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2015年10月 | ARCHIVE-SELECT | 2015年12月

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三浦しをん 「ロマンス小説の七日間」(角川文庫)

  この小説を読んで、てっきり三浦さんは、ハーレクイン小説作家か昔でいうとコバルト小説作家経験あると思っていたが、経歴をみるとそうではないことを知り驚いた。でも、漫画をはじめハーレクインロマンス小説はたくさん読んでいる。そしてこの作品は実にその特徴がよくでている。

 主人公のあかりは海外ロマンス小説翻訳の仕事にしがみついている。神名(カンナ)君とアパート同棲中。そのカンナ君が、ある日帰ってくるなり、会社を辞めちゃったと言う。あかりはカンナ君のわがままに怒り狂う。
 カンナ君に対する怒りや不満イライラが募る。それが、あかりの翻訳中の訳文に表れる。
だいたい、ロマンス小説の売りは、愛し合う2人が、周囲の反対、或は、恋敵からの強烈な攻撃にあいながらも最後は克服して2人が添い遂げるというパターン化した筋書。
 加えて、物語に挟まる、濃厚なラブシーン。

 ところがあかりはカンナ君との日常の軋轢から、パターン化されたロマンス小説の枠をとっぱらって、オリジナルの物語とは全く異なる物語を創るようになってしまう。
 濃厚なラブシーンはあるが、その他は悲劇的結末となり、物語の途中陰惨な殺しやハードボイルド的な決闘シーンも勝手に創作。とてもロマンス小説とはいえない小説を書く。

 これを読んで、三浦さんには自分の小説を書きたいのだが、それがなかなか実現できない下積の時代があって、その反逆心でこの小説ができたのではと思った。

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井上ひさし   「読書眼鏡」(中公文庫)

井上が読んだ本を引金にしたエッセイ。

二つだけ考えさせられる箇所があった。

現在の宣伝媒体。最も大きいのはテレビ。そしてネットなのだがそれについで大きいのは新聞などに挟むチラシなのだそうだ。産業としても一兆円を超えている。
 私達は、市場、経済の動き、今後の動向をいつもテレビや新聞の上から目線の偉そうなお話や記事によって知る。そしてこれらがいかにいい加減だったかをいつも思い知らされる。地についた経済や市場の動向を正確に調べるには、下からの積み上げ、すなわちチラシを収拾し過去から現在の流れを把握、そこから将来の見通しを導きだしたほうが説得力があり、かなり当てることができると井上は論ずる。納得性がある考えだ。

 わたしの会社でもよくお偉いさんが言っていたが、会社には3つの大切な関係者がいる、株主、お客、そして従業員、この3つのステークホルダーを大切にする会社にならねばならないと。

 ところが調査によると、こういうアメリカ、コンサルタント仕込みのことを主張する会社ほど、倒産が多いのだそうだ。(多少偏見があるとは思うが)
 最も生き延び成長ができる会社は「社会貢献重視型」の会社なのだそうだ。

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平 安寿子   「しょうがない人」(中公文庫)

平 安寿子   「しょうがない人」(中公文庫)
平さんは私より2歳年下。文壇デビューは本当に遅い46歳。しかも最終学歴は高卒。苦労もされただろう。その味が、コメディとはいえこの作品でも十分に発揮されている。年輪を感じさせる。
 いつのころからか覚えてないが、コンサルタントと称する人が世の中を闊歩するようになった。何でもコンサルタントに依頼して会社や従業員を変えようとする経営者が増えた。
コンサルタントというのは詐欺とは言わないが、やたら有名経営者をブランド化して話す。
もちろんその有名人と仲が良いといばりながら。
 私の会社にも、超有名大学の教授がバイトで招かれていた。彼はソニーの出井さんを名経営者として称えた。パナソニックが大赤字に陥ってそれをV字恢復させた中村さん。その陰で糸を引いていたのが俺だなんていうコンサルタントもわが社にやってきた。
 で、わが社はコンサルタントが口角泡をとばし変革しろと言われても変わらなかった。社員、社長がバカだとコンサルタントは言い放った。酷いと思う一方、そうかもしれないなんてちょっぴり思った。

 少し前までは、夫の定年を待って離婚というのが話題になった。毎日夫が家にいるのがうっとうしいことが原因。そんな風景もこの作品で描かれるが、それはちょっと時代遅れ。
 今は割り切っているから定年など待たずに離婚する。逆に定年まで添い遂げられれば、何とか夫婦は継続する。

 そんな話が混ざっている短編集である。

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平 安寿子  「くうねるところにすむところ」(文春文庫)

最初のところで度胆をぬかれた。上司との不倫に決別させられた主人公の梨央が、居酒屋で酒を飲み、飲み足りなくて、自動販売機で缶ビールを幾つか買い込んで、それを歩きながら飲んでいるうちに完全に酔っぱらう。その勢いで建設中のビルの中に入り込み、組んだ足場を6階まであがってしまう。「ばかやろう」と叫びたかったから。でも、上がって下をみたら恐怖で足がすくみ、腰が抜けて動けなくなってしまう。
 ちょっと他の作品では見られない出だし。これは破天荒な主人公だ。さぞ世間をさわがせ、ふりまわす平さん得意の女性なのだろう、これは面白いぞと読みだす。

 ところが、この梨央が全然破天荒でなく、いたって前向きで、毒などさらさらない女性。ならば、周囲に引っ掻き回す女性がいるはずと思うのだが、これも全然いない。ちょっと男性に気弱な人間がでてくるくらい。

 全く平凡極まる物語だった。完全に拍子抜け。
 出だしがすごかっただけに、残念しきり。

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平安寿子   「なんにもうまくいかないわ」(徳間文庫)

 こんなこと普通の女性が言ったりやったりするわけないじゃん。でも、ありそうな気もする。上手いよ平さんは。普通から2ミリか3ミリ逸脱している。絲山秋子のように何センチも逸脱して、確かにおもしろいけどありえないということは平さんの小説にはない。
 そしてこの数ミリの差の中に、とんでもない毒気をさしはさむ。この毒気、ときに読者をゾクっとさせる。
 この作品集にでてくる志津子。どこまでが策略でどこまでが地なのか判然としない。その志津子、策略が浮かんだとき表情を平さんが生き生きと描く。

 「志津子の特徴の大きい口(本人はオードリー・ヘップバーン並みと主張)を更に耳までひきあげた全面笑顔で」

それから世の亭主なる男性について
 「男はみんなケツの穴が小さくできているんです。女房怖い、人目が怖い、饅頭怖い、怖いものだらけで可哀想なんです。」

 このリアリティはどこで身についたのか平さんに聞いてみたい。

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三浦しをん   「極め道」(知恵の森文庫)

三浦さんは、活動的な性格にみえるが、することがなければ、一日家のなかでぐうたらぐうたらしていたい性格のようにこの本を読んで思う。
 そのぐうたら、面倒くさがりやの性格が災いして失敗したことがこの作品にある。

冬寒がりやのため、5枚、6枚と重ね着をして寝る。朝目覚めて、まあ私も似た性格だからそうしたい気持ちがよくわかるのだが、これを全部頭からすぽっと抜けさせ脱ごうとする。
 重ね着しているなかにはボタンダウンのシャツも入っているから、脱げるわけがない。それで思いっきり脱ごうとしたら、左ひじに大激痛がはしる。大声をあげるが、人間の性として二度目の挑戦をする。そして、また頭にズキーンと銃弾がはじけ、目から涙があふれでる。
 三浦さんは右利きだから、左手が動かなくても何とかなると思ったがそうはいかない。
だいいち服が着られない。それどころかブラジャーが装着できない。本当にどうしたのだろうと思う。ごはん時、箸は右で使えるが、お茶椀が持てない。

 困り果て何とかしてと、弟に言ったら、弟がどでかいチューブに入った塗り薬をくれた。馬につける薬だったそうだ。これが、不思議でどんどん痛みがひいて、もとに戻った。

 塗り薬は一時期痛みを和らげるために使われると思っていたが、根本的治癒薬になるのだ。私もばかをして最近首をひねって痛くなった。市販のスプレーを購入してふっかけたら確かに痛みが消え治ってしまった。薬はすごいと思った。

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川上弘美  「あるようなないような」(中公文庫)

 川上弘美は小学校のころ、作文が大嫌いだった。弟のことを書く。まだ、赤ん坊で可愛かったから。それを、毎年どうせ先生は変わるし、わからないだろうからと殆ど同じ内容で書く。
弟は、幼稚園にはいっても、小学生になってもずっと赤ん坊のまんま。
 これはまずいと思い、もうどうしようも無くなって、勝手に物語を創り、作文として書くようになる。日記みたいなものだと、ちっとも書く気がおこらないのだが、物語になったとたん、書くことが面白くてたまらなくなった。
 大学生のとき、所属したクラブが少人数なのだが、毎月手作り雑誌を発行していた。先輩が「書け書け」と催促する。だからやたらと書きまくり、雑誌に載せた。
 でも大学をでると「書け」と催促する人がいなくなったので、全く書かなくなった。
しかし、結婚して旦那の転勤で見知らぬ町に住む。専業主婦となり、一日中何の会話もなくなる。することもない。それで、レポート用紙に物語を書く。書くだけではつまらないので、それをピンでとめて壁に貼る。
 「連載第一回」と書いて。誰かが来たときに読んでもらうようにと。しかし、連載している間、やってきたのは、鍋の実演販売の人だけ。
 なかなか、変わっていて面白い。小説家川上弘美が誕生するまでは。

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田中康夫   「いまどき真っ当な料理店」(幻冬舎文庫)

 この本がよいのは、歯がうくようなオベンチャラでほめあげる店だけの紹介だけでなく、田中康夫だからできることだと思うが、実際の店名をあげてだめな店も紹介しているところ。それと万札を使わないと行けない店だけでなく、定食屋、ハンバーガー、お好み焼き屋まで、良い店を紹介いているところ。偏見もなく吉野家新宿一号店まで良い店として紹介しているのには、実際は知らないが好感をもてる。
 かってテレビにもよく登場し、時代の寵児となった、「ひらまつ」や「ミクニ」がけちょんけちょんにけなされているのは、正直庶民の僻み根性だが、やたらうれしい。
 たかが蕎麦屋とは言わないが、神田の「藪」、黒塗りの車でのりつけ、蕎麦が食べ終わるまで、車を待たせておく、そんな車が昼時には数台ある。東京はとんでもないところだ。そんな蕎麦屋があるとは。
 蕎麦屋も今は殆ど、午後のある時間を中休みする。蕎麦屋というのは、以前は呑み屋の代名詞だった。必ず良いお酒と、小粋なつまみがあった。歳をとると、夜繁華街にでて、酒を飲む習慣がいやになる。晩酌をしたい要求がなくなり、有色は小食にして八時くらいにはふとんに入りたくなる。
 そのためには午後3時ころ、ふらっとはいり良いお酒とつまみが必要となる。そんな店が昔はあったのに今は無くなった。さみしい限りである。

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平 安寿子   「愛の保存法」(光文社文庫)

平さんは、男女関係について本当によくわかっている。

短編集。本のタイトルにもなっている「愛の保存法」は、同じ男女が4回も結婚と離婚をくりかえす。つまり4回とも結婚、離婚相手が同じなのである。これはものすごくデフォルメしているけれど、夫婦の在り様をなるほどと思わせてくれる。

 夫婦には、とにかく何回か別れてやる、あんたなんか大嫌いとなるときある。そんなにいやならさっさと別れればいいのにと思うのだが、どういうわけか別れず、うだうだと夫婦を続けて、また別れると大騒ぎする。
 更に夫婦をコントロール支配するのはたいてい女性の方である。常に夫をあれこれと責めあげる。これに口答えなどしようものなら、大噴火となる。だから理不尽とは思いながら夫はじっと嵐のすぎるのを待つ。
 外へ行っても、旦那の酷さを吹聴する。そしていつでも別れてやる。熟年離婚をしてやると吠える。

 しかし、不思議なのは、それで旦那が亡くなったりすると、まあ一部には更に元気をます女性もいるが、寄りかかるものが無くなったようにがっくりして妻は落ち込む。

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川上健一   「ナイン」(PHP文芸文庫)

同好の士を募って野球チームを作る。作ったときは熱気があって、それなりにメンバーも集まる。このチームが、長い間継続すると、とにかく不思議なのだが、新戦力がまったく加わってこない。5年、10年同じ仲間がそのまま齢を重ね、平均年齢が高まるばかりなのである。
 地域でソフトボール、野球大会を10年くらい前までやっていたが、参加チームがどんどん少なくなり、最後は3チームのみ。そして、試合当日やって来ない選手がでて、試合にならず大会は中止。次の年から、大会は開催されなくなった。
 それにしても知らなかったが、野球は9人いないと失格になるということ。草野球ではライトは球が飛んでこないから、いらないとか、サードとショートは一人で守る、時にキャッチャーは相手チームから借りるなんてことをして選手不足をしのいだことを思い出す。
 これはルール違反だったことをこの作品で知った。

野球小説は、どうしても巨人、長嶋、王がかぶさりながら書かれることが多い。NHKの演歌歌手救済の歌謡コンサートを何となく彷彿させる。もう、そんな小説を読む人はいなくなってきている。
 野球は、今や地域に根差した球団経営になり、セパに関係なく人気は地域とともに盛り上がり、観客もたくさんはいっている。巨人、長嶋、王を頂点としたゲームから水平に全国に人気が分散された。

 時代に見合った小説を開発しないと、野球小説はすたれてしまう。

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斎藤美奈子   「文壇アイドル論」(文春文庫)

まだ、文壇はあるのだろうか。銀座の文壇バーやクラブ。そんなところに集まる作家は化石となった人じゃないのだろうか。

 音楽、スポーツどんな分野でも、最近は国民的スターとかアイドルはなくなり、それぞれの演奏家や選手に、それぞれのファンがつくようになった。

 ところが文壇がなくなった文学界にはスターとみなされる作家が登場するようになった。
その先頭を走っている作家が、村上春樹や村上龍、吉本ばなな、他には浅田次郎、池井戸潤
である。村上春樹の「ノルウェイの森」は日本だけで450万部も売った。海外もあわしたら600万部は売っているだろう。数十億のお金を村上は手にいれている。

 流行語大賞が始まったのは1984年。そのころから、地方からでたダサイ文化、音楽は弾き飛ばされた。都会高校生の香りがする「おニャン子クラブ」が登場、音楽は拓郎や陽水からサザンやユーミンに移行した。
 キャッチコピーが世相文化の中心となり、コピーライターが一行で何千万円を稼ぐ時代になった。「すこし愛して、ながーく愛して」なんて言葉が流行しだした。

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 つきつめて議論したり、汗臭く生きることが嫌悪され、軽くスキップして生きる時代に変わった。
 ファッションが大切、ふわふわとした時代に村上春樹たちはピタっとはまった。

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川上未映子    「発光地帯」(中公文庫)

村上春樹のエッセイを読むと、村上の部屋では常に音楽が流れ、そして、執筆以外では、楽しそうに多くの本を読む。海外にもよくでかけ、多くの友である作家たちと交流をする。
 川上は、元々はシンガーであり、作家をしながら音楽活動もしている。この本を出版した30歳では、日本大学に在学し、この作品でもゼミの風景がでてくる。

 30歳は人生に少し自信もでてきて、充実した活動をする時期である。しかし、このエッセイはどことなく灰色かかり、孤立が際立つ作品になっている。だらだらと日々過ごし、昼前に起きて、ビールを飲もうなどとしている。食事はいつもスパゲッティばかり。ぼーっとしながら空や外の風景をみつめ、涙ばかり流している。
 音楽人なのに、音楽は聞こえず、それに本を読む場面も全くといっていいほど登場しない。

しかし、灰色の風景の内側では、コンサートに行ったり、旅もあったり、同窓会などではしゃいだり、じっくり読めば30歳らしい活発さも見え隠れする。

 何か、芥川賞受賞者で純文学作家は、孤独で灰色に包まれていなくてはならない、そういうイメージを創ろうとして書かれたエッセイに思えてしかたがない。普通の等身大の川上を描いて欲しい。

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| 古本読書日記 | 06:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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辻村深月  「冷たい校舎の時は止まる」(下)(講談社文庫)

 上巻ではちょっとしたエピソードのように辻村深月と角田の確執が描かれるが、辻村の登場場面を忘れるほどに他の個性的な登場人物がたくさんでてくるので、このエピソードは物語の幹をなさないで、物語の本質を補完するためのものと思って下巻を手に取る。

 ところが驚いたことに、この小説の幹をなしているのが、まさに辻村と角田の確執だった。
1200ページに迫る大長編にふさわしく、現在の青春学生たちが深く抱えている問題を抉り出しているし、サスペンスとしての構想発想もスケールが巨大で、その解決に至る、仕掛けの散りばめ方も見事。辻村の力量にひたすら感服。これが処女作品というのだから、言葉がでない。

 クラス委員8人が、校舎に完全に閉じ込められ、外にでられなくなる。文化祭のとき、校舎から飛び降り自殺した生徒がいた。どうも、その生徒がこの8人のなかに混ざっているのではと8人は思う。しかし、8人ともそれが誰だったのかさっぱり思い出せない。
 秦氏て自殺したのは誰で、それがどんな理由で、それに閉じ込められた8人は元の世界に戻れるか、この2点で物語は進行する。

 物語を読み終え、頭にすぐ浮かんだのが、人が突然消えていなくなる作品、確か村上春樹の「海辺のカフカ」の冒頭のエピソードを思い出した。戦争中、先生が十何人かの子供をつれ、山菜とりに裏山にでかける。すると、ある瞬間に先生を残し、全員が消える。
 数日か忘れたがある時間を経った後、子供たちが倒れたまま現れる。そして子供たちはその数日間の記憶は全くなく、山菜取りをさっきまでしていたように振る舞う。ところが、たった一人だけ、消えたままもどらなかった子供がいた。

 この物語もそれに似ている。8人が閉じ込められた校舎。それは何と、閉じ込められた生徒の一人である辻村の脳内だった。校舎、実際は3階建てなのだが、物語では5階建てになっている。3階までは、いかにも気のちいさく、少しのことで悩む、他の閉じ込められた7人がいつも接している辻村の脳内、4-5階は強く、残り7人を支配しコントロールしようとする別の辻村の強く脅迫的な脳内である。その4-5階で、残り7人は、死ぬ寸前まで辻村に追いつめられる。

 この脳内に7人を閉じ込めたのが、実は辻村でなく辻村を執拗にいじめていた角田の仕業が物語の種の部分。

 文化祭で自殺したのは角田。角田が恨みが嵩じて辻村を含めた8人のクラス委員を辻村の脳内に閉じ込めたのである。最後、閉じ込めたまま全員角田と同じように殺してしまおうとする。しかし、最後のところで、角田のやさしさにより、辻村の脳から出る出口の鍵を角田があけてあげる。もう絶望かと思わせ、一転、未来への希望に転換させ物語は終わる。
その転換が実に鮮やか。 

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| 古本読書日記 | 06:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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辻村深月  「冷たい校舎の時は止まる」(上)(講談社文庫)


 全体の書評は下巻を読み終えてする。

 共通一次試験を真近かに控えた県下一の進学校の高校3年生男子4人、女子4人の計8人が校舎に閉じ込められ出られなくなる事態が発生する。この8名はクラスでクラス委員をしている。秋の文化祭の最終日、校舎の3階からある学生が飛び降りて自殺するという事件が発生。ところが、いくら思い出そうとしても自殺者が誰だったのか8人とも思い出せない。

 この閉じ込められた8人のなかに、何と辻村深月という学生が登場する。辻村は同級生の角田春子とともに陸上部のマネージャーをしていた。しかし受験勉強に集中するということで角田はマネージャーを止めたが、辻村は続ける。角田は勉強に集中したのだが、マネージャーをしている辻村の成績をどうしても越えられない。これが角田の辻村への執拗ないじめ、攻撃を引き起こす。そして辻村は精神を病み、拒食症になり、極端にやせ細る。

 作者辻村の高校時代の経験を反映しているのだろうか。この作品にはまだこの2人以外7人が登場して、自殺に関わった思いや背景が詳細に描かれているので、辻村と角田の確執が下巻になっても、枝葉末節なこととして扱われるかもしれないが、かなり楽しみな気持ちを抱いて下巻を手に取ろうと思う。

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| 古本読書日記 | 06:47 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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辻村深月  「子どもたちは夜と遊ぶ」(下)(講談社文庫)

 ここ連続で辻村の作品を読んでいる。
どうしてかまだ分析できていないのだが、とびとびに辻村の作品を読むとそうならないのだが、連続すると気持ちが悪くなり吐き気も少しでてくる。
 辻村は恐らく大学で心理学か哲学を病的に突っ込んで学んだのではないかと思う。元来心理学、哲学というのは、人間の負の部分を強調し、人間の欠陥本質を暴こうとする傾向がある。しかも、この作品に画家クリムトが尊敬できる画家としてあげられている。

 クリムトは建築家ユーゲントシュティールとともにウィーン分離派で、それまでの芸術とは異なりかなり露悪的な作品をつくり、迫害をうけている。度の作品もグロテスクで目をそむけたくなる。同じ時期心理学者のフロイトもウィーンで活躍している。
 辻村はこの頃のウィーンで生まれた芸術、心理学、哲学に影響を受けていると思う。
 秋山教授を介して、むごい殺人事件を徹底的に心理学から、分析、その背景を説明しようとする。

 この作品でのキーワードは「寄りかかる」だ。今の時代の特徴なのかもしれないが、大学でもバイトでもまず出会って、最初に声をかけあった人をその瞬間で無二の親友と互いに認識しあう。相手の性格や、育ってきた環境、資質などを知る前にである。2人はまず食事相手となる。それから何をさておりても、2人でつるんで行動するようになる。そして互いに完全に寄りかかりあうようになる。そこからはどんなに相手に気に食わないところがあっても大切な人でありかけがえのない親友であるといういびつな関係ができる。そして、この関係が壊れることが人生で最大の恐怖となる。かけがえのない親友ができると、他の相手とは、ゆるやかで、できるだけ摩擦を起こさない関係を結ぶ。

 この寄りかかる関係が最も極端になってしまったのが、この作品の木村浅葱と兄の藍との関係である。藍はすでに亡くなってしまっている。だから、浅葱は自分自身の中に藍を創り上げ、それに全身全霊寄りかかる。心の中の藍に浅葱は完全に支配され、次々殺人を犯す。よりかかる関係を壊したくないからである。

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| 古本読書日記 | 11:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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辻村深月   「子どもたちは夜と遊ぶ」(上)(講談社文庫)

作品の感想は下巻を読了したところで行う。

それにしても、37歳でいまだにコンパニオンの森本夏美をホテルの玄関で誘い、そのまま彼女の部屋で浅葱(名前)が夏美を殺すまでの表現力はすさまじい。普通の誘いから、37歳の孤独、空虚感いっぱいの夏美の心をくすぐり、夏美がそんなことはあり得ないと思いながらも、浅葱にぐいぐい魅かれていく様が、実にリアルニ描かれる。そしてだんだん、だんだん恐怖がじわじわと読者に沸いて来て、最後に叩き殺される。
 最近これほど恐怖をじわじわ抱かせる作品にであったことがない。

「ぼくのメジャースプーン」で主人公の僕の緊張感のある会話を続けた、秋山教授もこの作品で登場して重要な役割を担う。
 それから、登場する学生が、本当に今そこにいるように描けている。多分この作品は辻村が学生時代を終えてすぐくらいに書いているのだろう。そして、今の学生は随分私たちのころの学生とは違うと強く感じた。

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| 古本読書日記 | 10:50 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上春樹  「村上春樹 雑文集」(新潮文庫)

 村上春樹は交流している作家が殆どいない。挿絵の関係で安西水丸、和田誠くらい。ただ海外作家には何人か交流作家がいるようだ。親密さはこの作品ではわからないが。しかし、ただ一人この作品で熱く交際している作家が書かれている。イギリス作家のカズオ・イシグロである。吃驚した。私も大好きな作家だったので何となく嬉しかった。

 村上がこれで作家になったと感じたのは「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を書きあげたときだそうだ。この作品「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という異なる世界を、並行して書き進めている。前者が「静」の世界。後者は「動」の世界である。村上はこの作品を書きだしたとき、「静」と「動」が収斂できるかわからなかったそうだ。これも、吃驚した。ちゃんと構成を決めてから創作をしていたと信じていたからだ。

 「海辺のカフカ」の主人公カフカ君が15歳なのは、村上が初めてカフカの作品を手に取ったのが15歳だったからだ。何となく微笑ましい。
こんな楽しいエピソードが満載な本だが、やっぱり村上の小説家とは何かという問いの答えが、ずしっと重く印象に残る。

 「小説家とは、おおくを観察し、わずかしか判断を下さないことを生業にする人間です」

 これほど、村上の小説を適切に表現する言葉はない。(当たり前、村上当人が言っているのだから)
 世の中は、曖昧さが漂っているからか、はっきりと断じることを要求する。しかし、これだけ多種多様な世界になると、それは本当に不可能に近い。断定は、作家の目線を高くする一方、その断定に作家はしばられ、思索の幅を狭くする。私たちはそんな作家を山のようにみてきている。

 でも世のながれは断定を好む。そうか、村上がノーベル賞をとれないわけがここにあったのか。

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辻村深月   「凍りのくじら」(講談社文庫)

 最後まで全力で走り切る、書ききる。妥協しない、曖昧にしない。辻村の創作にたいする姿勢は尊敬に値する。

 この小説では主役は理帆子と別所。しかし、それ以上に私に印象を残すのは、理帆子のかっての恋人である若尾。
 若尾のようなタイプは私の近くにもいる。少し頭がよい。甘やかされて育つ。自分が何をしても、悪いと絶対思わない。すべて、周りや他のせいにする。そして変なプライドがある。

 「会社になんてはいって人に使われて一生を終えるやつは馬鹿。おれは絶対に就職はしない。」
 そして大学に5年も6年もいる。資格を取ろうとか、司法試験を受けてみる。今に人の上にたって金儲けをする。などと大口をたたくが、すべては三日坊主で終わる。
 これをどうしてなのか、親が許し甘やかす。金が続く限り、仕送りをして助ける。親のお金が続かなくなるとき、人生を馬鹿にしていて失敗したことに気付く。

 こういう男は、女性から振られるか別離があると、これ以上ないほどに傷付く。プライドが許さないのである。だから別れても、毎日、毎時間電話やメールをよこす。それを無視するとさらにプライドが傷つき、いよいよストーカーを始める。そして、あらぬ噂をまきちらしたりして、変人ここに極まれりと女性にまとわりつく。

 こんなタイプの若尾。どこまでストーカーは異常になり、落とし前はどうするのか、期待をして読み進む。やはり若尾は最後にとんでもない事件を起こし破滅手前までゆく。しかしそれでもプライドの高い若尾は、自分のやったことが罪にあたるとは決して思わない。

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| 日記 | 19:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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辻村深月    「ぼくのメジャースプーン」(講談社文庫)

僕が、うさぎの世話当番の日、高熱がでて学校に行けず、幼馴染で大切な友達のふみちゃんに代わりをお願いする。それは、ふみちゃんが誰よりもうさぎを大切に思っていたからだ。
 僕のかわりに朝早く学校へ行ったふみちゃんは、うさぎ小屋の前で血に染まったナイフを持った若い男にであった。そして、手足、頸をもぎとられ、血まみれになったうさぎに出会ってしまう。ふみちゃんはその時に言葉を無くした。

 僕には一族から受け継いだ特殊な能力があった。相手に対して「―――しなければ、―――になる」と言えば、相手がそれをしなければ必ず言ったとおりになってしまう能力である。
 その能力を男に対して使うべきか、使うならどういう文言にするか。
同じ能力を持つ秋山先生に相談する。この秋山先生と僕とのすさまじい語り合いが読者を興奮のるつぼに引き入れる。
 復讐は成し遂げれば満足するの。単に殺しただけでは満足しない。殺す前にじりじりと痛めつけてから苦しませる。そして殺すのだ。それだったら満足するの。
 加害者が反省、謝罪、更生という可能性はあるの。反省、謝罪は自分が苦痛から逃れたいと思うから行うものなのじゃないの。相手のことなど思っていやしない。更生という概念などもともとは無く、人間が法律のために作り上げた中味のない言葉。

 こんな議論が積み重なる。そして僕は男に対し人間としてはあまりありえない言葉をぶつける。
 「僕の首を絞めろ。さもなければーーーーとなる。」(――――は?)
そして男は僕の首を絞める。それは、究極の愛のすがた、他人のために自分の命をすてる。
本当にそうだったのか。

 あの朝、ふみちゃんに当番を頼まなかったら、うさぎのバラバラの死体は僕が見ていて、僕が、言葉を失うことになっていたのだ。

 辻村のこの作品のすばらしさは、解決はできないけど、本質的な問題をあいまいとせず、つきつめようとする姿勢を最後まで貫きとおしたことだ。

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| 古本読書日記 | 06:19 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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雫井脩介    「つばさものがたり」(角川文庫)

天使はいる。誰にも天使は見えることはないが、幼稚園児の叶夢には見える。天使は、生まれたからっていって誰もが天使にはなれない。空を飛べられるようにならないといけない。

 叶夢には天使の卵のレイが空を飛ぼうと懸命に練習している姿が見える。なかなかそれが上手くいかないので、叶夢が代二郎に空飛ぶ方法を教えてやってくれと頼む。代二郎は幅跳びの選手だった。代二郎には」レイの姿は見えないし、自分も空を飛べるわけではないので、普通は馬鹿らしく思う。しかし、一生懸命、叶夢を通じて、空飛ぶ方法を教える。そして、やがてレイは空を飛べるようになり、見事に天使となる。

 小麦は20代半ばなのだが、末期癌にかかっていて余命も少ない。3年パティシエとして修業している。残りの生命が少ないことがわかり、実家がある北伊豆にケーキ屋をつくり、これぞ小麦のケーキというケーキを創り上げ、それを御客さんに味わってもらいたいという願いを持っている。
 それが命のある間で創り上げられるのか、失敗するのか見えない。その店がどんな店かも見えない。見えないものに向って命と戦いながら進む。でも、見えなければ見えないほど、目標にむかって突進する力がでる。そんな突進力をさらに見えない力が後押しする。それは

叶夢と代二郎が見えない力で天使を実現させたのと同じ力である。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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羽田圭介    「御不浄バトル」(集英社文庫)

多分主人公は、大学をでて。まあどこかに勤めて給料さえもらえればいいや、というつもりで今の会社に入ったのだろう。

 それが小学生用の学習教材を平均154万円で売りつけるという典型的悪徳商法であるブラック企業。
 この会社が凄い。主人公が一年半勤めているだけなのに、もうベテラン社員。入ってくるはじからどんどん辞めてゆく。主人公もやめようとは少しは思う。だけど、同じ大学に行った奴がすぐ就職した会社を辞めたのだが、勤めた会社をすぐ辞めるようではだめな奴だと思われなかなか次の就職ができない。それで、3年間は我慢して勤めようと思い、今でも会社を辞めないでいる。

 千葉営業所の社員が45万円を会社から盗む。ブラック企業だから警察には届けない。
こんな会社だから裏社会とつながっている。社員をつかまえて、関連会社のAV制作会社でSMビデオの主人公にして盗みの社員を徹底的に傷めつける。

 こんな情景を読んでいると、主人公は可哀想だろうと想像するが、主人公も理解不能の変人。べつに会社で村八分にされているわけではないのに、トイレに籠って昼飯を食べたり、トイレにダッチワイフを持ち込んで自慰行為をする。会社も会社だが社員も負けないくらいおかしい。

 ここに労基署の立ち入りがはいり、業務停止を食らう。心配することは無い。こんな会社の経営者は、また別の悪徳商法の会社を作り、生き延びるから。

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| 古本読書日記 | 06:38 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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津村記久子  「とにかくうちに帰ります。」(新潮文庫)

会社には、どうしても存在しなければならない職場がある。たとえ、その職場の存在が無駄のように思えても。そこで働く社員は、出世とか向上とかには縁が無く、ひたすら同じ仕事をしている。そんな職場は、業績にふられることなく、安定している。そんな職場の社員から陽のあたっていると思われる職場を眺めると、会社員の儚さがみえてくる。

 偉そうにしていても、中味が無いから、裏方職場が対応してあげないと、何もできない。それがわからず、揺れておちていく日の当たる職場の社員たち。
 この短編集はまずそんな会社での裏方職場からみたお作法や裏方職場の意地悪などの、描写物語から始まる。よく観察されていて、その表現や中味がグサっとくる。自分も会社時代はきっとこんな風に見られていたのだろうと。

 そして、最後の短編「とにかくうちに帰ります」がこの本全体をまとめあげる。
大雨が降る。そこで、会社は早めの帰宅をするよう指示がでる。社員はすぐ帰ればいいのにと思うのだが、あれをせねば、これを片付けねばと自らの存在価値があるかのように、会社に居座る。で、仕事をしているかと思えば、スマホを使って、帰りの交通状況をみたり、天気予報をみたりしてそれを他の部門の連中までしゃべりあう。どこかに電話して、大雨で帰宅することになったと話している。まあ、誰も仕事などしていない。それなのに、どういうものか帰宅する人がでてこない。

 それでも、誰かがきっかけで帰宅しだすと、われも、われもと帰宅しだす。
面白いのは2-30mほど会社から離れて、土砂降りで前にも進めない状況、それでも会社へもどろうとしない。どんなことがあろうが、とにかく家に帰って、大の字になりたいとそれしか思わなくなる。この本のタイトルのように。

 「とにかくうちに帰ります」

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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雫井脩介    「殺気!」(幻冬舎文庫)

 東芝の不正会計は東芝社員か関係者により内部告発があり明るみにでたのだろう。
内部告発が、最近は表向き企業は奨励するようにしているが、実際告発した社員は、称賛されることはなく、下手をすると左遷か降格などの憂き身にあう。

 東芝をみていつも思うが、外野は経営陣や東芝にたいし罵詈雑言をして攻撃をするが、
結局裁判になろうがなるまいが、経営陣は全く生活に困ることも無く、優雅な生活を送れる。しかし不正により経営が思わしくなるので、多くの社員がリストラのもと、馘首され一時
的にせよ路頭にまよう。犠牲はいつも名もなき社員が負うのである。

 この作品のように、東芝でなく中小企業、しかも役所にぶらさがって生きている建設業であれば、不正など発覚したひには、入札に参加できなくなり、即倒産。経営者はもちろん社員も全員路頭に迷う。
 だから、隠す、そして上手くすべてが収まるよう策を講じ、関係者には口をつぐむことを強制される。正義は重要だが、この作品を読むと、しわよせがすべて弱い者にゆくことがわかり、非常に虚しい気持ちが渦巻く。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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井上ひさし 司馬遼太郎  「国家・宗教・日本人」(講談社文庫)

高みのところにいて、超上から目線で、今の日本を腐す。こういう文化人が一時期やたらもてはやされていた時がつい最近まであった。そして、腐す人の特徴は、今こそ明治維新に活躍した、竜馬や西郷、或は戦国武将たちが必要と言う。殆どの人が、いつの世でも不満不平を持っているから、拍手喝采をする。

 その時流に乗ったのが司馬遼太郎。井上ひさしも同じかもしれない。
私より少し上の年代の経営者に感銘した本、著者をあげてもらうとかなりの人が司馬遼太郎やその著作をあげる。
 政治家を腐す、官僚を腐す、よどんでいる日本を腐す。しかし、一つ一つの日本が抱えている問題には何の処方箋を示さず、言葉、スローガンだけをまきちらすだけ。
新聞がその影響力をここにきて著しく低下させている。それは、いつもいつも、腐すばかりで、じゃあどうするのかが無いことによると思う。

 今の時代、腐すだけの人には、かかずらっていたくないという時代にはいっている。だから、あれだけ、スローガンを掲げて戦争イコール安倍と腐す新聞が叫んでも、安倍内閣の支持率は落ちないどころか上昇しだした。
 まあ、あまり私達にとっては素敵な世の中とは思えないが、今はじゃああなたはどうするのが問われる世の中になってきた。

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| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大坪砂男他 「『このミス』が選ぶ! オールタイム・ベスト短編ミステリー 黒」

5作入っています。

鮎川哲也「達也が嗤う」
読者に挑戦するタイプの推理小説です。やっぱり、犯人は当てられませんでした。
一応、予想は立ててから解決編を読んだんですがね。
「背に腹をかえて野郎は客をとり」は、ググったら「野郎」を「芳町」にするのが本家(?)らしい。
トウのたった陰間は、前の方で女性客の相手もしていたという意味だとか。

江戸川乱歩「心理試験」
嘘発見器って、本当にあるんですかね?
取り調べに備えて(動揺を見せないように)そんなに答えを準備していったら、逆に怪しいんじゃないかとは思いました。
もちろん、犯人を落とすための材料はほかにあります。
事件の前日に被害者宅に運び込まれたから、『事件の3日前に訪問したのが最後』という容疑者の供述が本当であれば、目にしているはずがない。
そんな都合のいい材料があるものだろうかとは思いますがw まぁ、小説ですからね。
そして、今現在金に困っていたら、計画に半年をかけ、金が懐に入るのは犯行から一年後でも構わないなんて、待っていられない気もする。
これは、「動機について詳しいことは分からぬ」と出だしでぼかしています。

IMG_8554.jpg

横山秀夫「第三の時効」
最近の作家さんだけあって、読みやすいです。こういう事件そのものは、年に何件か実際に起こっているかもしれない。
緻密な計画とか、糸を駆使して遺体を密室に放り込むとか、犯人が道具立てに異常にこだわるとか、
そういう設定はありません。
ただまぁ、書き手がオジサンだからなのか、女の子がやけに素直なカワイコちゃんだったり、心温まるセリフでしめてみたり。
最後の数行がなければ、満足だったんですがね。
代表作の「半落ち」も、骨髄移植のドナーとレシピエントには言葉に出さなくても通じるものがあり、出会ってすぐにそれとわかる~みたいないい話だったかな。クサいのはあまり好きじゃない。

大坪砂男「天狗」
動機があんまりだww 短い話なので、それだけにしておきます。
アンケート第2位。たしかに「すごい」ミステリーです。

鮎川哲也「赤い密室」
登場人物が
「推理小説に登場する密室は、密室にする必要性のないものが多い。作者がまず密室のアイデアをひらめき、それに合わせて話を作っているんだろう」
みたいなことを語ります。
だから、この話では、密室にするべき理由がちゃんとあります。ちゃんと計画も練っていたんでしょう。
そんなに大掛かりなことをしなくても……なんて言ったらおしまいですが。

「赤」と「黒」に合計10作入っていて、生きている作家は横山秀夫だけですね。古いものが愛されているってことだろうか。
10位以降だと、北村薫・有栖川有栖・島田荘司が入ってくるそうな。

| 日記 | 14:50 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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法月綸太郎  「頼子のために」(講談社文庫)

名門私立女子高校に通っている西村頼子が深夜殺害される。名門女子高に通っているだけに頼子は品行方正、更に父親は大学教授という典型的な幸せ家族である。

 この殺人事件に対して、著者法月は、読者をごまかすために、これでもかとたくさんの紛らわしい粉を物語にまく。推理小説の常套手段なのだが、名門私立女子高の理事長の兄が国会議員。そして、お決まりのように同じ選挙区に憎しみ合っている政敵の議員がいる。このライバルを追い落とすために常に相手のスキャンダルを探し、それを暴露することに心血に注いでいる。この殺人事件を政敵同士争いの中にはめこもうといっぱい粉をまくのである。
 物語を読んでゆくと、読者は殺人事件により、政治家や地方の名門血筋の間で行われている、不正が暴かれることを期待して読み進む。しかし、たいがいそうはならない。だいたいは家族間の愛憎、浮気、そこで生じる恨みつらみが事件の発生原因となることで物語は終結する。

 この話もまったくそんなオーソドックスな展開で物語は終わる。同じような話をいくつも接すると、物語の中で14年前に母親と頼子が被った交通事故に殺人の根源があることが推察できる。交通事故がいつクローズアップされ、それがどうして殺人を引き起こしたのかと思いながら読み進む。そうすると、あれもこれも無駄な粉だと思えてくる。

 悪い読者だ、私は。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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乙一     「平面いぬ」(集英社文庫)

楽しい小説である。
主人公の私は、中国人の彫師にかわいい犬を腕に彫ってもらう。そして犬にポッキーと名付ける。

 このポッキーが、目を離した瞬間に、腕から飛び出てしまう。そして勝手に、顔のむきや表情を変えてしまう。見ているときは、全く動かないのだけど。それから、ちょっと小心でしつけもしていないので、ちょくちょく吠える。みんなが振り返ってきょとんとする。誰も腕が吠えるなんて思っていないから。

 それから犬のごはんは、彫師に美味しい肉を毎日犬ポッキーの頭の上に彫ってもらう。目を離すと、ポッキーはすぐに食べてしまい、肉は腕から消えてしまう。そうそう、ポッキーは、お腹がすくと、私のホクロやニキビまで食べてしまう。
 私の両親と弟は、殆ど同時に癌が発見され、3人とも余命6か月と診断される。そして、3人は宣告通り6か月で死んでしまう。
 でも私は寂しくない。ポッキーがいる。ポッキーも寂しいだろうと太ももにポッキーの恋人を彫ってもらう。私と犬たちで毎日楽しく暮らしている。

 そういえば、私にできていたニキビは後でわかったのだが、悪性の皮膚ガンだった。私もポッキーがいなかったら、他の家族と一緒に6か月で死んでいたのだ。結構ぞっとする乙一らしい落ちがつく。

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| 古本読書日記 | 06:00 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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雫井侑介    「ビター・ブラッド」(幻冬舎文庫)

最初は新人刑事佐原夏輝を通して、新人刑事の教育マニュアルではないかと錯覚するような物語の進行。読むに堪えないと思っていたところ、幾つかの殺人事件が発生、それらが以前自殺と処理されていた事件ともつながり、複雑な色彩を帯びてきた。更に、捜査第5係の誰かが、暴力団と癒着していて、それが殺人事件と関わることが匂ってくる。その第5係に新米刑事の父親がいるというから話は穏やかでなくなる。

 だから後半は、それぞれの事件のつながり、真相を求めて緊張した場面が続くのだが、もうひとつ緊迫がでない。
 それは、雫井が意識して作品を軽く、コメディータッチにしようと目論んでいるからだ。
 そのことは、最後は社会派推理小説というより、家族の絆、父と子の信頼に話を持っていこうとしていることでもわかる。

 第一、5係の全ての刑事にあの「太陽にほえろ」と同じく、カタカナのニックネームがついているのだから。多分にテレビドラマ化を意識した作品になっている。

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| 古本読書日記 | 12:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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乙一   「小生物語」(幻冬舎文庫)

このエッセイをきっかけに調べたら、乙一とあの「くちびるに歌を」の中田永一が同じ作者と知ってびっくりした。それから、大学が豊橋で、作家になってからも、豊橋に住んでいたことをこのエッセイで知った。

 乙一は結構独特の個性で面白い。
豊橋から出版社との打ち合わせで東京にゆくが、宿泊はホテルでなく常にマンガ喫茶。出版社から原稿の催促がくるとき、留守電にこんな風に吹き込んでおく。
 「燃えないゴミを捨てに行ってます。ゴミ捨て場が遠くて往復4日間かかります。」
年賀ハガキを買いに行ったら、郵便局にも、コンビニにも売り切れでない。仕方なく豊橋から東京に年賀はがきを買いに行く。

 スノボーをやりに一人で夜行バスに乗ってでかける。一人でスノボーを楽しみ。一人でホテルのレストランでスキヤキを食べる。
 喫茶店でコーヒーを飲みながら、小説の構想を練る。何も浮かばない。手持無沙汰なのでコーヒーに砂糖を一匙いれる。面白いアイデアが浮かぶ。もう一匙、また浮かぶ。だからもう一匙、もっと浮かぶ。これは凄いとポットさら全部入れる。コーヒーが砂糖の重み倒れる。ズボンがコーヒー色に染まる。そして全部忘れる。

 嘘っぽい話ばかりだけど、何かシンパシーを感じ暖かくなる。

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| 古本読書日記 | 12:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山本弘   「地球移動作戦」(下)(ハヤカワ文庫)

内容に不満が残る。

地球移動作戦は、上巻ではまだアイデアの段階。それをどのように具体化してゆくか、シーヴェル接近までの23年間、何をしてきたのか描いて欲しかった。40万個もの小惑星にピアノドライブをセットしてどのように地球の北極上空に移動させ、位置をほぼ固定させたのか。あるいは、月をシーヴェルの影響から避けるために位置を移動させたのだが、それをどうやって行ったのか。そういう物語が全くなく、ACOMとその主である人間との軋轢、関係、恋愛は成り立つかというようなことや、地球移動作戦を阻止するテロリストとの戦いが語られ、いきなりシーヴェルが地球と接近する2107年に飛んでしまったのは残念である。

 それから実際の作戦開始までの間に、テロリストが、ある会社の所有している小惑星を使い、そこに移動作戦を阻止するためのサーバーを搭載させ、移動作戦を妨害し、更に、集められた小惑星を粉砕して、移動作戦を破壊する行為をしようとする。その妨害と移動作戦側との攻防が延々と描かれる。
 この攻防戦は全く不要だ。
 というのは、移動作戦を破壊するということは、テロリストであれ支援者であれ、自分たちもシーヴェルによって破壊され滅亡するということであり、移動作戦を阻止する意味、価値が見いだせないからである。

 少し、別でこの本について調べたら、このテロリストとの戦いのところは、後から加筆したとのこと。無駄なことをしたものだ。

 しかし、実際のシーヴェルとの戦いはさすが迫力があった。東京、名古屋の大混乱の状況は迫真にせまる描写で感動したゆえ、その他膨大な意味のない部分が際立ったのが残念。 

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| 古本読書日記 | 08:00 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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