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2014年08月 | ARCHIVE-SELECT | 2014年10月

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江戸川乱歩  「虎の牙、透明怪人」(講談社文庫)

江戸川乱歩  「虎の牙、透明怪人」(講談社文庫)
怪人二十面相と明智小五郎名探偵との戦いシリーズ。
「透明怪人」が面白かった。
新聞記者黒川は最近東京に出没する透明人間について記事にしたり捕まえることに必死になっている。黒川の話によると、銀座に透明人間が現れる。透明だから、誰にも見えない。しかしときどき何かにぶつかる。「何だ」と怒ろうとしてもそこには何もない。そんな経験者が銀座に大勢でたという。
 そこから、足が消え、胴体が消え、首から上だけが残るといったような現象があちこちで起こる。そして事件も起きる。
 途中で、透明になることのできる薬が開発され、島田少年が飲まされ透明人間にされたようになる。まさか、透明になる原因は薬だったなんてことはないだろうな。心配しながら読み進むと、ちゃんと後半明智先生が現れて透明人間になるトリックを解明してくれる。透明現象が起きる時はなぜか必ず黒川記者がいることがトリック解明の鍵となる。

| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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乾くるみ  「カラット探偵事務所の事件簿1」(PHP文芸文庫)

乾くるみ  「カラット探偵事務所の事件簿1」(PHP文芸文庫)
推理作家には新しいトリックの発見こそがすべてという作家達がいる。新しいトリック想像に凝りしのぎを削る。読者を置き去りにして、斬新さだけが、評価の対象となる。
だけど、そこには物語はない。
 たとえば、この作品に収録されている「三本の矢」。解説の推理小説評論家によるとこうなる。弓道には「射法八節」という極意がある。「足踏み 胴作り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、残心」この小説では、八節の順に従い次の言葉が埋め込まれている。
 「足踏み 堂作り、油が前、うち起こし、引き分け、解、離れ、斬新」
こんなことは弓道をやっている人が読んでもわかりっこない。これが素晴らしいでは、悲しい。

| 古本読書日記 | 06:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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 詩人 画家 大野勝彦

引きこもり症候群、読書ばかの普段着を脱ぎ捨て、先週、地元静岡県から九州阿蘇まで旅にでました。
きっかけは、静岡生まれの航空会社が会社創立5周年記念のイベントとして先週一週間限定で、どこへ乗っても5000円/フライトという記念切符を販売していることを知ったことです。
 この切符で阿蘇にいってみようと。
 阿蘇で何を?
一番好きな詩人は宮沢賢治。その次が阿蘇の詩人、画家である大野勝彦。その大野勝彦の「風の丘 大野勝彦美術館」が阿蘇にあるからです。小さな美術館でそれほど宣伝もしていないのですが、2005年開館以来、40万人近い人たちが訪れている、なかなか輝いている美術館なのです。
 大野勝彦は、阿蘇で生まれ、高校卒業後家業の農業を継ぎます。そして45歳のとき、トラクター清掃中に操作を誤り、両腕を切断する事故にあいます。しかし、切断2日後には義手で筆を握り、字を書き始めます。
 両腕を切断後は、家族も両親もそれから周りの人たち、何気なく生えている草花に対する思いがガラっと変わります。
手は失ったが足はあると。しかし、その足は前に向かって行くこともできるが、逃げることもできる。
 いつも、いつもその足をどこに向けるか悩みながら、少しずつ前へ前へと歩んで行きます。その思いが文字から詩へと、
そして絵画へと階段を昇らせます。
 その歩みが、武骨ではあるが土が匂い立つ、純朴な言葉で語られ、描かれ、詩を読む者、絵を観る者の心奥深くしみこんできます。
大野勝彦を紹介する動画のURLを記載します。是非、素晴らしい、魅力あふれる人、大野勝彦に触れてみてください。

URL  www.d1.dion.ne.jp/~shojitkh/ohno-dotoku.htm

| 日記 | 08:44 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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三島由紀夫  「夏子の冒険」(角川文庫)

三島由紀夫  「夏子の冒険」(角川文庫)
夏子は富豪のお嬢様であり見目麗しい美人。あまたのりっぱな男たちが家を通したり直接に結婚、交際を申し込んでくる。
 夏子はわがままではあるが、男に、人とは違う光るもの、更につきぬけるような情熱を求めている。しかし、言い寄ってくる男は、当たり前な情熱しかもちえない男ばかり。一生懸命仕事をして、出世階段を上り、最後は社長へ登り詰め、夏子には何の不自由もさせず暮らすことを保障するなどのような。それで夏子はことごとく言い寄る男をはねつけ、そして両親にとんでもないことを突然言う。「北海道の修道院にゆき修道女になる」と。修道女になれば結婚、恋愛は御法度。しかし一旦言い出したら夏子は絶対他人の言うことをきかない。
 北海道に行く途中、井田という青年にあう。彼は愛する妹を殺した熊に仇をうつということに異常な情熱を勤めている会社までなげうち燃やしている。この情熱に夏子は心を打たれ、井田こそわが待ちに待った恋人と決め、修道女になることをやめ井田と仇討に同行する。
 でも井田が紆余曲折の上、熊の仇討に成功して、「また元の暮らしにもどり、夏子と一緒になり、夏子の幸せのために尽くす」と宣言すると夏子も宣言する「私は修道女になる」と。

| 古本読書日記 | 08:08 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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伊坂幸太郎  「ラッシュライフ」(新潮文庫)

伊坂幸太郎  「ラッシュライフ」(新潮文庫)
世間には、伊坂と聞いただけで、彼の書く作品であれば何を読んでも最高に素晴らしいと感じる人が結構たくさんいる。この作品も、最初はそういう人が買って評価するから素晴らしい一色に染まる。その評価を聞いて手に取ってみた人のなかにはこれが最高とはおかしいと手厳しい批判をする人が多い。
 この作品は最初からストーリーが決まっていなくて、その時、その時、伊坂が聿をとってその聿が進むにまかせてストーリーができているように思えた。時々の調子の良しあしが、文章に現れ、調子が悪いときに書いた文章だと思われるところは、私には重かった。
 プラナリアは水が無いと生きられない。そこで容器の水を抜いて一か所に集める。そうするとプラナリアは水があるところに移動し、生きることを学習する。それを数回繰り返すとプラナリアは水のある場所に移動しなくなる。同じことを繰り返すことがいやになる。そんなことを繰り返すくらいならと死を選択する。なかなか重い挿話を伊坂は物語に入れている。

| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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原田マハ 「旅屋おかえり」(集英社文庫)

原田マハ 「旅屋おかえり」(集英社文庫)
九州の旅をしながら列車、飛行機の中で読んだ。この物語は、読者を旅へ、旅へといざなう。
愛媛内子、秋田角館に球肌温泉・・・・。だれもが行きたくなるだろう。
後半もそれなりに良かったが、前半の旅屋という商売を弱小芸能プロダクションが始めるに至るまでの物語が良い。
 唯一のタレント(30過ぎ)丘えりかの所属事務所、丘の「ちょびっ旅」とこれも唯一の丘の番組で、スポンサーの「江戸ソース」を丘が間違って「えぞソース」と連呼していまい、
番組打ち切りとなる。そこに、番組の強いファンから娘がALSの病気にかかり、寝たきりで、手足も動かせない、この娘のために旅行に行って、それを映像にして持ち帰ってほしいという、お母さんの依頼がある。この娘さんは華流家元の娘で、それを継ぐために修行していた段階でALSを患う。家元はそんな娘を不必要な人間として捨て、縁切りのように扱う。
 娘が行ってほしい場所が角館。去年桜を見に行ったのだが大雨で見られず、それで丘に是非行ってレポートをしてほしいと。
 晴れ女と異名をとる丘が角館に行く。そこはしかし大雨。泣くようなレポートをする。そして球肌温泉に向かう。ところが温泉は5月というのに大雪。しかし、この雪が丘を救う。
 体を張った丘のレポートが父を娘の元へと呼び戻す。ここまでが見事。
人々はいつか誰でもが社会の荒波にむかい旅にでる。そしてまた必ず戻ってくる。
 「行ってらっしゃい」と「おかえり」の言葉が原田の作品により輝きを放つ。

| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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乾くるみ 「六つの手掛り」(双葉文庫)

乾くるみ 「六つの手掛り」(双葉文庫)
六つの謎解き短編集。
高校のころの数学の試験問題を取り組んでいるような錯覚を起こした。数学は最も苦手な科目であったので、どれも複雑に思え、解答に至る前にちんぷんかんぷんになってしまった。
解ったのは「3通の手紙」。
配送伝票の宛名、住所の筆跡を、ハガキからコピーして、そのコピーを上に伝票を下にして、
筆跡をなぞって伝票を書く。一番上は送り主の控えだから白紙のまま送り主がとる。
2枚目以降は複写になっている。送り主の筆跡となっているので、当然送り主自身が品物を発送したものと誰もが思う。
 うまいことに気がつくものだと感心した。
それ以外は数学の試験と同じ。落第点ばかりだった高校時代を思い出した。

| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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伊坂幸太郎  「死神の精度」(文春文庫)

伊坂幸太郎  「死神の精度」(文春文庫)
「死神」は人間の体をして現れ、彼が調査した人を死なすべきか、生かすべきかを決める調査員をしている。一週間の調査の後、余程のことが無い限り死ぬべきとの回答を中央に報告。そして、調査された人間は、8日目に不慮の事故か、殺され死んでしまう。自殺、病死は含まない。死神の調査の短編集。
 最後の作品が素晴らしい。死神が現れて、調査している間は必ず雨降り。
そんな雨降りに海岸端にある、見晴の素晴らしい美容院に死神が現れる。その美容院は、70歳を過ぎた老婆がひとりでやっている。老婆は、両親も長男も不慮の事故で亡くしている。次男は喧嘩別れして一切音信不通。
 その老婆が死神にお願いする。「明後日、男の子2人と女の子2人を街場で声をかけ、美容院に理容に連れてきてほしい。」と。苦戦をしたが、あれこれ工夫して子供を集め、結果11人の男女子供たちが雨の中やってきた。どうして老婆はそんなお願いをしたのか。最後に明かされる。
 次男に子供がいて、老婆の死ぬ前に次男が孫に一回だけ会わせてあげると約束した日、それが明後日。
11人も子供の客がいれば、どの子が老婆の孫かわからないが、きっとその中には孫がいる。
 夜9時まで理容はかかった。孫はわからなかったが、老婆はどの子も心をこめ最高に利用をしてあげた。そして、疲れてそのまま寝入った。
 翌朝、老婆と死神が、表へでるといっぱいに広がった青い空。死神が初めて青空をみた瞬間だ。
老婆が微笑む。「太陽に手をかざして見る顔と、ほほ笑む顔は一緒だね」と。

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鮎川哲也  「砂の城」 (光文社文庫)

鮎川哲也  「砂の城」 (光文社文庫)
アリバイ崩し、トリックの見破り。典型的な推理小説。しかも最も難しく、事件解決の鍵を握るアリバイ崩しが汽車トラベルの盲点をつくところ。古典的な作品だけど、面白かった。
2つのトリックが使われる。
週刊誌が執筆者など特別の人には発売日前に届けられることを使ったトリック。
東京を発つ鳥取直通の急行(昔は特急はない)に15分遅れの急行に乗っても、途中乗り換えをすれば、15分前に出発した直通急行に途中で追いつき、その列車へ乗れる。
直通列車は、天の橋立や宮津を通り大きく迂回する。そこで、京都の綾部から福知山までの普通列車にのり、福知山から別列車に乗れば、15分前出発の急行に乗れるのである。
トラベルミステリー作家というのは、朝から晩まで時刻表を眺めて、盲点をさがしているのだろう。
 鮎川にこのトラベルミステリーを書かせたのが、紀行作家として有名であり、当時の中央公論の出版部長であった宮崎俊三であることを知り成程と納得した。

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江戸川乱歩  「不気味な話1」(河出文庫)

江戸川乱歩  「不気味な話1」(河出文庫)
猟奇、不気味な物語を集めた作品集。
半分は既読。巻頭を飾る「押絵と旅する男」は乱歩の作品のなかで私が最も好きな作品。
戦争や空襲での悲惨さは数々の体験集が出版されている。さて乱歩にとって空襲を強く思い出す体験とは。青年、市川は、空襲の中逃げているうちに、火災にあっていない大きな屋敷にたどりつく。そこで、たった一人でいた若き美女であう。その女性が、「ここは庭が大きいから火災にはなりません。安全ですから、空襲がやむまでここにいたほうがいいわ」と言う。
 ドカーン、ドカーンと爆弾が破裂する。阿鼻叫喚があり、外は火がたけりくるう。
そういえば、空襲があるたびに興奮して、オナニーにふける人がいることを聞いたことがある。市川は今までにない欲情につきあげられる。そこでたまらず美女におおいかぶさる。
 美女も拒否しない。2人は今までに味わったことのない、最高の欲望の波の中を漂う。
戦後、そのときの告白がある。何と70歳を超える皺だらけのおばあさんが、「あんな気持ちのいいことはなかった」とうれしそうに語った。

| 古本読書日記 | 15:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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伊坂幸太郎  「終末のフール」(集英社文庫)

伊坂幸太郎  「終末のフール」(集英社文庫)
8年後に小惑星が地球に衝突、地球の生き物すべてが滅亡すると宣言される。そして今はそれから5年がたち、地球滅亡まで3年となった時の、仙台「ヒルズタウン」というマンションに住む人たちのそれぞれの人生模様を8編の短編にして描く。8年前はパニックになる。暴動も略奪も人殺しも起き世界は混乱する。しかし、それから5年後になると、次第に世の中は落ち着き、電気も通る。細々ながら農業も始まり、車も走る。警察も復活しそれなりの秩序も回復する。そして、人々は3年後に滅亡するとわかっていても、生きることを大切にして日々の生活をしてゆく。
 まず、本当にそうかなあと思う。やっぱし、世の中は混乱してダイナミックに滅亡にむかってゆくように思う。そういう想いがぬけきれないものだから、やたら地味に感じる。
 読むはじから中味を忘れてゆくほどに、平凡で、つまらない作品に思えてきてしまった。

| 古本読書日記 | 15:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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江戸川乱歩  「魔術師」 (講談社文庫)

江戸川乱歩  「魔術師」 (講談社文庫)
作品は昭和5年の作。エログロナンセンス、猟奇が大流行の時代。その時代背景が存分に発揮されている。
 この作品の最大のトリックは、時間の長さを使っていること。宝石商の玉村家に両親を含め親族を殺された奥村源蔵。玉村家のすべての家族を殺すため、綿密な計画をする。その最大の仕掛けが、玉村家に生まれた赤子と奥村家に生まれた赤子(これが同日に生まれるなんてことはありえないという野暮は言わない)を看護婦を買収して、交換する。
 この赤子を20年かけ育てあげたところで、いよいよ奥村の玉村家に対する復讐の火ぶたが切られる。これだけの長さをもってのトリックはそう簡単には考えつかない。
 そのほか、いくつかの密室殺人が起こるが、これも名探偵明智小五郎により解明される。
でも、やっぱし圧巻は犯人だとしてきた、魔術師奥村が自害しても、更にいくつかの事件が起きて、奥村は実際は死ななかったのではと思わせて、最後の最大の見せ場を作る。
 乱歩の面目躍如である。

| 古本読書日記 | 05:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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伊集院静  「それがどうした」(角川文庫)

伊集院静  「それがどうした」(角川文庫)
伊集院は、明日は明日の風が吹く状態で、流浪の旅を続けながら、エッセイや小説を書く。これがニヒルで恰好よく思われ人気がちょっぴりある。
 しかし、中味はガキっぽく、甘えん坊、わがままのところがあり、しばしばそんなところがエッセイに顔をだす。
 ある夏から雑誌連載が始まることになっている。だから下見を兼ねて編集長にアメリカに行きたいと言う。脅し文句もちゃんという。それが実現できないと、連載は引き受けられないと。
 わがままな人間で、世間ではそれで通用すると思っている人間は、ふっとアメリカ行がいやだなあと思うことがある。で、前日になって「アメリカへ行きを遅らせようよ。」なんてのたまう。
 出版社の編集長はびっくりするとともにまたかと伊集院のわがままに辟易とする。
切符もホテルも入手済み。おぜん立てはすべて出版社で整え、調査場所、会う人まですべて
調整して決めた後。
 「車をお宅までむかわせますから、何卒、アメリカに行って頂きますようお願いします。」
そんな周りの配慮、苦労がわからない伊集院。しかたなくアメリカに行ってやり、だからその旅行はひどいものだったと伊集院は書く。
 ここが伊集院の手がつけられないところ。

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藤原正彦 藤原美子  「ぶらり歴史散歩」(文春文庫)

藤原正彦 藤原美子  「ぶらり歴史散歩」(文春文庫)
藤原正彦 美子夫妻がそれぞれ育った場所、学生時代や新婚時代に過ごした場所を訪ね、その場所でその昔、活躍していた歴史上の人々をしのびながら対話する。
 味わいのある会話が満載で、どの散歩道も一読の価値があるが、やはり正彦が子供のころを過ごした私と同じ故郷諏訪についてここでは語りたい。
 諏訪に絹織物工業で財をなした片倉財閥があった。その社員、女工さんたちの保養所施設と建てられたのが国の重要文化財に指定されている片倉館。
今でもあると思うが、どでかい風呂があった。蚕糸工業地帯岡谷から蒸気船で諏訪湖を渡って片倉館にきて宴会やら保養をしていた。
 片倉館の裏の病院で、結核療養をしていた横溝正史が、この片倉財閥をモデルにして書いた作品こそ、かの有名な「犬神家の一族」である。

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辻村深月  「水底フェスタ」 (文春文庫)

辻村深月  「水底フェスタ」 (文春文庫)
由貴美の「あなたに抱かれるかどうかは、顔を見て決めたの。」という言葉にこの物語のすべてが込められている。村八分ということはどういうことか。すべて無視し会話も絶対しないし、まして仲間には絶対入れない。但し、火事への対応と葬式の二分については手伝ってあげる。残り八分はなにもしてあげない。
 気持ちの高ぶりが、文章に伝わりすぎたのか、読んでいて五月蠅い。その五月蠅さが、物語のリアリティを完全に損ね、劇画のような物語になってしまった。
 特に由貴美のしゃべりことばがよくない。
「した」「おもった。」など「た」言葉での終わるのを濫発。普通、人が会話するのに「た」で終わることなど殆ど無い。「したわ」「思ったのよ」というふうに終わる。
 その「た」言葉の濫発が内容を空疎にし、物語を一層固くしている。

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伊藤整  「女性に関する十二章」 (角川文庫)

伊藤整  「女性に関する十二章」 (角川文庫)
これは凄い。今、こんなことを書いたら、社会から総すかんを食らう。しかし、総すかんを食らうことが本質をついていることは多い。変な平等主義や、実は誰も理解できていない 愛とか自由という言葉で言いくるめそれ以上の考察や議論を拒否する。愛、平和、自由、子供たちの未来を守れなんて言葉を吐く言論人やマスコミはあやしいぞ。
 この作品は1953年当時を背景に書かれている。男女同権、平等、自由と叫んではみたものの、女性には辛い時代であった。戦争で男の多数が死に、圧倒的に女性の数が男性の数を上回る。その名残がまだあった時代である。だからちまたには結婚できない未婚の女性が
多くいた。そこで、未婚女性が「全国未婚者婦人同盟」という組合を結成する。家庭を持っている人から結婚税を取ることを政府に要求するのである。もし、その家庭が税金を払わねば、その家庭の夫と組合人は自由に誘い合い恋愛ができるという趣旨の要求を掲げた組合である。いやはや、素晴らしい時代である。
 男というものは本質的に外にでて、多数の女性たちと性交渉をもちたがるようにできている。もちろん、女性にもそういう欲求はあるが、男のようにあまたの女性たちだれでも
というような欲求はなく、人数的にもごく限られている。
 この男の本質により、多くの子孫ができ、人間社会は発展してきている。それを浮気など
と、男の本質を侮蔑し、愛などない冷えた関係なのに、粛々と夫婦を続けることは、人間の本来のありかたに反していることである。
 これすべて伊藤整が語っている。こんな本が出版できる時代はやってこないだろう。

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海老沢泰久  「F2グランプリ」(新潮文庫)

海老沢泰久  「F2グランプリ」(新潮文庫)
海老沢の表現力、文章力に感服した。
映像ならばともかく、F2レースをリアリティを持って小説化することなど全く困難だと思っていたが、海老沢は不可能を見事に可能にした。
F2の第一人者佐々木とそれを抜かんとする井本のレースでの駆け引き。新星中野の佐々木を抜く場面、井本が佐々木を抜く場面、そして最後井本が佐々木を抜く場面は、強烈な迫力があり、しかも目の前に映像としてあざやかに浮かぶ。
 加えて、レース前日のレースクイーン、小宮山あき子を介しての佐々木と井本の駆け引きもよくできていて面白い。

| 古本読書日記 | 06:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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石原慎太郎  「オンリー・イエスタディ」(幻冬舎文庫)

石原慎太郎  「オンリー・イエスタディ」(幻冬舎文庫)
石原の回想交友録。
石原自身が自らを傑出して偉大な人間であると信じ込んでいる。だから、紹介する人間だって、真に友人かどうかわからないが、トップたりうる人間でなければならない。経済界、政界、音楽界どの分野であっても、しかも有名人でなければいけない。
 その中にあって、それほど有名でもなく、トップを極めていない、石原にしては、奇異な人をこの作品で紹介している。名前は高橋宏。一橋大学時代、寮で知り合い、青春を共に駆け抜けた人物。
 高橋は一橋を卒業後、日本郵船にはいる。当時から才能がぬきんでた人物で、主要海外支店の支店長を歴任、順調に出世し、日本郵船の社長になること間違いなしといわれていた。
 しかし、当時の社長が経団連の会長を引き受け、自分の大学の後輩を社長にすえてしまい、高橋は社長になれなかった。この後輩が社長就任直後、病死して、高橋を社長にと前社長にいわれたが、敢然と拒否して子会社の郵船航空にしりぞく。そんなトップになれなかった男をあの尊大な石原がとりあげているのだから、石原にとっては無二の親友であろう。
 高橋さんは仕事のつきあいで、私もぞんじている。私が高橋さんを訪問したとき、机上の電話がなり、受話器をとる。
 「またうるさい石原から」と小声でウィンクしたことを思い出した。

| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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鮎川哲也  「死者を笞打て」 (講談社文庫)

鮎川哲也  「死者を笞打て」 (講談社文庫)
作者自身が主人公というめずらしい推理物。鮎川の標記タイトル作品が盗作と評論家より指摘される。それは10年前に無名の女流作家石本峯子の発表作品に酷似していた。
 どうしてこんなことが起こるのか、干された鮎川が動き出す。その過程でいろんな事件が起きる。しかし、内容は平凡。
 この作品の面白いところは、昭和30年代前半のミステリー作家や評論家が仮名、実名で、登場してくるところ。土屋隆夫、三好徹、陳瞬臣など。彼らの性格、普段の態度が赤裸々に描かれている。
 でも、推理小説フェチか、昭和30年代に推理小説を楽しんだ人でないと、この小説を読み切るのはかなり辛い。

| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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肩身

週末、いつものように買ってきた週刊誌を分類する。
こっちは嫁さんのため。こっちは自分のため。
嫁さんは、「週刊現代」「週刊新潮」「週刊文春」。こちらは「週刊大衆」、「週刊実話」、「アサヒ芸能」。
早速こちらは楽しみの袋とじにこそこそはさみを入れる。
孫がやってきて「何をしてるの。」と。そして、週刊誌の中身をみて「いやらしい」と声をあげる。
「何をのたまうか。無礼者。こちらの週刊誌こそ、真実をありのままに書いているのだ。あちらの週刊誌は嘘を平気で書いている。嘘はいけない。正直、誠実が人生で最も大事なのだ。」

少し肩身が広く(こんな言い方はないか)なった。朝日新聞のおかげだ。家での私の領地がささやかながら拡大した。

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石原慎太郎  「僕は結婚しない」 (文春文庫)

石原慎太郎  「僕は結婚しない」 (文春文庫)
「太陽の季節」の後日談物語のように思われる。
結婚とは欲望をあきらめることとこの作品で石原は言っている。だから結婚はするものではないと。
しかし、齢を重ね、欲望を満たしながら、つまり、美女女性とそれも時に複数同時進行で欲望を楽しみながら生きることは難しい。自分への投資も怠ってはいけない。水泳などの運動を通じて体の衰えを防ぐ。服装もスタイリッシュでかつ高級なものを身に着けねばならない。食事はいつも高級レストラン。アバンチュールだって、場末のラブホテルなんてのはまかり間違ってもまずい。高級バーにデラックスホテルの眺望の良い部屋。
 それとヨットを持っていて、気が向けば豪華クルージングだって楽しめる。
殆どの人はこんな生活など夢のまた夢。
だから、庶民はつましく、いつも横にいる女性に安定した欲望を求める。やっぱり庶民には結婚は安定的欲望を満たすために必要である。

| 古本読書日記 | 06:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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鮎川哲也  「死者を笞打て」 (講談社文庫)

鮎川哲也  「死者を笞打て」 (講談社文庫)
作者自身が主人公というめずらしい推理物。鮎川の標記タイトル作品が盗作と評論家より指摘される。それは10年前に無名の女流作家石本峯子の発表作品に酷似していた。
 どうしてこんなことが起こるのか、干された鮎川が動き出す。その過程でいろんな事件が起きる。しかし、内容は平凡。
 この作品の面白いところは、昭和30年代前半のミステリー作家や評論家が仮名、実名で、登場してくるところ。土屋隆夫、三好徹、陳瞬臣など。彼らの性格、普段の態度が赤裸々に描かれている。
 でも、推理小説フェチか、昭和30年代に推理小説を楽しんだ人でないと、この小説を読み切るのはかなり辛い。

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浅田次郎  「降霊会の夜」(朝日文庫)

浅田次郎  「降霊会の夜」(朝日文庫)
とてもその通りと言えない定説がある。
高度成長時代は、たとえ今は貧乏であっても、明日の豊かな未来が約束されていて、夢や希望に溢れ幸せな時代だった。それに比べ今は、未来は暗く、不安定で陰鬱、不幸が溢れている時代だ。とにかく、昭和礼賛の風潮が今はある。
 1951年生まれの浅田は私と同い年だ。あの時代、土管を住居にしている人がいた。この作品にでてくるような車への当たりやが流行った。それも、この作品のキヨのように子供に当たりをさせた悲劇は毎日のように報道されていた。大きな会社がやる機械化された杭打ちの隣で、ヨイトマケを唄いながら、底辺であえぐ人々が、杭を打っている姿があった。
 浅田がこの作品の最後のところで言う。
「繁栄を目指す騒音は都合がよかった。聞こえていても聞こえないふりを、見えていても見えないふりのできる世の中だった。」
 幸せに見える世の陰に、おびただしい量の不幸があふれかえっていた。あの時代は、それほど良い時代ではなかったと、浅田は言いたかった。それは同い年の私も全く同感である。

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鮎川哲也 「灰色の動機」 (光文社文庫)

鮎川哲也 「灰色の動機」 (光文社文庫)
社会派ミステリーという小説は、清張や森村誠一あたりから作り出され、読者から喝采をもって受け入れられた。社会の歪や権力に立ち向かったり腐敗を暴く姿勢が、読者の目を開かせた。
 結果、ミステリーは、トリックの秀逸さは後ろに引っ込み、動機とかその事件の背景が主題となるようになった。そのことが、トリックの劣化を産み、中にはトリックが無いミステリー小説までも氾濫しだした。
 動機や背景に力がはいるから、やたらに長い作品が多くなる。それで推理場面が乏しいのでは、物足りなさを増幅させる。それで、本来の推理小説はどうだったか、再確認するために鮎川の本を読んでみた。結構虚をつくトリックがあり、その着想に感心した。
 旅館に例えば、田中と佐藤という2人が泊まる。もちろん宿帳には田中、佐藤と書かれる。しかし、旅館では、田中さんと佐藤さんの区別はせず、田中さんご一行ということになる。佐藤さんも田中さんと呼ばれるようになり、ここに人違いのトリックが生まれる。

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道尾秀介  「水の柩」(講談社文庫)

道尾秀介  「水の柩」(講談社文庫)
逸夫は何の特徴もない普通な子供。普通の向こうには異常な日々を送っている人や異常な過去をもっているひとがいる。しかし、普通の横に薄い膜があり、その膜は本当に薄いのに、そこから先を見えなくしてしまう。
 敦子は、美人の美香を中心としたグループに毎日、体に傷が絶えないくらいにいじめられている。小学校6年のとき20年後の自分はどうしているかという作文を書き、それをタイムカプセルにいれて埋める。敦子はいじめに耐えかね、自殺を決意している。だから、20年後には自分はいない。いじめた人たちに復讐するつもりで、誰がどんないじめをしたのか具体的に書いて埋めた。
 小学校も卒業。もうタイムカプセルに書き終わり、復讐は終わったと思い、忘れるつもりでいたのに、あんなばかなことを書いたことがいちいち思い出され忘れるどころか悔恨の種となり自らをしょっちゅう苛んだ。だから、本当は普通の子だったと作文を書き替え埋めなおすことを敦夫にお願いして、それを実行した。きれいさっぱりとこれで過去を忘れるはずであった。
 しかし、敦子はそれを実行したあと、ダムから身を投げ自殺をしようとした。敦夫がそれを体をはって防いだ。どうして、敦子は自殺をしようとしたのだろう。それは、小学校で終わるはずのイジメが中学2年になった今も続いていたのだ。今度は流石の敦夫もいじめがわかっていた。それから物語は、鮮やかな終章に向かう。
 面白いけど、最近は小学生や中学生を扱う作品が多すぎ、飽きてきた。

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池澤夏樹  「夏の朝の成層圏」(中公文庫)

池澤夏樹  「夏の朝の成層圏」(中公文庫)
池澤の処女作。この物語は、池澤が今後作品を創る際、どこに基盤、視点を置くかを示している。鼻息が荒い決意表明にも思える。
 タイトルにある成層圏とは、作品の中では、漂流して着いた孤島。実際には、文明進化に取り残された地方の山里のような場所。孤島といっても、島ができて以来の無人島ではない。
 かっては村人がいて、生活をしていた。しかし、文明があり、まばゆい活気ある都市が一方にあり、その暮らしやすさ、楽しさに吸引され、今は捨てられ廃屋ばかりになった山里である。池澤は、文明に取り残された山里に自らをおき、そこでの生活から文明の進化をみようとすることを決意、その場所での文筆活動を宣言する。
 しかし、この成層圏は、常に文明の誘惑との戦いが控えていて、よほど精神を確固としないと、貫徹させることは難しい。そんなこともこの作品ではつぶやいている。

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森沢 明夫  「夏美のホタル」(角川文庫)

森沢 明夫  「夏美のホタル」(角川文庫)
森沢は今年のモントリオール映画祭で特別金賞を獲得した「ふしぎな岬の物語」の原作者。
それでこの本を手に取ってみた。
 この物語は、父、母から子へ孫へと、人生をつないでゆく物語だ。その瞬間で最も大事な言葉が「生まれてきてくれてありがとう」。その継いでゆく姿、家族を暖かくみつめてくれる地蔵さまがいる。
 「お地蔵様ってのはな、いちばん弱い立場の者から救ってくれる、心優しい仏様なんだ。だから、子供を最優先で守ってくれる。」
 登場人物はすべて心優しいひと。さらさらとそよ風が流れるように物語は進む。340ページの作品だけど、1時間半で読んでしまった。こういう軽い作品もたまにはいいなと思うけど、一日に5-6冊読んでしまいそう。お金がもたない。

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楡周平  「介護退職」(祥伝社文庫)

楡周平  「介護退職」(祥伝社文庫)
この作品が失敗し、つまらなくなった瞬間がある。花形エリートの主人公唐木が、母の介護をしている妻が倒れ、にっちもさっちもいかなくなる。時々、会社の席をはずし、病院や我が家をかけずりまわる。見かねた上司で取締役である桑田との話合で、最後は花形部門の部長をはずされ、閑職である文書管理室付部長待遇に追いやられる。しかし、これで、介護を含め家の対応への時間は大幅にできる。
 しかし、花形部長と文書管理室では給与はともかく、やりがいや体面では天と地の差がある。それでも、普通の人はそれでも思い会社に踏みとどまると思う。その物語を書いてほしい。ところが唐木は、介護により妻が大変とその前まで苦悩をいっぱいして、だから家庭、妻思い母思いと評価していたのに、結局自分の体面プライドを優先して会社を退職する。この瞬間、介護問題の重さが吹っ飛び実につまらない作品となる。最後の終わり方も最悪である。

| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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堂場瞬一  「八月からの手紙」(講談社文庫)

堂場瞬一  「八月からの手紙」(講談社文庫)
特に今年になってプロ野球がつまらなくなった。ノーアウト一塁になると、多くの場合バントでランナーを2塁に送る。それはワンヒットで一点が殆ど約束されているからだ。
 ところが、今年の野球は、そういう場面になると、外野が殆ど内野の少し後ろに守る。まるで内野手が7人いるような体形になる。そうなれば、ヒットを打っても、ほとんど2塁ランナーは3塁に止まってしまう。野球の定石が崩れた瞬間だ。その昔は、ワンアウト、ノーアウトで3塁にランナーがいれば、簡単に外野フライがあがり、点数がはいった。ピッチャーが落ちる球をそれほど多投せず、外野フライが打ちやすかったからだ。落ちる球が今は全盛だ。これがテレビから野球ファンを遠ざけた。バッターがホームベース前で弾んだボールをころころ空振りする。テレビで見ると何であんな糞ボールを振るのかと怒りたくなる。急に野球のレベルが下がったように見えてしまう。
 その昔、セリーグとパリーグでは彼我の差があった。何しろパリーグの試合はテレビで見ることは殆どできず、選手名など誰も知っていないのは当たり前、下手をすればチーム名も知らない人がたくさんいた。パリーグの野球は、野球場へ行かなければ見られない時代だった。
 野球場では、観客の数を指を折って数えることができた。ふざけているファンは外野席で麻雀をやっていた。
 ピッチャーゴロを打つ。野球は何がおこるかわからないからなんて理屈は建前。一塁に全力疾走なんてしない。下手をすれば一塁にはむかわず、そのままベンチに向かう。ピッチャーも心得たもので、ボールをショートに投げ、ショートが一塁に放る。ダブルプレーの練習をするわけだ。
 平凡フライがライトにあがる。これをライトがわざと、クラブの土手にあて、はじく。そのはじいた球を地上スレスレでとり、アウトにする。
 戦前まで、アメリカの大リーグは白人しか選手を受け入れなかった。しかたなく黒人は
ニグロリーグを創り戦った。一シーズン100本の本塁打を打つ強打者や、50勝以上あげる
ピッチャーもいた。この作品に登場する、ジョン ギブソンことジョジュ ギブソンこそ
最強の強打者だったし、黒人の中の英雄だった。
 センター前にヒットを打つ。一塁に駆け込む。そこでランナーは、ズボンの後ろのポケットからびんをとりだし、酒をぐいっと飲んでベース上で一息をつく。それがこの作品の物語。
 みすぼらしかったけど、楽しく暖かだったあの頃のパリーグの試合を思い出した。

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池澤夏樹  「クジラが見る夢」(新潮文庫)

池澤夏樹  「クジラが見る夢」(新潮文庫)
 昔は時々観ていた番組で「人生の楽園」という番組がある。都会のぎすぎすした暮らしを離れていかにも幸せ一杯の田舎生活を謳う番組である。
 本当かなあ。わざと楽しいように作っているのではといつも感じていた。画面で幸せ一杯風な人たちのその後を追跡してほしいと思う。田舎にいて、都会に比べ幸せと思える生活が続くとは思えないからだ。
 サウス ケイコスというカリブ海に浮かぶ孤島。文明とは隔絶された人々が暮らす。そこで、世界的な素潜り名人のジャックが言う。
 「安楽だけど贅沢ではない。いいのは家のすぐ前からボートに乗って海にでられること、いつも海の風にあたっていられること、それに周囲に他の家が一軒もないことだ。いずれここに家を完成させて、のんびり暮らす。」
 本当にのんびり暮らすなんてことができるのか。今まで、ちやほやというのは失礼、称賛され仲間に囲まれて気持ちよい暮らしをしていた人間が、周りに家のないところで、のんびり暮らすなどということが。池澤もこんな世界、暮らしを軽軽に理想のように言ってはならない。何よりも池澤自身が口では調子いいことを言っても、そんな世界に住むことなどできない人間なのだから。

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