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東野圭吾   「超・殺人事件」(新潮文庫)

 推理作家のさまざまな苦悩を描いた短編集。

最初の「超税金対策殺人事件」が最高に面白かった。

推理小説家の芳賀、下積み期間が長かったが、ここ最近ヒット作を連発して、原稿料、印税がたくさん入り少し贅沢ができるようになった。

 そして、今小説雑誌に連載小説を掲載している。

主人公が殺人犯を追って、雪のなか、釧路に来ている。

ここまで書いていると、税理士事務所より、今年度の納税予想金額の報告がある。これをみて、芳賀は驚愕する。納税額が膨大なのである。これまで贅沢してきたために、お金が足りなくなり、税金が払えなくなる。

 芳賀は税理士に怒る。女房に苦労をかけたから、ハワイ旅行へ行った。それから、草津温泉に行き、贅沢をした。自宅の風呂場と風呂釜をリフォームした。

 これを経費で落とすようにしてくれと。
しかし、税理士はこれらは小説には登場しないので、経費にはなりません。小説に書いてあれば、取材費として、経費で落とせますが。

 すると主人公は、犯人を探して、突然釧路からハワイにゆく。宿泊、観光内容、土産もすべて小説に入れ込む。

 さらに、犯人はハワイから草津温泉に逃げる。主人公も犯人を追って、草津に行く。
そこで贅沢三昧をする。

 それから、犯人は、ある家に閉じこもる。その家に主人公がトラックで突っ込む。そして風呂場の壁と風呂と風呂釜を破壊する。

 結果、雑誌連載は打ち切りとなり、出版社からの作品依頼も大幅に減る。
すごい作品になっただろう。ちょっと芳賀作品を読んでみたい気がする。

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| 古本読書日記 | 05:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「白馬山荘殺人事件」(光文社文庫)

 このミステリーには2つ解明すべき事件がある。殺人と、盗品の隠し場所を突き止めることである。

 盗品は、箱に入れられ、ある場所に埋めて隠される。

この場所がどこか、英国の古い童謡をあつめたマザーグースのうちの幾つかの童謡が事件関係者が宿泊したそれぞれの部屋の壁掛けに書かれていて、それが暗号になっていて、暗号を解読し、隠し場所を特定してゆくこと。

 それから殺人。これは古典的な密室殺人。このカラクリを解き明かすこと。

この密室が、一般的な密室ではなく、変形密室になっている。

 殺人は寝室で実行されるのだが、寝室に入る前にリビングルームがあり、そこを通らないと寝室にはゆけない。
 それから、殺人の共犯者がいるということ。このことを組み合わせることによって、密室風殺人事件が実行される。

 犯人は殺害を実行し、窓を開けて、そこから逃走する。この窓は、内側に降ろし鍵がついていて、この降ろし鍵を上げて、窓をあけ外へでるのだが、死体が発見されたとき、降ろし鍵締まっていた。当然、これは、リビングに隠れていた共犯者が、犯人が窓から外へ出た後、降ろし鍵を降ろし閉めたということになる。

 少しトリックが複雑。

それより、きっと誰かがすでに使っただろうトリックが物語で紹介されている。降ろし鍵の部分に雪をすりつけておいた状態で窓をあけて外にでる。窓はもとに戻す。すると雪が溶けて、降ろし鍵が下りて、窓に鍵がかかった状態になる。

 二番煎じになるかもしれないが、このトリックのほうが一段と優れている。

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| 古本読書日記 | 06:25 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「殺人現場は雲の上」(光文社文庫)

 エー子とビー子、同期入社のキャビン アテンダントコンビが活躍する、航空会社ミステリ7編の作品集。エー子は東大出の頭脳明晰な超優秀アテンダント。対してビー子はスレスレで入社試験を通った、劣等アテンダント。つまり漫才ではツッコミ役がエー子、ボケ役がビー子。

 しばしば起こりそうな錯覚。

 行きつけの喫茶店。その店を出ようとしたところ、出入り口の傘立てに自分が持っている傘が差しかけられている。いつか、傘をさして店に来た時、忘れて帰ったのにちがいないと思って持ってかえる。しかし、家に帰ると、持ち帰った傘と同じ傘が家にある。

 エー子とビー子が乗務した飛行機。ある旅行会社が企画した、親と赤ちゃんの旅ツアーの客が乗っていた。全員乗客を降ろした後、点検していたら、熊の着ぐるみに包まれていた赤ちゃんが残っていることがわかる。あわてて、赤ちゃんを持って乗客を追いかける。しかし、当たり前だが、赤ちゃんを機内に置き忘れたという客はいない。

 ツアー参加者はその日、京都の円山公園を散策していた。母親は赤ちゃんの世話から解放されたくて、一緒に参加していた夫に赤ちゃんを預ける。

 トイレに入ってでてくると、入り口のところに熊の着ぐるみを着た赤ちゃんが置かれていた。母親は、夫が置いたものだと思って、その赤ちゃんを抱いて、ツアーバスに戻る。
 と、驚くことに、夫が赤ちゃんを抱いている。母親は自分たちの赤ちゃんではない赤ちゃんを持ち帰ってきたのだ。

 バスは、後部に赤ちゃんを寝かしておく場所がある。そこに、寝かしておくと、ツアー客赤ちゃんも含めて、全員乗ったかとガイドが、乗客が乗ったと答えれば、数えることはしない。

 母親と父親は飛行場の店で、赤ちゃんの人形と熊の着ぐるみを購入して、その人形を抱き、間違った赤ちゃんを放置して飛行機を降りる。

 人が陥る、思い込みと錯覚をうまく東野は物語に仕立てている。

この作品集、東野初期の作品のためか、登場する刑事が、簡単に事件の捜査内容について、エー子、ビー子に話す。これはあり得ない。東野にはめずらしく失敗作品集だった。

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| 古本読書日記 | 05:40 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「探偵倶楽部」(祥伝社文庫)

 探偵倶楽部というのは、会員制の倶楽部。会員が事件にあったりトラブルに巻き込まれたとき、その真相を調査してもらうために作られた倶楽部。

 大原泰三は和英大学の理工学部、学部長。遺伝子工学の泰斗で、次期学長の最有力候補となっている。

 泰三は、助教授になった時、結婚をし、長女直子を設けている。直子が三歳のとき、妻が書置きと離婚届を残して、直子を連れて失踪する。

 その後失踪していた妻が亡くなり、泰三は娘直子を引き取る。

 泰三が助教授になった時。風采の上がらない万年助教と言われていた男が、遺伝子工学研究室にいた。妻失踪1年後、泰三は万年助教授の娘と再婚。この再婚の妻との間に生まれたのが次女由里子。

 実は再婚した時、相手には恋人がいた。菊井という男だった。その菊井から泰三は恋人を奪っての再婚だった。

 そして事件は起きる、長女直子が刃物で刺され、深夜に殺害される。万年助教授の助手をしていて、現在は泰三の手伝いをしている神崎が自殺。これは警察の捜査で他殺だったことがわかる。

 ここで主役の探偵倶楽部が登場する。その報告で、泰三と後妻の血液型はA型。由里子はB型。A型夫婦からB型の子は生まれない。そして菊井の血液型はB型。つまり、泰三が結婚した後も、後妻と菊井の関係は続いていたのだ。そのことを神崎は知っていて、由里子とその恋人を脅していた。直子には泰三の遺産はゆくが、由里子にはいかないと。

 これが直子、神崎殺しに結び付く。

東野の作品は、登場人物が個性豊かで、人間らしい人物が殆ど。ところが探偵倶楽部はいつもロボットのように型にはまった報告を行い、名前もわからない。

 東野の人物造形が真逆。でも存在感は十分で、それなりに面白かった。
収録されている「薔薇とナイフ」より。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「祈りの幕が下りる時」(講談社文庫)

加賀刑事シリーズ完結作品。

以前の作品でも書かれていたかもしれないが、この作品でしばしば加賀とコンビを組み事件を捜査する松宮刑事、2人はいとこ同士ということを初めてこの作品で認識した。

 この作品では、主人公加賀の母親が突然失踪していたことが、この作品の以前のシリーズで書かれているが、その原因と加賀の生い立ち描かれる。さらに、荒川沿いのアパートで若い女性の腐乱死体が発見された事件が母親失踪とつながるという、加賀には辛い捜査が展開する物語になっていて、少し驚く。

 この物語では、2つのことが重なりあって悲しい事件が起きる。

以前から不思議に思っていたことなのだが、ホームレスの人はなぜ生活保護を受けて、最低でも普通の生活を送るようにしないのかという疑問。

 最底辺の人が追い詰められて、最後にお金を得る手段としてとる方法。それは、戸籍を売ることである。それにより、自らの存在をこの世から消す。

 そして、もう一つ、戸籍を買う人はどういう人か。本来の名前でなく、別の名前が必要としている人。何か事件を起こしていて、本名を消して、別人になりすませばならない人。仕事のために戸籍をバックにした住民票が必要な人。

 仕事のためということで、よく登場するのが原発労働者。原発労働者になるためには、住民票がいる。原発労働者は、電力会社が採用するのではなく、下請け、孫請け会社が雇う。

 常に被ばくの危険がある、恐ろしい条件下で労働者になるのだが、その分給料は一般労働者よりよい。そして、住民票は、雇用会社が本人にかわって取得してくれる。

 物語の主人公は、こんな父親を持つ、明治座で行われている演出家の女性。この父と娘の失踪、逃亡、そして再会と悲しい結末が、情感豊かに描かれる、悲しいがダイナミックな物語になっている。

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| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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