FC2ブログ

2015年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2016年01月

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

熊谷達也   「調律師」(文春文庫)

ピアノは木材を中心に何千という部品からできている。木は生き物でもあるし、弦は緩んだりして、音や、音量が狂う。それを元の完全な状態に戻すのが調律師の仕事。更に超一流の調律師は、演奏家の感覚的な要請に従い、演奏家が満足に演奏できる状態にコンサート前にピアノを仕上げる。有名なピアノ演奏家は、必ず黒子として専属の調律師を伴っている。

 本当のことなのだろうが、演奏家や調律師には共感覚という特殊な5感の持ち主がいるらしい。当然聴感覚は大切なのだが、ピアノを演奏しているときこの聴感覚と音に伴って色が目の前にあらわれる演奏家、調律師がいる。

 それから、この小説の主人公のように、聴感覚と臭感覚を持っている人もいる。

 いくらピアノが正しい音を発しても、音に伴って発せられる色が濁っていたり、クサいにおいがするピアノは調律が未完成ということらしい。
 この物語に登場する主人公の調律師は、正しい音を奏でるピアノになっても、音からでる匂いが基本バニラの匂いにならないと、調律は完成しないとしている。

 ピアノの世界的有名な3大メーカーはスタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインである。

 この連作短編集でベーゼンドルファーが登場する物語がある。
調律師の主人公と街場のジャズバーの経営者兼ピアノ弾きは、昔ピアノコンクールで優勝を争い、調律師が僅差でピアノ弾きに勝ったことがある。調律師はその後CDをだしたが、全く鳴かず飛ばず。今は調律師に身をやつしている。一方の敗者のピアノ弾きも街場のバーのピアノ弾きになっている。

 そのジャズバーに置いてあるピアノがベーゼンドルファーのピアノ。
主人公の調律している姿を、ピアノ弾きがスコッチのアイラモルト「ボウモア」を飲みながら見つめている。2人の心には甘酸っぱい昔のコンクールでの争いが交錯する。

 2人が華やかな世界から落ちぶれたように、ボウモアはサントリーに、ベーザンドルファーはヤマハに買収された。それでも、香りテイスト、音色の変更は絶対許さず、伝統のまま屹立としている。
 そう言えば、調律前のピアノの異臭は、このときばかりはバニラの匂いにならず、少しスモーキーで優しいスコッチの匂いに調律後変わった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 07:34 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

藤原伊織   「ダックスフンドのワープ」(文春文庫)

大学で心理学科を専攻している学生の主人公「僕」は、10歳になり、広辞苑を毎日読むことを楽しみにしている自閉症のマリの家庭教師をしている。
 僕も、自閉症に近い。大学に入ってから、3年もたつ僕のアパートには今まで他人がはいったことはない。会話をする人間はマリだけ。

 そのマリに僕が創っているお話をしてあげる。それは90年も生きているダックスフンドがワープして砂漠に行き着いたところから始まる。その砂漠は「邪悪の意志と地獄の砂漠」と言われているところ。
 希望とか愛とか優しさをもつ者を、その砂漠にすむ邪鳥が鋭い舌と歯でひきちぎりなぶり殺す所なのである。

 私達は幼稚園の年少組くらいまでは、すべての子たちと遊ぶし、喧嘩もするし、人を選んで、友だちにすることはない。それが年少組を過ぎたあたりから、言葉も多くなり、友だちや特定のグループを作り、その他を排除するようになる。その変化についてゆけなくて、
幼子のままだと、周りから無視されたりいじめられ、友達など毛頭望めない人となり、変わり者と呼ばれることになる。
 今、自閉症のマリも同じはじかれ者として存在している。そして、主人公の僕も物語のダックスフンド状態。そして別に登場するマリの学校の女教師も、変わり者で、教師でありながら、ロックグループのバンドをやっていて、無理とは思いながら、プロデビューを夢見ている。

 つまり、マリも主人公の僕も、女教師もみんな幼稚園の年少組のまま。そして「邪悪の意志と地獄の砂漠」は純粋な気持ちが立ち消えた大人を中心とした世界。

 馬鹿と言われようが、こどもそのまま、わがままと言われようが、幼少の世界にとどまっている大人たちもこの作品を読むと私には魅力的な人に変わる。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

 

| 古本読書日記 | 12:30 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

桂望美   「頼むから、ほっといてくれ」(幻冬舎文庫)

トランポリンは知っている。オリンピックでも正式種目になっていることも知っている。だから、全国大会もあるだろうし、世界選手権もあるだろう。

 しかし、その競技がどんなものであるか、まして何て名前の選手が今日本で、世界で頑張っているかなんてことは全く知らない。この作品で桂は愛着を持って、競技会の選手の技について説明するが、全くわからない。
 日本選手権はおろか、世界大会でさえテレビで放映されることがない。報道も片隅、そんな中で、選手たちはどんな環境で練習し、どんな思いで、戦っているのだろうか。

 この作品は、マイナーな競技で選手となっている人たちやその関係者たちの情景をていねいに描きだしている。
 おおかたのトランポリンの選手は、大学卒業と同時に選手生活をやめる。とても選手活動を続けていける環境にトランポリンは無い。しかもトランポリンは肉体活動が激しく、選手生命は短い。20代後半までが精いっぱいである。

 この物語でも、スポンサーがついている選手は一人だけ。後は、居酒屋などでアルバイトをしながら選手を続ける。ある日本でも3本の指にはいる選手など、家族の応援があるどころか「そんなものをいつまで続けるの」なんて言われている始末。
 何の注目も浴びないスポーツなのに、オリンピックの選手に選ばれると、選手が突然「アスリート」と呼び名が変わる。それから、君は日本を背負っているなどと言われる。
 たかが一介の居酒屋店員なのに。金メダルをとれば凄いのだろうが、銅メダルでは殆ど注目も浴びない。 それでも銅メダルでも入賞でも本当に嬉しい。

その嬉しいと世間のギャップは限りなく大きい。でも、いつかトランポリン界にも五郎丸がでて、少しそのギャップが縮まればいいと思いながら居酒屋バイトと愛すべきトランポリンを続ける。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 12:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

長野まゆみ    「東京少年」(光文社文庫)

 主人公の常緑は14歳。
14歳はどんな時代なのだろうか。反抗期であり、性にめざめ、変声期があり、喉仏ができてきてくる。肉体が大人への階段をかけあがると同時に、心や感情も受け身から、能動的に切り替わり、個性が創造される時だ。

 こんな大きく変化、成長する時に、主人公常緑は雨あられのごとく、自らの歪んだ生い立ち、好きで最も信じていた父の子ではないこと、全く知らなかった母の出現、その母が父と離婚した後再婚する相手が実は本当の父であり、そんな母と父が何故結婚しなければならなかったのかそのやりきれない事実が、一気に降りかかってきた。

 これだけの厄災が大人、青春の入り口でふりかかってきたら、家出もしたくなるよ。
それで家出しながら、考え、人生を見つめながら、見事に常緑は大人の男性へと脱皮してゆく。

 それにしても長野さんの特徴がよくでているファンタジーにしてはこの作品は中味が重すぎる。と言ってリアリティを優先すると長野さんの長所が消滅する。
 ちょっと中途半端な印象が残った作品であった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 08:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

高山正之    「歪曲報道」(新潮文庫)

歪曲報道とはどういう報道をいうのだろうか。
 わかりやすい実例がこの作品で示されている。朝日新聞の天声人語から。
 「日本一人口が少ない愛知県富山村の最後の運動会」「村民が一丸となってこられたのは三世代が触れ合う運動会があってこそ」
 朝日新聞が市町村合併を推進した政府に対し批判をこめて書いたコラムである。

 実は、この富山村、人口たった200人の村なのである。それで、村長もいれば村議会もある。だから、就業者の60%が議員か公務員。自治体だから、政府から補助金が6億円でている。
だから村民のための温泉場をつくったり、10人の生徒だけの学校にドーム付きの運動場をつくる。やりたい放題なのである。
 それを、都合のいいところだけをデフォルメして、可哀想な村とやるわけである。こういうのを歪曲報道と言う。

 10年前の元旦の朝日新聞の一面は奇妙だった。当時キティーちゃんなどの可愛いキャラクターが花盛り。それを全面にだして、可愛い日本でいようという論を展開した。
 何をいいたいのかと思って読み進むと、
「カワイイは平和な日本のイメージ。相手を攻撃せずに、心をほぐして仲良くなってしまう優しさの表現だ」ときて「優しい気持ちで相手を包み込む国になろう」と言う。

 中国、韓国、ロシアはもちろん、イスラム国だって優しく包み込めば、日本は暖かい国として尊敬を一身に集めるというのが朝日新聞の考えのようだ。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 08:26 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

藤原伊織    「名残り火」(文春文庫)

この小説はハードボイルドの香りを充満させながら、綿密に組み上げられた良質のミステリー作品である。

 事件の真相に至る過程で、いくつものうならせる仕掛けがあるが、凄いと私をうならせたのが「月刊ロジスティクス」に書かれたエッセイに埋め込まれた仕掛けである。

 小説の主人公堀江の元同僚で親友でもある、日本一のコンビニチャーンチェーンの統括本部長にスカウトされた城島がオヤジ狩りにみせかけられ殺される。結局この犯人は同じコンビニチェーンに勤め、城島の前任である北島取締役と長浜という証券会社の副社長をしている城島の奥さんの秘書が共謀して実行したことが最後に判明する。

 城島、長浜、北島の関係は3人がニューヨークにいたときに作られる。この関係がわかるまでに長い過程があるのだが、それが「月刊ロジスティクス」に北島が書いたニューヨーク駐在記のエッセイにあった。

 このエッセイでは、ニューヨークで北島が知り合った人物の交遊が書かれていて、すべての人物は、アルファベット一文字で表されているのだが、殺された城島の奥さんだけはN.Fと2文字で書かれていた。それは、知っている人が読めば人物を特定できるようになっていた。
 ここに堀江は注目して、城島、長浜、北島、城島夫人に強い結び付けがあったと確信し事件に迫る。
 藤原の仕掛けのうまさ、上質さに思わず称賛の声をあげてしまった。

それにしても、私が犬と散歩する30分の範囲内にセブンイレブンが4つもある。どうしてこんな馬鹿なことをするのか、そのからくりがこの小説で明らかにされている。
 今日発売の週刊誌を立ち読みしたら、ブラック企業の雄としてセブンイレブンがあげられ、今のままではセブンイレブンの未来は無いと書かれていた。なるほどと小説とあわせて納得してしまった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉   「家族トランプ」(実業之日本社文庫)

寒々しい昨今だから、こういう暖か小説があってもいいかもしれない。
シャッター通りばかりが目立つが、この小説の舞台は、昔から続いている商店街。その商店街は、小さな商店がお客目線の高さで並んでいる。そして商店街には悪い人は一人もいない。みんな優しく、暖か。その中に昔からの食堂がある。食堂には3世代の人たちが住む。
そこも良いひとしかいない。

 そんな暖かい食堂、商店街に35歳の独身女性が取り込まれてしまう。そして最後に、バツイチの食堂の主人と結婚。で、めでたしでお話は完了。

 それでも、少し毒がある。
 独身女性は一人娘。家族は所詮個性や想いの異なる個人の集合。両親は主人公の娘に結婚を迫る。それで、色々あって、食堂のバツイチの男を結婚相手として両親は主人公より紹介される。
 そうすると、両親はあれほど結婚を強要していたのに、反対する。両親とて、自分の都合しか考えていないのである。
 つまり、結婚相手は、当然自分の家にはいってもらい、老後の世話をしてくれねばならない。この自分たちの要望に適わない結婚相手は困るのである。

 この小説、拍手喝采で終わっているが、主人公の両親はこの後どうなったのだろうか気がかりだ。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉    「慿流」(文春文庫)

 大分県で宮崎県に隣接、高千穂に近い山奥に丹比郷という小さな村がある。ここの一族の祖先は白蛇。この白蛇を受け継ぐ子はカンナミ様と謂れ、生まれた時に白い輪が首のまわりにでる。そして、時々体が白く輝く。この白い輪、常には下腹に潜り金の蛇模となリ居つく。それはカンナミ様と呼ばれている。

 カンナミ様がいる人が、結婚して新たな家に入ると、その家は幸運が憑いて、幸せいっぱいの人生を送ることができる。しかし、カンナミ様が憑いていることを嫌ったり、不審に思う人がいれば例外なく、その人たちは苦しんで死ぬことになる。
 この物語では、蛇の嫁を迎えた朝比奈家が、不幸ばかりに襲われる。どこかで、救いがあってほしいと私は願っていたが、最後まで不幸の連続であった。

  実は、白蛇が祭られている大分の秘境、丹比郷は美輪一族の村。つまり美輪一族は白蛇に絡まれ生きている。全員が先祖は蛇なのである。

 明野照葉が、大分県出身ならこの話を作ることは理解できるが、東京出身で全く大分とは縁もゆかりもない。もし大分県で美輪という性で住んでいた人がいたら、ずいぶん気分が悪いと思う。

 私の親戚にも美輪性のひとがいる。この人の下腹に蛇もようがあるかみたいような気がする。

 どことなく都会中心で、地方に配慮のない物語だと感じた。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

長野まゆみ  「綺羅星波止場」(河出文庫)

会社に入って3年目、だからもう40年前、初めての出張でヨーロッパへ行った。
当時はソ連上空が飛べなかったので、アンカレッジで給油して、北極を通って日本の裏側であるヨーロッパへと飛行機は飛んだ。

 アンカレッジを飛び立ち、裏側のヨーロッパは夜中だ。眠いなと思っていた時突然パイロットが「左窓の上空にオーロラが見られます」というアナウンスをした。
 一条の川が流れるように、高いところは青く、段々明かりがついて、低いところは緑白の色になっていた。飛行機の窓が開けられれば、手で触れるような近さにみえた。

 この物語の2人の主人公。灯影と垂水(名前)は群青色の石を欲しいと思っていて、その石を荷降ろししていると思われる港に停泊している船の作業場に行く。
 しかし、石は手にいれることはできない。

 がっかりしていた港の波止場で、パン屋がパンを焼いていた。お腹が空いていたので、パン屋に近付く。
 パンを焼く燃料が不思議な燃料。青い石から炎があがっている。パン屋がその石を手に取ってごらんと言う。熱くないからと。
 灯影が勇気をだして手に取る。鉄アレイのように重かったが熱くはなかった。息をふきかけると、オーロラ、青白い箒星のような炎があがる。
 ここを読んだとき、私が飛行機の中でしたかったことを長野さんが書いていると思った。

 それにしても長野さんの言葉作りは印象に残る。
 店が開店する。そのとき札を店に飾る。そこには「春夏冬中」と書かれている。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

桜木紫乃   「起終点駅  ターミナル」(小学館文庫)

 短編集。印象に残ったのが「スクラップロード」 

 ちょっと頭がきれて、出來が良かった男というのは救いようがない。
小さな北海道の名も無い町の出身。そこの町から北海道大学に入学するのは主人公の男が初めてくらいだった。そして北大卒業後は、北海道で最も大きい銀行に入行する。

 こういう男は、プライドが高く、他人には負けたくない、出世欲のかたまり。だから、頑張って頑張りぬいて働く。成績をあげている間はいいが、何かで躓くと、他人との協調を無視してきたため、こつんと心が折れる。心療内科にかかってみるが捨てられないプライドが邪魔をして、病気から脱出できない。そして、そのまま銀行を辞めさせられる。

 この男の故郷の家は貧乏だった。父はある日失踪した。
男が就職に苦戦していたころ、偶然父を見かける。父はきたない女とゴミ捨て場をあさって廃品を回収していた。父と女の運転するトラックに乗せられ、父と女が住む家に連れられて行った。傾いた廃屋といったふうの家だった。そして、何日かの後、肺炎を発症した父は病院にかかることもなくコトンと咳を一つして亡くなった。どん底の人間が味わわねばならない最後の末路だった。

 主人公の男は、いくら就職活動をしても、再就職先は見つからない。「私の銀行で培ったノウハウを生かしてほしい」このプライドが鼻につく。求人会社は「そのプライドを捨てる」
ことを希望しているのに。

 父親の死にざまをみれば、面子を捨てないと自分の末路も同じになることを薄々は感じているが、それでも今日も履歴書を書き、面接に臨み、不合格を、繰り返している。
 この短編集のタイトルである「起終点駅」も国選弁護人にナルシストを感じていて現実が見えない男が主人公になっている。

 男の切なさと子供っぽさ、あほらしさが混在している作品集だった。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 日記 | 06:46 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

帚木蓬生   「風花病棟」(新潮文庫)

 良心的医者を主人公にした短編集。

 「チチジマ」が印象的だった。
主人公はとある県の県立病院の院長をしている。その院長が、ロスで開催される感染症国際学会でポスター講演をすることになった。ポスター講演というのは論文をポスターに書きそれを展示。参加者が展示場まわり質問し、それに回答する形式の発表を言う。

 主人公がポスター前で待っていると、展示会主催者の座長を中心とした一行がやってくる。その中の一人の学者が報告内容をみて、「君は軍医だったんじゃないか」と問いかける。主人公は戦時中父島に軍医として滞在していた。実は質問者のマイケルも父島にいて「僕らは戦友だ」と主人公に言う。敵なのに戦友というのは奇異な想いが主人公はする。

 マイケルが父島に滞在していたのはたった2時間。実は自らが乗っていた戦闘機が故障して、墜落。父島の港の近くで浮いていたのを米軍が救助してくれ命が助かったのであった。
その墜落と救助の一部始終を主人公はみていた。

 翌日マイケルがサンディエゴの自宅に主人公を招いてくれた。そのサンディエゴへの車中で主人公は当時の父島の悲惨さを懸命にしゃべった。それから、故郷の富山の空襲で妹と母を失ったことも。

 マイケルは熱心に聞いていた。そして質問した。「父島には米国人捕虜はいたのか」と「いた」と答えると、「その捕虜はどうなった」と聞く。
 「全員処刑された」
その後主人公がとんでもないことを言う。
 「父島での日本兵はみんな飢えて餓死寸前だった。だから、処刑した人から肝臓をとりだし、焼いて幹部兵が食べた」と。

 そこから言葉の交流は殆ど無くなり、沈黙が支配する。
 マイケルは主人公に空襲の後、妹とお母さんの遺体は見つかったかとポツリと聞く。遺体は全部真っ黒に焦げていて、結局遺体はみつからなかったと主人公が答える。

 肝臓を食したことと遺体がみつからなかったことが熱く二人の心に反応した。二人が本当に「戦友」となった瞬間だった。2人の熱い関係は、マイケルが亡くなるまで続いた。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 日記 | 06:44 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

藤原伊織    「ひまわりの祝祭」(講談社文庫)

 ゴッホの名作「ひまわり」は、ゴッホのアルル時代に7作描かれたとされているが、実際は8作描かれたのではないかという、主人公の自殺した妻の推理。その仰天な前提がユニークで物語に引き込ませる。

 更に、その8作目の「ひまわり」は実在していて、日本に持ち込まれていた。暴力団や、大企業、画商などが入り乱れた最後の晴海ふ頭での争奪活劇は流石ハードボイルド第一人者作家である藤原、読者を興奮させる。

 しかし、もうひとつ面白味が無い。
まず、女性が2人でてくる。一人は主人公秋山の妻。それに、元風俗嬢の加納麻里。妻はすでに自殺しているから、仕方ないかもしれないが、2人ともどうも影が薄い。麻里など何のために結局存在していたのかがわからない。最後主人公秋山のために死んでゆくところもうひとつ納得できない。

 それからゴッホの「ひまわり」は100億円してもいいくらいの傑作である。それが発見されたとなると、世界は大騒ぎになるはず。それなのにいかにも結末がさびしい。最初の物語の設定がすごかっただけに、残念である。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

榎本まみ   「督促OL奮闘日記」(文春文庫)

著者は、クレジット会社で、支払い督促を行うコールセンターに勤務している。

本当なのかわからないが、今キャッシングサービスを利用しているひとは、1700万人もいるのだそうだ。表にでない人を含めると5人に1人はキャッシングをしているとのこと。
 それから、3年ほど前に法律が変わり、昔のような、家や会社におしかけ強引に借金取りをすることは禁止されている。そのかわりに年収の30%以上は貸すことができない総量規制が行われている。複数の会社から借金していても、金融、クレジット会社は信用データを共有していて、借金申込者がいくら借金をしているかがわかるようになっている。

  面白いのは、1000万円以上の年収のある人にも、結構借金をしている人がいるそうだ。1000万円あれば、最高333万円まで借金ができる。それで、安心して、少し背伸びした生活をする。車や、着る物、食事、旅行などを豪華にする。それを気楽にキャッシングで賄う。そのくせがついて、頸が回らなくなる人も多い。

 今は家に直接借金とりにでかけることはあまりないが、借金が多額にある人は、家を訪問すればわかるようだ。隣の家にも、ローン勧誘のチラシがある家。借金する人の周りには、借金をする人が集まる傾向がある。また、玄関にたくさんの靴が乱雑にある家もあぶないそうだ。

 それから、冠婚葬祭の費用のためにキャッシングする人もたくさんいる。女性は結婚式に呼ばれるとご祝儀だけでなく、衣装、美容院など多くの出費をする。それが数か月の間に何回もあるととても今の給料では賄えないから。

 そうか、それで最近は結婚式をあげなかったり、安いパーティで済ます人たちが多くなったのか。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

藤原伊織    「遊戯」(講談社文庫)

本間とみのりは、ネットでのビリヤードゲームで知り合う。そして、互いに関心があって、実際に渋谷で会う。

 本間の父は高級外務官僚。しかし、本間を幼少のころから、暴力を使って痛めつけることに快感を持っていた。
 一方みのりは神奈川県警にキャリアとして刑事をしている父を持つ。
本間の父がワシントンから日本に帰り、すぐ亡くなるのだが、その遺品から本間は拳銃をみつけ、それを今も肌身離さず持っている。不思議なのは、弾丸はすべて充填されているのだが、その種類が2つある。ということは、父がアメリカか日本で銃をしようしたことがあるということか。

 2人がつきあいだして、奇妙な事件が2人のまわりに起こりだす。それに、いつも自転車に乗っている男が2人を付き回す。この男の正体は誰だ。

 そして、本間は本間とみのりのIDとパスワードが盗まれ、本間とみのりのやりとりが全て誰かによって把握されていることを知る。何のために、誰が。

 これは結構面白くなるぞと思っていたら、藤原伊織氏死去のため未完の文字。
少しショック。解説をしている親友だった黒川博行。是非この後を藤原に代わって書いてほしい。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

池澤夏樹   「楽しい終末」(文春文庫)

福島原発事故はどう考えたらいいのだろうか。

今は核兵器という言い方をするが、僕らの小さいころは、原爆、水爆、原子爆弾というのが一般的であった。核兵器より、恐怖が一段と増し、リアリティがある呼び方だった。
私も、広島、長崎の現場は知らないが、少なくても、小さいころはよく町にある映画館に連れられて行って、原爆の映画を見せられ怖さを身に沁みて感じた。そして、アメリカやソ連が原爆を使えば、一瞬にして世界は滅びると思った。そんなことを描いた「渚にて」という恐怖映画があった。
 原子力発電所で、一たび大事故が起こり、放射能が拡散すると、日本は滅びると僕らの世代は思っていた。そして福島の大事故が起こった。

 もちろんこの事故は、大災害をもたらし、未だに故郷へ戻れなく辛い日々を送っている人たちがたくさんいる。
 しかし、僕らの世代がその怖さを喧伝され刷り込まれていた世界や日本が全滅するという状況にくらべれば、被害は軽微だ。東京など放射能があたりかまわず降り注ぎ、多くの人々が死んでゆき、死の都市になるように想像していた。
 一部の地域が被害を受けたくらいだと、当事者でない人々は、事態の深刻さには無関心である。だから、また原発が稼働される。

 戦争とか平和とかずーっと人々は古くから論じられてきて、今なお論じているが、こんな状態では、人間が絶滅しないと、平和や核兵器の無い世界、原発の無い世界は実現しないのだろうか。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

庄野潤三   「けい子ちゃんのゆかた」(新潮文庫)

平成17年出版の本だから、実際は平成16年の頃の庄野家のことが書かれていると思われる。それにしては、描かれている風景や暮らしはどことなく昭和の時代を醸し出している。

 正月2日、庄野一族郎党が庄野家を訪れる。子供、孫、曾孫まで。夕食もテーブルではなく、座机を並べそこにテーブル掛けをかけて、こたつのようにして座って宴会をする。夕食が終わると、全員で部屋を移動し、百人一首、カルタとり、最後に福笑いをする。ゲーム機全盛、家族はバラバラな時代。庄野家は希少価値がある。

 夜、庄野がハーモニカを吹いて、併せて妻が歌うのが毎日。レパートリーが拡がった。「早春賦」「春が来た」「春の小川」「どこかで春が」「夏は来ぬ」「虫の声」「クリスマス」特に「どこかで春が」がお気に入りのようだ。

 それにしても確か70代後半に庄野は病で倒れ、手足の機能を失ったはず。懸命のリハビリで機能が復活。何とこのエッセイを書いている80歳では、毎日24000歩も散歩で歩いている。驚異である。

 それから、つぐみが庄野の庭に正月過ぎに毎年やってくる。つぐみは渡り鳥で、シベリアからくる。つぐみはシベリアを発つとき小枝を口にくわえる。疲れて休むとき、海に小枝をうかべそこにとまって休憩するのである。そんな話も載っている。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 05:50 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

柚木麻子  「私にふさわしいホテル」(新潮文庫)

この作品は、ポプラ社小説大賞を思い出す。児童小説出版で有名なポプラ社が、本格的分が小説出版世界に飛び出すため創設した賞。驚愕なのは大賞受賞作家への賞金が2000万円。そんな賞はかってなかった。そして、更に驚いたのがタレントの水嶋ヒロの「KAGEROU」。完全なるデキレース、賞金は辞退してもらうが、落ち目のタレントを再度売り出すことへは、最大の宣伝にする、一方ポプラ社も出版社としての箔をあげる一挙両得を狙った企画と大騒ぎさせた。
 この作品にも、島田かれんと女性にはなっているが、水嶋ヒロと思しきタレントが登場している。ポプラ社は社名が連想できるようプーアール社となっている。

 どこまでが実態なのかよくわからないが、作家と編集者及び書店の内幕を暴く小説になっている。大物作家の東十条は誰がモデルかよくわからないが、後は主人公(多分モデルはこの小説の著者柚木)以外は誰のことが書かれているか連想ができる。

 そして白眉は驚くことに朝井リョウは実名でこの作品に登場。下積がない鼻高々の売れっ子作家になっている。

 それにしても、出版社にとっては、とんでもない作品。よく新潮社はこの作品を出版したものだと感心する。柚木はこれで作家としてやっていけるのだろうか。心配になる。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 05:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

今日も朝日を読んで、機嫌が悪い

 朝日新聞は朝刊しか読んでないので、わからないが、少なくても朝日朝刊には、靖国神社で爆破事件が起きていたこと、更に捜査により犯人が韓国人と特定されたことは載っていなかった。それで、今朝の朝刊でいきなり再入国した容疑者を逮捕したと社会面に大きく掲載されていたので、びっくりした。

 そして、その記事は何段かの枠組みになっていて、それぞれの枠の記事の前に大きな見出しがついていた。
その一つの大きな見出しに腰をぬかした。
  「韓日関係 影響懸念」
まず、日本の新聞なのだから
  「日韓関係」
と見出しをつけないといけないだろう。どこの国の新聞なのかと思ってしまう。
 見出しが「韓日」だから、韓国での反応が書かれているのかと思ったら、確かに韓国政府関係者のコメントもあったが、並列して、日本の明治学院大学原教授のコメントも掲載されていた。

 100歩譲っても、並列して書くのなら猶更「日韓関係」とするのが当たり前なことである。
 今日も朝から胸糞が悪い。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 11:31 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

六道慧   「ブラックバイト」(光文社文庫)

  新聞は斜め読み、テレビは斜め聞きだから、うすぼんやりとはわかっていたが、このミステリーを読むと、暴力団のしのぎは生活保護者を食い物にするところに及んでいる実態がよくわかる。

 いつだか、簡易宿泊所が火事になり、たくさんの死者がでたが、あれもこの作品が現実のことだということを知らしめた。
 「三種の辛技」という言葉がある。余程特殊な才能、技能、経験が無ければ、50歳を過ぎると、「清掃、介護、警備」の仕事しかなくなってしまうことを言う。更に歳を重ねて、稼ぎも貯金も無く、住むところも無いとなると、生活保護を受けるしか生きる道が無くなる。

 そこに暴力団や悪徳業者がつけこむ。働けない体になってしまった人を集め、彼らが捜したオンボロ宿泊所に住まわす。この宿泊所の環境は劣悪で、この作品のようにHG施設と言われている。蠅とゴキブリがたむろしているのである。さらに、ここに大人数を詰め込む。
 まず集めた人たちに生活保護申請をさせる。そして、受給した生活保護費から1万円か2万円を当人にやり残りは暴力団が吸い上げる。宿泊者にはみすぼらしい食事を与えるだけ。。

 劣悪な環境にしておくのは原因がある。暴力団は、住人が早期に死ぬことを望む。一人当たり100万円の生命保険をかけているからである。もちろん保険料は生活保護費からだしている。
 で、この作品にあるように、少し長く生きると事故死や自殺とみせかけ、宿泊者を殺す。
 こういう宿泊所はたくさん全国にはあるのだろう、税金が暴力団に吸い上げられている。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

明野照葉  「そっと覗いてみてごらん」(光文社文庫)

 この本を読むと、人間というのは、絶対的に物事を考えるのでなく、相対的に物事を考えるのだということをつくづく思ってしまう。

 自分がどん底にいて不幸な人間だと感じているときは知らず知らずのうちに、それに比べあいつは上手くやっているとかあいつは恵まれていると思っているし、自分は恵まれている、幸せだと感じているとき、それにしてもあいつは不幸だとか、少なくてもあいつよりは人生上手くいっていると考えている。
 そして、不幸だと思っている人は、常に上手くいっている人に対し、憎悪、嫉妬を持っている。一方上手くいっていると思っている人は、無意識のうちに、例えば誰かにあいつだめねとかあいつのようにはなりたくないと喋っている。
 喋りというのは記録にも残らないし、後で気が付いて、そんなつもりじゃなかったとか、そんなこと言ってないよとある程度修正がきく。

 しかし、ネットで思わずつぶやいてしまうと、一気につぶやきは拡散するし、記録として残り否定しようがない。この作品では、不幸に思っている人が、ネットでのつぶやきを読んで、そこから自分を隠しながら、細心の注意を払い、つぶやいた人にたいし、反撃を始める。それは執拗で、つぶやいた人が自分より不幸になるまで、絶対やめない。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 日記 | 06:28 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

朝日新聞はどうして日本を懸命に貶めるの

 全く知らないのだがEXOという韓国のバンドがあり、熱狂的に日本で人気があるらしいと今朝の朝日新聞で言っている。
これだけ韓流が人気があるのに、日韓関係が過去に例をみないほど冷え切っているのは誠に嘆かわしいと朝日新聞はいう。

イミョンバク元大統領が竹島を訪問、安倍首相が靖国参拝をしたところから両国関係の悪化が始まったのだそうだ。これにプラスして
長い論文の中で、部分的には日本にも関連しているかもしれないが、韓国に対し触れているのは、韓国政府が教科書を国定にするというところだけ。
 後はひたすら、慰安婦問題を含め、一方的に日本が変節していることが原因と、日本を貶める。ヘイトスピ^-チ、在日韓国人の日本での参政権、在日韓国人の通名問題とすべての悪化原因は日本にあるとうような論文。

反韓嫌韓本の活況。それも朝日にとっては情けないことのようだ。
しかし、どこかおかしくない?嫌韓反韓本が売れる背景はどこにあるの。韓国はヘイトスピーチもないし、穏やかな国なの?
韓国では反日は何をやっても罪は問われず、日本の国旗を焼こうが、産経記者の車に体当たりしたり、卵を投げつけようが、称賛されることはあっても、罰則は何もない。
 それでいて、朝日は韓国に対しては口をつぐみ、日本だけが一方的におかしいというのは本当にあるべき日韓関係を考えて記事にしているの。

 もう少しバランスのとれた記事はできないの。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 16:46 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

津村節子  「夫婦の散歩道」(河出文庫)

私が最も好きな作家が、吉村昭である。そして、吉村昭が好きになったのは、初めて吉村が出版、それも自費出版した本、「青い骨」に収められていた「さよと僕たち」を読んでから。
吉村の妻である、津村節子のこのエッセイを読むと、津村が吉村作品で最も好きな作品は、長編では「ポーツマスの旗」短編では「さよと僕たち」だと書いて、そして微細にどこが津村に感動を与えたのかを記している。
 吉村の大ファンとしては、本当にうれしい。

 面白いエピソードがある。
昔、よど号ハイジャック事件というのがあった。連合赤軍の連中が、羽田発のJAL機「よど号」をハイジャックして北朝鮮へ行かせた事件だ。
 実は、吉村昭はその飛行機に乗る予定だった。しかし、何かがあり、一便遅れた。
てっきりよど号に乗っていると思っていたある記者が津村のところに電話してきた。次の便だと津村から知らされその記者はえらくがっかりする。吉村が乗っていれば恰好の記事になったのにと思ったのだろう。

 津村が長崎空港から乗った飛行機がものすごい乱気流にまきこまれ墜落するほどに揺れた。そしたらどこかの新聞記者がやってきて
 「津村さん。遺書は当社に」と言った。
凄い記者がいたものである。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 09:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

村松友視    「なみだ壺」(新潮文庫)

作品のタイトルになっている「なみだ壺」というのは、ローマ帝国の時代に戦場から兵士が帰ってきたとき、妻が待ち焦がれて毎日流した涙を証拠としてためておいた壺のことをいう。それが本当の涙かどうかはわからない。どことなく、女性のしたたかさ、業を思い起こさせる。

 主人公の露木は長年勤めていた出版社をやめ独立、編集プロダクションの会社を立ち上げる。そこにテレビ局で活躍していて、出世頭のプロデューサーの近藤が新企画をもちかける。
 売れっ子プロデューサーともなると、局内では味方もいるが、敵も多く抱える。今近藤は敵に足元をすくわれ、はじき出されそうな状態にある。
 そんな露木の前に、百合子という花形編集者が現れ、露木と一緒に働きたいという。さらにそこに社員である早穂子が百合子のアシスタントとして働きたいと申し出る。

 近藤は結局自らが足元をすくわれることになる百合子との不倫が起こすスキャンダルをそのままに露木におしつけようと画策する。早穂子がそれに立ち向かうように振る舞うが、それも動機はあまり純粋ではない。
 百合子も、早穂子も打算を隠して、露木に好きとか愛してるという言葉や、肉体を使おうとして言い寄る。純粋な露木はそれに翻弄される。

 中年をすぎた男と女の恋愛など、愛、恋の前に打算や企みがある。「なみだ壺」の涙のように。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 09:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

押川剛   「子供を殺してくださいという親たち」(新潮文庫)

著者は精神障碍者移送サービス業を営んでいる。精神障碍者移送サービスというのは、精神障碍者やその家族を説得して、病院に搬送したり、施設に搬送する業務を行う仕事である。

 まだ私の学生時代では、精神病は異端の病気扱いで、差別用語になるがきちがいと言われたり、精神病院は脳病院といわれ、そこに入れば出てこられないなどという風評がたち、家族は何とか隠そうとするのが一般的だった。
 今は、街には心療内科とか神経内科、神経科医院はあふれかえっている。それだけ社会が病んでいてストレス社会になっていることがあるかもしれないが、精神病が一般的になり、隠す必要もないし、病院への敷居が低くなったことが大きい。

 しかし、この本を読むと、精神的疾患の現場の荒廃ぶりはかなりひどいことがわかる。
まず、精神病が発症した患者、その家族は精神病ということに寄りかかる。患者は自分は病人であるから、何でも言うことを両親や兄弟は聞けと迫る。とにかく、わがままに振る舞う。そして患者の特徴は精神を病んだのは、親や家族が悪いと必ず他に責任を転嫁する。
 一方親は、とにかく病院につれてゆき、ひたすら入院をさせるよう医者にお願いする、また入院ができる病院を探すことを懸命にする。自分で患者を世話したり、面倒をみるのを嫌うからである。何よりも家から出て行ってほしいと願う。

 精神病というのは、他の病気と違い、病巣がわからない。だから、病気、病名の判断は医者の経験や知識だけでなされる。それで、薬などの処方をするのだが、改善がみられない場合、最近は患者が多いせいか、医者が治療を放棄することが当たり前のようになっている。つまり、通院、入院を拒否するのである。また入院もmax3か月。それ以上は病院から追い出される。

 そもそも、精神的病になる人は、人との付き合いができない、コミュニケーションがとれない。それで、社会から隔絶されることで発症する人が多い。薬の処方などで、病気が改善しても、社会に溶け込めるような施策を講じてあげないと、また同じ病気を繰り返すことになる。心の病の闇は深い。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 09:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

佐川光晴    「あたらしい家族」 (集英社文庫)

斎藤美奈子が解説で言っている。今は、単身世帯が全世帯の30%を占めているとのこと。寂しい世帯が多いのだ。もちろん、結婚をしないままの独身世帯もあるのだが、圧倒的な単身世帯は、相方が亡くなり一人になった老人がおおいのだろう世帯だ。

 この物語は、老人グループホーム「八方園」を描いているが、テーマはあるべき家族の姿だ。
八方園は、古ぼけたアパート。家を追い出されたりした御婆さんや、一人暮らしの御婆さんが、あちこちからわらわら集まってきて住みついたアパートだ。そんなアパートに唯一御婆さんでは無い主人公後藤春男が、アパートをグループホームに替え運営をする。このアパート全体が一家族を連想させるしかけになっている。そしてその家族の要が主人公の春男だ。

 家族というのは、人間社会で最も重要な集団のように思われるが、絆はそれほど今は強くない。夫婦はいつも離婚しようとしているし、子供は親など無視、兄妹もそれぞれ勝手。それを世間体とか、会社でマイナスなってはいけないなど負の動機で何とか結びついている。 所詮人間は一人一人独立しているのである。

 「八方園」に集まった御婆さんたちも、それぞれ文句もあり個性的であり、ちょっとしたことでバラバラになる状態だ。でも、逃げ場もないから、憎たれ口は言うが、ぎりぎりのところでまとまる。またそれをまとめる春男の個性が上手く描かれている。
 家族というのは、残念だが死んでしまう人もでる。巣立つ人も出る。でも、子供、孫も新たにできるし、新しい嫁さんもくる。でたり、はいったり、生まれたりするもの。

 今は出来上がった家族はそのうちにバラバラになるだけで、家族のあとかたも無くなる場合が多い。他人同士でも強くまとまる八方園が、現在の家族にたいする反面教師になっている。
 「八方園」家族は、昔のテレビのホームドラマを彷彿とさせる。 

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 09:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

庄野潤三   「うさぎのミミリー」(新潮文庫)

心を温かくする、優しいエッセイである。
著書80歳のころの日々の暮らしを描いている。家族、親族の変化、それに伴い著者の変化が本当に味わい深くゆっくり、ゆっくりと進む。庄野夫妻を中心に、親族、家族が集まり動き、季節が動く。
 こういう家族、親族のあり方が無くなって久しい。

 その庄野夫妻の暖かく、優しい関係が微笑ましい。
80歳になる5-6年前から、いつも眠る前、庄野がハーモニカを吹いて、それに合わせ奥さんが歌う。大概が、童謡、唱歌だ。
 「旅愁」「故郷の廃屋」「赤とんぼ」「冬の夜」など。
その場面にくると、私も思わず口ずさんでしまう。いい夫婦だ。

 最高にジンときた文章、場面。
「夕食後のデザートは、妻が長沢のローソンで買ってきた生チョコタルトを半分分けにして食べる。・・・・おいしい、おいしいと言ってふたりで食べる。生チョコタルトという名前もいい。」
 どうでもいいようなローソンと生チョコタルトが生き生きと躍動している。

 完全に夫婦のすばらしさにノックアウトした。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ



| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

嵐山光三郎   「文人悪妻」(新潮文庫)

明治、大正、昭和のはじめの有名作家は、男性も女性もとにかく淫蕩だった。3回、4回の結婚離婚は当たり前。心中や、心中未遂も年がら年中。そして、その経験を恥ずかしくも無く、あからさまに小説にして世の中に問うた。

 この本を読むと、その淫蕩さと彼ら彼女らの名作が結びついて、何だか嫌悪感がでてきた。
島崎藤村など、小説の構想に行き詰まり、姪っ子を強姦にちかい方法で、肉体関係を結び、それを「新生」という長編小説にして出版する。

 共産主義、社会主義者は、ストイックで精神主義と思うのだが、とてもそれどころでなく、その淫乱ぶりは一般人よりすごかった。もちろん時代が時代だったから、社会主義社会の実現はできないのは当たり前だが、それ以前に乱れた関係が組織を堕落させ崩壊させたように思う。

 平塚らいてうが
 「元始、女性は太陽だった」と言ったが
本当にそう思う。
 男はその太陽を廻る惑星。しかし近付きすぎて、燃焼しないように、十分注意を払って回らねばならない。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

池澤夏樹   「明るい旅情」 (新潮文庫)

イスタンブール、ドミノニカを始め、世界のあちこち旅行記。
その旅行記も素晴らしいと思うのだが、最初の2章が際立って素晴らしい。
最近、これほどまでに、胸を打つ熱い文章に出会ったことは無かった。魂を揺さぶられた。

 今、子供たちが夢中になるものは何だろうか。スマホ、ゲーム、インターネット?
私の小さいころ、まだ家の前の国道は舗装されていなかった。だから、行きかう車も少なかった。そんなとき、たくさんの車をみることのできるのは、自衛隊の車だった。
 緑の自衛隊の隊列車が通るとなると、子供たちはみんな家をでて、車の数を数えた。そして、隊員の格好良さにボーっとしたものだった。

 それから、やっぱし憧れは汽車だった。汽車が来るぞとなると、皆で鉄道の坂をかけのぼった。そして、貨物列車はみんなで大声をあげて貨車の数を数えた。
 汽車は蒸気機関車でなくてはならない。西へは下り坂だったが、東へは登り坂だった。
登り坂は、機関車が煙だけでは無くて、機関車全体に蒸気を発し、ゴーゴーとうめき声をあげて走った。機関士は顔を真っ赤にして機関車に石炭という食事を与えていた。いつも、叫ぶ踏切での「ボー」っという声が実に悲しげだった。だから、私達はがんばれ、がんばれと大声をあげた。

 汽車が、蒸気機関車が、私達子供の全てだった。その強い想いがこの旅行記に実によく描かれている。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

高峰秀子   「私のインタヴュー」(河出文庫)

高峰秀子は彼女のエッセイで知ったが、女優であることを嫌悪し、母との確執も原因しているのか、華やかな映画女優だったにしては、気持ちはすさび、蓮っ葉のようなところがある。

 それでもこの高峰のインタビュー集は驚いた。このインタビューが行われたのは昭和27年。高峰女優として絶頂期であり、アイドルである、それで、インタビュー相手は各界の著名人や同じ俳優かと思ったら、なんと全員無名の一般人。
 上手く表現できないが、アイドル絶頂期の松田聖子が、そこらの通りを歩いている人と対談したことと同じ状況。とても、まず所属事務所がそんなことは絶対許さない。その許さないことがなされたのが、この対談集である。

 昭和27年。面白い。女性の職業としてもてはやされていたのが、女中さんや、助産婦さん、それに最も驚いたのが美容師さん。
 今は、人口減少に歯止めをかけるため、出生率を上げようと国も懸命に取り組んでいる。でも私の小さいころ、数歳年上の子供たちは、7-8人兄妹など当たり前。で、昭和27年には、どうやって産児制限するかが国の課題だった。田舎でのコンドームを教え普及させるための苦労がこの対談集に描かれている。

 時代の移り変わりのすごさにため息がでた。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 05:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

帰ってきたアブサン

爺やの感想はこちらです。
なお、「猫の修行の場所は、木曽の山中と遠州森の秋葉神社の2つある」と言いだしたのは作者の奥さんです。
「私を慰めるために思いついたサービスだろう」と、作者は振り返っています。

IMG_8684.jpg

「猫絵十兵衛」だといろいろ地名が出てきます。伊豆にも武蔵にもあるとかなんとか。あと、猫岳。

奥さんが三日くらい目を泣き腫らしていたのに対し、作者は平静を装い、「アブサンの死についての感情を世間に向けて大袈裟に表さない」と決めたそうです。
先に酔っぱらわれてしまい、介抱役に回ったような気分だったとも。

話はそれますが、1か月ほど前にちこりが亡くなりました。
IMG_7730.jpg

「ご飯を催促に来ないし、痰が絡んだような音を出している。明日、獣医に連れて行こう」が、10月27日。
獣医で、「腫瘍もないし、口内炎もないし、喉の炎症でしょう」と薬をもらったのが10月28日。
死んだのが11月2日の夜。15歳でした。

tiko806m.jpg
幼子の時代。

「苦しんだ期間がそんなに長くなかったから、よかったよね」と涙ぐんだのが母。
「明日(3日)は祝日だけど、引き取ってくれるかな。うちに丸一日置いておいて、臭ったら嫌だな」と思ったのが私。
火葬場の受付で、「なんだ? 消費税とるのか」と突っ込んじゃったのが爺や。(しかも、正式名称が「ちこ」だと思っていたらしい)
そんな家族です。介抱役はいらない。

あんまり痩せず、毛もふさふさのままで、火葬場の人に「雑種なんですか?」と意外そうに言われました。雑種です

tiko806.jpg
先住猫にちょっかいを出していたのでした。

あとがきは群さんで、「読み始めた途端ティッシュが鼻の穴から離せなくなった」とのこと。そりゃ大変だ。
「動物ものの番組や本は、楽しく笑える内容だと確実に分かっていないと、とてもじゃないけど見られない」と。
似たようなこと言っている人がいたなぁ。
私も、「星守る犬」みたいなのは微妙です。
「ごんぎつね」は「そんなものだよな」と思うけれど、「ずっとそばに・・・」は「絵本にしてはハードな内容だな。アリなのか?」とひっかかる。
アブサンは何の問題もない。

| 日記 | 21:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT