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本谷有希子   「乱暴と待機」(MF文庫 ダ・ヴィンチ)

この作品はわかりにくい。何がわかりにくいかというと、陰気な借家に同居する妹奈々瀬と兄英則が、兄は奈々瀬を殺して復讐を遂げるという強い思いがあり、妹奈々瀬は兄の復讐を心から待っている、ただ復讐するための原因が不明朗のために、それがわかるまで2人で同棲して、原因が判明すれば兄は妹が納得づくで、妹を殺して復讐を遂げるという設定がすっと飲み込めてこないところだ。

 実は、この奈々瀬と英則は兄弟ではなく、家が隣同士の幼馴染。小さいときから2人で遊び、互いに兄妹のように仲良く暮らしていた。そして、復讐の原因は、英則家族と奈々瀬がドライブに行ったとき、踏切のある線路上で車がエンストして、そこに電車が突っ込み、英則の両親は死亡。英則は足に思い後遺症が残るけがをしたが奈々瀬は無傷だったことに原因がありそうだと物語は匂わす。

 ここに、英則の仕事場の部下番上と恋人のあずさが絡んでくる。

今の時代、命を懸けるということはどういうことだろうか。私たちの少し前の世代では、仕事を懸命にするということだった。それは高度成長につながり、その成果、見返りが給料アップ、暮らしが目に見えて向上することが認識できた。

 今は、全く命を懸けるような対象はなくなり、漠然とした不安や恐怖が漂っている。健康や癒しがキーワードとなり、健康産業や美容、マッサージが流行。長寿にはなったが、認知症や介護難民がその先に控えている。ただ、漫然と生きることが悪とだんだん思えてくる。そんな時代を反映しているのが、番上とあずさの関係だ。

 そして、この先、命は軽いものとなり、英則と奈々瀬の関係のように、簡単に命を落とすことは普通になる世界がやってくる。こんなことを物語は描いているのかと思った。

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森絵都     「クラスメイツ」(後期)(角川文庫)

この作品の前に、中高生を主に扱っている作家、朝倉かすみと笹生陽子の作品を集中して読んだ。2人とも力のある作家で、中学、高校生の悩みや心の彷徨を鮮やかに描き、見事だと感心したが、私の感性が低いのか、読んでいてどうにも眠くなって読むスピードが落ちた。

 しかし、何が違うのかよくわからないのだが、森さんのこの作品は、楽しく、興奮を伴って読めて面白かった。

 クラスに田町という登校拒否の女子生徒がいる。勉強遅れを取り戻してあげねばということで数学の堤先生が、特別補習をすることになる。これを知った日向子、堤先生が大好き。
自分も補習授業を受けたいと堤先生に訴える。そして一緒に補習を受ける。
 日向子は、算数が小学校のころから大の苦手。特に円周率を表すπの文字が登場してからわけがわからなくなる。

 補習の時、堤先生に言う。
「πなんか覚えたってなんの役にたつの。」と。
先生は「マンホールの設計や製作に使うのです。」と答える。

 試験のときが、日向子の誕生日。だから日向子は、いい点がとれたら何かプレゼントと堤先生にねだり、堤先生も了解する。その時の日向子の言葉が素晴らしい。

 「先生!絶対ですよ。約束!ウチ、石にかぶりついてもいい点とってみせます!。」
中学生は、身についていない言葉を感覚でよくしゃべる。「石にかぶりついても」。このあたりの森さんの表現は、中学生の有り様をよくでていて秀逸である。

 日向子のテスト結果は、前よりは上がったが59点。
それでも堤先生は約束通り、プレゼントを日向子にくれた。

 それは「マンホール」の写真集だった。

中学生は、楽しくても、辛くても、何もなくても、いつも輝いていて無駄な日はひとつもないということを森さんのこの作品は語っている。

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森絵都    「クラスメイツ」(前期)(角川文庫)

小説は2冊に分冊されているが、上下巻ではなく、前期、後期と表現され分かれている。学園小説の香りが漂いなかなかしゃれている。

 北見第二中学校は、北見小、原小の卒業生が入学してくる。少子化によりどんどん生徒が減少し、北見第一中学校に統合される話もでている。

 4月に入学してきた一年生も数が少なく、クラスもA組とB組の2クラス。物語の中心になるA組の生徒数は24人。
 森さんはその中から主人公を選ぶのではなく、24人一人一人の日常の出来事を切り取り連作短編集に仕上げている。24人みんなが主人公になっている。

 蒼汰と心平はクラスを楽しくさせるため、ボケとツッコミのギャグコンビとして活躍しようとしている。しかし、ギャグが辛辣。ポッチャリ型のこのみには「あたしはハム」という歌をつくり捧げる。天然パーマの志保理には「大仏さま」「大仏さま」といって拝み倒す。
父親がタイ人のアリスには「タイカレーを食わせろ」としつこくつきまとう。
 だから特に女の子にはシャレにならず無礼として蒼汰は嫌われている。

蒼汰がクラブが終わり、着替えにクラスに戻ると、窓ガラスが割れてその先にサッカーボールが転がっている。誰かがサッカーボールで遊んでいて間違って窓ガラスを割ったのだ。

 藤田先生を呼び、発見状況を話す。クラスには蒼汰と心平しかいなかったと。先生は、犯人追求は熱心にしようとしなかったが、学級委員長のヒロがきちんと犯人をみつけようと言い張り、事が大げさになる。実はクラスにはその時蒼汰、心平だけでなくヒロもいた。

 クラスの生徒や藤田先生の厳しい追及を受け、蒼汰は犯人はヒロだと言う。

 しかし、正義感あふれクラスの信頼を勝ち得ているヒロ、しかも犯人を捜そうと言い出したヒロが犯人のわけがないと誰もが蒼汰の言うことを信用しない。

 それどころか、犯人は蒼汰だと指摘され、大ウソつき呼ばわりされる。
まだ中学生になって4か月しかたっていない。あと、2年8か月もある。その長さを思うと蒼汰は暗澹たる気持ちになる。

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| 古本読書日記 | 05:50 | comments:1 | trackbacks(-) | TOP↑

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本谷有希子     「自分を好きになる方法」(講談社文庫)

三島由紀夫文学賞受賞作品。

主人公リンデは「お互いに心から一緒にいたいと思える相手」を求め続ける。そんなリンデの3歳、16歳、28歳、34歳、47歳、63歳のある日の数時間の出来事を切り取ってリンデにはそんな相手がみつけられないという事実を描写している作品。

 秀逸だと思ったのは、幼少時から63歳まで順番にエピソードを配置するのではなく、3歳を63歳と47歳の間に挿入したところ。この3歳のエピソードが、相手を見つけられないのは仕方ないと読者に納得させる大きな力となっている。

 47歳の時、友達を集めてリンデの家でクリスマスパーティをする。ほのかに恋心を抱いているジョンさんもやってくる。その準備にジョンさんと一緒にツリーに飾るオーナメントを買いにホームセンターにゆく。しかし2人とも、どのくらいの長さのオーナメントが良いのかわからない。それで、一番長い15メートルのオーナメントを買ってくる。

 オーナメントは床にだらりととぐろをまくように置かれたが、電飾をつけると金色に灯りを放ちすばらしい雰囲気となる。

 そんな、パーティが楽しい雰囲気で終了。リンデの家ではこんなでかく長いオーナメントを保管できるスペースが無い。それで、誰かに持っていってくれるように頼む。しかし、誰も無視する。ここでリンデが爆発して癇癪をおこす。
 「全部私におしつける。みんなで私をバカにして」と。この癇癪でパーティは台無しとなる。

 リンデがホームセンターに行こうとしていて、玄関のポスト受けを確かめたら、宅配の不在者伝票が残されている。配達業者に連絡するとこれから配達にいってもいいかと聞かれる。これからは外出するので難しい。できれば9時以降にしてほしいとお願いすると、規則で9時までしか配達できないと業者が答える。

 そんな態度だと、運送配達などやっていけなくなるよと怒り電話をきる。
パーティが終わり家でリラックスしていると、電話がある。
 9時は過ぎているけど、おたくの近くまできている、配達に伺ってもいいかと。少し、むかっぱらがする。しかし、いいですと答える。

 63歳のときの配達業者のやりとりと重なるのだが、そこまで来ていると言ってた業者がなかなかやって来ない。15分、20分と待つのだが。それで堪忍袋の緒がきれて、どうなっているのかと配達業者に電話する。もうすぐです、でも明日の配達にしても構いませんと業者が言う。

 そこにまたカチンとくるから、「持ってきなさい」と強く言う。それからも随分待つ。
もう眠ろうかとしたところでチャイムが鳴る。そして、業者から荷物を静かにもらう。

 これだから、心穏やかになる相手に恵まれないのかなと思い、3歳から今までの出来事を思い出す。

 人間は嫌なことだけは記憶にこびりつき、いつもわいてでてくる。63歳のリンデ、悪い思い出ばかりのように思うが、きっと忘れてしまっている楽しい思い出もたくさんあっただろうと私は信じてしまう。

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笹生陽子   「ぼくは悪党になりたい」(角川文庫)

2つの物語の設定が突き抜けてユニークで、それに振り回される17歳の主人公エイジの行動描写がうまく表現されている。

 エイジには羊谷という悪友がいる。羊谷は超美男子。長身、やせ型、細面。さらさらとした髪にきれいな瞳。2月14日には大量のチョコをもらい、配り歩くのが大変。女性はとっかえひっかえ。だけど、少し悪で、女性のことで因縁をつけられ、ぼこぼこに殴られる。

 そして今は、ヤンキーな娘マヤと交際をしている。
その、羊谷が修学旅行に行ったあたりから、急に元気がなくなり、疲れた様子が強くなり、目の周りも黒ずんでくる。

 それに比例するように、マヤとも会話、付き合いが殆ど無くなる。何があったのか不安になったマヤは、エイジに羊谷の様子をみるようにお願いする。

 羊谷の部屋に行ってエイジは驚く。羊谷はメイド・ロボットであるチイちゃんに完全に恋してしまっていたのである。チイちゃんは、何でも言うとおりにしてくれるし、心配して優しい声をいつもかけてくれる。マヤみたいに不貞腐れたり、きつい言葉などかけてくることなど一切無い。

 このチイちゃんと朝まで愛の言葉の交歓を毎日しているので、目に隈ができるのだ。

こういうロボットは、女性とうまく関係ができない男性が利用するもの。女性にもてっぱなしの羊谷のような男性が偏愛するのはありえないのでは。

 それからエイジは8歳年の離れた弟ヒロトと母親の3人家族。母親はシングルマザーでエイジもヒロトも父親を知らない。

 母親は輸入雑貨の商売をしていて、しょっちゅう商品の買い付けに海外にいく。その間はエイジが家事をとりしきり、ヒロトの世話もする。

 そのヒロトが母親が海外出張で不在の時、水ぼうそうにかかり、熱をだす。エイジはそのとき修学旅行のため、家を空けざるを得ず、ヒロトの世話を母親の手帖にのっている、杉尾にお願いする。杉尾は過剰なほど、家事をし、ヒロトの世話をする。そして、母親が帰ってきてからも、ヒロトの家庭教師となり、家にやってくる。それを母親は嬉しそうにむかえる。

 今母親は42。杉尾が31.ヒロトが9歳だから、母親33、杉尾22のときにヒロトは生まれたのだとエイジは考える。そして、ある日決意して杉尾にこれが事実か聞く。

 すると杉尾が驚くことを言う。
「私はヒロト君の父親ではなく、実はエイジ君の父親だと。」
 何と、エイジを生んだとき母は24歳でその相手杉尾は13歳だったのだ。

 これは確かに突き抜けた発想である。

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