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2014年12月 | ARCHIVE-SELECT | 2015年02月

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米澤穂信  「追想五断章」 (集英社文庫)

米澤穂信  「追想五断章」 (集英社文庫)
この作品で知ったのだが、リドルストリーという形式の小説がある。この小説は、最後の結末は書かずに、読者にあれこれと想像させる形式の小説である。芥川龍之介の「藪の中」がそのタイプの小説。
 米澤の発想がユニークなのは、北里という殆ど無名の作家の娘が、北里が書いたリドルストーリーの掌編5作品の結末だけを持っていて、それぞれの結末に対応した本編を探すという逆転の発想で物語を作っているところである。
 多分この物語は昔「ロス疑惑」という世間を大騒ぎさせた事件があり、犯人ではないかとされた三浦という男が、お喋りで、これでもかというくらい事件に関する情報を提供、マスコミのみならず、一般人まで、事件の真相はこうではないか、ああではないかと言い合ったことをヒントに創ったように思う。
 米澤は、読者が(一般の人が)当然想像できるような2つの推理を提供し、さて真相はどちらであるかと、本編が発見される都度、読者を翻弄し物語に引き込ませる。この辺りは実に巧みだ。そして、とことん読者を引き込ませた後、とんでもない真相を暴露する。
 面白いし、真相も納得いくし、何よりも真相により物語も深くなっている。読者を読ませ楽しませ、素晴らしい作品になっている。

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吉元由美  「さよなら」(角川文庫)

吉元由美  「さよなら」(角川文庫)
この作品は、尾崎亜美が作詞作曲した「オリビアを聴きながら」をモチーフにして書かれているように思う。
  出会ったころはこんな日は、来るとは思わずにいた
 疲れ果てたあなた 私の幻を愛したの
しかし愛していたのは彼ではなく一方的に私のほう。
彼氏はまた吉元得意の恰好いいカメラマン。そして、彼には愛するべき美人の妻がいた。
妻がいるフリーの芸術家は、愛のささやきはしょっちゅうだが、現実は自分の都合だけが中心。待ち焦がれている主人公にたいして、思い出したころメールや電話をしてきて、そして必ず「すぐ会おう」とせがむ。
 愛されていると思い込んでいる主人公の気持ちや都合は眼中にはない。
それでも、主人公は愛を信じて待つのだそうだ。

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小杉健治 「家族」(双葉文庫)

小杉健治 「家族」(双葉文庫)
裁判員制度。一般社会常識から離れている裁判官や検事、弁護士だけの裁判で、偏見や誤認、不祥事が多発したため、一般の人間を裁判に参加させ、一般感覚で判決や刑期を決めてもらう。もちろんそれができるように裁判官、検事、弁護士が判断材料や考え方を提供する。
 知らなかったのだが、裁判員は一般の人達、時間的制約がおおきいので、通常裁判は3日連続で行い結審、判決となるように決められている。
 そのため、事前に判事、検事、弁護士は証拠、被告の供述内容、誰を証人として呼び何をしゃべってもらうかすべてを公開しあい、裁判のストーリーを決めて裁判を行う。そうしないととても3日以内で裁判がおさまらないから。
 これはみようによっては、裁判員はあらかじめきめられている劇をみせられているだけ。判事の判決は自らの責任にならないよう一般裁判員も参加してきめていますよというようなもの。
 この作品は、そんな裁判に、疑惑を抱いたある裁判員の厳しい追求により、新な事実が浮かんできて、事前に描いたストーリーのように裁判がすすめなくなったときどうなるのかを描いている。
 裁判員制度の矛盾がよくわかるし、事件も背景と結果の因果関係が鮮明であり実におもしろい。小杉の小説は、トリック優先の推理小説に反して、社会の矛盾、人々の暮らしに根差した
テーマを扱いさらに推理も一流。感心する

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本田孝好 「at Home」(角川文庫)

本田孝好 「at Home」(角川文庫)
父は泥棒。母は結婚詐欺師。兄はひきこもりでゲームだけを生きがいにしている。妹は中学生なのに、料理、掃除、洗濯と好んで家事をして、勉強は全くしない。そして主人公は偽造パスポートつくりの手伝い。すごい家族だが、結束があり仲はよい。
 母が結婚詐欺にでかけたまま誘拐される。1000万円を要求され、主人公が偽造紙幣をこしらえ救出にでかける。そこで、すったもんだがあって、主人公が誘拐犯を殺してしまう。父が、泥棒で刑務所暮らしもなれてるということで、身代わりで捕まりそのまま刑務所暮らし。
 時は流れて12年後、父が刑務所から出所。その12年に家族の環境はとんでもなく大きく変わっている。そこからなんともあっと驚く結末。結構面白い。
 ただ、会話が会話になっていないことが多い。つぶやきのような会話が多くやたらひっかかる。


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米澤保信  「犬はどこだ」(創元推理文庫)

米澤保信  「犬はどこだ」(創元推理文庫)
19歳の女子大生が、77歳の老婦人を殺害したことが連日報道されている。警察が多分犯人に行き着いたのは、女子大生がツイッターで「誰かを殺してみたかった」とつぶやいていたことを発見したからだと思う。またイスラム国の日本人人質事件の情報はすべてインターネットの世界で知る現状。
 この作品は2005年。非常に新しくかつこれからのミステリー小説の在り様を読者に提示している。
行方不明になった犬を探すために設立した調査事務所にある不明になっているある女性の捜索依頼が舞い込む。当然事務所を開設した主人公の紺屋は探偵など素人も同然。いわばダメ探偵。このダメ探偵に、都度、捜査の方向、指針を与えるのが、会ったこともないネットのチャット仲間、ハンドルネームが「GEN」という人物。
 また最後の犯行現場をつきとめてゆく過程が斬新。事件の起きそうな地域にある古文書の真贋を追跡してゆく。その過程で、江馬という郷土史家につきあたる。ここで江馬が書いた著作や、江馬についての情報はやはりネットで検索してつきあたる。その著作により、犯行場所の「谷中城」を知り、場所も特定される。最新と古い歴史がネットを使いながら、融合し事件を追いつめてゆく。
 これからは、事件現場へ繰り返し足を運ぶのだという古典的な観念での事件解決物語から、ネットに溢れかえる情報から事件解決の糸口をみつけるという手法へミステリー小説は変わってゆくのかもしれない。

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最相葉月   「東京大学応援部物語」(新潮文庫)

最相葉月   「東京大学応援部物語」(新潮文庫)
体罰、ビンタは当たり前。まずは合宿風景から始まる。言葉では言い表せないほどの訓練、しごきの連続。何で東大に入ってまでも、こんな応援部に入らねばならないのか。しかも、どれほど応援しても、東大のスポーツ部、特にその象徴とされる野球部はまず勝つということはないのである。
 最相は言う。何の利もなく、得るものはないものに賭け、地獄のような訓練を受けなければならないのか。それがこのルポを開始するきっかけだったと。
 ちょっと待ってほしい。驚くことに、東大応援部は何と80名も部員がいるのだそうだ。
それでOB会の結束は固い。毎年の例会には600名以上が参加する。
 東大生、東大出身の社会人であっても、現東大生、元東大生なりに、人生の浮沈はある。その時にはこの結束、分厚い人脈が人生を支え解決策を提示してくれることを東大応援部の人たちはちゃんと知っている。4年間さえ我慢すれば、後は前途洋洋の人生が待っている。苦しさから魔がさして退部したときに失うものの大きさを彼らはちゃんと知っている。
 ちゃっかり損得を計算しているから80人もの大所帯になるのである
 作者、最相だって知っている。東大応援部のブランドがあるからこのドキュメンタリーは成立することを。
 でも、味わい深い小説となるのは三流大学の部員が少ない応援団物語である。

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米澤保信  「儚い羊たちの祝宴」(新潮文庫)

米澤保信  「儚い羊たちの祝宴」(新潮文庫)
会社を辞めたら、人里離れたところに引っ込み、世の喧噪からのがれ、悠悠自適、晴耕雨読の生活をおくるのだと言う人に時々であう。桃源郷、理想郷での生活のように言う。
 膨大なお金を持つ辰野家から女中として請われ、辰野家の所有する別荘の管理人をまかされた主人公屋島守子。その別荘飛鶏館は、人もやって来られないような山合いにある。
最初は、屋島もうれしくて、部屋の掃除や家の造作などを頑張る。しかし全く辰野家の家族はやってくる気配はない。近所の家も遠く離れていて、誰も訪ねてこない。
 一年間、人との会話、交流が一切ないのである。これは理想郷どころか、地獄である。
一年たったとき、登山で滑落した男が助けを求めて、この館に迷い込む。
守子はこの男を隠す。そこへ、捜索隊が10数人現れる。守子は、これ以上ないほどのもてなしをする。洗いざらしのシーツでベッドメイキングをする。躍動感あふれた活躍をする。
 しかし3日もたつと、捜索をあきらめ、捜索隊は下山する。
それを何とかひきとめようとする守子の気持ちが伝わってくる。
 どうやっても人は一人で悠悠自適では暮らせないのである。

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吉元由美   「好き」(角川文庫)

吉元由美   「好き」(角川文庫)
主人公の曜子と恋人の俊との別れの場面が最後のところででてくる。弾まない会話を前に曜子が回顧する。つきあいはじめた頃の他愛の無い会話が弾み楽しかったこと。あの頃は何をあんなに話していたのだろうと。
 本当にあの頃何を会話していたのと私も思う。ちっとも弾んだ会話の場面なんか小説に登場していないのだから。俊は画家であり音楽家なのだそうだ。それだったら絵の話や音楽の話が一杯あるはずなのに。肩書きだけがあって、少しも実態が無い。実態が無いから言葉を紡いでも、何でこの2人が恋人でいなければならないのか、読者にちっとも伝わらない。
 最後のところで、ライブに曜子と従姉のケイがでかける。そこに妹の奈津美が伊集院君という友達だか恋人だかを連れてくる。曜子とケイと奈津美の会話が始まる。ライブにもこの3人の姿、表情は描きだされる。しかし、伊集院君は会話もなければ姿も登場しない。何の意味があって伊集院君がライブにやってきたのか全くわからない。
 小説以前の作品である。

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山本甲士   「戻る男」(中公文庫)

山本甲士   「戻る男」(中公文庫)
八木という男から、主人公のところに過去にタイムスリップしてみないかとの誘いがかかる。今の自分や世界を変えることはできない。そして、あの時ああしとけばよかったなんてことはできるという。但し今の自分の状態や世界を変えることはできない程度にだ。半信半疑だったが、主人公はその話にのる。一回目は、小学校のときいじめにあい暴力をふるわれたとき、あのとき振るわれるばかりでなくやりかえせれば、ということでタイムスリップをしてやり返す。2回目は大学のとき彼女に振られたが、逆に主人公のほうから振ってやりたかった。それもできた。
 最後は、忘れてしまったか曖昧な記憶を八木から持ち出される。中学校のとき、池に落ちた子供をみていただけで救ってやれなかった。そういえばそんなことあったかと主人公は思う。八木が言うそれを救ってやったらと。そして見事に救い、新聞に載るわ、学校で表彰されるわ。えらい評判となる。
 主人公は考える。自分が過去を変えたのだから、それに関わった人も過去が変わっていなければいけないと。それで、苦戦はするが、何とか関係者を探し出し過去が変わったかどうか確かめる。不思議なことに、一回目、二回目は関係者の過去は変わっておらず、三回目だけが変わっていた。
 種明かしは後半を過ぎてなされる。種明かしがさらりとなされれば、それなりに面白い作品になったであろうが、その前置きがやたらと長く、小説がえらく間延びしてしまった。
 作家がよく陥る失敗である。調べたこと、知っていることをすべて書こうする。だれかが言っていたが、小説には調査したことの5%程度を書くことが一番良いと。

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山本周五郎  「菊月夜」  (新潮文庫)

山本周五郎  「菊月夜」  (新潮文庫)
短編集。石灰を作る工場で7人の男女が働いている。3組は夫婦で、後一人が殺人を犯し刑期を終えて出所した男。工場は熱の塊。だから男女とも半裸。そんな熱にうなされて、工場現場で出所男が女をかどわかす。そして殺人。まだ粗削りながら、生の男と女を描く短編「蛮人」は
初期の作品ながら周五郎の文豪への可能性がうかがわれる。
 ところが戦争中や直前の作品がよくない。
「花宵」「おもかげ」そして本のタイトルにもなっている「菊月夜」。武士物で物語はできているが、やっぱり戦争賛美もの。
 戦争中は、結婚してまもない男がたくさん徴兵され戦場に赴いた。その家を妻が守る。その時の妻の子育て、教育のありかた、それに対して子供の生き方はどうあるべきかを描く。内容は、まるで、修身か道徳の教科書。
 周五郎も漱石もフェチがいる。たいした作品でもないのに、盲目的に賛美をする。こんな作品群は賛美、出版に値しない。

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小路幸也  「猫と妻と暮らす」(徳間文庫)

小路幸也  「猫と妻と暮らす」(徳間文庫)
妻が猫になってしまう。その時は、何か厄災が起きるとき。その厄払いができる主人公和弥は古代から続く葦野原一族の長筋の生まれである。
 猫になったとき何がおきるか結構楽しみになって読める。
とにかく発想源は漱石である。漱石は、崇め奉る人がいる一方、本当に漱石が文豪なのかと訝る人もたくさんいる。現在はごく一部の狂信的漱石信望者のほかは、殆ど漱石に触れる人はいない。
 時々、漱石をまねた作品が出版される。この小説もそれだ。発送は「吾輩は猫である」。でも中味と文体は「坊ちゃん」である。
 漱石は本当にすごい作家なのか、私も懐疑的であるが、それでも「坊ちゃん」は傑作である。明治時代、まだ文語体が主流のとき、あのパッパッと切れ味するどい文章の連なりは本当にびっくりした。話も文も現代作家の作品よりおもしろく優れている。
 よくこの作品は模倣ができている。でも、そこまでの小説でもある。

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山本周五郎  「夜明けの辻」(新潮文庫)

山本周五郎  「夜明けの辻」(新潮文庫)
この作品を発表した「新国民」という雑誌がどんな雑誌か知らないが、この作品は無理があり、ある意図があり、かなり違和感を持つ。
 解説がまったく頓珍漢なことを言っている。伊兵衛と道之進との友情を縦糸に、佐和と道之進の愛情を横糸にした力強い青春小説であると。
 この作品には知識人として山縣大弐という人物がでてくる。山縣大弐の講演を聞き、また直接話をした伊兵衛、彼の今までの人生観が変わり新しい人生観を持つ。それが道乃進や佐和にも影響を与え、道は険しくても、山縣の思想の実現に邁進するというところで終わる。
 この思想が、本当の主君とは誰かという問いに対し、当然江戸時代であるから、藩主であり、更にその上の徳川幕府ということになる。しかし、山縣は徳川は朝廷から任じられている将軍であり、あくまで主君というのは朝廷であるという。そして、自分の命をささげるのは朝廷、天皇であると。
 作品は昭和15年に発表されている。時代や国家が求めているものを考えざるをえない。周五郎は、人民は天皇を崇め、天皇のために身命をささげろと言っているのである。大作家はこんな作品を書いてはいけない。少なくても沈黙していなくては。後味が悪い作品である。

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山本周五郎  「ならぬ堪忍」 (新潮文庫)

山本周五郎  「ならぬ堪忍」 (新潮文庫)
戦前、まだ周五郎が俵屋宗八というペンネームで発表していたころの作品集。周五郎が出来具合に不満があり、捨てたとした作品を、周五郎を信望する人たちにより発掘された作品集である。従って、作品としては一本調子で、深みには欠けるが、それでも流石と感心してしまうところが、随所にある。
「宗近新八郎」という作品で、上意討ちを決意した新八郎が最後の逢引として、おぬいと2人で尺八と琴の合奏する張りつめた場面の情景は素晴らしい。
 「広縁の障子はすっかり、あけはなしてあるので座敷からさすほのかな燭の光が、雨に濡れる庭の泉石をおぼろげにうつしだしていた。もうこれが梅雨になるのであろう、けぶるような雨は音もなく庭の樹石を濡らし、泉水の水面にあるかなきかの波紋を描いている。琴の音はときにその波紋より幽遠だった。」
 時代物は、その時代をどこまで深く想像でき、それをどこまで忠実に表現できるかで、リアリティが生まれ、物語の優劣が決まる。今、時代物が流行りだが、周五郎の想像力を超える作家はいない。まだ習作の段階だから、ちょっぴり大袈裟な表現になっているが、それでも、ここまでの情景を創造できる周五郎はやはりものすごい作家である。

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森史朗  「松本清張への召集令状」 (文春新書)

森史朗  「松本清張への召集令状」 (文春新書)
作者の体験やみたことをモチーフにしてできあがった作品が清張のなかにもたくさんあることを森のこの作品で知った。
 名作「遠い接近」の主人公山尾信治は清張を映している。山尾は30半ばを過ぎ、家族6人を養っている大黒柱。若者が彼の住む町にはたくさんいたのにも関わらず、戦争末期突然召集令状をもらう。彼のような年代のものには令状はこないのが普通なのに。戦争末期の令状はそのまま戦死に直結する。
 大黒柱を失った山尾一家はやむなく親戚をたどって広島に居を移す。そこで原爆にあい全員死ぬ。もし、令状がこなければこんな悲劇は起こりえなかった。朝鮮から帰還した山尾は、令状がどのようにだされたか追及をはじめる。
 赤紙は町に割当枚数がくる。それを役場の係員が適当に人選して決める。ここに恣意が働く。召集を忌避したい人間は、賄賂やいろいろ便宜を係員に働きかける。だから割を食う人間がでる。係員の恣意により戦死する人間がでる。
 清張は32歳で召集される。一家6人を残して。そうか、山尾は清張なのか。そう思って読むとこれは本当に奥行のある作品となる。
 ところで清張の作品はタイトルと作品内容と結びつかないものが多々ある。「砂の器」はその典型。連載を予定していた読売新聞から、宣伝をするからタイトルだけでも欲しいと言われた清張。まだ何も作品の構想ができていない。「砂は指の間からこぼれる。はかなさ切なさを表現している」。でなにを書いてもあてはまるタイトルとして「砂の器」でいくと答えた。

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村田喜代子   「光線」(文春文庫)

村田喜代子   「光線」(文春文庫)
短編集。最初の作品「光線」は村田の体験を書いているのだろう。主人公の作家が悪性の子宮癌にかかる。知らなかったが、よほど酷くならない限り、癌は完全に治すことができる。
それが、鹿児島県のK市なる場所にある放射線センターでの特殊な治療により実現されている。患部に一か月間毎日数十分直接放射線をあて、癌細胞を破壊することによってなされているのである。ここにいる放射線技術者は最高度の技術師軍団で、患部以外の場所には99%放射線をあてないように放射することができ、良細胞を破壊しないようにする。
 この方法により、100%近く癌を壊滅させる。
ただこの治療は、保険がきかず、1000万円以上がかかる。まあ、ある階級の人しか受けられない。
 村田はこの治療を受け、悪性癌を克服している。この治療を受けている時、東北大震災がおこる。この大震災で、福島原発が爆発している。何もすることができないから、治療以外の時間、村田はテレビだけを見ていて、その爆発を眺めている。
 一方は1000万円以上もかけて、放射線を使い、死の恐怖から生還する。一方は、放射能を浴び、リンパ線癌にかかり、こんな治療センターの存在も知らず、亡くなっていくひと、生家を追い出され、見知らぬ街や村に避難してゆく人がいる。
 この言葉に尽くせない矛盾が、村田を慟哭させ、物語を紡がせる。

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松本清張  「武士くずれ」 (中公文庫)

松本清張  「武士くずれ」 (中公文庫)
清張の描く家康は、名君の誉れが高い一般評と異なり、陰惨で冷たい人間である。
そうかと言って決して家康を否定しているのではなく、むしろ人間を客観的にみて、リーダーになるようなひとは、いやらしく悪いと思われる一面を持っていて、それを表にあらわさず、じっとタイミングをはかりバサっとやる慎重さが必要なのだということを清張は語っている。
 ちょっとした藩主や側近の言動によくいえば彼らの本心を見抜く力が卓越していると言えるが、逆に、ちょっとした言葉尻をいつまでも根にもっていて復讐のときを待つ、ネチネチとした暗い執念深い人間でもある。
 こんな心の狭い人間が天下国家に対し権力を握ると、藩主や側近は恐怖心だけがあおられ、へいおんなときは心安らかな時が全くない人生を歩む。
 へつらう、おべんちゃらを懸命に言う。贈り物も手にはいらないようなものを探し他の
ライバルと競う。そこまでしても、死に追いやられた山縣藩主最上義光が哀れを誘う。

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 どこかに今でもそんな国がある。

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姫野カオルコ  「部長と池袋」(光文社文庫)

姫野カオルコ  「部長と池袋」(光文社文庫)
姫野は20数年前33歳のときにデビューした作家。処女と恋愛経験の無いことを売り物にした変わった作家であった。私と誕生日と血液型が一緒だったので、何となく親近感がわき、当時はよく読んでいた。しかし、処女と恋愛経験のないことを誇張しすぎ、途中から違和感を感じていた。
 「ハルカ エイティ」という姫野のおばあさんのことを扱った本を読んで、誇張が異常で、、心底落胆して姫野の読者から離れた。
 その後直木賞も獲得し、変わったかなと期待して久しぶりに姫野を手に取ってみた。あまり変わっていないという印象を持ったが、それでも掌編を集めた青春と街シリーズは素直でいい作品が多かった。特に「18歳山科」は、京都の次の駅の小さな山科駅、受験浪人だった姫野の淋しさ、孤独感が、王将の餃子や赤尾の豆単とともにじわりと湧き出て、2枚ほどの作品だけどとても良かった。
 無理やり恋愛やポルノチックな作品を描かないで、30歳まで男知らずの女性が、社会や男性をどんな風に見て、感じていたか、素直に描いた作品を書いてほしいと思う。

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長嶋有  「安全な妄想」(河出文庫)

長嶋有  「安全な妄想」(河出文庫)
作家になる人には、社会の規範や枠にはめられることが大嫌いな人が多い。このことは個性的だというより、むしろ面倒くさい、だらだらしていたいという性向が強いためだ。
 こういう性格の人は、まず朝起きることから崩れる。それで、活動しているのが夜ばかりとなる。夜は妄想するには最も適した時間だが、代わりに友だちを含め人間関係が希薄になりどんどん係る人間が減っていってしまう。そして、気が付けば作家と交わるのは出版社の編集者ばかりとなる。
 「あんたとは絶交だ。」最近はそんな言い方はしない。口をきかないようにしたり、無視を決め込み、相手におまえは大嫌いだとわからせようとする方法をとる。売れっ子作家になると特にそういうことをする。それでいて、その編集者が作家の頭から消えているかというと、これが逆。
 夜、あいつは困っているだろう。落ち込んでいるだろう。天罰がくだったのだ。と勝手に妄想する。でも、作家が怨念をこめるほどには、編集者は淡々として、普通の生活をおくっている。

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盛田隆二  「リセット」(ハルキ文庫)

盛田隆二  「リセット」(ハルキ文庫)
どうも、まだこの物語については整理がついていない。
ブルセラ、汚れた下着の販売、ドラッグ、援助交際、家庭内暴力、それから強姦、自殺、最後は殺人。今の高校生の負の実態をこれでもかというくらい描き出す。
 現在の高校がいかにひどい状態になっているかを例のサカキバラ事件を軸に暴く。そんなに昔に比べ、今がひどいのか、そこが腑に落ちない。
 私らの青春時代は、大学進学率は20%台。高校進学率だって、地方に行けば50%くらいだったと思う。集団就職列車にのり、中卒で都会にでてくる人はたくさんいた。
 そんな人たちで、もちろん懸命に頑張ってしっかりした人生を送った人もいたが、挫折して、ぐれて、非行に走った人もたくさんいた。
 不思議なのだが、同じ15-6歳であっても、学校に通っている人が、事件を起こすと、世間は驚愕し、マスコミは大騒ぎ、教育とは、家庭ではとかまびすしくなる。ところが、学校と関わりないと、無職の少年が、工員Aがとベタ記事になる。
 確かに事件の形態はそのときの世相を反映して異なってはいるが、売春も、事件件数、殺傷件数も昔も今もそれほど変化がないのでは。
 学校という膜をかぶせて事象をみることは、時に事態を誤ってみてしまうのではないのか少し心配に感じる。
 15-6歳。昔も今も、事件や問題を引き起こす人たちはある割合でいる。

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藤原審爾  「赤い標的」(角川文庫)

藤原審爾  「赤い標的」(角川文庫)
 ソープランド、昔風に言えばトルコ風呂が作られることになる。すると、地域住民のごく一部の建設反対運動がおきる。
 しかし反対の趣旨が一見もっとものように思えるが、じっくり考えなおすとよくわからない。曰く「子供の教育上よくない」と。反対運動の特性として、子供を金科玉条のように使ってスローガンを作ることが氾濫している。
 べつにソープランドができようができまいが、ぐれる子供はぐれるし、あまりソープランド建設とは関係ないように思う。また、巷には教育上よろしくないと思われる雑誌や、映画、DVDなど溢れかえっている。ソープランド建設をやめても、子供への悪影響はあまり変わらない。
 だから、反対運動にはあまり意義を感じない。だけどその運動を引っ張ている共産党員の言いぶりは違う。
 「きっかけはささいなことでいい。ソープランド建設反対から社会の矛盾を理解して、そして学び、目覚め、そのことが全て大企業の横暴、アメリカべったりの悪の政治につながっていることを知ることになるのだから。」すごいねえ。共産党は。

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山本一力   「大人の説教」(文春文庫)

山本一力   「大人の説教」(文春文庫)
人間はバカだから、こうすればよいものを、そうしなくてとんでもない事態を招く。いつも、心は揺らぐ。行動も揺れる。理想を描き、ビジョンを持って一直線とはいかない。だから、面白いし、そこに小説物語が生まれる。山本にもそんな時代があった。オール読物の新人賞をとり、天下を取ったごとくの態度を取ったために出版社から干された。それから次作出版まで10年を要した。今は、売れっ子作家の仲間にはいり、マスコミ、出版社を引き連れ歩く存在になった。揺らいでいた時代を完全にスポっと忘れてしまっている。有頂天、絶頂期にいる。
 特に団塊の世代に多いのだが、こうなると、世の変化や、人々の変化から浮き上がり、自分しかいなくなり、修身や道徳の教科書のようなことを言うようになる。まるで、学校入口にある銅像のような態度になる。
 「新聞は社会の木鐸である。」。ここ数十年耳にしていない古いお言葉である。だから山本は嘆く。新聞は略語などを使わず、本来の言葉をもちいろと。スマホはスマートフォン、メアドはメールアドレスとコピペはコピーペーストと言えと。
 本来「窃盗」「盗人」というべきところを「万引き」などと言うから社会は堕落すると。
本当に私はまいった。

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松本清張 「延命の負債」 (角川文庫)

松本清張 「延命の負債」 (角川文庫)
短編集。本のタイトルになっている「延命の負債」以外は、殆ど昭和30年前後の発表された作品。まだミステリーに入っていない時代。文学の香がプンプンしている作品ばかり。
このころの清張が一番好きだ。
 なかでも「賞」と「いきものの殻」が秀逸。
「賞」。実力、能力もないのに間違ってまだ二十代で学士院賞を得た粕谷。そこで自分は偉いと錯覚した粕谷。自らが信じている偉さと実際世界の評価がどんどん乖離、拡大する。結果30年後のなれの果ての哀れさがくっきりと描かれている。
 「いきものの殻」。一流会社を部長で定年退職した主人公。わだかまりもあるし、でかけていやな思い出ばかり背負って帰ってくるからもうやめようと思うのだが、会社退職者次長以上のOB会の案内がくると欠かさずでかけてしまう。重役には手が届かなかったが部長になったプライドがある。だからいつまでも会社をひきずっている。
 彼が部長時代、小石という課長が最も信頼していた部下だった。会で気詰まりになったので小石をもうでようと言って誘った。小石とタクシーにのり銀座で飲もうと言った。それまでは絶対服従だった小石が、用事があるからといってタクシーを途中でおりた。ポツンとあいた隣の席に言い知れぬ寒気が漂っている。

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堀江敏幸  「なずな」(集英社文庫)

堀江敏幸  「なずな」(集英社文庫)
午後のひと時、愛犬を連れて散歩をする。散歩の途中に、犬を店に入れてもOKという喫茶店が2軒ある。OKというより、店主が一緒にはいれと要求するのである。
 見知らぬ人たちの輪が犬を中心にしばしの間できる。そのうちに、また元に戻り客同士の会話が始まる。しばらくするとまた犬が話の中心となる。そんなことを繰り返す。私はもっぱら他のお客さんの話を聞いているだけ。それが、街の様子を知ることになり、時に、おじさんたちの青春の恋の話を知ることになる。犬を連れていることで、世間が知らないうちに広がってくる。
 この作品は、弟の都合で、なずなという生まれて2か月の赤ちゃんを預かることになる主人公の育児奮闘記である。主人公は、転職を繰り返しながら、ある地方都市で発行している新聞社の記者になる。街にきたばかりなのだが、なずながいるおかげで、回りに人々の輪ができる。なずなの世話は大変なのだが、危なそうなところを誰かが補って支えてくれる。
 なずなを中心にして、街の様子がわかってくるし、記事も材料がたやすく集まり書くことができる。そして、なずなが少し大きくなっても、できあがった人間関係はしっかりと続く。
 この作品の解説者が、最初に書いている。子供は満一歳になると、一般の人並の飛行機料金が取られる。だから、一歳にならないうちに子供を連れてパリに休暇に行ったと。
 いかにも堀江の作品は、こういう人でなければ理解できないと言われているようで、ちょっぴり顔がゆがむ。優雅で、知識と教養が豊富、あくせくとは無縁な人しか堀江は読者にしない。この作品も、盛り上がりはなく、淡々と400ページを超えて、物語が進む。ちょっと凡人では読み切ることはきつい。馬鹿は読んではいけない小説だと堀江は言っているのでは?

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松本清張 「黒い手帖からのサイン」(新潮文庫)

松本清張 「黒い手帖からのサイン」(新潮文庫)
かの佐藤優がセレクションした清張の作品集。
信長の武将、丹羽長秀。木下藤吉郎が長秀の地位からはるかに低いときには可愛い奴と目を細めてみていたが、どんどん藤吉郎が信長に取り入り出世してくると様子が変わってくる。何しろ信長を交えての武将会議のときも、他の武将は分をわきまえて、必要以上の発言はしないのに、藤吉郎だけは、憶面もなく発言をする。信長に叱責されてもペロっと舌をだすくらいのずうずうしさがある。
 さすがに長秀も藤吉郎に追い抜かれるのではと不安になる。不安は他の武将にも現れ、藤吉郎を非難するものもでてくる。何人かの武将はこらえ切れずに信長に直訴。それらの武将はことごとく左遷の憂き身にあう。
 耐えに耐えた。でも抜かれてしまった秀吉に「ある所領をおまえに与える」といわれてとうとう切れた。それで最後は自らの腹から臓器をえぐりだし、臓器にたいして「この憎き秀吉め」といいながら果てた。

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貴志裕介  「黒い家」(角川ホラー文庫)

貴志裕介  「黒い家」(角川ホラー文庫)
動物には、子供を山のように産んで、後はそこから幾匹か育てばよいとする動物と、一匹かわずかを産んで、愛情一杯に身を粉にして育てる動物と2タイプあるのだそうだ。前者をr戦略型動物といい、後者をK戦略型動物と学問では言うらしい。当然人間はK型に属するが、段々r型に変化してきているらしい。
 r型人間の特徴は、感覚、感情が殆どないのだそうだ。悲しいとか嬉しいとか、痒いとか痛いとかなどが無く、匂いも殆ど感じないのだそうだ。
 この小説はr型人間を扱っている。これは凄くて、他人の腕を、何もないように淡々と切り落とすことができる。まるでまぐろの解体ショーのごとくに。人間を殺すことだって普通のようにできて、それに怖いとか可愛そうだとか、いけないなどということは全く思うことはない。作業のようにできる。
 そういえば最近、能面のような殺人犯が登場することが多い。全く感情がない、どうしてこんなことをしてしまったのかと悔恨もないし、責められても薄ら笑いだけをして、無反応な、普通には理解できない殺人鬼が増えてきている。

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盛田隆二  「夜の果てまで」(角川文庫)

盛田隆二  「夜の果てまで」(角川文庫)
人生を振り返ると、何であの時、あんなことをしてしまったのだろうと思う場面がある。あんなことをしてしまったために今の情けない自分があるのだ。
ふつふつと湧き上がる感情だけに突き上げられて行動してしまい、人生の軌道をはずれる。
はずれた軌道は気が付くともう元には戻らない。
 その失敗の最たるものが、駆け落ちである。この小説は、北海道大学生とラーメン屋のかみさんとの駆け落ちを扱う。この北海道大学生、地元の北海道新聞(小説では違う名称)へ、難関を突破し、就職が内定している。それなのに、就職をなげうってまで、ラーメン屋のおばさんと駆け落ちしてしまう。
 読者は馬鹿だなあと思いながら読むが、人生を振り返ると、同じとまでいかないが、似たような経験があったと思わず述懐。あそこで、踏みとどまってよかったなあとため息をつく。
 だから、北海道大学生には共感と反感が、青春のあまずっぱさを添えて、交錯する。
盛田の小説の運びの卓越しているところは、出来事をデフォルメせず、あるがままに描いていること。この話も1990年のころを描くが、そのときの風俗や、出来事をさりげなく装飾としていれているが、作品と実に上手く溶け合っている。これが、他の作家にはできない。なつかしい昭和を書こうとして、頭にある昭和の風景を入れるが、これが溶け合わず宙に浮く作品が非常に多い。
 駆け落ち作品は、古いタイプの作品群にはいり、今はあまり受け入れられないかもしれないが、私は盛田のこの作品は好きだ。

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桂望実   「週末は家族」(朝日文庫)

桂望実   「週末は家族」(朝日文庫)
劇に狂って、シェークスピアに狂って、貧乏劇団を持ってしまった大輔。大学で狂い始めてそのまま12年、何も変わらず、子供のようなシェークスピアおたくのまま。
 シェークスピアには人生、人間というものにたいしての全ての言葉を持っている。何かを問われたり、言いたいことがある時は必ず「シェークスピアは」と枕詞がつく。そしてそれが止まらなくなって長々と続く。
 ひなたという施設に入所している10歳の子を、週末だけ受け入れる里親になる。そしてひなたに触発されながら、シェークスピアだけでは語れない世界があることを大輔が知る。だけど言葉は大切である。だから、あるときから、シェークスピアから解放されて、自分の言葉をつむぎながら話そうとする。でもやっぱり話は長いが。
 この作品でシェークスピアは云わば、社会の常識、規範を表している。しかし、世界や人間は広く深く大きい。それを知ったときの、大輔、妻となっている瑞穂(実はこの2人は、世には殆どいない無性愛者で抱き合うという欲望が完全にない)とひなたの家族は、言葉で熱く強く結ばれるようになる。

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盛田隆二   「おいしい水」(光文社文庫)

盛田隆二   「おいしい水」(光文社文庫)
女性の社会への進出はかなりのスピードで進行している。今や、男性、女性を問わず、まずは自分を大切にして他人から邪魔されず個性を発揮して生きてゆく時代。こんな時代になればなるほど邪魔になるのが結婚。そうはいってもまだ、家事、育児は女性の肩にのしかかっているから 特に女性にとっては。
これが、時代が変化して、家事、育児も夫婦できちんとシェアする。たとえそうなっても、個性を発揮しながら仕事で生きるためには、結婚は障害物である。
 この物語には、集合住宅に住む4組の家族が登場する。そして、すべての妻たちが形は異なるが結婚人生にもがいている。夫が浮気をするから、同等に私もするという妻。パートや派遣にいやけがさして、共同で出資して店を構えて、失敗してしまう主婦たち。専業主婦がその生活場所にやりきれない思いが募り、小さな出版社にパートで就職。そこで能力を発揮して正社員になるところまでいく。しかし、その家庭はまさに夫婦の関係が壊れていく過程となってしまう。
 表面的には元気もいいし、きつい皮肉を互いに言い合い、和気あいあいとしているようにみえるが、どの妻も悲しく、痛々しいほどに孤独だ。
 盛田は中年から熟年に至る、男女を描いたらリアリティがあり随一の作家の一人である。

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浅田次郎  「赤猫異聞」(新潮文庫)

浅田次郎  「赤猫異聞」(新潮文庫)
今、自治会長をしている。担当している自治会には119軒ある。一人暮らしのアパートもあるから全体居住者は350人ほどである。会長をしていていると、世の中がよくわかる。
市や地区のために働く人を選出せねばならない。これが50人もいる。そしてこの50人が人々の生活のかなりの部分を支える。それも誰も、やりたがらない仕事をすることで。ゴミの回収、分別。草刈、清掃。街灯の管理。子供会。老人会。それから、高齢者、障碍者のための御用聞きである民生委員など。
 やりたくないけど、やらないと暮らしが回らない。言えば、必要悪の仕事である。この仕事には、将来の役得、出世があるわけでもなければ、お金などの利もあるわけではない。
 美味しい部分は、役所勤めの人や、役所に癒着、たかっている人たちが持っていく。活動はやって当たり前、何か問題が発生すると、実際を担っている役所からみれば、下っ端の自治会選出者に文句を言ったり、活動の改善を要求する。時には責任をおっかぶせる。
 浅田のこの作品は、必要悪の仕事をさせられている下っ端人間の意地とその裏腹である、哀愁を描きだしている。


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藤原審爾  「死にたがる子」(新潮文庫)

藤原審爾  「死にたがる子」(新潮文庫)
黒猫が子供を4匹産む。3匹は黒いが、1匹が白い。親の黒猫は、3匹の黒猫を可愛がり、乳を与えるが、白猫には見向きもせず、時々白猫がやってきても邪険に追い払う。
 白猫は、他の子供と争ってまで、乳を飲もうとはせず、じっと端っこにうずくまっている。
まるで、この世に生まれてきてはいけなかったことを悟り、死ぬことを待っているような状態である。かわいそうに思ったこの物語に登場する子がミルクをあげるがやはりしばらくして死んでしまう。
 世の中には生きているのか、死んでいるのかわからないような子供がいる。家族とともにいても、学校にいても存在が無い。そんな子は無視されるか、屑物のようにいじめられる。
 先生たちは、そんなにいじめられているとは知らなかったと問題が起きると言う。それは責任を回避したくて、知っていても知らなかったと嘘を言っているのだといつも思っていた。でも、この作品を読むと、存在の無い子には先生さえも関心がゆくことは無く、あながち先生の反応は嘘でもないような思いがしてきた。時には先生も子供と一緒になって、存在の薄い子をいじめているなどの記事に接するときもある。
 そんな子たちは、いずれ自分の存在価値がこの世界には無いことを知り、静かにマンションのベランダから身を投げる。



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