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2016年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2017年01月

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薬丸岳    「その鏡は嘘をつく」(講談社文庫)

 中学、高校と同級生だった歯医者の息子がいた。私学の歯科大に行ったが、殆ど入試は形式で、寄付額の多寡により入学ができるか決まった。息子の家では今のお金で8000万円を支払い入学できたと言っていた。

 個人医院に生まれた男の子は、医者を継ぐことが至上命題とされる。しかし、中にはどんなにお金をつぎ込み勉強をさせても、とても医大にはいる成績までいかない息子もでてくる。

 この作品は高知の名門医院の長女が、医大にはいることはとても不可能な成績だったが、入試を受ける医大の教授に大金を積んで裏口入学をする。そして、その後その医大の医師となる。その女性は裏口入学のために労をとった教授と恋愛関係に陥る。

 ある日、女性が当直のとき、強烈な腹痛を催した子供が救急で送られてきた。女性はありとあらゆる治療を試みるが、容態は悪化するばかり。これは、自分では処置できないと判断して、教授に緊急にきてもらうよう連絡をする。しかし、なかなか教授はやってこない。そして、子供は息をひきとる。その後、教授はかけつけることができたのだが、故意に病院にやってこなかったことを女性は知る。

 教授は言う。
「もう一人殺したら君は医者としては生きていけない。この子供の犠牲は、これから君の手で犠牲者がでないために必要だったのだ。君はもう高知には帰れない。君が裏口入学だったことと、子供を過誤処置で死なせてしまったとふりまいてやる。」

 これに怒り狂った女性は、いつか教授を殺害して、その後自分も青酸カリを飲んで自殺することを決意する。

 韓国でも名門女子大に金ではいった朴大統領の友達の娘がいたが、日本でも金の力で名門大学に入学したり、医者になる人はいるんだろうと思う。

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江國香織     「やわらかなレタス」(文春文庫)

エッセイ集。

 江國さんは、本当に言葉に対して敏感である。コンビニでミネラルウォーターのラベルに目が釘付けになる。「からだにうるおうアルカリ天然水」。からだにうるおう水とはどんな水なのだろうか。ずっとイメージを膨らませようとする。しかしなかなかイメージが膨らんでこない。そのうちに店員に「冷蔵庫を早く閉めてください。」と言われ現実に引き戻される。

 旦那さんとスーパーに行く。即席めんの容器に「至福の一杯」と記載されている。たかがカップ麺に「至福」とは。今まで食したカップ麺には至福のイメージとはかけ離れていた。

 大げさだと思う。カップ麺に至福なんてことがあるだろうか。ずっとみつめていた。

 帰って、買い物袋から買い物をとりだすと、至福のカップめんがでてきた。旦那さんがあまりにも長くじっとみつめていたから、きっと食べたいのだと思って、一袋を買い物かごにいれたのだ。

 しかしたった一袋だとなかなか食べることができない。「至福」でなかったらがっかりしちゃうじゃないか。「至福」が何となく重圧になる。

 優しい旦那さんだ。ある日、そんな江國さんをみていて、5袋「至福の一杯」を買ってきた。江國さんは心置きなく「至福の一杯」を堪能する。

 そのカップ麺は本当においしく「至福の一杯」だったそうだ。

 このエッセイ集は、江國さんの小さいころから今までの言葉とであっての衝撃がたくさん登場する。

 豚足を食べにゆきその味に感動する。だけど、最近のおいしい味の表現で使われる抽象的表現、「こくがある」「まったり」「切れ味がある」などが無く、懸命に具体的言葉で表現しようとしている。言葉を選び出し、読者がわかるように伝える素晴らしい作家である。

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| 古本読書日記 | 09:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村田沙耶香   「しろいろの街の、その骨の体温の」(朝日文庫)

 村田さんは、抽象的な言葉で、真実を覆うことをしない。どこまでも、誠実に真摯に事の本質に立ち向かう。その、鋭い表現と情熱からわきでる熱量に圧倒される。

 中学校の頃の記憶はあまりないが、高校の頃、男子の中でも、優秀な生徒とできの悪い生徒との間には確かに壁があった。私は馬鹿の部類だったから、馬鹿グループの連中と交わっていた。しかし、階級ができていて、優秀グループが馬鹿グループを徹底して無視してはじきとばすようなことは無かった。男は結構単純な頭を持っているせいか、面白いことは馬鹿、優秀かかわりなく交わって楽しんでいた。

 この作品を読むと、女生徒というのは単純男のようにはいかないようだ。男子と女子がいれば、好きだと思えば自由に告白して恋愛ができるというわけにはいかない。中学生の頃は女子生徒が好きと思う相手の男子生徒は数人に限られる。誰もが恋愛対象になるわけではない。

 主人公結花が通っている中学校のクラスでは、女性は完全に階級により区分けされる。

 美人で優秀な女生徒のグループが一番上のグループ。結花は下から2番目に属する。下から2番目までは、女生徒は嗅覚を持っていて、自然とどこに自分は属するかを嗅ぎ取って自分のグループを決め入ってゆく。最下位のグループだけは、完全に階級からはじかれた生徒だけがグループを作る。

 少数の憧れである男子生徒と恋愛ができるのは、女性徒の第一グループに属する生徒だけと暗黙の了解がある。だから、第2グループ以下に属する女生徒は憧れの対象として見つめるだけしかできない。

 これを破るようなことがあると、第一グループの女王から徹底的に干され、どのグループにも属することができない、孤独で悲惨な学生生活を送ることになる。

 そんな生徒が悲惨な生活においやられ、悲観して自らの命を絶っても不思議ではない。しかし、学校や先生から見ると、この生徒の自殺がいじめが原因と思うことはないだろうなとこの作品を読むと思ってしまう。

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野中柊    「食べちゃえ!食べちゃお!」(幻冬舎文庫)

 この作品は、アメリカ人の彼と結婚したころに書いた作品だ。彼の料理がすばらしく、それに感動した全編ノロケで覆われている。

 野中さんは映画大好き人間。当然彼も同じように映画が大好きでありと信じる。だから年がら年中彼と映画に行く。それで、結婚して、夫は映画はあまり好きでないと言う。自分思っていると同じように他人も思っているものだと思い込むのだろう。

 新婚旅行はタイの小島。そこで食べたタイカレーが美味しくて忘れられない。タイカレーを食べたいと思っていると、彼が作ってあげるという。いろんな香辛料をシードで買ってきてこれをすりつぶす。これは大変だなあと読んでいると、驚くことにココナッツミルクも手つくりする。ココナッツミルクなど缶に入っているかパウダーしか知らない。

 どんなものか判然としないが、ココナッツフレークを鍋にかけそれを沸騰させ、ここにたっぷりの牛乳をかける。それを一旦沸騰させてからしばらく弱火で煮て、冷めてから茶こしで漉す。更に鍋に残ったココナッツフレークを大きな布巾に取り出して、これを丸めて力いっぱい絞る。その際、夫と野中さんが布巾の端を持って思いっきりねじりあげる。これはかなりの重労働。そうして出来上がったのがココナッツミルクだそうだ。缶入りココナッツミルクは純度が低いし、鉄の味がしておいしくないのだそうだ。そして、食べるとココナッツミルクの風味が素晴らしく、最高においしいタイカレーになるのだそうだ。

 タイカレーを作るのに、ずっとこんな作り方をしていたら、ぐったりしてしまう。しかし、手を抜くと満足な味にならない。どうやってそこのギャップを埋めるのだろうか。

 すべての料理がこんな感じで作られ、その美味を幸せ感とともに表現する。目いっぱい無理してるなあと思う。結局このアメリカ人との結婚は破綻してしまう。

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浅田次郎  「パリわずらい 江戸わずらい」(小学館文庫)

 浅田は、夜眠ると必ず夢をみるそうだ。この夢を忘れないうちに書き留めておいて、作品として本にする。この中からヒット作も生まれているそうだ。

 最近は何と夢を支配できるようになった。今夜は何の夢をみるか決める。

 「四面楚歌の居城にて軍議中の戦国武将」とか
 「フィレンツェの街角のカフェで妙齢の美女と恋を囁くアーサー・ダ・ジローネ」
 とか
 「上海フランス租界の夜の顔役、浅大人。その正体は日本特務工作員」

 こうして、決めてかかると、後は夢が縦横無尽に物語を創ってくれる。問題なのは夢の途中でオシッコがしたくなったとき。だいたいこういう時は、ここぞというときに催すのである。

 「浅田次郎左衛門が馬上の一軍の劈頭に立ち、大手からどっとくりだす」
 「アーサー・ダ・ジローネが雨上がりの路地で、妙齢の美女と口づけをかわそうとする」
 「浅大人こと浅田中佐が、ダンスを踊りながらチャイバドレスの太腿に拳銃を探りあてる。」

 問題はトイレに行って帰ってきた後、この続きがみられないと全く夢が意味をなさない。

 浅田は、トイレの時間はCMの時間と思い信じ込むことで、この難問を克服したそうだ。

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野中柊    「その向こう側」(光文社文庫)

 野中さんの作品に「草原の輝き」という作品がある。「草原の輝き」というのは18世紀後半から19世紀にかけて活躍したイギリスの吟遊詩人ワーズワースの作品の中にある。野中さんのこの作品でも「草原の輝き」が引用されている。野中さんは「草原の輝き」に触発され、この物語を紡いでいる。「草原の輝き」はこんな詩である。

草原の輝き 花の栄光
再びそれは還らずとも 嘆くなかれ
その奥に秘められたる力を見い出すべし
すべてを忘れることなく、また赤裸々でもなく、
我らは栄光の雲から出ずる。
神は我らが家なり。
草原の輝きはもはや戻らず 花は命を失っても
後に残されたものに力を見いだそう。
本能的な思いやりのなかに、
苦しみの末の和らぎのなかに、
永遠なる信仰のなかに、
生きるよすがとなる人の心。
その優しさとその喜びに感謝しよう。
人目にたたぬ一輪の花も、涙にあまる深い想いを我にもたらす。

 主人公鈴子は大学生。鈴子には父親がいない。母親が一人で鈴子を育てた。母親には18年前から敏史という恋人がいる。敏史には当たり前だが家族がある。週一回金曜の夜だけ敏史は母に会いにくる。

 その敏史は、妻から最近離婚の申し出を受け受諾。晴れて近々敏史と母は結婚しようとしている。

 鈴子は、父と母はどんな関係だったの。どうして母は一人で鈴子を産んで育てようと決意したのか。相手に家庭があるのに18年もの間、何故敏史と関係を続けたのか。更に、敏史は、母以外の恋人もいる。母はそのことを知っていながらなぜ敏史と結婚するのか。

 聞いてみたいけど、聞けないまま今に至っている。母は、そこには踏み込ませない壁を作っている。すべてがわかったうえで、前進しようとしている。穏やかではあるが微動だにもしない。

 過去に輝いていた青春があり、それから大変な道があったが、それは決してつらい道のりではなく、悔いることのないしっかりした日々の歩みだった。そして、今迷うことなく次への道に進む。

 鈴子は敏史に恋心を抱いている。今まさに悔いてはいけない青春の道に踏み込もうとしている。

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| 古本読書日記 | 08:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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瀬尾まいこ   「僕らのごはんは明日で待ってる」(幻冬舎文庫)

 友達をもったり、つるんだりするのは面倒くさいと思っている亮太。誰とも交わらず、休み時間は一人で本読み。だから、自分のクラスがインフルエンザが流行っていて、学級閉鎖になりそうだということにも気が付かない。

 体育祭にも交わらないから誰もやりたがらない米袋競争が割り当てられる。米袋競争は、2人一組で米袋に入って行う競技。一緒に入ってくれる人がいないと案じて、上村小春が犠牲的精神を発揮して入ってくれることになる。

 小春は天真爛漫で、友達も多い。その小春が、米袋競争が終わった後、亮太に付き合ってほしいと告白する。

 そんな亮太と小春。恋かどうかわからないような付き合いをしだして、大学でもしばらくつきあった後、小春が突然別れると宣言。衝撃を受けた亮太だが、一週間後に誘われて参加した合コンで知り合ったすみれと付き合いをしだす。

 しかし、何かにつけ小春を思い出す。その重さに耐えかね、すみれと別れ、小春に頼み込みまた付き合い。そのまま大学を卒業して2年後亮太は小春と結婚する。

 どこにでも、ころがっていそうな、恋愛のはじめから、結婚それから小春の子宮筋腫克服までを描く。

 この物語。亮太は大学では友達を得るが、雰囲気はいかにも誰とも交わらず、孤独そのもだ。その雰囲気ゆえ「たそがれ君」と周りから言われている。

 一方、小春は明るく、友達にも囲まれ、雰囲気は楽しそう。
しかし、大学生でデートしたとき亮太は、初めて、小春が父母を知らずに、祖父母に預けられ育てられたことを知る。長いつきあいなのにそんなことを初めて小春が語る。

 小春は一見楽しそうに見えるが、自分の中に他人が決して入ってこないようにバリアを張って付き合いをしていたのだ。本当の姿は亮太以上の孤独だったかもしれない。

 この物語は、つきあい、恋愛から、殻を破って、人間らしいつきあいまでの過程を鮮やかに描く。もちろん、殻をやぶったつきあいもそれは大変なのだが、その関係の未来は明るいことを瀬尾さんは教えてくれる。

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野中柊    「ひな菊とペパーミント」(講談社文庫)

 結花は13歳の中学生。今まで恋などしたことが無かったが、友達とのダブルデートにつきあわされ、そこで出会った道夫君と恋らしきものが始まった。

 学校には一年上で、アイドルのような存在で、学校中の女子の人気を二分する、松岡君と小川君がいた。そして2人はBOYS LOVEと噂されていた。

 結花は、父と2人暮らし。母は近くに住んではいるが、父とは離婚している。
 そんな父が、ある晩、結花に会ってほしい人がいて、一緒にその人と食事をしてほしいと言う。しかもその人には、中学生の息子がいると言う。

 翌日、松岡君によびだされ、父が会って食事をしてほしいと言っている相手は松岡君の母だと知る。それぞれの親が結婚すると、松岡君と結花は同居して家族になり、兄妹となる。

 松岡君はお前となんか兄妹になどなりたくないと言い放つ。結花はよくわからなかったが売り言葉に買い言葉で、私も兄が松岡君なんてことは絶対いやと言ってしまう。

 そこで2人は相談して、熱い恋人同士を装うことを決める。まさか、両親が兄妹で愛し合っていることを認めるわけはないだろうと。そして、毎晩のようにお互い愛し合っていることを見せつけるため、互いの両親が聞こえるところで、愛の交歓電話をする。

 約束の食事の日。2人はレストランには行かず、小川君の家で過ごす。そこで、小川君が両親も祖母もいなくて、曾祖母と2人で暮らしていることを知る。また、松岡君が、毎日朝新聞配達をして頑張っていることも知る。

 小川君の曾祖母の素朴なのだが、味わい深い料理を作る。それを食べていると、松岡君が兄さんでも構わないと思うようになる。13歳の2人が、新たな決意をした瞬間で物語は終わる。

 大人は、子供のことはあまり考えない。それは、もう子供になることは無いからだ。子供は大人のことをよくみて、大人のことを考え行動を決める。それは、これから大人になるからだ。結花と松岡君が、大人になるために大きな決断をした。

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有栖川有栖    「孤島パズル」(創元推理文庫)

 有栖川の推理小説の特徴は、証拠により犯人に至るのではなく、論理を積み重ね、この人以外犯人はありえないというところに行きつくことである。この論理が納得感があり、明快で論理好きにはたまらない。

 この作品で面白いのは、殺人舞台が小さな孤島。犯人が宿泊した別荘から、殺した画家がいる別荘までは、道を大回りしないと到達しない。自転車で行くより、泳いだ方が早く到達できる。普通の錯覚を逆手にとる。しかし、殺人をした後は証拠品を泳いで運んでは、証拠品が濡れてしまい殺人がばれてしまう。だから、画家の別荘にある自転車を使って、自らの泊まっている別荘に運ぶ。しかし、画家の自転車が自分の泊まっている別荘にあるのはまずいから、返却にゆく。そして、自転車を返却したあとは、また泳いで自分の泊まっている別荘に帰る。非常に複雑な行動をするが、読者はなるほどと感心してしまう。

 ただ、自転車で証拠品を運んだ時、一部を落としてしまう。その証拠品を自転車を返す時そ自転車でふみつけてしまうという致命的失敗をする。

 それから、犯人が最後の殺人を自殺にみせかけるところ。犯人は被害者のこめかみにピストルの銃口をあて、引き金を引き殺すのだが、このままでは被害者に硝煙反応がないので、自殺にはならない。そこで被害者の手をとって、ピストルを握らせ銃弾を放つ。銃弾の開けた穴と、飛び散った血の重なり具合を観察して、ピストルでこめかみを撃った後に、壁の絵に向かって弾が撃たれたことを証明する。

 それで、自殺ではなく他殺であることが導かれる。

 そのほか、細部に至るまで、論理で解が得られる。本当に、よく練られ、考え抜かれた作品であり、有栖川に全く脱帽である。

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野中柊    「チョップスティックス」(講談社Be文庫)

 私がひねくれているせいかわからないが、野中さん、こんなに楽しい毎日はないという雰囲気満載のエッセイ集なのだが、私にはどこか無理していて、切なさだけが感じられてしまう。

 このエッセイを書いた時期が、10年連れ添ったアメリカ人との結婚が破局。そして新しい恋人と結婚。その新婚生活を描く。まず、エッセイでこの新しい結婚相手をタクポンと呼ぶところからどことなく緊張感が走る。

 毎日、毎日が楽しいのである。いつも、陽気にポンポンと跳ねてなければいけない。爽やかできっぱりと空は澄み渡って。

 しかし、私の経験している結婚後の生活は、そんなに陽気で楽しいものではなく、どことなくくすんでさっぱりしない同じ日常が積み重なってゆくものだった。その結果、長い間離婚もなく家庭は継続できた。

 こんなに毎日が楽しくなければいけないなんていう生活をしていたら、その重さに耐えかねて、また同じことを繰り返すのではと思ってしまう。

 タクポンは、会社で多忙で、深夜にならないと帰宅しない。それほど多忙で会社から期待されているように思えるのだが、突然会社をやめたのかやめさせられたのか、退職する。

 時間ができたからベトナムへ旅行する。スーツケースを現地で調達せねばならないほど、欲望にまかせてたくさんの買い物をする。

 そして、今の住居が気に入らなくなったと、別のところに引っ越しをする。

 本で、友達にも、こんなに輝いていて、充実した人生はないぞと叫んでいる。そういうふうにしていないと、いられない。

 どんなに楽しく描いても、どこかに不安や揺れる心がすけてみえる。

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伊坂幸太郎   「首折り男のための協奏曲」(新潮文庫)

 もともとは独立して書かれた短編を、多少書き直して例えば「時空はゆがむ」ということなどを底流にした連作に近い短編集。

 どれも面白いのだが、流石伊坂の発想は突き抜けていると思ったのが「人間らしく」。

 誰も見たことも会ったこともない神様とはどんな存在なのかがテーマ。

 窪田は小説家で仙台に住んでいたが、山形県境の田舎に古い一戸建ての家を買い引っ越し住んでいる。トラブルシューターのような仕事をしている黒澤が、作並温泉に行った帰り、道路が豪雨で通行止めになり、窪田の家に泊まることになる。窪田は家でたくさんのクワガタを飼っていた。クワガタは独立心が非常に強く、いつもは、個別に住まわせる。もし、一緒に住まわすと、必ず喧嘩をし、相手を殺すまで喧嘩をやめない。

 そのクワガタを一緒の檻にいれる。死に物狂いの喧嘩が始まる。このとき、負けてしまいもう少しのところで死んでしまうというところで、檻に手をいれて死にそうなクワガタを救ってやる。あるいは、クワガタは仰向けに倒れると、起き上がることが難しい。こんなときも手をいれてひっくりかえして正常の状態にもどしてあげる。

 中学生のぼくは、少人数での指導を謳い文句の塾にはいる。クラスは僕をいれて4人。3人は同じ中学校からきている。この3人が、僕をいじめる。帰りに待ち伏せされて「5000円」をだせという。お金は無いと抵抗すると、リーダーの大河内を中心にして殴られ蹴られ、そして財布を奪われてしまう。そして一週間後には「10万円もってこい」と言われる。

 悩んだ末、母親のキャッシュカードを盗んで、当日でかける。いつものように殴る蹴るが始まる。そして大河内が思いっきり力をいれた蹴りをしようと向かってくる。僕はもうだめだと観念する。その瞬間、大河内がスーっと消える。どこにも大河内がいなくなる。

 次の日大河内は頭にでかい包帯をして現れる。

 クワガタからみると、檻に手をいれ助けてくれた人間は神様である。もうだめだと観念した瞬間、人間である神様が現れ救ってくれる。神様はきまぐれ。いつも檻の前にいるわけではない。隣部屋で小説執筆中のときもある。そんな時は救いの手は差し伸べられない。

 僕の場合も、隣部屋にいた神様がたまたまやってきて、僕の絶体絶命の危機を救ってくれたのだ。

 実に面白く、楽しい発想である。

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野中柊    「きみの歌が聞きたい」(角川文庫)

 幼馴染の絵梨と美和は、共同で天然石の創作アクセサリーのブランドを経営している。絵梨が独自のインスピレーションを生かしてアクセサリーを創る。美和がそれを売り出すための営業や、経理事務雑務を担当している。

 2人は30歳をすぎたところ。絵梨にはミチルという17歳のボーイフレンドがいた。ミチルの母親はアルコール依存症、それにいやけがさしミチルは家を飛び出す。父親は母親と別れ別の女性と再婚する。その継母から、毎月ミチルの口座にお金が振り込まれ、それで遊んで暮らしている。

 美和には夫がいる。そして、美和も絵梨も美和の夫には恋人がいることを知っている。

 絵梨とミチルは毎日のようにベッドで抱き合う。そして、いつしか木曜日だけ、美和とミチルはホテルで抱き合うようになる。

 絵梨、美和、ミチル、美和の夫とその恋人。ここで、誰かが、相手を恋していると強く思ったり、嫉妬や怨念がこみあげてくると、それぞれの関係が崩れる。だから、そうならないように、本気にならないよう押さえながら、サラサラとそれぞれの体の関係を続ける。

 この安定した関係の描写が物語の80%を占める。これが緩慢で、あくびを催す。

 そして最後の章で、突然この関係が破綻する。絵梨が突然死する。それと同時に美和がミチルの子を妊娠する。本当はここから物語は始まるのだが、寛容な美和の夫とミチルが継母と父のもとに帰るということで、すべてが丸く収まるようにして物語は終わる。

 とってつけたように物語を締めた印象が強く。つまらなさだけが残った。

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桜木紫乃    「風葬」(文春文庫)

 主人公の篠塚夏紀は、母のやっている書道教室を手伝っている。母は55歳だが、認知の症状が始まり、教室での指導ができなくなってきている。

 夏紀には父親がいなかった。しかも母の本籍は東京。どうして母は東京から北海道の釧路まで流れてきたのか。夏紀は父どころか母も自分を産んでくれたのか確信が持てていなかった。母に聞くのだが、頑として教えてくれない。

 母がある日「ルイカ岬に行かなくちゃ」と一人ごちる。夏紀はルイカ岬など知らなかったのだが、ふと目にした短歌集に沢井徳一という人が涙香岬というところを読んだ句があることを知る。そこは根室。夏紀は徳一に会いたいと連絡する。

 徳一は中学校30年前中学校教師をしていたとき、一人の不登校の女の子の担任になった。

 佐々木彩子と言った。彩子の父は、違法操業でロシアに拿捕されたが、病死で帰ってきた。しかし病死とされた父親の遺体には、銃弾が撃ち込まれた後があった。何の検死もおこなわれず、死体は埋葬された。

 同じ船に乗っていた川田という男が、病死だということで、警察を抑え込んだのだ。川田は拿捕一年後に帰国した。ロシアでは川田は逮捕されることなく、豪華な家で優雅な暮らしをしていた。

 根室では、川田に関わることは一切無視すること、ちょっとでも調べるととんでもないことが降りかかると言われ、川田は無法者として母親ともどもふるまっていた。

 物語は、夏紀に出会った徳一が、不登校で死んだ佐々木彩子にそっくりだと思ったところから動きだす。

 夏紀母娘、徳一と息子、川田とその母親が絡み合い、最後に辛い真実が明らかにされる。

 サスペンスなのだけど、北海道のさびれゆく街、厳しい自然が育んだ人々を、実に個性豊かに描き出し、情景描写と個性的人間が混濁して独特な物語に仕上がっている。

 ズシリと重みを感じる作品である。

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野中柊    「草原の輝き」(角川文庫)

 高校の頃、エリア・カザン監督(エデンの東などを監督した巨匠)がナタリー・ウッドを主演に初めて抜擢して撮った映画「草原の輝き」を思い起こし手に取った本。

 人を愛することというのは、相手を100%受け入れることだし、相手に100%自分を晒して受け入れてもらうことだ。

 主人公のなつきは、林間学校に行っていたとき、母親と弟が心中を図り死んでしまう。しかも父親は、別の女性に走り家にはいない。母が死んだとき、父親はやってきて、一緒にその女性とともに住もうと言われたがなつきは拒否し、おばさんの家で育てられる。

 母親が、弟だけを溺愛したとの思い、両親家族が消えひとりぼっちになってしまったこと。
このことで、心を決して開かないことを決意して生きてゆく女性になってしまった。

 なつきは学生時代、たくさんの男に抱かれた。抱かれているときだけが、相手と繋がっていると確信が持てたからだ。

 アルバイト先で知り合った男の子に恋した。いつも一緒に映画をみたり、食事をしたりすることが嬉しく幸せだった。

 しかし男の子の優は、他の男性と違い、なつきの体を求めてこなかった。なつきは不安でしかたなかった。だから、なつきは優に抱いてほしいとお願いした。

 優は言う。抱けないと。
 「なつきは壁をつくっている。心を開いて喋ってくれない。本当に僕を愛しているの」と。

 なつきは自分の中には絶対他人が入ってこれないよう高い囲いを作っていた。それを優はきちんとわかっていた。

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有栖川有栖     「46番目の密室」(講談社文庫)

 推理作家有栖川有栖と犯罪社会学者火村助教授コンビのシリーズ第一作目。

 45の密室トリックを書いてきた、推理作家の巨匠真壁が暖炉に上半身を突っ込むようにして殺された。真壁が殺された地下室は密室。これが46番目の密室殺人事件だったのか判別はしなかったが・・・・。

 トリックが実に面白い。

 真壁を暖炉に顔をいれるように仕向ける。そのとき犯人は、屋根の煙突から、おおきな花瓶にテグスを巻いて、真壁の頭が暖炉に入った瞬間に銃口の弾丸のように、その頭めがけて花瓶を落とす。そして、頭を破壊したのを確認して、するするとテグスを引っ張りあげ花瓶を屋根に戻す。ついでに、暖炉で殺しが行われたようにみせないため、テグスの先に点火物をつけ予め部屋に少しまいていた灯油に火をつける。つまり、真壁は何かで頭を殴打され、部屋に火がついたため、そこから逃げようとして暖炉までゆき、息絶えたようにみせかける。

 他にも殺人があったり、有栖川が殴打され意識を失う事件があり、それも種明かしがされるが、テグスで花瓶を落とし頭を殴打するというトリックは圧巻だった。

 それにしても、どんな分野でも大御所となると、あまたの女性との関係に飽き、かわいい青年との関係が欲しくなるのか。そして、そのことは、女性が自分のところを去るより、青年が去ることのほうが衝撃が大きく、絶対愛する青年を手放さないと強く想いこむのだろうか。

 健全な殆どの青年は、爺さん作家に囲われることは本質的に望んではいない。そんな関係はやがて素敵な女性が現れれば壊れる運命にある関係になる。

 しかし、爺さん大御所に将来まで握られている若い新人推理作家は、身動き取れず追い込まれる。

 この作品の犯人の真壁に囲われた若き作家、石町が原稿を書くとき使うパソコンは「だんしょう」と打ちこみ変換すると最初に「男娼」と表示がでる。石町はこのパソコンの設計者にシンパシーを感じる。

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野中柊    「このベッドのうえ」(集英社文庫)

 最近は食事を女性一人で、レストランなどで食べている姿はそれほど珍しくなくなったが、もっと一般的になったと思うのは、仕事の疲れを癒すため、バーで一人で飲んでいる女性がいる風景である。

 たいがいはお目当てのバーテンダーがいて、その彼に愚痴を言ったり、悩みを打ち明けているのが一般的。

 この短編集の「マリーゴールド」には、いつも21時くらいにバーにやってきてマティーニを一杯だけ、時間をゆっくりかけて味わい、そして最後にアルコールの香りが沁み込んだオリーブを口に含み店を後にする73歳の女性がいる。

 流石に、73歳の女性がバーでいる風景はみたことは無い。

 しかし、何となく、そのお婆さんの気持ちがわかる。わがままな夫に使え、子育てにも苦労し、その夫は他界、子供たちもそれぞれに独立。 短かった青春の匂いを毎晩味わいたい。友達と食事や旅行にゆく。老人会にはいり活動する。そのお婆さんは孤高として、そんな交わりは受け付けない。

 こんなお婆さんがいてもいいなあと思う。

 そのお婆さんに近寄る、26歳の男性がいる。もちろん恋は生まれない。だけど、2人でマティーニを味わい、オリーブを口にして、別れる。そこにほっとさせる、何とも言えない暖かな雰囲気が醸し出される。

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真梨幸子     「イヤミス短篇集」(講談社文庫)

 リサは主人公より、格の高い大学を卒業して、有名企業に就職していた。主人公は3流大学をでて、アルバイトの身。普通こういう上下差があり、女性が格上の場合、滅多に恋愛には発展しないのだが、たまたま主人公は格上のリサと付き合っていた。こういう場合、殆ど男は、奴隷か家来のように扱われる。

 この馬鹿にした待遇がいやで彼女と別れ、出会い系サイトで知り合った短大卒のミキと知り合い、出会ったその日にホテルで関係をもつ。ミキはそれまで男を知らなかったという。

 今度は自分が支配できるのだが、ミキの一直線で寄りかかってくる姿がわずらわしく、だんだん会う回数が減り、殆ど会うことはなくなった。しかし、ミキからは毎日メールはきていたが全く無視した。

 ある日、弁護士がアパートに主人公を訪ねてきた。実は、ミキさんが嬰児殺害で逮捕された。執行猶予を勝ち取りたいので、主人公にミキさんを助けるため裁判の証言台にたってほしいと言う。そしてミキの言葉をまとめた用紙を読んでくれと主人公の前に提示した。

 そこには、ミキがトイレで嬰児を出産し死なせる様子が生々しく描かれていた。
主人公は衝撃を受け、その夜、トイレの便器に血が溢れだし、嬰児の頭が浮かんでくる幻想までみて、狂いそうになった。

 次の日の夕方、電車を待っているとき、主人公はミキと初めて関係を持った日を思い出す。
何とその日は今から7か月前。自分が最初の男だと言ったことも嘘。主人公の子どもだと言ったことも嘘。

 完全に頭へきて、ミキの家に乗り込み文句を言う。そして、ミキを初め、両親をナイフで刺す。しかし、刺しどころがよくて、3人とも軽傷ですむ。

 ミキは病院で、手帳をめくる。たくさんの過去関係した男の名前が書いてある。舌なめずりをしながら、嬰児の父親を誰にしようかと品定めをはじめる。

 世の男たち、胸に覚えのある人は、気を付けたほうがいいですよ。

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| 古本読書日記 | 16:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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野中柊      「ガール ミーツ ボーイ」(新潮文庫)

 主人公の美世は、会社に就職した直後、恋をしているかどうかわからないうちに田口と結婚。

 その田口は3年前に、突然何の前触れもなく失踪。たぶん生きてはいるだろうとは思ってはいるが。だから、小学一年生になった太郎によりかかりながら生活している。

 ポップコーンを食べたり、泡の風呂に一緒にはいったり、借りてきたビデオをみたり。
太郎は素直でかわいい。セミダブルのベッドで添い寝をしてあげる。

 ところが、鈴木君の家に遊びに行くと言ってでたまま、いつも遅くとも帰ってくる6時15分を過ぎても帰ってこない。我慢しながら待ってみるが7時を過ぎても帰ってこない。思い余って鈴木さんの家に電話をかけると、5時15分には鈴木君の家はでているとのこと。

 鈴木家と美世の家は歩いて15分ほど。おかしい。それから、鈴木さへの道をたどり、途中の公園もくまなく探したが発見できない。
 9時になり、これは学校の先生と警察に届けをだすしかないと追いつめられたとき、突然太郎は帰ってきた。

 「どうしてたの」とできる限り優しく聞いてあげた。
 「美代ちゃんとエレベーターで遊んでいたら、エレベーターが止まって閉じ込められていた。」と。
 初めて太郎が嘘をついた瞬間だった。太郎を探すため、何度もエレベーターに乗ったが、止まっていた時など全く無かった。衝撃が走った。太郎が嘘をついたのだ。

 しかも更にどうしていたのと問い詰めたら、とうとう白状した。
 「お父さんと、ファミレスでご飯を食べていた。」

 3年前に失踪して、行方知らずの夫とごはんを食べていたとは。しかも、美世がショックだったのは、太郎は美世に内緒でときどき夫と会っていたのだ。 

 従順で、正直で、この世で最も大切なボーイだと信じていた太郎が、隠し事をしていた。
 子供だからと信じていたのはひとりよがりだった。
ここから太郎との間に隙間ができた。まだ小学校1年生。これからの2人だけの生活に不安の影がさす。

 それにしても、夫田口が見つかった後、田口と美世の2人が、市役所に離婚届を提出する場面はすごいリアリティがあった。野中さんの経験そのまま書いたのではと思った。

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| 古本読書日記 | 16:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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榎田ユウリ    「カブキブ!5」(角川文庫)

 榎田は本当にユニークな作家だ。

 河内山学院高等部のカブキ部は、文化祭の公演を目指して夏の合宿を行っている。部長であるクロの提案により今年の演目は「毛抜」になる。「毛抜」は登場人物が多いため、全員が演じなければならない。当然、今年入部した3人の一年生も出演してもらわなければならない。この3人、個性的でかつ大きな問題をそれぞれ抱えていた。

 水帆は、極端な怖がり屋。引っ込み思案な部員で、何をしゃべっても声が小さく、何を言っているのかわからない。刀真は、青い目を持つハーフ。自己中心で、まわりと同調することができない。自己主張が極端に強いのである。

 そして、最も問題なのが唐臼。セリフは覚えているのだが、姿勢を正して前を見てセリフを言うことができない。どうしても、背中を曲げて床を見ながらセリフを言うのである。

 クロたち先輩は彼らを特訓し、何とか欠点を克服させようと努力する。例えば水帆はサッカー部にお願いして、水帆をゴールキーパーにつけて、ゴールキーパーの指示を、そのまま同じように言わせる。声が小さいとフィールドの選手には届かない。最初はもじもじ声が小さかったが、ゴールキーパーに叱責され、最後は知らないうちに大きな声を恥ずかし気もなく叫ぶように水帆はなっていた。

 最も大変だったのが唐臼。実は、彼は、小さいころからバレエをやっていて、重要な公演の舞台で、転倒して、舞台を台無しにした経験を持っていた。しかも悪意のあった人がいて、この動画をネットにあげ拡散させた。これに深い衝撃を受けた唐臼は、セリフをどうしても前に向かって言えなくなってしまっていた。

 このことを突き止めたクロたちは、カブキブを辞めるという唐臼に辞めるための条件をつきつける。学校の舞台で、同じ場面を踊り、それで転倒したら辞めてもよい。頑張って転倒しなかったらカブキブを辞めてはならないと。それで、唐臼は舞台にたちダンスをする。

 4回おなじことをする。しかし4回とも同じところで転倒してしまう。

 もうだめかと思ったが、先輩を含め同じ部員が、懸命に自分をみつめてくれていることに感動して最後唐臼は部を続けると叫ぶ。

 そして、街の夏祭りに問題3人をいれて「白浪5人男」を演ずることになる。阿久津の宣伝もあって、多くの観客が集まる。

 普通の物語なら、特訓された一年生が無骨ながら懸命に演じて、拍手喝さいの物語になるところだが、観客から「へたくそ!大根役者」とからかわれ、頭にきた阿久津が、舞台をかけおり、からかった客と乱闘をし、それが警察に通報され、警察に尋問をうける事態になる。

 何とか罪になることなく、警察から解放され、カブキブは文化祭にむかって頑張るというところで物語は終わる。唐臼のへたれ克服までいかない。不思議な物語。

 このとんでもズッコケの最後を用意した榎田の想いはどこにあるのだろうか。まだ、ざわざわ感が残って整理がつかない。

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| 古本読書日記 | 15:31 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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野中柊    「テレフォン・セラピー」(新潮文庫)

 何が原因なのかは、書かれていないのでわからないが、野中さん精神的に追い詰められ、ひどく落ち込み、もうだめだという時があったそうだ。

 それで、精神科の医院に行く。ここの主治医が面白い。

 眠れないから睡眠薬を処方してもらう。主治医が言う。
「何なら自殺してもいいですよ。」と言いながら致死量まで教えてくれる。「ただし、自殺するときには、僕が書いた処方箋は必ず捨ててくださいね。」と。
 この主治医、時々、電話をかけてくる。
「おっと、まだ生きていますね。死んでたら、遺体をひきとりに行こうと思ってたんだけど。」
野中さんが言う。
「心配してくださっているなら、もっと頻繁に電話くださったら?。」
すると主治医が言う。
「今の季節なら、二、三日放っておいても、腐らないでしょう。いや、腐るかな。さぞかし臭いでしょうねえ。嫌だなあ。でも、もしかしたら、お宅の猫ちゃんが食べてくれるかもしれない。死後、愛猫に食べられたら、それこそ本望じゃないですか。」
 とんでもないブラックユーモアが過ぎる先生だ。
頭へきた野中さん、絶対死んでやるものかと思いをたぎらせ、病気を克服したそうだ。
これ本当に治療なの? 

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| 古本読書日記 | 15:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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恩田陸    「私の家では何も起こらない」(角川文庫)

 その館では、その昔、主人のために毎晩、さらってきた少年、少女を地下の食料貯蔵庫で保管し、彼らの肉を調理して、夕食にだしていた。その、少女、少年が幽霊になって食料貯蔵庫いるという噂を聞いて、その館まで探検にきた少年3人が、探検から帰宅して、同じ時間に、首をつって自殺する。また別の日に、やってきた少年は、その屋敷の木に縄をひっかけて、それを使って自殺する。

 また、その館にいた、仲の良い姉妹が、台所で芋の皮をむいているとき、何かのきっかけで、互いに持っていた包丁で刺しあい、2人とも死んでしまった。

 館には、そんな奇怪な死を遂げた人たちの幽霊がでるということで幽霊屋敷と呼ばれ、そこに住み付くと不幸になると恐れられていた。

 そこに、都会の喧騒のなかでは、集中して物語の創作ができないと、静かで一人で住める家が欲しいとある女性作家が、館を買い取り移住してくる。

 もちろん、普段はおかしなことは起こらない。しかし、仕事に疲れて、ロッキングチェアに身をゆだねたとき、浅い眠りが襲う。そんなとき、人間の血肉を食べる主人が目の前にでてくる。地下室から少女の声が聞こえてきたりする。ハっと目が覚めるとそれが、今の自分と地続きで繋がっていて、デジャヴのように思えてくる。

 地球上では、いかに多く開発をしても、人間の住んでいる場所は限定される。何かの本に書いてあったが16万年前に人間がこの世に誕生して今までに1500億人が誕生したとのこと。

 住む場所は限定しているから、私たちが今住んでいるところには、たくさんの幽霊がいたり、地下には死人が埋まっている。そして、時々デジャヴとして、彼らに遭遇する。デジャヴはその土地の歴史であり、私たちもまたそんな死人たちに重なりあって、デジャヴの世界を後に生き残った人たちに伝えてゆく。

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| 古本読書日記 | 15:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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野中柊    「きらめくジャンクフード」(文春文庫)

 女性が家に常備して、絶対きらしてはいけないのがポテトチップス。

 どこかで食事をして、夜遅くアパートに帰ってくる。お風呂にも入って化粧落としもして、そろそろ寝るかという時間になる。そんなとき何気なくテレビをつける。冬ならこたつにはいってテレビの天気予報をみる。

 テレビをみるときは、反射神経のごとく、必ずポテトチップスを横において、ポリポリとつまんでいる。夜のポテトチップスは健康にもよくないし、太ってしまうことはわかっているのだが、どうしてもやめることはできない。

 天気予報だけでは済まない。だらだらテレビとポテトチップスのつきあいが続く。

 そして、ポテトチップスをあらかた食べ終える。

 そこで、袋を持ってベッドにあおむけになる。そして袋を逆さにして、口の真上にかかげる。で、底をパッパッとはたく。最後のかけらが口のなかに落ちてくる。それをしっかりと味わってから眠る。それが至福の時。即、眠りに落ち、快眠となる。

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| 古本読書日記 | 15:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有栖川有栖    「絶叫城殺人事件」(新潮文庫)

 NIGHT PROWLER(夜中にうろつく人)という紙片を口に挟まれて、若い女性が2週間おきに夜中に殺される事件が3件起こる。実は、NIGHT PROWLERはゲーム機のソフトにあり、ここにきてじわじわ売り上げを伸ばしていた。それで、殺人事件はゲーム機をまねた事件ではないかと考えられていた。

 容疑者の見当がつかないまま、時間だけが流れる。そして、3回目の事件から2週間後ではなく1週間後にまたNIGHT PROWLERによる殺人事件が起きた。被害者はノンフィクションのフリーライター、大和田雪枝。大和田は後ろからスイス製のナイフで刺されていた。そして口には「GAME OVER」と書かれた紙の切れ端が挟まれていた。

 実は、1週間前に雪枝の弟英児が、大型車に跳ねられ、半身不随となっていた。そして、雪枝が、入院に必要なものをとりに英児の部屋に行く。そこで、雪枝は英児がNIGHT PROWLERであることを知る。深い衝撃をおぼえて、半身不随の弟を救い、事件を迷宮入りにするため背中にナイフをおいて、壁に背中からぶつかり自殺したのだ。

 この作品で、有栖川はマスコミに登場する知ったかぶりのコメンテイターに激しくあたっている。

 犯行動機について英児が答える。

 「ヴァーチャルな世界と、リアルな世界、その境目がわからなくなるっていうのがどんな感じかと・・・。」

 社会学者などが登場して、ゲームに入り込みすぎると、ヴァーチャルとリアルがわからなくなる。このことが事件を引き起こすと。有栖川はそんなことは無いと断言する。ヴァーチャルとリアルが異なっていることくらいみんなわかっている。だけど、マスコミなどで、ヴァーチャルとリアルがわからない人がでてくると喧伝するため、それはどういうことか知りたいという人がでてくる。つまり、この犯罪は無責任なマスコミ、社会学者が引き起こしているのだと有栖川は言うのである。

 こういう現代の現象で、有栖川はもうひとつ事例を挙げている。それは「心の闇」と言う言葉。事件が起きるとしばしばこの言葉が使われ、すべてがそれでわかったような錯覚を起こさせる。そこで、すべての具体的追及が止まる。有栖川はかなり怒っている。

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野中柊     「参加型猫」(角川文庫)

 チビコと名付けられた捨て猫が縁で、勘吉と沙可奈は付き合いだし結婚をする。物語は一緒に生活した部屋を引き払って、別のアパートに引っ越すところから始まり、そしてまだ引っ越しのかた片付けが終わっていないところで終了する。

 不思議な物語である。何か特別にテーマがあるわけではなく、読者が立ち止まって深く考えさせるようなところは全くない。今という瞬間を、切り取ってそれが右から左へさらさら流れていくだけ。

 人生は今があるだけ。その今にいて、過去を思い出す。それも、今の状況によって思い出すのであって、ひょっとすればその記憶も間違った脚色がなされているかもしれない。つまり、思い出した過去も今を表している。

 それは、どこか猫の生き方に似ている。猫も過去こうだったから今こうしようとか、今を変えてこういう目標に向かって生きていこうなどとは決して考えない。今、その瞬間にしたいことをしている。

 猫の生き方を通じて自分たちの生き方を描いている部分がある。

 「地面から足が三センチほど浮き上がって、世界や自分自身についてしょっちゅう感じてしまう無力感やあくせくした欲望から自由になって、何でもできる、何をしてもいい、だからこそ、何もしなくてもいいのだ、と大らかでのんびりとした気持ちにもなってくる。」

 実に歯ごたえのない生き方であり、小説だ。これが猫型生き方だとして、それで生きていけるのなら物足りなさはあるが、そんな生き方をしてみたい気もする。

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| 古本読書日記 | 16:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有栖川有栖    「ロシア紅茶の謎」(講談社文庫)

 火村犯罪社会学者と有栖川推理作家コンビの推理による解決事件簿集。

 奥村丈二という最近売り出し中の作詞家が神戸の自宅で毒殺される。奥村は、その時、5人の客とともに、年忘れパーティを催していた。妹の真澄以外は友人たちだったが、いずれも、奥村には恨み、憎悪を感じていた。

 食事が終わり、カラオケパーティに移っていた。そして、その時ロシア紅茶がふるまわれた。奥村が飲んだロシア紅茶に青酸カリが含まれていて、それを飲んだ奥村がほぼ即死状態で亡くなる。

 当然、どのコップに青酸カリが含まれているかわからない状態では、奥村に確実に青酸カリいりロシア茶を飲ませることはできない。ということは、このカップのロシア茶を奥村が飲むとわかってから、青酸カリをそのカップに入れねばならない。

 まあこれがびっくりするくらいなトリック。

 冷凍庫の氷を二つに割り、そのなかに青酸カリをいれ、割った氷をくっつけて冷凍庫にしまう。そして、パーティの始まる前に、くっついた氷をベランダの盆栽の陰においておく。カラオケが始まった時、空気をいれかえましょうと犯人が言って、窓をあけ、盆栽の陰にあった氷を口の中にいれる。

 誰かの歌に集中しているとき、奥村の前に置くカップに口から青酸カリの入った氷を吐き出す。

 しかし、犯人の勇気に脱帽する。犯人だって青酸カリを飲み込んでしまう危険性がいっぱいだから。

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野中柊     「人魚姫のくつ」(新潮文庫)

 私たちは、組織にいれば、若いころ先輩、上司のやることは古すぎてとてもついていけないと反発する。しかし、意外と自分がその地位につくと、古い反発していたやりかたを若い人たちに強いている。

 家庭でも、子供の頃親はうるさくて、古くてとてもついていけないと思って反発する。自分が親になったら、決して子供を今の親のような育て方をしないと思っているのに、自分が親になると、自分の両親が言ったりやったりしたことをしている。

 主人公はサーカス団にいた。その主人公には3人の恋人がいた。妊娠したので、誰の子かわからないが、3人のうちの一人と結婚する。

 主人公は恋や結婚では、自分は王女であり、相手は王子様、そして生まれる子供は女の子でお姫様だと思っていた。ところが、王子様は、いつも真夜中の帰宅。朝、家をでるときは主人公は手を振っていた。前は王子様は何回も振り返って手を振り返してくれたのに、今は全く振り返ることはなくなった。

 姫は、確かに可愛い。ところが、夫の王子様と自分の間に娘がはいって変な三角関係ができあがる。夫に娘が甘えると、言い知れぬ嫉妬が浮かんでくる。それで、どこかで娘に辛くあたるようになる。そう王女になるはずが魔女になっているのである。

 女性は恋愛、結婚まで王女で、家庭ができ子供ができると魔女になる循環を繰り返す。

 それならばと主人公は、また恋をしたくて、サーカス団にいたとき恋していた男に会いにゆき、そして抱かれる。そんな関係を続けていると、その結果は魔女どころかもっと悲惨な結果を招く。

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| 古本読書日記 | 17:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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有栖川有栖    「壁抜け男の謎」(角川文庫)

 16の短編小説が収録されている。

 最初の「ガラスの檻の殺人」が面白かった。

 主人公は、刑事で数々の成功を収めた後、警察をやめ探偵事務所をおこしている。しかし、殆ど依頼がなく、暇をかこっている。そんな時、大学時代の友人沙耶から、ストーカーに毎日つけられ弱っている。警察もとりあわない。それで、主人公にストーカーを懲らしめ、今後ストーカーをやめるようにさせてほしいとの依頼がある。

 夜、彼女の家の近くの公園で、そのストーカーを見つける。彼女を襲っているところにかけつけ、ストーカーを止めるように言ったのだが、驚いたストーカーは逃げ出し、その逃げ足が速くてとても追いつけない、ところが突然主人公はストーカーに後ろから襲われ気絶して倒れる。その気絶している数分間の間に、ストーカーが襲われ殺される。

 当然主人公と沙耶は参考人として警察から聴取される。警察によると、公園を中心に50m四方の範囲の外へは犯人はでることができなかったということ。犯行時間に50m四方にいたのは4人。主人公と沙耶以外に、アルバイトの若い男と会社での飲み会帰りの社員。

 彼らを目撃したのが、ラーメン屋の主人と、煙草屋の主人。

 肝心な凶器だが、ありとあらゆるところを捜索したが見つからない。凶器があれば犯人は特定できる。どこかとんでもないところに凶器があるのでは。

 翌朝早く、探偵である主人公は街へでて、煙草屋に行く。煙草屋はすでに起きていて店の前で何かしている。探偵は昨日も買おうとしたのだが無かったセブンスターを買いたいと主人に言う。主人は切れているという。確かに自販機は「売り切れ」表示になっている。

 探偵は自販機を開けてみせるように言う。しぶしぶ開けた自販機のセブンスターの場所に凶器があった。

 いいねえ。こんなことを四六時中考えているのだ、有栖川は。

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| 古本読書日記 | 16:23 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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野中柊    「あなたのそばで」(文春文庫)

 短編集。

 「イノセンス」が素晴らしい。

 「でも、泣くまい、と私は思った。所詮、彼は行きずりのひとだ。この世で出会う、すべての人間が、行きずりのひとだ。もう会うことがなくてとも、私のことを忘れてしまっても、彼がこの世のどこかで、生きていてくれさえすれば、それでいい、そうでも思わなければ、やりきれない。・・・・
 そう。いろんな男の人と、こういう時間を過ごしたことがあるのだから、仕方がない。正直なところ、自分がだらしなく、薄汚れているように思えてならないときがある。とはいえ、何人ものひとと、いわゆる関係を結んできたことを卑下しているわけではない。
 彼らは、私を本気で求めてくれた。そして、私はそのつど本気で応えてきた。そういう意味では、清廉で勇気ある行為だったといえるのではないかしら?」

 主人公の瞳子は、年子の妹瑛子を15歳のとき、瑛子の重い病気により失う。2人は、どちらが先に死んでも、何かのサインを残った姉か妹に死んだほうから送ることを約束した。

 瞳子は、勤めていた会社をやめて小さなバーを開いて2年になる。その間、何人かの男と関係をした。普通は、穢れた女性のように思えるのだが、彼女の真摯な姿勢は、そうした穢れた思いを受け付けない。次の野中さんの文章がひりつくように迫ってくる。

 「時を経ることによって、変わるものもあれば、変わらないものもあるだろう。失われるものもあれば、失われようのないものもあるだろう。泥にまみれても古びても、イノセンスは、やはりイノセンスなのだ。そして、そのことが、ときとして、どうしようもなく、ひとを傷つけたりもする。私には、そう思えてならない。」

 瞳子の誕生日の夜。バーを閉じて、明日地方へ転勤する竹下と外を歩く。白いものが冬でもないのに舞い落ちてくる。風花である。

 瞳子が思わず言う。
 「瑛子ちゃんそこにいるのね」と。

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有栖川有栖    「暗い宿」(角川文庫)

 旅先の宿でおきる事件に小説家有栖川有栖と犯罪社会学を研究している大学教授の火村が挑む短編集。

 有栖川は、廃線、廃駅を取材しようとして、吉野の山へ行く。そこで山奥の大塔村に夕方到着する。宿泊施設を探すと一軒だけ以呂波旅館という看板がみえた。そこは、かなりのオンボロ宿で、誰もいそうもなかったが、声をかけると50歳がらみの女性がジャージ姿で現れた。彼女は才藤茂美と言ったが、もう旅館は一年前に廃業して、掃除をしに来ていただけと言い有栖の宿泊を断った。しかし、有栖は夕方でもあるし、微熱もでていたので、眠られさえすればよいと懇願し、宿泊を受けてもらった。

 なかなか寝付けないでいると、夜中に床下を掘り起こすような音が聞こえてきた。その音が止んで、しばらくして、窓辺にたつと、真夜中、誰も通らないような道を帽子を被って大きな袋をかついで通りを歩いている人の姿を見た。

 旅から帰って数日すると、新聞にこの以呂波旅館の取り壊し跡地から白骨死体がでたという記事がでた。

 そこで再度有栖川と火村教授が現地へ飛んだ。

 白骨死体は、16年前失踪した才藤茂美の姉の夫であることがわかった。この姉もまた2年前他界していた。そして茂美の夫も5年前失踪して行方がわからなくなっている。

 有栖川と火村は、犯人は姉か茂美かはわからないが、まず姉の夫を殺しその遺体を自宅の床下に埋める。5年前に殺害した茂美の夫を旅館の床下に埋める。遺体発見当時は犯行後15年の時効があった。

 旅館はその土地を買い、新しくペンションを作るという人に渡した。そして、旅館は取り壊される。そうすれば、5年前に殺した夫の遺体がでてくる。それで、殺害時期が判明せず、時効が成立するだろう姉の夫の遺体と入れ替えようと茂美は考え実行した。その実行した夜に有栖川は以呂波旅館に無理やり泊まったのである。

 美人女性が2遺体を掘り起こして、入れ替えをして再度埋めるというところが、少し突飛かとは思ったが、行為、動機はわかりやすい。

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野中柊    「ダリア」(集英社文庫)

 野中さん、悲愴、悲惨ということに顔をそむけない。また、作家は悲惨、悲愴の経験が必ずしもあるわけではないから、多少の取材はするかもしれないが、殆どは想像して書く。

 野中さんの小説は、とても経験したことが無ければ書けないほど迫真にせまる。もし、想像だけで書いているとしたら、とんでもない能力を持った作家だ。

 主人公の17歳の「わたし」が堕胎手術を行う場面の迫力が半端ではない。

「私は手術台に腰を下ろし、足を大きく開いて、やや高めのところに位置した足台にのせ、上体を横たえ、クッションに頭をつけた。
 その手術台には、三十度くらいの角度で頭部が上向きになる傾斜がついているためか、見ようと思えば横たわっていても自分の両足が見えた。・・・・・
 『それでは、麻酔をします。ちょっとチクッとするかもしれないけど、我慢してね。』・・・
それから注射器らしきものを奥へ、かなり奥へと差し入れた。私は痛みに備えて、さっそく呼吸法を始めた。息を吸う、吐く。息を吸う、吐く。下腹部に一瞬衝撃を感じた。でも、それほどひどいものでは無かった。ああ、大したことないじゃない、と私はおもった。これで、麻酔の力に助けられる。・・・・あの感触は恐ろしくもあるけれど、決定的な痛みは免れる。私は、ほっと息をついた。
 ところが、間もなく、私は自分の考えが甘かったことを思い知らされた。細い管がからだの奥へと差し込まれ、いよいよバキュームが始動すると、これまで味わったことのないような激しい痛みに襲われたのだ。その痛みは、内臓に掃除機のノズルを突っ込まれ、容赦なく粘膜を吸い上げられるような感じ、そう言うのが最も簡潔で的確な表現だと思う。
・・・・呼吸はどんどんはやくなってゆく、ときおり堪えきれなくなって、私は声をもらした。」

 これで、一回目はうまくいかなくて、同じことが再度行われた。
この後、手術が終わって、休憩室で休んでいるとき、黒人の少女が手術室に入った。

 まもなくすると
 「シーザーズ・クライスト!! シーザーズ・クライスト!!」の絶叫がいつ果てることもなく続いた。

 本当にこの場面を読んだときはぐったりときた。

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