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松井今朝子  「非道、行ずべからず」(集英社文庫)

 タイトルの「非道、行ずべからず」は世阿弥が「風姿花伝」で、何かひとつの道を極めようと思うものは、断じて他の道に行こうとしてはならぬという意味で書かれている文からきている。

 物語は、文化6年元旦、江戸最大の劇場中村座が発生した大火により炎上。焼け跡から男の死体がでてくるところからはじまる。その遺体は劇場に出入りしている忠七という小間物屋だった。
 その後、桟敷番右兵次、楽屋頭取中村七郎兵衛が殺害される。

私の子どもの頃人気アニメで「巨人の星」が放映されていた。これが主人公星飛雄馬が一球投げるたびに、その投げる球の意味、どうしてその球を選んだのか、長々と説明、眼が光ったり、球がゆっくりうなり声を発し、えらく時間がかかった。それで30分の番組で、3球しか投げないこともしばしば。やたら進行の遅い作品だった。

 この作品も、3人が殺されるが、真相解明、犯人捜査が全く進まず、ため息ばかりがでるばかりだった。

 しかし、江戸狂言、歌舞伎に登場する役者だけでなく、金主、脚本家、木戸番、大道具方など、その役割とそれぞれの人物の個性が豊に描かれ描写は見事で、江戸演劇を理解するのに大いに役立った。

 それから作品はミステリーにも係わらず、捜査に携わる探偵役が北町奉行所同心の笹岡とその部下見習いの薗部となるところだが、彼らが脇役となり物語が停滞して進まないことにもいらいら感が募った。

 500ページを超える作品で、380ページを超えるところから、急に物語がミステリーの雰囲気に変わり、そこからようやく興奮の連続となった。

 特に、元旦に殺された小間物屋の忠七が、実はかって女形で有名な役者だったのだが、現在の立女形の大役者三代目荻野沢之氶との競争に敗れ、そのまま上方にゆき、行方不明になった袖崎林弥だったことが明かされ緊張感が高まった。

 これに還暦を過ぎた沢之氶が引退。2人の息子市之介、宇源次のどちらが引き継ぐのかが、林弥の殺害と絡む。そして、沢之氶の命を懸けた最後の舞台の演技のすさまじさには読んでいて驚愕し、眼を見張った。

 すさまじい作品だった。

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| 日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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藤野可織   「私は幽霊を見ない」(角川文庫)

 この本には、私の生まれ育った長野県の田舎町が登場する。これを書くと、自分のことがバレる心配があるが、構わず書いてしまうことにする。

 荒川じんぺいというエッセイスト兼グラフィックデザイナーがいる。荒川じんぺいは高原や森を中心としたエッセイを多数書いていて私も大好きな作家で愛読している。
 荒川は今、住処を私の故郷の町に構えている。

私が会社を定年退職したとき、私の部下だった女性社員たちが、私の故郷に行き送別会する企画をたててくれた。それで10人ほどで一泊旅行で私の故郷へでかけた。

 私の故郷は、信州の田舎町でありながら、観光スポットが無く、仕方なく大正時代に創設された、結核療養所の記念資料館に皆を連れて行った。

 ここに驚くことに館長として荒川じんぺいがいて、館を案内してくれた。

この療養所は、東京帝大をでた、正木俊夫が、大正9年5月にスイスのダボスに行き、ここで体験した、当時世界最高の結核療養所(サナトリウム)を視察。その結果当時、不治の病だった結核患者のサナトリウムを創ろうと決意、そして私の町に創った。

 結核は不治の病で、多くの人が結核に罹り有名人もナトリウムにやってきた。院長と親友」だったのが、画家の竹久夢二。彼は長い間ここで療養して50歳の若さでサナトリウムで息を引き取っている。横溝正史もここで療養している。

 それから何といっても有名なのが、堀辰雄の恋人矢野綾子、若くしてこのサナトリウムで亡くなるが、彼女との悲しい愛を描いたのが「風立ちぬ」。

 この資料館には、患者の入退院や死亡の記録簿が残っており、それを調べると確かに矢野綾子が昭和10年12月6日に亡くなっている記録があり、感動した。

 お茶目な荒川じんぺいは庭の木を指さし、「あの木に矢野綾子役を映画で演じた山口百恵がよりかかりました。」と説明する。私は当然庭に降りて、木に頬ずりをした。

 紹介の本の作者藤野可織さんは、卒業した高校を訪ねた時恩師岡崎先生に出会う。
岡崎先生は新婚当時、ご夫婦でこのサナトリウム資料館を訪問した。そして、その時、資料館で若い夫婦と遭遇する。

 そして、資料館を後にして、車に乗ると、この若い夫婦がドアが閉まっているのに、ふわーっと入ってきて、後部座席に座る。

 岡崎先生は言う。
「サナトリウムは若い結核患者が多くいて、幸せになることもかなわず、若くして亡くなった人がいた。我々の幸せぶりを見て、やっかんでこの世にでてきたんだよ。」

 そういえば、私たちも資料館を訪問した時、資料館は大正時代そのままの建物になっていて、廊下を歩くとミシ、ミシと音が鳴り、薄暗く、幽霊がでそうだと思ったことを思い出した。

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| 日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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住野よる  「麦本三歩の好きなもの第2集」(幻冬舎文庫)

 主人公の麦本三歩は、大学の図書館に勤めていて、3年になる。そこに初めて後輩となる新人女性が入ってくる。その後輩を含め、怖い、優しい先輩との交流によって引き起こされる出来事を短編形式で描いた作品集。

 こういう作品で思い出すのは、益田ミリさんの漫画。たしか主人公は独身OLのスーちゃんだと思うが、益田さんの作品に比し、主人公の三歩を住野さんは、かなり変わっている女性として描くが、中味は正直平凡で、圧倒的に益田さんのスーちゃんのほうがユニークで面白い。

 それに漫画のほうが描きやすいことも有利になる。一コマで、できごとを生き生き描くことができるが、その一コマを文章で描くと、多くの字数を要し、間延びしてインパクトが小さくなる。

 その中で、おおここは面白い。さすが住野だと思わせたところを紹介する。
主人公の三歩が、お婆さんが一人でやっている小さな文房具屋にゆく。そこでお婆さんに教わりながら、店に来ていた母子連れの子供と三歩が一緒に折り紙で孔雀を作る。

 その時お婆さんの手首に入れ墨が彫ってあることに、女の子が気付く。で女の子がお婆さんに言う。
「あたしにも同じ絵を描いて。」
文房具屋だから、水性ペンや絵の具などおいてあり、描いてあげようと思えば描いてあげることはできる。

 きっと描いてあげるだろうと三歩は思ったが、お婆さんの答えは全く違った。
「ごめんね、これは鉛筆やマジックで描いたものじゃないから、お婆ちゃんには描けないの。」
「誰が描いたの」
「お婆ちゃんの娘。」
「これは刺青と言ってね。かっこいいけど、消すときは病院に行かないといけないし、尖った針で描くからとっても痛いんだよ。」
「そうなんだ。じゃあ、いいや・・・・」

 隠さず、正直に幼い子に伝える。普通の発想ではあり得ない。ここをきちんと伝える住野さんの感性に感心した。

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岩井志麻子   「合意情死」 (角川ホラー文庫)

 短編ホラー集。

この作品集を読んで思い出したが、私の小学校時代にはおじいさんの用務員さんが学校にいた。学校に住み込みだった。用務員さんは、先生たちのお茶を作ったり、学校で傷んだところを直していた。それから、なつかしく思い出すのは、授業の終了、開始時間は、今のようにベルや音楽を流すのではなく、用務員さんが大きなベルをもって、それをふりふり鳴らしながら知らせていた。そう、小学校に入学した当初は、校内放送の設備が無かった。

 物語の時代は明治の終わりか大正の初め。主人公の小宮は新人の小学校の先生。引っ込み思案で、あまり他人と会話ができない先生だった。

 唯一の楽しみが、帰宅途中にあるカフェー「カフェーオカヤマ」にたちよりくつろぐこと。
その「カフェーオカヤマ」で小学校時代の同級生安藤にでくわす。安藤は実家が呉服商を営んでいる資産家。安藤はそんな実家を継がずに、市内にアトリエを持ち、絵を描いている。

 安藤と書店主大岩、それと小宮のいた「カフェーオカヤマ」に女学生いせ子がやってくる。美人の女学生だった。そのいせ子が、安藤、大岩ではなく、小宮の隣に座る。小宮はいせ子が自分に好意を抱いていると感じる。でもとてもいせ子と話すことなどできない。自分には無理とはなからいせ子を諦める。

 しかし、ある日安藤より、いせ子をアトリエにつれてきてほしい、小宮から言えばいせ子は承知するからと。そんなことはとてもできないと放っておく。

 しばらくして大岩がやってきて、「安藤はいせ子をモデルにして、アトリエで妾にもしている。」と言う。
安藤の妻ミツヨはできた妻で、収入のない夫をカフェの店員や、料理屋の女給をして支えている。
ここで、やめとけばいいのに、憤慨した小宮が、ミツヨにこれは正義だと思い、いせ子と安藤の関係をミツヨに告げ口をする。

 しばらくして、安藤といせ子が心中したと大岩より知らされる。小宮は自分の告げ口が大変な事態を引き起こしたと悔恨する。

 そして、ミツヨから小宮はアトリエに連れてってくれるようにお願いされ仕方なく、ミツヨを小宮はアトリエに連れてゆく。

 すると小宮の目の前で、いきなりミツヨが全裸になる。そしていせ子を描いた絵と同じポーズをする。
ひしひしとミツヨの嫉妬、哀切が伝わってくる。

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領家高子    「向島」(日経文芸文庫)

 自分とは全く関係ない空間で生きている人達がいて、喋ることも、生活も、行動も全く違う。その一つが芸者と、芸者遊びを楽しむ男達の世界。

 主人公の芳恵は、向島の芸者の娘に生まれ、大学には行かず、高校を卒業して芸者の道にはいる。
ある日、大企業の偉いさんと、財務省官僚の宴席に、芳恵が芸者としてでる。そこで、高校の時だいすきだった木村君が財務官僚として出席していた。そして、食事にゆくことを約束。その食事の後、2人は熱い口づけをする。

 ところが、その熱い接吻の翌日、朝から和菓子屋の御曹司黒川が芳恵の家まで迎えにきて、一泊二日で軽井沢の高級ホテルに行く。黒川は朝10時に高級スポーツカーでやってきた。

 黒川は芳恵より30歳年上。そして今夜生まれて初めて男性に抱かれる。
しかし、芳恵に全くの躊躇は無い。覚悟を決めて黒川に抱かれる。それにしても、和菓子屋というのはそんな贅沢ができるのか。不動産をあちこちに持っているのか。

 それで、木村君などすっかり忘れて、芳恵は黒川を心の底から愛する。木村君は私と同じ世界の人なのか。それはない。だって、20代半ばで向島の芸者遊びの宴席にでているわけだから。

 芳恵はめくるめくような恋の世界に浸る。
その姿を見ていた、向島の長老沢木老人が黒川に会って話をする。
沢木老人は、実は芳恵の母親は三芳という向島芸者だったが、ある男の子供身ごもる。実はその男は最高裁判所の判事だった。そう芳恵は最高裁判事の娘なのである。

 沢木老人は芳恵は三芳によく似ているから心配だと言う。
芳恵の母親三芳は、生まれた子供は誰の子か絶対明かさなかった。もし知った人がいても、父親には絶対言わないように頼んだ。

 それを相手が知ったり、噂になったら相手の判事の人生に傷をつける。それだけはしてはいけないと。老人はその母親の生き様を黒川に訴える。30歳年上、遊び人に見える黒川に。

 この沢木老人の真剣な話が読者の心を揺さぶる。
でも、その凄みにしては、結果は平凡。

 しかし、作者領家さんは、芸者の街、向島を印象深い表現で丁寧に描く。その描写はため息がでるほど、素晴らしい。

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