口がきけない。苑は、戦争直後で運営費が足らない。だから、収容児が働いてお金を稼がないと運営できない。ケン坊は八歳から新聞配達を始め、11歳になった今まで1度も休んだことがない。

 ケン坊は野球が好きだった。毎日のように川原で三角ベースの野球をしていた。ある日から、体形には少し合わなかったがみんなユニフォームを着てゲームをしだした。大下がユニフォームや野球道具を寄付してあげたからだ。
 ケン坊は、身体も華奢で、野球も上手にはなれなかった。でも、夢は一回でいいからホームランを打つことだった。

 そんな、みその苑チームと、大下が率いるチームが野球で対戦することになる。その日のために、みその苑チーム懸命な練習をしてきたのだが、対戦の3日前、ケン坊は交通事故にあい、右足を複雑骨折して、野球はできなくなる。

 試合は西鉄ライオンズのエースの稲尾が審判をする。みその苑チームがエラーや四球の連続で大量リードを奪われ、勝敗が決していた最終回、大下が稲尾に「代打 大下」と告げる。大下チームからそれはきたないと。それじゃあこちらは「ピッチャー稲尾」と大声で言う。

 大下が稲尾に指示する。ここに投げろと真ん中を指す。稲尾がそこに投げる。大下がバットを振る。弾丸はグランドをはるかに超え、住宅の屋根を飛び跳ねる。大ホームランだ。

 すると大下は、車いすのケン坊のところに駆け寄り「君のホームランだ」と言って、ケン坊を背中に背負ってダイヤモンドを一周する。

 大下が引退して九州を去る汽車のプラットフォームで記者から質問を受ける。
「たくさん打ったホームランのなかで、最も印象深いホームランはどれですか。」と。
大下が答える。「それは、ケン坊が打ったホームラン」だと。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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爺やx2

茶々じいさんは、夕食時は爺やの膝へ来る。

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背後にゆめこが。

海に面した静岡県。刺身は定番のおつまみ。

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ラップはがし中

鼻が利かないから、刺身が売り切れて、明太子や漬物しかない日も乗るんですがね。

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指定席ですから

無事にありつけました。

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ガツガツ

がっつきすぎて、たまに吐きます(-_-;)
食べた後は休息。

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満足

ウェットフードの催促がうるさいのですが、年のせいか痩せています。(シルエットは太いですが、ごつごつ感あり)
病院に行けば何かしら悪いところが見つかりそうですが、行くだけでストレスだろうし、これはという症状が出ない限りは受診しないと思います。
何が正解なのかはわかりませんがね。元気は元気です。

| 日記 | 00:34 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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さくら、7か月

顔立ちはまだ幼い気がしますが、猫が近づくようになったということは、多少落ち着いたのかなと。

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少し前は、うっかりスリッパを放置するとよだれだらけにしていたし、靴もくわえてきたものですが。
あ、でも、昨日はトイレシーツを破いていたな。
最近はクマのぬいぐるみを振り回して分解しています。

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寒くなったら、もっと近寄ってくれるかもしれないねぇ。

はなこだって、最初は引かれていたけれど

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何コイツ感

冬が来ると寒がりの茶々丸が密着を許し

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セーターは爺や

暖かくなっても適度な距離を保ち

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いつしか「L」を作る仲に。

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ちなみに、寒さの魔法(ホットカーペットの威力)は、猫に効果絶大。

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気高いちこり様が、ゆめこと並ぶ図

今年も寒くなってまいりました。

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老けたなぁ

| 日記 | 00:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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三浦しをん   「まほろ駅前狂騒曲」(文春文庫)

  東京南西の近郊、まほろ市の駅前で便利屋を営んでいる多田、そこに居候をして多田の手伝いなのか足を引っ張っているのかわからない行天の名コンビが引き起こす騒動シリーズの完結編。

 今回の作品、行天と別れた妻三峯凪子の4歳の娘はるを便利屋で預かる。行天は虐げられていた子供時代がトラウマになり、子どもが大嫌い。しかもはるは行天の実子だ。

 更に新興宗教団体「声聞き教」を主体にできあがった無農薬野菜を生産販売する団体HHFA。
この野菜を市内学校給食に販売しようとする暴力団星。

 これに、横浜中央バスが間引き運転をしていると信じて疑わない岡老人が入り乱れる。

 HHFAの無農薬野菜が、星の依頼で多田、行天が調査すると、夜間に農薬をまいていることがわかる。無農薬野菜でないことが判明。
 HHFAはまほろ駅前で、朝収穫した野菜を、子どもを使い販売する活動をしている。無農薬野菜でないことを知った星は怒り、HHFAの駅前販売を阻止するために、多田に依頼して、販売場所で風俗の看板を持って邪魔をさせる。

 さらに、間引き運転をすると思っている岡老人が、箱根旅行と偽って集めた近所の老人たちをバスに乗せた瞬間に「横浜中央バスに抗議にゆく」と宣言してバスジャックをする。しかも、このバスに間違えて行天と娘のはる、それに、強制無農薬販売をさせられている子供祐弥が乗ってしまう。このバスがまほろ駅前にゆく。

 それでまほろ駅前で、多田、暴力団、HHFA、更に岡老人ひきいる抗議老人たち、そして行天、はる、裕弥がくんずほぐれつの大騒動となる。そして、襲われそうになったはるを守るために立ちはだかった行天の小指がHHFAの大木によって切り落とされてしまう。
 ここが物語の最大の場面。

 更に、行天が市民病院に連れていかれるが、病院を飛び出て、事務所に戻ると、多田と地元の食堂「キッチンまほろ」の女性社長亜沙子2人でいる。それで、居候の行天が事務所を去る。

 行天など仕事の邪魔をするだけで、いつも出て行った欲しいと思っていた多田が、行天のいない寂しさをしみじみ感じ、戻ってきてほしいと願うところもぐっとせまってくる。しかし、行天は失踪していたとき、亜沙子の食堂に身を隠していたことが、発覚する。このどんでん返しがたまらない。

 多田、行天はもちろんのこと。他の登場人物も実に個性的で生き生きと描かれる。本当に面白い。これで完結するのは実に惜しい。

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| 古本読書日記 | 06:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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柚月裕子    「孤狼の血」(角川文庫)

柚月は深作欣二が監督した「仁義なき戦い」に完全にノックアウトを食らい、魂を取り込まれた。それで、この作品を創り上げた。
しかし、この作品が女性作家により創り上げられたことに驚愕する。警察、暴力団を扱ったもの、或いはハードボイルド小説は、硬骨感たっぷりの男性作家が創り上げるものだが、そのあまたのハードボイルド作家の上を行く作品になっているからたいしたものだ。

 新米刑事の日岡は、暴力団を取り締まる捜査二課に配属され大上刑事の下につく。この大上、検挙人数、件数も他の刑事より圧倒的に多く、表彰もたくさんされているが、44歳になるにも係わらず、役職は主任。逮捕検挙数は多くても、暴力団と癒着して違法捜査を繰り返すからである。

 暴力団のフロント企業である金融会社の社員が失踪する事件をきっかけに、暴力団同士の戦いが勃発しようとする。大上は、抗争を勃発させないために仲裁にのりだす。一方の組の情報を武器にして、仲裁をしようとするが、大上は途中で失踪、殺人死体となって発見される。

 日岡は、しょっちゅう違法捜査、癒着の現場につきあわされ、辟易としている。

 大上は高校のころは不良学生だった。先生に就職をどうするかと聞かれやくざになると言う。
先生がバカタレと怒る。
「やくざというのは、利口でなれず、馬鹿でもなれず、中途半端じゃなおなれず、いうんがやくざの世界じゃ。おまえみたいな向こう見ずのやつは、殺されるか一生刑務所暮らしになるかどちらか。いっそ警察官になれ。」と言われ警官になった。

 しかし、次の大上の言葉は、一瞬そうだとうなずくが、よく考えるとそれはないなあと思う。
「世の中に暴力団はなくなりゃせんよ。人間は誰でも、飯くうたら糞をひる。ケツ拭く便所紙が必要なんよ。言うなりゃ、あれらは便所紙よ。」
「わしらの役目はのう、やくざが堅気に迷惑をかけんよう眼を光らせておることじゃ。あとはやりすぎた外道を潰すだけでええ。」

 暴力団は必要悪である時代は終わった。是非警察には潰してもらうことを望む。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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佐川光晴    「大きくなる日」(集英社文庫)

横山家の家族を中心として描く9編の連作短編集。

横山家は誰からも好かれ人気者である太二、4歳年上で優等生の姉弓子。看護師として働く母。それに会社の第一線で多忙な日々をおくる父の4人家族。物語は太二の卒園式から中学校卒業までの家族の日々を描いている。

 最後の部分、母が自分の人生についての想いが印象に残る。
「お父さんは自分の生き方に自信を持っている。弓子も太二もそんな父親につづこうとしている。それならわたしはどうなのだろう?わたしは、お父さんが転職したからフルタイムで働いているだけではないのか?
『そんなことはありません。わたしはわたしでがんばっているんです。』
強がってみても、自分が夫や子供たちに比べてみおとりがするようで、仁美は深夜のナースステーションでため息をついた。

 日々、何かが当たり前のようにして起こる。横山家も例外ではない。
父親が部長の職を捨てて、突然豆腐屋になってしまう。姉も中学のとき家出をする。サッカー部のエースの退部問題。受験での母親間の軋轢・・・。

 それでも、起こった問題を避けずに、家族が前向きに立ち向かう。それを母親仁美が支える。そして、みんなが一歩ずつ成長してゆく。お母さんそんなふうに思うことはないよ。

 簡単にみえるが、母親の想いをさらりと表現できる佐川に感動する。

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| 古本読書日記 | 05:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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中西進    「日本人の忘れもの2」(ウェッジ文庫)

平凡で、大衆の間に広く普及しているものは、どうも良い言葉では使われない。ごまが典型。
「ごまをする」とか「ごまかす」とか。
「ゴマ塩頭」というのもどこか馬鹿にした言葉だ。

「ごまかす」は江戸時代に胡麻菓子というお菓子があった。この菓子、胡麻と小麦粉で作るのだが別名胡麻胴乱といって、中が空っぽ。それで、人をだますことを「ごまかす」ということになったそうだ。

 「かす」といのは、その状態にするという意味。茶にしたり、冷たくしたり、はぐってみたり、ちょろちょろしてみたり。それらが「茶かす」「冷やかす」「はぐらかす」「ちょろまかす」という言葉になる。いずれも、悪いことをさす言葉になる。

 思い出してみると、私たちが日常使用している調味料味噌もろくな使われ方をしない。
「みそっかす」「みそもくそもいっしょ」
あまりにも平凡で当たり前な言葉だ。しかし言葉にだしてみると、何となく庶民の愛情を感じる。

 ごまもみそもあっぱれ、みごとな普及ぶりをあらわしている。

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| 古本読書日記 | 05:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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木田元    「哲学散歩」(文春文庫)

私たちは、紀元前200年、今から2300年以上も前に書かれたアリストテレスの講義録を読むことができる。

1450年にグーテンベルグが活版印刷を発明、1455年にその印刷技術を使って、初めて「グーテンベルグ聖書」が製本出版される。それが行われるまで長い間書き写しか木版印刷で文献は受け継がれてきた。

古代ギリシャ、ローマ時代では文献が書き写されたのはパピルス紙だった。パピルスはエジプトのナイル川流域に生育するカリツユクサ科の水草で、茎は高さ2メートルにも達し、葉はすべて無葉身の鞘に退化して茎の根元にある。その茎の皮を剥いで白い髄を細かく裂き、その維管束を縦横に並べて重しをかけて乾燥し、さらにこすって滑らかにしたのがパピルス紙であり、エジプトの特産品だった。大きさはさまざまだが、A4くらいの葉を繋ぎ合わせ10M以上の長さのものもあった。

 筆記具は葦ペンと油で燃やした煤でつくったインクである。書き終えたものは掛け軸のように丸めて保管され、一巻、二巻と呼ばれていた。

 アルキメデスは大文字だけを使い、単語の間にスペースをおいたりせず、句読点を一切使わなかった。中世の写生士たちが小文字を使用し、解読がだいぶしやすくなったそうだ。

 それだけでも大変なことだったのだが、更にこの文献は悠久の歴史を、写生士の情熱により戦禍のなか、守られ継がれてきた。

 古代ギリシャからローマへビザンティンへ、そしてシリア、アラビア、中央アジア、北アフリカ北岸をぐるっとまわり、ジブラルタル海峡をへてスペインにわたり、そしてピレネー山脈を超えたり、シチリア島を経由したりして西欧世界に運ばれたのである。

 その間およそ1500年間。数えられないくらい手書きが繰り返され、ギリシャ語から、シリア語、アラム語、アラビア語。ラテン語に訳されながら写されてきたのである。

 アリストテレスのみならず、プラトン、ソクラテスの文献に接すると悠久の時間、空間と脈々と継いできた人間の歴史に感慨を抱かざるをえない。

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宮脇俊三      「室町戦国紀行」(講談社文庫)

室町幕府ができあがるまでは、紆余曲折があった。

鎌倉幕府を崩壊に追い込んだのは新田義貞だった。そして、崩壊後は室町幕府が即誕生したのではなく、後醍醐天皇による日本統治が続いた。

崩壊2年後、鎌倉幕府の末裔、北条時行は諏訪大社に隠遁いていたが、出兵し、鎌倉奪還を目指す。この時、鎌倉を治めていたのが足利尊氏の弟直義。時行と闘ったが敗れ、鎌倉は再度北条家に奪取される。

 後醍醐天皇により、鎌倉へ派遣された尊氏は、直義とともに北条時行と闘い、鎌倉を奪還した。この時尊氏は一緒に戦った武将に論功行賞をした。これが後醍醐天皇の逆鱗に触れる。
論功行賞は統治者である天皇が行うと。

 元来尊氏と後醍醐天皇の間には大きな溝があったのだろうが、このことが完全分裂の引きがねとなる。尊氏は京に攻め上げる。後醍醐天皇は比叡山に逃げる。

 これで尊氏の天下がやってきたのかと思うとそうではない。奥羽鎮守していた北畠顕家が後醍醐天皇の命により京に攻めあがる。これに新田義貞、楠木正成が加勢する。何回かの戦いを経て、尊氏は敗れ西へと逃走。北九州まで逃げのびる。

 ここから尊氏は各武士団に対し、天皇により没収された所領を自分の軍に入れば回復させると宣言し、多くの武士団を味方に引き入れる。
 そして尊氏、直義の逆襲が始まる。このとき、後醍醐天皇側近の楠木正成は、尊氏は天皇に謀反を働く考えは無いから、和議を結ぶべきと進言したが、受け入れられず、天皇の命により負けることは明白だったが西に向かう。

 「太平記」では足利軍50万に対し楠木は7百。これは大げさとは思うが、多勢に無勢であったことは間違いない。
 両者は湊川で戦う。楠木は大いに善戦し、一時直義軍を敗走させるところまでゆく。しかし、兵力の差はいかんともしがたく、最後は自害して果てる。これにより、ようやく室町幕府が成立するのである。

 小学校のころ、二宮金次郎と並んで楠木正成の像がある学校があった。戦前の皇国史観のもと、天皇に忠誠をつくし、負け戦とわかっていても天皇のため戦場に赴き戦ったということで、「忠臣の鏡」「日本人の鏡」と修身の教科書にも載り崇められたからだ。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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宮脇俊三    「古代史紀行」(講談社文庫)

第5代武烈天皇は日本書紀によれば、残虐な天皇だったらしい。

・妊婦の腹を裂いて胎児をみる。
・人の生爪を抜いて芋を掘らす
・人を木に登らして、弓で射落として笑う。
・女を裸にして、馬の交接を見せ、それで陰部が濡れた者は殺し、濡れぬ者は官稗にする。

仮にも、日本を統治する天皇について書いてある日本書紀。こんなことを書いて許されるはずはない。
 こんなことを書けたということは、完全に大きな争いののち、政変が起きたのである。

普通の歴史書ならば、北国から進出してきた男、大ト(トの漢字がPCではない)が武烈を滅ぼして政権の座に就き、継体天皇となったと書かれるところだが、天孫降臨いらいの皇統を連綿とつながねばならない古事記、日本書紀の著者は、そうはいかない。血統をなんとかして継がねばならない。

 だから「古事記」では
「武烈天皇には皇子が無かったので、応神天皇の5世の孫のキホド命(継体天皇)を淡海(近江)の国から招いた。」となる。

 天明4年(1784年)2月3日、田の溝を改修していた百姓甚兵衛が「漢委奴国王」の金印を掘り出した。この甚兵衛、真面目な人で、その金印を自分の物にせず郡代役所に差し出した。その結果大きな謝礼金を手にした。

 そこから甚兵衛、遊蕩三昧。一気に貧乏人に戻り、行方がわからなくなる。
こんなことが書かれている宮脇の紀行記。面白かった。

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| 古本読書日記 | 06:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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