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重松清   「幼な子われらに生まれ」(幻冬舎文庫)

重松は初期の「見張り塔からずっと」や「エイジ」、「ビタミンF」で、暮らしの中で、抱える矛盾や苦悩を取り出し、決して解決にはならないが、真摯に問題と向き合い、悩みに寄り添って生きてゆく人々を描いていた。真面目に悩む素晴らしい作家がでてきたものだとすぐ虜になったことを思い出す。

 最近は、やたら色んな場面で泣きがはいり、それを読者にも一緒に泣いてもらおうとあざとい作品が多くなり、つまらない作家になったものだと少し距離を置くようになってしまった。泣かせる前に、どうして泣いてしまうのか、その心模様を前は懸命に重松は書いていた。

 久しぶりに重松の作品を手にとって驚いた。この作品は、初期の重松の現実をしっかりとらえようと頑張っている昔の重松の作品に戻っていた。と、思ってよかったと思ったのだが,この作品、重松の初期に書いた作品だと知りなあんだやっぱりと思ってしまった。

 この作品テーマはありきたりだ。

主人公の私は、元妻でアメリにも留学して、現在大学の心理学の助教授で最近はテレビのコメンテイターをして時代の先端を走っている友佳がいた。この友佳との間に沙織という八歳の娘がいる。友佳との約束で、年4回沙織に会う。

 一方私には、再婚した現在の妻奈苗がいて、その奈苗の連れ子薫、恵理子とともに4人家族で暮らしている。奈苗は前夫のDVに耐えかね、離婚している。

 そんな時、奈苗が妊娠する。奈苗の連れ子は自分が本当の父親ではない。沙織は父親だが、現在は別の家族の元で暮らしている。そして、奈苗の連れ子薫は私を父親と認めていなくて、本当の父親に会いたがっている。加えて、恵理子に父親が今の私ではないことを伝えてないことに薫は怒っていて、家では私や妻に距離をおこうとしている。

 しかも、私は仕事に打ち込む姿勢が足りないと、出向の内示を受ける。奈苗に子どもをうませるべきか暗澹たる薫との関係に悩む。

 その悩みを忘れようと、私は赤ちゃんプレイの店に溺れる。

重松は実に丁寧に私の苦悩と、家庭での孤独を描く。そして、すべてが解決するわけではないが、子供たちにも作為に走ることなく、おじけづくとことなく、勇気をもって真正面から対応することが、男、夫にとって大切なことで、それが彼の成長につながることを誠実に描く。

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伊坂幸太郎  「アイネクライネナハトムジーク」(幻冬舎文庫)

それぞれに関連がある仕掛けはあるが、一見無関係な6作品の連作短編集。バラバラな作品が最後に一つに結集する、それが見事。まさに伊坂マジックを楽しみ、満足感に浸れる。

 美奈子は美容院で働いている。彼氏はおらず平凡な日々を送っている。板橋香澄という常連の客がいる。この香澄から、弟の学とつきあってみないかと持ち掛けられる。

 ここにテレビの恋の告白番組の話題がはいる。ボクシング選手がいる。今度の試合で勝ったら彼女に「好きだ」と告白すると。そんな、負けたら告白しないなんて恋じゃあないじゃん。

 香澄は美奈子に携帯番号を教えてもいいかと問われ、いやだと断る。香澄の弟は、半年前に彼女と別れていて今はフリー。結構気が弱そうで何かあるとすぐ平謝りをする。この前も往来で酔っ払いに絡まれて平謝りしたばかり。

 そんなある日、美奈子に香澄の弟学から電話が突然かかってくる。香澄が「美奈子が学に用事があるから」と言ったから。何だか気分がもりあがらない時にゴキブリが美奈子の前に現れ、悲鳴をあげ、電話をきる。

 そこから、電話だけの関係が始まる。学は事務職がつまらないから、職をやめようかと思っていると美奈子に告げる。そして確かに事務なんて平凡な日々の繰り返し、美奈子もその気持ちはわかると思う。

 香澄に誘われ、香澄の家にゆく。そこで、ボクシングのヘビー級で日本人挑戦者ウィンストン小野のタイトルマッチを見て最高に興奮する。

 そして驚くことに、このウィスントン小野が香澄の弟学だと言うことを知る。
事務職は事務ではなくジムだったのだ。伊坂の強烈なユーモア。

 このウィストン小野が全短編にわたり、登場し、連作を支える。また小野同様に斎藤さんというへんてこな人も登場する。悩みを告白すると、自らの作詞した歌詞のフレーズを歌い上げる。これが、内容はよくわからないのだが、告白者が必ず癒され安心する。

 平凡な人生を送っている少し変わった人々にちょっぴり変わった出来事が起き、日常が揺さぶられる。人生なんてそんなへんてこな経験の積み重ねさと伊坂が表現する。

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| 古本読書日記 | 05:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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村上春樹 安西水丸  「村上朝日堂はいかにして鍛えられたか」(新潮文庫)

1982年から4年にかけて「日刊アルバイトニュース」や「週刊朝日」に掲載されたコラムを集めている。村上春樹はその後「村上朝日堂」というウェブサイトもたちあげている。

TSエリオットが「猫に名前をつけるのは難しい」と言った。名前をつけるのは猫だけでなく人間も含め何だって難しい。

 村上はドライブが好きで、そこで目に入ってくる看板などの文字に作家だけに敏感。それでよく目に入ってくるのがラブホテルの看板。村上からすると、やることは同じなのか、ラブホテルの名前はどこか投げやりなのだそうだ。

 「TWO WAY」というラブホテルがある。二人でやることだからこういう名前をつけたのかと思っていたら「THREE WAY」というホテルもあった。これは男2人に女一人でなさるホテルなのか。こんなことをコラムに書いたら、全国から変わったホテル名ということでいっぱい投書がきた。

 神戸の「マザーズ ウーム」千駄ヶ谷には「三越」北海道「ドン ガバチョ」(何となく卑猥)藤枝「親戚」など。

 旭川には「農協」というラブホテルがあり、満室のときは「豊作」という看板が、空き室ありのときは「不作」という看板がかかっているそうだ。

 湘南には「紫陽花」というホテルがあるがこれは「あじさい」という名前でなく「しようか」という名前だ。

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| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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獅子文六    「胡椒息子」(ちくま文庫)

土曜日、小学校の同級会が開かれ、故郷まで行ってきた。あまり小学校の同級会など開くところは無いとおもうが、たまたま先生が92歳でご健在。その先生の存在が同級会となって継続している。

 私など、小学校での思い出など全くといって無いのだが、集まると結構、あのこと、このことと詳細に出来事を覚えているひとがいるものだと感心する。今はいじめで、仲間から排除することに力が注がれているように思えるが、思い出話を聞いていると、子供時代はむしろ可哀想な子、意地悪されそうな子に、目いっぱい仲良くしてあげて、励まし支えてあげることが子供たちの最も強い心、行動であったように思える。だから、孤独だ、寂しいと思う子はいなかったのではと思う。

 この作品の主人公、昌二郎は12歳。上のお兄さんと、お姉さんから少し年が離れている。父親は大会社の専務。それで、妾をかかえていて、母親とは冷たい関係にある。父親もあまり家には帰宅しないが、母親も、その反動で外で遊び歩いている。

 昌二郎は、上の兄姉からも邪険に扱われ、母親からも差別的扱いを受けている。頼りは優しいお手伝いの民婆やだけ。

 あるとき、昌二郎は、自分は父親が妾に作らせた子で、上の兄姉とは母が違うことを知る。
それから、このことを兄、姉も知り、兄姉から「芸姑の子」「妾の子」と蔑まれ、完全に排除される。それに怒った昌二郎が兄と喧嘩をして、兄を傷つける。

 母親が怒り狂い、昌二郎を追い出し、感化院に入れてしまう。感化院では、辛い日々にはたからみれば思えるが、ゴンズイという喧嘩っ早いが、気持ちの真っすぐな子と親友になり楽しく過ごす。

 その後、お手伝いの民が重病になり、民の家で民を支えて頑張って暮らす。最後には元の家に戻るが、その間決して暗い生活はしていない。

 この物語を読むと、子供たち、或いは人間と広げてもいいかもしれないが、血のつながりではなくて、支えてくれる人がいるかということが生きて行くうえで大切なことだとわかる。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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長野まゆみ    「チマチマ記」(講談社文庫)

何回も1ページ目に図示されている宝来家の家系図、登場人物の関係を立ち返って確認しないと混乱してしまうほどに複雑。平均的家庭とは程遠い。

小巻お母さんの夫、ドードーさんはすでに亡くなっている。どーどーさんと先妻との間にできた長男樹さんが今の当主なのだが単身赴任をしていて不在。

 母屋に暮らすのは、小巻おかあさん、実子であるカガミさん。樹さんの娘であるイラストレーターの暦さん、それに樹さんの娘である小学5年生のだんご姫。

 更に母屋と棟続きの離れには、近所に住むドードーさんの先妻。暦さんと樹さんの母マダム日奈子が毎日出入りし、その2階には樹さんと事実婚していてパリに住んでいるカホルさんの弟で、カガミさんの中学高校の先輩であるサラリーマンの桜川くんが間借りしている。これだけ複雑な関係の上に、カガミさんと桜川くんは男同士で恋愛関係にある。

 だからしばしば、摩擦がおきる。
普通の小説はその出来事をできるだけデフォルメして大げさに表現。それで読者を引っ張る。

 しかし、長野さんの小説はそんななかにあって、実に優しく、穏やかである。実際には、そんな大げさなことは起こることはめったになく、チマチマしたことが日々積み重なってゆくだけと長野さんは物語を描く。

 その穏やかさを包み込んでいるのが、四季折々に小巻おかあさんを中心に作られるおいしそうな料理の数々。この料理の中に、ちょっとしたいざこざやトラブルがスーッと吸い込まれチマチマした日々が繰り返されてゆく。

 長野さんの、細部にまで行き届いた穏やかな文章が読んでいて心地よい。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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