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2015年06月 | ARCHIVE-SELECT | 2015年08月

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井上荒野  「ズームーデイズ」(小学館文庫)

引きこもりとは思っていないが、それでも60代半ばになると、全く判で押したような同じ生活が毎日繰り返される。この歳になるとその生活が死ぬまで続いても、あまり不満を感じることはない。
 しかし、こんな生活が30代でやってきたらどうなのだろうか。主人公の私は30代半ばで一応職業は小説家。とはいっても一冊出版しただけで、それからは書いていない。ズームーという8歳年下の男性を実家のアパート部分で同棲している。父は2年前に亡くなっている。
普通母親は結婚もしないで、同棲している一人娘をしかりつけ、結婚するか別れて新しい男を見つけ結婚するよう迫るものである。しかし、夫を失って将来が心細くなったから、娘が同棲していようが、同じ建物に住んでいてくれるほうが心強い。だから、娘によりかかる。もう結婚などしてくれないほうが母親は都合がいい。
 家賃もなく、生活費は安月給だが、ズーニーがだしてくれる。時にこれではだめだと小説を書こうとするが、2行も書けば、だらーっとした生活に戻る。でもこのまま40歳代なったらどうなるだろうかと常に不安に襲われている。それとズーニーとは違う愛人カシキとの関係もどうなってしまうのか。
 それから7年たってズーニーと別れるときがくる。同時にカシキも失い全く一人になる。
それから10年、やっぱし別の愛人をもってだらだら生活をしている。でも、2冊目の本はだした。一旦だらーっとした世界に嵌ると、余程のことが無い限り、死ぬまでダラーっとしてしまうのが人生かもしれない。

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五十嵐貴久   「最後の嘘」(双葉文庫)

ハードボイルドとエンターテイメントを掛け合わせた小説。だから、あまり中味をつっこまないほうがよいのかもしれない。
 いくら政治家の家庭とはいえ、高校のころから総理大臣になることを目標に計画をたて人生を進むなんてことがあり得るだろうか。しかも、総理大臣になるためには東大を経ねばならないということで、毎日遊びもせず、友も作らず10時間も勉強をする。最近の総理の出身大学をみれば東大卒はそれほどいない。どこか社会の見方が五十嵐はズレているような気がする。
 一流女子高に通っていて成績も優秀な生徒が、やくざのパシリで覚せい剤を扱っている男に簡単にはまってしまうものだろうか。もちろん、そういうこともあるだろうが、そこにはまり込んでゆく過程をしっかり書き込まないと物語にならない。はまってしまったことが前提で物語を創っても、実感がわかない。いくらクライマックスに力をこめて書いても、嘘っぽい印象が強い。
 人物の造形とその背景が書けていない。

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岩井志麻子  「嫌な女を語る素敵な言葉」(祥伝社文庫)

潤子は高校を中退して、風俗に流れた。そこで知り合ったエリート社員に言い寄られ不安はあったが結婚をした。真美は太っていて不細工。彼女は、性に関する妄想が強く、それを体験記として、レディスコミックを中心に投稿していた。ソレハ、しばしば掲載された。その後、普通の主婦となった。
智代は、優秀な子供を育てあげ、一流の企業に就職させた。旦那もエリート。但し、姑との仲が最悪だった。そして、事故として処理されたが、姑を突き落とし殺害した。
 智代の主催している料理教室に、生徒として、真美と潤子は通っている。面白いのは、それぞれの暗い汚点をそれぞれ知っているが、決して口外しない。みんなエリートと結婚し今までノ幸せで明るい人生を歩んできたことだけを語り合う。
 ところが、他人の汚点は、どうしても喋りたくてしかたがない。そして、3人が居合わせた時でない、2人だけの時、ふっと「あの人はね・・」と喋ってしまう。その後この3人はどうなるか・・・。

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五十嵐貴久  「2005年のロケットボーイズ」(双葉文庫)

高校野球千葉県大会に出場した文理開成高校には、部員は高橋君一人しかいなかった。高橋君は千葉県予選にでたくて、臨時補強部員を懸命に募る。高橋君の情熱と人の良さもあり、ポツポツと人が集まり始め何とか9人になり、大会に出場。当然こんなにわかチームが勝負になるわけがなく、2回に15点とられて木端微塵にさせられた。
 冷静にみれば、全く意味も無く、無駄な挑戦である。それでも、無駄と思われることにどうして挑むのか。それが青春だから?そうではない。それが楽しいことだからである。
 この作品も、落ちこぼれ高校生が、キューブサットという人工衛星の設計に挑戦。挑戦理由に設計選手権で入賞すればお金がはいるからというのが少しあり、また見事に入賞した。入賞チームはその後、設計をもとに実機をつくり飛ばすトライアル大会に出場する。大会はテレビ放送があり、賞金も桁はずれに大きく、人工衛星開発は盛り上がる。しかし、大会では完全に失敗してしまう。そこから目標がなくなり、おちこぼれ高校生は揺れ動くが、でも開発の楽しさいという情熱に突き上げられ、開発が延々と続けられる。その「楽しい」は10年後に見事成功に至る。

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乾くるみ  「塔の断章」(講談社文庫)

作家の人気について疎いから、乾がどの程度の人気があるかはわからない。でも、ミステリーでは相当の人気作家なのだろう。
 この「塔の断章」。2003年に文庫で出版されている。その時のアマゾンでの読者評価が星3つ。星3つは駄作という評価となる。吃驚するのは、その駄作を表紙を変えて10年後に新装版として再出版する出版社があらわれたこと。乾という名前だけで売れると考えたのだろう。そして、更に驚くのはこの作品がアマゾンの読者評価で栄えある最低評価星ひとつを獲得したことである。
 星一つは私もかってみたことは無い。それほどの金字塔である。
どれほどの駄作かと思って読んでみた。正直星一つはかわいそうに思えたが、やはりひどい作品だった。
 とにかく膨大なページを費やし、聞き込みと、これはトリックにつながるのではという仕掛けをあたりかまわずふりまく。そして、最後で、それらのすべてが事件とは関係ない、事実を読者に差し出す。
 今までは何だったのかと読者は馬鹿にされて愕然とする。

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五十嵐貴久   「For You」(祥伝社文庫)

これは評価、感想が難しい作品だ。
80年前後に青春時代だった人、7-8年前の空前の韓流ブームの渦中にいて踊り狂った人たちだったら、この作品に感情移入ができて、共感もしたのだろうか。
 80年ころこの作品の舞台の静岡から東京は遠かったのは本当?静岡は田舎の地方都市だった?校則の厳しさ。当時の音楽、映画が差し挟まれ、高校生が今より奥手で、デートは手をつなぐのが精いっぱいということもそうだったのだろうとは思う。でも、少しも80年近くに引きずり込まれることはなかった。
 五十嵐は韓流ブームはずっと続くものだと信じてこの物語を創ったと思う。しかし、今は韓流ブームはどこかに行ってしまった。
 冬子の高校時代と、韓流大スターの取材がどこかでシンクロすることはわかるが、それにしても、シンクロするまでが長すぎる。500ページ近い作品で、シンクロするまでに400ページ近くを費やしている。
 多くの読者が途中で投げ出したのではないかと思う。

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安藤祐介  「ちょいワル社史編纂室」(幻冬舎文庫)

全然興味が無かったが、今日鈴鹿8耐というオートバイレースをテレビで見た。正直
画面は同じところを走るオートバイを映すだけで、単調なものだった。だけど、そこはかとなくわくわくし、ライダーやそれを支えるチームの人たちが羨ましく思えた。
 もちろん、このレースはエンジン開発やオートバイ販売に重要なものがあるのだろう。でも、会社が一体となってお祭りをして遊んでいるように見えた。
 東芝が上からの締め付けで、不正会計に手を染めた。グローバル会計が入ってきて、目先の利益だけが唯一の経営指標となり、組織の人間関係は寂寞となり、過重労働が常識となる
会社や社会になってしまった。
 今あちこちの工場で、納涼祭や夏祭りが行われている。しかし、多くの社員や幹部は冷ややかにに見ている。だから、実に淋しい風景になっている。
 会社がたまにはなにもかも忘れて一丸となって遊ぶこともいいのではないかと、8耐レースをみて思った。
 この作品は本来、社員、人間、家族はどうあるべき、どうであったのかを忘れていたことを思い出させてくれる。

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五十嵐貴久  「相棒」(PHP文芸文庫)

幕末は小説の題材として、多くの作家が手掛けたくなる魅力的題材である。五十嵐もこの幕末に挑んでいる。人物造形もしっかりできているし、魅力的なエンターテイメント小説に仕上がっている。
 幕末では、薩長を中心とした討幕派と、会津や他藩、新撰組などの佐幕派が入り乱れていた。そして、両派の戦争は必至の情勢だった。しかし土佐藩、坂本龍馬は内乱を引き起こすことを防ごうとしていた。内乱回避は2つの目的があった。薩摩にはイギリスが、幕府にはフランスが後ろについていた。もし、内乱が起こると、彼らがそれに乗じて日本を植民地にしてしまうことが考えられていた。イギリスは世界一の強国だし、フランスは幕末時代ナポレオン全盛の時代だったのだ。もうひとつの理由は、勤皇の時代になっても、それまでの政治は幕府がおこなっていたので、有能な人材は幕府のなかにたくさんいた。彼らを新しい政府は起用しないと国家統治がおぼつかなかったという理由。
 それで、徳川慶喜は熟慮の末、内乱を避けるため、大政奉還を決意した。
五十嵐が思いついたプロットが卓越している。慶喜が大政奉還の意志を伝えるため、薩摩藩の実力者、西郷吉之助に会いに行く途中で、何者かに狙撃されそうになる。
 そこで老中の永井と板倉が犯人を2日間でつきとめるよう、佐幕、討幕どちらにも人脈のある、坂本龍馬と新撰組副隊長土方歳三に命じた。歴史上ありえない、土方、竜馬コンビの
犯人探しが開始する。このへんちくりんコンビの活躍が実に楽しく描かれる。土方がだんだん竜馬に心が傾いていく様が印象的である。
 沖田総司の死に際の病床に死んだはずの竜馬が現れるのは、賛否があるだろうが、それはそれで読者に楽しい夢をみさせてくれる。

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乾くるみ  「林真紅郎と五つの謎」(光文社文庫)

恋愛相手そのものを愛するのではなく、相手の体の一部分だけを異常に愛する。手や足や耳や。手フェチなどと言われる。
 人そのものを愛するのは、恋愛は継続するが、体の一部分となると話は違ってくる。一部分は、加齢とともに形状が変化したり、皺ができてきたりするからである。彼女の手だけを愛することで2人は繋がっている。そうなると、いつも2人は不安を感じながら関係を続ける。手の形状が変化したら、もう恋人はいらない。皺ができたら、あの人は私を捨ててしまうのではないか。
 美しい手を持っている若い人を殺す。或は、殺人の練習に、人殺しをする。そして手首を切断する。その手首を冷凍、ホルマリン漬けして保存しておく。今の医学では不可能だけど、将来移植技術が発達して、自分の手首の形状が変わったとき、保存しておいた手首をくっつけることができるようになることにかけてみる。
 不要になった手首は、臓器移植をして、臓器がなくなった患者の死体に新聞にくるんで埋め込む。
 推理作家は、誰もが想像できるトリックでは読者が納得してくれないと思うのか、とんでもないことをつきつめて創造する。ここまでくると狂っているのではと思う。

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五十嵐貴久   「誰でもよかった」(幻冬舎文庫)

高橋という若者が、渋谷の交差点で、無差別に11人の通行人を刺し殺す。そのまま、逃げて近くのボヘミアンという喫茶店に客や店長を人質にとってたてこもる。
 人質たてこもり小説は吐いて捨てるほどある。だいたいは長い間、犯人と警察の膠着状態が続く。そして、最後は狙撃部隊が登場して、犯人が外へ出た瞬間に犯人を打ち殺して物語は終わる。物語の展開にあまり幅が無い。そして、この物語も、全く思っていた通りの結末で終わる。
 しかし、五十嵐は少し違った視点で物語を描こうとしたふしが見受けられる。それは、高橋という犯人が、何故無差別に殺人を起こそうとしたのか。その背景、動機を追及しようとしている。銀行に押し入っているぞとメールスレッドを犯人がたてる。しかし、誰もフォローもしない。ひょっとすればスレッドが誰にも読まれていないのではという寂寞感を覚えている。結構面白い動機だと感じた。
 しかし、残念なのだが、この寂寞感が伴う動機を掘り下げず、警察と犯人の交渉だけがだらだらと続いてしまう作品となっている。既存の平凡な人質たてこもり作品と変わらない。
 新しい視点の芽生えがあっただけに残念だ。

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井上荒野  「キャベツ炒めに捧ぐ」(ハルキ文庫)

江子は今年60歳を過ぎる。50歳のときにビルの一角を借りて惣菜屋を始める。麻津子も同じくらいの年で、開店当初から一緒に働いている。郁子は募集で最近入ってきた。やっぱし60歳くらい。
 60歳になると、将来に対する希望や欲求はなくなる。毎日を同じように繰り返す。しかし腹だけは必ず減る。だから、ささやかな欲求は、食べ物の中味やうまさの追求にある。
 欲求も何もかもが消え、60歳に残るのは記憶、思い出だけ。それも、楽しい思い出ではなく、辛く悲しいことばかり。たまに楽しかった思い出も浮かぶが、必ずほろ苦さに直結してしまう。
 江子は総菜屋を始めた時に一緒に働いていた店員に旦那を寝取られ離婚する。麻津子も離婚を経験して独り身。郁子は2歳だった息子を肺炎でなくし、更に旦那も一昨年病死してしまう。それぞれが、60歳の人生の重みを背負っている。
 総菜屋が11年間も続いている。それはめずらしいこと。単なる家庭惣菜と同じ、あるいは奇をてらって、洋風の洒落たものばかりなら、客はつかない。それが11年続いているということは、惣菜に彼女たちそれぞれのほろ苦い人生や思い出が隠し味で詰め込まれているに違いないからだ。

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五十嵐貴久  「TVJ」(文春文庫)

ホラーサスペンス大賞に輝いた「リカ」ではなく、この作品が隠れた五十嵐の処女作らしい。
フジテレビを想像させる、テレビジャパンの新社屋が、武装集団により占拠される。武装集団は16人の社員を人質にする。
 逃げ遅れた経理部社員の由紀子がひたすら婚約者の圭に会いたくて、奮闘する姿が読みどころ。
 しかし、どうにもこの作品も、薄い。深さ、広がりがなく、オタク作家の狭い世界の作品の印象が強い。
 72時間テレビという番組をジャックする。ジャックをすれば異様な光景が視聴者に配信され、視聴者が何らかの騒ぎをおこすはず。しかし、この作品には一切視聴者が登場しない。
 更に、北朝鮮特殊偵察部隊と武装集団は名乗り、2000億円のお金と経済制裁解除を要求するが、これに対しての、政府の対応が全面にでてこない。警視庁と武装集団のやりとりが続く。これはありえない。
 武装集団の対応がチャチ。まず、こんなことをすれば、どうあがいたって最後は追いつめられ捕獲か殺される。武装集団に智慧、機略、戦略が全くない。こんな安直な、テレビ ジャックがあるわけがない。

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小川洋子   「とにかく散歩いたしましょう」(文春文庫)

犬が素晴らしいパートナーだと思うのは、犬はいつでもどこでも機嫌がいいからだ。眠る、遊ぶ、食べる、散歩する いつでも明るく楽しく振る舞う。
 私たちが機嫌がいいのはほんの短い時間だ。いじけたり、悩んだり、怒ったり、嫉妬したり、そんな連続だ。愛犬と一緒に眠るようになって、全く不眠に悩むことが無くなった。枕で遊んでいたかと思ったら、その直後にもういびきをかいて眠ってしまっている。目をとじながら眠気を待つことなどないのだ。このあっけらかんとしたいさぎよさが、私に悩んだり、悲しんだりすることの馬鹿らしさを教えてくれる。だから不眠なんてことはどこかへ消えてしまった。
 自然を知ることは、山や、森や、海にでかけることではない。しゃがむこと、腰をかがめることだ。すると、そこにある溢れるような自然にであう。一面の小さな草や花たち。キャベツの葉を食べながら、のそのそ歩く青虫たち。それとは逆に、早足で疲れを知らず、歩き回っている蟻たち。水たまりを走るアメンボ。小さな世界に自然が躍動している。

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五十嵐貴久   「セカンドステージ」(幻冬舎文庫)

主人公の杏子は、2人の子供の手離れするまでの子育ての経験を生かして、家事代行とマッサージの会社を作った。社員は老人限定。ただし、マッサージ要員に一人若者がいる。物語は、その代行業が覗いたそれぞれの家庭の問題や、老人ばかりの社員間に起こる騒動、それに老人社員の家庭の事情が、連作になって進む。
 事情、問題の中味がありきたり。読者の想像の範囲内におさまっているし、その問題の発生する背景も平凡。更に、サービス会社社員が、家庭に土足であがって事情や問題の解決にあたるという設定には無理がある。そんなおせっかいをしていたら顧客は無くなってしまう。家事代行というアイデアが先走り中味がついていってない。
 この作品にも学校での「いじめ」が取り上げられている。
この「いじめ」という言葉、いつも思うのだが、肝心な事の本質を歪めている。「いじめ」はまず何よりも、「犯罪」であるという認識をもってみつめるべきだと思う。

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乾くるみ    「セブン」(ハルキ文庫)

数字の7にまつわる、7編の短編集。
乾は理系学部卒業の作家。伊坂幸太郎も同じ。我々文系とはかなり考え、頭の構造が異なる。
この作品集も小説というよりパズルの解説書を読んでいる雰囲気。もちろんわずかだがパズルとは無関係と思われる作品もあるが。
 初っ端から、スペードのAから7までのカードゲーム。Aが一番強く、数字が大きいほど弱くなる。ただし7はAにだけは勝てる。こういう状態で、7つのカードを全員である7人にふりわけ、自分が勝てると思う人を指名して勝負をする。負けた人はその場で殺されるなんてゲームが登場する。誰を選ぶか、その心理戦が延々と続く。
 最後の作品は、7人が捕虜となる。その捕虜が4人と3人に分けさせられ、0から7の数字を選ばされる。それぞれに分かれた組では数字の何を選ぶかは相談できる。結果選んだ数字が重なった者は、その場で射殺される。どういう、数字の選び方をすれば、数字がかさならないようにできるか。或は、どういう数字の選び方をすれば犠牲者が最も少なく済むか。
その場合、だれを犠牲にして誰を救うか。相手の組の会話、心理を読む過程が描かれる。
 文系では何回か読みこなさないと、中味がなかなか解読できない。

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五十嵐貴久  「フェイク」(幻冬舎文庫)

五十嵐貴久  「フェイク」(幻冬舎文庫)
これはジェフリーアーチャーの大傑作「百万ドルを取り返せ」の発想をベースに創られた小説だと思う。
 詐欺や謀略によって、どん底に突き落とされた主人公とその仲間が、叡智を結集してどん底に突き落とした詐欺師を逆にどん底につきおとし、莫大なお金をかっさらう。こういう小説の特徴は、とにかく楽しく軽くで、重く暗くなってはいけない。騙し合いの手口の鮮やかさを競い合うわけだから。
 前半のカンニングの手口とその場面が実に面白く楽しい。それに比べ後半の詐欺師をうちのめすポーカーの場面は、ポーカー賭博が一般的でなく、賭博場も豪華すぎ、特殊な情景ばかりで、なじめなかった。前半のカンニング場面が楽しく秀逸だっただけに、後半ももっと一般的な手口で詐欺師を突き落としてほしかった。
 この作品を読んで小説の執筆は五十嵐がしているだろうとは思うが、ストーリーやテーマについては周りにチームがあって、そこからの議論により出来上がっているのではと少し思った。

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五十嵐貴久   「リカ」(幻冬舎文庫)

五十嵐貴久処女作で第2回ホラーサスペンス大賞受賞作。
インターネットというのは、個人が素っ裸になって全世界に対してさらけだしているようなものだ。しかも、この世界には、強烈な悪意が充満している。盗み、詐欺、恐喝を持った悪意の網が裸の個人をひっかけて身ぐるみはがしてしまおうと狙っている。
 私は、あまりネットに凝りはしないが、あるときありふれた名前で、中学校の同窓会開催の案内がきた。詳細のところをクリックした。そうしたら、20秒単位にわけのわからないメールが届きだした。一日数千件である。キャッシングや、懸賞金が当たったとか、競馬をふくめた賭けへの誘い、それから出会い系、エロ写真画像などである。
 どれかをクリックすると、身に覚えのない請求が来るのだろう。ネットは本当に怖い。ネット通販でいろいろ購入しているが、カード内容などの情報が盗まれ悪用されないか、この作品を読むと本当に不安になってくる。
 それから、最近の特徴なのだが、自分の論理だけで行動する人が増えてきた。自分のやっていることは常に正しく、その行動がどう見ても、異常なのだが、当人はそれが異常であることが全く意識にない。これが、嵩じると、超異常人間ができあがる。
 最近の殺人事件やいじめなどの原因のひとつに、このようなタイプの人が増えたことがあるかもしれない。
 この作品はネットの悪意と、異常人間が組み合わさるとどんなに恐ろしいことが起きてしまうのかを、鮮やかに描き出している。

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アンソロジー  「軍師は死なず」(実業乃日本社文庫)

 幾つか調べてみたが、未だによくわからないのが、明智光秀がなぜ主君である信長に恨みを抱き、謀反をおこしたのかということがある。主たる説明は、家康が信長謁見に安土にやってきたとき、接待、饗応を光秀にまかしていたが、準備状況を確認に信長が光秀のところに来た際、魚の腐臭がした。これに怒り狂った信長が、光秀を饗応の役割からはずした。この屈辱を光秀が根にもち、信長を襲った。通説である。いくら何でも、光秀が家康饗応に腐った魚など用意するわけがない。ちょっと信じるというわけにはいかない。
 山田風太郎はこの本に収められた短編で想像している。実は光秀を接待担当から外したのは、家康の申し出によってではないかと。家康は光秀に危険を感じていた。更に家康は光秀が信長に謀反をはたらくことを知っていたのでは想像する。それどころか、秀吉も毛利も光秀の謀反を知っていた。つまり、家康も、秀吉も、毛利も、光秀の謀反が成功することを望んでいたと。全く知らなかったのは当の信長ばかり。
 どうしてそれを君臣たちが知っていたのかは風太郎らしく、それぞれのスパイ忍者を光秀の周りに配していたからだそうだ。

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海堂尊  「カレイドスコープの箱庭」(宝島社文庫)

海堂尊  「カレイドスコープの箱庭」(宝島社文庫)
会社のそれぞれの組織、業務はある見方からすれば必要不可欠にみえるが、別の見方からすれば、その機能は会社に残すほどのものではないというものが殆どである。
 例えば人事部門。幹部の異動、登用については、重役、社長の閥つくりや彼らの影響力拡大のために会社内に必要な機能となるが、平社員の異動などは、適当にやってくれても、会社には何の影響も与えない。新入社員の採用も、何も威厳めいて行っても、行わなくても、採用される人材にそれほどの差は無い。
 だから、戦略は会社で構築するが、実際の人事政策運用は、人事部門を外部委託しても構わない、それにより人事経費を削減することの方が重要。
 それで、ごっそり人事部門を本体から切り離し、子会社にしてしまう。しかし、これではただ一つの部門を切り離しただけで、多少の人件費削減は期待はできるが、現状とたいして変わらない。しかし、幾つかの企業が、まとまって新たな受け皿会社を作ろうとすると、それは事の色合いが違ってくる。
 この作品は、患者の病気が何であるかを決定する病理部門を、病院にとっては肝要な部門と考えるのではなく、必要悪と考え、病理部門にわざとスキャンダルを作りあげ、それに乗じて、市に数ある病院の病理部門をまとめた外部委託会社をつくるという話である。それがよいことなのか悪いことなのかは、私にもよくわからないが、会社の人事部門が外部委託されるのと同じくらい驚愕なことだということはわかる。

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山田風太郎  「青春探偵団」(廣済堂文庫)

山田風太郎  「青春探偵団」(廣済堂文庫)
中味は普通の青春ミステリー小説。しかし、私やもう少し前の世代の青春時代の香りが漂っていて懐かしさを感じる。
 舞台は高校生の寮。東に男性寮。西に女性寮。男性寮には酒を飲んだりタバコを吸ったりするための秘密の屋根裏部屋がある。そこにはいるのに、紐をたらして、それにしがみつきながら上がっていく。自分たちの青春の匂いだとうれしく感じる。
 寮には舎監がいて門限がある。僕らの時代にも門限はあったが、舎監はいなくて、寮長が管理していた。ただ女子寮は、厳しい舎監がいて、門限は厳しかった。女子寮に門限時間後に忍び込んだり、脱出するのがちょっとした冒険で面白かった。
 それで男女関係ができるというわけでもない。何しろ8畳部屋に3人でいるのだから。どうでもいい話をするだけ。舎監パトロール時押入れに隠れたり、時に女装したりしてごまかす。このスリルがたまらないのである。
 電話が無いから、アパートの連中は、デートは手紙で申し込む。それか急ぐときは電報を使った。今電報は慶弔時に形式的に使われるだけになった。その昔メールは電報だった。

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浅田次郎  「かわいい自分には旅をさせよ」(文春文庫)

浅田の作品では最初の作品「地下鉄にのって」が印象深いし、今でも浅田の作品のなかでは私にとって最高傑作である。何よりもこの作品には、浅田が生きてきた辛さ、悲哀がにじみ出ていた。
 ところがそれからの作品は、文体は磨かれ、難しい言葉をはさみ、巨匠としての偉大性はこれでもかと発揮はされているが、読んでいて浅田自身が身近に感じなくなった。もちろん「月のしずく」のように短編では味わいがあり共感をよぶ作品もあるがわずかである。
 このエッセイ集でも、浅田自慢のラスベガスへの旅を描いたエッセイがある。年に3回はラスベガスに行っているそうである。賭け事に行くわけである。だから当然自費でかつひとりでのりこんでいると思う。しかし、どうも読んでいると一人で行っているような雰囲気でない。
  出版社が全額費用を負担し、随行員がいて、上げ膳据え膳の殿さま旅行をしているように思える。もちろん才能があり、ベストセラーを次々だしているのだからとやかく言われる筋合いはない。
浅田もこのエッセイ集で書いて入る。お金を稼ぐが、多額な税金に持っていかれる。何しろ経費として落とせるのはペン代と原稿用紙代だけだからと。取材、旅行費用は自分では負担していないことをポロっと漏らしている。

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山田宗樹   「聖者は海に還る」(幻冬舎文庫)

山田宗樹   「聖者は海に還る」(幻冬舎文庫)
最近は会社でも学校でもセラピストとか精神カウンセラーを置くところが多くなった。
また、何か不祥事が起こると、すべてのところで第3者委員会なるものを組織して真相を調べ、二度と不祥事をおこさない対策をとるようにするということが流行りだした。
 会社も過重労働で、精神的に社員を追い込むようなことがあると、労働災害に認定され、著しく会社の存在を貶められる可能性がある。学校もいじめなどの不祥事があると、学校の不適切な対応がやり玉にあげられる。ソレラハセラピスト設置や第3者委員会は、過労死や、いじめを未然に防ぐという目的より、ことが起きた場合の責任回避ための対応としてとられている。
 病気、精神的病も含め、医者は、本来人間が持つ恢復、治癒力を手助けするために、処方を行う。ところが、この作品では、精神的病の根源を、催眠療法により、脳の奥にしまいこんでしまうという治療が行われる。
 それがしまい込まれているときの人間はどんな行動、生活をするのか、逆に解き放たれるとどう変わるのかが描かれ、その危険性を提示する。
 人は元来個性が異なるもの。その個性をそれぞれが認め合い、ぶつかったり、妥協したりして成長する。一般と異なる人をすぐ問題にしてカウンセラーに解決をゆだねたり、病人として、仲間から排除したりする風潮、責任を真正面からとらえない風潮に対しこの作品は警鐘を鳴らしている。

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| 古本読書日記 | 15:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田太一  「見なれた町に風が吹く」(中公文庫)

私たちは、本を読んだり、映画、テレビを見たりして、これを自分はやりたかったのだということを見つけ、実際にやってみることがある。それで、稀に、そのことをつきつめてやり続ける人もいるが、大概は、途中で投げる。そして、また何かに触発されて、ちょっと挑戦してまたやめる。そんなことを繰り返しているうちに、それがさしあたりに変わる。さしあたりこれでもやってみようか。そして、そのさしあたりも年月が経るにしたがってなくなってしまう。
 この作品に登場する杉山さん。もともとは大部屋に属していた大根役者。とても俳優で生きていけることはできない。その杉山さん、奥さんに才覚があったのか、若い頃から小金を投資しながら土地を買う。知らないうちにその土地が値上がりし数億円の金になった。
 ふと、自分を大根役者とののしり馬鹿にしていた映画監督関根を監督にして死ぬ前に映画を作りたいと思いつく。そして、人生の最後に最高傑作を作ってほしいと関根監督に情熱をこめて語る。
 関根監督はその杉山の顔、眼をみて「彼の顔には死相がでている。すぐ死ぬのでは」という。杉山は73歳、年相応の体が痛んでいるところはあるが、検査の結果は健康との判断がでた。それでも、関根は「彼は生きていない。」と主張する。
 関根は知っていた。杉山は、小金がたまったし、とりあえず映画でも作ってみようかと思っただけ。それが名作でも、駄作でもよかった。さしあたり、そんなことでもして生きてみようかと思っただけなのだ。その「さしあたり」が眼に顔に現れていると。

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| 古本読書日記 | 16:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田風太郎 「奇想小説集」(講談社文庫)

妄想、奇想が人間離れしすぎている。
いくら殆どアクセスが殆ど無いこのブログでも、とても感想は書ける作品集ではない。
山田風太郎が、超一流作家で、1950年代、1960年代大ベストセラー作家であったにも拘わらず、全く文壇から排除され、文学賞がひとつも獲得できなかったこと、この短編集を読んだだけでもよくわかる。
 でも私は山田風太郎をこよなく愛する。

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| 古本読書日記 | 16:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田宗樹   「死者の鼓動」(幻冬舎文庫)

 医大教授の主人公の娘が、心臓移植をしないと助からない病気になる。娘の一番の友だちがたまたまアパートの階段で、気持ちが悪くなり、意識が遠のき、階段から転げ落ちる。
それで脳挫傷を受け、脳死状態寸前のまま、教授の勤める医大病院にかつぎこまれる。
 目の前に血液型も同じで、移植条件がもっともいい女の子がいる。この女の子の心臓が移植できれば娘は助かる。
 しかし、そのためには女の子が脳死であるという判定がなされねばならない。もうひとつは、移植にはその公平性を確保するために、仲介人が存在する。その仲介人が娘を選択せねばいけない。
 この2つをクリアするために、色んな暗躍が行われ、偶然も重なり女の子の心臓を娘に移植することになる。
 移植は臓器を受ける側も提供する側も互いに知らないことが前提となる。そうしないと、移植を受けた側が、提供者から補償金を要求するようなことが過去起きることがあるからだ。しかし、この場合は殆どの関係者がだれかだれへ移植されたか知っている。で、娘には女の子は、家庭の事情で九州の田舎に引っ越したという嘘を言う。
 しかし、治癒した娘は、まさかと思って行った友達の家に女の子のお母さんがいて、女の子が亡くなっていたことを知る。この嘘がその後とんでもないことを引き起こす。

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| 古本読書日記 | 15:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田太一   「路上のボールペン」(新潮文庫)

私の若い頃は、電話は貴重な機械だった。携帯電話などもちろん無いし、電話はあいちらこちらには無かった。アパートや寮では、電話がかかってくると大家さんや電話当番から呼び出しがかかった。
 だから、人と会話するには会うしかなかった。そして、会話を埋め合わせるためにやたら手紙を書いた。
 飲み屋であれこれ友と議論をする。明け方近くにその余韻が冷めやらない中、それぞれの住処に帰る。それから議論したりなかったことや、言いたかったことを懸命に手紙にして書くのである。やりとりをたくさんして、その間に居酒屋で会って議論するのである。
 好きな子がいて、デートをするが、言いたいことを言えないで、気まずく別れる。それでやめとけばいいのに、自分の思い、言いたかったことを懸命に手紙にして書く。そしてひたすら返事を待つ。時に大家さんに手紙きてない?と尋ねる。
 でも必ずと言っていいほど、そんなときの手紙の返事は来ない。

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| 古本読書日記 | 15:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田風太郎  「忍法関ヶ原」(文春文庫)

近江国に国友村という村がある。この村は昔より国本鍛冶が有名で、73も軒を連ねて鍛冶屋がある。しかも、この鍛冶屋で製造されるのは鉄砲と大砲。国友村石田三成の領地。国友村を家康が伊賀忍者服部半蔵に奪うことを命じる。石田三成はそれに対抗して、甲賀忍者を使って阻止しようとする。
 伊賀者がこの国友村に潜入する方法(作品では甲賀に見つかり失敗するが)がぶったまげる。塩袋に入り込んで潜入しようとする。見た目、塩袋は小さく大人がとても入れる大きさではない。ところが伊賀忍術により伊賀忍者はこの袋に入ることができる。
 人間の体は水分が63%。水分を全部外にだし、塩漬けにして小さくなり袋にはいる。そして、国友村潜入に成功した後、水を飲み元の大きさになる。風太郎の妄想には驚愕する。
 もうひとつ吃驚した忍術。お眉というくノ一忍者の術。男と性交しているとき、男の精液を通常の5-6倍吸い取るのである。男は性交後ひからび、頭脳も殆ど使えなくなる。恢復には2,3か月を必要とする。
 風太郎の突拍子しもない妄想力が百花繚乱である。

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| 古本読書日記 | 18:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田太一   「冬の蜃気楼」(新潮文庫)

社会からリタイアする年齢になってから、小学校や中学校の同級会の案内が来るようになった。遙か遠い過去のことだから、殆ど当時なにをしていたか記憶が無い。しかし、瞬間映像のように浮かび上がる光景が幾つか残っていて、ふっと浮かんでくることがある。
 甘酸っぱいとよく言うが、これまでの人生がそれほど大した人生でなかったせいか、甘い部分は全く無く、こみあげるのは酸っぱいところだけ。何でこんなことだけがこみあげてくるのかと時々いやになる。
 この物語では、主人公の若き助監督が、まだ助監督を始めたころ、大根役者に好きだった女優を寝取られたと思いゴルフクラブで顔を殴りつけた。大根役者を殺してしまったと思ったら、それはマネキンだったというところがでてくる。この助監督はそれから30数年間、何かあると自分は人を殺そうとしたと、その時のことがいつもこみあげてくる。
 30数年たって、その時の女優だった女性に会う。そして、疼いて来る場面のことを話す。女優はそこに同席していたはずなのに、そんなことは無かったという。当時のことを瞬間でなく、時間と面を広げて語り合う。確実に重なりあうところもあるが、かなりずれもある。本当にクラブで大根役者を殴り倒そうとしたのだろうか。記憶は曖昧になる。しかし、それが曖昧であっても、こみあげてくる疼きは決してなくならない。

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| 古本読書日記 | 18:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田風太郎   「黒衣の聖母」(ハルキ文庫)

戦争直後の東京が印象的に描写されている。
赤旗を振り、共産党がリードする皇居での「食料の配給を増やせ」「天皇制打倒」のデモ行進。数百人がどっと湧き出てくる浮浪児の群れ、乞食。座席が壊され、窓ガラスが全くないすし詰めの汽車。観客席がなく総立ちで映画をみる映画館。そしてあちらこちらに屯しているパンパンという名の街娼。
 主人公は学徒出陣で動員され南の島から帰還した男。日本に帰ったら許嫁だったマチ子は、東京大空襲で亡くなってしまっていた。それに衝撃を受け、毎日葡萄酒にアルコールをまぜた壜をポケットにしのばせ、それをあおりながら酔い狂って街を放浪する。
 そんなときマチ子に面影が似ている街娼に会う。街娼などかって拾ったことなどなかったが、美人で清楚な姿と医大生であるということに魅かれて、彼女に連れられて行った屋根裏部屋で、抱き合う。
 そんなことを毎日繰り返したある日、屋根裏部屋で抱き合っているときの彼女の姿をみたくて暗闇の中でマッチを擦る。その姿は焼けただれた野獣のように醜かった。驚き、暗闇の中で頸を締めて彼女を殺してしまう。
 翌日の新聞に美人医大生が首を絞め殺され、しかも女性は処女であったとの記事がでる。
一体あの野獣のような容貌。いや確かに天使のような医大生であったはずの街娼。あれは妖怪だったのか。謎解きは最後に書かれるが、戦争の悲しさがにじみでている作品である。

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| 古本読書日記 | 15:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山田太一   「恋の姿勢で」(新潮文庫)

内藤民は34歳で失職する。その現実を忘れるためにアメリカに旅にでる。アリゾナのリゾートホテルで津山に出会い、どうせ旅だからと体を許す。それで忘れるはずだったのに、次に行ったセドナという小さな町のメディテイション道場で偶然に津山をみかける。そうなると、津山が気になり、恋心に火がともる。
 東京に帰り、何とか津山と合えないかと毎日思っていたところ、街の喫茶店で偶然にであう。そして、そのままホテルへ。津山との約束で、互いのこと、過去、現在を一切明かさないという条件で恋愛を楽しもうということになる。
 しかし、それでは、娼婦と男のような関係とあまり相違がない。だから、変態プレイなどもして気分を高揚させようともする。しかし、やっぱし、津山のことを知りたいし、自分のことも知ってほしいと思う。
 ある日津山らしい人から、手紙が届く。手紙には長崎行きの航空チケットがはいっている。それに乗って長崎に行くと、黒の高級車が迎えてくれて、そのままハウステンボスに連れていかれる。そこのバーに津山が待っている。ここは偽のオランダで嘘の恋愛を楽しむ。
 やっと少し津山が自分のことを語った。ハウステンボスをでて、佐世保駅前の小さなビジネスホテルでのこと。駅のまわりにたくさんの人がいた。電車の音がした。それは嘘でなく確かな現実。
 でも、すぐ津山に連れられ長崎チャンポンの店にゆく。津山が言う。「チャンポンでなくこれから食べるのは根室ラーメンだ」と。
 民は津山に確かに恋をしている。いや恋をしていねばならない。恋をしている姿勢でつきあうのだと強く自分に言い聞かす。

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| 古本読書日記 | 15:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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