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2016年12月 | ARCHIVE-SELECT | 2017年02月

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三谷幸喜     「清須会議」(幻冬舎文庫)

 信長が明智光秀に殺され、その信長とだけでなく長男信忠も殺害される。それで、信長無き後の織田家の後継問題と領地配分をどうするかの話し合いが行われたのが清須城で、清須会議と言われている。

 信長の宿老4人が集まる。柴田勝家、丹羽長秀、羽柴秀吉、池田恒興の4人。もう一人の滝川一益は関東へ出兵中で参加できなかったとされるが、この小説では秀吉の腹心、黒田官兵衛が、間に合って清須にはやってきた滝川を、別室で匿い、会議に出席をできないようにしたと書かれている。

 ここで、対立していたのが、勝家と秀吉。そして、信長の後継候補に勝家は信長の3男信孝を、秀吉は次男信雄をかつぐ。信孝は、文武に優れ、人望も厚く、多くの戦いの勝利を得ている。これに対し信雄はいわゆる「うつけ者」と言われ、ひ弱で頭もよわく、全く人望も無い。

 秀吉は、これを挽回、評判をひっくりかえすため、信孝と信雄の軍にわかれイノシシ狩りをさせ、勇敢にイノシシをしとめた方が武勇に優れ後継者にふさわしい者とするように仕向けた。そして、図って、イノシシが信雄にむかってくるようにし、その後ろに秀吉が控え、矢の放ちどきを指示するようにした。ところが、信雄はせまってくるイノシシに驚愕し、そのまま失神してしまう。これで、信雄の評判は地に落ち、勝家が後ろ盾になっている信孝が後継者になることが間違いないと思われた。

 しかし、清須会議本番で、秀吉はとんでもない隠し玉を放つ。何と後継候補に信長直系の孫三法師を推挙したのである。このとき、三法師はまだ3歳。無理ではないかという反対に対し、自分も含め、5宿老が三法師を支えてゆけば何も問題ないと言い切る。

 直系の人間を後継にするということには、他の宿老が完全に反対できず、秀吉の隠し玉が通ってしまう。これで、勝家と秀吉の力関係は逆転。

 翌年賤ケ岳の戦いで、勝家を秀吉が駆逐し、天下とりにまい進する。

 三法師後継は、秀吉ではなく黒田官兵衛の作戦。大将軍の影に名参謀がいる。

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星野源    「そして生活はつづく」(文春文庫)

 今をときめきのりにのっているマルチタレント、音楽家作曲もすればバンドを組んで演奏もする。それから、俳優。そして、小説やエッセイもものにする文筆家。

 九九が七の段になると、まったくわからなくなる。

 吾輩はばかであると自認する。

 スーパーで買い物して、レジ袋に品物を移し替えることを忘れて、そのままスーパーのかごに品物をいれたまま持ち帰る。
 カップヌードルの作り方を知らないので、カップ麺に水をいれあつあつのストーブの上にのせ、大量のダイオキシンと煙を発生させる。

 お腹が小さいころから少し弱い。それでうんちが我慢できずに失敗した話が多い。

 運動靴にはきかえようとしていた時に、お腹が急に緩みうんちをがん我慢できなくなる。白い体操着からずるずるうんちがでてくる。処理に困って手で拾い上げ、壁にに向かって投げつける。それが、ナイキのマークになる。

 中学校のとき、学校へいくのがいやになり、そのまま家はでるが、途中でわざとズボンの中にうんこをだし、「もらした」とそのまま家に帰りそのまま学校を休む。

 うんこの失敗は、中学校くらいまでかと思ったら、全編裸で出演する舞台劇のけいこの最中、おなかがゆるんで、トイレに駆け込む。便器のふたを上げるのが間に合わず、そのままフタの上にうんちをしてしまう。

 お腹の弱いこともうんち事件の原因になっているかもしれないが、家の掃除で興が乗ってくると、風呂の掃除は全裸でする。そしてそのまま全裸ですごす。そんなことも原因のように思う。お腹をもう少しいたわったほうがよいのでは。

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| 古本読書日記 | 09:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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コンスタン    「アドルフ」(岩波文庫)

 作者コンスタンは1767年スイス人の父とフランス人の母の間に生まれている。この作品はたくさんの夫人たちとあいびきを繰り返したコンスタンの人生を反映した物語だ。

 主人公のアドルフは、P**伯爵の妻エレノールに恋する。懸命にくどき、最後にはエレノールを手にいれる。普通小説はこのような過程を描いて終わりになるのだが、この小説は、伯爵夫人を奪ってから以降の愛の苦悩が物語となっている。

 しかし、男というものは、全くどの時代にあってもだめなものだと感じた。
エレノールは、伯爵夫人の地位をなげうって、アドルフに身も心も投げ出したのである。

 ところがアドルフは地位や家系に綿々として、エレノールは受け入れられないのである。しかしエレノールを失いたくないという思いも強く、エレノールについてポーランドまで行く。

 この優柔不断ぶりに男というのは理屈をつけるのである。
「俺はエレノールを愛してはいないが、俺がエレノールを見捨てたら、エレノールは生きてゆくことができなくなる。今俺がエレノールを捨てないのは、愛ではなく、慈悲であり同情である。」と。

 しかしアドルフはわかっていないんだなあ。

 この話ではエレノールは死んでしまうが、だいたい、こんな場合、2人が別れても女性はたくましく生き抜くのだが、男はその途端ドロップアウトをして、じくじく嘆きながら人生を送ることになる。

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多島斗志之 「症例A」 (幻冬舎文庫)

 世でいう多重人格、解離性同一性障害を扱っている。多重人格といえば、世の中にサイコホラーの定番として、小説は溢れかえっている。しかし、この小説は全くサイコホラーとは別物で、真摯に精神医療現場での精神科医や患者たちの病気との闘いを扱っている。

 主人公の精神科医榊は、17歳の少女 亜沙美を担当することになった。精神分裂症と前の担当医が判断して治療をしたが、症状の改善が見られず、榊は「境界例」ではないかと疑い治療を施す。しかし、彼の補佐していた女性臨床心理士の広瀬由紀が、「解離性同一性障害」ではと指摘し、榊と対立する。

 「解離性同一性障害」はアメリカで発見され、アメリカではたくさんの症例が発表されているが、日本では全くみたこともない症例であった。したがって、アメリカの症例が間違っているのではないかというのが日本精神医学界の常識であった。
 だから、広瀬由紀と榊は対立したのである。

 広瀬は、「境界例」として亜沙美を治療する前に、榊に岐戸という広瀬の恩師に会ってほしいと強引に榊を岐戸のところに連れて行く。

 そこでは、驚いたことに広瀬がミクと言う5歳の女の子になってぬいぐるみと無邪気に遊んでいた。その後真由美という引っ込み思案で、恥ずかしがり屋になる。その他にも性的にルーズなナツ子。乱暴でちょっとしたことですぐ暴れる真緒。更に周という男の子まで広瀬由紀のなかには存在していた。

 そして当たり前なのだが、他人が表出しているとき起こしたり起きた記憶は全く無い。だからある期間の記憶がスポっと消えるのである。
 この複数のいろんな独立した個性を一つの人間に収斂させていくのが岐戸の治療である。

 面白いと思ったのは岐戸を挟んで、誰に収斂すべきか、それぞれの個性を交えて会議をする場面。みんなでその場で議論して由紀に収斂していこうと決まるところ。

 由紀の中に由紀をいれて6人が存在していて、それぞれが6人存在していることを知っているのだ。

 この由紀の体当たりのカミングアウトにより、榊は亜沙美を「解離性同一性障害」として治療を行う。
 このカミングアウトの場面は迫力があった。

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浅田次郎     「黒書院の六兵衛」(下)(文春文庫)

 相変わらず、下巻でも城内西の院にすっくと背筋を伸ばして居座る的矢六兵衛。入城したころは「宿直部屋」次が「虎の間」そして「大広間帳台構え」それから「帝鑑の間」次は「大廊下上之御部屋」最後は「溜間」どんどん出世していくのである。

 その出世のすごさと、西郷や勝海舟が決して六兵衛には手をだしてはならぬという下命があり、一体彼の正体は誰なのかということがやはり下巻でも主テーマになっている。

 まずは、彼は城を明け渡した徳川最後の将軍、徳川慶喜ではないかと主人公加倉井隼人は女房、女中のひらめきを信じ思う。

 面白いのは、側近や大名やその家来が、将軍とお目通しができる際には、ひれ伏し顔をあげてはならないのが基本。それで、将軍の顔を知っているのが極めて少ない。それで、こんな想像が成り立つのである。

 次は、英国の間諜ではないかということ。六兵衛は、ともかく何も喋らない。それは喋らないのではなく、日本語が喋れないのだ。お膳をだしても、刺し身など火が通っていないものは決して手をつけない。もし、六兵衛に手をつけ傷でもできれば、それを口実に日本征服を虎視眈々と狙っている、西洋大国が攻めてくる。それを西郷や勝はおそれているのだという説。

 江戸から明治へ。上野の彰義隊をはじめ、会津、奥州では戦いが繰り返され騒然としている中、江戸城に居座って微動だにしない六兵衛。

 浅田は、徳川の時代260年間、日本以外の国では、頻繁に戦争がおき、たくさんの犠牲者がでたが、この260年間日本では戦争が無かった。世界からみれば奇跡である。

 これがどうして成しえたか。それは、武士の武士道精神を貫いた姿勢にあったとこの物語で言おうとしている。それは、人の道にはずれたことをしたとき、武士だけが自死することが認められているということである。その決意と覚悟で、事にあたることが武士には求められているのである。

 六兵衛は、実在の人ではなく、武士道を体現している人間として、浅田が創り上げた人間なのである。

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浅田次郎   「黒書院の六兵衛」(上)(文春文庫)

 全体の感想は下巻読了時で書く。

 江戸城を官軍に明け渡す準備のため、先遣隊として尾張徳川家・徒組頭として派遣された主人公の加倉井隼人。勝安房守に連れられた宿直部屋でみたのは、背をすっくと伸ばし居座る御書院番士、的矢六兵衛。

 この六兵衛、おかしなことだが、六兵衛は小柄で、武術もできず、風采のあがらない武士だったが、ある日から、全く同じ名前を名乗り、大柄で、武術、武士道にも優れ、立派な面容を持った武士に代わってしまう。

 的矢家、御書院勤めの威厳を保つため、借財を重ね、ニッチもサッチもならなくなったとき、大阪の高利貸、淀屋辰平につけこまれ、的矢家の株を売ることで、借財をなくすことにする。金額はわからないが、そこいらの徒士の株と違い膨大な金額がいる。それを、買う人間がでてきたのである。これが、身代わりの的矢六兵衛である。

 この六兵衛が、西郷隆盛の命令により、天皇が江戸城へ入城する前に、一切の血を城で流してはならないとされ、もしもの場合を考慮して、居座り六兵衛に加倉井をはじめ手をだせない。

 そうはいっても、たかだか男一人、何人かでかかって城から引きずりだすことは作品を読んでいて、難しくないと思うし、もし天皇が入城したときに、六兵衛が狼藉を働いたら、そちらのほうが大事になるはず、何故引きずりださないのだろうと奇妙に感じる。

 これは、余程身代わり六兵衛は、重要な人なのだろうと思いながら下巻を手にとる。

 手を変え、品を変え、六兵衛の正体に迫ろうとするのが前半。それゆえ話は堂々巡りで一向に前進しない。とてつもなく、時間は短く、話は長くかなり辟易とする。

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中場利一    「雨の背中」(光文社文庫)

 最近のヤクザは、縄張りをもって、そこの島にある、種々の店のガードをするという名目で所場代を巻き上げることを資金源にするという従来の形態から変わった。従来の形態だと、実入りを大きくするには、縄張りを拡大することがすべて。だから、しばしば暴力団同士の抗争が起きた。

 しかし今は、麻薬取引介在は行ってはいるだろうが、主の資金源は金融や、不動産投資などの経済ヤクザに変身。あるいは、週刊文春に似ているが、企業や、政治家、有名人のスキャンダルをかぎつけ、それを強請りの材料にして資金源を確保している。

 だから今では、ヤクザ同士が殺し合いをするということはあまり起きなくなった。

 この物語は、家族との折り合いが悪く、舞台女優になることを目指して田舎から上京。しかし全く目が出ず、落ちぶれバイトで糊口をしのいでいる29歳の鏡子と、古いタイプ、ヒットマンとして名を成し、暴力団の地位を得ようとしている八代が恋をするところからスタートする。八代は古いタイプ故に、経済やくざである暴力団から破門されていた。

 中場は、初期の作品では、多分自らの経験をかなり反映させて書いていたので、人間関係や、会話、行動が実に生き生きとしていて読んでいて興奮した。

 この作品は、かなり頭で想像しながら書き込んでいるように感じた。それに、あまり古いタイプのやくざは今はいないので、後半になるまで、かなりぎこちなく、現実離れをしている印象が強かった。

 鏡子が身ごもったため、ヒットマンを引き受け、それにより暴力団に戻り、安定した地位を得ようとする。このあたりが、古臭いという印象が強い。

 ギクシャクで硬い感じの小説が続くが、最後は人情恋模様となり、そこは硬さが無くなり、中場の本領が発揮されている。

 この作品で知ったが、以前はパチンコ屋から所場代を巻き上げていたが、直接それをすると警察につかまる。今は、パチンコ屋から朝、玉の出る台を聞き、アルバイトを雇いさくらでその台でうたせ、稼いだ金をまきあげるという方法をとっている。

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宮下奈都    「たった、それだけ」(双葉文庫)

 物語は、海外営業部長である望月が、海外の市場拡大のために、賄賂を贈り、それが愛人より告発され、失踪、逃亡するとこらから始まる。よくわからないのだが、告発した愛人が「逃げ切って」という切なる思いを望月に告げる。

 この物語は、「逃げる」という言葉がテーマになっている。
「逃げる」という言葉はイメージからすると否定的な印象を受ける。しかし、やりきれないどうしようもない状況で、我慢する人もいるが、そこから「逃げる」ということは、「飛び出る」「脱出する」という強く明るい面をが「逃げる」にはある。

 望月の娘ルイ。父が失踪して、しかも犯罪者であることが、報道され、ワイドショーでも騒がれとても今の場所では住めなくなり、やたら引っ越しを繰り返す。

 その都度、娘ルイは、学校でいじめられ、最後には、犯罪人の娘ということがばれ、とても耐えられない環境に落とされる。

 大橋は、高校生のとき、万引き、かつあげと悪いことは全部やりきった。勉強などまったくだめ。こんなことを続けていてはいけないとあるとき思い、ここから「逃げる」ために、高校を中退。そして、介護施設で働きだす。最初は使い者にならない状態だったが、益田さんという介護士の暖かい励ましと指導に導かれ仕事に対し自信生まれてきている。

 そんな時にあの暗くだめな女性と思っていたルイと一緒に歩いていた同級生の黒田に会う。絶対笑うことなかったルイが笑う。そのときの宮下さんの表現が素晴らしい。
 「コツン、と頭蓋骨の内側に小石のあたる音がした。誰だっけ。こんなふうに笑う人。端整な顔。どこで見たんだっけ。ぼんやりと像が渦巻くだけで、焦点があわない。コツン。」

 逃げて変わったルイが、ぼやけたなかからだんだんはっきりした姿になって現れてくる。

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三遊亭圓生    「浮世に言い忘れたこと」(小学館文庫)

 昭和の大名人落語家6代目三遊亭圓生が、芸に対する心構えや、落語の歴史、寄席への想いを綴った随筆集。

 落語の起源は「宇治拾遺物語」にあるらしい。そして、落語が発祥したのは戦国時代。

 ほうぼうで戦さがはじまるその時代から噺家というものができた。
 当時陣中で長い間対陣していると、退屈でならない。テレビがあるわけでもない。本などは高価で買えない。そこで、みんなの娯楽にと、長い物語をおぼえさせて、それを喋らせ退屈をしのぐ。この喋り専門の人が登場した。御伽衆と言われていた。

 天正時代、安楽庵策伝というお坊さんがいて、この人はお伽衆の名人として、秀吉に寵愛された。落語家として名が残っている最初の人だ。更に、この人は「醒睡笑」という小咄集もだしている。

 落語家でもっとも難しいのは「膝がわり」だ。「膝がわり」というのは、最後のトリ、真打登場の前に演ずる落語のことをいう。
 下手に演じて、寄席の雰囲気をダメにしてはいけないし、さりとて、名人を凌ぐような大きな落語をして、後の真打が演じにくくするのもいけない。

 徐々に寄席の雰囲気を盛り上げて、8分目くらい盛り上がったところで、さっと舞台を引いて、「真打待ってました」と声がかかるような、雰囲気を作らねばならない。

 こんなことを知って、寄席に行き、トリの前の落語家がどんな演じ方をするか観るのも興味深い。

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北上次郎選   「海を渡った日本人」(福武文庫)

 本を読む人にとっては常識なのかもしれないが、この本の選者である、名書評家の北上次郎は、かの椎名誠と一緒に「本の雑誌」を創った目黒孝二だと知り驚いた。同時に成程それはよくわかると感心もした。

 この本は、全員がそうでもないが、戦国の世から、明治までの海外に行くことが殆ど無かった時代に、意志のあるなしに関わらず、海外に渡ってしまい、その後日本には帰れなかった人々を描いた作品を北上が集めて編集している。

 多くの内容は、いろんな作品で知っていて知識としてあった。

 その中で、吉國恒雄という人の書いた「アフリカに渡った日本人」というのが印象に残った。ゴミになったような歴史本、古文書を漁り読むのが大好きな吉國は、そのときはアフリカ ジンバブエの首都ハラレでゴミ回収(古文書を調べることの俗言)にあたっていた。

 その古文書人口調査の本に明治30年にこのハラレに日本人がいたという記述に突き当たる。

 インド人園芸師トンプソンの下に、フクイ26歳、男、独身 園芸師 日本人。トンプソン夫人27歳、無職、日本人、ハタケヤマ29歳、男、園芸師 大阪生まれ、オサヨ24歳、女、無職、長崎生まれ。

 明治30年と言えば、ジンバブエに白人が入植してまだ7年しかたっていない。首都といっても人口は白人719名、アジア人49名、アフリカ人1284名が全人口である。

 明治の変動期、海外に職を求めて、移住した人たちがジンバブエまで流れ着いたというのは驚きである。とはいえ、当時南アフリカには日本人娼婦を含め、数十人の日本人がすでにいたそうだ。

 日本人が初めてアフリカに渡ったのは、1593年安土桃山時代、ポルトガル船サント・アルベルト号が3月航海中、モザンビーク海峡を航行後、船に穴があき浸水沈没。この時奴隷160名の中の生存者に一人の日本人がいて、アフリカの地を踏んだのだそうだ。しかも、この人は、次の船に乗ることは許されず、モザンビークに置き去りにされたそうだ。

 確か、この時代は、宣教師を筆頭に、西洋人がたくさん日本に入ってきた時代。その西洋人が奴隷としてアフリカ黒人を連れてきた。結構たくさん黒人が日本にはいた。秀吉のおつきにも黒人がいたことをどこかで読んだ。アフリカは遠い国ではなかったのかもしれない。

 この本の別の項に、明治30年には今のタンザニアに日本女性4人がいて、ジャパニーズバーをやっていたという記載があった。

 海外への渡航は、まず女性があって、その後商社員、船員、そしてメーカーの人間という順序になっているのかと思った。

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原宏一     「握る男」(角川文庫)

 原の作品は、最初に独創的なひらめきがどかんときて、そこからは尻つぼみという作品が多かったが、この作品はちゃんとした構想があって、最後も決めて、息をぬくことがなく書ききった原の作風が変化したと感じた作品だった。

 しかし、やっぱし原だ。昭和56年、両国にあったすし屋「つかさ鮨」に入った16歳の少年徳永光一郎が親方を蹴散らし、先輩の寿司職人を破滅に追い込み、兄弟子である主人公金森を配下にして徹底利用し、日本一のすし屋どころか外食産業を牛耳るまでにのしあがってゆく姿は迫力満点。

 漁業者、農産物生産者を組織して既存の流通形態を否定破壊して、直接仕入れを行い、仲介業者、農協に立ち向かってゆくところ。

 「鮨ゲソ」チェーン展開で、これというネタは3品あれば、ブラシーボ効果で、お客は掴めるという3割打法の確立。

 そのチェーンが大きくなったところで、大卒を大量に採用する。大学というのは個性を無くして、従順な均質人間を創り上げている。だから、命令に逆らわず、働かすにはこれほど使いやすい人間はいない。

 流行を先取りする女性を雇って、さくらとして店に行列をつくらせる。

 バブル期、その機運に乗っかり、大儲けして、そしてバブルが終了して、奈落の底におちた人がたくさんいたが、徳永も、うまくバブルに乗った人間だったんだとこの物語で思った。

 ここらあたりまでは、本当に面白かったが、この後が、急に話が現実から飛躍しすぎてついていけなくなる。

 日本の飲食店の7割も傘下に収めるとか、徳永が祈祷師のような怪物を側近におき、彼のご宣託しか耳を傾けなるというところは、どうにもよくない。

 そんなところもあるが、物語は本当に面白かった。 

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山崎マキコ   「声だけが耳に残る」(幻冬舎文庫)

 アダルト チルドレンにより精神を病んでいる主人公マゾ女加奈子と、同じ病で悩んでいるマゾ男ケイと、ぶつかりながら、よりかかりあうような恋愛を描く。もう少しで綾瀬市であった女子高生コンクリート詰め殺人事件の悲劇になりそうなところを、何とかそこまではならず、加奈子が頑張って人生の底から這いだし、留置場に入ってしまったケイと再生の道を歩もうと決意するまでの物語。

 その綾瀬の事件を新聞紙の記事のように、山崎さんが綴った文章がすごい。是非はともかくここまで表現する山崎さんの決意に尊敬の念を覚える。

【東京足立区綾瀬女子高生コンクリート詰め殺人事件】
1989年、バイト帰りの女子高生が襲われ41日間監禁され役00人くらいに強姦、朝から晩まで凌辱。ヤクザ顔負けのリンチで、天井にも血が飛び散ってた。犯人は後に何回殴ったかわからないと言っている。極寒の真冬に裸でベランダに出され、膣の3センチの鉄の棒を何度も強引に突っ込み、性器や尻穴を破壊。膣をたばこの灰皿代わりに。膣にライターを入れられ、点火し火あぶり。鉄アレイを顔面や身体に投げ落とされ、顔に熱いろうそくをたらされ、陰毛をそり、ライターで手足を焼き全身にオイルをかけ点火し火だるまに。肛門に瓶を挿入、蹴る、無理やり立たせ、2人で左右から肩や顔に回し蹴りを数十発、大量の精液、尿、牛乳、酒等を強引に飲まされた。シンナーを吸わされ、父親は死んだと惑わし鉄球付き鉄棒で顔面や身体を数十回殴打、火あぶり。女の子の悲鳴はとても人間のものだと思えなかった。このことを知ってた人は100人以上いるが、誰も通報しない。そして最後の日は2時間にもおよぶリンチ後、絶命した。遺体は血だらけ、髪の毛はほとんど残っておらず、脳は溶けていた。顔面は陥没変形がひどく、頬は鼻の多寡さまで腫れており目の位置がわからないほど。全身や手足は多数のヤケド、膿み、殴打による損傷の跡。性器はヤケド、損傷等のひどい状態。陰部にはオロナミンC2本、入っていた。被害者は殺害される前あまりの暴行に耐え兼ね、助けてではなく、殺して!と哀願してた。ちなみに犯人は主犯以外出所していた。

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西加奈子     「舞台」(講談社文庫)

 太宰の「人間失格」を読んで、主人公のナルシストぶりを自分に重ね合わせそっくりと感じた主人公。大学を卒業して、職を転々、作家である父親の遺産で暮らしていた。そして、太宰と同じような自虐私小説を書く「小紋扇子」の新作「舞台」をニューヨークのセントラルパークのシープ メドウで寝転んで読むだけのために主人公はニューヨークに出かける。

 それでニューヨーク初日、そこらの普通人とは違うとナルシストぶりを発揮して、シープ メドウに到着して、さあ「舞台」を読むぞと寝転んだところで、持っていたバッグを奪取されてしまう。バッグには財布、カード、パスポートなど重要なものが入っていた。

 普通は青ざめ、大慌てになるのだが、自分はそこらの一般人とは違うと。日本に帰ったら、無一文のニューヨークがいかに大変だったか自慢し、皆から賞賛される自分を妄想し、ゆったりとニューヨークを闊歩しようと考える。

 90セント、1ドルのピザを食べながら、毎日のようにニューヨークを歩く。最初は、大変だけど楽しんでやるという気分で過ごしたが、さすがに手持ちのお金が4ドルとなるころから、気分に変調をきたしだした。

 ものすごく英雄気取りに気持ちが昂るその次の瞬間、もうこのまま死んでしまうのではとどん底のような気持ちに落ち込む。そのうちにゴミ箱をあさり、ピザの食べ残しは無いか探し出す。

 そして、夢か現実かわからなくなったブレックファストを食べたところで、次の瞬間領事館で叱られている自分がいた。

 大嫌いだった父親のお金に助けられ、どうしようもなく頼りない母親とその知り合いのニューヨーク知り合いの金井さんに全部の手続きをしてもらい、飛行機に乗り成田に向かっている。

 俺はあんなやつらとは違うと卑下していた人たちに助けられないと、何もできない自分だった。武勇伝を自慢するつもりの友達も、帰国してみたら誰もいなかった。

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多島斗志之    「クリスマス黙示録」(双葉文庫)

 天海由希が女優になって初めて映画化された、この作品で主演をしたという作品。クライムサスペンスである。

 FBI捜査官であるタミは、上司オマリーよりワシントンDCに出張命令を受ける。カオリ・オザキという日本人を警護するためだ。

 カオリは女友達と一緒に空港近くを通りがかった。そこに少年たちのグループがいた。ちょうどその日は日本が真珠湾攻撃をした日に近く、日本人に対する嫌悪感がアメリカに広がっていた。少年たちは、女性2人が日本人と知り、カオリの車の進路を妨害しはじめた。そのとき、カオリが運転を誤って、一人の少年をひき殺してしまった。

 検察は、事故を引き起こしたのは少年たちグループの挑発にあるとして、カオリを不起訴とした。

 これに、死んだ少年ティムの母親ザヴィエツキーが怒った。更に世論もにっくき日本人を不起訴にしたということで警察、検察に怒りが沸騰した。

 サヴィエツキーは愛する息子の復讐を誓う。それで、カオリの身辺が危険ということでタミに警護の指示がだされたのだ。

 ザヴィエツキーは射撃名人の警察官だった。ライフルを手にしつこくカオリとタミを狙う。これにザヴィエツキーを応援し、狂った人殺しに歓喜を覚える警察官が加わり、次々事故の関連者を射殺。最後には、カオリを迎えに日本から来たカオリの父親まで飛行場で射殺。

 カオリを不起訴にした検察の措置が面白くないという人間が、FBIの中にいる。それもタミの上司である課長。その課長がザヴィエルツキーにカオリの居所を裏で教えている。

 上司に裏切られ、追いつめられたカオリとタミは、アパラチア山脈の山荘に幽閉され、そこで追いつめてきたザヴィエルツキーと孤独の戦いをする。そこは、なかなか迫力があった。

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山崎マキコ    「ためらいもイエス」(文春文庫)

 今まで異性との関係がなく、自分は異性に持てないと決めつけていた人でも、仕事で自信をつけ上昇運をつかむと、一気に複数の異性を引き付けるときがある。そういうときは、熱を発散し、自信に満ちたオーラを周りに発散させているからだ。

 この作品の主人公奈津美は台湾の大手情報産業会社と提携しているベンチャー企業に勤める29歳に社員。特許関係の文書を英訳したり、和訳をする仕事に従事している。

 そして、仕事が評価されて、課長に取り立てられる話がきている。

 奈津美は自分自身を、引っ込み思案で、他人との交わりが上手くできない人間とずっと思ってきた。だから、友達も会社に一人のみで、これまで恋の経験が無い。

 しかし、彼女はわかっていないが、仕事に対する誠実な態度、仕事の正確性、出来栄えは素晴らしく、周りからは絶大なる評価を浴びていた。

 そんなとき、母親の勧めで見合いをする。その相手神保から好意を持たれる。

 それからネットワーク部署の人たちと合コンをし、その時のメンバーを中心に沖縄までトライアスロン競技大会へ参加する人と一緒に旅行をする。
 そこでネットワーク部署の要である中野さんとその部下である桑田さんから付き合いをしたいと言われる。
 こんなことは、人生で初めて。そして、それが恋なのかも、どうつきあっていいかもよくわからない。

 こういう時に失敗するのだ。相手の気持ちを勝手に解釈して、その思い込みで喋べったり行動する。気が付くと、会社の人間から総スカン。性悪女などというレッテルが貼られ、一気に真っ暗闇の世界に放り出される。

 奈津美はこの危機を持ち前のバイタリティーで乗り越え、最後は幸せをつかむが、ちょっとした言動が取り返しがつかなくなることのほうが一般的には多い。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:1 | trackbacks(-) | TOP↑

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多島斗志之     「追憶列車」(角川文庫)

 短篇5編を収録している。

 大戦末期、パリからベルリンまで、日本大使館の命令で、パリ在住の日本人100名余りが
脱出することになった。

 第一陣は婦女子で、軍用列車で移動。第2陣は男性で車で移動する。

 その第一陣の中にどういうわけか15歳の少年淳一郎が入っていた。淳一郎は列車でおしゃまな明美という女の子と知り合う。普通なら一昼夜でベルリンに到着するのに、途中英国軍の戦闘機に銃射されたり、線路が破壊されその修理で止まったり、列車の修理や、替え貨車の到着を待ったりと、3日たっても仏国境を越えられない状態。

 おしゃまな明美と淳一郎は淡い恋心を互いに抱く。そして明美は、夜中に列車が止まったとき、淳一郎を藁中に誘い込み、裸にさせ胸をさわらせたりした。純情で女性を知らない淳一郎をいたぶり淳一郎を混乱させた。それで引率の浜本さんから厳しい叱責を受ける。

 この軍用列車に、外人が一人乗車していた。驚くことにユダヤ人だった。

 初めて知ったのだが、ナチスがユダヤ人狩りを行ったとき、積極的にユダヤ人の居場所情報を提供したユダヤ人は、ナチスからゲシュタポ発行の証明書が賦与され、この証明書を持っていれば、ナチスに捕らえられることはなかった。そしてそのユダヤ人は、証明書を持っていた。

 それにしてもドイツ国内にはいると、民衆に襲われ収容所送りにされる危険性は大きい。そこでユダヤ人は仏独国境の町、メッツ駅で列車を降りた。

 列車が国境を越え、ドイツに入ると、明美が声をあげて泣きだした。
浜本さんが淳一郎に教える。「明美はあのユダヤ人の奥さんだと。」

 この物語は短編では収まり切れない。長編にして再出版してほしい。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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多島斗志之     「二島縁起」(創元推理文庫)

 古い時代から対立している瀬戸内海の風見島と潮見島。その中間にある小さい無人島砦島。

 江戸幕府は、瀬戸内海を航行する貨物船にその荷量により通行税を課していた。そして、その関所として砦島を使った。その関所を無理やり突破しようとする船を厳しく取り締まるため、屈強な兵を置いた。それが「阿浦衆」とよばれ、その選抜試験を「オタメシ」と言った。

 「阿浦衆」は、風見島と潮見島から選抜された。公平を期すために、風見島から選抜するときは潮見島の人間が審査をし、潮見島の人間を選抜するときは風見島の人間が審査をした。「オタメシ」の試験は厳しく、毎回死者がでた。

 10年前の成人式の日、式終了後、船でみんなで海上へでた。そのとき増井が、砦島にゆき「オタメシ」をやろうと提案、それは面白いということで、みんなは砦島に行く。

 「オタメシ」がどんなことをやったかわからなかったが、とりあえず100叩きをしようということになる。みんなが100叩きをしている間、叩かれることに躊躇していた、風見島の有力者の息子脇屋が、しぶしぶ申し出て100叩きを受けることになる。

 増井もそうだったが、日ごろ脇屋の威張った態度がきにくわなかったので、つい他の男より強くみんな脇屋を叩く。それも板ではなくロープで。脇屋が前かがみになって倒れるとそのまま絶命した。

 このままでは、皆が人殺しとなる。増井はみんなと相談して、潮見島の女の子を呼び出し、その子も殺し、砦島の古井戸に2人を埋めてしまう。つまり、潮見島と風見島の対立で、付き合っていた2人が結婚できないことに絶望して失踪してしまったという筋書きで実行した殺人だった。しかも、古井戸は殺人の実行した6日後に埋め立てられ、殺人は永遠に発覚しないはずだった。

 ところが、風見島に橋を渡す計画が登場する。この橋を渡すために、砦島に橋梁を建設せねばならない。すると砦島は掘削され、そこから殺人死体が発掘されてしまう。

 これに恐れをなした増井が、失踪はおかしいとかぎつけた人を殺す。同じように、疑問に感じ調査をしだした主人公の「海上タクシー」運転手の寺田も殺そうとする。

 この寺田と増井の対決場面はすごい。ずっと手に汗をにぎりっぱなしになる。最後の脱出方法も秀逸。

 人間模様もうまく描けているし、微細にわたり事件の核心に迫っていくところも、実に周到に描かれ、見事な作品である。

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| 古本読書日記 | 06:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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多島斗志之     「離愁」(角川文庫)

 不愛想で他人との交わりを一切しないで、独身のまま独り住まいをしている主人公の叔母である藍子。

 叔母が51歳でその生涯を終えたとき、母の持っていた叔母の遺品のなかに3通の手紙あることを発見される。内容は、不愛想な叔母の半生を描いた物語を書いた作家兼井欣二の手紙だとわかる。兼井はこの物語を幾つかの出版社に持ち込むが、出版にはならなかった。

 その手紙から兼井が、舞鶴にいたことがわかり、それを頼りに主人公は舞鶴に行く。15年前に兼井は亡くなっていたが、物語の保持者に会い、物語を読むことができた。

 兼井は昭和10年に上海同文書院に留学する。そこで中原という先輩と仲良くなる。この中原が尊敬している朝日新聞の特派員だった尾崎秀美を紹介される。

 尾崎秀美は、戦争中ドイツ人ロシアのスパイだったゾルゲに日本の戦争方針をレポートしていたスパイだった。そして中原は尾崎の元で働きだし、尾崎とともに連座して、スパイ容疑で逮捕される。

 この、中原に藍子が惚れる。危険極まりないのに、藍子は頻繁に刑務所に中原の面会にでかける。溢れるような恋心を綴った手紙も中原に対してだす。
 中原は、仙台拘置所に移され、寒さに耐えきれず、肺炎を患い獄中にて死ぬ。

 藍子も厳しい喘息に悩んでいた。このままでは藍子も命が危ないと考えた、中原を取り調べていた鳴瀬刑事が、戦争直後、自分の故郷の人づてに頼って、藍子を故郷の千葉県市川に避難させる。
 このような藍子の人生が、兼井の原稿や、鳴瀬刑事に関わった人により明らかにされる。

 更に、驚くことに、主人公の父は鳴瀬刑事の部下であったことがわかる。

 叔母の半生は、兼井の原稿と鳴瀬の周囲の人により、殆ど解明されるのだが、同じことを父の独白で繰り返される。ここが、しつこく、無駄。しかも、半生は、主人公が飛び回り明らかにしなくても、父に聞けばすべてがわかったところも、何となく白けた。

 しかし、ゾルゲ事件摘発から中原の死までの藍子の恋の熱い心情とそれが崩れて、生きがいを失い、孤独な生きざまは真に読者に迫り、ゆさぶる。

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| 古本読書日記 | 06:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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多島斗志之    「海上タクシー備忘録」(創元推理文庫)

 瀬戸内海の今治港を基地にしている海上タクシー「ガル3号」の所有者である主人公寺田と助手のユキが活躍する短編集。7つの事件が取り扱われているが、どれも長編にしてもいいくらい内容が濃く、とても贅沢な作品集である。

 いい作品だと感じたのが最後に収録されている「灘」。

 40歳くらいの女が、斎灘に浮かぶ70人ほどが住んでいる小島、斎島に行ってほしいと乗り込んでくる。
5年前に突然、東京のある家族を捨てて夫が失踪した。一年に一度「元気にしているか。俺は元気だ」と簡単なはがきがくる。

 40歳の女性は探偵社の社員で、家族から夫の捜索を依頼され、いろいろ調査を重ねた結果、斎島にいるらしいことを突き止めて、その確認にやってきたのだ。

 斎島のそれらしい男は結局人違いだった。 
がっかりして今治港に戻る。その時、魚島にゆく渡海船(海上の定期トラックのような船)「虚空丸」の操舵者、小島を一目見て女性探偵が捜索人だと断じた。

 そして、小島は偽名で捜索人だということがわかる。寺田がしつこく小島に聞く。
 聞いてる寺田も広告代理店を辞め、この地に流れてきているのに。
「どうして家族を捨ててここまでやってきたのか。」
 妻との中が悪くなったのか。何か小島の身に逃亡せねばならない事態が発生したのか。
どれも、小島は否定する。では、何故?それが上手く言葉にできないと小島は答える。

 そして小島は唸るように言う。
「45年間のおれの人生をあなたがそっくりやり直さない限り、あんたに俺を理解することはできない。その逆もいえる。あんたを理解するには、あんたの人生をまるごとおれが生きてみない限り、あんたを理解できない。人は他人を理解するなんてことはできないのだ。」

 人生の中では、窮屈なところから、飛び放って自由になりたいと思うことがある。しかし、この作品を読むと、自由になることは本当に孤独になることだということが身に染みてわかる。

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| 古本読書日記 | 11:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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多島斗志之     「不思議島」(創元推理文庫)

 トリックである無人島。九十九島と怪島の形状、中味がそっくりというのは少しやりすぎかなとは、思ったが、この作品のすばらしさは人物造形にある。それらの、人物造形に無理が無く、そして最後には個別の人物のあり様がちゃんと一つになって結びつく。その手練手管が見事である。

 主人公のゆり子は27歳、伊予大島の小学校の教師をしている。ゆり子には、思い出したくない15年前の出来事がある。15年前に誘拐されたのである。身代金500万円を父親が用意し、それと引き換えに幽閉されていた無人島九十九島から父親に抱かれて家に帰ってきた。

 ある日、島の診療所に赴任してきた若き医師の里見がゆり子に近付いてきた。ゆり子は里見に恋心を抱き、完全に恋におちる。しかし、途中から里見がゆり子の誘拐の真相をつきつめようとするために近付いているのではと疑うようになる。

 里見のわざとらしいゆり子への接触態度。百合子の祖母の両親に対する冷え切った態度。母親の精神的病気。父親の異常なゆり子への愛。父親の兄の叔父のおどおどする態度。

 里見は両親が亡くなり、医者のところに養子に行き旧姓は小野沢と言った。実は、里見の父親が12年前に診療所の医師をしていたのだが、佐多岬の洋上で死体となって発見され、その真相を追及するために、里見は島の診療所に赴任してきたのだ。

 12年前、実は母親と小野沢医師は不倫関係に陥った。小野沢が母親を捨てたため、母親が小野沢医師を殺したのだ。
 それを隠すために、狂言誘拐をゆり子の父親と叔父が共謀して行った。この時から、母親は精神を病む。

 バラバラの関係者の事件の背景への想いと行動が、最後の真相が明かされるところで、ピタっと一つに収斂。ここの手際が実にうまい。

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| 古本読書日記 | 11:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山崎マキコ    「ちょっと変わった守護天使」(文春文庫)

 幻冬舎文庫のアンソロジー「恋のかけら」に一部収録されている作品。冒頭部分が収録されていて、この本を購入し続きがあった長編だと知って驚いた。

 この「恋のかけら」の収録作品のなかでも、「ちょっと変わった守護天使」が圧倒的に面白かった。会社の人事権を握っている男と不倫。その男を振ったところ、報復で左遷され閑職に追いやられた主人公のつぐみ。オタク系の冴えない桜井君と夏休みキャンプに行くことになる。そこで、いろいろあるのだが、つぐみは懸命につぐみを大事にしようとする桜井君に心が魅かれる。

 そして、東京に帰ってきたときには、桜井君はつぐみの部屋に引っ越し同棲が始まる。

 この作品は、人を愛するということはどういうことだという真実の一面を教えてくれる。桜井君は、心のうちで、つぐみと結婚しようと決意している。桜井君は女性を知らない童貞である。

 桜井君は、つぐみの愚痴や悩みに懸命に耳を傾け、真っすぐな回答をする。だらしないつぐみに代わって、朝食を作り、つぐみを起こし、2人で洗い上げをして会社に2人で出社する。

 つぐみは桜井君の愛情は感じるのだけど、同棲をしていて全く体を求めて来ない桜井君に大きな違和感を感じる。34歳のつぐみ。男というのは、2人になると、目をぎらつかせて、体を求めてくるものである。一か月も一緒に生活しているのに、体の関係が無いとは。

 思い余って、桜井君に命令して、添い寝をする。そこで、自ら誘おうとするが、桜井君は「それはいけない。」と拒む。

 桜井君は、しかし、体の関係以上に熱く、強い愛情をつぐみに注ぎ、ちゃんと結婚の約束ができるか、式を終えてから体の関係を持つことを信念としていて、その真摯な態度につぐみは感動し、目がさめる。

 口だけの甘い言葉でつぐみをもてあそんだ男に対し、つぐみの放った言葉が印象的だ。
「ふざけんな、このヤリチン野郎!いっぺん死んででなおしてこい!貴様にふさわしいのは、誰の子かわからんような子をぼんぼん産むおんなだ。」

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多島斗志之     「少年たちのおだやかな日々」(双葉文庫)

 暖かい家庭を持っていた中学校の同級生正樹の母親が、ちょっと出来心で、夫ではない男に抱かれてラブホテルをでる。その姿を主人公が目撃する。正樹の母親が驚愕する。

 正樹の母親は、主人公がこのことを喋らないようにさせたい。言い訳も考える。おししいものを食べさせたり、高級腕時計も贈る。それでも、どうにも正樹の母親は心配でならない。

 最後は主人公を同じラブホテルにまで連れ込む。しかし、主人公は誘いにのってこない。この不安の行きつく先は?

 こんなちょっとしたホラーの短編集。

 シンデレラの履いていた靴はガラスではない。リスの皮でできた革靴。第一ガラスでは走ったりするとすぐ壊れて足もケガをするじゃないか。実は、仏語でリスの毛皮は「ヴェール」といい、ガラスも「ヴェール」。英語に訳す時誤って訳したためにおかしなことになっていると主張する亜由美。

 亜由美は4歳の時に兄を壊れたガラス瓶のかけらで、首を切りつけ殺してしまったというトラウマに悩まされている。兄がいつか亜由美に復讐してくるのではないかと恐怖におののいている。

 精神病院に入院していたとき、亜由美は間違ってガラスの花瓶を床に落として割る。そのときに、手をケガする。すると亜由美は、今兄がそこにきていて私に復讐しようとしていると叫び、かけたガラスを拾い上げ、頸動脈を思い切り切り裂く。

 消えるどころか、日々膨らむ恐怖、トラウマ。それが必ず破裂するときがくる。

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平山瑞穂    「あの日の僕らにさよなら」(新潮文庫)

 60歳を過ぎると、突然、高校、中学、小学校の同窓、同級会の案内がくるようになる。

 60歳も過ぎると、歩んできた道の人生もきまり終わりに近くなり、そこから大きく飛翔する人生があるわけでもないという安心感から、こうした会が開かれるかもしれない。しかし、集まるのは波乱万丈はあったかもしれないが、今ここに落ち着いているという人だけで、やはりまだ不安定な状況にいる人は参加しない。

 人生の方向が定まるというのは何歳の時点なのだろうか。この作品は、高校を卒業して11年後、30歳近辺をメルクマールにおいている。

 この作品の主人公桜川衛は、高校時代に淡い恋を経験し、今もその残像が心に焼き付いている28歳。一流K大学を卒業して、日本最大の証券会社、野原証券に勤めている。

 そんな大会社に勤めていても、30歳近くなると、人生に対し迷い、疑問がでてくる。まず、よりどりみどりだった女性が、この時期になると、主人公の本性を感じ、一人去り、2人去り、誰もいなくなってしまう。詐欺とまではいかないが、資産家からお金を引き出すための諫言ばかりを弄するのが会社での仕事となる。これが生涯続くとなると、未来が急にしぼみ暗さばかりが目に浮かぶ。

 一方、高校時代彼の恋人だった祥子。

 私の働いていた部門にも会社がいやでやめて、ヨーロッパやカナダに、或いは男を追ってアメリカに飛び立った女性がたくさんいた。今、どうなっているのだろうとふと思う。

 祥子は、食品会社に勤めたが、社長ごり押しの企画と自分の想いとの相違で、会社をやめ、ハンガリー人と知り合い、ハンガリーに移り住む。このハンガリー人が、ひどい男で、ハンガリーでDVやいじめを徹底的に行う。

 傷心と絶望を抱いて日本に帰り、卑猥な写真を撮り、ネットのサイトに、誰かとつながっていたくて、アップする。

 こんな状況で2人は、久しぶりに出会う。
 それで、今までの人生と今立っている位置をお互いに語り合い、もう2度と会うことは無いが、しっかりこれから人生を歩んでいこうと約束しあう。

 約束は強く、希望の道があるように一瞬思わせるが、2人の人生の未来はそれほど明るくない。

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| 古本読書日記 | 08:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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多島斗志之   「私たちの退屈な日々」(双葉文庫)

 ちょっとホラー味のブラックユーモア短篇集。

 高校時代につきあっていた男に25年ぶりに偶然出会う。なつかしくなって喫茶店にはいって話をする。相手の男はテレビ関係の仕事をしているという。よく聞くとテレビ会社に勤めているわけではなく、下請けの制作会社。そこで社長をしている。

 名刺を受け取り感心していると、行きつけの料亭で飯でも食わないかという。それで料亭に行くかと思ったら、電話したら臨時休業でやってないという。それで、通りのさびれたラーメン屋で冷やし中華を2人ですする。

 その後、ホテルに誘われ、体を重ねあう。
 いかにも様子がおかしいと思っていたら、実は会社は倒産して、大きな借金を抱えているという。
 無理やり映画につきあわされ、その後、公園をあるきながら、彼が言う。

 「俺と一緒に死んでくれ」と。それはできないが、主人公は男を哀れに思う。それで、男の部屋まで連れていかれる。

 主人公が家に帰ったのが午前2時。待っていた夫に言う。
「偶然お友達に会ったの。最初は話がはずんだのだが、だんだん自分がどんなに不幸なのかをじくじく言い出して、それが全然止まらないから、頭にきてひっぱたいて帰ってきたの。」
 「でも、お前の服血だらけじゃないの。」
 「ひっぱたいたとき、ドバーッと鼻血がとび、それを浴びたの。」

 次の話。
 親に相談もなく、結婚式をハワイであげ、その後披露宴を日本ですることになった新婚夫婦。母親が、相手の娘をみて驚く。実は、新婦は彼女の中学教師のときの教え子。

 この娘は大の問題児で、当時売春組織を作り、売春を集団で行い、警察につかまり、少年院に収監されていた。
 この娘に、母親がひとりで家にいたとき、入ってこられ、脅迫されてゆくところは結構ぞくっとする。

 こんな話が収録されている。

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| 古本読書日記 | 08:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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多島斗志之    「黒百合」(創元推理文庫)

 戦争の傷跡がまだ残る昭和27年の夏休み14歳になる進、一彦、香の六甲での交流をしっとりした、文芸作品のような文章で描く。3人の純真な恋心が、覆うものがなく、夏の風景に直に交わされ美しく淡い。読者は、香のハートを射止めるのは、進、一彦どちらだろうと思い読み進む。これが物語の縦糸

 更にこの物語に絡む、横糸が素晴らしい。阪急電鉄創業者の小林一三をモデルとした小芝一造。その一造の昭和10年初めてのヨーロッパ視察に同行した一彦と進の父。そこで、出会う謎の女性相田真千子。

 倉沢家の娘、日登美の宝急電鉄社員に対する激しい恋。この恋が、その社員が運転している電車が空襲にあい、そのことが殺人事件を引き起こす。それが昭和二十七年の夏に起きた、六甲ロープウェイ駅で起こる射殺事件につながる。

 この幾つかの事件と、相田真千子はどうなるのかをうまく横糸ではりめぐらせ、ミステリーと恋愛がうまく共鳴して味わい深い作品となっている。

 ときどき当時流行ったラジオ番組「君の名は」が登場。ヒロインまちこが相田真千子と重なり合うところもしゃれている。

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山崎マキコ    「マリモ」(新潮文庫)

 この作品は、予め、こういう場面を書こうと幾つかのプロットが頭の中にあり、それを、無理やり繋いで、その場面になったら、後先を考えずに、力を込めてペンの赴くまま書いてしまったという作品。

 自分はアルコール依存でだめな人間だと、落ち込むことも深いのだが、自分のプライドは高く持つ。この振れ幅が大きい主人公。

 その激しさに周りもついてゆけないし、会社からも鼻つまみ者となってしまう。そんな時も、主人公を心配して寄り添う男性がいる。寄りかかっているくせに、その男性と飲み歩いても、こんな男ではと上から目線で、自分のプライドを最も大切に考える。

 私はこんなところで低迷している人生を送るはずではない。だから、仕事もせず、パチンコ狂いのこんな男は捨ててやると、自堕落な生活から飛び出す。

 新しい世界がそこにはあるはずだったのに、飛び出してはみたものの、そこに自分と交流してくれる人の存在は全くない。
 そして、孤独と貧しい生活に耐えられなくなって、あれほど嫌って別れた男にまた連絡をとっている。

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| 古本読書日記 | 08:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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西尾維新     「本題」(講談社文庫)

 作家、脚本家5人との対談集。

 やはり、ほとんど同期で作家になった辻村深月との対談が興味深い。

 西尾は常に今を描くことを最重要視する。今日を明日思い出して書いても違和感を感じるらしい。だから、一日に2万字を書くらしい。何と原稿用紙50枚である。これはすごいと思ったら、対談時、辻村は6つの連載小説を抱えていた。よくも、混乱せず小説を書けるものだと感心した。

 西尾の面白いのは、携帯などを使わない。現代の文明の利器を使わないとどんな生活になり、どんな心の動きになるかを経験する。それが小説の題材となる。

 辻村は作品を書き上げると、寂しさもあるが、これで自由、ゆっくりしようとなるが、西尾は、さあ終わった次の作品を書こうとなるそうだ。すごい西尾は。

 西尾は面白い。作家というのは、あれもやりこれもやり、どれもだめで、最後に行きつく仕事だという。この先はもう無いと。作家で食っていけなくなった人はどうしているのだろうと少し思った。

 辻村さんは、中学校のころ、ミステリー、ホラー、ライトノベルが面白く集中して読んでいた。すると親から「もっとちゃんとした本を読め」と叱られた。これに、猛反発して、ちゃんとした本じゃない小説を書こうと決心する。今はそこを越えた。それは、彼女は「余生」だという。

 辻村作品は、まだ、どの作品でも反発心が消えていない。「恋に恋する時代」から「本物の恋をする時代」への人間の変貌を描いたら、辻村さんの右にでる作家はいない。

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垣根涼介     「光秀の定理」(角川文庫)

 明智光秀は土岐源氏明智族の出自で、輝かしい来歴の一族を背景に持っていたが、一族は滅ぼされ浪人の身にあった。その、光秀が若き兵法者、辻斬りの破壊者新之助と、辻賭博で負けたことが無いという怪僧愚息と出会う。

 この怪僧愚息、4つの椀の3つに石をいれてかきまわして、石が入っていない椀を引き当てる賭博で、殆どからの椀を引き当てる。何の仕掛けもない。

 近江の守護大名として君臨していた六角氏。信長の上洛に際し、最後の抵抗の砦になったのが近江六角氏の観音寺城。これを信長は一日で征服しろと光秀に命令する。

 観音寺城に攻め上げるためには、4通りの道がある。間諜によると、六角氏の兵は300。そして光秀の兵も300で同数。しかし、光秀は六角は4つの道に兵を均等に分け配置して、城を守ると考える。どの道を守っていても、300の兵で攻め、一気に駆け上がれば城は落とせると考える。

 兵法の法則というのがあり、相手の3倍の兵力があれば、相手を倒すことができる。4つの道を全部守るとすると75の兵が配置される。だから一つの道を300で攻めれば駆逐できる。

 ところが、間諜によると、あるひとつの道には100人の兵が配置されている。つまり、一つの道は、誰も兵が配置されていなくて、3つの道に100人ずつ配置されていたのである。
 300人で攻め上げれば、勝つことは間違いないが、一日で攻め落とすことはできない。

 誰もいない道を行かねば、信長の命令通りにはいかない。

 ここで、光秀は賭博名人愚息に4つの道のどの道に兵士がいないか当てるようにお願いする。4通りのお椀をあてる愚息の賭博原理に縋ったのである。
そして愚息の示した道を駆け上がる。その道には誰もおらず、光秀は犠牲者を一人もださず観音城を制圧する。

 この原理、作者垣根が説明しているが、石が入っていない椀を4つの椀の中から、最初に当ててしまうと、垣根の原理は働かないように私には思えるのだが。

 それより、垣根の光秀が信長の命を何故狙ったのかの推理が面白い。

 信長は直属部下の中でも、光秀を最も重用した。毎日のように溢れるほどの、指示、命令を課す。懸命に対応してきたが、ある時点で、オーバーフローしてとてもこなすことが不可能となる。このままでは、殺される。生き抜くためには、信長を殺すしかないと考えた。

 最近の過労死を思い出させる。

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| 古本読書日記 | 09:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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篠田節子     「銀婚式」(新潮文庫)

 毎日新聞の日曜専用版に連載されていた小説。

 大手証券会社のエリート社員の高澤は、ニューヨーク、マンハッタンの超高層ビルの支社に勤める。勤めだした矢先から、妻が精神的に崩れ、息子翔とともに日本に帰ってしまう。そして、離婚を申しだされ、高澤は受諾する。

 更に、勤めていた証券会社が破綻する。破綻後もニューヨークに居続け、最後まで支店整理をする。
 その後、日本に戻り、ニューヨークで出会ったビジネスマンの紹介で中堅損保に就職する。

 就職したときの条件だった、海外展開を中堅損保はやめ、高澤は国内保険販売する千葉の支店に異動。そこで、ニッチもサッチも行かなくなり、会社から追い出される。

 その後、新幹線で隣り合わせをした人に、東北の3流大学の講師を紹介され、就任する。
その間、息子の翔は大学受験に失敗する。

 超エリートが時代の変化にもまれ、どんどん落ちてゆく。そのスピードも速い。

 これから、高澤はどうなるのだと思って読み進めると、そこから急に物語の流れは緩くなる。
 全国紙での連載という重さが、激しい展開を押さえていたのではないかと思える。
そして、最後も穏やかな結末で終了する。

 導入部分が激しかったので、ちょっと尻つぼみだと感じた。

 しかし、経済環境の変化に追随できず、会社も個人も破綻してゆく様子、更に老人介護の問題も描いていて、篠田は今、何が社会問題であるかを、きちんとわかりやすく描いている。

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江上剛     「家電の神様」(講談社文庫)

 大手家電メーカーに2流大学から奇跡的に入社試験を突破して社員となって3年目、突然会社が2万5千人をリストラすることになり、主人公轟雷太がその対象になり、人事部キャリア開発室に異動させられる。

 キャリア推進室は、机に電話がおいてあるだけの部署。私語厳禁、外出禁止。9時から18時まで何もすることなく過ごすまさに追い出し部屋。

 雷太、とても我慢できず、退職届を提出して、故郷千葉県の田舎の都市に帰る。そこで、家業である、母が社長をしている街の家電販売店に勤める。

 そこで、都市の個人家電販売店を駆逐してきた、家電量販店オオジマデンキを向こうにまわして、懸命に生き抜こうとしている、街の家電販売店の奮闘を描く。

 量販店の安売りに対抗して高売りを店の看板にして生き抜く。高売りするためには、お客が求めていることを聞き出し、それを商売と関係ないことでも、全部実現しようとする。それにより、継続して家電を店から購入してもらう。そして、大型販売店と競合しながら主人公の家電販売店は生き抜く。

 何だか現実にはありえない、人事部門の研修教材を読んでいる雰囲気。

 正直言うと、かなりつまらない作品だった。

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