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東野圭吾   「虚像の道化師」(文春文庫)

 ガリレオシリーズ7編の作品が収録されている。
難事件が起きる。そんな時、解決のため草薙刑事が頼るのが、帝都大学物理学科の湯川教授。そして、湯川教授が物理学の知識を活用して事件の真相を解き明かす。

 よくある手品、トランプカードを手品師が見えないようにして引き抜く。それを黒い袋にいれて、手品師に渡す。すると手品師が見事に引き抜いたカードをあてる。

 この作品集の中「透視す」という作品。銀座のホステスのアイちゃん。初めての客がやってくると、必ず後ろを振り向いて、黒い袋に名刺をいれてもらう。そして、入れ終わると振り向いて袋を手にとる。真っ黒な袋だから名刺は見ることができない。それなのに、すべて名前をあてる。

 このカラクリを湯川教授が解明する。

黒い封筒はビニールでできているように見えるが、実は赤外線フィルターでできている。それで、この袋に赤外線をあてると、中味がわかる。ただし、あてただけでは、わからない。赤外線カメラを使い画像をとると、名刺の名前が読めるのである。

 幻聴というのがあり、これに悩む人が結構存在する。大概は精神的不調によりおこり、神経科に診てもらい治療をする。

 通常、音や声は発した後、空気中で拡散され、集まっていた人には聞こえる。ところがハイパーソニック・サウンド・システムを使うと、発せられた音声は拡散することなく、直進する。

 このシステムを使い、心をまどわすようなことを、しつこく、くりかえし対象者だけに言う。受けた人は、まわりは誰もそんな声は聞こえていないから、自分は狂ったのではないかと思い、耳鼻科や神経科を受診するがどこも悪くないと診断されて、完全にノイローゼ状態になる。

 現代は、革命的な機材がどんどん開発される。これが使いこなせず、理解できない私のような老人は、まわりの人たちがみんな手品師に見えてしまう。

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| 古本読書日記 | 05:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾    「ラプラスの魔女」(講談社文庫)

「もし、この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在するならば、その存在は物理学を用いることでこれらの原子の事件的変化を計算できるだろうから、未来の状態がどうなるかを完全に予知できる」

18世紀の数学者で天才物理学者ピエール シモン ラプラスが唱えた理論。もしこの能力を持った人間が誕生したら、未来は完全予測できることになる。

 理論では証明できるが、現実には不可能。しかし不可能が実現したら。そんな、東野の想像が全開のミステリー。

甘粕謙人は姉の硫化水素ガス自殺の巻き添えになって、植物人間になっていた。この謙人に対して、主人公円華の父親羽原全太朗で世界的外科医により、回復できるかわからないが、脳解体手術を受ける。その結果、完全に未来を予測できる力を持つことができるようになる。

 この手術を、健常な人間に試みようとする。それを受け入れたのが、羽原外科医の娘円華。その手術により、円華はラプラスの魔女となる。

 一酸化炭素中毒とは屋外では発生しない。密閉された、家の中、車内で起きるのが一般的。屋外では、一酸化炭素が薄められ中毒にはならない。しかし、この物語では硫化水素ガス中毒が、屋外で発生。しかも、2か所の離れた温泉で。

それから円華が晴れわたった屋外で、5分後に竜巻がやってくると想像がつかない予告をする。そして予告通り、竜巻がやってきて、一軒家が破壊される。

 こんなありえない事象によって事件が多く引き起こされる。それの解明に中岡刑事が挑戦する。
 壮大なSFミステリー作品になっている。

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| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾    「眠りの森」(講談社文庫)

 名刑事加賀シリーズの作品。

名門高柳バレエ団の稽古場に風間という男が侵入する。当日事務所にいた団員斎藤葉瑠子が花瓶で殴り、風間は死んでしまう。斎藤葉瑠子は、事情聴取のため、警察に出頭を求められ、留置される。当初は正当防衛とされて、無罪放免される状況だったが、状況証拠しかないため認定ができなくて、長い間警察に留置される。

 その後、バレエ練習中に演出家で団のかなめである梶田が毒殺される。梶田殺害の犯人は、団員の中にいるということになる。

 この犯人を探そうと、団員の柳生が捜査を開始するが、その柳生が毒薬を飲まされる。柳生は病院にかつぎこまれ一命はとりとめる。
 この一連の事件に加賀刑事が挑戦する。

物語に浅岡未緒というけなげでかわいらしいダンサーが主人公として登場する。しかも、未緒は、時々、一人称として作品に登場。加賀刑事と互いに恋心も芽生えなかなかういういしい。

 この一人称にごまかされる。東野はこの作品で叙述トリックを駆使し、読者を惑わす。

事件の背景には、元来バレエダンサーが持つ宿命が存在する。

 未緒が加賀刑事にダンサーの宿命を説明する。

「女の子は特にね。ローザンヌに出場した時の年齢は16とか17とかで、大人の女性の体になっていないでしょう。体操競技がそうだけれど、小さければ身が軽いのは当たり前で、少々難度の高いものでもできちゃうのよ。ところが身体が大人になってくると、そうはいかない。あっちこっち出っ張ってきちゃうし、皮下脂肪はつくしで、自分のイメージ通りできなくなってくるの。」

 体形の変化は恋することによっても生じる。
そういえば、最近は、体操の女子選手も、アクロバットが似合う、ロボットのような選手ばかりになった。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「麒麟の翼」(講談社文庫)

 本作品では、日本橋警察署の刑事になっている、名探偵加賀刑事シリーズ作品。

加賀刑事は、しつこい、浮かんだ疑問は徹底的に調べ、納得解明できるまで追求する。こういう名探偵は、ミステリーには当然の人物として登場する。

 しかし、名探偵の推理や行動に、それは無理があるだろうということが多い。しかし、東野作品のすごいのは、その無理が無い。そういう疑問は確かにあるなという疑問を読者に提示して、そこから一歩一歩真実解明に至る。

 八島冬樹は、派遣社員で、建築部品メーカーの部品製造現場で働いている。そこで本来守らねばならないとマニュアルに書かれていることをしないで、大きな事故が発生する。しかし、現場ではそんなマニュアル通り、仕事をしていたら、手間がかかり、納期が守れない。それで、危険があることはわかっていても、マニュアルを無視した作業が行われる。

 そのことは、工場長も、製造本部長も了解していた。
ところが、八島がその規則をいつものように守らないで作業をしたために、人身事故が発生する。

 八島は簡単に派遣切りで馘になる。労災事故にもならない。会社は、事故について記者会見。工場長がでてきて、すべて本部長の指示により対応したことと弁明する。

 その名指しされた本部長がある夜日本橋で殺される。
 そして、犯人は当然八島だとなる。

派遣切り、弱者いじめとしてテレビ、新聞は沸騰する。

事実、テレビのワイドショーで連日報道される。

八島の同棲相手の香織が取材に応じる。番組は悪の会社の犠牲者八島という筋書きで撮影される。ほとんどシナリオが出来上がっていて、香織の回答がシナリオから外れると、シナリオ通りになるまで、何回も取り直しが行われる。

 しかし、読んでいて、変だなと思う。工場は東京のはずれ国立市にあり、八島の住まいは足立区。なんでその事件当事者2人が、まったく関係ない日本橋でそれも夜出会うことに納得感が無い。新宿くらいだったら納得はできるが・・・。しかもその時、八島は刃渡り180cmもある折り畳み式のナイフを持って?

 偶然はありえない。加賀刑事もそこに疑問を持って、真相解明に動きだす。

これぞ、東野の真骨頂。ここから一枚一枚薄皮をはがすように、加賀の捜査と真相解明行程が展開する。
 東野作品は、多くのミステリー作品にあるような、非現実的カラクリを徹底的に排除する。

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| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾    「新参者」(講談社文庫)

 加賀刑事シリーズ作品。この作品で、加賀はそれ以前に勤務していた練馬署から日本橋署に異動している。日本橋署では新参者、作品のタイトルはここからきている。

 このミステリーは、面白い構成によって出来上がっている。それぞれの章が、まったく事件とは関わりないような、しかも章単位に独立した短編になっている。

 しかし、その短編は階段のようになっていて、一階段、一短編を昇ってゆくごとに事件の真相に近付くように出来上がっている。
 全く東野は面白い表現方法を見つけるものだ。感心しきりだ。

物語は、江戸情緒が残る、日本橋人形町の片隅で、一人の女性が絞殺される。この殺人をめぐり、加賀の捜査と名推理が、短編階段を昇りながら、展開する。それがどのようになされるかは、書評を読んだみなさんで確認、味わって頂きたい。

 この物語、事件解決後に書かれた最後の物語が私の胸を打った。親子、家族とは何だろうと考えさせられたからだ。

 物語で加賀は、上杉という定年直前の上杉という刑事とコンビを組もうとする。上杉はいやがったが、加賀は捜査の報告を無理やり上杉に行ったり、上杉を引っ張り出し捜査現場に連れてゆく。それは、上杉の刑事経歴を加賀が調べてあったからである。上杉はあきらめかけていた子供に年がいってから恵まれる。それゆえ、出来た息子を溺愛する。しかし、息子は父親の気持ちしらずで、野放図に育つ。

 そして、上杉が55歳のとき、息子が交通違反で、ある交番で捕まる。息子はノーヘルメットでしかも無免許だった。

 交番の警官が、どう処理すべきか、父親の上杉に電話をしてきた。上杉はこのことは無かったこととしてくれと警官に指示した。しかし、上杉は気持ちが収まらなくて上司に相談する。上司はその処理でよいと答えた。

 上杉はもちろん子供をしかりつけたが、子供は周りの友達に自分の父親は刑事で、交通違反をしても、親父がもみ消してくれると自慢して、その結果2年後にやはり無免許で交通事故を起こし死んでしまう。

 また別の話。

 岸田は友人と一緒に、直弘に誘われ、清掃会社を立ち上げた。岸田は税理士の資格を持っていた。業績は順調、2人は税務対策のため、別会社を作り、その会社の経営を岸田がすることになった。一方岸田は本業として税理士事務所を持っていた。

 ある日、会社勤めをしていた息子が、不正経理をして会社に3000万円の穴をあけたと岸田に泣きついてきた。岸田は3000万円を税務管理会社から引き出し息子に与え、不正経理の穴埋めをしてあげた。

 岸田の嫁は、贅沢三昧の暮らしにどっぷりつかっていた。息子も嫁も税理士というのは儲かる職業だと思いやりたい放題していた。

 清掃会社の業績が落ちてきて、経営が厳しくなったが、嫁も息子も、生活を変えようとしない。

 上杉も岸田も家族とは、子供とのつながりの虚しさを心底感じていた。そのことが、事件の動機につながった。
 こんな家族はいかにもありそうだと、読んでいて怖さを感じた。

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| 古本読書日記 | 05:55 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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