星野道夫 「森と氷河と鯨」(文春文庫)
人間はその生き方で2つに分かれる。
「目にみえるものに価値をおく」か「目にみえないものに価値をおくか。」ほとんどの人は「目に見えるものに価値をおき」生きるが、星野はごく少数派の「目にみえないものに価値をおいて」生きる。
20世紀になって、欧米の強国は、世界中の美術品の強奪、収集にのりだす。星野と先住民族ハイダ族のボブがやってきたアラスカに近い島、クィーンシャーロット島も例外ではなかった。つぎつぎに持ち去られる人類史で重要なトーテムポール。これに対し、住民は立ち上がり、持ち去ることを拒否した。しかし、欧米人は言う。
「こんなところに放っておくとやがて朽ち果てトーテムポールは失われる」と。
ボブが言う。
「その土地に深く関わった霊的なものを、彼らは無意味な場所に持ち去ってまでして、何故保存しようとするのか。いつの日かトーテムポールが朽ち果て、そこに森が押し寄せてきて、すべてのものが自然の中に消えてしまってもいいのだ。そして、そこはいつまでも聖なる場所になるのだ。なぜそこがわからないのか。」
目に見えないものでも、目に見えないことに価値をおけば、それは長い連なる子孫をこえてずっと見えるものなのだ。
薬草をとりにゆくドゥの言葉も胸に響く。
「薬草を採りに行く朝は水だけを飲むんだ。そして自分自身も植物と同じレベルにもってゆく。だから心の中で植物に話かけることも大切だ。そうやって心も身体も植物のレベルになって森の中に入ってゆくと、自分が薬草を見つけるのではなくて、薬草に導かれながらいつの間にかその前に立っている。植物も人間と同じように魂を持っているから・・・。」
素晴らしい先住民族の酋長の言葉を最後に記す。
「物語とは矢のようなものだ。もし、おまえが正しく考えたり行動をしなければ、誰かがおまえの心を物語で射抜くだろう。」
そんな素晴らしい物語にいつか出会いたい。
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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑