松本清張 「宮部みゆき選傑作短編コレクション」(上)(文春文庫)
宮部みゆきは本当に松本清張を崇拝、敬愛している。そして、現在の宮部ワールドも清張を基礎にしてできあがっている。文春で500ページ以上にわたるコレクションを3巻だしていて、更に新潮でも宮部みゆき選清張コレクションをだしている。
この作品集の中で最も好きな作品は「真贋の森」。
自分は実力があると強烈な自負があるのだが、実力もないくせに、政治力で権威をこしらえ君臨しているやつがいて、結果自分はその勢力からはじかれ、うつうつとした貧乏で孤独な人生を歩んでしまっている。全く理不尽このうえない。
偽りの権威を何とか策を弄して、世間に暴いてやる。そんなことばかり考えて毎日を暮らす。それで、あるときその策を実行する。90%までいつも成功するのだが、残り10%で破綻。更に今よりもっと奈落におちるか、自分で自分を抹殺するに至る。
清張得意のパターン。
わかっているのだが、いつもはまってしまう。
暗い少年から青年時代。いくら売れる作品を世にだしても、文壇や文学世界からはちっとも評価されない。古代史、昭和史を独特の視点をもって論じても、学会からは誰も相手にされない。
そこから生ずる屈折感、敗北感、その権威にたいする怨念がまた傑作を生み出す。
松本清張 「宮部みゆき選傑作短編コレクション」(中)(文春文庫)
「式場の微笑」にすこし驚いた。昭和50年発表の作品である。
昭和50年ころというのは、会社では男は27-8歳まで、女性は24歳くらいまでに結婚するのが当たり前という風潮があった。
だから30歳くらいで女性が独身でいると、その女性は職場からつまはじきにされ、暗く、いじけた存在になってしまう。そんな主人公の女性、着物着付けの免状をもっていた。
知らなかったのだが、成人の日、晴れ着を纏った女性が多くいるが、式の後たくさんの
カップルがラブホテルに行き、帰るときになり着付けができない、そんな時、着付けをするアルバイトがホテルに雇われていて着付けをしてくれる。
主人公の女性もそんなバイトをしていて、ある中年と成人女性の不倫カップルの着付けを担当した。
ある結婚式によばれ、そのとき新婦と来賓代表できている新婦の会社の課長が、ホテルで着付けをしてあげたカップルだったことを知った。式がお歳暮時期にあたっていて、式の数日後豪華なお歳暮がその会社より主人公の家に届いた。それだけの話。
ミステリーなら、この孤独なハイミスである主人公が、式で知った秘密を武器に課長や新婦を追いこみ、そこから事件発生となるのだがそんな雰囲気や恨みみたいなものは微塵もなく物語は終わる。
どことなく後味が良い作品。普通の人々が描かれている作品である。
by はなゆめ爺や
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